光偏向素子、光偏向モジュール及び光スイッチモジュール、並びに光偏向方法
【課題】高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ製作が容易な微小な光偏向素子の提供。
【解決手段】入力チャネル導波路0001と、入力スラブ導波路0002と、第1導波路アレイ0005及び光路長が等しい第2導波路アレイ0006と、出力スラブ導波路0004とが順次接続された光偏向素子であって、第2導波路アレイ0006は、異なった長さの屈折率変調領域0007を備え、第2導波路アレイ0006のチャネル導波路のコア幅が,第1導波路アレイ0005のチャネル導波路のコア幅よりも広い光偏向素子。
【解決手段】入力チャネル導波路0001と、入力スラブ導波路0002と、第1導波路アレイ0005及び光路長が等しい第2導波路アレイ0006と、出力スラブ導波路0004とが順次接続された光偏向素子であって、第2導波路アレイ0006は、異なった長さの屈折率変調領域0007を備え、第2導波路アレイ0006のチャネル導波路のコア幅が,第1導波路アレイ0005のチャネル導波路のコア幅よりも広い光偏向素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子、光偏向モジュール及び光スイッチモジュール、並びに光偏向方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの大容量化、高速化ならびに高機能化に対する要求が急激に高まっており、このような、光通信システムに用いられる光信号処理デバイスとして、光信号の伝送経路を切り替える光スイッチが不可欠である。1つのポートから入力された光を複数(N個)の出力ポートの中から所望のポートへ出力させる1×N型のマルチチャネルスイッチング素子において、光通信システムの大容量化から、スイッチング可能なチャネル数増大への要求が増加している。
【0003】
1×N型光スイッチ素子として、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれるマイクロマシン技術を用いた光スイッチや、導波路交差部分に導波路と等しい屈折率を有するオイルを充填しておき、加熱により気泡を発生させ、交差部分での光の反射を発生させることにより光路を切り替える光スイッチ等も開発されているが、これらのデバイスにおけるスイッチング時間はミリ秒程度と遅く、すなわち経路切り替えの速度が遅いという問題がある。ネットワークにおける高速化は更に進んでおり、高速な光スイッチが切望されている。
【0004】
高速に屈折率を変化させる方法として、電気光学効果を利用した方式(電気光学効果方式)がある。LiNbO3(LNと略称される。)やLiTaO3(LTと略称される。)に代表されるような電気光学結晶材料は電圧の印加に対する応答速度が極めて速く、フェムト秒(fs)程度の電界変化にも瞬時に応答する。この電気光学効果による屈折率変調を利用することによりナノ秒(ns)オーダーの極短時間で光の経路切り替えが可能である。すなわち、極めて高速に駆動する光スイッチが実現される。
【0005】
しかし、バルク結晶を用いる電気光学光スイッチング素子はサイズが大きくなり、またスイッチングに要求される電圧も高く、大容量の超高速スイッチには適さない。超高速スイッチング素子として一般的なのは導波路型光スイッチ素子である。例えば、特許文献1においては、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3)薄膜をパターニングしたY分岐導波路の片側のアームにのみ、薄膜の上下から電圧を印加することで屈折率変調を与え、所望のアームにのみ光を出力させることによる1×2型スイッチが報告されている。また、特許文献2おいては、KTN(KTa1−xNbxO3)が有する巨大な2次の電気光学効果(カー効果)を利用して、マッハ・ツェンダ干渉型デバイスによる2×2型スイッチが報告されている。
【0006】
しかしながら、大規模なマトリクススイッチ等、スイッチングの大容量化のためには、上記の1×2型あるいは2×2型スイッチング素子を多段に接続して分岐を増やす必要がある。例えば、8チャネル程度のスイッチング素子(1×8スイッチ素子)については基本要素である1×2スイッチ素子を用いた場合、3段接続すれば可能であり、基本要素の数は7個であるが、チャネル数が増加し、256チャネルのスイッチング素子を実現するためには基本要素の1×2スイッチ素子を8段接続する必要があり、必要な基本要素の数も255個と非常に多くなる。現状では、一つの基本要素の素子長は数mm程度であり、大規模なマルチチャネルスイッチを構成する際には素子面積が非常に大きくなる。また、出力ポートの切り替えのためには、各基本要素についてそれぞれ独立に電圧を印加する必要があり、導波路型スイッチ素子によって大規模な1×Nスイッチング素子を実現するのが困難である。
【0007】
電気光学効果による高速な屈折率変調を利用したスイッチング素子の他の例として、特許文献3においては、電気光学効果でスラブ光導波路内にプリズムを生じさせ、印加電圧制御により任意の方向にビームを偏向させることによって経路切り替えを行う光スイッチ素子が報告されている。この方式はスイッチ素子の集積化が容易であり、原理的には大規模なマルチチャネルスイッチを構成することが可能である。
【0008】
しかし、電気光学効果による小さな屈折率変化量を利用するため、光ビームの偏向角が小さい。したがって大規模なマルチチャネルスイッチにおいてポートを切り替えるためには、導波路内の伝搬長を100mm程度まで長くする必要があり素子面積が大きくなる。さらに偏向された光ビームは横方向の閉じ込めがないままスラブ導波路内を長距離伝搬するため、導波路材料内の不純物や屈折率の不均一性によるビーム広がりや散乱等の影響を受け易い。以上の問題より、屈折率変調によるプリズム効果を利用した方式でも大規模な1×Nスイッチング素子を実現するのが困難である。
【0009】
上述のように、1×2型あるいは2×2型スイッチング素子を利用した光偏向素子において、100ポートを越えるような大規模なマルチチャネルスイッチング(1×Nスイッチング)動作と超高速な経路切り替えとを同時に実現することは困難である。
【0010】
これに対し、特許文献4においては、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型波長分波器を応用した、波長チャネルを切り替えるスイッチング素子が提案されている。AWG型分波器は、少なくとも1つの入力ポートに対して分波する波長チャネルに応じた複数の出力ポートをもつ。波長多重された光は、それぞれの波長に応じて対応する出力ポートに分波される。ここで、ある波長信号がどの出力ポートから出力されるかは、AWG素子内のアレイ導波路における隣接導波路間の光路長差に依存する。したがって、熱光学効果や電気光学効果等によって導波路に屈折率変調を施すことにより、上記の光路長差を変化させ、出力ポートを変化させることが可能になる。AWGは複数の出力ポートを有することから、1×Nの大規模なマルチチャネルスイッチング素子の候補として魅力的である。
【0011】
AWGを利用したマルチチャネルスイッチングデバイスにおいては、必然的に多くの光導波路を集積化することが要求される。ここで光通信用デバイスに用いられている光回路として、石英系の素材からなる平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)が広く使用されており、これまでに提案されている光スイッチングデバイスにおける光導波路の比屈折率差は、PLCを構成する石英系光導波路の比屈折率差と同程度であることが多い。比屈折率差はコアの屈折率をncore,クラッドの屈折率をncladとしたときに、比屈折率差Δ=(ncore2−nclad2)/(2ncore2)で定義されるパラメータである。石英系導波路は、光ファイバからの光を高効率で導波路に結合させるため、通常はコアとクラッドの比屈折率差が1%程度と小さい。したがって単一モード条件を満たすための導波路の断面寸法を5〜10μm角程度と大きくしなければならない。さらに、導波路を曲げて伝搬方向を変化させる際の曲率半径が1〜25mmと大きくせざるを得ず、このためデバイスサイズを小さくできず、高密度な光回路の集積化に適さない。同様に、PLCと同程度の比屈折率差をもつ導波路型スイッチング素子を集積化して大規模なマルチチャネルスイッチングを実現する際においても、デバイスサイズが非常に大きくなってしまう。
【0012】
特許文献4ではLNをアレイ導波路の構成材料としたスイッチング素子も提案されているが、スイッチングに十分な光路長の変化を与えるために、直線導波路を構成要素とする導波路アレイを挿入している。これはLNが有する電気光学効果による屈折率変化が小さく、有意の光路長変化を得るためには10mm以上の比較的長い伝搬距離が必要であることに起因する。また特許文献4で使用されているLN導波路は、TiをLN内部に熱拡散することによりチャネル型の光閉じ込めを実現しているが、その光閉じ込めの強さはPLCと比較しても非常に弱く、したがって導波路の曲がりに弱い。そこで曲がりを含むアレイ部分にはPLC導波路素子を用い、LNによる直線導波路アレイとのハイブリッド接続によって素子を構成している。
【0013】
一方、PLC導波路に対して、従来の石英系材料と比べて非常に高い屈折率をもつ材料を光導波路のコアとして用いた、微小な光制御デバイスが研究されている。例えば屈折率3以上を有する半導体材料や屈折率2程度の誘電体材料をコアとし、さらにクラッドを空気とすることで、40%程度以上の比屈折率差を実現できる。これにより一般的な石英系PLCデバイスと比較してデバイスサイズを飛躍的に微小化できる。具体的には、無損失で伝搬可能な導波路の曲げ半径は数μmとなり,これは従来の石英系導波路の約1000分の1以下の大きさである。このように、従来の全反射型光導波路と比較して比屈折率差を極めて高く、具体的には10%程度以上としたような光導波路を超高屈折率差(HIC:High Index Contrast)導波路と呼ばれている。
【0014】
HIC導波路を構成するコア材料として代表的なものはシリコンである。シリコンは光通信に用いられる波長1550nm帯の光に対して透明であり、その屈折率は3.5程度と極めて高い。シリコンは元々大きい熱光学効果を有するが、さらにコアが微小化されることから微小領域を加熱するのみで屈折率変調が可能となるため、素子のスイッチングに必要な消費電力が従来のPLC導波路と比較して極めて小さくて済む。
【0015】
その他にも、フリーキャリアのプラズマ分散効果を利用した高速な光変調も可能になりつつある。また、LNやLT、KTNのような電気光学結晶材料やPLZTのようなセラミックス材料はその屈折率が2.0以上と大きく、HIC導波路のコア材料として好適である。電気光学材料をチャネル形状に加工し、その周囲を低屈折率のクラッドで囲むことによりHIC光導波路が構成できることが知られている。
【特許文献1】特開2006−58837号公報
【特許文献2】WO2004−083953号公報
【特許文献3】特開2006−194993号公報
【特許文献4】特許第3053294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献4におけるスイッチング素子の構成では、PLCによる素子の長大化に加えて、異種導波路を接続する際の光軸のトレランスが少なく、接続の微調整等が難しく、更に接続部において過剰損失が生じ易いという問題点がある。すなわち、スイッチング素子の製作コストの増大や、スイッチングに伴う過剰損失の増大といった問題点がある。
【0017】
HIC導波路は伝搬モード径が小さく、光ファイバからの伝搬光や空間伝搬光等を高効率で導波路内に導くことが1つの課題となっている。この課題を解決するいくつかの方法があるが、本発明者らは、例えば、空間伝搬してきた光を高効率でHIC導波路に導く方法を見いだしている。すなわち、高NAを有するレンズを、光の伝搬方向とは平行ではない光軸方向に適切に配置することによって、HIC導波路の出力端面に光を集光することを可能としている。
【0018】
さらに、チャネル形状の電気光学材料への電界形成方法を見いだしている。電気光学材料によるHIC導波路がそのコアへの強い光閉じ込めを可能にすることを利用して、電界を形成するための電極をコアに接近して配置することを可能としている。したがって、材料の屈折率を変調する際の駆動電圧を低くすることができる。このように電気光学材料によるHIC光導波路をスイッチング素子の基本配線とすることによって、素子の高密度集積化および低電圧スイッチング動作が可能となる。
【0019】
以上の技術により、半導体材料や電気光学材料によるHIC導波路に高効率で光を導き、また低消費電力若しくは低駆動電圧にて光スイッチング、すなわち光の経路切り替えが可能となる。HIC導波路を前述のAWG型のスイッチング素子に適用することでコンパクトなスイッチング素子が可能になる。さらに、HIC導波路は急激な曲げが可能であるため、AWGを構成するチャネル導波路およびスラブ導波路を一括集積して形成することが可能である。すなわち特許文献4のように異種のコア材料からなる導波路同士をハイブリッド接続する必要がない。したがって、スイッチング素子がより安価に製作でき、接続部での過剰損失もない。
【0020】
以上のように、HIC導波路を用いたAWG型スイッチング素子によって、コンパクトかつ低コストで高速なマルチチャネルスイッチ素子が可能になる。しかしながらPLC導波路と比較すると、HIC導波路は導波路が単一モードにて動作するためのコアサイズが非常に小さくなり、さらにコアサイズがわずかに変化しただけでも導波路の等価屈折率が大きく変化する。AWGを利用したスイッチング素子は、ミリメーター程度の伝搬長を有する導波路アレイの等価屈折率を変化させることで隣接チャネル導波路間に位相差を与える。したがって、屈折率変調を行わない場合の各チャネル導波路の等価屈折率が均一であることが重要である。しかしながら、HIC導波路では10nm程度のコア幅の変動であっても、等価屈折率へ与える変化量は10−3程度となる。これはLN等の電気光学効果による屈折率変調量より大きい。すなわちHIC導波路によってスイッチング素子を実現するためには、1nm程度のコア幅の変動しか許されず、コア幅の寸法精度に対するトレランスが非常に小さい。
【0021】
本発明においては、これらの問題点を解決するため、高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ製作が容易な微小な光偏向素子、及びこの光偏向素子を利用した光偏向モジュール、光スイッチモジュールの提供、並びに高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ微小な素子によっても偏向できる光偏向方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため本発明者等は、以下の発明を完成した。
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広いことを特徴とする光偏向素子である。
【0023】
好ましい本発明は、前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部において、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が傾斜状に変化して広くなっていることを特徴とする前記光偏向素子である。
【0024】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さいことを特徴とする光偏向素子である。
【0025】
好ましい本発明は、前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部付近において、前記第2の導波路アレイを構成するクラッドが傾斜状に形成されていることを特徴とする前記光偏向素子である。
【0026】
これらの光偏向素子は、微小な素子サイズで、光ビームを高速でマルチチャンネルに偏向ができ、かつ製作においても導波路のトレランスが大きく容易である。
【0027】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイがフォトニック結晶配列を有することを特徴とする光偏向素子である。この光偏向素子は、光スイッチングあるいは光偏向に要求される光伝搬長を短くすることが出来る。
【0028】
好ましい本発明は、前記導波路アレイにおいて、チャネル導波路の間に電界吸収層を有することを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えにおいて、隣接経路への迷光が少ない。
【0029】
好ましい本発明は、複数の出力チャネル導波路が前記出力スラブ導波路の光路出口に接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0030】
好ましい本発明は、チャネル導波路に光路中の光を反射させるミラーを備え、前記入力スラブ導波路は前記出力スラブ導波路を兼ねることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、素子サイズをさらに小型化できる。
【0031】
好ましい本発明は、前記入力スラブ導波路と前記導波路アレイとの接続部、及び/又は前記入力スラブ導波路の入力ポートに接続する入力チャネル導波路を備え入力スラブ導波路と入力チャネル導波路との接続部において、チャネル導波路及び/又は入力チャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0032】
好ましい本発明は、前記出力スラブ導波路と前記出力チャネル導波路及び/又は前記導波路アレイとの接続部において、出力チャネル導波路及び/又はチャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0033】
好ましい本発明は、前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路とが互いに異なる光路長を有することを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0034】
好ましい本発明は、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路において、前記屈折率変調領域のコアは電気光学効果を有する光学結晶材料で形成され、電極が前記コアを挟んで対向するよう少なくとも一対配置され、クラッドは前記コアと前記電極との間に形成されることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、低電圧で光の出力位置を変化させることが可能である。
【0035】
本発明は、光源と、光結合部と、光偏向素子を順次結合して構成された光偏向モジュールであって、光偏向素子は、上述のいずれかに記載の光偏向素子であることを特徴とする光偏向モジュールである。この光偏向モジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0036】
好ましい本発明は、前記光偏向素子の温度を調節する温度制御装置を備えることを特徴とする前記光偏向モジュールである。この光偏向モジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0037】
本発明は、光偏向素子の前後いずれか若しくは両方に光増幅器を備える光スイッチモジュールであって、光偏向素子は、上述のいずれかに記載の光偏向素子であることを特徴とする光スイッチモジュールである。これらの光スイッチモジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0038】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広くすることを特徴とする光偏向方法である。
【0039】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さくすることを特徴とする光偏向方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ製作が容易な微小な光偏向素子、及びこの光偏向素子を利用した光偏向モジュール、光スイッチモジュールを提供することができ、又高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ微小な素子によっても偏向できる光偏向方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明を実施するための最良の形態を必要に応じて図面を参照にして説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明の好ましい形態における例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0042】
(本発明におけるAWG型光偏向素子の動作原理)
はじめに、本発明の光偏向素子におけるAWG型光偏向素子の動作原理とその性能について述べる。図1はAWG型の光偏向素子の構成について模式的に示したものである。光偏向素子は、入力チャネル導波路0001、入力スラブ導波路0002、導波路アレイ0003、出力スラブ導波路0004を光路が連結されるように順次接続して構成される。導波路アレイ0003は、第1の導波路アレイ0005及び第2の導波路アレイ0006からなる。導波路アレイ0003は複数のチャネル導波路によって構成されている。第1の導波路アレイ0005においては、隣接するチャネル導波路間で一定の光路長差を設けることが好ましいが、第2の導波路アレイ0006においては隣接するチャネル導波路が同じ光路長を有する。さらに第2の導波路アレイ0006は屈折率変調領域0007を備える。屈折率変調領域0007における屈折率は可変であり、領域内のチャネル導波路の等価屈折率をある範囲内で任意に変化させ得る。また屈折率変調領域0007は、隣接するチャネル導波路間において一定の光路長差を付加するように配置される。
【0043】
この光偏向素子においては、入力チャネル導波路0001から入力スラブ導波路0002の入力ポートに入射された光は、入力スラブ導波路0002において回折し広がって伝搬する。その後、導波路アレイ0003を構成する複数のチャネル導波路に同位相で結合し、導波路アレイを伝搬する。各チャネル導波路の伝搬光は出力スラブ導波路0004において干渉し合い、出力スラブ導波路の終端面(出口ポートでもある。)において微小な光スポットに集光する。ここで出力スラブ導波路での集光位置は、導波路アレイ0003を伝搬することによって与えられる各チャネル導波路間の位相差によって決定する。したがって、屈折率変調量を制御することにより、導波路アレイを構成するチャネル導波路間の位相差を変化させ、最終的な光の集光位置を特定することができる。すなわち、屈折率変調領域0007におけるチャネル導波路の素子材料の屈折率変調により光偏向が可能となる。
【0044】
出力スラブ導波路0004の終端面において集光される光スポットの大きさは、入力チャネル導波路0001を伝搬する伝搬モードの電磁界分布程度に小さくすることが可能である。したがって、例えば、比屈折率差が1%程度の典型的な石英系光導波路によって素子を構成した場合、出力スポット径は数μm程度になる。さらに、コアとクラッドの屈折率差を極めて大きくしたHIC光導波路によって素子を構成すれば、導波路の伝搬モード径を1μm以下にできる。そして、出口ポートにおけるビームスポット径も1μm以下に超微小化することが可能である。
【0045】
図1に示したように、第2の導波路アレイ0007を隣接する導波路構造が等しい直線導波路で構成するのが最も簡便であるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、曲がり導波路を導波路アレイ0007内に含んでいても構わない。また隣接するチャネル導波路間の光路長差が光の波長の整数倍であるように第2の導波路アレイを構成してもよい。
【0046】
出力スラブ導波路0004の終端面において集光した光ビームは、その端面から出射後に再び拡散して広がるため、図1(b)に模式的に示すように出力スラブ直後に、コリメート素子0008を配置し、収束光である出射ビームを平行光に変換することが有効である。これにより、平行ビーム光を走査することが可能になる。コリメート素子0008としては光学レンズを出力スラブの後段に配置する方法が簡便である。
