説明

光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、ならびに光学素子とその製造方法

【課題】アッベ数(νd)が50〜59であって、プレス成形型と反応しにくい性質、低温軟化性、優れたガラス安定性、高屈折率特性を有し、精密プレス成形に適した光学ガラスを提供する。
【解決手段】モル%表示で、BとSiOの合計含有量(B+SiO)が45〜70%、B含有量に対するSiO含有量のモル比率(SiO/B)が0.1〜0.5であり、La 5〜15%、Gd 0.1〜8%、Y 0〜10%、LiO 3〜18%、ZnO 0.1〜15%、CaO 2〜20%、BaO 0〜5%SrO 0〜5%、MgO 0〜5%、およびZrO 0〜5%を含み、かつ式(1) νd≧308.5−150×nd(ただし、50≦νd≦59) …(1)の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を有する光学ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、ならびに光学素子とその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、アッベ数(νd)が50〜59であって屈折率が高く、優れたガラス安定性を備え、精密プレス成形に適した光学ガラス、該光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、ならびに該光学ガラスからなる光学素子とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスからなるガラス予備成形体すなわちプリフォームを加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形し、非球面レンズ、マイクロレンズ、回折格子などの光学素子を作製する方法は、精密プレス成形法またはモールドオプティクス成形法と呼ばれ、広く知られている。
【0003】
精密プレス成形に供されるガラスに求められる光学特性は種々あるが、その中の一つにアッベ数(νd)が50〜59の光学ガラスがある。これまで、精密プレス成形用ではないが、特許文献1に記載されているガラスのように上記光学特性を有するリン酸塩系の光学ガラスが知られていた。
【0004】
ところで、アッベ数(νd)が50〜59を示すようなガラスであって、精密プレス成形用に適したガラスを特許文献1に開示されているようなリン酸塩系の組成によって実現しようとすると、精密プレス成形時にガラスとプレス成形型の成形面との反応により、精密プレス成形品の表面に傷が発生したり、発泡が見られたり、プレス成形型成形面にガラスが融着するという問題が生じる。
【0005】
精密プレス成形法はガラスにプレス成形型の成形面を精密に転写し、レンズ面などの光学機能面をプレス成形によって精密に形成する点を特徴にしている。精密プレス成形品の表面に上記傷や泡が発生すると、研磨などの表面除去加工を行わなければならず、精密プレス成形法の上記特徴が損なわれてしまう。したがって、精密プレス成形法に供するガラスには、型成形面と反応しにくいという性質が求められる。
【0006】
また、精密プレス成形は一般のガラスプレス成形と比べてプレス成形温度を低くする必要があるため、低温軟化性を有する必要がある。さらに、熔融状態のガラスからガラスを失透させずにプリフォームを成形するには、ガラスとして優れた安定性を備えたものが必要である。加えて、光学ガラスとしての付加価値を高めるには、より高い屈折率をガラスに付与する必要がある。
したがって、アッベ数(νd)が50〜59を示すようなガラスであって、精密プレス成形用に適した光学ガラスには、プレス成形型と反応しにくい性質、低温軟化性、優れたガラス安定性(耐失透性)、高屈折率特性が求められる。
【0007】
【特許文献1】特開昭58−25607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで、アッベ数(νd)が50〜59であって、プレス成形型と反応しにくい性質、低温軟化性、優れたガラス安定性、高屈折率特性を有し、精密プレス成形に適した光学ガラス、該光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、ならびに該光学ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のガラス組成を有し、かつアッベ数(νd)と屈折率(nd)が特定の関係にある光学ガラスにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) BとSiOを必須成分として含む光学ガラスにおいて、モル%表示で、
とSiOの合計含有量(B+SiO)が45〜70%、B含有量に対するSiO含有量のモル比率(SiO/B)が0.1〜0.5であり、La 5〜15%、Gd 0.1〜8%(ただし、La含有量とGd含有量の合計量が8%以上)、Y 0〜10%、LiO 3〜18%〔ただし、B+SiOに対するLiOの含有量のモル比率[LiO/(B+SiO)]が0を超え0.2以下〕、ZnO 0.1〜15%、CaO 2〜20%、BaO 0〜5%(ただし、BaO含有量はZnO含有量よりも少ない)、SrO 0〜5%、MgO 0〜5%〔ただし、B+SiOに対するMgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量のモル比率[(MgO+CaO+SrO+BaO)/(B+SiO)]が0.1〜0.4〕、およびZrO 0〜5%を含み、かつ式(1)
