光変調素子
【課題】量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる光変調素子を提供する。
【解決手段】光変調素子は、p−InPクラッド層22と、n−InPクラッド層23と、p−InPクラッド層22およびn−InPクラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層1および複数のバリア層2を有する多重量子井戸40とを備えている。複数のバリア層2は、n−InPクラッド層23に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層2aを含んでいる。第2導電型バリア層2aは、多重量子井戸40においてp−InPクラッド層22に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている。
【解決手段】光変調素子は、p−InPクラッド層22と、n−InPクラッド層23と、p−InPクラッド層22およびn−InPクラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層1および複数のバリア層2を有する多重量子井戸40とを備えている。複数のバリア層2は、n−InPクラッド層23に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層2aを含んでいる。第2導電型バリア層2aは、多重量子井戸40においてp−InPクラッド層22に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子に関し、特に多重量子井戸を備えた光変調素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速光ファイバ通信の分野では、半導体レーザ(LD:Laser Diode)が多数用いられている。直接変調LDの場合には伝送速度が毎秒10ギガビット(10Gbit/s)を越えると、チャープ特性の影響が顕著となるため伝送距離が光ファイバの分散で制限される。このため外部変調LDであって、チャープ特性に優れた変調器集積LDが実用に供されている。この変調器集積LDでは、半導体変調器と分布帰還型レーザダイオード(DFB−LD:Distributed Feedback Laser Diode)とが半導体基板上にモノリシック集積されている。
【0003】
半導体変調器には、たとえば電界印加による吸収端波長シフトを用いた電界吸収型光変調器(Electro-Absorption Optical Modulator:EA変調器)と屈折率変化を用いたマッハツェンダー型光変調器(Mach-Zehnder Optical Modulator:MZ変調器)とがある。
【0004】
EA変調器は、p型およびn型InP(リン化インジウム)クラッド層と、それらに挟まれたノンドープ多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)活性層から成るPinダイオード構造の素子である。EA変調器は、たとえば特開平9−243975号公報(特許文献1)に開示されている。EA変調器においては、n型電極を正、p型電極を負として逆バイアス電圧が印加されることによって、MQW活性層に入射する光の吸収量が変化されることでLD出力光が変調される。
【0005】
さて長波光ファイバ通信向けEA変調器を構成する半導体材料としては、InP基板上にエピタキシャル成長させたInGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン)などの混晶材料が用いられる。この材料系では、ヘテロ界面においてエネルギーギャップ差(ΔEg)が伝導帯および価電子帯で40:60の比に分けられ、質量の重い正孔に対して大きなバリアが存在する。このためMQW内で強い光が吸収されて、キャリア(電子と正孔)が生成された場合、電子に比べ正孔はバリアを越えて電流として流れにくい。この現象は正孔のパイルアップ現象と呼ばれる。その結果、吸収飽和や、蓄積されたキャリアが外部電界を遮蔽(スクリーニング効果)することによる高速応答特性の劣化などが生じる問題点がある。
【0006】
特に、MQW層をバンドギャップの広いInPクラッド層で直接はさむ場合および単層のInGaAsPの分離閉じ込め層(SCH:Separate Confinement Heterostructure)をMQW層とInPクラッド層との間に挿入する場合には、ヘテロ界面に価電子帯端の大きなバンド不連続がある。そのため、正孔が熱励起によって障壁を乗り越え、InPクラッド層で吸収されるまでの滞留時間が長くなる。
【0007】
そこで、連続的にバンドギャップが変化するGRIN−SCH構造(Graded Index Separate Confinement Heterosutructure)をMQW層とクラッド層との間に挿入して、価電子帯バンド不連続の影響を解消することが提案されている。GRIN−SCH構造は、たとえば特開平9−171162号公報(特許文献2)に開示されている。
【0008】
また、多層SCH構造を採用することによっても、価電子帯バンド不連続の影響を解消することが図られている。この多層SCH構造では、SCH層が多層膜で構成されており、InPクラッド層からMQW層に向けて順にバンドギャップが小さくなるようにすることで、多層膜の各層間におけるバンド不連続量が小さくなるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−243975号公報
【特許文献2】特開平9−171162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年のEA変調器では、上記のようにキャリア(特に正孔)のパイルアップ現象を抑制するため、MQW層とInPクラッド層の間にGRIN−SCH構造または多層SCH構造を挿入した構造が採用されている。
【0011】
一方、光半導体素子の結晶成長で多く用いられるMOCVD(Metal organic Chemical Vapor Deposition)法では、p型ドーパントとしてZn(亜鉛)が主に用いられる。Znは結晶成長中に拡散しやすい。特にpクラッド層内の電圧降下や、キャリアのパイルアップ現象の低減を目的として、p−InPクラッド層のドーピング濃度を高くした場合、SCH層やMQW層にまでp型不純物が拡散することがある。その結果、MQW層中のp型不純物プロファイルは、不均一になり、量子井戸の位置による電界強度の違いが大きくなる。
【0012】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる光変調素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光変調素子は、第1導電型の第1の半導体クラッド層と、第2導電型の第2の半導体クラッド層と、第1および第2の半導体クラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層および複数のバリア層を有する多重量子井戸とを備えている。複数のバリア層は、第2のクラッド層に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層を含んでいる。第2導電型バリア層は、多重量子井戸において第1の半導体クラッド層に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光変調素子によれば、第2導電型バリア層は、多重量子井戸において第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられているため、第2導電型バリア層の第1導電型のドーパントによって多重量子井戸の第1導電型のドーパントを相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、バンドの曲がりを抑制することができる。そして、多重量子井戸にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における変調器集積DFB−LDの構成を模式的に示す概略斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図1のP1部の構成および不純物プロファイルを示す図である。
【図4】量子閉じ込めシュタルク効果の原理を説明する図であって、電界ゼロの状態を示す図(a)と逆バイアス電圧が印加された状態を示す図(b)である。
【図5】EA変調器吸収スペクトルの印加電圧依存性および動作条件を示す図である。
【図6】比較例におけるEA変調器の逆バイアス印加時のポテンシャルを模式的に示す図である。
【図7】比較例における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布のp側ノンドープInP膜厚依存性を示す図である。
【図8】比較例における多重量子井戸層内部の電界分布のp側ノンドープInP膜厚依存性を示す図である。
【図9】比較例における多重量子井戸層内部の電界分布の逆バイアス電圧依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1における光変調素子の逆バイアス印加時のポテンシャルを模式的に示す図である。
