説明

光学ガラス、プレス成形用プリフォームおよび光学素子

屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であり、特定の耐候性指数を有する、光学ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光学ガラス、プレス成形用プリフォーム、その製造方法、光学素子およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、屈折率(nd)が1.5付近、アッベ数(νd)が70付近の光学恒数を有する精密モールド成形に適した光学ガラス、プレス成形に使用される上記光学ガラスからなるプリフォームおよびその製造方法、並びに上記光学特性が付与された光学素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
非球面レンズなどのガラス製光学素子を高生産性のもとに量産する方法として、精密プレス成形(あるいはモールドオプティクス成形)と呼ばれる方法が広く知られている。この方法によれば、プレス成形用プリフォームと呼ばれる光学ガラスからなるガラス成形体を加熱、軟化し、プレス成形型でプレスして、成形型の成形面を精密にガラスに転写することによって非球面レンズの非球面を研削、研磨加工によらず形成することができる。
ところで、屈折率(nd)が1.5付近およびアッベ数(νd)が70付近の光学恒数を有する光学ガラスは、その低分散特性によって光学設計上、非常に有用なガラスである。このようなガラスとしては、例えばリン酸およびフッ素を含有するガラスが知られている(例えば、特開平10−158027号公報参照)。このようなガラスを精密プレス成形して非球面レンズなどの光学素子を作製できれば、光学設計上、有用な光学素子を高い生産性のもとに市場へ提供することができる。
他方、プレス成形用プリフォームの実用的な作製法は、所定重量の溶融ガラスが溶融、軟化状態にある間に前記重量のガラスからなるプリフォームに成形する方法(熱間成形法)と、ガラスブロックなどから所定重量のプリフォームを切り出して必要に応じて表面を研磨する方法(冷間加工法)に大別することができる。このうち、熱間成形法はプリフォーム成形時に失透や脈理が生じなければ、重量精度が高く、精密プレス成形に適した形状のプリフォームを量産することができ、冷間加工法よりも優れた特徴を有する。
しかしながら、上記光学恒数を付与するためにフッ素を導入したガラスからなるプリフォームを熱間成形すると、フッ素が蒸発することにより著しく脈理が生じやすいという傾向がある。該熱間成形法の特徴の一つは、溶融ガラスから直接、プレス成形品の重量に相当するプリフォームを成形する点にある。したがって、研削、研磨などにより脈理をプリフォームから除去することはできない。したがって、熱間成形法では、脈理が生じたプリフォームは不良品になってしまう。
また、精密プレス成形を良好に行うという観点から、プレス成形用ガラス素材には低軟化性を付与する必要がある。さらに、長期間にわたって光学素子としての機能を果たすためには、ガラス素材に優れた耐候性も付与しなければならない。
【発明の開示】
このような事情のもとで、本発明の第1の目的は、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学恒数を有すると共に、良好な熱間プリフォーム成形性、低軟化性、優れた耐候性を兼備する光学ガラスを提供することにある。また、第2の目的は、前記光学恒数、低軟化性、優れた耐候性を有し、かつ脈理のないプレス成形用プリフォームおよびその製造方法を提供することにある。さらに第3の目的は、前記光学ガラスよりなる耐候性に優れた光学素子、および前記プリフォームを用いて、該光学素子をプレス成形により作製する光学素子の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、前記の光学恒数を有すると共に、特定の組成を有する光学ガラス、あるいは、さらに特定の耐候性指数をもつ光学ガラスにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であることを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIと称す。)、
(2)屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であり、かつ前記ガラスからなり、互いに平行な2つの面が光学研磨された試料を温度65℃、相対湿度90%に保たれた空気中に1週間保持した後に、前記光学研磨された面に白色光を照射した場合、散乱光強度と透過光強度の比(散乱光強度/透過光強度)が0.08以下を示す耐候性を有することを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIIと称す。)、
(3)上記(1)または(2)項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用プリフォーム(以下、プリフォームIと称す。)、
(4)所定重量の溶融ガラスを成形して得られる、Pを含有する前記重量のガラスからなるプレス成形用プリフォームにおいて、
前記ガラスが、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスであることを特徴とするプレス成形用プリフォーム(以下、プリフォームIIと称す。)、
(5)所定重量の溶融ガラスを成形して、P2O5を含有する前記重量のガラスよりなるプレス成形用プリフォームを製造する方法において、
前記ガラスとして、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスを用いることを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法、
