説明

光変調素子および通信システム

本発明の光変調素子は、電気光学効果を有する材料から形成された光導波路2a〜2dと、光導波路2a〜2dを伝搬する光に変調用電気信号を印加するための変調電極3とを備えた光変調素子である。この光変調素子は、等価屈折率が光伝搬方向に沿って周期的に変化する周期構造を更に備えており、この周期構造は、光導波路2a、2bを伝搬する光の群速度を低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光通信システムや光信号処理システムなどに好適に用いられる光変調素子と、当該光変調素子を備えた通信システムに関している。
【背景技術】
光変調素子は、高速光通信や光信号処理システムにおいて基本となる素子であり、将来、超高速(30GH以上)で動作できる光変調素子の必要性が益々増大するものと考えられる。
従来、利用されてきた半導体レーザによる直接変調では、超高速光変調に対応することが困難であるため、最近では、高速動作が可能な外部変調型の素子の開発が急がれている。中でも、特に大きなポッケルス効果を有する誘電体結晶を用いた電気光学型の光変調素子は、超高速動作が可能であり、光変調に伴う光信号の位相の乱れも少ないことから、高速情報伝送や長距離光ファイバ通信などに非常に適している。さらに、光導波路構造を用いれば、小型化と高効率化とを一挙に実現できる可能性がある。
一般に、電気光学効果を用いた光変調素子は、電気光学結晶上に設けられた変調電極として機能する伝送導体線路と、伝送導体線路の近傍に形成された光導波路とを備えている。変調用の高周波信号を変調電極に与えることにより、変調電極の周辺に誘起される電界に応じて光導波路部分の屈折率が変化すると、光導波路中を伝搬する光波の位相が変化する。
光変調の効率を決める基本となるパラメータの1つである電気光学係数は、通常の結晶では比較的小さい。従って、電気光学効果を利用する光変調素子で高い変調効率を実現するためには、電界を光導波路に効率よく印加することが重要となる。
図14は、文献(IEEE Journal of Quantum Electronics.Vol.QE−13,no.4,pp287−290,1977)に記載されている従来の光変調素子を示す斜視図である。この光変調素子は、電気光学効果を有する結晶材料の基板1の表面に形成された光導波路(2a〜2d)と、光導波路(2a〜2d)を伝搬する光に変調用の電気信号(変調波)を印加するための変調電極3とを備えている。変調電極3は、互いに平行な2つの導体線路3a、3bによって構成されたコプレナー導体線路構造を有している。
光導波路2a〜2dは、変調されるべき光(入力光)が導入される入口側光導波路部分2c、変調光が出力される出口側光導波路部分2d、および、入口側光導波路部分2cと出口側光導波路部分2dとを結合する2つの分岐導波路部分2a、2bを有している。
光導波路2a〜2dは、2箇所の分岐点7a、7bで2つの分岐導波路2a、2bに分岐しており、入口側光導波路2cから入力された入力光が一方の分岐点7aで分岐して2つの分岐導波路2a、2bを通過した後、他方の分岐点7bで共通の出口側光導波路2dを進むように構成されている。
なお、変調電極3を構成する導体線路3a、3bの内側端は、各分岐導波路2a、2bのほぼ中央部の直上に位置しており、導体線路3a、3bの各々一端には変調用高周波の信号源4が接続され、他端には終端抵抗5が接続されている。
信号源4から高周波信号(変調波)が変調電極3に供給されると、変調波は、変調電極3上に光伝搬方向と方向に伝搬し、間隙部6に電界を形成する。このため、電気光学効果により、分岐導波路2a、2bを構成する材料の屈折率が電界強度に応じて変化する。分岐導波路2aと分岐導波路2bとには互いに上下逆方向の電界が印加されるので、基板1が例えばzカットのニオブ酸リチウム結晶により構成されている場合、2つの分岐導波路2a、2bを通る光には互いに逆の位相変化が与えられる。
図14に示す光変調素子によれば、変調電極3を伝搬する変調波と光導波路2を伝搬する光波とが同一方向に進行することにより、光波と信号波との相互作用が増し、高い効率の光変調が可能となる。
しかしながら、ニオブ酸リチウムに代表される電気光学結晶の電気光学定数は非常に小さいため、変調電極3を延長して数cm程度の長さにしても、充分な変調を得るには、数ボルト程度の高い電圧を電気光学結晶に印加しなければならない。光変調素子を小型化し、また、必要な変調電圧を低減するためには、光波と電気光学材料との相互作用を向上させることが必要である。
一方、電気光学結晶の屈折率が約2.1であるのに対し、マイクロ波に対する誘電率が20〜40程度と非常に高いため、光の速度がマイクロ波の速度に対して2倍以上も高く、その結果、進行波型電極の光変調素子において光と信号波の速度整合がとれないという問題がある。速度整合がとれない場合、変調電極を長く設定しても、適切な変調が実現できず、変調効率が劣化することになる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、主たる目的は、光通信システムに好適に用いられる変調効率の高い光変調素子を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、効率的に光変調が可能な小型の光変調素子を備えた通信システムを提供することにある
【発明の開示】
本発明の光変調素子は、電気光学効果を有する材料から形成された光導波路と、前記光導波路を伝搬する光に変調用電気信号を印加するための変調電極とを備えた光変調素子であって、等価屈折率が光伝搬方向に沿って周期的に変化する周期構造であって、前記光導波路を伝搬する光の群速度を低下させる周期構造を更に備えている。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の凹部および/または凸部によって構成されている。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の溝によって構成されている。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の穴によって構成されている。
