説明

光学ガラス、プレス成形用プリフォームとその製造方法、および光学素子とその製造方法

【課題】 熔融ガラスから高品質のガラスを成形するのに適した、さらには精密プレス成形に適した低分散光学ガラスを提供すること。
【解決手段】 必須のカチオン成分として、P5+およびAl3+と、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+から選ばれる2価カチオン成分(R2+)を2種以上と、Liとを含み、カチオン%表示にて、
5+ 10〜45%、
Al3+ 5〜30%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜33%、
Li 1〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
3+ 0〜15%、
を含有するとともに、
-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85であるフツリン酸塩ガラスからなり、屈折率(N)が1.40〜1.58、アッベ数(ν)が67〜90であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フツリン酸塩系光学ガラス、プレス成形用プリフォームとその製造方法、および光学素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸塩系光学ガラスは低分散のガラスとして非常に有用なものである。このようなフツリン酸塩系光学ガラスとしては特許文献1に記載されているようなガラスが知られている。
【特許文献1】特表平3-500162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ガラス原料を加熱、熔解し、得られた熔融ガラスを成形する際、フツリン酸塩ガラスではガラス中のフッ素が高温のガラス表面から揮発し、得られるガラス成形体の表面近傍層に脈理と呼ばれる光学的に不均一な部分が生じる。
【0004】
ガラスの成形では、熔融ガラスをパイプから流出し、型などにキャストして成形するが、ガラスの流出温度が高いほどフッ素の揮発が多くなり、脈理発生も著しくなる。脈理発生を低減するにはガラスの流出温度を低下させる必要があるが、そうすると流出時の粘性が高くなり、熔融ガラス流から熔融ガラス塊を分離する際、良好な分離をするのが困難になるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するには、低い温度において成形に適した粘度を示すガラスが求められる。このようなガラスは、熔融ガラス成形温度が低いだけでなく、ガラス転移温度も低下するため、研削、研磨加工によらずに非球面レンズなどの比較的複雑な形状の光学素子を高い生産性のもとに提供できる精密プレス成形にも好適である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熔融ガラスから高品質のガラスを成形するのに適した、さらには精密プレス成形に適した低分散光学ガラスを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、上記ガラスからなるプレス成形用プリフォームとその製造方法を提供すること、および上記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、
(1)必須のカチオン成分として、P5+およびAl3+と、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+から選ばれる2価カチオン成分(R2+)を2種以上と、Liとを含み、
カチオン%表示にて、
5+ 10〜45%、
Al3+ 5〜30%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜33%、
Li 1〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
3+ 0〜15%、
を含有するとともに、
-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85であるフツリン酸塩ガラスからなり、
屈折率(N)が1.40〜1.58、アッベ数(ν)が67〜90であることを特徴とする光学ガラス、
(2)2価カチオン成分(R2+)としてCa2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上を含む、上記(1)に記載の光学ガラス、
(3)2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が1カチオン%以上である、上記(1)または(2)に記載の光学ガラス、(4)2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の含有量がそれぞれ1カチオン%以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の光学ガラス、
(5)フツリン酸塩ガラスであって、30dPa・sの粘度を示す温度が700℃以下であることを特徴とする光学ガラス、
(6)1〜30カチオン%のLiを含む、上記(5)に記載の光学ガラス、
(7)精密プレス成形に用いられる、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の光学ガラス、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用プリフォーム、
(9)ガラス転移温度が450℃以下のフツリン酸塩光学ガラスからなり、精密プレス成形に供されることを特徴とするプレス成形用プリフォーム、
(10)全表面が熔融状態のガラスを固化して形成された面である、上記(8)または(9)に記載のプレス成形用プリフォーム、
(11)パイプから熔融ガラスを流出して、所望重量の熔融ガラス塊を分離し、該ガラス塊をガラスが冷却する過程で上記(8)〜(10)のいずれか1項に記載のプリフォームに成形することを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法、
(12)前記プリフォームの成形後、プリフォーム表面をエッチングにより除去する、上記(11)に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法、
(13)前記プリフォームの成形後、プリフォーム表面を研磨加工により除去する、上記(11)に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法、
