説明

光反射透過材料、光反射透過装置および光反射透過窓

【課題】光透過状態のときに可視光線波長域において高い透過率を示す光反射透過材料、光反射透過装置、光反射透過窓を提供する。
【解決手段】水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となる光反射透過材料であって、水素化された光透過状態で価電子帯および伝導帯を有し、前記価電子帯と前記伝導帯とのバンドギャップが、所定の可視光線波長領域に属する可視光線の光子エネルギよりも大きい物質からなる。この物質は、MgとAlとからなる合金、または、MgとCuとからなる合金である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となり、光透過状態と光反射状態との間で切り換え可能に使用される光反射透過材料に関する。また、本発明は、この光反射透過材料を用いた光反射透過装置と光反射透過窓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、光反射透過材料として、Mgを含む合金材料があり、例えばMgとNiとからなる合金(以下、MgNi合金という)が知られている(例えば、特許文献1)。MgNi合金は、金属光沢を示しているが、水素化されるとMgとNiとHとからなる化合物(以下、MgNiH化合物という)となり光を通す光透過性を示すようになる。水素化は、ガスクロミック方式とエレクトロクロミック方式とがある。ガスクロミック方式の水素化は、MgNi合金に水素ガスを吹き付けることでも行われる。エレクトロクロミック方式の水素化は、プロトン(水素の原子核)を含有するプロトン含有膜を介してMgNi合金膜に電圧を印加することで行われる。なお、光反射透過材料として利用できるMgNi以外の光反射透過材料には、MgPd合金(例えば、特許文献2)等がある。
【0003】
上述の光反射透過材料は、例えば、建物や乗り物の窓ガラスなどに利用でき、水素化と脱水素化により、窓ガラスから入射する太陽光を取り入れる光透過状態と、窓ガラスから入射する太陽光を反射して遮断する光反射状態との間で切り換えることができる。
【特許文献1】特開2003−335553 「マグネシウム・ニッケル合金薄膜を用いた調光ミラーガラス」
【特許文献2】特開2007−71547 「マグネシウム・パラジウム合金薄膜を用いた水素センサ」
【非特許文献1】K.Yoshimura et al, Appl.Phys.lett 81 4709(2002)
【非特許文献2】T.J.Richardson Appl.Phys.Lett 78 3047(2001)
【非特許文献3】Y.Song Phys.Rev B69 094205(2004) (特に、FIG.5(a), FIG.5(b),FIG.6(b))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来におけるMgを含む合金材料は、水素化されて水素化合物となった光透過状態において、その可視光線波長領域における光透過率は、約45%(非特許文献1の場合)、あるいは、約15%(非特許文献2の場合)であるとされている。
そのため、可視光線波長域において、より高い光透過率を示す光反射透過材料が望まれる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、光透過状態のときに可視光線波長域においてより高い光透過率を示す光反射透過材料、光反射透過装置、光反射透過窓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によると、水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となる光反射透過材料であって、
水素化された光透過状態で価電子帯および伝導帯を有し、前記価電子帯と前記伝導帯とのバンドギャップが、所定の可視光線波長領域に属する可視光線の光子エネルギよりも大きい物質からなる、ことを特徴とする光反射透過材料が提供される。
【0007】
上記構成では、光反射透過材料は、水素化された光透過状態で価電子帯および伝導帯を有し、前記価電子帯と前記伝導帯とのバンドギャップが、所定の可視光線波長領域に属する可視光線の光子エネルギよりも大きい物質からなるので、所定の可視光線波長領域に属する可視光線は、電子を価電子帯からバンドギャップを超えて伝導帯に励起できず、即ち、光反射透過材料に吸収されることなく、光反射透過材料を透過する。従って、所定の可視光線波長領域に属する可視光線は透過光になり、光透過率に寄与する。よって、バンドギャップが大きい物質を用いることで高い可視光線透過率を実現できる。