好ましい実施形態において、前記光導波路に設けられた前記溝または前記穴の個数は100以上である。
好ましい実施形態において、前記溝または孔の深さは、前記導波路の厚さの50%以下である。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、誘電体膜によって覆われている。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、前記光導波路上に設けられた誘電体膜のパターンから形成されている。
好ましい実施形態において、前記周期構造は、前記光伝搬方向に沿って直列的に配列された第1領域および第2領域と、前記第1領域および前記第2領域の間に設けられた中間部分とを含んでいる。
好ましい実施形態において、前記周期構造の光伝搬方向における等価屈折率の変化の周期は、変調されるべき光の前記光導波路内における波長λの1/4以上1/2以下の範囲の数値に設定されている。また、前記周期構造の光伝搬方向における等価屈折率の変化の周期は、前記数値の奇数倍の長さでも有効である。
好ましい実施形態において、前記中間部分の光伝搬方向の長さは、約1/2λである。前記中間部分の光伝搬方向の長さは、1/2λの整数倍であってもよい。
好ましい実施形態において、前記光導波路は、変調されるべき光が入力される入口側光導波路部分と、変調光が出力される出口側光導波路部分と、前記入口側光導波路部分と前記出口側光導波路部分とを結合する少なくとも2つの分岐導波路部分とを有しており、前記変調電極は、各分岐導波路部分を伝搬する光に前記変調用電気信号を印加する少なくとも2本の導体線路を有しており、各分岐導波路部分を伝搬してきた光の前記出口側光導波路部分における干渉を利用して光強度を変調する。
好ましい実施形態において、前記光導波路は、変調されるべき光が入力する一端と変調光が出力する他端とを有する単一の光導波路であり、前記変調電極は、前記光導波路に前記変調用電気信号を印加する少なくとも2本の導体線路を有しており、前記光導波路を伝搬してきた光の位相を、前記変調用電気信号に応じて変調する。
好ましい実施形態において、前記光導波路は、電気光学結晶基板に形成されている。
好ましい実施形態において、前記光導波路は、前記電気光学結晶基板の表面に形成されたリッジに形成されている。
好ましい実施形態において、前記光導波路は、基板に支持された電気光学効果を有する材料から形成されている。
好ましい実施形態において、前記光導波路を伝搬する光の群速度は、前記電極を伝わる高周波の位相速度の0.5倍以上2倍以下に調節されている。
好ましい実施形態において、前記光導波路を伝搬する光の群速度は、前記周期構造が形成されていない光導波路を伝搬する光の群速度の50%以下に設定されている。
本発明の通信システムは、上記いずれかの光変調素子と、前記光変調素子から出力された変調光を伝送する光ファイバと、前記光変調素子に変調用電気信号を与える手段とを備えている。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による光変調素子の第1の実施形態を示す斜視図である。
図2(a)は、図1に示す光変調素子の平面図であり、図2(b)は領域Aの書拡大図、図2(c)は、領域Aの断面図である。
図3(a)は、本発明の第1の実施形態における群速度に関する計算に用いた周期構造モデルを示す断面図であり、図3(b)は、前記周期構造モデルの光透過特性を示し、図3(c)は、この周期構造モデルを伝搬する光波の遅延時間を示すグラフである。
図4(a)は、本発明による光変調素子の第2の実施形態の平面図であり、図4(b)は領域Aの拡大平面図、図4(c)は、領域Aの拡大断面図である。
図5は、本発明による光変調素子の第3の実施形態の平面図である。
図6(a)は、本発明による光変調素子の第4の実施形態の平面図であり、図6(b)は領域Aの拡大平面図、図6(c)は、領域Aの拡大断面図であり、図6(d)は、領域Aの他の形態の拡大断面図である。
図7(a)は、本発明による光変調素子の第5の実施形態の平面図であり、図7(b)は、そのA−A’線断面図である。
図8は、第5の実施形態で使用するエッチングマスクを示す平面図である。
図9は、第5の実施形態におけるリッジ導波路の断面図である。
図10は、第5の実施形態におけるリッジ導波路の長手方向に平行な断面図である。
図11(a)から(c)は、それぞれ、リッジ導波路が形成された種々の基板の断面図である。
図12は、凹部が配列されたリッジ導波路を示す斜視図である。
図13は、本発明による通信システムの実施形態を示す図である。
図14は、光変調素子の従来例を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(実施形態1)
以下、本発明による光変調素子の第1の実施形態を説明する。
まず、図1を参照する。本実施形態の光変調素子は、電気光学効果を有する材料から形成された光導波路2a〜2dと、光導波路2a〜2dを伝搬する光波に変調用の電気信号(変調波)を印加するための変調電極3とを備えている。本実施形態の光変調素子に特徴的な点は、等価屈折率が光伝搬方向に沿って周期的に変化する周期構造を有している点にあるが、この点は後に詳しく説明する。
本実施形態の光導波路2a〜2dは、前述した従来の光変調素子(図14)と同様に、変調されるべき光(入力光)が導入される入口側光導波路部分2c、変調光が出力される出口側光導波路部分2d、および、入口側光導波路部分2cと出口側光導波路部分2dとを結合する2つの分岐導波路部分2a、2bを有している。本実施形態の光変調素子によって変調可能な入力光の波長範囲は、例えば0.6μm〜1.5μmである。
