説明

光ファイバ母材製造方法

【課題】伝送損失が小さい光ファイバを製造する上で好適な光ファイバ母材を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明の光ファイバ母材製造方法は、少なくともアルカリ金属元素が内表面に添加された石英系ガラスからなるガラスパイプの長さ軸方向に熱源を連続的に移動させてガラスパイプを加熱して中実化することで、光ファイバのコア部またはコアの一部となる第一のガラスロッドを作製する中実化工程を備え、ガラスパイプは、アルカリ金属元素の最高濃度が500〜20,000 atomic ppm であり、Cl元素の最高濃度が0〜1,000 atomic ppm であり、F元素の最高濃度が0〜10,000 atomic ppmであり、中実化工程において、ガラスパイプの外表面の最高温度を2000〜2250℃とし、熱源の移動速さを30mm/min以上100mm/min以下とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属がコア領域に添加された石英系ガラスからなる光ファイバが知られている(特許文献1〜3を参照)。光ファイバ母材のコア部に数百〜数万atomic ppmのアルカリ金属を添加することで、この光ファイバ母材を線引きする際のコア部の粘性を下げることができ、石英ガラスのネットワーク構造の緩和を進行させることができる。そのため、その線引きにより製造される光ファイバのレーリ散乱損失を低減することができるとされている。
【0003】
アルカリ金属を石英ガラス中に添加する方法としては拡散法が知られている。拡散法は、原料となるアルカリ金属またはアルカリ金属塩(例えばKBrやKI)などの原料蒸気を酸素とともに石英系ガラスからなるガラスパイプ内に導入しながら、ガラスパイプを外部熱源により温度1500〜2200℃に加熱したりガラスパイプ内にプラズマを発生させたりすることで、アルカリ金属元素をガラスパイプの内表面に拡散添加するものである。
【0004】
このようにしてアルカリ金属元素をガラスパイプ中に添加した後、このガラスパイプを縮径する。縮径後、アルカリ金属元素の添加の際に同時に添加されてしまうNiやFeなどの遷移金属を除去する目的で、ガラスパイプの内面をエッチングする。エッチング後、ガラスパイプを中実化することで、アルカリ金属添加コアロッドを製造する。このアルカリ金属添加コアロッドの外側にクラッド部を合成することで光ファイバ母材を製造する。そして、この光ファイバ母材を線引きすることで光ファイバを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-504080号公報
【特許文献2】特表2009-541796号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0144986号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルカリ金属が添加された石英ガラスは、ガラス転移点が1000〜1400℃に低温化し、その結晶化速度が速くなる。従って、光ファイバ母材の製造における、アルカリ金属添加ガラスの加熱、冷却工程において、ガラスが結晶化し易く、良好な光ファイバ母材の歩留まりが低くなるという課題がある。また、気相法で高純度の石英ガラス体を作製する際に石英ガラススート体をClガスによって脱水する工程で、石英ガラス体にClが混入する。この石英ガラス中のClとアルカリ金属とが反応するとアルカリ塩化物が生成される。このようなアルカリ塩化物は、石英ガラスネットワークに取り込まれないので、光ファイバ母材の製造過程において、気泡となったり、結晶の核となったりするという課題があった。
【0007】
