説明

光ファイバ及びそれを備えた布帛並びにその加工方法及び装置

【課題】本発明は、アクリル系樹脂を主成分とするコア層を有する光ファイバ及びそれを備えた布帛において、コア層に与える損傷を抑えてクラッド層が除去されているとともにその露出位置が精密に加工された光ファイバ及びそれを備えた布帛並びにその加工方法及び装置を提供するものである。
【解決手段】アクリル系樹脂を主成分とするコア層を有する光ファイバ又はそれを備えた布帛に対して、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを光ファイバのクラッド層に照射することで、コア層の表層で蒸散現象を生起させてクラッド層を除去する。クラッド層が除去された部分では、光ファイバのコア層がクラッド層の境界面にほぼ沿った形状に部分露出されており、光ファイバに入射した光はクラッド層の除去部分から漏出するとともにその減衰を極力抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバに関し、クラッド層を局部的に除去してコア層を露出した光ファイバ及びその光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な光ファイバとして市販されているものは、光を伝送させるコア層(主としてメタアクリル樹脂からなる)と光の漏出を防ぐクラッド層(主としてフッ素系樹脂からなる)から構成されている。このような光ファイバは、導光繊維として一端から入射した光を他端に導いて光を伝送させることができるため、光通信の用途以外に各種の装飾品やデイスプレーに用いられている。そのため、光ファイバを織物構造に織成する技術が開発されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
近年、光ファイバの側面に部分的にノッチやキズなどの損傷部を作り、多数の損傷部から漏光させることで発光させる光ファイバやそれを用いた織物、装飾品などが提案されている。損傷部を作成する手段として、一般にサンドペーパー、砥石、刃物、サンドブラスト等を用いて、光ファイバやそれを用いた織物等の表面に図柄や模様を描くように損傷部を形成することで、損傷部から漏れる光により様々なイルミネーション効果を表出することができる。例えば、特許文献3では、メタアクリル光ファイバの表面のクラッド及びコアにレーザ熱線やハンダごてなどを使用して、貫通穴やV型穴をあけることで、散光させる光ファイバが記載されている。また、特許文献2では、光学繊維織物の側面部に損傷部を付与する方法として、レーザを用いる方法、ホットスタンプ法、例えば加熱粗面体を織物に圧接する方法、サンドブラスト法、例えば微粒子を織物に激突させる方法が記載されている。また、特許文献4では、光ファイバ織物表面の研磨、微小亀裂、遠心もしくは曲げにより光を部分的に逃すことを可能とする方法として、請求項5にレーザビームによって処理する点が記載されている。
【特許文献1】特公昭47−42534号公報
【特許文献2】特開昭62−299544号公報(第3頁右上欄20行〜左下欄4行)
【特許文献3】特開平9−222517号公報
【特許文献4】特表2004−506106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバのコア層を露出させる方法として、従来のように砥石や刃物等を用いる方法では、光ファイバのコア層内部まで損傷を与え、損傷深さを制御することは困難である。コア層内部まで損傷を与えると、その箇所での漏光割合が非常に大きくなり、その先の損傷部での発光が弱くなり、全体として、均一な発光状態が得られないという問題を有する。さらには、織物の場合、損傷部を作成する際の力によって、繊維の織組織を崩してしまうという問題も生じる。
【0005】
特許文献2又は3に記載されているように、レーザ熱線やハンダごてやホットスタンプのような加熱体による熱溶融での損傷部を作成する方法を用いると、一般にクラッド層は概ね5〜20μmという薄い層であり、さらに、コア層よりもフッ素系樹脂からなるクラッド層の耐熱性が非常に高く、熱加工でも、コア層内部まで損傷を与えてしまう可能性が非常に高く、前述のような問題点が残る。