本実施形態の光導波路2a〜2dは、電気光学効果を有する基板1の表面部に形成されている。すなわち、光導波路2a〜2dは、基板1の主面に垂直な方向に光を閉じ込めることができるように、他の部分よりも屈折率が相対的に高められた領域から構成されている。光導波路2a〜2dの厚さ(基板1の主面に垂直な方向のサイズ)は、例えば1〜5μmである。なお、基板1は、タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶やニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶などの電気光学材料から形成される。
光導波路2a〜2dは、基板1の上面における選択された領域に対して、安息香酸を用いたプロトン交換処理を行うか、あるいは、金属チタンを熱拡散するなどの方法で形成され得る。このような処理は、光導波路の平面レイアウトを規定する開口部を有するマスクで基板1の上面を覆った後に行われ得る。マスクの開口部のレイアウトを変更することにより、任意形状の光導波路を形成することが可能である。
本実施形態における光導波路2a〜2dは、2箇所の分岐点7a、7bで2つの分岐導波路部分2a、2bに分岐しているため、入口側光導波路部分2cから入力された光は、一方の分岐点7aで分岐して2つの分岐導波路部分2a、2bを伝搬する。そのとき、分岐導波路部分2a、2bを伝搬する光がそれぞれ変調電極3a、3bによる変調を受けることになる。そして、他方の分岐点7bで共通の出口側光導波路部分2dを進むとき、干渉して光強度が変調される。
本実施形態の変調電極3は、非対称コブレナー電極であり、分岐導波路部分2a、2bの各々を伝搬する光に対して変調用の電気信号(例えば1G〜100GHzの高周波信号)を印加する2本の導体線路3a、3bを有する。分岐導波路部分2a、2bに沿って延びる2つの導体線路3a、3bのうち、導体線路3aはホット電極、導体線路3bはグランド電極として機能する。
導体線路3a、3bの内側端は、分岐導波路部分2a、2bのほぼ中央部の直上に位置するように配置されている。各導体線路3a、3bの両端部は、基板1の側面に延びている。導体線路3a、3bの一端は信号源4に接続され、他端は終端抵抗5に接続されている。より詳細には、導体線路3aの一端と信号源4とは入出力導体線路11aによって接続され、導体線路3aの他端と終端抵抗5とは入出力導体線路11bによって接続されている。
導体線路3a、3bおよび入出力導体線路11a、11bは、真空蒸着法などの薄膜堆積技術によって基板1上に導電性薄膜を形成した後、この薄膜をフォトリソグラフィ及びエッチング技術によってパターニングすることによって形成され得る。このような導電性薄膜は、好ましくはアルミニウムや金から形成される。
入口側光導波路部分2cから導入された光は、各分岐導波路2a、2bを通過する際に、以下のようにして変調作用を受ける。
まず、入力導体線路11aに外部の駆動回路から変調用電気信号(周波数:1〜100GHz)を入力することにより、変調電極3の各導体線路3a、3bに変調信号が伝搬する。導体線路3a、3b上を変調用電気信号が伝わることにより、導体線路3aと導体線路3bとの間隙部6に電界が生じる。この電界が分岐導波路2a、2bを構成する電気光学材料に及ぶと、電気光学的効果により、その部分の屈折率が変化する。屈折率の動的な変化は、分岐導波路2a、2bに及ぶ電界の強度に応じて異なる。
本実施形態では、分岐導波路2aと分岐導波路2bとに互いに上下逆方向の電界が印加される。このため、基板1が例えばzカットのニオブ酸リチウム結晶により構成されている場合、2つの分岐導波路2a、2bを通る光には互いに逆の位相変化が与えられる。その結果、出口側光導波路2dでは、分岐導波路2a、2bを通過した2つの光の干渉が生じ、この干渉によって光強度が変化する。こうして、本実施形態の光変調素子は光強度変調器として動作することになる。
本実施形態では、前述したように、分岐導波路2a、2bに周期的構造が設けられ、それによって光波の群速度が低減されている。
以下、図2(a)から(c)を参照しながら、この周期的構造を詳細に説明する。図2(a)は、図1の光変調素子の平面図、図2(b)は、その領域Aの拡大平面図、図2(c)は、図2(b)の断面図である。
図2(a)では、簡単のため、変調電極3の記載を省略し、光導波路2a〜2dの全体に参照符号「2」を記載している。分岐導波路2a、2bの各々について周期構造が形成されているため、以下において、一方の分岐導波路2bの領域Aに形成された周期構造のみを説明する。
本実施形態の周期構造は、図2(b)および(c)に示すよう、複数の溝8によって構成されている。より詳細には、この周期構造は、光伝搬方向に沿って直列的に配列された2つの領域(第1領域および第2領域)に大きく分けられており、第1領域と第2領域との間には中間部9が配置されている。
第1および第2領域では、光導波路2を完全に横切る深さの溝8が周期的に配列されている。このため、光導波路2を左側から右側に向かう光波は、光導波路を構成している基板材料部分と、溝の内部とを交互に透過してゆく。このとき光波の感じる屈折率は、基板材料部分と溝内部とで周期的に変化する。基板1の上面が誘電体膜で覆われていない場合、溝8の内部は空気で満たされるため、溝8の内部の屈折率は空気の屈折率(約1)に等しい。一方、基板材料部分の屈折率は、基板がLiNbOから形成されているとき、2.1程度である。ただし、基板材料部分の屈折率は、用いる基板材料の種類によって異なり、また、光導波路に印加される変調電界の大きさによって変化する。
周期構造の第1および第2領域における等価屈折率の変化の周期(光伝搬方向の周期)は、変調されるべき光の光導波路内における波長λの1/4以上1/2以下の範囲に設定されている。溝8の周期が1/2λ程度の場合、溝8の幅は1/4λ程度に設定することが好ましい。中間部9では、この周期的屈折率変化が途切れている。中間部9の光伝搬方向サイズは、1/2λ程度に設定されることが好ましいが、0.4λ以上0.6λ以下の範囲にあればよい。また、第1および第2流域における溝8の周期および幅は、上記の大きさの奇数倍の大きさを有していてもよい。溝8の周期および幅が、それぞれ、そのような大きさを有していても、同様の効果を発揮する。さらに、中間部9の光伝搬方向サイズは、1/2λの整数倍であってもよい。中間部9の光伝搬方向サイズが1/2λの整数倍であっても、同様の効果が発揮される。
