説明

光学ガラス及びそれを用いた光学製品

【課題】 高屈折率、中低分散の光学ガラスであって、特に精密プレス成形に好適な低屈伏点、低液相温度を有する光学ガラスおよびそれを用いた光学製品を提供する。
【解決手段】 ガラス成分として、重量%表示で、SiO2 2%以上6%未満、B23
17〜26%、ZnO 6〜26%、Li2O 0.1〜3%、La23 28〜40%、Nb25 1〜8%、Ta25 1〜8%およびWO3 1〜15%を含み、かつ屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50である光学ガラス、およびこの光学ガラスを精密プレス成形してなる光学製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよびそれを用いた光学製品に関する。さらに詳しくは、本発明は、高屈折率、中低分散の光学ガラスであって、プレス成形、特に精密プレス成形に好適な低屈伏点、低液相温度を有し、化学的にも安定した光学ガラス、およびこの光学ガラスを精密プレス成形してなる光学製品に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率ndが1.7から1.85付近の高屈折率の光学ガラスであって、アッベ数νdが35〜50の中低分散特性を有する光学ガラスは、様々な光学機器を構成する光学製品材料として求められている。このような光学ガラスは、例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3に開示されている。
【0003】
一方、レンズなどの光学製品を生産性よく、高精度の形状や寸法に成形する方法として、成形型の形状を精密にガラスに転写する精密プレス成形方法が知られている。この精密プレス成形は、上述のように高精度の光学製品を生産性よく製造できる点で非常に優れた方法ではあるが、ガラスを高温で加工する必要があること、高温状態にあるガラスに成形型で加圧してガラスを変形させるために、失透しやすいガラスを用いると作製された光学製品が曇り、光学製品としては使用できないものになってしまったり、あるいは、ガラスが成形型の成形面に融着し、成形面を破損してしまうという問題がある。特に精密プレス成形では、溶融ガラスから最終製品に比較的形状が近似するプリフォームを作製し、そのプリフォームを再加熱して成形型で加圧成形するため、この溶融ガラスからプリフォームを作製する際、あるいは加圧成形のために再加熱する際に、ガラスの失透が起こりやすい。したがって、このような失透を防ぐためには、液相温度が低いことが材料としての光学ガラスに求められる条件である。
また、上述したガラスと成形型の成形面との融着を防ぐには、プレスを比較的低温で行なう必要があり、そのため、低温で成形できる低屈伏点という特性が光学ガラスに求められている。
【0004】
上述したように、高屈折率、中低分散特性を有し、精密プレス成形に好適な光学ガラスを得るには、上記光学的特性に加え、低液相温度、低屈伏点という特性が求められる。しかしながら、ガラス成分として、Y23とLi2Oを共存させることによって、ガラスの低融点化を図っている特許文献1のガラスでは、Y23を必須成分としているので、失透防止のため液相温度を1000℃未満とし、上記高屈折率、中低分散特性を得ることは困難である。
【0005】
また、特許文献2に記載されているガラスにおいては、化学的耐久性の低下を抑制するためにはSiO2の量を6重量%より少なくすることができないために、上記高屈折率、中低分散特性を有するガラスでは、液相温度を低くすることができない。さらに、未溶解物がガラス中に残留し、光学特性を悪化させてしまうといった問題もあった。
さらに、特許文献3のガラスも同様で、高屈折率、中低分散特性を付与しようとすると、液相温度が高くなってしまうという問題があった。
【特許文献1】特開昭60−221338号公報
【特許文献2】特開平6−305769号公報
【特許文献3】特開平8−26766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、高屈折率、中低分散特性を有し、プレス成形、特に精密プレス成形に好適な特性を有する光学ガラス、およびこの光学ガラスからなる光学製品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のガラス組成を有し、かつ屈折率ndおよびアッベ数νdが特定の範囲にある光学ガラスにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ガラス成分として、
SiO2 2重量%以上6重量%未満、
23 17〜26重量%、
ZnO 6〜26重量%、
Li2O 0.1〜3重量%、
La23 28〜40重量%、
Nb25 1〜8重量%、
Ta25 1〜8重量%、
WO3 1〜15重量%、
