光増幅装置及び光増幅媒体
【課題】 光ファイバを用いる光増幅装置において、信号光の増幅効率及び雑音特性の向上を実現する。
【解決手段】 本発明の光増幅装置1は、信号光Linを増幅する光増幅装置であって、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体30と、光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を光増幅媒体のコア内から除去する除去手段31とを備える。除去手段が除去する所定の波長範囲は、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される。
【解決手段】 本発明の光増幅装置1は、信号光Linを増幅する光増幅装置であって、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体30と、光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を光増幅媒体のコア内から除去する除去手段31とを備える。除去手段が除去する所定の波長範囲は、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムのノード間に設けられ、光ファイバなどにより構成される光増幅装置及び光増幅媒体の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信トラフィック増加を背景として、光通信システムの需要が高まっている。この種の装置では、伝送路ごとに波長多重用光増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)を備え、伝送路を伝搬する信号光の増幅を行っており、大容量且つ長距離伝送を実現する光増幅中継システムが主流である。EDFAは、希土類元素であるエルビウムが添加されたコアを有する光ファイバを用いた信号光の増幅装置の一例であって、光ファイバ中に励起光を照射することでコア内部に反転分布を生成することで、コアを伝搬する信号光の増幅を行っている。しかしながら、EDFAを用いる場合、コア内部において発生する自然放出光による雑音光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)の影響により、信号光のパワーと雑音光パワーの比であるS/Nの劣化に伴い、伝送特性が劣化する可能性がある。
【0003】
以下の先行技術文献では、かかるASEの影響を除去するために、特定の波長成分をコア内から除去するファイバグレーティングを光ファイバ内に設ける構成が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−121838号公報
【特許文献2】特開2000−244040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ASEは、エルビウム添加光ファイバ内に混入した自然光が反転分布により増幅されることにより生じるものである。例えば上述する先行技術文献には、ファイバグレーティングをエルビウム添加光ファイバの上流側に設ける構成についての記載がある。しかしながら、このように設けられるファイバグレーティングでは、エルビウム添加光ファイバ内の下流域において生じるASEを除去することが出来ず、S/Nの向上の点では必ずしも十分とは言えない。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑み為されたものであり、光増幅用光ファイバ内で発生する雑音光などの過剰光を好適に除去し、信号光の増幅特性及び伝送特性の向上が可能な光増幅装置及び光増幅媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、開示の光増幅装置は、信号光を増幅する光増幅装置であって、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を光増幅媒体のコア内から除去する除去手段とを備える。尚、かかる除去手段が除去する所定の波長範囲は、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される。具体的には、光増幅媒体における信号光の伝搬方向(言い換えれば、長手方向)における該光増幅媒体に対する信号光の入射端、又は出射端からの距離に応じて決定される所定の波長範囲の光が除去手段により除去される。尚、除去とは、少なくとも光増幅媒体中における光の伝送路であるコア内より除去され、以降の光増幅媒体内の伝搬を防止することを示す趣旨である。
【0008】
上記課題を解決するために、開示の光増幅媒体は、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、除去手段が形成される。除去手段は、当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する。
【発明の効果】
【0009】
上述した光増幅装置及び光増幅媒体の動作によれば、光増幅媒体中を伝搬する信号光が光増幅媒体のコア内に生じた反転分布により増幅される。より具体的には、例えば、エルビウムなどの希土類が添加された光増幅媒体中に励起光を照射することで、光増幅媒体内の電子が基底状態から励起され、反転分布が生じる。かかる反転分布中を信号光が伝搬することで信号光が増幅される
光増幅媒体に生じる反転分布は、励起光が入射する端部近傍では比較的反転分布率が高く、他端に向かうにつれて励起光パワーの低下とともに反転分布率が低下する。また、光増幅媒体中の反転分布率によって、該光増幅媒体中を伝搬する光の波長ごとの増幅利得が異なる。
【0010】
従って、信号光の波長に応じて、光増幅媒体のどの位置においてどの波長を除去するかを適宜決定することにより、励起光による励起光率や、信号光の伝送特性が変化する。開示の光増幅装置によれば、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて、除去する光の波長が異なるため、所望の位置において所望の帯域の光を除去することが出来る。このため、光増幅媒体全体において、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0011】
また、開示の光増幅装置及び光増幅媒体によれば、信号光帯域内の所定の波長についても、光増幅媒体のコア内から除去することが出来る。上述したように、光増幅媒体中の反転分布率によって、該光増幅媒体中を伝搬する光の波長ごとの増幅利得が異なるため、信号光帯域内でも波長ごとの増幅利得の差が生じることがある。従って、増幅利得が相対的に高い波長成分を選択的に除去することで、波長ごとの増幅利得の差に起因する利得差を平坦化することが可能となり、結果として信号光の伝送効率の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光通信システム内の光増幅装置の構成を示す図である。
【図2】光増幅媒体中に形成されるファイバグレーティングの構成を示す模式図である。
【図3】光増幅媒体中の励起光の伝搬距離と、励起光により生じる反転分布率との関係を示すグラフである。
【図4】光増幅媒体中の反転分布率ごとの利得波長特性を示すグラフである。
【図5】光増幅媒体中の伝搬距離と光パワーとの関係を示すグラフである。
【図6】光増幅媒体中に設けられるファイバグレーティングの例を示す図である。
【図7】光増幅装置の第1の変形例の構成を示す図である。
【図8】入力信号光の信号帯域に対する除去することが好ましい波長範囲の例を示す表である。
【図9】ファイバグレーティングにおいて除去される光の反射スペクトルを示すグラフである。
【図10】ファイバグレーティングの温度と、除去される光の波長との関係を示すグラフである。
【図11】信号光波長に応じた反射波長のシフトの態様を示すグラフである。
【図12】光増幅装置の第2の変形例の構成を示す図である。
【図13】光増幅媒体に付加される張力と、ファイバグレーティングにより除去される光の波長との関係を示すグラフである。
【図14】信号帯域内と信号帯域外との光の除去量の割合を示すグラフである。
【図15】光増幅媒体中の励起光の単位長さ当たりの低減量の割合と、最悪ノイズの割合との例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(1)構成例
開示の光増幅装置の実施形態である光増幅装置1の構成について図1を参照しながら説明する。図1には、光ファイバを用いた光通信システム内に設けられる光増幅装置1の構造が模式的に示されている。
【0015】
光増幅装置1は、信号光Lが伝搬される光ファイバFと、信号光パワー測定用のPD(Photo Detector)である入力PD20及び出力PD70と、希土類が添加される光増幅媒体30と、該光増幅媒体30に励起光を供給する励起光源40とを備えて構成される。更に、光増幅装置1は、入力PD20及び出力PD70の夫々から測定値の入力を受けて励起光源が供給する励起光のパワーを制御する制御回路80を備える。
【0016】
光ファイバF上には、入力信号光Sinの一部を入力PD20に入射させるための光分岐器であるカプラ10と、励起光源40からの励起光ELを光ファイバFに導入するためのカプラ50と、出力信号光Soutの一部を出力PD70に入射させるためのカプラ60とが設けられる。
【0017】
光ファイバFを伝搬して光増幅装置1に入射した入力信号光Linは、その一部がカプラ10により分岐され、入力PD20に入射する。入力PD20は、受光した入力信号光Linのパワーを測定し、入力パワーPinとして制御回路80へ通知する。
【0018】
光増幅媒体30は、例えば、エルビウムなどの希土類が添加された光ファイバであって、光ファイバFに対して信号光Lが入力可能なよう連結されている。光増幅媒体30内部には、励起光源40より供給される励起光ELにより反転分布が生じており、該反転分布中を入力信号光Linが通過することにより、誘導放出による増幅を受ける。
【0019】
光増幅媒体30のコア内部には、ファイバグレーティングなど、コア内を伝搬する特定波長範囲の光を除去する除去部材31が形成されている。光増幅媒体30と、除去部材31の一例として挙げたファイバグレーティングの構造について、図2を参照して説明する。
【0020】
図2は、光増幅媒体30を光が伝搬する方向に対して直交する方向から見た断面図である。光増幅媒体30は、エルビウムなどの希土類が添加されたコアと、該コアの周辺に形成されるクラッドとを含む光ファイバである。除去部材31の一例であるファイバグレーティング(又は、光ファイバブラッググレーティング:FBG)31aは、光増幅媒体30に対するレーザ照射などにより形成される、他の部位とは屈折率の異なる部位の集合である。言い換えれば、ファイバグレーティング31aは、光増幅媒体30のコア中に形成されるブラッグ回折格子の集合である。
【0021】
ファイバグレーティング31aの各回折格子間の間隔(言い換えれば、屈折率の異なる部位間の間隔)は、除去する光の波長範囲に応じて設定されている。つまり、ある特定波長の光を除去する目的で、該波長に応じて設定された間隔で設けられる回折格子により、該特定波長の光が回折格子面で反射する。また、ファイバグレーティング31aは、各回折格子面が光増幅媒体30中の光の伝搬方向に対して直交且つ平行でない角度を有して形成される、所謂チルト型のファイバグレーティングである。ファイバグレーティング31aによれば、対象となる特定波長の光は回折格子面で反射されて、クラッド内に入射することで、特定波長の光がコア内から除去される。例えば、クラッドはコアより入射する光を好適に吸収可能な吸収材を用いて構成されていてもよい。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。励起光源40は、光増幅媒体30に対して励起光ELを供給する、例えば半導体レーザなどの光照射装置である。励起光源40より照射される励起光ELは、カプラ50において光ファイバF内を伝搬する入力信号光Linに合波され、光増幅媒体30内に入射する。励起光ELは、光増幅媒体30中の電子を励起させることで反転分布を生じさせる。尚、生じる反転分布の程度などは、励起光ELのパワーなどに応じて適宜変化するものであり、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得も後に詳述するように光増幅媒体30中の反転分布の程度を示す反転分布率Raに応じて変化する。励起光源40は、制御回路80の制御のもと、供給する励起光ELのパワーなどを適宜変更可能に構成される。
【0023】
光増幅媒体30より出力される出力信号光Loutは、その一部がカプラ60により分岐され、出力PD70に入射する。出力PD70は、受光した出力信号光Loutのパワーを測定し、出力パワーPoutとして制御回路80へ通知する。
