説明

光ファイバ素線の製造方法および製造装置

【課題】稼動している紡糸装置を中断することなく、光ファイバ素線の全長にわたって所望の紫外線照射量とした紫外線を安定した酸素濃度雰囲気下で、光ファイバ素線に被覆した紫外線硬化型の樹脂に照射可能な光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ素線の製造方法は、光ファイバの紡糸工程において、紫外線透過筒状体を外管と内管に2重化し、かつ内管を分割構造としてなる前記紫外線透過筒状体が配置された紫外線照射装置を用いる。この紫外線照射装置を含む紡糸装置が稼動している間は、前記紫外線透過筒状体内の酸素濃度は安定に保たれ、所望の紫外線量が照射されるように、予め確認された紡糸長毎に紫外線透過筒状体の内管を交換することにより、光ファイバの全長にわたって所望の紫外線光量を紫外線硬化型樹脂に照射することができ、表面硬化性に優れた光ファイバ素線を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの紡糸工程において、光ファイバ素線に被覆した紫外線硬化型の樹脂に所定の照射量とした紫外線を安定した酸素濃度雰囲気の条件下で照射可能とする光ファイバ素線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に用いられる石英製の光ファイバは、微小な傷による強度低下の防止や側圧による伝送損失の増加を防止することなどを目的として、その表面に保護用のコーティングが施されているのが一般的である。
【0003】
このコーティングを形成する材料として、公衆通信で用いられる汎用的な石英光ファイバの場合には、通常、紫外線硬化型樹脂が使用されていることが知られている。図8に示すように、石英光ファイバ1に比較的柔らかい樹脂を用いた層である1層目(プライマリ層)2と比較的硬い樹脂を用いた層である2層目(セカンダリ層)3による2層コートが施されているものが一般的である。
【0004】
光ファイバ素線は、光ファイバ母材(プリフォームともいう)から図9に示すような紡糸装置を用いて製造されることが知られている。すなわち、プリフォームを加熱炉4内で溶融し、所定の外径に引き落とした後、冷却装置5で冷却し、1層目の塗布装置6によって紫外線硬化型樹脂を塗布し、次いで1層目の紫外線照射装置7によって樹脂を硬化させ、同様に2層目の塗布装置8によって紫外線硬化型樹脂を塗布し、次いで2層目の紫外線照射装置9によって樹脂を硬化させ、ターンプーリー10を通過させた後、巻取り機11にて光ファイバ素線となって巻取られる。
【0005】
一般に、紫外線硬化型樹脂の硬化反応は、ラジカル重合反応であることが知られており、さらに、酸素にはラジカル補足効果があることも知られている。すなわち、酸素存在下での紫外線硬化型樹脂の硬化反応は阻害されるわけである。紫外線硬化型樹脂の硬化の程度は、厳密な意味では酸素もしくは空気と接触している表面と接触していない内部では異なるわけである。従って、光ファイバ素線の表面部分の硬化特性を確保するには、紫外線が照射される雰囲気の酸素濃度を管理する必要があるのは自明である。要するに、光ファイバの信頼性を確保するためには、被覆材全体が十分に硬化していることは言うまでもないが、特に酸素もしくは空気と接触している表面部分の硬化度を確保することは重要である。
【0006】
特許文献1に記載されているように、一般に、紫外線照射装置内には、紫外線ランプと石英管(紫外線透過筒状体、円柱状透明体ともいう)が設置されており、石英管内部の酸素濃度が、例えば数百ppm以下、数%以下といったように、低く管理されている。そして、前記石英管の内部を光ファイバが通過する際に、紫外線透過筒状体を通して紫外線ランプからの光量が照射される構成となっている。
【0007】
一般に、紫外線硬化型樹脂の硬化反応は発熱反応であり、低分子量の成分を中心として硬化反応中に揮発してしまう成分があることが知られている。この成分は効率よく紫外線透過筒状体から排出されなければならない。排出されずに紫外線透過筒状体内に残留した場合は、紫外線透過筒状体内の内壁に付着しまうことになり、紫外線ランプからの光量の照射を阻害してしまうこととなる。その結果、紫外線硬化型樹脂に照射されるべき光量が低下してしまい、光ファイバの被覆材として十分な硬化度を有することが困難となり、光ファイバとしての信頼性を損なってしまうという問題が発生する。
