説明

光ファイバ電流センサ装置

【課題】 多数の測定点に対応するため感知部,出力部は多数組を設ける構成において、光伝送路は必要最低限の2本にすることができ、2本の光伝送路により多数の電流検出が行える光ファイバ電流センサ装置を提供すること
【解決手段】 センサファイバ1を主要素とする感知部10と、光電変換による信号処理を行う出力部20とを複数設け、それら感知部10…と出力部20…との間に2本の光伝送路31,32を並列に配置して波長分割多重による光の送受を行う。センサファイバ1は先端に反射ミラー3を取り付けて反射方式とし、2本の光伝送路31,32には、それぞれ両端へ光合分波器33を接続し、各光合分波器33…に対して感知部10…と出力部20…とをそれぞれ接続する。光源5はC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力するものとし、第1光伝送路31へサーキュレータ6を介して接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサファイバを通過する光のファラデー効果を利用して電流検出を行う光ファイバ電流センサ装置に関するもので、より具体的には、測定点へ配置するセンサファイバを主要素とする感知部と、光電変換による信号処理を行う出力部とを複数設ける構成における光伝送の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
架空送電線や地中送電線などの電力系統では事故点の探索が重要な課題であり、遠隔地点の電流の検出(測定)は欠かせない重要技術と言える。電流測定に関して、センサファイバを通過する光のファラデー効果を利用して電流検出を行う技術がよく知られており、電磁雑音の影響がなく、電気的な絶縁が容易である等の利点があって好まれている。
【0003】
光ファイバ電流センサ装置は、例えば特許文献1などに見られるように、磁界に比例して光の偏波面が回転するファラデー効果を示すセンサファイバを導体の外周に周回状態に配置し、当該センサファイバの先端に反射ミラーを取り付けて光を往復させる反射方式の構成がある。
【0004】
特許文献1のものでは、センサファイバを主要素とする感知部は遠隔した測定点に配置し、光電変換による信号処理を行う出力部を監視地に配置し、両者間に光ファイバによる光伝送路を設けて光の送受を行う構成を採っている。光伝送路は2本を設けて位相が異なる2つの光信号により、外乱による複屈折の影響をキャンセルし、電流測定の精度を向上するようにしている。
【特許文献1】特開2006−46978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そうした従来の光ファイバ電流センサ装置では以下に示すような問題がある。
【0006】
一般に光伝送路による情報通信では、時分割多重伝送技術や波長分割伝送技術などの多重化伝送技術が既に確立されており、単一の光伝送路で複数かつ大容量の情報を効率よく伝送できる。しかしながら、従来の光ファイバ電流センサ装置では、感知部と出力部との1組について2本の光伝送路を必要とするため、測定点が多数になると感知部、出力部は対応する多数組を設けることはもちろんであるが、伝送路も対応して2倍の多数本が必要となる。このため、測定点が多くなると光ファイバ電流センサ装置で多数本の光伝送路を占有することになり、光伝送路の利用率の低下を招く問題がある。
【0007】
この発明は上記した課題を解決するもので、その目的は、多数の測定点に対応するため感知部,出力部は多数組を設ける構成において、光伝送路は必要最低限の2本にすることができ、2本の光伝送路により多数の電流検出が行える光ファイバ電流センサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る光ファイバ電流センサ装置は、磁界に比例して光の偏波面が回転するファラデー効果を示すセンサファイバを導体の外周に周回状態に配置し、当該センサファイバへ光源から光を伝播させて先端で反射した後、前記センサファイバから出射する光を互いに直交する第1偏光と第2偏光に分離し、前記第1偏光を第1光伝送路へ送り戻すとともに、第2偏光を第2光伝送路へ送り戻し、第1光伝送路および第2光伝送路の他端側では取り込んだ第1偏光および第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行う光ファイバ電流センサ装置において、センサファイバ,当該センサファイバの先端に取り付ける反射ミラー,第1偏光および第2偏光とを分離して取り出す光学部とを備える感知部と、第1偏光および第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行う出力部とはそれぞれ複数を設け、光源は第1光伝送路へ分光器を介して接続してC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力し、第1光伝送路および第2光伝送路にはそれぞれ両端へ光合分波器を接続し、各光合分波器に対して感知部と出力部とを接続して波長分割多重により光の送受を行う構成にする。