【0024】
制御回路80は、励起光源40及びその他の各部の動作を制御するための制御用のCPU及び情報格納用のメモリなどを含む回路である。制御回路80は、入力PD20より通知される入力信号光Linの入力パワーPin及び出力PD70より通知される出力信号光Loutの出力パワーPoutから、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得を算出する。また、制御回路80は、光増幅装置1の後段に設けられる光装置のダイナミックレンジなど、出力信号光Loutの出力パワーPoutの要求値などの通知を受け、光増幅媒体30における増幅利得を調整するために励起光源40の励起光パワーを変更する制御を行う。
【0025】
(2)ファイバグレーティングの構成例
励起光源40より供給される励起光ELは、光増幅媒体30中を伝搬するに従って媒体中の電子を励起させることで反転分布を生じさせる。光増幅媒体30中の増幅に寄与する反転分布の割合を示す反転分布率Raは、光の伝搬方向における距離に大きく依存する。励起光ELのパワーが大きく、信号光パワーが小さい入射端寄りの領域では反転分布率Raは高い。励起光ELのパワーは、光増幅媒体30中の電子の励起に用いられるため、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じて減衰していく。また、増幅を受けた信号光は、更なる増幅のためにより多くの励起電子からエネルギーを受けるため、伝搬距離が延びるにつれて、反転分布率Raも減衰する。図3は、光増幅媒体30中の励起光ELの伝搬距離に応じて減衰する反転分布率Raの態様を示すグラフの一例である。図3に示される例では、光増幅媒体30内の入射端から5m程度の位置に反転分布率Raが最も高くなるピークが存在し、入射端より5m以遠では、伝搬距離に応じて反転分布率Raは減衰していく。
【0026】
また、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得は、入力信号光Linの波長、及び光増幅媒体30中の反転分布率に応じて変化する。図4に、入力信号光Linの波長、及び光増幅媒体30中の反転分布率に応じた増幅利得の関係をグラフで示す。
【0027】
図4に示されるように、入力信号光Linの波長に対する光増幅媒体30中の単位長さ当たりの増幅利得(dB/m)を示す特性(以下、利得波長特性と称して説明する)は、光増幅媒体30中の反転分布率Raに応じて夫々異なる態様をとる。具体的には、反転分布率Raが70%以上であるなど比較的高い場合、一般的にC−bandと称される1530nm乃至1561nm程度の帯域において、増幅利得が最も高まるピークが存在する。他方で、反転分布Raが70%より低い場合、C−bandにおいて増幅利得が高まるピークは目立つものではなく、また、反転分布率Raが30%を下回るなど比較的低い場合では、増幅利得が一段と低下する逆のピークが存在する。一方で、一般的にL−bandと称される1570.4nm乃至1607.04nm程度の帯域においては、反転分布Raが70%より低い場合に増幅利得が高まるという特徴がある。
【0028】
以上、説明した内容に基づけば、信号光及び励起光の夫々のパワーと、光増幅媒体30中の伝搬距離との関係は、図5のグラフに示されるような態様となる。つまり、光増幅媒体30に入射した励起光ELは、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じてパワーが減衰していく。他方で、入力パワーLinで光増幅媒体30に入射した信号光は、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じてパワーが増幅していく。
【0029】
図5のグラフにおいて、反転分布率Raのピークが生じる光増幅媒体30内の伝搬距離が0乃至10mの領域においては、図4に示されるように1530nm近傍の帯域(以下、単に1530nm帯と称して説明する)の増幅利得が大きくなる。このため、この領域においては、1530nm帯に属する波長領域の信号光及び雑音光の増幅利得が高くなり、増幅された雑音光によるS/Nの劣化が生じる場合がある。また、1530nm帯に属する波長領域の光が選択的に高い増幅利得を受けるため、信号光帯域内の各波長の光ごとに増幅利得の差異によるパワーの差が生じる場合がある。
【0030】
他方で、入射端から10m以遠の領域においては、1570nm近傍の帯域(以下、単に1570nm帯と称して説明する)の増幅利得が大きくなる。このため、この領域においては、1570nm帯に属する波長領域の信号光及び雑音光の増幅利得が高くなり、増幅された雑音光によるS/Nの劣化が生じる場合がある。また、1570nm帯に属する波長領域の光が選択的に高い増幅利得を受けるため、信号光帯域内の各波長の光ごとに増幅利得の差異によるパワーの差が生じる場合がある。
【0031】
図6に、光増幅媒体30中に形成される除去手段31の具体例であるファイバグレーティング31aについて、その形成位置と除去する波長との例を示す。図6(a)は、光増幅装置1が備える光増幅媒体30中の除去手段31の第1の構成例を示す図である。図6(a)に示されるように、第1の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31bが形成され、10m以遠の領域には、1570nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31cが形成される。
【0032】
光増幅媒体30による増幅効果により、1530nm帯に属する光は、入射端から10mまでの領域内において選択的に高い増幅利得を受ける。従って、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内では、1530nm帯に属する雑音光が増幅により大量に発生する。然るに、ファイバグレーティング31bによれば、当該ファイバグレーティング31bが設けられる領域において高い増幅利得を受ける1530nm帯に属する雑音光を選択的に除去することが出来る。
【0033】
このように光増幅媒体30による、自然発生するASEなどの雑音光を除去することで、光増幅媒体30中を伝搬する光の内の雑音光のレベルを抑制することが出来る。従って、光増幅媒体30中の反転分布が入力信号光Lin以外の雑音光の増幅に消費されることを抑制し、入力信号光Linに対する増幅効率の向上に繋がる。また、雑音光の除去、及び増幅の抑制により、入力信号光LinのS/Nなどの伝送特性の向上との利点もある。
【0034】
一方、光増幅媒体30による増幅効果により、1570nm帯に属する光は、入射端から10m以遠の領域内において選択的に高い増幅利得を受ける。従って、光増幅媒体30中の入射端から10m以遠の領域内では、1570nm帯に属する雑音光が増幅により大量に発生する。然るに、ファイバグレーティング31cによれば、当該ファイバグレーティング31cが設けられる領域において高い増幅利得を受ける1570nm帯に属する雑音光を選択的に除去することが出来る。
【0035】
尚、以上説明したように構成される光増幅装置1に入射する入力信号光Linが、信号帯域に属する相異なる波長の複数の信号光を含んで成る場合、信号光のうち少なくとも一部の波長が上述した1530nm帯又は1570nm帯に属する場合が考えられる。このとき、信号帯域に属する信号光についてもファイバグレーティングによる除去が生じる。具体的には、入射端から10mまでの領域内に設けられるファイバグレーティング31bによって、該入射端から10mまでの領域内において高い増幅利得を受ける1530nm帯に属する信号光が選択的に除去される。また、入射端から10m以遠の領域内に設けられるファイバグレーティング31cによって、該入射端から10m以遠の領域内において高い増幅利得を受ける1570nm帯に属する信号光が選択的に除去される。
【0036】
以上説明したように、入力信号光Linに含まれる相異なる複数通りの波長の信号光のうち、増幅利得の高い信号帯域について選択的に除去されることにより、入力信号光Linに含まれる各波長の信号光についての増幅利得を平坦化する効果が得られる。このため、信号帯域における一部の波長の信号光について過剰な増幅が行われることを抑制し、入力信号光Linに含まれる全波長の信号光における増幅効率の向上に繋がる。
【0037】
光増幅装置1が備える除去手段31の第2の構成例について、図6(b)を参照して説明する。図6(b)に示されるように、第2の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去する複数のファイバグレーティング31d及び31eが形成され、10m以遠の領域には、1570nm帯に属する光を除去する複数のファイバグレーティング31f、31g及び31hが形成される。
【0038】
反転分布が生じている光増幅媒体30中では、伝搬する光は連続的に増幅効果を受ける。このため、光増幅媒体30中を伝搬する入力信号光Linは、連続的に増幅することでパワーが次第に増加する。他方で、ASEなどの雑音光も連続的に生じ、光増幅媒体30中を伝搬することで増幅効果を受ける。
【0039】
除去手段31の第2の構成例によれば、入射端から10mまでの領域内において、ファイバグレーティング31dによる1530nm帯の光の除去により、該1530nm帯に属する雑音光の抑制や、信号光の過剰な増幅が抑制される。更に、ファイバグレーティング31dが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1530nm帯に属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31eにより除去される。
【0040】
入射端から10m以遠の領域においては、ファイバグレーティング31fにより、該1570nm帯に属する雑音光の抑制や、信号光の過剰な増幅が抑制される。更に、ファイバグレーティング31fが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1570nmに属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31gにより除去される。更に、ファイバグレーティング31gが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1570nm帯に属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31hにより除去される。
【0041】
このように除去手段31の第2の構成例によれば、光増幅媒体30中において連続的に発生する雑音光や過剰な信号光を複数設けられたファイバグレーティングにより除去することで、雑音光の発生及び信号光の過剰な増幅の抑制が可能となる。
【0042】
尚、図6(b)を参照して説明した例では、入射端から10mまでの領域内には、ファイバグレーティング31d及び31eの2つのファイバグレーティングが設けられているが、1530nm帯の光を除去するより多くのファイバグレーティングが設けられてもよい。この場合のファイバグレーティングの数及び設置位置などの設置条件は、雑音光の発生や信号光の増幅の度合いに応じて適宜決定されてよい。
【0043】
しかしながら、ファイバグレーティングの設置数が増えることにより、1530nm帯に含まれる信号光の除去量が増加するため、設置数が過剰に多くなることで信号光の増幅利得の低減に繋がる。このとき、入力信号光Linの過剰な除去による増幅効率の劣化や、S/Nなどの雑音特性の劣化が生じる場合がある。このため、ファイバグレーティングの設置数、又は各ファイバグレーティングにおける光の除去量のいずれかについて少なくとも、好適な信号光の増幅効率又は雑音特性を実現可能な態様について、実験又はシミュレーションなどにより決定されることが好ましい。
【0044】
尚、各ファイバグレーティングにおける光の除去量は、ファイバグレーティングにおける反射率に応じたものであり、かかる反射率は夫々反射しようとする(言い換えれば除去しようとする)光の波長に応じて異なる。ファイバグレーティングにおける反射率は、ファイバグレーティング長及び各ファイバグレーティングにおける屈折率の変調度合いに依存する。従って、ファイバグレーティングの設置数が増える場合に、各ファイバグレーティングの長さ及び屈折率の変調度合いを適宜変更することで、好適な光の除去量を設定することが可能となる。
【0045】
ファイバグレーティングが複数設けられる場合の設置位置について、一部の領域に密集して設けられる場合、一のファイバグレーティングによる除去後に、雑音光の発生や過剰な信号光の増幅が生じる前に次のファイバグレーティングによる除去が行われることとなる。この場合、雑音光の除去による雑音特性の向上効果が低下する一方で、1530nm帯に属する信号帯域内の光の除去量が増加するため、信号光の増幅効果が劣化する可能性がある。