【0008】
好ましくは、前記物質がMgとAlとからなる合金(以下、MgAl合金という)である。この場合、MgAl合金は、水素化された状態ではバンドギャップが3.1eVであり、3.1eVのエネルギを持つ光子の波長は約400nmであるので、水素化されたMgAl合金は、約400nm以下の波長の光を吸収しやすく約400nmより大きい波長の光を透過させる。従って、可視光線の透過率を大幅に向上させることができる。即ち、後述するように、バンドギャップが1.9eVであるMgNiH化合物と比較して、MgAlH化合物では可視光線の透過率が1.22倍も向上する。なお、水素化されたMgAl合金は、MgとAlとHとからなる化合物であり、以下、MgAlH化合物という。
【0009】
また、前記物質がMgとCuとからなる合金(以下、MgCu合金という)であってもよい。この場合、MgCu合金は、水素化された状態ではバンドギャップが2.2eVであり、2.2eVのエネルギを持つ光子の波長は約563nmであるので、水素化されたMgCu合金は、約563nm以下の波長の光を吸収しやすく約563nmより大きい波長の光を透過させる。従って、可視光線の透過率を向上させることができる。即ち、後述するように、バンドギャップが1.9eVであるMgNiH化合物と比較して、MgCuH化合物では可視光線の透過率が1.05倍向上する。なお、水素化されたMgCu合金は、MgとCuとHとからなる化合物であり、以下、MgCuH化合物という。
【0010】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、
透明材料板と、
該透明材料板に支持されるように形成され、請求項1〜3のいずれかに記載の光反射透過材料からなる光反射透過材料膜と、
該光反射透過材料膜に対し水素を含む水素化用ガスを供給することで、前記光反射透過材料膜を水素化して光透過状態にするガス供給装置と、を備える、ことを特徴とする光反射透過装置が提供される。
【0011】
このように、前記ガス供給装置により水素化用ガスを光反射透過材料膜に供給することで、該光反射透過材料膜を光透過状態にでき、その後、光反射透過材料膜を空気にさらすか、前記ガス供給装置により脱水素化ガスを光反射透過材料膜に供給することで、光反射透過材料膜を光反射状態に戻せる。これにより、光反射透過材料膜を光透過状態と光反射状態との間で切り換えることができる。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、
透明材料板と、
該透明材料板に支持されるように形成され、請求項1〜3のいずれかに記載の光反射透過材料からなる光反射透過材料膜と、
該光反射透過材料膜上に形成され、プロトンを含有するプロトン含有膜と、
前記光反射透過材料膜を負極側とし前記プロトン含有膜を正極側として、前記プロトン含有膜を介して前記光反射透過材料膜に電圧を印加することで、前記光反射透過材料膜を水素化して光透過状態にし、前記光反射透過材料膜を正極側とし前記プロトン含有膜を負極側として、前記プロトン含有膜を介して前記光反射透過材料膜に電圧を印加することで、前記光反射透過材料膜を脱水素化して光反射状態にする電圧印加装置と、を備える、ことを特徴とする光反射透過装置が提供される。
【0013】
このように、電圧印加装置によりプロトン含有膜を介して前記光反射透過材料膜に電圧を印加し、電圧印加方向を切り換えることで、該光反射透過材料膜を光透過状態と光反射状態との間で切り換えることができる。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明によると、上述の光反射透過装置を建物または乗り物の窓として取り付けた光反射透過窓が提供される。
【0015】
これにより、光反射透過材料膜を光透過状態と光反射状態との間で切り換えられる光反射透過窓を実現でき、光透過状態では上述のように高い可視光線透過率を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によると、光透過状態にある光反射透過材料の可視光線透過率を向上できる。光反射透過材料がMgAl合金である場合には、可視光線透過率を大幅に向上できる。光反射透過材料がMgCu合金である場合にも、可視光線透過率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
