説明

光不溶化可能な導電性樹脂

【課題】有機溶剤に可溶で製膜性に優れ、かつ、経済的にも有利な重合体(光不溶化可能な導電性樹脂)提供する。
【解決手段】数平均分子量が1000以上で、式量200以下の光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むことを特徴とする光不溶化可能な導電性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により不溶化する導電性樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性樹脂として知られているポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロールなどは、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、有機電界効果トランジスタ(有機FET)、電池、コンデンサーなどの材料として用いられている。これらの導電性樹脂は、用途によって、薄膜として使用されたり、あるいは、薄膜を形成した後、所定形状にパターニングされて用いられている。
【0003】
例えば、ELディスプレイに備えられる有機EL素子は、陽極と陰極との間に、自ら発光する物質からなる発光層を備えた構造を有するが、発光効率を高め、より輝度が明るく色鮮やかな画像を表示するため、陽極と発光層間、あるいは、陽極および陰極と発光層との間に、正孔(電子)輸送層や正孔(電子)注入層を備えた多層構造の有機EL素子も採用されている。
【0004】
上記正孔(電子)輸送層とは、陽極(陰極)からの正孔(電子)を発光層へと効率よく移動させると共に、発光層に入った電子(正孔)が正孔(電子)輸送層へ移動してくるのを防止する機能を有するものであり、これまで正孔輸送層には、ポリピロールやポリチオフェン等の導電性樹脂が用いられてきた。特にポリチオフェン系化合物は広く使用されており、ポリチオフェンに酸基含有重合体をブレンドして水分散体化したものを陽極上へ塗布して正孔輸送層を形成している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特表2005‐514590号
【特許文献2】WO2005/049688号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ポリチオフェンの水分散体は不純物を多く含むため、本来なら、デリケートな有機EL素子に使用する材料としては好ましくない。また、沸点の高い水を完全に揮発させなければならないため乾燥工程のコストが嵩む上に、酸基含有重合体の酸基が塗工設備を腐食させるという短所もあり、有機溶剤に可溶な正孔輸送層材料が嘱望されていた。
【0006】
本発明は、上述のような事情に着目してなされたもので、その目的は、有機溶剤に可溶で製膜性に優れ、かつ、経済的にも有利な重合体(光不溶化可能な導電性樹脂)提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明の光不溶化可能な導電性樹脂とは、数平均分子量が1000以上で、式量200以下の光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むことを特徴とするものである。
【0008】
なお、本発明において、「導電性」との文言には、半導体程度の電気伝導性も含まれるものとする。
【0009】
上記光不溶化可能な基は、ハロゲノエテニル基および/又はボロン酸誘導体基であり、かつ、上記trans‐ポリ(アリーレンビニレン)の末端基として存在しているのが好ましく、上記ハロゲノエテニル基は、ブロモエテニル基であるのが望ましい。
【0010】
上記trans‐ポリ(アリーレンビニレン)に含まれるアリーレン基が、化学式(1)〜(18)で表される構造を有するか、又は、これらの誘導体のいずれかであるのが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
上述の導電性樹脂を含有する樹脂膜に、波長200〜600nmの光を照射して得られる導電性樹脂膜も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る導電性樹脂は、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むものであるため、高価な触媒や、立体構造を制御する複雑な反応を使用する必要がない。したがって、本発明は、cis‐ポリ(アリーレンビニレン)を使用する場合に比べて、経済的にも、また、操業性の観点からも、有意義なものである。また、光照射によりcis‐trans異性化を起こしても物性変化が生じ難いものと考えられる。
【0014】
本発明の導電性樹脂は、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)、有機FET(有機電電界効果トランジスタ、電池、コンデンサーなどの材料に好適に用いられる。例えば、本発明に係る導電性樹脂をEL素子の正孔輸送層として使用した、高性能で、高輝度なEL素子の製造が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、ポリ(アリーレンビニレン)についての研究に取り組んでおり、例えば、特許文献2では、特定の比率で混合したcis‐ポリ(アリーレンビニレン)とtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を、パターニング材料として用いることを提案している。この技術は、立体構造の違いにより有機溶剤への溶解度が異なること、ポリ(アリーレンビニレン)薄膜に紫外光を照射すると、ポリ(アリーレンビニレン)の主鎖のビニレン部位が、シス(cis)構造からトランス(trans)構造へと異性化すると共に、溶解性が低下する現象を利用するものである。
【0016】
