説明

光学セラミックレンズの製造方法、成形用型、粗プリフォーム、プリフォーム、および光学セラミックレンズ

【課題】高効率に高品質の光学セラミックレンズを製造する。
【解決手段】光学セラミックレンズ30の対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、粗プリフォーム10と光学セラミックレンズ30との密度の比とに基づいて、粗プリフォーム10の対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する。粗プリフォーム10を形成する工程は、粗プリフォーム10の1対の主曲面のうち一方の第1主曲面13aの形状を、光学セラミックレンズ30の1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状と一致するように形成する工程を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率に高品質の光学セラミックレンズを製造する製造方法、および当該製造方法に用いる成形用型、粗プリフォーム、プリフォーム、さらに当該製造方法を用いて形成される光学セラミックレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばエアコンなどの家電製品や、住宅などに設置するホームセキュリティ用設備において、人間の所在を検知するセンサや歩行者の検知など車載カメラ(ナイトビジョン)には、赤外線などを集光するための光学セラミックレンズが用いられる。このような光学セラミックレンズの製造方法としては、たとえば以下の特許文献1において、未焼結体の成形段階において、最終的に形成される光学セラミックレンズの形状に非常に近い形状を有する未焼結体を得ることができる成形型が開示されている。当該成形型を使用することにより、焼結後に形成される光学セラミックに対する後処理の工程数を削減することにより、工程の短縮化を図ったものである。
【0003】
また、以下の特許文献2においては、ガラスやセラミックからなる、プラスチックレンズを形成する成形型の設計方法が開示されている。当該成形型を用いたプラスチックレンズの製造方法としては、まず成形型のうち上型と下型の、成形を行なう面が形成しようとするレンズの設計曲面にほぼ等しくなるよう設計された成形型を用いて成形した光学レンズの曲面形状を、非球面の多項式に近似させて特定する。そして上記多項式で近似された曲面形状と、レンズの設計曲面とを比較して誤差を求め、当該誤差を補正情報として上型と下型の成形を行なう面を補正して設計する。このようにして、より設計形状に近いプラスチックレンズを形成する成形型を提供することを図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−168634号公報
【特許文献2】WO2005/115712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、たとえば特許文献1に開示された成形型を用いて焼結を行なったとしても、得られるレンズは表面の形状精度が十分でなく、また表面粗さが大きくなる場合があった。この場合、焼結後に形成される光学セラミックに対して研磨やダイヤモンドツールによる超精密切削を要する。これは、特許文献1における光セラミックレンズの製造工程としては、成形段階と焼結段階と、HIP(熱間等静圧圧縮成形)段階とを備えるが、粉末を成形する成形段階における成形精度、成形密度分布、残留ひずみが、最終レンズの形状精度に大きく影響するため、光学的に要求される形状精度を有するレンズを得ることは困難であるためである。このため、後処理による製造納期の長期化や製造コストの増大が考えられる。
【0006】
また、たとえば特許文献2に開示された成形方法は、ガラス製の成形型を用いてプラスチック製のレンズを成形する方法である。このように通常ガラス製の成形型は緻密な材質の成形品であるプリフォームを成形することを想定して設計されている。このため、たとえばセラミックのような多孔質のプリフォームをガラス製等の成形型を用いて成形する場合には、緻密な材質のプリフォームを成形する場合に比べて成形時の変形量が大きくなる。これはたとえば多孔質材料中に多数含まれる気孔を排出する必要があることに起因する。
【0007】
さらに、セラミックの成形時における変形速度は、緻密な材質の成形時における変形速度に比べて、特に成形工程の終盤において非常に遅くなる。このため成形工程を行なう処理時間が増大することがある。また、引用文献2においては成形品の各領域毎の変形量については特に考慮していないが、成形品の各領域について局所的に変形量が異なると、成形品の領域間の密度のばらつきが大きくなる。このように成形品の領域間の密度のばらつきが大きくなると、得られるレンズは領域間の光の透過率のばらつきが大きくなるなど、光学的均質性が劣るものとなる可能性がある。
【0008】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、高効率に、光学的均質性に優れた光学セラミックレンズを製造する製造方法、および当該光学セラミックレンズの製造方法に用いる成形型やプリフォーム、さらに形成された光学セラミックレンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法は、粉末原料からなる成形品である粗プリフォームを形成する工程と、粗プリフォームを加熱および加圧することにより光学セラミックレンズを形成する工程とを備えている。上記光学セラミックレンズの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、上記粗プリフォームと上記光学セラミックレンズとの密度の比とに基づいて、上記粗プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する。
【0010】
本発明の一の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法においては、光学セラミックレンズの互いに対向する1対の、もっとも面積の大きい主要な曲面である主曲面のうち一方の主曲面と他方の主曲面とに挟まれた領域の厚みの分布を考慮する。なお、ここで厚みの分布とは、光学セラミックレンズの主曲面に沿って延在する座標値ごとの、主曲面に沿った方向に直交する方向における、一方の主曲面と他方の主曲面との距離を表わす厚みの分布をいうものとする。上記のように、完成した光学セラミックレンズの1対の主曲面の形状から定まる、各領域(各座標値)における厚みの分布と、光学セラミックレンズを成形するための仮成形品である粗プリフォームと、粗プリフォームを加熱および加圧することにより形成される光学セラミックレンズの完成品とのそれぞれの密度の比とを考慮する。上記厚みの分布と上記密度の比とに基づいて粗プリフォームの厚みの分布を決定する。
【0011】
このように厚みの分布や密度の比を参考に決定した厚み分布を有する粗プリフォームを加熱し、厚みの方向(主曲面の長手方向に直交する方向)に加圧することにより光学セラミックレンズを形成する。この場合、粗プリフォームの主曲面の長手方向の各領域(各座標値)における、加圧により厚みを小さくする割合がほぼ等しくなる。したがって、粗プリフォームの長手方向の一方の端部から他方の端部までの各領域(各座標値)において、ほぼ同じ加圧条件でほぼ同じ時間加圧を行なうことにより、所望の密度分布(比較的均一な密度分布)や所望の形状を有する光学セラミックレンズを高効率に形成することができる。つまり、局所的に粗プリフォームの長手方向において加圧条件が異なる(加圧により変形しなければならない変形量が異なる)場合のように、局所的に相対的に大きな加工量(変形量)が必要な場合に比べて短い加工時間で加工を終えることができる。また粗プリフォームの各領域について、ほぼ同程度の加工を施すことから、光学セラミックレンズを構成する各領域における密度のばらつきが小さくなり、光の透過率のばらつきを小さくすることができるとともに、加圧の処理時間の短縮を図ることができる。
【0012】
上述した粗プリフォームを形成する工程は、上記粗プリフォームの1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状を、光学セラミックレンズの上記1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状と一致するように形成する工程を含む。
【0013】