本発明の実施形態による光反射透過材料は、水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となる。
従来との比較のために述べると、従来において光反射透過材料として使用されていたMgNi合金の場合、MgNi合金が水素化されたMgNiH化合物の価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップは、1.9eVである(例えば、非特許文献3)。1.9eVを光子波長に変換すると約650nmである。従って、MgNiH化合物に入射する光のうち約650nm以下の波長の光は、価電子帯の電子を、バンドギャップを超えて伝導体に励起できるため、MgNiH化合物を透過しにくい。
【0019】
本発明の実施形態によると、水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となる物質であって、しかも、水素化されたときに、バンドギャップがMgNiH化合物よりも大きくなる物質を光反射透過材料として利用した。
【0020】
本実施形態によると、光反射透過材料としてMgAl合金を使用できる。MgAl合金は、水素化された状態では(即ち、MgAlH化合物の状態では)、バンドギャップが3.1eVであり、3.1eVを光子波長に変換すると約400nmであるので、約400nm以下の波長の光を吸収しやすく約400nmより大きい波長の光を透過させる。従って、MgAl合金を光反射透過材料として用いることで、MgNi合金の場合と比較して可視光線の透過率を大幅に向上させることができる。
【0021】
代わりに、光反射透過材料としてMgCu合金を使用できる。MgCu合金は、水素化された状態では(即ち、MgCuH化合物の状態では)、バンドギャップが2.2eVであり、2.2eVを光子波長に変換すると約563nmであるので、約563nm以下の波長の光を吸収しやすく約563nmより大きい波長の光を透過させる。従って、MgCu合金を光反射透過材料として用いることで、MgNi合金の場合と比較して可視光線の透過率を向上させることができる。
【0022】
光反射透過材料としてMgAl合金またはMgCu合金を使用した場合に、太陽光の光量(エネルギー)に対する水素化された光反射透過材料の光透過率を次のように計算した。
【0023】
この光透過率計算の基準として、MgNiH化合物の光透過率を用いた。
【0024】
図1は、非特許文献1に記載されたMgNiH化合物の光透過率データを転記したものである。即ち、図1は、光波長の複数の値に関して、MgNiH化合物の光透過率を示している。図1において、正方形マークは、ガラス板上にPd膜を形成したものの光透過率のデータを示し、三角形マークは、ガラス板上にPd膜とMgNi合金膜(即ち、水素化されたMgNiH化合物)とを形成したものの光透過率のデータを示している。
【0025】
図2は、図1のMgNiH化合物の光透過率データを、単位を変換して示している。
図2の縦軸は、図1の縦軸の単位「光透過率」を光吸収係数αに換算し、さらに、この各光吸収係数αを次の間接バンドギャップの式(1)に適用して得た値を示している。なお、式(1)において、hはプランク定数であり、νは振動数である。

(h・ν・α)0.5 ・・・(1)

図2の横軸は、図1の横軸の単位「光の波長」を光子エネルギhνに換算した値(eV)を示している。
【0026】
図2に示すように、菱形マークに関して斜めの直線を引いてMgNiH化合物のバンドギャップを推測すると1.85eVとなる。なお、この1.85eVは、非特許文献3に記載されてバンドギャップ1.9eVに近い値であり、非特許文献3のバンドギャップ計算値は妥当な値である。
【0027】
この図2のデータを基に、MgAlH化合物とMgCuH化合物の光透過率を推測する。
MgAlH化合物のバンドギャップは3.1eVであるので(例えば、非特許文献3)、MgNiH化合物のデータを基に、MgAlH化合物のデータを推測すると、図2の三角形マークのようになる。
また、MgCuH化合物のバンドギャップは2.2eVであるので(例えば、非特許文献3)、MgNiH化合物のデータを基に、MgCuH化合物のデータを推測すると、図2の正方形マークのようになる。
【0028】
このように得た図2のデータを、図1の縦軸および横軸の単位に換算すると、図3のデータとなる。