特許文献4に記載されたレーザビームによって処理する方法についても詳細に記載されていないため、具体的にどのように処理されているのかわからないが、熱加工であれば依然として同様の問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は、アクリル系樹脂を主成分とするコア層を有する光ファイバ及びそれを備えた布帛において、コア層に与える損傷を抑えてクラッド層が除去されているとともにその露出位置が精密に加工された光ファイバ及びそれを備えた布帛並びにその加工方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光ファイバは、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバにおいて、前記クラッド層が除去されて前記コア層が露出した露出領域が形成されており、該露出領域では露出した前記コア層の表面形状が前記コア層及び前記クラッド層の境界面にほぼ沿った形状に形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る別の光ファイバは、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバにおいて、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射することで前記クラッド層が除去されて前記コア層が露出した露出領域が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る布帛は、上記の光ファイバを少なくとも一部に備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る表示装置は、上記の布帛と、前記布帛の光ファイバに光を入射させる発光手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る液晶表示装置は、上記の布帛を背面に配置した液晶基板と、前記布帛の光ファイバに光を入射する発光手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る布帛の加工方法は、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛に190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射することで前記クラッド層を除去して前記コア層を露出させることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る布帛の加工装置は、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛を支持する支持手段と、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射するレーザ照射手段と、前記布帛及び前記レーザ照射手段を相対的に移動させる移動手段と、該移動手段を制御して前記布帛の所定位置に前記レーザ照射手段により紫外線レーザを照射する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光ファイバは、アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバにおいて、前記クラッド層が除去されて前記コア層が露出した露出領域が形成されており、該露出領域では露出した前記コア層の表面形状が前記コア層及び前記クラッド層の境界面にほぼ沿った形状に形成されているので、コア層との境界面でクラッド層が剥離されたような状態となっており、露出したコア層の損傷が少なく、光ファイバ内を伝送される光の減衰が抑制されて光ファイバの複数箇所で露出部分が形成されても各露出部分から漏出する光を概ね均一することができる。
【0015】
本発明者らは、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射することで、このようにコア層の損傷を抑えてクラッド層を除去することができることを知得した。すなわち、クラッド層を形成するフッ素系樹脂は紫外線の吸収効率が低く透過割合が高いため、アクリル系樹脂を主成分とするコア層をフッ素系樹脂からなるクラッド層で被覆した光ファイバに紫外線レーザを照射すると、紫外線レーザ光はクラッド層を透過し、アクリル系樹脂のコア層の表面(境界面)で吸収される。さらに、アクリル系樹脂はエステル結合を有することから紫外線を吸収しやすく、コア層の表層でほとんど吸収されて境界面で蒸散(アブレーション)現象が起こることとなる。そこで、クラッド層をコア層との境界面で除去する手段として、紫外線レーザによる光化学反応つまり蒸散(アブレーション)現象を利用することを見出した。蒸散現象は、高分子材料にある閾値以上の強度のレーザを照射すると、高分子化合物の結合開裂が爆発的に起こり、分解分子がプラズマ状態となり、発光を伴いながら高速で飛散する現象で、熱による溶融とは異なる現象であることが知られている。
【0016】
こうした蒸散現象を利用してクラッド層を除去することで、コア層に与える損傷を抑えてクラッド層を除去でき、コア層内を伝送する光の減衰を抑えながら、クラッド層が除去された部分より光を漏出させることが可能となる。そのため、多数の除去部分が形成されても概ね均一に光が漏出されるようになり、除去部分の面積が大きくなっても、同様に光の漏出が概ね均一になる。
【0017】
