説明

光回路基板及びその製造方法

【課題】 低価格化と量産化が可能な光回路を提供する。
【解決手段】 金属箔上に設けられた溝付きポリイミド基材の溝内に溝の長手方向以外の四周が金属膜で覆われたポリイミドからなる光伝送路が形成されてなることを特徴とする光回路基板、および、金属箔の一方の面に溝付きポリイミド層を形成する溝付きポリイミド層を有する金属箔形成工程、前記溝付きポリイミド層を有する金属箔の少なくとも溝の全内面に金属膜を形成する金属膜形成工程、内面に金属膜が形成された前記溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミドを充填、キュアーするポリイミド充填工程、前記溝内に形成されたポリイミドの長手方向以外の露出面を金属膜で覆い、溝内に形成された金属膜とともに、溝内のポリイミドの長手方向以外の四周を金属膜で覆って光伝送路を形成する光伝送路形成工程を有することを特徴とする光回路基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信システム、光情報処理システム等の分野においては、高速化、小型化への要求が高まる一方であり、これらのシステムを構成する光デバイスや光コンポーネント等に対しても小型化、高速化、高信頼性に対する要求が高まる一方である。これらの光デバイスの中でも、光導波路などの光回路は光ネットワーク用キーデバイスのひとつとして、電子回路配線基板等の分野への応用に向けて開発が進められている。
【0003】
光回路のひとつとして基板型光導波路がある。この基板型光導波路は、シリコン(Si)基板上に断面矩形状の光導波路が形成され、該光導波路が埋込層により埋め込まれたものである。前記光導波路は高屈折率の石英(SiO)ガラスから、また、埋込層は光導波路より低屈折率の石英ガラスからそれぞれ構成されている。
【0004】
このような光導波路はシリコン基板の上に石英ガラスを火炎堆積した後、基板を1400℃程度に加熱して焼結させる方法や、300〜600℃に加熱したシリコン基板2上に減圧CVD法で石英ガラスを堆積させる方法でシリコン基板上に光導波路層を形成し、フォトリソグラフィにより該光導波路層をパターン形成して光導波路としている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−28424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような光導波路の形成法は、量産化が困難で、高価なものとなる。
光回路を用いたデバイスの普及には、低価格化と量産化が必要であり、この課題を達成可能な光回路が強く要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような状況にかんがみ、鋭意検討の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の光回路基板は、金属箔上に設けられたポリイミド基材に溝が設けられ、溝内に溝の長手方向以外の四周が金属膜で覆われたポリイミドからなる光伝送路が形成されてなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光回路基板の製造方法は、金属箔の一方の面に溝が形成されたポリイミド層を有する溝付きポリイミド層を形成する溝付きポリイミド層形成工程、
少なくとも溝の全内面に金属膜を形成する金属膜形成工程、
内面に金属膜が形成された前記溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミドを充填、キュアーするポリイミド充填工程、
前記溝内に形成されたポリイミドの長手方向以外の露出面を金属膜で覆い、溝内に形成された金属膜とともに、溝内のポリイミドの長手方向以外の四周を金属膜で覆って光伝送路を形成する光伝送路形成工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光回路基板は、従来の光ファイバを用いた光回路に比べて、光回路の高密度化が可能となり、コンパクトな光回路を構成できる。また、同一基板上に光回路と電子回路の両方を搭載することができる。また、多数の光回路が走る光のマルチケーブルを実現できる。基板の樹脂層と光伝送路をイミドで形成しているので、耐熱性、耐薬品性に優れるという特徴を有する。