【図11】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布のバリア層n型ドープ位置依存性を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布の第5バリア層n型ドープ濃度依存性を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部の電界分布の逆バイアス電圧依存性を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態1における変形例の光変調素子の逆バイアス印加時のポテンシャルを示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2における変調器集積DFB−LDの構造を模式的に示す概略上面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線に沿う概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、本実施の形態における光変調素子は、単体の光変調器だけでなく、変調器集積LDを包含しているため、以下では、最良の実施形態である変調器集積LDについて記述する。
【0017】
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1における変調器集積LDの構成について説明する。本実施の形態では変調器集積LDの一例としてEA変調器集積LDについて説明する。
【0018】
図1および図2を参照して、EA変調器集積LDは、EA変調器部14と、分離領域15と、DFB−LD部16とを主に有している。分離領域15は、EA変調器部14とDFB−LD部16とを電気的に分離するための領域である。EA変調器集積LDは、DFB−LD部16からの発振光がEA変調器部14で変調されてEA変調器部14側から出射光25が取り出されるように構成されている。
【0019】
EA変調器集積LDは、EA変調器吸収層17と、LD活性層18と、p型SCH層20と、n側SCH層21と、p−InPクラッド層22と、n−InPクラッド層23と、回折格子24と、ノンドープInP層26と、p型電極31と、n型電極32とを主に有している。n−InPクラッド層23はn−InP基板を兼ねている。
【0020】
EA変調器部14では、第1導電型の第1の半導体クラッド層であるp−InPクラッド層22と、第2導電型の第2の半導体クラッド層であるn−InPクラッド層23との間にEA変調器吸収層17が挟まれている。p−InPクラッド層22とEA変調器吸収層17との間には、EA変調器吸収層17側から順番に第1の分離閉じ込め層であるp側SCH層20と、ノンドープInP層26とが積層されている。
【0021】
n−InPクラッド層23とEA変調器吸収層17との間には、第2の分離閉じ込め層であるn側SCH層21が設けられている。p側SCH層20は多層に形成されている。n側SCH層21は単層に形成されている。なお、n側SCH層21は多層に形成されていてもよい。p−InPクラッド層22のノンドープInP層26側と反対側にはp型電極31が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH層21と反対側にはn型電極32が設けられている。
【0022】
DFB−LD部16では、p−InPクラッド層22とn−InPクラッド層23との間にLD活性層18が挟まれている。p−InPクラッド層22とLD活性層18との間にはp側SCH層20が設けられている。p側SCH層20の内部には回折格子24が設けられている。n−InPクラッド層23とLD活性層18との間にn側SCH21が設けられている。DFB−LD部16でもp−InPクラッド層22のp側SCH20と反対側にはp型電極31が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH21と反対側にはn型電極32が設けられている。
【0023】
分離領域15において、EA変調器吸収層17とLD活性層18とがバットジョイント成長界面19で接合されている。分離領域15では、p型電極31は設けられていない。
【0024】
EA変調器部14およびDFB−LD部16はリッジ構造20となっている。なお、EA変調器部14およびDFB−LD部16はリッジ構造20に限定されず、広く用いられる埋め込みへテロ構造であってもよい。このヘテロ構造であっても本実施の形態と同様の効果が得られる。
【0025】
図3を参照して、EA変調器吸収層17は、多重量子井戸40で構成されている。つまり、多重量子井戸40は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成している。多重量子井戸40は、交互に積層された複数のウェル層1および複数のバリア層2を有している。複数のバリア層2は、n−InPクラッド層23に含まれる第2導電型のドーパント(n型不純物)が導入された第2導電型バリア層2aを有している。第2導電型バリア層2aは、多重量子井戸40においてp−InPクラッド層22に含まれる第1導電型のドーパント(p型不純物)が拡散した範囲に設けられている。
【0026】
第2導電型バリア層2aは、p−InPクラッド層22およびn−InPクラッド層23に挟まれる方向での多重量子井戸40の中間地点よりp−InPクラッド層22側に位置している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2aよりもn−InPクラッド層23側の多重量子井戸40の少なくとも一部の部分の第2導電型のドーパントの濃度(n型不純物濃度)より高い濃度を有している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2a内の第1導電型のドーパントの濃度(p型不純物濃度)より高い濃度を有している。
【0027】
続いて、各層の不純物プロファイルについて説明する。以下、不純物濃度の値はピーク濃度が示されている。
【0028】
n型不純物濃度について、n−InPクラッド層23のn型不純物濃度は、たとえば1×1018cm-3である。n側SCH層21のn型不純物濃度は、n側SCH層21とn−InPクラッド層との境界からn側SCH層21と多重量子井戸40との境界に向かって減少し、n側SCH層21と多重量子井戸40との境界では実質的にゼロとなる。また、第2導電型バリア層2aのn型不純物濃度は、たとえば1×1017cm-3である。第2導電型バリア層2aのn型不純物濃度は、1×1017cm-3以下が好ましい。
【0029】
p型不純物濃度について、p−InPクラッド層22のp型不純物濃度は、たとえば1×1018cm-3である。ノンドープInP層26のp型不純物濃度は、ノンドープInP層26とp−InPクラッド層22との境界からノンドープInP層26とp側SCH層20との境界に向かって減少し、ノンドープInP層26とp側SCH層20との境界でのp型不純物濃度は、たとえば4×1017cm-3である。p側SCH層20の不純物濃度は、p側SCH層20とノンドープInP層26との境界からp側SCH層20と多重量子井戸40との境界に向かって減少し、p側SCH層26と多重量子井戸40との境界でのn型不純物濃度は、たとえば1×1017cm-3である。
【0030】
なお、各層には残留不純物または隣接部からわずかに拡散した不純物が存在し得る。ここで正味の不純物濃度は、ある極性のドーピング濃度から、反対極性の残留不純物濃度をひいた値となる。たとえば、n側SCH層21およびn−InPクラッド層23のp型不純物濃度は、ノンドープ層中のバックグラウンド不純物と同程度である。また、p側SCH層20およびp−InPクラッド層22のn型不純物濃度は、ノンドープ層中のバックグラウンド不純物と同程度である。そのため、これらの残留不純物または隣接部からわずかに拡散した不純物の濃度は、たとえば1×1016cm-3以下であり、理想的にはたとえばSIMS(二次イオン質量分析法)測定限界の1×1015cm-3以下であるので、ほとんど無視できる。
【0031】
次に、EA変調器部の動作原理について説明する。
図4を参照して、一つの量子井戸における電界効果について説明する。図4(a)は電界が存在しない(電界ゼロ)時のエネルギーバンド図である。図4(b)は逆バイアス電界が印加された時のエネルギーバンド図である。
【0032】
図4(a)および(b)を参照して、量子井戸はバンドギャップの小さいウェル(井戸)層1とバンドギャップの大きいバリア(障壁)層2から成り、電子と正孔(ホール)は各々量子準位を形成する。簡単のため、電子の第一量子準位(Ee1)3と正孔の第一量子準位(Eh1)4のみを考え、それらに対応する電子の波動関数5と正孔の波動関数6が図示されている。
【0033】
電子と正孔はウェル内に閉じ込められ、クーロン引力でゆるやかに結合して励起子(エキシトン)を形成する。この時、光吸収に伴う遷移エネルギー7は、図示されるように電子と正孔の量子準位間のエネルギー差で決まる。逆バイアス電界の印加時、量子井戸のバンドギャップ8自体は変化しないが、電子と正孔の波動関数は逆方向に偏移するため、遷移エネルギーは低エネルギー側(長波長側)にシフトする。この現象は、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE:Quantum Confined Stark effect)と呼ばれる。
【0034】
QCSEによる励起子吸収ピーク波長のシフトは、量子井戸の厚さの4乗に近似的に比例するので、井戸厚が厚い方が大きな吸収係数変化が得られる。一方、振動子強度そのものは、井戸が厚くなると弱くなるため、最適の井戸厚が存在する。電界をかけると電子と正孔の波動関数の偏移により、振動子強度(吸収ピーク強度)も下がる。
【0035】
図5を参照して、EA変調器の吸収スペクトルの印加電圧依存性を説明する。
EA吸収ピーク波長9、被変調光であるLD波長10、離調Δλ(EA吸収ピークとLD波長の波長差)11、電界による吸収ピークシフト12、消光比13が示されている。ゼロバイアス(0V)状態では、波長1.52μmおよび1.45μm付近に励起子吸収のピークが観測される。それらが逆方向電圧印加(V印加)に伴い、長波長側にシフトする。したがって、たとえば波長1.585μmの光が入射されると、印加電圧と共に吸収は増加する。この時、ゼロバイアスをON(オン)状態、V印加をOFF(オフ)状態に対応させることにより、光の変調が可能となる。そのON/OFF比が消光比13と呼ばれる特性パラメータである。