しかしながら、ポリ(アリーレンビニレン)の主鎖のビニレン部位を完全にシス構造に制御するためには、ポリマー合成段階のみならず、モノマーの合成段階から高価な触媒を使用する必要があり、主鎖のビニレン部位が完全にシス構造に制御されたcis‐ポリ(アリーレンビニレン)を調整することは容易ではなかった。
【0017】
また、ポリ(アリーレンビニレン)薄膜の溶解性の低下現象について更なる検討を重ねたところ、この溶解性の低下は、ポリマーの主鎖構造ではなく、ポリマーの分子量と、その末端基構造に深く関係するとの新たな知見が得られたのである。
【0018】
上記知見を基に完成された本発明の光不溶化可能な導電性樹脂とは、数平均分子量が1000以上で、式量200以下の光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むところに特徴を有するものである。
【0019】
まず、上記trans‐ポリ(アリーレンビニレン)について説明する。本発明で使用するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)は、下記一般式(1)で表される構造を繰り返し単位として有する重合体である。
【0020】
【化2】

【0021】
(上記一般式(1)中、Ar及びAr’は、互いに独立し、同一または、異なるアリーレン基を示し、nは1以上の整数を示す。)
【0022】
上記Ar及びAr’(アリーレン基)は、芳香族性を有する環式有機化合物であって、炭素のみからなる炭素環化合物であっても、O,N,Sなどのヘテロ原子を含む複素環化合物であってもよい。また、上記アリーレン基は、単一の環構造を有する単環化合物であってもよく、2以上の環構造を有する縮合環化合物であってもよく、置換基を有していてもよい。上記アリーレン基は、1〜20個の炭素原子を有するものであるのが好ましく(より好ましくは炭素数3〜12)、5〜6員環であるのが好ましい。なお、O,N,S等のヘテロ原子を含む場合には、かかるヘテロ原子は1〜4個であるのが好ましい(より好ましくは1〜2個)。具体的なアリーレン基(Ar、Ar’)の構造としては、例えば、下記の化学式(1)〜(18)で表される構造を有するものやこれらの誘導体が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
ここで、上記アリーレン基に結合する(一般式(1)に記載された)二つのビニル基の芳香環又は複素環上における位置関係は特に限定されるものではない。例えば、Ar、Ar’がベンゼンの場合、二つのビニル基はオルト、メタ、パラのいずれの位置関係を有していてもよい。また、上記化学式(1)〜化学式(18)の構造を有する誘導体とは、上記アリーレン基の芳香環または複素環上の水素原子の代わりにアルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、フッ素基などの置換基が結合したものを意味する。ポリ(アリーレンビニレン)の有機溶媒に対する溶解性を向上させる観点からは、炭素数3以上のアルキル基やアルコキシ基を有するものであるのが好ましい。上記アリーレン基の中でも化学式(1),(3),(10),(11),(15),(18)で表される構造を有するもの、あるいはその誘導体が好ましい。置換基としてはアルコキシ基を有するものが好ましい。
【0025】
また、上記アリーレン基に結合する置換基は、後述するハロゲノエテニル基やボロン酸誘導体基などの光不溶化可能な基であってもよい。すなわち、本発明の導電性樹脂は、末端基として光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)に加えて、ポリマー鎖の途中のAr、Ar’に、ブロモエテニル基が結合したtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含んでいてもよい。
【0026】
上述のように、本発明の導電性樹脂は、特定の分子量を有するところに特徴を有するものであり、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、標準物質:ポリスチレン)により測定される数平均分子量が1000以上である。より好ましくは5000以上であり、さらに好ましくは10000以上である。分子量が小さすぎる場合には、光照射による不溶化が不十分となる場合がある。なお、分子量の上限に限定はないが、有機溶媒への溶解性(製膜時の作業性)の観点からは100万以下であるのが好ましい。より好ましくは10万以下であり、さらに好ましくは5万以下である。
【0027】
本発明にかかる導電性樹脂は、上記のように式量200以下の光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含有するものである。式量200以下の光不溶化可能な基としては、ハロゲノエテニル基および/またはボロン酸誘導体基などが挙げられる。具体的な光不溶化可能な基としては、クロロエテニル基、ブロモエテニル基、ヨードエテニル基などのハロゲノエテニル基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基などのボロン酸誘導体基が例示できる。上記光不溶化可能な基の式量は200以下であるのが好ましく、より好ましくは120以下である。
【0028】
本発明者らの検討によれば、かかる光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含む場合に、光照射されたtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)薄膜の溶解性が低下することが明らかとなっている。なお、上記式量200以下の光不溶化可能な基を有する場合に溶解性が低下することの詳細な理由は明らかではないが、光照射により、上述の光不溶化可能な基とtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)との間に何らかの反応が生じ、その結果、ポリ(アリーレンビニレン)がさらに高分子量化し、溶解性の低下が起こるものと考えられる。
【0029】