【0008】
上述の問題を解決するための手法として、いくつかの技術が提案されている。特許文献1には紫外線透過筒状体内の酸素濃度を規定する手法が記載されている。特許文献2には紫外線透過筒状体にTiO2(ニ酸化チタンともいう)を塗布して酸素濃度を規定する手法が記載されている。特許文献3には複数の紫外線照射装置を配置し、少なくとも1灯は低酸素濃度としてそれ以外を高酸素濃度とする手法が記載されている。
【0009】
しかしながら、前述した特許文献の技術は、何れも紫外線透過筒状体内の酸素濃度や紫外線光量などを管理しているに過ぎず、最も重要な表面の硬化状態と関連づけた手法を明示するものではない。特許文献3には赤外線スペクトル分析を明示しているが、赤外分光の手法はその測定波長の制限からアパーチャーでの絞り量の最低値が10μm程度になってしまうことが公知である。あまり絞りすぎると検量線から外れてしまい、再現性に乏しくなり、定量性を明示できないのである。従って、赤外分光の手法は表面のみの硬化状態、例えば表層の1μmの硬化状態を定量的に把握することは原理的に不可能である。
【0010】
特許文献1では、石英管内の酸素濃度を500ppm〜5%と規定しているが、石英管の紫外線透過率を低下させないようにから規定しているだけであって、紫外線硬化型樹脂の表面硬化性に関して言及していない。すなわち、実施例で対象となった特定の紫外線硬化型樹脂のみに適用できる手法であって、多種多様な紫外線硬化型樹脂に適用できるものではない。
【0011】
特許文献2では、TiO2 を塗布すること自体が高コストである。また、揮発成分が異なる樹脂種によっては紫外線透過筒状体が汚れてしまうという問題がある。さらに、TiO2 自体が紫外線領域に吸収を持っていることが知られており、本来照射されるべき紫外線硬化型樹脂への照射光量が低下してしまうという問題がある。
【0012】
特許文献3では、一旦紫外線透過筒状体に付着した揮発成分は酸素濃度を上げても除去されないことが知られており、紫外線硬化型樹脂への照射光量が低下してしまうという問題がある。さらに、一旦酸素によってラジカルが補足されてしまった表面層に紫外線を照射しても再度ラジカルが発生することはないので、表面の硬化度が低下してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2003−095704号公報
【特許文献2】特開2000−005694号公報
【特許文献3】特開平11−347479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、紫外線透過筒状体に特別な表面処置を施すことなく、筒内の酸素濃度を安定して保つことにより全長にわたって優れた表面性を備えた光ファイバ素線の製造方法を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、全長にわたって優れた表面性を備えた光ファイバ素線の製造装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1に係る光ファイバ素線の製造方法は、紫外線硬化型の樹脂を塗布してなる石英系光ファイバが、紫外線照射装置内に設置された紫外線透過筒状体の中を通過する際に紫外線が照射される構成とした光ファイバ素線の製造工程であって、前記紫外線透過筒状体として外管と内管を重ねて配置(以下、二重化とも呼ぶ)し、かつ前記内管を分割構造としたものを用い、前記紫外線透過筒状体内の酸素濃度が安定に保たれ、前記光ファイバの全長にわたって所望の紫外線量とした紫外線が前記樹脂に対して照射されるように、予め確認された紡糸長毎に前記内管を交換することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項2に係る光ファイバ素線の製造方法は、請求項1において、前記分割構造として、前記光ファイバ素線の進行方向に沿って半割とした構造体を用いることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項3に係る光ファイバ素線の製造方法は、請求項2において、前記内管および該内管の把持冶具を支持手段により昇降装置と繋いでなる構