νd≧308.5−150×nd(ただし、50≦νd≦59) …(1)
の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を有することを特徴とする光学ガラス、
(2) 精密プレス成形に供する上記(1)項に記載の光学ガラス、
(3) 上記(2)項に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、
(4) 上記(1)または(2)項に記載の光学ガラスからなる光学素子、
(5) 流出する熔融ガラスを分離して得たガラス塊を前記ガラスが冷却する過程で成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、前記熔融ガラスが、上記(2)項に記載の光学ガラスが得られる熔融ガラスであることを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法、
(6) ガラス製のプリフォームを加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法において、上記(3)項に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは上記(5)項に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法、
(7) プレス成形型にプリフォームを導入し、前記成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形する上記(6)項に記載の光学素子の製造方法、および
(8) プレス成形型に予熱したプリフォームを導入し、精密プレス成形する上記(6)項に記載の光学素子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アッベ数(νd)が50〜59であって屈折率が高く、優れたガラス安定性を備え、精密プレス成形に適した光学ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームならびに光学素子を提供することができる。
また、優れたガラス安定性を有する上記ガラスを用いて、熔融ガラスから直接、精密プレス成形用プリフォームを作製することができるので、高い生産性のもとに高品質のプリフォームを作製するための精密プレス成形用プリフォームの製造方法を提供することができる。
さらに、上記各性質を兼備したガラスを使用することにより、高い生産性のもとに光学素子を作製するための光学素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、光学素子とその製造方法の順に説明する。
[光学ガラス]
本発明者らは、アッベ数(νd)が50〜59である精密プレス成形に適したガラスを実現するため、リン酸塩系ガラスではなく、BとSiOをガラスの網目構造を構成する成分として含むB−SiO系のガラス組成を出発点とした。その上で、高屈折率特性を付与するため、LaとGdを必須成分として導入する。LaとGdを共存させることにより、単独で導入する場合に比べてガラスの安定性を向上させることができる。また、ガラスに低温軟化性を付与するとともに、高屈折率特性を維持するため、LiO、ZnOを必須成分として導入する。さらに、B、SiOおよびCaOを共存させることにより、目的とする光学特性を実現しつつ、ガラスに低温軟化性を付与することができる。以上の理由から、本発明の目的を達成するガラス組成として、ガラス成分としてB、SiO、La、Gd、LiO、ZnO、CaOが共存する組成をベースとし、各成分の含有量をバランスさせることによって、本発明を完成させた。
【0013】
本発明の光学ガラスは、BとSiOを必須成分として含む光学ガラスにおいて、モル%表示で、
とSiOの合計含有量(B+SiO)が45〜70%、B含有量に対するSiO含有量のモル比率(SiO/B)が0.1〜0.5であり、La 5〜15%、Gd 0.1〜8%(ただし、La含有量とGd含有量の合計量が8%以上)、Y 0〜10%、LiO 3〜18%〔ただし、B+SiOに対するLiOの含有量のモル比率[LiO/(B+SiO)]が0を超え0.2以下〕、ZnO 0.1〜15%、CaO 2〜20%、BaO 0〜5%(ただし、BaO含有量はZnO含有量よりも少ない)、SrO 0〜5%、MgO 0〜5%〔ただし、B+SiOに対するMgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量のモル比率[(MgO+CaO+SrO+BaO)/(B+SiO)]が0.1〜0.4〕、およびZrO 0〜5%を含み、かつ式(1)
νd≧308.5−150×nd(ただし、50≦νd≦59) …(1)
の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を有することを特徴とする。
【0014】
[ガラス組成]
次に、上記組成範囲の限定理由について説明する。以下、特記しない限り、各成分の含有量、ならびにそれら合計量、比率はモル%あるいはモル比によって表すものとする。