【0009】
光源としては、波長が異なる複数のレーザ光源および光合分波器を備えて、それらレーザ光源を前記光合分波器へ接続することによりC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力する構成とすることもよい。
【0010】
また、保護継電装置を備えるとともに、当該保護継電装置が出力するトリップ信号を光信号へ変換するトリップ信号光変換部と、光信号から元のトリップ信号へ逆に変換するトリップ信号逆変換部とを備えて、トリップ信号光変換部を光源の出力側へ配置して接続し、トリップ信号逆変換部は感知部側へ配置して第1光伝送路へ接続し、トリップ信号に係る光伝送を第1光伝送路へ重畳させる構成にする。
【0011】
また、トリップ信号光変換部の出力側へ分光器を介在させて第2光伝送路に対しても接続を分岐し、感知部側ではトリップ信号逆変換部を第2光伝送路に対しても配置して接続し、トリップ信号に係る光伝送を第1光伝送路および第2光伝送路へ重畳させる構成にする。
【0012】
係る構成にすることにより本発明では、光源からC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力し、第1光伝送路,第2光伝送路の両端で光合分波器により光の合波,分波を行うので、光の送受は波長分割多重の伝送となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光ファイバ電流センサ装置では、光源からC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力し、第1光伝送路,第2光伝送路の両端で光合分波器により光の合波,分波を行うので、光の送受は波長分割多重の伝送となる。したがって、多数の測定点に対応するため感知部,出力部は多数組を設ける構成において、光伝送路は必要最低限の2本にすることができ、2本の光伝送路により多数の電流検出が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態を示している。本形態において、光ファイバ電流センサ装置は、測定点へ配置したセンサファイバ1を通過する光のファラデー効果を利用して電流検出を行うものであって、センサファイバ1を主要素とする感知部10と、光電変換による信号処理を行う出力部20とを複数設け、それら感知部10…と出力部20…との間に第1光伝送路31,第2光伝送路32の2本を並列に配置し、2本の光伝送路において波長分割多重による光の送受を行う構成になっている。
【0015】
センサファイバ1は、例えば鉛ガラスを素材とする光ファイバとし、導体2の外周に周回状態に配置する。鉛ガラスによれば光弾性効果をほとんど示さない特性にでき、磁界に比例して光の偏波面が回転するファラデー効果を良好に得ることができる。このセンサファイバ1の先端に反射ミラー3を取り付け、他端は光学部4へ接続している。これらセンサファイバ1,反射ミラー3,光学部4とが感知部10となり、光学部4は反射ミラー3により反射した戻り光のうち直交する2つの偏光(第1偏光,第2偏光と呼ぶことにする)を分離して取り出すようになっている。
【0016】
出力部20は、第1偏光および第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行うようになっている。第1光伝送路31および第2光伝送路32には、それぞれ両端へ光合分波器33を接続し、各光合分波器33…に対して感知部10…と出力部20…とをそれぞれ接続している。これら光伝送路31,32には、シングルモードの光ファイバを使用することが好ましい。
【0017】
光源5は、C帯およびL帯の波長を含む広帯域の光(λ_1〜λ_4)を出力するものとし、第1光伝送路31へサーキュレータ6を介して接続している。
【0018】
光源5としては、低偏光で高輝度が得られるASE光源などが好ましい。また例えば、波長が異なる複数のレーザ光源および光合分波器を備えて、それらレーザ光源を光合分波器へ接続することによりC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力する構成とすることもよい。
【0019】
光合分波器33は、送信側では波長の異なる複数の光信号を合波する光合波器として機能し、受信側では1本の光伝送路を伝播してきた波長の異なる複数の光信号を各波長ごとに分波する光分波器として機能する。光を合波,分波するための部品にはプリズム,干渉膜フィルタ,回折格子などを用いることができる。