(6)上記(1)または(2)項に記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子、および
(7)上記(3)または(4)項に記載のプレス成形用プリフォーム、あるいは上記(5)項に記載の製造方法により作製されたプレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法、
(8)プレス成形用プリフォームをプレス成形用型に導入し、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱し、プレス成形することを特徴とする上記(7)項に記載の光学素子の製造方法、
(9)加熱したプレス成形用プリフォームをプレス成形用型に導入してプレス成形することを特徴とする上記(7)項に記載の光学素子の製造方法、
を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例27で使用した精密プレス成形装置の1例の概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
まず、本発明の光学ガラスについて説明する。
屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学恒数と良好な熱間プリフォーム成形性、低軟化性、優れた耐候性を兼備する光学ガラス、特に精密プレス成形に好適な光学ガラスを提供するという目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果得られた次の知見に基づいて本発明を完成させるに至ったものである。
ガラスの成分としてAlとMgOを導入し、かつガラス中のLiO、NaO、KOおよびBの導入量増大を抑え、SiOの量を抑えることにより、ガラスの耐候性を大きく改善できる。またPを多く導入すると、それ自体がガラスの耐候性向上に寄与するだけでなく、耐候性を高める成分のうち、特に耐候性向上効果の高いAlをガラス中に多く導入することができる。さらに、SiOの量を抑えることが可能な組成により、好ましくはSiOをガラス成分より排除することにより、高温高湿下において、ガラス表面の失透要因となる析出物の発生を抑えることができる。
LiO、NaO、KOといったアルカリ金属酸化物は、ガラスの転移温度を低下させ、良好な精密プレス成形性を付与する成分であり、熱間プリフォーム成形時の溶融ガラス(ガラス融液)の粘性を良好な成形ができる範囲に低下させる働きもする。したがって、良好な耐候性が得られる範囲で上記成形性の向上が達成可能なアルカリ金属酸化物の導入量を定める必要がある。さらに、プリフォームの熱間成形時に脈理発生を防止するため、フッ素を導入しないことが望ましい。
また、ヒ素は精密プレス成形時に成形型の成形面に損傷を与えるおそれのある物質であり、環境問題の面からも使用を控えるべきものなので、導入しないことが望ましい。
以上の知見から、耐候性を高める成分であるP、Al、MgO、その他のRO成分(但し、RはCa、Sr、Ba、Zn)、M(但し、MはLa、Gd、Y、Yb、Lu)の含有量と、耐候性を低下させる成分ではあるが、一方でガラス転移温度の低下とプリフォーム成形温度における融液粘性の低下を生じさせるLiO、NaO、KOの含有量の双方を最適化することによって、高い耐候性を維持しながら良好な精密プレス成形性および熱間プリフォーム成形性が可能な光学ガラスを見出した。
<光学ガラスI>
本発明の光学ガラスIは、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学恒数を有し、モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上である光学ガラスである。光学ガラスIにおいては、好ましくはF、AsおよびSiOを含まない。
上記組成系において各成分の含有量を上記のように限定した理由は次のとおりである。なお、以下、各成分の含有量はモル%にて表示する。
はガラスの網目構造を構成する主成分である。その含有量が45%未満では、ガラスの熱安定性が低下し、また耐候性も低下する。一方65%を超えると、ガラス融液の粘性が高くなるために、熱間プリフォーム成形が困難になる。したがって、その導入量は45〜65%に制限される。好ましくは55〜65%の範囲である。
Alはガラスの網目構造を構成する成分であると同時に、ガラスの耐候性を向上させるために欠かせない成分である。その含有量が8%未満ではガラスの耐候性が著しく低下する。一方19%を超えて導入すると、ガラスの熱安定性が低下するのに加え、ガラス融液の粘性が高くなるために、熱間プリフォーム成形が困難になる。したがって、その導入量は8〜19%に制限される。好ましくは10〜16%の範囲である。
MgOはガラスの修飾成分であり、かつ耐候性を向上させる成分である。その含有量が5%未満ではガラスの耐候性が著しく低下する。一方30%を超えて導入すると、ガラスの熱安定性が悪化し耐候性も低下する傾向にある。したがって、その導入量は5〜30%に制限される。好ましくは7〜25%の範囲である。
アルカリ金属酸化物RO(但し、RはLi、Na、K)はガラス転移温度および液相粘性を低下させる効果を持ち、精密プレス成形性および熱間プリフォーム成形性の向上に必要な成分である。LiO、NaOおよびKOの合計含有量が1%未満では、ガラス転移温度が高くなるために精密プレス成形が困難になるとともに、熱間プリフォーム成形時のガラス融液の粘性が高くなるため、熱間プリフォーム成形が困難になる。一方で、これらの含有量の合計が25%を超えるとガラスの耐候性が低くなる。したがってその導入量は1〜25%に制限される。好ましくは2〜20%、より好ましくは2〜18%の範囲である。
なお、LiO、NaO、KOそれぞれの含有量は、0〜25%とすることが好ましく、0〜20%とすることがより好ましく、0%を超え18%以下とすることがさらに好ましい。