成を用い、前記内管を定常位置から紫外線照射装置の下方に前記内管の全てを露出するまで移動させた後、前記内管の半割構造を利用して前記把持冶具から分割除去する第一工程と、新たな内管を前記把持冶具に設置してから前記昇降装置を用いて前記内管の定常位置に新たな内管を戻す第二工程と、を含む前記内管の交換工程を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項4に係る光ファイバ素線の製造方法は、請求項3に記載された製造方法により作製された光ファイバ素線を用い、1箇所の交差部を持つようにリング形状を設けてなる光ファイバ素線が、前記交差部においてらせん状に2回転のひねりを入れる構成とし、引張試験機を用い引張試験を行った際に、テンションピックアップにて計測される荷重の平均値を光ファイバ素線間の接触部分の表面摩擦力として算出し、該算出した表面摩擦力が所望の数値より小さくなるように、紡糸長に依存する紫外線透過筒状体の内管の汚れ具合と交換頻度との関係をあらかじめ求めておき、前記関係に基づき前記内管の交換工程を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項5に係る光ファイバ素線は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載された製造方法により作製されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項6に係る光ファイバ素線の表面摩擦力の測定方法は、請求項5の光ファイバ素線を用い、1箇所の交差部を持つようにリング形状を設けてなる前記光ファイバ素線が、前記交差部においてらせん状に2回転のひねりを入れる構成とし、引張試験機を用い引張試験を行った際のテンションピックアップにて計測される荷重の平均値を光ファイバ素線間の接触部分の摩擦力として算出することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項7に係る光ファイバ素線の製造装置は、請求項5の光フまた、本発明では、前記紫外線透過筒状体として外管と内管を重ねて配置(二重化)し、かつ前記内管を分割構造としたものを用い、前記内管および該内管の把持冶具を支持手段により昇降装置と繋いでなる構成が少なくとも備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光ファイバ素線の製造方法は、紫外線硬化型の樹脂を塗布してなる石英系光ファイバが、紫外線照射装置内に設置された紫外線透過筒状体の中を通過する際に紫外線が照射される構成としており、前記紫外線透過筒状体として外管と内管を重ねて配置(以下、二重化とも呼ぶ)し、かつ前記内管を分割構造としたものを用い、前記紫外線透過筒状体内の酸素濃度が安定に保たれ、前記光ファイバの全長にわたって所望の紫外線量とした紫外線が前記樹脂に対して照射されるように、予め確認された紡糸長毎に前記内管を交換することを特徴とするものである。ゆえに、長時間使用した際に、内管の内壁に紫外線硬化型の樹脂の揮発成分が付着して汚れ等が発生し、光ファイバに塗布された樹脂に対して内管を通過させて所望の紫外線量が届かなくなる不具合な状況を事前に回避することができる。筒内の酸素濃度を安定して保つことにより全長にわたって優れた表面性を備えた光ファイバ素線を作製ことが可能である。
本発明の光ファイバ素線の製造装置は、外管と内管を重ねて配置(二重化)し、かつ前記内管を分割構造とした紫外線透過筒状体と、前記内管および該内管の把持冶具を支持手段により昇降装置と繋いでなる構成とを少なくとも備えていることを特徴とするものである。ゆえに、内管の内壁の汚れ具合に応じて、内管の交換を適宜行うことが可能となる。従って、本発明は光ファイバ素線の被覆樹脂に対して、常に安定した条件下において紫外線硬化処理を施すことができる光ファイバ素線の製造装置をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
上記の目的を達成するために、本発明の製造方法では、紡糸長に依存して紫外線透過筒状体14が所定の程度まで汚れてしまった場合に、筒内の酸素濃度を変化させずに交換することを可能とする手法を用いている。
【0023】
