説明

光ファイバ先端加工装置及び研磨方法

【課題】ホルダの構造を複雑化することなく、面取り加工の過程における光ファイバの前端面の損傷を抑制する。
【解決手段】研磨部材10の研磨面24が、光ファイバFの中間部の軸線と交差しており、且つ光ファイバFの中間部の軸線の直交面に対して傾斜している。光ファイバFを研磨面24に接近させる際に、光ファイバFの先端が研磨面24に斜めに接触し、また離間の際にも光ファイバFの先端が研磨面24に対し斜めの姿勢を保ったまま離間するので、光ファイバFの前端面の損傷を抑制できる。研磨部材10の軌道が、公転成分と自転成分とを含むので、光ファイバFの先端の位置が公転軸arの近傍であるにもかかわらず、大きな研磨量を得ることができ、且つ研磨部材10の磨耗を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの先端の外周部を研磨部材で研磨して円錐状に面取りする装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信のブロードバンド化に対応して、光LAN(Local Area Network)やFTTH(Fiber To The Home)など光通信網の構築が急速にすすめられている。このような光通信網の実現には小形、高密度で高信頼度な光コネクタが不可欠である。このような要求を満たす光コネクタとしてFPC(Fiber Physical Contact)形光ファイバコネクタが発明されている。このFPC形光ファイバコネクタでは、接続する2本の光ファイバの先端を対向させ、光ファイバ外径よりごくわずかに大きい内径を持った接続孔の両端から挿入し、その2本の光ファイバの先端を突き当てる。この突き当て力には光ファイバを撓ませて得られる座屈力を利用する。すると両者の光ファイバの光軸は一致し、突き当て力によって光ファイバ同士はPC(Physical Contact)接続する。
【0003】
光ファイバ外径よりごくわずかに大きい内径を持った接続孔への挿入を容易にし、また突き当て面積を小さくして接触圧を大きくしよりPC接続を確実できるように、光ファイバの先端の外周部を円錐状に面取りする方法(テーパ加工方法)が用いられている(特許文献1)。
【0004】
その加工原理を図面に従って説明すると、図13において、301は光ファイバ、301aは光ファイバ301の先端、303は光ファイバのホルダ、302は研磨面、304は光ファイバ先端301aの運動軌跡を示したものである。まず光ファイバ301を、研磨面302に対して垂直になるようにホルダ303に保持させる。ホルダ303の端面から光ファイバ先端301aまでの光ファイバの長さをL、ホルダ303の端面から研磨面302までの垂直距離をdとすると、Lよりもdが小さくなるようにホルダ303を研磨面302に近づける。すると光ファイバ301のホルダ303から下に突き出た部分Lは湾曲する。このときの光ファイバ先端301aと研磨面302の接触角をθとする。
【0005】
この状態で、dを一定に保ちながら、かつホルダ303の方向を一定に保ちながら(たとえばホルダ303の辺A−A’をX軸に対して常に平行に保ちながら)ホルダ303を遊星歯車などで円軌道に沿って移動させる。すると光ファイバ先端301aも円形の運動軌跡304を描いて運動する。
【0006】
光ファイバ先端301aが運動軌跡304に沿って一周すると、光ファイバ先端301aの研磨面302との接触点も光ファイバ301の先端の円周方向に一周し、テーパ角度θをもった微少な円錐面が形成される。同様にして、必要回数だけ繰り返しホルダ303を円軌道に沿って移動させると、光ファイバ先端301aにはテーパ角度θをもった所望の円錐面、すなわち面取り形状が形成される。ホルダ303を公転させる代わりに、ホルダ303を固定し、研磨面302を公転させて、面取り形状を形成する場合もある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−123339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の方法では、光ファイバ301のホルダ303から下に突き出た部分を湾曲させるために、下に突き出た部分の光ファイバ301の長さLよりも、ホルダ303の端面から研磨面302までの垂直距離dが小さくなるようにホルダ303を研磨面302に近づける必要がある。しかしながら、光ファイバ301を研磨面302と垂直になるようにホルダ303に保持しているため、ホルダ303と研磨面302との接近及び離間の過程のいずれかの時点で、光ファイバ301の前端面が、研磨面302に突き当てられ或いは滑り接触することになり、光ファイバの前端面を損傷し易いという問題点があった。また、これを避ける目的で、ホルダ303と研磨面302との接近及び離間を、光ファイバFの軸線を研磨面302の垂線に対して傾斜させて行い、かつ研磨を光ファイバ301を研磨面302と垂直になるようにして行うことは、ホルダ303の構造の複雑化を招く。