【0047】
図2はAWG型光偏向素子の別の形態を模式的に示したものである。光偏向素子が入力チャネル導波路0001、入力スラブ導波路0002、導波路アレイ0003、出力スラブ導波路0004を順次接続して構成されることに関しては図1に示した実施形態と同様であるが、本形態ではさらに図2(b)に拡大して示すように、出力スラブ導波路0004の終端に複数の出力チャネル導波路0009を接続した構成を有する。屈折率変調により、出力スラブ終端面において集光ビームを偏向する原理については上述と同様である。本形態では、光が集光される出口ポートの位置に出力チャネル導波路0009を配置し、その導波路に集光ビームを導く。複数の出力チャネル導波路0009を配置した場合、屈折率変調により光の集光位置が変化するため、屈折率変調領域の屈折率変調により出力ポートすなわち出力される導波路の集光位置を移動させることができる。したがって本形態により、1×Nポートのマルチチャネルスイッチが可能となる。
【0048】
図2に示した形態において、もし第2の屈折率変調領域を含む導波路アレイ0006が存在しない場合は、光ファイバ通信用に広く使用されているAWG型波長分波器と同様の構成となる。その際、第1の導波路アレイ0005全体、あるいはその一部分を屈折率変調することによっても出力ポートを切り替えることが原理的には可能である。しかしながら、その場合には屈折率変調される導波路の長さが短く、導波路材料の屈折率変化量が小さい場合、ポート切り替えが可能なほどの大きな位相差を隣接するチャネル導波路間に与えることは困難である。
【0049】
これに対して本発明の光偏向素子においては、第2の導波路アレイの伝搬距離を長くすることによって、ポート切り替えに十分な位相差を隣接チャネル導波路間に与えることが可能である。したがって、後述するように高速であるが屈折率変調量の小さい電気光学効果等による屈折率変調を施した場合においても、十分な偏向角が得られ1×N型スイッチにおいては切り替え可能なポート数を増やすことができる。また、屈折率変調を行わない場合、第2の導波路アレイにおいてはアレイ内の全てのチャネル導波路において互いに等しい光路長を伝搬するから、原理的に従来のAWG素子と比較して集光性能等の劣化はない。
【0050】
さらに、導波路アレイの伝搬距離を長くすると、一般的には素子サイズが大きくなってしまうが、コアサイズが微小でありかつ急激に曲げることが可能なHIC光導波路によって、その素子サイズを劇的に縮小させることが可能である。
【0051】
(その他の導波路型偏向素子と比較した際のメリット)
波長分波器としてのAWGの特徴は、波長多重した光を一括して複数の出力ポートに分波することにある。したがってAWGは波長チャネル数に応じた複数の出力ポートをもつ。この構造をスイッチング素子に利用することによって1×Nのスイッチングが1つの素子で可能となることが本素子の特徴である。例えばスイッチング素子に適用できる光導波路素子としてマッハ・ツェンダ干渉計、Y分岐,リング共振器、方向性結合器等があるが、いずれも1×2または2×2のスイッチング素子である。したがって1×Nのスイッチングのためには基本素子となる1×2あるいは2×2スイッチを多段に縦続接続する必要があり、デバイスサイズが大きくなる。例えば、256の出力ポートをもつ1×256スイッチを上記の1×2スイッチを基本要素として構成した場合、8段、255個の基本要素を結合する必要がある。
【0052】
これに対して本発明の光偏向素子は、出力ポート数を増やす際には出力スラブに結合する出力チャネル導波路の本数を増加するだけでよく、1×Nスイッチを構成する場合において複数の光偏向素子を多段に結合する必要がない。チャネル数の大きな1×Nスイッチを構成するためには、集光ビームが出力スラブ導波路の出射端面を走査する距離を長くすることが要求されるが、これはスラブ半径すなわちスラブ導波路の伝搬長を長くすることで容易に実現される。なお、スラブ半径を大きくすることが集光ビーム径に影響を与えることは無い。以上のように本発明における光偏向素子はマルチチャネルスイッチの大規模化が容易である。具体的なデバイスサイズについての検討結果は後述するが、1×256スイッチが10mm角以下のデバイスサイズで実現できる。これは通常のPLC素子と比較して1/100以下の面積で実現することを意味する。さらに本発明の光偏向素子は1箇所の屈折率変調領域の屈折率変化量のみを調節するだけで経路切り替えが可能である。したがって、多くの基本要素デバイスを個別に変調することが必要とされる従来の光スイッチと比べて、経路切り替え時の屈折率変調制御が簡易化できる。
【0053】
(HIC導波路で光偏向素子を構成した際のメリット)
ここで、本発明の光偏向素子をHIC導波路で構成することによるメリットについて、特許文献4で報告されているような従来のPLC導波路による光偏向素子と比較して説明する。典型的なPLC導波路によって形成されたAWGデ光偏向素子は、素子面積が数cm角程度と大きい。これはチャネル導波路におけるPLCの比屈折率差が1%程度以下と小さく、第1の導波路アレイのような曲がりを含んだ光伝搬において、曲げの曲率半径を数ミリメートル程度までしか微小化できないことに起因する。ここで、比屈折率差ΔはΔ=(ncore2−nclad2)/2ncore2で定義されるパラメータである。さらにPLC素子ではコアへの光閉じ込めが弱く、出力スラブ導波路において集光される光ビームスポット径は数μmから10μm程度と大きい。したがってチャネル導波路を隣接して配置するアレイ導波路や出力チャネル導波路において、チャネル導波路同士の間隔をも10μm程度に広くする必要がある。以上のことが素子サイズの微小化を極めて困難にしている。
【0054】
このようなPLC光回路に対して、コアとクラッドとの屈折率差を極めて大きくしたHIC導波路によって光偏向素子を構成すれば素子面積の劇的な微小化が可能となる。例えばHIC導波路では数μm程度の微小曲げが可能であり、この性質は直接素子の微小化につながる。さらに1μm2以下の微小なコアの内部に光が強く閉じ込められるから、導波路アレイにおいて隣接するチャネル導波路の間隔を1μm程度に近づけることが可能である。出力スラブにおいて集光される光のビームスポット径はほぼ入力チャネル導波路の伝搬モード径に等しいから、HIC導波路を光偏向素子に適用することにより出力スラブ導波路において微小スポットに出力光を集光することができる。したがって、隣接する出口ポートの間隔を狭められ、出力チャネル導波路同士の間隔を近づけることが可能である。逆に、光偏向素子による光ビームの走査長が一定とすれば、出力導波路を密に詰めることでスイッチング可能なチャネル数を増やすことができる。以上のようにHIC導波路は素子面積の微小化とマルチチャネルスイッチにおけるチャネル数の増加に極めて有効である。
【0055】
(偏向素子の動作確認例:FDTDシミュレーション)
図2に示すような光偏向素子に対して具体的なパラメータを設計し、屈折率変調による偏向特性を確認した。性能の評価には2次元FDTD法(Finite Difference Time Domain method)による数値シミュレーションを用いた。本発明の光偏向素子はAWG波長分波器を基本構成としているため、パラメータの設計はAWGの設計指針に則って決定される。また、ここでは素子を構成する導波路として、シリコンをコアに、空気をクラッドにしたシリコン細線導波路を適用した場合を仮定して性能を評価する。
【0056】
シリコンをコアに、空気をクラッドにしたチャネル導波路を等価屈折率近似により2次元化し、シミュレーションにおける導波路のコアの屈折率ncoreを3.06、クラッドの屈折率ncladを1.0と決定した。またチャネル導波路のコア幅wを480nmとした。このとき、波長1550nmに対する導波路の等価屈折率neqは2.644となる。また導波路アレイを構成するチャネル導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路ピッチdを1.0μmとした。アレイを構成するチャネル導波路の本数を24とした。また同様に複数の出力導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路間隔Dを1.0μmとした。スラブ導波路の焦点距離(スラブ半径と同じ)を25μmとした。第1の導波路アレイにおける隣接チャネル導波路間の経路差ΔLを5.8μmとした。出力スラブ導波路端面の中央に集光する波長を中心波長λ0とすると、neqおよびΔLとλ0とはneqΔL=mλ0の関係を満たす。ここでmは回折次数である。上記のneqおよびΔLの値に対して、回折次数mを10とすることにより、中心波長がほぼ1550nmになる。
【0057】
以上のように設計したAWG波長合分波器に対して、第2の導波路アレイ部を設けた。第2の導波路アレイは図2に示すような直線のチャネル導波路によって構成し、直線アレイの長さを100μmとした。また屈折率変調する長さを、最も外側の導波路では100μm、最も内側の導波路で0μmとして、その間は線形に屈折率変調する導波路長を変化させた。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.025〜+0.010の範囲で0.005ずつ変化させた。入射光の波長は1540nmとした。
【0058】
図4は出力ポートNo.0〜No.+4における出力電界強度が屈折率変調量に応じてどのように変化するかをプロットした結果である。ここでは、図3に示すように中央の出力チャネル導波路をポートNo.0と定義し、そこから右のチャネル導波路を順にポートNo.+1、No.+2、・・・、中央から左の出力チャネル導波路をポートNo.−1、No.−2、・・・と呼ぶことにする。図4より,屈折率変調領域におけるコアの屈折率を0.018だけ変化させると1ポート分だけ出力位置が変化することが読み取れる。この例で設計したAWGでは1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.04度に相当する。したがって屈折率変調領域の長さを100μmとした場合、屈折率変調量0.01に対して1.13度の偏向角が得られる。図5(a),(b)は、dncoreを−0.015および+0.005としたときの出力フィールド分布であり、それぞれポートNo.+1およびNo.+2に出力光が出射されることが確認できる。このように屈折率変調量の違いによって出力スラブ導波路端面への光の集光位置が変化し、出力ポートを切り替えることができる。
【0059】
次に、AWG素子の設計において回折次数を変化させ、m=20としたときの屈折率変調による偏向角の変化量について確認した。AWG素子の設計値はほぼ上記の値と同じである。波長1540nmの入力光に対して、dncoreを−0.04〜+0.04の範囲で変化させ、各ポートからの出射強度をプロットした結果を図6に示す。直線導波路アレイの長さはm=10の場合と同じく100μmである。図6より、0.02のdncoreの変化量が1ポート分の出射位置の変化に相当することが確認できる。m=10の場合と同じく1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.04度に相当する。したがって屈折率変調量0.01に対して1.02度の偏向角が得られることになり、m=10の偏向特性の結果と比較するとほぼ等しい結果が得られた。以上の結果よりAWG素子の回折次数が異なっても屈折率変調に伴う偏向角変化量は変わらないことが確認できる。
【0060】
(LN細線導波路による光偏向素子の設計例)
高速な光変調を可能にする方法として、電気光学効果を有する材料を導波路材料に用い、その屈折率を電圧の印加によって変化させることが有効である。そこで、AWG型光偏向素子における各導波路のコア材料として電気光学結晶材料を適用した場合の偏向特性を、同様に2次元FDTDシミュレーションによって確認した。シミュレーションに用いたパラメータを以下に記す。ここで導波路のパラメータについて、屈折率は電気光学結晶として典型的なニオブ酸リチウム(LN:LiNbO3)をHIC導波路のコアに用い、その周囲のクラッドがSiO2である場合を想定し、さらにそのHIC導波路を2次元近似して決定した。また波長は本発明素子をレーザプリンタ等の光走査装置に適用した場合を想定して、感光体ドラムの感度特性に適する650nmとした。
【0061】
LN(屈折率=2.17)をコアにして、SiO2をクラッドとしたチャネル導波路を等価屈折率近似によって2次元化し、シミュレーションにおける導波路のコアの屈折率ncoreを1.93、クラッドの屈折率ncladを1.46と決定した。チャネル導波路のコア幅wを300nmとした。また導波路アレイを構成するチャネル導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路ピッチdを1.2μmとした。アレイを構成するチャネル導波路の本数を24とした。また、同様に複数の出力導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路間隔Dを1.2μmとした。スラブ導波路の焦点距離(スラブ半径)fを30μmとした。第1の導波路アレイにおける隣接チャネル導波路間の経路差ΔLを5.4μmとした。このΔLの値に対して、AWG型波長分波器における回折次数mを15とすることにより、中心波長がほぼ650nmになる。
【0062】
上記のような設計値を有する光偏向素子について、屈折率変化による集光位置の変化を確認した。ここでは図2に示すように光偏向素子の中央に屈折率変調を与えるような直線部を設け、直線アレイの長さを100μmとした。また屈折率変調する長さを最も外側の導波路では100μm、最も内側の導波路で0μmとして、その間は線形に変調する導波路長を変化させた。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.060〜+0.050の範囲で0.005ずつ変化させた。また入射光の波長を650nmとした。
【0063】
図7は出力ポートNo.−3〜No.+3における出力電界強度が屈折率変調量に応じてどのように変化するかをプロットした結果である。また図8はそれぞれのポートに最も光が集光したときの出力電界分布を示した。図7より、コアの屈折率変調量を0.019としたとき、1ポート分だけ出力チャネル導波路が変化することを読み取ることができる。ここで設計した偏向素子では1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.08度に相当する。したがって屈折率変調領域の長さを100μmとした場合、屈折率変調量0.01に対して1.1度の偏向角が得られることになる。
【0064】
次に,偏向角度と屈折率変調領域における直線アレイ長の関係について同様に2次元FDTDシミュレーションにより確認した。具体的には直線導波路の長さを200μmに長くしたとき、屈折率変調量に対して出力チャネル導波路の出力ポートがどのように変化するかを確認した。屈折率変調する長さを、最も外側の導波路では200μm、最も内側の導波路で0μmとしてその間は線形に変調長さを変化させた点を除いて、設計パラメータおよびシミュレーション条件は上述の直線導波路長が100μmの場合と全く同じである。屈折率変化量に対する出力チャネル導波路ポートNo.−3からNo.+3までの出力強度の変化を計算した結果を図9に示す。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.03〜+0.025の範囲で0.0025ずつ変化させた。
【0065】
図9に示す結果を、直線アレイ長が100μmの場合の図7に示す結果と比較すると、ちょうど半分の屈折率変調量で同等の出力ポート変化が得られることが分かる。このことは、屈折率変調量が小さい場合であっても直線アレイを長くすることによって大きな回折角を得ることが可能であることを示唆している。したがって特に屈折率変調量の小さい電気光学結晶をコアに用いたスイッチング素子であっても、直線アレイを長くすることによってスイッチング量を大きくすることができる。例えば、屈折率変調量が0.001であっても屈折率変調領域の長さを1mmにすれば1度程度の偏向角が得られる。さらにスラブ導波路の半径を大きくすれば、偏向角が小さくてもその偏向角度によって変化できる円弧の大きさを大きくでき、かつ原理的には出力スラブ導波路の出射端における集光スポット径はスラブ半径に依存しないため、マルチチャネル型のスイッチング素子においてチャネル数を増やすことができる。
【0066】
本発明の光偏向素子の基本的な偏向特性のシミュレーション結果をもとに、例えばLNのような電気光学結晶材料をコア材料に想定した場合、その屈折率変化量でどれだけのポートにわたってスイッチングが可能となるかを検証する。基本となる前提条件として、100μm長の直線アレイにおいて、屈折率変化量0.01に対して集光位置が1度偏向すること、直線アレイの長さに対して偏向量が線形に変化する(アレイ長が2倍になれば偏向角も2倍になる)こと、出力位置に集光されるビームのスポットサイズがスラブ半径に依存しない(スラブ半径が大きくなった場合でも小さなスポットに光を集光できる)ことを仮定する。
【0067】
集光位置の変化に寄与する位相差を与える原因を、直線アレイにおける光路長変化としてまとめて表す。すなわち、前提条件では位相差を与えるパラメータとして直線アレイ長Lと屈折率変化量dncoreを考えているが、これらを光路長の変化としてdS=L×dncoreとしてまとめる。例えば100μm長の直線アレイにおける屈折率変化量0.01は,dS=1[μm]となる。光路長変化dSの単位は長さの単位であるが、無次元の屈折率変化量の値を含んでいることに注意を要する。例えばdS=1[μm]を得るために、1000μmのアレイ長に対して0.001の屈折率変化量を与えることも可能である。したがってLNのように屈折率変化量が小さい材料でも、直線アレイ長を長くすることによって光路長変化量を大きくすることが可能である。
【0068】
次に前提条件から、光路長変化量dS=1[μm]のとき偏向角は1度である。さらにdSと偏向角dθは比例関係にあり、dθ=1×dS[deg]である。光路長変化量を大きくすれば大きな偏向角が得られるが、偏向角を大きくするほど高次の回折光へ集光する光強度が大きくなる。したがって,極端に大きな偏向角は避けるのが好ましい。具体的には通常は偏向角が5度以下程度の範囲で使用することが好ましい。
【0069】
偏向素子の性能を決定するのは偏向角そのものより、光偏向によって走査される光ビームの移動距離である。偏向角が同じ場合でもスラブ半径fが異なると偏向による走査長Lcも異なり,その値はLc=f×dθで与えられる。ここでfはスラブ半径であり、dθはradの単位に変換する必要がある。走査長はスラブ半径に比例して長くできる。本発明の光偏向素子によって1×N型のマルチチャネルスイッチ素子を構成した場合、スイッチング可能なチャネル数Nは上述の走査長を出力導波路間隔Dで割ったもので与えられる。すなわち、N=Lc/D=(f/D)×(dS・π/180)である。走査長Lcが長い場合であっても、導波路間隔Dが広ければチャネル数Nは小さくなる。したがって出力導波路ではできる限り光を強く閉じ込めて導波路間隔を狭めることがチャネル数の増加に有効である。
【0070】
具体的な値を仮定してスイッチング可能なチャネル数を見積もる。例えばdn=0.001、L=1000μmとするとdS=1.0となる。またD=1.2μmと仮定すると、f=600μm、1200μm、1800μmのとき、それぞれチャネル数Nは8、17、26となる。したがって例えばf=600μmのとき8チャネルのスイッチングが可能になる。これは1mm角程度の微小な素子サイズによって8チャネルのスイッチング素子が実現できることを意味する。また所望のチャネル数から設計値を逆算することも可能である。例えばN=256をはじめに決定し、dSの値を5.0、導波路間隔Dを1.2μmと仮定すれば、スラブ半径fが3.52mmと求まる。dS=5.0は例えば直線アレイ長を5mm、屈折率変化量を0.001とすれば達成できる値である。以上のように1×256のマルチチャネルスイッチ素子が10mm角程度以下の微小面積で実現できることが見積もられる。
【0071】
これまでの説明では、左右対称な導波路アレイ3を有する光偏向素子を前提に説明したが、導波路アレイ3は左右対称である必要はない。例えば、導波路アレイ006の上下流の導波路アレイ005がそれぞれ直線状のチャンネル導波路であったり、異なった曲率で湾曲していてもよい。さらに、導波路アレイ006の下流側の導波路アレイ005がなくて、導波路アレイ006が直接出力スラブ導波路004と接続していてもよい。この場合、長さ0の導波路アレイ005がここに存在すると見なせばよい。また、導波路アレイ006以降の下流側の導波路中に鏡を備え、入り口側から進入してきた光を反射して、元来た方向に光路を変更することにより光偏向素子の大きさをおよそ半分にすることが出来る。この鏡の位置は、導波路アレイ006中又は導波路アレイ006より下流の導波路アレイ003中であれば何処でもよいが、導波路アレイ006の光路の中央であることが設計製作上は好ましい。
【0072】
(実施形態1)
上述のように本発明による光偏向素子は、ミリメーター程度の直線導波路アレイの等価屈折率を変化させることで隣接チャネル導波路間に位相差を与える。したがって、屈折率変調を行わない場合の各チャネル導波路の等価屈折率が均一であることが重要である。チャネル光導波路の等価屈折率の不均一さが材料の屈折率変調量より大きい場合、出力スラブ導波路において回折光を集光する際に位相が揃わず、集光スポットを小さくできない。
【0073】
光導波路の等価屈折率の値は材料の屈折率とコアの寸法に依存するが、LNのような電気光学結晶やシリコンをコアに適用した場合、コアはバルク結晶から加工して形成されるため、屈折率の均一性は極めて高い。したがって等価屈折率の不均一に影響するのはコアの寸法のばらつきである。LNをコア材料にした場合を仮定したチャネル導波路構造について、3次元ビーム伝搬法(Beam Propagation Method:BPM)によるモードシミュレーションによって光導波路の等価屈折率を計算した結果を図10に示す。ここでは、コア厚を200μmに固定したときのコア幅と等価屈折率の関係を計算した。コアおよびクラッドの屈折率はそれぞれ2.2818、1.4567と仮定し、光源は波長650nmのTM偏光とした。また図11にはコア幅1nm変化した場合の等価屈折率の変化量をコア幅に対してプロットした。
【0074】
通常の導波路型素子はチャネル導波路がシングルモード条件を満たすようにコアサイズを設計する。上記のパラメータを仮定した場合、シングルモード条件を満たすコア幅として、300nm程度が適当である。このようなコアサイズにおいては、図11よりコア幅が1nm変化すると等価屈折率が6×10−4程度変化することが読み取れる。LNのような電気光学結晶材料については、電圧印加によって変化させることが可能な屈折率は最大で10−3程度のオーダーであると予想される。したがって通常のHIC光導波路で直線導波路アレイを構成した場合、コア幅を1nm程度以下の精度で製作することが要求される。ただし、これは必ずしも直線導波路全体に渡って1nm以下の精度を保つ必要があるわけではなく、直線部分のコア幅の精度の平均値を1nm以下にすることが要求されることを意味する。
【0075】
直線導波路アレイにおけるコア幅のトレランスを拡大するためには、コア幅の変化によるチャネル導波路の等価屈折率の変化を小さくすることが有効である。簡便な方法として、直線アレイ部のみ、チャネル導波路のコア幅を広げることが挙げられる。図Hより、例えばコア幅を800nmまで広げれば、シングルモードで動作するコア幅が300nmの場合と比較して、1nmのコア幅変化に対する等価屈折率の変化量を1/10程度に低減できる。これはコア幅に対するトレランスが10倍に拡大されたことに相当する。
【0076】
直線アレイ部のコア幅を広げた偏向素子について、導波路アレイ部分のみを拡大して図12に模式的に表した。本発明の光偏向素子の第1の形態において、図2及び図12に示すように、第1の導波路アレイ0102と第2の導波路アレイ0103について、それぞれの導波路アレイを構成するチャネル導波路同士が互いに結合されている。第1の形態における特徴として、第1の導波路アレイ0102を構成するチャネル導波路はいずれもシングルモード条件を満たすようなコア幅を有し、第2の導波路アレイ0103を構成するチャネル導波路はコア幅が広がっている。また、コア幅の異なるそれぞれのチャネル導波路はコア幅変換部0104を介して結合されている。