は、少量の添加でガラスの耐候性を向上させ、かつガラスの光学特性を低分散化する効果を持つ成分である。ただしその含有量が16%を超えるとガラスの熱安定性が低下し、耐候性も低下する。したがって、Bの導入量は0〜16%とする。好ましくは0%を超え16%以下、より好ましくは0.5〜10%である。
ZnO、CaO、SrO、BaOはガラスの修飾成分であり、ガラスの諸特性を調整するために使用される。ZnO、CaO、SrOについてはそれぞれ、その含有量が25%を超えると、ガラスの熱安定性が低下するか、あるいは液相温度におけるガラスの粘度増大を招き、精密プレス成形性や熱間プリフォーム成形性が損なわれてしまう。したがって、ZnO、CaO、SrOの導入量はそれぞれ0〜25%に制限される。好ましくは0〜20%である。BaOはガラスの耐候性を高める効果も有するが、その含有量が30%を超えると、所望の光学恒数を得ることが困難になる。したがって、BaOの導入量は0〜30%に制限される。好ましくは0〜25%の範囲である。
La、Gd、Y、Yb、Luはガラスの耐候性を向上させる効果を持つ任意成分である。ただし、La、Gd、Y、Yb、Luが、それぞれ10%を超えると、所望の光学恒数を得ることが困難になるとともに、液相温度におけるガラスの粘度も上昇する傾向にある。したがって、所望の光学恒数を得るとともに、優れた熱間プリフォーム成形性を得る上から、La、Gd、Y、Yb、Luの各含有量はいずれも0〜10%に制限される。
なお、光学ガラスIにおいて、所望の光学恒数、良好な精密プレス成形性、熱間プリフォーム成形性、耐候性などを付与する上から、上記各成分の合計含有量を95%以上とする。また、上記特性をより良好なものとする上から、前記合計含有量を98%以上とすることが好ましく、99%以上とすることがより好ましい。
上記成分に加えて、Sbなどの脱泡剤を加えることができる。Sbを加える場合は、上記各成分とSbの合計含有量を98%以上とすることが好ましく、99%以上とすることがより好ましく、100%とすることが特に好ましい。
Fは、熱間プリフォーム成形などの融液状態のガラスを扱う際にガラス表面から揮発し、脈理発生の原因になる。また、プレス成形時(特に精密プレス成形時)にプレス成形型の成形面と反応して損傷を与える。したがって、Fは導入しないことが望ましい。
Asは毒性を有し、環境上問題になる物質であり、プレス成形時(特にプレス成形時)にプレス成形型の成形面に損傷を与えやすい物質でもある。したがって、AsもFと同様、導入しないことが望ましい。
SiOは、高温高湿下にさらした際にガラス表面の失透要因となる析出物発生の原因となる。このような析出物発生は、光学ガラスとしての性能を劣化させるものであり、防止しなければならない。したがって、SiOの導入も避けることが望ましい。
この光学ガラスIの好ましい組成範囲について以下にまとめる。
(好ましい組成範囲1)
光学ガラスIの組成範囲において、P 55〜65%、Al 10〜16%、MgO 7〜25%、LiOとNaOとKOの合計で2〜20%、B 0〜16%、ZnO 0〜20%、CaO 0〜20%、SrO 0〜20%、BaO 0〜25%を含むものである。上記各成分とSbの合計含有量が96%以上のものがさらに好まLく、98%以上のものが一層好ましく、99%以上のものがより一層好ましく、100%のものが特に好ましい。
(好ましい組成範囲2)
光学ガラスIの組成範囲において、P 55〜65%、Al 10〜16%、MgO 7〜25%、LiOとNaOとKOの合計で2〜18%、B 0%を超え16%以下、ZnO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜25%を含むものである。上記各成分とSbの合計含有量が96%以上のものがさらに好ましく、98%以上のものが一層好ましく、99%以上のものがより一層好ましく、100%のものが特に好ましい。
(好ましい組成範囲3)
光学ガラスIの組成範囲において、P 55〜65%、Al 10〜16%、MgO 7〜25%、LiO 0.5%を超え18%以下、NaO 0.5%を超え18%以下、KO 0.5%を超え18%以下(ただし、LiOとNaOとKOの合計含有量 2〜18%)、B 0.5〜10%、ZnO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜25%を含むものである。上記各成分とSbの合計含有量が96%以上のものがさらに好ましく、98%以上のものが一層好ましく、99%以上のものがより一層好ましく、100%のものが特に好ましい。
(好ましい組成範囲4)
光学ガラスIの組成範囲において、P、Al、MgO、LiO、NaO、KO、Bを必須成分として含み、前記必須成分とSbの合計含有量が96%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%のものである。
(好ましい組成範囲5)
上記好ましい組成範囲1〜3のいずれかの組成範囲において、P、Al、MgO、LiO、NaO、KO、Bを必須成分として含み、前記必須成分とSbの合計含有量が96%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%のものである。
<光学ガラスII>
本発明の光学ガラスIIは、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学恒数を有し、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であり、かつ前記ガラスからなり、互いに平行な2つの面が光学研磨された試料を温度65℃、相対湿度90%に保たれた空気中に1週間保持した後に、前記光学研磨された面に白色光を照射した場合、散乱光強度と透過光強度の比(散乱光強度/透過光強度)が0.08以下を示す耐候性を有する光学ガラスである。
