説明

光変調材料およびその製造方法

【課題】透明性が高く、SrxBa1-xNb2O6結晶の体積分率の多い、SrxBa1-xNb2O6結晶とガラスの複合材料からなる透明な光変調材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3であり、a+b+c+d=100で且つ(a+b+c)>60である酸化物から構成されるガラス中に、タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)結晶がガラス全域にわたり均一に存在しているガラスセラミックスにより構成された光変調材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信分野における光変調、光スイッチング、アイソレーター等に用いられる光変調材料およびその製造法に関する。詳細には、SrxBa1-xNb2O6結晶とガラスの複合材料からなる透明な光変調材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信分野において透明な酸化物強誘電体を母材とする外部光変調器が実用化されている。これらの母材はニオブ酸リチウムが代表的である。これらの動作原理は反転対称性を持たない結晶の電気光学効果に由来する。母材に変調電気信号を印可することで母材内の屈折率が変化し、透過する光の位相、強度を変化させるものである。
【0003】
従来の外部光変調器の母材となる酸化物強誘電体は透明性を必要とするため、単結晶材料が一般的に用いられている。しかしながら、単結晶材料に良質な導波路構造を付与することは容易ではなく、結果として作用長を長くしないと十分な屈折率変化を設けることができず、素子の低コスト化、小型化に不利である。
【0004】
近年ニオブ酸リチウムの電気光学効果を遥かに超える材料としてタングステンブロンズ型SBN(SrxBa1-xNb2O6)結晶が注目されている(例えば、非特許文献1,2参照)。SBN結晶はSr/Ba比に応じてキュリー点が変化し、x = 0.61で室温付近の誘電率が最大となる。しかしながらSBN結晶は単結晶育成プロセスが高度な技術が要求されること、また大型の結晶育成が困難であることから、安価な製造方法は見出されていない。
【0005】
単結晶以外で、透明な結晶を得る方法としては固相反応によるセラミックスの合成、およびガラスの結晶化よる合成方法が提案されている。これらの合成手法は単結晶作製に比べて簡便で安価である。SBN結晶を形成した例としては下記の文献の報告がある。(非特許文献3〜5,特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4166032号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Takekawa,Y.Furukawa, M.Lee and K.Kitamura; “Double crucible Stepanov technique for thegrowth of striation-free SBN single crystal”, J.Crystal Growth, 229 (2001) 238.
【非特許文献2】S.Takekawa, Y.Furukawa, N.Kaneko andK.Kitamura; “Single Crystal Growth of SBN by the Floating Zone Method”, J. Crystal Growth, 229(2001) 212.
【非特許文献3】A.R. Kortanら, Novel ferroelectric ceram-glass of [(SrO)(y)(BaO)(1-y)(Nb2O5)](1-x)tellurite, J. Mater. Res., Vol. 17, No.5, 1208, 2002.
【非特許文献4】Jiin-Jyh Shyuら, Crystallization and Dielectric Propertiesof SrO-BaO-Nb2O5-SiO2 Tungsten-BronzeGlass-Ceramics, J. Am. Ceram. Soc., 83 3135, (2000).
【非特許文献5】Nobuko S. VanDammeら, Fabrication of optically Transparent andElectro-optic Strontium Barium Niobate Ceramics, J. Am. Ceram. Soc., 74 1785(1991).