【0077】
コア幅を広げた第2の導波路アレイ0103においては、チャネル導波路がマルチモード導波路になっているため、高次の伝搬モードが励振される可能性がある。しかしながら、導波路の伝搬モードに整合する基本モードのみをマルチモード導波路の中心に入力した場合、直線導波路であれば原理的に高次モードは励振されない。したがってシングルモード条件を満たす第1の導波路アレイ0102におけるチャネル導波路のコア幅を徐々に広げて第2の導波路アレイ0103に結合すれば、高次モードの励振を最小限に抑制することができる。図12では、直線テーパー形状にしてコア幅を広げているが、コア幅を拡大する形状はこれに限定されず、例えばパラボリック形状等が高次モードの発生を抑制するのに有効である。
【0078】
上記のトレランスを拡大するための構造による出力ポートへの集光性能の変化を2次元FDTD法によって確認した。具体的には、光偏向素子における各出力ポートからの出力光強度がトレランス拡大構造の有無によってどの程度異なるかを比較した。
【0079】
シミュレーションに用いたパラメータは上述のLNを導波路コアに用いた場合と同じ値である。ここで第2の導波路アレイにおけるコア幅を800nmに広げ、300nmのコア幅をもつ第1の導波路アレイ内のチャネル導波路と、10μmのテーパー長を有する直線テーパーによって結合した。また直線アレイ長を100μmとした。シミュレーションにおけるその他のパラメータはLN細線導波路によって光偏向素子を構成した場合を仮定して設定した。図14は、各出力チャネル導波路からの出力強度がトレランス緩和構造の有無によって変化するかどうかを確認した結果である。従来の偏向素子、すなわち第2の導波路アレイがシングルモード導波路で構成された偏向素子における集光性能を破線で示しており、マルチモード導波路アレイを導入することでトレランスを拡大した偏向素子における集光性能を実線で示している。いずれもポートNo.+1に光が集光しており、その出力光強度の差は殆どない。また隣接出力ポートにおける出力との差も20dB以上あり、トレランス拡大構成による集光性能の劣化はない。これは直線アレイ部において高次の導波モードがほとんど励振されていないことに起因する。
【0080】
さらに、上記のトレランスを拡大した形態において、直線アレイ導波路のコアを屈折率変調することによる出力ポートの移動の様子を2次元FDTD法によって確認した。計算結果を図15に示す。例えば出力ポートNo.−1からNo.+1に2ポート分だけ出力位置を変化させるためにはコアの屈折率を0.035だけ変化させればよい。1ポート出力位置が異なった場合の偏向角は2.08度程度であり、したがって屈折率変調量0.01当たりの偏向角は1.19度であることが見積もられる。この値は直線アレイをシングルモード導波路で構成した場合の偏向角(1.1度)と同程度である。ただし屈折率変調を施すチャネル導波路のコア幅を広げることによって、基本モードに対するコアへの光閉じ込めがより強くなるから、シングルモード導波路による直線アレイの場合と比較してコアの屈折率変調量による偏向角が若干大きくなっている。
【0081】
(実施形態2)
チャネル導波路のコア幅変化に対するトレランス拡大の別の方法として、直線アレイを構成するチャネル導波路の比屈折率差を小さくすることが有効である。コアとクラッドの屈折率差を小さくすれば、等価屈折率が取り得る最大値と最小値の範囲が狭くなるので、コア幅が変化した際の等価屈折率変化量も小さくなる。ただし、比屈折率差を小さくすると、曲がり導波路における曲率半径を大きくする必要があるため、通常のAWGデバイスにおいては素子サイズが大きくなってしまう。しかしながら、実施形態2における光偏向素子は、直線チャネル導波路で構成された第2の導波路アレイ部のみを比屈折率差の低い導波路で構成しており、チャネル導波路におけるトレランスの拡大によるデバイスサイズの長大化を避けることが可能である。
【0082】
図13(a),(b)は屈折率変調を施す波路アレイを構成するチャネル導波路を低比屈折率差導波路によって構成した場合の光偏向素子について、導波路アレイ部分のみを拡大して示したものである。光偏向素子全体は、図2を参照できる。この実施形態の光偏向素子における第1の導波路アレイ0202と第2の導波路アレイ0203は、それぞれの導波路アレイを構成するチャネル導波路同士が互いに結合されている。ここで第2の導波路アレイのクラッドの屈折率を第1の導波路アレイのクラッドの屈折率より高くすることにより、容易に等価屈折率の異なるチャネル導波路を集積化することが可能である。また第1の導波路アレイと第2の導波路アレイはコア幅変化部0204を介して結合している。比屈折率差が異なるチャネル導波路はシングルモード条件を満たすコア幅が異なるため、第1の導波路アレイにおけるチャネル導波路と第2の導波路アレイにおけるチャネル導波路ではコア幅が異なるのが普通である。したがって、それらの間をコア幅を徐々に変化させることによって結合することが好適である。また同様に第1および第2の導波路アレイにおいてはクラッドの屈折率が異なっているから、それらのクラッドが徐々に置き換わるように形成することが好ましい。クラッドの変化のさせ方としては、例えば図13(a)および図13(b)直線的変化の形態を示したが、パラボリック形状などその他の形態でもよい。また図13(a)および図13(b)には、いずれも直線テーパーによってコア幅およびクラッドを変化させているが、例えばパラボリック形状や楕円形状によってコア幅およびクラッド領域の変化を施すことも有効である。
【0083】
図16(a),(b)には、第2の導波路アレイにおけるチャネル導波路断面を模式的に示した。チャネル導波路のコア0211が第1のクラッド0212の上に形成される。第1のクラッドは、この形態の光偏向素子における全ての導波路において共通のクラッドである。したがってコアの屈折率と第1のクラッドの屈折率との差は大きい。図12(a)に示したチャネル導波路においては、コア0211の上部及び側部を第2のクラッド0213で囲む構造を有する。第2のクラッドの屈折率をコアの屈折率に近づけることによって、光導波路の比屈折率差を小さくしている。また図12(b)に示したチャネル導波路については、コアの側部を第2のクラッド0213によって埋め込み、かつコア上部を第3のクラッド0214で覆う。図12(b)に示した構造において第1のクラッド0212と第3のクラッド0214の屈折率を同じにすることによって、チャネル導波路における伝搬モードの電磁界分布を上下対称にできる。コアを上下から挟み込むクラッドの屈折率が低く、チャネル導波路の膜厚方向への閉じ込めは強くなる。これに対し、コアの左右のクラッドは屈折率がコアの屈折率に近いため、横方向の閉じ込めは弱くなる。第1および第2の導波路アレイにおける伝搬モードの電磁界分布がともに上下対称となるから、それらを結合したときの伝搬モードの遷移が容易になり、両アレイを構成するチャネル導波路におけるコア幅を変化させる際のテーパー長を短くできる。
【0084】
第2のアレイ導波路を構成するチャネル導波路の比屈折率差を小さくすることによるトレランス拡大の効果を見積もる。図17は図12(b)に示した断面構造を有するチャネル導波路に対して、コア幅1nmの変化による導波路の等価屈折率の変化を計算した結果である。横軸には導波路のコア幅を取っており、第2のクラッド0213の屈折率を1.6〜2.2まで変化させてトレランスを拡大する効果について比較した。コアの屈折率および厚さはそれぞれ2.2818および200nmであり、第1および第3のクラッドの屈折率は1.4567である。波長は650nmとした。例えば第2のクラッドの屈折率が2.2の場合、コア幅を600nm程度以上に広げればコア幅の変化1nmあたりの等価屈折率変化は5×10−4以下になり、典型的なLN細線導波路と比較して、トレランスを10倍程度に拡大できる。さらにこのときのチャネル導波路はシングルモード条件を満たすため、高次モードが励振されることがなく、トレランス拡大に伴う素子集光性能の劣化はない。
【0085】
(実施形態3)
図18は、本発明における第2の導波路アレイを模式的に表したものである。導波路アレイ0401は第1の導波路アレイ0402と第2の導波路アレイ0403からなる。さらに第2の導波路アレイはフォトニック結晶配列を有する。フォトニック結晶配列は光の波長程度の周期的な屈折率分布を有し、周期構造を調整することで光子の禁制体であるフォトニックバンドギャップを形成することができる。このとき第2の導波路アレイにおいてフォトニック結晶配列が存在する領域には光が存在し得ない。具体的なフォトニック結晶配列として、図18に示すように導波路材料中に周期的な円孔を設けることが好適である。フォトニック結晶配列中に、円孔のない直線部分である線欠陥導波路を導入すると、光はこの線欠陥導波路に強く閉じ込められて伝搬する。したがってこのフォトニック結晶線欠陥導波路0405によって光導波路を形成することができる。
【0086】
フォトニック結晶線欠陥導波路により、線欠陥中に光を強く閉じ込めることができ、微小な光回路を形成することが可能となる。さらにフォトニック結晶配列を適切に設計することにより、フォトニック結晶線欠陥導波路を伝搬する光の群速度を、真空を伝搬する光の1/10から1/100程度に減速することが可能である。これはフォトニック結晶線欠陥導波路の等価屈折率が、通常の導波路と比べて極めて大きいことに相当する。したがって、コア材料の屈折率変化に起因して導波路間に付与される位相差量も、全反射による光閉じ込めを利用したチャネル導波路と比較して大きくなると考えられる。この効果を利用すれば、本発明の光偏向素子における第2の導波路アレイの導波路長および屈折率変調領域を小さくでき、偏向素子のデバイスサイズを極めて小さくすることが可能となる。
【0087】
(実施形態4)
図19は、本発明の光偏向素子の実施形態4における第2の導波路アレイを模式的に示したものである。第2の導波路アレイ0503は第1の導波路アレイ0502とコア幅変化部0504を介して結合されている。導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア0505は第2の導波路アレイにおいてコア幅を広げている。さらに複数のチャネル導波路のコアの間に電界吸収層である光吸収層0506を備えている。
【0088】
上述のように、第2の直線アレイにおいて、チャネル導波路のコア幅を広げることによりコア幅に対するトレランスを拡大することができるが、同時にチャネル導波路において高次伝搬モードが励振される恐れがある。アレイを構成するそれぞれのチャネル導波路において励振された高次モードが出力スラブ導波路において干渉し合うことにより、予期しない迷光が発生する恐れがある。したがって、基本モードの干渉による集光ビームに対する迷光の発生を抑制するために、導波路アレイにおいて高次モードが発生した場合には、速やかにそれを除去することが好ましい。光吸収層0506は高次伝搬モードを吸収・除去するために付加したものである。
【0089】
基本モードと比較した場合、高次モードはコアへの光閉じ込めが弱く、伝搬フィールドがクラッド中まで広く分布している。したがって基本伝搬モードの電磁界が十分減衰し、かつ高次伝搬モードの電磁界分布が減衰し切らない程度にコアから離れた領域に光吸収層を配置することにより、高次モードのみを光吸収層によって減衰させることができる。よって、仮に第2の導波路アレイにおいて高次モードが発生した場合であっても、これによる出力スラブにおける集光の劣化を低減することが可能である。具体的な光吸収層の材料としては、クラッドよりも高屈折率を有する誘電体や電磁界を吸収する金属等が好適である。
【0090】
(実施形態5)
図1,2からも判るように本発明の光偏向素子は、入り口ポートと出口ポートの形態を除いて左右対称にすることが出来る。実施形態5においては、この特性を利用して、例えば、図2(a)において、第2の導波路アレイ0006の中央部分から左側を除去し、除去した部分に光を反射させるミラーを接続する。そして、入力スラブ導波路0002に出力スラブ導波路0004の機能を兼ねさせるために、出力チャネル導波路0009を設ける。この形態の光偏向素子においては、入力チャネル導波路0001から入射した光は、入力スラブ導波路0002、第1の導波路アレイ0005、第2の導波路アレイ0006を経由してミラーに到達する。ミラーに到達した光は、ミラーで反射して、第2の導波路アレイ0006から入射したときと逆の経路を通って入力スラブ導波路0002の入射面に達する。このとき、出射光は、導波路アレイの屈折率変調作用によって、入力チャネル導波路0001の位置からずらすことが出来る。そして、その位置に出力チャネル導波路0009を設けておけば、入力スラブ導波路0002に出力スラブ導波路0004として利用でき、屈折率変調作用によって光偏向することが出来る。この形態の光偏向素子は、上述の光偏向素子のおよそ半分の大きさ、材料で製作することが可能である。
【0091】
(実施形態6)
図20(a),(b)は、本発明の光偏向素子の入力スラブ導波路又は出力スラブと導波路アレイとの接続部を模式的に示したものである。ここで入力又は出力スラブ導波路0701の端面はある曲率を設けた円弧で表される曲面となっている。入力又は出力スラブ導波路0701の曲面に対して導波路アレイ0702を構成する複数のチャネル導波路はそれぞれ垂直に接続されている。
【0092】
入力又は出力スラブ導波路0701が入力スラブ導波路である場合、入力チャネル導波路から入射された光はスラブ導波路内を回折によって広がり、ほぼ同位相で導波路アレイを構成するチャネル導波路に入力される。ここでスラブ導波路において回折された光がアレイ導波路に結合されずに散乱されてしまうと、素子の損失の増加につながり、また散乱による余計な回折波が発生するとクロストークレベルの悪化の原因にもなる。したがってスラブ導波路とアレイ導波路の接続部においては、できる限り低損失で伝搬光を結合させることが好ましい。
【0093】
そこで図20(a),(b)に示すように、スラブ導波路とチャネル導波路との接続部において、チャネル導波路のコア幅を広げることが有効である。チャネル導波路の端部以外のコア幅をw、スラブ導波路に入射する端面のコア幅をw2とし、コア幅が変化する際の伝搬長をl2とすると、端面のコア幅w2を大きくするほど、スラブ導波路を伝搬した光を、各チャネル導波路に入力できるため、光偏向素子の光の過剰損失を低減できる。またコア幅が変化する際の伝搬長l2の長さを数ミクロン程度以上にすれば、コア幅を変化させることによる過剰損失をほぼゼロにできる。またコア幅を広げる際の形状は図20(a)に示すような直線テーパー形状や図20(b)のようなパラボリック形状、その他楕円形状等も有効である。
【0094】
(実施形態7)
図21(a),(b)は、入力チャネル導波路と入力スラブ導波路との接続部を模式的に示したものである。入力スラブ導波路0712の曲面に対して入力チャネル導波路0711はそれぞれ垂直に接続されている。また、入力チャネル導波路の入力スラブ導波路との接続部においてコア幅を広げている。
【0095】
入力チャネル導波路0711の端部以外のコア幅をw、入力スラブ導波路0712に入射するときの入力チャネル導波路の端面のコア幅をw1とし、コア幅が変化する際の伝搬長をl1とする。入力チャネル導波路のコア幅がwのままスラブ導波路に結合した場合、入力導波路に強く閉じ込められた光がスラブ導波路において回折するので、球面波に近い波面をもってスラブ内を広範囲に回折する。したがってスラブ導波路を伝搬してアレイ導波路に回折光が達したとき、各アレイ導波路に入射した光の位相は揃っている。ただし回折が広範囲に及ぶため、アレイ導波路本数が少ない場合はスラブ導波路での回折光を拾いきれず、入射光の過剰損失につながる。これに対して入力チャネル導波路の端面のコア幅w1を広げて入力スラブ導波路0712に結合する際のフィールド幅をあらかじめ広げておくことで、入力スラブ導波路0712における回折角を狭くする効果がある。これにより、導波路アレイを構成するチャネル導波路本数を少なくすることができ、光偏向素子の小型化に有効である。ただし、光偏向素子の出力ポートで集光される光のスポット幅は入力ポートでのフィールド幅と同程度であるので、入力チャネル導波路幅を広げすぎると出力ポートでの解像点数がとれない。実際にはw1の値はwの数倍程度にするとよい。
【0096】
入力チャネル導波路0711におけるコア幅の広げ方については、図21(a)に示すような直線テーパー形状や図21(b)に示すようなパラボリック形状等が有効である。コアをパラボリック状に広げることによって、コア幅の変化による高次モードの発生を抑制でき、スラブ導波路において高次モードが励振されないようにすることが可能となる。
【0097】
(実施形態8)
図22(a),(b)は、図2に示した形態おける出力スラブ導波路と出力チャネル導波路との接続部を模式的に示したものである。出力スラブ導波路0721はある曲率を持った円弧で表される端面を有し、その端面に対して、複数の出力チャネル導波路0722が垂直に接続される。また、出力チャネル導波路の出力スラブ導波路との接続部においてコア幅は広がっている。
【0098】
出力スラブ導波路0721の終端(出口ポート)において光ビームが集光されるが、そのスポット径は入力チャネル導波路から入力スラブ導波路に入射された光ビームとほぼ等しい。したがって、出力スラブ導波路0722に集光された光を効率よく出力チャネル導波路0722に結合するためには、出力チャネル導波路の端面のコア幅を、入力スラブとの接続部における入力チャネル導波路の端面のコア幅と同程度にすることが望ましい。さらに出力スラブ導波路0721から結合された出力光を出力チャネル導波路0722に導く際に、光の放射や高次モードの励振を抑制するために、テーパー状に導波路幅を狭める。導波路幅を変化させる形状として、図22(a)に示した直線テーパー形状の他、高次モードが励振されるのを抑制するために図22(b)に示すパラボリック形状などが好適である。
【0099】
前に示した2次元FDTDシミュレーションにおいては、上記の事項を鑑み、いずれも各チャネル導波路とスラブ導波路の接続部においてチャネル導波路のコア幅を広げている。具体的には接続部において、入力チャネル導波路の端面のコア幅w1を1.5μm、導波路アレイの端面のコア幅w2を1.0μm、出力チャネル導波路の端面のコア幅を1.0μmとした。またコア幅変化に伴うテーパー長l1〜l3はいずれも3.0μmとした。
【0100】
(実施形態9)
図23は、図2に示すような、偏向光ビームを出力チャネル導波路によって導くような偏向素子における出力スラブ導波路と出力チャネル導波路の結合部を模式的に示したものである。出力スラブ導波路0801の出射曲面に対して、複数のチャネル導波路0802がそれぞれ垂直に結合される。また図23では出力スラブ導波路0801との結合部においてチャネル導波路のコア幅をパラボリック状に広げている様子を図示しているが、この接続部はこの形状に限定されるものではなくテーパー状などの傾斜構造でもよい。
【0101】
入力および出力スラブ導波路は、扇形の形状を持ち、その曲率中心は入力チャネル導波路端、あるいは複数の出力チャネル導波路における中央の導波路端にあり、アレイ導波路群はその光軸がこの曲率中心を通るように放射状に配置される。曲率中心からスラブ導波路における出射端面までの距離をスラブ半径といい、ここではfで表す。通常は複数の出力チャネル導波路はスラブ半径fの曲率半径を有する曲面上に配置され、その曲率中心は出力スラブ導波路に結合されている導波路アレイにおける中央のチャネル導波路端である。この曲率中心を上述のように配置したとき、原理的には出力光が最も集光する場所に出力チャネル導波路端が位置することになる。しかしながら、実際には入力スラブ導波路において回折した光が完全に同位相で導波路アレイに入力しない場合や、導波路アレイの各チャネル導波路に与えられる光路長差が完全に一定でない場合等の理由から、上記の出力チャネル導波路位置に最も出力光が集光するとは限らない。すなわち理想的な集光位置より内側あるいは外側の曲面に出力光が集光されることがあり得る。このような場合、出力スラブ導波路端面において、出力光のビームスポット径が大きくなり、隣接して設置された出力チャネル導波路において、チャネル間クロストーク、すなわち本来の出力ポート以外のポートへの光漏れ込みが増大する原因となる。
【0102】
この問題を解消するために、出力チャネル導波路の位置を上記の位置から移動させることが有効である。具体的には、出力スラブ導波路におけるスラブ半径f'を入力スラブ半径fと異ならせる方法がある。f'<fのとき、出力チャネル導波路は通常より内側に位置する。逆にf'>fの場合は出力位置を通常より外側にできる。また、f'=fすなわち出力スラブ導波路のスラブ半径が入力スラブ半径と等しい場合であっても、出力チャネル導波路が配置される曲面の曲率中心を通常の導波路アレイ端のから移動させることによって出力位置を変化させることができる。図23における0803は曲率中心の変化量であり、ここではδで表す。δの値によって出射曲面を全体的に内側あるいは外側に移動できる。
【0103】
出力スラブ導波路において、干渉光が出力チャネル導波路に集光する様子を図24に示す。ここでは出射ビームが出力ポートNo.1から出力されるように、屈折率変調領域における隣接チャネル導波路間の光路長差を調節した。図24(a)は出力スラブの出力端面位置に関して一切調整を行わない場合、すなわち出力スラブ導波路が入力スラブ導波路と等しい構造を有する場合に回折光が集光する様子である。出力光が最も集光される点は出力導波路の位置より若干内側(図のz座標でプラス側)であることが分かる。したがって出力導波路のz座標を移動することにより、出力光の隣接ポート間でのクロストークを低減できる可能性がある。図L(b)および(c)は出力スラブ導波路終端面の曲率中心をそれぞれ1μmおよび2μmだけ内側(z座標でプラス側)に移動したときの出力光の集光の様子である。ここで、曲率中心の変位量をそれぞれδ=−1μm,δ=−2μmと表すことにする。出力スラブ導波路の位置を移動することによって、隣接ポートへの光の漏れこみが低減できている。
【0104】
図25にこれらの結果を数値化して示す。横軸は出力ポート番号を示し、縦軸はそれぞれのポートからの出力強度を入力光強度で規格化した値を示す。出力スラブ導波路位置を移動しない場合、ポートNo.1からの出力強度は−5.0dBと小さく、隣接ポートへの光の漏れこみも−16dB程度と大きい。これに対して、出力スラブ導波路の位置を2μm移動することにより、ポートNo.1からの出力強度を−3.2dBに大きくでき、また隣接ポートへの光漏れこみを−30dB以下に低減できた。ここで図25においてポートNo.−7からの出力強度が他のポートからの出力強度に比べて大きいのは、ポートNo.−7に1次の回折光が集光していることに起因する。スラブ導波路半径fを大きくして、1次の回折光の集光位置を出力ポートの外側にすることで、このような高次の回折光の影響を受けないようにすることが可能である。
【0105】
(実施形態10)
図26(a)〜(c)は、屈折率変調領域における導波路アレイの断面構造の例を示したものである。チャネル導波路のコア0902を電気光学効果によって屈折率変化を生じさせる。チャネル導波路のコア0902を上下から電極0904によって挟み込み、電圧を印加させることによって、チャネル導波路のコア0902に対して垂直方向に電界を形成できる。電極材料としては一般的な金属材料であればよく、Cr、Au、Cu、Al等の金属が適当である。ただし、コアと電極を接触させると、チャネル導波路の伝搬光が電極材料に吸収されるため、電極とコアとの間にバッファとなるチャネル導波路のクラッド0903を形成する。クラッド材料としては、屈折率の低い誘電体材料が好ましく、具体的にはSiO2や、Ta2O5やTiO2とSiO2との混合ガラス材料、窒化酸化シリコン(SiON)、ポリマー等が好適である。電極とコアとの間を近づけるほど、屈折率変調に要する電圧を低くすることができるが、導波路の伝搬光が電極によって影響を受けないために、両者を1μm程度離すことが好ましい。また上部電極は図26(a)に示すように導波路アレイ全体を挟み込むように配置してもよいし、図26(b)あるいは図26(c)のように導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアの上部にのみ配置してよい。さらに図26(c)に示すようにコアを上下から挟み込むクラッド材料と、コアの側面部のクラッド材料が異なっていても構わない。また図26(a)から図26(c)においては全ての電極間に互いに等しい電圧が印加されるように電圧源を配置しているが、図26(b)および図26(c)において、各チャネル導波路に対して独立に異なる電圧を印加してもよい。
