説明

光共振器

【課題】グレーティングと全反射を利用することにより、構造及び製造工程が簡単であって、強い共振を得るのが容易な光共振器を提供する。
【解決手段】全反射共振部と、導波路とを備えて構成される。全反射共振部は、2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、これら第1の主表面及び第2の主表面は光学的に鏡面である。導波路は、全反射共振部の第2の主表面上に形成されていて、グレーティング部を有している。グレーティング部は、導波路を伝播する光を回折させて全反射共振部に送り、及び、全反射共振部から入射された光を回折させて導波路を伝播させる。また、全反射共振部に送られた光は、全反射共振部の第1の主表面で、導波路に向けて全反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、波長分離素子又は遅延素子として使用可能な、光共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量の光通信を行うためには、多数の波長の光を多重して伝送する技術が重要である。このため、異なる波長の光を分離する波長分離素子が必要になっている。
【0003】
近年、波長分離素子として、特定の波長の光のみを取り出し可能な光共振器が研究されている。また、光共振器は、当該光共振器中で光を周回させることで、遅延素子としても使用可能である。
【0004】
光共振器として、基板上にリング形状の導波路が配置されたリング共振器が、多く研究されている。しかし、リング形状の導波路は、EB(Electron Beam)描画が不得意な曲線形状となっている。このため、導波路の微細な乱れなどにより光散乱が生じるので、強い共振を得るのが難しい。
【0005】
これに対し、リング形状の導波路を用いない光共振器として、導波路共鳴グレーティングと、多層膜反射ミラーを組み合わせた光共振器が最近提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、上下2段の導波路による方向性結合器を利用して光共振器を実現する技術の提案もされている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
また、斜め反射面を用いて、各面での全反射により共振させる技術もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−303497号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Optics Express vol.16、No.22、p.17282、2008年10月27日
【非特許文献2】Optics Express vol.17、No.6、p.4348、2009年3月16日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の非特許文献1に開示されている光共振器は、多層膜反射ミラーとしての誘電体多層膜と、導波路共鳴グレーティングとで共振させるものであり、グレーティングの作製に加えて、誘電体多層膜の作製も必要となるので、製造工程が煩雑になる。
【0011】
また、上述の非特許文献2に開示されている光共振器は、上下2段の導波路による方向性結合器を利用するものであるので、導波路の厚みや2段の導波路の間隔を大きくすることができず、適用範囲が限られる。
【0012】
また、上述の特許文献1に開示されている光共振器では、斜め反射面の作製に特殊なプロセスが必要になるなど、作製が困難である。
【0013】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、グレーティングと全反射を利用することにより、構造及び製造工程が簡単であって、強い共振を得るのが容易な光共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するために、この発明の光共振器は、全反射共振部と、導波路とを備えて構成される。
【0015】
全反射共振部は、2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、これら第1の主表面及び第2の主表面は光学的に鏡面である。導波路は、全反射共振部の第2の主表面上に形成されていて、グレーティング部を有している。
【0016】