上記のように光学セラミックレンズの厚みの分布や密度の分布などから粗プリフォームの厚みの分布を求めることができるが、厚みの分布を求めた上で粗プリフォームの一方の主曲面および他方の主曲面の形状を決定するためには、粗プリフォームの1対の主曲面のうち一方の主曲面(第1主曲面)の形状を、完成した光学セラミックレンズの一方の主曲面(第1主曲面)の形状に一致するように形成しておくことが好ましい。このようにすれば、第1主曲面を基準として、第1主曲面に対する、他方の主曲面(第2主曲面)の形状を決定することができる。さらに、粗プリフォームを加熱および加圧することにより光学セラミックレンズを形成する工程において、第1主曲面の形状は変化しない。このため、得られる光学セラミックレンズの形状精度をより向上させることができる。
【0014】
上述した粗プリフォームを形成する工程において、成形用型を用いて粉末原料を加圧成形することが好ましい。
【0015】
上述した、厚みの分布や密度、主曲面の形状を精密に制御した成形品である粗プリフォームについては、粉末原料を材料として、成型用型を用いて加圧成形することにより、優れた寸法精度を比較的容易に実現することができる。
【0016】
上述した光学セラミックレンズの製造方法において、粉末原料は硫化亜鉛の粉末であることが好ましい。
【0017】
硫化亜鉛を用いて光学セラミックレンズを形成することにより、センサに用いる赤外線などを高い割合で透過する光学セラミックレンズを提供することができる。なお、硫化亜鉛の代わりに、たとえばセレン化亜鉛(ZnSe)、ゲルマニウム(Ge)、スピネル(MgAl)、フッ化カルシウム(CaF)、酸化イットリウム(Y)、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)を用いて光学セラミックレンズを形成してもよい。これらの材質を用いた場合においても、硫化亜鉛を用いた場合と同様に、高い赤外透光性を示す光学セラミックレンズを提供することができる。
【0018】
本発明の他の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法は、粉末原料からなる成形品である粗プリフォームを形成する工程と、粗プリフォームを仮焼成することによりプリフォームを形成する工程と、プリフォームを加熱および加圧することにより光学セラミックレンズを形成する工程とを備えている。上記光学セラミックレンズの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、上記プリフォームと上記光学セラミックレンズとの密度の比とに基づいて、上記プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する。
【0019】
本発明の他の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法においては、仮成形品である粗プリフォームをいったん仮焼成してプリフォームとする。このプリフォームには仮焼成を施しているため、仮焼成を施さない粗プリフォームに比べて光学セラミックレンズの完成品に近い状態となっている。このため、光学セラミックレンズの厚みの分布と、プリフォームと光学セラミックレンズとのそれぞれの密度の比とに基づいてプリフォームの1対の主曲面の形状を決定し、当該プリフォームを加熱および加圧して光学セラミックレンズを製造すれば、得られる光学セラミックレンズの品質や形状精度などをより向上させることができる。
【0020】
なお、この場合においても、光学セラミックレンズの厚みの分布や、プリフォームと光学セラミックレンズとの密度の比を参考に決定した厚み分布を有するプリフォームを加熱し、厚みの方向(主曲面の長手方向に直交する方向)に加圧することにより光学セラミックレンズを形成することが好ましい。この場合、プリフォームの主曲面に沿った方向である長手方向の各領域(各座標値)における、加圧により厚みを小さくする割合がほぼ等しくなる。したがって、プリフォームの長手方向の一方の端部から他方の端部までの各領域(各座標値)において、ほぼ同じ加圧条件でほぼ同じ時間加圧を行なうことにより、所望の密度や所望の形状を有する光学セラミックレンズを高効率に形成することができる。このため、光学セラミックレンズを構成する各領域における密度のばらつきが小さくなり、光の透過率のばらつきを小さくすることができるとともに、加圧の処理時間の短縮を図ることができる。
【0021】
上記プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、上記粗プリフォームと上記プリフォームとの密度の比とに基づいて、上記粗プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する。
【0022】
粗プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する場合においても、上述したプリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する場合と同様の理論を用いることにより、当該粗プリフォームから成形されるプリフォームの成形を高効率に行ない、当該プリフォームの密度の分布を精密に制御することができる。
【0023】
上述したプリフォームを形成する工程は、上記プリフォームの1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状を、光学セラミックレンズの上記1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状と一致するように形成する工程を含む。
【0024】
上記のように光学セラミックレンズの厚みの分布や密度の分布などからプリフォームの厚みの分布を求めることができるが、厚みの分布を求めた上でプリフォームの一方の主曲面および他方の主曲面の形状を決定するためには、粗プリフォームの1対の主曲面のうち一方の主曲面(第1主曲面)の形状を、完成した光学セラミックレンズの一方の主曲面(第1主曲面)の形状に一致するように形成しておくことが好ましい。このようにすれば、プリフォームを加熱および加圧することにより光学セラミックレンズを形成する工程において、第1主曲面の形状は変化しない。このため、プリフォームの形状精度をより向上させることができる。
【0025】
本発明の他の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法においても、上述した本発明の一の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法と同様に、上述した粗プリフォームを形成する工程において、成形用型を用いて粉末原料を加圧成形することが好ましい。
【0026】
本発明の他の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法においても、上述した本発明の一の局面に係る光学セラミックレンズの製造方法と同様に、上述した光学セラミックレンズの製造方法において、粉末原料は硫化亜鉛の粉末であることが好ましい。ただし、硫化亜鉛の代わりに、たとえばセレン化亜鉛(ZnSe)、ゲルマニウム(Ge)、スピネル(MgAl)、フッ化カルシウム(CaF)、酸化イットリウム(Y)、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)を用いて光学セラミックレンズを形成してもよい。
【0027】
以上に示す光学セラミックレンズの製造方法に用いる成形用型は、たとえば粗プリフォームを形成する工程において粗プリフォームの1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状を、光学セラミックレンズの完成品の第1主曲面の形状と一致するように形成するための成形面を有している。
【0028】
粗プリフォームを形成した後、光学セラミックレンズを形成する工程において、加熱および加圧により成形を行なう。ここで、成形のための加熱や加圧を解除して、形成された成形体を冷却および降圧し、光学セラミックレンズが完成した状態における第1主曲面の形状が、成形用型の第1主曲面の形状と一致するように考慮している。上述した光学セラミックレンズを形成する工程における、成形のための加熱や加圧を行なった状態と、加熱や加圧を解除して最終製品が完成した状態との間には、両者の熱膨張係数差により、形状や寸法に若干の差異が生じる。具体的には、寸法精度に関して両者の間に約10μm未満の誤差が存在する。このことを考慮した上、成形面を設計している。
【0029】
以上のように上述した光学セラミックレンズの製造方法を用いる際に当該成形用型を用いれば、所望の形状や性能を有する光学セラミックレンズを高効率に形成することができる。
【0030】
