説明

光ヘッド及び光記録再生装置

【課題】記録媒体の記録容量を増大させることのできる光記録再生装置を提供することを可能にする。
【解決手段】光記録媒体200に対向する媒体対向面を有し、光記録媒体の記録再生面に沿って動作するスライダー20と、スライダーの媒体対向面に設けられた金属ナノ粒子構造22と、記録再生面に対して垂直方向に偏光成分を有する光を光記録媒体および金属ナノ粒子構造に照射する光照射装置30と、金属ナノ粒子構造の近傍の光記録媒体から発生され金属ナノ粒子構造によって増幅されたレイリー散乱光を検出する検出装置31、33、34、35、50と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場を用いた光ヘッド及び光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ビームを照射して情報の再生または記録再生を行う光記録媒体と、この光記録媒体に情報を記録する光記録装置は、HDD(Hard Disc Drive)と比較して媒体の互換性および長期保存性という利点を有し、磁気テープと比較して高速アクセス性という利点を有するため、コンピューターのバックアップ用記憶デバイス、家庭用の画像再生または記録再生記憶デバイス、車載用ナビケータ、ハンディカムやパーソナルディジタルアシスト機器用の記憶デバイス、医療、放送、映画などプロ用記憶デバイスなど、幅広い分野で普及し、または採用が検討され始めている。
【0003】
光記憶デバイスをより一層普及させ、その応用分野を広げる上では、記憶容量とデータ転送速度の更なる向上が要求されている。従来から、光記憶デバイスの主流をなすのは、円盤状の形状を有する記録媒体である光ディスクであるが、これはディスク状という形態特有の高速アクセス性と使い勝手のよさが好まれているためである。
【0004】
光ディスクとしては、再生専用型のCD−ROM、DVD−ROM、BD−ROM、追記型のWORM、CD−R、DVD−R、BD−R、書換え型のCD−RW、DVD−RAM、DVD±RW、MO、BD−REが幅広く普及している。これらの光ディスクは全て、光ビームを対物レンズによって回折限界近くまで絞り込み、媒体の記録面に焦点を合わせて照射し、情報の再生または記録再生を行っている。このため、記憶容量を増加させる上では、原理的には、光の波長を短くするかまたは対物レンズの開口数を大きくすることが唯一の対策といってよい。これは、短波長化、高開口数化以外にも、マークエッジ記録、ランドおよびグルーブ記録、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)に代表される変復調技術、異なる焦点位置に複数の記録面を配する片面多層記録技術、超解像再生技術などが提案されている。しかし、全て記録面に焦点を合わせる方式を採用しているため、実質的に光源の短波長化と対物レンズの高開口数化が記憶容量を決定する。
【0005】
記録容量はCDの650MB(メガバイト)から、DVDの4.7GB(ギガバイト)、ブルーレイディスクの25GBと増大して来た。容量増大の一般的な方法は(1)フォーマットの高効率化、(2)再生信号処理方法の向上、(3)媒体の材料および構造の最適化、(4)レーザー光の短波長化、(5)集光光学系の高N.A.化が上げられる。N.A.とは集光光学系の屈折率をn、入射角をuとすると、
N.A. = n・sin(u)
で表わされる数値である。一般に「N.A.が大きい」とは「大きなレンズで角度をつけて強く集光する」こととほぼ同義である。
【0006】
上記(1)乃至(5)の項目は、これ以上向上させることが難しい。更なる大容量化としては、多層化、ホログラム化が考えられる。
【0007】
上述した従来の光ディスクとは全く異なる原理を用いる光記録方式として、近年近接場光記録再生が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、ナノフォトニクス分野の研究開発が活発化し、各種近接場光デバイスが提案されてきている。特に表面プラズモン関係では回折限界を大きく超える効果や近接場相互作用が強い点から各種の提案が多くなされている。近接場光として有効なプラズモンは、表面プラズモン、あるいは表面プラズモンポラリトンである。金属ナノ構造体に光を照射すると光の電場により金属ナノ構造体の自由電子が振動する。金属ナノ構造体の表面においては自由電子が光電場の振動にしたがい、金属ナノ構造体(原子核結晶体)の表面位置で分極が発生する。この場合、電子は一つ一つ別々の位相で振動するよりも集団で同位相の振動運動をすることがエネルギー的に安定であり、集団で同位相の振動運動は、素励起の一つである。