(14)熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を機械加工して上記(8)または(9)に記載のプリフォームを作製することを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法、
(15)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子、
(16)上記(8)〜(10)のいずれかに記載のプリフォームまたは上記(11)〜(14)のいずれかに記載の方法により作製したプリフォームを加熱し、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法、
(17)プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形する、上記(16)に記載の光学素子の製造方法、および(18)予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォームを導入して精密プレス成形する、上記(16)に記載の光学素子の製造方法、
からなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熔融ガラスから高品質のガラスを成形するのに適した、さらには精密プレス成形に適した低分散光学ガラスを提供することができる。
また、上記ガラスからなるプレス成形用プリフォームとその製造方法を提供すること、および上記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[光学ガラス]
本発明の光学ガラスの第1の態様(光学ガラスIという。)は、必須のカチオン成分として、P5+およびAl3+と、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+から選ばれる2価カチオン成分(R2+)を2種以上と、Liとを含み、カチオン%表示にて、P5+ 10〜45%、
Al3+ 5〜30%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜33%、
Li 1〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
3+ 0〜15%、
を含有するとともに、
-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85であるフツリン酸塩ガラスからなり、
屈折率(N)が1.40〜1.58、アッベ数(ν)が67〜90であることを特徴とする。
【0011】
本発明の光学ガラスIは、2価カチオン成分(R2+)としてCa2+、Sr2+およびBa2+のうち2種以上を含むものが好ましい。
また、本発明の光学ガラスIは、2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が1カチオン%以上であるものが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の含有量がそれぞれ1カチオン%以上であるものがより好ましい。
【0012】
以下、上記光学ガラスIの組成について詳説するが、各カチオン成分の割合をモル比をベースにしたカチオン%で表示するとともに、各アニオン成分の割合もモル比をベースにしたアニオン%で表示するものとする。
【0013】
光学ガラスIは、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.50〜0.85でアッベ数(ν)が75〜90である光学ガラスIaと、モル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.50(ただし、0.50を除く)でアッベ数(ν)が67〜75(ただし、75を除く)である光学ガラスIbとに大別され、これらの光学ガラスIa、Ibを得る上での各カチオン成分の好ましい含有範囲は光学ガラスIaと光学ガラスIbとでは異なる。
【0014】
5+はガラスのネットワークフォーマーとして重要なカチオン成分であり、10%未満ではガラスの安定性が低下し、45%超ではP5+は酸化物原料で導入する必要があるため酸素比率が大きくなり目標とする光学特性を満たさない。したがって、その量を10〜45%とする。光学ガラスIaを得る場合のP5+の好ましい範囲は10〜40%、よ
り好ましい範囲は10〜35%、さらに好ましい範囲は12〜35%、より一層好ましい範囲は20〜35%、なお一層好ましい範囲は20〜30%である。また、光学ガラスIbを得る場合のP5+の好ましい範囲は25〜45%、より好ましい範囲は25〜40%、さらに好ましい範囲は30〜40%である。なお、P5+の導入にあたっては、PClを使用することは、白金を侵食しまた揮発も激しいため安定な製造の妨げになるため適当でなく、リン酸塩として導入することが好ましい。
【0015】
Al3+はフツリン酸塩ガラスの安定性を向上させる成分であり、5%未満では安定性が低下し、また30%超ではガラス転移温度(T)及び液相温度(LT)が大きく上昇するため、成形温度が上昇し成形時の表面揮発による脈理が強く生じるため均質なガラス成形体、特にプレス成形用プリフォームができなくなる。したがって、その量を5〜30%とする。光学ガラスIaを得る場合のAl3+の好ましい範囲は7〜30%、より好ましい範囲は8〜30%、さらに好ましい範囲は10〜30%、より一層好ましい範囲は15〜25%である。また、光学ガラスIbを得る場合のAl3+の好ましい範囲は5〜20%、より好ましくは5〜12%である。
【0016】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の導入は安定性の向上に寄与するが、これらのうち2種以上、より好ましくはCa2+、Sr2+およびBa2+のうち2種以上を導入する。2価カチオン成分(R2+)の導入効果をより高める上から、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量を1カチオン%以上とすることが好ましい。またそれぞれの上限値を超えて導入すると安定性は急激に低下する。Ca2+、Sr2+は比較的多量に導入できるがMg2+、Ba2+は多量の導入は特に安定性を低下させる。しかしBa2+は低分散を保ちつつ高屈折率を実現できる成分であるため安定性を損なわない範囲で多く導入するのが好ましい。したがって、Mg2+の量は0〜20%とするが、光学ガラスIaを得る場合は、Mg2+の量を好ましくは1〜20%、より好ましくは3〜17%、さらに好ましくは3〜15%、より一層好ましくは5〜15%、特に好ましくは5〜10%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Mg2+の量を好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜12%、さらに好ましくは1〜10%とする。