グレーティング部は、導波路を伝播する光を回折させて全反射共振部に送り、及び、全反射共振部から入射された光を回折させて導波路を伝播させる。また、全反射共振部に送られた光は、全反射共振部の第1の主表面で、導波路に向けて全反射する。
【0017】
ここで、グレーティング部で回折した光が、全反射共振部で全反射するために、光共振器の周囲の屈折率n0、波長λの光が伝播する導波路の等価屈折率neに対して、以下の(1)式を満たすように、グレーティング周期Λを設定すれば良い。
【0018】
Λ<λ/(n0+ne) (1)
また、導波路を伝播する光が共振に寄与しない構成にしても良い。この場合、光共振器の周囲の屈折率n0に対して、グレーティング周期Λが、以下の(2)式を満たすようにすれば良い。
【0019】
Λ<λ/2・n0 (2)
【発明の効果】
【0020】
この発明の光共振器によれば、曲線部分を光共振器中に含まないので、曲線部に生じがちな境界荒さによる共振特性の劣化が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の光共振器を説明するための概略図である。
【図2】2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。
【図3】入出力導波路を備える光共振器を説明するための概略図である。
【図4】導波路に入力部及び出力部が設けられた光共振器の模式図である。
【図5】第2実施形態の光共振器を説明するための図である。
【図6】第3実施形態の光共振器を説明するための図である。
【図7】2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。
【図8】共振波長の温度依存性についてのシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0023】
(第1実施形態)
図1(A)及び(B)を参照して、第1実施形態の光共振器について説明する。図1(A)及び(B)は、第1実施形態の光共振器を説明するための概略図であって、主要部の切断端面を示している。
【0024】
光共振器10は、全反射共振部20と、導波路30とを備えて構成される。全反射共振部20は、2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面20aと第2の主表面20bを有している。導波路30は、全反射共振部の第2の主表面20b上に設けられていて、グレーティング部32を有している。
【0025】
この光共振器10内での光の経路について、図1(A)を参照して説明する。
【0026】
導波路30を伝播する光(以下、伝播光と称することもある。)101は、グレーティング部32で回折する。回折した光(以下、回折光と称することもある。)103は、全反射共振部20の第1の主表面20aに向かう。
【0027】
全反射共振部20に入射した回折光103は、第1の主表面20aで全反射する。全反射した光(以下、反射光と称することもある。)105は、導波路30に向かう。
【0028】
反射光105は、導波路30のグレーティング部32で回折され、すなわち、カップリングされ、導波路30を伝播する伝播光101となる。この一巡する経路で共振が実現される。
【0029】
共振波長λの光を、光共振器10内に滞留させる、すなわち、共振させるために、光共振器10は、以下のように構成される。
【0030】
回折光103を効率的に反射させるために、第1の主表面20aは、光学的な鏡面として構成される。また、全反射共振部20と導波路30の間での散乱を抑制するために、第2の主表面20bも、光学的な鏡面として構成される。第1の主表面20a及び第2の主表面20b以外の、全反射共振部20の表面は、光学的な鏡面でなくても良い。
【0031】
導波路30が有するグレーティング部32は、回折効率を高めるため、導波路30の上面30bから、全反射共振部20の第2の主表面20bと接する下面30aまで、周期的に溝を掘り込んで形成されている。
【0032】
共振を実現するために、グレーティング部32の伝播方向の長さは、伝播光101が回折して回折光103に変換されるのに要する長さと、回折光103が反射して反射光105となり、グレーティング部32に戻るまでの水平距離よりも長い必要がある。
【0033】
グレーティング部32のグレーティング周期Λは、回折光103の第1の主表面20aへの入射角θが、当該第1の主表面20aで全反射する臨界角θcよりも大きくなるように設定される。光共振器10の周囲の屈折率n0と波長λの光が伝播する導波路30の等価屈折率neに対して、以下の(1)式を満たすように、グレーティング周期Λを設定すれば良い。