【0009】
光は高速性であるが、空間分解能は半波長のオーダーである。それを回折限界と言い、光のデメリットである。しかし、プラズモンはその起源は電子の集団振動であるため、回折限界は無く、光でありながら極微細な空間で物質と相互作用、すなわち、吸収、反射、導波等が可能となる。
【0010】
従来の近接場光の発生は光ファイバーを用いたものが一般的であったが、最近はプラズモン増強場を利用した現象が注目されている。これは金属微小構造の局所部分にプラズモンが集中した場合に、電場強度が数桁大きくなり、それによって、その近傍の発光、ラマン散乱、レイリー散乱等の現象が大きく増強される現象である。その場合の空間分解能は金属ナノ粒子構造のサイズあるいは粒子の曲率半径に依存し、Pt(白金)で被覆したカンチレバー型の金属ナノ粒子構造を用いてレイリー散乱光を観測した場合、30nm以下の空間分解能が得られている。増強ラマン散乱、増強発光に比べ、増強レイリー散乱がSN比、空間分解能ともに高いため、これを用いると大容量の光記録装置を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−268394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、光記録媒体の記録容量の増大は上記(1)〜(5)の項目の効果によってなされてきた。しかし、上記項目のそれぞれは、技術的な限界に近づきつつある。そして、これら限界に到達するための開発費、製造費がかさむことが懸念され、別の機構による記憶容量増大が求められている。上記で示す項目以外の機構による記録容量増大では、研究段階として近接場光学ファイバープローブを用いたものが提案されている。しかし、この近接場光学ファイバープローブは、耐久性があまり無く、そのため、実用性に乏しい。
【0013】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであって、記録媒体の記録容量を増大させることのできる光記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様による光記録再生装置は、光記録媒体に対向する媒体対向面を有し、前記光記録媒体の記録再生面に沿って動作するスライダーと、前記スライダーの前記媒体対向面に設けられた金属ナノ粒子構造と、前記記録再生面に対して垂直方向に偏光成分を有する光を前記光記録媒体および前記金属ナノ粒子構造に照射する光照射装置と、前記金属ナノ粒子構造の近傍の前記光記録媒体から発生され前記金属ナノ粒子構造によって増幅されたレイリー散乱光を検出する検出装置と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録媒体の記録容量を増大させることの可能な光記録再生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】相変化光記録媒体の相変化を説明する図。
【図2】ウォブルグルーブを有する記録媒体を説明する図。
【図3】表面のグルーブ高さに周期的な微小揺らぎを有する記録媒体を説明する図。
【図4】一実施形態の光記録再生装置を示す図。
【図5】一実施形態の光記録再生装置の概要を説明する図。
【図6】金属ナノ粒子の形状を説明する図。
【図7】光記録媒体の一例を示す断面図。
【図8】第1実施形態の光記録再生装置を示す図。
【図9】第2実施形態の光記録再生装置を示す図。
【図10】第3実施形態の光記録再生装置を示す図。
【図11】第5実施形態の光記録再生装置を示す図。
【図12】第6実施形態の光記録再生装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明の概要を説明する。
【0018】
本発明者達は、プラズモン増強効果により20nm〜30nmの空間分解能で屈折率を観測する方法を開発している。この方法は、以下のように行われる。物質に光照射を行うとレイリー散乱が発生する。例えば、ブルーレイディスク(BD)のスポットサイズは約0.3μmであるが、そのスポットサイズ内に数十nmサイズの金属ナノ粒子構造を被測定物質に近接させると、非測定物質から発生されるレイリー散乱光が増大する。その増大されたレイリー散乱光を観測することによって屈折率の変化を検出することができる。本発明の一実施形態においては、光ヘッドに金属ナノ粒子構造を搭載し、上述のプラズモン増強効果を利用して媒体表面の屈折率変化を検出するものである。
【0019】
