説明

光受信器および光通信システム

【課題】光受信器に複雑な光回路を設けることなく広帯域の光信号の伝送を可能にする。
【解決手段】光受信器は、第1および第2の生成部、周波数補償部、結合部を備える。第1の生成部は、参照信号が挿入された光信号から第1の局発光を利用して参照信号を含む第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成する。第2の生成部は、光信号から第2の局発光を利用して参照信号を含む第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成する。周波数補償部は、参照信号の周波数に基づいて第1の部分帯域の信号成分の周波数および第2の部分帯域の信号成分の周波数を調整する。結合部は、周波数補償部により周波数が調整された第1および第2の部分帯域を結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を伝送する方法、光通信システム、および光受信器に係わる。
【背景技術】
【0002】
次世代の光通信においては、テラビットデータの伝送が要求されている。そして、光通信の高速化に伴い、デジタル信号処理を利用して光信号を受信する光受信器の研究および開発が行われている。
【0003】
図1は、デジタル信号処理を利用して光信号を受信する光受信器の一例を示す。図1において、光伝送路を介して伝送される光信号は、光ハイブリッド回路に入力される。光ハイブリッド回路は、光信号に局発光を混合することにより、光信号のI成分およびQ成分を得る。受光回路(PD)は、光ハイブリッド回路により得られるI成分光信号およびQ成分光信号を、それぞれ電気信号に変換する。A/D変換回路は、受光回路から出力される信号をデジタル信号に変換する。そして、デジタル信号処理部は、入力デジタル信号から送信データを再生する。
【0004】
デジタル信号処理部は、信号光の周波数と局発光の周波数との差分(すなわち、オフセット周波数)を補償する機能、キャリア位相を補償する機能を提供することができる。また、デジタル信号処理部は、光伝送路の特性(例えば、波長分散)を補償する機能を提供することもできる。
【0005】
なお、関連する技術として、下記の混合部、光電変換部、受信データ処理部、変調部を備えるコヒーレント光受信器が提案されている。混合部は、局部発振光および入力される受信信号光を混合する。光電変換部は、混合部にて混合された混合信号の光について光電変換する。受信データ処理部は、光電変換部で電気信号に変換された混合信号について、第1クロックに基づくデジタル信号処理を通じて受信信号光に含まれる受信データを取り出すための処理を行なう。変調部は、混合部に入力される局部発振光又は受信信号光について、受信データ処理部でのデジタル信号処理に用いる第1クロックと位相同期したクロックを用いた変調光とする。(例えば、特許文献1)
また、特許文献2〜4は、他の関連する技術を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−49613号公報
【特許文献2】特開2010−41210号公報
【特許文献3】特開2009−21887号公報
【特許文献4】特開平9−252283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超高速データの伝送においては、光信号の信号帯域は、波長当たり、例えば、数十〜数百GHz以上にまで広がる。しかし、図1に示す光受信器において、アナログ受信回路(受光回路およびA/D変換回路)の帯域は、例えば、数十GHz程度であり、上述のような広帯域の光信号を受信することは困難である。
【0008】
この問題を解決するためには、例えば、光回路を利用して入力光信号の信号帯域を複数の部分帯域に分割し、複数のアナログ受信回路がそれぞれ対応する部分帯域内の信号を受信する構成が考えられる。ただし、この構成では、複数の部分帯域を得るための複数の局発光が互いに同期している必要がある。この場合、例えば、複数の局発光の位相が互いに同期していることが好ましい。しかしながら、互いに同期する複数の局発光を生成する光回路は、構成が複雑であり、回路規模が大きくなるので、光受信器内に設けることは困難である。
【0009】
本発明の課題は、光受信器に複雑な光回路を設けることなく広帯域の光信号の伝送を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様の光受信器は、参照信号が挿入された光信号から第1の局発光を利用して前記参照信号を含む第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成する第1の生成部と、前記光信号から前記第1の局発光と異なる周波数を有する第2の局発光を利用して前記参照信号を含む第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成する第2の生成部と、前記参照信号の周波数に基づいて前記第1の部分帯域の信号成分の周波数および前記第2の部分帯域の信号成分の周波数を調整する周波数補償部と、前記周波数補償部により周波数が調整された前記第1および第2の部分帯域を結合する結合部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
上述の態様によれば、光受信器に複雑な光回路を設けることなく広帯域の光信号の伝送が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】デジタル信号処理を利用して光信号を受信する光受信器の一例を示す図である。
【図2】実施形態の光通信システムを示す図である。
【図3】光送信器の構成を示す図である。
【図4】参照信号の挿入について説明する図である。
【図5】光送信器から送信される光信号のスペクトルを示す図である。
【図6】光受信器の構成を示す図である。
【図7】参照信号および局発光の配置、並びに部分帯域の生成について説明する図である。
【図8】部分帯域の生成および結合について説明する図である。
【図9】デジタル信号処理部の実施例を示す図である。
【図10】周波数オフセット推定部の実施例を示す図である。