を含み、かつ屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50であることを特徴とする光学ガラスを提供するものである。
また、本発明は、上記光学ガラスを精密プレス成形して得られたことを特徴とする光学製品をも提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、屈折率ndが1.72〜1.83、アッベ数νdが35〜50の高屈折率、中低分散特性を有し、液相温度ならびに屈伏点が低い精密プレス成形に適した光学ガラスを提供することができる。
さらに本発明によれば、光学製品を上記光学ガラスを用いて精密プレス成形して得ているので、失透、未溶解物などの異物がない、屈折率ndが1.72〜1.83、アッベ数νdが35〜50の高屈折率、中低分散特性を有する光学製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の光学ガラスは、B23−SiO2−La23−Li2O−ZnO−Nb25−Ta25−WO3系の光学ガラスである。つまり、Y23を必須成分としていないので、屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50という高屈折率、中低分散特性を有するとともに、低融点でかつ液相温度が低い熱間プリフォ−ム量産可能な精密プレスに好適な光学ガラスである。
さらにSiO2が6重量%未満であるため溶融性、耐失透性に優れている。またWO3を必須成分としているので、上記高屈折率、中低分散特性を有するとともに、耐失透性に優れた光学ガラスである。
【0011】
本発明の光学ガラスは、ガラス成分として、
SiO2 2重量%以上6重量%未満、
23 17〜26重量%、
ZnO 6〜26重量%、
Li2O 0.1〜3重量%、
La23 28〜40重量%、
Nb25 1〜8重量%、
Ta25 1〜8重量%、
WO3 1〜15重量%、
を含む(以下、光学ガラスIという。)。そして、屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50の範囲にあり、高屈折率、中低分散特性を有し、液相温度を1000℃未満とすることができる。
【0012】
これらの成分に加え、さらに、
ZrO2 0〜6重量%、
Sb23 0〜1重量%、
を含み、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量を78重量%以上とすることが、ガラスの屈伏点および液相温度を低下させる上で好ましい。
【0013】
光学ガラスIにおいて、TiO2を任意成分とすることもでき、その場合は含有量を0〜6重量%とすることができる。上記範囲でTiO2の含有量を変化させることにより、上記光学恒数(屈折率nd、アッベ数νd)の範囲で屈折率ndを調整することができる。しかし、6重量%を超えるとアッベ数νdが35未満となりやすい。
【0014】
さらに上記ガラス成分の含有量を、
SiO2 3〜5.5重量%
23 18〜24重量%
ZnO 10〜24重量%
Li2O 0.5〜2重量%
La23 30〜38重量%
Nb25 3〜7重量%
Ta25 2〜6重量%
WO3 3〜10重量%
とし、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量を84重量%以上とすることにより、屈折率ndが1.76〜1.82、アッベ数νdが38〜48の光学恒数を有し、液相温度を980℃以下とすることができる(以下、光学ガラスIIという。)。
【0015】
さらに、上記ガラス成分の含有量を、
23 19〜22重量%
ZnO 16〜23重量%
Li2O 0.5〜1.5重量%
La23 32〜36重量%
Nb25 4〜6重量%
Ta25 2〜5重量%
WO3 4〜6重量%
とし、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量を99重量%以上とすることにより、屈折率ndが1.80〜1.81、アッベ数νdが40〜45の光学恒数を有し、液相温度を960℃以下とすることができる(以下、光学ガラスIIIという。)。
【0016】
光学ガラスII、IIIのいずれのガラスにおいても、屈折率調整のためにTiO2を加えることができ、光学ガラスIIの場合は、0〜4重量%の範囲で、光学ガラスIIIの場合は、0〜1重量%の範囲で含有量を調整することができる。
【0017】
光学ガラスIは、任意成分として、重量%表示で、
GeO2 0〜10%、
Al23 0〜5%、
TiO2 0〜6%、
ZrO2 0〜6%、
MgO 0〜5%、
CaO 0〜5%、
SrO 0〜5%、
BaO 0〜5%、
Na2O 0〜5%、
2O 0〜5%、
Cs2O 0〜5%、
25 0〜5%、
Gd23 0〜9%、
Yb23 0〜10%、
Ga23 0〜5%、
Lu23 0〜10%、
SnO2 0〜1%、