なお、光不溶化可能な基は、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)の両末端に存在しているのが好ましいが、片末端のみにブロモエテニル基が存在しているものであってもよい。
【0030】
上記特定の末端基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)は本発明に係る導電性樹脂100質量%に対して10質量%以上存在しているのが好ましい。より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、全てが上記特定の末端基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)であってもよい。上記末端基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)の含有量が少ない場合には、光照射による溶解性の低下が不十分となる場合がある。
【0031】
なお、末端に光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)はプロトンNMR測定や元素分析により確認することができる。また、本発明に係る導電性樹脂が、末端に光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)と、末端に光不溶化可能な基を有さないtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)との混合物である場合、光不溶化可能な基を末端に有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)の含有量も同様に、プロトンNMR測定や元素分析により確認できる。例えば、末端の光不溶化可能な基としてブロモエテニル基を有する化合物をプロトンNMR測定により分析する場合、末端のブロモエテニル基に由来するプロトンのピークの積分比から、上記末端基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)の存在量を算出することができる。
【0032】
なお、本発明の導電性樹脂は、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むものであるが、例えば本発明の導電性樹脂100%中10〜90質量%程度であれば、本発明に係る導電性樹脂以外の他の導電性樹脂を含んでいてもよい。他の導電性樹脂としては、例えば、cis‐ポリ(アリーレンビニレン)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン等が挙げられる。
【0033】
本発明にかかるtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)は、第1のアリーレン化合物と、第2のアリーレン化合物とを重縮合させることにより得られる。具体的なtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)の製造方法としては、第1のアリーレン化合物と、第2のアリーレン化合物とをパラジウム触媒下でカップリング反応させる方法(鈴木‐宮浦カップリング)、Gilch法、Honer‐Emons反応、Stilleカップリング反応、Witting‐Honer反応の後、末端処理をする方法などが挙げられる。
【0034】
第1のアリーレン化合物と、第2のアリーレン化合物とをパラジウム触媒下でカップリング反応させてtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を製造する場合(鈴木‐宮浦カップリング)、まず、第1のアリーレン化合物と、第2のアリーレン化合物とを有機溶媒に溶解させる。次いで、ここに、第1または第2のアリーレン化合物に対して1〜5当量の塩基と、第1または第2のアリーレン化合物に対して0.1〜10mol%のパラジウム触媒を加える。その後、遮光条件下、40〜120℃で加熱攪拌すれば、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)が得られる。
【0035】
上記第1のアリーレン化合物としては、cis体またはtrans体のハロゲノエテニル基が少なくとも二つ結合したアリーレン化合物が挙げられる。ここで、アリーレン基としては、1〜20個の炭素原子を有するものであるのが好ましく(より好ましくは炭素数3〜12)、5〜6員環であるのが好ましい。なお、O,N,S等の元素を含む場合には、かかる元素は1〜4個であるのが好ましく(より好ましくは1〜2個)、具体的には、上述の一般式(1)〜(18)で示される構造を有するアリーレン基に、cis‐またはtrans‐ブロモエテニル基が結合したものが挙げられる。
【0036】
上記アリーレン基には、ハロゲノエテニル基以外の置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、炭素数3以上のアルキル基やアルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、フッ素基などが挙げられる。なお、塗膜形成用の塗布溶液を調整する観点からは、上記置換基は、有機溶媒への溶解性を向上させ得るものであるのが好ましい。かかる置換基としては、炭素数3(より好ましくは炭素数6以上)のアルキル基(例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基など)、炭素数3以上(より好ましく波炭素数6以上)のアルコキシル基(ヘキシロキシ基、2‐エチル‐ヘキシロキシ基、オクチロキシ基)が挙げられる。
【0037】