【0017】
また、Ca2+の量は0〜25%とするが、光学ガラスIaを得る場合は、Ca2+の量を好ましくは1〜25%、より好ましくは3〜24%、さらに好ましくは3〜20%、より一層好ましくは5〜20%、特に好ましくは5〜16%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Ca2+の量を好ましくは0〜15%とし、より好ましくは1〜10%とする。
【0018】
さらに、Sr2+の量は0〜30%とするが、光学ガラスIaを得る場合は、Sr2+の量を好ましくは1〜30%、より好ましくは5〜25%、さらに好ましくは7〜25%、より一層好ましくは8〜23%、なお一層好ましくは9〜22%、特に好ましくは10〜20%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Sr2+の量を好ましくは0〜15%、より好ましくは1〜15%、さらに好ましくは1〜10%とする。
【0019】
Ba2+の量は0〜33%とするが、光学ガラスIaを得る場合は、Ba2+の量を好ましくは0〜30%、より好ましくは0〜25%、さらに好ましくは1〜25%、より一層好ましくは1〜20%、なお一層好ましくは3〜18%、さらに一層好ましくは5〜15%、特に好ましくは8〜15%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Ba2+の量を好ましくは0〜30%、より好ましくは10〜30%、さらに好ましくは15〜30%、より一層好ましくは15〜25%とする。
【0020】
Liは安定性を損なわずにガラス転移温度(T)を下げる重要な成分であるが、1%未満ではその効果は十分でなく、30%超ではガラスの耐久性を損ない同時に加工性も
低下する。したがって、その量を1〜30%とし、好ましくは2〜30%、より好ましくは3〜30%、さらに好ましくは4〜30%とする。光学ガラスIaを得る場合は、Liの量を好ましくは4〜25%、より好ましくは5〜25%、さらに好ましくは5〜20%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Liの量を好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜25%とする。
【0021】
Na、KはそれぞれLiと同様にガラス転移温度(T)を低下させる効果があるが同時に熱膨張率をLiに比べてより大きくする傾向がある。またNaF、KFは水に対する溶解度がLiFに比べて非常に大きい事から耐水性の悪化ももたらすため、Na、Kの量をそれぞれ0〜10%とする。光学ガラスIa、Ibの何れのガラスにおいても、Na、Kの好ましい範囲はともに0〜5%であり、それぞれ導入しないのがより好ましい。
【0022】
3+はガラスの安定性、耐久性を向上させる効果があるが、5%超では安定性が逆に悪化し、ガラス転移温度(T)も大きく上昇するため、その量を0〜5%とする。光学ガラスIaを得る場合は、Y3+の量を好ましくは0〜3%、より好ましくは0.5〜3%とし、光学ガラスIbを得る場合は、Y3+の量を好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜3%、さらに好ましくは0.5〜3%とする。
【0023】
3+はガラス化成分なのでガラスを安定化させる効果があるが、過剰の導入は耐久性の悪化を招きまたB3+の増加に伴い、ガラス中のO2−も増加するため目標とする光学特性を達成しにくくなることから、その量を0〜15%とする。ただし、BFとして溶解中に揮発しやすく、脈理の原因となるため、光学ガラスIa、Ibの何れのガラスにおいても、その量を0〜10%とすることが好ましく、0〜5%とすることがより好ましい。ガラスの揮発性低減を優先する場合は、0〜0.5%とすることが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0024】
なお、高品質な光学ガラスを安定して製造する上から、光学ガラスIa、Ibの何れのガラスにおいても、P5+、Al3+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、LiおよびY3+の合計量をカチオン%で95%超とすることが好ましく、98%超とすることがより好ましく、99%超とすることがさらに好ましく、100%とすることがより一層好ましい。
【0025】
本発明の光学ガラスIは、上記したカチオン成分以外にTi、Zr、Zn、La、Gdなどのランタノイドなどをカチオン成分として本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0026】
また、Si4+をガラスを安定化させる目的で導入することができるが、熔解温度が低いために過剰に導入すると熔け残りを生じさせたり、熔解時に揮発が多くなり製造安定性を損なうことになる。したがって、光学ガラスIa、Ibの何れのガラスにおいても、Si4+の量を0〜10%とすることが好ましく、0〜8%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましい。
【0027】
アニオン成分の割合としては、所望の光学特性を実現しつつ、優れた安定性を有する光学ガラスを得るために、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)を0.25〜0.85とするが、光学ガラスIaにおいては0.50〜0.85とし、光学ガラスIbにおいては0.25〜0.50(ただし0.50を除く)、好ましくは0.27〜0.45、より好ましくは0.3〜0.45とする。また、光学ガラスIa、Ibのいずれにおいても、アニオン中におけるF-とO2-の合計量を100%にすることが好ましい。
【0028】
本発明の光学ガラスIは、その屈折率(N)が1.40〜1.58であり、アッベ数(ν)が67〜90、好ましくは70〜90である。また、光学ガラスIaにおいては、上記アッベ数(ν)が75〜90、好ましくは78〜89であり、光学ガラスIbにおいては、上記アッベ数(ν)が67〜75(ただし75を除く)である。