Sb23 0〜1%、
As23 0〜1%、
を含んでいてもよく、これら任意成分の含有によっても、光学ガラスIの光学恒数の範囲、液相温度範囲は維持される。
【0018】
また、光学ガラスIIは、任意成分として、重量%表示で、
GeO2 0〜5%、
Al23 0〜3%、
TiO2 0〜4%、
ZrO2 0〜5%、
MgO 0〜3%、
CaO 0〜3%、
SrO 0〜3%、
BaO 0〜3%、
Na2O 0〜3%、
2O 0〜3%、
Cs2O 0〜3%、
25 0〜3%、
Gd23 0〜5%、
Yb23 0〜5%、
Ga23 0〜3%、
Lu23 0〜5%、
SnO2 0〜0.5%、
Sb23 0〜0.5%、
As23 0〜0.5%、
を含んでいてもよく、これら任意成分の含有によっても、光学ガラスIIの光学恒数の範囲、液相温度範囲は維持される。
【0019】
さらに、光学ガラスIIIは、任意成分として、重量%表示で、
GeO2 0〜5%、
Al23 0〜3%、
TiO2 0〜4%、
ZrO2 0〜5%、
MgO 0〜3%、
CaO 0〜3%、
SrO 0〜3%、
BaO 0〜3%、
Na2O 0〜3%、
2O 0〜3%、
Cs2O 0〜3%、
25 0〜3%、
Gd23 0〜5%、
Yb23 0〜5%、
Ga23 0〜3%、
Lu23 0〜5%、
SnO2 0〜0.3%、
Sb23 0〜0.3%、
As23 0〜0.3%、
を含んでいてもよく、これら任意成分の含有によっても、光学ガラスIIIの光学恒数の範囲、液相温度範囲は維持される。
【0020】
上記光学ガラスI、II、IIIはともに、精密プレス用ガラスとして要求される屈伏点を有する。すなわち、光学ガラスI、II、IIIはともに、通常600℃以下の屈伏点を有するとともに、精密プレス用ガラスとして好適な565℃以下のガラス転移温度を有している。
また光学ガラスI、II、IIIはともに1200℃で溶解した場合、通常ガラス中に未溶解物が残留することがない。すなわち、光学ガラスとして使用した際に光の散乱の原因となる異物を通常含まない。
【0021】
次に、上記の各成分の含有量を限定した理由について説明する。
SiO2は必須成分であり、2重量%未満では液相温度が上昇し、6重量%以上では溶解性が悪化し、未溶解物が残ってしまう。好ましくは3〜5.5重量%である。
【0022】
23も必須成分であり、17重量%未満では液相温度が上昇し、26重量%を超えると目的とする屈折率が得られない。なお、B23の含有量が本発明の範囲より多い組成で液相温度、屈伏点が低く、未溶解物の残留もない光学ガラスは従来得られていたが、このようなガラスの屈折率は、本発明の屈折率範囲には入らず、光学恒数、プレスの適性という視点で、本発明の領域は空白の領域であった。B23の含有量として、好ましくは18〜24重量%、より好ましくは19〜22重量%である。
【0023】
ZnOも必須成分であり、6重量%未満では目的とする屈伏点、ガラス転移温度は得られない。26重量%を超えると液相温度が上昇する。好ましくは10〜24重量%、より好ましくは16〜23重量%である。
Li2Oも必須成分であり、0.1重量%未満では目的とする屈伏点、ガラス転移温度は得られない。3重量%を超えると液相温度が上昇する。好ましくは0.5〜2重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0024】
La23も必須成分であり、28重量%未満では目的とする屈折率は得られない。40重量%を超えると液相温度が上昇する。好ましくは30〜38重量%、より好ましくは32〜36重量%である。
Nb25も必須成分であり、1重量%未満では目的とする屈折率は得られない。8重量%を超えるとアッベ数νdが35未満になる。好ましくは3〜7重量%、より好ましくは4〜6重量%である。
【0025】
Ta25も必須成分であり、1重量%未満では目的とする屈折率は得られない。8重量
%を超えると液相温度が上昇する。好ましくは2〜6重量%、より好ましくは2〜5重量%である。
WO3も必須成分であり、1重量%未満では液相温度が上昇し、15重量%を超えても液相温度は上昇する。好ましくは3〜10重量%、より好ましくは4〜6重量%である。
【0026】
ZrO2は任意成分であるが、6重量%を超えると液相温度が上昇する。好ましくは0〜5重量%、より好ましくは2〜5重量%の範囲である。これらの好ましい範囲、より好ましい範囲にすることによって、液相温度をより下げることができる。したがって、ZrO2は任意成分ではあるが、ガラス成分としてこの成分を含むことが好ましい。
【0027】
GeO2、Al23、P25、MgO、CaO、SrO、BaOは任意成分である。上述した適量添加で光学恒数の調整を行なうことができる。しかし、各成分とも上述した上限を超えると屈折率が低下する原因となる。