本実施形態では、第1および第2領域の各々に8本の溝8が等間隔で存在しているが、等価屈折率の周期的な変化は、溝の配列以外によっても形成することができる。たとえば、基板1の表面に突出した部分(凸部)を周期的に配列してもよいし、穴などの凹部を配列してもよい。あるいは、凹部と凸部の組み合わせを配列してもよい。
本実施形態で用いる溝8は、基板1の表面をエッチングによって形成することができる。具体的には、まず、基板1の表面をレジスト層で覆った後、公知のフォトリソグラフィ工程で現像・露光を行うことにより、溝の配列パターニングを規定する開口部を有するレジストマスクを形成する。次に、レジストマスクの開口部によって露出する基板表面をエッチングすることにより、基板1の表面に溝8を形成することができる。溝8の深さは、このときのエッチング条件で調節することができる。また、溝8の幅や周期(配列ピッチ)は、フォトリソグラフィ工程で形成するレジストマスクのパターンによって任意に設定することができる。
基板1がLiNbOなどの電気光学効果を有する材料から形成されている場合、溝8を形成するためのエッチングは、フッ素系ガスプラズマRIE(反応性イオンエッチング)やICP(誘導結合プラズマ)によって行なうことができる。ICPによる場合、還元性の強いCF、BCl、Cなどのガスを用いれば、0.5μm/分のレートで基板1をエッチングすることができる。この方法では、感光性レジストに対する選択比1を実現できる。
従来、厚さ1/4λの複数の誘電体層が積層された構造を厚さ1/2λの薄膜を介して重ねた素子が波長フィルタとして動作することが知られている。このような波長フィルタは、ある波長の光に対して共振を引き起こすことができる。本実施形態の光変調素子においては、光導波路2に複数の溝8を周期的に配列することにより、特定波長(λ)の光を光変調素子内で共振させ、光導波路を伝搬する光波の群速度を低減することができる。1つの光導波路上に形成される溝8の数は、例えば100個以上に設定され、好ましくは、1000個以上に設定される。
次に、図3(a)から(c)を参照しながら、本実施形態の周期構造によって得られる群速度の低減効果を計算する。
光導波路2において溝8が形成されている部分は、図3(a)に示すように屈折率の異なる複数の層11、12が積層された誘電体積層フィルタの構造と光学的に等価であると考えられる。この等価な構成を有するモデルを用いて、本実施形態における光導波路を伝搬する光波の群速度を計算した。モデルの具体的なパラメータは以下のとおりである。
層11:屈折率2.1の電気光学材料層(LiNbO
厚さ: 89 nm
層12:屈折率1.5の低屈折率材料層(SiO
厚さ: 125nm
中間部層:屈折率1.5の低屈折率材料層(SiO
厚さ: 250 nm
上記の8周期の積層膜は、本実施形態における周期構造の第1および第2領域に対応し、中間部層は中間部分9に対応している。
図3(b)および(c)は、計算結果を示すグラフである。図3(b)は、図3(a)に示す周期構造の光透過特性を示し、図3(c)は、この周期構造を伝搬する光波の遅延時間を示している。いずれのグラフも、横軸は光波の波長である。
上記周期構造における平均の屈折率を有する均一な空間を光が伝搬するのに要する時間は、計算によると、約0.02ピコ秒(ps)である。これに対し、図3(a)に示す周期構造を透過する光波の遅延時間は、図3(c)からわかるように、最大で約10psに達している。
このように、図3(a)に示すような周期的構造を光導波路内に設ければ、光波の遅延時間を約500倍に増大することが可能である。遅延時間が500倍に増加するということは、光波の群速度が1/500になることを意味し、実効的な光路長は実際の光路長の約500倍になる。
本実施形態の光変調素子において、図3(a)〜(c)に示す周期構造を設けることにより、現実の素子サイズは拡大することなく、実効的な光路長を数100倍またはそれ以上に拡大できるため、変調効率を格段に増大させることが可能となる。具体的には、従来の光変調素子では数cmは必要であった素子長が、本実施形態によれば、数mm程度に縮小可能である。
(実施形態2)
以下、本発明による光変調素子の第2の実施形態を説明する。
本実施形態の光変調素子は、光導波路に設けた周期構造以外の点で、第1の実施形態の構成と同様の構成を有している。このため、以下においては、本実施形態の周期構造について詳細を説明し、他の部分についても説明を繰り返さないものとする。
前述したように、エッチングマスクのパターンやエッチングの条件を調節することにより、溝8の深さ、幅および間隔を制御できる。そして、溝8の深さ、幅および間隔を調整することにより、光導波路2を伝搬する光波の群速度特性を制御することができる。
光波の自由空間速度をv、光導波路の屈折率をnとすると、溝8が設けられていない光導波路中の光波の群速度はv/n程度になるが、溝8を設けることにより光導波路中の光波の群速度をv/nよりも小さくすることができる。
本実施形態では、光導波路2を伝搬する光波の群速度と、光変調のために電極に印加する変調用電気信号の位相速度を整合させている。
一般に、電気光学結晶の基板材料として広く用いられているニオブ酸リチウムの屈折率nは2程度である。したがって、これらの電気光学結晶基板内に形成した光導波路中の光波の群速度は、0.5v程度になる。
一方、変調電極3を伝搬する変調波の位相速度は、近似的に2v/(1+ε1/2)で表される。ここで、εは基板1の比誘電率である。基板1がニオブ酸リチウム結晶から形成されている場合、この結晶の異方性を考慮すると、比誘電率εは約31である。したがって、変調電極3を伝搬する変調波の位相速度は近似的に0.3vになる。
以上のことからわかるように、溝8が設けられていない通常の光導波路2では、光波の群速度が変調波の位相速度の約2倍の大きさに達する。この速度差は、光変調効率の低下を招く。例えば、図8に示す従来の光変調素子では、光波が変調波の約2倍の群速度で光導波路を伝搬するので、ある時刻t1に光導波路に入力された光波は、伝搬するにしたがって、時刻t1よりも過去の時刻t0(t0<t1)に入力された変調波の電界を感じることになる。光導波路に入力された光波の感じる変調波の電界の極性は、伝搬距離がある長さを超えると逆転し、光波に与えられた位相変調がキャンセルされてしまう。