以上に示す光学セラミックレンズの製造方法において形成される上記の粗プリフォームやプリフォームは、その厚み分布が光学セラミックレンズの厚み分布や当該光学セラミックレンズと粗プリフォーム/プリフォームとの密度の比(つまり加工による変形量)を考慮して決定されているので、全体に渡ってほぼ均一な加工率(変形率)での加工により光学セラミックレンズを形成できる。このため、局所的に加工率が異なることに起因する加工時間の増大といった問題の発生を抑制できる。したがって、所望の形状や性能を有する光学セラミックレンズを高効率に形成することができる。また、当該光学セラミックレンズは、形成される領域間の密度のばらつきが少なく、透過率などのばらつきが少ない光学的均質性が保たれた高品質の光学セラミックレンズである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、高効率に、光学的均質性に優れた光学セラミックレンズを製造する製造方法、および当該光学セラミックレンズの製造方法に用いる成形型やプリフォーム、さらに形成された光学セラミックレンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態に係る光学セラミックレンズの形状を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る光学セラミックレンズの製造方法を示すフローチャートである。
【図3】r座標系内で表示した粗プリフォームの概略断面図である。
【図4】図2のフローチャートの工程(S10)の詳細な工程を示すフローチャートである。
【図5】粗プリフォームを形成する粗プリフォーム成形型の態様を示す概略断面図である。
【図6】成形された粗プリフォームの形状を示す概略断面図である。
【図7】図2のフローチャートの工程(S30)の詳細な工程を示すフローチャートである。
【図8】粗プリフォームから光学セラミックレンズを形成するレンズ成形型の態様を示す概略断面図である。
【図9】r座標系内で表示した光学セラミックレンズの概略断面図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係る光学セラミックレンズの製造方法を示すフローチャートである。
【図11】r座標系内で表示したプリフォームの概略断面図である。
【図12】成形されたプリフォームの形状を示す概略断面図である。
【図13】プリフォームから光学セラミックレンズを形成するレンズ成形型の態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を用いて、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0034】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る光学セラミックレンズ30は、図1の概略断面図に示す形状を有する。具体的には、光学セラミックレンズ30の平面形状はたとえば円形状であり、一方の主曲面であるR1面31aと、一方の主曲面に対向する他方の主曲面であるR2面33aとがいずれも同じ方向(図1に示す上方向)に凸形状を有したメニスカスレンズである。しかし光学セラミックレンズ30は両側の主表面に凸形状の光学曲面部を有する両凸レンズであってもよい。あるいは光学セラミックレンズ30は両側の主表面に凹形状部を有する両凹レンズであってもよい。さらに光学セラミックレンズ30は、1対の主表面のうち一方のみ凸形状の光学曲面部を有し、他方は平面形状をなす平凸レンズであってもよいし、1対の主表面のうち一方のみ凹形状の光学曲面部を有し、他方は平面形状をなす平凹レンズであってもよい。なおここでは主表面とは、たとえば図1に示す光学セラミックレンズ30を、図1の左右方向に切断した断面をいうこととする。
【0035】
光学セラミックレンズ30は、上述したたとえばエアコンなどの家電製品や、住宅などに設置するホームセキュリティ用設備において、人間の所在を検知するセンサや歩行者の検知など車載カメラ(ナイトビジョン)に用いる、赤外線などを集光するための光学セラミックレンズである。光学セラミックレンズ30は赤外線などを高い割合で透過することができる、硫化亜鉛の粉末原料を成形・焼結することにより形成されたものであることが好ましい。
【0036】
光学セラミックレンズ30は、たとえばR1面31aおよびR2面33aの全面、すなわち端部も含め全体が光学セラミックレンズ30の光線通過範囲である有効径内となるように形成してもよい。あるいは、たとえばR1面31aおよびR2面33aの端部(外縁部)が光学セラミックレンズ30の光線通過範囲外でたとえば平面形状をなしており、R1面31aおよびR2面33aの中央付近のみが非球面形状を有する光線通過範囲となるように形成してもよい。また、光学セラミックレンズ30の平面形状は円形状以外の形状(たとえば四角形状)であってもよい。
【0037】
図2のフローチャートに示すように、光学セラミックレンズ30の製造方法としては、粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S00)と、粗プリフォームを形成する工程(S10)と、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)とを備えている。
【0038】
粗プリフォームとは、たとえば硫化亜鉛の粉末原料からなる、光学セラミックレンズ30を形成するための前駆体として用いる、光学セラミックレンズ30の完成品と類似した形状を有する成形品である。粗プリフォームを形成する工程(S10)を行なうに先立ち、粗プリフォームの厚みの分布や主曲面の形状を決定する必要がある。このために粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S00)を前もって行なう。
【0039】
図3に示す粗プリフォーム10の厚みの分布を決定するにあたっては、図1に示すR1面31aとR2面33aとに挟まれた、光学セラミックレンズ30の本体をなす領域の厚みの分布をあらかじめ算定しておく。具体的には、図1に示す光学セラミックレンズ30の本体をなす、R1面31aおよびR2面33aに沿って延在するr座標(図1の左右方向)の座標値ごとの、r座標に直交する方向(図1の上下方向)におけるR1面31aとR2面33aとの距離を厚みと定義する。そしてr座標ごとの厚みの変化を厚みの分布という。厚みの分布について、たとえば光学セラミックレンズ30の場合、光学セラミックレンズ30の本体をなす領域におけるr座標の値が中央付近の領域において厚みが大きい。なお、光学セラミックレンズ30の本体をなす領域の中央部をr座標の原点とすると、当該領域におけるr座標の値が最大付近の領域において、光学セラミックレンズ30の厚みは相対的に小さくなっている。
【0040】
ここで、光学セラミックレンズ30の完成品としての形状を形成するために加熱および加圧を行なうためには、光学セラミックレンズ30の密度と、光学セラミックレンズ30の前駆体である粗プリフォーム10の密度との比を考える。すなわち、たとえば図1の上下方向のみに加圧しながら焼成することにより粗プリフォーム10から光学セラミックレンズ30を形成し、粗プリフォーム10から光学セラミックレンズが形成される過程で図1のr座標の方向の寸法が変化せず、図1の上下方向の寸法のみが変化する(小さくなる)場合を考えれば、厚みと密度とは逆比例の関係を有することになる。このため、粗プリフォーム10を加圧・焼成して所望の形状を有する光学セラミックレンズ30を形成する場合、形成したい光学セラミックレンズ30の厚みの分布と、粗プリフォーム10と光学セラミックレンズ30との密度の比とに基づいて粗プリフォーム10の厚みの分布を決定することができる。
【0041】
図1に示すように光学セラミックレンズ30のR1面31aの各r座標における、厚み方向(図1の上下方向)の座標値をZ1(r)、R2面33aの各r座標における、厚み方向の座標値をZ2(r)とする。ここでZ1(r)の原点はR1面31aの曲面のなすもっとも上に凸となった点(すなわち光学セラミックレンズ30のR1面31aにおいて本体をなす領域の中央に位置する頂点)とし、Z2(r)の原点はR2面33aの曲面のなすもっとも上に凸となった点(すなわち光学セラミックレンズ30のR2面33aにおいて本体をなす領域の中央に位置する頂点)とする。すなわちZ1(r)およびZ2(r)はそれぞれR1面31aおよびR2面33aの形状を表わす数式である。なお、たとえば図3の縦軸に示すように、Z1(r)やZ2(r)の値は図3における下側(R2面33aが配置されている側)が正である。
【0042】
すると光学セラミックレンズ30の本体をなす各r座標の値の領域における厚みの分布を示す数式t(r)は、光学セラミックレンズ30の本体をなす領域のうちr座標の値が中央(r=0)となる点における当該厚みをtとすれば、
【0043】
【数1】

