説明

光制御膜

【課題】透明角度域においては5%以下の十分に低い曇価を有し、不透明角度域においては、一層高い曇価を有する光制御膜を提供する。
【解決手段】重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を複数種含む膜状組成物に特定方向から紫外線を照射して、該組成物を硬化させて得られ、特定角度範囲の入射光のみを選択的に散乱する光制御膜において、該組成物に含まれる少なくとも1種の化合物が、複数の芳香環と1つの重合性炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物であることを特徴とする光制御膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の角度範囲の入射光のみを選択的に散乱する光制御膜に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の角度域の入射光のみを選択的に散乱して高い曇価(不透明)を与え、それ以外の角度域については入射光を透過させて低い曇価(透明)を与える光制御膜は、例えば、プライバシーを保護するため、窓ガラスやキャッシュディスペンサータッチパネルなどに貼着して視野角制御フィルムとして用いられたり、フラットパネルディスプレーの視野角拡大フィルムなどの光学フィルムとして用いられている。
このような光制御膜としては、例えば、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート及びポリエーテルウレタンアクリレートを含む膜状組成物に紫外線を照射して得られる光制御膜は不透明角度域における曇価79%、透明角度域における曇価が5%以下を有することが報告されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−11606号公報(実施例5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、プライバシー保護を目的とする場合、透明を与える角度域については高い視認性、つまり十分に低い曇価を与え、不透明を与える角度域については視認できない、つまり十分に高い曇価を与える光制御膜、すなわち、コントラストがはっきりした光制御膜が求められている。
本発明の目的は、透明角度域においては5%以下の十分に低い曇価を有し、不透明角度域においては、一層高い曇価を有する光制御膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、光制御膜に用いられるモノマーについて検討したところ、特定のモノマーから得られる光制御膜が、かかる課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を複数種含む膜状組成物に特定方向から紫外線を照射して、該組成物を硬化させて得られ、特定角度範囲の入射光のみを選択的に散乱する光制御膜において、該組成物に含まれる少なくとも1種の化合物が、複数の芳香環と1つの重合性炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物であることを特徴とする光制御膜である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光制御膜は、透明角度域においては十分に低い曇価(透明)を有し、不透明角度域において、一層高い曇価を有し、透明角度域と不透明角度域とのコントラストがはっきりした、新しい光制御膜である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、分子内に複数の芳香環と1つの重合性炭素−炭素二重結合とを有する化合物(以下、化合物Aという場合がある)を膜状組成物に含むことを特徴とする光制御膜である。
化合物Aに含まれる芳香環とは、芳香族性を有する炭化水素環であり、芳香族性を有する限り炭素原子は窒素原子、酸素原子、硫黄原子などに置換されていてもよい。芳香環には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基等が結合していてもよい。
芳香環は、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合環であってもよい。本発明では、芳香族性を有する縮合環は、複数の芳香環を意味する。
芳香環としては、例えば、ベンゼン環、メチルベンゼン環、ジメチルベンゼン環、クロロベンゼン環、ペンタフルオロベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン、ピリジン環、ピロール環などが挙げられる。中でも、分子内の複数の芳香環としては複数のベンゼン環が好ましい。
化合物Aの分子内に含まれる芳香環の数としては通常、2〜6程度、好ましくは2〜4程度である。
【0008】
縮合環以外の複数の芳香環相互の結合は、単結合の他、連結基を介して結合などが挙げられる。連結基としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基などの炭素数2〜6程度のアルキリデン基、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1〜6程度のアルキレン基、例えば、エチレンオキシド基、プロピレンオキシド基などのアルキレンオキシド基、例えば、エチレンオキシドに由来する構造、プロピレンオキシドに由来する構造、グリシジルエーテルに由来する構造、例えば、エーテル基、エステル基、グリシジルエーテル基などが挙げられる。連結基は異なる2種類の連結基を組み合わせでもよい。
複数の芳香環相互の結合は、中でも、アルキリデン基若しくはアルキレン基を介する結合、又は、単結合が好ましい。
【0009】
化合物Aに含まれる重合性炭素−炭素二重結合とは、該結合が互いに付加重合によって、新たな炭素−炭素結合を生じ得る結合であり、具体的には、ビニル基、アリル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、trans−1−オキソ−2−ブテノキシ基、シンナモイル基などが挙げられる。重合性炭素−炭素二重結合としてシクロペンテン環構造などのようにシクロオレフィン構造であってもよい。中でも、アクリロイル基及びメタクリロイル基が感光性に優れることから好ましく、とりわけ、アクリロイル基が好適である。
重合性炭素−炭素二重結合と芳香環は直接結合しても、前記に例示された連結基を介して結合していてもよい。
【0010】
化合物Aは、水酸基を含有する化合物A(以下、化合物A1と称する場合がある)及び水酸基を含有しない化合物A(以下、化合物A2と称する場合がある)に大別される。
本発明に用いられる膜状組成物には、化合物A1、化合物A2を混合して使用してもよい。また、化合物A1(あるいは化合物A2)として異なる2種類の化合物A1(あるいは化合物A2)を用いてもよい。
【0011】
化合物A1中の重合性炭素−炭素二重結合のα位の炭素原子に、i−プロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基などの2級又は3級アルキル基、臭素原子などの前記嵩高い基が結合してもよい。
【0012】