【0036】
次に、本実施の形態の作用効果について比較例と比較して説明する。
図6を参照して、比較例のEA変調器では、多重量子井戸40を構成するウェル層1とバリア層2とはいずれもノンドープ層である。多重量子井戸40とp−InPクラッド層22との間にはノンドープInP層26が挿入されているが、結晶成長および作製プロセスの間にp型ドーパントがp−InPクラッド層22からp側SCH層20および多重量子井戸40にまで拡散してくる。具体的には、p−InPクラッド層22の不純物濃度がたとえば1×1018cm-3とすると、約100nm拡散して1×1017cm-3程度となる。 この影響を受けてp側SCH層20付近でバンド曲がりが生じる。つまり、不純物濃度が高いp側SCH層20付近では、不純物濃度が低い多重量子井戸40に比べて電圧がかかりにくくなる。そのため、バンド図においてポテンシャルが下がりにくくなる。これにより、p側SCH層20付近でバンド曲がりが生じる。
【0037】
比較例のEA変調器における電界分布の不均一性についてさらに詳しく説明する。
図7を参照して、比較例のEA変調器について、p型ドーパントの拡散を考慮し、ノンドープInP層26の膜厚をパラメータとして、ビルトイン状態(ゼロバイアス)でのポテンシャル分布を計算した例について説明する。
【0038】
この比較例のEA変調器はpin構造を有している。p−InPクラッド層22と多重量子井戸40との間に、ノンドープInP層26およびp側SCH層20が配置されている。p側SCH層20は、バンドギャップ波長が1180nmから1000nmまでの6層の多層膜で構成されている。n−InPクラッド層23と多重量子井戸40との間にはバンドギャップ波長が1180nmの単層のn側SCH層21が配置されている。
【0039】
多重量子井戸40では、バリア層2はバンドギャップ波長が1180nmで、厚みが8nmに構成されている。ウェル層1は厚みが10nmで、吸収端ピーク波長が1470nmとなるように構成されている。ウェル層1の数は10個である。
【0040】
図7では、多重量子井戸40のみが拡大して示されており、図7の右側がp側SCH層20に近い位置にあり、左側がn側SCH層21に近い位置にある。ノンドープInP層26の膜厚は10nm〜125nmに設定されている。図7に示すように、ノンドープInP層26の膜厚が30nm以下では、p側SCH層20に近い部分にポテンシャルの曲がりが見られ、ノンドープInP層26の膜厚が50nm以上ではポテンシャルの曲がりが改善されていることがわかる。
【0041】
続いて、図8を参照して、多重量子井戸40の各ウェル層1での電界(図7のポテンシャルの傾きに対応)が拡大されて示されている。図8では、n側SCH層21に近い左側から、p側SCH層20に近い右側まで、配置されたウェル層1の順に採番されている。図8に示すように、ビルトイン状態での多重量子井戸40内部の電界分布は不均一となっている。ノンドープInP層26の膜厚を125nmまで増やすと均一性が若干改善されるものの不均一性は残り、改善効果も飽和していることがわかる。
【0042】
続いて、図9を参照して、0V〜2.4Vの逆バイアスが印加された時の多重量子井戸40内部の電界分布が示されている。図9では、p側SCH層20に近い右側とn側SCH層21に近い左側とで、電界強度に大きな差があり、QCSEによる吸収ピークシフトにもばらつきが出ることがわかる。
【0043】
一方、図10を参照して、本実施の形態の光変調素子では、第2導電型バリア層2aが挿入されていることで、p側SCH層20近傍のバンドの曲がりが抑制されている。
【0044】
本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aが多重量子井戸40において第1導電型のドーパントであるp型不純物が拡散した範囲に設けられているため、第2導電型バリア層2aのn型不純物によって多重量子井戸40のp型不純物を相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、バンドの曲がりを抑制することができる。そして、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【0045】
また、多重量子井戸40にかかる電界が均一化された結果、吸収端シフト量がすべてのウェル層1で均一化されることで消光比が改善する。そのため、量子井戸数の低減が可能となり、低電圧駆動実現と共に、良好な消光特性とチャーピング特性を両立できる。さらにp型ドーパント拡散量の面内不均一性による特性のばらつきが改善されることで、作製歩留まりが向上する。
【0046】
ウェル層1にドーピングを施すと、ウェル層1内のキャリア密度が高くなり、励起子吸収ピーク強度が低下して吸収変化が小さくなる。第2導電型バリア層2aに第2導電型のドーパントが導入されていることで吸収変化が小さくなることを抑制できる。また、ドーピングにより結晶欠陥が導入される可能性もある。第2導電型バリア層2aに第2導電型のドーパントが導入されていることで、必要最小限にドーピングすることで結晶欠陥が導入されることを抑制できる。
【0047】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aは、p−InPクラッド層22とn−InPクラッド層23に挟まれる方向での多重量子井戸40の中間地点よりp−InPクラッド層22側に位置している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2aよりもn−InPクラッド層23側の多重量子井戸40の少なくとも一部の部分の第2導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有し、かつ第2導電型バリア層2a内の第1導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有している。このため、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【0048】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aの第2導電型のドーパントの濃度が1×1017cm-3以下である。これにより、第2導電型バリア層2aのn型不純物のドープ量を制御することによって、多重量子井戸40のp型不純物をさらに適切に相殺することができる。このため、さらに適切に絶縁性を上げることができる。
【0049】
また、図10に示すように、本実施の形態の光変調素子では、p側SCH層20はp−InPクラッド層22のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ多重量子井戸40のウェル層1のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している。n側SCH層21は、n−InPクラッド層23のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ多重量子井戸40のウェル層1のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している。
【0050】
これにより、p−InPクラッド層22と多重量子井戸40とのバンド不連続量を小さくすることができる。また、n−InPクラッド層23と多重量子井戸40とのバンド不連続量を小さくすることができる。
【0051】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、多重量子井戸40は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成しているため、EA変調器部14により電界吸収効果を利用して光を変調することができる。
【0052】
また、図10に示すように、本実施の形態の光変調素子では、p側SCH層20はp−InPクラッド層22側から多重量子井戸40側へ段階的にバンドギャップエネルギーが小さくなるように構成されている。p側SCH層20は、第1の分離閉じ込め層部20aと、第2の分離閉じ込め層部20bとを有している。第2の分離閉じ込め層部20bは、第1の分離閉じ込め層部20aのバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有している。第1の分離閉じ込め層部20aより多重量子井戸40側に第2の分離閉じ込め層部20bが配置されている。なおn側SCH層21も同様に構成されていてもよい。
【0053】
このため、p側SCH層20において、p−InPクラッド層22側から多重量子井戸40側へ段階的にバンド不連続量を小さくすることができる。これにより、p−InPクラッド層22と多重量子井戸40とのバンド不連続量を順に小さくすることができる。
【0054】
本実施の形態の光変調素子における電界分布の均一化についてさらに詳しく説明する。
図11を参照して、第4バリア層から第7バリア層のいずれかに、不純物濃度1×1017cm-3のn型ドーピングを施した時の、ビルトイン状態でのポテンシャル分布の計算結果の一例が示されている。第4バリア層から第7バリア層は、n側SCH層20に近い側から順に1〜9まで採番された場合の4番目から7番目のバリア層である。
【0055】
図11に示すように、バリアドープなしの場合に比べ、バリアドープした部分のポテンシャルが下がって、全体のポテンシャル分布が変化していることがわかる。各バリアについて、図8に示す場合と同様に多重量子井戸40内部の電界を計算した結果、第5バリア層にドーピングした場合の均一性が最良であることがわかった。
【0056】
図12を参照して、第5バリア層へのドーピング濃度を変えたときのポテンシャル分布が示されている。各ドーピング濃度について、図8に示す場合と同様に多重量子井戸40内部の電界を計算した結果、不純物濃度として5×1016cm-3が最良であることがわかった。
【0057】