【図11】周波数オフセット補償部の実施例を示す図である。
【図12】キャリア位相推定部の実施例を示す図である。
【図13】信号帯域を3以上の部分帯域に分割して処理する光受信器の構成を示す図である。
【図14】3以上の部分帯域を結合する手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2は、実施形態の光通信システムを示す。実施形態の光通信システム1は、光送信器2および光受信器3を備える。光送信器2は、データを伝送する光信号を生成する。光送信器2により生成される光信号は、光伝送路4を介して伝送される。光伝送路4上には、1または複数の中継局(または、光アンプ)が設けられていてもよい。光受信器3は、光伝送路4を介して伝送される光信号を受信する。光受信器3は、受信光信号からデータを再生するデジタル信号処理部5を備える。
【0014】
デジタル信号処理部5は、特に限定されるものではないが、例えば、デジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)を利用して実現される。また、デジタル信号処理部5は、他の方法で実現してもよい。たとえば、デジタル信号処理部5は、FPGA(Field Programmable Gate Array)または専用LSIを利用して実現してもよい。或いは、デジタル信号処理部5は、汎用のプロセッサを利用して実現してもよい。
【0015】
光通信システム1は、WDM信号を伝送してもよいし、1つの波長のみを使用して光信号を伝送してもよい。また、光通信システム1は、偏波多重光信号を伝送してもよいし、単一偏波光信号を伝送してもよい。さらに、光通信システム1は、波長ごとに、周波数の異なる複数のキャリア(或いは、サブキャリア)を利用してデータを伝送することができる。すなわち、光通信システム1は、光マルチキャリア信号を伝送することができる。
【0016】
図3は、光送信器2の構成を示す。ここでは、光送信器2は、偏波多重光信号を生成するものとする。また、光送信器2がWDM信号を送信する場合には、光送信器2は、各波長に対してそれぞれ図3に示す構成を備える。
【0017】
光送信器2は、光源11、IQ変調器12x、12y、偏波カプラ13を備える。光源11は、例えばレーザ光源であり、所定の周波数の連続(CW:Continuous Wave)光を生成する。光源11により生成される連続光は、例えば光スプリッタにより分岐され、IQ変調器12x、12yに入力される。
【0018】
IQ変調器12x、12yは、それぞれ、例えば、マッハツェンダ干渉計を含むLN変調器である。IQ変調器12xは、データ信号Xで入力光を変調することにより、データXを伝送する光信号Xを生成する。同様に、IQ変調器12yは、データ信号Yで入力光を変調することにより、データYを伝送する光信号Yを生成する。そして、偏波カプラ13は、IQ変調器12xにより生成される光信号XおよびIQ変調器12yにより生成される光信号Yを結合して偏波多重光信号を生成する。
【0019】
光送信器2は、光信号に参照信号を挿入するために、参照信号挿入部14x、14yを備える。参照信号挿入部14xは、予め決められたビットパターンの参照信号をデータXに挿入する。同様に、参照信号挿入部14yは、予め決められたビットパターンの参照信号をデータYに挿入する。すなわち、IQ変調器12x、12yに与えられるデータ信号X、Yには、それぞれ参照信号が挿入されている。ここで、データ信号X、Yに挿入される参照信号は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0020】
図4は、参照信号の挿入について説明する図である。ここでは、参照信号挿入部14xがデータXに参照信号を挿入するものとする。なお、データXは、データX1、データX2、...を含むものとする。
【0021】
参照信号挿入部14xは、特に限定されるものではないが、時間領域において、各データX1、データX2、...の先頭に参照信号を挿入する。図4に示す例では、データX1、データX2、...の先頭にそれぞれ「0101」が挿入されている。
【0022】
図5は、光送信器2から送信される光信号のスペクトルを示す。光送信器2は、この実施例では、周波数分割多重(FDM:Frequency Division Multiplexing)で光信号を送信する。光送信器2は、例えば、周波数の利用効率のよい直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)で光信号を送信してもよい。
【0023】
光送信器2は、図5に示すように、互いに周波数の異なる複数のデータキャリアを利用してデータを送信する。例えば、データXがデータX1、データX2、...を含むときは、光送信器2は、データキャリア1、2、...に対してそれぞれデータX1、データX2、...を割り当てるようにしてもよい。また、光送信器2は、参照信号に対してパイロットキャリアを割り当てる。このとき、光送信器2は、各データキャリアに割り当てられるデータ信号と比較して、パイロットキャリアに割り当てられる参照信号のパワーまたは振幅を大きくしてもよい。
【0024】
パイロットキャリアの配置は、光送信器2から送信される光信号の信号帯域、および光受信器3のアナログ受信回路の最大受信帯域に基づいて決定される。1つの実施例においては、アナログ受信回路の最大受信帯域が、光信号の信号帯域の幅Wよりも小さく、且つW/2よりも大きいものとする。この場合、パイロットキャリアは、光信号の信号帯域の中央(或いは、ほぼ中央)に配置されることが好ましい。なお、光受信器3のアナログ受信回路については、後で説明する。
【0025】
図5においては、光信号の信号帯域は、最も周波数の低いデータキャリアの周波数f1から最も周波数の高いデータキャリアの周波数f2まで広がっている。すなわち、光信号の信号帯域の幅Wは、f2−f1で表わされる。この場合、パイロットキャリアの周波数fpは、「(f1+f2)/2」またはその近傍であることが好ましい。
【0026】
このように、光送信器2は、データ信号に参照信号を挿入し、参照信号が挿入された光信号を送信する。このとき、参照信号は、光信号の信号帯域の中央(或いは、ほぼ中央)に配置されるパイロットキャリアを利用して伝送される。