具体的には、本発明に係る光ファイバ素線の製造方法では、石英ガラス製の光ファイバを紡糸する工程において、紫外線照射装置(7または9)内に設置された円柱状透明体を2重化し、かつ内管14を分割構造としている。前記内管14を下方より把持する冶具17および前記冶具17を昇降する装置15が設置されており、紡糸中に内管14と冶具17を紫外線照射装置(7または9)の下方に移動し、分割構造の内管14を取り外して別の内管14と交換し、内管14を把持する冶具17とともに上方に移動することによって、紡糸中に内管14の交換を可能としたものである。
【0024】
交換作業中には、円柱状透明体の外管13によって光ファイバが通過する空間が囲われており、通常時と同じようにパージガスにて酸素濃度が管理された状態にある。その結果、表面性に優れた光ファイバ素線12を連続して製造することができる。交換のタイミングは紡糸長に依存する円柱状透明体14の汚れ具合を事前に調査しておいて、指定された紡糸長毎に実施するものである。
【0025】
上記の構成において、円柱状透明体の内管14と外管13は、紫外線を通過させる透明性が必要であるだけでなく、紫外線照射装置が点灯している際の内部温度が高温になることから、透明性と耐熱性を有する石英を材料としたものであることが好ましい。天然石英でも良いが、通常は合成石英が使われ、1級硬質ガラス(パイレックス(登録商標)ガラスともいう)や安価な2級硬質ガラスなどが使用される。高価ではあるが純粋石英でもかまわない。また、紫外線対する透過性および耐熱性を有していれば、セラミック製の材料でも適用可能であり、特に制限するものではない。
【0026】
円柱状透明体の内管14と外管13の寸法等は特に規定されるものではないが、例えば外径6〜30mm、肉厚0.5〜2.0mmのものを使用することができ、長さは紫外線ランプ長や灯具の長さに合わせて適宜使用することができる。
【0027】
また、上記の構成において、内患の分割構造は縦方向の半割り(1/2分割)構造だけでなく、1/3分割や1/4分割などの任意の分割構造とすることができる。加えて、横方向の分割構造や冶具等を用いた構造を組み合わせるものであってもかまわない。
【0028】
さらに、分割された内管の合わせ目は、単純な平面合わせでもよいが、段付きやテーパー形状であってもかまわない。かかる構成によれば、紡糸中の内管14の交換作業時に容易にハンドリングすることができる。
【0029】
上記の構成において、内管14を把持する冶具17は、透明性が不要であって内管14を支える強度が必要であり、パージガス供給の管25を接続する箇所を設けるといった加工が必要なことから金属製であることが好ましい。材質は特に規定するものではないが、例えば鉄、ステンレス、アルミ、チタン、真鍮、銅などを使用することができる。
【0030】
前記冶具17の形状や寸法は、内管14や紫外線照射装置(7または9)の形状や構造に合わせて適宜設定すればよいものであって、特に制限するものではない。パージガス供給用の管25の形状や寸法等についても同様であって、特に制限するものではない。
【0031】
本発明の手法は、あらゆる酸素濃度において有効な手法である。すなわち、良好な表面性を有する光ファイバ素線の製造方法であるから、従来技術のように酸素濃度を厳密に制御する手法のものではない。そして、様々な紫外線硬化型樹脂に適用できる手法である。また、大型のプリフォームを用いた長尺線引の場合でも紡糸長の制限を受けることもないし、さらに紡糸線速などのプロセス条件の制限を受けるものではない。
【0032】
本発明の手法は、石英管にTiO2 をコーティングするような特別な処理が不要であり、常時一定以上の紫外線透過量を保つことが可能である。さらに、TiO2 自体の紫外線吸収がないので、効率よく紫外線硬化型樹脂に照射することが可能である。
【0033】
本発明の手法は、一定以上使用して汚れた石英管を交換する手法であり、原理的にあらゆる紫外線硬化型樹脂に適用できる。光ファイバ素線の長手方向にて、一定以上の表面硬化性を確保することが可能である。
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の円柱状透明体の構成を示す図である。本発明の円柱状透明体は、内管14と外管13にニ重化されており、さらに内管14が分割できる構造となっている。紡糸装置が稼動している定常状態では光ファイバ素線12は内管14の内側を走行している。