図13を参照して、第5バリア層に不純物濃度として5×1016cm-3でドーピングした最適条件において、0V〜2.4Vまで、逆バイアスが印加された時の多重量子井戸40内部の電界分布が示されている。図11に示す比較例と比べて、多重量子井戸40内部の電界の均一性は大幅に改善されており、特に変調器への応用上重要な0V〜1.8Vまでの範囲で電界強度はほぼ均一であることがわかる。これにより、本実施の形態の構造は、バリア層2にドーピングを施さない比較例の構造に比べ、同じウェル層の数でQCSEの効果を最大限に発揮することができる。
【0058】
なお、上記では、多重量子井戸40の中央部よりもp−InPクラッド層22側に近い1つのバリア層2にのみ第2導電型のドーピングが行われている場合について説明したが、複数のバリア層にドーピングが行われていてもよい。
【0059】
図14を参照して、第2導電型バリア層2aは、ウェル層1で互いに分離された複数の第2導電型バリア層部2a1を有している。このため、分離された位置にn型不純物を導入することができる。そのため、分離された位置で第2導電型バリア層2aのn型不純物によって多重量子井戸40のp型不純物を相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、ドープ位置をさらに細かく制御することができるので、さらに効果的にバンドの曲がりを抑制することができる。そして、さらに効果的に多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。また、複数のバリア層のドーピング濃度は、電界分布に応じて調整されていてもよい。
【0060】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では変調器集積LDの一例としてMZ変調器集積LDについて説明する。
【0061】
まず、MZ変調器の基本原理を説明する。MZ変調器は、導波路に結合した入力光がY分岐素子や多モード干渉型光結合器(MMI:Multi-Mode Interference coupler)により、複数の導波路に分岐される。そして、それらの間に所定の位相差(対称分岐であれば0またはπ)が与えられた後にそれらを再度合波させて干渉させ、光変調が行われる。MZ変調器はEA変調器に比べさらにチャーピング特性を改善できることから、主に長距離幹線系光通信へ応用される。
【0062】
実施の形態1のEA変調器は、電界印加による吸収係数の変化を利用したが、これをクラマース・クローニッヒ変換して得られるのが屈折率変化である。本実施の形態のMZ変調器はこの屈折率変化を利用して分岐導波路間の位相差を与えることにより光を変調する。
【0063】
次に本実施の形態におけるMZ変調器集積LDの構成について説明する。
図15および図16を参照して、本実施の形態のMZ変調器集積LDは、MZ変調器部27と、DFB−LD部16とを主に有している。MZ変調器集積LDは、MZ変調器部27の後方入力導波路に、DFB−LD部16がモノリシック集積された構造を有している。
【0064】
本実施の形態のMZ変調器部27は、MMI28と、第一位相変調器29と、第二位相変調器30とを主に有している。第一位相変調器29と第二位相変調器30とはMMI28に挟まれるように設けられている。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは分岐導波路の中に設けられている。
【0065】
第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、同様の構成を有している。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、実施の形態1と同様の多重量子井戸40(図3参照)からなる屈折率変調層33を有している。つまり、多重量子井戸40は、電気光学効果を利用する屈折率変調層33を構成している。屈折率変調層33は、p側SCH層20とn側SCH層21とによって挟まれている。p側SCH層20上にはp−InPクラッド層22が設けられている。
【0066】
p−InPクラッド層22上にはp型電極31が設けられている。n側SCH層20の屈折率変調層33と反対側にはn−InPクラッド層23が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH層21と反対側にはn型電極32が設けられている。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、n側SCH層21、n−InPクラッド層23およびn型電極32が共通して設けられている。
【0067】
次に本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の光変調素子では、p型電極31とn型電極32との間に逆バイアス電圧が印加されることにより、多重量子井戸40からなる屈折率変調層33への印加電界が制御され、屈折率差が調整される。
【0068】
本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aが多重量子井戸40において第1導電型のドーパントであるp型不純物が拡散した範囲に設けられているため、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。このため、同じ駆動電圧における屈折率の変化が大きくなり、より低電圧で駆動できると共に、素子の小型化が可能となる。
【0069】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、多重量子井戸は、電気光学効果を利用する屈折率変調層33を構成しているため、MZ変調器部27により電気光学効果を利用して光を変調することができる。
【0070】
上記の実施の形態1および2では、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型である場合について説明したが、これに限定されず第1導電型がn型であり、第2導電型がp型であってもよい。この場合、上記の光変調素子においてp型とn型の関係を入れ替えることで、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型とすることができる。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 ウェル層、2 バリア層、2a 第2導電型バリア層、3 電子の第一量子準位、4 正孔の第一量子準位、5 電子の波動関数、6 正孔の波動関数、7 遷移エネルギー、8 量子井戸のバンドギャップ、9 EA吸収ピーク波長、10 LD波長、11 離調(Δλ)、12 吸収ピークシフト、13 消光比、14 EA変調器部、15 DFB−LD部、16 分離領域、17 EA変調器吸収層、18 LD活性層、19 バットジョイント成長界面、20 p側SCH層、20a 第1の分離閉じ込め層部、20b 第2の分離閉じ込め層部、21 n側SCH層、22 p−InPクラッド層、23 n−InPクラッド層、24 回折格子、25 出射光、26 ノンドープInP層、27 MZ変調器部、28 多モード干渉型光結合器、29 第一位相変調器、30 第二位相変調器、31 p型電極、32 n型電極、33 屈折率変調層、40 多重量子井戸。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子に関し、特に多重量子井戸を備えた光変調素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速光ファイバ通信の分野では、半導体レーザ(LD:Laser Diode)が多数用いられている。直接変調LDの場合には伝送速度が毎秒10ギガビット(10Gbit/s)を越えると、チャープ特性の影響が顕著となるため伝送距離が光ファイバの分散で制限される。このため外部変調LDであって、チャープ特性に優れた変調器集積LDが実用に供されている。この変調器集積LDでは、半導体変調器と分布帰還型レーザダイオード(DFB−LD:Distributed Feedback Laser Diode)とが半導体基板上にモノリシック集積されている。
【0003】
半導体変調器には、たとえば電界印加による吸収端波長シフトを用いた電界吸収型光変調器(Electro-Absorption Optical Modulator:EA変調器)と屈折率変化を用いたマッハツェンダー型光変調器(Mach-Zehnder Optical Modulator:MZ変調器)とがある。
【0004】
EA変調器は、p型およびn型InP(リン化インジウム)クラッド層と、それらに挟まれたノンドープ多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)活性層から成るPinダイオード構造の素子である。EA変調器は、たとえば特開平9−243975号公報(特許文献1)に開示されている。EA変調器においては、n型電極を正、p型電極を負として逆バイアス電圧が印加されることによって、MQW活性層に入射する光の吸収量が変化されることでLD出力光が変調される。
【0005】
さて長波光ファイバ通信向けEA変調器を構成する半導体材料としては、InP基板上にエピタキシャル成長させたInGaAsP(インジウムガリウムヒ素リン)などの混晶材料が用いられる。この材料系では、ヘテロ界面においてエネルギーギャップ差(ΔEg)が伝導帯および価電子帯で40:60の比に分けられ、質量の重い正孔に対して大きなバリアが存在する。このためMQW内で強い光が吸収されて、キャリア(電子と正孔)が生成された場合、電子に比べ正孔はバリアを越えて電流として流れにくい。この現象は正孔のパイルアップ現象と呼ばれる。その結果、吸収飽和や、蓄積されたキャリアが外部電界を遮蔽(スクリーニング効果)することによる高速応答特性の劣化などが生じる問題点がある。
【0006】