光学ガラスIIは、SiOの有無、上記耐候性を除き、光学ガラスIの組成範囲、好ましい組成範囲ともに同じである。したがって、以下の光学ガラスIIに関する説明は、SiOの有無、上記耐候性を中心に行うことにする。
光学ガラスIIの耐候性は、所定条件下に置かれたガラスに白色光を照射した際の散乱光強度と透過光強度の比によって示される。上記耐候性の定量的な評価は次のようにして行う。まず、光学ガラスIIからなり、互いに平行な2つの面が光学研磨された試料を用意する。小さなプリフォームや光学素子などで上記評価を行うために十分な大きさのものが得られない場合は、同一の組成のガラスからなる試料を用意してもよい。ここで光学研磨とは、レンズなどの光学素子の光学機能面の表面粗さRa程度に仕上げられた研磨状態をいう。具体的には、表面粗さRaが可視光領域の短波長側の波長よりも十分小さい、例えば1/10以下であるような研磨状態を目安にすればよい。また、試料は清浄な状態のものを用いる。このような試料を例えば温度65℃、相対湿度90%に保たれた恒温恒湿器内(雰囲気は空気)に1週間保持する。前記空気は清浄なもの、例えばクラス1000よりも清浄なもの、好ましくはクラス100よりも清浄なものとすることが望ましい。次に1週間保持後の試料の光学研磨面に垂直方向から白色光(C光源あるいは標準の光C)を照射した際の白色光の入射光強度と試料を透過した透過光強度を測定する。そして、散乱光強度を入射光強度から透過光強度を差し引いた値とし、散乱光強度と透過光強度の比(散乱光強度/透過光強度)を求める。
このようにして測定される光学ガラスIIの散乱光強度と透過光強度の比(散乱光強度/透過光強度)は0.08以下の値を示す。このように光学ガラスIIは、上記の散乱光強度と透過光強度の比が0.08以下の耐候性を示す。中でも上記の散乱光強度と透過光強度の比が0.03以下を示すものがより好ましい。
光学ガラスIIの耐候性に対して上記制限条件を課した理由について説明する。
耐候性が上記範囲よりも劣るガラスは、ガラスに付着する水滴や水蒸気および使用環境におけるガスなど種々の化学成分によって、ガラスが侵食されたり、ガラス表面に反応物が生成したりする速度の大きい、いわゆる化学的耐久性が低いガラスである。このようなガラスを光学素子として用いる場合、ガラスの侵食やガラス表面の生成物が原因で、光学ガラス素子の表面に異物が発生し、透過率等の光学特性が低下するおそれがあるため、このようなガラスは光学ガラス組成物として好ましくない。これに対し、上記範囲の耐候性を備えるガラスであれば、実用かつ信頼性の高い光学素子を作ることができる。なお、上記耐候性を付与するためには、光学ガラスIと同様、ガラスにSiOを導入しないことが好ましい。また、F、Asも導入しないことが好ましい。
なお、本発明の目的を達成し、より安定かつ良質な光学ガラスを提供する観点から、光学ガラスIと光学ガラスIIの要件を兼ね備えたガラスが最も好ましい。なお、光学ガラスIおよび光学ガラスIIにおいて、ウランやトリウムなどの放射性物質、鉛、カドミウムなどの有害物質も排除することが望ましい。
また、光学ガラスIおよび光学ガラスIIにおいて、可視域の短波長側から長波長側までの広い波長帯にわたり、高い透過率を付与する観点からは、ガラスを着色するCu等を導入しないことが望ましい。
次に光学ガラスIと光学ガラスIIに共通する性質について説明する。
(耐水性)
耐水性が低い光学ガラスで光学素子を作ると、表面に付着する水滴や水蒸気および使用環境におけるガスなど種々の化学成分によって、ガラスが侵食されたり、表面に異物が生成したりして、透過率等の光学特性が低下する。そのため、耐水性は耐候性とともに、信頼性の高い光学ガラスを得る上で、重要な性質である。
ガラスの耐水性は、比重に相当する質量(ただし、単位はグラム。)のガラスを粒度425〜600μm程度の粉末状にし、この粉末ガラスの質量を測定し、質量Aとする。そして、この粉末ガラスを純水で60分間煮沸した後、粉末ガラスの質量Bを測定する。耐水性の指標Dwは、質量Aから質量Bを差し引いた値を質量Aで割り、百分率で表した値である。具体的には、上記粉末ガラスの比重に相当する重量分(グラム単位)を白金かごに入れ、それをpHが6.5〜7.5の純水が80ml収容された石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、上記条件で煮沸する。
本発明の光学ガラスにおける好ましいものは、Dwが0.25%未満の耐水性を有するものである。Dwが0.10%以下のものがより好ましい。
上記耐水性を有する光学ガラスによれば、長期にわたり、良好な透過率等の光学特性を安定して維持することができる。
(液相温度および液相温度における粘度)
次に、光学ガラスI、光学ガラスIIの液相温度、ならびに液相温度における粘度について説明する。精密プレス成形用のプリフォームを熱間成形するには、成形温度領域でガラスが失透せず、成形に適した粘度を示すことが要求される。そのためには、光学ガラスの液相温度(LT)が1100℃以下であることが好ましい。上記所要の諸特性を有する安定したガラスを得る上から光学ガラスIおよびIIの液相温度は850℃以上が目安となる。
また、プリフォームの熱間成形を良好に行うには、成形時のガラスの粘度を1〜80dPa・sとするのが好ましく、6〜60dPa・sとするのがより好ましい。1100℃におけるガラスの粘度が80dPa・sを超える場合、熱間プリフォーム成形を行うため、さらに温度を上げて粘度を下げようとすると、成形中にガラス成分が蒸発し、表面脈理が生じやすくなる。さらに、流出パイプより流出するガラス融液から、切断刃を使用せずに所定重量の溶融ガラスを分離することも難しくなる。したがって、光学ガラスI、光学ガラスIIとも、1100℃における粘度が80dPa・s以下を示すことが好ましく、1〜80dPa・sの範囲にあることがより好ましい。1100℃における粘度としてさらに好ましい範囲は6〜60dPa・sであり、一層好ましい範囲は、6〜50dPa・sである。