【0035】
図2は、紫外線照射装置(7または9)や円柱状透明体14の紡糸定常時の位置関係を示す概略図である。また、図3は内管14を紡糸中に交換する時の概略図である。内管14を把持する冶具17の上部に内管14が設置され、前記冶具17は支持装置であるアーム16を介して昇降機構を有する装置15と繋がっている。紡糸中の定常状態では、内管14は外管13の内側に配置されている。
【0036】
紡糸中の交換時には、アーム16が下方に降下することによって冶具17と内管14を下方に移動させ、分割構造の内管14を取り外して別の(紫外線透過性が確保された)内管14と交換する。交換後は、アーム16が上方に上昇することによって冶具17と内管14を紫外線照射装置(7または9)へ移動させ、定常位置に戻る。
【0037】
図4は、紫外線照射装置(7または9)の上部および円柱状透明体13の把持部近傍の構成を示したものである。円柱状透明体13の内部を通過するパージガスを排気する構成となっている。すなわち、排気冶具18と称する固定物には外管13を把持する部材19が取り付けられており、この部材19によって外管13を把持している。
【0038】
排気冶具18には排気管20が接続されており、パージガスや紫外線硬化型樹脂の揮発成分を排気するようになっている。さらに、排気冶具18内もしくは円柱状透明体(13または14)上部の酸素濃度を測定するための酸素センサ21が取り付けられている。加えて、排気冶具18の上部にはアイリス22と称する部材が設置されており、上部の密閉性を向上している。一般にアイリス22の内径はφ5mm程度である。
【0039】
図4に明示している構成は、本発明の事例を明示しているものであって、構造や寸法、材質などを特に制限するものではない。また、排気するための流量調整の機構や温度モニターなどの付帯設備を追加するものでもかまわないし、酸素センサ21などの構成部材を削除したり簡略化したものであってもかまわない。
【0040】
図5は、紫外線照射装置(7または9)の下部および円柱状透明体(13または14)の把持部近傍の構成を示したものである。円柱状透明体14の内部を通過するパージガスを流入させる構成となっている。すなわち、パージガス用冶具23と称する固定物には外管13を把持する部材24が取り付けられており、この部材24によって外管13を把持している。
【0041】
パージガス用冶具23にはパージガス供給用の管25が接続されており、パージガスを導入できるようになっている。さらに、パージガス用冶具23の下方部には内管14を把持する冶具17が収納されており、パージガス用冶具23の内壁と内管14を把持する冶具17の外壁のクリアランスによって、内管14を把持する冶具17および内管14を位置決めしている構成となっている。
【0042】
図5に明示している構成は、本発明の事例を明示しているものであって、構造や寸法、材質などを特に制限するものではない。また、パージガスの流量や圧力を調整する機構などが付帯されていてもかまわない。さらに、内管14を把持する冶具17および内管14を位置決めに別の手法を用いるものでもかまわない。
【0043】
一般に、所定の空間を所望の酸素濃度にするには、酸素もしくは酸素を一定比率で含むガス、例えば空気に対して酸素と化学反応することのないガス、例えば窒素やヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを一定比率で混合することによって所望の酸素濃度を有するガスを構成し、前記ガスにて所定の空間を占有せしめることによって達成されることが知られている。
【0044】
前記ガスをパージガスとして本発明に適用し、パージガス供給用の管25からパージガス用冶具23を通して円柱状透明体14に流し、排気冶具18を通して排気管20に排気することにより、円柱状透明体の外管13の内部空間を一定の酸素濃度にて管理することが可能となる。明示している構成は、本発明の事例を明示しているものであって、前記ガスの種類や流量、混合比、温度などを特に制限するものではない。
【0045】