【0009】
そこで本発明の目的は、ホルダの構造を複雑化することなく、面取り加工の過程における光ファイバの前端面の損傷を抑制できる加工装置及び加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明は、単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、当該研磨部材の研磨面を所定の軌道で移動させる駆動機構とを備え、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工装置であって、前記所定の軌道は、前記単心光ファイバの保持部分である中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含み、前記研磨面は、前記中間部の軸線と交差し、且つ前記中間部の軸線の直交面に対して傾斜していることを特徴とする光ファイバ先端加工装置である。
【0011】
本発明では、研磨部材の研磨面が、単心光ファイバの前記中間部の軸線と交差しており、且つ中間部の軸線の直交面に対して傾斜しているので、光ファイバを研磨面に接近させる際に、光ファイバの先端が研磨面に斜めに接触し、また離間の際にも光ファイバの先端が研磨面に対し斜めの姿勢を保ったまま離間する。したがって、ホルダの構造を複雑化することなく、光ファイバの前端面の損傷を抑制できる。また、研磨面の軌道が、光ファイバの中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含むので、光ファイバの先端の位置が公転軸の近傍であるにもかかわらず、自転成分によって、光ファイバの先端に対する研磨面の移動速度を大きくすることができ、加工を高速化できる。あるいは、研磨面の摩耗を抑制して研磨部材の使用寿命を長くすることができる。
【0012】
研磨部材の研磨面は、凹面又は平面とするのが好適である。研磨面が凸面である場合、光ファイバの先端を研磨面に押し当てると、研磨面における光ファイバの先端の位置が不安定になるおそれがある。これに対し、研磨面を凹面又は平面とすることにより、研磨面における光ファイバの先端の位置が安定し、これによって精度よく研磨することができる。
【0013】
駆動機構は、太陽歯車及び遊星歯車を備えた遊星歯車機構であり、研磨部材は前記遊星歯車に固定されているのが好適である。この場合には、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0014】
本発明の別の一態様は、単心光ファイバの中間部を保持してその先端を、所定の軌道で移動する研磨部材の研磨面に押し当てることで前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端研磨方法であって、前記所定の軌道は、前記中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットされた自転軸を持つ自転成分とを含み、前記研磨面は、前記中間部の軸線と交差し、且つ前記中間部の軸線の直交面に対して傾斜していることを特徴とする光ファイバ先端研磨方法である。この態様によれば、上記第1の本発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の第1の実施形態について以下に説明する。図1ないし図3において、本発明の第1実施形態の加工装置1は、概ね直方体の基台2と、基台2の上面に固定された駆動部3及び摺動レール4と、基台2の下面に固定された電池ボックス5とを備えている。摺動レール4は、摺動ホルダ6を摺動可能に保持する。摺動レール4には固定ホルダ7及びストッパ8が固定されている。
【0016】