本実施形態では、光導波路2に設けた溝8の深さ、幅および間隔を調整することにより、光導波路2における光波の群速度を適度に減少させ、変調波の位相速度とほぼ一致させている。このため、光導波路における領域Aを従来例よりも延長しても、速度差に起因する位相変調のキャンセルを回避しながら相互作用長を拡大して変調効率を大幅に上昇させることが可能になる。
従来、このような速度差を緩和するため、変調電極3の上方にシールドプレートを配置するか、あるいは、変調電極3の厚さを数μm以上という極めて大きな値に設定することにより、変調波の位相速度を高める試みが行われてきた。
これに対して本発明の光変調素子は、変調波の位相速度を高める代わりに、光導波路2を伝搬する光波の群速度を低下させ、両速度を整合させている点に際立った特徴を有している。このような光波の群速度の低減を、本実施形態では、比較的浅い溝8を光導波路2上に形成することによって達成している。
また、本実施形態では、光波の群速度減少によって速度整合を実現するため、素子長も短縮でき、従来よりも素子を小型化できる。
本実施形態では、図4(a)に示すように、1/2波長周期で溝8の配列された4つの単位領域が各分岐導波路2a、2bに沿って直列的に配列されている。図4(b)は、これらの単位領域の列のうち、図4(a)の領域Aの構成を示している。図4(b)に示す中間部分9を挟んで複数の単位領域を直接的に配列することにより、長い距離にわたって群速度の低い部分を形成することが可能になる。図では、各分岐導波路に4つの単位領域を設けているが、更に多数の単位領域を設けてもよい。
溝8の深さは、目的とする光変調素子の特性に合わせて調整される。溝8の深さが浅すぎると、光導波路を伝搬する光波の群速度が充分に低下しないため、変調波と光波との間で速度整合が実現しにくくなる。このため、溝8の深さは、光導波路厚さの5%以上に設定されることが好ましい。ただし、本発明の周期構造を用いて光波の群速度を低下させるとともに、公知の手段により、変調波の位相速度を増加させてもよい。この場合、溝8の深さは、光導波路厚さの20%以上に設定すればよい。
なお、溝8の深さは、最大でも光導波路を伝搬する光波の電磁界が存在する深さ(通常は5μm程度)で十分であるが、これを超えて大きな値に設定されても良い。第1の実施形態では、図2(c)に示すように溝8の深さを光導波路の厚さよりも大きく設定しているため、等価屈折率変化の振幅が最大化されている。このように深い溝8を光導波路に形成すると、光波の群速度は、変調波の位相速度よりも遥かに小さくなるため、速度整合はとれなくなる。
したがって、本実施形態の光変調素子のように、速度整合をとる場合には、比較的浅い溝8を形成することになる。光導波路の厚さに比べて例えば半分の深さの溝8を形成した場合、光導波路を伝搬する光波、溝8が形成されている部分において、溝8の内部の屈折率と溝8の下部に位置する基板材料の屈折率によって決まる実効的な屈折率を感じることになる。溝8の深さが小さくなるほど、基板材料の寄与が多くなり、実効的な屈折率は基板材料の屈折率に近づくが、溝8が深くなるほど、基板材料の寄与が小さくなり、実効的な屈折率は溝8の内部の屈折率(空気または溝8の内部を埋める誘電体材料の屈折率)に近づく。
本実施形態では、光波の群速度と変調波の位相速度をマッチングさせるために、溝の深さを光導波路の厚さ(高屈性領域の厚さ)よりも小さく設定しているが、実施形態1における光変調素子のように、光波の群速度を変調波の群速度よりも充分に低く設定するような場合でも、溝の深さを光導波路の厚さよりも小さく設定してよい。溝の深さを浅くすることにより、溝形成のために必要な微細加工が容易になり、また、エッチング工程時間を短縮できる利点がある。溝の深さ(または後述する穴の深さ)は、光導波路(高屈折領域)の厚さの50%以下であっても、光の群速度を充分に低減する効果が得られる。
(実施形態3)
次に、図5を参照しながら、本発明の光変調素子の第3の実施形態を説明する。
前述の実施形態は、いずれも、マッハツェンダー干渉計型の光導波路構造を備えており、干渉を利用した光強度変調器として機能しているが、本実施形態の光変調素子は、図5に示すように、前述の各実施形態における溝8と同様の溝8が形成された単一の光導波路2を備えている。
本実施形態の光変調素子によっても、光導波路2を伝搬する光波の群速度を減少させることができるので、不図示の変調電極によって光導波路2に変調電界を印加すれば、変調効率の高い小型の光位相変調器として動作することができる。このような光導波路構造を有する光変調素子においても、光波の群速度低減による前述の効果が発揮される。
(実施形態4)
以下、図6(a)から(d)を参照しながら、本発明による光変調素子の第4の実施形態を説明する。
本実施形態の光変調素子には、図6(a)に示すように、基本的な構成は、第1または第2の実施形態の構成と同様である。本実施形態と他の実施形態との主要な相違点は、本実施形態の周期構造が溝ではなく穴によって構成されていることにある。
以下、本実施形態の周期構造を詳細に説明する。
図6(a)に示すように、分岐導波路2a、2bには、複数の穴10が形成されている。この穴10は、溝8と同様の機能を発揮し、穴10の数、幅、周期、および深さを調節することにより、光波の群速度を適切に制御することができる。図6(d)に示すように比較的浅い穴10を形成した場合は、光波と変調波と間で速度整合を実現できる。一方、図6(c)に示すように比較的深い穴10を形成した場合は、穴10のない場合に比べて光波の群速度が数100分の1以下に小さくできるため、素子長を格段に短縮した小型の光変調素子を製造できる。
穴10の径は、1/4λ程度に設定され、配列の周期は1/2λ程度に設定されることが好ましい。中間部分9の長さは、1/2λ程度に設定される。このような周期構造を設けることにより、波長λの光波の群速度を低い損失で減少させることができる。