【0020】
光源5から出射した光は、サーキュレータ6の導きにより第1光伝送路31へ入射して伝播し、先端の光合分波器33により各波長λ_1〜λ_4に分波する。各感知部10において、それぞれ対応する波長λ_1〜λ_4の光が入射するので、光は光学部4を通過してセンサファイバ1へ入射し、先端の反射ミラー3で反射するので反射した戻り光が光学部4側へ戻ってくる。この戻り光はセンサファイバ1の往路と復路との両方でファラデー効果により偏波面が回転しており、光学部4の分離によって第1偏光が第1光伝送路31へ出射して戻るとともに、第1偏光と直交する第2偏光が第2光伝送路32へ出射して戻る。
【0021】
第1光伝送路31および第2光伝送路32の他端には、光合分波器33をそれぞれ設けているので、感知部10側から伝播した光(第1偏光,第2偏光)は光合分波器33により各波長λ_1〜λ_4に分波する。そして、各出力部20において、それぞれ対応する波長λ_1〜λ_4の光が入射するので、取り込んだ第1偏光および第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行う。これにより、導体2を流れる電流に対応した電気信号が得られる。
【0022】
磁界に比例して光の偏波面が回転するファラデー効果では、比例係数のベルデ定数は物質の種類と光の波長および温度に依存する定数であり、複数の出力部20は測定に用いている光の波長が相違しているので、原理的な誤差(比誤差)が異なる関係になってしまう。これは複数の感知部10で誤差特性がばらつくため好ましくなく、各出力部20については調整を行い、誤差特性を同一誤差基準内に収めるようにしている。
【0023】
このように、光源5からC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光(λ_1〜λ_4)を出力し、第1光伝送路31,第2光伝送路32の両端で光合分波器33により光の合波,分波を行うので、光の送受は波長分割多重の伝送となる。すなわち本発明にあっては、多数の測定点に対応するため感知部10,出力部20は多数組を設ける構成において、光伝送路は必要最低限の2本にすることができ、2本の光伝送路31,32により多数の電流検出が行える。
【0024】
本発明に係る光ファイバ電流センサ装置を試作して特性試験を行ったところ、多重化による相互の干渉が0.5%以内であることを確認した。このとき、比誤差特性は、40Aでは+2%,−2%以内、2000Aでは+1%,−1%以内、40000Aでは−10%以内であった。温度特性は、−20℃から+60℃において+2%,−2%以内であった。その結果、多重化による誤差の増大はなく、電流測定を高精度に行えることを確認した。
【0025】
(第2の実施の形態)
図2は本発明の第2の実施の形態を示している。本形態において、光ファイバ電流センサ装置は、図1に示す波長分割多重の光伝送路構成に対して保護継電装置7を備えて、保護継電装置7が出力するトリップ信号を光信号へ変換し、そのトリップ信号に係る光伝送を第1光伝送路31へ重畳させて伝送する構成になっている。
【0026】
光源5とサーキュレータ6との間に、分波器71,光スイッチ72,合波器73を配置している。光源5は分波器71へ接続し、分波器71では1つの波長λ_4を分波して光スイッチ72へ入射させる。光スイッチ72には保護継電装置7が出力するトリップ信号を入力してスイッチング動作を行わせる。これにより、光スイッチ72はトリップ信号に応じた光信号を出力し、トリップ信号を光信号へ変換するトリップ信号光変換部として機能する。光スイッチ72からトリップ信号に応じた光信号を合波器73へ送り、合波器73では分波器71から取り込んだ他の波長の光と合波して合波出力をサーキュレータ6へ送る。
【0027】
感知部10側には光電変換器74を配置して第1光伝送路31へ連なる光合分波器33へ接続する。光電変換器74は取り込んだ光を電気信号へ変換し、光信号(波長λ_4)から元のトリップ信号へ逆に変換するトリップ信号逆変換部として機能する。
【0028】
この場合、多数の電流測定について多重化伝送が行えるとともに、保護継電装置7のトリップ信号を多重化伝送することができ、電力系統での事故点の探索において利便性を向上できる。
【0029】
(第3の実施の形態)
図3は本発明の第3の実施の形態を示している。本形態において、光ファイバ電流センサ装置は、図2に示す第2の実施形態と同様に保護継電装置7を備えてトリップ信号に係る光伝送を行う構成を採るが、そのトリップ信号に係る光伝送は第1光伝送路31と第2光伝送路32の2者へ重畳させて2重に伝送する構成になっている。
【0030】