駆動部3は、研磨部材10を公転及び自転させる。図4に示されるように、駆動部3は、モータ11、太陽歯車12及び遊星歯車13を有する。モータ11は直流モータである。モータ11の出力軸14は、ブッシュ15によって駆動円盤16の駆動軸17に固定されており、駆動軸17は、軸受18,19を介して、固定支持円盤20及び太陽歯車12に回転可能に支持されている。固定支持円盤20はケース3aに固定され、太陽歯車12は固定支持円盤20に固定されている。遊星歯車13及び研磨部材10は遊星歯車軸21に固定されており、遊星歯車軸21は、駆動円盤16に固定された軸受22、及び回転支持円盤23によって回転可能に支持されている。駆動円盤16には更にカウンタウェイト25が固定されている。遊星歯車軸21の軸心である自転軸asは、駆動軸17の軸心である公転軸arと平行であり、且つ公転軸arからオフセットしている。遊星歯車13は太陽歯車12に常時噛み合っている。
【0017】
したがって、モータ11の出力軸14が回転すると、駆動円盤16が回転し、遊星歯車13が、ケース3aに対して相対的に固定である太陽歯車12の周囲を、転がるように回転させられ、これによって、研磨部材10が自転軸asの周りを自転しながら、公転軸arの周りを公転することになる。公転軸arと自転軸asは、常に互いに平行である。
【0018】
研磨部材10は、例えば1000番程度の砥石からなり、自転軸asに関して軸対称(回転対称)のカップ状である。研磨部材10の研磨面24は、光ファイバFの中間部から先端部に向かう方向において自転軸asに近づくように傾斜した凹状の円錐面である。研磨面24の研磨点及び外周の半径は、遊星歯車13の半径よりも大きく、これによって大きな摺動速度を得ることができるため、大きな研磨量を得ることができる。研磨部材10がどの位置にあっても、研磨面24は、公転軸arと斜めに交わっている。
【0019】
図2において、摺動ホルダ6は、樹脂製の本体部31と、この本体部31に片持ち状に軸止された2個の蓋体32,33とを有する。図5に示されるように、蓋体32,33は軸34を中心に上向きに旋回可能であり、概ね水平の閉位置(実線)と、100°程度開いた開位置(二点鎖線)をとりうる。本体部31の上面には、その長手方向の全長に延在するV溝35が形成されている。摺動ホルダ6の蓋体32,33を閉じると、蓋体32,33は本体部31に固定された永久磁石36によって吸着され、光ファイバFは蓋体32,33とV溝35との間で保持される。なお、光ファイバFの前端面57(図8参照)を劈開する作業を好適に行うため、蓋体33とV溝35との間では光ファイバFは軸方向に相対的に移動しないように拘束される一方、蓋体32とV溝35との間では、摺動ホルダ6に対する軸方向の移動が許容されている。
【0020】
図2において、固定ホルダ7は、金属製の本体部41と、この本体部41に片持ち状に軸止された蓋体42とを有する。図6に示されるように、蓋体42は軸44を中心に上向きに旋回可能であり、概ね水平の閉位置(実線)と、100°程度開いた開位置(二点鎖線)をとりうる。本体部41の上面には、2個のVブロック45が配置されている。固定ホルダ7の蓋体42を閉じると、蓋体42は本体部41に固定された永久磁石46によって吸着され、光ファイバFは蓋体42とVブロック45との間で、軸方向に相対的に移動できるように保持される。このようにして光ファイバFが挟持されたとき、光ファイバFの中間部(固定ホルダ7に保持された部分)の軸線は、公転軸arと一致する。
【0021】
図2において、ストッパ8は可動部8a,基部8bを有する。可動部8aは、軸8c(図3)を中心として上向きに旋回可能であり、これによって、摺動ホルダ6による光ファイバFの保持長さ(つまり、摺動ホルダ6の前端から突出した光ファイバFの長さ)を、光ファイバFが固定されるコネクタその他の光部品の種類に応じて変更することができる。
【0022】
図1及び図2に示されるように、摺動レール4にはスイッチ50のノブ51が設けられ、摺動ホルダ6の前端が予め定められた停止位置の近傍に来ると、ノブ51が押されてスリット52(図2参照)中を移動し、スイッチ50がオンされる。
【0023】
スイッチ50は、基台2内又は電池ボックス5内に収容された不図示の制御回路に接続されている。制御回路はCPU、ROM、RAM及び入出力インターフェイスを含んで構成された周知のワンチップマイクロコンピュータである。制御回路は2本の単三乾電池55によって給電され、モータ11にパルス信号を出力して回転させる。また制御回路はモータ11からの逆起電力に基づいて、モータ11に対するパルス幅すなわちデューティ比を変更し、回転速度を例えば1300rpmなどの定速度に制御する(PWM制御)。なお制御回路には更に、不図示の主電源スイッチが接続されており、且つ制御回路には、主電源スイッチがオンされるとモータ11が回転を開始し、スイッチ50がオンされてから所定の時間(例えば5秒間)が経過するとモータ11が停止するようなタイマプログラムが格納されている。なお、光ファイバFの少なくとも先端部の近傍は、被覆が除去されている。光ファイバFの前端面は、光ファイバFの長手方向中心軸に対してほぼ直交する面に加工されている。