はガラスの網目構造を構成する成分であって、ガラスに低分散性を与え、低温軟化性を付与するために必要不可欠な成分である。
SiOはBと同様、ガラスの網目構造を構成する成分であり、ガラスの耐久性を向上させるために欠かせない成分でもある。
【0015】
、SiOの含有量の範囲は、その合計含有量(B+SiO)とモル比(SiO/B)によって特定される。B+SiOが過少になるとガラスの安定性が低下し、液相温度が上昇し、過剰になると屈折率が低下し、所望の光学特性を得ることが困難になるため、B+SiOを45〜70%、好ましくは50〜65%とする。モル比(SiO/B)については、前記値が小さすぎると熔融ガラスからガラス成形体、例えば後述する精密プレス成形用プリフォームを成形する際の粘度が低くなりすぎ、前記成形が困難になる。一方、前記モル比が大きすぎるとガラスの熔解性が低下する。熔解性が低下するとガラスの熔解温度を過剰に高くしなければならず、そのため熔融容器(例えば、白金合金製の容器)が侵蝕されて熔融ガラス中に異物として混入してガラスの品質を低下させてしまう。また、ガラス成分の一部が揮発することにより、目的とする光学特性が得られるガラス組成から作製したガラスの組成がずれ、屈折率、アッベ数などの光学特性が目標値から外れてしまう。このような点に配慮し、モル比(SiO/B)は0.1〜0.5、好ましくは0.14〜0.45とする。
【0016】
なお、B+SiOは重量%表示で30〜50%、好ましくは33〜45%の範囲内とすることが望ましい。また、重量比(SiO/B)は0.1〜0.45、好ましくは0.12〜0.38の範囲内とすることが望ましい。その理由は上記理由と同じである。
【0017】
さらに、所望の光学特性を付与しつつ、ガラス転移温度をより低下させ、ガラスの耐久性や耐酸性を良好に保つ上から、Bの含有量を40〜60%の範囲にすることが好ましく、42〜56%の範囲にすることがより好ましい。
また、所望の光学特性を付与しつつ、ガラスの低温軟化性を維持し、ガラスの耐久性、安定性を向上させる上から、SiOの含有量を5%を超え、かつ20%以下の範囲にすることが好ましく、6〜18%の範囲にすることがより好ましい。
【0018】
Laはガラスの耐久性及び耐候性を向上させるためにも、所定範囲のアッベ数を維持しつつ屈折率を高めるためにも非常に重要な必須成分である。しかし、その含有量が15%を超えると、アッベ数(νd)が目標の範囲より低くなり、熱的安定性も低くなる恐れがあるため、15%以下に抑えることが必要である。一方、その含有量が5%未満では目標の光学特性を付与することができない上、ガラスの耐候性も悪化するので、その含有量を5〜15%の範囲、より好ましくは6〜13%の範囲とする。
【0019】
Gdはガラスの耐候性の向上や光学特性の調整に使われる成分であって、Laとの共存によってガラスの安定性向上に寄与する必須成分であり、その効果を得るために0.1%以上導入する。しかし、8%より多くなると、ガラスの熱的な安定性が低下し、低温軟化性も損なわれる恐れがあるので、0.1〜8%の範囲、好ましくは0.1〜4.0%とする。
ただし、ガラスの良好な耐候性を維持しつつ、所望の範囲の光学特性を付与する上から、LaとGdの合計含有量(La+Gd)を8%以上、好ましくは10%以上とする。
【0020】
はガラスの耐候性の向上や光学特性の調整に使われる任意成分であるが、10%を超えて導入すると、ガラスの熱的な安定性や低温軟化性が損なわれるので、その含有量を0〜10%、好ましくは0〜8%とする。
なお、La、Gd、Yの導入効果をより高める上から、La、Gd及びYの合計含有量(La+Gd+Y)を8%以上にすることが好ましく、10%以上にすることがより好ましい。
【0021】
LiOはガラスの低温軟化性を改善するために導入する必須成分である。その含有量が3%未満では、ガラス転移温度、屈伏点が高くなりすぎ、精密プレス成形が困難になる。一方、18%を超えて導入すると、ガラスの液相温度が急激に高くなり、耐候性も悪化するため、その含有量を3〜18%の範囲、好ましくは5〜15%の範囲とする。
ただし、B+SiOに対するLiOの含有量のモル比率[LiO/(B+SiO)]を過大にするとガラスの安定性が低下するので0.2以下、好ましくは0.18以下とする。重量比による上記比率は0.10以下が好ましく、0.08以下がより好ましい。
【0022】
ZnOはガラスの低温軟化性や良好な耐候性を維持するために必要な成分であり、ガラスの安定性や耐久性を調整するために使用可能な成分であるが、過剰導入により、アッベ数が減少するため、0.1〜15%の範囲、好ましくは0.1〜13%の範囲とする。
【0023】
CaOはB及びSiOと共存することにより低温軟化性の付与や所望の範囲内に光学特性を維持する上で有効な成分である。CaOの含有量が2%未満ではガラスの安定性が悪化し、目標とする光学特性が得られず、20%よりも多くなるとガラスの耐久性及び耐候性が悪化する恐れがあるため、その含有量を2〜20%の範囲、好ましくは5〜17%の範囲とする。
【0024】
BaOはガラスの光学特性を調整するために導入される任意成分であるが、ガラスの耐候性や安定性を悪化させないために、その含有量をZnOの含有量よりも少ない範囲とし、かつ0〜5%、好ましくは0〜4%、より好ましくは0〜1%未満、さらに好ましくは導入しない。
【0025】
