説明

光天井用膜材

【課題】通常は光透過性を有する不燃性の天井材として機能し、消灯時や停電時には自ら発光し、一時的な照明代わりや目印となる光天井用膜材の提供。
【解決手段】ガラス繊維糸条、シリカ繊維糸条及びこれらの混用繊維糸条からなる繊維織物の表片面上に、蓄光性蛍光体物質を20〜60質量%含有する蓄光蛍光性樹脂層を設け、可視光透過率(JIS Z8722)が20〜60%である積層体とすることで、特に、コーンカロリーメーター試験(ASTM-E1354)に適合する不燃性の光天井用膜材を得る。必要に応じて蓄光蛍光性樹脂層には蛍光増白剤や光拡散性粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性蛍光機能(蓄光性及び残光性)を有する光天井用膜材に関するものである。更に詳しく述べるならば、通常は光天井用膜材として機能し、消灯時及び突発的な停電時には、電力を必要とすることなく、膜材自体が発光して、一時的に照明の代わりになり、混乱を避けると共に、大衆の目印、道標となることが可能な光天井用膜材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不特定多数の人々が利用する機会の多い公共施設物、例えば、劇場、ホテル、公会堂、美術館等において、とりわけ内部空間(エレベーター室を含め)の建築材料には、安全設計のため、高度な防炎設計が求められる。
【0003】
最近、地震などで天井材が落下し、直下に人がいた場合、怪我をする危険性があるため、天井材が落下するのを防ぐために、膜材を天井に施工し、更に照明の光を透過させる事で光天井として使用するケースがある。光天井として膜材を使用する場合、不燃性能を有する事が必須条件である事から、ガラス繊維、或いはシリカ繊維などの無機繊維織布を含む膜材料の使用が増えている。また、地下街や室内に於いて、照明を消したり、停電により真っ暗闇になると、出入り口や避難経路が分からず、大パニックになる危険性がある。そこで、このような事態が発生した時に、一時的な照明代わりとなり、即時人々を避難・誘導可能な視覚認知手段が必要とされている。
【0004】
従来、このような事態での視覚認知手段としては蓄光性蛍光(蓄光性及び残光性)物質の応用が知られている。蓄光性蛍光(蓄光性及び残光性)物質としては硫化カルシウム(CaS・Bi)や硫化亜鉛(ZnS・Cu)蛍光体が知られているが、前者は残光輝度が低く、また後者は残光が持続する時間(残光時間)が短いこと等の欠点があり、これまで蓄光性蛍光膜材として実用に供されるケースは殆どなかった。
最近、硫化亜鉛系蛍光体の約10倍の残光輝度及び残光時間を有する蓄光性蛍光体として、ユーロピウムやジスプロシウム等のイオンを賦活剤として含むアルミン酸カルシウム、アルミン酸ストロンチウム、アルミン酸バリウムからなる蓄光性蛍光体が提案されており(特許文献1:特開平7−11250号公報)、これを利用した塩化ビニル系樹脂組成物も提案されている(特許文献2:特開平7−247391号公報)。
【0005】
また、屋内・屋外の使用に耐える蓄光性蛍光シートとして、蓄光性蛍光体を含有したPVCシートを白色度60以上の基材層に積層し、さらに表面に各種防汚層を形成したシートが提案されている。(特許文献3:特開平10−250006号公報)。また、表皮が透明硬質PVCフィルムで、中間層が蓄光性蛍光体を含有した軟質PVCシートで、下層が白色硬質PVCシートからなる積層板が提案されている。(特許文献4:特開平11−138709号公報)。しかし、これらのシートを光天井材に用いた場合は蓄光性蛍光体層の下層に位置する白色層がシートの透光率を下げてしまうため、内照による明るさが不十分となり、光天井材としては全く機能しないシートであった。従って、停電時に一時的な照明代わりとなったり、避難誘導の目印になるような蓄光性蛍光機能(蓄光性及び残光性)を有する不燃シートであって、しかも光天井材として美麗に用いることのできるシートはこれまで存在していなかったのである。
【0006】
【特許文献1】特開平7−11250号公報
【特許文献2】特開平7−247391号公報
【特許文献3】特開平10−250006号公報
【特許文献4】特開平11−138709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、通常は光透過性のある天井材として機能し、消灯時や、万一送電が止まり真っ暗になった場合には、自ら発光し、一時的な照明代わりとなり、建築基準法の燃焼試験(ASTM-E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法)に適合する不燃性能を有する、極めて有用となる光天井用膜材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討の結果、ガラス繊維糸条、シリカ繊維糸条及びこれらの混用繊維糸条からなる繊維織物の上に蓄光蛍光性樹脂層を積層し、特定の可視光透過率となる様に調整する事で、通常使用時には照明の透過光を妨げることなく、夜間停電時の発光性の両方を満たす光天井用膜材が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の光天井用膜材は、ガラス繊維糸条、シリカ繊維糸条及びこれらの混用繊維糸条からなる繊維織物の上に、蓄光性蛍光体物質を20〜60質量%含有する蓄光蛍光性樹脂層を積層し、可視光透過率(JIS