化合物A1の具体例としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル メタクリレート、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルベンジル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エチル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−エチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−エチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−プロピルフェニル)エチル〕−4−プロピルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)エチル〕−4−イソプロピルフェニル アクリレートが挙げられる。
【0013】
化合物A1は、付加重合性が低い傾向があり、膜状組成物を十分に硬化させるため、本発明に用いられる膜状組成物100重量部に対する化合物A1の含有量は、通常、0.1〜30重量部、好ましくは1〜20重量部である。
化合物A1の含有量が少ないことから、本発明の膜状組成物には、化合物A1とは異なる重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物(後述する化合物A2を含む)をさらに2種以上含有することが好ましい。
【0014】
化合物A1を含む膜状組成物に含まれる、化合物A1とは異なる2種以上の化合物の分子量は、通常、1000未満であり、それぞれの化合物の単独重合体の屈折率は、通常、1.51以上である。また、膜状組成物100重量部に対して、化合物A1とは異なる2種以上の化合物の含有量は、通常、10〜90重量部程度であり、好ましくは30〜70重量部程度である。
【0015】
化合物A2は、付加重合性に優れることから、本発明に用いられる膜状組成物100重量部に対する化合物A2の含有量は、通常、10〜90重量部程度であり、好ましくは30〜70重量部程度である。
化合物A2の単独重合体の屈折率は、通常、1.51以上であり、化合物A2の分子量は、通常、1000未満である。
【0016】
化合物A2の具体例としては、ジフェニルメチルアクリレート、4−フェニルフェニルアクリレート、4−(2,4,6−トリブロモフェニル)−2,6−ジブロモフェニルアクリレート、2−フェニルフェニルアクリレート、4−フェニルフェノキシエチルアクリレート、p−クミルフェニルアクリレート、p−クミルフェノキシエチルアクリレート、2−[p−クミルフェノキシ−2−メチル]エチルアクリレート、4−[1−(4−アセトキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニルアクリレート、4−[1−(4−メトキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニルアクリレート、4−[1−(4−イソプロポキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニルアクリレート、4−[1−(4−ベンゾキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニルアクリレート、4−[1−(4−ベンジロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニルアクリレート、4−[1−(4−アセトキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシエチルアクリレート、4−[1−(4−メトキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシエチルアクリレート、4−[1−(4−イソプロポキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシエチルアクリレート、4−[1−(4−ベンゾキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシエチルアクリレート、4−[1−(4−ベンジロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェノキシエチルアクリレート、4−ベンジルフェニルアクリレート、1−ナフチルアクリレート、2−ナフチルアクリレート、1−ナフトキシエチルアクリレート、4−(2−フリル)フェニルアクリレート、4−(3−チオフェニル)フェニルアクリレート、これらのアクリレートに対応するメタクリレートモノマーが挙げられる。
化合物A2としては、中でも、p−クミルフェニルアクリレート、2−フェニルフェニルアクリレート、4−ベンジルフェニルアクリレート、ジフェニルメチルアクリレートが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる膜状組成物には、化合物Aとは異なる重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物が含まれていてもよい。具体的には、分子内に芳香環を有していないか、または分子内に1つの芳香環を有し、分子内に1つ以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、化合物Bという場合がある)が例示される。
化合物Bとしては、例えば、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ω−ヒドロキシヘキサノイルオキシエチルアクリレート、アクリロイルオキシエチルサクシネート、アクリロイルオキシエチルフタレート、イソボルニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレートならびにこれらのアクリレートに対応するメタクリレート等、分子内に芳香環を有さないで分子内に1つの重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物、例えば、フェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、トリブロムフェノキシエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルモルフォリン等、分子内に1つの芳香環を有し、分子内に1つの重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物、
【0018】
例えば、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、水添ジシクロペンタジエニルジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリスアクリロキシイソシアヌレート、多官能のエポキシアクリレート、多官能のウレタンアクリレートや、これらのアクリレートに対応するメタクリレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ブタジエン等の分子内に芳香環を有さないで分子内に複数の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物、例えば、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート等の分子内に芳香環を有し分子内に複数の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物などが挙げられる。
【0019】