SrOはBaOの代わりに導入すると、光学特性を維持することができる上、ガラスの耐久性を大幅に改善することもできる。しかし、その含有量が5%よりも多くなるとガラスの安定性が悪化してしまう恐れがあるため、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜4%の範囲とする。
【0026】
MgOはLiOの代わりに導入すると、ガラスのアッベ数を大きくする効果(低分散化の効果)が得られるとともに、耐久性も大きく改善できる。しかし、5%を超えて多く導入すると、ガラスの安定性が悪化するので、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜4%とする。
【0027】
ただし、B+SiOに対するMgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量のモル比率[(MgO+CaO+SrO+BaO)/(B+SiO)]が小さすぎると低温軟化性を付与するのが困難になるとともに、アッベ数(νd)が減少(高分散化)してしまい、大きすぎるとガラスの安定性が損なわれるため、上記モル比率を0.1〜0.4の範囲、好ましくは0.12〜0.30とする。なお、好ましくは重量比率[(MgO+CaO+SrO+BaO)/(B+SiO)]を0.1〜0.8、より好ましくは0.1〜0.5とする。
【0028】
所望の範囲の光学特性を維持しつつ、優れた耐久性を維持する上から、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)を好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上とする。
ZrOは光学恒数の調整や安定性の向上に有用な成分であるが、その含有量が5%を超えるとガラスの安定性を損ねてしまうため、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜3%とする。
【0029】
なお、本発明の光学ガラスにおいては、上記成分に加え、NaO、KOなどを添加することも可能である。ただし、NaOやKOはLiOほど低温軟化性付与効果が大きくなく、前記効果が十分得られる量を導入すると、屈折率が低下したり、ガラスの安定性が損なわれる恐れがあるため、好ましくは、各々0〜2%、より好ましくは各々0〜1%、さらに好ましくは合計含有量(NaO+KO)で0〜1%の範囲とする。
上記各成分の効果を一層高める上から、B、SiO、La、Gd、Y、LiO、ZnO、CaO、BaO、SrO、MgO、ZrOの合計含有量を好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは100%とする。
【0030】
なお、本発明の光学ガラスにおいては、上記成分のほか、通常使用される脱泡剤を外割で0〜1重量%添加することができる。脱泡剤としてはSbが好ましく、その添加量を外割で0〜1重量%とすることが好ましく、0〜0.5重量%とすることがより好ましい。Asは脱泡剤としては有効であるが、プレス成形型の成形面にダメージを与える恐れがあるとともに、環境への影響に配慮すると添加しないことが好ましい。ヒ素化合物同様、Cd、Tl、Pbなどの化合物も環境影響に配慮するとガラス中に導入しないことが望ましい。なお、PbOは環境上の問題だけでなく、精密プレス成形時に還元されてガラス表面に析出するという問題もおこす。
上記ガラスに少量のFを導入することもできるが、後述するプリフォームの成形時に揮発による問題を起こすことから、導入しないことが望ましい。
【0031】
Hf酸化物、Yb酸化物の導入も可能であるが、これらの成分はいずれも極めて高価である。本発明のガラスは、Hf酸化物、Yb酸化物を導入しなくても上記目的を達成できるものであるから、安定した価格で光学ガラスを供給し、本発明のガラスの実施を促進するという観点からはいずれの成分も導入しないことが望ましい。
【0032】
[ガラスの光学特性]
次に本発明の光学ガラスの光学特性について説明する。ガラスの用途面、すなわち光学機器の設計上の観点からは、アッベ数(νd)を一定とした場合、屈折率(nd)が高いほど設計の自由度が大きくなる。したがって、高屈折率のガラスが望まれているが、ガラスの製造面からはアッベ数(νd)の減少を抑えつつ、屈折率(nd)を高めようとすると、ガラスの安定性が損なわれやすい。特に本発明のガラスのように低温軟化性も備えたガラスでは、アッベ数(νd)の減少を抑えつつ、屈折率(nd)を一定値より高めることは困難であった。本発明は上記ガラス組成により、アッベ数(νd)が50〜59の範囲で、下記式(1)の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)をガラスに付与している。
【0033】
νd≧308.5−150×nd …(1)
【0034】
本発明の好ましい態様によれば、下記式(2)の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を実現することもできる。
【0035】
νd≧309.5−150×nd …(2)
【0036】
なお、優れたガラス安定性を維持する上から、上記の各光学恒数範囲において、屈折率(nd)を1.74以下にすることが好ましい。
【0037】
[ガラス転移温度]