【0027】
図6は、光受信器3の構成を示す。光受信器3は、光スプリッタ21、光源22a、22b、光ハイブリッド回路23a、23b、受光回路24a、24b、A/D変換回路25a、25b、デジタル信号処理部5を備える。そして、光受信器3は、光送信器2から送信される光信号を受信する。すなわち、光受信器3は、上述のようにして参照信号が挿入された光信号を受信する。
【0028】
光スプリッタ21は、入力光信号を分岐して、光ハイブリッド回路23a、23bに導く。光スプリッタ21は、入力光信号を互いに均等に分岐する。よって、光ハイブリッド回路23a、23bには、互いにほぼ同じパワーの光信号が入力される。各光ハイブリッド回路23a、23bに入力する光信号は、それぞれ参照信号を含んでいる。
【0029】
光源(LO:Local Oscillator)22a、22bは、それぞれ例えば、レーザ光源である。光源22aは、周波数faの連続光を生成する。そして、光源22aから出力される局発光26aは、光ハイブリッド回路23aに導かれる。また、光源22bは、周波数fbの連続光を生成する。そして、光源22bから出力される局発光26bは、光ハイブリッド回路23bに導かれる。
【0030】
局発光26aの周波数faは、図7に示すように、信号帯域の低域端周波数f1とパイロットキャリアの周波数fpとのほぼ中間値となるように決定される。すなわち、光源22aは、fa≒(f1+fp)/2となるように設計される。一方、局発光26bの周波数fbは、信号帯域の高域端周波数f2とパイロットキャリアの周波数fpとのほぼ中間値となるように決定される。すなわち、光源22bは、fb≒(f2+fp)/2となるように設計される。
【0031】
光ハイブリッド回路23aには、光信号および局発光26aが入力される。光ハイブリッド回路23aは、局発光26aの位相を90度だけシフトさせる移相器を備える。そして、光ハイブリッド回路23aは、光信号と局発光26aとを混合すると共に、光信号と90度シフト局発光26aとを混合する。これにより、周波数faを基準として周波数変換された光信号のI成分信号およびQ成分信号が得られる。同様に、光ハイブリッド回路23bは、周波数fbを基準として周波数変換された光信号のI成分信号およびQ成分信号を出力する。このように、光受信器3のフロントエンド回路は、コヒーレント受信器として動作する。
【0032】
なお、図6に示す例では、光信号は偏波多重光信号である。このため、光ハイブリッド回路23a、23bは、それぞれ4つの信号(X偏波I成分、X偏波Q成分、Y偏波I成分、Y偏波Q成分)をする。ただし、光信号は単一偏波光信号であってもよい。この場合は、光ハイブリッド回路23a、23bは、それぞれ2つの信号(I成分、Q成分)を出力する。以下の説明では、1つの偏波について記載する。
【0033】
受光回路24aは、光ハイブリッド回路23aにより得られる光信号のI成分信号およびQ成分信号をそれぞれ電気信号に変換する。受光回路24aは、例えば、フォトダイオードを含む。A/D変換回路25aは、受光回路24aから出力される電気信号をデジタル信号27aに変換する。すなわち、A/D変換回路25aは、周波数faを基準として周波数変換された光信号のI成分信号およびQ成分信号を表すデジタル信号27aを出力する。
【0034】
受光回路24bおよびA/D変換回路25bの動作は、受光回路24aおよびA/D変換回路25aと実質的に同じである。すなわち、受光回路24bは、光ハイブリッド回路23bにより得られる光信号のI成分信号およびQ成分信号をそれぞれ電気信号に変換する。そして、A/D変換回路25bは、周波数fbを基準として周波数変換された光信号のI成分信号およびQ成分信号を表すデジタル信号27bを出力する。
【0035】
なお、光ハイブリッド回路23a、受光回路24a、A/D変換回路25aは、「参照信号が挿入された光信号から第1の局発光を利用して第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成する第1の生成部」の一例である。また、光ハイブリッド回路23b、受光回路24b、A/D変換回路25bは、「参照信号が挿入された光信号から第2の局発光を利用して第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成する第2の生成部」の一例である。
【0036】
このように、受光回路24a、24bは、入力光信号をアナログ電気信号に変換する。また、A/D変換回路25a、25bは、アナログ電気信号をデジタル信号に変換する。すなわち、受光回路24a、24b、A/D変換回路25a、25bは、アナログデバイスである。よって、以下では、受光回路24aおよびA/D変換回路25aを含む回路をアナログ受信回路28aと呼び、受光回路24bおよびA/D変換回路25bを含む回路をアナログ受信回路28bと呼ぶことがある。
【0037】
多くのアナログデバイスは、光デバイスまたはデジタルデバイスと比較して、処理速度が遅い。すなわち、アナログ受信回路28a、28bは、光デバイスまたはデジタルデバイスと比較して、最大受信帯域が狭い。このため、光信号の帯域が非常に広い場合(例えば、100GHz以上)、アナログ受信回路28a、28bは、その光信号のすべての信号成分を受信することができない。
【0038】
この実施例では、図7に示すように、アナログ受信回路28a、28bの最大受信帯域は、光信号の信号帯域の幅Wよりも狭い。このため、周波数faを基準として周波数変換された信号成分がアナログ受信回路28aに入力されると、周波数fa1よりも高い周波数領域の信号成分は実質的に遮断される。すなわち、アナログ受信回路28aは、図7に示す部分帯域29a内の信号成分を出力する。同様に、周波数fbを基準として周波数変換された信号成分がアナログ受信回路28bに入力されると、周波数fb1よりも低い周波数領域の信号成分は実質的に遮断される。すなわち、アナログ受信回路28bは、図7に示す部分帯域29b内の信号成分を出力する。
【0039】