特に、所定重量の溶融ガラスに風圧を加えながら浮上させた状態でプリフォームに成形する方法(浮上成形という。)には、上記液相温度、液相温度における粘度特性を有する光学ガラスを使用することが好ましい。
また、マイクロレンズを精密プレス成形するためのプリフォームを浮上成形で作製する方法にも、上記液相温度、液相温度における粘度特性を有する光学ガラスを使用することが好ましい。
(ガラス転移温度)
精密プレス成形等のガラスのプレス成形では、プレスに使用される成形型は高温高圧にさらされる。プレス成形の対象となるガラスがより低い温度でプレス成形が可能な粘度になれば、プレス成形時における成形型や、成形型の成形面に設けられる離型膜への負担が軽減される。そのため、プレス成形用、特に精密プレス成形用のガラス材料には、低いガラス転移温度(Tg)を備えていることが望ましい。光学ガラスIおよび光学ガラスIIのガラス転移温度(Tg)は580℃以下であることが好ましく、560℃以下であることがより好ましい。光学ガラスI、IIとも安定性、耐久性に優れたガラスを得る上からガラス転移温度(Tg)は330℃以上が目安となる。
(屈折率(nd)およびアッベ数(νd))
光学ガラスIおよびIIの屈折率(nd)はともに1.46〜1.58であり、好ましくは1.48〜1.58であり、アッベ数(νd)はともに65〜74であり、好ましくは65超かつ74以下、より好ましくは66〜74である。
次に、プレス成形用プリフォームおよびその製造方法について説明する。
プレス成形用プリフォームは、プレス成形品に等しい重量のガラス製成形体である。プリフォームはプレス成形品の形状に応じて適当な形状に成形されているが、その形状として、球状、回転楕円体状などを例示することができる。プリフォームは、プレス成形可能な粘度になるよう、加熱してプレス成形に供される。
<プリフォームI>
本発明のプレス成形用プリフォームIは、光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなる。プリフォームIは、所定重量の溶融ガラスを成形して得られる前記重量の成形体であることが好ましい。このようなプリフォームには、切断、研削、研磨などの機械加工が不要という特徴がある。つまり、プリフォームIの全表面は溶融状態のガラスが固化して形成されたものである。また、機械加工が施されたプリフォームでは、機械加工前にアニールを行うことによって破損しない程度にまでガラスの歪を低減しておかなければならない。しかし、上記プリフォームによれば、このような機械加工時の破損防止用アニールは不要である。
さらに、上記プリフォームにおいて、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、風圧が加えられた浮上状態で成形されたものが好ましい。
なお、プリフォームIは光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなるので、所要の光学恒数を有する光学素子のプレス成形が可能であり、また耐候性、耐水性に優れたガラスからなるので、プリフォームを保管してもプリフォーム表面が劣化しにくい。精密プレス成形では、成形型の成形面を精密に転写することにより、機械加工を施すことなしに光学素子の光学機能面(光学素子としての機能を発揮するため、光を反射したり、透過したり、回折したり、屈折したりする面)を形成する。もし、精密プレス成形に供するプリフォームの表面が劣化し、劣化した表面に光学機能面が転写されると、劣化部分を精密プレス成形後の機械加工で除去できないので、その光学素子は不良品となってしまう。しかし、プリフォームIによれば、表面が良好な状態に保たれるので、上記問題を防ぐことができる。
さらに耐候性、耐水性が優れているので、プリフォームIをプレス成形、特に精密プレス成形して得られる光学素子の耐候性、耐水性も優れており、長期にわたり、高い信頼性を有する光学素子を提供することができる。
また、プリフォームIは光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなるので、優れた耐失透性、熱間成形性と精密プレス成形性を備えている。そのため、精密プレス成形用のプリフォームとして取扱いが容易である。
<プリフォームII>
本発明のプレス成形用プリフォームIIは、所定重量の溶融ガラスを成形して得られる、前記重量のPを含有するガラスからなり、そして、前記ガラスが、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスである。
プリフォームIIにも、機械加工を加えることなく高い重量精度を有するという特徴がある。つまり、プリフォームIIの全表面も溶融状態のガラスが固化して形成されたものである。
ここで、P、Al、MgOはプリフォームの耐候性を向上させる成分であり、LiO、NaOおよびKOは、プリフォームに低ガラス転移温度を付与するものである。しかし、LiO、NaOおよびKOはガラスの耐候性を低下させる成分でもあるので、プリフォームとして好適な耐候性と低ガラス転移温度、それに所要の光学恒数を得るために、Alを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOの合計量を1〜25%とした。
Fは、熱間プリフォーム成形時に揮発して脈理を発生させる原因となるので、排除することが望ましい。
また、Asは有毒であり、環境影響上好ましくないので、排除することが望ましい。なお、Asは強い酸化作用のため、精密プレス成形時にプレス成形型の成形面、特に離型膜に損傷を与える。そのため、成形面損傷防止の観点からもガラスから排除することが望ましい物質である。
さらに、耐候性をより向上させるという観点から、SiOを排除することが好ましい。
