説明

光ファイバ素線の製造方法

【課題】後工程の負担を軽減するために、OTDR段差ロス発生頻度が低い光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000MPa、且つ
水平なテーブル上に2本の光ファイバ素線を平行に固定し、別の2本の光ファイバ素線を滑り片の底面に固定し、前記テーブル上の2本の光ファイバ素線と前記別の2本の光ファイバ素線とが直角に交差するように積載し、前記滑り片を移動させたときの摩擦力から求めた動摩擦係数が0.15以上の光ファイバ素線の製造方法であって、
前記動摩擦係数μが下記関係式(a)及び(b)を満たすように最外樹脂被覆層の硬化雰囲気の酸素濃度を調整する光ファイバ素線の製造方法。
μ≦−0.9822LogY+3.45156 (a)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMpaである。μは動摩擦係数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はOTDR(Optical time domain reflectometry)における段差ロス発生頻度が低く、後工程での負担が軽減された光ファイバ素線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ素線は、光ファイバ表面にソフト材と呼ばれる樹脂組成物からなる柔軟な一次被覆層を、その外側に、ハード材と呼ばれる樹脂組成物からなる剛性の高い二次被覆層を形成してなる構造が一般的である。その被覆層樹脂組成物として、硬化速度の観点からウレタン−アクリレート系やエポキシ−アクリレート系のオリゴマーを主成分とした紫外線硬化型樹脂組成物(以下、UV樹脂とする。)が採用されている。光ファイバ素線の製造は、紡糸後の光ファイバの表面にこのようなUV樹脂液を塗布し、連続的に紫外線を照射することにより架橋・硬化させるものである。
この光ファイバ素線において、二次被覆層表面のべとつき、いわゆる表面タック性は、後工程でのハンドリング性、製造性を左右する重要な因子であり、低く抑える必要がある。
【0003】
光ファイバ素線は線引き後は出荷用ボビンに巻き返し伝送損失を検査する。通常、この検査には光ファイバの端末から光パルスを入射し、光ファイバの長手方向の各点より反射される後方散乱光を時間軸上で観測する前記のOTDRが使用されるが、ファイバ素線の表面タック性が高いと、それに起因すると思われる段差ロス(OTDRの減衰曲線おいて損失が階段状に大きくなる箇所)が発生し、光損失の増加が大きくなる。このような段差ロスは、何度か巻き直しを行うことで消失する場合がほとんどであるが、段差ロスが発生する度に、巻き返し、OTDR測定をし直すことになり、後工程の負担が増大し、問題となる。
そのため、表面タック性を改善した光ファイバ素線の製造方法としては、例えば特許文献1では紫外線照射による架橋・硬化を酸素濃度1%以下の雰囲気下で行う方法が提案されている。これは、紫外線照射により開裂した開始剤ラジカルが酸素にトラップされ、表面が未硬化になり、タック性が増大するのを防ぐものである。しかしながら、この光ファイバ素線も、表面タック性とそれに起因する段差ロス防止の点ではまだ十分のものと言えなかった。
また、OTDR段差の低減の試みは、例えば特許文献2において、光ファイバ素線の摩擦係数を低くすることで試みられているが、十分な解決は見られていない。
【0004】
【特許文献1】特許公報第2614949号
【特許文献2】特開平11−194071号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は後工程の負担を軽減するために、OTDR段差ロス発生頻度が低い光ファイバ素線の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、OTDR段差ロス発生頻度は、光ファイバ素線の表面摩擦係数と、さらに最外樹脂被覆層のヤング率が関係していること、そしてこれらを特定の関係に設定することにより、前記の問題が解決しうることを見い出した。
すなわち、本発明は
(1)光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000MPa、且つ
水平なテーブル上に2本の光ファイバ素線を平行に固定し、別の2本の光ファイバ素線を滑り片の底面に固定し、前記テーブル上の2本の光ファイバ素線と前記別の2本の光ファイバ素線とが直角に交差するように積載し、前記滑り片を移動させたときの摩擦力から求めた動摩擦係数が0.15以上の光ファイバ素線の製造方法であって、
前記動摩擦係数μが下記関係式(a)及び(b)を満たすように最外樹脂被覆層の硬化雰囲気の酸素濃度を調整することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
μ≦−0.9822LogY+3.45156 (a)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMpaである。μは動摩擦係数を表す。)