ここで、この実施例では、アナログ受信回路28a、28bの最大受信帯域は、それぞれ光信号の信号帯域の幅Wよりも小さく、且つ、W/2よりも大きいものとする。そうすると、図8(a)に示すように、部分帯域29aの信号成分は参照信号を含み、また、部分帯域29bの信号成分も参照信号を含む。すなわち、参照信号は、部分帯域29a、29bの双方に含まれる。
【0040】
光受信器3は、例えば、部分帯域29aから参照信号の周波数(すなわち、パイロットキャリアの周波数fp)の高域側を除去し、部分帯域29bから参照信号の周波数の低域側を除去する。図8(a)では、部分帯域29a、29bからそれぞれ斜線領域が除去される。そして、光受信器3は、上述の帯域除去処理後の部分帯域29a、29bを結合する。これにより、光送信器2により生成された光信号の全信号帯域の信号成分が再生される。すなわち、光受信器3は、この信号成分から送信データを再生することができる。
【0041】
しかしながら、光源22a、22bの発振周波数fa、fbは、それぞれ誤差を有している。ここで、光源22a、22bの発振周波数fa、fbの誤差は、例えば、それぞれ数GHz程度である。このため、光受信器3は、同じ周波数領域上で部分帯域29a、29bを処理できず、部分帯域29a、29bを結合することができない。例えば、部分帯域29a内の参照信号の周波数および部分帯域29b内の参照信号の周波数は、互いに同じはずである。ところが、光源22a、22bの発振周波数fa、fbが誤差を有していると、図8(b)に示すように、部分帯域29a内の参照信号の周波数および部分帯域29b内の参照信号の周波数は、互いに異なるように表わされる。図8(b)に示すLO間誤差は、部分帯域29a、29b間での参照信号の周波数差を表している。したがって、光源22a、22bの発振周波数fa、fbが誤差を有していると、光受信器3は、部分帯域29a、29bを結合することができず、受信光信号からデータを再生できない。
【0042】
また、実施形態の光受信器3においては、光源22a、22bは、互いに同期することなく、それぞれ独立して局発光26a、26bを出力する。すなわち、局発光26a、26bの位相は、互いに同期していない。このため、局発光26aを利用して得られる部分帯域29aおよび局発光26bを利用して得られる部分帯域29bを結合すると、光源22a、22bの発振周波数fa、fbの誤差がゼロであったとしても、各シンボルを正しく再生できないことがある。すなわち、局発光26a、26b間で位相同期が確立されていないと、ビット誤り率が劣化するおそれがある。
【0043】
このように、光受信器3は、各アナログ受信回路28a、28bの最大受信帯域よりも広い帯域の光信号を受信するために、光信号の信号帯域を複数に分割し、各部分帯域29a、29bについて信号成分を表すデジタル信号を生成する。しかし、局発光26a、26bは互いに同期していない。そこで、実施形態の光受信器3は、デジタル信号処理を使用して、周波数補償および位相補償を実行する。以下、周波数補償および位相補償を実行するデジタル信号処理部5について説明する。
【0044】
デジタル信号処理部5は、参照信号抽出部31、周波数補償部32、位相補償部33、余剰帯域フィルタ34、帯域結合部35を備える。デジタル信号処理部5には、A/D変換回路25a、25bにより生成されるデジタル信号27a、27bが入力される。デジタル信号27aは、参照信号が挿入された光信号から局発光26aを利用して生成される部分帯域29aの信号成分を表す。また、デジタル信号27bは、参照信号が挿入された光信号から局発光26bを利用して生成される部分帯域29bの信号成分を表す。
【0045】
参照信号抽出部31は、デジタル信号27a、27bからそれぞれ参照信号を抽出する。参照信号抽出部31は、例えばフーリエ変換(FFT: Fast Fourier Transform)により、デジタル信号27a、27bを周波数領域信号に変換する。そして、参照信号抽出部31は、周波数領域においてパイロットキャリアを抽出することで、参照信号を抽出する。なお、この実施例では、光送信器2は、図5に示すように、パイロットキャリアのパワーを他のキャリアよりも大きくすることができる。この場合、参照信号抽出部31は、周波数領域において、閾値レベルよりも大きいキャリアを検出することで、パイロットキャリアを抽出してもよい。
【0046】
周波数補償部32は、図8(b)に示すLO間誤差を補償するデジタル演算処理を実行する。具体的には、周波数補償部32は、デジタル信号27aから抽出された参照信号を利用して、デジタル信号27aにより表わされる信号成分の周波数オフセットΔfaを補償する。すなわち、周波数補償部32は、部分帯域29aの信号成分の周波数オフセットΔfaを補償する。周波数オフセットΔfaは、局発光26aの周波数faとパイロットキャリアの周波数fpとの差分に相当する。同様に、周波数補償部32は、デジタル信号27bから抽出された参照信号を利用して、デジタル信号27bにより表わされる信号成分の周波数オフセットΔfbを補償する。すなわち、周波数補償部32は、部分帯域29bの信号成分の周波数オフセットΔfbを補償する。周波数オフセットΔfbは、局発光26bの周波数fbとパイロットキャリアの周波数fpとの差分に相当する。
【0047】
このように、周波数補償部32は、参照信号を利用して部分帯域29aの周波数オフセットΔfaを補償すると共に、同じ参照信号を利用して部分帯域29bの周波数オフセットΔfbを補償する。したがって、部分帯域29a、29bの信号成分は、いずれもパイロットキャリア(すなわち、参照信号)を基準として表わされる。
【0048】
位相補償部33には、周波数補償部32によって周波数オフセットが補償された部分帯域29a、29bの信号成分が入力される。そして、位相補償部33は、入力信号に対して、局発光26a、26bの位相誤差を補償するデジタル演算処理を実行する。
【0049】
具体的には、位相補償部33は、デジタル信号27aから抽出された参照信号を基準として、部分帯域29aの信号成分の位相を調整する。また、位相補償部33は、デジタル信号27bから抽出された参照信号を基準として、部分帯域29bの信号成分の位相を調整する。したがって、部分帯域29a、29bの信号成分の位相は、いずれもパイロットキャリア(すなわち、参照信号)を基準として調整される。すなわち、部分帯域29a、29bの信号成分の位相の同期が確立される。