【0046】
従って、ファイバグレーティングが複数設けられる場合の設置位置について、第1のファイバグレーティングによる除去後の領域において新たに発生した雑音光や過剰な信号光を除去するよう、所定の距離離隔した位置に第2のファイバグレーティングが設けられることが好ましい。また、第3のファイバグレーティングが設けられる場合、第2のファイバグレーティングより出力端側に該所定の距離離隔した位置に設けられることが好ましい。更に多数のファイバグレーティングが設けられる態様の場合、入射端から所定の距離離隔した位置に第1のファイバグレーティングの設置位置が設定され、以降、該所定の距離を一定の間隔として周期的又は分布的に設置位置が設定されてもよい。このとき、好適な信号帯域の増幅効率及び雑音特性が得られるファイバグレーティングの設置位置について、例えば実験やシミュレーションにより決定されることが好ましい。
【0047】
以上については、入射端から10m以遠の領域内に設けられる1570nm帯の除去用のファイバグレーティングについても同様である。
【0048】
光増幅装置1が備える除去手段31の第3の構成例について、図6(c)を参照して説明する。図6(c)に示されるように、第3の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31iが連続的に形成され、入力端より10mから出力端までの領域には、1570nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31jが連続的に形成される。
【0049】
このように構成することでも、連続的に発生する雑音光や過剰な信号光の抑制を除去することが可能となる。尚、第3の構成例では、第1の構成例及び第2の構成例と比較して光増幅媒体30中に形成されるファイバグレーティングの長さが増加する。このため、信号帯域内の光の除去量が過剰とならないように、ファイバグレーティングにおける屈折率の変調度合いを適宜調整することで、単位長さ当たりの光の除去量が相対的に低く設定されることが好ましい。この場合、ファイバグレーティングの製造が比較的容易となるという点でも有益となる。
【0050】
(3)除去する光の波長範囲の変更を可能とする変形例
光増幅装置1の変形例として、光増幅媒体30中の除去部材31において除去される光の波長範囲の変更を可能とする構成について説明する。
【0051】
図7は、光増幅装置1の第1の変形例である光増幅装置1−1の基本的な構成を示すブロック図である。尚、図7において、図1と同一の番号を付している部分については、特に説明のない限りにおいて、上述した光増幅装置1と同様の構成であってもよく、説明を省略する。
【0052】
図7に示されるように、光増幅装置1−1は、制御回路80に接続される反射制御部90と、該反射制御部90に接続され、光増幅媒体30及び光増幅媒体30中の除去手段31の一例たるファイバグレーティング31aの温度を調節する温度調節部91を備える。
【0053】
反射制御部90は、CPUなどを含む演算回路及びメモリなどの格納手段を有する回路である。反射制御部90は、制御回路80又は外部の回路より入力信号光Linの波長の入力を受け、温度調節部91に対して温度調節のための指示を通知する。具体的には、反射制御部90は、入力信号光Linの波長に基づき、該波長に対するファイバグレーティング31aの光の除去量を決定し、温度調節部91に対する指示を行う。
【0054】
温度調節部91は、光増幅媒体30の一例である希土類が添加される光ファイバの温度調節用のヒータなどであり、反射制御部90の指示に基づいて光増幅媒体30及びファイバグレーティング31aの温度を変更することで、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長範囲を変更する。
【0055】
反射制御部90は、入力信号光Linの波長範囲に対して、除去することが好ましい波長範囲を決定し、該波長範囲に対する除去量が適切となるよう温度調節部91に対する指示を行う。「除去することが好ましい波長範囲」とは、入力信号光Linの波長に対する雑音光となる波長範囲を示す趣旨である。該波長範囲の光を除去することで、入力信号光Linの増幅効率や出力信号光Loutの雑音特性が向上する。
【0056】
図8の表に、入力信号光Linに含まれる信号光の波長に対して、除去されることが好ましい波長範囲の一例について示す。波長1530nm乃至1561nm程度の所謂C−bandの信号光に対しては、雑音光となる1529nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1570.4nm乃至1607.04nm程度の所謂L−bandの信号光に対しては、雑音光となる1530nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1530nmの信号光に対しては、雑音光となる1529nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1550nmの信号光に対しては、雑音光となる1530nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。
【0057】
反射制御部90は、このように光増幅装置1−1に入射する入力信号光Linの波長に対して、除去することが好ましい波長範囲を示すデータベースなどをメモリ内に有している。反射制御部90は、制御回路80などより入力される入力信号光Linの波長を参照し、かかるデータベースを参照することで除去することが好ましい波長範囲を決定する。
【0058】
一般的に、ファイバグレーティング31aは、ある波長の反射率を最も高めるよう設定する場合、該波長を中心とする近傍の波長に対しても所定の反射率で反射を行う反射スペクトルを有する。図9のグラフに、ある波長を最も反射率が高まる中心波長とする際のファイバグレーティング31aにおける光の除去量の反射スペクトルの例を示す。図9に示されるように、光の除去量は、中心波長に対して最も高まり、中心波長から離れるにつれて次第に低減する。
【0059】
反射制御部90は、光増幅媒体30中のファイバグレーティング31aについて、このような除去量の波長スペクトルを示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される除去することが好ましい波長範囲と、ファイバグレーティング31aの除去量の反射スペクトルを示すデータを参照し、ファイバグレーティング31aにおいて除去する中心波長を決定する。
【0060】
ファイバグレーティング31aでは、回折格子間の間隔に応じて除去する光の波長範囲が変化する。温度調節部91の動作によれば、光増幅媒体30の温度を変化させることで熱膨張又は熱収縮により、ファイバグレーティング31a内の回折格子間の間隔を変化させることが出来る。図10のグラフに、ファイバグレーティング31aの温度と除去される光の波長との関係の一例を示す。図10に示されるように、ファイバグレーティング31aでは、温度に応じて除去する光の波長範囲が線形に変動する。
【0061】
反射制御部90は、このようなファイバグレーティング31aの温度と除去される光の波長との関係を示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される、除去することが好ましい波長範囲に応じた中心波長が、ファイバグレーティング31aにおける除去波長となるようにファイバグレーティング31aの温度を調節するよう、温度調節部91に対する指示内容を決定する。
【0062】
図11のグラフに、反射制御部90の制御によるファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長のシフトの態様を示す。図11は、入力信号光Linの波長が信号帯域λaの場合のファイバグレーティング31aにより除去される波長と、信号帯域λbの場合のファイバグレーティング31aにより除去される波長との間のシフトの態様を示すグラフである。図11の例では、入力信号光Linの信号帯域λaがA乃至B(B>A)である場合、光増幅媒体30に設けられるファイバグレーティング31aは、C(C<A)乃至Aの範囲、及びB乃至D(D>B)の範囲の光を除去するよう設定されている。入力信号光Linの信号帯域がλaから、C乃至Bの範囲である信号帯域λbに変更される場合、反射制御部90は、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長範囲を変更するよう温度調節部91の動作を制御する。具体的には、反射制御部90は、温度調節部91に対して、ファイバグレーティング31aにおける除去する光の波長範囲がC乃至Aに設定される部分の温度を変更し、除去する光の波長範囲をE(E<C)乃至Cに設定するよう、指示を行う。一方で、ファイバグレーティング31aにおける除去する光の波長範囲がB乃至Dに設定される部分については、変更の必要がないため、温度の変更を指示しない。
【0063】
以上説明した光増幅装置1−1の動作によれば、入力信号光Linの波長又は信号帯域に応じて、ファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長をシフトさせることが出来る。従って、波長範囲の異なる複数の入力信号光Linに応じて、適切な信号光の過剰な増幅や、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0064】
光増幅装置1の第1の変形例である光増幅装置1−1では、光増幅媒体30中の熱膨張又は熱収縮により、ファイバグレーティング31a内の回折格子間の間隔を変更することで、除去される光の波長を変更している。しかしながら、その他何らかの態様により、除去部材31又は除去部材31の一例であるファイバグレーティング31aにより除去される光の波長を変更する構成であってもよい。
【0065】
図12は、光増幅装置1の第2の変形例である光増幅装置1−2の基本的な構成を示すブロック図である。尚、図12において、図1又は図7と同一の番号を付している部分については、特に説明のない限りにおいて、上述した光増幅装置1又は光増幅装置1−1と同様の構成であってもよく、説明を省略する。
【0066】
図12に示されるように、光増幅装置1−2は、反射制御部90に接続される張力センサ92と、アクチュエータ93とを備える。
【0067】
張力センサ92は、光増幅媒体30に付加される張力をモニタして反射制御部90に通知する。アクチュエータ93は、反射制御部90の制御のもと決定される所定の張力を光増幅媒体30に付加するように駆動するモータ類である。
【0068】
反射制御部90は、上述のように決定される除去することが好ましい波長範囲及び該波長範囲に応じた中心波長が好適な除去の対象となるように、アクチュエータ93を動作させてファイバグレーティング31aの回折格子間の間隔を調節する。図13のグラフに、光増幅媒体30に付加される張力と、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長との関係の一例を示す。図13に示されるように、ファイバグレーティング31aでは、光増幅媒体30に付加される張力に応じて除去する光の波長範囲が線形に変動する。
【0069】
反射制御部90は、このような光増幅媒体30に付加される張力と、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長との関係を示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される、除去することが好ましい波長範囲に応じた中心波長が、ファイバグレーティング31aにおける除去波長となるように、光増幅媒体30に付加する張力を決定し、該張力が付加されるようアクチュエータ93の動作を制御する。
【0070】
以上説明したように、光増幅装置1の第2の変形例である光増幅装置1−2によれば、光増幅装置1−1と同様に、ファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長をシフトさせることが出来る。従って、このような構成を用いる場合であっても、波長範囲の異なる複数の入力信号光Linに応じて、適切な信号光の過剰な増幅や、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0071】
(4)効果
上述したように、光増幅装置1、並びに光増幅装置1−1及び光増幅装置1−2によれば、誘導放出による伝搬光の増幅が行われる光増幅媒体30から、特定の波長の光を除去することで、信号光の増幅効率と、雑音特性との向上を図ることが出来る。
【0072】