以下実施例にて詳細に説明する。本実施例はシングルモード光ファイバ母材とJSR社製の紫外線硬化型樹脂(デソライトシリーズ)という同一の材料を用いて、素線径がφ250μmの光ファイバ素線12を作成し、円柱状透明体14の汚れ具合と光ファイバ素線12の表面硬化性を評価したものである。紫外線照射装置は、オーク社製の型番;HMW−523BLCM(紫外線ランプ長;500mm、出力;6kW)を使用した。
【0046】
円柱状透明体14(紫外線透過筒状体ともいう)の汚れの程度については、オーク社製の型番;UV−M02を紫外線照度計として測定した。紫外線透過筒状体14は分割しない筒状の状態とし、紫外線を照射して紫外線透過筒状体14を通過する紫外線量を照度計にて測定した。光ファイバの紡糸で使用する前後での照度を測定し、その比を紫外線透過量としてパーセント表記にて用いることとした。
【0047】
光ファイバ素線12の表面硬化性は、図6の測定概略図にて示される要領で測定した。まず、試料の光ファイバ素線(約50cm)より直径7cmのリング26を形成して交差する箇所27でらせん状に2回転のひねりを入れたものを作成する。次に、市販の縦型引張試験機に試料をセットし、毎分5mmの引張速度で2分間引張り、テンションピックアップにて計測される荷重を測定し、2分間での平均値を算出した。すなわち、光ファイバ素線12間の接触部分の摩擦力(表面摩擦力という)を測定したことに相当するので、平均の荷重値は表面硬化性の指標になると想到される。
【0048】
通常、表面摩擦力が小さいほど表面性に優れている、すなわち表面硬化性に優れていると判断できる。逆に、表面摩擦力が大きいほど光ファイバ素線12の表面にベタつき感があり、表面性に優れない(表面硬化性に優れない)と判断できる。データは試験本数N=10の平均値を使用した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1は、実施例1の評価試験結果を示すものである。汚れ具合の異なる紫外線透過筒状体14で光ファイバ素線12を作成し、図7に示す手法によって表面摩擦力を測定したものである。この結果より、紫外線透過量が60%以上あれば光ファイバ素線12の表面硬化性は確保されていると想到される。実施例1の結果より、本試料の場合には、表面摩擦力が0.2N(ニュートン)以下であれば合格と判断した。
【0051】
【表2】

【0052】
表2は、実施例2の評価試験結果を示すものである。紡糸長で20km毎に紫外線透過筒状体の汚れ具合を測定したものである。この結果より、紡糸長で40km毎に紫外線透過筒状体の内管14を交換してやれば、紫外線透過量は常時60%以上となり、表面摩擦力が常に0.2N以下になる表面硬化性に優れた光ファイバ素線12を得ることができると想到される。
【0053】
【表3】

【0054】
表3は、実施例3の評価試験結果を示すものである。紡糸長で40km毎に紫外線透過筒状体の内管14を交換し、連続して360km紡糸したものである。紡糸終了後に紫外線透過筒状体14の汚れ具合や光ファイバ素線12を巻き返して取り足した試料で表面摩擦力を測定したものである。この結果、紫外線透過量は全長にわたって60%以上であり、表面摩擦力も全長にわたって0.2N以下であることが確認された。すなわち、作成試料の長手方向のすべて(紡糸全長)にわたって表面硬化性に優れた光ファイバ素線12を得ることができたことになる。
【0055】
図7は、実施例3の評価試験結果をグラフ化したものである。
【0056】
本実施形態において、さらなる長尺線引を連続的に行うことが原理的に可能である。例えば、紡糸長で1000kmあるいはそれ以上になった場合でも表面硬化性に優れた光ファイバ素線12を得ることが可能である。
【0057】
本実施例で使用した紫外線硬化型樹脂の場合、表面摩擦力の判断基準を0.2Nとしたが、他の基準を設けることに対して特に制限するものではない。同様に、紫外線透過量の判断基準を60%としたが、他の基準を設けることに対して特に制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】円柱状透明体の構成を示す概略図。
【図2】紫外線照射装置や円柱状透明体の紡糸定常時の位置関係を示す概略図。
【図3】内管の円柱状透明体を紡糸中に交換する装置の概略図。
【図4】紫外線照射装置の上部および円柱状透明体の把持部近傍の構成を示す図。
【図5】紫外線照射装置の下部および円柱状透明体の把持部近傍の構成を示す図。