(2)光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000Mpaであり、且つ
水平なテーブル上に2本の光ファイバ素線を平行に固定し、別の2本の光ファイバ素線を滑り片の底面に固定し、前記テーブル上の2本の光ファイバ素線と前記別の2本の光ファイバ素線とが直角に交差するように積載し、前記滑り片を移動させたときの摩擦力から求めた動摩擦係数が0.15以上の光ファイバ素線の製造方法であって、
前記動摩擦係数μが下記関係式(c)及び(b)を満たすように最外樹脂被覆層の硬化雰囲気の酸素濃度を調整することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
μ≦−0.5418LogY+1.85912 (c)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMPaである。μは動摩擦係数を表す。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、OTDR段差ロス発生頻度を著しく低減しうる光ファイバ素線を製造しうるという優れた効果を奏する。そのため後工程の負担は軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられる光ファイバ(裸線)の種類に特に限定はないが、石英系シングルモード、石英系マルチモード、石英系ステップインデックス、石英系分散シフト、多成分系、プラスティック系、プラスティッククラッド系等が挙げられる。
一次被覆層、二次被覆層、最外樹脂被覆層(通常は二次被覆層=最外樹脂被覆層となる)に用いられるUV樹脂は特に限定されないが、例えば、ラジカル重合性オリゴマー(I)を主成分とし、反応性モノマー(II)、重合開始剤(III)、各種添加剤(IV)等が必要量配合された樹脂組成物が挙げられる。
【0009】
ラジカル重合性オリゴマー(I)とは、両末端にビニル基、(メタ)アクリル基等の重合性不飽和基を有する化合物があげられ、その中でもポリオール(IA)とポリイソシアネート(IB)と末端に重合性不飽和基と水酸基とを含有する化合物(IC)から合成される樹脂であるウレタンアクリレートやグリシジルエーテル化合物と(メタ)アクリル酸等の重合性不飽和基を有するカルボン酸類の反応生成物としての樹脂、エポキシアクリレート等が挙げられる。これらの重合性オリゴマー(I)は市販品としても入手できる。このラジカル重合性オリゴマー(I)の数平均分子量は、一次被覆層樹脂として好ましくは2000〜10000、より好ましくは3000〜6000であり、二次被覆層樹脂または最外樹脂被覆層樹脂として好ましくは800〜4000、より好ましくは1000〜3000である。
【0010】
ウレタンアクリレートの製造に用いられる上記ポリオール(IA)としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のアルキレンオキシド、テトラヒドロフラン、アルキル置換テトラヒドロフラン等の環状エーテルの重合体またはこれらの2種以上の共重合体であるポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、多塩基酸と多価アルコールの重縮合化合物であるポリエステルポリオール、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0011】
また、上記ポリイソシアネート(IB)としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、水添1,3−キシリレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、テトレメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。
【0012】
さらに、上記ウレタンアクリレートの製造に用いられる末端に重合性不飽和基と水酸基とを有する化合物(IC)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
前記エポキシアクリレートとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のビスフェノール類およびフェノール樹脂等の芳香環を含むポリオールのグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸の反応生成物が挙げられる。
ラジカル重合性オリゴマー(I)としては、上記ラジカル重合性オリゴマーを単独で用いても、複数を混合して用いても良い。
【0014】