光ファイバ母材(特にコア部)における結晶核や気泡は、これを線引きして製造される光ファイバの伝送損失を増加させる原因となる。特に、アルカリ酸化物が添加された石英ガラスパイプを中実化する中実化工程では、光ファイバにおいてコアとなる石英ガラスパイプを、高濃度のアルカリ酸化物が石英ガラスパイプの内表面に露出させた状態で加熱するので、気泡や結晶が発生し易い。このようなコア部に気泡や結晶が発生した光ファイバ母材を線引きすることで製造される光ファイバは、伝送損失が大きいものとなる。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、伝送損失が小さい光ファイバを製造する上で好適な光ファイバ母材を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ファイバ母材製造方法は、コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造する方法であって、少なくともアルカリ金属元素が内表面に添加された石英系ガラスからなるガラスパイプの長さ軸方向に熱源を連続的に移動させてガラスパイプを加熱して中実化することで、光ファイバのコア部またはコアの一部となる第一のガラスロッドを作製する中実化工程を備え、ガラスパイプは、アルカリ金属元素の最高濃度が500〜20,000 atomic ppm であり、Cl元素の最高濃度が0〜1,000 atomic ppm であり、F元素の最高濃度が0〜10,000 atomic ppmであり、中実化工程において、ガラスパイプの外表面の最高温度を2000〜2250℃とし、熱源の移動速さを30mm/min以上100mm/min以下とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の光ファイバ母材製造方法は、中実化工程において、ガラスパイプの内部の圧力をガラスパイプの外部の圧力より90kPa以上低くするのが好適である。本発明の光ファイバ母材製造方法は、中実化工程において作製された第一のガラスロッドの外周を研削して、第一のガラスロッドの断面を実質的に真円とする第一外周研削工程を備えるのが好適である。また、本発明の光ファイバ母材製造方法は、純粋石英ガラスの屈折率を基準として第一のガラスロッドの比屈折率差の最大値が−0.1〜+0.1%であり、純粋石英ガラスの屈折率を基準とする比屈折率差の最小値が−0.2〜−0.5%である光学クラッド部または光学クラッド部の一部を第一のガラスロッドの周囲に形成するクラッド部形成工程を備えるのが好適である。
【0011】
本発明の光ファイバ母材製造方法は、中実化工程において作製された第一のガラスロッドの周囲に、Cl元素の濃度が1,000atomic ppmから1,5000atomic ppm以下の濃度で添加された石英ガラスを設けることで、光ファイバのコア部またはコアの一部となる第二のガラスロッドを作製するコア部拡径工程を備えるのが好適である。このとき、本発明の光ファイバ母材製造方法は、コア部拡径工程において作製された第二のガラスロッドの外周を研削して、第二のガラスロッドの断面を実質的に真円とする第二外周研削工程を備えるのが好適である。また、本発明の光ファイバ母材製造方法は、純粋石英ガラスの屈折率を基準として第二のガラスロッドの比屈折率差の最大値が−0.1〜+0.1%であり、純粋石英ガラスの屈折率を基準とする比屈折率差の最小値が−0.2〜−0.5%である光学クラッド部または光学クラッド部の一部を第二のガラスロッドの周囲に形成するクラッド部形成工程を備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、伝送損失が小さい光ファイバを製造する上で好適な光ファイバ母材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の光ファイバ母材製造方法のフローチャートである。
【図2】本実施形態の光ファイバ母材製造方法におけるアルカリ金属添加工程S1を説明する図である。
【図3】中実化工程時の加熱部最高温度の各値およびカリウム濃度の各値における結晶化発生の有無を示すグラフである。
【図4】中実化工程時のトラバース速度の各値およびカリウム濃度の各値における結晶化発生の有無を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態の光ファイバ母材製造方法のフローチャートである。本実施形態の光ファイバ母材製造方法は、アルカリ金属添加工程(ステップS1)、縮径工程(ステップS2)、エッチング工程(ステップS3)、中実化工程(ステップS4)、延伸工程(ステップS5)、第一外周研削工程(ステップS6)、コア部拡径工程(ステップS7)、第二外周研削工程(ステップS8)、クラッド部形成工程(ステップS9)およびジャケット合成工程(ステップS10)の各処理を順に行うことで、コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造することができる。図2は、本実施形態の光ファイバ母材製造方法におけるアルカリ金属添加工程(ステップS1)を説明する図である。