尚、上述したようにファイバグレーティング31aによる特定の波長の光を除去する態様として、信号帯域外の波長の光のみ除去する場合と、信号帯域内の光についても除去する場合との2通りが考えられる。
【0073】
信号帯域外の光のみ除去する場合、ASEなどの雑音光の発生及び増幅を抑制することで、光増幅媒体30内の反転分布のエネルギーが信号帯域内の光の増幅に関与しない増幅により減少することを抑制出来、結果として信号帯域内の光の増幅効率の向上に繋がる。また、雑音光のパワーを低く抑えることが出来るため、出力信号光Loutの雑音特性を大きく向上させることが出来る。
【0074】
この場合でも、ファイバグレーティング31aによる除去量の反射スペクトルにより信号帯域内の光について多少の除去が生じることが考えられる。このため、信号帯域内の光の除去による増幅効率及び雑音特性の劣化を低く抑制するよう、ファイバグレーティング31aの除去する光の波長特性(例えば、除去量、中心波長及び半値幅)が設定されることが求められる。
【0075】
他方で、信号帯域内の光についても除去する場合、信号帯域内の特に高い増幅利得を受ける波長の光について選択的に除去することで、過剰な増幅を抑制し、信号光波長の利得差を平坦化することが出来る。これにより、信号帯域内の光の増幅効率を向上させることが出来る。また、信号帯域外の光も併せて除去することで、ASEなどの雑音光の発生及び増幅を抑制し、信号帯域内の光の増幅効率と雑音特性とを向上させることが出来る。
【0076】
一方で、信号帯域内の光を除去することにより、増幅効率と雑音特性との劣化も生じることとなる。特に、信号帯域内の光の除去量が大きい場合、増幅効果を過剰に抑制することに繋がり、増幅効率の大きな劣化に繋がる。そこで、増幅効率と雑音特性との劣化が向上効果を上回ることがないよう、除去する光の波長特性が高精度で設定されることが好ましい。一般的に、ファイバグレーティング31aは、反射率に係る反射スペクトルの設計性が高く、高精度な波長特性の設定が可能であるとされており、除去部材31を構成する上で有益である。また、信号帯域内の光の除去量について、信号帯域外の光の除去量に比べて低く設定されることが好ましい。図14のグラフに、波長ごとの光の除去量の割合の例を示す。図14に示されるように、信号帯域外の光の除去量に対して、信号帯域内の光の除去量は、10%未満程度に設定されることが好ましい。
【0077】
図15のグラフに、光増幅装置1の効果として、除去部材31による除去を行わない場合と比較した光増幅媒体30中の励起光ELの単位長さ当たりの低減量の割合と、最悪ノイズの割合との例を示す。図15(a)は、除去なしの場合と比較した励起光ELの単位長さ当たりの低減量の割合を示すグラフであって、図15(b)は、除去なしの場合と比較した最悪ノイズの割合を示すグラフである。尚、いずれの場合においても、入力信号光Linの信号帯域は所謂拡張L−bandと称される1553nm乃至1607.04nmの波長範囲であって、信号帯域内の1570nmを中心波長とする除去と、信号帯域外の1530nmを中心波長とする除去とを組み合わせている。尚、光増幅媒体30中の単位長さ当たりの除去量は、信号帯域外の1530nmを中心波長とする場合の除去量を100%とすると、信号帯域内の1570nmを中心波長とする場合の除去量は(小)1.11%、(中)1.20%、(大)2.67%となる。
【0078】
図15(a)に示されるように、励起光ELの単位長さ当たりの低減量は、信号帯域外の1530nm帯を除去することで3%程度低減する。また、信号帯域内の1570nm帯を除去することで5%程度と大きく低減する。また、信号帯域外の1530nm帯と併せて信号帯域内の1570nm帯を除去することで、8%程度と更に大きく低減する。
【0079】
図15(b)に示されるように、出力信号光Loutの最悪ノイズは、信号帯域外の1530nm帯を除去することで7%程度と大きく低減する。また、信号帯域内の1570nm帯を除去することで2%程度低減する。また、信号帯域外の1530nm帯と併せて信号帯域内の1570nm帯を除去することで、全体で9%程度低減する。このように、信号帯域外の光の除去により、信号帯域内の光の除去と比較してより大きく最悪ノイズを抑制することが可能となり、雑音特性を大きく向上させる。
【0080】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴なう光増幅装置及び光増幅媒体などもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。例えば、除去手段としてファイバグレーティング以外の構成を用いて光増幅装置及び光増幅媒体を構成してもよい。
【0081】
以上、本明細書で説明した実施形態について、以下の付記にまとめる。
【0082】
(付記1)
信号光を増幅する光増幅装置であって、
前記信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、
前記光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を前記光増幅媒体のコア内から除去する除去手段と
を備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定されることを特徴とする光増幅装置。
【0083】
(付記2)
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記光増幅媒体中の反転分布の程度とに基づいて決定されることを特徴とする付記1に記載の光増幅装置。
【0084】
(付記3)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含み、
前記除去手段は、前記所定の波長範囲のうち前記信号光の波長外の光と比較して、前記信号光の波長の光を除去する量が低く設定されることを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0085】
(付記4)
前記除去手段は、前記コア内に形成される、前記信号光の伝搬方向に対して所定の角度を有するブラッグ回折格子を含むファイバグレーティングであることを特徴とする付記1から3のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【0086】
(付記5)
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向に沿って所定の周期で複数形成されることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0087】
(付記6)
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向の全長にわたって形成されることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0088】
(付記7)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更する変更手段をさらに備えることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0089】
(付記8)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングにおける前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7に記載の光増幅装置。
【0090】
(付記9)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングを伸縮させることにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7又は8に記載の光増幅装置。
【0091】
(付記10)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングの温度を変更することにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7から9のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【0092】
(付記11)
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記コア内を伝搬する光の波長及び前記光増幅媒体中の反転分布の程度により決定される前記コア内を伝搬する光に対する増幅利得とに基づいて決定されることを特徴とする付記1に記載の光増幅装置。
【0093】
(付記12)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含まないことを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0094】
(付記13)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含むことを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0095】
(付記14)
信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、
当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する除去手段が形成されることを特徴とする光増幅媒体。
【符号の説明】
【0096】
1 光増幅装置、
10、50、60 カプラ、
20 入力PD、
30 光増幅媒体、
31 除去部材、
31a〜31j ファイバグレーティング、
40 励起光源、
70 出力PD、
80 反射制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムのノード間に設けられ、光ファイバなどにより構成される光増幅装置及び光増幅媒体の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信トラフィック増加を背景として、光通信システムの需要が高まっている。この種の装置では、伝送路ごとに波長多重用光増幅器(EDFA:Erbium Doped Fiber Amplifier)を備え、伝送路を伝搬する信号光の増幅を行っており、大容量且つ長距離伝送を実現する光増幅中継システムが主流である。EDFAは、希土類元素であるエルビウムが添加されたコアを有する光ファイバを用いた信号光の増幅装置の一例であって、光ファイバ中に励起光を照射することでコア内部に反転分布を生成することで、コアを伝搬する信号光の増幅を行っている。しかしながら、EDFAを用いる場合、コア内部において発生する自然放出光による雑音光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)の影響により、信号光のパワーと雑音光パワーの比であるS/Nの劣化に伴い、伝送特性が劣化する可能性がある。
【0003】
以下の先行技術文献では、かかるASEの影響を除去するために、特定の波長成分をコア内から除去するファイバグレーティングを光ファイバ内に設ける構成が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−121838号公報
【特許文献2】特開2000−244040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ASEは、エルビウム添加光ファイバ内に混入した自然光が反転分布により増幅されることにより生じるものである。例えば上述する先行技術文献には、ファイバグレーティングをエルビウム添加光ファイバの上流側に設ける構成についての記載がある。しかしながら、このように設けられるファイバグレーティングでは、エルビウム添加光ファイバ内の下流域において生じるASEを除去することが出来ず、S/Nの向上の点では必ずしも十分とは言えない。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑み為されたものであり、光増幅用光ファイバ内で発生する雑音光などの過剰光を好適に除去し、信号光の増幅特性及び伝送特性の向上が可能な光増幅装置及び光増幅媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、開示の光増幅装置は、信号光を増幅する光増幅装置であって、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を光増幅媒体のコア内から除去する除去手段とを備える。尚、かかる除去手段が除去する所定の波長範囲は、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される。具体的には、光増幅媒体における信号光の伝搬方向(言い換えれば、長手方向)における該光増幅媒体に対する信号光の入射端、又は出射端からの距離に応じて決定される所定の波長範囲の光が除去手段により除去される。尚、除去とは、少なくとも光増幅媒体中における光の伝送路であるコア内より除去され、以降の光増幅媒体内の伝搬を防止することを示す趣旨である。