Z8722)が20〜60%になる様に調整された、少なくとも2層以上の積層体であって、輻射電気ヒ−タ−から前記積層体の表面に対して、50kW/mの輻射熱の照射時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えることがなく、しかも加熱開始後20分間、前記可撓性積層体の裏面に貫通する亀裂、及び穴の発生の無い、不燃性能を有することを特徴とするものである。本発明の光天井用膜材は、旧建設省告示1231号準拠するガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間の値が6.8分以上である事が好ましい。本発明の光天井用膜材は前記蓄光蛍光性樹脂層の中に光拡散剤が含まれていても良い。本発明の光天井用膜材は前記蓄光蛍光性樹脂層の中に蛍光増白剤が含まれていても良い。本発明の光天井用膜材は蓄光蛍光性樹脂層上、及び/または基布の裏片面上に光拡散性樹脂層を設けても良い。本発明の光天井用膜材には少なくとも片面に、防汚層または印刷層を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内照による明るさと発色性を、十分に満足しており、さらに残光輝度(mcd/m)も十分に有する光天井用膜材を提供することができる。また、その光天井用膜材をフレームに取付けた光天井施工物は、通常は内照による明るさと発色性を満足するばかりでなく、突発的な停電が発生し、真っ暗になった場合には、一時的に照明の代わりになり、混乱を避けると共に、大衆の目印、道標となることが可能な、極めて有用な光天井施工物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の光天井用膜材において、不燃性能を有するため、ガラス繊維糸条、シリカ繊維糸条及びこれらの混用繊維糸条からなる繊維織物を基布とする。基布の組織は平織、朱子織、3軸織、4軸織などの多軸織が使用できる。前記基布の目抜度合( 空隙率) は0 〜3%であることが好ましく、0〜1.5%であることがより好ましい。目抜度合が3%を越えると建築基準法の燃焼試験(ASTM-E1354に規定のコーンカロリーメーター試験法) において遮煙性能の妨げとなるピンホールの発生原因となることがある。目抜度合を表す空隙率は、布帛の単位面積中(10cm×10cmが好ましい。) に占める糸条の面積を百分率として求め、100から差し引いた値である。基布の質量は90〜500g/mが望ましい。基布の質量が90g/m未満では製品質量中の基布の割合が少なくなり、不燃試験の合格条件を満たせなくなる可能性がある。また、基布の質量が500g/mを超える場合では可視光透過率が低くなり、照明の光や蓄光蛍光性樹脂層の発光を十分透過する事が出来ず、室内に十分な照度を確保できなくなる。
【0012】
前記基布には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、必要に応じて接着処理、吸水防止処理、防炎処理などの下処理を、従来公知の素材と方法を用いて、適宜行うことができる。
【0013】
本発明の光天井用膜材において、蓄光蛍光性樹脂層は、蓄光性蛍光物質を含有する熱可塑性樹脂からなるものである。ここで、蓄光性蛍光物質とは、光を照射することにより励起して、光の照射を停止したのち蛍光色を発光し続ける性能(残光)を有するものをいう。前記蓄光蛍光性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては特に限定は無く、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル系共重合樹脂及び、フッ素系共重合樹脂などの熱可塑性樹脂を単独で、もしくは、2種以上をブレンドして用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のなかでも、加工の容易さ、膜材の柔軟性、基布と積層する場合の接着性などを得るため、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂及び、アクリル系共重合樹脂が特に好ましく用いられる。
【0014】