【0016】
アルカリ金属添加工程(ステップS1)では、石英系ガラスからなるガラスパイプ10の内壁面にアルカリ金属が添加される。添加されるアルカリ金属としては、好適にはカリウムであり、他にナトリウム、ルビジウム、セシウム等であってもよい。ガラスパイプ10は、Cl元素の最高濃度が0〜1,000 atomic ppm であり、F元素の最高濃度が0〜10,000atomic ppmである。好ましくはCl元素およびF元素以外の添加物質、例えば遷移金属やOH基などの濃度は十分に低く、例えば10mol ppb以下であることが望ましい。例えば、Cl元素の濃度が200atomic ppmであり、F元素の最高濃度が4000atomic ppmであり、外径が25mmであり、内径が10mmである。
【0017】
図2(a)に示されるように、ガラスパイプ10の一端に接続されるダミーパイプ20の一部の内径が細くなって原料供給部となっており、この原料供給部にKBr原料30が置かれる。そして、同図(b)に示されるように、ガラスパイプ10にダミーパイプ20が接続されて、これらが旋盤に設置される。
【0018】
ダミーパイプ20の原料供給部が30分間に亘り電気炉40により温度600℃に加熱されつつ、図示されていないガス供給部から供給される乾燥Nガスがダミーパイプ20からガラスパイプ10へ流されて、原料供給部に設置されたKBr原料30が乾燥される。その後、同図(c)に示されるように、SFガスがダミーパイプ20からガラスパイプ10へ流されて、ガラスパイプ10の内壁面が所定の厚みでエッチングされて、ガラスパイプ10の内壁面に付着していた不純物が除去される。
【0019】
続いて同図(d)に示されるように、ダミーパイプ20の原料供給部が電気炉40により温度780℃に加熱されつつ、図示されていないガス供給部から供給されるOガスがダミーパイプ20からガラスパイプ10へ流され、原料供給部に設置されたKBr原料30から発生したKBr蒸気がOガスととともにガラスパイプ10の内部へ流される。そして、ガラスパイプ10が外側から酸水素バーナ50などの熱源によりガラスパイプの外表面最高温度が2000〜2250℃になるように加熱されることで、内部を流れるカリウムがガラスパイプ10中に拡散添加される。アルカリ金属添加工程(ステップS1)後のガラスパイプ10は、カリウムの最高濃度が500〜20,000 atomic ppm である。
【0020】
アルカリ金属添加工程(ステップS1)後の縮径工程(ステップS2)では、原料供給部の加熱によるKBr蒸気の供給が停止された後、酸水素バーナ50による加熱が続けられて、ガラスパイプの内径が直径3mm程度になるまでガラスパイプが縮径される。
【0021】
続くエッチング工程(ステップS3)では、縮径されたガラスパイプの内部にSFが流量100sccm(標準状態に換算して100cc/min)およびOが流量100sccmで流されるとともに、酸水素バーナが速度50mm/min以上100mm/min以下でガラスパイプの長さ軸方向に連続的にトラバースされて、ガラスパイプが最高温度1900〜2250℃に加熱される。エッチングガスとして、好適にはSFが用いられるが、その他にCF、NF、Cなどが用いられてもよい。これにより、ガラスパイプの内壁面が400〜800μm程度の厚みでエッチングされて、カリウム拡散と同時に拡散添加された遷移金属やOH基などの不純物を多量に(例えば10mol ppb以上)含む層が取り除かれる。
【0022】
このエッチング工程(ステップS3)では、ガラスパイプの内面をカリウム元素が拡散した厚みに対して5%〜25%の厚みだけエッチングにより除去されるのが好ましい。カリウムの拡散と同時に原料またはキャリアガス中に含まれる遷移金属(例えばFe、Ni、Coなど)がガラス中に拡散するが、上記範囲でエッチングすることにより。カリウムを残しながら不純物による波長1.55μmでの伝送損失を0.001dB/km以下にすることができる。
【0023】