本発明の光学ガラスIは、着色剤を添加する場合を除いて、可視光域において高い透過率を示す。本発明の光学ガラスは、両面が平坦かつ互いに平行な厚さ10mmの試料に、前記両面に対して垂直方向から光を入射したときの波長400nm〜2000nmにおける透過率(試料表面における反射損失を除く)が80%以上、好ましくは95%以上の光透過率特性を示す。
【0029】
本発明の光学ガラスIは、Liを所定量含むため、そのガラス転移温度(T)は470℃以下、好ましくは430℃以下となる。
また、本発明の光学ガラスIは、アルカリ金属イオンのうちLiを積極的に含有させたため、熱膨張率が比較的小さく、また比較的優れた耐水性を示す。したがって、ガラスを研磨してプレス成形用プリフォームに加工したり、光学素子に加工によって、ガラス表面を滑らかで高品質に仕上げることができる。
【0030】
本発明の光学ガラスIは優れた耐水性、化学的耐久性を示すので、プレス成形用プリフォームを作製してからプレス成形に供するまでの間、長期に保存してもプリフォーム表面が変質することがない。また、光学素子の表面も変質しにくいので、長期にわたり表面が曇らない良好な状態で光学素子を使用することもできる。
【0031】
また、本発明の光学ガラスIによれば、ガラス熔解温度を、本発明の光学ガラスIと同等の光学恒数を有しLiを含まないガラスに比べて50℃程度低下することができるので、熔解時の容器からの白金溶け込みによるガラスの着色、泡の混入、脈理といった不具合も低減、解消することができる。
【0032】
フツリン酸塩ガラスは一般的に流出時の粘度が高く、流出する熔融ガラスから所望重量の熔融ガラス塊を分離して成形する際、分離部分でガラスが細い糸を引き、その糸状部分が成形したガラス塊表面に残って突起を形成するなどの不具合が生じる。流出粘度を低下させてこのような不具合を解消しようとするとガラスの流出温度を上昇させなければならず、前述のようにガラス表面からフッ素の揮発を助長し、脈理が著しくなるという問題が生じる。
【0033】
本発明の光学ガラスIはこのような問題を解消するため、熔融ガラスの成形に適した温度を低下させるため、所定の粘度を示す温度が、従来のフツリン酸塩ガラスよりも低くなるようにガラス組成を決定している。ガラス転移温度は熔融ガラスの成形温度よりも遥かに低い温度ではあるが、ガラス転移温度が低いガラスは上記成形温度も低くできるので、成形時の糸引き、脈理などの問題を低減、解消するには、ガラス転移温度が上記範囲になるようにガラス組成を調整する。
【0034】
また、ガラス転移温度を低くすることにより、プリフォームのプレス成形、特に精密プレス成形におけるガラスの加熱温度を低下させることができ、ガラスとプレス成形型との反応が緩和されたり、プレス成形型の寿命を延ばすことができるなどの効果を得ることもできる。
したがって、本発明の光学ガラスIは、プレス成形用のガラス素材、特に精密プレス成形用のガラス素材として好適である。
なお、本発明の光学ガラスは、リン酸塩原料、フッ化物原料などを使用し、これら原料を秤量、調合して白金合金製の熔融容器に供給し、加熱、熔融し、清澄、均質化し、パイ
プから流出、成形して得ることができる。
【0035】
次に、本発明の光学ガラスの第2の態様(光学ガラスIIという。)について説明する。
本発明の光学ガラスIIは、フツリン酸塩ガラスであって、30dPa・sの粘度を示す温度が700℃以下であることを特徴とする。
【0036】
光学ガラスIIにおいても、1〜30カチオン%のLiを含むガラスが好ましく、2〜30カチオン%のLiを含むガラスがより好ましく、3〜30カチオン%のLiを含むガラスがさらに好ましく、4〜30カチオン%のLiを含むガラスがより一層好ましい。
【0037】
光学ガラスIIの好ましいガラス組成および光学恒数は、光学ガラスIのガラス組成および光学恒数と共通する。したがって、光学ガラスIIにおける好適なガラス成分の種類、その含有量、光学恒数、その他の特性も、上述した光学ガラスIのガラス成分の種類、その含有量、光学恒数、その他の特性と共通する。なお、光学ガラスIIは、光学ガラスIの各ガラス成分の種類およびその含有量に関する要件を必ずしも全て満たさなくてもよいが、光学ガラスIを構成するガラス成分の種類およびその含有量に関するいずれかの要件を満たすことが好ましく、すべての要件を満たすことがより好ましい。
【0038】
本発明の光学ガラスIIによれば、熔融ガラスの成形時の糸引き、脈理などの問題が解消される。
【0039】
上記成形時の糸引きは、プリフォーム成形温度(流出直後のガラスの温度)を高くしてガラスの粘度を低下すれば解消できる。一方、成形時の脈理を低減、防止するには、プリフォーム成形温度を低くしたほうがよい。従来のフツリン酸塩ガラスでは、これら2つの要求を満たすことが困難であった。しかし、本発明者等は、糸引きを防止できるプリフォーム成形温度(流出直後のガラスの温度)の下限が、30dPa・sの粘度を示す温度に相当することを見出し、上記粘度を示す温度が700℃以下の光学ガラスを提供することにより、糸引きを防止しつつ、脈理発生を低減し防止することを可能とした。
【0040】
なお、光学ガラスIにおいても30dPa・sの粘度を示す温度が700℃以下のガラスが好ましく、光学ガラスI、IIともに、30dPa・sの粘度を示す温度が680℃以下であるガラスがより好ましい。
【0041】
[プレス成形用プリフォームとその製造方法]
本発明のプレス成形用プリフォームの第1の態様(プリフォームIという。)は、上述した本発明の光学ガラスからなることを特徴とするものである。
【0042】
ここでプレス成形用プリフォームとは、プレス成形品の重量と等しい重量のガラスを、プレス成形に適した形状に予め成形したものである。
【0043】
例えばレンズなどのように回転対称軸を一つ有し、この対称軸のまわりの任意の回転角に対して対称なプレス成形品を作製する場合は、プリフォームの形状も回転対称軸を一つ有し、この対称軸のまわりの任意の回転角に対して対称なもの、あるいは球状とすることが好ましい。また、プレス成形の際にプレス成形型の成形面とプリフォーム表面の間に雰囲気ガスが閉じ込められた状態でプレス成形が行われ、プレス成形品の形状精度が低下しないように、プリフォーム表面の曲率をプレス成形型の成形面の曲率を考慮して決めることが望ましい。本発明のプレス成形用プリフォームは精密プレス成形用として特に好適である。精密プレス成形用プリフォームとして使用する際は、精密プレス成形時にガラスがプレス成形型内に十分広がるようにするための機能を有する公知の各種膜や離型性を高め
るための公知の各種膜をプリフォーム全表面に形成してもよい。
【0044】