【0024】
以上のとおり構成された第1実施形態の加工装置1を用いた面取り加工の手順について説明する。先ずユーザは、摺動ホルダ6に、光ファイバFをその先端が所定の長さ突出するようにセットする。次に、ユーザは光ファイバFを保持させた摺動ホルダ6を、摺動レール4にセットすると共に、光ファイバFの先端側の部分を固定ホルダ7にセットする。そして、ユーザが主電源スイッチをオンしてモータ11を始動させると、モータ11の回転が開始され、これによって研磨部材10が自転及び公転させられる。
【0025】
次に、ユーザは摺動ホルダ6を摺動レール4上で前進方向に摺動させ、これによって光ファイバFの先端を、固定ホルダ7から、研磨部材10に向けて軸方向に進出させる。摺動ホルダ6の前端面がスイッチ50をオンすることによって、上記タイマプログラムが起動される。続いて摺動ホルダ6を、その前端面がストッパ8又は固定ホルダ7に当接するまで移動させると、光ファイバFは、図7に実線で示されるように、研磨面24に前端面の周縁上の一点で当接した後、研磨面24に沿って緩やかに湾曲する。この当接から湾曲の過程において、光ファイバFの前端面57(図8参照)が研磨部材10に触れることはない。
【0026】
研磨部材10の自転軸asは、研磨部材10の公転によって、図7における一点鎖線as1の位置から一点鎖線as2の位置までにわたって円軌道で移動する。これに伴って、光ファイバFの先端は、図7における二点鎖線aの姿勢と二点鎖線bの姿勢との間で、ほぼ円錐形の軌跡を描きながら、研磨部材10の公転と同じ角速度で繰返し変位させられる。その間、研磨部材10は自転軸asを中心に継続して自転する。研磨部材10のこのような公転と自転とによって、光ファイバFの先端は、図8に示されるようにクラッド外周が面取りされ、概ね円錐面である斜面56が形成されることになる。
【0027】
スイッチ50がオンされてから所定の時間(例えば5秒間)が経過すると、制御回路の制御によってモータ11が停止する。ユーザは摺動ホルダ6を摺動レール4上で後退方向に摺動させる。これによって光ファイバFの先端は、図7における二点鎖線a,bのような湾曲した姿勢から、実線のような直線状の姿勢に復帰した後、研磨部材10を離れて軸方向に後退することになる。この後退の過程において、光ファイバFの前端面57(図8参照)が研磨部材10に触れることはない。
【0028】
以上のとおり、第1実施形態では、研磨部材10の研磨面24が、光ファイバFの中間部の軸線と交差しており、且つ光ファイバFの中間部の軸線の直交面に対して傾斜しているので、光ファイバFを研磨面24に接近させる際に、光ファイバFの先端が研磨面24に斜めに接触し、また離間の際にも光ファイバFの先端が研磨面24に対し斜めの姿勢を保ったまま離間する。したがって、ホルダの構造を複雑化することなく、光ファイバFの前端面57の損傷を抑制できる。
【0029】
また、研磨面24が光ファイバFの中間部の軸線の直交面に対して傾斜しているので、光ファイバFを余り撓ませなくても、換言すれば、光ファイバFの中間部での中心軸に対する光ファイバ先端付近における中心軸の傾きが小さくても、大きな面取り角度(例えば45度)を得ることができる。ここで面取り角度とは、光ファイバの先端部における軸線の直交面である光ファイバ前端面57に対して、加工面である斜面56が成す角度をいう。
【0030】
また、研磨部材10の研磨面24の軌道が、光ファイバFの中間部の軸線と同軸の公転軸arを持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸asを持つ自転成分とを含むので、光ファイバFの先端の位置が公転軸arの近傍であるにもかかわらず、自転成分によって、光ファイバFの先端に対する研磨面24の移動速度を大きくすることができ、加工を高速化できる。また、研磨面24の摩耗を抑制して研磨部材10の使用寿命を長くすることができる。また、自転と公転を組み合わせたことにより装置全体を小型に構成できる上、光ファイバFの湾曲回数は公転数に等しいから、研磨量に比して湾曲回数を抑制でき、光ファイバFの機械的負荷を抑制することができる。
【0031】