【0050】
余剰帯域フィルタ34には、周波数および位相が調整された部分帯域29a、29bの信号成分が入力される。そうすると、余剰帯域フィルタ34は、周波数領域において、部分帯域29aおよび29bの重複領域を削除する。このとき、余剰帯域フィルタ34は、例えば、部分帯域29aから参照信号の周波数(すなわち、パイロットキャリアの周波数fp)の高域側を除去すると共に、部分帯域29bから参照信号の周波数の低域側を除去する。部分帯域29aから参照信号の周波数の高域側を除去する処理は、例えば、デジタルフィルタにより実現される低域通過フィルタにより実行される。また、部分帯域29bから参照信号の周波数の低域側を除去する処理は、例えば、デジタルフィルタにより実現される高域通過フィルタにより実行される。なお、余剰帯域フィルタ34は、部分帯域29a、29bの双方からそれぞれ周波数領域を除去しなくてもよい。すなわち、余剰帯域フィルタ34は、部分帯域29a、29bの少なくとも一方から重複領域を除去すればよい。
【0051】
帯域結合部35は、余剰帯域フィルタ34から出力される部分帯域29a、29bを結合する。このとき、帯域結合部35は、周波数領域において、部分帯域29a、29bを結合する。これにより、光送信器2により生成された光信号の全信号帯域の信号成分が再生される。すなわち、図5に示す全てのデータキャリアのデータ信号が再生される。このとき、帯域結合部35は、参照信号を削除してもよい。そして、帯域結合部35は、再生したデータ信号をデータ再生部41に送信する。
【0052】
データ再生部41は、デジタル信号処理により、各データキャリアに割り当てられているデータ信号からそれぞれデータを再生する。なお、データ再生部41は、デジタル信号処理部5の中に設けてもよいし、デジタル信号処理部5の外に設けてもよい。
【0053】
このように、光受信器3は、各アナログ受信回路28a、28bの最大受信帯域よりも広い帯域の光信号を受信するために、光信号の信号帯域を複数に分割し、各部分帯域29a、29bの信号成分を表すデジタル信号を生成する。また、デジタル信号処理部5は、部分帯域29a、29bの双方に含まれている共通の信号(すなわち、参照信号)を基準として、部分帯域29a、29bの信号成分の周波数および位相を調整する。すなわち、部分帯域29a、29bは、互いに独立した局発光26a、26bを利用して生成されるが、各部分帯域29a、29bの周波数オフセットは補償され、局発光間の位相誤差も補償される。よって、光受信器3は、互いに独立した複数の局発光を利用してコヒーレント受信を行うにもかかわらず、互いに同期する複数の局発光を利用してコヒーレント受信を行うときと実質的に同じ信号成分が得られる。したがって、実施形態の構成によれば、複雑な光回路(ここでは、局発光の同期回路)を設けることなく、アナログ受信回路の最大受信帯域よりも広い帯域の光信号を受信できる。
【0054】
図9は、デジタル信号処理部5の実施例を示す図である。デジタル信号処理部5には、部分帯域29aの信号成分を表すデジタル信号27aおよび部分帯域29bの信号成分を表すデジタル信号27bが入力される。なお、デジタル信号27aを処理する回路(参照信号抽出部31a、周波数オフセット推定部51a、周波数オフセット補償部52a、53a、キャリア位相推定部54a、キャリア位相補償部55a、FFT56a、参照信号検出部57a)、およびデジタル信号27bを処理する回路(参照信号抽出部31b、周波数オフセット推定部51b、周波数オフセット補償部52b、53b、キャリア位相推定部54b、キャリア位相補償部55b、FFT56b、参照信号検出部57b)の動作は、実質的に同じである。よって、以下では、デジタル信号27aを処理する回路について説明する。
【0055】
参照信号抽出部31aは、入力デジタル信号27aを周波数オフセット補償部52aに導くと共に、入力デジタル信号27aから参照信号を抽出して周波数オフセット推定部51aに導く。すなわち、部分領域29aから抽出される参照信号(パイロットキャリア信号)が周波数オフセット推定部51aに与えられる。また、部分領域29aの全ての信号成分(データキャリア信号およびパイロットキャリア信号)が周波数オフセット補償部52aに与えられる。
【0056】
周波数オフセット推定部51aは、参照信号を利用して、局発光26aに対する部分帯域29aの信号成分の周波数オフセットを推定する。すなわち、周波数オフセット推定部51aは、パイロットキャリアの周波数fpと局発光26aの周波数faとの間の周波数オフセットΔfaを推定する。
【0057】
図10は、周波数オフセット推定部51aの実施例を示す。図10において、偏角算出部61は、入力信号(すなわち、参照信号)のI成分(すなわち、実数成分)およびQ成分(すなわち、虚数成分)に基づいて、対象シンボルの偏角を算出する。データ識別部62は、直前のシンボルについて推定された周波数オフセットΔωTに基づいて、対象シンボルのデータ変調値を粗く決定する。引き算器63は、偏角算出部61により得られる偏角値からデータ識別部62により得られるデータ変調値を差し引くことにより、誤差データを出力する。
【0058】
加算器64は、引き算器63によって得られる誤差データに推定された周波数オフセットΔωTを加算する。遅延要素65は、加算器64の出力を1シンボル時間だけ遅延させる。引き算器66は、偏角算出部61により得られる偏角値から加算器65の出力データを差し引いてデータ識別部62に与える。
【0059】
引き算器67および遅延要素68は、連続するシンボル間での誤差データの差分を計算する。誤差データの差分は、雑音が加算された周波数オフセットΔωTに相当する。したがって、図10に示す周波数オフセット推定器は、ループフィルタ69を利用して雑音を除去または抑制する。この結果、周波数オフセットΔωTの推定値が得られる。ただし、図10に示す周波数オフセット推定器は、データ変調の影響を取り除くためのm乗法を使用しないので、誤差データの差分に対してアンビギュイティを判定するための手順を実行する。図10に示す例では、誤差データの差分の絶対値がπ以下であるときに、その誤差データの差分がループフィルタ69に送られる。
【0060】