前記蓄光蛍光性樹脂層に含有させる蓄光性蛍光物質としても特に限定は無く、例えば二価の金属のアルミン酸塩を母体結晶としたものに賦活剤として希土類元素を加えたものが利用できる。二価の金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛などがあり、希土類元素としてはセリウム、プラセオジム、ネオジウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムなどがあり、これらの希土類元素は単独で用いられてもよくまた複数で用いられてもよい。なかでも、SrAl:Eu,Dy、SrAl1425:Eu,Dy、CaAl:Eu,Nd、Sr(Al・B)1425:Eu,Dy等が好適に用いられ、特に、残光性の優れる酸化アルミナストロンチウム系の蓄光性蛍光物質が好ましい。蓄光性蛍光物質の平均粒径は、1〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。蓄光性蛍光物質の分散性を考慮し、2種類以上の平均粒径のものを組合わせて使用しても良い。
【0015】
蓄光蛍光性樹脂層の質量は100〜500g/mの範囲に調整するのが好ましい。蓄光蛍光性樹脂層の質量が100g/m未満では蓄光蛍光性物質の単位面積あたりの付着量を稼ぐために蓄光蛍光性物質を密に充填せねばならず、蓄光作用及び発光作用が表面近傍でのみ行われ、効率的に行う事ができない。一方、500g/mを超えた場合には前項記載のコーンカロリーメーター試験で不合格になる場合がある。前記蓄光蛍光性樹脂層中の蓄光性蛍光物質の含有量は20〜60質量%が好ましい。蓄光性蛍光物質の含有量が20質量%未満では、蓄光蛍光性樹脂層の蓄光作用が不充分となり、残光輝度が低く、又残光時間の短い製品となることがある。一方、含有量が60質量%を超えた場合は、蓄光蛍光性樹脂層の樹脂強力が低下し、光天井用膜材としての耐久性が不十分となることがある。同じく、含有量が60質量%を超えた場合は、蓄光蛍光性樹脂層の可視光透過率が低下し、光天井用膜材として必用な透光性が得られなくなることがあり、また、蓄光作用及び発光作用が効率的に行われず、残光輝度が低下することがある。
【0016】
前記蓄光蛍光性樹脂層を前記基布層の表片面上に形成する方法としては特に限定は無いが、蓄光性蛍光体を練り込んだ液をドクターナイフコーティング、或いはロータリースクリーンなどで基布に直接塗布する方法、離型紙上に加工液をコートし、フィルム化したものを基布に転写する方法、蓄光性蛍光体を練り込んだコンパウンドを押出成型法、或いはカレンダー成型法などでフィルム化し、基布にラミネートする方法など、従来公知の方法で形成することができる。
【0017】
前記蓄光蛍光性樹脂層には蓄光蛍光性樹脂層の発光を効率よくし、内照時に照明の光を受けて自然な発光が得られるようにするために、本発明の効果を阻害しない限りにおいて蛍光増白剤を含有しても良い。蓄光蛍光性樹脂層に含まれる蛍光増白剤は0.01〜1質量%が好ましい。0.01%未満では蛍光増白剤の十分な添加効果を得ることができない。また、1質量%を超えると蓄光性蛍光体に到達する光を阻害し、十分な蓄光効果が得られなくなる事がある。
【0018】
前記蓄光蛍光性樹脂層には内部の照明が透けて見えるのを防ぐために、本発明の効果を阻害しない限りにおいて光拡散剤が含まれても良い。前記光拡散剤としてはガラスビーズ、アクリル系樹脂ビーズ、高透光炭酸カルシウム系粒子などを単独、或いはブレンドして用いる事が出来る。蓄光蛍光性樹脂層に含まれる光拡散剤は1〜30質量%が好ましい。1%未満では光拡散剤の十分な添加効果を発揮できず、30質量%を超えると光透過性を阻害するおそれがある。前記蓄光蛍光性樹脂層には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、必要に応じてこの他に紫外線吸収剤、酸化防止剤、防炎剤、防黴剤、顔料、帯電防止剤、接着剤、充填剤、安定剤、可塑剤その他添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の光天井用膜材は前記蓄光蛍光性樹脂層上、及び/または基布の裏片面上に、熱可塑性樹脂と光拡散剤からなる光拡散性樹脂層を設けても良い。前記光拡散性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては特に限定は無く、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル系共重合樹脂及び、フッ素系共重合樹脂などの熱可塑性樹脂を単独で、もしくは、2種以上をブレンドして用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のなかでも、加工の容易さ、膜材の柔軟性、基布と積層する場合の接着性などを得るため、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合樹脂、アクリル樹脂及び、アクリル系共重合樹脂が特に好ましく用いられる。