次に本発明の光学ガラスのガラス転移温度(Tg)について説明する。ガラス転移温度は屈伏点(Ts)と同様、ガラスの低温軟化性の指標となる。ガラス転移温度が低ければ、精密プレス成形時のガラスの温度、プレス成形型の温度を低く設定することができ、プレス成形型の寿命を延ばす上でも、良好な精密プレス成形品を得る上でも好ましい。
このような観点から、本発明の光学ガラスの好ましい態様は、ガラス転移温度(Tg)が600℃以下のものである。より好ましい態様は、ガラス転移温度(Tg)が580℃以下のものである。
なお、本発明の光学ガラスは、精密プレス成形用のガラスに限定されるものではないが、上記のように低温軟化性など精密プレス成形に好適な性質を有しているので、精密プレス成形に使用する光学ガラスとして好適である。
【0038】
[光学ガラスの製造法]
次に本発明の光学ガラスを製造する方法について説明する。まず、ガラス各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物など、例えば、HBO、SiO、La、Gd、Y、LiCO、ZnO、CaCO、ZrOなどの原料を秤量し、十分に混合して調合バッチと成し、これを白金合金製の熔融容器に入れ、1200〜1250℃に加熱し、攪拌しながら空気中で原料が完全に熔解するまで熔融を行う。次に、得られた熔融ガラスを清澄し、十分攪拌して均質化し、成形すれば上記光学ガラスを得ることができる。ここで使用する設備としては公知のものを使用すればよい。
【0039】
(精密プレス成形用プリフォームとその製造方法)
次に、精密プレス成形用プリフォームについて説明する。本発明の精密プレス成形用プリフォームは、上記光学ガラスからなることを特徴とする。精密プレス成形用プリフォーム(以下、単にプリフォームと記すことがある。)は、精密プレス成形品に等しい重量のガラス成形体であって、精密プレス成形に適した形状に予め成形された予備成形体である。プリフォームの形状としては、球、一つの対称軸を有する回転体などを例示することができる。前記回転体としては、前記対称軸を含む任意の断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものがある。また、前記断面におけるプリフォームの輪郭線上の任意の点と対称軸上にあるプリフォームの重心を結ぶ線と、前記輪郭線上の点において輪郭線に接する接線とのなす角の一方の角の角度をθとしたとき、前記点が回転対称軸上から出発して輪郭線上を移動するときに、θが90°から単調増加し、続いて単調減少した後、単調増加して輪郭線が対称軸と交わる他方の点において90°になる形状が好ましい。プリフォームは、プレス成形可能な粘度になるよう、加熱してプレス成形に供される。
【0040】
上記プリフォームには、必要に応じて離型膜などの薄膜を表面に備えていてもよい。離型膜としては炭素含有膜、自己組織化膜などを例示することができる。上記プリフォームは、所要の光学恒数を有する光学素子のプレス成形が可能である。
上記プリフォームには、その製造方法に応じて全表面が自由表面からなるもの、全表面が研磨面からなるもの、全表面がエッチングによって形成されたものなどに分けることもできる。
プリフォームは以下に説明する本発明のプリフォームの製造方法によって製造することもできるし、ガラス成形体に研磨加工などの機械加工を施して製造することもできる。
【0041】
次に、プリフォームの製造方法について説明する。本発明の精密プレス成形用プリフォームの製造方法は、流出する熔融ガラスを分離して得たガラス塊を前記ガラスが冷却する過程で成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、前記熔融ガラスが、上記本発明の光学ガラスが得られる熔融ガラスであることを特徴とするものである。
【0042】
上記製造方法には、切断、研削、研磨などの機械加工が不要という利点がある。機械加工が施されたプリフォームでは、機械加工前にアニール処理を行うことによって破損しない程度にまでガラスの歪を低減しておかなければならない。しかし、上記プリフォームの製造方法によれば、破損防止用アニール処理は不要である。また表面が滑らかなプリフォームを成形することもできる。さらに全表面が熔融状態のガラスが固化して形成された面であるため、研磨による微細な傷や潜傷も存在しない。したがって、ガラス自体の優れた化学的耐久性や耐候性に加え、表面が滑らかなのでプリフォーム表面積も傷があるものと比べると小さい。そのため、大気中に置かれても表面の変質が進みにくいので、成形された直後の清浄な表面状態を長期にわたり保つこともできる。
【0043】
さらに、上記プリフォームの製造方法において、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、プリフォームは風圧が加えられた浮上状態で成形することが好ましい。上記製造方法において、熔融ガラスを分離する際に切断刃によって切断、分離を行うとシアマークと呼ばれる切断痕が発生してしまう。プリフォームのシアマークが精密プレス成形品に残存すると、その部分は欠陥となってしまうため、シアマークができない分離が望まれる。切断刃を用いず、シアマークが生じない熔融ガラスの分離方法としては、流出パイプから熔融ガラスを滴下する方法、あるいは流出パイプから流出する熔融ガラス流の先端部を支持し、所定重量の熔融ガラス塊を分離できるタイミングで上記支持を取り除く方法(降下切断法という。)などがある。降下切断法では、熔融ガラス流の先端部側と流出パイプ側の間に生じたくびれ部でガラスを分離し、所定重量の熔融ガラス塊を得ることができる。続いて、得られた熔融ガラス塊が軟化状態にある間にプレス成形に供するために適した形状に成形することでプリフォームが得られる。