より好ましい範囲は、P 45〜65%、Alを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOの合計量が1〜25%の範囲であり、さらに好ましい範囲は、P 55〜65%、Al 10〜16%、MgO 7〜25%、LiOとNaOとKOの合計含有量 2〜20%である。
プリフォームIIを形成する光学ガラスの屈折率(nd)は1.46〜1.58であり、好ましくは1.48〜1.58であり、アッベ数(νd)は65〜74であり、好ましくは65超かつ74以下、より好ましくは66〜74である。
なお、プリフォームIIを構成する光学ガラスとしては、光学ガラスIまたは光学ガラスIIが好ましい。
さらに、上記プリフォームにおいて、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、風圧が加えられた浮上状態で成形されたものが好ましい。また、表面が自由表面からなるプリフォームが好ましい。さらに、シアマークと呼ばれる切断痕のないものが望ましい。シアマークは、流出する溶融ガラスを切断刃によって切断する時に発生する。シアマークが精密プレス成形品に成形された段階でも残留すると、その部分は欠陥となってしまう。そのため、プリフォームの段階からシアマークを排除しておくことが好ましい。
本発明のプリフォームの製造方法は熱間成形法と呼ばれるものである。熱間成形法では、所定重量の溶融ガラスを成形して、前記重量のプリフォームを作製する。例えば、流出パイプから流出した溶融ガラスを所定重量分だけ分離し、分離された溶融ガラス塊が軟化状態にある間にプリフォームを成形する。
溶融ガラスを所定重量分だけ分離するにあたり、シアマークを発生させないため、切断刃を用いないことが望ましい。切断刃を用いない分離方法としては、流出パイプから溶融ガラスを滴下する方法、あるいは流出パイプから流出する溶融ガラス流の先端部を支持し、所定重量の溶融ガラス塊を分離できるタイミングで上記支持を取り除く。あるいは、溶融ガラス流の先端部を受け型で受け、前記タイミングで受け型を溶融ガラス流の流出スピードよりも速く降下する。このようにすることにより、溶融ガラス流の先端部側と流出パイプ側の間に生じたくびれ部でガラスを分離し、所定重量の溶融ガラス塊を得ることができる。
続いて、得られた溶融ガラス塊が軟化状態にある間にプレス成形に供するために適した形状に成形する。なお、この成形は、風圧を加え溶融ガラス塊あるいは成形途中のガラス塊を浮上した状態で行うことが好ましい。ガラスを浮上した状態で成形することにより、表面が滑らかで清浄なプリフォームを成形することができる。
本発明のプリフォームの製造方法では、Pを含有し、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスからなるプリフォームを製造する。
上記光学ガラスの屈折率(nd)は1.48〜1.58であることが好ましく、アッベ数(νd)は65超かつ74以下であることが好ましく、66〜74であることがより好ましい。
各成分の機能、含有量については、上記プリフォームIIについて説明したとおりである。なお、プリフォームII同様、上記ガラスがF、Asを含まないものであることが好ましい。 さらに、耐候性をより向上させるという観点から、SiOを排除することが好ましい。
上記ガラスの組成範囲としてより好ましい範囲は、上記プリフォームIIの好ましい組成範囲と同じである。また、本発明のプリフォームの製造方法は、光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなるプリフォームの製造方法として好適である。また、精密プレス成形用プリフォームの製造方法としても好適である。
次に、光学素子およびその製造方法について説明する。
本発明の光学素子は、光学ガラスIまたは光学ガラスIIからなるものである。本発明によれば、光学素子を構成するガラスが光学ガラスIまたは光学ガラスIIであるので、前記各光学ガラスの特性を備えており、所要の光学恒数(屈折率(nd)1.46〜1.58、アッベ数(νd)65〜74)、優れた耐候性を活かして、長期にわたって高い信頼性を維持できる光学素子を提供することができる。同様に高い耐水性を備えていることも高い信頼性に寄与している。
本発明の光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。上記光学素子としては、プリフォームを加熱、軟化し精密プレス成形して得られたものであることが望ましい。
なお、この光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
次に、本発明の光学素子の製造方法においては、上記プリフォームIまたはプリフォームII、あるいは上記プレス成形用プリフォームの製造方法によって作製されたプレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、プレス成形することにより、光学素子を製造する。本発明において、上記プレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、精密プレス成形することが好ましい。
本発明によれば、プリフォームの優れたプレス成形性、特に精密プレス成形性により、所要の光学恒数(屈折率(nd)1.46〜1.58、アッベ数(νd)65〜74)を備えた光学素子を高い生産性のもとに製造することができる。さらに、耐候性に優れたプリフォームを使用するので、長期にわたり高い信頼性を維持できる光学素子を製造することもできる。
なお、本発明の製造方法により作製される光学素子は上記光学素子と同様のものである。