第1のアリーレン化合物の具体例としては、1,4‐ビス(trans‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン、1,4‐ビス(cis‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン、2,7‐ビス(trans‐ブロモエテニル)‐9,9‐ジヘキシルフルオレン、ビス(cis‐ブロモエテニル)‐9,9‐ジヘキシルフルオレン、ビス(trans‐ブロモエテニル)フルオレン、ビス(cis‐ブロモエテニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0038】
なお、第1のアリーレン化合物は、trans‐ハロゲノエテニル基、cis‐ハロゲノエテニル基のいずれを有するものであってもであってもよい。第1のアリーレン化合物がcis‐ハロゲノエテニル基を有する場合には、第2のアリーレン化合物とのカップリング反応後の反応溶液に紫外線を照射すれば、cis体からtrans体への異性化が起こるため、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)溶液が得られる。
【0039】
第2のアリーレン化合物としては、少なくとも二つのボロン酸が結合したアリーレン化合物が挙げられる。第2のアリーレン化合物は、第1のアリーレン化合物に対して1当量用いるのが好ましい。
【0040】
第2のアリーレン化合物の有するアリーレン基としては、第1のアリーレン化合物と同様のアリーレン基が挙げられる。すなわち、第2のアリーレン化合物は、ハロゲノエテニル基の代わりにボロン酸が結合していること以外は、第1のアリーレン化合物と同様のアリーレン基を有するものである。具体的な第2のアリーレン化合物としては、1,4‐ジオクチロキシ‐2,5‐ベンゼンジボロン酸、1‐(2‐エチルヘキシロキシ)‐4‐メトキシ2,5‐ベンゼンジボロン酸、1,4‐ビス[(S)‐2‐メチルブトキシ]‐2,5‐ベンゼンジボロン酸などが例示できる。
【0041】
なお、第1、第2のアリーレン化合物として、二つのハロゲノエテニル基、または、二つのボロン酸が結合した化合物を用いる場合には、線状の広がりを有するポリマーが得られるが、平面に広がる構造を有するポリマーを得たい場合には、第1および/または第2アリーレン化合物として、ハロゲノエテニル基やボロン酸のような反応性の官能基を3つ以上有する化合物を、2つ以上のハロゲノエテニル基またはボロン酸有する第1、第2アリーレン化合物と組み合わせて用いればよい。
【0042】
上記反応において、第1アリーレン化合物と、第2アリーレン化合物との混合割合は70(第1のアリーレン化合物)/30(第2のアリーレン化合物)〜30/70とするのが好ましい。より好ましくは55/45〜45/55である。
【0043】
上記反応で使用可能な塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸カリウム、酸化銀、又はこれらの水溶液などを用いることができる。パラジウム触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(1,1’‐ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウムなどが挙げられる。有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、N,N‐ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキサンなどが挙げられる。攪拌時間は12〜60時間(より好ましくは12〜24時間)とするのが好ましい。
【0044】
上記、Gilch法、Honer‐Emons反応、Stilleカップリング反応については、Synthetic Metals 150 (2005) の297-304頁に詳細に記載されているが、例えば、Gilch法で、本発明に係る導電性重合体を製造する場合であれば、それぞれ二つのハロゲン化メチル基を有する第1アリーレン化合物と第2アリーレン化合物(第1、第2アリーレン化合物の有するアリーレン基は同一でも、互いに異なるものであってもよい。)を使用すればよい。まず、第1アリーレン化合物を有機溶媒(例えば、THFなど)に溶解させる。ここに、窒素気流下で、第2アリーレン化合物を加えて反応させ、さらに、第1または第2アリーレン化合物に対して100〜1000mol%の金属アルコキシド(例えばt‐ブトキシカリウム)を速やかに加える。その後、1〜48時間還流させれば、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)が粘稠な粗生成物として得られる。これを、遠心分離機などを用いて精製すれば、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)が得られる。
【0045】
Honor‐Emmons法により本発明の導電性樹脂を製造する場合には、2つのホスホリル基を有する第1のアリーレン化合物と、二つのホルミル基を有する第2のアリーレン化合物を原料として使用すればよい。
【0046】
まず、第1のアリーレン化合物を有機溶媒(例えばDMFなど)に溶解させ、ここに第1のアリーレン化合物に対して100〜1000mol%の金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド)を滴下して加える。次いで、1〜48時間攪拌した後、所定量のメタノールを加えれば、生成物(trans‐ポリ(アリーレンビニレン))が沈殿として生成するので、この沈殿物を、ソックスレー抽出装置などを使用して精製すれば、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)が得られる。
【0047】
Stilleカップリング法で本発明に係る導電性樹脂を製造する場合には、ジハロゲン化アリーレン化合物と、アルキルスタンニルエテンを使用すればよい。まず、ジハロゲン化アリーレン化合物を有機溶媒(例えば、トルエンなど)に溶解させる。ここに、上記アリーレン化合物に対して0.01〜10mol%のパラジウム触媒(例えば、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウムなど)とアルキルスタンニルエテンを加えた後、80〜130℃で1〜48時間還流させる。次いで、反応溶液を室温まで冷却した後、所定量のメタノールを加えれば、粗trans‐ポリ(アリーレンビニレン)が沈殿物として得られるので、これを精製すればtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)が得られる。