【0008】
しかしながら、得られるSBN結晶が単結晶に匹敵する光透過性を達成し、電気光学効果を発現するためには、(1)結晶構成酸化物の体積分率が大きいこと、(2)結晶のサイズを光の波長よりも小さくすること、(3)結晶とガラス層の屈折率差を小さくすること、が重要となる。すなわち、ガラス組成と結晶化のプロセス管理を制御する必要がある。
【0009】
特許文献1では、モル%表示で12.5SrO−12.5BaO−8Nb2O5−67B2O3において半透明の結晶化ガラスが得られたとの報告がある。また、非特許文献3のTeO2系結晶化ガラスでも透明な結晶化ガラスが得られたとの報告がある。しかしながら、これらの結晶が透明である理由は結晶の体積分率が小さいためであり、これでは十分な電気光学効果を発現することは難しい。また非特許文献5では体積分率は100にほぼ近いSBN焼結体で複屈折を測定している。しかしながら、このようなSBN焼結体において、散乱の原因となる粒界内に存在する空隙を完全に除去し、透明性を改善することは極めて困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り従来技術では光変調器の実用に耐え得るような、透明性が高く、SBN結晶の体積分率の多い材料は見出されていなかった。したがって、本発明は、SrxBa1-xNb2O6(0.25≦x≦0.75)結晶とガラスの複合材料からなる透明な光変調材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、SrxBa1-xNb2O6(0.25≦x≦0.75)結晶を析出する母ガラスを原料として用いることにより、透明な光変調材料を得ることができることを見出し、本発明として提案するものである。
すなわち、本発明では次の1.〜10.の構成を採用する。
1.化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100且つ(a+b+c)>60である酸化物から構成されるガラス中に、タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)結晶がガラス全域にわたり均一に存在しているガラスセラミックスにより構成された光変調材料。
2.前記タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)結晶の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする1.に記載の光変調材料。
3.前記タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6
(0.25≦x≦0.75)結晶の前記ガラスセラミック中の体積分率が20〜75%であることを特徴とする1.又は2.に記載の光変調材料。
4.前記ガラスセラミックスの光透過率が50%以上であることを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の光変調材料。(本発明において、光透過率が50%以上であるとは、波長が450〜2000nmの範囲のうちの、いずれかの単一もしくは多波長の光に対して50%以上の透過率を有することを意味する。特に、通信波長領域である1550nm近傍の光透過率が50%以上であることが重要である。)
5.前記ガラスセラミックスの光が進行する領域の両側面に電場印加用の電極を設けたことを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の光変調材料。
6.前記電極が金属薄膜により構成されたものであることを特徴とする5.に記載の光変調材料。
7.化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100且つ(a+b+c)>60である酸化物から構成されるガラスを熱処理することを特徴とする、1.〜4.のいずれかに記載の光変調材料の製造方法。
8.前記熱処理を、ガラス転移温度−80℃以下の温度から結晶化開始温度の間の温度にて、ガラスセラミックスの光透過率が50%以上となるまで行うことを特徴とする7.に記載の光変調材料の製造方法。
9.さらに、ガラスセラミックス中の光が進行する領域の両側面に電場印可用の電極を設けることを特徴とする7.又は8.に記載の光変調材料の製造方法。
10.ガラスセラミックス中の光が進行する領域の両側面に金属薄膜を形成することによって前記電極を設けることを特徴とする9.に記載の光変調材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明性が高く、結晶構成酸化物の体積分率が大きく、しかもガラス層とSBN結晶の屈折率の差が小さい光変調材料を得ることができる。従来のSBN結晶化ガラスは不透明なものが多く、電気光学材料として使用するには不適当であった。本発明の光変調材料は、単結晶に匹敵する光透過性を有し、しかも安価に製造することができることから、光変調、光スイッチング、アイソレーター等の用途に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】製造例1で作製したガラスのバルク体Aの示差熱分析(DTA)パターンを示す図である。
【図2】実施例1の試料A、及び試料Aを熱処理して得られた試料D〜IについてのX線回折パターンを示す図である。
【図3】実施例2の試料B、及び試料Bを熱処理して得られた試料J〜OについてのX線回折パターンを示す図である。