本発明の光学素子の製造方法は、以下の2つの態様を含む。第1の態様は、プレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入し、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱し、プレス成形する方法であり、第2の態様は、加熱したプレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入してプレス成形する方法である。
第1の態様は、例えば、プレス成形型を複数組用意し、前記型の各組にプリフォームを順次導入して、加熱、プレス成形、徐冷の各工程を順番に行う。この方法によれば、ガラスと型が熱平衡状態あるいは前記状態に比較的近い状態でプレス成形することができるため、高精度の成形や様々な形状を成形することができる。
第2の態様は、例えば最小組のプレス成形型を用意し、予熱したプリフォームを次々に前記型に導入、プレス成形、徐冷、成形品の取出しを行う。この方法によれば、必要最小限の型によって生産性よくプレス成形品を製造することができる。
精密プレス成形は、所定形状の成形面を有する成形型を用いて、加熱、軟化したプリフォームをプレス成形し、ガラスに前記成形面の形状を精密に転写する。
プレス成形品の形状は、最終製品の形状またはそれに極めて近い形状となり、前記型の成形面が転写された面の面精度も最終製品の面精度と同等になる。したがって、非球面レンズの非球面や回折格子の格子が形成されている面の反転形状の成形面を成形型に形成し、精密プレス成形することにより、研削や研磨加工を施さずに上記非球面や格子が形成されている面を形成することができる。また、非球面や格子が形成されている面に限らず、光学素子の光学機能面に成形型の成形面を精密に転写することにより、機械加工によらず、光学機能面を高い生産性のもとに形成することができる。精密プレス成形では、機械加工せずにプレス成形のみで光学素子を作製することもできるし、光学機能面の全部または一部をプレス成形し、機械加工が容易な部分のみを機械加工することもできる。例えば、レンズの芯取り加工は機械加工で行われる。
なお、精密プレス成形は成形型の酸化による損傷を低減するため、非酸化性ガス雰囲気下、例えば窒素ガス雰囲気下、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気下でプレス成形を行うことが望ましい。プレス成形型、離型膜等やプレス条件は公知のものを適宜選択して使用することができる。
得られた光学素子には、適宜アニールが施され、実用に供される。
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1〜25】
ガラス成分の各原料として、各々相当する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、フッ化物、水酸化物などを用いて表1に示した所定の割合に250〜300g秤量し、十分に混合して調合バッチと成し、これを白金るつぼに入れ、1100〜1300℃で攪拌しながら空気中で2〜4時間にわたりガラスの溶融を行った。溶融後、ガラス融液(溶融ガラス)を40×70×15mmのカーボンの金型に流し、ガラス転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度範囲で約1時間アニールしたのち、炉内で室温まで放冷した。得られたガラスを顕微鏡で観察したところ、結晶の析出は認められなかった。
各ガラスについて、光学定数(屈折率nd、アッベ数νd)、耐候性の指標である(散乱光強度/透過光強度)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(Ts)、液相温度(LT)、1100℃における粘度、比重、耐水性の指標Dwを求め、表2に示す。なお、耐候性の指標である(散乱光強度/透過光強度)は、複数回の測定を行い、それらの結果のうち最大の値をそのガラスの(散乱光強度/透過光強度)とした。また、上記値の最小値を表2に併わせて掲載しておく。
なお、屈折率(nd)およびアッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)および屈伏点(Ts)、比重、散乱光の強度、透過光の強度は次のようにして測定した。
(1)屈折率(nd)およびアッベ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/hにして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)および屈伏点(Ts)
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)比重
アルキメデス法により測定した。
(4)散乱光の強度/透過光の強度
東京電色製全自動ヘーズメーター(TC−HIIIDPK)を使用して測定した。
なお光学条件はJIS K7105積分球方式標準の光C、光源はハロゲンランプ12V 50W 2000Hである。


いずれの実施例のガラスも、屈折率(nd)1.46〜1.58、アッベ数(νd)65〜74、低ガラス転移温温度、優れた耐候性、耐水性を有するものであった。なお、これらのガラスを目視したところ、着色は認められなかった。
【実施例26】
次に、実施例1〜25と同様にしてガラス原料を溶解し、清澄、攪拌して均質な溶融ガラスを作り、白金合金製の流出パイプから所定重量の溶融ガラス滴を連続的に滴下し、浮上した状態で球状のプリフォームに成形した。これらのプリフォームは実施例1〜25の各光学ガラスからなるものである。
次に、溶融ガラスを一定スピードで白金合金製パイプから連続的に流出し、受け型で溶融ガラス流の先端部を受け、所定のタイミングで前記溶融ガラスの流出スピードよりも速いスピードで受け型を降下し、受け型上に所定重量の溶融ガラス塊を受けた。そして、この溶融ガラス塊が軟化状態にある間に受け型底部よりガスを噴出すことによりガラスに風圧を加え、浮上させてプリフォームを成形した。