また、研磨面が凸面である場合、光ファイバの先端を研磨面に押し当てると、研磨面における光ファイバFの先端の位置が不安定になるおそれがある。これに対し、本実施形態では、研磨面24を凹面としたので、研磨面24における光ファイバFの先端の位置が安定し、これによって精度よく研磨することができる。
【0032】
また、研磨面24を、光ファイバFの中間部から先端部に向かう方向において研磨部材の自転軸asに近づくように傾斜した凹面としたので、研磨部材10の公転軸arと自転軸asとを平行にすることができ、駆動機構を汎用的な歯車を用いた簡易な構成で実現することができる。
【0033】
また本実施形態では、カップ状の研磨面24が、光ファイバFの中間部の軸線と常に交差するようにしたので、光ファイバFの軸方向移動のみによって面取り加工を行うことができ、光ファイバを保持するホルダの構造を単純にすることができる。
【0034】
また、研磨面24が光ファイバFの中間部の軸線の直交面に対して傾斜しており、且つ加工時に光ファイバFが湾曲する程度に光ファイバFの保持位置と加工位置とが離間しているので、光ファイバFの可撓性により加工時の過剰な接触圧を抑制でき、高い真円度を得ることができる。
【0035】
また、回転していない研磨部材に光ファイバを接近させると、光ファイバが研磨面の凹凸に係合して折損するおそれがあるが、本実施形態では回転している研磨部材10に光ファイバFを当接させるので折損のおそれを抑制することができる。
【0036】
また本実施形態では、駆動機構を、太陽歯車12及び遊星歯車13を備えた遊星歯車機構とし、研磨部材10を遊星歯車13に固定したので、簡易な構成によって研磨部材10を自転及び公転させることができ、本発明に所期の効果を得ることができる。
【0037】
また本実施形態では、摺動レール4にスイッチ50を設け、摺動ホルダ6の前端が予め定められた停止位置の近傍に来るとスイッチ50がオンされてタイマプログラムが起動するように構成したので、加工作業を円滑に行うことができる。また、モータ11を定速度に制御すると共に、スイッチ50がオンされてから所定時間でモータ11を停止させるようにしたので、電池の磨耗度合いや作業者の習熟度合いにかかわらず、切削量を均質化することができる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図9及び図10において、本発明の第2実施形態の加工装置101は、平板状の研磨部材110を用いる点を特徴とする。研磨部材110は駆動円盤116によって回転可能に支持されている。駆動円盤116の駆動軸117は、図示しないモータの出力軸に固定されている。研磨部材110の公転軸ar2は、固定ホルダ7によって保持された光ファイバFの中間部と同軸である。研磨部材110の自転軸as3は、公転軸ar2と非平行であり、且つ公転軸ar2から距離Dシフトした別平面にある。光ファイバFの先端が押し当てられる研磨面124は、研磨部材110の自転軸as3に対して直交している。
【0039】
研磨部材110を公転及び自転させるための駆動機構は、各種の構造を採用できるが、例えば図11に示されるように、インボリュートギヤである太陽歯車112及び遊星歯車113を用いて構成でき、これによって公転軸ar2と自転軸as3とを別平面にシフトさせることができる。モータ111の出力軸114は、駆動円盤116の駆動軸117に固定されており、駆動軸117は、軸受118を介して、太陽歯車112に回転可能に支持されている。固定支持円盤120はケース103aに固定され、太陽歯車112は固定支持円盤120に固定されている。遊星歯車113及び平板状の研磨部材台110aは遊星歯車軸121に固定されており、遊星歯車軸121は、駆動円盤116に固定された軸受122によって回転可能に支持されている。遊星歯車軸121の軸心である自転軸as3は、駆動軸117の軸心である公転軸ar2と非平行であり、且つ公転軸ar2からオフセットしている。遊星歯車113は太陽歯車112に常時噛み合っている。
【0040】
したがって、モータ111の出力軸114が回転すると、駆動円盤116が回転し、遊星歯車113が、ケース103aに対して相対的に固定の太陽歯車112の周囲を、転がるように回転させられ、これによって、研磨部材110が自転軸as3の周りを自転しながら、公転軸ar2の周りを公転することになる。
【0041】