【0008】
上記課題を解決するために、開示の光増幅媒体は、信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、除去手段が形成される。除去手段は、当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する。
【発明の効果】
【0009】
上述した光増幅装置及び光増幅媒体の動作によれば、光増幅媒体中を伝搬する信号光が光増幅媒体のコア内に生じた反転分布により増幅される。より具体的には、例えば、エルビウムなどの希土類が添加された光増幅媒体中に励起光を照射することで、光増幅媒体内の電子が基底状態から励起され、反転分布が生じる。かかる反転分布中を信号光が伝搬することで信号光が増幅される
光増幅媒体に生じる反転分布は、励起光が入射する端部近傍では比較的反転分布率が高く、他端に向かうにつれて励起光パワーの低下とともに反転分布率が低下する。また、光増幅媒体中の反転分布率によって、該光増幅媒体中を伝搬する光の波長ごとの増幅利得が異なる。
【0010】
従って、信号光の波長に応じて、光増幅媒体のどの位置においてどの波長を除去するかを適宜決定することにより、励起光による励起光率や、信号光の伝送特性が変化する。開示の光増幅装置によれば、光増幅媒体における信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて、除去する光の波長が異なるため、所望の位置において所望の帯域の光を除去することが出来る。このため、光増幅媒体全体において、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0011】
また、開示の光増幅装置及び光増幅媒体によれば、信号光帯域内の所定の波長についても、光増幅媒体のコア内から除去することが出来る。上述したように、光増幅媒体中の反転分布率によって、該光増幅媒体中を伝搬する光の波長ごとの増幅利得が異なるため、信号光帯域内でも波長ごとの増幅利得の差が生じることがある。従って、増幅利得が相対的に高い波長成分を選択的に除去することで、波長ごとの増幅利得の差に起因する利得差を平坦化することが可能となり、結果として信号光の伝送効率の向上に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光通信システム内の光増幅装置の構成を示す図である。
【図2】光増幅媒体中に形成されるファイバグレーティングの構成を示す模式図である。
【図3】光増幅媒体中の励起光の伝搬距離と、励起光により生じる反転分布率との関係を示すグラフである。
【図4】光増幅媒体中の反転分布率ごとの利得波長特性を示すグラフである。
【図5】光増幅媒体中の伝搬距離と光パワーとの関係を示すグラフである。
【図6】光増幅媒体中に設けられるファイバグレーティングの例を示す図である。
【図7】光増幅装置の第1の変形例の構成を示す図である。
【図8】入力信号光の信号帯域に対する除去することが好ましい波長範囲の例を示す表である。
【図9】ファイバグレーティングにおいて除去される光の反射スペクトルを示すグラフである。
【図10】ファイバグレーティングの温度と、除去される光の波長との関係を示すグラフである。
【図11】信号光波長に応じた反射波長のシフトの態様を示すグラフである。
【図12】光増幅装置の第2の変形例の構成を示す図である。
【図13】光増幅媒体に付加される張力と、ファイバグレーティングにより除去される光の波長との関係を示すグラフである。
【図14】信号帯域内と信号帯域外との光の除去量の割合を示すグラフである。
【図15】光増幅媒体中の励起光の単位長さ当たりの低減量の割合と、最悪ノイズの割合との例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
(1)構成例
開示の光増幅装置の実施形態である光増幅装置1の構成について図1を参照しながら説明する。図1には、光ファイバを用いた光通信システム内に設けられる光増幅装置1の構造が模式的に示されている。
【0015】
光増幅装置1は、信号光Lが伝搬される光ファイバFと、信号光パワー測定用のPD(Photo Detector)である入力PD20及び出力PD70と、希土類が添加される光増幅媒体30と、該光増幅媒体30に励起光を供給する励起光源40とを備えて構成される。更に、光増幅装置1は、入力PD20及び出力PD70の夫々から測定値の入力を受けて励起光源が供給する励起光のパワーを制御する制御回路80を備える。
【0016】
光ファイバF上には、入力信号光Sinの一部を入力PD20に入射させるための光分岐器であるカプラ10と、励起光源40からの励起光ELを光ファイバFに導入するためのカプラ50と、出力信号光Soutの一部を出力PD70に入射させるためのカプラ60とが設けられる。
【0017】
光ファイバFを伝搬して光増幅装置1に入射した入力信号光Linは、その一部がカプラ10により分岐され、入力PD20に入射する。入力PD20は、受光した入力信号光Linのパワーを測定し、入力パワーPinとして制御回路80へ通知する。
【0018】
光増幅媒体30は、例えば、エルビウムなどの希土類が添加された光ファイバであって、光ファイバFに対して信号光Lが入力可能なよう連結されている。光増幅媒体30内部には、励起光源40より供給される励起光ELにより反転分布が生じており、該反転分布中を入力信号光Linが通過することにより、誘導放出による増幅を受ける。
【0019】
光増幅媒体30のコア内部には、ファイバグレーティングなど、コア内を伝搬する特定波長範囲の光を除去する除去部材31が形成されている。光増幅媒体30と、除去部材31の一例として挙げたファイバグレーティングの構造について、図2を参照して説明する。
【0020】
図2は、光増幅媒体30を光が伝搬する方向に対して直交する方向から見た断面図である。光増幅媒体30は、エルビウムなどの希土類が添加されたコアと、該コアの周辺に形成されるクラッドとを含む光ファイバである。除去部材31の一例であるファイバグレーティング(又は、光ファイバブラッググレーティング:FBG)31aは、光増幅媒体30に対するレーザ照射などにより形成される、他の部位とは屈折率の異なる部位の集合である。言い換えれば、ファイバグレーティング31aは、光増幅媒体30のコア中に形成されるブラッグ回折格子の集合である。
【0021】
ファイバグレーティング31aの各回折格子間の間隔(言い換えれば、屈折率の異なる部位間の間隔)は、除去する光の波長範囲に応じて設定されている。つまり、ある特定波長の光を除去する目的で、該波長に応じて設定された間隔で設けられる回折格子により、該特定波長の光が回折格子面で反射する。また、ファイバグレーティング31aは、各回折格子面が光増幅媒体30中の光の伝搬方向に対して直交且つ平行でない角度を有して形成される、所謂チルト型のファイバグレーティングである。ファイバグレーティング31aによれば、対象となる特定波長の光は回折格子面で反射されて、クラッド内に入射することで、特定波長の光がコア内から除去される。例えば、クラッドはコアより入射する光を好適に吸収可能な吸収材を用いて構成されていてもよい。
【0022】
図1に戻って説明を続ける。励起光源40は、光増幅媒体30に対して励起光ELを供給する、例えば半導体レーザなどの光照射装置である。励起光源40より照射される励起光ELは、カプラ50において光ファイバF内を伝搬する入力信号光Linに合波され、光増幅媒体30内に入射する。励起光ELは、光増幅媒体30中の電子を励起させることで反転分布を生じさせる。尚、生じる反転分布の程度などは、励起光ELのパワーなどに応じて適宜変化するものであり、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得も後に詳述するように光増幅媒体30中の反転分布の程度を示す反転分布率Raに応じて変化する。励起光源40は、制御回路80の制御のもと、供給する励起光ELのパワーなどを適宜変更可能に構成される。
【0023】
光増幅媒体30より出力される出力信号光Loutは、その一部がカプラ60により分岐され、出力PD70に入射する。出力PD70は、受光した出力信号光Loutのパワーを測定し、出力パワーPoutとして制御回路80へ通知する。
【0024】
制御回路80は、励起光源40及びその他の各部の動作を制御するための制御用のCPU及び情報格納用のメモリなどを含む回路である。制御回路80は、入力PD20より通知される入力信号光Linの入力パワーPin及び出力PD70より通知される出力信号光Loutの出力パワーPoutから、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得を算出する。また、制御回路80は、光増幅装置1の後段に設けられる光装置のダイナミックレンジなど、出力信号光Loutの出力パワーPoutの要求値などの通知を受け、光増幅媒体30における増幅利得を調整するために励起光源40の励起光パワーを変更する制御を行う。
【0025】
(2)ファイバグレーティングの構成例
励起光源40より供給される励起光ELは、光増幅媒体30中を伝搬するに従って媒体中の電子を励起させることで反転分布を生じさせる。光増幅媒体30中の増幅に寄与する反転分布の割合を示す反転分布率Raは、光の伝搬方向における距離に大きく依存する。励起光ELのパワーが大きく、信号光パワーが小さい入射端寄りの領域では反転分布率Raは高い。励起光ELのパワーは、光増幅媒体30中の電子の励起に用いられるため、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じて減衰していく。また、増幅を受けた信号光は、更なる増幅のためにより多くの励起電子からエネルギーを受けるため、伝搬距離が延びるにつれて、反転分布率Raも減衰する。図3は、光増幅媒体30中の励起光ELの伝搬距離に応じて減衰する反転分布率Raの態様を示すグラフの一例である。図3に示される例では、光増幅媒体30内の入射端から5m程度の位置に反転分布率Raが最も高くなるピークが存在し、入射端より5m以遠では、伝搬距離に応じて反転分布率Raは減衰していく。
【0026】
また、光増幅媒体30における入力信号光Linの増幅利得は、入力信号光Linの波長、及び光増幅媒体30中の反転分布率に応じて変化する。図4に、入力信号光Linの波長、及び光増幅媒体30中の反転分布率に応じた増幅利得の関係をグラフで示す。
【0027】
図4に示されるように、入力信号光Linの波長に対する光増幅媒体30中の単位長さ当たりの増幅利得(dB/m)を示す特性(以下、利得波長特性と称して説明する)は、光増幅媒体30中の反転分布率Raに応じて夫々異なる態様をとる。具体的には、反転分布率Raが70%以上であるなど比較的高い場合、一般的にC−bandと称される1530nm乃至1561nm程度の帯域において、増幅利得が最も高まるピークが存在する。他方で、反転分布Raが70%より低い場合、C−bandにおいて増幅利得が高まるピークは目立つものではなく、また、反転分布率Raが30%を下回るなど比較的低い場合では、増幅利得が一段と低下する逆のピークが存在する。一方で、一般的にL−bandと称される1570.4nm乃至1607.04nm程度の帯域においては、反転分布Raが70%より低い場合に増幅利得が高まるという特徴がある。
【0028】
以上、説明した内容に基づけば、信号光及び励起光の夫々のパワーと、光増幅媒体30中の伝搬距離との関係は、図5のグラフに示されるような態様となる。つまり、光増幅媒体30に入射した励起光ELは、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じてパワーが減衰していく。他方で、入力パワーLinで光増幅媒体30に入射した信号光は、光増幅媒体30中の伝搬距離に応じてパワーが増幅していく。
【0029】
図5のグラフにおいて、反転分布率Raのピークが生じる光増幅媒体30内の伝搬距離が0乃至10mの領域においては、図4に示されるように1530nm近傍の帯域(以下、単に1530nm帯と称して説明する)の増幅利得が大きくなる。このため、この領域においては、1530nm帯に属する波長領域の信号光及び雑音光の増幅利得が高くなり、増幅された雑音光によるS/Nの劣化が生じる場合がある。また、1530nm帯に属する波長領域の光が選択的に高い増幅利得を受けるため、信号光帯域内の各波長の光ごとに増幅利得の差異によるパワーの差が生じる場合がある。
【0030】