【0034】
Λ<λ/(n0+ne) (1)
この式(1)は、以下のように導出される。
【0035】
周知の通り、導波路30の等価屈折率ne、全反射共振部20の屈折率n、共振する波長(共振波長)λ及びグレーティング周期Λが、以下の(3)式を満たすとき、導波路30を伝播する伝播光101は、第1の主表面20aへの入射角がθとなるように回折する。
【0036】
Λ=λ/(ne+n・sinθ) (3)
ここで、導波路30の等価屈折率neは、導波路30の材質と、波長(ここでは共振波長λ)から得られる。
【0037】
また、全反射共振部20の第1の主表面20aで、回折光103が全反射するためには、光共振器10の周囲の屈折率n0、全反射共振部20の屈折率n及び第1の主表面20aの入射角θが、以下の(4)式を満たす必要がある。
【0038】
sinθ>sinθc=n0/n (4)
上記(3)式及び(4)式から、(1)式が得られる。
【0039】
ここでは、伝播光101がグレーティング部32で回折して回折光103となり、この回折光103が第1の主表面20aで全反射して反射光105となり、反射光105が再び伝播光101となって、一巡する例について説明したが、経路はこれに限定されない。導波路30に入射した反射光が、グレーティング部32で導波路30を伝播せずに、再び全反射共振部20の第1の主表面20aに向かう回折光に変換される構成にしても良い。
【0040】
この場合の光の経路について、図1(B)を参照して説明する。
【0041】
グレーティング部32で回折した第1の回折光111が、第1の主表面20aで全反射する。全反射した第1の反射光113は、導波路32に向かう。第1の反射光113は、導波路30のグレーティング部32で回折され、第1の主表面20aに向かう第2の回折光115になる。この第2の回折光115は、第1の主表面20aで全反射して、全反射した第2の反射光117は、導波路30に向かう。第2の反射光117は、グレーティング部32で回折して、第1の回折光111となる。
【0042】
この一巡する経路で共振が実現される。この場合、導波路30を伝播する伝播光は、共振には寄与しない。
【0043】
グレーティング部32のグレーティング周期Λは、第1の回折光111及び第2の回折光115の、第1の主表面20aへの入射角θが、当該第1の主表面20aで全反射する臨界角θcよりも大きくなるように設定される。光共振器10の周囲の屈折率n0に対して、グレーティング周期Λを、以下の(2)式を満たすように設定すれば良い。
【0044】
Λ<λ/2・n0 (2)
この式(2)は、以下のように導出される。
【0045】
周知の通り、全反射共振部20の屈折率n、共振波長λ及びグレーティング周期Λが、以下の(5)式を満たすとき、第1の反射光113及び第2の反射光117は、第1の主表面20aへの入射角がθとなるように回折する。
【0046】
Λ=λ/(2・n・sinθ) (5)
また、第1の主表面20aで、第1の回折光111及び第2の回折光115が全反射するためには、光共振器10の周囲の屈折率n0、全反射共振部20の屈折率n及び第1の主表面20aの入射角θが、上記の(4)式を満たす必要がある。
【0047】
従って、上記(4)式及び(5)式から、(2)式が得られる。
【0048】
次に、2次元時間領域差分(FDTD:Finite Difference Time Domain)法を用いたシミュレーションについて説明する。図2は、2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。
【0049】
図2(A)及び(B)は、グレーティング部32の長さが有限であり、約24nmのときのシミュレーション結果を示している。このとき、波長λを1378nmとしている。
【0050】
図2(C)及び(D)は、グレーティング部32の長さが無限であるときのシミュレーション結果を示している。このとき、波長λを1379.5nmとしている。
【0051】
図2(A)及び(C)は、第1の主表面20aで、導波路30に向かう共振波長λの連続光を発生させ、規格化された時間(規格化時間)cTが1000(μm)となったときの、電場強度の分布を示している。また、図2(B)及び(D)は、全反射共振部20の第1の主表面20aにおける光強度の、時間変化を示している。図2(B)及び(D)は、横軸に規格化時間cT(μm)を取って示し、縦軸に光強度(任意単位)を取って示している。