本実施形態によれば、光導波路に複数の穴10を周期的に配列することにより、第1または第2の実施形態と同様の効果を発揮させることができるので、溝を規定するマスクパターンよりも単純なマスクパターンを用いて周期構造を形成できる。
なお、基板1の主面に平行な穴の断面は、円に限定されず、楕円、多角形であってもよい。また、基板の主面に垂直な穴の断面は、矩形に限定されず、テーパまたは逆テーパを有する形状であってもよい。また、本実施形態では、各分岐導波路部分に沿って1列に並んだ穴を形成しているが、各分岐導波路部分に対して複数列の穴、蛇行するように配置された穴を形成してもよい。
(実施形態5)
上記の各実施形態では、いずれも、上面の平坦な基板内に光導波路を形成しているが、本発明はこのような例に限定されない。光導波路は、基板の上面に形成したリッジに形成してもよい。
以下、リッジ導波路が設けられた基板を有する光変調素子の実施形態を説明する。
まず、図7(a)および(b)を参照する。図7(a)は、本実施形態の光変調素子の上面図であり、図7(b)は、そのA−A’線断面図である。
本実施形態における基板101の表面には、エッチングによってリッジ状に加工された光導波路102が形成されている。基板101は、他の実施形態における基板と同様に、タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶などの電気光学効果を有する材料から形成され得る。本実施形態の基板101は、z軸に垂直な面(z面)でカットされたLiNbOウエハから形成されている。
光導波路102は、2箇所の分岐点107a、107bで2つの分岐導波路102a、102bに分岐しており、入口側導波路102cから入力された入力光が一方の分岐点107aで分岐して2つの分岐導波路102a,102bを通過した後、他方の分岐点107bで共通の出口側導波路102dを進むように構成されており、導波路によるマッハツェンダー干渉計として動作する。
リッジ状の光導波路102a、102bは、それぞれ、複数の溝が周期的に配列された周期構造103a、103bを有しており、その一部が変調電極104によって覆われている。
本実施形態の光変調素子を用いて、ミリ波などの高い周波数帯で変調を行なう場合は、基板101における電磁界の不要な共振を抑制するため、基板101の厚さを50μm以上300μm以下の範囲内に設定することが好ましい。この場合、全体が薄い基板101を使用する代わりに、基板101の一部を薄くエッチングすることにより、その部分の厚さを10μm以上200μm以下の範囲内に調節しても良い。
基板101の製造は、例えば、次のようにして行なうことができる。まず、LiNbOウエハを洗浄した後、電子ビーム蒸着装置により、金属TiをLiNbOウエハの表面上に厚さが例えば50nmになるまで蒸着する。この後、1000℃で10時間程度、LiNbOウエハを加熱することにより、ウエハ表面から深さ1〜5μm程度(例えば3μm)までの領域にTiを拡散させる。この工程により、ウエハ表面に光導波路として機能し得る領域(相対的に屈折率の高い部分)を形成することができる。Tiが拡散された領域とTiが拡散されていない領域との間にある境界部には、例えば0.02程度の屈折率差(Δn=0.02)が形成される。
この後、図8に示すように、リッジ導波路の平面レイアウトを規定する形状を有するエッチングマスク(例えばフォトレジストマスク)201をウエハ上に形成する。次に、フッ素系ガスとアルゴンガスを使用したドライエッチングでマスク開口部202からウエハ表面を部分的にエッチングすることにより、エッチングマスク201の下方にリッジ状の光導波路102を形成することができる。このエッチングは、前述した溝8や穴10を形成するためのエッチングと同様にして行なうこどかできる。
図9は、ひとつのリッジ状の光導波路102の断面を模式的に示す図である。本実施形態で形成するリッジ導波路の幅(リッジ幅)は、例えば5μm程度、リッジ導波路の高さ(リッジ高さ)は例えば2μm程度である。この場合、リッジ導波路の全体が、Tiの拡散した高屈折領域から構成されることになる。なお、リッジ高さを高屈折領域の厚さよりも大きく設定する場合、リッジ状に加工されたウエハ表面の上部が光導波路として機能することになる。
リッジ幅は、光との結合効率を高めるため、1μm以上に設定されることが好ましいが、光導波路内の光伝搬モードがシングルモードとなるためには、6μm以下に設定することが好ましい。なお、リッジ高さは、例えば1μm以上20μm以下の範囲に設定される。
なお、光導波路の全てがリッジ形状を有している必要はなく、その一部、例えば周期構造が形成される部分のみをリッジ形状に加工しても良い。あるいは、ウエハ表面において、2つの分岐光導波路ので挟まれた領域(内側)のみをエッチングすることによって凹部を形成しても良い。その場合、2つの分岐光導波路の間隔を短くすることができるため、印加電界が増加し、変調効率が大きくなる。
上記の方法でリッジ導波路を形成した後、リッジ導波路の形成方法と同様の方法により、リッジ導波路を微細加工して周期構造を形成する。本実施形態では、リッジ状の光導波路102の上部に複数の溝を形成する。溝は、導波路の長手方向に沿って周期的に配列される。溝深さ、溝幅、および溝間隔は、それぞれ、例えば600nm、5μm、3μmである。溝の深さは、リッジ高さよりも小さく設定されてもよいし、大きく設定されても良い。
図10は、上記の溝が形成された導波路の長手方向に平行な断面を示す図である。溝が形成された部分401(等価屈折率2.097)と、溝が形成されていない部分402(等価屈折率2.146)との間に、等価屈折率に差が生じ、周期構造103が形成される。
基板101の上には、図7に示すように、光導波路102の各分岐導波路102a,102bに沿うように2つの線路104a,104bおよび接地電極106からなる変調電極104が設けられている。この変調電極は、平行結合線路として機能し、奇モードが励振されるように設計されている。各線路104a、104bの各内側端は、各分岐導波路102a,102bのほぼ中央部の直上に位置するように形成されている。変調電極104の各線路104a,104bは、真空蒸着法,フォトリソグラフィ及びエッチングなどのプロセスを用いて形成されたアルミニウムや金などの金属膜によってそれぞれ構成されている。