【図4】実施例3の試料C、及び試料Cを熱処理して得られた試料P〜UについてのX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例2で得られた試料N粉末の透過電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例4において、作製した光変調材料の光変調特性を測定するシステムを示す模式図である。
【図7】実施例4において、試料Bおよび試料Mの光変調測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光変調材料は、化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100且つ(a+b+c)>60である母ガラスに、熱処理を施すことによって製造することができる。本発明において、「母ガラス」とは熱処理することにより結晶化し目的とする結晶体が析出するガラスのことを意味する。
この母ガラスを熱処理すると、タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)結晶が、ガラス全域にわたり均一に存在しているガラスセラミックスを得ることができる。
【0015】
母ガラスの作製法は一般に実用的なガラス材料の作製法であれば特に限定されるものではない。しかしながら、大量生産、製造コストの点を考慮すると、ガラス融液を急冷却することでガラス体を得る溶融急冷法が特に好ましい。
原料については、ストロンチウム、バリウム、ニオブ、ホウ酸を含有する無機塩(特に酸化物、炭酸塩が好ましい)、有機金属化合物、あるいはSBN結晶粉末等の複合酸化物等が挙げられる。しかしながら、所望の組成になるように調整できる試薬であれば、その種類は特に限定されない。
【0016】
上記の特許文献1は、核形成剤材の添加による結晶化ガラスの作製を開示しているが、一般に周知の核形成剤を添加することにより結晶化を促進できることは容易に想定できる。また、核形成剤として知られるイオンは結晶中に固溶し、結果として結晶本来の電気的特性が発揮しない恐れがある。また、目的結晶を構成する酸化物(SrO, BaO, Nb2O5)以外の酸化物は、ガラス構成酸化物(B2O3)を除いて、結晶化ガラス中に添加することは好ましくない。
【0017】
ガラス原料の溶融は、SBN結晶の液相以上の温度であれば特に限定されるものではない。融液の均質化、ホウ酸の揮発を考慮すると、概ね1000〜1450℃が好適な溶融温度である。溶融温度が1450℃よりも高温となるとホウ酸が揮発してしまい、均質なガラスを得ることが難しい。
【0018】
ガラス組成は透明性が高く、電気光学効果が十分発現するSBN結晶が析出する組成が好適である。aSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100としたときに、60 ≦ (a+b+c) <
80, 20≦d≦40の組成が好ましい(このa,b,c,dの数値は、ガラス組成のモル%表示に対応するものである)。特に、25≦d≦38の組成が好ましい。dが25よりも小さくなると、ガラス化が困難となる。一方、dが38より大きいと、ガラス化は容易でも、SBN結晶の体積分率が小さくなり、光変調器の作用長が長くなってしまうおそれがある。
【0019】
母ガラスのSr/Ba比と結晶のSr/Ba比はほぼ等しいのでタングステンブロンズ構造を持ち、電気光学係数が高くなるSrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)の組成範囲が好ましい。最も電気光学係数が高くなるx = 0.61近傍組成が特に好ましい。
【0020】
ガラスから透明なSBN結晶を得るには結晶粒が成長しにくい温度領域にて熱処理する必要がある。この理由は、結晶粒のサイズが光の波長よりも小さくないと光透過性が低下するためである。結晶粒のサイズ(平均粒径)は0.05〜100nm程度が好ましく、0.1〜60nm程度が特に好ましい。
また、熱処理後の試料中における結晶粒の体積分率は、20〜75%が好ましく、25〜70%が特に好ましい。体積分率が20%未満においては、電気光学効果による屈折率変化量が著しく小さくなるために、光変調器の作用長が長くなるおそれがある。一方、体積分率が75%を超えると、残存するガラスとの屈折率差が大きくなり光散乱を増大させるおそれがある。
【0021】
このような結晶化を達成するために、熱処理温度は母ガラスのガラス転移温度−80℃から結晶化開始温度の領域とすることが好ましい。特に好ましくは、結晶化開始温度−60℃から結晶化開始温度までの温度領域である。この温度領域において一定温度で熱処理することが好ましい。熱処理時間は特に限定されるものではないが、十分な体積分率を得るために概ね10〜72時間を要する。以上の工程で透明性の高い結晶化ガラスが得られる。
【0022】
光変調器を作製するには、図6に見られるように、結晶化ガラスで構成した光変調材料1の光が進行する領域(光導波路)の両側面に電極2、2を形成する。そして、この光変調器に所望の変調信号を持つ電圧を印加することで、光変調器の光変調を可能とする。光変調材料1に均質な電極を設けるためには、スパッタリング法、コーティング法、真空蒸着法等により金、白金、銀、銅、ニッケル、クロム等の導電性の金属薄膜を形成することが好ましい。偏光子4を通して直線偏光の光を光変調器に入射し、出射端に偏光方向と直交する検光子7を設けることで位相変調器を作製することが可能となる。電場印加による入射光の位相差が変化することで変調を検出することができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。以下の例では、DTA(differential thermal analysis:示差熱分析)はリガク社製の「TG8120」を用いて、定法により測定した。また、X線回折(XRD)は マックサイエンス社製の「M03XHF22」を使用して測定した。