特に、MQW層をバンドギャップの広いInPクラッド層で直接はさむ場合および単層のInGaAsPの分離閉じ込め層(SCH:Separate Confinement Heterostructure)をMQW層とInPクラッド層との間に挿入する場合には、ヘテロ界面に価電子帯端の大きなバンド不連続がある。そのため、正孔が熱励起によって障壁を乗り越え、InPクラッド層で吸収されるまでの滞留時間が長くなる。
【0007】
そこで、連続的にバンドギャップが変化するGRIN−SCH構造(Graded Index Separate Confinement Heterosutructure)をMQW層とクラッド層との間に挿入して、価電子帯バンド不連続の影響を解消することが提案されている。GRIN−SCH構造は、たとえば特開平9−171162号公報(特許文献2)に開示されている。
【0008】
また、多層SCH構造を採用することによっても、価電子帯バンド不連続の影響を解消することが図られている。この多層SCH構造では、SCH層が多層膜で構成されており、InPクラッド層からMQW層に向けて順にバンドギャップが小さくなるようにすることで、多層膜の各層間におけるバンド不連続量が小さくなるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−243975号公報
【特許文献2】特開平9−171162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年のEA変調器では、上記のようにキャリア(特に正孔)のパイルアップ現象を抑制するため、MQW層とInPクラッド層の間にGRIN−SCH構造または多層SCH構造を挿入した構造が採用されている。
【0011】
一方、光半導体素子の結晶成長で多く用いられるMOCVD(Metal organic Chemical Vapor Deposition)法では、p型ドーパントとしてZn(亜鉛)が主に用いられる。Znは結晶成長中に拡散しやすい。特にpクラッド層内の電圧降下や、キャリアのパイルアップ現象の低減を目的として、p−InPクラッド層のドーピング濃度を高くした場合、SCH層やMQW層にまでp型不純物が拡散することがある。その結果、MQW層中のp型不純物プロファイルは、不均一になり、量子井戸の位置による電界強度の違いが大きくなる。
【0012】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる光変調素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光変調素子は、第1導電型の第1の半導体クラッド層と、第2導電型の第2の半導体クラッド層と、第1および第2の半導体クラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層および複数のバリア層を有する多重量子井戸とを備えている。複数のバリア層は、第2のクラッド層に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層を含んでいる。第2導電型バリア層は、多重量子井戸において第1の半導体クラッド層に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光変調素子によれば、第2導電型バリア層は、多重量子井戸において第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられているため、第2導電型バリア層の第1導電型のドーパントによって多重量子井戸の第1導電型のドーパントを相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、バンドの曲がりを抑制することができる。そして、多重量子井戸にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における変調器集積DFB−LDの構成を模式的に示す概略斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図1のP1部の構成および不純物プロファイルを示す図である。
【図4】量子閉じ込めシュタルク効果の原理を説明する図であって、電界ゼロの状態を示す図(a)と逆バイアス電圧が印加された状態を示す図(b)である。
【図5】EA変調器吸収スペクトルの印加電圧依存性および動作条件を示す図である。
【図6】比較例におけるEA変調器の逆バイアス印加時のポテンシャルを模式的に示す図である。
【図7】比較例における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布のp側ノンドープInP膜厚依存性を示す図である。
【図8】比較例における多重量子井戸層内部の電界分布のp側ノンドープInP膜厚依存性を示す図である。
【図9】比較例における多重量子井戸層内部の電界分布の逆バイアス電圧依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1における光変調素子の逆バイアス印加時のポテンシャルを模式的に示す図である。
【図11】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布のバリア層n型ドープ位置依存性を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部のポテンシャル分布の第5バリア層n型ドープ濃度依存性を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態1における多重量子井戸層内部の電界分布の逆バイアス電圧依存性を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態1における変形例の光変調素子の逆バイアス印加時のポテンシャルを示す図である。
【図15】本発明の実施の形態2における変調器集積DFB−LDの構造を模式的に示す概略上面図である。
【図16】図15のXVI−XVI線に沿う概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、本実施の形態における光変調素子は、単体の光変調器だけでなく、変調器集積LDを包含しているため、以下では、最良の実施形態である変調器集積LDについて記述する。
【0017】
(実施の形態1)
最初に本発明の実施の形態1における変調器集積LDの構成について説明する。本実施の形態では変調器集積LDの一例としてEA変調器集積LDについて説明する。
【0018】
図1および図2を参照して、EA変調器集積LDは、EA変調器部14と、分離領域15と、DFB−LD部16とを主に有している。分離領域15は、EA変調器部14とDFB−LD部16とを電気的に分離するための領域である。EA変調器集積LDは、DFB−LD部16からの発振光がEA変調器部14で変調されてEA変調器部14側から出射光25が取り出されるように構成されている。
【0019】
EA変調器集積LDは、EA変調器吸収層17と、LD活性層18と、p型SCH層20と、n側SCH層21と、p−InPクラッド層22と、n−InPクラッド層23と、回折格子24と、ノンドープInP層26と、p型電極31と、n型電極32とを主に有している。n−InPクラッド層23はn−InP基板を兼ねている。
【0020】
EA変調器部14では、第1導電型の第1の半導体クラッド層であるp−InPクラッド層22と、第2導電型の第2の半導体クラッド層であるn−InPクラッド層23との間にEA変調器吸収層17が挟まれている。p−InPクラッド層22とEA変調器吸収層17との間には、EA変調器吸収層17側から順番に第1の分離閉じ込め層であるp側SCH層20と、ノンドープInP層26とが積層されている。
【0021】
n−InPクラッド層23とEA変調器吸収層17との間には、第2の分離閉じ込め層であるn側SCH層21が設けられている。p側SCH層20は多層に形成されている。n側SCH層21は単層に形成されている。なお、n側SCH層21は多層に形成されていてもよい。p−InPクラッド層22のノンドープInP層26側と反対側にはp型電極31が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH層21と反対側にはn型電極32が設けられている。
【0022】
DFB−LD部16では、p−InPクラッド層22とn−InPクラッド層23との間にLD活性層18が挟まれている。p−InPクラッド層22とLD活性層18との間にはp側SCH層20が設けられている。p側SCH層20の内部には回折格子24が設けられている。n−InPクラッド層23とLD活性層18との間にn側SCH21が設けられている。DFB−LD部16でもp−InPクラッド層22のp側SCH20と反対側にはp型電極31が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH21と反対側にはn型電極32が設けられている。
【0023】
分離領域15において、EA変調器吸収層17とLD活性層18とがバットジョイント成長界面19で接合されている。分離領域15では、p型電極31は設けられていない。
【0024】
EA変調器部14およびDFB−LD部16はリッジ構造20となっている。なお、EA変調器部14およびDFB−LD部16はリッジ構造20に限定されず、広く用いられる埋め込みへテロ構造であってもよい。このヘテロ構造であっても本実施の形態と同様の効果が得られる。
【0025】
図3を参照して、EA変調器吸収層17は、多重量子井戸40で構成されている。つまり、多重量子井戸40は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成している。多重量子井戸40は、交互に積層された複数のウェル層1および複数のバリア層2を有している。複数のバリア層2は、n−InPクラッド層23に含まれる第2導電型のドーパント(n型不純物)が導入された第2導電型バリア層2aを有している。第2導電型バリア層2aは、多重量子井戸40においてp−InPクラッド層22に含まれる第1導電型のドーパント(p型不純物)が拡散した範囲に設けられている。