また、本発明の光回路基板の製造方法によれば、プリント基板作成と同様の工程で光回路基板を作成できるので、低価格化、量産化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光回路基板において、ポリイミド基材がその上に設けられた金属箔の金属としては、銅、アルミニウム、マグネシウムのような金属、それら金属を含む合金を挙げることができる。
【0011】
金属箔の上に設けられたポリイミド基材を構成するポリイミドとしては、特に限定されるものではなく、通常電子回路基板、光回路基板に用いられるポリイミド(ポリアミドイミドを含む)であれば特に限定されるものではなく、いずれも用いることができ、金属箔つきポリイミド基材としては、市販の片面金属箔のポリイミドフレキシブル基板を用いてもよい。また、金属箔の上に例えば印刷用のポリイミドインクをべた刷りしたものを用いてもよい。この場合は光回路薄膜とすることができる。
【0012】
金属箔の上に設けられたポリイミド基材には、溝が設けられている。この溝は、ポリイミド基材を貫通して金属箔表面まで到達していてもよく、溝の底部分にイミド基材が残存していてもよいが、金属膜を平滑に保ち、反射性を高める観点から、溝表面も平滑であることが好ましく、このため、溝が金属箔表面まで到達していることが好ましい。
この溝の幅は光回路の使用目的に応じて適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、通常、10〜500μmである。溝の幅を10〜100μmとすると,得られる光伝送路は光導波路として機能する。また、溝の幅及び深さを30μm以下にすると高効率のシングルモード光導波路として機能する。溝の幅が100μmを超える場合は、金属膜からなる壁を反射しながら伝播する光通路として使用できる。
【0013】
この溝の中には溝の長手方向以外の四周を金属膜で覆われたポリイミドからなる光伝送路が形成されている。この光伝送路の厚さはポリイミド基材に設けられた溝の深さと同じでもよく、溝の深さよりも大きくて光伝送路の上部が溝上に突出するように形成されていてもよい。
【0014】
光伝送路を形成するポリイミドとしては、波長1100nmの光の透過率が90%以上のポリイミドが好ましく用いられる。金属粉等の無機粉や相溶性に劣る第三成分を混在させていなければ、通常のポリイミド(ポリアミドイミドを含む)であれば90%以上の透過率を有している。
【0015】
また、この光伝送路を形成するポリイミドとしては、完全に硬化させたポリイミドよりも、完全硬化前のプレキュアー状態のポリイミドのほうが透過率に優れるため、プレキュアー状態のポリイミドであることが好ましい。
ここでプレキュアー状態とは、一部硬化が進んでおり、自己形状維持性(型に入れるなどして支えなくても、自分で形状を維持できる性質)を有するが、完全に硬化しておらず、加熱硬化により化学的、物理的安定性を発現する状態を言う。
【0016】
また、この光伝送路を形成するポリイミドとしては、プレキュアー状態でアミド酸が残存していないことが好ましく、このためにはポリイミドがポリアミドイミドであることが好ましい。このようなポリアミドイミドとしては、耐熱性、絶縁性、電気的特性に優れること、耐薬品性(耐メッキ性)に優れること、キュアーでの熱収縮が小さいこと、経時安定性が良好で室温保存が可能であることなどから、例えば、下記で示される繰り返し単位を有するDurimide D10AまたはAN3310(いずれも商品名、富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を好ましいポリイミドとしてあげることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
金属膜は、光伝送路を形成するポリイミドに密着しているとともに、金属膜のポリイミド基材に接する部分は、ポリイミド基材に密着している。金属膜を形成する金属は、光沢に優れる(反射率に優れる)ものであれば特に限定されるものではないが、銀、銅、クロム等を例示できる。光回路基板の端面においては光伝送路を形成するポリイミドの端面には光の入射、出射のため、当然のことながら金属膜は設けられていない。
【0019】
光伝送路の末端には受発光素子、ラインカメラ、ラインスキャナー、入出力用光ファイバ等の光学素子を接続することができる。光伝送路は、必要に応じて、基板内で分岐を設けてもよく、光伝送路の途中にスイッチング素子を設けてもよい。
【0020】
次に、本発明の光回路基板の製造方法について、図1を用いて説明する。
(溝付きポリイミド層を有する金属箔形成工程)