研磨部材110は、例えば1000番程度の平板形状の砥石、あるいは布、紙、プラスティック等を下地とした研磨シートからなり、平板状の研磨部材台110aに固定されている。この固定にはネジ留め、嵌合、粘着、接着、面ファスナなど多様な方法を採用できる。研磨部材110及び研磨部材台110aのいずれか一方が永久磁石を含むものとし他方が永久磁石又は磁性体を含むものとして、両者を磁力によって吸着させてもよい。研磨部材110の研磨面124は、平面である。研磨部材110がどの位置にあっても、研磨面124は、公転軸ar2と斜めに交わっている。なお、摺動ホルダ6、固定ホルダ7、摺動レール4など他の各部の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0042】
以上のとおり構成された第2実施形態の加工装置101では、光ファイバFを保持させた摺動ホルダ6を前進させると、光ファイバFは、研磨面124のうち自転軸as3から偏心した点に、前端面57(図8参照)の周縁上の一点で当接した後、研磨面124に沿って緩やかに湾曲する。この当接から湾曲の過程において、光ファイバFの前端面57が研磨部材110に触れることはない。
【0043】
研磨部材110の自転軸as3は、研磨部材10の公転によって円軌道で移動する。これに伴って、光ファイバFの先端は、図10における実線の姿勢と、二点鎖線cの姿勢との間でほぼ円錐形の軌跡を描きながら、研磨部材110の公転と同じ角速度で繰返し変位させられる。その間、研磨部材110は自転軸as3を中心に継続して自転する。研磨部材110のこのような公転と自転とによって、光ファイバFの先端は、図8に示されるように面取りされ、概ね円錐面である斜面56が形成されることになる。
【0044】
モータ111の停止後、ユーザが摺動ホルダ6を摺動レール4上で後退方向に摺動させると、光ファイバFの先端は、図10における実線及び二点鎖線cのような湾曲した姿勢から、直線状の姿勢に復帰した後、研磨部材110を離れて軸方向に後退することになる。この後退の過程において、光ファイバFの前端面57が研磨部材110に触れることはない。
【0045】
以上のとおり、第2実施形態では、研磨部材110の研磨面124が、光ファイバFの中間部の軸線と交差しており、且つ光ファイバFの中間部の軸線の直交面に対して傾斜しているので、光ファイバFを研磨面124に接近させる際に、光ファイバFの先端が研磨面124に斜めに接触し、また離間の際にも光ファイバFの先端が研磨面124に対し斜めの姿勢を保ったまま離間する。したがって、ホルダの構造を複雑化することなく、光ファイバFの前端面57の損傷を抑制できる。また、研磨部材110が移動する軌道が、光ファイバFの中間部の軸線と同軸の公転軸ar2を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸as3を持つ自転成分とを含むので、光ファイバFの先端の位置が公転軸ar2の近傍であるにもかかわらず、自転成分によって大きな研磨量を得ることができる。
【0046】
また、研磨面124を平面としたので、研磨部材をきわめて低コストで提供することができる。また、研磨面124の磨耗に伴って、研磨部材台110aにおける研磨部材110の位置をシフトさせることで、1枚の研磨部材110が多くの本数を加工出来るため消耗品コストを低下させることができ、且つコアに対する対称性、真円度の良い面取り形状を形成することができる。
【0047】
また、第2実施形態では光ファイバFが湾曲することにより、すなわち、光ファイバFの中間部の軸線に対する光ファイバFの先端における中心軸が傾くことにより、面取り角度は、公転軸ar2に対する自転軸as3の傾きより大きくなる。公転軸ar2に対する自転軸as3の傾きを10度程度に小さくしても、摺動ホルダ6の前端から突出した光ファイバFの長さや、摺動ホルダ6と研磨面24との距離を調整することにより、45度程度の面取り角度を得ることができる。すなわち、研磨時に光ファイバFを湾曲させることによって、公転軸ar2に対する自転軸as3の傾きを小さくできるので、モータ11の回転出力を研磨部材110の自転の運動エネルギに伝達する効率を向上でき、加工装置101の消費電力を抑制することができる。
【0048】
また第2実施形態では、駆動機構を、太陽歯車112及び遊星歯車113を備えた遊星歯車機構を含むものとし、研磨部材110を遊星歯車113に固定したので、簡易な構成によって研磨部材110を自転及び公転させることができ、本発明に所期の効果を得ることができる。また、太陽歯車112及び遊星歯車113をインボリュートギヤとしたので、簡易な構成によって公転軸ar2と自転軸as3とを別平面にシフトさせることができる。なお、図12に示される変形例のように、遊星歯車213と研磨部材110との間に傘歯車214,215及び斜行軸216を用いれば、太陽歯車212と遊星歯車213とに平歯車を用いることができ、インボリュート歯車の使用を避けることができる。なお、この場合には研磨部材110の回転方向が第2実施形態とは逆になるため、研磨部材110の自転軸のシフトDの方向は図9とは逆にする必要がある。