【0026】
第2導電型バリア層2aは、p−InPクラッド層22およびn−InPクラッド層23に挟まれる方向での多重量子井戸40の中間地点よりp−InPクラッド層22側に位置している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2aよりもn−InPクラッド層23側の多重量子井戸40の少なくとも一部の部分の第2導電型のドーパントの濃度(n型不純物濃度)より高い濃度を有している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2a内の第1導電型のドーパントの濃度(p型不純物濃度)より高い濃度を有している。
【0027】
続いて、各層の不純物プロファイルについて説明する。以下、不純物濃度の値はピーク濃度が示されている。
【0028】
n型不純物濃度について、n−InPクラッド層23のn型不純物濃度は、たとえば1×1018cm-3である。n側SCH層21のn型不純物濃度は、n側SCH層21とn−InPクラッド層との境界からn側SCH層21と多重量子井戸40との境界に向かって減少し、n側SCH層21と多重量子井戸40との境界では実質的にゼロとなる。また、第2導電型バリア層2aのn型不純物濃度は、たとえば1×1017cm-3である。第2導電型バリア層2aのn型不純物濃度は、1×1017cm-3以下が好ましい。
【0029】
p型不純物濃度について、p−InPクラッド層22のp型不純物濃度は、たとえば1×1018cm-3である。ノンドープInP層26のp型不純物濃度は、ノンドープInP層26とp−InPクラッド層22との境界からノンドープInP層26とp側SCH層20との境界に向かって減少し、ノンドープInP層26とp側SCH層20との境界でのp型不純物濃度は、たとえば4×1017cm-3である。p側SCH層20の不純物濃度は、p側SCH層20とノンドープInP層26との境界からp側SCH層20と多重量子井戸40との境界に向かって減少し、p側SCH層26と多重量子井戸40との境界でのn型不純物濃度は、たとえば1×1017cm-3である。
【0030】
なお、各層には残留不純物または隣接部からわずかに拡散した不純物が存在し得る。ここで正味の不純物濃度は、ある極性のドーピング濃度から、反対極性の残留不純物濃度をひいた値となる。たとえば、n側SCH層21およびn−InPクラッド層23のp型不純物濃度は、ノンドープ層中のバックグラウンド不純物と同程度である。また、p側SCH層20およびp−InPクラッド層22のn型不純物濃度は、ノンドープ層中のバックグラウンド不純物と同程度である。そのため、これらの残留不純物または隣接部からわずかに拡散した不純物の濃度は、たとえば1×1016cm-3以下であり、理想的にはたとえばSIMS(二次イオン質量分析法)測定限界の1×1015cm-3以下であるので、ほとんど無視できる。
【0031】
次に、EA変調器部の動作原理について説明する。
図4を参照して、一つの量子井戸における電界効果について説明する。図4(a)は電界が存在しない(電界ゼロ)時のエネルギーバンド図である。図4(b)は逆バイアス電界が印加された時のエネルギーバンド図である。
【0032】
図4(a)および(b)を参照して、量子井戸はバンドギャップの小さいウェル(井戸)層1とバンドギャップの大きいバリア(障壁)層2から成り、電子と正孔(ホール)は各々量子準位を形成する。簡単のため、電子の第一量子準位(Ee1)3と正孔の第一量子準位(Eh1)4のみを考え、それらに対応する電子の波動関数5と正孔の波動関数6が図示されている。
【0033】
電子と正孔はウェル内に閉じ込められ、クーロン引力でゆるやかに結合して励起子(エキシトン)を形成する。この時、光吸収に伴う遷移エネルギー7は、図示されるように電子と正孔の量子準位間のエネルギー差で決まる。逆バイアス電界の印加時、量子井戸のバンドギャップ8自体は変化しないが、電子と正孔の波動関数は逆方向に偏移するため、遷移エネルギーは低エネルギー側(長波長側)にシフトする。この現象は、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE:Quantum Confined Stark effect)と呼ばれる。
【0034】
QCSEによる励起子吸収ピーク波長のシフトは、量子井戸の厚さの4乗に近似的に比例するので、井戸厚が厚い方が大きな吸収係数変化が得られる。一方、振動子強度そのものは、井戸が厚くなると弱くなるため、最適の井戸厚が存在する。電界をかけると電子と正孔の波動関数の偏移により、振動子強度(吸収ピーク強度)も下がる。
【0035】
図5を参照して、EA変調器の吸収スペクトルの印加電圧依存性を説明する。
EA吸収ピーク波長9、被変調光であるLD波長10、離調Δλ(EA吸収ピークとLD波長の波長差)11、電界による吸収ピークシフト12、消光比13が示されている。ゼロバイアス(0V)状態では、波長1.52μmおよび1.45μm付近に励起子吸収のピークが観測される。それらが逆方向電圧印加(V印加)に伴い、長波長側にシフトする。したがって、たとえば波長1.585μmの光が入射されると、印加電圧と共に吸収は増加する。この時、ゼロバイアスをON(オン)状態、V印加をOFF(オフ)状態に対応させることにより、光の変調が可能となる。そのON/OFF比が消光比13と呼ばれる特性パラメータである。
【0036】
次に、本実施の形態の作用効果について比較例と比較して説明する。
図6を参照して、比較例のEA変調器では、多重量子井戸40を構成するウェル層1とバリア層2とはいずれもノンドープ層である。多重量子井戸40とp−InPクラッド層22との間にはノンドープInP層26が挿入されているが、結晶成長および作製プロセスの間にp型ドーパントがp−InPクラッド層22からp側SCH層20および多重量子井戸40にまで拡散してくる。具体的には、p−InPクラッド層22の不純物濃度がたとえば1×1018cm-3とすると、約100nm拡散して1×1017cm-3程度となる。 この影響を受けてp側SCH層20付近でバンド曲がりが生じる。つまり、不純物濃度が高いp側SCH層20付近では、不純物濃度が低い多重量子井戸40に比べて電圧がかかりにくくなる。そのため、バンド図においてポテンシャルが下がりにくくなる。これにより、p側SCH層20付近でバンド曲がりが生じる。
【0037】
比較例のEA変調器における電界分布の不均一性についてさらに詳しく説明する。
図7を参照して、比較例のEA変調器について、p型ドーパントの拡散を考慮し、ノンドープInP層26の膜厚をパラメータとして、ビルトイン状態(ゼロバイアス)でのポテンシャル分布を計算した例について説明する。
【0038】
この比較例のEA変調器はpin構造を有している。p−InPクラッド層22と多重量子井戸40との間に、ノンドープInP層26およびp側SCH層20が配置されている。p側SCH層20は、バンドギャップ波長が1180nmから1000nmまでの6層の多層膜で構成されている。n−InPクラッド層23と多重量子井戸40との間にはバンドギャップ波長が1180nmの単層のn側SCH層21が配置されている。
【0039】
多重量子井戸40では、バリア層2はバンドギャップ波長が1180nmで、厚みが8nmに構成されている。ウェル層1は厚みが10nmで、吸収端ピーク波長が1470nmとなるように構成されている。ウェル層1の数は10個である。
【0040】
図7では、多重量子井戸40のみが拡大して示されており、図7の右側がp側SCH層20に近い位置にあり、左側がn側SCH層21に近い位置にある。ノンドープInP層26の膜厚は10nm〜125nmに設定されている。図7に示すように、ノンドープInP層26の膜厚が30nm以下では、p側SCH層20に近い部分にポテンシャルの曲がりが見られ、ノンドープInP層26の膜厚が50nm以上ではポテンシャルの曲がりが改善されていることがわかる。
【0041】
続いて、図8を参照して、多重量子井戸40の各ウェル層1での電界(図7のポテンシャルの傾きに対応)が拡大されて示されている。図8では、n側SCH層21に近い左側から、p側SCH層20に近い右側まで、配置されたウェル層1の順に採番されている。図8に示すように、ビルトイン状態での多重量子井戸40内部の電界分布は不均一となっている。ノンドープInP層26の膜厚を125nmまで増やすと均一性が若干改善されるものの不均一性は残り、改善効果も飽和していることがわかる。
【0042】
続いて、図9を参照して、0V〜2.4Vの逆バイアスが印加された時の多重量子井戸40内部の電界分布が示されている。図9では、p側SCH層20に近い右側とn側SCH層21に近い左側とで、電界強度に大きな差があり、QCSEによる吸収ピークシフトにもばらつきが出ることがわかる。
【0043】
一方、図10を参照して、本実施の形態の光変調素子では、第2導電型バリア層2aが挿入されていることで、p側SCH層20近傍のバンドの曲がりが抑制されている。
【0044】
本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aが多重量子井戸40において第1導電型のドーパントであるp型不純物が拡散した範囲に設けられているため、第2導電型バリア層2aのn型不純物によって多重量子井戸40のp型不純物を相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、バンドの曲がりを抑制することができる。そして、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【0045】
また、多重量子井戸40にかかる電界が均一化された結果、吸収端シフト量がすべてのウェル層1で均一化されることで消光比が改善する。そのため、量子井戸数の低減が可能となり、低電圧駆動実現と共に、良好な消光特性とチャーピング特性を両立できる。さらにp型ドーパント拡散量の面内不均一性による特性のばらつきが改善されることで、作製歩留まりが向上する。
