説明

光学ガラス

【課題】清澄剤としてSb成分を含むガラス原料調合物を白金を含む耐火物を用いた溶融設備で溶融しても、清澄効果を低下させることなく、白金ブツの発生を抑えることが可能な光学ガラス及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の光学ガラスは、Sb成分を含有する光学ガラスにおいて、Sb3+/全Sbの割合が0.45以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学レンズ、固体撮像素子等のカバーガラスに用いられる光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVD、その他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、ビデオカメラや一般のカメラの撮影用レンズ等の光学レンズや、CCD、CMOS等の固体撮像素子等のカバーガラスとして用いられる光学ガラスには、耐候性を有すること、ブツや泡を含まないこと等が求められており、種々の組成系のガラスが提案されている。(例えば特許文献1〜5参照)
【特許文献1】特開2000−302479号公報
【特許文献2】特開2004−292306号公報
【特許文献3】特開2005−15302号公報
【特許文献4】特開2005−139023号公報
【特許文献5】特開平7−237933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
通常、上記の光学ガラスは、1000〜1500℃程度の温度で溶融されるため、清澄剤としては、この温度付近で清澄ガスを放出することが可能なSb成分が用いられている。また、高い均質性も求められるため、溶融設備には、熱的及び化学的に安定でガラスと反応し難いPtを含む耐火物が用いられている。
【0004】
しかしながら、白金を含む耐火物を用いて光学ガラスを溶融すると、白金がガラス中に溶出して白金ブツとなり、問題となることがあった。
【0005】
白金ブツが発生する原因の一つとして、清澄剤であるSb成分と白金との反応が考えられる。
【0006】
そこで、白金ブツの発生を抑える方法として、清澄剤であるSb成分を減らすことが考えられるが、Sb成分を減らすことは、ガラス中に泡が残存することになり、光学ガラスとしては致命的な欠陥となる。
【0007】
白金ブツの発生を抑える別の方法として、白金を含む耐火物に替えて、石英製の耐火物を用いてガラスを溶融する方法が考えられるが、この場合、溶融中に石英がガラス融液に溶け込み脈理等を引き起こし、結果として、不均質なガラスとなる。
【0008】
本発明の目的は、清澄剤としてSb成分を含むガラス原料調合物を白金を含む耐火物を用いた溶融設備で溶融しても、清澄効果を低下させることなく、白金ブツの発生を抑えることが可能な光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は種々検討した結果、清澄剤としてSb成分を含むガラス原料調合物を白金を含む耐火物を用いた溶融設備で溶融しても、ガラス中のSb3+/全Sbの割合を多くすることで、清澄効果を低下させることなく、白金ブツの発生を抑制できることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0010】
本発明の光学ガラスは、Sb成分を含有する光学ガラスにおいて、Sb3+/全Sbの割合が0.45以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光線の乱れや画像欠陥の原因となる白金ブツや泡が少ない光学ガラスを得ることが可能となる。それ故、光学ガラスとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
清澄剤としてSb成分を含むガラス原料調合物を白金を含む耐火物を用いた溶融設備で溶融した場合、ガラス中に白金ブツが析出する原因として、Sb成分と白金との反応が考えられる。清澄剤であるSb成分は、ガラス融液中ではSb5+やSb3+の状態で存在する。Sb5+の一部は、1000℃以上の温度でSb3+へと価数変化し、これに伴って酸素ガスを放出しガラスの清澄に寄与するが、価数変化しないSb5+は、白金と反応して白金を侵食し、結果として、ガラス中に白金ブツとして析出させる。尚、ガラス中に存在するSb5+の含有量を少なくすれば、白金ブツの発生を抑えることは可能となるが、清澄効果が低下する。そのため、清澄効果を低下させることなく、白金ブツの発生を少なくするには、清澄に必要な量以上のSb5+を抑えることが重要となる。
【0013】
本発明者の実験によれば、最終的に得られたガラスのSb3+/全Sbの割合を0.45以上となるような条件で溶融すれば、清澄に十分な酸素ガスを発生させた上で、白金ブツの発生を抑制できること、また、ガラス中に溶存する酸素量を70μl/g以下となるような条件で溶融することで、白金ブツや泡の発生をより効果的に抑制できることが判った。
【0014】
最終的に得られたガラス中のSb3+/全Sbの割合が小さくなる、つまり、Sb5+の割合が多くなるということは、ガラスの溶融工程で、Sb5+からSb3+への価数変化が進んでないことになり、白金ブツや泡が発生することに繋がる。Sb3+/全Sbの割合の好ましい範囲は0.50以上であり、より好ましい範囲は0.55以上であり、さらに好ましい範囲は0.60以上である。
【0015】
また、最終的に得られたガラス中に溶存する酸素量が多くなるということは、ガラス中に許容できる溶存酸素量が少なくなり、ガラスの溶融条件の微妙な変化で、Sb5+からSb3+への価数変化が途中で中断しやすくなり、白金ブツや泡が発生することに繋がる。ガラス中に溶存する酸素量の好ましい範囲は65μl/g以下であり、より好ましい範囲は50μl/g以下であり、さらに好ましい範囲は40μl/g以下である。