また、本発明のプレス成形用プリフォームの第2の態様(プリフォームIIという。)は、ガラス転移温度が450℃以下のフツリン酸塩光学ガラスからなり、精密プレス成形に供されることを特徴とするものである。本発明のプリフォームIIにおいて、ガラス転移温度は440℃以下であることが好ましく、430℃以下であることがより好ましく、420℃以下であることがさらに好ましく、410℃以下であることがより一層好ましく、400℃以下であることがなお一層好ましい。
【0045】
フツリン酸塩ガラスは全般的にガラス転移温度が低いガラスであるが、その中にあってもプリフォームIIを構成するフツリン酸塩ガラスは特にガラス転移温度が低いガラスである。これまで、フツリン酸塩ガラスは全般的にガラス転移温度が低いガラスであるため、精密プレス成形には特に支障がないガラスと考えられていたが、精密プレス成形により光学素子を高い歩留まりで生産することは困難であった。何故ならば、一般的なフツリン酸塩ガラスのガラス転移温度は、460℃を超え600℃以下であるが、このようなフツリン酸塩ガラスは精密プレス成形に適した温度範囲が狭く、そのため、精密プレス成形時のガラスの温度が僅かに低くなるとガラスが割れてしまい、反対に僅かに温度が高くなるとガラスが発泡して高品質の光学素子を得ることができなくなってしまうからである。
【0046】
これに対し、本発明のプリフォームIIによれば、ガラス転移温度が450℃以下に抑えられているため、精密プレス成形時の温度設定範囲を広くとることができ、割れや発泡のない光学素子を安定して生産することができる。
【0047】
さらに、ガラス転移温度をより低温にすることにより、精密プレス成形後のアニールの温度を低く抑えることができる。アニール時の最適温度はガラス転移温度に対して−10〜−50℃の範囲で行うため、ガラス転移温度に連動して変わる。アニール温度が高い場合、精密プレス成形品の表面に存在するフッ素の一部が雰囲気中の酸素と置換して、光学素子表面の屈折率が僅かながら増加するが、この現象はアニール温度の高低によって左右されることになる。光学素子に反射防止膜などの光学多層膜を形成する場合、ガラスの光学特性に合わせて光学多層膜を最適に設計しても上記表面層の屈折率変化によって実際の光学多層膜のコーティングは最適なものからずれてしまう。
【0048】
しかし、本発明のプリフォームIIを使用することにより、アニール温度を低下することができ、上記フッ素と酸素の置換を抑制し、光学素子表面の屈折率が変化しないようにできるので、ガラスの光学特性を基に光学多層膜の設計を最適なものとすることができる。さらにプリフォームIIを使用することにより精密プレス成形時の温度を低下することができるから、精密プレス成形前のプリフォームの昇温、精密プレス成形後のガラス成形品の降温に要する時間を短縮化でき、生産性を向上することもできる。本発明のプリフォームIIにおいて、ガラス転移温度を450℃以下に抑えるには、ガラス成分としてLiカチオンを導入することが好ましく、その導入量を1〜30カチオン%とすることがより好ましい。また、F-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85となるようにアニオン成分の配分を決めることが望ましい。また、本発明のプリフォームIIを構成するフツリン酸塩光学ガラスは、上記本発明の光学ガラスIの構成成分に関するいずれかの要件を有するものが好ましく、すべての要件を有するものがより好ましい。
【0049】
プリフォームIIは、プリフォームIの構成を有するもの、すなわち本発明の光学ガラスからなるものであることが好ましい。
また、プリフォームI、IIの全表面は、熔融状態のガラスを固化して形成された面であることが好ましい。
【0050】
プリフォームI、IIを厚さ10mmに換算して波長370〜700nmの全域で外部透過率が80%以上となる透過率特性を有するフツリン酸塩ガラスにより構成することにより、レンズ、プリズム、回折格子などの光学素子に適した無色透明な光学素子を精密プレス成形により製造することができる。
【0051】
次に本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法について説明する。
本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法の第1の態様(プリフォームの製法Iという。)は、パイプから熔融ガラスを流出して、所望重量の熔融ガラス塊を分離し、該ガラス塊をガラスが冷却する過程で上述の本発明の光学ガラスからなるプリフォームに成形することを特徴とする。
【0052】
熔融ガラスの作製は前述のとおりである。通電加熱方式あるいは高周波誘導加熱方式、またはこれら2つの加熱方式を組合わせた加熱法で、所定温度に加熱した白金合金製あるいは白金製のパイプから一定流量で連続して熔融ガラスを流出する。流出した熔融ガラスからプリフォーム1個分の重量、あるいはプリフォーム1個分の重量に後述する除去分の重量を加えた重量の熔融ガラス塊を分離する。熔融ガラス塊の分離にあたっては、切断痕が残らないように、切断刃の使用を避けることが望ましく、例えば、パイプの流出口から熔融ガラスを滴下させたり、流出する熔融ガラス流先端を支持体により支持し、目的重量の熔融ガラス塊が分離できるタイミングで支持体を急降下して熔融ガラスの表面張力を利用して熔融ガラス流先端から熔融ガラス塊を分離する方法を用いることが好ましい。
なお、30dPa・sの粘度を示す温度が700℃以下のガラスでは、ガラスの流出温度を700℃以下にしても上記熔融ガラス塊の分離によって、糸引き現象は見られなかった。
【0053】
分離した熔融ガラス塊はプリフォーム成形型の凹部上においてガラスが冷却する過程で所望形状に成形する。その際、プリフォーム表面にシワができたり、カン割れと呼ばれるガラスの冷却過程における破損を防止するため、凹部上でガラス塊に上向きの風圧を加え浮上させた状態で成形することが好ましい。
【0054】
プリフォームに外力を加えても変形しない温度域にまでガラスの温度が低下してから、プリフォームをプリフォーム成形型から取り出して、徐冷する。
なお、ガラス表面からのフッ素の揮発を低減するため、ガラス流出、プリフォーム成形を乾燥雰囲気中(露点が−50℃以下の乾燥雰囲気)で行うことが好ましい。
【0055】
上述した本発明の光学ガラスは脈理が生じにくいが、プリフォーム表面にわずかに脈理が生じる場合、脈理はプリフォーム表面層に局在しているので、エッチングや研磨加工により上記表面層を除去し、脈理のない光学的に高度に均質なプリフォームに仕上げることもできる。
上記エッチングを行う場合、酸またはアルカリのエッチング液にプリフォームを浸漬したり、プリフォーム表面に満遍なくエッチング液をかけてプリフォーム全表面の表面層を除去する。エッチングの後、プリフォームを洗浄、乾燥させる。
【0056】