まず、金属箔1の一方の面に溝3が形成されたポリイミド層2を有する溝付きポリイミド層を形成する。溝付きポリイミド層の形成としては、図1a)に示すような、金属箔1の一方の面にポリイミド層2が形成された片面金属箔のポリイミドフレキシブル基板を用い、所定のパターンのマスクを用いてポリイミド層の露出部分をエッチングすることにより、図1b)に示すような溝3を形成してもよい。エッチング法としては、プラズマエッチング、アルカリエッチング等、ポリイミドのエッチングに用いられるエッチング法を採用することができる。
【0021】
片面金属箔のポリイミドフレキシブル基板として、市販のフレキシブル基板を用いてもよく、或いは硬質基板、ガラスエポキシ基板、セラミック基板等の金属箔の上に印刷用のポリイミドインクを用いてべた刷りして加熱キュアーさせたものを用いてもよい。後者の場合は市販のフレキシブル基板では得られない薄膜タイプの光回路基板を得ることができる。
また、べた刷りの代わりに、パターン印刷用のマスクを用いて、溝となる部分以外の部分にのみポリイミドインクを塗布して、加熱キュアーすれば、エッチングをせずとも溝付きのポリイミド層を形成することができる。
【0022】
(金属膜形成工程)
こうして得られた図1b)に示すような金属箔1の一方の面に溝3が形成されたポリイミド層3を有する溝付きポリイミド層の少なくとも溝の全表面に金属膜4を形成する。
この金属膜の形成方法としては、溝が形成されたポリイミド層2の表面に銅、銀、クロムなどの金属をメッキする方法を採用することができる。この場合、図1c)に示すように溝表面と溝以外のポリイミド層表面全面に金属膜4を形成してもよく、溝表面以外の部分をマスキングして、溝以外の部分の少なくとも一部に金属膜が形成されないようにしてもよい。
溝表面は鏡面となるように金属膜を形成する。アルカリポリイミドエッチングでは、エッチング表面の鏡面度が高いため、鏡面化のための特別の処理は必要ないが、メッキ厚を厚くすることにより溝内金属箔表面の鏡面化を促進することができる。鏡面化促進のためのメッキ厚としては0.1(クロムメッキの場合など)〜25μmとすることが好ましい。
【0023】
(ポリイミド充填工程)
次いで、溝付きポリイミド層の、金属膜4が形成された溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミド6を充填、キュアーする。このキュアーは溝内に形成されたポリイミド6が光透過率を有するためには、完全キュアーではなく、プレキュアー状態にとどめることが好ましい。
【0024】
溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミドを充填、キュアーする方法としては、例えば、図1d)〜g)に示すように、少なくとも溝3の全表面に金属膜4が形成された溝付きポリイミド層2の上にポリイミド6を充填し、キュアーする(図1d)。ポリイミド6は、上述のようにプレキュアー状態でアミド酸が残存していないことが好ましく、このためにはポリイミドがポリアミドイミドであることが好ましい。ポリイミドとして前記繰り返し単位を有するポリアミドイミドを用いた場合は、プレキュアーは100〜250℃で30〜90分加熱することで行われる。もちろん用いるイミドが異なれば、用いるイミドの性質に応じてプレキュアー温度、時間は適宜選択することができる。
【0025】
次いで図1e)のように、金属膜4が表面に形成された溝付きポリイミド層の上に形成されたプレキュアーポリイミドの、溝3に相当する位置にポリイミドエッチング用マスク7を配置し、マスク7で覆われていないポリイミド6の露出部分を図1f)のようにエッチングした後、ポリイミドエッチング用マスク7をはずすことにより、図1g)に示すように溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミドを充填、キュアーした、金属膜被覆溝付きポリイミド層を有する金属箔が得られる。このように、ポリイミド充填工程でポリイミドエッチングを行う場合は、金属膜形成工程においては、図1c)に示すように溝およびポリイミド層表面の全面に金属膜4を形成することが好ましい。
【0026】
また、図1h)に示すように、溝3の部分のみ開口したスクリーン印刷用マスク8を用いてスクリーン印刷により溝3あるいはさらにその上部のみにポリイミド6を充填することもできる。このポリイミド6をプレキュアーすれば、ポリイミド6のエッチングをする必要がなくなる。この場合は金属膜形成工程においては、図1c)に示すように溝内面と溝以外のポリイミド層表面全面に金属膜4を形成する必要はない。