一般に、光記録媒体は、例えば相変化媒体を使用する。これはDVDやBDで使用されているものである。材料系はGeSbTe等を用い、光照射パワーにより結晶相とアモルファス相との間に相変化を生じさせ、その複素屈折率の違いにより記録信号を記録再生するものである。記録に関しては、図1に示すように、光照射により溶融温度まで温度上昇させた場合はアモルファス相、結晶化温度から溶融温度の間まで昇温させた場合は結晶相となる。
【0020】
また、相変化記録方式以外でも、光屈折率変化、フォトクロミズム等、分子への記録方式も可能であり、1分子1マークが達成されれば、大幅な記録容量増大へ繋がる。記録層の下側に金属層が存在するとプラズモン増強効果が増えるため、SN比が向上する。このため、本発明の一実施形態に用いられる媒体には、記録層の下側に金属層を設けることが好ましい。また、ごみや指紋には敏感なので、媒体は、パッケージに入れることにより防ぐことが好ましい。
【0021】
感度向上のために金属ナノ粒子構造のタッピングやロックインアンプを再生に用いることが研究されている。しかし、本発明の一実施形態においては、これらの手段(タッピングやロックインアンプ)を用いなくとも、実用上読み出しICを用いることで十分な読み出しを行うことが可能となる。
【0022】
また、図2(a)、2(b)に示すように、記録媒体のグルーブにウォブルグルーブを採用し、その周波数と同期する等の手段で感度を向上させることが可能である。その場合、スポットサイズ内の同じ周期のグルーブがある場合、ノイズとなりうるため、スポットサイズ内の特に隣り合うウォブルグルーブの周期はわずかながらでも変えるとSN比が上昇するため、好ましい。なお、図2(a)は、グルーブとしてウォブルグルーブを用いた記録媒体の平面図を示し、図2(b)は、図2(a)に示す切断線A−Aで切断した断面図を示す。
【0023】
ウォブルグルーブの代わりに、図3に示すように、媒体表面のグルーブ高さに周期的な微小揺らぎを加えても同様の効果を得ることができる。これは、近接場光学顕微鏡におけるタッピングに相当する。この周波数に同期して信号を増幅するとSN比が向上し、より小さいマーク長を有するマークの読み出しが可能となる。
【0024】
本発明の一実施形態の光記録再生装置は、例えば図4(a)、4(b)に示す構成を有している。この光記録再生装置は、アーム10を備えている。このアーム10は一端が固定されたサスペンション11を有し、このサスペンション11の他端にスライダー20が設けられている。そして、アーム10は、回転軸110を中心として回転する媒体200の記録再生面の所望の位置にスライダー20が追従するように、図示しない制御装置により制御される。図4(b)に示すように、スライダー20の媒体200に対向する側に金属ナノ粒子構造22が設けられている。また、記録再生装置には、媒体200の記録再生面に光を照射する光照射装置30を有している。この光照射装置30には、図示しない光源から発生された光をZ偏光するZ偏光板33と、このZ偏光板33を通過した光を媒体200の記録再生面に集光する集光レンズ31とを有している。この集光レンズ31を通過した光は、媒体200に照射されるときに、金属ナノ粒子構造22の金属ナノ粒子の表面からプラズモンが発生されるとともに、媒体200の表面からレイリー散乱光が発生され、このレイリー散乱光が上記プラズモンにより増強される。
【0025】
一方、媒体200からは反射光が発生し、この反射光は感度向上の妨げとなる。このため、反射光をレイリー散乱光と空間的に区別可能となるように構成することが好ましい。すなわち、反射光が入らないような位置に、レイリー散乱光を検出する検出器を配置することが好ましい。
【0026】
この一実施形態においては、は金属ナノ粒子構造によるプラズモン増幅効果を用いるため、近接場光学ファイバーを使用する必要が無い。したがって、誘電体からなるスライダー20の記録媒体側の面(媒体対向面)に金属ナノ粒子構造22を埋め込めばよい。このスライダー20の媒体対向面は記録媒体200の記録再生面と動作中には水平となる。これによって、金属ナノ粒子構造が、媒体200と、動作中に接触する可能性が低くなり、高い耐久性を確保することができる。
【0027】
スライダー20の材質は、スライダー中を入射光、あるいはレイリー散乱光が通過する場合はその波長で透明な材質である必要がある。入射偏光ではあるが、媒体対向面、すなわちスライダー20の読み出し面と垂直成分がレイリー散乱増幅効果をもたらす。効率よくその垂直成分が大きくなる手法は、(1)横あるいは斜めから入射する、(2)ファイバー、導波路、あるいは近接場光導波路で金属ナノ粒子構造22まで導波させる、(3)Z偏光板を用いる、という手段がある。