研磨加工により表面層を除去する場合もプリフォーム全表面にわたり表面層を除去することが望ましい。研磨加工は球状のプリフォームあるいは平坦な面を有するプリフォームに好適であり、エッチングは形状によらず様々な形状に対応することができる。
エッチング、研磨いずれの場合も、除去するガラス重量を目的とするプリフォーム重量に加えた重量の熔融ガラス塊を分離し、表面層の除去後に目的重量になるようにすることが望ましい。
【0057】
本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法の第2の態様(プリフォームの製法IIという。)は、熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を機械加工して本発明の光学ガラスからなるプリフォームを作製するプレス成形用プリフォームの製造方法である。
【0058】
ここで熔融ガラスの作製は前述のとおりである。プリフォームの製法Iにおいてプリフォームの全表面を研磨加工によって除去する方法も、ガラス成形体を機械加工するプリフォームの製法IIに相当する。ここでは、プリフォームの製法Iで説明した以外の方法について説明する。
【0059】
まず、熔融ガラスを連続してパイプから流出し、パイプ下方に配置した鋳型に流し込む。鋳型には、平坦な底部と底部を三方から囲む側壁を備え、一方の側面が開口したものを使用する。開口側面および底部を両側から挟む側壁部は互いに平行に対向し、底面の中央がパイプの鉛直下方に位置するように、また底面が水平になるように鋳型を配置、固定して鋳型内に流し込まれる熔融ガラスを側壁で囲まれた領域内に均一な厚みになるように広げ、冷却後に鋳型側面の開口部から一定の速度で水平方向にガラスを引き出す。引き出したガラス成形体はアニール炉内へと送られ、アニールされる。このようにして一定の幅と厚みを有する本発明の光学ガラスからなる板状ガラス成形体を得る。
【0060】
次に、板状ガラス成形体を切断あるいは割断してカットピースと呼ばれる複数のガラス片に分割し、これらガラス片を研削、研磨して目的重量のプレス成形用プリフォームに仕上げる。
【0061】
また別の方法としては、円柱状の貫通孔を有する鋳型を貫通孔の中心軸が鉛直方向を向くようにパイプの鉛直下方に配置、固定する。このとき、貫通孔の中心軸がパイプの鉛直下方に位置するよう鋳型を配置することが好ましい。そして、パイプから鋳型貫通孔内に熔融ガラスを一定流量にて流し込んで貫通孔内にガラスを充填し、固化したガラスを貫通孔の下端開口部から一定速度で鉛直下方に引き出し、徐冷して、円柱棒状のガラス成形体を得る。このようにして得られたガラス成形体をアニールした後、円柱棒状の中心軸に対して垂直な方向から切断あるいは割断して複数のガラス片を得る。次にガラス片を研削、研磨して所望重量のプレス成形用プリフォームに仕上げる。
プリフォームの製法I、IIとも高品質かつ重量精度の高いプリフォームを作製することができるので、精密プレス成形用のプリフォームを製造する方法として好適である。
【0062】
[光学素子とその製造方法]
本発明の光学素子は、本発明の光学ガラスからなることを特徴とするものである。本発明の光学素子は、上記の本発明の光学ガラスからなるので、低分散特性を活かした光学素子を提供することができる。また、耐水性、化学的耐久性が優れたガラスからなるため、長期にわたる使用によっても表面が曇るなどの不具合が生じない光学素子を提供することができる。
【0063】
光学素子の種類、形状などについては特に限定はないが、非球面レンズ、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、回折格子、レンズ付きプリズム、回折格子付きレンズなどに好適である。非球面レンズ、球面レンズの具体例としては、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどを挙げることができる。
【0064】
用途の面からは、撮像系を構成する光学素子、例えば、デジタルカメラのレンズやカメラ付き携帯電話のカメラ用レンズ、光ピックアップレンズ、コリメータレンズなどに好適である。
光学素子の表面には必要に応じて反射防止膜などの光学薄膜を形成してもよい。
【0065】
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子は、本発明のプレス成形用プリフォームまたは本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法により作製したプレス成形用プリフォームを加熱し、精密プレス成形することを特徴とするものである。
【0066】
上記精密プレス成形はモールドオプティクス成形とも呼ばれ、当該技術分野において周知の方法である。光学素子において、光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面(レンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する)というが、精密プレス成形によればプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができ、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
したがって、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0067】
本発明の光学素子の製造方法によれば、いずれも上記光学特性を有する光学素子を作製できるとともに、ガラスの転移温度(T)が低いために、プレス成形温度を低くすることができるので、プレス成形型の成形面へのダメージが軽減され、成形型の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、プレス工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラス熔解から最終製品を得る一連の工程を高い生産性のもとに行うことができる。
【0068】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができるが、中でも炭化珪素製のプレス成形型が好ましく、離型膜としては炭素含有膜などを使用することができる。耐久性、コストの面から特にカーボン膜が好ましい。
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0069】
次に本発明の光学素子の製造方法で用いられる精密プレス成形の態様として、以下に示す精密プレス成形1と2の2つの態様を示すことができる。
(精密プレス成形1)