また、エッチング工程(ステップS3)では、ガラスパイプの内部の圧力がガラスパイプの外部の圧力より0.1〜1kPa高くされるのが好ましい。これにより、高温でエッチングすることによりパイプが潰れることなくエッチングできる。
【0024】
続く中実化工程(ステップS4)では、ガラスパイプ内部の圧力をガラスパイプ外部の圧力より90kPa以上低くしながら、温度2000℃〜2250℃の酸水素バーナ火炎が長さ方向に連続的に速度30mm/min以上100mm/min以下でトラバースされてガラスパイプが中実化され、これにより透明な石英系ガラスからなるガラスロッドが得られる。この中実化工程(ステップS4)では、ガラスパイプの内部と外部との圧力差が大きいのでトラバースを効率的に速くすることが可能であり好ましい。
【0025】
このような条件で中実化工程が行われることにより、中実化の際に発生する結晶化が抑制され得る。アルカリ金属元素の最高濃度が500atomic ppm以上あることにより、コアの粘性が下がり散乱損失を下げることができる。一方、アルカリ金属元素の最高濃度が20,000 atomic ppm以上では、結晶化速度が速いので、中実化時の結晶化を抑えることが困難となる。
【0026】
石英ガラス中のCl濃度が高いと、石英ガラス中でKClが生成し、これを核として石英ガラスの結晶化が促進されるので、Cl元素の最高濃度が1,000atomic ppm以下であることが好ましい。F濃度が高い場合、Fによる散乱損失が発生する他、コアの屈折率が下がり導波構造とすることができないので、F元素の最高濃度が0〜10,000atomic ppmであることが好ましい。
【0027】
熱源としては、酸水素バーナであってもよいが、電気炉や熱プラズマなどの無水熱源であると好ましい。加熱温度は結晶の生成を抑えるため、2000℃以上であることが良いが、ガラスの温度は2250℃以上に加熱することは困難である。また熱源の移動速度は、結晶化が発生しない程度十分に速い30mm/min以上であることが良く、ガラスパイプが気泡なく潰れる為に100mm/min以下であることが好ましい。
【0028】
中実化工程(ステップS4)で得られたガラスロッドは、続く延伸工程(ステップS5)で酸水素バーナーなどの熱源によって加熱されながら、外径11mmとなるまで延伸され、更に続く第一外周研削工程(ステップS6)で外径が6mmとなるまで外周が研削されることで、酸水素バーナの加熱によりOH基が拡散した石英ガラス層が除去される。また、これにより、ガラスロッドの断面が実質的に真円とされる。
【0029】
実質的に真円とは、非円率が0.4%以下であることを言う。非円率とは、ガラスロッドの外周部を楕円近似した際に長軸と短軸との長さの差を長軸の長さで割った値である。
【0030】
ところで、ガラスパイプ内外の圧力差を大きくして中実化すると、得られるガラスロッドが楕円化してしまうことが知られている。この時アルカリ酸化物が添加された領域も楕円化してしまうが、この状態でガラスロッドの外部を実質的に真円になるよう研削した後、当該ガラスロッドをコア部、もしくはコア部の一部として光ファイバ母材を作製し、公知の方法で線引きして得られた光ファイバの偏波モード分散が悪くなってしまう恐れはない。なぜならば、アルカリ金属の拡散係数は温度1500℃において(1×10-6cm2/s)と大きいので、例えば線引きの加熱によってアルカリ金属が大きく拡散し、例えば光ファイバにおいては添加した領域の数倍〜数10倍にアルカリ金属が拡散し、光ファイバのモードフィールド径の数倍の径の領域にアルカリ金属が広く分布するからである。なお、外部を研削する工程の前に、ガラスロッドを延伸する工程を含まなくて良い。
【0031】
続くコア部拡径工程(ステップS7)では、第一外周研削工程(ステップS6)で外周研削されたガラスロッドの周囲に、Cl元素の濃度が1,000以上1,5000ppm以下である石英ガラスが設けられ拡径部付きガラスロッドを得る。ここで設けられた石英ガラスは、光ファイバのコア部またはコアの一部となる。
【0032】
コア部拡径工程においてコア部が拡径されることで、大型の光ファイバ母材が得られる為、光ファイバ母材、光ファイバ製造コストを低減することができる。また、ファイバ状態で、中実化工程で得られた拡径前のガラスロッド由来の中心部は径が小さくなり該中心部を伝播する光の割合が小さくなるので、アルカリ金属を添加することで同時に添加されてしまう恐れのある遷移金属やOH基が伝送損失に与える影響を小さくすることができ、伝送損失を低減することができる。好ましくは、拡径前のガラスロッドの外周部と拡径後のガラスロッドの外周部の径の比が2〜10倍である。