【0044】
となる。
したがって、たとえば粗プリフォーム10と光学セラミックレンズ30との密度の比をγとし、粗プリフォーム10の本体をなす各r座標の値の領域における厚みの分布を示す数式を図3に示すようにtcom(r)とすれば、
【0045】
【数2】

【0046】
となる。なおここで、γに関しては、粗プリフォーム10の密度をρcom、光学セラミックレンズ30の密度をρmoldとすれば、
【0047】
【数3】

【0048】
の関係が成り立つ。ここでρcomやρmoldは、それぞれ粗プリフォーム10、光学セラミックレンズ30の相対密度である。なお相対密度とは、その状態における密度を、当該光学セラミックレンズ30を形成する材質(ここでは硫化亜鉛)の真密度で除したものである。またγの値としては、予備試験により求めたρcomやρmoldの値をもとに算出された値を適用することが好ましいが、実際の生産上はたとえばγの値に対してたとえば±3%以内の誤差があってもよい。
【0049】
粗プリフォーム10の厚みの分布が上述したように決まったところで、粗プリフォーム10の表面、特に1対の対向する主曲面11a、13a(図3参照)のうち、一方の主曲面である第1主曲面の形状を決定することが好ましい。第1主曲面の形状が決まれば、上述したように厚みの分布が決まっているため、他方の主曲面の形状は一意的に決まる。このようにして主曲面11aおよび主曲面13aの形状を決定することができる。
【0050】
したがって、粗プリフォーム10の1対の主曲面11a、13aのいずれかの形状を、完成した光学セラミックレンズ30の1対の主曲面であるR1面31aまたはR2面33aのいずれかの形状と一致するように形成することが好ましい。
【0051】
粗プリフォームを形成する工程(S10)においては、図4のフローチャートに示すように、粗プリフォーム成形型にセットする工程(S11)と加圧を行なう工程(S12)とを行なう。ここで、粗プリフォーム成形型にセットする工程(S11)において、たとえば硫化亜鉛からなる粉末原料1をセットする粗プリフォーム成形型100(図5参照)のうち特に下型103の、粗プリフォーム10の主曲面13aを形成する成形面13bについては、その形状を粗プリフォーム10の主曲面13aの所望の形状、すなわち完成した光学セラミックレンズ30の一方の主曲面であるR1面31aまたはR2面33aのいずれかの形状とほぼ一致するように形成することが好ましい。なお、図5では成形面13bの形状は光学セラミックレンズ30のR2面33aの形状とほぼ一致するように形成されている。このようにすれば、主曲面13aをR1面31aまたはR2面33aのいずれかの形状とほぼ一致するように形成することができる。なお、上記成形面13bの代わりに、粗プリフォーム成形型100のうち上型101の、粗プリフォーム10の主曲面11aを形成する成形面11bの形状をR1面31aまたはR2面33aのいずれかの形状とほぼ一致するように形成してもよい。
【0052】
したがって、粗プリフォーム10のうち一方の主曲面13aの形状を上記第1主曲面として、完成品の光学セラミックレンズ30のR2面33aの形状に一致するようにする場合、主曲面13aの各r座標における、厚み方向(図1の上下方向)の座標値をZ2com(r)とすれば、
【0053】
【数4】

【0054】
が成立する。このとき、先の(数2)が成立するためには、主曲面11aの各r座標における、厚み方向(図1の上下方向)の座標値をZ1com(r)とすれば、
【0055】
【数5】