本発明に用いられる膜状組成物100重量部に対する化合物Bの含有量としては、通常、10〜90重量部程度であり、好ましくは30〜70重量部程度である。
化合物Bを用いることにより、膜状組成物の相溶性の調整や粘度の調整を容易に実施することができる、
化合物Bの分子量は、通常、1000未満である。
【0020】
本発明に用いられる膜状組成物には、化合物A及び化合物Bとは異なる重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物として、その単独重合体の屈折率が1.51未満、好ましくは1.50以下のオリゴマーを含有していてもよい。
オリゴマーの具体例としては、ポリエステルアクリレート、ポリオールポリアクリレート、変性ポリオールポリアクリレート、イソシアヌル酸骨格のポリアクリレート、メラミンアクリレート、ヒダントイン骨格のポリアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートなどの多官能アクリレートや、これらのアクリレートに対応するメタクリレートなどが挙げられる。ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、ポリイソシアネートとポリオールと2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの付加反応によって生成するものが例示される。ここで、ポリイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。またポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールなどが挙げられる。
【0021】
オリゴマーの分子量は、1000以上である。
本発明に用いられる膜状組成物100重量部に対するオリゴマーの含有量としては、通常、10〜90重量部程度であり、好ましくは30〜70重量部程度である。
オリゴマーを上記範囲で用いることにより、フィルムの強度、可とう性及び耐摩耗性が向上する傾向があることから好ましい。
【0022】
膜状組成物は、重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物として化合物Aを必須成分とし、通常、さらに化合物B及び/又はオリゴマーなどの複数種の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物などの化合物を複数種含有するが、膜状組成物に含有される該化合物の単独重合体の屈折率は互いに異なっていなければならず、それらの屈折率差が大きいほど得られる光制御膜の曇価は高くなる。重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物の中でも少なくとも2種の化合物の単独重合体は少なくとも0.01、より好ましくは少なくとも0.02の屈折率差を有することが好ましい。3種またはそれ以上の種類の化合物を使用するときはそれらの単独重合体のいずれか2つの屈折率の差が上記条件を満足しておればよい。
少なくとも0.01の屈折率差を与える2種の化合物の混合率は重量比率で10:90〜90:10の範囲にあることが好ましい。またこれらの化合物の相溶性は、ある程度低い方が好ましい。
【0023】
膜状組成物は、例えば、基板上に塗布する方法、セル中に封入する方法などで膜状とし、得られた膜状組成物に特定方向から紫外線を照射して、本発明の光制御膜を得ることができる。
特定方向から紫外線を照射する方法としては、例えば、図1の紫外線硬化装置のように、棒状光源より光を遮光板のスリットを介して膜状組成物の膜面に対して垂直方向の光線として照射しながら徐々に硬化させる方法などが挙げられる。
【0024】
膜状組成物には、光制御性を妨げない限り、例えばポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ナイロン等のポリマー類や、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等の有機薬品等や有機ハロゲン化合物、有機ケイ素化合物、可塑剤、安定剤等のプラスチック添加剤などを混合させてもよい。
【0025】
膜状組成物は、かかるモノマー化合物等を例えば、ガラス板やポリエチレンテレフタレート板などの基板上に塗布する方法、例えば、セル中に封入する方法などで膜状とすることにより得ることができる。
膜状組成物は、通常、25μm〜1000μm程度の厚みを有し、5cm〜300cm程度の幅および5cm〜数百m程度の長さを有する。
【0026】
セル中に封入して得られた膜状組成物などのように、酸素が遮断された膜状組成物には、必ずしも光重合開始剤を必要としないが、基板上に塗布する方法などの一般的な方法では硬化度を向上させるために、予め、光重合開始剤を混合させた膜状組成物を用いる。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられる。
光重合開始剤の混合する場合にはその混合量は膜状組成物100重量部に対し、通常、0.01〜5重量部程度であり、好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0027】
本発明の光制御膜は、例えば、図1の紫外線硬化装置のように、棒状光源5の光を遮光板3のスリット4を介して垂直方向の光線として照射し、ガラス板上に塗布した膜状組成物1をコンベア2上に載置して0.01〜10m/分、好ましくは0.1〜5m/分程度で移動させながら、徐々に硬化させる方法などが挙げられる。
【0028】
光制御膜を製造する際に照射される光線は、紫外線を含む光線、好ましくは400nm以下の波長の紫外線である。光線が400nm以下の紫外線であると、不透明角度域の幅が増加する傾向がある。
400nm以下の紫外線は、例えば、光線がガラス板上に塗布した膜状組成物1と遮光板3との間などに具備された干渉フィルターを透過することにより得ることができる。
【0029】
紫外線の光源としては、水銀ランプやメタルハライドランプなどの棒状光源、点光源を多数個連続して線状にならべたもの、レーザ光などからの光を回転鏡および凹面鏡を用いて走査(被照射位置の1点について異なる多数の角度から照射)するようになった光源などの線状光源が用いられる。中でも、棒状光源が、取扱いが容易なことから好ましい。
膜状組成物は光源の長軸と短軸方向に対して異方性を示し、光源の短軸方向に膜状組成物を移動させた場合にのみ、特定角度の光を散乱する。すなわち、膜状組成物は、屈折率の異なる領域が、光源の長軸方向に平行に配向した状態で周期的に存在する微小構造の層を形成している。このことにより、本発明の光制御膜に特定の角度より入射した光は、屈折率の異なる領域で散乱するものと考えられる。
【0030】
本発明の光制御膜が与える最大曇価(直線透過に対する最大の不透明度)としては、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、入射光を透過させる角度域においては、10%以下、より好ましくは5%以下の低い曇価(透明度)であると、コントラストが大きくなるため好適である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0032】
曇価は、積分球式光線透過率測定装置(ガードナー社製のヘイズガードプラス4725)を用いて、光制御膜の中心と積分球との距離を4cmとして光制御膜の全光線透過率及び拡散透過率を測定し、下式により求められる値である。
【0033】