【0048】
上述の方法の中でも、経済的な観点からは、Pdなどの重金属を触媒として使用するカップリング反応に比べて、安価なアルカリ金属(例えばKなど)で合成が可能なGilch法やHonor‐Emmons反応を採用するのが好ましい。
【0049】
次に、本発明の導電性樹脂を使用して薄膜を形成する方法について説明する。上記製造方法により得られたtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含む本発明の導電性樹脂を、1種または2種以上の混合溶媒に溶解させて、塗布溶液を調製すれば、溶液塗布法、例えば、スピンコート法、キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法などの公知の方法により、簡単に塗布膜を形成することができる。これらの中では、スピンコート法が容易であるため好ましい。
【0050】
溶液濃度は、所望の膜厚に応じて適宜変更可能である。ピンホールの発生を抑制するためには、膜厚は0.5nm以上、より好ましくは1nm以上とすることが推奨される。膜厚の上限は特に限定されないが10μm以下とするのが好ましく、1μm以下が好ましい。これらの厚みの膜を溶液塗布法で製造する場合には、溶液濃度は0.01〜10質量%程度とするのが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。例えば、スピンコート法で塗布膜を形成する場合には、室温付近で、基材を100〜8000rpmで60秒間回転させながら、溶媒を乾燥させるのが好ましい。スピンコート後、必要に応じて、減圧乾燥や、20〜200℃の加熱処理を行なってもよい。
【0051】
塗布膜の導電性を向上させるなどの目的に応じて、I,Brなどのハロゲン、Na,Kなどのアルカリ金属、p‐トルエンスルホン酸などのスルホン酸類といったドーパントやその他の化合物などを導電性樹脂溶液(塗布溶液)に混入させてもよい。
【0052】
塗布膜形成時の溶媒としては、本発明の導電性樹脂が溶解し得るものであれば特に限定はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、テトラヒドロフランなどのエーテル系の有機溶媒が挙げられる。塗布膜を形成する基材についても限定はなく、ガラス、シリカ、樹脂フィルムなど、本発明の導電性樹脂膜を使用する用途に応じて適宜決定すればよい。
【0053】
上述のようにして形成した塗布膜に、波長200〜600nmの光を照射すれば、有機溶剤に対して不溶な薄膜が得られる。照射時間は限定されないが、例えば1〜4000秒とするのが好ましい。光源としてはキセノンランプ、重水素ランプ等が用いられる。
【0054】
なお、cis‐ポリ(アリーレンビニレン)から成る薄膜の場合には、光異性化によるポリマー主鎖構造の変化によって導電性などへの影響も予想されるが、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含む本発明の導電性樹脂で形成された塗布膜は、光照射してもcis体のようなポリマー主鎖の構造変化は起こらないため、cis体の場合に考えられる主鎖構造に由来する導電性への影響も生じ難いものと考えられる。
【0055】
本発明の導電性樹脂は薄膜に限られず、様々な形状(例えば、立方体、直方体、錐体、柱体、球など)の成形体の製造にも用いることができる。また、光で不溶化しないその他の樹脂と組み合わせて用いれば、パターニング材料としても使用することもできる。かかる場合には、本発明の導電性樹脂と、光不溶化しないその他の樹脂とを含む塗布溶液から塗布膜を形成し、光を照射して本発明に係る導電性樹脂を不溶化させた後、溶剤によりその他の樹脂を溶出させればよい。本発明の導電性樹脂によれば、レジストを用いることなく、直接導電性樹脂膜のパターニングを行うことができる。
【0056】
また、本発明の導電性樹脂は、アリーレンビニレンの芳香環や複素環上の置換基を変更することによって、有機EL、有機FET、電池、コンデンサーといった各種用途に応じた特性を持たせることもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0058】
[実施例1]
1,4‐ビス(trans‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン(58mg,0.20mmol)、1,4‐ジオクチロキシ‐2,5‐ベンゼンジボロン酸(76mg,0.20mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(3.5mg,0.003mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(65mg,0.20mmol)を、10mlシュレンク管に入れ、窒素置換した。ここにトルエン(1ml)、3Mの水酸化カリウム水溶液(0.2ml,0.6mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、水(3ml)で3回洗浄し、攪拌しているメタノール(50ml)中に注いだ。このとき析出した沈殿をろ取し、メタノールで洗浄、乾燥してオレンジ色固体を得た(51.1mg、55%)。
【0059】
得られた固体を重クロロホルム(CDCl,基準物質:テトラメチルシラン)に溶解し、H‐NMR測定(300MHz、Varian社製、Mercury 300)を行ったところ、trans‐ポリ(フェニレンビニレン)(以下、trans‐PPVと略す。)が99%以上を占めるものであることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:1/99以上)。また、得られたtrans‐PPV約1mgをTHFに溶解させて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、JASCO社製、カラム:KF-801, KF-803L, KF-805L、Shodex社製、標準物質:ポリスチレン)分析を行った結果、数平均分子量(M)1653、多分散度1.39(ポリスチレン基準)であった。