他方で、入射端から10m以遠の領域においては、1570nm近傍の帯域(以下、単に1570nm帯と称して説明する)の増幅利得が大きくなる。このため、この領域においては、1570nm帯に属する波長領域の信号光及び雑音光の増幅利得が高くなり、増幅された雑音光によるS/Nの劣化が生じる場合がある。また、1570nm帯に属する波長領域の光が選択的に高い増幅利得を受けるため、信号光帯域内の各波長の光ごとに増幅利得の差異によるパワーの差が生じる場合がある。
【0031】
図6に、光増幅媒体30中に形成される除去手段31の具体例であるファイバグレーティング31aについて、その形成位置と除去する波長との例を示す。図6(a)は、光増幅装置1が備える光増幅媒体30中の除去手段31の第1の構成例を示す図である。図6(a)に示されるように、第1の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31bが形成され、10m以遠の領域には、1570nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31cが形成される。
【0032】
光増幅媒体30による増幅効果により、1530nm帯に属する光は、入射端から10mまでの領域内において選択的に高い増幅利得を受ける。従って、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内では、1530nm帯に属する雑音光が増幅により大量に発生する。然るに、ファイバグレーティング31bによれば、当該ファイバグレーティング31bが設けられる領域において高い増幅利得を受ける1530nm帯に属する雑音光を選択的に除去することが出来る。
【0033】
このように光増幅媒体30による、自然発生するASEなどの雑音光を除去することで、光増幅媒体30中を伝搬する光の内の雑音光のレベルを抑制することが出来る。従って、光増幅媒体30中の反転分布が入力信号光Lin以外の雑音光の増幅に消費されることを抑制し、入力信号光Linに対する増幅効率の向上に繋がる。また、雑音光の除去、及び増幅の抑制により、入力信号光LinのS/Nなどの伝送特性の向上との利点もある。
【0034】
一方、光増幅媒体30による増幅効果により、1570nm帯に属する光は、入射端から10m以遠の領域内において選択的に高い増幅利得を受ける。従って、光増幅媒体30中の入射端から10m以遠の領域内では、1570nm帯に属する雑音光が増幅により大量に発生する。然るに、ファイバグレーティング31cによれば、当該ファイバグレーティング31cが設けられる領域において高い増幅利得を受ける1570nm帯に属する雑音光を選択的に除去することが出来る。
【0035】
尚、以上説明したように構成される光増幅装置1に入射する入力信号光Linが、信号帯域に属する相異なる波長の複数の信号光を含んで成る場合、信号光のうち少なくとも一部の波長が上述した1530nm帯又は1570nm帯に属する場合が考えられる。このとき、信号帯域に属する信号光についてもファイバグレーティングによる除去が生じる。具体的には、入射端から10mまでの領域内に設けられるファイバグレーティング31bによって、該入射端から10mまでの領域内において高い増幅利得を受ける1530nm帯に属する信号光が選択的に除去される。また、入射端から10m以遠の領域内に設けられるファイバグレーティング31cによって、該入射端から10m以遠の領域内において高い増幅利得を受ける1570nm帯に属する信号光が選択的に除去される。
【0036】
以上説明したように、入力信号光Linに含まれる相異なる複数通りの波長の信号光のうち、増幅利得の高い信号帯域について選択的に除去されることにより、入力信号光Linに含まれる各波長の信号光についての増幅利得を平坦化する効果が得られる。このため、信号帯域における一部の波長の信号光について過剰な増幅が行われることを抑制し、入力信号光Linに含まれる全波長の信号光における増幅効率の向上に繋がる。
【0037】
光増幅装置1が備える除去手段31の第2の構成例について、図6(b)を参照して説明する。図6(b)に示されるように、第2の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去する複数のファイバグレーティング31d及び31eが形成され、10m以遠の領域には、1570nm帯に属する光を除去する複数のファイバグレーティング31f、31g及び31hが形成される。
【0038】
反転分布が生じている光増幅媒体30中では、伝搬する光は連続的に増幅効果を受ける。このため、光増幅媒体30中を伝搬する入力信号光Linは、連続的に増幅することでパワーが次第に増加する。他方で、ASEなどの雑音光も連続的に生じ、光増幅媒体30中を伝搬することで増幅効果を受ける。
【0039】
除去手段31の第2の構成例によれば、入射端から10mまでの領域内において、ファイバグレーティング31dによる1530nm帯の光の除去により、該1530nm帯に属する雑音光の抑制や、信号光の過剰な増幅が抑制される。更に、ファイバグレーティング31dが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1530nm帯に属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31eにより除去される。
【0040】
入射端から10m以遠の領域においては、ファイバグレーティング31fにより、該1570nm帯に属する雑音光の抑制や、信号光の過剰な増幅が抑制される。更に、ファイバグレーティング31fが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1570nmに属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31gにより除去される。更に、ファイバグレーティング31gが設けられる領域より出力端側において新たに発生した1570nm帯に属する雑音光や過剰な信号光は、ファイバグレーティング31hにより除去される。
【0041】
このように除去手段31の第2の構成例によれば、光増幅媒体30中において連続的に発生する雑音光や過剰な信号光を複数設けられたファイバグレーティングにより除去することで、雑音光の発生及び信号光の過剰な増幅の抑制が可能となる。
【0042】
尚、図6(b)を参照して説明した例では、入射端から10mまでの領域内には、ファイバグレーティング31d及び31eの2つのファイバグレーティングが設けられているが、1530nm帯の光を除去するより多くのファイバグレーティングが設けられてもよい。この場合のファイバグレーティングの数及び設置位置などの設置条件は、雑音光の発生や信号光の増幅の度合いに応じて適宜決定されてよい。
【0043】
しかしながら、ファイバグレーティングの設置数が増えることにより、1530nm帯に含まれる信号光の除去量が増加するため、設置数が過剰に多くなることで信号光の増幅利得の低減に繋がる。このとき、入力信号光Linの過剰な除去による増幅効率の劣化や、S/Nなどの雑音特性の劣化が生じる場合がある。このため、ファイバグレーティングの設置数、又は各ファイバグレーティングにおける光の除去量のいずれかについて少なくとも、好適な信号光の増幅効率又は雑音特性を実現可能な態様について、実験又はシミュレーションなどにより決定されることが好ましい。
【0044】
尚、各ファイバグレーティングにおける光の除去量は、ファイバグレーティングにおける反射率に応じたものであり、かかる反射率は夫々反射しようとする(言い換えれば除去しようとする)光の波長に応じて異なる。ファイバグレーティングにおける反射率は、ファイバグレーティング長及び各ファイバグレーティングにおける屈折率の変調度合いに依存する。従って、ファイバグレーティングの設置数が増える場合に、各ファイバグレーティングの長さ及び屈折率の変調度合いを適宜変更することで、好適な光の除去量を設定することが可能となる。
【0045】
ファイバグレーティングが複数設けられる場合の設置位置について、一部の領域に密集して設けられる場合、一のファイバグレーティングによる除去後に、雑音光の発生や過剰な信号光の増幅が生じる前に次のファイバグレーティングによる除去が行われることとなる。この場合、雑音光の除去による雑音特性の向上効果が低下する一方で、1530nm帯に属する信号帯域内の光の除去量が増加するため、信号光の増幅効果が劣化する可能性がある。
【0046】
従って、ファイバグレーティングが複数設けられる場合の設置位置について、第1のファイバグレーティングによる除去後の領域において新たに発生した雑音光や過剰な信号光を除去するよう、所定の距離離隔した位置に第2のファイバグレーティングが設けられることが好ましい。また、第3のファイバグレーティングが設けられる場合、第2のファイバグレーティングより出力端側に該所定の距離離隔した位置に設けられることが好ましい。更に多数のファイバグレーティングが設けられる態様の場合、入射端から所定の距離離隔した位置に第1のファイバグレーティングの設置位置が設定され、以降、該所定の距離を一定の間隔として周期的又は分布的に設置位置が設定されてもよい。このとき、好適な信号帯域の増幅効率及び雑音特性が得られるファイバグレーティングの設置位置について、例えば実験やシミュレーションにより決定されることが好ましい。
【0047】
以上については、入射端から10m以遠の領域内に設けられる1570nm帯の除去用のファイバグレーティングについても同様である。
【0048】
光増幅装置1が備える除去手段31の第3の構成例について、図6(c)を参照して説明する。図6(c)に示されるように、第3の構成例においては、光増幅媒体30中の入射端から10mまでの領域内に、1530nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31iが連続的に形成され、入力端より10mから出力端までの領域には、1570nm帯に属する光を除去するファイバグレーティング31jが連続的に形成される。
【0049】
このように構成することでも、連続的に発生する雑音光や過剰な信号光の抑制を除去することが可能となる。尚、第3の構成例では、第1の構成例及び第2の構成例と比較して光増幅媒体30中に形成されるファイバグレーティングの長さが増加する。このため、信号帯域内の光の除去量が過剰とならないように、ファイバグレーティングにおける屈折率の変調度合いを適宜調整することで、単位長さ当たりの光の除去量が相対的に低く設定されることが好ましい。この場合、ファイバグレーティングの製造が比較的容易となるという点でも有益となる。
【0050】
(3)除去する光の波長範囲の変更を可能とする変形例
光増幅装置1の変形例として、光増幅媒体30中の除去部材31において除去される光の波長範囲の変更を可能とする構成について説明する。
【0051】
図7は、光増幅装置1の第1の変形例である光増幅装置1−1の基本的な構成を示すブロック図である。尚、図7において、図1と同一の番号を付している部分については、特に説明のない限りにおいて、上述した光増幅装置1と同様の構成であってもよく、説明を省略する。
【0052】
図7に示されるように、光増幅装置1−1は、制御回路80に接続される反射制御部90と、該反射制御部90に接続され、光増幅媒体30及び光増幅媒体30中の除去手段31の一例たるファイバグレーティング31aの温度を調節する温度調節部91を備える。
【0053】
反射制御部90は、CPUなどを含む演算回路及びメモリなどの格納手段を有する回路である。反射制御部90は、制御回路80又は外部の回路より入力信号光Linの波長の入力を受け、温度調節部91に対して温度調節のための指示を通知する。具体的には、反射制御部90は、入力信号光Linの波長に基づき、該波長に対するファイバグレーティング31aの光の除去量を決定し、温度調節部91に対する指示を行う。
【0054】
温度調節部91は、光増幅媒体30の一例である希土類が添加される光ファイバの温度調節用のヒータなどであり、反射制御部90の指示に基づいて光増幅媒体30及びファイバグレーティング31aの温度を変更することで、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長範囲を変更する。
【0055】
反射制御部90は、入力信号光Linの波長範囲に対して、除去することが好ましい波長範囲を決定し、該波長範囲に対する除去量が適切となるよう温度調節部91に対する指示を行う。「除去することが好ましい波長範囲」とは、入力信号光Linの波長に対する雑音光となる波長範囲を示す趣旨である。該波長範囲の光を除去することで、入力信号光Linの増幅効率や出力信号光Loutの雑音特性が向上する。
【0056】