【0106】
(本発明の光偏向素子の製造方法)
以下に本発明の光偏向素子の製造プロセスについて説明する。コア材料としてLNやLTのような光学結晶材料の他、PLZTのようなセラミックス材料や電気光学効果を有するポリマー材料が適用できる。ここでは電気光学結晶をコアとした場合を想定し、バルク状の結晶材料から薄膜を形成し、得られた光学結晶薄膜をパターニングすることでチャネル化する。製造プロセスは光学結晶の薄膜化プロセスと、導波路パターニングおよび電極形成の2工程に大きく分けられる。
【0107】
はじめに光学結晶薄膜を形成するプロセスについて述べる。ここでは、薄膜と薄膜を保持する支持基板との間に電極層とクラッド層が挟まれている。これらを以下では下部電極および下部クラッドと呼ぶ。バルク状の光学結晶から薄膜を形成する最も簡便なプロセスは精密研磨による方法である。高精度な研磨加工により、例えば0.5mm〜1.0mm程度の厚さを有する光学結晶基板から、1μm以下の膜厚にまでに薄膜化加工が可能である。図27に研磨加工を利用した薄膜化プロセスを示す。はじめに光学結晶基板に下部クラッド材料および下部電極材料を順次成膜する。電極材料は金属材料が好ましく、その成膜方法として真空蒸着法やスパッタ法が好適である。また下部クラッドの成膜方法として、スパッタ法、化学気相体積(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、真空蒸着法等が好適である。次にこの下部クラッドおよび下部電極を成膜した光学結晶基板の下部電極側に支持基板を直接接合あるいは貼り合せる。支持基板材料としてはコア材料と同じ光学結晶が好適であるが、例えばシリコンや合成石英等であってもよい。この際の接合方法として、加圧下における加熱接合や常温接合等が適用できる。このとき、下部電極層または支持基板表面に互いの接合を容易にするための低融点をもつ誘電体層や金属層を追加して成膜することも有効である。またより簡便に、光学結晶基板と支持基板とを接着剤によって貼り合せてもよい。このようにして得られた貼り合せ基板に対して、光学結晶部分を研磨によって薄膜化加工することによって、最終的に支持基板上に下部電極層および下部クラッド層を挟むように光学結晶薄膜を形成する。
【0108】
バルク状の光学結晶から薄膜を得るためのもうひとつの方法として、図28に示すイオンスライス(Crystal Ion Slicing:CIS)法がある。イオンスライス法は、以下の工程により、バルク結晶から薄膜を形成する方法である。まず、光学結晶中に質量数の小さい水素イオンもしくはヘリウムイオンを高エネルギーで注入する。イオンは基板表面を貫通し、表面から注入エネルギーに応じた深さに注入層を形成する。注入層においては、基板表面に対して平行な方向に無数の微小なクラック(マイクロキャビティ)が発生する。イオン注入基板を適切な温度および時間で加熱すると、イオン注入によって形成されたマイクロキャビティがオストワルド熟成と呼ばれる効果で互いに溶解して大きなキャビティに成長する。このような基板表面付近の注入層にクラックが成長することを利用すると、イオン注入を施した基板を支持基板に接合した状態で加熱することによって、バルク状の基板から薄膜を支持基板に転写することが可能である。
【0109】
イオンスライス法によって得られる薄膜の膜厚は、バルク基板表面からのイオン注入深さで決定され、この深さは、イオン注入エネルギーによって制御可能である。具体的には、200keVのエネルギーを有するヘリウムイオンをニオブ酸リチウム基板に注入することによって、750nm程度の膜厚を有するニオブ酸リチウムの薄膜が得られる。またその注入深さは基板面内で均一であるから、最終的に得られる薄膜は面内の膜厚ばらつきがほとんどない均一な薄膜となる。図29にイオンスライス法によって形成したLN薄膜のSEM像を示す。厚さ750nmの薄膜が形成できている。このように、注入エネルギーを制御することで、1μm以下の膜厚を有するLNの薄膜を、極めて膜厚の精度よく形成することが可能である。
【0110】
図28はイオンスライス法を利用して光学結晶薄膜を形成するプロセスを示したものである。はじめに光学結晶基板にイオンを注入し、イオン注入層を形成する。次に下部クラッド層および下部電極層を順次成膜する。ただし下部クラッド層はイオン注入前に成膜しても構わない。イオン注入基板と支持基板とを接合する。上記の成膜および接合は薄膜が剥離しない程度の比較的低温にて実施する。接合した基板を加熱することにより、イオン注入層を境界として薄膜が剥離される。剥離した直後の薄膜の表面は通常100nm程度の荒れが残っているため、最後に薄膜表面を平滑化研磨することが好ましい。研磨加工としては、通常の光学研磨以外にも、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械的研磨)やレーザ加工等の方法を用いても良い。
【0111】
上記の手順により形成された、下部電極および下部クラッド付きの光学結晶薄膜に微細パターニングを施すことにより、偏向素子を完成する。その製作プロセスを図30および図31に示す。図30および図31はそれぞれ図27および図28に示した電極構成を形成するための製作プロセス例である。図30では、光学結晶薄膜をエッチングによりチャネル化する際のマスクとなる材料を最初に成膜する。マスク材料として、Cr等の金属材料やフォトレジスト等のポリマー材料が好適である。次に成膜したマスクを半導体プロセス用いられるリソグラフィー技術によりパターニングする。例えば電子ビームリソグラフィー、フォトリソグラフィー等のパターニングプロセスを適用できる。またマスクパターニングにはリフトオフプロセスも適用可能である。パターニングしたマスクをエッチングプロセスにより光学結晶薄膜に転写し、光学結晶のチャネル化が完了する。エッチングプロセスとして、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)エッチング,FIB(Forcused Ion Beam:収束イオンビーム)エッチング、NLD(Magnetic Neutral Loop Discharge)エッチング等のドライエッチングプロセスが好適である。図32にニオブ酸リチウム表面に微細パターンを形成した例を示す。光の波長以下の線幅をもつラインパターンや光の波長以下の周期を有するフォトニック結晶配列パターンが形成できる。
【0112】
光学結晶のチャネル化後、マスク材料を剥離し、上部クラッドを成膜する。上部クラッド材料がSiO2のようなガラス材料の場合は高周波スパッタ法やCVD法等により成膜が可能である。また上部クラッドをポリマー材料で形成してもよく、その場合はスピンコート法により上部クラッドを形成することができる。最後に上部電極を形成し、隣接するチャネル導波路間で屈折率変調する領域が一定に変化するように上部電極をパターニングする。上部電極の成膜は下部電極の成膜と同様の方法で形成でき、そのパターニングには半導体プロセスで用いられるリソグラフィー技術を適用することができる。
【0113】
図31に示したプロセス例では、はじめに光学結晶薄膜上に上部クラッドおよびマスク材料を成膜する。ここでマスク材料としてCr等の金属薄膜を用いる。金属マスクが最終的に上部電極としても機能する。成膜したマスク材料をパターニングし、形成したパターンをドライエッチングにより上部クラッドおよび光学結晶薄膜に転写する。次にチャネル化した光学結晶を埋め込むクラッド層を成膜し、最後に上部の電極を屈折率変調に適した形状にパターニングされる。これらのプロセスで用いる個々の工程は全て図30の製作プロセスで用いたものと同じ手法を適用することができる。
【0114】
(実施形態11)
図33は本発明による光偏向素子を利用した光偏向モジュールの第1の構成例である。レーザ光源からの光を、光結合器を介して光偏向素子に入射し、光ビームを偏向させる。光源と光結合器との間は例えば光ファイバを用いて結合することによって光を導いてもよいし、また適当なミラーやレンズ等の光学素子を経由して光ビーム形状を保ちながら空気中を伝搬させてもよい。
【0115】
光源からの光ビームを光ファイバによって導いた場合、光結合器は光ファイバ端面と光偏向素子とを高効率で結合する機能を果たす。本発明による光偏向素子内における入力チャネル導波路は、コアとクラッドとの屈折率差を大きくした導波路(以下高Δ導波路と呼ぶ)であることが好ましく、したがって比屈折率差の小さい光ファイバを光偏向素子に直接接続すると、結合損失が大きくなる。したがって光結合素子は、比屈折率差の小さい導波路(以下低Δ導波路と呼ぶ)と高Δ導波路とを高効率で結合する素子となる。高Δ導波路の端面付近を低Δ導波路によって囲み、さらに低Δ導波路に囲まれた領域において、高Δ導波路のコアをテーパー状に徐々に狭めて消失させることにより、低Δ導波路に入力された光を高効率で高Δ導波路に導くことができる。この場合、光結合素子と光偏向素子とは1つの基板上に集積して形成される。光ファイバ端面を光結合素子の結合することにより、光を高効率で比屈折率差の大きな入力チャネル導波路に導くことができる。
【0116】
また、空間伝搬してきた光を高効率で高Δ導波路に導く方法がある。高NAを有するレンズを、光の伝搬方向とは平行ではない光軸方向に配置することによって、高Δ導波路の出力端面に光を集光することが可能である。高Δ導波路は高いNAを有するから、導波路のNAとレンズのNAとを互いに最適に設定することによって、空間伝搬光を高Δ導波路に導くことが可能である。この原理を本発明素子に適用することにより、光源からの出射光を空気中を伝搬させ、入力チャネル導波路に導くことができる。
【0117】
光偏向素子に導かれた光は、屈折率変調領域における屈折率変化量に応じた偏向角を付与されて、光偏向素子から出射される。与える屈折率変化量は屈折率変調領域に与える電圧印加量によって制御可能である。導波路のコア材料に電気光学材料を用いることにより、高速な屈折率変調が可能であり、すなわち高速な可変光偏向が可能となる。このような光偏向モジュールはレーザプリンタ等の光書き込み用の光源として適用可能である。また、光源は必ずしも連続波である必要は無く、強度変調や位相変調等を施された光パルス列であってもよい。すなわち本発明による光モジュールは光ファイバ通信におけるスイッチング素子として適用することが可能である。
【0118】
(実施形態12)
図34は本発明の光偏向素子を利用した光偏向モジュールの第2の構成例である。光源からの光を光偏向素子に導く箇所については上記第1のモジュールの構成と同様である。光偏向素子は、光源の波長によって集光位置が異なる。すなわち屈折率変調を行わない場合の出力スラブ導波路における集光位置は入力される光の波長によって異なる。屈折率変調を行わない場合の出射位置は出力スラブ導波路の中央であることが望ましい。屈折率変調を行わないときに中央から出射すれば、屈折率変調時には電圧の印加方向を変えるだけで、左右に同じ角度の光偏向が可能になる。したがって初期状態すなわち屈折率変調を行わない状態において出力スラブ導波路の中央から出射するように偏向素子全体の温度を制御する。偏向素子の温度が変化するとき、素子を構成する材料の屈折率も変化するから、導波路アレイにおいて与えられる光路長差が変化する。したがって出射光の集光位置が変化する。この効果を利用して初期状態での出射位置がスラブ導波路の中央になるように調整することができる。素子に温度変化を与える方法として、例えばペルチェ素子を光偏向素子に近接させることが簡便である。さらに本発明の光偏向素子はHIC導波路を構成要素としているため微小面積であり、温度制御に必要な電力が小さくて済む。また微小領域の温度制御で済むことはモジュールの安定性が増すことにつながり、全体のサイズも小さくなる。
【0119】
(実施形態13)
図35および図36は本発明による光偏向素子を利用した光スイッチモジュールの実施形態である。本実施形態では光偏向素子の前段および後段のいずれか若しくはその両方に光増幅器を含む。また光源からの光は強度変調や位相変調等の光変調を施され、さらに光ファイバ等の媒質中を伝搬してきた光である場合を含んでいる。このような伝搬光に関しては、光偏向素子に入力する以前の光パワーが異常に小さい場合がある。また光偏向素子による経路切り替えの際にも光損失を被る。そこで光偏向素子に光を入力させる前、あるいは光偏向素子によって光の経路を切り替えた後に光増幅器によって光を増幅させることによって、小さい入力光パワーを増大させ、光偏向による過剰損失を補償することが有効である。具体的な光増幅器として、エルビウム等をドープした光ファイバを利用した光ファイバ増幅器や導波路型増幅器が好適である。
【0120】
(実施形態14、15)
本発明の光偏向方法は、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された構造での光偏向を基本とする。導波路アレイは隣接するチャネル導波路に一定の光路長差を設けた部分と、隣接するチャネル導波路の光路長を等しくした部分より構成され、さらに光路長の等しい導波路アレイに屈折率変調領域を設けている。この屈折率変調領域を設けている導波路アレイのチャネル導波路のコア幅を広くしたり(実施形態14)、コアとクラッドとの比屈折率差を小さくしたり(実施形態15)している。屈折率変調の効果を増大させ、素子サイズを小さくしたり、チャネル導波路の幅に対するトレランスを大きくしたりすることが出来る。
【0121】
屈折率変調領域で屈折率変調を施さない場合、入力チャネル導波路より入力された光は出力スラブ出射端の所定の位置に集光する。ここで導波路アレイを屈折率変調することにより隣接するチャネル導波路間に一定の位相差が付加され、出力スラブ導波路における集光位置を変化させることが出来る。集光位置の変化は屈折率変調量によって制御可能であり、光走査が可能となる。さらに出力スラブ導波路に複数の出力チャネル導波路を結合することにより、偏向された光を所望の出力チャネル導波路に導くことができ、偏向素子は1×Nスイッチとして機能する。屈折率変調領域を有するアレイ導波路の長さを長くすることにより、屈折率変調量が小さい場合であっても大きな偏向角が得ることが可能である。チャネル導波路を高屈折率差導波路によって構成することで素子の微小化が可能であり、また直線アレイ部のコア幅トレランスを拡大する構造を付与することで、製作も容になる。電気光学材料等の高速屈折率変調が可能な導波路材料によって本発明の偏向素子を構成することにより、高速な経路切り替えが可能な1×Nスイッチや、高速な走査が可能な光偏向器を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、光ファイバ通信に用いられる光スイッチング素子、レーザプリンタ、レーザ走査顕微鏡、バーコードリーダー等のスキャナー部に用いられる光学偏向器に係り、特に平面光導波路回路を用いた光偏向素子、マルチチャネル光スイッチング素子等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】光偏向素子(1)の概念図
【図2】光偏向素子(2)の概念図
【図3】光偏向素子の出力ポート部の説明図
【図4】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(m=10)
【図5】屈折率変調による出力フィールドの変化図
【図6】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(m=20)
【図7】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(第2の導波路アレイ長=100μm)
【図8】屈折率変調による出力フィールドの変化図
【図9】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(第2の導波路アレイ長=200μm)
【図10】コア幅の変化に対する導波路の等価屈折率の変化
【図11】コア幅の変化1mm当たりの導波路の等価屈折率の変化
【図12】導波路アレイのコア幅傾斜状拡大部の概念図
【図13】導波路アレイのコア幅拡大部の傾斜状クラッドの概念図の例
【図14】トレランス拡大構造による集光性能の変化を示すグラフ
【図15】トレランス拡大構造に屈折率変調による光出力強度変化を示すグラフ
【図16】チャンネル導波路の断面図
【図17】低屈折率導波路におけるコア幅変化に対する等価屈折率変化を示すグラフ
【図18】フォトニック結晶導波路アレイの概念図
【図19】電界吸収層を有する導波路アレイの概念図
【図20】入力スラブ導波路と導波路アレイとの接続部又は出力スラブ導波路と導波路アレイとの接続部
【図21】入力チャネル導波路と入力スラブ導波路との接続部
【図22】出力チャネル導波路と出力スラブ導波路との接続部
【図23】出力スラブ導波路の光路長変化の概念図
【図24】出力ポートへの集光の様子
【図25】出力スラブ導波路の移動による光出力強度の変化を示すグラフ
【図26】導波路アレイの構造図
【図27】光学結晶薄膜作製プロセス(1)
【図28】光学結晶薄膜作製プロセス(2)
【図29】イオンスライス方によって形成したLN薄膜のSEM写真
【図30】光学結晶薄膜へのパターニング(1)
【図31】光学結晶薄膜へのパターニング(2)
【図32】LN薄膜への微細パターンを形成したSEM写真
【図33】光偏向モジュール(1)
【図34】光偏向モジュール(2)
【図35】光スイッチモジュール(1)
【図36】光スイッチモジュール(2)
【符号の説明】
【0124】
0001:入力チャネル導波路 0002:入力スラブ導波路
0003:導波路アレイ 0004:出力スラブ導波路
0005:第1の導波路アレイ 0006:第2の導波路アレイ
0007:屈折率変調領域 0008:コリメート素子
0009:出力チャネル導波路 0101:導波路アレイ
0102:第1の導波路アレイ 0103:第2の導波路アレイ
0104:コア幅変化部 0105:チャネル導波路のコア
0106:導波路アレイのクラッド 0201:導波路アレイ
0202:第1の導波路アレイ 0203:第2の導波路アレイ
0204:コア幅変化部 0205:チャネル導波路のコア
0206:第1の導波路アレイのクラッド 0207:第2の導波路アレイのクラッド
0211:チャネル導波路のコア 0212:チャネル導波路の第1のクラッド
0213:チャネル導波路の第2のクラッド0214:チャネル導波路の第3のクラッド
0401:導波路アレイ 0402:第1の導波路アレイ
0403:第2の導波路アレイ 0404:フォトニック結晶配列
0405:フォトニック結晶線欠陥導波路 0501:導波路アレイ
0502:第1の導波路アレイ 0503:第2の導波路アレイ
0504:コア幅変化部 0505:チャネル導波路のコア
0506:光吸収層 0701:入力スラブ導波路又は出力スラブ導波路
0702:導波路アレイ 0703:コア幅変化領域
0711:入力チャネル導波路 0712:入力スラブ導波路
0713:コア幅変化領域 0721:出力スラブ導波路
0722:出力チャネル導波路 0723:コア幅変化領域
0801:出力スラブ導波路 0802:出力チャネル導波路
0803:出力スラブ端面の光路の変化量 0901:基板
0902:チャネル導波路のコア 0903:チャネル導波路のクラッド
0904:電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向素子、光偏向モジュール及び光スイッチモジュール、並びに光偏向方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムの大容量化、高速化ならびに高機能化に対する要求が急激に高まっており、このような、光通信システムに用いられる光信号処理デバイスとして、光信号の伝送経路を切り替える光スイッチが不可欠である。1つのポートから入力された光を複数(N個)の出力ポートの中から所望のポートへ出力させる1×N型のマルチチャネルスイッチング素子において、光通信システムの大容量化から、スイッチング可能なチャネル数増大への要求が増加している。
【0003】
1×N型光スイッチ素子として、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と呼ばれるマイクロマシン技術を用いた光スイッチや、導波路交差部分に導波路と等しい屈折率を有するオイルを充填しておき、加熱により気泡を発生させ、交差部分での光の反射を発生させることにより光路を切り替える光スイッチ等も開発されているが、これらのデバイスにおけるスイッチング時間はミリ秒程度と遅く、すなわち経路切り替えの速度が遅いという問題がある。ネットワークにおける高速化は更に進んでおり、高速な光スイッチが切望されている。
【0004】
高速に屈折率を変化させる方法として、電気光学効果を利用した方式(電気光学効果方式)がある。LiNbO3(LNと略称される。)やLiTaO3(LTと略称される。)に代表されるような電気光学結晶材料は電圧の印加に対する応答速度が極めて速く、フェムト秒(fs)程度の電界変化にも瞬時に応答する。この電気光学効果による屈折率変調を利用することによりナノ秒(ns)オーダーの極短時間で光の経路切り替えが可能である。すなわち、極めて高速に駆動する光スイッチが実現される。
【0005】
しかし、バルク結晶を用いる電気光学光スイッチング素子はサイズが大きくなり、またスイッチングに要求される電圧も高く、大容量の超高速スイッチには適さない。超高速スイッチング素子として一般的なのは導波路型光スイッチ素子である。例えば、特許文献1においては、PLZT((Pb,La)(Zr,Ti)O3)薄膜をパターニングしたY分岐導波路の片側のアームにのみ、薄膜の上下から電圧を印加することで屈折率変調を与え、所望のアームにのみ光を出力させることによる1×2型スイッチが報告されている。また、特許文献2おいては、KTN(KTa1−xNbxO3)が有する巨大な2次の電気光学効果(カー効果)を利用して、マッハ・ツェンダ干渉型デバイスによる2×2型スイッチが報告されている。
【0006】
しかしながら、大規模なマトリクススイッチ等、スイッチングの大容量化のためには、上記の1×2型あるいは2×2型スイッチング素子を多段に接続して分岐を増やす必要がある。例えば、8チャネル程度のスイッチング素子(1×8スイッチ素子)については基本要素である1×2スイッチ素子を用いた場合、3段接続すれば可能であり、基本要素の数は7個であるが、チャネル数が増加し、256チャネルのスイッチング素子を実現するためには基本要素の1×2スイッチ素子を8段接続する必要があり、必要な基本要素の数も255個と非常に多くなる。現状では、一つの基本要素の素子長は数mm程度であり、大規模なマルチチャネルスイッチを構成する際には素子面積が非常に大きくなる。また、出力ポートの切り替えのためには、各基本要素についてそれぞれ独立に電圧を印加する必要があり、導波路型スイッチ素子によって大規模な1×Nスイッチング素子を実現するのが困難である。
【0007】
電気光学効果による高速な屈折率変調を利用したスイッチング素子の他の例として、特許文献3においては、電気光学効果でスラブ光導波路内にプリズムを生じさせ、印加電圧制御により任意の方向にビームを偏向させることによって経路切り替えを行う光スイッチ素子が報告されている。この方式はスイッチ素子の集積化が容易であり、原理的には大規模なマルチチャネルスイッチを構成することが可能である。
【0008】
しかし、電気光学効果による小さな屈折率変化量を利用するため、光ビームの偏向角が小さい。したがって大規模なマルチチャネルスイッチにおいてポートを切り替えるためには、導波路内の伝搬長を100mm程度まで長くする必要があり素子面積が大きくなる。さらに偏向された光ビームは横方向の閉じ込めがないままスラブ導波路内を長距離伝搬するため、導波路材料内の不純物や屈折率の不均一性によるビーム広がりや散乱等の影響を受け易い。以上の問題より、屈折率変調によるプリズム効果を利用した方式でも大規模な1×Nスイッチング素子を実現するのが困難である。
【0009】