次に反応性モノマー(II)としては、水酸基を含む化合物に(メタ)アクリル酸がエステル化反応で結合した構造の化合物等が挙げられ、例えばメトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンサクシネート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、3−アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,−テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4,−ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、モルホリン(メタ)アクリレート、N−ビニルカプロラクタム等の単官能希釈剤;同様に、例えば2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネートのジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、2,2´−ジ(ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、2,2´−ジ(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールのジ(メタ)アクリレート等の2官能希釈剤;同様に、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリメタアクリレート、トリス(ヒドロキシプロピル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリット酸、トリアリルイソシアヌレート等の多官能希釈剤が挙げられる。
ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(東亜合成のアロニックスM−113など)類は、一次被覆層樹脂に用いて、硬化後のガラス転移温度(Tg)を低くする作用が有り、イソボルニルアクリレートなどリジッドな骨格を有するモノマーは前記の低Tgモノマーと併用することで粘着機構によりガラスと一次被覆間の密着性を向上させる作用が有る。N−ビニルピロリドンなどN−ビニルアミド系のモノマーは、アクリレートの反応系に配合されることにより、アクリレートの重合速度を速める作用が有る。
二(多)官能性モノマーは架橋点間分子量の調整に使用し、具体的には架橋点間分子量を低下させ、硬化後のヤング率を高める作用が有る。
【0015】
反応に用いるラジカル重合性オリゴマー(I)と反応性モノマー(II)は、一次被覆層として求められる硬化速度、ヤング率、ガラスと一次被覆間の密着性等の特性、及び最外樹脂被覆層(例えば、二次被覆層が兼ねる場合がある)として求められる硬化速度、ヤング率等の特性を発現するように、使用する前述のオリゴマー、モノマー種、且つ配合量等を調整される。
重合開始剤(III)としては、例えば4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン及びベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾイン誘導体、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が挙げられる。重合開始剤(III)の使用量は、常法で用いられる量と特に変わらない。
【0016】
各種添加剤(IV)の例としては顔料、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、増感剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、レべリング剤、滑剤、酸化安定剤、老化防止剤、耐侯剤、保存安定剤、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。特にUV樹脂の硬化シートの摩擦係数を低減させる目的では、シリコーン系表面改質材が好適に用いられる。
また、UV樹脂の硬化後のヤング率はラジカル重合性オリゴマー(I)の分子量、特にポリオール(IA)部分の分子量を変化させたり、ラジカル重合性オリゴマー(I)に対する反応性モノマー(II)の種類を選択することにより調整できる。
【0017】
一次被覆層は緩衝機能を目的とすることから柔軟さが必要であり、一次被覆層用UV樹脂としては硬化後のヤング率が2MPa以下のものを好適に用いることができる。より好ましくは1MPa以下である。そのような低ヤング率を発現させるUV樹脂は、例えばラジカル重合性オリゴマー(I)の分子量を前述の範囲内で大きくしたり、反応性モノマー(II)として直鎖状で分子量の大きい単官能性種を選択することにより調整される。より好ましい実施態様を述べると、ラジカル重合性オリゴマー(I)の数平均分子量は、2000〜10000が好ましく、より好ましくは3000〜6000であり、反応性モノマー(II)としては、前記のうち、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(東亜合成のアロニックスM−113など)、イソボルニルアクリレート、N−ビニルカプロラクタム等が好ましい。
