説明

光ファイバ心線及びその被覆除去方法

【課題】 外層被覆除去が容易にでき、被覆除去時に光ファイバへの外圧を低減して破断を防ぐことが可能な光ファイバ心線及びその被覆除去方法の提供。
【解決手段】 光ファイバ裸線1の外周に、外側被覆層の除去により露出する内側被覆層11が設けられ、該内側被覆層の外周に除去対象の外側被覆層12が設けられた光ファイバ心線において、前記外側被覆層が吸水率2.0%以上の樹脂からなることを特徴とする光ファイバ心線10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外層被覆除去が容易な光ファイバ心線に関する。光ファイバ心線の端末接続作業において、異径の心線同士を接続する際、外径を統一させるため、大径心線の外層被覆を除去する作業が必要である。本発明は、外層被覆除去を必要とする光ファイバ心線の除去変換特性と信頼性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、外層被覆除去を必要とする用途に好適な光ファイバ心線の構造が種々提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
図1は、外層被覆除去が可能な従来の光ファイバ心線の一例を示す図である。この従来の光ファイバ心線5は、光ファイバ裸線1の外周に内側被覆層2が設けられ、該内側被覆層2の外周に、除去対象内側被覆層3と除去対象外側被覆層4とが設けられた構造になっている。この従来の光ファイバ心線5は、除去対象である最外被覆を2層に分けた構造であり、しごき力を加えることで除去対象内側被覆層3を剥離させ、被覆除去を行うものである。この除去対象内側被覆層3の材料としては、シリコーン系、フッ素系剥離材を含んだ樹脂、ヤング率が1kg/cm以下の緩衝材などが提案されている。
【特許文献1】特開平9−15460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の光ファイバ心線の構造では、外層被覆除去の際、しごき力を加えることにより剥離性を持たせるものであり、接続作業の長時間化、しごきによるファイバの断線等の問題がある。また、除去対象の被覆層と露出させる層の密着度が大きいため、除去できる長さが限定される問題がある。
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、外層被覆除去が容易にでき、被覆除去時に光ファイバへの外圧を低減して破断を防ぐことが可能な光ファイバ心線及びその被覆除去方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、光ファイバ裸線の外周に、外側被覆層の除去により露出する内側被覆層が設けられ、該内側被覆層の外周に除去対象の外側被覆層が設けられた光ファイバ心線において、前記外側被覆層が吸水率2.0%以上の樹脂からなることを特徴とする光ファイバ心線を提供する。
【0006】
本発明の光ファイバ心線において、前記内側被覆層が吸水率1.5%以下の樹脂からなることが好ましい。
【0007】
また本発明は、前述した本発明に係る光ファイバ心線の被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層に吸水させた後、外側被覆層を除去工具で所望の長さ除去し、内側被覆層を露出させることを特徴とする光ファイバ心線被覆除去方法を提供する。
【0008】
本発明の光ファイバ心線被覆除去方法において、前記除去工具が、外層被覆に吸水させる機能を持つことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光ファイバ心線は、除去対象の外側被覆層を吸水率2.0%以上の樹脂で構成したものなので、光ファイバ心線の被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層に吸水させた後、外側被覆層を除去工具で所望の長さ除去し、内側被覆層を露出させることこよって間単に外側被覆を除去することができ、また被覆除去時に光ファイバへの外圧を低減して破断を防ぐことができる。
また、内側被覆層を吸水率1.5%以下の樹脂から構成したことで、水浸漬による伝送損失増加を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図2は、本発明による光ファイバ心線の一実施形態を示す図である。本実施形態の光ファイバ心線10は、石英ガラスからなる光ファイバ裸線1の外周に、外側被覆層12の除去により露出する内側被覆層11が設けられ、該内側被覆層11の外周に除去対象の外側被覆層12が設けられてなり、外側被覆層12が吸水率2.0%以上の樹脂からなることを特徴としている。
【0011】