【0049】
なお、上記各実施形態では遊星歯車を外歯歯車としたが、内歯歯車でもよい。また駆動部材を公転及び自転させるための機構は、遊星歯車機構に限らず、公転及び自転を独立に行うものなど、他の各種のものを使用できる。また本発明において光ファイバを保持するホルダは上記各実施形態のものに限らず、他の各種のものを使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態の加工装置を示す正面図である。
【図2】第1実施形態の加工装置を示す平面図である。
【図3】第1実施形態の加工装置を示す右側面図である。
【図4】駆動部の構造の詳細を示す断面図である。
【図5】摺動ホルダを示す左側面図である。
【図6】固定ホルダを示す左側面図である。
【図7】第1実施形態による加工原理を示す正面図である。
【図8】面取り加工後の光ファイバの先端を示す斜視図である。
【図9】第2実施形態の加工装置の要部を示す平面図である。
【図10】第2実施形態の加工装置の要部を示す正面図である。
【図11】第2実施形態の駆動部を示す概念図である。
【図12】第2実施形態の変形例の駆動部を示す概念図である。
【図13】従来の加工装置による加工原理を示す概念図である。
【符号の説明】
【0051】
1,101 加工装置
3 駆動部
4 摺動レール
6 摺動ホルダ
7 固定ホルダ
10,110 研磨部材
11,111 モータ
12,112,212 太陽歯車
13,113,213 遊星歯車
16,116,216 駆動円盤
17,117 駆動軸
24,124 研磨面
50 スイッチ
57 前端面
F,301 光ファイバ
ar,ar2 公転軸
as,as1,as2,as3 自転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単心光ファイバの先端を研磨する研磨部材と、当該研磨部材の研磨面を所定の軌道で移動させる駆動機構とを備え、前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端加工装置であって、
前記所定の軌道は、前記単心光ファイバの保持部分である中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットした自転軸を持つ自転成分とを含み、
前記研磨面は、前記中間部の軸線と交差し、且つ前記中間部の軸線の直交面に対して傾斜していることを特徴とする光ファイバ先端加工装置。
【請求項2】
前記研磨面は、前記単心光ファイバの中間部から先端部に向かう方向において前記自転軸に近づくように傾斜した凹面であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項3】
前記研磨面は、平面であることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項4】
前記駆動機構は、太陽歯車及び遊星歯車を備えた遊星歯車機構であり、前記研磨部材は前記遊星歯車に固定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光ファイバ先端加工装置。
【請求項5】
単心光ファイバの中間部を保持してその先端を、所定の軌道で移動する研磨部材の研磨面に押し当てることで前記単心光ファイバの先端のクラッド外周を円錐面状に加工する光ファイバ先端研磨方法であって、
前記所定の軌道は、前記中間部の軸線と同軸の公転軸を持つ公転成分と、前記中間部の軸線からオフセットされた自転軸を持つ自転成分とを含み、
前記研磨面は、前記中間部の軸線と交差し、且つ前記中間部の軸線の直交面に対して傾斜していることを特徴とする光ファイバ先端研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−210830(P2009−210830A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53940(P2008−53940)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】