説明

光ファイバ式鼓膜体温計

【課題】 光ファイバ部を曲げ易くして適用範囲を広げ、使いやすいものとする。
【解決手段】 光ファイバ部10の大部分を銀ハライド系光ファイバ42で構成し、その先端に、屈折率のマッチングのための接着剤43を用いてカルコゲナイド系光ファイバ41を接合し、少なくとも銀ハライド系光ファイバ42の部分を、紫外線不透過性で、かつ機械的な強度がある程度大きい保護管44で覆って、銀ハライド系光ファイバ42が紫外線に当たって劣化したり曲がり過ぎて透過損失が増えたりすることがないようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、鼓膜の温度を測定する光ファイバ式鼓膜体温計に関する。
【0002】
【従来の技術】鼓膜直下には体温調節中枢である視床下部へ流れる内頚動脈があるため、鼓膜温度はその血液温度を反映している。そのため、その温度を高精度に測定することは、医学的に重要な情報が得られることと期待される。従来より、この鼓膜の温度を正確に測定するため、鼓膜から発生する赤外線を光ファイバで導き、赤外線放射温度計で測定するようにした光ファイバ式鼓膜体温計が知られている。この光ファイバとしては、人体温度が放射する赤外線に対して伝送損失が小さいカルコゲナイド系光ファイバが使用される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、カルコゲナイド系光ファイバは、通常雰囲気で安定に低損失で赤外線を伝達するもので、人体に触れても問題のないものであるが、硬くて脆い性質を有しており、ほとんどストレートな状態でしか使えず、曲げなどに対してフレキシビリティがなく、適用に制限がある、という問題がある。
【0004】この発明は、上記に鑑み、鼓膜からの赤外線を伝達する光ファイバ部として曲げることにある程度対応でき、そのため適用範囲を広げて使いやすいものとすることができる、光ファイバ式鼓膜体温計を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明による光ファイバ式鼓膜体温計においては、鼓膜からの赤外線を伝達する光ファイバ部と、該光ファイバ部から出射される赤外線を検出する赤外線検出器とが備えられ、上記光ファイバ部は、銀ハライド系光ファイバと、その先端に屈折率マッチングのための接着剤によって接着させられたカルコゲナイド系光ファイバと、これら光ファイバの少なくとも銀ハライド系光ファイバ部分を覆う、紫外線不透過性保護管とからなることが特徴となっている。
【0006】銀ハライド系光ファイバは、常温域の赤外線を低損失で透過する光ファイバであり、非常に曲がり易い性質があるが、紫外線により劣化して透過損失が増えるため、この光ファイバ単独では光ファイバ式鼓膜体温計に適用することは難しい。そこで、外部の光にさらされる先端部分にはカルコゲナイド系光ファイバを用いることとして、それ以外の部分を銀ハライド系光ファイバで構成し、その銀ハライド系光ファイバ部分を紫外線不透過性の保護管で覆うこととすれば、上記の紫外線により劣化するという欠点をカバーでき、光ファイバ部全体として曲げに対応させることができる。そして、銀ハライド系光ファイバは非常に曲がり易い性質があるが、極端に曲げると元に戻してもその曲げた箇所での透過損失が元の値に戻らないという欠点をも、その保護管である程度以上には曲がらないようにすることでクリアすることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】つぎに、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この発明の実施の形態にかかる光ファイバ式鼓膜体温計における光ファイバ部11は、図1に示すように構成されている。図1には、光ファイバ部11の先端が示されており、この図に示すように、銀ハライド系光ファイバ42の先端にカルコゲナイド系光ファイバ41が接着剤43によって接合されている。この接着剤43は、屈折率の異なる2つの光ファイバ41、42を光学的にマッチングさせるためのものである。
【0008】そして、これらの光ファイバ41、42の、少なくとも銀ハライド系光ファイバ42の部分を覆うように保護管44が設けられている。この保護管44は、光ファイバ41、42を覆ってこれらを物理的に保護して傷がつかないようにするとともに、銀ハライド系光ファイバ42に紫外線が当たらないようにするためのものである。そのため、この保護管44は紫外線不透過性の材料から形成されている。また、銀ハライド系光ファイバ42は、非常に曲げ易く、曲げても透過損失は増えないが、極端に小さい曲率半径で曲げたときには透過損失が増え、形状的に元に戻しても、その曲げた箇所での透過損失が元の値に戻らないという性質があるため、保護管44によってある曲率半径以下には曲がらないようにしている。保護管44は、求められる機能がこのようなものであるため、たとえば、紫外線不透過性で、ある程度の硬度(曲がりにくさ)を持ったビニールチューブなどを用いることができる。