【0034】
また、光制御膜における曇価の角度依存性は、次のようにして測定した。すなわち、図2に示す如く、光制御膜の試験片6への入射光の角度θを0〜180°の間で変化させて、それぞれの角度毎に上記の曇価を測定する。ここで、角度θは、試験片6の面と平行な方向を0°とし、試験片6の法線方向を90°とする値であり、試験片6の回転は、曇価の角度依存性が最大となる方向に行う。図中にあるアとイは、左の図(試験片6に垂直方向から光を入射する場合:θ=90°)と右の図(試験片6に斜め方向から光を入射する場合)とで、試験片6の対応する部分がわかるように付した符号である。
【0035】
(実施例1)
平均分子量約3,000 のポリプロピレングリコール及び、トルエンジイソシアネートヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートとの反応によって得たポリエーテルウレタンアクリレート40重量部(屈折率1.460、オリゴマー)に対して、p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A2)30重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(II)30重量部(屈折率1.526、化合物B)及び、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン(重合開始剤)を1.5重量部を混合した樹脂組成物を、ガラス板上に220μmの厚さで塗布した。得られた膜状樹脂組成物の上方40cmの位置に、80W/cmの棒状高圧水銀ランプを、塗膜全面に光が垂直
にあたるようにスリットをつけた遮光板を介して、1.0m/分の速度で塗膜付きガラス板を横方向へ移動させつつ光照射し(図1参照)、光制御膜を得た。その曇価の入射光角度依存性を図2のようにして測定した。得られた角度依存の曇価曲線(図3)から最大曇価および、透明度の指標として入射角度60°の曇価について結果を表1に示した。
【0036】