なお、変調電極104a、104bの間隔は小さいほど導波路への印加電界を大きくすることができる。一方、導波路間の間隔が小さすぎると双方を導波する光を分離できないため、分岐導波路102a、102bにおいて、変調電極104が形成されている(導波路が平行な)区間における導波路102a、102b間の間隔は5〜20μmの間とすることが望ましい。より望ましくは8〜15μmとすることが望ましい。
また、印加電界の方向は結晶の誘電主軸であるz軸と並行とすることが望ましく、結晶基板の方位と電極配置について、この状態を満たせばさまざまな態様を取ることが可能である。
なお、本実施形態では、図11(a)に示すように基板101にTi拡散を行い、高屈折率層501を形成することにより、基板101の主面に垂直な方向の屈折率差を設けている。このようにする代わりに、図11(b)に示すように、基板101により屈折率が低い第2の基板502を接合してもよい、また、図11(c)に示すように、エアギャップ504を形成することによって屈折率差を設けてもよい。図11(c)に示す構成では、屈折率の低い第2の基板502に代え、基板501と同一材料の基板503と接合させてもよい。
図11(b)に示す構成による場合は、第2の基板として、第1の基板とは屈折率が異なる材料からなる基板を用いる必要があるが、図11(c)に示す構成による場合は、同一材料からなる基板を用いることが可能になる。
なお、導波路102に溝を設けて、導波路102の一部分の等価屈折率を変化させる代わりに、図12に示すように、導波路102に少なくとも一つ以上の穴(凹部)601を設けることにより、周期構造103を形成してもよい。
なお、特開2002−196296号公報は、フォトニック結晶によって形成された光導波路を有する光変調器を開示している。この光変調器では、光を基板主面に垂直な方向に閉じ込める構造を有していないため、光が基板の深さ方向に拡散し、大きな減衰が生じるという問題が生じると考えられる。
また、特開2002−296628号公報は、フォトニックバンドギャップ構造を有する全光機能素子を開示しているが、この素子は、微細加工の容易な化合物半導体を用いて作製されている。
(光変調素子の他の実施形態)
上記の各実施形態では、溝や穴などの凹部を光導波路の表面に形成しているが、前述したように、光導波路上に凸部を配列してもよい。凸部から構成される周期構造は、例えば、基板1の主面上に誘電体膜を堆積した後、その誘電体膜をパターニングすることによって形成され得る。パターニングされた誘電体膜は、光伝搬方向に沿って周期的に配列された穴または溝を有しており、光導波路を伝搬する光波に対して等価的な屈折率変化を感じさせることができる。
誘電体膜は、誘電率の高い材料から形成することが好ましい。誘電率が高いほど、群速度の減少効果が向上するからである。
パターニングされた誘電体膜によって周期構造を形成する場合、基板そのものをエッチングする工程が不要になる。基板をエッチングすることによって、溝や穴などの凹部を形成する場合、その深さの調節が難しい。しかし、基板上に堆積した誘電体膜をパターニングする場合は、エッチング条件の調節によって誘電体膜を選択的にエッチングすることが可能であり、高さの揃った凸部の配列を基板上に再現性良く形成することが容易である。
また、光導波路に物理的な凹凸を形成する代わりに、光導波路の選択された領域に金属を熱拡散し、あるいは、プロトン交換処理を施すことにより、光導波路に等価屈折率が周期的に変化する構造を設けることも可能である。この場合における等価屈折率の変化率は、光導波路を部分的かつ周期的にエッチングした場合に比べて格段に小さくなるため、光波の群速度を大きく低下させることは難しい。
具体例として、光導波路の下端よりも深い溝を周期的に形成し、溝の内部を空気が満たしている周期構造を考える。このような周期構造では、光導波路の屈折率が2.1であるとすると、溝の内部における屈折率は約1であるため、周期構造の屈折率変化の振幅(屈折率の最大値で規格化した値)は、約0.5になる。溝の深さを浅くするか、あるいは、溝の内部を適当な誘電体材料で埋めることにより、周期的な屈折率変化の振幅を0.5以下の任意の値に調節することが可能である。これに対して、金属の熱拡散などによって屈折率を周期的に変化させた場合、周期的な屈折率変化の振幅は0.0001〜0.01程度と小さい。
上記の各実施形態では、タンタル酸リチウム結晶やニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する材料の基板を用いているが、他の電気光学結晶を用いてもよい。
なお、基板中に光導波路を形成する方法として、上記の各実施形態では、電気光学結晶基板の表面部に金属チタンを熱拡散する方法を用いている。この方法は、高性能な光導波路を形成する最も有効な方法であるが、必ずしもこの方法に限定されるものではない。例えば、他の機能素子との集積化などのために、ニオブ酸リチウム単結晶など以外の基板を利用する必要がある場合には、基板上に、基板よりも屈折率が高く、かつ、電気光学効果を有する材料からなる膜を形成し、その膜を光導波路として用いることもできる。
また、基板の表面領域に周囲よりも屈折率の高いコア部を形成し、コア部の上に、クラッド部として電気光学効果を有する材料からなる膜を形成することにより、コア部からしみ出した電界を利用してクラッド部の屈折率変化によって光変調を行っても良い。
(通信システムの実施形態)
次に、図13を参照しながら、本発明によるファイバ無線システムの実施形態を説明する。本実施形態のファイバ無線システム50は、上述した光変調素子を内蔵した光変復調器51を備えている。そして、アンテナ53により、通常のインターネット等のデータ通信網や、携帯端末との通信、あるいは、CATVからの信号の受信等を、例えばミリ波の搬送波を用いて直接行なうことができる。なお、光変復調器51には、光変調素子とともに光復調素子(例えばフォトダイオード)が内蔵されている。