【0056】
が成立する。また、形成される粗プリフォーム10の、図5や図6に示す左右端部の形状は、図5に示す円筒状の成形ダイス105により決定される。すなわち成形ダイス105の内周面を成形型として、図5や図6の左右端部における、上下方向に延在する形状が形成される。なお、成形ダイス105の内周面と、上型101および下型103の外周面との間には、僅かな隙間が存在する。このため、上型101および下型103は、成形ダイス105の内周面に沿った方向、すなわち図5の上下方向にスムーズにスライドされる。
【0057】
このようにして、図6に示す粗プリフォーム10の主曲面11a、13aの形状が決定する。この手法で設計されたZ1com(r)はZ1(r)と異なるものとなっているが、これは粗プリフォーム10と光学セラミックレンズ30との幅が実質的に変化しないと仮定されるとともに、各r座標における厚みの変化率がほぼ一定となるよう粗プリフォーム10の厚み分布が決定されているため、各r座標での厚みの絶対値に応じて光学セラミックレンズを形成する工程(S30)における加工量の絶対値が異なるためである。
【0058】
上述した形状の主曲面11a、13aを有する、密度がρcomの粗プリフォーム10を、上述した図4のフローチャートの手順に則り形成する。この粗プリフォーム10を図2のフローチャートにおける光学セラミックレンズを形成する工程(S30)において、加熱および加圧することにより所望の厚みの分布t(r)および所望の主曲面の形状Z1(r)、Z2(r)を有する、図1に示す光学セラミックレンズ30を形成する。
【0059】
光学セラミックレンズを形成する工程(S30)は具体的には、図7のフローチャートに示すように、レンズ成形型にセットする工程(S31)と加熱を行なう工程(S32)と圧力を付与する工程(S33)とを行なう。なお、工程(S33)は加熱した状態で行なわれるが、その圧力の付与を開始するタイミングは工程(S32)を行なうタイミングに対して特に制約はない。レンズ成形型にセットする工程(S31)において、図8に示すレンズ成形型300に粗プリフォーム10をセットし、これを密度ρmold、厚みの分布がt(r)、それぞれの主曲面の形状がZ1(r)、Z2(r)である光学セラミックレンズ30とするために必要な加熱(S32)および加圧(S33)を行なう。たとえば硫化亜鉛を材料とした光学セラミックレンズ30を形成する場合には、セットした粗プリフォーム10を含むレンズ成形型300の加熱温度を800℃以上1100℃以下とすることが好ましい。なお、レンズ成形型300(図8参照)のうち特に下型303の、光学セラミックレンズ30の主曲面であるR2面33aを形成する成形面33bについては、その形状を光学セラミックレンズ30の所望の形状、すなわち完成した光学セラミックレンズ30の一方の主曲面であるR2面33aの形状と一致するように形成する。そのため、たとえば先の工程(S10)において粗プリフォーム10の一方の主曲面13aを、完成した粗プリフォーム10の一方の主曲面R2面33aの形状に等しくなるように形成した場合、レンズ成形型300の下型303の成形面33bに、粗プリフォーム10の主曲面13aを容易に接触させることができる。なお、上記成形面33bの代わりに、レンズ成形型300のうち上型301の、光学セラミックレンズ30の主曲面11aを形成する成形面31bの形状をR2面33aの形状と一致するように形成してもよい。また、たとえば成形面33bの形状をR2面33aの形状(Z2(r))に合わせた場合、成形面31bの形状をR1面31aの形状(Z1(r))に合わせることが好ましい。
【0060】
圧力を付与する工程(S33)において、レンズ成形型300を構成する上型301の対向面31cと、下型303の対向面33cとを互いにかなり接近した状態で対向させる。図8の上側から粗プリフォーム10に圧力を加えることにより光学セラミックレンズ30を形成する。このとき、光学セラミックレンズ30は、粗プリフォーム10の密度ρcomをもとに形成された粗プリフォーム10の厚みの分布を、密度がρmoldである光学セラミックレンズ30の厚みの分布となるよう縦方向において圧縮することにより(つまり厚み分布を変化させることにより)形成される。
【0061】
より具体的に説明するために、たとえばここで図3のように粗プリフォーム10の主曲面に沿った方向の中央部をr座標の値が0となる位置に合わせ、粗プリフォーム10の本体をなす領域の、主曲面に沿った方向の一方の端部におけるr座標の値が−r1、他方の端部におけるr座標の値がr1となるようにセットした場合を考える。すると、粗プリフォーム10の本体をなすr座標の値が−r1からr1までの全ての領域において、粗プリフォーム10の厚みがγ倍となるように圧縮すれば、所望の形状、厚みを有する光学セラミックレンズ30を形成することができる。なお、形成される光学セラミックレンズ30の、図9に示す左右端部の形状は、図8に示すように下型303の上面に配置された拘束リング305の内周面により形成される。
【0062】
粗プリフォーム10の各r座標の値にかかわらず、加圧により厚みを小さくする割合をほぼ等しくγ倍にすることにより光学セラミックレンズ30が形成されるため、粗プリフォーム10のr座標の値が−r1からr1までのすべての領域において、ほぼ同じ加圧条件でほぼ同じ時間加圧を行なうことにより、所望の密度や所望の形状を有する光学セラミックレンズ30を高効率に形成することができる。
【0063】
ここで比較のために、たとえばr座標の値が−r1からr1までのすべての領域において厚みがほぼ等しい平板形状の粗プリフォームを、加熱および加圧することにより図1に示す形状の光学セラミックレンズ30となるよう加工する場合を考える。光学セラミックレンズ30はr方向に関して両方の端部の厚みが中央部分の厚みに比べて小さい。したがってこの場合、両方の端部においては中央部分よりも大きな割合で圧縮する必要がある。このため中央部分に比べて両方の端部は圧縮加工に多くの時間を要することになる。すなわちこの場合は局所的に粗プリフォーム10のr座標値において加圧条件が異なる(加圧により変形しなければならない変形量が異なる)。このため、局所的に相対的に大きな加工量(変形量)が必要となる。
【0064】
しかし本実施の形態の製造方法では、完成品の厚みの分布を考慮して形成された粗プリフォーム10を用いて光学セラミックレンズを形成する工程(S30)を行なうことにより、工程(S30)において必要な圧縮の割合を光学セラミックレンズの全面に渡ってほぼ等しくすることができる。このため、図9に示すようにr座標の値が−r1からr1と、工程(S30)において圧縮された粗プリフォーム10の端部がr方向に延伸されずに光学セラミックレンズ30が形成される場合、局所的に大きな加工量(変形量)が必要な場合に比べて短い加工時間で加工を終えることができる。さらに上記製造方法においては工程(S30)において形成される光学セラミックレンズ30の寸法精度が高く、研磨などの後処理を簡略化、あるいは省略することができる。このことからも、完成品の納期短縮を図ることができる。
【0065】
また、ほぼ密度が均一なρcomである粗プリフォーム10の各領域について、ほぼ同程度の加工を施すことから、光学セラミックレンズ30の密度を各領域においてほぼ均一にρmoldとすることができる。したがって、光学セラミックレンズ30の領域間における光の透過率などの光学的特性のばらつきを小さくする、すなわち光学的均質性を向上することにより光学セラミックレンズ30の品質を向上することができる。
【0066】
ここで以上の工程を、上記の(数1)から(数5)を用いた具体例を用いて説明する。ここでは光学セラミックレンズ30の光線通過範囲である有効径内におけるR1面31a、R2面33aの面形状が非球面の場合を考える。
【0067】
非球面の式は、一般的に
【0068】
【数6】

【0069】
のように表わされる。ここでcは曲率、rは光学セラミックレンズ30のたとえば図3に示すr座標(主曲面に沿って延在する方向の座標)、Kは円錐係数、A2kは非球面係数、kは1以上(1からnまで)の整数である。ここで上記数6に示した数式の右辺の第1項は球面、楕円面等を表記する式であるが、プリフォーム形状を取り扱う上では多項式表記に変換した方が簡便なので
【0070】
【数7】

【0071】
のように多項式近似を用いて取り扱う。ここでB2kは曲率半径r、円錐係数K、曲率cで表わすB係数である。このような多項式近似を行なうに当たっては必要な精度に合わせて、有限データ列を作成し、最小二乗法で誤差が最小になるように係数を算出する。
【0072】
ここで、多項式は、たとえば図3や図9に示す縦軸(r座標が0である領域)に関しては偶関数で表わすことが好ましいことから、上記(数6)は
【0073】
【数8】

【0074】
のように2n次の多項式で表わされる。ここで、光学セラミックレンズ30のR1面31aは
【0075】
【数9】

【0076】
のように、R2面33aは
【0077】
【数10】

【0078】
のように表わされる。ここでC2k、C2kはC係数である。このため、上述した光学セラミックレンズ30の厚み分布関数の(数1)に代入して、光学セラミックレンズ30の厚みは
【0079】
【数11】

【0080】
のように表わされる。同様に(数9)、(数10)を(数2)、(数5)に代入すればそれぞれ
【0081】
【数12】

【0082】
【数13】

【0083】
のように表わすことができる。また、Z2com(r)については(数4)をそのまま用いることができる。
【0084】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2においても、実施の形態1と同様の光学セラミックレンズ30を形成する。しかし実施の形態2における光学セラミックレンズ30の製造方法としては、図10のフローチャートに示すように、プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S02)と粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S01)と、粗プリフォームを形成する工程(S10)とプリフォームを形成する工程(S20)と光学セラミックレンズを形成する工程(S30)とを備えている。以上の点において実施の形態2は実施の形態1と異なる。
【0085】
ここでプリフォームとは、粗プリフォーム10(図6参照)をいったん加熱することにより仮焼成したものをいうこととする。したがってプリフォームは粗プリフォーム10に比べて光学セラミックレンズ30(図1参照)の完成品に近い状態になっている。プリフォームを形成する工程(S20)を行なうに先立ち、プリフォームの厚みの分布や主曲面の形状を決定する。このためにプリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S02)を前もって行なう。ここでは、実施の形態2におけるプリフォーム20を、実施の形態1における粗プリフォーム10と同様に考える。すなわち、図11に示すプリフォーム20の本体をなす一方の主曲面21aおよびそれに対向する他方の主曲面23aに沿って延在するr方向(図11の左右方向)の座標値ごとの、プリフォーム20の厚みの分布を表わす数式tpre(r)を決定する。このtpre(r)は光学セラミックレンズ30の厚みの分布を表わす数式t(r)から、光学セラミックレンズ30の密度と、光学セラミックレンズ30の前駆体であるプリフォーム20の密度との比に基づいて求められる。
【0086】
形成しようとする光学セラミックレンズ30は実施の形態1と同様であるため、光学セラミックレンズ30の本体をなす各r座標の値の領域における厚みの分布を示す数式t(r)は上述した(数1)となる。したがって、たとえばプリフォーム20と光学セラミックレンズ30との密度の比をαとすれば、上述したtpre(r)は
【0087】
【数14】