【0009】図2はこの光ファイバ式鼓膜体温計の全体を示すもので、光ファイバ式鼓膜体温計本体部10とそこから伸びる光ファイバ部11とからなる。この光ファイバ部11は、上記のように銀ハライド系光ファイバ42とカルコゲナイド系光ファイバ41を含む。光ファイバ部11は、外耳道22に挿入されることにより、その奥の鼓膜23からの赤外線が光ファイバ部11の先端に入射され、本体部10に伝達される。本体部10は耳介21に押し当てられるようになるが、光ファイバ部11の大部分(先端を除いた部分)は銀ハライド系光ファイバ42で構成されていて曲がり易くなっているため、耳介21への押し当てが不快にならないように位置決めの自由度を得ることができる。そのため、実際に耳に装着するときに自由度が高められて使いやすいものとなる。
【0010】本体部10には、図3に示すような信号処理系統が納められている。すなわち、光ファイバ部11の端部から出射する赤外線が入射するように配置された焦電センサ12と、その入射光をチョッピングする光チョッパ装置13と、信号処理装置14と、表示装置15とが内蔵されている。
【0011】焦電センサ12としては、長波長域(赤外線領域)まで高い感度を持つものが必要である。TGS(Triglycine Sulfate;硫酸三グリシン)系単結晶、たとえばTGS、LATGS(グリシンの一部をL−αアラニンで置換したもの)、DLATGS(さらに硫酸基等の水素を重水素で置換したもの)の単結晶を焦電体とする焦電センサは、長波長域(赤外線領域)まで高い感度を持つ焦電センサのうちでも、最も高い感度を持つため、これらを使用することが可能である。
【0012】この光ファイバ部11の他端面と焦電センサ12のセンサ面との間には、光チョッパ装置13の2枚羽根ブレード31が位置するように配置される。このブレード31はDCモータ32によって回転させられ、焦電センサ12に入射する赤外光をメカニカルにチョッピングする。焦電センサ12の焦電体に赤外光が入射してその温度が上昇すると自発分極が変化し、結晶表面の電荷が非平衡になり、これを電圧変化として取り出すことができる。
【0013】この焦電センサ12からの出力信号は信号処理装置14に入力され、チョッピング周波数成分が取り除かれるとともに平均加算処理などの所定のノイズ除去処理等を受ける。他方、この光ファイバ部11の他端側近傍の温度が、サーミスタなどの温度センサ16により検出され、その温度検出信号が信号処理装置14に送られる。これにより、光ファイバ部11が耳にセットされて暖められ、光ファイバ部11自体から赤外線が生じることによる誤差を、信号処理装置14において校正することができ、表示装置15に正確な鼓膜温度を表示することができる。
【0014】なお、上記はこの発明の一つの実施形態を示すものにすぎず、この発明はこれに限定される趣旨ではないことはもちろんである。具体的な構成などは種々に変更可能である。たとえば、信号処理系統は他の構成をとることも可能である。
【0015】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の光ファイバ式鼓膜体温計によれば、銀ハライド系光ファイバの部分を保護管で覆って紫外線に当たらないようにするとともに機械的な強度を増してある程度以上には曲がらないようにしたため、銀ハライド系光ファイバの常温域の赤外線を低損失で透過する性質および非常に曲がり易い性質を活かすことができ、これにより光ファイバ部として曲げることにある程度対応させ、そのため適用範囲を広げ、光ファイバ式鼓膜体温計を使いやすいものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態にかかる光ファイバ式鼓膜体温計における光ファイバ部の先端を断面して示す模式図。
【図2】同実施形態の全体を示す模式図。
【図3】同実施形態の信号処理系統を示すブロック図。
【符号の説明】
10 光ファイバ式鼓膜体温計本体部
11 光ファイバ部
12 焦電センサ
13 光チョッパ装置
14 信号処理装置
15 表示装置
16 温度センサ
21 耳介
22 外耳道
23 鼓膜
31 チョッピングブレード
32 DCモータ
41 カルコゲナイド系光ファイバ
42 銀ハライド系光ファイバ
43 マッチング用接着剤
44 保護管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鼓膜からの赤外線を伝達する光ファイバ部と、該光ファイバ部から出射される赤外線を検出する赤外線検出器とが備えられ、上記光ファイバ部は、銀ハライド系光ファイバと、その先端に屈折率マッチングのための接着剤によって接着させられたカルコゲナイド系光ファイバと、これら光ファイバの少なくとも銀ハライド系光ファイバ部分を覆う、紫外線不透過性保護管とからなることを特徴とする光ファイバ式鼓膜体温計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−70255(P2001−70255A)
【公開日】平成13年3月21日(2001.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−253137
【出願日】平成11年9月7日(1999.9.7)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】