【0033】
更に続く第二外周研削工程(ステップS8)では、コア部拡径工程(ステップS7)で作製された拡径部付きガラスロッドの外周が研削されて、ガラスロッドの断面が実質的に真円とされる。実質的に真円の定義は、前述したとおりである。
【0034】
なお、コア部拡径工程(ステップS7)および第二外周研削工程(ステップS8)は行われなくてもよい。
【0035】
続くクラッド部形成工程(ステップS9)では、上記のようにして得られたガラスロッドの周囲に光学クラッド部が形成される。ガラスロッドの屈折率の最大値は、光学クラッドの屈折率の最低値よりも高い。特に光ファイバのコア、またはコアの一部となる、ガラスロッドはアルカリ金属、Cl元素、F元素を含み、その他の添加物質の濃度が10ppb以下であることが望ましい。このとき、純粋ガラスの屈折率を基準としたとき、ガラスロッドの比屈折率差の最大値が−0.1〜+0.1%であるのが好適である。加えて、光学クラッドはF元素が添加された石英ガラスであるのが望ましいが、F元素の添加濃度が45,000atomic ppm以上に高く、純粋ガラスの屈折率を基準としたときの比屈折率差が−0.5%以下となると伝送損失が上昇してしまうため、純粋ガラスの屈折率を基準とした光学クラッドの比屈折率差の最小値が−0.2〜−0.5%であるのが好適である。
【0036】
このような光学クラッド部が形成されることで、低損失な光ファイバ母材が得られる。コア部の最大値と光学クラッド部の最低値との比屈折率差は0.2〜0.6%であることが望ましい。また、光学クラッド部の外側に、更に物理クラッド部となるような石英ガラスを設けても良い。
【0037】
続くジャケット合成工程(ステップS10)では、公知のVAD法、OVD法、ロッドインチューブ法などにより物理クラッド部となるジャケット部が合成されて、これにより光ファイバ母材が製造される。そして、この光ファイバ母材が線引きされることで光ファイバが製造される。
【0038】
このようにして製造される光ファイバは伝送損失が小さい。すなわち、本実施形態の光ファイバ母材製造方法は、伝送損失が小さい光ファイバを製造する上で好適な光ファイバ母材を製造することができる。
【0039】
また、線引き工程においてアルカリ金属が光学クラッドまで拡散し、コア部及び光学クラッド部の粘性がクラッド部よりも低くなる。その結果、製造される光ファイバのコア部及び光学クラッド部には、圧縮歪みが残留する。光ファイバのコア部に引張り歪みが残留すると、SiO2ガラスネットワーク構造の密度揺らぎが大きくなるため、伝送損失が上昇してしまうという課題がある。本発明の光ファイバではコア部は圧縮歪みが残留するため、伝送損失の上昇がなく、伝送損失の小さな光ファイバを得る事ができる。
【0040】
また、この光ファイバのコアの仮想温度を1500℃以下とすることができる。仮想温度は、ラマン分光により求められる値で、ガラスが何度の過冷却状態と同じ構造を持つかの指標である。仮想温度が下がることはガラスの密度揺らぎが緩和された状態となることから、レーリ散乱損失が低下し、伝送損失の小さな光ファバを得ることができる。
【0041】
また、この光ファイバの波長1550nmにおける伝送損失を0.175dB/km以下とすることができる。伝送損失が低い光ファイバは長距離伝送に適する。波長1550nmにおける伝送損失は、好ましくは0.170dB/km以下であり、更に好ましくは0.165dB/km以下である。
【0042】
図3および図4は、実施例および比較例それぞれにおける結晶化発生の有無を示すグラフである。図3は、30mm/minのトラバース速度で中実化を行った場合の加熱部最高温度の各値およびカリウム濃度の各値における結晶化発生の有無を示すグラフである。図4は、2250℃で中実化を行った場合のトラバース速度の各値およびカリウム濃度の各値における結晶化発生の有無を示すグラフである。これらのグラフから判るように、中実化工程において、ガラスパイプの外表面の最高温度が2000〜2250℃とされ、熱源の移動速さが30mm/min以上100mm/min以下とされることで、結晶化の発生が抑制され得る。