前記光拡散剤としてはガラスビーズ、アクリル系樹脂ビーズ、高透光炭酸カルシウム系粒子などを単独、或いはブレンドして用いる事が出来る。光拡散性樹脂層に含まれる光拡散剤は1〜30質量%が好ましい。1%未満では光拡散剤の十分な添加効果を発揮できず、30質量%を超えると光透過性を阻害するおそれがある。前記光拡散性樹脂層には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、必要に応じてこの他に紫外線吸収剤、酸化防止剤、防炎剤、防黴剤、顔料、帯電防止剤、接着剤、充填剤、安定剤、可塑剤その他添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の光天井用膜材には布面に汚れが付着するのを防ぐため、少なくとも1面上に防汚層を設けても良い。防汚層はアクリル樹脂、アクリル/フッ素樹脂、PVDF樹脂などの樹脂液をグラビアコーティングする方法、上記樹脂をフィルム化し、ラミネートにより積層する方法など、従来公知の方法で形成する事が出来る。また、本発明の光天井用膜材には意匠性を高めるため、少なくとも1面上に印刷層を設けることが出来る。印刷層はインクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷などの従来公知の方法で設ける事ができる。
【0021】
前記基布にはまた、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、その片面もしくは両面に、熱可塑性樹脂からなる樹脂層を設けても良く、該樹脂層には必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、防炎剤、防黴剤、顔料、帯電防止剤、接着剤、充填剤、安定剤、可塑剤その他添加剤を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の光天井用膜材は、JIS Z8722に規定される可視光透過率が20〜60%であることが好ましい。可視光透過率が20%未満であると、光天井施工物として用いた場合の明るさが不足し、また夜間停電時の発光も不十分となることがある。可視光透過率が60%を超えると、光天井施工物として用いた場合に、内部の照明が透けて見え、その有用性が損なわれることがある。
【0023】
本発明の光天井用膜材を使用した光天井は、蓄光蛍光性樹脂層を設けた面を照明灯側に向けてフレームに取付けることで、内照時には内照の光を蓄光蛍光性樹脂層が受ける事で、蓄光状態が常に十分となり、万一送電が止まり真っ暗になった場合も十分に発光し、一時的な照明として機能し、更に避難通路や避難場所の目印になり得る。また、本発明の光天井用膜材を使用した光天井は、他の応用例として、内照時に内照を一定時間停止した後再度内照を点灯する等の内照をオン、オフさせる使用方法により、照明に要する電力を節電することも期待できる。
【実施例】
【0024】
本発明を下記実施例により更に説明する。下記実施例において、製品の性能評価に用いられた試験方法は下記の通りである。
(1)燃焼試験(ASTM-E1354:コーンカロリーメーター試験法)
輻射電気ヒーターによる50kW/mの輻射熱を膜材に20分間照射する発熱性試験において、20分間の総発熱量と発熱速度を測定し、試験後の膜材外観を観察した。
(a)総発熱量:8MJ/m以下のものを適合とし、8MJ/mを超えるものを不適合とした。
(b)発熱速度:10秒以上継続して200kW/mを超えないものを適合とし、10秒以上継続して200kW/mを超えるものを不適合とした。
(c)外観観察:直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生がないものを適合とし、直径0.5mmを超えるピンホール陥没痕の発生があるものは燃焼ガス遮蔽性に劣るものとして不適合とした。
不燃膜材に適合するには少なくとも上記特性(a)(b)が適合の評価を満たす必要がある。
(2)ガス有害性試験
旧建設省告示昭和51年第1231号の第4に定められていたガス有害性試験装置及び測定方法に準拠して、マウスの平均行動停止時間を計測する。試験体を加熱炉内で電気ヒーターからの輻射熱と接炎により加熱し、発生するガスを吸入した8匹のマウスが行動停止に至るまでの時間(行動停止時間)の平均値X及び標準偏差σを求め、次式によりマウスの行動停止時間Xsを求める。
Xs=X−σ
Xsの値が6.8分(標準的な木材におけるマウスの行動停止時間)よりも大きい場合を合格とした。ここで、行動停止時間の平均値からその標準偏差を引いた値を合否の判断基準としているのは、材料及び試験結果のバラツキを含めて、評価しようとする考え方によるものである。
(3)光天井用膜材の可視光透過率
試料の可視光透過率をJIS Z8722に従って測定した。
(4)光天井用膜材としての性能
光天井用膜材の蓄光蛍光性樹脂層をもうけた面が照明側になるように取り付け、汎用の光天井用膜材(アドマックスV1500LMP:平岡織染(株)製)と比較した。