図8の表に、入力信号光Linに含まれる信号光の波長に対して、除去されることが好ましい波長範囲の一例について示す。波長1530nm乃至1561nm程度の所謂C−bandの信号光に対しては、雑音光となる1529nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1570.4nm乃至1607.04nm程度の所謂L−bandの信号光に対しては、雑音光となる1530nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1530nmの信号光に対しては、雑音光となる1529nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。また、波長1550nmの信号光に対しては、雑音光となる1530nm及び1570nm帯の光が除去されることが好ましいとされる。
【0057】
反射制御部90は、このように光増幅装置1−1に入射する入力信号光Linの波長に対して、除去することが好ましい波長範囲を示すデータベースなどをメモリ内に有している。反射制御部90は、制御回路80などより入力される入力信号光Linの波長を参照し、かかるデータベースを参照することで除去することが好ましい波長範囲を決定する。
【0058】
一般的に、ファイバグレーティング31aは、ある波長の反射率を最も高めるよう設定する場合、該波長を中心とする近傍の波長に対しても所定の反射率で反射を行う反射スペクトルを有する。図9のグラフに、ある波長を最も反射率が高まる中心波長とする際のファイバグレーティング31aにおける光の除去量の反射スペクトルの例を示す。図9に示されるように、光の除去量は、中心波長に対して最も高まり、中心波長から離れるにつれて次第に低減する。
【0059】
反射制御部90は、光増幅媒体30中のファイバグレーティング31aについて、このような除去量の波長スペクトルを示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される除去することが好ましい波長範囲と、ファイバグレーティング31aの除去量の反射スペクトルを示すデータを参照し、ファイバグレーティング31aにおいて除去する中心波長を決定する。
【0060】
ファイバグレーティング31aでは、回折格子間の間隔に応じて除去する光の波長範囲が変化する。温度調節部91の動作によれば、光増幅媒体30の温度を変化させることで熱膨張又は熱収縮により、ファイバグレーティング31a内の回折格子間の間隔を変化させることが出来る。図10のグラフに、ファイバグレーティング31aの温度と除去される光の波長との関係の一例を示す。図10に示されるように、ファイバグレーティング31aでは、温度に応じて除去する光の波長範囲が線形に変動する。
【0061】
反射制御部90は、このようなファイバグレーティング31aの温度と除去される光の波長との関係を示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される、除去することが好ましい波長範囲に応じた中心波長が、ファイバグレーティング31aにおける除去波長となるようにファイバグレーティング31aの温度を調節するよう、温度調節部91に対する指示内容を決定する。
【0062】
図11のグラフに、反射制御部90の制御によるファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長のシフトの態様を示す。図11は、入力信号光Linの波長が信号帯域λaの場合のファイバグレーティング31aにより除去される波長と、信号帯域λbの場合のファイバグレーティング31aにより除去される波長との間のシフトの態様を示すグラフである。図11の例では、入力信号光Linの信号帯域λaがA乃至B(B>A)である場合、光増幅媒体30に設けられるファイバグレーティング31aは、C(C<A)乃至Aの範囲、及びB乃至D(D>B)の範囲の光を除去するよう設定されている。入力信号光Linの信号帯域がλaから、C乃至Bの範囲である信号帯域λbに変更される場合、反射制御部90は、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長範囲を変更するよう温度調節部91の動作を制御する。具体的には、反射制御部90は、温度調節部91に対して、ファイバグレーティング31aにおける除去する光の波長範囲がC乃至Aに設定される部分の温度を変更し、除去する光の波長範囲をE(E<C)乃至Cに設定するよう、指示を行う。一方で、ファイバグレーティング31aにおける除去する光の波長範囲がB乃至Dに設定される部分については、変更の必要がないため、温度の変更を指示しない。
【0063】
以上説明した光増幅装置1−1の動作によれば、入力信号光Linの波長又は信号帯域に応じて、ファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長をシフトさせることが出来る。従って、波長範囲の異なる複数の入力信号光Linに応じて、適切な信号光の過剰な増幅や、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0064】
光増幅装置1の第1の変形例である光増幅装置1−1では、光増幅媒体30中の熱膨張又は熱収縮により、ファイバグレーティング31a内の回折格子間の間隔を変更することで、除去される光の波長を変更している。しかしながら、その他何らかの態様により、除去部材31又は除去部材31の一例であるファイバグレーティング31aにより除去される光の波長を変更する構成であってもよい。
【0065】
図12は、光増幅装置1の第2の変形例である光増幅装置1−2の基本的な構成を示すブロック図である。尚、図12において、図1又は図7と同一の番号を付している部分については、特に説明のない限りにおいて、上述した光増幅装置1又は光増幅装置1−1と同様の構成であってもよく、説明を省略する。
【0066】
図12に示されるように、光増幅装置1−2は、反射制御部90に接続される張力センサ92と、アクチュエータ93とを備える。
【0067】
張力センサ92は、光増幅媒体30に付加される張力をモニタして反射制御部90に通知する。アクチュエータ93は、反射制御部90の制御のもと決定される所定の張力を光増幅媒体30に付加するように駆動するモータ類である。
【0068】
反射制御部90は、上述のように決定される除去することが好ましい波長範囲及び該波長範囲に応じた中心波長が好適な除去の対象となるように、アクチュエータ93を動作させてファイバグレーティング31aの回折格子間の間隔を調節する。図13のグラフに、光増幅媒体30に付加される張力と、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長との関係の一例を示す。図13に示されるように、ファイバグレーティング31aでは、光増幅媒体30に付加される張力に応じて除去する光の波長範囲が線形に変動する。
【0069】
反射制御部90は、このような光増幅媒体30に付加される張力と、ファイバグレーティング31aにより除去される光の波長との関係を示すデータをメモリ内に有している。反射制御部90は、上述のように決定される、除去することが好ましい波長範囲に応じた中心波長が、ファイバグレーティング31aにおける除去波長となるように、光増幅媒体30に付加する張力を決定し、該張力が付加されるようアクチュエータ93の動作を制御する。
【0070】
以上説明したように、光増幅装置1の第2の変形例である光増幅装置1−2によれば、光増幅装置1−1と同様に、ファイバグレーティング31aの反射スペクトルの中心波長をシフトさせることが出来る。従って、このような構成を用いる場合であっても、波長範囲の異なる複数の入力信号光Linに応じて、適切な信号光の過剰な増幅や、雑音光の発生を抑制することが可能となる。
【0071】
(4)効果
上述したように、光増幅装置1、並びに光増幅装置1−1及び光増幅装置1−2によれば、誘導放出による伝搬光の増幅が行われる光増幅媒体30から、特定の波長の光を除去することで、信号光の増幅効率と、雑音特性との向上を図ることが出来る。
【0072】
尚、上述したようにファイバグレーティング31aによる特定の波長の光を除去する態様として、信号帯域外の波長の光のみ除去する場合と、信号帯域内の光についても除去する場合との2通りが考えられる。
【0073】
信号帯域外の光のみ除去する場合、ASEなどの雑音光の発生及び増幅を抑制することで、光増幅媒体30内の反転分布のエネルギーが信号帯域内の光の増幅に関与しない増幅により減少することを抑制出来、結果として信号帯域内の光の増幅効率の向上に繋がる。また、雑音光のパワーを低く抑えることが出来るため、出力信号光Loutの雑音特性を大きく向上させることが出来る。
【0074】
この場合でも、ファイバグレーティング31aによる除去量の反射スペクトルにより信号帯域内の光について多少の除去が生じることが考えられる。このため、信号帯域内の光の除去による増幅効率及び雑音特性の劣化を低く抑制するよう、ファイバグレーティング31aの除去する光の波長特性(例えば、除去量、中心波長及び半値幅)が設定されることが求められる。
【0075】
他方で、信号帯域内の光についても除去する場合、信号帯域内の特に高い増幅利得を受ける波長の光について選択的に除去することで、過剰な増幅を抑制し、信号光波長の利得差を平坦化することが出来る。これにより、信号帯域内の光の増幅効率を向上させることが出来る。また、信号帯域外の光も併せて除去することで、ASEなどの雑音光の発生及び増幅を抑制し、信号帯域内の光の増幅効率と雑音特性とを向上させることが出来る。
【0076】
一方で、信号帯域内の光を除去することにより、増幅効率と雑音特性との劣化も生じることとなる。特に、信号帯域内の光の除去量が大きい場合、増幅効果を過剰に抑制することに繋がり、増幅効率の大きな劣化に繋がる。そこで、増幅効率と雑音特性との劣化が向上効果を上回ることがないよう、除去する光の波長特性が高精度で設定されることが好ましい。一般的に、ファイバグレーティング31aは、反射率に係る反射スペクトルの設計性が高く、高精度な波長特性の設定が可能であるとされており、除去部材31を構成する上で有益である。また、信号帯域内の光の除去量について、信号帯域外の光の除去量に比べて低く設定されることが好ましい。図14のグラフに、波長ごとの光の除去量の割合の例を示す。図14に示されるように、信号帯域外の光の除去量に対して、信号帯域内の光の除去量は、10%未満程度に設定されることが好ましい。
【0077】
図15のグラフに、光増幅装置1の効果として、除去部材31による除去を行わない場合と比較した光増幅媒体30中の励起光ELの単位長さ当たりの低減量の割合と、最悪ノイズの割合との例を示す。図15(a)は、除去なしの場合と比較した励起光ELの単位長さ当たりの低減量の割合を示すグラフであって、図15(b)は、除去なしの場合と比較した最悪ノイズの割合を示すグラフである。尚、いずれの場合においても、入力信号光Linの信号帯域は所謂拡張L−bandと称される1553nm乃至1607.04nmの波長範囲であって、信号帯域内の1570nmを中心波長とする除去と、信号帯域外の1530nmを中心波長とする除去とを組み合わせている。尚、光増幅媒体30中の単位長さ当たりの除去量は、信号帯域外の1530nmを中心波長とする場合の除去量を100%とすると、信号帯域内の1570nmを中心波長とする場合の除去量は(小)1.11%、(中)1.20%、(大)2.67%となる。
【0078】
図15(a)に示されるように、励起光ELの単位長さ当たりの低減量は、信号帯域外の1530nm帯を除去することで3%程度低減する。また、信号帯域内の1570nm帯を除去することで5%程度と大きく低減する。また、信号帯域外の1530nm帯と併せて信号帯域内の1570nm帯を除去することで、8%程度と更に大きく低減する。
【0079】
図15(b)に示されるように、出力信号光Loutの最悪ノイズは、信号帯域外の1530nm帯を除去することで7%程度と大きく低減する。また、信号帯域内の1570nm帯を除去することで2%程度低減する。また、信号帯域外の1530nm帯と併せて信号帯域内の1570nm帯を除去することで、全体で9%程度低減する。このように、信号帯域外の光の除去により、信号帯域内の光の除去と比較してより大きく最悪ノイズを抑制することが可能となり、雑音特性を大きく向上させる。
【0080】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴なう光増幅装置及び光増幅媒体などもまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。例えば、除去手段としてファイバグレーティング以外の構成を用いて光増幅装置及び光増幅媒体を構成してもよい。
【0081】
以上、本明細書で説明した実施形態について、以下の付記にまとめる。
【0082】
(付記1)
信号光を増幅する光増幅装置であって、