前記光ファイバ裸線1は特に限定されず、従来公知の各種の光ファイバ、例えば、シングルモード光ファイバ、マルチモード光ファイバ、偏波保持光ファイバ、ホーリーファイバなどの各種の光ファイバを適用することができる。また光ファイバ裸線1の外径は限定されないが、一般に広く使用されている直径125μmの光ファイバ裸線などを用いることが好ましい。
【0012】
前記内側被覆層11としては、従来より光ファイバの被覆材として用いられている紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂を用いることができる。この内側被覆層11は、吸水率1.5%以下の樹脂で構成することが好ましい。内側被覆層11を吸水率1.5%以下の樹脂で構成することで、水浸漬による伝送損失増加を防ぐことができる。内側被覆層11の吸水率が1.5%を超えると、被覆除去の際に光ファイバ心線10を水に浸漬する際、水が内側被覆層11内に浸透してガラス−被覆界面に剥離が起こり、この剥離部分に水が溜まり、部分的膨れ(ブリスタ)が発生し、これがマイクロベンドを起こして伝送損失の増加を招いてしまう問題がある。
【0013】
前記外側被覆層12としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの紫外線硬化型樹脂、シリコーン系、フッ素系の熱硬化型樹脂、ポリアミド、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。外側被覆層12の吸水率が2.0%以上であれば、光ファイバ心線10の被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層12に吸水させることで、水が可塑剤として作用し、除去対象の外側被覆層12に柔軟性を持たせ、被覆除去工具等を用いて外側被覆層12を簡単に、かつ光ファイバ裸線1に余分な外力を加えることなく除去することができる。外側被覆層12の吸水率が2.0%未満であると、これを水中に浸漬しても柔軟にならず、被覆除去が困難になる。
【0014】
前記内側被覆層11と外側被覆層12の厚さは、光ファイバ裸線1を十分に保護し得る厚さがあればよく、特に限定されず、通常用いられている光ファイバ心線における被覆厚さに合わせて設定することができ、例えば、光ファイバ裸線1の外径が80〜125μm程度である場合に、外側被覆層12外径(最終外径)が150〜1000μm、内側被覆層11外径(露出層外径)が100〜500μmの範囲で設定することができる。
【0015】
前述した本実施形態の光ファイバ心線10は、被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層に吸水させた後、外側被覆層を除去工具で所望の長さ除去し、内側被覆層を露出させることを特徴とする光ファイバ心線被覆除去方法により、簡単に所望部位の外側被覆層12を除去することができる。
【0016】
本発明の光ファイバ心線被覆除去方法は、被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層12に吸水させることで、水が可塑剤として作用し、除去対象の外側被覆層12に柔軟性を持たせることが可能となり、吸水作用を持たせた除去工具を使用すれば、被覆除去時にファイバに加わる外力を低減させ、ファイバの破断等の発生を防止できる。ここで用いる除去工具としては、除去を行う被覆層を吸水させるために、光ファイバ心線を浸漬できる水槽を有し、かつ、水槽内には除去を行う被覆層に傷を入れる金属刃を備える。また、水槽には、被覆層への吸水を促進させるための温水ヒータを付属している。
【実施例】
【0017】
[外側被覆層の吸水率と除去応力との関係]
除去対象の外側被覆層に吸水率・引張弾性率の異なる幾つかの材料を採用して表1の実験例1〜10の光ファイバ心線を作製し、被覆除去時に係る応力を測定した。
実施に使用した光ファイバ心線は、石英ガラス製の光ファイバ裸線(外径125μm)の外周に紫外線硬化型樹脂からなる層を施し、外径を250μmとし、更にその外周に紫外線硬化型樹脂(ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂)からなる外側被覆層を被覆し、最終外径を500μmとしたものである。表1記載の引張弾性率150MPaはウレタンアクリレート樹脂、1000MPaはエポキシアクリレート樹脂である。樹脂中のオリゴマー及びモノマーの配合比、種類を変えることによって、樹脂中の水酸基濃度が変わり、結果として樹脂の吸水率が変わってくる。
ここで、吸水率は、JIS K 7209−84に基づいて測定したものである。また、除去応力の定義として、一般的なメカニカル除去工具であるMicrostrip(登録商標)を引張試験機に固定し、常温環境下において、外側被覆層50mm長を引張速度500mm/分で引っ張ったときの最大降伏点とした。この除去応力は、心線を水中に一晩浸漬した後に測定した値である。最後に、除去性判定は、外側被覆層の除去応力が5N未満(問題なく除去できるレベル)の場合を○とし、5〜15N(除去する際に力を要するが、除去することが可能なレベル)の場合を△、15Nを超える(除去できないレベル)場合を×とした。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