内照時の照明の明るさは以下の通り評価した。
アドマックスV1500LMPと同等以上 明るさ良好
アドマックスV1500LMPより劣る 明るさ不良
(5)膜材料の残光輝度
光天井用膜材として使用時に夜間送電が止まり真っ暗になった場合を想定し、残光輝度(mcd/m)を測定した。
測定する試料は24時間光を遮断して保管した後、下記の条件で試験に供した。
1)測定条件
(1) 照射面:蓄光蛍光性樹脂層を形成した面
(2) 照度/照射時間:1000Lx(内照式の蛍光灯を想定)/20分
(3) 残光輝度測定面:照射面とは反対の面
(4) 測定距離/測定角度: 0.2m/90°
(5) 測定機器:LS-100輝度計(コニカミノルタ(株)製)
(6) 測定時間:1,10,30,60,120,180分後
2)評価
残光輝度測定値を示すとともに、下記のように4段階(数値が大きいほど明るい)で判定した。
残光輝度(mcd/m)
5以上 :4
3以上〜5未満 :3
2以上〜3未満 :2
2未満 :1
残光輝度が5mcd/m以上であれば、残光がはっきりと確認できる程度に明るく、2mcd/m未満であると残光がほとんど確認できない程度の暗さとなる。
【0025】
[実施例1]
(1)基布及び接着処理層の形成
基布として、下記組織のガラスフィラメント平織物を用いた。
75・1/0×75・1/0
44×33 質量 215g/m
この基布を、ペースト塩化ビニル樹脂及び熱架橋性接着剤を含む下記配合1の樹脂組成物の溶剤希釈液中に浸漬して、基布に樹脂液を含浸し、絞り、150℃で1分間乾燥後、185℃で1分間熱処理し、基布に対し樹脂を60g/m付着させて、接着樹脂層を形成した。
<配合1>接着樹脂層処理液組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 50質量部
熱架橋性接着剤 15質量部
三酸化アンチモン(難燃性剤) 10質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トルエン(溶剤) 20質量部
(2)蓄光蛍光性樹脂層の形成
ペースト塩化ビニル樹脂及び蓄光性蛍光体を含む下記配合2の樹脂組成物の溶剤希釈液を使用し、離型用PETフィルム(厚さ100μm)の上にクリアランス200μmでクリアランスコートを行い、320g/m付着させ、150℃で1分間乾燥後、185℃で1分間熱処理し、蓄光蛍光性樹脂層を形成した。
蓄光蛍光性樹脂層の蓄光性蛍光体の含有量は38質量%であった。
<配合2>蓄光蛍光性樹脂層処理液組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 35質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 20質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トリアゾール系紫外線吸収剤 2質量部
蓄光性蛍光体SrAl1425:EU,Dy
(イージーブライト社製EZCB−50E 平均粒径50μm)
100質量部(38質量%)
トルエン(溶剤) 5質量部
PETフィルムを剥がしてフィルム化したものを接着樹脂層を形成した基布の片面上に貼着し、さらに熱エンボス処理し、表面を平滑化することで、膜材を得た。
(3)防汚層の形成
前記(2)で得た膜材の両面に下記配合3のアクリル樹脂組成を、グラビヤコーターを用いて、wet塗布量15g/m、120℃で1分間乾燥後1.5g/mとなる様コートすることで防汚層を形成し、光天井用膜材を得た。
<配合3>アクリル樹脂組成
アクリプレン(登録商標)ペレットHBS001(三菱レイヨン(株)製)20質量部
トルエン−MEK(50/50重量比) (溶剤) 80質量部
得られた光天井用膜材の可視光透過率は34%だった。
この光天井用膜材を前記試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同様に、基布に接着処理を行い、蓄光蛍光性樹脂層を接着処理した基布の片面に貼着した後、下記配合4に示す熱可塑性樹脂組成をカレンダーで厚さ100μmのフィルムにし、蓄光蛍光性樹脂層とは反対面に貼着させ、熱可塑性樹脂層を形成し、実施例1と同様に、両面に前記配合3に示すアクリル樹脂組成をコートして防汚層を形成することで、光天井用膜材を得た。
<配合4>熱可塑性樹脂組成
ストレート塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 32質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 16質量部
エポキシ化大豆油 (安定剤) 3質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 3.5質量部
紫外線吸収剤 1.0質量部