即ち、図3において、縦軸は光透過率を示し、横軸は光波長を示している。また、図3において、三角形マークはMgNiH化合物のデータを示し、菱形マークはMgCuH化合物のデータを示し、正方形マークはMgAlH化合物のデータを示している。厳密には、三角形マークは、ガラス板上にPd膜とMgNiH化合物膜とを形成したものを示し、菱形マークは、ガラス板上にPd膜とMgCuH化合物膜とを形成したものを示し、正方形マークは、ガラス板上にPd膜とMgAlH化合物膜とを形成したものを示している。
【0029】
図3では、さらに円のマークで示す太陽光スペクトルのデータを重ねて表している。
図3において、各波長に関して、MgNiH化合物を示す菱形マークによる曲線で表される透過値に、太陽光スペクトルによる強度を乗算し、この乗算値を可視光線領域(250nm〜750nm)に渡って波長で積分した。この積分値は、可視光線領域(250nm〜750nm)における太陽光の総透過光量である。
同様に、MgAlH化合物とMgCuH化合物についても、上記積分値、即ち、総透過光量を求めた。
その結果、MgNiH化合物の太陽光の総透過光量を1とすると、MgAlH化合物の太陽光の総透過光量は1.22(22%増)となり、MgCuH化合物の太陽光の総透過光量は1.05(5%増)となった。
従って、MgAl合金を光反射透過材料として用いることで、水素化した状態において、太陽光に対する光透過率を、MgNiH化合物と比較して大幅に(1.22倍)向上させることができる。また、MgCu合金を光反射透過材料として用いることで、水素化した状態において、太陽光に対する光透過率を、MgNiH化合物と比較して(1.05倍)向上させることができる。
【0030】
次に、上述した光反射透過材料を用いた光反射透過装置について説明する。
【0031】
光反射透過材料の水素化をガスクロミック方式で行う場合について説明する。
【0032】
図4に示すように、光反射透過装置10は、光反射透過材料膜3およびガス供給装置5を備える。光反射透過材料膜3は、透明材料板9に支持されるように形成され、上述したMgAl合金またはMgCu合金からなる膜である。ガス供給装置5は、光反射透過材料膜3に対し水素を含む水素化用ガスを供給することで、光反射透過材料膜3を水素化して光透過状態にし、該光反射透過材料膜3に対し脱水素化用ガス(例えば、酸素ガス)を供給することで、光反射透過材料膜3を脱水素化して光反射状態にする。なお、光反射透過材料膜3に脱水素化ガスを供給する代わりに、光反射透過材料膜3を空気に直接または後述のPd膜7を介してさらすことで、光反射透過材料膜3を光反射状態に戻してもよい。
また、光反射透過装置10は、Pd膜7を備えていてよい。透明材料板9上に光反射透過材料膜3を形成し、この光反射透過材料膜3上にPdからなるPd膜7を形成する。光反射透過材料膜3の厚みは、1nm〜100nmであってよく、Pd膜7の厚みは、1nm〜10nmであってよい。Pd膜7は、水素化ガス中の水素分子を水素原子に分離する機能を有する。従って、ガス供給装置5からの水素分子はPd膜7中で水素原子に分解されて光反射透過材料膜3内に導入され、これにより、光反射透過材料膜3を水素化できる。なお、透明材料板9は、透明なガラス板、プラスチック板または他の適切なものであってよい。
【0033】
この光反射透過装置10は、例えば建物または乗り物の窓に適用できる。この場合、特許文献1に記載された構成を採用することができ、図5に示す構成としてよい。図5において、2枚の透明材料板9を間隔をおいて対向させて配置し、これら透明材料板9の周縁部をシール部材11でシールする。2枚の透明材料板9の一方には、上述のように光反射透過材料膜3とPd膜7とが順に積層されて形成されている。これにより、2枚の透明材料板9の間に密閉空間13を形成する。
上記空間13に、ガス供給装置5が上述の水素化ガスまたは脱水素化ガスを供給するようになっている。排気口15を外部に開放して、ガス供給装置5から空間13に水素化ガスを供給し、光反射透過材料膜3が光透過状態にし、空間13内のガスが水素化ガスに置き換えられたら、排気口15を蓋17で閉じる。
光反射透過材料膜3を光反射状態に切り換える場合には、蓋17を開けた状態でガス供給装置5が脱水素化用ガス(例えば、酸素ガス)を空間13に供給する。これにより、光反射透過材料膜3を脱水素化し光反射状態に切り換えることができる。
【0034】
光反射透過材料の水素化をエレクトロクロミック方式で行う場合について説明する。
【0035】