【0088】
となる。なおここで、αに関しては、プリフォーム20の密度をρpre、光学セラミックレンズ30の密度をρmoldとすれば、
【0089】
【数15】

【0090】
の関係が成り立つ。ここでρpreやρmoldは、それぞれプリフォーム20、光学セラミックレンズ30の相対密度である。
【0091】
実施の形態1と同様に、プリフォーム20の1対の主曲面21a、23aのいずれかの主曲面である第1主曲面の形状を、完成した光学セラミックレンズ30の1対の主曲面であるR1面31aまたはR2面33aのいずれかの形状と一致するように形成することが好ましい。第1主曲面の形状が決まれば、上述したように厚みの分布が決まっているため、他方の主曲面の形状は一意的に決まる。このようにして主曲面21aおよび主曲面23aの形状を決定することができる。
【0092】
したがって、プリフォーム20のうち一方の主曲面23aの形状を上記第1主曲面として、完成品の光学セラミックレンズ30のR2面33aの形状に一致するようにする場合、主曲面23aの各r座標における、厚み方向(図11、12の上下方向)の座標値をZ2pre(r)とすれば、
【0093】
【数16】

【0094】
が成立する。また、主曲面11aの各r座標における、厚み方向(図11、12の上下方向)の座標値をZ1com(r)とすれば、
【0095】
【数17】

【0096】
が成立する。このようにして、図12に示すプリフォーム20の主曲面21a、23aの形状が決定する。
【0097】
また、プリフォーム20は粗プリフォーム10を焼成することにより形成されるため、粗プリフォーム10の厚みの分布や主曲面の形状を制御することにより、プリフォーム20の厚みの分布や主曲面の形状を制御する必要がある。このため、粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S01)において、工程(S02)にて求めたプリフォーム20の厚みの分布を表わす数式tpre(r)から、プリフォーム20の密度と、プリフォーム20の前駆体である粗プリフォーム10の密度との比に基づいて、粗プリフォーム10の厚みの分布tcom(r)(図3参照)を求めることが好ましい。また、粗プリフォーム10を加熱焼成することによりプリフォーム20が形成されることを考慮して、粗プリフォーム10の1対の主曲面11a、13aの形状を決定することが好ましい。
【0098】
プリフォーム20の厚みの分布を示す数式tpre(r)は上述した(数14)となる。したがって、たとえばプリフォーム20と粗プリフォーム10との密度の比をβとすれば、粗プリフォーム10の厚みの分布を示すtcom(r)は
【0099】
【数18】

【0100】
となる。なおここで、βに関しては、粗プリフォーム10の密度をρcomとすれば、
【0101】
【数19】

【0102】
の関係が成り立つ。なお、上述した(数19)に示す数式は、粗プリフォーム10からプリフォーム20が形成される熱処理において、後述するように粗プリフォーム10の厚み方向だけではなく、幅方向においても寸法が変化(収縮)することを前提にしている。上述したαおよびβの値としては、予備試験により求めたρcomやρmoldの値をもとに算出された値を適用することが好ましいが、実際の生産上はたとえばγの値に対して±3%以内の誤差があってもよい。
【0103】
たとえば実施の形態1における粗プリフォーム10から光学セラミックレンズ30を形成するための加圧処理や、実施の形態2におけるプリフォーム20から光学セラミックレンズ30を形成するための加圧処理においては、加圧を行なう1軸方向における圧縮(変形)がなされている。しかしここでの粗プリフォーム10からプリフォーム20を形成する過程においては、加圧は行なわれず、加熱による焼成(収縮)が行なわれる。この変形(収縮)の方向は1軸方向に限定されず、3次元の全方向に関してなされることになる。したがってプリフォームを形成する工程(S20)は、加熱炉など熱処理のみを行なう設備を用いて行なうことが好ましい。すなわち粗プリフォーム10の寸法が3次元の全方向に対してβ倍になるように、粗プリフォーム10とプリフォーム20とが互いにほぼ相似形状をなすように変形(収縮)がなされる。このため(数19)においては立方根が付されている。またこのため、粗プリフォーム10をr座標系内で表示した図3における粗プリフォーム10の一方の端部および他方の端部のr座標はそれぞれ実施の形態1における粗プリフォーム10のr座標である−r1、r1とは異なる−r2、r2となっており、r1<r2となる。
【0104】
このように、図10のプリフォームを形成する工程(S20)においては、3次元の全方向に関して変形がなされることから、粗プリフォーム10の主曲面11aの各r座標における、厚み方向(図6の上下方向)の座標値をZ1com(r)とすれば
【0105】
【数20】

【0106】
が成立し、主曲面13aの各r座標における、厚み方向(図6の上下方向)の座標値をZ2com(r)とすれば
【0107】
【数21】

【0108】
が成立する。以上の手順により、図6に示す粗プリフォーム10の厚みの分布や主曲面11a、13aの形状が決定する。
【0109】
粗プリフォームを形成する工程(S10)においては、実施の形態2においても図4のフローチャートの手順に基づき、図5の粗プリフォーム成形型100を用いて加工を実施することにより、上述した(数18)から(数21)に示す厚みの分布や主曲面の形状を有する粗プリフォーム10を形成する。この粗プリフォーム10をプリフォームを形成する工程(S20)において加熱炉を用いて加熱することにより、上述した(数14)から(数17)に示す厚みの分布や主曲面の形状を有するプリフォーム20を形成する。なお、このときの粗プリフォーム10の加熱温度は600℃以上950℃以下とすることが好ましい。
【0110】
光学セラミックレンズを形成する工程(S30)についても実施の形態1と同様に図7のフローチャートの手順に基づき、図13に示すレンズ成形型300を用いて加熱・加圧加工を行なう。ここで図13は図8に対して、加圧を行なう成形品がプリフォーム20となっている点においてのみ異なる。
【0111】
以上の手順を踏むことにより実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、たとえば光学セラミックレンズを形成する工程(S30)において、プリフォーム20の各r座標の値にかかわらず、加圧により厚みを小さくする割合をほぼ等しくα倍にすることにより光学セラミックレンズ30が形成されるため、プリフォーム20のr座標の値が−r2からr2までのすべての領域において、ほぼ同じ加圧条件でほぼ同じ時間加圧を行なうことにより、所望の密度や所望の形状を有する光学セラミックレンズ30を高効率に形成することができる。すなわち局所的に大きな加工量(変形量)が必要な場合に比べて短い加工時間で加工を終えることができる。また、研磨などの後処理を簡略化、あるいは省略することができることから、完成品の納期短縮を図ることができる。さらに、光学セラミックレンズ30の領域間における光の透過率などの光学的特性のばらつきを小さくし、光学的均質性を向上することにより光学セラミックレンズ30の品質を向上することができる。
【0112】
さらに実施の形態2の場合、既に仮焼成されたプリフォーム20に対して光学セラミックレンズを形成する工程(S30)による加熱および加圧を行なう。プリフォーム20は粗プリフォーム10に比べて、たとえば組織の内部における気孔の割合が少なくなっているなど、より完成品である光学セラミックレンズ30に近い状態となっている。このため、粗プリフォーム10に対して工程(S30)を行なう場合に比べてたとえば寸法の設計値と実測値との誤差が大きくなるなどの不具合が発生する可能性を低減させることができ、安定した状態で工程(S30)を行なうことができる。
【0113】
ここで以上の工程を、上記の(数14)から(数21)を用いた具体例を用いて説明する。上述した(数8)から(数10)を(数14)に代入すれば、
【0114】
【数22】