上記プリフォームの製造方法では、プリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離し、このガラス塊が軟化点以上の高温状態にある間にプリフォームに成形する。
【0044】
なお、本発明の製造方法によらず、機械加工によってプリフォームを製造する場合は、熔融ガラスを鋳型に流し込んで、上記光学ガラスからなるガラス成形体(例えば、板状ガラス)を成形し、このガラス成形体に機械加工を加えて所望重量のプリフォームとしてもよい。なお機械加工を加える前にガラスが破損しないよう、ガラスをアニール処理することにより十分除歪処理を行うことが好ましいことは前述のとおりである。
【0045】
(光学素子とその製造方法)
本発明の光学素子は、上記光学ガラスからなるものである。本発明によれば、光学素子を構成するガラスが上記ガラスであるので、前記ガラスの各特性(屈折率(nd)、アッべ数(νd)など)を備えており、所要の光学恒数を有する光学素子を提供することができる。
【0046】
本発明の光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。
なお、この光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
【0047】
次に光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、ガラス製のプリフォームを加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法において、上記精密プレス成形用プリフォームまたは上記製造方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱、精密プレス成形することを特徴とする。
精密プレス成形法はモールドオプティクス成形法とも呼ばれ、既に当該発明の属する技術分野においてはよく知られたものである。
【0048】
光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。精密プレス成形法はプレス成形型の成形面をガラスに精密に転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
したがって、本発明の方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0049】
本発明の光学素子の製造方法によれば、上記光学特性を有する光学素子を作製できるとともに、プリフォームを構成するガラスの転移温度(Tg)が低く、ガラスのプレス成形としては比較的低い温度でプレスが可能になるので、プレス成形型の成形面への負担が軽減され、成形型の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、プレス工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラス熔融から最終製品を得る一連の工程を高生産性のもとに行うことができる。
【0050】
精密プレス成形法に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、超硬材料、ステンレス鋼などの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができるが、炭化珪素製のプレス成形型が好ましい。離型膜としては炭素含有膜、貴金属合金膜などを使用することができるが、耐久性、コストの面などから炭素含有膜が好ましい。
精密プレス成形法では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
【0051】
次に本発明の光学素子の製造方法に特に好適な精密プレス成形法について説明する。
[精密プレス成形法1]
この方法は、プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形することを特徴とする(精密プレス成形法1という)。
【0052】
精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0053】
[精密プレス成形法2]
この方法は、プレス成形型に予熱したプリフォームを導入し、精密プレス成形することを特徴とする(精密プレス成形法2という)。
この方法によれば、前記プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
なおプレス成形型の予熱温度をプリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、前記型の消耗を低減することができる。
【0054】
精密プレス成形法2において、前記プリフォームを構成するガラスが10dPa・s以下、より好ましくは10〜10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することが望ましい。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜10dPa・s、より好ましくは10〜10dPa・sの粘度を示す温度に予熱することがさらに望ましい。