【0052】
ここでは、全反射共振部20の材質を石英とし、その屈折率nを1.46としている。また、全反射共振部20の第1の主表面20aから導波路30の上面30bまでの厚みを3μmとしている。
【0053】
導波路30については、その材質をシリコン(Si)とし、屈折率を3.5としている。また、導波路30の厚みを300nmとし、グレーティング部32のグレーティング周期Λを641.52nmとしている。
【0054】
また、光共振器10の周囲は全て空気とし、その屈折率n0を1.0とする。
【0055】
図2(A)及び(C)によると、全反射共振部20中に、電場の強い部分と、弱い部分とが、第1の主表面20aに平行な方向と直交する方向のそれぞれで繰り返し現れている。また、図2(B)及び(D)によると、規格化時間cT(μm)の経過とともに、全反射共振部20の第1の主表面20aにおける光強度が増すことが示されている。
【0056】
(入出力手段)
次に、光共振器10への光の入出力手段について説明する。光共振器10への光の入出力は、任意好適な手段を用いて行うことができる。
【0057】
第1の例として、グレーティング部32に、グレーティング周期Λの異なる領域を設けるなど、グレーティング部32に構造的な乱れを作りこむ技術がある。このように、グレーティング部32に構造的な乱れが作りこまれていると、その乱れのある領域で散乱が発生し、光の取出しが可能になる。
【0058】
第2の例として、入出力用の光導波路(入出力導波路)を設ける技術がある。図3(A)及び(B)を参照して、この入出力導波路を備える光共振器について説明する。図3(A)は、入出力導波路を備える光共振器の概略構成図であって、主要部の切断端面を示している。図3(B)は、2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。図3(B)は、横軸に波長(μm)を取って示し、縦軸に出力光の光強度(任意単位)を取って示している。
【0059】
光共振器11は、全反射共振部20の第1の主表面20aに近接配置された、入出力導波路40を備えている。入出力導波路40は、入力部42、カップリング部44及び出力部46を、この順に備えて構成される。入出力導波路40に入力された光(入力光)121は、入力部42、カップリング部44及び出力部46の順に伝播される。入力光121は、カップリング部44で、全反射共振部20側にエバネッセント光123を生じさせる。エバネッセント光123は、導波路30のグレーティング部32で回折され、図1(A)又は図1(B)を参照して説明したように光共振器11内で共振する。
【0060】
また、光共振器11内で共振している光(回折光)125は、全反射共振部20の第1の主表面20aの近傍で、入出力導波路40側にエバネッセント光を生じさせる。このエバネッセント光は、出力光127として出力部46を経て、入出力導波路40から出力される。
【0061】
次に、2次元FDTD法を用いたシミュレーション結果について、図3(B)を参照して説明する。
【0062】
ここでは、全反射共振部20の材質を石英とし、その屈折率nを1.46としている。また、全反射共振部20の第1の主表面20aから導波路30の上面30bまでの厚みを3μmとしている。
【0063】
導波路30については、その材質をシリコン(Si)とし、屈折率を3.5としている。また、導波路30の厚みを450nmとしている。グレーティング部32は、グレーティング周期Λを430nmとし、グレーティング部32の長さを約27μmとしている。また、入出力導波路40の幅は600nmであり、入出力導波路40のカップリング部44と、全反射共振部20の第1主表面20aとの間隔dを500nmとする。また、カップリング部44の長さを10μmとしている。さらに、光共振器10の周囲は全て空気とし、その屈折率n0を1.0とする。
【0064】
図3(B)に示されるように、共振波長λ(=1.588μm)の光が、光共振器11中に滞留するために、1.588μm近傍での出力光の光強度が、他の波長の光強度に比べて減少している。
【0065】
第3の例として、グレーティング部を有する導波路に、入力部と出力部とを備える構成にする技術がある。図4を参照して、導波路に入力部と出力部が設けられた光共振器について説明する。図4は、導波路に入力部と出力部が設けられた光共振器の模式図である。
【0066】