【0046】
ウェル層1にドーピングを施すと、ウェル層1内のキャリア密度が高くなり、励起子吸収ピーク強度が低下して吸収変化が小さくなる。第2導電型バリア層2aに第2導電型のドーパントが導入されていることで吸収変化が小さくなることを抑制できる。また、ドーピングにより結晶欠陥が導入される可能性もある。第2導電型バリア層2aに第2導電型のドーパントが導入されていることで、必要最小限にドーピングすることで結晶欠陥が導入されることを抑制できる。
【0047】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aは、p−InPクラッド層22とn−InPクラッド層23に挟まれる方向での多重量子井戸40の中間地点よりp−InPクラッド層22側に位置している。第2導電型バリア層2aは、第2導電型バリア層2aよりもn−InPクラッド層23側の多重量子井戸40の少なくとも一部の部分の第2導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有し、かつ第2導電型バリア層2a内の第1導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有している。このため、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。これにより、量子井戸の位置による電界強度差を小さくすることができる。
【0048】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aの第2導電型のドーパントの濃度が1×1017cm-3以下である。これにより、第2導電型バリア層2aのn型不純物のドープ量を制御することによって、多重量子井戸40のp型不純物をさらに適切に相殺することができる。このため、さらに適切に絶縁性を上げることができる。
【0049】
また、図10に示すように、本実施の形態の光変調素子では、p側SCH層20はp−InPクラッド層22のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ多重量子井戸40のウェル層1のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している。n側SCH層21は、n−InPクラッド層23のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ多重量子井戸40のウェル層1のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している。
【0050】
これにより、p−InPクラッド層22と多重量子井戸40とのバンド不連続量を小さくすることができる。また、n−InPクラッド層23と多重量子井戸40とのバンド不連続量を小さくすることができる。
【0051】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、多重量子井戸40は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成しているため、EA変調器部14により電界吸収効果を利用して光を変調することができる。
【0052】
また、図10に示すように、本実施の形態の光変調素子では、p側SCH層20はp−InPクラッド層22側から多重量子井戸40側へ段階的にバンドギャップエネルギーが小さくなるように構成されている。p側SCH層20は、第1の分離閉じ込め層部20aと、第2の分離閉じ込め層部20bとを有している。第2の分離閉じ込め層部20bは、第1の分離閉じ込め層部20aのバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有している。第1の分離閉じ込め層部20aより多重量子井戸40側に第2の分離閉じ込め層部20bが配置されている。なおn側SCH層21も同様に構成されていてもよい。
【0053】
このため、p側SCH層20において、p−InPクラッド層22側から多重量子井戸40側へ段階的にバンド不連続量を小さくすることができる。これにより、p−InPクラッド層22と多重量子井戸40とのバンド不連続量を順に小さくすることができる。
【0054】
本実施の形態の光変調素子における電界分布の均一化についてさらに詳しく説明する。
図11を参照して、第4バリア層から第7バリア層のいずれかに、不純物濃度1×1017cm-3のn型ドーピングを施した時の、ビルトイン状態でのポテンシャル分布の計算結果の一例が示されている。第4バリア層から第7バリア層は、n側SCH層20に近い側から順に1〜9まで採番された場合の4番目から7番目のバリア層である。
【0055】
図11に示すように、バリアドープなしの場合に比べ、バリアドープした部分のポテンシャルが下がって、全体のポテンシャル分布が変化していることがわかる。各バリアについて、図8に示す場合と同様に多重量子井戸40内部の電界を計算した結果、第5バリア層にドーピングした場合の均一性が最良であることがわかった。
【0056】
図12を参照して、第5バリア層へのドーピング濃度を変えたときのポテンシャル分布が示されている。各ドーピング濃度について、図8に示す場合と同様に多重量子井戸40内部の電界を計算した結果、不純物濃度として5×1016cm-3が最良であることがわかった。
【0057】
図13を参照して、第5バリア層に不純物濃度として5×1016cm-3でドーピングした最適条件において、0V〜2.4Vまで、逆バイアスが印加された時の多重量子井戸40内部の電界分布が示されている。図11に示す比較例と比べて、多重量子井戸40内部の電界の均一性は大幅に改善されており、特に変調器への応用上重要な0V〜1.8Vまでの範囲で電界強度はほぼ均一であることがわかる。これにより、本実施の形態の構造は、バリア層2にドーピングを施さない比較例の構造に比べ、同じウェル層の数でQCSEの効果を最大限に発揮することができる。
【0058】
なお、上記では、多重量子井戸40の中央部よりもp−InPクラッド層22側に近い1つのバリア層2にのみ第2導電型のドーピングが行われている場合について説明したが、複数のバリア層にドーピングが行われていてもよい。
【0059】
図14を参照して、第2導電型バリア層2aは、ウェル層1で互いに分離された複数の第2導電型バリア層部2a1を有している。このため、分離された位置にn型不純物を導入することができる。そのため、分離された位置で第2導電型バリア層2aのn型不純物によって多重量子井戸40のp型不純物を相殺することで、絶縁性を上げることができる。このため、ドープ位置をさらに細かく制御することができるので、さらに効果的にバンドの曲がりを抑制することができる。そして、さらに効果的に多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。また、複数のバリア層のドーピング濃度は、電界分布に応じて調整されていてもよい。
【0060】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では変調器集積LDの一例としてMZ変調器集積LDについて説明する。
【0061】
まず、MZ変調器の基本原理を説明する。MZ変調器は、導波路に結合した入力光がY分岐素子や多モード干渉型光結合器(MMI:Multi-Mode Interference coupler)により、複数の導波路に分岐される。そして、それらの間に所定の位相差(対称分岐であれば0またはπ)が与えられた後にそれらを再度合波させて干渉させ、光変調が行われる。MZ変調器はEA変調器に比べさらにチャーピング特性を改善できることから、主に長距離幹線系光通信へ応用される。
【0062】
実施の形態1のEA変調器は、電界印加による吸収係数の変化を利用したが、これをクラマース・クローニッヒ変換して得られるのが屈折率変化である。本実施の形態のMZ変調器はこの屈折率変化を利用して分岐導波路間の位相差を与えることにより光を変調する。
【0063】
次に本実施の形態におけるMZ変調器集積LDの構成について説明する。
図15および図16を参照して、本実施の形態のMZ変調器集積LDは、MZ変調器部27と、DFB−LD部16とを主に有している。MZ変調器集積LDは、MZ変調器部27の後方入力導波路に、DFB−LD部16がモノリシック集積された構造を有している。
【0064】
本実施の形態のMZ変調器部27は、MMI28と、第一位相変調器29と、第二位相変調器30とを主に有している。第一位相変調器29と第二位相変調器30とはMMI28に挟まれるように設けられている。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは分岐導波路の中に設けられている。
【0065】
第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、同様の構成を有している。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、実施の形態1と同様の多重量子井戸40(図3参照)からなる屈折率変調層33を有している。つまり、多重量子井戸40は、電気光学効果を利用する屈折率変調層33を構成している。屈折率変調層33は、p側SCH層20とn側SCH層21とによって挟まれている。p側SCH層20上にはp−InPクラッド層22が設けられている。
【0066】
p−InPクラッド層22上にはp型電極31が設けられている。n側SCH層20の屈折率変調層33と反対側にはn−InPクラッド層23が設けられている。n−InPクラッド層23のn側SCH層21と反対側にはn型電極32が設けられている。第一位相変調器29と第二位相変調器30とは、n側SCH層21、n−InPクラッド層23およびn型電極32が共通して設けられている。