最外樹脂被覆層(例えば、二次被覆層が兼ねる場合がある)のヤング率は400〜1000MPaのものを好適に用いることができる。別に二次被覆層を有する場合も同様である。400MPa未満では剛性、硬さが不十分なため側圧特性を確保できなくなり、また、光ファイバ素線表面に傷等がつきやすくなり、商品価値を低下させてしまうためであり、1000MPaを超えると剛性が高すぎて曲げロスが生じたり、脆弱になり、外部からの衝撃により光ファイバ素線表面に容易にひび割れが発生し、場合によっては最外樹脂被覆層が剥離欠落してしまうためである。
【0018】
そのような高ヤング率を発現するためには、例えばラジカル重合性オリゴマー(I)の分子量を前述の範囲内で小さくしたり、ポリイソシアネート(IB)として硬い構造のものを選定したり、反応性モノマー(II)として剛性の高い種を選定したり、多官能性種の配合量を増やすことにより達成できる。より好ましい実施態様を述べると、ラジカル重合性オリゴマー(I)の数平均分子量は、800〜4000が好ましく、より好ましくは1000〜3000であり、反応性モノマー(II)としては、前記のうちトリシクロデカンジメチロールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が好ましい。
また、本発明において後述のように定義される摩擦係数が0.15未満では、光ファイバ素線作成後の巻き取り工程、及び巻き取った後での巻き崩れが発生しやすくなるため好ましくない。
本発明においては最外樹脂被覆層の動摩擦係数(μ)が前記関係式(a)及び(b)を満足することが必要である。関係式(a)(b)の右辺の値が大きすぎると動摩擦係数が大きくなり、ファイバ素線の表面タック性が高くなることから、それに起因すると思われるOTDR段差ロスの発生が多くなるからであり、また、小さすぎると光ファイバ素線作成後の巻き取り工程、及び巻き取った後での巻き崩れが発生しやすくなるという問題を生じる。関係式(a)(b)でヤング率が小さくなるほどより大きな動摩擦係数になる理由は、ヤング率が小さくなると表面の硬度が小さくなるため、ファイバ同士はそれぞれ沈み込んで接触するようになり、ミクロレベルでの真の接触面積が大きくなることから、その結果得られる動摩擦係数は大きくなるためである。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
【0020】
実施例1
まず、被覆層の樹脂として次のUV樹脂1〜10を調製した。すなわち、各樹脂について説明したラジカル重合成性オリゴマー(I)を、下記表1に示すように反応性モノマーと重合開始剤の存在下で、表面改質材を添加し、又は添加しないで、反応させ、UV樹脂1〜10を調製した。
【0021】
【表1】

【0022】
[UV樹脂1]
ポリプロピレングリコール500g(数平均分子量2000)、2,4−トリレンジイソシアネート60g、2−ヒドロキシエチルアクリレート30gから合成されたポリエーテル系ウレタンアクリレート(数平均分子量5000)を前記の重合性オリゴマー(I)とし、反応性モノマー(II)と反応させ、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が1.0MPaに調整された樹脂組成物。
尚、シートのヤング率は、大気中、UV照度200mW/cm、UV照射量1000mJ/cmの条件で硬化させた0.2mm厚シートを作成し、23℃、引張り速度1mm/minの条件で引張り試験を行い、2.5%歪時の引張り強さから算出されたものである。
【0023】
[UV樹脂2]
ポリエチレンオキサイドとポリブタジエンオキサイドの共重合ポリエーテルポリオール500g(数平均分子量1000)、2,4−トリレンジイソシアネート176g、2−ヒドロキシエチルアクリレート118gから合成されたポリエーテル系ウレタンアクリレート(数平均分子量1500)を重合性オリゴマーとし、反応性モノマー(II)と反応させ、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が780MPaに調整された樹脂組成物。
【0024】
[UV樹脂3]
UV樹脂2 100重量部にシリコーン系表面改質剤を0.1重量部加え、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が700MPaに調整された樹脂組成物。
[UV樹脂4]
UV樹脂2 100重量部にシリコーン系表面改質剤を0.3重量部加え、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が670MPaに調整された樹脂組成物。
【0025】
[UV樹脂5]
テトラヒドロフランと2−及び3−メチルテトラヒドロフランの共重合ポリエーテルポリオール500g(数平均分子量2000)、2,4−トリレンジイソシアネート88g、2−ヒドロキシエチルアクリレート59gから合成されたポリエーテル系ウレタンアクリレート(数平均分子量2500)40重量部とビスフェノールAエチレンオキシド付加物(ビスフェノールAの片方のOH基がOCHCHOH)100g(平均分子量272)、2,4−トリレンジイソシアネート96g、2−ヒドロキシエチルアクリレート43gから合成されたポリエーテル系ウレタンアクリレート(数平均分子量1300)15重量部との混合物を重合性オリゴマーとし、反応性モノマー(II)と反応させ、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が740MPaに調整された樹脂組成物。