光導波路をシングルモード導波路とすると、導波路の大きさは、幅300nm及び高さ300nm程度となる。この導波路にグレーティング部を形成すると、グレーティング部での回折光の拡散のため、共振が成立しにくくなる。従って、グレーティング部の幅は、波長の5倍以上あることが望ましい。
【0067】
そこで、この光共振器12では、導波路50が、入力部54、グレーティング部52及び出力部56をこの順に備えている。さらに、導波路50は、入力部54及びグレーティング部52の間と、グレーティング部54及び出力部56の間に、それぞれテーパ部58を有している。
【0068】
入力部54及び出力部56の幅は、シングルモード導波路として機能する幅、例えば300nm程度に設定される。一方、グレーティング部52の幅は、共振波長λの5倍以上に設定される。テーパ部58は、入力部54及び出力部56からグレーティング部52に向けて順次に幅広となる。
【0069】
また、図4に示される光共振器12では、全反射共振部20の第1の主表面20a側に基板90を備えている。この基板は、例えば、シリコン基板として構成されている。また、エッチャントとして水酸化カリウム(KOH)を用いたウェットエッチングにより、基板90には、第1の主表面20aの一部領域が露出する開孔92が形成されている。
【0070】
この構成で、全反射共振部20中、あるいは、導波路50中に光を増幅する手段を設ければ、光共振器12をレーザ光源として機能させることができる。光を増幅する手段として、全反射共振部20を、エルビウム(Er)を導入した石英として、側面からポンプ光を入射して励起させる構造にすることができる。また、導波路50を化合物半導体で構成することにより、この導波路50を光増幅媒体とすることができる。
【0071】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態の光共振器について説明する。図5は、第2実施形態の光共振器を説明するための図であって、図5(A)は、入出力導波路を備える光共振器の概略構成図である。また、図5(B)及び(C)は、2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。図5(B)は、第1の主表面20aで、導波路30に向かう共振波長λの連続光を発生させ、規格化時間cTが1000(μm)となったときの、電場強度の分布を示している。また、図5(C)は、全反射共振部20の第1の主表面20aにおける光強度の、時間変化の様子を示している。図5(C)は、横軸に規格化時間cT(μm)を取って示し、縦軸に光強度(任意単位)を取って示している。
【0072】
この実施形態の光共振器13は、導波路60中に、2つのグレーティング部62a及び62bを備え、グレーティング部62a及び62bの間に、グレーティングが形成されていない領域61が存在する点が、図1を参照して説明した光共振器と異なっている。それ以外の構成は、図1を参照して説明した光共振器と同様なので重複する説明を省略する。
【0073】
この場合の光の経路について説明する。
【0074】
導波路60を伝播する伝播光141は、一方のグレーティング部62bで回折する。回折した回折光143は、全反射共振部20の第1の主表面20aに向かう。全反射共振部20に入射した回折光143は、第1の主表面20aで全反射する。全反射した反射光145は、導波路60に向かう。
【0075】
反射光145は、導波路60の他方のグレーティング部62aで回折され、すなわち、カップリングされ、導波路60を伝播する伝播光141となる。伝播光141は、グレーティング部62a及び62bの間の領域61を経て、グレーティング部62bに送られる。この一巡する経路で共振が実現される。
【0076】
次に、2次元FDTD法を用いたシミュレーション結果について説明する。
【0077】
ここでは、全反射共振部20の材質を石英とし、その屈折率nを1.46としている。また、全反射共振部20の第1の主表面20aから、導波路60の上面60bまでの厚みを7μmとしている。
【0078】
導波路60については、その材質をシリコン(Si)とし、屈折率を3.5としている。また、導波路60の厚みを450nmとしている。グレーティング部62a及び62bは、グレーティング周期Λを470nmとし、グレーティング部62a及び62bの長さを、それぞれ約8.5μmとしている。また、グレーティング部62a及び62bの間隔、すなわち領域61の長さを10μmとしている。さらに、光共振器13の周囲は全て空気とし、その屈折率n0を1.0とする。
【0079】