周波数オフセット推定部51aによって推定される周波数オフセットΔfa(図10では、ΔωT)は、周波数オフセット補償部52aに与えられる。周波数オフセット補償部52aは、この周波数オフセットを利用して、部分帯域29aの信号成分の周波数オフセットを補償する。
【0061】
図11は、周波数オフセット補償部52aの実施例を示す。ここでは、周波数オフセット補償部52aは、位相回転器により実現される。すなわち、乗算器71は、周波数オフセットΔωTに対して「−1」を乗算する。加算器72、モジュロ2π演算器73、遅延要素74は、シンボル入力毎に「−ΔωT」を累積的に加算して「−kΔωT」を得る。「k」は、入力シンボルのシーケンス番号を表す。そして、回転器75は、入力信号に対して「exp(−jkΔωT)」を与えることにより、入力信号の位相を回転させる。このようにして入力信号の位相を回転させると、その回転量に応じて周波数が調整された信号が出力される。
【0062】
このように、周波数オフセット補償部52aは、参照信号に基づいて得られる周波数オフセットを利用して、部分帯域29aの信号成分の周波数オフセットを補償する。なお、周波数オフセット推定部51aおよび周波数オフセット補償部52aは、図6に示す周波数補償部32の一例である。また、周波数オフセットの推定および補償については、例えば、下記の文献に記載されている。
Wide-range, Accurate and Simple Digital Frequency Offset Compensator for Optical Coherent Receiver, Lei Li et al., OFC 2008, OWT4, 2008
周波数オフセット補償部53aは、参照信号に基づいて得られる周波数オフセットを利用して、参照信号の周波数オフセットを補償する。なお、周波数オフセット補償部53aの動作は、周波数オフセット補償部52aと実質的に同じである。
【0063】
キャリア位相推定部54aには、周波数オフセット補償部53aにより周波数オフセットが補償された参照信号が入力される。そして、キャリア位相推定部54aは、その参照信号を利用して、パイロットキャリアの位相を推定する。
【0064】
図12は、キャリア位相推定部54aの実施例を示す。ここでは、周波数オフセット補償部53aにより周波数オフセットが補償された参照信号は、下式で表わされるものとする。ただし、変調方式は、QPSKであるものとする。
I’+jQ’=Eexp[j(θes(t))]
θe:レーザ位相雑音等に起因する位相誤差
θs:信号位相(π/4、3π/4、5π/4、7π/4)
偏角算出部81は、入力信号の偏角を算出する。入力信号の偏角は、θesで表わされる。4乗演算器82は、入力信号を4乗すると共に、その演算結果に「−1」を乗算する。「−1」は、「exp(jπ)」により実現される。総和演算器83は、N個のシンボルについて4乗演算器82の演算結果を加算する。Nは、平均化演算のためのブロックサイズであり、例えば、局発光を生成する光源のASE雑音および位相雑音に依存して決定される。偏角算出部84は、総和演算器83の出力信号の偏角を算出する。除算器85は、偏角算出部84により得られる偏角を「4」で除算する。これにより、位相誤差θeが得られる。そして、π/2位相回転トラッキング部86は、位相誤差θeに対してπ/2位相回転トラッキングを実行して位相誤差θe’を得る。
【0065】
引き算器87は、偏角算出部81により得られる偏角θesからπ/2位相回転トラッキング部86により得られる位相誤差θe’を差し引く。これにより、位相雑音が除去された信号位相が得られる。さらに、モジュロ演算器88は、引き算器87により得られる信号位相に対してモジュロ(,2π)演算を実行し、入力信号の位相の推定値を得る。このようにして、パイロットキャリアの位相が推定される。
【0066】
キャリア位相補償部55aには、周波数オフセット補償部52aにより周波数オフセットが補償された部分帯域29aの信号成分が入力され、また、キャリア位相推定部54aにより推定されたパイロットキャリアの信号位相が入力される。そして、キャリア位相補償部55aは、パイロットキャリアの信号位相を利用して、部分帯域29aの信号成分の位相を補償する。
【0067】
なお、周波数オフセット補償部53a、キャリア位相推定部54a、キャリア位相補償部55aは、図6に示す位相補償部33の一例である。また、キャリア位相の推定および補償については、例えば、下記の文献に記載されている。
Nonlinear Estimation of PSK-Modulated Carrier Phase with Application to Burst Digital Transmission, Andrew J. Viterbi et al., IEEE Transactions on Information Theory, Vol. IT-29, No.4, pp543-551, July 1983
FFT部56aは、上述のようにして周波数オフセットおよびキャリア位相が補償された信号に対してFFTを実行し、部分帯域29aについての周波数領域信号を生成する。すなわち、時間領域信号が周波数領域信号に変換される。そして、参照信号検出部57aは、FFT部56aにより得られる周波数領域信号から参照信号を検出する。
【0068】
このように、デジタル信号処理部5は、部分帯域29aの信号成分を表すデジタル信号27aが入力されると、参照信号に基づいて、その信号成分の周波数オフセットおよびキャリア位相を補償する。また、デジタル信号処理部5は、部分帯域29bの信号成分を表すデジタル信号27bに対しても、同様の補償処理を実行する。よって、共通の基準(すなわち、参照信号)に基づいて周波数オフセットおよびキャリア位相が補償された部分帯域29a、29bの信号成分が得られる。
【0069】
余剰帯域フィルタ34、帯域結合部35、データ再生部41の動作は、図6を参照しながら説明した通りである。すなわち、余剰帯域フィルタ34は、参照信号検出部57a、57bにより検出された参照信号を利用して、部分帯域29a、29bから余剰帯域を除去することにより、部分帯域29a’、29b’を生成する。また、帯域結合部35は、余剰帯域フィルタ34により生成される部分帯域29a’、29b’を周波数領域において結合する。