上述のように、1×2型あるいは2×2型スイッチング素子を利用した光偏向素子において、100ポートを越えるような大規模なマルチチャネルスイッチング(1×Nスイッチング)動作と超高速な経路切り替えとを同時に実現することは困難である。
【0010】
これに対し、特許文献4においては、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型波長分波器を応用した、波長チャネルを切り替えるスイッチング素子が提案されている。AWG型分波器は、少なくとも1つの入力ポートに対して分波する波長チャネルに応じた複数の出力ポートをもつ。波長多重された光は、それぞれの波長に応じて対応する出力ポートに分波される。ここで、ある波長信号がどの出力ポートから出力されるかは、AWG素子内のアレイ導波路における隣接導波路間の光路長差に依存する。したがって、熱光学効果や電気光学効果等によって導波路に屈折率変調を施すことにより、上記の光路長差を変化させ、出力ポートを変化させることが可能になる。AWGは複数の出力ポートを有することから、1×Nの大規模なマルチチャネルスイッチング素子の候補として魅力的である。
【0011】
AWGを利用したマルチチャネルスイッチングデバイスにおいては、必然的に多くの光導波路を集積化することが要求される。ここで光通信用デバイスに用いられている光回路として、石英系の素材からなる平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)が広く使用されており、これまでに提案されている光スイッチングデバイスにおける光導波路の比屈折率差は、PLCを構成する石英系光導波路の比屈折率差と同程度であることが多い。比屈折率差はコアの屈折率をncore,クラッドの屈折率をncladとしたときに、比屈折率差Δ=(ncore2−nclad2)/(2ncore2)で定義されるパラメータである。石英系導波路は、光ファイバからの光を高効率で導波路に結合させるため、通常はコアとクラッドの比屈折率差が1%程度と小さい。したがって単一モード条件を満たすための導波路の断面寸法を5〜10μm角程度と大きくしなければならない。さらに、導波路を曲げて伝搬方向を変化させる際の曲率半径が1〜25mmと大きくせざるを得ず、このためデバイスサイズを小さくできず、高密度な光回路の集積化に適さない。同様に、PLCと同程度の比屈折率差をもつ導波路型スイッチング素子を集積化して大規模なマルチチャネルスイッチングを実現する際においても、デバイスサイズが非常に大きくなってしまう。
【0012】
特許文献4ではLNをアレイ導波路の構成材料としたスイッチング素子も提案されているが、スイッチングに十分な光路長の変化を与えるために、直線導波路を構成要素とする導波路アレイを挿入している。これはLNが有する電気光学効果による屈折率変化が小さく、有意の光路長変化を得るためには10mm以上の比較的長い伝搬距離が必要であることに起因する。また特許文献4で使用されているLN導波路は、TiをLN内部に熱拡散することによりチャネル型の光閉じ込めを実現しているが、その光閉じ込めの強さはPLCと比較しても非常に弱く、したがって導波路の曲がりに弱い。そこで曲がりを含むアレイ部分にはPLC導波路素子を用い、LNによる直線導波路アレイとのハイブリッド接続によって素子を構成している。
【0013】
一方、PLC導波路に対して、従来の石英系材料と比べて非常に高い屈折率をもつ材料を光導波路のコアとして用いた、微小な光制御デバイスが研究されている。例えば屈折率3以上を有する半導体材料や屈折率2程度の誘電体材料をコアとし、さらにクラッドを空気とすることで、40%程度以上の比屈折率差を実現できる。これにより一般的な石英系PLCデバイスと比較してデバイスサイズを飛躍的に微小化できる。具体的には、無損失で伝搬可能な導波路の曲げ半径は数μmとなり,これは従来の石英系導波路の約1000分の1以下の大きさである。このように、従来の全反射型光導波路と比較して比屈折率差を極めて高く、具体的には10%程度以上としたような光導波路を超高屈折率差(HIC:High Index Contrast)導波路と呼ばれている。
【0014】
HIC導波路を構成するコア材料として代表的なものはシリコンである。シリコンは光通信に用いられる波長1550nm帯の光に対して透明であり、その屈折率は3.5程度と極めて高い。シリコンは元々大きい熱光学効果を有するが、さらにコアが微小化されることから微小領域を加熱するのみで屈折率変調が可能となるため、素子のスイッチングに必要な消費電力が従来のPLC導波路と比較して極めて小さくて済む。
【0015】
その他にも、フリーキャリアのプラズマ分散効果を利用した高速な光変調も可能になりつつある。また、LNやLT、KTNのような電気光学結晶材料やPLZTのようなセラミックス材料はその屈折率が2.0以上と大きく、HIC導波路のコア材料として好適である。電気光学材料をチャネル形状に加工し、その周囲を低屈折率のクラッドで囲むことによりHIC光導波路が構成できることが知られている。
【特許文献1】特開2006−58837号公報
【特許文献2】WO2004−083953号公報
【特許文献3】特開2006−194993号公報
【特許文献4】特許第3053294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献4におけるスイッチング素子の構成では、PLCによる素子の長大化に加えて、異種導波路を接続する際の光軸のトレランスが少なく、接続の微調整等が難しく、更に接続部において過剰損失が生じ易いという問題点がある。すなわち、スイッチング素子の製作コストの増大や、スイッチングに伴う過剰損失の増大といった問題点がある。
【0017】
HIC導波路は伝搬モード径が小さく、光ファイバからの伝搬光や空間伝搬光等を高効率で導波路内に導くことが1つの課題となっている。この課題を解決するいくつかの方法があるが、本発明者らは、例えば、空間伝搬してきた光を高効率でHIC導波路に導く方法を見いだしている。すなわち、高NAを有するレンズを、光の伝搬方向とは平行ではない光軸方向に適切に配置することによって、HIC導波路の出力端面に光を集光することを可能としている。
【0018】
さらに、チャネル形状の電気光学材料への電界形成方法を見いだしている。電気光学材料によるHIC導波路がそのコアへの強い光閉じ込めを可能にすることを利用して、電界を形成するための電極をコアに接近して配置することを可能としている。したがって、材料の屈折率を変調する際の駆動電圧を低くすることができる。このように電気光学材料によるHIC光導波路をスイッチング素子の基本配線とすることによって、素子の高密度集積化および低電圧スイッチング動作が可能となる。
【0019】
以上の技術により、半導体材料や電気光学材料によるHIC導波路に高効率で光を導き、また低消費電力若しくは低駆動電圧にて光スイッチング、すなわち光の経路切り替えが可能となる。HIC導波路を前述のAWG型のスイッチング素子に適用することでコンパクトなスイッチング素子が可能になる。さらに、HIC導波路は急激な曲げが可能であるため、AWGを構成するチャネル導波路およびスラブ導波路を一括集積して形成することが可能である。すなわち特許文献4のように異種のコア材料からなる導波路同士をハイブリッド接続する必要がない。したがって、スイッチング素子がより安価に製作でき、接続部での過剰損失もない。
【0020】
以上のように、HIC導波路を用いたAWG型スイッチング素子によって、コンパクトかつ低コストで高速なマルチチャネルスイッチ素子が可能になる。しかしながらPLC導波路と比較すると、HIC導波路は導波路が単一モードにて動作するためのコアサイズが非常に小さくなり、さらにコアサイズがわずかに変化しただけでも導波路の等価屈折率が大きく変化する。AWGを利用したスイッチング素子は、ミリメーター程度の伝搬長を有する導波路アレイの等価屈折率を変化させることで隣接チャネル導波路間に位相差を与える。したがって、屈折率変調を行わない場合の各チャネル導波路の等価屈折率が均一であることが重要である。しかしながら、HIC導波路では10nm程度のコア幅の変動であっても、等価屈折率へ与える変化量は10−3程度となる。これはLN等の電気光学効果による屈折率変調量より大きい。すなわちHIC導波路によってスイッチング素子を実現するためには、1nm程度のコア幅の変動しか許されず、コア幅の寸法精度に対するトレランスが非常に小さい。
【0021】
本発明においては、これらの問題点を解決するため、高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ製作が容易な微小な光偏向素子、及びこの光偏向素子を利用した光偏向モジュール、光スイッチモジュールの提供、並びに高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ微小な素子によっても偏向できる光偏向方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため本発明者等は、以下の発明を完成した。
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広いことを特徴とする光偏向素子である。
【0023】
好ましい本発明は、前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部において、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が傾斜状に変化して広くなっていることを特徴とする前記光偏向素子である。
【0024】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さいことを特徴とする光偏向素子である。
【0025】
好ましい本発明は、前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部付近において、前記第2の導波路アレイを構成するクラッドが傾斜状に形成されていることを特徴とする前記光偏向素子である。
【0026】
これらの光偏向素子は、微小な素子サイズで、光ビームを高速でマルチチャンネルに偏向ができ、かつ製作においても導波路のトレランスが大きく容易である。
【0027】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、前記第2の導波路アレイがフォトニック結晶配列を有することを特徴とする光偏向素子である。この光偏向素子は、光スイッチングあるいは光偏向に要求される光伝搬長を短くすることが出来る。
【0028】
好ましい本発明は、前記導波路アレイにおいて、チャネル導波路の間に電界吸収層を有することを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えにおいて、隣接経路への迷光が少ない。
【0029】
好ましい本発明は、複数の出力チャネル導波路が前記出力スラブ導波路の光路出口に接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0030】
好ましい本発明は、チャネル導波路に光路中の光を反射させるミラーを備え、前記入力スラブ導波路は前記出力スラブ導波路を兼ねることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、素子サイズをさらに小型化できる。
【0031】
好ましい本発明は、前記入力スラブ導波路と前記導波路アレイとの接続部、及び/又は前記入力スラブ導波路の入力ポートに接続する入力チャネル導波路を備え入力スラブ導波路と入力チャネル導波路との接続部において、チャネル導波路及び/又は入力チャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0032】
好ましい本発明は、前記出力スラブ導波路と前記出力チャネル導波路及び/又は前記導波路アレイとの接続部において、出力チャネル導波路及び/又はチャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0033】
好ましい本発明は、前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路とが互いに異なる光路長を有することを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、経路切り替えによる過剰損失が少ない。
【0034】
好ましい本発明は、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路において、前記屈折率変調領域のコアは電気光学効果を有する光学結晶材料で形成され、電極が前記コアを挟んで対向するよう少なくとも一対配置され、クラッドは前記コアと前記電極との間に形成されることを特徴とする前記光偏向素子である。この光偏向素子は、低電圧で光の出力位置を変化させることが可能である。
【0035】
本発明は、光源と、光結合部と、光偏向素子を順次結合して構成された光偏向モジュールであって、光偏向素子は、上述のいずれかに記載の光偏向素子であることを特徴とする光偏向モジュールである。この光偏向モジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0036】
好ましい本発明は、前記光偏向素子の温度を調節する温度制御装置を備えることを特徴とする前記光偏向モジュールである。この光偏向モジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0037】
本発明は、光偏向素子の前後いずれか若しくは両方に光増幅器を備える光スイッチモジュールであって、光偏向素子は、上述のいずれかに記載の光偏向素子であることを特徴とする光スイッチモジュールである。これらの光スイッチモジュールは、微小サイズで大きな光偏向あるいは大規模なマルチチャネルスイッチングが可能である。
【0038】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広くすることを特徴とする光偏向方法である。
【0039】
本発明は、基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さくすることを特徴とする光偏向方法である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ製作が容易な微小な光偏向素子、及びこの光偏向素子を利用した光偏向モジュール、光スイッチモジュールを提供することができ、又高速動作および大規模なマルチチャネルスイッチングが可能であり、かつ微小な素子によっても偏向できる光偏向方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明を実施するための最良の形態を必要に応じて図面を参照にして説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明の好ましい形態における例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0042】
(本発明におけるAWG型光偏向素子の動作原理)
はじめに、本発明の光偏向素子におけるAWG型光偏向素子の動作原理とその性能について述べる。図1はAWG型の光偏向素子の構成について模式的に示したものである。光偏向素子は、入力チャネル導波路0001、入力スラブ導波路0002、導波路アレイ0003、出力スラブ導波路0004を光路が連結されるように順次接続して構成される。導波路アレイ0003は、第1の導波路アレイ0005及び第2の導波路アレイ0006からなる。導波路アレイ0003は複数のチャネル導波路によって構成されている。第1の導波路アレイ0005においては、隣接するチャネル導波路間で一定の光路長差を設けることが好ましいが、第2の導波路アレイ0006においては隣接するチャネル導波路が同じ光路長を有する。さらに第2の導波路アレイ0006は屈折率変調領域0007を備える。屈折率変調領域0007における屈折率は可変であり、領域内のチャネル導波路の等価屈折率をある範囲内で任意に変化させ得る。また屈折率変調領域0007は、隣接するチャネル導波路間において一定の光路長差を付加するように配置される。
【0043】
この光偏向素子においては、入力チャネル導波路0001から入力スラブ導波路0002の入力ポートに入射された光は、入力スラブ導波路0002において回折し広がって伝搬する。その後、導波路アレイ0003を構成する複数のチャネル導波路に同位相で結合し、導波路アレイを伝搬する。各チャネル導波路の伝搬光は出力スラブ導波路0004において干渉し合い、出力スラブ導波路の終端面(出口ポートでもある。)において微小な光スポットに集光する。ここで出力スラブ導波路での集光位置は、導波路アレイ0003を伝搬することによって与えられる各チャネル導波路間の位相差によって決定する。したがって、屈折率変調量を制御することにより、導波路アレイを構成するチャネル導波路間の位相差を変化させ、最終的な光の集光位置を特定することができる。すなわち、屈折率変調領域0007におけるチャネル導波路の素子材料の屈折率変調により光偏向が可能となる。
【0044】
出力スラブ導波路0004の終端面において集光される光スポットの大きさは、入力チャネル導波路0001を伝搬する伝搬モードの電磁界分布程度に小さくすることが可能である。したがって、例えば、比屈折率差が1%程度の典型的な石英系光導波路によって素子を構成した場合、出力スポット径は数μm程度になる。さらに、コアとクラッドの屈折率差を極めて大きくしたHIC光導波路によって素子を構成すれば、導波路の伝搬モード径を1μm以下にできる。そして、出口ポートにおけるビームスポット径も1μm以下に超微小化することが可能である。
【0045】
図1に示したように、第2の導波路アレイ0007を隣接する導波路構造が等しい直線導波路で構成するのが最も簡便であるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば、曲がり導波路を導波路アレイ0007内に含んでいても構わない。また隣接するチャネル導波路間の光路長差が光の波長の整数倍であるように第2の導波路アレイを構成してもよい。
【0046】
出力スラブ導波路0004の終端面において集光した光ビームは、その端面から出射後に再び拡散して広がるため、図1(b)に模式的に示すように出力スラブ直後に、コリメート素子0008を配置し、収束光である出射ビームを平行光に変換することが有効である。これにより、平行ビーム光を走査することが可能になる。コリメート素子0008としては光学レンズを出力スラブの後段に配置する方法が簡便である。
【0047】
図2はAWG型光偏向素子の別の形態を模式的に示したものである。光偏向素子が入力チャネル導波路0001、入力スラブ導波路0002、導波路アレイ0003、出力スラブ導波路0004を順次接続して構成されることに関しては図1に示した実施形態と同様であるが、本形態ではさらに図2(b)に拡大して示すように、出力スラブ導波路0004の終端に複数の出力チャネル導波路0009を接続した構成を有する。屈折率変調により、出力スラブ終端面において集光ビームを偏向する原理については上述と同様である。本形態では、光が集光される出口ポートの位置に出力チャネル導波路0009を配置し、その導波路に集光ビームを導く。複数の出力チャネル導波路0009を配置した場合、屈折率変調により光の集光位置が変化するため、屈折率変調領域の屈折率変調により出力ポートすなわち出力される導波路の集光位置を移動させることができる。したがって本形態により、1×Nポートのマルチチャネルスイッチが可能となる。
【0048】
図2に示した形態において、もし第2の屈折率変調領域を含む導波路アレイ0006が存在しない場合は、光ファイバ通信用に広く使用されているAWG型波長分波器と同様の構成となる。その際、第1の導波路アレイ0005全体、あるいはその一部分を屈折率変調することによっても出力ポートを切り替えることが原理的には可能である。しかしながら、その場合には屈折率変調される導波路の長さが短く、導波路材料の屈折率変化量が小さい場合、ポート切り替えが可能なほどの大きな位相差を隣接するチャネル導波路間に与えることは困難である。
【0049】
これに対して本発明の光偏向素子においては、第2の導波路アレイの伝搬距離を長くすることによって、ポート切り替えに十分な位相差を隣接チャネル導波路間に与えることが可能である。したがって、後述するように高速であるが屈折率変調量の小さい電気光学効果等による屈折率変調を施した場合においても、十分な偏向角が得られ1×N型スイッチにおいては切り替え可能なポート数を増やすことができる。また、屈折率変調を行わない場合、第2の導波路アレイにおいてはアレイ内の全てのチャネル導波路において互いに等しい光路長を伝搬するから、原理的に従来のAWG素子と比較して集光性能等の劣化はない。
【0050】
さらに、導波路アレイの伝搬距離を長くすると、一般的には素子サイズが大きくなってしまうが、コアサイズが微小でありかつ急激に曲げることが可能なHIC光導波路によって、その素子サイズを劇的に縮小させることが可能である。
【0051】
(その他の導波路型偏向素子と比較した際のメリット)
波長分波器としてのAWGの特徴は、波長多重した光を一括して複数の出力ポートに分波することにある。したがってAWGは波長チャネル数に応じた複数の出力ポートをもつ。この構造をスイッチング素子に利用することによって1×Nのスイッチングが1つの素子で可能となることが本素子の特徴である。例えばスイッチング素子に適用できる光導波路素子としてマッハ・ツェンダ干渉計、Y分岐,リング共振器、方向性結合器等があるが、いずれも1×2または2×2のスイッチング素子である。したがって1×Nのスイッチングのためには基本素子となる1×2あるいは2×2スイッチを多段に縦続接続する必要があり、デバイスサイズが大きくなる。例えば、256の出力ポートをもつ1×256スイッチを上記の1×2スイッチを基本要素として構成した場合、8段、255個の基本要素を結合する必要がある。
【0052】
これに対して本発明の光偏向素子は、出力ポート数を増やす際には出力スラブに結合する出力チャネル導波路の本数を増加するだけでよく、1×Nスイッチを構成する場合において複数の光偏向素子を多段に結合する必要がない。チャネル数の大きな1×Nスイッチを構成するためには、集光ビームが出力スラブ導波路の出射端面を走査する距離を長くすることが要求されるが、これはスラブ半径すなわちスラブ導波路の伝搬長を長くすることで容易に実現される。なお、スラブ半径を大きくすることが集光ビーム径に影響を与えることは無い。以上のように本発明における光偏向素子はマルチチャネルスイッチの大規模化が容易である。具体的なデバイスサイズについての検討結果は後述するが、1×256スイッチが10mm角以下のデバイスサイズで実現できる。これは通常のPLC素子と比較して1/100以下の面積で実現することを意味する。さらに本発明の光偏向素子は1箇所の屈折率変調領域の屈折率変化量のみを調節するだけで経路切り替えが可能である。したがって、多くの基本要素デバイスを個別に変調することが必要とされる従来の光スイッチと比べて、経路切り替え時の屈折率変調制御が簡易化できる。
【0053】
(HIC導波路で光偏向素子を構成した際のメリット)
ここで、本発明の光偏向素子をHIC導波路で構成することによるメリットについて、特許文献4で報告されているような従来のPLC導波路による光偏向素子と比較して説明する。典型的なPLC導波路によって形成されたAWGデ光偏向素子は、素子面積が数cm角程度と大きい。これはチャネル導波路におけるPLCの比屈折率差が1%程度以下と小さく、第1の導波路アレイのような曲がりを含んだ光伝搬において、曲げの曲率半径を数ミリメートル程度までしか微小化できないことに起因する。ここで、比屈折率差ΔはΔ=(ncore2−nclad2)/2ncore2で定義されるパラメータである。さらにPLC素子ではコアへの光閉じ込めが弱く、出力スラブ導波路において集光される光ビームスポット径は数μmから10μm程度と大きい。したがってチャネル導波路を隣接して配置するアレイ導波路や出力チャネル導波路において、チャネル導波路同士の間隔をも10μm程度に広くする必要がある。以上のことが素子サイズの微小化を極めて困難にしている。
【0054】