[UV樹脂6]
UV樹脂5 100重量部にシリコーン系表面改質剤を0.1重量部加え、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が730MPaに調整された樹脂組成物。
【0026】
[UV樹脂7]
ポリプロピレングリコール500g(数平均分子量1000)、2,4−トリレンジイソシアネート176g、2−ヒドロキシエチルアクリレート118gから合成されたポリエーテル系ウレタンアクリレート(数平均分子量1500)を重合性オリゴマーとし、反応性モノマー(II)と反応させ、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が590MPaに調整された樹脂組成物。
[UV樹脂8]
ポリテトラメチレングリコールとアジピン酸と1,6−ヘキサンジオールの共重合ポリエステルポリオール500g(数平均分子量850)、イソフォロンジイソシアネート246g、2−ヒドロキシエチルアクリレート137gから合成されたポリエステル系ウレタンアクリレート(数平均分子量1500)を重合性オリゴマーとし、反応性モノマー(II)と反応させ、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が550MPaに調整された樹脂組成物。
【0027】
[UV樹脂9]
UV樹脂8 100重量部にシリコーン系表面改質剤を0.1重量部加え、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が540MPaに調整された樹脂組成物。
[UV樹脂10]
UV樹脂8 100重量部にシリコーン系表面改質剤を0.3重量部加え、0.2mm厚の硬化シートとした時のヤング率が530MPaに調整された樹脂組成物。
【0028】
[光ファイバ素線の作成]
【0029】
【表2】

【0030】
上記表2に示すように外径125μmのシングルモード光ファイバ裸線上に、液状のUV樹脂1を塗布し、引き続き紫外線を照射して硬化させ、外径約195μmの一次被覆層を形成した。更にその上に、液状のUV樹脂2〜10を塗布し、引き続き紫外線を照射して硬化させ、外径約245μmの二次被覆層を形成し、表2に示す実施例1〜12、比較例1〜4の光ファイバ素線を得た。また、それぞれの光ファイバ素線の線引き速度を併せて表2に記載した。このとき、硬化雰囲気の酸素濃度を調整して各光ファイバ素線を作製した。具体的には、二次被覆用UV樹脂を塗布し、その後当該光ファイバ素線前駆体を雰囲気制御が可能なUV照射室を通過させ、その中の酸素濃度を制御して、紫外線ランプを照射することにより行った。
光ファイバ素線はそれぞれ250km作成し、大型ボビンに巻き取り、その後設定張力50gfで25km毎小型ボビンに巻き変えた。
この巻き変えた光ファイバ素線につき最外樹脂被覆層のヤング率、つまり、二次被覆層のヤング率測定、動摩擦係数の測定、及びOTDR段差ロス発生頻度の測定を行った。その測定方法を次に説明する。
【0031】
1)最外樹脂被覆層のヤング率測定
図1に示すように光ファイバ素線1からスライス線2(光ファイバ裸線3と一次被覆層4の界面に沿った線)に沿って、被覆層部分を図1(b)に示すスライス片6として得た。5は二次被覆層である。このスライス片6を23℃、引張り速度1mm/min、標線間距離25mmの条件で引張り試験を行い、2.5%歪時の引張り強さからヤング率を算出した。尚、スライス片の断面積にはマイクロスコープを用いた実測値を用いた。
【0032】
2)動摩擦係数測定
JIS K7125に準じ、図2,3に示す装置により動摩擦力の測定を行った。図2は装置の平面図、図3は正面図である。具体的には、図示のように水平なテーブル11上に2本の光ファイバ素線1を平行に固定し、その上に2本の光ファイバ素線を水平に底面に固定した滑り片12を、テーブル11上に固定された光ファイバ素線1と滑り片底面に固定された光ファイバ素線1とが直角に交差するように積載した。その後、すべり片はスプリング13、牽引糸14を介してロードセル15に固定され、引張り速度300mm/minで引張り試験を行った。このときの滑り片重さは85gf、スプリングは基準荷重0.29N、バネ定数0.031N/mm若しくは基準荷重0.49N、バネ定数0.047N/mmであった。ロードセル15は滑り片12が移動した後、100mm移動した位置で停止させ、得られた摩擦力プロファイルから移動開始時の力を除いた移動中の摩擦力を平均したものを動摩擦力とし、更に、動摩擦力を滑り片重さで除した値を本発明の動摩擦係数と定義した。
【0033】
3)OTDR段差ロス発生頻度の測定
25km毎に光ファイバ素線が巻かれた各10個づつの小型ボビンにつき、OTDR段差ロス発生頻度を測定した。その減衰曲線おいて損失が階段状に大きくなる箇所のうち、前後100m区間の損失平均値の差が0.03dB以上となるものOTDR段差ロスとしてカウントした。
【0034】
これらの結果を表2にまとめて示す。