【0028】
特開2000−268394号公報において、開口型近接場プローブを応用した近接場光メモリヘッドが知られているが、開口型は一般的に空間分解能が低く、分解能を高くするために開口サイズを小さくすると近接場光への変換効率が極端に低くなってしまう。
【0029】
これに対して、本発明の一実施形態では非開口型あるいは散乱型と呼ばれる方式を用いており、開口型より空間分解能およびSN比が共に高い。
【0030】
また、特開2008−305501号公報や特開2008−293580号公報では、近接場光を応用した光アシスト磁気記録の光ヘッドが提案されている。しかし、SN比が高くなるように、レイリー散乱光を取得できるのは媒体に垂直な偏光成分である。このため、本発明の一実施形態の構造が効率よく空間分解能を上げることができる。
【0031】
次に、本発明の一実施形態による光記録再生装置の基本構造について図5を参照して説明する。
【0032】
必要な基本構成は、光を発生する光源(例えば、レーザーダイオード)39と、媒体200からのレイリー散乱光を検出する検出器(図示せず)と、金属ナノ粒子構造22と、媒体対向面21に金属ナノ粒子構造22が設けられているスライダー20と、媒体の記録再生面に垂直な偏光の光を照射するための構造(例えば光導波路、Z偏光板等)33と、反射光を検出器に入射させない構造(図示せず)と、媒体に光りを集光するレンズ31と、再生ロジック回路(図示せず)とを備えていることが好ましい。なお、レンズ31は、スライダー20がレンズを兼ねる構造であっても良い。
【0033】
媒体200に入射する光(レーザー)のスポットサイズは小さければ小さいほど、ノイズ信号が小さくなる。これは、金属ナノ粒子構造22のサイズとスポットサイズの比で決まるノイズ成分があるためである。また、金属ナノ粒子構造22が小さいほど再生可能な媒体200の記録容量は大きくなるが、ノイズは大きくなる。具体的には、レーザー光のスポットサイズは大凡250nm〜800nmであり、金属ナノ粒子構造のサイズは10nm〜100nm程度である。金属ナノ粒子構造のサイズは特に20nm〜50nmがSN比と分解能の観点でバランスが良い。ただし、照射スポットサイズを小さくすればするほど、SN比を維持しながら小さなマークサイズを記録再生することが可能となる。レーザースポットサイズに対する金属ナノ粒子構造の比は、0.01〜0.4となり、特に0.08〜0.15程度が良い。
【0034】
金属ナノ粒子構造22の材質は、金、銀、アルミニウム、クロム、銅、ニッケルが良く、特に金、銀が良い。金属ナノ粒子構造の形状は、図6(a)、6(b)に示すように、球体でも棒状でも良く、球、楕円球、円柱、円錐、円錐台、角柱、角錐、角錐台、またはその類似の構造が挙げられる。図6(a)は、複数の金属ナノ粒子構造22の、スライダー20の媒体対向面21にほぼ垂直な面で切断した断面を示し、図6(b)は、記録媒体200からみた平面図である。記録媒体200に最も近い方の断面サイズが小さい方が好ましい。サイズは高さが10nm〜500nm、幅は最小部分が100nm以下、最大部分でも10nm〜500nmが望ましい。幅の最小サイズ、すなわち、記録媒体側のサイズが記録、再生の分解能となる。
【0035】
また、入射スポットサイズ内の媒体のウォブル周期を異なる媒体とし、金属ナノ粒子構造が再生しているウォブルグルーブ信号に同期した信号を読み出す、ロジック機能を有していることが好ましい。
【0036】
スライダー20はハードディスクドライブ(HDD)で使用されているもので、駆動時のHDD記録媒体との距離は10nm程度である。これは空気の粘性を利用して距離を維持している。本実施形態においても、媒体200とスライダー20の距離は同程度であるが、金属ナノ粒子構造22がスライダー20の媒体対向面21側からはみ出している長さ分だけ媒体に近づくことになる。金属ナノ粒子構造22と媒体200との最近接距離は、0.5nmから5nmであり、特に1〜3nmが望ましい。スライダー20のサイズはHDD同様、2mm以下、特に1mm以下が望ましい。なお、スライダー20の材質は光を透過させる必要があるため、透明体が良く、具体的にはガラスやPMMA、ポリスチレン等のプラスチックが良い。
【0037】
媒体200は単純には記録面が最上面にあり、被覆層は無い。基板上に直接に記録層単体を設けた構造でも良いが、図7に示すように、記録層の下に電磁場増強のために金属層を設けた構造とすることがより好ましい。また、熱伝導調整層が記録層や金属層の近傍に合ってもかまわない。