このような光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛とすることで、複数の光ファイバを平面状に配列し各光ファイバにおけるクラッド層の除去部分を2次元配置でき、各光ファイバに光を入射させる発光手段を用いれば、様々な図柄や文字に対応してクラッド層の除去部分から光を漏出させて表示装置とすることができる。すなわち、紫外線レーザにより各光ファイバに精度よくクラッド層の除去部分を形成することができるので、簡単に図柄、文字及び模様を表示することができる。そして、布帛自体が表示体となるので、薄く柔軟性のある表示体とすることができる。また、発光手段を異なる色を発光する複数の発光手段と用いることで、多色表示を行うことも可能となる。
【0018】
上記の布帛を液晶基板の背面に配置して布帛の光ファイバに光を入射する発光手段を備えた液晶表示装置とすることで、液晶基板をほぼ均一に背面から照射するバックライトとして用いることができ、さらに布帛を背面に配置するので、液晶表示装置を薄くすることができる。また、液晶基板が柔軟性を有する場合には、その柔軟性を損なわずにバックライトの機能を簡単に付加することが可能となる。
【0019】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛に190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射してクラッド層を除去するように加工すれば、布帛に光ファイバが備わった状態で紫外線レーザを照射するのでクラッド層の除去部分を精度よく位置決めして加工することができる。したがって、2次元の図柄等を表示するようにクラッド層の除去部分を形成する場合にも図柄に対応して紫外線レーザを位置決めして加工していけばよく簡単に加工することができる。
【0020】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛を支持する支持手段と、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射するレーザ照射手段と、布帛及びレーザ照射手段を相対的に移動させる移動手段と、該移動手段を制御して布帛の所定位置にレーザ照射手段により紫外線レーザを照射する制御手段を備えた加工装置とすることで、2次元の図柄等に対応して布帛及びレーザ照射手段を相対的に移動させて布帛の光ファイバにクラッド層の除去部分を精度よく加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明に係る光ファイバとしては、コア層にアクリル系樹脂を用いたもので、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリエチルメタクリレート樹脂(PEMA)、ポリエチルアクリレート樹脂(PEA)などが挙げられる。また、クラッド層としてはフッ素系樹脂を用いており、例えば、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、トリフルオロイソプロピルメタクリレート樹脂などが挙げられる。コア層は外周をクラッド層に被覆されており、2つの層の屈折率の違いによりコア層内に入射した光は外部に漏れることなく伝送されるようになっている。コア層及びクラッド層は、それぞれ複数層に構成されるようにされてもかまわない。光ファイバの直径は、0.25mmから3mmまでのものが挙げられるが、これ以外の直径のものでも使用することができる。
【0023】
本発明に用いる紫外線レーザは、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザであり、エキシマレーザ発生装置を使用した場合には、励起ガスを変えることで193nm、248nm、308nm、351nmの波長を有する紫外線レーザを使用することができる。また、YAGレーザ発生装置では、基本波の第3高調波355nm、第4高調波266nm、第5高調波212nmの紫外線レーザが使用することができ、さらにフェムト秒レーザでは、波長変換により190〜320nmのものが使用可能である。
【0024】
紫外線レーザの照射エネルギーは、被照射物である高分子化合物の結合エネルギーよりも大きなエネルギーを有するようにすれば効率的に加工することができる。例えば、アクリル系樹脂の炭素―炭素の結合エネルギーは3.59eVであり、この結合を切断して蒸散現象を発生させ得る波長の紫外線レーザは、波長に換算すると345nmとなる。したがって、この波長よりも短い波長の紫外線レーザを用いることで効率的な加工を行うことできる。
【0025】
紫外線レーザを照射する場合の条件としては、光ファイバのコア層の表層で蒸散現象が生じる閾値以上のエネルギー密度で、少なくとも1ショット照射すればよく、レーザ光の照射形状や大きさは各種の光学レンズを用いることで、矩形状や円形状に任意の大きさに制御可能である。ただし、過剰なパルスショット数で照射すると、コア層が深く掘削される状態となり、コア層の損傷が大きくなるので、注意を要する。