いずれのプリフォームとも脈理、失透、着色、破損は見られず、表面も清浄かつ自由表面からなり、全表面が溶融状態のガラスが固化して形成されたものであった。
【実施例27】
次に、上記プリフォームを加熱、軟化し、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形することにより非球面レンズを得た。直径2〜30mmのプリフォーム4をレンズの非球面形状を反転した形状の成形面を有する下型2および上型1の間に静置したのち、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。これによって、プリフォームと成形型を加熱し、ガラスの屈伏点より20〜60℃高い温度にまで昇温する。そして、この温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内のプリフォーム4をプレス成形した。成形圧力を8MPa、成形時間を30秒とした。プレスの後、成形圧力を低下させ、プレス成形されたガラス成形品を下型2および上型1と接触させたままの状態でガラス転移温度より30℃低い温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷して、精密プレス成形された非球面レンズを成形型から取り出し、アニールした。得られた非球面レンズは、きわめて精度の高い光学レンズであった。
なお、図1において、符号3は案内型、9は支持棒、10は支持台、14は熱伝対である。なお、上記方法では、プリフォームをプレス成形型に導入してプリフォームと型を一緒に加熱したが、予熱したプリフォームを型に導入してプレス成形を行うこともできる。
また、同様にして球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、回折格子などの様々な光学素子を作製することもできる。
各種光学素子は必要に応じて光学薄膜を形成することもできる。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学恒数と良好な熱間プリフォーム成形性、低軟化性、優れた耐候性を兼備する光学ガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、前記光学恒数、低軟化性、優れた耐候性を有し、脈理のないプレス成形用プリフォームおよびその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、前記光学ガラスからなる耐候性に優れた光学素子を提供することができ、前記プリフォームを用いて耐候性に優れた光学素子をプレス成形により作製する光学素子の製造方法を提供することができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P 45〜65%、Al 8〜19%、MgO 5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%、B 0〜16%、ZnO 0〜25%、CaO 0〜25%、SrO 0〜25%、BaO 0〜30%、La 0〜10%、Gd 0〜10%、Y 0〜10%、Yb 0〜10%、Lu 0〜10%を含み、上記成分の合計含有量が95%以上であり、かつ前記ガラスからなり、互いに平行な2つの面が光学研磨された試料を温度65℃、相対湿度90%に保たれた空気中に1週間保持した後に、前記光学研磨された面に白色光を照射した場合、散乱光強度と透過光強度の比(散乱光強度/透過光強度)が0.08以下を示す耐候性を有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学ガラスからなるプレス成形用プリフォーム。
【請求項4】
所定重量の溶融ガラスを成形して得られる、Pを含有する前記重量のガラスからなるプレス成形用プリフォームにおいて、
前記ガラスが、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスであることを特徴とするプレス成形用プリフォーム。
【請求項5】
所定重量の溶融ガラスを成形して、Pを含有する前記重量のガラスよりなるプレス成形用プリフォームを製造する方法において、
前記ガラスとして、モル%表示でAlを8〜19%、MgOを5〜30%、LiOとNaOとKOを合計で1〜25%含み、屈折率(nd)が1.46〜1.58、アッベ数(νd)が65〜74の光学ガラスを用いることを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
請求項3または4に記載のプレス成形用プリフォーム、あるいは請求項5に記載の製造方法により作製されたプレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
プレス成形用プリフォームをプレス成形用型に導入し、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱し、プレス成形することを特徴とする請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
加熱したプレス成形用プリフォームをプレス成形用型に導入してプレス成形することを特徴とする請求項7に記載の光学素子の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/041741
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549586(P2004−549586)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013845
【国際出願日】平成15年10月29日(2003.10.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】