図5(C)では、第1の主表面20aにおける光強度を曲線Iで示し、外部へ伝播された光強度を曲線IIで示している。図5(C)に示すように、規格化時間cTが500(μm)のときに、光強度が1を超えており、図5(A)の構成によれば、図1(A)を参照して説明した第1実施形態の光共振器に比べて、より強い共振をより早く達成できる。
【0080】
(第3実施形態)
図6を参照して、第3実施形態の光共振器について説明する。図6は、第3実施形態の光共振器を説明するための図であって、図6(A)は、入出力導波路を備える光共振器の概略構成図である。また、図6(B)及び(C)は、2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。図6(B)は、第1の主表面20aで、導波路30に向かう共振波長λの連続光を発生させ、規格化時間cTが1000(μm)となったときの、電場強度の分布を示している。また、図6(C)は、全反射共振部20の第1の主表面20aにおける光強度の、時間変化の様子を示している。図6(C)は、横軸に規格化時間cT(μm)を取って示し、縦軸に出力光の光強度(任意単位)を取って示している。
【0081】
この実施形態の光共振器14は、導波路30上にブロック70を設けている点が、図1を参照して説明した光共振器と異なっている。それ以外の構成は、図1を参照して説明した光共振器と同様なので重複する説明を省略する。
【0082】
ブロック70は、導波路30と同じ材料で形成しても良いし、全反射共振部20と同じ材料で形成しても良い。なお、ブロック70の導波路30と接する面(下面)70aと、ブロック70の上面70bは、光学的に鏡面としている。
【0083】
グレーティング部32で回折した第1の回折光151が、第1の主表面20aで全反射する。全反射した第1の反射光153は、導波路30に向かう。
【0084】
第1の反射光153は、導波路30のグレーティング部32で回折され、ブロック70の上面70bに向かう第2の回折光155になる。
【0085】
この第2の回折光155は、ブロック70の上面70bで全反射して、全反射した第2の反射光157は、導波路30に向かう。
【0086】
第2の反射光157は、グレーティング部32で回折され、第1の回折光151となる。この一巡する経路で共振が実現される。
【0087】
次に、図6(B)及び(C)を参照して、2次元FDTD法を用いたシミュレーション結果について説明する。
【0088】
ここでは、全反射共振部20の材質を石英とし、その屈折率nを1.46としている。また、全反射共振部20の第1の主表面20aから、導波路30の上面30bまでの厚みを2μmとしている。
【0089】
導波路30については、その材質をシリコン(Si)とし、屈折率を3.5としている。また、導波路30の厚みを450nmとしている。グレーティング部32は、グレーティング周期Λを470nmとし、グレーティング部32の長さを無限としている。また、波長を1586nmとしている。
【0090】
また、ブロック70を導波路30と同じ材質、すなわちシリコンとし、その屈折率を3.5としている。また、ブロック70の厚みを500nmとしている。さらに、光共振器14の周囲は全て空気とし、その屈折率n0を1.0とする。
【0091】
図6(C)に示すように、図6(A)の構成によれば、規格化時間cTが700(μm)のときに、光強度が1を超えていて、図1(A)を参照して説明した第1実施形態の光共振器に比べて、より強い共振をより早く達成できる。
【0092】
次に、図7(A)及び(B)を参照して、ブロック70の材質を変えた場合の、2次元FDTD法を用いたシミュレーション結果について説明する。図7(A)及び(B)は、2次元FDTD法を用いたシミュレーションの結果を示す図である。図7(A)は、第1の主表面20aで、導波路30に向かう共振波長λの連続光を発生させ、規格化時間cTが1000(μm)となったときの、電場強度の分布を示している。また、図7(B)は、全反射共振部20の第1の主表面20aにおける光強度の、時間変化の様子を示している。図7(B)は、横軸に規格化時間cT(μm)を取って示し、縦軸に出力光の光強度(任意単位)を取って示している。
【0093】
ここでは、ブロック70の材質を、全反射共振部20と同じく石英として、その屈折率を1.46とし、さらに、波長を1384nmとした点が図6(B)及び(C)のシミュレーション条件と異なっていて、それ以外の条件は同様である。
【0094】