精密プレス成形1は、プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形するものである。
この精密プレス成形1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
【0070】
また前記ガラスが、好ましくは1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0071】
(精密プレス成形2)
精密プレス成形方法2は、予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォームを導入して
精密プレス成形するするものである。
この精密プレス成形2によれば、前記プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度を有する光学素子を製造することができる。
なおプレス成形型の予熱温度は、プリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0072】
精密プレス成形2において、前記プリフォームを構成するガラスが10dPa・s以下、より好ましくは10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することが好ましい。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することがより好ましく、105.5dPa・s以上10dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
またプレス開始と同時又はプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
なおプレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温するが、前記ガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
【0073】
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
【0074】
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【0075】
以上が本発明の光学素子の製造方法であるが、前述した方法以外でも、例えば、熔融ガラスを流出してガラス成形体を成形し、アニールした後に機械加工を施して本発明の光学素子を製造することもできる。例えば、上述した円柱棒状のガラス成形体を円柱軸に対して垂直方向からスライス加工し、得られた円柱状のガラスに研削、研磨加工を施して各種レンズなどの光学素子を作ることもできる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0077】
ガラスの原料として、各ガラス成分に相当するリン酸塩、フッ化物などを使用し、表1に示す組成を有するガラスとなるように前記原料を秤量し、十分混合した後、白金坩堝に投入して電気炉で850〜950℃の温度範囲で攪拌しながら大気中で1〜3時間かけて加熱熔解した。均質化、清澄されたガラス融液を40×70×15mmのカーボン製金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、転移温度付近で1時間アニールし、アニール炉内で室温まで徐冷して、表1−1、表1−2に示す各光学ガラスを得た。
【0078】
得られた各ガラスを顕微鏡によって拡大観察したところ、結晶の析出や原料の熔け残りは認められなかった。
得られた光学ガラスについて、屈折率(N)、アッべ数(ν)、ガラス転移温度(T)、30dPa・sの粘度を示す温度を、以下のようにして測定した結果を表1に示す。
(1)屈折率(N)及びアッべ数(ν
徐冷降温速度を-30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(T
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)30dPa・sの粘度を示す温度
その測定方法は以下のとおりである。
JIS規格Z8803の粘度測定方法により、共軸二重回転円筒型回転粘度計(東京工業株式会社製、高温粘度測定装置RHEOTRONICII(改良型))を用いて測定した。30dPa・sの粘度を示す温度を求めるにあたり、ガラスの温度を変えて、それぞれの温度での粘度を測定し、粘度と温度の関係を示すグラフを作成し、このグラフを用いて、30dPa・sの粘度を示す温度を読み取る方法が簡便である。
【0079】
【表1−1】

【0080】
【表1−2】

表1−1、表1−2に示すように、いずれの光学ガラスも、所望の屈折率、アッベ数、ガラス転移温度を有し、優れた低温軟化性、熔解性を示し、精密プレス成形用の光学ガラ
スとして好適なものであった。
【0081】
次に表1−1、表1−2に示される各組成を有する、清澄、均質化した各熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、滴下又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて目的とするプリフォームの重量の熔融ガラス塊を分離した。次いで、得られた各熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、プレス成形用プリフォームを作製した。プリフォームの形状は、熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより、球状や扁平球状とした。得られた各プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかなものであった。
【0082】
次いでプリフォームに脈理が残存しないように、万全を期すため、成形、アニールしたプリフォーム全体を塩酸溶液からなるエッチング液に浸漬してプリフォーム全表面層を除去し、洗浄、乾燥して光学的に均質なプリフォームを得た。
【0083】
また別の方法として、成形した球状のプリフォームの全表面を公知の方法で研磨加工し、全表面層を除去して光学的に均質なプリフォームを得た。
【0084】
また、別途、熔融ガラスを鋳型に鋳込んで板状ガラスや円柱棒状に成形し、アニールした後、これを切断して得たガラス片の表面を研削、研磨して、全表面が滑らかなプリフォームを得た。
【0085】
上記のようにして得た、プリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。具体的にはプリフォーム4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。