このようなPLC光回路に対して、コアとクラッドとの屈折率差を極めて大きくしたHIC導波路によって光偏向素子を構成すれば素子面積の劇的な微小化が可能となる。例えばHIC導波路では数μm程度の微小曲げが可能であり、この性質は直接素子の微小化につながる。さらに1μm2以下の微小なコアの内部に光が強く閉じ込められるから、導波路アレイにおいて隣接するチャネル導波路の間隔を1μm程度に近づけることが可能である。出力スラブにおいて集光される光のビームスポット径はほぼ入力チャネル導波路の伝搬モード径に等しいから、HIC導波路を光偏向素子に適用することにより出力スラブ導波路において微小スポットに出力光を集光することができる。したがって、隣接する出口ポートの間隔を狭められ、出力チャネル導波路同士の間隔を近づけることが可能である。逆に、光偏向素子による光ビームの走査長が一定とすれば、出力導波路を密に詰めることでスイッチング可能なチャネル数を増やすことができる。以上のようにHIC導波路は素子面積の微小化とマルチチャネルスイッチにおけるチャネル数の増加に極めて有効である。
【0055】
(偏向素子の動作確認例:FDTDシミュレーション)
図2に示すような光偏向素子に対して具体的なパラメータを設計し、屈折率変調による偏向特性を確認した。性能の評価には2次元FDTD法(Finite Difference Time Domain method)による数値シミュレーションを用いた。本発明の光偏向素子はAWG波長分波器を基本構成としているため、パラメータの設計はAWGの設計指針に則って決定される。また、ここでは素子を構成する導波路として、シリコンをコアに、空気をクラッドにしたシリコン細線導波路を適用した場合を仮定して性能を評価する。
【0056】
シリコンをコアに、空気をクラッドにしたチャネル導波路を等価屈折率近似により2次元化し、シミュレーションにおける導波路のコアの屈折率ncoreを3.06、クラッドの屈折率ncladを1.0と決定した。またチャネル導波路のコア幅wを480nmとした。このとき、波長1550nmに対する導波路の等価屈折率neqは2.644となる。また導波路アレイを構成するチャネル導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路ピッチdを1.0μmとした。アレイを構成するチャネル導波路の本数を24とした。また同様に複数の出力導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路間隔Dを1.0μmとした。スラブ導波路の焦点距離(スラブ半径と同じ)を25μmとした。第1の導波路アレイにおける隣接チャネル導波路間の経路差ΔLを5.8μmとした。出力スラブ導波路端面の中央に集光する波長を中心波長λ0とすると、neqおよびΔLとλ0とはneqΔL=mλ0の関係を満たす。ここでmは回折次数である。上記のneqおよびΔLの値に対して、回折次数mを10とすることにより、中心波長がほぼ1550nmになる。
【0057】
以上のように設計したAWG波長合分波器に対して、第2の導波路アレイ部を設けた。第2の導波路アレイは図2に示すような直線のチャネル導波路によって構成し、直線アレイの長さを100μmとした。また屈折率変調する長さを、最も外側の導波路では100μm、最も内側の導波路で0μmとして、その間は線形に屈折率変調する導波路長を変化させた。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.025〜+0.010の範囲で0.005ずつ変化させた。入射光の波長は1540nmとした。
【0058】
図4は出力ポートNo.0〜No.+4における出力電界強度が屈折率変調量に応じてどのように変化するかをプロットした結果である。ここでは、図3に示すように中央の出力チャネル導波路をポートNo.0と定義し、そこから右のチャネル導波路を順にポートNo.+1、No.+2、・・・、中央から左の出力チャネル導波路をポートNo.−1、No.−2、・・・と呼ぶことにする。図4より,屈折率変調領域におけるコアの屈折率を0.018だけ変化させると1ポート分だけ出力位置が変化することが読み取れる。この例で設計したAWGでは1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.04度に相当する。したがって屈折率変調領域の長さを100μmとした場合、屈折率変調量0.01に対して1.13度の偏向角が得られる。図5(a),(b)は、dncoreを−0.015および+0.005としたときの出力フィールド分布であり、それぞれポートNo.+1およびNo.+2に出力光が出射されることが確認できる。このように屈折率変調量の違いによって出力スラブ導波路端面への光の集光位置が変化し、出力ポートを切り替えることができる。
【0059】
次に、AWG素子の設計において回折次数を変化させ、m=20としたときの屈折率変調による偏向角の変化量について確認した。AWG素子の設計値はほぼ上記の値と同じである。波長1540nmの入力光に対して、dncoreを−0.04〜+0.04の範囲で変化させ、各ポートからの出射強度をプロットした結果を図6に示す。直線導波路アレイの長さはm=10の場合と同じく100μmである。図6より、0.02のdncoreの変化量が1ポート分の出射位置の変化に相当することが確認できる。m=10の場合と同じく1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.04度に相当する。したがって屈折率変調量0.01に対して1.02度の偏向角が得られることになり、m=10の偏向特性の結果と比較するとほぼ等しい結果が得られた。以上の結果よりAWG素子の回折次数が異なっても屈折率変調に伴う偏向角変化量は変わらないことが確認できる。
【0060】
(LN細線導波路による光偏向素子の設計例)
高速な光変調を可能にする方法として、電気光学効果を有する材料を導波路材料に用い、その屈折率を電圧の印加によって変化させることが有効である。そこで、AWG型光偏向素子における各導波路のコア材料として電気光学結晶材料を適用した場合の偏向特性を、同様に2次元FDTDシミュレーションによって確認した。シミュレーションに用いたパラメータを以下に記す。ここで導波路のパラメータについて、屈折率は電気光学結晶として典型的なニオブ酸リチウム(LN:LiNbO3)をHIC導波路のコアに用い、その周囲のクラッドがSiO2である場合を想定し、さらにそのHIC導波路を2次元近似して決定した。また波長は本発明素子をレーザプリンタ等の光走査装置に適用した場合を想定して、感光体ドラムの感度特性に適する650nmとした。
【0061】
LN(屈折率=2.17)をコアにして、SiO2をクラッドとしたチャネル導波路を等価屈折率近似によって2次元化し、シミュレーションにおける導波路のコアの屈折率ncoreを1.93、クラッドの屈折率ncladを1.46と決定した。チャネル導波路のコア幅wを300nmとした。また導波路アレイを構成するチャネル導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路ピッチdを1.2μmとした。アレイを構成するチャネル導波路の本数を24とした。また、同様に複数の出力導波路について、スラブ導波路との接続部における導波路間隔Dを1.2μmとした。スラブ導波路の焦点距離(スラブ半径)fを30μmとした。第1の導波路アレイにおける隣接チャネル導波路間の経路差ΔLを5.4μmとした。このΔLの値に対して、AWG型波長分波器における回折次数mを15とすることにより、中心波長がほぼ650nmになる。
【0062】
上記のような設計値を有する光偏向素子について、屈折率変化による集光位置の変化を確認した。ここでは図2に示すように光偏向素子の中央に屈折率変調を与えるような直線部を設け、直線アレイの長さを100μmとした。また屈折率変調する長さを最も外側の導波路では100μm、最も内側の導波路で0μmとして、その間は線形に変調する導波路長を変化させた。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.060〜+0.050の範囲で0.005ずつ変化させた。また入射光の波長を650nmとした。
【0063】
図7は出力ポートNo.−3〜No.+3における出力電界強度が屈折率変調量に応じてどのように変化するかをプロットした結果である。また図8はそれぞれのポートに最も光が集光したときの出力電界分布を示した。図7より、コアの屈折率変調量を0.019としたとき、1ポート分だけ出力チャネル導波路が変化することを読み取ることができる。ここで設計した偏向素子では1ポート分の出射位置の変化は偏向角度にして2.08度に相当する。したがって屈折率変調領域の長さを100μmとした場合、屈折率変調量0.01に対して1.1度の偏向角が得られることになる。
【0064】
次に,偏向角度と屈折率変調領域における直線アレイ長の関係について同様に2次元FDTDシミュレーションにより確認した。具体的には直線導波路の長さを200μmに長くしたとき、屈折率変調量に対して出力チャネル導波路の出力ポートがどのように変化するかを確認した。屈折率変調する長さを、最も外側の導波路では200μm、最も内側の導波路で0μmとしてその間は線形に変調長さを変化させた点を除いて、設計パラメータおよびシミュレーション条件は上述の直線導波路長が100μmの場合と全く同じである。屈折率変化量に対する出力チャネル導波路ポートNo.−3からNo.+3までの出力強度の変化を計算した結果を図9に示す。屈折率変調領域におけるコアの屈折率変調量dncoreは−0.03〜+0.025の範囲で0.0025ずつ変化させた。
【0065】
図9に示す結果を、直線アレイ長が100μmの場合の図7に示す結果と比較すると、ちょうど半分の屈折率変調量で同等の出力ポート変化が得られることが分かる。このことは、屈折率変調量が小さい場合であっても直線アレイを長くすることによって大きな回折角を得ることが可能であることを示唆している。したがって特に屈折率変調量の小さい電気光学結晶をコアに用いたスイッチング素子であっても、直線アレイを長くすることによってスイッチング量を大きくすることができる。例えば、屈折率変調量が0.001であっても屈折率変調領域の長さを1mmにすれば1度程度の偏向角が得られる。さらにスラブ導波路の半径を大きくすれば、偏向角が小さくてもその偏向角度によって変化できる円弧の大きさを大きくでき、かつ原理的には出力スラブ導波路の出射端における集光スポット径はスラブ半径に依存しないため、マルチチャネル型のスイッチング素子においてチャネル数を増やすことができる。
【0066】
本発明の光偏向素子の基本的な偏向特性のシミュレーション結果をもとに、例えばLNのような電気光学結晶材料をコア材料に想定した場合、その屈折率変化量でどれだけのポートにわたってスイッチングが可能となるかを検証する。基本となる前提条件として、100μm長の直線アレイにおいて、屈折率変化量0.01に対して集光位置が1度偏向すること、直線アレイの長さに対して偏向量が線形に変化する(アレイ長が2倍になれば偏向角も2倍になる)こと、出力位置に集光されるビームのスポットサイズがスラブ半径に依存しない(スラブ半径が大きくなった場合でも小さなスポットに光を集光できる)ことを仮定する。
【0067】
集光位置の変化に寄与する位相差を与える原因を、直線アレイにおける光路長変化としてまとめて表す。すなわち、前提条件では位相差を与えるパラメータとして直線アレイ長Lと屈折率変化量dncoreを考えているが、これらを光路長の変化としてdS=L×dncoreとしてまとめる。例えば100μm長の直線アレイにおける屈折率変化量0.01は,dS=1[μm]となる。光路長変化dSの単位は長さの単位であるが、無次元の屈折率変化量の値を含んでいることに注意を要する。例えばdS=1[μm]を得るために、1000μmのアレイ長に対して0.001の屈折率変化量を与えることも可能である。したがってLNのように屈折率変化量が小さい材料でも、直線アレイ長を長くすることによって光路長変化量を大きくすることが可能である。
【0068】
次に前提条件から、光路長変化量dS=1[μm]のとき偏向角は1度である。さらにdSと偏向角dθは比例関係にあり、dθ=1×dS[deg]である。光路長変化量を大きくすれば大きな偏向角が得られるが、偏向角を大きくするほど高次の回折光へ集光する光強度が大きくなる。したがって,極端に大きな偏向角は避けるのが好ましい。具体的には通常は偏向角が5度以下程度の範囲で使用することが好ましい。
【0069】
偏向素子の性能を決定するのは偏向角そのものより、光偏向によって走査される光ビームの移動距離である。偏向角が同じ場合でもスラブ半径fが異なると偏向による走査長Lcも異なり,その値はLc=f×dθで与えられる。ここでfはスラブ半径であり、dθはradの単位に変換する必要がある。走査長はスラブ半径に比例して長くできる。本発明の光偏向素子によって1×N型のマルチチャネルスイッチ素子を構成した場合、スイッチング可能なチャネル数Nは上述の走査長を出力導波路間隔Dで割ったもので与えられる。すなわち、N=Lc/D=(f/D)×(dS・π/180)である。走査長Lcが長い場合であっても、導波路間隔Dが広ければチャネル数Nは小さくなる。したがって出力導波路ではできる限り光を強く閉じ込めて導波路間隔を狭めることがチャネル数の増加に有効である。
【0070】
具体的な値を仮定してスイッチング可能なチャネル数を見積もる。例えばdn=0.001、L=1000μmとするとdS=1.0となる。またD=1.2μmと仮定すると、f=600μm、1200μm、1800μmのとき、それぞれチャネル数Nは8、17、26となる。したがって例えばf=600μmのとき8チャネルのスイッチングが可能になる。これは1mm角程度の微小な素子サイズによって8チャネルのスイッチング素子が実現できることを意味する。また所望のチャネル数から設計値を逆算することも可能である。例えばN=256をはじめに決定し、dSの値を5.0、導波路間隔Dを1.2μmと仮定すれば、スラブ半径fが3.52mmと求まる。dS=5.0は例えば直線アレイ長を5mm、屈折率変化量を0.001とすれば達成できる値である。以上のように1×256のマルチチャネルスイッチ素子が10mm角程度以下の微小面積で実現できることが見積もられる。
【0071】
これまでの説明では、左右対称な導波路アレイ3を有する光偏向素子を前提に説明したが、導波路アレイ3は左右対称である必要はない。例えば、導波路アレイ006の上下流の導波路アレイ005がそれぞれ直線状のチャンネル導波路であったり、異なった曲率で湾曲していてもよい。さらに、導波路アレイ006の下流側の導波路アレイ005がなくて、導波路アレイ006が直接出力スラブ導波路004と接続していてもよい。この場合、長さ0の導波路アレイ005がここに存在すると見なせばよい。また、導波路アレイ006以降の下流側の導波路中に鏡を備え、入り口側から進入してきた光を反射して、元来た方向に光路を変更することにより光偏向素子の大きさをおよそ半分にすることが出来る。この鏡の位置は、導波路アレイ006中又は導波路アレイ006より下流の導波路アレイ003中であれば何処でもよいが、導波路アレイ006の光路の中央であることが設計製作上は好ましい。
【0072】
(実施形態1)
上述のように本発明による光偏向素子は、ミリメーター程度の直線導波路アレイの等価屈折率を変化させることで隣接チャネル導波路間に位相差を与える。したがって、屈折率変調を行わない場合の各チャネル導波路の等価屈折率が均一であることが重要である。チャネル光導波路の等価屈折率の不均一さが材料の屈折率変調量より大きい場合、出力スラブ導波路において回折光を集光する際に位相が揃わず、集光スポットを小さくできない。
【0073】
光導波路の等価屈折率の値は材料の屈折率とコアの寸法に依存するが、LNのような電気光学結晶やシリコンをコアに適用した場合、コアはバルク結晶から加工して形成されるため、屈折率の均一性は極めて高い。したがって等価屈折率の不均一に影響するのはコアの寸法のばらつきである。LNをコア材料にした場合を仮定したチャネル導波路構造について、3次元ビーム伝搬法(Beam Propagation Method:BPM)によるモードシミュレーションによって光導波路の等価屈折率を計算した結果を図10に示す。ここでは、コア厚を200μmに固定したときのコア幅と等価屈折率の関係を計算した。コアおよびクラッドの屈折率はそれぞれ2.2818、1.4567と仮定し、光源は波長650nmのTM偏光とした。また図11にはコア幅1nm変化した場合の等価屈折率の変化量をコア幅に対してプロットした。
【0074】
通常の導波路型素子はチャネル導波路がシングルモード条件を満たすようにコアサイズを設計する。上記のパラメータを仮定した場合、シングルモード条件を満たすコア幅として、300nm程度が適当である。このようなコアサイズにおいては、図11よりコア幅が1nm変化すると等価屈折率が6×10−4程度変化することが読み取れる。LNのような電気光学結晶材料については、電圧印加によって変化させることが可能な屈折率は最大で10−3程度のオーダーであると予想される。したがって通常のHIC光導波路で直線導波路アレイを構成した場合、コア幅を1nm程度以下の精度で製作することが要求される。ただし、これは必ずしも直線導波路全体に渡って1nm以下の精度を保つ必要があるわけではなく、直線部分のコア幅の精度の平均値を1nm以下にすることが要求されることを意味する。
【0075】
直線導波路アレイにおけるコア幅のトレランスを拡大するためには、コア幅の変化によるチャネル導波路の等価屈折率の変化を小さくすることが有効である。簡便な方法として、直線アレイ部のみ、チャネル導波路のコア幅を広げることが挙げられる。図Hより、例えばコア幅を800nmまで広げれば、シングルモードで動作するコア幅が300nmの場合と比較して、1nmのコア幅変化に対する等価屈折率の変化量を1/10程度に低減できる。これはコア幅に対するトレランスが10倍に拡大されたことに相当する。
【0076】
直線アレイ部のコア幅を広げた偏向素子について、導波路アレイ部分のみを拡大して図12に模式的に表した。本発明の光偏向素子の第1の形態において、図2及び図12に示すように、第1の導波路アレイ0102と第2の導波路アレイ0103について、それぞれの導波路アレイを構成するチャネル導波路同士が互いに結合されている。第1の形態における特徴として、第1の導波路アレイ0102を構成するチャネル導波路はいずれもシングルモード条件を満たすようなコア幅を有し、第2の導波路アレイ0103を構成するチャネル導波路はコア幅が広がっている。また、コア幅の異なるそれぞれのチャネル導波路はコア幅変換部0104を介して結合されている。
【0077】
コア幅を広げた第2の導波路アレイ0103においては、チャネル導波路がマルチモード導波路になっているため、高次の伝搬モードが励振される可能性がある。しかしながら、導波路の伝搬モードに整合する基本モードのみをマルチモード導波路の中心に入力した場合、直線導波路であれば原理的に高次モードは励振されない。したがってシングルモード条件を満たす第1の導波路アレイ0102におけるチャネル導波路のコア幅を徐々に広げて第2の導波路アレイ0103に結合すれば、高次モードの励振を最小限に抑制することができる。図12では、直線テーパー形状にしてコア幅を広げているが、コア幅を拡大する形状はこれに限定されず、例えばパラボリック形状等が高次モードの発生を抑制するのに有効である。
【0078】
上記のトレランスを拡大するための構造による出力ポートへの集光性能の変化を2次元FDTD法によって確認した。具体的には、光偏向素子における各出力ポートからの出力光強度がトレランス拡大構造の有無によってどの程度異なるかを比較した。
【0079】
シミュレーションに用いたパラメータは上述のLNを導波路コアに用いた場合と同じ値である。ここで第2の導波路アレイにおけるコア幅を800nmに広げ、300nmのコア幅をもつ第1の導波路アレイ内のチャネル導波路と、10μmのテーパー長を有する直線テーパーによって結合した。また直線アレイ長を100μmとした。シミュレーションにおけるその他のパラメータはLN細線導波路によって光偏向素子を構成した場合を仮定して設定した。図14は、各出力チャネル導波路からの出力強度がトレランス緩和構造の有無によって変化するかどうかを確認した結果である。従来の偏向素子、すなわち第2の導波路アレイがシングルモード導波路で構成された偏向素子における集光性能を破線で示しており、マルチモード導波路アレイを導入することでトレランスを拡大した偏向素子における集光性能を実線で示している。いずれもポートNo.+1に光が集光しており、その出力光強度の差は殆どない。また隣接出力ポートにおける出力との差も20dB以上あり、トレランス拡大構成による集光性能の劣化はない。これは直線アレイ部において高次の導波モードがほとんど励振されていないことに起因する。
【0080】
さらに、上記のトレランスを拡大した形態において、直線アレイ導波路のコアを屈折率変調することによる出力ポートの移動の様子を2次元FDTD法によって確認した。計算結果を図15に示す。例えば出力ポートNo.−1からNo.+1に2ポート分だけ出力位置を変化させるためにはコアの屈折率を0.035だけ変化させればよい。1ポート出力位置が異なった場合の偏向角は2.08度程度であり、したがって屈折率変調量0.01当たりの偏向角は1.19度であることが見積もられる。この値は直線アレイをシングルモード導波路で構成した場合の偏向角(1.1度)と同程度である。ただし屈折率変調を施すチャネル導波路のコア幅を広げることによって、基本モードに対するコアへの光閉じ込めがより強くなるから、シングルモード導波路による直線アレイの場合と比較してコアの屈折率変調量による偏向角が若干大きくなっている。
【0081】
(実施形態2)
チャネル導波路のコア幅変化に対するトレランス拡大の別の方法として、直線アレイを構成するチャネル導波路の比屈折率差を小さくすることが有効である。コアとクラッドの屈折率差を小さくすれば、等価屈折率が取り得る最大値と最小値の範囲が狭くなるので、コア幅が変化した際の等価屈折率変化量も小さくなる。ただし、比屈折率差を小さくすると、曲がり導波路における曲率半径を大きくする必要があるため、通常のAWGデバイスにおいては素子サイズが大きくなってしまう。しかしながら、実施形態2における光偏向素子は、直線チャネル導波路で構成された第2の導波路アレイ部のみを比屈折率差の低い導波路で構成しており、チャネル導波路におけるトレランスの拡大によるデバイスサイズの長大化を避けることが可能である。
【0082】
図13(a),(b)は屈折率変調を施す波路アレイを構成するチャネル導波路を低比屈折率差導波路によって構成した場合の光偏向素子について、導波路アレイ部分のみを拡大して示したものである。光偏向素子全体は、図2を参照できる。この実施形態の光偏向素子における第1の導波路アレイ0202と第2の導波路アレイ0203は、それぞれの導波路アレイを構成するチャネル導波路同士が互いに結合されている。ここで第2の導波路アレイのクラッドの屈折率を第1の導波路アレイのクラッドの屈折率より高くすることにより、容易に等価屈折率の異なるチャネル導波路を集積化することが可能である。また第1の導波路アレイと第2の導波路アレイはコア幅変化部0204を介して結合している。比屈折率差が異なるチャネル導波路はシングルモード条件を満たすコア幅が異なるため、第1の導波路アレイにおけるチャネル導波路と第2の導波路アレイにおけるチャネル導波路ではコア幅が異なるのが普通である。したがって、それらの間をコア幅を徐々に変化させることによって結合することが好適である。また同様に第1および第2の導波路アレイにおいてはクラッドの屈折率が異なっているから、それらのクラッドが徐々に置き換わるように形成することが好ましい。クラッドの変化のさせ方としては、例えば図13(a)および図13(b)直線的変化の形態を示したが、パラボリック形状などその他の形態でもよい。また図13(a)および図13(b)には、いずれも直線テーパーによってコア幅およびクラッドを変化させているが、例えばパラボリック形状や楕円形状によってコア幅およびクラッド領域の変化を施すことも有効である。
【0083】