またプレス開始と同時又はプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
なおプレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温させるが、前記ガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
【0055】
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【0056】
なお、本発明の光学ガラスは上記のように化学的耐久性に優れているため、研磨加工により表面に変質層ができにくい。したがって、本発明のガラスを用いれば、研磨加工によってプリフォームを作ることもでき、このプリフォームを用いて精密プレス成形によりレンズなどの光学素子を作製することもできる。また、精密プレス成形によらず、ガラスを研磨加工して球面レンズや非球面レンズなどの光学素子を作ることもできる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜11
各ガラス成分の原料として各々対応する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、水酸化物など、例えば、HBO、SiO、La、Gd、Y、LiCO、ZnO、CaCO、ZrOなどを用いて表1および表2に示した組成のガラスが得られるように、所定の割合に250〜300g秤量し、十分に混合して調合バッチとし、これを白金ルツボに入れ、1200〜1250℃で攪拌しながら空気中において2〜4時間、熔融を行った。熔融後、熔融ガラスを40×70×15mmのカーボン製の金型に流し、ガラス転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度で約1時間アニール処理して炉内で室温まで放冷した。
【0058】
このようにして得られた光学ガラスについて、諸特性を下記の方法で測定した。その結果を表3に示す。また、各光学ガラスには、光学顕微鏡で観察できる結晶は析出していなかった。
(1)屈折率(nd)及びアッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/hにして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)比重
アルキメデス法により測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)及び屈伏点(Ts)
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(4)液相温度(LT)
失透試験炉に試料を入れ、1000℃、1時間保持した後、倍率10〜50倍の顕微鏡により結晶の有無を観察した。前記結晶が認められない場合、液相温度を1000℃未満とした。
(5)ガラスの粘度
“JIS Z 8803−1991「液体の粘度−測定方法」 8.単一円筒形回転粘度計による粘度測定”に基づき、回転円筒法によってガラスの液相温度における粘性を測定した。
【0059】
このように、所定の光学恒数を有し、ガラス転移温度(Tg)が600℃以下、屈伏点(Ts)が640℃以下の低温軟化性、液相温度1000℃未満の高ガラス安定性、3.9未満の低比重、990℃における粘度が2dPa・s以上、1000℃における粘度が2dPa・s以上の光学ガラスを得ることができた。
このように各実施例のガラスは、精密プレス成形に適した低温軟化性、熔融ガラスからプリフォームを直接、成形する際に適した高温領域における優れたガラス安定性と上記高温領域における優れた成形性、光学素子の軽量化を可能にする低比重を備えている。
【0060】
比較例1、2
比較例1、2の組成を表1および表2に示す。比較例1はGdを含まないガラスであるが、液相温度を測定するための1000℃で保持したところ、ガラス全体が失透してしまった。比較例1のガラスの特性を表3に示す。
比較例2はBaOを過剰に含むガラスであるが、ガラスを熔融、攪拌中に結晶が析出し、ガラスを得ることができなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
実施例12
実施例1〜11の各ガラスが得られる清澄、均質化した熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定流量で流出させ、滴下又は降下切断法にて目的とするプリフォームの重量の熔融ガラス塊を分離し、この熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上させながらプリフォームを成形した。熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより直径2〜30mmの球状プリフォームを得た。プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかなものであった。
【0065】