一方、ミリ波等の周波数の高い無線信号は長距離の伝送は困難であり、かつ、物体による信号の遮断を受けやすい。そこで、データ通信網61や、CATV62や、携帯電話システム63との通信を、無線装置60及び無線装置に付設されたアンテナ64を用いて行なうこともできる。その場合、ファイバ無線通信システム50と光ファイバ70を介して接続される光変復調器55と、これに付設されるアンテナ54とをさらに備えておく。そして、アンテナ54、64及び光変復調器55を介して、無線装置60との間で、信号の授受を行なうことができる。光変復調器55には、光変調素子とともに光復調素子(例えばフォトダイオード)が内蔵されている。
例えば長距離伝送を行ないたい場合や、壁等で仕切られた屋内での伝送の際には、ミリ波等の無線信号で変調された光信号を光ファイバ70によって伝送することが効果的である。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、周期構造によって光波の群速度を低減することにより、光変調素子の変調効率を向上させることができる。本発明の光変調素子を通信システムに用いることにより、ミリ波レベルの変調用電気信号を利用した通信が可能になる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する材料から形成された光導波路と、前記光導波路を伝搬する光に変調用電気信号を印加するための変調電極とを備えた光変調素子であって、
等価屈折率が光伝搬方向に沿って周期的に変化する周期構造であって、前記光導波路を伝搬する光の群速度を低下させる周期構造を更に備えた光変調素子。
【請求項2】
前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の凹部および/または凸部によって構成されている、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の溝によって構成されている、請求項2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記周期構造は、前記光導波路の表面に設けられた複数の穴によって構成されている、請求項2に記載の光変調素子。
【請求項5】
前記光導波路に設けられた前記溝または前記穴の個数は100以上である請求項3または4に記載の光変調素子。
【請求項6】
前記溝または孔の深さは、前記導波路の厚さの50%以下である、請求項3または4に記載の光変調素子。
【請求項7】
前記周期構造は、誘電体膜によって覆われている請求項1に記載の光変調素子。
【請求項8】
前記周期構造は、前記光導波路上に設けられた誘電体膜のパターンから形成されている請求項1に記載の光変調素子。
【請求項9】
前記周期構造は、
前記光伝搬方向に沿って直列的に配列された第1領域および第2領域と、
前記第1領域および前記第2領域の間に設けられた中間部分と、を含んでいる、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項10】
前記周期構造の光伝搬方向における等価屈折率の変化の周期は、変調されるべき光の前記光導波路内における波長λの1/4以上1/2以下の範囲の数値、または、前記数値の奇数倍に設定されている、請求項1に光変調素子。
【請求項11】
前記中間部分の光伝搬方向の長さは、約1/2λ、または1/2λの整数倍である請求項10に記載の光変調素子。
【請求項12】
前記光導波路は、
変調されるべき光が入力される入口側光導波路部分と、
変調光が出力される出口側光導波路部分と、
前記入口側光導波路部分と前記出口側光導波路部分とを結合する少なくとも2つの分岐導波路部分とを有しており、
前記変調電極は、各分岐導波路部分を伝搬する光に前記変調用電気信号を印加する少なくとも2本の導体線路を有しており、
各分岐導波路部分を伝搬してきた光の前記出口側光導波路部分における干渉を利用して光強度を変調する請求項1に記載の光変調素子。
【請求項13】
前記光導波路は、変調されるべき光が入力する一端と変調光が出力する他端とを有する単一の光導波路であり、
前記変調電極は、前記光導波路に前記変調用電気信号を印加する少なくとも2本の導体線路を有しており、
前記光導波路を伝搬してきた光の位相を、前記変調用電気信号に応じて変調する請求項1に記載の光変調素子。
【請求項14】
前記光導波路は、電気光学結晶基板に形成されている請求項1に記載の光変調素子。
【請求項15】
前記光導波路は、前記電気光学結晶基板の表面に形成されたリッジに形成されている請求項1に記載の光変調素子。
【請求項16】
前記光導波路は、基板に支持された電気光学効果を有する材料から形成されている請求項1に記載の光変調素子。
【請求項17】
前記光導波路を伝搬する光の群速度は、前記電極を伝わる高周波の位相速度の0.5倍以上2倍以下に調節されている、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項18】
前記光導波路を伝搬する光の群速度は、前記周期構造が形成されていない光導波路を伝搬する光の群速度の50%以下に設定されている、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項19】
請求項1に記載の光変調素子と、
前記光変調素子から出力された変調光を伝送する光ファイバと、
前記光変調素子に変調用電気信号を与える手段と、
を備えた通信システム。

【国際公開番号】WO2005/001559
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511105(P2005−511105)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009306
【国際出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】