【0070】
実施形態の光受信器3においては、局発光26a、26bは、互いに独立して生成される。すなわち、部分帯域29a、29bは、互いに独立した局発光26a、26bを利用して得られる。このため、図8(b)に示すように、部分帯域29a、29bは、LO間誤差を有する。
【0071】
デジタル信号処理部5は、部分帯域29a、29bに対して、それぞれ参照信号を基準とする周波数オフセット補償を行う。この結果、図8(a)に示すように、部分帯域29a、29bの参照信号が互いに一致するように、部分帯域29a、29bの信号成分の周波数がそれぞれ調整される。さらに、デジタル信号処理部5は、部分帯域29a、29bに対して、それぞれ参照信号を基準としてキャリア位相を補償する。したがって、部分帯域29a、29bの位相は互いに同期する。
【0072】
上述の補償処理の後、余剰帯域フィルタ34は、部分帯域29aから参照信号の周波数(すなわち、パイロットキャリアの周波数fp)の高域側を除去し、部分帯域29bから参照信号の周波数の低域側を除去する。図8(a)では、部分帯域29a、29bからそれぞれ斜線領域が除去される。この結果、部分帯域29a’、29b’が生成される。そうすると、帯域結合部35は、図8(c)に示すように、周波数領域において、部分帯域29a’、29b’を結合する。これにより、光送信器2により生成された光信号の全信号帯域の信号成分が再生される。したがって、データ再生部41は、光信号により伝送されるデータを再生することができる。
【0073】
このように、実施形態の光通信システム1においては、光送信器2において伝送信号に参照信号を挿入する。光受信器3は、各部分帯域に参照信号が含まれるように、光信号の信号帯域を分割する。そして、光受信器3は、各部分帯域に含まれる参照信号の周波数および位相を基準に、デジタル信号処理で、各部分帯域の周波数および位相を調整する。すなわち、複数の部分帯域を受信するための複数の光源間の同期を確立する機能は、デジタル信号処理により実現される。したがって、実施形態の構成によれば、光受信器のサイズを大きくすることなく、アナログ回路の最大受信帯域を超える広帯域の光信号を受信できる。換言すれば、実施形態の構成によれば、アナログ回路の最大受信帯域を超える広帯域の光信号を受信する光受信器のサイズを小さくできる。
【0074】
<他の実施形態>
図6〜図9に示す実施形態では、光受信器3は、光信号の信号帯域を2つの部分帯域に分割しているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。光受信器3は、光信号の信号帯域を3以上の部分帯域に分割してもよい。例えば、図13に示す例では、光信号の信号帯域がn個の部分帯域に分割されて処理される。nは、3以上の整数である。この場合、光スプリッタ21は、入力光信号をn分岐して光ハイブリッド回路23−1〜23−nに導く。光ハイブリッド回路23−1〜23−nには、それぞれ光源(LO)22−1〜22−nにより生成される局発光が入力される。光ハイブリッド回路23−1〜23−nの出力光は、受光回路24−1〜24−nにより電気信号に変換され、A/D変換回路25−1〜25−nによりデジタル信号に変換されてデジタル信号処理部5に与えられる。すなわち、デジタル信号処理部5は、n個の部分帯域の信号成分を受け取る。
【0075】
光受信器3において光信号の信号帯域がn個の部分帯域に分割される場合、光送信器2は、伝送信号にn−1個の参照信号を挿入する。例えば、光受信器3において信号帯域が3個の部分帯域に分割される場合、光送信器2は、図14(a)に示すように、伝送信号に2個の参照信号(参照信号1、2)を挿入する。
【0076】
光受信器3は、図14(a)に示す光信号を受信すると、図14(b)に示すように、信号帯域を3個の部分帯域29−1〜29−3に分割する。このとき、参照信号1は部分帯域29−1、29−2の双方に含まれ、参照信号2は部分帯域29−2、29−3の双方に含まれる。そして、デジタル信号処理部5は、部分帯域29−1〜29−3を表すデジタル信号を受信する。
【0077】
デジタル信号処理部5は、特に限定されるものではないが、例えば、下記の手順で部分帯域29−1〜29−3に対して補償処理を実行した後、それらの部分帯域を結合する。すなわち、デジタル信号処理部5は、参照信号1を基準として、部分帯域29−1、29−2に対して上述の補償処理を実行する。そして、デジタル信号処理部5は、補償後の部分帯域29−1、29−2を結合する。これにより、図14(c)に示す部分帯域29−1−2が生成される。続いて、デジタル信号処理部5は、参照信号2を基準として、部分帯域29−1−2、29−3に対して上述の補償処理を実行する。そして、デジタル信号処理部5は、補償後の部分帯域29−1−2、29−3を結合する。この結果、図14(d)に示すように、光送信器2において生成される光信号の全信号帯域が再生される。
【0078】
なお、光送信器2が伝送信号に複数の参照信号を挿入する場合、参照信号の周波数の間隔を不均一にしてもよい。この構成によれば、参照信号間の干渉が抑制される。また、光送信器2が伝送信号に複数の参照信号を挿入する場合、互いに隣接する参照信号を、異なる低周波信号で変調してもよい。この構成によっても、参照信号間の干渉が抑制される。
【0079】
また、デジタル信号処理部5のデジタル信号処理の一例を図6または図9に示したが、本発明はこの手順に限定されるものではない。例えば、デジタル信号処理部5は、キャリア位相を推定および補償する処理の前に、余剰帯域を除去するフィルタリング処理を実行してもよい。
【0080】
さらに、図6に示す構成では、光ハイブリッド回路23a、23bの出力信号がアナログ受信回路(受光回路およびA/D変換回路)28a、28bを通過するときに、それぞれ信号帯域の一部がカットされる。すなわち、アナログ受信回路28a、28bが帯域フィルタの役割を果たしている。しかし、本発明はこの構成に限定されるものではない。すなわち、光受信器3は、光信号の信号帯域から各部分帯域を得るための帯域フィルタを備えてもよい。この場合、例えば、光ハイブリッド回路23aとアナログ受信回路28aとの間に部分帯域29aを抽出するための帯域フィルタを配置し、光ハイブリッド回路23bとアナログ受信回路28bとの間に部分帯域29bを抽出するための帯域フィルタを配置することができる。