上記のようにして得た各プリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。具体的にはプリフォームをプレス成形型を構成する下型2及び上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォーム4をプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するレンズであった。なお、図1において、符号3は案内型(胴型)、9は支持棒、10は支持台、14は熱電対である。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けてもよい。
【0066】
次に同様のプリフォームを別の方法で精密プレス成形した。この方法では、浮上しながらプリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱する。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱し、前記ガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して精密プレス成形する。プレスの圧力は10MPaとした。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するレンズであった。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の光学ガラスは、アッベ数(νd)が50〜59であって、プレス成形型と反応しにくい性質、低温軟化性、優れたガラス安定性、高屈折率特性を有し、精密プレス成形に適しており、それを用いて精密プレス成形用プリフォームおよび光学素子を、高い生産性のもとに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例で使用した精密プレス成形装置の1例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 上型
2 下型
3 案内型(胴型)
4 プリフォーム
9 支持棒
10 支持台
11 石英管
12 ヒーター
13 押し棒
14 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
とSiOを必須成分として含む光学ガラスにおいて、モル%表示で、
とSiOの合計含有量(B+SiO)が45〜70%、B含有量に対するSiO含有量のモル比率(SiO/B)が0.1〜0.5であり、La 5〜15%、Gd 0.1〜8%(ただし、La含有量とGd含有量の合計量が8%以上)、Y 0〜10%、LiO 3〜18%〔ただし、B+SiOに対するLiOの含有量のモル比率[LiO/(B+SiO)]が0を超え0.2以下〕、ZnO 0.1〜15%、CaO 2〜20%、BaO 0〜5%(ただし、BaO含有量はZnO含有量よりも少ない)、SrO 0〜5%、MgO 0〜5%〔ただし、B+SiOに対するMgO、CaO、SrO及びBaOの合計含有量のモル比率[(MgO+CaO+SrO+BaO)/(B+SiO)]が0.1〜0.4〕、およびZrO 0〜5%を含み、かつ式(1)
νd≧308.5−150×nd(ただし、50≦νd≦59) …(1)
の関係を満たす屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
精密プレス成形に供する請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項2に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項5】
流出する熔融ガラスを分離して得たガラス塊を前記ガラスが冷却する過程で成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、前記熔融ガラスが、請求項2に記載の光学ガラスが得られる熔融ガラスであることを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項6】
ガラス製のプリフォームを加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法において、請求項3に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは請求項5に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
プレス成形型にプリフォームを導入し、前記成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形する請求項6に記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
プレス成形型に予熱したプリフォームを導入し、精密プレス成形する請求項6に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−96610(P2006−96610A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284506(P2004−284506)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】