【0038】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による光記録再生装置を図8に示す。この第1実施形態の光記録再生装置は、スライダー20と、このスライダー20の媒体対向面21に設けられた金属ナノ粒子構造22と、光照射装置30と、記録媒体200からのレイリー散乱光を検出する検出器50と、を備えている。光照射装置30は、集光レンズ31と、Z偏光板33と、1/4波長板34と、偏光ビームスプリッタ35と、光源39とを備えている。光源39としては、例えばレーザービームを発生するレーザーダイオードを用いることが好ましい。レーザーダイオード39から発生されたレーザービームは偏光ビームスプリッタ35、1/4波長板34、Z偏光板33を通って、集光レンズ31に入射する。そして集光レンズ31を通過したレーザービームはスライダー20を通って、光記録媒体200の記録再生面の所定の場所に集光される。すると、金属ナノ粒子構造22の金属ナノ粒子の表面からプラズモンが発生されるとともに、光記録媒体200の表面からレイリー散乱光が発生され、このレイリー散乱光が上記プラズモンにより増強される。この増強されたレイリー散乱光はスライダー20、集光レンズ31、Z偏光板33、1/4波長板34を通って偏光ビームスプリッタ35に入射する。偏光ビームスプリッタ35に入射したレイリー散乱光は直線偏光に偏光されるとともに分離されて、レイリー散乱光検出器50に送られる。このとき、光記録媒体200によって反射されたレーザービームが、集光レンズ31、Z偏光板33、1/4波長板34を通らないような位置に、光照射装置30が配置される。
【0039】
なお、スライダー20の材質はSiOとした。スライダー20の記録再生面(媒体対向面)にFIB(Focused Ion Beam)で穴を掘り、サイズ(直径)が50nmの金のナノ粒子を半分程度埋まる状態に埋め込んだ。金粒子の移動埋め込みには光ピンセットを使用した。その上に軽くSiO膜を20nm蒸着し、その後、FIBで金ナノ粒子の先端のみが出るように、上記SiO膜を削った。光源39から発生されるレーザー光の波長は532nmとした。光記録媒体の記録層の材料はGeSbTe(膜厚30nm)を用いた。記録光のパワーは約4mW、再生光のパワーは0.5mWとした。光記録媒体200としては、厚さが1.2mmのポリカーボネート基板上に膜厚が50nmの金層が形成され、この金層上に、記録層として膜厚が30nmのGeSbTe層が形成されたものを用いた。なお、光記録媒体には、ウォブルグルーブが形成されている。再生ICチップの代わりにスペクトルアナライザーで確認しながらロックインアンプをウォブル周波数2MHzに同期させ、再生信号を呼んだ。この時に記録再生可能なマーク長は約25nmであった。
【0040】
また、金ナノ粒子の代わりに銀ナノ粒子を用いた場合もほぼ同等の信号が得られた。しかし、金ナノ粒子の代わりに、アルミニウム、クロム、銅、またはニッケルのいずれかの粒子を用いた場合は、SN比が小さくなったため、最小マーク長は約50nmと大きくなった。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【0042】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による光記録再生装置を図9に示す。この第2実施形態の光記録再生装置は、図8に示す第1実施形態の光記録再生装置において、集光レンズ31を削除し、スライダー20がレンズ機能を有するように構成したものとなっている。すなわち、SiOからなるスライダー20の入射面をレンズ構造としている。この場合、SIL(Solid Immersion Lens)の効果もあり、N.A.が大きくなって、入射スポットサイズが小さくなる。そのためSN比が向上する効果が得られる。
【0043】
この場合の記録再生可能な最小マーク長は20nmとなり、第1実施形態の場合よりもやや小さくなった。
【0044】
第2実施形態も第1実施形態と同様に、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【0045】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による光記録再生装置を図10に示す。この第3実施形態の光記録再生装置は、光照射装置30Aと、スライダー20と、このスライダー20の媒体対向面に設けられた金属ナノ粒子構造22と、レンズ45と、ミラー47と、レイリー散乱光を検出する検出器50とを備えている。光照射装置30Aは、例えば、レーザー光を発生する光源(レーザーダイオード)39と、レーザーダイオード39から発生されたレーザー光が伝播する光ファイバー38と、スライダー20の媒体対向面に設けられた伝播光導波路37と、を備えている。この第3実施形態においては、スライダー20の媒体対向面に伝播光導波路37が設けられているので、光記録媒体の再生面に垂直な偏光を入射することができる。