実験例1〜5は、除去対象の外側被覆層の引張弾性率が150MPaで、吸水率が1.0〜5.4%の範囲の材料を比較した。吸水率が高くなるにつれて、除去応力が低下していることが分かる。これは、吸水することにより、外側被覆層の引張弾性率が低下し、結果として除去応力を低減させるためである。
吸水率2.0%以上の樹脂を外側被覆層に使用した場合(実験例3〜5)、除去応力は5.0N以下であり、問題なく除去できるレベルである。一方、吸水率2.0%未満の樹脂を外側被覆層に使用した場合(実験例1,2)、除去応力は6.0N以上となり、被覆除去に若干力を要するレベルであった。
【0020】
また実験例6〜10では、除去対象の外側被覆層の引張弾性率が1000MPaで、吸水率が1.0〜5.4%の範囲の材料を比較した。この実験例6〜10の場合も、前記実験例1〜5の場合と同様の傾向が見られた。吸水率2.0%以上の被覆材料を外側被覆層に使用した場合、除去応力は15.0N以下であり、除去できるレベルにあるが、吸水率2.0%未満の被覆材料を外側被覆層に使用した場合、除去応力は17.0Nを超えており、除去不可能なレベルであった。このことから、除去対象の外側被覆層の吸水率は2.0%以上であることが最適であると言える。
【0021】
[内側被覆層層の吸水率]
光ファイバ素線を長期間水中に浸漬させると、ガラス−被覆界面に剥離が起こり、この剥離部分に水が溜まり、部分的膨れ(ブリスタ)が発生する。このブリスタが不均一なマイクロベンドの要因となって、伝送損失が増加するという問題がある。この問題を解決するために、露出させる内側被覆層の吸水率について検討を行った。検討に用いた実験例11〜20の光ファイバ心線は、前記検討で用いた実験例1〜10の光ファイバ心線と同じ構造であり、露出させる内側被覆層の材料の吸水率を変えて、水中下での伝送損失を測定した。ここでは、外側被覆層と内側被覆の吸水率を調べ、各組み合わせにおける水浸漬後の伝送損失をまとめている。伝送損失測定は、光ファイバ心線を1km束取りし、60℃の温水中に1ヶ月浸漬後の伝送損失をOTDRにて測定した。測定波長は1.55μmとした。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
実験例11〜20の結果からわかるように、内側被覆層の吸水率がある値以上になると、水浸漬後の伝送損失が増加する傾向が見られた。実験例11〜13および実験例16〜18は、伝送損失が0.21dB/km以下と実用上問題ないレベルであったのに対し、実験例14〜15および実験例19〜20では、伝送損失が0.23〜0.70dB/kmと大きな値を示した。このことから、内側被覆層の吸水率は1.5%以下であることが最適だといえる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の被覆除去可能な光ファイバ心線を例示する断面図である。
【図2】本発明の光ファイバ心線の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1…光ファイバ裸線、10…光ファイバ心線、11…内側被覆層、12…外側被覆層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ裸線の外周に、外側被覆層の除去により露出する内側被覆層が設けられ、該内側被覆層の外周に除去対象の外側被覆層が設けられた光ファイバ心線において、
前記外側被覆層が吸水率2.0%以上の樹脂からなることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記内側被覆層が吸水率1.5%以下の樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された光ファイバ心線の被覆除去対象部を水中に浸漬し、外側被覆層に吸水させた後、外側被覆層を除去工具で所望の長さ除去し、内側被覆層を露出させることを特徴とする光ファイバ心線被覆除去方法。
【請求項4】
前記除去工具が、外層被覆に吸水させる機能を持つことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ心線被覆除去方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−114548(P2007−114548A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306776(P2005−306776)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】