(製造例1:母ガラスの作製)
SrCO3, BaCO3,
Nb2O5, B2O3を原料とし、モル%表示で16SrO-16BaO-32Nb2O5-36B2O3(試料A)となるように秤量し、電気炉中1350℃で30分間溶融した。融液をプレス急冷した後に、全ての組成でガラス状態であることをX線回折(XRD)法により確認した。得られた母ガラスの熱物性をDTA(differential thermal analysis:示差熱分析)によって測定した。図1に作製したガラスAのバルク体のDTAパターンを示す。このガラスAにおけるガラス転移温度Tgは599℃, 結晶化開始温度Txは669℃であった。
【0024】
(製造例2,3)
原料の組成を表1に記載のように変化させた以外は、製造例1と同様にして透明な母ガラスB(製造例2)、及びC(製造例3)を得た。得られた母ガラスの熱物性を表1に、またDTAパターンを図1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
上記の製造例1〜3で得られたガラスA〜Cは、いずれもSrxBa1-xNb2O5の結晶化に由来する、示差熱分析で650〜680℃の温度範囲で確認される発熱ピークを有する。(図1参照)
【0027】
(実施例1:結晶化ガラスの製造)
製造例1で作製したガラスAに研磨を施した。次いで、このガラスAをガラス転移温度近傍から結晶化温度までの、表2に記載の温度で10時間の熱処理を行うことにより結晶化処理を行った。得られた試料D〜Iについての熱物性を表2に、またX線回折パターンを図2に示す。図中の括弧内の数字はSr0.5Ba0.5Nb2O6結晶のミラー指数を示している。
F〜Iの試料で確認される回折ピーク位置は既知のSr0.5Ba0.5Nb2O6結晶(ICSD#240388)と同じであった。結晶の格子定数をシェラー式を用いて見積もったところ、20〜40nmの平均粒径を持つことがわかった。熱処理温度の低いD,Eの試料では、10時間の熱処理では結晶化は不充分であるが、熱処理時間をさらに延長することによってF〜Iの試料と同様に結晶化が進行した。
【0028】
【表2】

【0029】
(実施例2)
実施例1において、ガラスAに代えて製造例2で得られたガラスBを使用した。ガラスBをガラス転移温度近傍から結晶化温度までの、表3に記載の温度で10時間の熱処理を行うことにより結晶化処理を行った。得られた試料J〜Oについての熱物性を表3に、またX線回折パターンを図3に示す。図中の括弧内の数字はSr0.61Ba0.39Nb2O6結晶のミラー指数を示している。
L〜Oの試料で確認される回折ピーク位置は既知のSr0.61Ba0.39Nb2O6結晶(ICSD#240389)と同じであった。結晶の格子定数をシェラー式を用いて見積もったところ、20〜40nmの平均粒径を持つことがわかった。熱処理温度の低いJ,Kの試料では、10時間の熱処理では結晶化は不充分であるが、熱処理時間をさらに延長することによってL〜Oの試料と同様に結晶化が進行した。
【0030】
【表3】

【0031】
(実施例3)
実施例1において、ガラスAに代えて製造例3で得られたガラスCを使用した。ガラスCをガラス転移温度近傍から結晶化温度までの、表4に記載の温度で10時間の熱処理を行うことにより結晶化処理を行った。得られた試料P〜Uについての熱物性を表4に、またX線回折パターンを図4に示す。図中の括弧内の数字はSr0.75Ba0.25Nb2O6結晶のミラー指数を示している。
R〜Uの試料の回折ピーク位置は一部SrNb2O6由来の回折(図中●印)が確認されたが、それ以外は既知のSr0.75Ba0.25Nb2O6結晶(ICSD#15614)と同じであった。結晶の格子定数をシェラー式を用いて見積もったところ、20〜40nmの平均粒径を持つことがわかった。熱処理温度の低いP,Qの試料では、10時間の熱処理では結晶化は不充分であるが、熱処理時間をさらに延長することによってR〜Uの試料と同様に結晶化が進行した。
【0032】
【表4】

【0033】
上記の各実施例によれば、A,B,C各ガラスを、それぞれの結晶化開始温度(Tx)で熱処理した試料I, O, Uでの結晶の平均粒径は60nmを超えており、熱処理温度の上昇により粒径は増大することが判明した。図5は、実施例2で結晶化処理を施した試料N粉末について、日本電子社製の「JEM-2010」を用いて撮影した透過電子顕微鏡写真である。図5より、粒子1個は長手方向に約34 nm, 短軸方向に約16 nmの楕円形のSr0.61Ba0.39Nb2O6結晶単相から構成されていることがわかる。他の試料D〜Uにおいても同様に評価を行い、結晶の平均粒径がシェラー式を用いて得られた粒径と同程度であることを確認した。
【0034】
(結晶化試料の光物性測定)
実施例1〜3で熱処理により結晶化した各試料の光透過率を、可視・近赤外分光光度計(ニコレー・ジャパン社製の「Impact 400」)にて測定した。試料寸法は10mm×10mm×1mm厚とし、鏡面研磨を施した試料を測定した。試料1mmあたりの波長650nmおよび1550nmにおける光透過率を表2〜4に示す。尚、この値はフレネル反射による表面での損失も含むため、実際の透過率はこれよりも大きいと予測できる。熱処理温度の上昇に伴い結晶粒のサイズが増大することで、光散乱の影響により可視域にて透明性が低下した。しかしながら通信波長帯域である1550nm近傍では60%を超える透明性を示し、光変調材料として必要な特性を有していることが判明した。
【0035】
(実施例4:電極の形成と光変調特性の測定)