【0026】
例えば、266nmの波長を有するYAGレーザにおいては、0.5J/cm2・pulse以上、好ましくは2.5J/cm2・pulse以上のエネルギー密度で、1ショット以上照射するようにすればよい。他の波長のレーザについては、このYAGレーザのデータを基にその波長を有する光子エネルギーから算出することができる。例えば、波長193nmのArFエキシマレーザの場合には、0.5×193/266=0.36J/cm2・pulse以上のエネルギー密度で照射するように設定すればよい。
【0027】
190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザより波長が大きいレーザでは、蒸散現象によるクラッド層の除去を行うことは困難である。例えば、可視光の波長以上のレーザでは、紫外線レーザに比べ光子の持つエネルギーが小さく、前述のような蒸散現象は理論的に起こりえない。また、可視光レーザを光ファイバに照射すると、コア層内部まで侵入する。とくに赤外光のような熱レーザでは、光の侵入深さが非常に大きくなり、コア層表層に焦点を絞っても、コア内部まで熱の影響が伝達されることとなる。したがって、可視光以上の波長を有するレーザでは、熱の影響が強く、熱溶融が起こるため、コア層に損傷を与えることなくクラッド層を除去することは技術的に困難である。また、190nmより小さいレーザでは、真空雰囲気で照射する必要があり、設備的に大がかりとなり、経済的に不利となる。
【0028】
光ファイバ表面における照射形状及び大きさは、ビーム整形レンズや集光レンズ等の光学系により、矩形状、楕円状、三角状など多様に調整することが可能で、その大きさは1μm以上の辺又は径で照射することが可能である。また、アレイレンズ等の使用により、光ファイバ表面に1ショットの照射で複数の箇所にクラッド層の除去部分を形成することも可能である。
【実施例1】
【0029】
光ファイバ(三菱レイヨン社製CK−10、直径0.25mm)に、照射形状が0.1mm×0.3mmの矩形状で、エネルギー密度が2J/cm2・pulseの条件で波長193nmのArFエキシマレーザ(LAMBDA PHYSIK社製COMPex102MC)を空気中において1Hzで1ショット照射した箇所と30ショット照射した箇所の電子顕微鏡写真を図1と図2に示す。使用した光ファイバは、コア層にPMMA樹脂を用い、クラッド層にフッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン共重合樹脂を用いており、コア層の直径は約240μmでその周囲を被覆するクラッド層の層厚は約5μmである。
【0030】
図1写真から、クラッド層のみが剥離されてコア層との境界面が露出している状態が観察される。クラッド層が剥離された部分についてエネルギー分散型X線分析で測定したところ、フッ素の存在が認められないことから、コア層が露出していることがわかった。また、図2では、図1に比べコア層の表層が面的に除去されており、コア層の損傷が大きいことがわかる。また、照射したレーザの照射形状とほぼ同じ形状でクラッド層が除去されている。
【0031】
この実施例で用いた光ファイバのコア層及びクラッド層の材料について、193nmの紫外線レーザでは、一部の光はフッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン共重合樹脂に吸収されるものの、フッ化ビニリデン樹脂は193nmの光の吸収が弱いため、この紫外線レーザはクラッド層を透過して主にコア層において吸収されることになる。そして、PMMA樹脂の紫外線吸収効率が高いため、コア層の表層で紫外線レーザはほとんど吸収され、レーザのエネルギーがコア層の表層に集中して蒸散現象が生じ、それによりクラッド層が剥離されるように破壊されるものと考えられる。
【0032】
[比較例1]
実施例1で使用したのと同じ光ファイバに、カッターナイフや加熱溶融カッターを用いて、損傷部を作成した箇所の電子顕微鏡写真を図3及び図4に示す。
【0033】
カッターナイフではコア層まで損傷しており、また、加熱溶融カッターにおいては、コア層まで溶融した状態となると同時に、損傷部周辺に変色した溶融領域が肉眼で観察される。
【0034】
実施例1の場合と比較例1の場合との電子顕微鏡写真を比較すると、実施例1では、極めて良好な状態でクラッド層が除去されてコア層との境界面が露出していることがわかる。そして、その露出面積はレーザのスポット径とほぼ同じ大きさに形成することができ、微細な除去部分を精度よく形成することが可能となっている。一方、比較例1のように、機械的にクラッド層を除去したり、加熱処理により除去する場合は、コア層の損傷が大きいことがわかる。
【0035】
したがって、実施例1の場合には、クラッド層の除去部分のコア層の損傷が抑えられ、コア層内を伝送する光の減衰を抑制することができ、複数の除去部分から光を概ね均一漏出させることができるようになる。