【0027】
(光伝送路形成工程)
次いで、図1i)に示すように、ポリイミド6とイミド層2の上の金属膜4の上に、金属膜4と同様の金属膜4aを形成する。金属膜4と金属膜4aとは同質のものであり、この金属膜の形成も上述の金属膜形成工程におけると同様に、銅、銀、クロムなどの金属をメッキする方法を採用することができる。金属膜4aの形成にあたっては、光回路基板の端面におけるポリイミド6表面にマスクを配置しておき、金属膜が形成されないようにしてもよく、端面にも金属膜4aを形成し、その後の工程で端面の金属膜4aを除去してもよい。
【0028】
次いで、図1j)に示すように、得られたポリイミド充填金属膜被覆溝付きポリイミド層を有する金属箔の表面の金属膜4aのうち、ポリイミド6及びこれを包む金属膜4aに該当する部分のみを金属エッチング用マスク10で覆い、ポリイミド層2の溝3以外の部分の金属膜4,4aをエッチングにより除去する。上述のように、金属膜4aと金属膜4は同質であり,区別は困難であるので,図1m)においては両者をあわせて金属膜4として示す。すなわち、上述の操作により、図1m)に示すような、溝付きポリイミド層2を有する金属箔1の溝3内に、溝の長手方向以外の四周が金属膜4で覆われたポリイミドからなる光伝送路11が形成される。
金属エッチング用マスク10としては、例えば樹脂製のマスクを用いることができる。
【0029】
また、図1k)に示すように、ポリイミド充填工程で得られた、充填されたポリイミド6がポリイミド層2あるいはその上の金属膜4より高く突出した形状となっているポリイミド充填金属膜被覆溝付きポリイミド層を有する金属箔の表面を、ポリイミド6及び溝内壁の金属膜4の厚みに該当する部分のみを開口させ、それ以外の部分をメッキマスクで覆い、たとえば、銅、銀、クロムなどの金属メッキにより、図1l)に示すようにポリイミド6の突出部を金属膜で覆い、その後メッキマスクをはずして図1m)に示すような、溝付きポリイミド層2を有する金属箔1の溝3内に、溝の長手方向以外の四周が金属膜4で覆われたポリイミドからなる光伝送路11を形成してもよい。
本発明の光回路基板は光伝送路を形成した以外は通常のプリント基板と同様であるので、この基板の上に通常の電子素子を含む電子回路を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
同一基板上に光回路と電子回路を共存させることができ、光通信システム、光情報処理システム等に用いられる光電デバイスとして有用であり、本発明の光回路基板の製造方法によれば、この光回路基板を低価格で提供でき、量産化も可能であり、光電デバイスを用いるシステム市場の拡大に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の光回路基板の製造工程の1例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0032】
1:金属箔 2:ポリイミド層
3:溝 4、4a:金属膜
5:メッキマスク 6:ポリイミド
7:ポリイミドエッチング用マスク 8:スクリーン印刷用マスク
9:金属エッチング用マスク 10:光伝送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔上に設けられたポリイミド基材に溝が設けられ、溝内に溝の長手方向以外の四周が金属膜で覆われたポリイミドからなる光伝送路が形成されてなることを特徴とする光回路基板。
【請求項2】
光伝送路を形成するポリイミドがプレキュアー状態であることを特徴とする請求項1記載の光回路基板。
【請求項3】
金属箔の一方の面に溝が形成されたポリイミド層を有する溝付きポリイミド層を形成する溝付きポリイミド層を有する金属箔形成工程、
前記溝付きポリイミド層を有する金属箔形成工程で得られた、溝付きポリイミド層を有する金属箔の少なくとも溝の全内面に金属膜を形成する金属膜形成工程、
内面に金属膜が形成された前記溝内あるいはさらにその上部のみにポリイミドを充填、キュアーするポリイミド充填工程、
前記溝内に形成されたポリイミドの長手方向以外の露出面を金属膜で覆い、溝内に形成された金属膜とともに、溝内のポリイミドの長手方向以外の四周を金属膜で覆って、四周が金属膜で覆われたポリイミドからなる光伝送路を形成する光伝送路形成工程を有することを特徴とする光回路基板の製造方法。
【請求項4】
光伝送路を形成するポリイミドのキュアーをプレキュアー状態でとどめたことを特徴とする請求項3の光回路基板の製造方法。

【図1】
image rotate