【0037】
(実施例2)
p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A2)30重量部の代わりにトリブロモフェニルアクリレート(VI)を30重量部、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(VII、化合物A1)を2重量部加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。その曇価の入射角度依存性を図2のようにして測定した。得られた角度依存の曇価曲線(図4)から最大曇価および、透明度の指標として入射角度120°の曇価について結果を表1に示した。

【0038】
(実施例3)
2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(VII、化合物A1)2重量部の代わりに2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート(VIII、化合物A1)2重量部を加えた以外は、実施例2と同様に操作して、光制御膜を得た。結果を表1に示した。

【0039】
(実施例4)
p−クミルフェニルアクリレート(I)30重量部の代わりに2−フェニルフェニルアクリレート(IX、化合物A2)を30重量部加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。その曇価の入射角度依存性を図2のようにして測定した。得られた角度依存の曇価曲線(図5)から最大曇価および、透明度の指標として入射角度120°の曇価について結果を表1に示した。

【0040】
(実施例5)
p−クミルフェニルアクリレート(I)30重量部の代わりに4−ベンジルフェニルアクリレート(X、化合物A2)を30重量部加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。その曇価の入射角度依存性を図2のようにして測定した。得られた角度依存の曇価曲線(図5)から最大曇価および、透明度の指標として入射角度120°の曇価について結果を表1に示した。

【0041】
(実施例6)
p−クミルフェニルアクリレート(I)30重量部の代わりにジフェニルメチルアクリレート(XI、化合物A2)を30重量部加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。その曇価の入射角度依存性を図2のようにして測定した。得られた角度依存の曇価曲線(図5)から最大曇価および、透明度の指標として入射角度120°の曇価について結果を表1に示した。

【0042】
(比較例1)
p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A1)30重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(II、化合物B)30重量部の代わりに2−ヒドロキシ−3-フェノキシアクリレート(II、化合物B)を60重量部(屈折率1.526)を加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。結果を表1に示した。
【0043】
(比較例2)
p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A1)30重量部の代わりに2,4,6−トリブロモフェノキシエチルアクリレート(III、化合物B)を30重量部(屈折率1.567)加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。結果を表1に示
した。

【0044】
(比較例3)
p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A1)30重量部の代わりにビスフェノールAエポキシ変性ジアクリレート(IV(n=1を主成分とする混合物)、化合物A’:複数の芳香環と複数の炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物)を30重量部(屈折率1.545)加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。結果を表1に示した。

【0045】
(比較例4)
p−クミルフェニルアクリレート(I、化合物A1)30重量部の代わりにビスフェノールジアクリレート(V、化合物A’)を30重量部加えた以外は、実施例1と同様に操作して、光制御膜を得た。結果を表1に示した。

【0046】
【表1】

【0047】
実施例1の光制御膜は80%以上の高い曇価と透明度5%以下を示した。一方、化合物Aに代えて、1つの芳香環と1つの炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物Bを用いると(比較例1及び2)不透明度が低下した。また、複数の芳香環と複数の炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物A’を用いると、不透明度が低下したか(比較例3)、透明度が高いため、コントラストの優れた光制御膜は得られなかった(比較例4)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の光制御膜をガラス板や他のプラスチックシート等の透明基材に被覆あるいは貼合しても使用することができる。そして、得られた透明基材と光制御膜との積層体は、例えば、建材用窓、車輌用窓、鏡、温室用外壁材、フラットパネルディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイなどの光学フィルムに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】i:紫外線硬化装置の側面図 ii:紫外線硬化装置の斜視図
【図2】曇価の角度依存性の測定方法の概略図
【図3】実施例1、比較例1および2の曇価曲線
【図4】実施例2および3の曇価曲線
【図5】実施例4〜6の曇価曲線
【符号の説明】
【0050】
1……膜状樹脂組成物とガラス基材との積層体
2……コンベア
3……遮光板
4……遮光板に設けられたスリット
5……棒状の光源ランプ(高圧水銀ランプ)
6……曇価を測定する試験片(光制御膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物を複数種含む膜状組成物に特定方向から紫外線を照射して、該組成物を硬化させて得られ、特定角度範囲の入射光のみを選択的に散乱する光制御膜において、該組成物に含まれる少なくとも1種の化合物が、複数の芳香環と1つの重合性炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物であり、複数の芳香環と1つの重合性炭素−炭素二重結合とを分子内に有する化合物の少なくとも1種の化合物が、芳香族性水酸基を含有する化合物であり、膜状組成物100重量部に対する該化合物の含有量が、0.1〜30重量部であることを特徴とする光制御膜。
【請求項2】
芳香族性水酸基を含有する化合物が、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル メタクリレート、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルベンジル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル アクリレート、2,4−ジ−t−ブチル−6−〔1−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エチル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニル メタクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピル〕−4−メチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−エチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−エチルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−プロピルフェニル)エチル〕−4−プロピルフェニル アクリレート、2−t−ブチル−6−〔1−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)エチル〕−4−イソプロピルフェニル アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光制御膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−186494(P2011−186494A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118873(P2011−118873)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2005−377033(P2005−377033)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】