【0060】
なお、このとき得られたtrans‐PPVのH‐NMRチャートは複雑で、その末端構造を分析することが困難であったため、元素分析によりBr含有量を測定し、この値をtrans‐PPVの末端に存在するブロモエテニル基量として表1に記載した。元素分析は、元素分析装置(試料前処理部:自動試料燃焼装置 AQF‐100 株式会社ダイアインスツルメンツ製、イオンクロマトグラフ:ICS-1500 (電気伝導度検出、サプレッサー(SRS)型)、カラム:DIONEX Ion Pac AS12A、DIONEX社製)を用いて行った。その結果、得られたtrans‐PPV中にはBrが7.03%含まれていることが確認された。上記測定結果を表1に示す。
【0061】
[薄膜の形成と、薄膜残存率の測定]
吸光度Aの測定
実施例1で得られたPPV(約2mg)をクロロホルム(1ml、紫外部吸収スペクトル用)に溶解させ、シリンジフィルター(ADVANTEC;DISMIC‐13 JP、PTFE 0.50μm、Hydrophobic)で濾過した。この溶液50μlを石英板(1cm×0.9cm×0.5mm)上に垂らした後、スピンコーター(ミカサ株式会社製「1H‐DX2」)を用い、2秒かけて1200rpmにし、1200rpmで10秒間、続いて2000rpmで60秒間回転させて製膜した。これを減圧下、室温(25℃)で30分間乾燥させて、石英基板上にtrans‐PPVの薄膜を作製した。
【0062】
得られた基盤を紫外可視吸収スペクトル測定用石英セルに入れた後、窒素置換し、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製、V‐550)を使用して、250nmから700nmの領域の紫外可視吸収スペクトルを測定した(図1:光照射前)。
【0063】
次に、石英ガラス窓のあるステンレスホルダーにPPV薄膜を有する石英基板を設置し、窒素置換した。キセノンランプ(朝日分光株式会社製、LAX101)を使用して、窒素気流下、室温で、PPV薄膜を有する石英板に紫外光(主波長365nm、照度21.0mW/cm)を1時間照射した。その後、ステンレスホルダーから基板を取り出し、紫外可視吸収スペクトルを上述の方法で測定した。このとき得られた吸光度をAとする(図1:吸光度A)。
【0064】
吸光度Bの測定
ピンセットを使用して、クロロホルム(3ml、紫外部吸収スペクトル用)に基板を浸し、5秒間振り混ぜた。次いで、基板を取り出し、新たなクロロホルム(3ml、紫外部吸収スペクトル用)に1秒間浸した後、膜が破壊されないように基板表面の液滴をキムワイプで吸い取り、減圧下、室温(25℃)で乾燥させた後、上述の方法で紫外可視吸収スペクトルを測定した。このときの吸光度Bとする(図1:吸光度B)。
【0065】
得られた吸光度Aと吸光度Bの値を基に、薄膜の残存率を算出した。薄膜の残存率は28.9%であった。
薄膜の残存率=(B/A)×100
【0066】
[実施例2]
10mlのシュレンク管に、1,4‐ビス(cis‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン(58mg,0.20mmol)、1,4‐ジオクチロキシ‐2,5‐ベンゼンジボロン酸(84mg,0.19mmol)のトルエン溶液(2ml)を加えたシュレンク管(容量10ml)に、3Mのリン酸カリウム水溶液(0.2ml,0.6mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(65mg,0.20mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(1.2mg,0.001mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、攪拌しているメタノール(50ml)中に注ぎ、析出した沈殿をろ取し、メタノールで洗浄して黄土色固体を得た(81mg,88%)。
【0067】
得られた固体をCDClに溶解しH‐NMR測定を行ったところ、PPV中に占めるcis‐PPVの割合が99%以上であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:99/1以上であることが確認された。H‐NMRチャートから、末端に存在するジオクチロキシベンゼンボロン酸のオクチロキシ基(3.97ppm),ブロモエテニル基(6.89ppm),ジオクチロキシフェニル基のオクチロキシ基(3.89ppm)の夫々に由来するプロトンのピークの積分比を比較して、得られたcis‐PPVの末端構造を分析した。また、GPC(ポリスチレン基準)により分析を行った結果、数平均分子量は3485、多分散度は1.55であった。
【0068】
得られたcis‐PPV(26.5mg)を50mlのメスフラスコに入れ、ベンゼン(50ml、分光分析用)に溶解させた。10分間窒素バブリングを行った後、この溶液を、予め窒素置換した石英シュレンク管へカニューレ(cannula)で移した。窒素気流下、紫外光(キセノンランプ、主波長365nm、照度21.0mW/cm)を照射しながら室温で13時間攪拌した。反応溶液を濃縮し、オレンジ色の固体を得た(25.6mg、97%)。
【0069】
得られたオレンジ色固体をCDClに溶解し、H‐NMR測定を行ったところ、PPV中に占めるtrans‐PPVの割合が97%であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:3/97)。結果を表1に示す。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は4290、多分散度は2.14であった。さらに、実施例1と同様の方法で元素分析を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【0070】