図7(B)に示すように、ブロック70の材質を全反射共振部20と同じにした場合であっても、規格化時間cTが1000(μm)のときに、光強度が1を超えていて、図1(A)を参照して説明した第1実施形態の光共振器に比べて、より強い共振をより早く達成できる。
【0095】
(温度依存性)
図1(A)に示した構造での共振条件は、グレーティング部中の伝播長Lg、等価屈折率ng、全反射共振部中の伝播長Lb、屈折率nbとすると、整数mに対して、m=(ng・Lg+nb・Lb)/λである。ここで、導波路30の上面30bへのエバネッセント光を利用すると、共振波長のシフトから屈折率変化を見積もることができる。
【0096】
温度変化による共振波長変化は、以下の式(6)
m・dλ/dT=(dng/dT)・Lg+(dnb/dT)・Lb
+ng・(dLg/dT)+nb・(dLb/dT) (6)
で与えられる。
【0097】
例えば、導波路30をシリコンとすると、dng/dT=1.8×10-4である。また、全反射共振部20をポリマーとすると、dnb/dT=−1×10-4〜−3×10-4である。このように、互いに、温度変化による屈折率変化が逆符号の材料を、導波路30と全反射共振部20に使用すると、温度変化による共振波長シフトを防止することができる。
【0098】
伝播長の変化が無視できる場合、Lb/Lg=−(dng/dT)/(dnb/dT)=0.6〜1.8となる。なお、幾何学的には、Lb/Lg>1でないと、共振経路が成立しない。入射角が45°であれば、Lb/Lg=1.414であり、入射角が60°であれば、Lb/Lg=1.155が必要となる。
【0099】
また、グレーティング部32の溝が掘り込まれた部分(スロット部分)に他の材料、例えばポリマーを充填すると、グレーティング部32の温度依存性は小さくなる。この場合には、全反射共振部20として、ガラスなどの屈折率の温度依存性が小さい材料を使用することができる。
【0100】
なお、全反射共振部20は、単一材料で構成されなくても良い。全反射共振部20を複数の層を備える構成として、各層の材料を異なる材料にしても良い。また、複数材料を混合して、全反射共振部20を形成しても良い。
【0101】
図8に、全反射共振部20をポリマーあるいはガラスとしたときの共振波長の温度依存性についてのシミュレーション結果を示す。図8では横軸に波長(μm)を取って示し、縦軸に全反射共振部20の第1の主表面20aでの光強度(任意単位)を取って示している。曲線Iは室温における波長依存性を示している。曲線IIは、全反射共振部20をポリマーとしたときの50℃における波長依存性を示している。また、曲線IIIは、全反射共振部20をガラスとしたときの50℃における波長依存性を示している。
【0102】
ここでは、全反射共振部20の厚みを3μmとしている。
【0103】
導波路30については、その材質をシリコン(Si)とし、屈折率を3.5としている。また、導波路30の厚みを450nmとしている。グレーティング部32のグレーティング周期Λを、470nmとしている。
【0104】
光共振器10の周囲は全て空気とし、その屈折率n0を1.0とする。
【0105】
ここでは、全反射共振部20の屈折率を材質によらず1.6として、材質をポリマー及び石英としたそれぞれの場合の温度依存性を加味している。石英の屈折率の温度依存性をdn/dT=10-5とし、ポリマーの屈折率の温度依存性をdn/dT=−1×10-4とする。
【0106】
全反射共振部20がガラスの場合は、室温から50℃まで温度が上昇すると、共振波長が1.578nmから1.580nmまで共振波長が変化している(III)。これに対して、全反射共振部がポリマーの場合、室温から50℃まで温度が上昇しても、共振波長は変化していない(II)。
【符号の説明】
【0107】
10、11、12、13、14 光共振器
20 全反射共振部
20a 第1の主表面
20b 第2の主表面
30、50、60 導波路
30a、70a 下面
30b、60b、70b 上面
32、52、62a、62b グレーティング部
40 入出力導波路
42、54 入力部
44 カップリング部
46、56 出力部
58 テーパ部
61 領域
70 ブロック
90 基板
92 開孔
101、141 伝播光
103、125、143 回折光
105、145 反射光
111、151 第1の回折光
113、153 第1の反射光
115、155 第2の回折光
117、157 第2の反射光
121 入力光
123 エバネッセント光