実施例2で原料とした用いた試料B、および熱処理により結晶化した試料Mを、1mm×1.5mm×10mmに切断した。全ての面を鏡面研磨した後に、1.5mm×10mmの両面に銀ペーストを塗布乾燥して薄膜電極を形成した。
図6は、作製した光変調材料の光変調特性を測定するシステムを示す模式図である。このシステムでは、上記で得られた試料(光変調材料)1の電極2,2を高圧交流電源3に接続した。また、試料1の1mm×10mmの面の一方から偏光子4を通った直線偏光の半導体レーザー5(波長650nm)を導入し、1/4波長板6、検光子7を通してクロスニコルの状態になるように配置した。電界の印可方向と直線偏光の電界ベクトルの振動方向は45°傾けて配置した。検光子6を透過した光量をSiフォトダイオード8で検出し、信号増幅器9で増幅して電界印加による出力光強度変化をオシロスコープ10にて測定した。
【0036】
図7に、試料BおよびMの光変調測定の結果を示す。この図は、電極間距離1mmに対して±3kVの正弦波を1kHz印可した際の出力光強度の変化を示している。結晶化を施していない試料Bでは強度に変化は現れなかった。これに対して、結晶化を施した試料Mでは1kHzの2倍である2kHzの波形を示したことから、電気光学効果による位相変調が起きていることが判明した。
同様に,実施例1〜3で得られた各試料について光変調測定を行ったところ、同様に明確なレタデーションの変化を示した。セナルモン法により電界誘起の複屈折を定量したところ、電気光学係数の実効値は約1.5pm/Vであった。
【0037】
本発明によれば、数十ナノメートルの結晶径を有するタングステンブロンズ型SBN結晶がガラス中に均一に分散したガラスセラミックスを得ることができる。本発明では、SBN多結晶の結晶径を光の波長よりも小さくすることで散乱ロスを低減し、ナノ結晶となった場合でも電気光学係数が実効値で数pm/Vを発現することができた。
従来の単結晶ガラスを用いた光変調材料は、分極軸に直交する光に対しては全く応答しない。これに対して、本発明の光変調材料は従来の光変調材料の持つ偏波依存性を解消できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明で得られる光変調材料は光変調器、光スイッチング素子、導波路、アッテネータ、のような光部品等に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0039】
1 試料(光変調材料)
2,2 薄膜電極
3 高圧交流電源
4 偏光子
5 半導体レーザー
6 1/4波長板
7 検光子
8 フォトダイオード
9 信号増幅器
10 オシロスコープ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100且つ(a+b+c)>60である酸化物から構成されるガラス中に、タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6 (0.25≦x≦0.75)結晶がガラス全域にわたり均一に存在しているガラスセラミックスにより構成された光変調材料。
【請求項2】
前記タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6
(0.25≦x≦0.75)結晶の平均粒径が100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の光変調材料。
【請求項3】
前記タングステンブロンズ型SrxBa1-xNb2O6
(0.25≦x≦0.75)結晶の前記ガラスセラミック中の体積分率が20〜75%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光変調材料。
【請求項4】
前記ガラスセラミックスの光透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光変調材料。
【請求項5】
前記ガラスセラミックスの光が進行する領域の両側面に電場印加用の電極を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光変調材料。
【請求項6】
前記電極が金属薄膜により構成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の光変調材料。
【請求項7】
化学組成式がaSrO-bBaO-cNb2O5-dB2O3で、a+b+c+d=100且つ(a+b+c)>60である酸化物から構成されるガラスを熱処理することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の光変調材料の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理を、ガラス転移温度−80℃以下の温度から結晶化開始温度の間の温度にて、ガラスセラミックスの光透過率が50%以上となるまで行うことを特徴とする請求項7に記載の光変調材料の製造方法。
【請求項9】
さらに、ガラスセラミックス中の光が進行する領域の両側面に電場印可用の電極を設けることを特徴とする請求項7又は8に記載の光変調材料の製造方法。
【請求項10】
ガラスセラミックス中の光が進行する領域の両側面に金属薄膜を形成することによって前記電極を設けることを特徴とする請求項9に記載の光変調材料の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−222240(P2010−222240A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39468(P2010−39468)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】