Na2O、K2O、Cs2Oも任意成分であり、上述した適量添加で光学恒数の調整と屈伏点、ガラス転移温度の低下が可能となる。各成分とも上述した上限を超えると屈折率が低下する原因となる。
【0028】
Gd23、Yb23、Ga23、Lu23も任意成分であり、上述した適量添加で光学恒数の調整が可能であるが、各成分とも上述した上限を超えると液相温度が上昇する原因となる。
SnO2、Sb23、As23とも任意成分であり、上述した適量添加で脱泡、清澄効果を得ることができる。しかし、各成分とも上述した上限を超えると液相温度が上昇する原因となる。
【0029】
光学ガラスI、II、IIIはともに、常法により調合され、溶解、清澄、撹拌、均一化されて光学ガラスとなる。
本発明はまた、前述の本発明の光学ガラス(光学ガラスI、II、III)を精密プレス成形して得られた光学製品をも提供する。
【0030】
撹拌、均一化された溶融状態のガラスから直接、光学製品を作る場合は、撹拌、均一化された溶融ガラスを流出パイプより、下型成形面上に供給し、この下型に対向する上型と下型とにより、このガラスを加圧成形する(以下、ダイレクトプレスという。)。得られた成形品は、必要に応じて研削、研磨され、光学製品となる。
均一化された溶融ガラスを一旦、冷却し、所望形状に冷間加工したものを再加熱し、成形型によって加圧成形することもでき、この場合も得られた成形品は、必要に応じて研削、研磨され、光学製品となる。
【0031】
さらに、別の成形方法としては、撹拌、均一化された溶融ガラスを流出パイプより流出させて、成形型で受け、球状のプリフォームを作製し、このプリフォームを再加熱して、上型と下型で加圧成形する方法もある。一般には、溶融ガラスを受ける成形型内にガスを流し、ガスの圧力によって流下したガラスを浮上させた状態で回転させ、球状に成形する。このような方法では、ガラスの温度が比較的高い状態に長く滞在することになるので、液相温度が1000℃を超える光学ガラスでは、表面が失透してしまう。
【0032】
プリフォームを精密プレス成形すれば、研削、研磨が不要な最終製品の形状と同じ成形品が得られる。したがって、失透したプリフォーム表面は、研削、研磨工程がないので最終製品に残ることになり、光学特性を悪化させることになる。本発明の光学ガラスは、液相温度が1000℃未満と低く、上記のような方法でプリフォームを熱間成形しても表面が結晶化しない。
【0033】
図1は、精密プレス成形装置の1例の概略を示す断面図である。この図1に示す装置は、支持棒9上に設けた支持台10上に、上型1、下型2及び案内型3からなる成形型を載置したものを、外周にヒーター12を巻き付けた石英管11中に設けたものである。本発明の高屈折率・中低分散光学ガラスからなる被成形ガラスプリフォーム4は、例えば、直径2〜20mm程度の球状物や楕円形球状物であることができる。球状物や楕円形球状物の大きさは、最終製品の大きさを考慮して適宜に決定される。
【0034】
被成形ガラスプリフォーム4を下型2及び上型1の間に設置した後、ヒーター12に通電して石英管11内を加熱する。成形型内の温度は、下型2の内部に挿入された熱電対14によりコントロールされる。加熱温度は被成形ガラスプリフォーム4の粘度が精密プレスに適した、例えば約5×106Pa・s程度になる温度とする。所定の温度となった後に、押し棒13を降下させて上型1を上方から押して成形型内の被成形ガラスプリフォーム4をプレスする。プレスの圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜に決定できる。例えば、圧力は5〜15MPa程度の範囲、時間は10〜300秒とすることができる。プレスの後、ガラスの転移温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷し、成形型から成形物を取り出すことで、本発明の光学製品を得ることができる。
【0035】
また、ダイレクトプレスの場合であっても、液相温度が1000℃未満と低いので、ガラスを結晶化させずに、流出パイプから溶融ガラスを流下させる温度条件、プレスの温度条件を選択する際の許容範囲を広くとれるというメリットがある。
上記各成形方法において、上型、下型、あるいは必要に応じて胴型の形状を適宜選択し、球面レンズ、非球面レンズなどのレンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、ポリゴンミラーなどの光学製品を成形することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
なお、光学ガラスの物性は、以下に示す方法により測定した。
(1)屈折率[nd]およびアッベ数[νd]
徐冷降温速度を−30℃/hにして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)転移温度[Tg]および屈伏点温度[Ts]
熱膨張測定機を用い、昇温速度8℃/分の条件で測定した。
(3)液相温度[L.T.]