前記信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、
前記光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を前記光増幅媒体のコア内から除去する除去手段と
を備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定されることを特徴とする光増幅装置。
【0083】
(付記2)
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記光増幅媒体中の反転分布の程度とに基づいて決定されることを特徴とする付記1に記載の光増幅装置。
【0084】
(付記3)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含み、
前記除去手段は、前記所定の波長範囲のうち前記信号光の波長外の光と比較して、前記信号光の波長の光を除去する量が低く設定されることを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0085】
(付記4)
前記除去手段は、前記コア内に形成される、前記信号光の伝搬方向に対して所定の角度を有するブラッグ回折格子を含むファイバグレーティングであることを特徴とする付記1から3のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【0086】
(付記5)
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向に沿って所定の周期で複数形成されることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0087】
(付記6)
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向の全長にわたって形成されることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0088】
(付記7)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更する変更手段をさらに備えることを特徴とする付記4に記載の光増幅装置。
【0089】
(付記8)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングにおける前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7に記載の光増幅装置。
【0090】
(付記9)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングを伸縮させることにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7又は8に記載の光増幅装置。
【0091】
(付記10)
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングの温度を変更することにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする付記7から9のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【0092】
(付記11)
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記コア内を伝搬する光の波長及び前記光増幅媒体中の反転分布の程度により決定される前記コア内を伝搬する光に対する増幅利得とに基づいて決定されることを特徴とする付記1に記載の光増幅装置。
【0093】
(付記12)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含まないことを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0094】
(付記13)
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含むことを特徴とする付記1又は2に記載の光増幅装置。
【0095】
(付記14)
信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、
当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する除去手段が形成されることを特徴とする光増幅媒体。
【符号の説明】
【0096】
1 光増幅装置、
10、50、60 カプラ、
20 入力PD、
30 光増幅媒体、
31 除去部材、
31a〜31j ファイバグレーティング、
40 励起光源、
70 出力PD、
80 反射制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光を増幅する光増幅装置であって、
前記信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、
前記光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を前記光増幅媒体のコア内から除去する除去手段と
を備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項2】
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記光増幅媒体中の反転分布の程度とに基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の光増幅装置。
【請求項3】
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含み、
前記除去手段は、前記所定の波長範囲のうち前記信号光の波長外の光と比較して、前記信号光の波長の光を除去する量が低く設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光増幅装置。
【請求項4】
前記除去手段は、前記コア内に形成される、前記信号光の伝搬方向に対して所定の角度を有するブラッグ回折格子を含むファイバグレーティングであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【請求項5】
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向に沿って所定の周期で複数形成されることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項6】
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向の全長にわたって形成されることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項7】
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更する変更手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項8】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングにおける前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7に記載の光増幅装置。
【請求項9】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングを伸縮させることにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7又は8に記載の光増幅装置。
【請求項10】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングの温度を変更することにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【請求項11】
信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、
当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する除去手段が形成されることを特徴とする光増幅媒体。
【請求項1】
信号光を増幅する光増幅装置であって、
前記信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体と、
前記光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、所定の波長範囲に属する光を前記光増幅媒体のコア内から除去する除去手段と
を備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定されることを特徴とする光増幅装置。
【請求項2】
前記光増幅媒体に対して励起光を供給することで、前記光増幅媒体のコア内に反転分布を生じさせる励起手段を更に備え、
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長と、前記光増幅媒体中の反転分布の程度とに基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の光増幅装置。
【請求項3】
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲は、前記信号光の波長を含み、
前記除去手段は、前記所定の波長範囲のうち前記信号光の波長外の光と比較して、前記信号光の波長の光を除去する量が低く設定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光増幅装置。
【請求項4】
前記除去手段は、前記コア内に形成される、前記信号光の伝搬方向に対して所定の角度を有するブラッグ回折格子を含むファイバグレーティングであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【請求項5】
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向に沿って所定の周期で複数形成されることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項6】
前記ファイバグレーティングは、前記光増幅媒体のコア内において、前記信号光の伝搬方向の全長にわたって形成されることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項7】
前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更する変更手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の光増幅装置。
【請求項8】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングにおける前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7に記載の光増幅装置。
【請求項9】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングを伸縮させることにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7又は8に記載の光増幅装置。
【請求項10】
前記変更手段は、前記ファイバグレーティングの温度を変更することにより、前記ブラッグ回折格子の間隔を変更することで、前記除去手段が除去する前記所定の波長範囲を変更することを特徴とする請求項7から9のいずれか一項に記載の光増幅装置。
【請求項11】
信号光が伝搬するコアを有する光増幅媒体であって、
当該光増幅媒体のコア内を伝搬する光のうち、当該光増幅媒体における前記信号光の伝搬方向に沿った位置に応じて決定される所定の波長範囲に属する光を当該光増幅媒体のコア内から除去する除去手段が形成されることを特徴とする光増幅媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−249531(P2011−249531A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120665(P2010−120665)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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