得られたPPV(約2mg)を用いて、実施例1と同様の方法で薄膜残存率の測定を行った(図2)。薄膜の残存率は43.3%であった。
【0071】
[実施例3]
1,4‐ビス(cis‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン(288mg,1.0mmol)、1,4‐ジオクチロキシ‐2,5‐ベンゼンジボロン酸(433mg,1.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(17.5mg,0.015mmol)、臭化テトラブチルアンモニウム(322.5mg,1.0mmol)を、20mlシュレンク管に入れ、窒素置換した。ここに、トルエン(5ml)、3Mの水酸化カリウム水溶液(1.0ml,6.0mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、塩化メチレン(10ml)を加え、水(15ml)で3回洗浄し、攪拌しているメタノール(250ml)中に注いだ。このとき析出した沈殿をろ取し、メタノールで洗浄して、茶色固体を得た(419.8mg、91%)。
【0072】
この固体をCDClに溶解し、H‐NMR測定を行ったところ、PPV中に占めるcis‐PPVの割合が99%以上であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:99/1以上)。このとき同時に、得られたcis‐PPVの末端構造も分析した。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は6620、多分散度は3.14であった。さらに、実施例1と同様の方法で元素分析を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【0073】
次いで、窒素置換した500mlシュレンク管に、得られたcis‐PPV(210mg)を入れ、ベンゼン(500ml、分光分析用)に溶解させた。30分間窒素バブリングを行った後、窒素気流下、紫外光(キセノンランプ、主波長365nm、照度6.4mW/cm)を照射しながら室温で37時間攪拌した。反応溶液を濃縮し、オレンジ色の固体を得た(206mg、98%)。
【0074】
得られたオレンジ色固体をCDClに溶解し、H‐NMR測定を行ったところ、PPV中に占めるtrans‐PPVの割合が87%であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:13/87)。結果を表1に示す。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は10667、多分散度は13.15であった。
【0075】
得られたPPV(約2mg)を用いて、実施例1と同様の方法で薄膜残存率の測定を行った(図3)。薄膜の残存率は81.0%であった。
【0076】
[比較例1]
1,4‐ビス(cis‐2‐ブロモエテニル)ベンゼン(174mg,0.60mmol)、1,4‐ジオクチロキシ‐2,5‐ベンゼンジボロン酸(262mg,0.60mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(7mg,0.006mmol)を、10mlシュレンク管に入れ、窒素置換した。そこへ、トルエン(3ml)、3Mの水酸化カリウム水溶液(0.6ml,1.8mmol)を加え、遮光条件下、80℃で24時間攪拌した。この反応溶液に2,5‐ジオクチロキシボロン酸(382mg,1mmol)を加え、遮光条件下、80℃で48時間攪拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、水(6ml)で3回洗浄し、攪拌しているメタノール(100ml)中に注いだ。このとき析出した沈殿をろ取し、メタノールで洗浄し、明るい黄色固体を得た(237mg、99%以上)。
【0077】
得られた黄色固体をCDClに溶解し、H‐NMR測定を行ったところ、PPV中に占めるcis‐PPVの割合が99%以上であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:99/1以上)。このとき同時に、得られたtrans‐PPVの末端基構造を分析した。結果を表1に示す。また、GPCによる分析の結果、数平均分子量は2400、多分散度は1.24(ポリスチレン基準)であった。さらに、実施例1と同様の方法で元素分析を行った。これらの測定結果を表1に示す。
【0078】
なお、マトリックス支援レーザー脱離イオン化 飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOF/MS、Applied Biosystems社製、Voyager-DE STR、マトリックス:ジスラノール(1,8‐ジヒドロキシ‐9(10H)‐アントラセン)により分析したところ、ブロモエテニル基を有するPPVに由来するピーク(分子量(M‐HBr):1381.6、1842.1など)はほとんど検出されなかった。また、NMR分析の結果から、末端基として存在するブロモエテニル基(−CH=CHBr)は1%未満であり、このとき得られたcis‐PPVには、末端ブロモエテニル基がほとんど存在していないことが確認された。
【0079】
得られたcis‐PPV(約2mg)を用いて、実施例1と同様の方法で薄膜残存率の測定を行った(図4)。薄膜の残存率は1.7%であった。
【0080】
[比較例2]