【0043】
なお、比較例として、中実化工程の際に1kPaに減圧しながら温度1900℃の酸水素バーナ火炎を速度5mm/minでトラバースさせ中実化を行ったところ、ガラスパイプ内面が白くなる現象が発生した。この白色物は、XRD測定によりガラスが結晶化していることが明らかとなった。このように結晶化したコアは結晶部に無数のクラックが発生しており、ここに閉じ込められた気体成分が気泡化して残るので、ファイバ化できない。
【符号の説明】
【0044】
10…ガラスパイプ、20…ダミーパイプ、30…KBr原料、40…電気炉、50…酸水素バーナ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部およびクラッド部を含む石英系ガラスからなる光ファイバ母材を製造する方法であって、
少なくともアルカリ金属元素が内表面に添加された石英系ガラスからなるガラスパイプの長さ軸方向に熱源を連続的に移動させて前記ガラスパイプを加熱して中実化することで、光ファイバのコア部またはコアの一部となる第一のガラスロッドを作製する中実化工程を備え、
前記ガラスパイプは、アルカリ金属元素の最高濃度が500〜20,000 atomic ppm であり、Cl元素の最高濃度が0〜1,000 atomic ppm であり、F元素の最高濃度が0〜10,000 atomic ppmであり、
前記中実化工程において、前記ガラスパイプの外表面の最高温度を2000〜2250℃とし、前記熱源の移動速さを30mm/min以上100mm/min以下とする、
ことを特徴とする光ファイバ母材製造方法。
【請求項2】
前記中実化工程において、前記ガラスパイプの内部の圧力を前記ガラスパイプの外部の圧力より90kPa以上低くする、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材製造方法。
【請求項3】
前記中実化工程において作製された前記第一のガラスロッドの外周を研削して、前記第一のガラスロッドの断面を実質的に真円とする第一外周研削工程を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材製造方法。
【請求項4】
純粋石英ガラスの屈折率を基準として前記第一のガラスロッドの比屈折率差の最大値が−0.1〜+0.1%であり、
純粋石英ガラスの屈折率を基準とする比屈折率差の最小値が−0.2〜−0.5%である光学クラッド部または光学クラッド部の一部を前記第一のガラスロッドの周囲に形成するクラッド部形成工程を備える、
ことを特徴とする請求項1〜3に記載の光ファイバ母材製造方法。
【請求項5】
前記中実化工程において作製された前記第一のガラスロッドの周囲に、Cl元素の濃度が1,000atomic ppmから1,5000atomic ppm以下の濃度で添加された石英ガラスを設けることで、光ファイバのコア部またはコアの一部となる第二のガラスロッドを作製するコア部拡径工程を備える、ことを特徴とする請求項1〜4に記載の光ファイバ母材製造方法。
【請求項6】
前記コア部拡径工程において作製された前記第二のガラスロッドの外周を研削して、前記第二のガラスロッドの断面を実質的に真円とする第二外周研削工程を備える、ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ母材製造方法。
【請求項7】
純粋石英ガラスの屈折率を基準として前記第二のガラスロッドの比屈折率差の最大値が−0.1〜+0.1%であり、
純粋石英ガラスの屈折率を基準とする比屈折率差の最小値が−0.2〜−0.5%である光学クラッド部または光学クラッド部の一部を前記第二のガラスロッドの周囲に形成するクラッド部形成工程を備える、
ことを特徴とする請求項1〜5に記載の光ファイバ母材製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−162409(P2012−162409A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21995(P2011−21995)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】