【0046】
レーザーダイオード39から出力されたレーザー光は、光ファイバー38を通って、光伝播導波路37に送られる。なお、レーザーダイオード39から出力されたレーザー光の金属ナノ粒子構造22での偏光が、スライダー20の記録再生面(媒体対向面)に垂直になるように調整してある。この場合、入射光の反射が検出器50へ入らない効果がある。光伝播導波路37の端面から光が放射されるため、光伝播導波路37の端面は金属ナノ粒子構造22から離れた位置に設置するのが良い。伝播光導波路37はコア幅1μm、クラッド幅125μmとした。光記録媒体200から発生されて金属ナノ粒子構造22によって増幅されたレイリー散乱光は、スライダー20、およびレンズ45を通過した後、ミラー47によって反射される。ミラー47によって反射されたレイリー散乱光は、検出器50によって検出される。この第3実施形態における最小記録再生マーク長は30nmであった。
【0047】
第3実施形態も第1実施形態と同様に、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【0048】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態による光記録再生装置を説明する。この第4実施形態の光記録再生装置は、第3実施形態の光記録再生装置において、光伝播導波路37として、近接場光導波路を用いた。この近接場光導波路は金ナノ粒子を分散したものである。その作製方法を説明する。まず、スライダー20の表面にFIBで幅100nm、深さ100nmの溝を掘った。そこにオレイルアミンをリガンドとしたコア径が約10nmのコアシェル構造を有する金ナノ粒子を塗布した。その後、機械研磨で溝外のコアシェル構造の金ナノ粒子を剥離し、スライダー20の記録再生面(媒体対向面)にFIBで穴を掘り、サイズ50nmの金ナノ粒子を半分程度埋まる状態に埋め込んだ。金の移動埋め込みには第1実施形態と同様に、光ピンセットを使用した。その上に軽くSiOを20nm蒸着し、その後、FIBで金ナノ粒子の先端のみが出るようにSiOを削った。近接場光導波路の入射はスポットサイズ変換器を経て入射光ファイバー38に繋いでいる。コアシェル型金属ナノ粒子を用いた導波路構造以外にも、ゾルゲル法を用いた銀ナノ粒子分散材料や金属細線プラズモン導波路を用いても可能である。この場合の最小記録再生マーク長も30nmであった。
【0049】
第4実施形態も第1実施形態と同様に、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【0050】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態による光記録再生装置を図11に示す。この第5実施形態の光記録再生装置は、スライダー20の記録再生面(媒体対向面)に垂直な偏光を持つ光を入射するために、横から入射するように構成されている。すなわち、レーザーダイオード39から発生されてレーザー光は、ミラー32によって反射されてスライダー20の横方向から光記録媒体200に入射する。光記録媒体200から発生され金属ナノ粒子構造22によって増幅されたレイリー散乱光は、スライダー20、レンズ45、Z偏光板46を通って、偏光ビームスプリッタ48によって分離されて検出器50に送られ、検出される。この第5実施形態においては、記録マークの長さが80nmまで、読み取りの判別ができた。
【0051】
第5実施形態も第1実施形態と同様に、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【0052】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態による光記録再生装置を図12(a)、12(b)に示す。この第6実施形態の光記録再生装置は、図示しないレーザーダイオードから発生されたレーザー光を伝播する光ファイバーの先端をスライダーとした構成となっている(図12(a))。これは、通常の光ファイバーの先端を、再生記録面に対して斜めに削ったものであり、スライダー筐体20に固定した。折れやすい近接場ファイバーとは異なるものである。この光ファイバー38の先端にFIBで穴を削り、直径50nmの銀ナノ粒子22を埋め込み、その後SiOをスパッタし、さらに銀ナノ粒子22の表面が、光ファイバー38の表面に出るようにFIBで削った(図12(b))。なお、図12(b)は、光ファイバー38の先端を拡大した図である。スライダーの下面からの銀ナノ粒子22の飛び出し長は5nmとした。この第6実施形態の場合も最小記録再生マーク長は30nmであった。