【0081】
さらに、図6に示す構成では、光受信器3のフロントエンドにコヒーレント受信器を備えるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、光受信器3は、コヒーレント受信器の代わりに、遅延干渉検波を利用する受信器を使用してもよい。
【0082】
さらに、実施形態の光通信システムは、光送信器2が伝送信号に参照信号を挿入し、光受信器3がその参照信号を利用してデータを再生する。しかし、本発明はこの構成に限定されるものではない。すなわち、光受信器3において得られる複数の部分帯域は、一部の信号成分を共有する。例えば、図7に示す例では、周波数fa1〜fb1の信号成分は、部分帯域29a、29bにより共有されている。そして、部分領域間で共有される信号成分は、強い相関を有する。したがって、光受信器3は、部分帯域間で相関を計算し、相関の高い領域の信号成分を疑似的な参照信号として、周波数オフセット補償およびキャリア位相補償を実行してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 光通信システム
2 光送信器
3 光受信器
5 デジタル信号処理部
14x、14y 参照信号挿入部
22a、22b 光源
23a、23b 光ハイブリッド回路
24a、24b 受光回路
25a、25b A/D変換回路
28a、28b アナログ受信回路
31 参照信号抽出部
32 周波数補償部
33 位相補償部
34 余剰帯域フィルタ
35 帯域結合部
41 データ再生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照信号が挿入された光信号から第1の局発光を利用して前記参照信号を含む第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成する第1の生成部と、
前記光信号から前記第1の局発光と異なる周波数を有する第2の局発光を利用して前記参照信号を含む第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成する第2の生成部と、
前記参照信号の周波数に基づいて前記第1の部分帯域の信号成分の周波数および前記第2の部分帯域の信号成分の周波数を調整する周波数補償部と、
前記周波数補償部により周波数が調整された前記第1および第2の部分帯域を結合する結合部と、
を備える光受信器。
【請求項2】
請求項1に記載の光受信器であって、
前記周波数補償部は、前記第1の部分帯域の信号成分において前記第1の局発光と前記参照信号との間の周波数オフセットを補償すると共に、前記第2の部分帯域の信号成分において前記第2の局発光と前記参照信号との間の周波数オフセットを補償する
ことを特徴とする光受信器。
【請求項3】
請求項1に記載の光受信器であって、
前記第1のデジタル信号を利用して前記参照信号の位相に基づいて前記第1の部分帯域の信号成分の位相を調整するとともに、前記第2のデジタル信号を利用して前記参照信号の位相に基づいて前記第2の部分帯域の信号成分の位相を調整する位相補償部、をさらに備え、
前記結合部は、前記周波数補償部により周波数が調整され、且つ前記位相補償部により位相が調整された前記第1および第2の部分帯域を結合する
ことを特徴とする光受信器。
【請求項4】
請求項1に記載の光受信器であって、
前記第1および第2の部分帯域が互いに重なり合う周波数領域を、前記周波数補償部により周波数が調整された前記第1および第2の部分帯域の少なくとも一方から除去する帯域フィルタ、をさらに備える
ことを特徴とする光受信器。
【請求項5】
請求項1に記載の光受信器であって、
前記結合部により得られる信号帯域の信号成分から送信データを再生するデータ再生部、をさらに備える
ことを特徴とする光受信器。
【請求項6】
参照信号が挿入された光信号から第1の局発光を利用して前記参照信号を含む第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成し、
前記光信号から前記第1の局発光と異なる周波数を有する第2の局発光を利用して前記参照信号を含む第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成し、
前記参照信号の周波数に基づいて前記第1の部分帯域の信号成分の周波数および前記第2の部分帯域の信号成分の周波数を調整し、
前記周波数が調整された前記第1および第2の部分帯域を結合する、
ことを特徴とする光受信方法。
【請求項7】
光送信器および前記光送信器から送信される光信号を受信する光受信器を備える光通信システムであって、
前記光送信器は、
伝送信号に参照信号を挿入する参照信号挿入部と、
前記参照信号が挿入された伝送信号で光信号を生成する変調器、を備え、
前記光受信器は、
前記光信号から第1の局発光を利用して前記参照信号を含む第1の部分帯域の信号成分を表す第1のデジタル信号を生成する第1の生成部と、
前記光信号から前記第1の局発光と異なる周波数を有する第2の局発光を利用して前記参照信号を含む第2の部分帯域の信号成分を表す第2のデジタル信号を生成する第2の生成部と、
前記参照信号の周波数に基づいて前記第1の部分帯域の信号成分の周波数および前記第2の部分帯域の信号成分の周波数を調整する周波数補償部と、
前記周波数補償部により周波数が調整された前記第1および第2の部分帯域を結合する結合部、を備える
ことを特徴とする光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−147064(P2012−147064A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1649(P2011−1649)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人情報通信研究機構、「ユニバーサルリンク技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】