つまり、光スイッチ72と合波器73の間に分光器75を設けて光信号T2を分岐し、その光信号T2を第2光伝送路32へ送る。そして、感知部10側には光電変換器74を2つ配置して第2光伝送路32へ連なる光合分波器33に対しても接続する。2つの光電変換器74の出力はAND回路76へ送り、両者の論理和を真のトリップ信号とする。
【0031】
この場合も、多数の電流測定について多重化伝送が行えるとともに、保護継電装置7のトリップ信号を多重化伝送することができ、電力系統での事故点の探索において利便性を向上できる。そして、トリップ信号は2つの光伝送路31,32により2重に伝送するので信頼性を格段に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る光ファイバ電流センサ装置の好適な一実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明に係る光ファイバ電流センサ装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図3】本発明に係る光ファイバ電流センサ装置の第3の実施の形態を示す構成図である。
【符号の説明】
【0033】
1 センサファイバ
2 導体
3 反射ミラー
4 光学部
5 光源
6 サーキュレータ
7 保護継電装置
10 感知部
20 出力部
31 第1光伝送路
32 第2光伝送路
33 光合分波器
71 分波器
72 光スイッチ
73 合波器
74 光電変換器
75 分光器
76 AND回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界に比例して光の偏波面が回転するファラデー効果を示すセンサファイバを導体の外周に周回状態に配置し、当該センサファイバへ光源から光を伝播させて先端で反射した後、前記センサファイバから出射する光を互いに直交する第1偏光と第2偏光に分離し、前記第1偏光を第1光伝送路へ送り戻すとともに、前記第2偏光を第2光伝送路へ送り戻し、前記第1光伝送路および前記第2光伝送路の他端側では取り込んだ前記第1偏光および前記第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行う光ファイバ電流センサ装置において、
前記センサファイバ,当該センサファイバの先端に取り付ける反射ミラー,前記第1偏光および前記第2偏光とを分離して取り出す光学部とを備える感知部と、前記第1偏光および前記第2偏光とを光電変換するとともに両者の平均処理を行う出力部とはそれぞれ複数を設け、前記光源は前記第1光伝送路へ分光器を介して接続してC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力し、前記第1光伝送路および前記第2光伝送路にはそれぞれ両端へ光合分波器を接続し、各光合分波器に対して前記感知部と前記出力部とを接続して波長分割多重により光の送受を行うことを特徴とする光ファイバ電流センサ装置。
【請求項2】
前記光源として、波長が異なる複数のレーザ光源および光合分波器を備えて、それらレーザ光源を前記光合分波器へ接続することによりC帯およびL帯の波長を含む広帯域の光を出力する構成とすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ電流センサ装置。
【請求項3】
保護継電装置を備えるとともに、当該保護継電装置が出力するトリップ信号を光信号へ変換するトリップ信号光変換部と、光信号から元のトリップ信号へ逆に変換するトリップ信号逆変換部とを備えて、前記トリップ信号光変換部を前記光源の出力側へ配置して接続し、前記トリップ信号逆変換部は前記感知部側へ配置して前記第1光伝送路へ接続し、前記トリップ信号に係る光伝送を前記第1光伝送路へ重畳させることを特徴とする請求項1,2に記載の光ファイバ電流センサ装置。
【請求項4】
前記トリップ信号光変換部の出力側へ分光器を介在させて前記第2光伝送路に対しても接続を分岐し、前記感知部側では前記トリップ信号逆変換部を前記第2光伝送路に対しても配置して接続し、前記トリップ信号に係る光伝送を前記第1光伝送路および前記第2光伝送路へ重畳させることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ電流センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−215910(P2008−215910A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51050(P2007−51050)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】