【図6】光ファイバ素線の表面摩擦力の測定要領を示す図。
【図7】実施例3の評価試験結果のグラフ。
【図8】光ファイバ素線の構造概略図。
【図9】光ファイバ紡糸装置の概略図。
【符号の説明】
【0059】
1 石英光ファイバ、2 1層目(プライマリ層)、3 2層目(セカンダリ層)、4 加熱炉、5 冷却装置、6 1層目の塗布装置、7 1層目の紫外線照射装置、8 2層目の塗布装置、9 2層目の紫外線照射装置、10 ターンプーリー、11 巻取り機、12 光ファイバ素線、13 円柱状透明体の外管、14 円柱状透明体の内管、15 昇降装置、16 アーム、17 内管の把持冶具、18 排気冶具、19 外管の把持部材、20 排気管、21 酸素センサ、22 アイリス、23 パージガス用冶具、24 外管の把持部材、25 パージガス供給用の管、26 リング、27 交差する箇所。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化型の樹脂を塗布してなる石英系光ファイバが、紫外線照射装置内に設置された紫外線透過筒状体の中を通過する際に紫外線が照射される構成とした光ファイバ素線の製造工程であって、前記紫外線透過筒状体として外管と内管を重ねて配置し、かつ前記内管を分割構造としたものを用い、前記紫外線透過筒状体内の酸素濃度が安定に保たれ、前記光ファイバの全長にわたって所望の紫外線量とした紫外線が前記樹脂に対して照射されるように、予め確認された紡糸長毎に前記内管を交換することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記分割構造として、前記光ファイバ素線の進行方向に沿って半割とした構造体を用いることを特徴とする請求項1の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
前記内管および該内管の把持冶具を支持手段により昇降装置と繋いでなる構成を用い、前記内管を定常位置から紫外線照射装置の下方に前記内管の全てを露出するまで移動させた後、前記内管の半割構造を利用して前記把持冶具から分割除去する第一工程と、新たな内管を前記把持冶具に設置してから前記昇降装置を用いて前記内管の定常位置に新たな内管を戻す第二工程と、を含む前記内管の交換工程を備えたことを特徴とする請求項2の光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された製造方法により作製された光ファイバ素線を用い、1箇所の交差部を持つようにリング形状を設けてなる光ファイバ素線が、前記交差部においてらせん状に2回転のひねりを入れる構成とし、引張試験機を用い引張試験を行った際に、テンションピックアップにて計測される荷重の平均値を光ファイバ素線間の接触部分の表面摩擦力として算出し、該算出した表面摩擦力が所望の数値より小さくなるように、紡糸長に依存する紫外線透過筒状体の内管の汚れ具合と交換頻度との関係をあらかじめ求めておき、前記関係に基づき前記内管の交換工程を行うことを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載された製造方法により作製されたことを特徴とする光ファイバ素線。
【請求項6】
請求項5の光ファイバ素線を用い、1箇所の交差部を持つようにリング形状を設けてなる前記光ファイバ素線が、前記交差部においてらせん状に2回転のひねりを入れる構成とし、引張試験機を用い引張試験を行った際のテンションピックアップにて計測される荷重の平均値を光ファイバ素線間の接触部分の摩擦力として算出することを特徴とする光ファイバ素線の表面摩擦力の測定方法。
【請求項7】
外管と内管を重ねて配置し、かつ前記内管を分割構造とした紫外線透過筒状体と、前記内管および該内管の把持冶具を支持手段により昇降装置と繋いでなる構成とを少なくとも備えていることを特徴とする光ファイバ素線の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−294254(P2009−294254A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145027(P2008−145027)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】