この光天井用膜材を前記試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0027】
[実施例3]
実施例2と同様に光天井用膜材を作製した。但し、熱可塑性樹脂層を形成する代わりに、下記配合5に示す、光拡散剤含有熱可塑性樹脂組成をカレンダーで厚さ100μmのフィルムにし、蓄光蛍光性樹脂層とは反対面に貼着させ光拡散性樹脂層を形成した。
<配合5>光拡散剤含有熱可塑性樹脂組成
ストレート塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 32質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 16質量部
エポキシ化大豆油 (安定剤) 3質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 3.5質量部
紫外線吸収剤 1.0質量部
アクリル系樹脂ビーズ
(積水化成品工業(株)製 テクポリマー MBX−50 平均粒経 50μm)
20質量部(11質量%)
この光天井用膜材を前記試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0028】
[実施例4]
実施例1と同様に光天井用膜材を作製した。但し、蓄光蛍光性樹脂層を形成する時、配合6に示す、蛍光増白剤含有蓄光蛍光性樹脂組成を使用した。
<配合6>蛍光増白剤含有蓄光蛍光性樹脂組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 35質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 20質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トリアゾール系紫外線吸収剤 2質量部
蓄光性蛍光体SrAl1425:EU,Dy
(イージーブライト社製EZCB−50E 平均粒径50μ)
100質量部(38質量%)
トルエン(溶剤) 5質量部
蛍光増白剤(チバ・ジャパン社製 UVITEX OB) 0.1質量部
この光天井用膜材を前記試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0029】
[実施例5]
実施例2と同様に光天井用膜材を作製した。但し、光天井用膜材の熱可塑性樹脂層側の防汚層上にインクジェットプリンターを用いて、線幅1mmの黒線で3cm角の升目模様を印刷し、前記試験に供した。試験結果を表1に示す。
【0030】
実施例1〜5で得られた光天井用膜材は、表1から明らかなように、内照時は光透過性のある天井材として十分機能し、さらに消灯時の蓄光蛍光性樹脂層による残光輝度(mcd/m)も十分にあり、夜間に突発的な災害が発生し万一送電が止まり真っ暗になった場合には、自ら発光し一時的な照明代わりとなり、避難通路や避難場所の目印になる極めて有用な光天井用膜材であった。また実施例3では、蓄光蛍光性樹脂層とは反対の面に光拡散性樹脂層を形成することで、内照の輪郭が目立たなくなり、しかも内照時の明るさや、消灯後の残光輝度は実施例2とほぼ同等であった。
一方、蓄光蛍光性樹脂層に蛍光増白剤を使用した実施例4では内照時に照明の光を受けて、透過光の白みが増し、より自然な発光が得られていた。更に実施例5では内照時は照明の光が十分透過する上に、インクジェットプリンターで印刷した模様が内照時のみならず消灯後の残光によっても鮮明に見え、消灯時の蓄光蛍光性樹脂層の発光も殆ど損なわれる事はなかった。
【0031】
[比較例1]
実施例1と同様に膜材を作製した。但し、基布として、下記組織のポリエステルフィラメント平織物を使用した。
250d×250d
44×33 質量:85g/m

この膜材を前記試験に供した。試験結果を表2に示す。
得られた膜材は燃焼試験の合格基準を達成できず、光天井用膜材として必須である不燃材料としての性能を達成できなかった。
【0032】
[比較例2]
実施例1と同様に膜材を作製した。但し、蓄光蛍光性樹脂層を形成する際、配合2の代わりに、配合7に示す蓄光蛍光性樹脂組成を使用した。
<配合7>蓄光蛍光性樹脂層組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 35質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 20質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トリアゾール系紫外線吸収剤 2質量部
蓄光性蛍光体SrAl1425:EU,Dy
(イージーブライト社製EZCB−50E 平均粒径50μ)
20質量部(10質量%)
トルエン(溶剤) 5質量部
この膜材を前記試験に供した。試験結果を表2に示す。