表2に示すように本発明の光ファイバ素線である実施例1〜12はOTDR段差ロス発生頻度が5個/250km以下と低く、比較例1〜4のOTDR段差ロス発生頻度が18個/250km以上であるのに比べて明らかに低くなっている。(比較例2,4は巻き崩れが発生して測定できなかった。)
【0035】
また、実施例1〜12および比較例1〜4の光ファイバ素線の最外樹脂被覆層ヤング率と動摩擦係数の関係を、図4に表示した。図4において、OTDR段差ロス発生頻度が0個/250kmを○、1〜5個/250kmを△、10個/250km以上を×、巻き崩れが多く発生し測定不可能であったものを*とした。図4において、実線で囲まれた部分は最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000MPa、且つ動摩擦係数が0.15以上で、動摩擦係数μが下記関係式(a)及び(b)を満たしている。
μ≦−0.9822LogY+3.45156 (a)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMpaである。μは動摩擦係数を表す。)
【0036】
図4において実線で囲まれた部分は、OTDR段差ロス発生頻度が5個/250km以下であって、いずれもOTDR段差ロス発生頻度が低い光ファイバ素線として使用できる。
前記関係式(a)の範囲外
μ>−0.9822LogY+3.45156
では、OTDR段差ロス発生頻度が10個/250km以上と高く、問題がある。
前記関係式(b)の範囲外
μ<−0.5418LogY+1.74128
(式中Yは最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMPaである。μは動摩擦係数を表す。)
では、巻き崩れが多発するため、OTDR段差測定が不可能であった。
また、図4において破線で囲まれた部分が関係式(c)及び(b)を満たしている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の製造方法により製造される光ファイバ素線の一実施形態を模式的に示す斜視図であり、(a)は全体斜視図、(b)は被覆層部分のスライス片の斜視図である。
【図2】動摩擦力の測定方法の説明図としての平面図である。
【図3】動摩擦力の測定方法の説明図としての正面図である。
【図4】光ファイバ素線の最外樹脂被覆ヤング率と動摩擦係数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000MPa、且つ
水平なテーブル上に2本の光ファイバ素線を平行に固定し、別の2本の光ファイバ素線を滑り片の底面に固定し、前記テーブル上の2本の光ファイバ素線と前記別の2本の光ファイバ素線とが直角に交差するように積載し、前記滑り片を移動させたときの摩擦力から求めた動摩擦係数が0.15以上の光ファイバ素線の製造方法であって、
前記動摩擦係数μが下記関係式(a)及び(b)を満たすように最外樹脂被覆層の硬化雰囲気の酸素濃度を調整することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
μ≦−0.9822LogY+3.45156 (a)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMpaである。μは動摩擦係数を表す。)
【請求項2】
光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率が400〜1000Mpaであり、且つ
水平なテーブル上に2本の光ファイバ素線を平行に固定し、別の2本の光ファイバ素線を滑り片の底面に固定し、前記テーブル上の2本の光ファイバ素線と前記別の2本の光ファイバ素線とが直角に交差するように積載し、前記滑り片を移動させたときの摩擦力から求めた動摩擦係数が0.15以上の光ファイバ素線の製造方法であって、
前記動摩擦係数μが下記関係式(c)及び(b)を満たすように最外樹脂被覆層の硬化雰囲気の酸素濃度を調整することを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
μ≦−0.5418LogY+1.85912 (c)
μ≧−0.5418LogY+1.74128 (b)
(式中Yは光ファイバ素線から測定される最外樹脂被覆層のヤング率を表し、単位はMPaである。μは動摩擦係数を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−256978(P2007−256978A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148658(P2007−148658)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【分割の表示】特願2002−129430(P2002−129430)の分割
【原出願日】平成14年4月30日(2002.4.30)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】