【0016】
尚、ガラスのSb3+/全Sbの割合を大きくしたり、ガラス中に溶存する酸素量を少なくするには、例えば、溶融温度を高くする、溶融時間を長くする等の方法を採用すればよい。また、連続溶融炉を使用した工業規模の生産においては、得られたガラスのSb3+/全Sbの割合や溶存酸素量を求め、これらの値に応じて、Sb3+/全Sbの割合や溶存酸素量が適正値となるように操業条件を変更すればよい。
【0017】
尚、光学ガラスには、高い均質性や厳密な屈折率を有することが求められており、このようなガラスを製造する方法として、予め、ガラスを溶融して作製し、これを粉砕し、粉砕したガラス片(屈折率を精密に整合させる場合は、目標とする屈折率よりも高い屈折率を有するガラスと、低い屈折率を有するガラスをそれぞれ溶融して作製し、これらのガラスを粉砕し、粉砕したガラス片を目標の屈折率となるように混合したもの)を再溶融する方法がある。この方法で光学ガラスを製造する場合も、ガラスのSb3+/全Sbの割合を大きくしたり、ガラス中に溶存する酸素量を少なくするには、例えば、前もって作製するガラスにSb成分を含有させて高い温度で溶融する、溶融時間を長くする、或いは、粉砕したガラス片を再溶融する際の溶融温度を、先に製造するガラスの溶融温度以下の温度で溶融する等の方法を採用すればよい。このようにすることで、溶融時や再溶融時に白金ブツや泡の発生を抑制することができる。
【0018】
次に、本発明の光学ガラスを製造する方法について述べる。
【0019】
まず、清澄剤として、Sb成分を含むガラス原料調合物を用意する。Sb成分の含有量は、最終的に得られるガラス中のSb成分が、Sb23に換算して、0.02〜2質量%となるように調合することが好ましい。その含有量が少なくなると、十分な清澄効果が得難くなる。一方、含有量が多くなると、ガラスが着色したり、白金と反応するSb5+の割合も多くなる。Sb23のより好ましい範囲は0.02〜1.5%であり、さらに好ましい範囲は0.02〜0.5%である。また、Sb成分としては、Sb酸化物を用いることが好ましく、特に、白金と反応し難い3価のSb酸化物(Sb23)を用いることが好ましい。尚、白金を侵食させない程度であれば、Sb酸化物以外の清澄剤、例えば、Sn酸化物、As酸化物を使用してもよい。
【0020】
また、ガラスとしては、耐失透性、耐候性等、レンズ用途に求められる種々の特性を満足する光学ガラスであれば制限はないが、特に、SiO2−B23−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)−R'2O(R'はLi、Na、Kの一種以上)系ガラスやSiO2−B23−RO−R'2O−R”23(R”はY、La、Gdの一種以上)系ガラスやSiO2−B23−R'2O−TiO2−Nb25系ガラスやB23−ZnO−R”23系ガラスを使用することが好ましい。
【0021】
SiO2−B23−RO−R'2O系ガラスの場合、質量百分率でSiO2 20〜60%、B23 2〜30%、RO 5〜30%、R’2O 1〜15%の組成を有するようにガラス原料を調合することが好ましい。
【0022】
SiO2−B23−RO−R'2O−R”23の場合、質量百分率でSiO2 20〜60%、B23 2〜40%、RO 5〜30%、R’2O 1〜15%、R”23 1〜40%の組成を有するようにガラス原料を調合することが好ましい。
【0023】
SiO2−B23−R'2O−TiO2−Nb25系ガラスの場合、質量百分率でSiO2 20〜60%、B23 2〜30%、R’2O 1〜15%、TiO2 1〜25%、Nb25 1〜25%の組成を有するようにガラス原料を調合することが好ましい。
【0024】
23−ZnO−R”23系ガラスの場合、質量百分率でB23 10〜45%、ZnO 5〜50%、R”23 10〜50%の組成を有するようにガラス原料を調合することが好ましい。
【0025】
次に、上記組成を有するガラス原料調合物を溶融する。このとき、最終的に得られるガラスのSb3+/全Sbの割合が0.45以上(好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上、さらに好ましくは0.60以上)となるような条件、さらには、ガラス中の溶存する酸素量が70μl/g以下(好ましくは65μl/g以下、より好ましくは50μl/g以下、さらに好ましくは40μl/g以下)となるような条件で溶融することが重要である。
【0026】
尚、予め、Sbを含むガラスを溶融して作製し、これを粉砕し、粉砕したガラス片をガラス原料調合物として用い、再溶融して光学ガラスを製造する場合においても、最終的に得られるガラスのSb3+/全Sbの割合、ガラス中の溶存する酸素量が上記範囲となるような条件で溶融することが重要である。
【0027】
その後、溶融ガラスを所定の形状に成形することにより、Sb3+/全Sbの割合が0.45以上であり、泡、Ptブツ等の内部欠陥の少ない光学ガラスを得ることができる。尚、成形方法は、用途に応じて適宜選択して使用すれば良く、例えば、モールドプレス用光学ガラスとして用いる場合、液滴成形法等が好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0029】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜3)及び比較例(試料No.4、5)を示すものである。
【0030】
【表1】

【0031】
実験には、質量百分率でSiO2 50%、Al23 3%、B23 10%、CaO 6%、SrO 8%、BaO 11%、ZnO 3%、Li2O 7%、Na2O 2%からなる基本組成を有し、さらに清澄剤としてSb酸化物(Sb23)を0.2%添加したSiO2−B23−RO−R'2O系ガラスを使用した。
【0032】