図6に示すように、光反射透過装置20は、光反射透過材料膜3、プロトン含有膜21および電圧印加装置23を備える。光反射透過材料3は、透明材料板25、26または27に支持されるように形成され、上述したMgAl合金またはMgCu合金からなる膜である。プロトン含有膜21はプロトンを含有する。電圧印加装置23は、光反射透過材料膜3を負極側としプロトン含有膜21を正極側として、プロトン含有膜21を介して光反射透過材料膜3に電圧を印加することで、光反射透過材料膜3を水素化して光透過状態にし、光反射透過材料膜3を正極側としプロトン含有膜21を負極側として、プロトン含有膜21を介して光反射透過材料膜3に電圧を印加することで、光反射透過材料膜3を脱水素化して光反射状態にする。なお、透明材料板25,26は、図6の例では、それぞれ膜厚10nm〜2000nm程度の透明導電膜(例えば、ITO)である。また、透明材料板27は、透明なガラス板、プラスチック板または他の適切なものであってよい。
【0036】
プロトン含有膜21は、図6に示すように、プロトン蓄積層21a、固体電解質層21bおよび触媒層21cから構成されている。
プロトン蓄積層21aは、透明導電膜25上に形成され、光反射透過材料膜3の水素化に使用される水素原子をプロトンとして貯蔵する。プロトン蓄積層21aは、例えば、酸化タングステン薄膜や酸化ニオブ薄膜等の遷移金属化合物薄膜であってよい。また、プロトン蓄積層21aの厚みは500nm程度であってよい。
固体電解質層21bは、プロトン蓄積層21a上に形成され、透明であり内部でプロトンが容易に移動できる特性を持つ層である。固体電解質層21bは、例えば、酸化タンタル薄膜、酸化ジルコニウム薄膜、または、上記特性を持つ他の材料であってよい。また、固体電解質層21bの厚みは500nm程度であってよい。
触媒層21cは、透明であり、固体電解質層21b上に形成され、固体電解質層21bおよび光反射透過材料膜3に対するプロトンの出入りを促進させる特性を持つ層である。触媒層21cは、例えば、パラジウム、白金、または、上記特性を持つ他の材料であってよい。また、触媒層21cの厚みは0.5nm〜10nm程度であってよい。触媒層21cは、光反射透過材料膜3が固体電解質層21bに直接接触しないようにする役割も持っている。なお、触媒層21cの代わりに、プロトンが透過できる適切な透明材料からなる保護膜を用いてもよい。
触媒層21cの上に膜厚1nm〜100nm程度の光反射透過膜3が形成され、この光反射透過膜3の上に膜厚10nm〜2000nm程度の透明導電膜26が形成される。また、図6の例では、電圧印加装置23は、透明導電膜25、26をそれぞれ正極または負極として光反射透過膜3およびプロトン含有膜21に電圧を印加する。
【0037】
電圧印加装置23が、光反射透過材料膜3を負極側としプロトン含有膜21を正極側として数ボルトの電圧を印加すると、正電荷を持つプロトンがプロトン蓄積層21aから固体電解質層21bを通って光反射透過材料膜3へ移動する。その結果、プロトン蓄積層21aが透明になり、光反射透過材料膜3も水素化されて透明(光透過状態)になる。
逆に、電圧印加装置23が、光反射透過膜3を正極側としプロトン含有膜21を負極側として数ボルトの電圧を印加すると、プロトンが光反射透過材料膜3から固体電解質層21bを通ってプロトン蓄積層21aへ移動する。その結果、プロトン蓄積層21aが着色し、光反射透過材料膜3も脱水素化されて光反射状態になる。
また、図6の光反射透過装置20を建物または乗り物の窓に適用することができる。
【0038】
上述した本発明の実施形態では、光反射透過材料がMgAl合金である場合、MgAl合金は、水素化された状態ではバンドギャップが3.1eVであり、3.1eVのエネルギを持つ光子の波長は約400nmであるので、水素化されたMgAl合金は、約400nm以下の波長の光を吸収しやすく約400nmより大きい波長の光を透過させる。従って、可視光線の透過率を大幅に向上させることができる。即ち、上述したように、バンドギャップが1.9eVであるMgNiH化合物と比較して、MgAlH化合物では可視光線の透過率が1.22倍も向上する。
【0039】
また、光反射透過材料がMgCu合金である場合、MgCu合金は、水素化された状態ではバンドギャップが2.2eVであり、2.2eVのエネルギを持つ光子の波長は約563nmであるので、水素化されたMgCu合金は、約563nm以下の波長の光を吸収しやすく約563nmより大きい波長の光を透過させる。従って、可視光線の透過率を向上させることができる。即ち、上述したように、バンドギャップが1.9eVであるMgNiH化合物と比較して、MgCuH化合物では可視光線の透過率が1.05倍向上する。