【0053】
第6実施形態も第1実施形態と同様に、媒体からのレイリー散乱光を金属ナノ粒子構造によって増幅し、この増幅されたレイリー散乱光を検出しているので、記録媒体の記録容量を増大させることができる。
【符号の説明】
【0054】
20 スライダー
20A スライダー(レンズ兼用スライダー)
21 記録再生面(媒体対向面)
22 金属ナノ粒子
25 レイリー散乱光
30 照射装置
31 集光レンズ
33 Z偏光板
35 偏光ビームスプリッタ
37 光伝播導波路
38 光ファイバー
39 光源(レーザーダイオード)
45 レンズ
46 Z偏光板
47 ミラー
48 偏光ビームスプリッタ
50 検出器
200 光記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光記録媒体に対向する媒体対向面を有し、前記光記録媒体の記録再生面に沿って動作するスライダーと、
前記スライダーの前記媒体対向面に設けられた金属ナノ粒子構造と、
前記記録再生面に対して垂直方向に偏光成分を有する光を前記光記録媒体および前記金属ナノ粒子構造に照射する光照射装置と、
前記金属ナノ粒子構造の近傍の前記光記録媒体から発生され前記金属ナノ粒子構造によって増幅されたレイリー散乱光を検出する検出装置と、
を備えたことを特徴とする光記録再生装置。
【請求項2】
前記スライダーは、前記光記録媒体の前記記録再生面に前記光を集光するレンズの機能を備えていることを特徴とする請求項1記載の光記録再生装置。
【請求項3】
前記光照射装置は、前記光を発生する光源と、前記光源からの光を通過する偏光ビームスプリッタと、前記偏光ビームスプリッタからの光を受ける1/4波長板と、前記1/4波長板からの光を受け、前記スライダーおよび前記金属ナノ粒子構造に送出するとともに前記増幅されたレイリー散乱光を前記1/4波長板に送出するZ偏光板と、を備え、前記1/4波長板は前記Z偏光板から送られてきた前記レイリー散乱光を前記偏光ビームスプリッタに送出し、前記偏光ビームスプリッタは前記1/4波長板から送られてきた前記レイリー散乱光を前記検出装置に送出することを特徴とする請求項1または2記載の光記録再生装置。
【請求項4】
前記光照射装置は、前記光を発生する光源と、前記光源からの光を伝播する光ファイバーと、前記スライダーの媒体対向面に設けられ前記光ファイバーを伝播した前記光を伝播する光伝播導波路と、を備え、
前記検出装置は、前記スライダーからの増幅された前記レイリー散乱光を集光するレンズと、前記レンズによって集光された前記レイリー散乱光を反射するミラーと、前記ミラーによって反射された前記レイリー散乱光を検出する検出器と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の光記録再生装置。
【請求項5】
前記光伝播導波路は、近接場光導波路であることを特徴とする請求項4記載の光記録再生装置。
【請求項6】
前記光照射装置は、前記光を発生する光源と、前記光源からの光を反射し、前記金属ナノ粒子構造および前記光記録媒体に照射するミラーと、を備え、
前記検出装置は、前記スライダーからの増幅された前記レイリー散乱光を集光するレンズと、前記レンズによって集光された前記レイリー散乱光を受けるZ偏光板と、前記Z偏光板から送られてくる前記レイリー散乱光を反射するミラーと、前記ミラーによって反射された前記レイリー散乱光を検出する検出器と、を備えていることを特徴とする請求項1記載の光記録再生装置。
【請求項7】
前記光照射装置は、前記光を発生する光源と、前記光源からの光を伝播する光ファイバーとを備え、前記光ファイバーの先端が前記スライダーとなっていることを特徴とする請求項1記載の光記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−210306(P2011−210306A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75839(P2010−75839)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低損失オプティカル新機能部材技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】