各試料は次のようにして調製した。まず、上記組成となるようにガラス原料を調合し、これを白金製の坩堝に充填して電気炉に入れ、表に示す溶融条件で溶融した。その後、電気炉から坩堝を取り出し、ガラス融液をカーボン板上に流し出し、冷却して、ガラス塊を作製した。次に、ガラス塊を粉砕して、大きさ約5mmのガラス片を作製した。続いて、作製したガラス片50gを白金製の坩堝に充填して電気炉に入れ表に示す再溶融温度で5時間溶融した。その後、電気炉から坩堝を取り出し、ガラス融液をカーボン板上に流し出して、更にアニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0033】
得られた試料について、Sb3+/全Sbの割合、溶存酸素量、ガラス中に残存するPtブツ及び泡を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0034】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1〜3の各試料は、Sb3+/全Sbの割合が0.56以上であり、溶存酸素量は55.5μl/g以下であった。また、ガラス中に残存する白金ブツ及び泡も少なかった。
【0035】
これに対し、比較例である試料No.4及びNo.5は、Sb3+/全Sbの割合が0.40以下であり、溶存酸素量は71.4μl/g以上であり、試料No.4については、ガラス中に残存する白金ブツが多く、また、試料No.5については、ガラス中に残存する泡が多かった。
【0036】
尚、Sb3+/全Sbの割合については、次のようにして求めた。全Sbは、ガラス粉末を硫酸および弗化水素酸、過マンガン酸カリウムで加熱分解し、塩酸に溶解した後、ICP−AES装置を用いて定量した。また、Sb3+は、まず、不活性ガス雰囲気中で、ガラス粉末に塩酸および弗化水素酸を添加して10分間加温(ウォーターバス中)分解させた。続いて、Na2CO3を加え、過剰の弗化水素酸を中和させ、Sb3+の加水分解を防止の為に酒石酸NaK、NaHCO3を加え、可溶性錯塩に変化させた後、不活性ガスの導入を中止した。その後、でんぷん指示薬を添加した後、N/100よう素溶液で滴定する事により、Sb3+を分析定量した。このようにしてSb3+及び全Sbを求め、Sb3+/全Sbの割合を算出した。
【0037】
溶存酸素量は、試料約1gを温度500〜1400℃まで速度8℃/minで昇温し、放出される酸素ガス量の総量を測定した。尚、キャリアガスにはヘリウム用い、流量50ml/minで流した。
【0038】
ガラス中に残存する白金ブツ及び泡については、30×30×20mm厚の大きさの試料を作製し、実体顕微鏡(30倍)にて測定した。尚、白金ブツについては、ガラス1g当たりで0.5個以下のものを「◎」、0.5〜4個のものを「○」、4個を超えるものを「×」として評価した。また、泡についてはガラス1g当たりで2個以下のものを「○」、2個を超えるものを「×」として評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sb成分を含有する光学ガラスにおいて、Sb3+/全Sbの割合が0.45以上であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
Sb23として表したSb成分の含有量が、0.02〜2質量%であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
ガラス中に溶存する酸素ガス量が70μl/g以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
SiO2−B23−RO(RはMg、Ca、Sr、Baの一種以上)−R'2O(R'はLi、Na、Kの一種以上)系ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量百分率で、SiO2 20〜60%、B23 2〜30%、RO 5〜30%、R’2O 1〜15%含有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
SiO2−B23−RO−R'2O−R”23(R”はY、La、Gdの一種以上)系ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量百分率で、SiO2 20〜60%、B23 2〜40%、RO 5〜30%、R’2O 1〜15%、R”23 1〜40%含有することを特徴とする1〜3及び6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
SiO2−B23−R'2O−TiO2−Nb25系ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量百分率で、SiO2 20〜60%、B23 2〜30%、R’2O 1〜15%、TiO2 1〜25%、Nb25 1〜25%含有することを特徴とする1〜3及び8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
23−ZnO−R”23系ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
質量百分率で、B23 10〜45%、ZnO 5〜50%、R”23 10〜50%含有することを特徴とする1〜3及び10の何れかに記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2007−176748(P2007−176748A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377469(P2005−377469)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】