400〜1050℃の温度勾配のついた失透試験炉に30分間保持し、倍率80倍の顕微鏡により結晶の有無を観察し、液相温度を測定した。また、軟化点付近の失透性も液相温度測定の際、同時に目視により観察した。
【0038】
実施例1〜21および比較例1〜7
表1〜表4に示すガラス組成に従って常法により、実施例1〜21および比較例1〜7の光学ガラスを調製した。すなわち、原料としては、P25は正燐酸(H3PO4)、メタリン酸塩又は五酸化二燐等を用い、他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を用い、これらの原料を所望の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを1200℃に加熱した溶解炉に投入し、溶解、清澄後、撹拌し、均一化してから鋳型に鋳込み徐冷することにより、実施例1〜21および比較例1〜7の光学ガラスを得た。得られたガラスの光学的性能を表1〜表4に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
なお、実施例1〜4のガラスが上記光学ガラスI、II、IIIに相当し、実施例5〜11のガラスが上記光学ガラスI、IIに相当し、実施例12〜21のガラスが上記光学ガラスIに相当する。比較例4のガラスは特許文献2の実施例1ガラス、比較例5〜7のガラスは特許文献3の実施例5、13、16に従って作製したガラスである。
【0044】
表1〜表4から明らかなように、実施例1〜21の各ガラスはともに、屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50の範囲にあり、ガラス転移温度Tgは565℃以下、屈伏点Tsは600℃以下であった。また、液相温度はすべて985℃以下であった。各実施例のガラスとも未溶解物は認められなかった。
【0045】
一方、比較例1、2、3のガラスは、実施例1、8、17のガラスのLa23をY23に置換したものであり、比較例1〜4、7のガラスは、1200℃で溶解したときの未溶解物がガラス中に残存しており、光学ガラスとしては不適当な品質であった。さらに比較例2〜4、6、7のガラスは液相温度が1000℃以上であり、失透しやすく、精密プレス成形のためのプリフォームを溶融ガラスから作製する際、ガラスが失透し、レンズなどの光学製品を精密プレス成形するための素材としては使用できなかった。
このように各実施例のガラスはともに、プレス成形、特に精密プレス成形に好適なものであった。
【0046】
実施例22
実施例1〜21の各ガラスを用いて、図1に示すプレス装置を用いて非球面精密プレスすることにより非球面レンズを得た。プレス成形の対象としては非球面レンズに限られず、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、ポリゴンミラーなどの光学製品全般に適応することができる。
【0047】
直径2〜20mmの球状物とした各実施例のガラスを上型1及び下型2の間に配置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。成形型内の温度を、被成形ガラス塊の粘度が約106〜107Pa・sとなる温度とした後、この温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を上方から押して成形型内の被成形ガラス塊をプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒間とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、非球面プレス成形されたガラス成形体を上型1及び下型2と接触させたままの状態でガラス転移温度まで徐冷し、次いで室温付近まで急冷して非球面に成形されたガラスを成形型から取り出した。得られた非球面レンズは、極めて精度の高いレンズであった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の光学ガラスは、高屈折率、中低分散特性を有し、プレス成形、特に精密プレス成形に好適な特性を有するため、光学製品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】精密プレス成形装置の1例の概略を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 上型
2 下型
3 案内型
4 被成形ガラスプリフォーム
10 支持台
11 石英管
13 押し棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分として、
SiO2 2重量%以上6重量%未満、
23 17〜26重量%、
ZnO 6〜26重量%、
Li2O 0.1〜3重量%、
La23 28〜40重量%、
Nb25 1〜8重量%、
Ta25 1〜8重量%、
WO3 1〜15重量%、
を含み、かつ屈折率ndが1.72〜1.86、アッベ数νdが35〜50であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
ガラス成分として、さらに、
ZrO2 0〜6重量%、
Sb23 0〜1重量%、
を含み、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量が78重量%以上である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
任意成分として、TiO2を0〜6重量%含む請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
ガラス成分の含有量が、
SiO2 3〜5.5重量%
23 18〜24重量%
ZnO 10〜24重量%
Li2O 0.5〜2重量%
La23 30〜38重量%
Nb25 3〜7重量%
Ta25 2〜6重量%
WO3 3〜10重量%
であり、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量が84重量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラス成分の含有量が、
23 19〜22重量%
ZnO 16〜23重量%
Li2O 0.5〜1.5重量%
La23 32〜36重量%
Nb25 4〜6重量%
Ta25 2〜5重量%
WO3 4〜6重量%
であり、かつSiO2、B23、ZnO、Li2O、La23、Nb25、Ta25、WO3、ZrO2の合計含有量が99重量%以上である請求項4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
屈伏点が600℃以下、液相温度が1000℃未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
精密プレス成形用ガラスである請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学ガラスを精密プレス成形して得られたことを特徴とする光学製品。


【図1】
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【公開番号】特開2006−256959(P2006−256959A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167129(P2006−167129)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【分割の表示】特願2000−192980(P2000−192980)の分割
【原出願日】平成12年6月27日(2000.6.27)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】