【0086】
なお、図1において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型、胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
【0087】
精密プレス成形により得られた非球面レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0088】
次に上記各プリフォームと同じプリフォームを上記の方法とは別の方法で精密プレス成形した。この方法では、先ず、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱した。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形した。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。
【0089】
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けた。
このようにして、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、低分散で、かつガラス転移温度が低く、精密プレス成形が可能な低温軟化性を有する光学ガラスを得ることができ、該光学ガラスを用いてプレス成形用プリフォーム、さらには各種レンズ等の光学素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施例で用いた精密プレス成形装置の概略図である。
【符号の説明】
【0092】

1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型、胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須のカチオン成分として、P5+およびAl3+と、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+から選ばれる2価カチオン成分(R2+)を2種以上と、Liとを含み、
カチオン%表示にて、
5+ 10〜45%、
Al3+ 5〜30%、
Mg2+ 0〜20%、
Ca2+ 0〜25%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜33%、
Li 1〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
3+ 0〜15%、
を含有するとともに、
-とO2-の合計量に対するF-の含有量のモル比F-/(F-+O2-)が0.25〜0.85であるフツリン酸塩ガラスからなり、
屈折率(N)が1.40〜1.58、アッベ数(ν)が67〜90であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
2価カチオン成分(R2+)としてCa2+、Sr2+およびBa2+のうちの2種以上を含む、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の合計含有量が1カチオン%以上である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
2価カチオン成分(R2+)であるMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+の含有量がそれぞれ1カチオン%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
フツリン酸塩ガラスであって、30dPa・sの粘度を示す温度が700℃以下であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項6】
1〜30カチオン%のLiを含む、請求項5に記載の光学ガラス。
【請求項7】
精密プレス成形に用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とするプレス成形用プリフォーム。
【請求項9】
ガラス転移温度が450℃以下のフツリン酸塩光学ガラスからなり、精密プレス成形に供されることを特徴とするプレス成形用プリフォーム。
【請求項10】
全表面が熔融状態のガラスを固化して形成された面である、請求項8または9に記載のプレス成形用プリフォーム。
【請求項11】
パイプから熔融ガラスを流出して、所望重量の熔融ガラス塊を分離し、該ガラス塊をガラスが冷却する過程で請求項8〜10のいずれか1項に記載のプリフォームに成形するこ
とを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項12】
前記プリフォームの成形後、プリフォーム表面をエッチングにより除去する、請求項11に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項13】
前記プリフォームの成形後、プリフォーム表面を研磨加工により除去する、請求項11に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項14】
熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を機械加工して請求項8または9に記載のプリフォームを作製することを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学素子。
【請求項16】
請求項8〜10のいずれかに記載のプリフォームまたは請求項11〜14のいずれかに記載の方法により作製したプリフォームを加熱し、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項17】
プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形する、請求項16に記載の光学素子の製造方法。
【請求項18】
予熱したプレス成形型に、加熱したプリフォームを導入して精密プレス成形する、請求項16に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−306706(P2006−306706A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45502(P2006−45502)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】