【0067】
次に本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の光変調素子では、p型電極31とn型電極32との間に逆バイアス電圧が印加されることにより、多重量子井戸40からなる屈折率変調層33への印加電界が制御され、屈折率差が調整される。
【0068】
本実施の形態の光変調素子によれば、第2導電型バリア層2aが多重量子井戸40において第1導電型のドーパントであるp型不純物が拡散した範囲に設けられているため、多重量子井戸40にかかる電界を均一化することができる。このため、同じ駆動電圧における屈折率の変化が大きくなり、より低電圧で駆動できると共に、素子の小型化が可能となる。
【0069】
また、本実施の形態の光変調素子によれば、多重量子井戸は、電気光学効果を利用する屈折率変調層33を構成しているため、MZ変調器部27により電気光学効果を利用して光を変調することができる。
【0070】
上記の実施の形態1および2では、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型である場合について説明したが、これに限定されず第1導電型がn型であり、第2導電型がp型であってもよい。この場合、上記の光変調素子においてp型とn型の関係を入れ替えることで、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型とすることができる。
【0071】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 ウェル層、2 バリア層、2a 第2導電型バリア層、3 電子の第一量子準位、4 正孔の第一量子準位、5 電子の波動関数、6 正孔の波動関数、7 遷移エネルギー、8 量子井戸のバンドギャップ、9 EA吸収ピーク波長、10 LD波長、11 離調(Δλ)、12 吸収ピークシフト、13 消光比、14 EA変調器部、15 DFB−LD部、16 分離領域、17 EA変調器吸収層、18 LD活性層、19 バットジョイント成長界面、20 p側SCH層、20a 第1の分離閉じ込め層部、20b 第2の分離閉じ込め層部、21 n側SCH層、22 p−InPクラッド層、23 n−InPクラッド層、24 回折格子、25 出射光、26 ノンドープInP層、27 MZ変調器部、28 多モード干渉型光結合器、29 第一位相変調器、30 第二位相変調器、31 p型電極、32 n型電極、33 屈折率変調層、40 多重量子井戸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1の半導体クラッド層と、
第2導電型の第2の半導体クラッド層と、
前記第1および第2の半導体クラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層および複数のバリア層を有する多重量子井戸とを備え、
前記複数のバリア層は、前記第2のクラッド層に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層を含み、
前記第2導電型バリア層は、前記多重量子井戸において前記第1の半導体クラッド層に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている、光変調素子。
【請求項2】
前記第2導電型バリア層は、前記第1および第2の半導体クラッド層に挟まれる方向での前記多重量子井戸の中間地点より前記第1の半導体クラッド層側に位置し、かつ前記第2導電型バリア層よりも前記第2の半導体クラッド層側の前記多重量子井戸の少なくとも一部の部分の前記第2導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有し、かつ前記第2導電型バリア層内の前記第1導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有している、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記第2導電型バリア層は、前記ウェル層で互いに分離された複数の第2導電型バリア層部を有している、請求項1または2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記第2導電型バリア層の前記第2導電型のドーパントの濃度が1×1017cm-3以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項5】
前記第1の半導体クラッド層と前記多重量子井戸との間に設けられた第1の分離閉じ込め層と、
前記第2の半導体クラッド層と前記多重量子井戸との間に設けられた第2の分離閉じ込め層とをさらに備え、
前記第1の分離閉じ込め層は、前記第1の半導体クラッド層のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ前記多重量子井戸の前記ウェル層のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有し、
前記第2の分離閉じ込め層は、前記第2の半導体クラッド層のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ前記多重量子井戸の前記ウェル層のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している、請求項1〜4のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項6】
前記第1および第2の分離閉じ込め層の少なくともいずれかは、
前記第1および第2の半導体クラッド層側から前記多重量子井戸側へ段階的にバンドギャップエネルギーが小さくなるように構成されている、請求項5に記載の光変調素子。
【請求項7】
前記多重量子井戸は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成している、請求項1〜6のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項8】
前記多重量子井戸は、電気光学効果を利用する屈折率変調層を構成している、請求項1〜6のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項1】
第1導電型の第1の半導体クラッド層と、
第2導電型の第2の半導体クラッド層と、
前記第1および第2の半導体クラッド層の間に挟まれ、かつ交互に積層された複数のウェル層および複数のバリア層を有する多重量子井戸とを備え、
前記複数のバリア層は、前記第2のクラッド層に含まれる第2導電型のドーパントが導入された第2導電型バリア層を含み、
前記第2導電型バリア層は、前記多重量子井戸において前記第1の半導体クラッド層に含まれる第1導電型のドーパントが拡散した範囲に設けられている、光変調素子。
【請求項2】
前記第2導電型バリア層は、前記第1および第2の半導体クラッド層に挟まれる方向での前記多重量子井戸の中間地点より前記第1の半導体クラッド層側に位置し、かつ前記第2導電型バリア層よりも前記第2の半導体クラッド層側の前記多重量子井戸の少なくとも一部の部分の前記第2導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有し、かつ前記第2導電型バリア層内の前記第1導電型のドーパントの濃度より高い濃度を有している、請求項1に記載の光変調素子。
【請求項3】
前記第2導電型バリア層は、前記ウェル層で互いに分離された複数の第2導電型バリア層部を有している、請求項1または2に記載の光変調素子。
【請求項4】
前記第2導電型バリア層の前記第2導電型のドーパントの濃度が1×1017cm-3以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項5】
前記第1の半導体クラッド層と前記多重量子井戸との間に設けられた第1の分離閉じ込め層と、
前記第2の半導体クラッド層と前記多重量子井戸との間に設けられた第2の分離閉じ込め層とをさらに備え、
前記第1の分離閉じ込め層は、前記第1の半導体クラッド層のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ前記多重量子井戸の前記ウェル層のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有し、
前記第2の分離閉じ込め層は、前記第2の半導体クラッド層のバンドギャップエネルギーより小さく、かつ前記多重量子井戸の前記ウェル層のバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーを有している、請求項1〜4のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項6】
前記第1および第2の分離閉じ込め層の少なくともいずれかは、
前記第1および第2の半導体クラッド層側から前記多重量子井戸側へ段階的にバンドギャップエネルギーが小さくなるように構成されている、請求項5に記載の光変調素子。
【請求項7】
前記多重量子井戸は、電界吸収効果を利用する吸収層を構成している、請求項1〜6のいずれかに記載の光変調素子。
【請求項8】
前記多重量子井戸は、電気光学効果を利用する屈折率変調層を構成している、請求項1〜6のいずれかに記載の光変調素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−220530(P2012−220530A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82823(P2011−82823)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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