図16(a),(b)には、第2の導波路アレイにおけるチャネル導波路断面を模式的に示した。チャネル導波路のコア0211が第1のクラッド0212の上に形成される。第1のクラッドは、この形態の光偏向素子における全ての導波路において共通のクラッドである。したがってコアの屈折率と第1のクラッドの屈折率との差は大きい。図12(a)に示したチャネル導波路においては、コア0211の上部及び側部を第2のクラッド0213で囲む構造を有する。第2のクラッドの屈折率をコアの屈折率に近づけることによって、光導波路の比屈折率差を小さくしている。また図12(b)に示したチャネル導波路については、コアの側部を第2のクラッド0213によって埋め込み、かつコア上部を第3のクラッド0214で覆う。図12(b)に示した構造において第1のクラッド0212と第3のクラッド0214の屈折率を同じにすることによって、チャネル導波路における伝搬モードの電磁界分布を上下対称にできる。コアを上下から挟み込むクラッドの屈折率が低く、チャネル導波路の膜厚方向への閉じ込めは強くなる。これに対し、コアの左右のクラッドは屈折率がコアの屈折率に近いため、横方向の閉じ込めは弱くなる。第1および第2の導波路アレイにおける伝搬モードの電磁界分布がともに上下対称となるから、それらを結合したときの伝搬モードの遷移が容易になり、両アレイを構成するチャネル導波路におけるコア幅を変化させる際のテーパー長を短くできる。
【0084】
第2のアレイ導波路を構成するチャネル導波路の比屈折率差を小さくすることによるトレランス拡大の効果を見積もる。図17は図12(b)に示した断面構造を有するチャネル導波路に対して、コア幅1nmの変化による導波路の等価屈折率の変化を計算した結果である。横軸には導波路のコア幅を取っており、第2のクラッド0213の屈折率を1.6〜2.2まで変化させてトレランスを拡大する効果について比較した。コアの屈折率および厚さはそれぞれ2.2818および200nmであり、第1および第3のクラッドの屈折率は1.4567である。波長は650nmとした。例えば第2のクラッドの屈折率が2.2の場合、コア幅を600nm程度以上に広げればコア幅の変化1nmあたりの等価屈折率変化は5×10−4以下になり、典型的なLN細線導波路と比較して、トレランスを10倍程度に拡大できる。さらにこのときのチャネル導波路はシングルモード条件を満たすため、高次モードが励振されることがなく、トレランス拡大に伴う素子集光性能の劣化はない。
【0085】
(実施形態3)
図18は、本発明における第2の導波路アレイを模式的に表したものである。導波路アレイ0401は第1の導波路アレイ0402と第2の導波路アレイ0403からなる。さらに第2の導波路アレイはフォトニック結晶配列を有する。フォトニック結晶配列は光の波長程度の周期的な屈折率分布を有し、周期構造を調整することで光子の禁制体であるフォトニックバンドギャップを形成することができる。このとき第2の導波路アレイにおいてフォトニック結晶配列が存在する領域には光が存在し得ない。具体的なフォトニック結晶配列として、図18に示すように導波路材料中に周期的な円孔を設けることが好適である。フォトニック結晶配列中に、円孔のない直線部分である線欠陥導波路を導入すると、光はこの線欠陥導波路に強く閉じ込められて伝搬する。したがってこのフォトニック結晶線欠陥導波路0405によって光導波路を形成することができる。
【0086】
フォトニック結晶線欠陥導波路により、線欠陥中に光を強く閉じ込めることができ、微小な光回路を形成することが可能となる。さらにフォトニック結晶配列を適切に設計することにより、フォトニック結晶線欠陥導波路を伝搬する光の群速度を、真空を伝搬する光の1/10から1/100程度に減速することが可能である。これはフォトニック結晶線欠陥導波路の等価屈折率が、通常の導波路と比べて極めて大きいことに相当する。したがって、コア材料の屈折率変化に起因して導波路間に付与される位相差量も、全反射による光閉じ込めを利用したチャネル導波路と比較して大きくなると考えられる。この効果を利用すれば、本発明の光偏向素子における第2の導波路アレイの導波路長および屈折率変調領域を小さくでき、偏向素子のデバイスサイズを極めて小さくすることが可能となる。
【0087】
(実施形態4)
図19は、本発明の光偏向素子の実施形態4における第2の導波路アレイを模式的に示したものである。第2の導波路アレイ0503は第1の導波路アレイ0502とコア幅変化部0504を介して結合されている。導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア0505は第2の導波路アレイにおいてコア幅を広げている。さらに複数のチャネル導波路のコアの間に電界吸収層である光吸収層0506を備えている。
【0088】
上述のように、第2の直線アレイにおいて、チャネル導波路のコア幅を広げることによりコア幅に対するトレランスを拡大することができるが、同時にチャネル導波路において高次伝搬モードが励振される恐れがある。アレイを構成するそれぞれのチャネル導波路において励振された高次モードが出力スラブ導波路において干渉し合うことにより、予期しない迷光が発生する恐れがある。したがって、基本モードの干渉による集光ビームに対する迷光の発生を抑制するために、導波路アレイにおいて高次モードが発生した場合には、速やかにそれを除去することが好ましい。光吸収層0506は高次伝搬モードを吸収・除去するために付加したものである。
【0089】
基本モードと比較した場合、高次モードはコアへの光閉じ込めが弱く、伝搬フィールドがクラッド中まで広く分布している。したがって基本伝搬モードの電磁界が十分減衰し、かつ高次伝搬モードの電磁界分布が減衰し切らない程度にコアから離れた領域に光吸収層を配置することにより、高次モードのみを光吸収層によって減衰させることができる。よって、仮に第2の導波路アレイにおいて高次モードが発生した場合であっても、これによる出力スラブにおける集光の劣化を低減することが可能である。具体的な光吸収層の材料としては、クラッドよりも高屈折率を有する誘電体や電磁界を吸収する金属等が好適である。
【0090】
(実施形態5)
図1,2からも判るように本発明の光偏向素子は、入り口ポートと出口ポートの形態を除いて左右対称にすることが出来る。実施形態5においては、この特性を利用して、例えば、図2(a)において、第2の導波路アレイ0006の中央部分から左側を除去し、除去した部分に光を反射させるミラーを接続する。そして、入力スラブ導波路0002に出力スラブ導波路0004の機能を兼ねさせるために、出力チャネル導波路0009を設ける。この形態の光偏向素子においては、入力チャネル導波路0001から入射した光は、入力スラブ導波路0002、第1の導波路アレイ0005、第2の導波路アレイ0006を経由してミラーに到達する。ミラーに到達した光は、ミラーで反射して、第2の導波路アレイ0006から入射したときと逆の経路を通って入力スラブ導波路0002の入射面に達する。このとき、出射光は、導波路アレイの屈折率変調作用によって、入力チャネル導波路0001の位置からずらすことが出来る。そして、その位置に出力チャネル導波路0009を設けておけば、入力スラブ導波路0002に出力スラブ導波路0004として利用でき、屈折率変調作用によって光偏向することが出来る。この形態の光偏向素子は、上述の光偏向素子のおよそ半分の大きさ、材料で製作することが可能である。
【0091】
(実施形態6)
図20(a),(b)は、本発明の光偏向素子の入力スラブ導波路又は出力スラブと導波路アレイとの接続部を模式的に示したものである。ここで入力又は出力スラブ導波路0701の端面はある曲率を設けた円弧で表される曲面となっている。入力又は出力スラブ導波路0701の曲面に対して導波路アレイ0702を構成する複数のチャネル導波路はそれぞれ垂直に接続されている。
【0092】
入力又は出力スラブ導波路0701が入力スラブ導波路である場合、入力チャネル導波路から入射された光はスラブ導波路内を回折によって広がり、ほぼ同位相で導波路アレイを構成するチャネル導波路に入力される。ここでスラブ導波路において回折された光がアレイ導波路に結合されずに散乱されてしまうと、素子の損失の増加につながり、また散乱による余計な回折波が発生するとクロストークレベルの悪化の原因にもなる。したがってスラブ導波路とアレイ導波路の接続部においては、できる限り低損失で伝搬光を結合させることが好ましい。
【0093】
そこで図20(a),(b)に示すように、スラブ導波路とチャネル導波路との接続部において、チャネル導波路のコア幅を広げることが有効である。チャネル導波路の端部以外のコア幅をw、スラブ導波路に入射する端面のコア幅をw2とし、コア幅が変化する際の伝搬長をl2とすると、端面のコア幅w2を大きくするほど、スラブ導波路を伝搬した光を、各チャネル導波路に入力できるため、光偏向素子の光の過剰損失を低減できる。またコア幅が変化する際の伝搬長l2の長さを数ミクロン程度以上にすれば、コア幅を変化させることによる過剰損失をほぼゼロにできる。またコア幅を広げる際の形状は図20(a)に示すような直線テーパー形状や図20(b)のようなパラボリック形状、その他楕円形状等も有効である。
【0094】
(実施形態7)
図21(a),(b)は、入力チャネル導波路と入力スラブ導波路との接続部を模式的に示したものである。入力スラブ導波路0712の曲面に対して入力チャネル導波路0711はそれぞれ垂直に接続されている。また、入力チャネル導波路の入力スラブ導波路との接続部においてコア幅を広げている。
【0095】
入力チャネル導波路0711の端部以外のコア幅をw、入力スラブ導波路0712に入射するときの入力チャネル導波路の端面のコア幅をw1とし、コア幅が変化する際の伝搬長をl1とする。入力チャネル導波路のコア幅がwのままスラブ導波路に結合した場合、入力導波路に強く閉じ込められた光がスラブ導波路において回折するので、球面波に近い波面をもってスラブ内を広範囲に回折する。したがってスラブ導波路を伝搬してアレイ導波路に回折光が達したとき、各アレイ導波路に入射した光の位相は揃っている。ただし回折が広範囲に及ぶため、アレイ導波路本数が少ない場合はスラブ導波路での回折光を拾いきれず、入射光の過剰損失につながる。これに対して入力チャネル導波路の端面のコア幅w1を広げて入力スラブ導波路0712に結合する際のフィールド幅をあらかじめ広げておくことで、入力スラブ導波路0712における回折角を狭くする効果がある。これにより、導波路アレイを構成するチャネル導波路本数を少なくすることができ、光偏向素子の小型化に有効である。ただし、光偏向素子の出力ポートで集光される光のスポット幅は入力ポートでのフィールド幅と同程度であるので、入力チャネル導波路幅を広げすぎると出力ポートでの解像点数がとれない。実際にはw1の値はwの数倍程度にするとよい。
【0096】
入力チャネル導波路0711におけるコア幅の広げ方については、図21(a)に示すような直線テーパー形状や図21(b)に示すようなパラボリック形状等が有効である。コアをパラボリック状に広げることによって、コア幅の変化による高次モードの発生を抑制でき、スラブ導波路において高次モードが励振されないようにすることが可能となる。
【0097】
(実施形態8)
図22(a),(b)は、図2に示した形態おける出力スラブ導波路と出力チャネル導波路との接続部を模式的に示したものである。出力スラブ導波路0721はある曲率を持った円弧で表される端面を有し、その端面に対して、複数の出力チャネル導波路0722が垂直に接続される。また、出力チャネル導波路の出力スラブ導波路との接続部においてコア幅は広がっている。
【0098】
出力スラブ導波路0721の終端(出口ポート)において光ビームが集光されるが、そのスポット径は入力チャネル導波路から入力スラブ導波路に入射された光ビームとほぼ等しい。したがって、出力スラブ導波路0722に集光された光を効率よく出力チャネル導波路0722に結合するためには、出力チャネル導波路の端面のコア幅を、入力スラブとの接続部における入力チャネル導波路の端面のコア幅と同程度にすることが望ましい。さらに出力スラブ導波路0721から結合された出力光を出力チャネル導波路0722に導く際に、光の放射や高次モードの励振を抑制するために、テーパー状に導波路幅を狭める。導波路幅を変化させる形状として、図22(a)に示した直線テーパー形状の他、高次モードが励振されるのを抑制するために図22(b)に示すパラボリック形状などが好適である。
【0099】
前に示した2次元FDTDシミュレーションにおいては、上記の事項を鑑み、いずれも各チャネル導波路とスラブ導波路の接続部においてチャネル導波路のコア幅を広げている。具体的には接続部において、入力チャネル導波路の端面のコア幅w1を1.5μm、導波路アレイの端面のコア幅w2を1.0μm、出力チャネル導波路の端面のコア幅を1.0μmとした。またコア幅変化に伴うテーパー長l1〜l3はいずれも3.0μmとした。
【0100】
(実施形態9)
図23は、図2に示すような、偏向光ビームを出力チャネル導波路によって導くような偏向素子における出力スラブ導波路と出力チャネル導波路の結合部を模式的に示したものである。出力スラブ導波路0801の出射曲面に対して、複数のチャネル導波路0802がそれぞれ垂直に結合される。また図23では出力スラブ導波路0801との結合部においてチャネル導波路のコア幅をパラボリック状に広げている様子を図示しているが、この接続部はこの形状に限定されるものではなくテーパー状などの傾斜構造でもよい。
【0101】
入力および出力スラブ導波路は、扇形の形状を持ち、その曲率中心は入力チャネル導波路端、あるいは複数の出力チャネル導波路における中央の導波路端にあり、アレイ導波路群はその光軸がこの曲率中心を通るように放射状に配置される。曲率中心からスラブ導波路における出射端面までの距離をスラブ半径といい、ここではfで表す。通常は複数の出力チャネル導波路はスラブ半径fの曲率半径を有する曲面上に配置され、その曲率中心は出力スラブ導波路に結合されている導波路アレイにおける中央のチャネル導波路端である。この曲率中心を上述のように配置したとき、原理的には出力光が最も集光する場所に出力チャネル導波路端が位置することになる。しかしながら、実際には入力スラブ導波路において回折した光が完全に同位相で導波路アレイに入力しない場合や、導波路アレイの各チャネル導波路に与えられる光路長差が完全に一定でない場合等の理由から、上記の出力チャネル導波路位置に最も出力光が集光するとは限らない。すなわち理想的な集光位置より内側あるいは外側の曲面に出力光が集光されることがあり得る。このような場合、出力スラブ導波路端面において、出力光のビームスポット径が大きくなり、隣接して設置された出力チャネル導波路において、チャネル間クロストーク、すなわち本来の出力ポート以外のポートへの光漏れ込みが増大する原因となる。
【0102】
この問題を解消するために、出力チャネル導波路の位置を上記の位置から移動させることが有効である。具体的には、出力スラブ導波路におけるスラブ半径f'を入力スラブ半径fと異ならせる方法がある。f'<fのとき、出力チャネル導波路は通常より内側に位置する。逆にf'>fの場合は出力位置を通常より外側にできる。また、f'=fすなわち出力スラブ導波路のスラブ半径が入力スラブ半径と等しい場合であっても、出力チャネル導波路が配置される曲面の曲率中心を通常の導波路アレイ端のから移動させることによって出力位置を変化させることができる。図23における0803は曲率中心の変化量であり、ここではδで表す。δの値によって出射曲面を全体的に内側あるいは外側に移動できる。
【0103】
出力スラブ導波路において、干渉光が出力チャネル導波路に集光する様子を図24に示す。ここでは出射ビームが出力ポートNo.1から出力されるように、屈折率変調領域における隣接チャネル導波路間の光路長差を調節した。図24(a)は出力スラブの出力端面位置に関して一切調整を行わない場合、すなわち出力スラブ導波路が入力スラブ導波路と等しい構造を有する場合に回折光が集光する様子である。出力光が最も集光される点は出力導波路の位置より若干内側(図のz座標でプラス側)であることが分かる。したがって出力導波路のz座標を移動することにより、出力光の隣接ポート間でのクロストークを低減できる可能性がある。図L(b)および(c)は出力スラブ導波路終端面の曲率中心をそれぞれ1μmおよび2μmだけ内側(z座標でプラス側)に移動したときの出力光の集光の様子である。ここで、曲率中心の変位量をそれぞれδ=−1μm,δ=−2μmと表すことにする。出力スラブ導波路の位置を移動することによって、隣接ポートへの光の漏れこみが低減できている。
【0104】
図25にこれらの結果を数値化して示す。横軸は出力ポート番号を示し、縦軸はそれぞれのポートからの出力強度を入力光強度で規格化した値を示す。出力スラブ導波路位置を移動しない場合、ポートNo.1からの出力強度は−5.0dBと小さく、隣接ポートへの光の漏れこみも−16dB程度と大きい。これに対して、出力スラブ導波路の位置を2μm移動することにより、ポートNo.1からの出力強度を−3.2dBに大きくでき、また隣接ポートへの光漏れこみを−30dB以下に低減できた。ここで図25においてポートNo.−7からの出力強度が他のポートからの出力強度に比べて大きいのは、ポートNo.−7に1次の回折光が集光していることに起因する。スラブ導波路半径fを大きくして、1次の回折光の集光位置を出力ポートの外側にすることで、このような高次の回折光の影響を受けないようにすることが可能である。
【0105】
(実施形態10)
図26(a)〜(c)は、屈折率変調領域における導波路アレイの断面構造の例を示したものである。チャネル導波路のコア0902を電気光学効果によって屈折率変化を生じさせる。チャネル導波路のコア0902を上下から電極0904によって挟み込み、電圧を印加させることによって、チャネル導波路のコア0902に対して垂直方向に電界を形成できる。電極材料としては一般的な金属材料であればよく、Cr、Au、Cu、Al等の金属が適当である。ただし、コアと電極を接触させると、チャネル導波路の伝搬光が電極材料に吸収されるため、電極とコアとの間にバッファとなるチャネル導波路のクラッド0903を形成する。クラッド材料としては、屈折率の低い誘電体材料が好ましく、具体的にはSiO2や、Ta2O5やTiO2とSiO2との混合ガラス材料、窒化酸化シリコン(SiON)、ポリマー等が好適である。電極とコアとの間を近づけるほど、屈折率変調に要する電圧を低くすることができるが、導波路の伝搬光が電極によって影響を受けないために、両者を1μm程度離すことが好ましい。また上部電極は図26(a)に示すように導波路アレイ全体を挟み込むように配置してもよいし、図26(b)あるいは図26(c)のように導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアの上部にのみ配置してよい。さらに図26(c)に示すようにコアを上下から挟み込むクラッド材料と、コアの側面部のクラッド材料が異なっていても構わない。また図26(a)から図26(c)においては全ての電極間に互いに等しい電圧が印加されるように電圧源を配置しているが、図26(b)および図26(c)において、各チャネル導波路に対して独立に異なる電圧を印加してもよい。
【0106】
(本発明の光偏向素子の製造方法)
以下に本発明の光偏向素子の製造プロセスについて説明する。コア材料としてLNやLTのような光学結晶材料の他、PLZTのようなセラミックス材料や電気光学効果を有するポリマー材料が適用できる。ここでは電気光学結晶をコアとした場合を想定し、バルク状の結晶材料から薄膜を形成し、得られた光学結晶薄膜をパターニングすることでチャネル化する。製造プロセスは光学結晶の薄膜化プロセスと、導波路パターニングおよび電極形成の2工程に大きく分けられる。
【0107】
はじめに光学結晶薄膜を形成するプロセスについて述べる。ここでは、薄膜と薄膜を保持する支持基板との間に電極層とクラッド層が挟まれている。これらを以下では下部電極および下部クラッドと呼ぶ。バルク状の光学結晶から薄膜を形成する最も簡便なプロセスは精密研磨による方法である。高精度な研磨加工により、例えば0.5mm〜1.0mm程度の厚さを有する光学結晶基板から、1μm以下の膜厚にまでに薄膜化加工が可能である。図27に研磨加工を利用した薄膜化プロセスを示す。はじめに光学結晶基板に下部クラッド材料および下部電極材料を順次成膜する。電極材料は金属材料が好ましく、その成膜方法として真空蒸着法やスパッタ法が好適である。また下部クラッドの成膜方法として、スパッタ法、化学気相体積(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、真空蒸着法等が好適である。次にこの下部クラッドおよび下部電極を成膜した光学結晶基板の下部電極側に支持基板を直接接合あるいは貼り合せる。支持基板材料としてはコア材料と同じ光学結晶が好適であるが、例えばシリコンや合成石英等であってもよい。この際の接合方法として、加圧下における加熱接合や常温接合等が適用できる。このとき、下部電極層または支持基板表面に互いの接合を容易にするための低融点をもつ誘電体層や金属層を追加して成膜することも有効である。またより簡便に、光学結晶基板と支持基板とを接着剤によって貼り合せてもよい。このようにして得られた貼り合せ基板に対して、光学結晶部分を研磨によって薄膜化加工することによって、最終的に支持基板上に下部電極層および下部クラッド層を挟むように光学結晶薄膜を形成する。
【0108】
バルク状の光学結晶から薄膜を得るためのもうひとつの方法として、図28に示すイオンスライス(Crystal Ion Slicing:CIS)法がある。イオンスライス法は、以下の工程により、バルク結晶から薄膜を形成する方法である。まず、光学結晶中に質量数の小さい水素イオンもしくはヘリウムイオンを高エネルギーで注入する。イオンは基板表面を貫通し、表面から注入エネルギーに応じた深さに注入層を形成する。注入層においては、基板表面に対して平行な方向に無数の微小なクラック(マイクロキャビティ)が発生する。イオン注入基板を適切な温度および時間で加熱すると、イオン注入によって形成されたマイクロキャビティがオストワルド熟成と呼ばれる効果で互いに溶解して大きなキャビティに成長する。このような基板表面付近の注入層にクラックが成長することを利用すると、イオン注入を施した基板を支持基板に接合した状態で加熱することによって、バルク状の基板から薄膜を支持基板に転写することが可能である。
【0109】
イオンスライス法によって得られる薄膜の膜厚は、バルク基板表面からのイオン注入深さで決定され、この深さは、イオン注入エネルギーによって制御可能である。具体的には、200keVのエネルギーを有するヘリウムイオンをニオブ酸リチウム基板に注入することによって、750nm程度の膜厚を有するニオブ酸リチウムの薄膜が得られる。またその注入深さは基板面内で均一であるから、最終的に得られる薄膜は面内の膜厚ばらつきがほとんどない均一な薄膜となる。図29にイオンスライス法によって形成したLN薄膜のSEM像を示す。厚さ750nmの薄膜が形成できている。このように、注入エネルギーを制御することで、1μm以下の膜厚を有するLNの薄膜を、極めて膜厚の精度よく形成することが可能である。
【0110】
図28はイオンスライス法を利用して光学結晶薄膜を形成するプロセスを示したものである。はじめに光学結晶基板にイオンを注入し、イオン注入層を形成する。次に下部クラッド層および下部電極層を順次成膜する。ただし下部クラッド層はイオン注入前に成膜しても構わない。イオン注入基板と支持基板とを接合する。上記の成膜および接合は薄膜が剥離しない程度の比較的低温にて実施する。接合した基板を加熱することにより、イオン注入層を境界として薄膜が剥離される。剥離した直後の薄膜の表面は通常100nm程度の荒れが残っているため、最後に薄膜表面を平滑化研磨することが好ましい。研磨加工としては、通常の光学研磨以外にも、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械的研磨)やレーザ加工等の方法を用いても良い。
【0111】
上記の手順により形成された、下部電極および下部クラッド付きの光学結晶薄膜に微細パターニングを施すことにより、偏向素子を完成する。その製作プロセスを図30および図31に示す。図30および図31はそれぞれ図27および図28に示した電極構成を形成するための製作プロセス例である。図30では、光学結晶薄膜をエッチングによりチャネル化する際のマスクとなる材料を最初に成膜する。マスク材料として、Cr等の金属材料やフォトレジスト等のポリマー材料が好適である。次に成膜したマスクを半導体プロセス用いられるリソグラフィー技術によりパターニングする。例えば電子ビームリソグラフィー、フォトリソグラフィー等のパターニングプロセスを適用できる。またマスクパターニングにはリフトオフプロセスも適用可能である。パターニングしたマスクをエッチングプロセスにより光学結晶薄膜に転写し、光学結晶のチャネル化が完了する。エッチングプロセスとして、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)エッチング,FIB(Forcused Ion Beam:収束イオンビーム)エッチング、NLD(Magnetic Neutral Loop Discharge)エッチング等のドライエッチングプロセスが好適である。図32にニオブ酸リチウム表面に微細パターンを形成した例を示す。光の波長以下の線幅をもつラインパターンや光の波長以下の周期を有するフォトニック結晶配列パターンが形成できる。