【0036】
次に、上述した光ファイバを備えた布帛について説明する。光ファイバを備えた布帛としては、特許文献2に記載されているように、経糸として光ファイバを用い、光ファイバの間に配列された糸条及び緯糸により光ファイバを保持するように織成した織物が知られている。こうした織物以外にも光ファイバをモノフィラメントとして経編により光ファイバを保持するように編成した編物でもよい。
【0037】
光ファイバとしては上述した光ファイバを用い、光ファイバを保持する糸としては、光ファイバよりも細い繊度で柔軟性のある糸を用いるとよい。糸としては、繊度や力学特性を調整しやすい合成繊維を用いるのが好ましいが、合成繊維以外の天然繊維、再生繊維又は半合成繊維を用いてもかまわない。合成繊維としては、例えば、オレフィン系合成繊維、ナイロンに代表される脂肪族ポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル系合成繊維等が挙げられる。
【0038】
光ファイバに形成されるクラッド層の除去部分は、光ファイバを織成又は編成した布帛を作成した後、布帛の表面に露出した光ファイバに紫外線レーザを照射して除去部分を形成する加工処理を行うようにすればよい。
【0039】
図5は、加工処理を行う装置の一例を示している。布帛11は、支持手段であるテーブル10上に水平となるように載置されており、テーブル10は、レール基台12の上面に配置されている。布帛11は、テーブル10上に止着されていてもよいし、搬送ローラ等により挟持されて張設されるようにしてもよい。レール基台12の上面にはガイドレール13がY方向(紙面の垂直方向)に沿って形成されており、テーブル10の下面にはガイドレール13に嵌合するスライド部14が設けられている。そして、レール基台12に固定された駆動モータ15により回転するネジ軸(図示せず)に螺合する取付部16がテーブル10に設けられている。したがって、駆動モータ15の回転駆動によりテーブル10はY方向に移動し、テーブル10に載置された布帛11も同様にY方向に移動する。
【0040】
一方、テーブル10の上方に設けられたフレーム17には、加工ヘッド18が配設されている。加工ヘッド18は、ネジ軸19に螺合して駆動モータ20によりX方向(紙面に沿った水平方向)に移動するようになっている。加工ヘッド18の下面にはテーブル10に向かってレーザノズル21が設けられており、レーザ発振器22から発生したレーザ光23は、ミラー24で反射されレンズ25により集光されてレーザノズル21からテーブル10上の布帛11に照射される。
【0041】
レーザ発振器22及び駆動モータ15、20は、制御装置26により制御されるようになっている。制御装置26は、予め記憶された図柄や文字等のイメージ情報を読み出して、まず、布帛11の照射位置を決めるために駆動モータ15、20を駆動制御する。駆動モータ15を駆動制御することでテーブル10をY方向に移動させるとともに、駆動モータ20を駆動制御することで加工ヘッド18をX方向に移動させて、布帛11の照射位置に加工ヘッド18を位置決めする。そして、レーザ発振器2を駆動して布帛11にレーザを照射する。この場合、加工ヘッド18をX方向に走査させて1ライン分のイメージ情報に応じてレーザ照射を行った後、駆動モータ15を駆動して布帛11を行送りするように制御してもよい。
【0042】
図5に示す加工装置では、加工ヘッド18を移動制御するようにしているが、レーザ発生装置を固定してテーブル10をX方向及びY方向に移動させて布帛11をレーザの照射位置に位置決めするようにしてもよい。
【0043】
以上のように、布帛を加工処理すれば、クラッド層の除去部分を緻密に形成できるため、画素密度が大きいイメージ情報でも正確かつ迅速に加工処理することが可能である。
【0044】
こうして加工処理した布帛を表示装置と使用する場合は、布帛の光ファイバの一端から発光手段により光を入射するようにすればよい。図6にその一例を示す。この例では、布帛の側端に発光装置10を取り付け、発光装置10には発光ダイオード10a1〜10anが光ファイバの一端に沿って一列に配列されており、発光ダイオードからの光が光ファイバの一端に入射するようになっている。一方、布帛の光ファイバには、図6に示すように、アルファベットのAに対応する位置にそれぞれクラッド層の除去部分がレーザ照射によって形成されており、光ファイバに入射した光がクラッド層の除去部分から漏出すると、全体としてAという文字表示がされるようになる。
【0045】
こうした文字表示以外にも様々な図柄を表示することが容易に行うことができる。また、異なる色を発光する複数種類の発光ダイオードを用いることや光ファイバの光の入射端部に異なる色のフィルタ層を設けることでカラー表示も可能となる。図6の例では、複数の発光ダイオードを用いているが、光ファイバの一端を1箇所に集めて1つの発光ダイオードからの光をすべての光ファイバに入射するようにしてもよい。そして、発光ダイオードの発光する光量を変化させることで、表示される図柄等に明暗が生じ、より装飾効果を高めることができる。また、発光手段としては、発光ダイオードに限らず種々の発光装置を用いることができる。