127 出力光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、前記第1の主表面及び前記第2の主表面が光学的に鏡面である全反射共振部と、
前記全反射共振部の前記第2の主表面上に形成された、グレーティング部を有する導波路と
を備え、
前記グレーティング部は、前記導波路を伝播する光を回折させて前記全反射共振部に送り、及び、前記全反射共振部から入射された光を回折させて前記導波路を伝播させ、
前記全反射共振部に送られた光は、前記第1の主表面で、前記導波路に向けて全反射する
ことを特徴とする光共振器。
【請求項2】
2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、前記第1の主表面及び前記第2の主表面が光学的に鏡面である全反射共振部と、
前記全反射共振部の前記第2の主表面上に形成された、グレーティング部を有する導波路と
を備え、
前記光共振器の周囲の屈折率n0、前記導波路の等価屈折率ne、及び、前記グレーティング部のグレーティング周期Λが、当該光共振器で共振する光の波長λに対して、以下の式(1)を満たす
ことを特徴とする光共振器。
Λ<λ/(n0+ne) (1)
【請求項3】
前記光共振器の周囲の屈折率n0、前記導波路の等価屈折率ne、及び、前記グレーティング部のグレーティング周期Λが、当該光共振器で共振する光の波長λに対して、以下の式(1)を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の光共振器。
Λ<λ/(n+n) (1)
【請求項4】
2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、前記第1の主表面及び前記第2の主表面が光学的に鏡面である全反射共振部と、
前記全反射共振部の前記第2の主表面上に形成された、グレーティング部を有する導波路と
を備え、
前記グレーティング部は、前記全反射共振部から入射された光を回折させて前記全反射共振部に送り、前記全反射共振部に送られた光は、前記第1の主表面で、前記導波路に向けて全反射する
ことを特徴とする光共振器。
【請求項5】
2つの互いに平行な主表面として、第1の主表面及び第2の主表面を有していて、前記第1の主表面及び前記第2の主表面が光学的に鏡面である全反射共振部と、
前記全反射共振部の前記第2の主表面上に形成された、グレーティング部を有する導波路と
を備え、
前記光共振器の周囲の屈折率n0、及び、前記グレーティング部のグレーティング周期Λが、当該光共振器で共振する光の波長λに対して、以下の式(2)を満たす
ことを特徴とする光共振器。
Λ<λ/2・n0 (2)
【請求項6】
前記光共振器の周囲の屈折率n0、及び、前記グレーティング部のグレーティング周期Λが、当該光共振器で共振する光の波長λに対して、以下の式(2)を満たす
ことを特徴とする請求項4に記載の光共振器。
Λ<λ/2・n0 (2)
【請求項7】
前記導波路上に、2つの互いに平行な主表面として、下面及び上面を有していて、前記下面及び前記上面が光学的に鏡面であるブロックを備える
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光共振器。
【請求項8】
前記ブロックが、前記導波路又は前記全反射共振部と同じ材料で構成される
ことを特徴とする請求項7に記載の光共振器。
【請求項9】
前記全反射共振部の材料と、前記導波路の材料の、温度に対する屈折率変化が逆符号である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項10】
前記グレーティング部のスロット部分に充填される材料と、前記導波路の材料の、温度に対する屈折率変化が逆符号である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光共振器。
【請求項11】
前記導波路が、複数のグレーティング部を備える
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の光共振器。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−14029(P2012−14029A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151621(P2010−151621)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】