【0115】
のようになる。また、このとき、(数16)が成り立つことから、(数17)は
【0116】
【数23】

【0117】
のようになる。さらに、上述した(数8)から(数10)を(数18)に代入することにより
【0118】
【数24】

【0119】
が成立する。(数8)から(数10)を(数20)に代入することにより
【0120】
【数25】

【0121】
が成立する。さらに(数8)から(数10)を(数21)に代入することにより
【0122】
【数26】

【0123】
が成立する。
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0124】
なお、生産効率を向上するため、たとえば図10におけるプリフォームを形成する工程(S20)における加熱と、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)における加熱を行なう工程(S32)(図7参照)とを一連の作業として、たとえばいずれも図13のレンズ成形型300にて行なうこともできる。この場合においても、プリフォームを形成する工程(S20)により形成されるプリフォーム20の厚みや密度、主曲面などの寸法や形状は、3次元の全方向に対してほぼ均一な割合で収縮することを想定して設計がなされることが好ましい。プリフォーム20が形成された状態で、引き続き光学セラミックレンズを形成する工程(S30)における加圧(S33)により1軸方向に変形(収縮)させる。このような方法による光学セラミックレンズ30の形成も、実施の形態2に含まれる。
【実施例1】
【0125】
上述した実施の形態1の光学セラミックレンズ30の製造方法に基づき、光学セラミックレンズ30を形成した。以下の表1および表2において、粗プリフォーム10および光学セラミックレンズ30(表1、表2における「最終レンズ」)の各領域の寸法や相対密度の設計値、上述した各数式に代入するための係数をまとめている。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
まず表1と表2の記法について説明する。たとえば表1中の「有効半径」とは、光学セラミックレンズ30のR1面31aの、光線通過範囲を示す円形の半径である。有効半径はR2面33aにも存在するが、図1の断面図に示すようにR1面31aの有効半径とR2面33aの有効半径とは値が異なる。このようにR1面31aとR2面33aとで値が異なるパラメータについては、表1においてR1面31aにおける値を、表2においてR2面33aにおける値を示している。なお、たとえば相対密度のように光学セラミックレンズ30全体で1つの値をなすパラメータについては表1中にまとめて記載している。また、表1および表2中の、たとえば有効半径のように長さを表わすパラメータの単位はすべてmmである。
【0129】
また、たとえば表1中の「最終レンズ」の欄における「有効半径」とは、光学セラミックレンズ30の完成品のR1面31aの有効半径であるが、同表1中の「粗プリフォーム」の欄における「有効半径」には、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)においてR1面31aが形成される基となる面(たとえば主曲面11a)の有効半径が記載されている。
【0130】
次に表1、表2に示す各値の算出方法について説明する。まず粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S00)において、光学セラミックレンズ30の完成品の主曲面であるR1面31aおよびR2面33aの形状、厚みの分布、真密度に対する相対密度の設計値を求めた。厚みの分布は、光学セラミックレンズ30のR1面31aおよびR2面33aの中央となる部分(r座標の値が0)の厚みを「中心厚み」t、R1面31aおよびR2面33aの端部(外縁部)における厚みを「コバ厚」とし、以下の表1、表2中の「最終レンズ」の各項目の値となるように設計値を求めた。相対密度は光学セラミックレンズ30の密度(真密度)に対する値であってほぼ100%(99.99%)となっている。
【0131】
ここで予備試験において、硫化亜鉛の粉末原料1から、粗プリフォームを形成する工程(S10)の要領で、図5に示すように粗プリフォーム成形型100を用いて粗プリフォーム10を成形した。形成された粗プリフォーム10の試験片に対して相対密度ρcomを測定したところρcom=54.0%であった。この値を、最終レンズの相対密度で除した値がγとして表1中に記載されている。
【0132】
上述した各パラメータは実施の形態1の製造方法において重要なパラメータである。これらの値を基に、上述した各数式を用いて粗プリフォーム10の厚みの分布を求めた。また、その他の各寸法値についても計算により求め、かつ上述した数式中における係数、たとえば曲率半径r、円錐係数K、曲率c、非球面係数A、A、Aを求め、それらの値を表1、表2中に記載している。ここで非球面係数A、A、Aは、数6の第2項に示す、曲率半径r、円錐係数K、曲率c以外で表わされる部分を一般表記するための係数である。さらに、上述した数7に示すように、数6の第1項、すなわち曲率半径r、円錐係数K、曲率cで表わせる部分を当該光学セラミックレンズ30の有効半径内の領域において最小二乗法を用いて多項式近似することにより、B係数B、B、Bを算出した。さらにこれらの各係数(A、A、A、B、B、B)を1まとめにしたC係数C2kを用いて表記した数8や数9を参考に、C係数C、C、Cを算出した。
【0133】
表1、表2においては、左列から順に、粗プリフォーム10をC係数C2kを用いて表記した場合の値、完成した光学セラミックレンズ30(最終レンズ)をC係数C2kを用いて表記した場合の値(多項式近似1)、同最終レンズを非球面係数A2k、B係数B2kを用いて表記した場合の値(多項式近似2)、同最終レンズをA2kを用いて表記した場合の値(一般表記)を記している。
【0134】
次に、表1、表2中のその他の項目について説明する。上述したように「有効半径」とはR1面31aおよびR2面33aの、光線通過範囲の半径であるが、「外半径」とはR1面31aの端部(外縁部)に関する半径である。図1に示すような断面形状の光学セラミックレンズ30を形成しているため、R2面33aの外半径は有効半径に等しい。
【0135】
なお、図1におけるR1面31aの端部(外縁部)とR2面33aの端部(外縁部)とを結ぶ(左右両側の)直線領域は、当該光学セラミックレンズ30を傾かないよう安定に保持するためのツバ部である。ツバ部についても、上述したR1面31aとR2面33aとに挟まれた領域と同様に、厚み分布や密度分布をもとに形状を決定する。また、表1および表2における「サグ」とは各曲面の中心(頂点)と、R1面31aの外縁部との、図1における上下方向の距離のことである。
【0136】
以上のように粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S00)において粗プリフォーム10の各領域の寸法などを決定したところで、粗プリフォームを形成する工程(S10)を実施した。具体的には、図5に示すように、耐摩用超硬合金からなる粗プリフォーム成形型100を用いて粉末原料1として硫化亜鉛の粉末をセットし、表1および表2の「粗プリフォーム」の各欄に示す寸法を示すように成形加工を行なった。ここでは、下型103の成形面13bの形状が、形成しようとする光学セラミックレンズ30の完成品(最終レンズ)の一方の主曲面(R2面33a)の形状にほぼ等しくなるよう設計された粗プリフォーム成形型100を使用した。なお、当該成形面13bの形状は、表面の凹凸の程度を測定するためのPV値(Peak-to-Valley)が20μmであった。
【0137】
このようにして形成された粗プリフォーム10に対して、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)を実施した。具体的には、図8に示すように、プレス面(成形面31b、33b)が非晶質カーボンからなるレンズ成形型300に粗プリフォーム10をセットし、980℃まで昇温した状態で、図9に示す縦軸方向のみに対する加圧をした状態を約4分間保持する、1軸モールドプレス成形を行なった。ここでは、下型303の成形面33bの形状が、形成しようとする光学セラミックレンズ30の完成品(最終レンズ)の一方の主曲面(R2面33a)の形状にほぼ等しくなるよう設計されたレンズ成形型300を使用した。なお、当該成形面33bの形状の寸法精度はPV値が0.5μmであった。
【0138】
以上の手順により形成された光学セラミックレンズ30の完成品について、主曲面であるR1面31aおよびR2面33aの表面のPV値を測定したところ、設計値(PV値は0)との誤差が1.1μmであった。このため主曲面の一部分を研磨したり粉砕したりするなどの後処理を必要とせず、主曲面の表面粗さの精度が良好な光学セラミックレンズ30が形成できた。
【0139】
また、光学セラミックレンズ30は領域間の密度のばらつきが小さくなるよう形成されている。このため、光学セラミックレンズ30の各領域における相対密度はほぼ99.99%であった。このため、実際に赤外線などの光を透過させたときの透過率も安定したものである。具体的には、波長が10μmの赤外線を光学セラミックレンズ30の光線通過範囲に照射することにより、透過率の測定を行なったところ、光線通過範囲の内部のいずれの領域においても当該透過率が約74%となった。このことから、領域間の光学的均質性が良好な、高品質の光学セラミックレンズ30が形成されたといえる。
【実施例2】
【0140】
上述した実施の形態2の光学セラミックレンズ30の製造方法に基づき、光学セラミックレンズ30を形成した。以下の表3および表4において、粗プリフォーム10、プリフォーム20および光学セラミックレンズ30(表3、表4における「最終レンズ」)の各領域の寸法や相対密度の設計値、上述した各数式に代入するための係数をまとめている。
【0141】
【表3】