【0046】
以上説明した布帛はそのまま用いてもよいし、裏面に板を取り付けて表示板として用いてもよい。また、壁面等に貼り付けて使用することもでき、その場合柔軟性があるので様々な形状に対応することができる。また、光が漏出する面とは反対側を表示面とすると、漏出した光が間接光となって柔かい照明効果を得ることができる。
【実施例2】
【0047】
実施例1で使用したのと同じ光ファイバを経糸として密度30本/cm、また、補強糸として、オレフィン系繊維からなる100 デシテックスの長繊維糸を経糸密度30本/cm、そして、緯糸としてオレフィン系繊維からなる糸を緯糸密度20本/cmで、図7に示す織組織で織成した。図7では、左右方向に経糸として光ファイバ及び補強糸が交互に配列されており、上下方向に緯糸が配列されている。この組織図では、光ファイバができるだけ表面に露出するような朱子織の組織となっている。クロスする斜線の入ったマス目が左右方向に連続した部分が光ファイバの露出した部分に該当し、斜線が入ったマス目が経方向の補強糸、白いマス目が緯方向の補強糸をそれぞれ示している。光ファイバの間隔(中心間の距離)は0.333mmであった。そして、織成された布帛を図5に示す加工装置により加工した。照射する紫外線レーザとして、波長266nmのYAGレーザ(SpectraPhysics製LAB-190)を用い、照射形状が直径0.2mmでエネルギー密度を2.5J/cm2・pulseとし、布帛の照射位置に1ショットずつ照射した。
【0048】
図8に、加工処理した布帛を吊り下げ、上方から図6に示す発光装置により光を入射させて図柄を表示した状態を示す。図8からもわかるように、複雑な図柄も加工することが可能で、全体として概ね均一な光量で表示されるようになっている。したがって、カーテンやタペストリー等のインテリア製品に光による装飾効果を兼ね備えた表示装置として活用できると共に、案内板や掲示板等の用途にも使用できる表示装置として有用である。
【0049】
上述した布帛を照明装置として用いることもできる。例えば、液晶表示装置のバックライトとして用いると、液晶表示装置を薄型化でき、軽量化することが可能となる。図9は、その液晶表示装置に関する概略断面図を示している。液晶基板Aは従来と同様のもので、一対のガラス基板34の間に液晶層30が保持されており、ガラス基板34の内側にはそれぞれ配向膜31及び電極パターン32が形成されている。そして、一方のガラス基板34の内側にはさらにカラーフィルタ層33が積層されている。ガラス基板34の外側には偏光板35が設けられており、電極パターン32に印加される駆動信号により電極間の液晶が配向制御されて表示が行われる。カラーフィルタ層33が積層されたガラス基板34側の外側が液晶基板の背面側となるが、背面側に上述した布帛Bを偏光板35に密着して配置する。布帛Bは、各光ファイバ50が紙面に垂直な方向に平行に配列しており、各光ファイバ50はその長手方向に沿ってクラッド層を溝状に除去した開口部52が形成されている。したがって、開口部52では線状にコア層51が露出している。そして、図6に示すような発光装置を布帛Bの側端部に取り付けて各光ファイバ50に光を入射することで、開口部52から液晶基板Aに向けて光が一斉に照射されるようになる。
【0050】
照射される光は概ね均一な光量で放射されるため、液晶基板全体が均一な明るさになり、良好な画面表示を行うことができる。また、開口部52を液晶基板A側のみに形成することで、余計な光の漏出を抑えることができ、表示画面の明暗をはっきりさせることができる。さらに、実施例2で説明したように、光ファイバを緻密に配列することができるため、液晶基板の画素に対応してドット状にクラッド層を除去するようにすれば、よりいっそう余計な光の漏出を抑えることができる。また、予め光ファイバの外周に遮光膜を形成しておけば、クラッド層の除去部分以外からの光の余計な漏出を抑えることが可能となる。
【0051】
また、各光ファイバの光を入射する先端部と反対側の先端部のコア層の露出部分に反射層を形成すれば、この部分から光の漏出を防止できると共に、コア層内部の光が反射されて開口部52から放射される光量を増加させることができる。また、布帛Bの液晶基板Aとは反対側に反射シートを密着させて光ファイバ全体から漏出する光を液晶基板側に反射させるようにして、液晶基板に入射する光量を増加させてもよい。
【0052】