【0112】
光学結晶のチャネル化後、マスク材料を剥離し、上部クラッドを成膜する。上部クラッド材料がSiO2のようなガラス材料の場合は高周波スパッタ法やCVD法等により成膜が可能である。また上部クラッドをポリマー材料で形成してもよく、その場合はスピンコート法により上部クラッドを形成することができる。最後に上部電極を形成し、隣接するチャネル導波路間で屈折率変調する領域が一定に変化するように上部電極をパターニングする。上部電極の成膜は下部電極の成膜と同様の方法で形成でき、そのパターニングには半導体プロセスで用いられるリソグラフィー技術を適用することができる。
【0113】
図31に示したプロセス例では、はじめに光学結晶薄膜上に上部クラッドおよびマスク材料を成膜する。ここでマスク材料としてCr等の金属薄膜を用いる。金属マスクが最終的に上部電極としても機能する。成膜したマスク材料をパターニングし、形成したパターンをドライエッチングにより上部クラッドおよび光学結晶薄膜に転写する。次にチャネル化した光学結晶を埋め込むクラッド層を成膜し、最後に上部の電極を屈折率変調に適した形状にパターニングされる。これらのプロセスで用いる個々の工程は全て図30の製作プロセスで用いたものと同じ手法を適用することができる。
【0114】
(実施形態11)
図33は本発明による光偏向素子を利用した光偏向モジュールの第1の構成例である。レーザ光源からの光を、光結合器を介して光偏向素子に入射し、光ビームを偏向させる。光源と光結合器との間は例えば光ファイバを用いて結合することによって光を導いてもよいし、また適当なミラーやレンズ等の光学素子を経由して光ビーム形状を保ちながら空気中を伝搬させてもよい。
【0115】
光源からの光ビームを光ファイバによって導いた場合、光結合器は光ファイバ端面と光偏向素子とを高効率で結合する機能を果たす。本発明による光偏向素子内における入力チャネル導波路は、コアとクラッドとの屈折率差を大きくした導波路(以下高Δ導波路と呼ぶ)であることが好ましく、したがって比屈折率差の小さい光ファイバを光偏向素子に直接接続すると、結合損失が大きくなる。したがって光結合素子は、比屈折率差の小さい導波路(以下低Δ導波路と呼ぶ)と高Δ導波路とを高効率で結合する素子となる。高Δ導波路の端面付近を低Δ導波路によって囲み、さらに低Δ導波路に囲まれた領域において、高Δ導波路のコアをテーパー状に徐々に狭めて消失させることにより、低Δ導波路に入力された光を高効率で高Δ導波路に導くことができる。この場合、光結合素子と光偏向素子とは1つの基板上に集積して形成される。光ファイバ端面を光結合素子の結合することにより、光を高効率で比屈折率差の大きな入力チャネル導波路に導くことができる。
【0116】
また、空間伝搬してきた光を高効率で高Δ導波路に導く方法がある。高NAを有するレンズを、光の伝搬方向とは平行ではない光軸方向に配置することによって、高Δ導波路の出力端面に光を集光することが可能である。高Δ導波路は高いNAを有するから、導波路のNAとレンズのNAとを互いに最適に設定することによって、空間伝搬光を高Δ導波路に導くことが可能である。この原理を本発明素子に適用することにより、光源からの出射光を空気中を伝搬させ、入力チャネル導波路に導くことができる。
【0117】
光偏向素子に導かれた光は、屈折率変調領域における屈折率変化量に応じた偏向角を付与されて、光偏向素子から出射される。与える屈折率変化量は屈折率変調領域に与える電圧印加量によって制御可能である。導波路のコア材料に電気光学材料を用いることにより、高速な屈折率変調が可能であり、すなわち高速な可変光偏向が可能となる。このような光偏向モジュールはレーザプリンタ等の光書き込み用の光源として適用可能である。また、光源は必ずしも連続波である必要は無く、強度変調や位相変調等を施された光パルス列であってもよい。すなわち本発明による光モジュールは光ファイバ通信におけるスイッチング素子として適用することが可能である。
【0118】
(実施形態12)
図34は本発明の光偏向素子を利用した光偏向モジュールの第2の構成例である。光源からの光を光偏向素子に導く箇所については上記第1のモジュールの構成と同様である。光偏向素子は、光源の波長によって集光位置が異なる。すなわち屈折率変調を行わない場合の出力スラブ導波路における集光位置は入力される光の波長によって異なる。屈折率変調を行わない場合の出射位置は出力スラブ導波路の中央であることが望ましい。屈折率変調を行わないときに中央から出射すれば、屈折率変調時には電圧の印加方向を変えるだけで、左右に同じ角度の光偏向が可能になる。したがって初期状態すなわち屈折率変調を行わない状態において出力スラブ導波路の中央から出射するように偏向素子全体の温度を制御する。偏向素子の温度が変化するとき、素子を構成する材料の屈折率も変化するから、導波路アレイにおいて与えられる光路長差が変化する。したがって出射光の集光位置が変化する。この効果を利用して初期状態での出射位置がスラブ導波路の中央になるように調整することができる。素子に温度変化を与える方法として、例えばペルチェ素子を光偏向素子に近接させることが簡便である。さらに本発明の光偏向素子はHIC導波路を構成要素としているため微小面積であり、温度制御に必要な電力が小さくて済む。また微小領域の温度制御で済むことはモジュールの安定性が増すことにつながり、全体のサイズも小さくなる。
【0119】
(実施形態13)
図35および図36は本発明による光偏向素子を利用した光スイッチモジュールの実施形態である。本実施形態では光偏向素子の前段および後段のいずれか若しくはその両方に光増幅器を含む。また光源からの光は強度変調や位相変調等の光変調を施され、さらに光ファイバ等の媒質中を伝搬してきた光である場合を含んでいる。このような伝搬光に関しては、光偏向素子に入力する以前の光パワーが異常に小さい場合がある。また光偏向素子による経路切り替えの際にも光損失を被る。そこで光偏向素子に光を入力させる前、あるいは光偏向素子によって光の経路を切り替えた後に光増幅器によって光を増幅させることによって、小さい入力光パワーを増大させ、光偏向による過剰損失を補償することが有効である。具体的な光増幅器として、エルビウム等をドープした光ファイバを利用した光ファイバ増幅器や導波路型増幅器が好適である。
【0120】
(実施形態14、15)
本発明の光偏向方法は、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された構造での光偏向を基本とする。導波路アレイは隣接するチャネル導波路に一定の光路長差を設けた部分と、隣接するチャネル導波路の光路長を等しくした部分より構成され、さらに光路長の等しい導波路アレイに屈折率変調領域を設けている。この屈折率変調領域を設けている導波路アレイのチャネル導波路のコア幅を広くしたり(実施形態14)、コアとクラッドとの比屈折率差を小さくしたり(実施形態15)している。屈折率変調の効果を増大させ、素子サイズを小さくしたり、チャネル導波路の幅に対するトレランスを大きくしたりすることが出来る。
【0121】
屈折率変調領域で屈折率変調を施さない場合、入力チャネル導波路より入力された光は出力スラブ出射端の所定の位置に集光する。ここで導波路アレイを屈折率変調することにより隣接するチャネル導波路間に一定の位相差が付加され、出力スラブ導波路における集光位置を変化させることが出来る。集光位置の変化は屈折率変調量によって制御可能であり、光走査が可能となる。さらに出力スラブ導波路に複数の出力チャネル導波路を結合することにより、偏向された光を所望の出力チャネル導波路に導くことができ、偏向素子は1×Nスイッチとして機能する。屈折率変調領域を有するアレイ導波路の長さを長くすることにより、屈折率変調量が小さい場合であっても大きな偏向角が得ることが可能である。チャネル導波路を高屈折率差導波路によって構成することで素子の微小化が可能であり、また直線アレイ部のコア幅トレランスを拡大する構造を付与することで、製作も容になる。電気光学材料等の高速屈折率変調が可能な導波路材料によって本発明の偏向素子を構成することにより、高速な経路切り替えが可能な1×Nスイッチや、高速な走査が可能な光偏向器を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、光ファイバ通信に用いられる光スイッチング素子、レーザプリンタ、レーザ走査顕微鏡、バーコードリーダー等のスキャナー部に用いられる光学偏向器に係り、特に平面光導波路回路を用いた光偏向素子、マルチチャネル光スイッチング素子等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】光偏向素子(1)の概念図
【図2】光偏向素子(2)の概念図
【図3】光偏向素子の出力ポート部の説明図
【図4】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(m=10)
【図5】屈折率変調による出力フィールドの変化図
【図6】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(m=20)
【図7】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(第2の導波路アレイ長=100μm)
【図8】屈折率変調による出力フィールドの変化図
【図9】各ポートにおける屈折率変調量と出力強度の関係グラフ(第2の導波路アレイ長=200μm)
【図10】コア幅の変化に対する導波路の等価屈折率の変化
【図11】コア幅の変化1mm当たりの導波路の等価屈折率の変化
【図12】導波路アレイのコア幅傾斜状拡大部の概念図
【図13】導波路アレイのコア幅拡大部の傾斜状クラッドの概念図の例
【図14】トレランス拡大構造による集光性能の変化を示すグラフ
【図15】トレランス拡大構造に屈折率変調による光出力強度変化を示すグラフ
【図16】チャンネル導波路の断面図
【図17】低屈折率導波路におけるコア幅変化に対する等価屈折率変化を示すグラフ
【図18】フォトニック結晶導波路アレイの概念図
【図19】電界吸収層を有する導波路アレイの概念図
【図20】入力スラブ導波路と導波路アレイとの接続部又は出力スラブ導波路と導波路アレイとの接続部
【図21】入力チャネル導波路と入力スラブ導波路との接続部
【図22】出力チャネル導波路と出力スラブ導波路との接続部
【図23】出力スラブ導波路の光路長変化の概念図
【図24】出力ポートへの集光の様子
【図25】出力スラブ導波路の移動による光出力強度の変化を示すグラフ
【図26】導波路アレイの構造図
【図27】光学結晶薄膜作製プロセス(1)
【図28】光学結晶薄膜作製プロセス(2)
【図29】イオンスライス方によって形成したLN薄膜のSEM写真
【図30】光学結晶薄膜へのパターニング(1)
【図31】光学結晶薄膜へのパターニング(2)
【図32】LN薄膜への微細パターンを形成したSEM写真
【図33】光偏向モジュール(1)
【図34】光偏向モジュール(2)
【図35】光スイッチモジュール(1)
【図36】光スイッチモジュール(2)
【符号の説明】
【0124】
0001:入力チャネル導波路 0002:入力スラブ導波路
0003:導波路アレイ 0004:出力スラブ導波路
0005:第1の導波路アレイ 0006:第2の導波路アレイ
0007:屈折率変調領域 0008:コリメート素子
0009:出力チャネル導波路 0101:導波路アレイ
0102:第1の導波路アレイ 0103:第2の導波路アレイ
0104:コア幅変化部 0105:チャネル導波路のコア
0106:導波路アレイのクラッド 0201:導波路アレイ
0202:第1の導波路アレイ 0203:第2の導波路アレイ
0204:コア幅変化部 0205:チャネル導波路のコア
0206:第1の導波路アレイのクラッド 0207:第2の導波路アレイのクラッド
0211:チャネル導波路のコア 0212:チャネル導波路の第1のクラッド
0213:チャネル導波路の第2のクラッド0214:チャネル導波路の第3のクラッド
0401:導波路アレイ 0402:第1の導波路アレイ
0403:第2の導波路アレイ 0404:フォトニック結晶配列
0405:フォトニック結晶線欠陥導波路 0501:導波路アレイ
0502:第1の導波路アレイ 0503:第2の導波路アレイ
0504:コア幅変化部 0505:チャネル導波路のコア
0506:光吸収層 0701:入力スラブ導波路又は出力スラブ導波路
0702:導波路アレイ 0703:コア幅変化領域
0711:入力チャネル導波路 0712:入力スラブ導波路
0713:コア幅変化領域 0721:出力スラブ導波路
0722:出力チャネル導波路 0723:コア幅変化領域
0801:出力スラブ導波路 0802:出力チャネル導波路
0803:出力スラブ端面の光路の変化量 0901:基板
0902:チャネル導波路のコア 0903:チャネル導波路のクラッド
0904:電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広いことを特徴とする光偏向素子。
【請求項2】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さいことを特徴とする光偏向素子。
【請求項3】
前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部において、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が傾斜状に変化して広くなっていることを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部付近において、
前記第2の導波路アレイを構成するクラッドが傾斜状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光偏向素子。
【請求項5】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイがフォトニック結晶配列を有することを特徴とする光偏向素子。
【請求項6】
前記導波路アレイにおいて、チャネル導波路の間に電界吸収層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項7】
複数の出力チャネル導波路が前記出力スラブ導波路の光路出口に接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項8】
チャネル導波路に光路中の光を反射させるミラーを備え、前記入力スラブ導波路は前記出力スラブ導波路を兼ねることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項9】
前記入力スラブ導波路と前記導波路アレイとの接続部、及び/又は前記入力スラブ導波路の入力ポートに接続する入力チャネル導波路を備え入力スラブ導波路と入力チャネル導波路との接続部において、チャネル導波路及び/又は入力チャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項10】
前記出力スラブ導波路と前記出力チャネル導波路及び/又は前記導波路アレイとの接続部において、出力チャネル導波路及び/又はチャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする請求項7又は9に記載の光偏向素子。
【請求項11】
前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路とが互いに異なる光路長を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項12】
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路において、前記屈折率変調領域のコアは電気光学効果を有する光学結晶材料で形成され、電極が前記コアを挟んで対向するよう少なくとも一対配置され、クラッドは前記コアと前記電極との間に形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項13】
光源と、光結合部と、光偏向素子を順次結合して構成された光偏向モジュールであって、
光偏向素子は、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子であることを特徴とする光偏向モジュール。
【請求項14】
前記光偏向素子の温度を調節する温度制御装置を備えることを特徴とする請求項13に記載の光偏向モジュール。
【請求項15】
光偏向素子の前後いずれか若しくは両方に光増幅器を備える光スイッチモジュールであって、
光偏向素子は、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子であることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項16】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、
前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広くすることを特徴とする光偏向方法。
【請求項17】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、
前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さくすることを特徴とする光偏向方法。
【請求項1】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広いことを特徴とする光偏向素子。
【請求項2】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中に異なった長さの屈折率変調領域を備え、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差が,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さいことを特徴とする光偏向素子。
【請求項3】
前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部において、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅が傾斜状に変化して広くなっていることを特徴とする請求項1に記載の光偏向素子。
【請求項4】
前記第1の導波路アレイと前記第2の導波路アレイとの接続部付近において、
前記第2の導波路アレイを構成するクラッドが傾斜状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光偏向素子。
【請求項5】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とが順次接続された光偏向素子であって、
前記導波路アレイは、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとからなり、
前記第2の導波路アレイがフォトニック結晶配列を有することを特徴とする光偏向素子。
【請求項6】
前記導波路アレイにおいて、チャネル導波路の間に電界吸収層を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項7】
複数の出力チャネル導波路が前記出力スラブ導波路の光路出口に接続されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項8】
チャネル導波路に光路中の光を反射させるミラーを備え、前記入力スラブ導波路は前記出力スラブ導波路を兼ねることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項9】
前記入力スラブ導波路と前記導波路アレイとの接続部、及び/又は前記入力スラブ導波路の入力ポートに接続する入力チャネル導波路を備え入力スラブ導波路と入力チャネル導波路との接続部において、チャネル導波路及び/又は入力チャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項10】
前記出力スラブ導波路と前記出力チャネル導波路及び/又は前記導波路アレイとの接続部において、出力チャネル導波路及び/又はチャネル導波路のコア幅を広げて接続されていることを特徴とする請求項7又は9に記載の光偏向素子。
【請求項11】
前記入力スラブ導波路と前記出力スラブ導波路とが互いに異なる光路長を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項12】
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路において、前記屈折率変調領域のコアは電気光学効果を有する光学結晶材料で形成され、電極が前記コアを挟んで対向するよう少なくとも一対配置され、クラッドは前記コアと前記電極との間に形成されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子。
【請求項13】
光源と、光結合部と、光偏向素子を順次結合して構成された光偏向モジュールであって、
光偏向素子は、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子であることを特徴とする光偏向モジュール。
【請求項14】
前記光偏向素子の温度を調節する温度制御装置を備えることを特徴とする請求項13に記載の光偏向モジュール。
【請求項15】
光偏向素子の前後いずれか若しくは両方に光増幅器を備える光スイッチモジュールであって、
光偏向素子は、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光偏向素子であることを特徴とする光スイッチモジュール。
【請求項16】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、
前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコア幅よりも広くすることを特徴とする光偏向方法。
【請求項17】
基板上に形成された、少なくともひとつの入力ポートを有する入力スラブ導波路と、複数のチャネル導波路からなる導波路アレイと、出力スラブ導波路とを順次通過させて光を偏向する光偏向方法であって、
前記導波路アレイには、第1の導波路アレイと、チャネル導波路の光路長が互いに等しい第2の導波路アレイとを設け、
前記第2の導波路アレイは、それぞれのチャネル導波路中の異なった長さで屈折率変調を行い、
前記第2の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差を,前記第1の導波路アレイを構成するチャネル導波路のコアとクラッドの比屈折率差よりも小さくすることを特徴とする光偏向方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図31】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図5】
【図8】
【図24】
【図29】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図31】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図5】
【図8】
【図24】
【図29】
【図32】
【公開番号】特開2008−281639(P2008−281639A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123631(P2007−123631)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]