得られた膜材の可視光透過率は実施例1より優れているが、初期の残光輝度が非常に低い上、30分で残光輝度が2未満になってしまうため、暗闇での誘導灯としての役割を十分に発揮できなかった。
【0033】
[比較例3]
実施例1と同様に膜材を作製した。但し、蓄光蛍光性樹脂層を形成する際、配合2の代わりに、配合8に示す蓄光蛍光性樹脂層組成を使用した。
<配合8>蓄光蛍光性樹脂組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 35質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 20質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トリアゾール系紫外線吸収剤 2質量部
蓄光性蛍光体SrAl1425:EU,Dy
(イージーブライト社製EZCB−50E 平均粒径50μ)
100質量部(38質量%)
酸化チタン 10質量部
トルエン(溶剤) 5質量部
この膜材を前記試験に供した。試験結果を表2に示す。
得られた膜材の可視光透過率は実施例1より大きく低下し、光天井用膜材としての性能を十分に満たす事が出来ず、残光輝度も実施例1より初期段階から低くなった。
【0034】
[比較例4]
実施例1と同様に膜材を作製した。但し、蓄光蛍光性樹脂層を形成する際、配合2の代わりに、配合9に示す蓄光蛍光性樹脂層組成を使用した。
<配合9>蓄光蛍光性樹脂組成
ペースト塩化ビニル樹脂 100質量部
ジ−2−エチルヘキシルフタレート(可塑剤) 35質量部
トリクレジルフォスフェート(難燃性可塑剤) 20質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn系安定剤(安定剤) 2質量部
トリアゾール系紫外線吸収剤 2質量部
蓄光性蛍光体SrAl1425:EU,Dy
(イージーブライト社製EZCB−50E 平均粒径50μ)
300質量部(64質量%)
トルエン(溶剤) 20質量部
この膜材を前記試験に供した。試験結果を表2に示す。
得られた膜材の残光輝度は実施例1より良好だが、可視光透過率が低いため、照明の光を十分透過せず、室内が暗くなってしまい、光天井用膜材としては十分ではなかった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維糸条、またはシリカ繊維糸条からなる繊維織物、もしくはガラス繊維とシリカ繊維の混用からなる繊維織物を基布として含み、この基布の表片面上に蓄光蛍光性樹脂層を有する不燃性積層体であって、前記蓄光蛍光性樹脂層が蓄光性蛍光体物質を20〜60質量%含有してなり、前記不燃性積層体が可視光透過率(JIS Z8722)20〜60%の光透過性を有し、コーンカロリーメーター試験法(ASTM−E1354)において前記不燃性積層体に対して輻射電気ヒ−タ−による輻射熱を、50kW/mで照射した時に、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であり、且つ加熱開始後20分間、10秒以上継続して最高発熱速度が200kW/mを超えないことを特徴とする光天井用膜材。
【請求項2】
前記不燃性積層体が、旧建設省告示1231号準拠するガス有害性試験において、マウスの平均行動停止時間の値が6.8分以上である請求項1に記載の光天井用膜材。
【請求項3】
前記蓄光蛍光性樹脂層が、蛍光増白剤を0.01〜1質量%含有する、請求項1または2に記載の光天井用膜材。
【請求項4】
前記蓄光蛍光性樹脂層が、光拡散性粒子を1〜30質量%含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光天井用膜材。
【請求項5】
前記蓄光蛍光性樹脂層上に、光拡散性樹脂層をさらに含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光天井用膜材。
【請求項6】
前記基布の裏片面上に、光拡散性樹脂層をさらに含んでいる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光天井用膜材。
【請求項7】
前記不燃性積層体の、少なくとも1面上に、防汚層または印刷層が形成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光天井用膜材。

【公開番号】特開2009−263606(P2009−263606A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118550(P2008−118550)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【出願人】(507006503)イージーブライト株式会社 (8)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】