図10は、上述した布帛を照明装置として用いた表示ケースの概略断面図を示している。広告表示シート60を挿入した透明ケース61の背面に図9で説明した布帛Bが密着して配置されている。したがって、布帛Bから照射される光がバックライトとなり広告表示シート60が明るく表示されるようになる。こうした表示ケースは、薄型で軽量なため、壁に吊るしたり、貼り付けたりして簡単に取り付けることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明は、衣料品、アクセサリー、インテリア用品そして屋内外装飾品、案内板、掲示板、看板等の表示装置や液晶表示装置といった用途に好適である。特に、本発明に係る布帛は、布製品類(ジャケット類、コート類、スポーツ衣類、靴類など)、スポーツ品類、アクセサリー類(バッグ類、帽子類、ベルト類、フーラード類、傘類など)、家庭用品(カーテン類、テント類、モケット類、カバー類)、自動車用品(室内装飾用品)、安全品類(警察官及び救助隊員用衣類、専門技術者用服、自動車用安全旗、トラックテント類、自動車用カバーなど)に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】レーザを1ショット照射した光ファイバのコア層の露出状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】レーザを30ショット照射した光ファイバのコア層の露出状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】カッターナイフによる光ファイバの損傷部を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】加熱溶融カッターによる光ファイバの損傷部を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】加工装置に関する概略図である。
【図6】布帛を用いた表示装置の概略図である。
【図7】布帛の織組織図である。
【図8】表示装置の表示状態を示す写真である。
【図9】液晶表示装置の概略断面図である。
【図10】表示ケースの概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 テーブル
11 布帛
18 加工ヘッド
22 レーザ発振器
26 制御装置
30 液晶層
50 光ファイバ
51 コア層
52 開口部
60 広告表示シート
61 透明ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバにおいて、前記クラッド層が除去されて前記コア層が露出した露出領域が形成されており、該露出領域では露出した前記コア層の表面形状が前記コア層及び前記クラッド層の境界面にほぼ沿った形状に形成されていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバにおいて、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射することで前記クラッド層が除去されて前記コア層が露出した露出領域が形成されていることを特徴とする光ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光ファイバを少なくとも一部に備えたことを特徴とする布帛。
【請求項4】
請求項3に記載の布帛と、前記布帛の光ファイバに光を入射させる発光手段とを備えたことを特徴とする表示装置。
【請求項5】
請求項3に記載の布帛を背面に配置した液晶基板と、前記布帛の光ファイバに光を入射する発光手段とを備えたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項6】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛に190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射することで前記クラッド層を除去して前記コア層を露出させることを特徴とする布帛の加工方法。
【請求項7】
アクリル系樹脂を主成分とするコア層及び該コア層を被覆するクラッド層を有する光ファイバを少なくとも一部に備えた布帛を支持する支持手段と、190nmから355nmの範囲の波長を有する紫外線レーザを照射するレーザ照射手段と、前記布帛及び前記レーザ照射手段を相対的に移動させる移動手段と、該移動手段を制御して前記布帛の所定位置に前記レーザ照射手段により紫外線レーザを照射する制御手段とを備えたことを特徴とする布帛の加工装置。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−39287(P2006−39287A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220167(P2004−220167)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(304036031)津谷織物株式会社 (5)
【Fターム(参考)】