【0040】
また、MgAl合金またはMgCu合金を光反射透過材料として用いて、上述の光反射透過装置10、20または光反射透過窓を作製することで、光透過状態と光反射状態との間で切り換える場合に、光透過状態で高い光透過性を実現できる。
【0041】
なお、水素化用ガスの供給量を調節し、あるいは、プロトン含有膜21を介して光反射透過材料3に印加する電圧値を調節することで、光透過状態での光透過率を調節できるようにしてよい。
【0042】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、上述の光反射透過装置10、20は、建物や乗り物の窓以外にも、例えば表示装置のスクリーンに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】非特許文献1に記載されたMgNiH化合物の光透過率データを示している。
【図2】図1のMgNiH化合物の光透過率データを、単位を変換して、MgAlH化合物とMgCuH化合物の光透過率データとともに示している。
【図3】MgNiH化合物、MgAlH化合物、MgCuH化合物の光透過率データを、太陽光スペクトルのデータと重ね合わせて示している。
【図4】ガスクロミック方式の光反射透過装置の構成図を示している。
【図5】ガスクロミック方式の光反射透過装置を窓に適用した場合の構成を示している。
【図6】エレクトロクロミック方式の光反射透過装置の構成図を示している。
【符号の説明】
【0044】
3 光反射透過材料(光反射透過材料膜)、5 ガス供給装置、7 Pd膜、
9 透明材料板、10 光反射透過装置、11 シール部材、
13 空間、15 排気口、17 蓋、20 光反射透過装置、
21 プロトン含有膜、21a プロトン蓄積層,21b 固体電解質層
21c 触媒層、23 電圧印加装置、25、26 透明導電膜(透明材料板)
27 ガラス等の板(透明材料板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化されることで光透過状態となり、脱水素化されることで光反射状態となる光反射透過材料であって、
水素化された光透過状態で価電子帯および伝導帯を有し、前記価電子帯と前記伝導帯とのバンドギャップが、所定の可視光線波長領域に属する可視光線の光子エネルギよりも大きい物質からなる、ことを特徴とする光反射透過材料。
【請求項2】
前記物質がMgとAlとからなる合金である、ことを特徴とする請求項1に光反射透過材料。
【請求項3】
前記物質がMgとCuとからなる合金である、ことを特徴とする請求項1に光反射透過材料。
【請求項4】
透明材料板と、
該透明材料板に支持されるように形成され、請求項1〜3のいずれかに記載の光反射透過材料からなる光反射透過材料膜と、
該光反射透過材料膜に対し水素を含む水素化用ガスを供給することで、前記光反射透過材料膜を水素化して光透過状態にするガス供給装置と、を備える、ことを特徴とする光反射透過装置。
【請求項5】
透明材料板と、
該透明材料板に支持されるように形成され、請求項1〜3のいずれかに記載の光反射透過材料からなる光反射透過材料膜と、
該光反射透過材料膜上に形成され、プロトンを含有するプロトン含有膜と、
前記光反射透過材料膜を負極側とし前記プロトン含有膜を正極側として、前記プロトン含有膜を介して前記光反射透過材料膜に電圧を印加することで、前記光反射透過材料膜を水素化して光透過状態にし、前記光反射透過材料膜を正極側とし前記プロトン含有膜を負極側として、前記プロトン含有膜を介して前記光反射透過材料膜に電圧を印加することで、前記光反射透過材料膜を脱水素化して光反射状態にする電圧印加装置と、を備える、ことを特徴とする光反射透過装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光反射透過装置を建物または乗り物の窓として取り付けた光反射透過窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−8705(P2009−8705A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167112(P2007−167112)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】