1,4‐ビス(trans‐2‐(ジメチルチエニルシリル)エテニル)ベンゼン(82mg,0.20mmol)、2,5‐ジヨード‐1,4‐ジオクチロキシベンゼン(117mg,0.20mmol)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(10mg,0.02mmol)を、10mlシュレンク管に入れ、窒素置換した。そこへ、THF(1.6ml)と、1.0Mのフッ化テトラブチルアンモニウムTHF溶液(0.4ml,0.4mmol)を加え、室温で24時間攪拌した。この反応溶液を、攪拌しているメタノール(50ml)中に注いだ。このとき析出した沈殿をろ取し、メタノールで洗浄して暗茶色固体を得た(87.7mg、95%)。さらにこれをクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿させて精製した。
【0081】
得られた固体をCDClに溶解し、H‐NMR測定を行ったところ、得られた固体はtrans‐PPVが100%であることが確認された(cis‐PPV/trans‐PPVの比率:0/100)。このとき同時に、得られたtrans‐PPVの末端基構造を分析した。結果を表1に示す。また、GPCにより分析を行った結果、数平均分子量は7235、多分散度は1.81であった。
【0082】
得られたtrans‐PPV(約2mg)を用いて、実施例1と同様の方法で薄膜残存率の測定を行った(図5)。薄膜の残存率は7.9%であった。
【0083】
表1に、実施例1〜3および比較例1,2の結果を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
なお、実施例2は、cis‐PPVを光異性化させてtrans‐PPVを調製したものである。実施例2では、光異性化前後の元素分析結果において、cis‐PPVのBr含有量が2.63%、trans‐PPVのBr含有量が2.67%と、cis体、trans体で同等のBr含有量を示したため、光異性化に際して末端構造は変化しないものと仮定して、光異性化前のcis‐PPVの末端構造を、実施例2のtrans‐PPV末端構造として、上記表1中に記載した(実施例3も同様)。また、比較例1の末端構造の光不溶化可能な基欄の「0*」は、検出限界以下(1%以下)であったことを示す。
【0086】
表1の結果より、実施例1〜3で得られた導電性樹脂は比較例1,2の場合に比べて、残存塗膜量が多く、光の照射により溶剤に不溶な導電性塗膜が生成していることが分かる。また、trans‐PPVが、末端基として光不溶化可能な基であるブロモエテニル基を有し、かつ、数平均分子量が4000を超える場合には、塗膜の残存量が特に多い(実施例2、3)。
【0087】
一方、比較例1ではcis‐PPV溶液を使用し、比較例2ではtrans‐PPV溶液を使用して、それぞれ薄膜を形成したが、比較例1,2のPPVはいずれも末端基として光不溶化可能な基を有しておらず、膜の残存率は低いものであった。これらの結果より、ポリ(アリーレンビニレン)薄膜の不溶化は、ポリ(アリーレンビニレン)の分子量、および、末端基構造に関係するものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の導電性樹脂は、trans‐ポリ(アリーレンビニレン)から成るものであるため、立体構造の制御に高価な触媒や特殊な反応を使用する必要がないため、経済的にも、工業的にも、経済的にも有用なものである。
【0089】
本発明の導電性樹脂は、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)、有機FET(有機電電界効果トランジスタ、電池、コンデンサーなどの材料に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1の薄膜の残存率を示す紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例2の薄膜の残存率を示す紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例3の薄膜の残存率を示す紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図4】比較例1の薄膜の残存率を示す紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図5】比較例2の薄膜の残存率を示す紫外可視吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1000以上で、式量200以下の光不溶化可能な基を有するtrans‐ポリ(アリーレンビニレン)を含むことを特徴とする光不溶化可能な導電性樹脂。
【請求項2】
上記光不溶化可能な基が、ハロゲノエテニル基および/又はボロン酸誘導体基であり、かつ、上記trans‐ポリ(アリーレンビニレン)の末端基として存在するものである請求項1に記載の光不溶化可能な導電性樹脂。
【請求項3】
上記ハロゲノエテニル基がブロモエテニル基である請求項2に記載の光不溶化可能な導電性樹脂。
【請求項4】
上記trans‐ポリ(アリーレンビニレン)に含まれるアリーレン基が、化学式(1)〜(18)で表される構造を有するか、又は、これらの誘導体のいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の光不溶化可能な導電性樹脂。
【化1】

【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の導電性樹脂を含有する樹脂膜に、波長200〜600nmの光を照射して得られものであることを特徴とする導電性樹脂膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−238725(P2007−238725A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61895(P2006−61895)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月29日 京都大学化学研究所講演委員会発行の「京都大学化学研究所第105回研究発表会講演要旨集」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】