【0142】
【表4】

【0143】
表3および表4の各項目は、上述した表1および表2の項目と同様である。すなわち、表3が実施例1の表1に、表4が実施例1の表2に対応している。このため、たとえばR1面31aとR2面33aとで値が異なるパラメータについては、表3においてR1面31aにおける値を、表4においてR2面33aにおける値を示している。ただし、実施の形態2においては粗プリフォーム10を仮焼成したプリフォーム20を形成しているため、プリフォーム20に関する寸法などを記載する欄を設けている。プリフォーム20についても、粗プリフォーム10と同様に、C係数C2kを用いて表記した場合の値を記している。
【0144】
表3および表4に示す各値の算出方法は、上述した実施例1と重複する項目については実施例1に順ずる。プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S02)において、実施例1における粗プリフォーム10の厚みの分布を求める要領で、プリフォーム20の厚みの分布を求めた。
【0145】
具体的には、予備試験において、粗プリフォームを形成する工程(S10)の要領で、図5に示すように粗プリフォーム成形型100を用いて硫化亜鉛の粉末原料1から粗プリフォーム10を形成した。形成された粗プリフォーム10の試験片に対して相対密度ρcomを測定したところρcom=54.0%であった。さらにこの試験片を、プリフォームを形成する工程(S20)の要領で加熱炉を用いて加熱を行ない、形成されたプリフォーム20の試験片に対して相対密度ρpreを測定したところρpre=60.0%であった。これらの相対密度の測定値をもとに、上述した(数15)、(数19)を用いて求めたα、βの値が表3中に記載されている。
【0146】
上述した各値をもとに、上述した各数式を用いて光学セラミックレンズ30の厚み分布に基づきプリフォーム20の厚みの分布を求めた。また、粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S01)においても上述したα、βを用いて粗プリフォーム10の厚みの分布を求めた。さらに、その他の各寸法値についても計算により求め、かつ上述した数式中における係数、たとえば曲率半径r、円錐係数K、曲率c、非球面係数A、A、Aを求め、それらの値を表3、表4中に記載している。
【0147】
以上のように粗プリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S01)およびプリフォームの厚みの分布や形状を決定する工程(S02)において粗プリフォーム10およびプリフォーム20の各領域の寸法などを決定したところで、粗プリフォームを形成する工程(S10)を実施例1と同様に行なった。ただし、ここで用いた非晶質カーボンからなる粗プリフォーム成形型100の下型103の成形面13bの形状は、PV値が9μmであった。
【0148】
このようにして形成された粗プリフォーム10に対して、プリフォームを形成する工程(S20)および光学セラミックレンズを形成する工程(S30)を実施した。具体的には、粗プリフォーム10を加熱炉に導入して850℃で60分間熱処理することにより、表3に示す相対密度を有するプリフォーム20を形成した。その後、当該プリフォーム20に対して、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)を実施例1と同様に行なった。その態様は図13に示すとおりである。なお、ここで使用した下型303の成形面33bの形状の寸法精度はPV値が0.5μmであった。
【0149】
以上の手順により形成された光学セラミックレンズ30の完成品について、主曲面であるR1面31aおよびR2面33aの表面のPV値を測定したところ、設計値(PV値は0)との誤差が1.2μmであった。このため主曲面の一部分を研磨するなどの後処理を必要とせず、主曲面の表面粗さの精度が良好な光学セラミックレンズ30が形成できた。
【0150】
また、本発明による光学セラミックレンズ30に赤外線などの光を透過させたときの透過率も安定したものである。具体的には、波長が10μmの赤外線を光学セラミックレンズ30の光線通過範囲に照射することにより、透過率の測定を行なったところ、光線通過範囲の内部のいずれの領域においても当該透過率が約65%となった。このことから、実施例2においても、領域間の光学的均質性が良好な、高品質の光学セラミックレンズ30が形成されたといえる。
【実施例3】
【0151】
本発明の実施の形態1および2のように、光学セラミックレンズ30の厚みの分布と、光学セラミックレンズ30および粗プリフォーム10(プリフォーム20)の密度の比に基づいて厚みの分布を決定した粗プリフォーム10(プリフォーム20)を用いて光学セラミックレンズ30を形成した場合の、光学セラミックレンズを形成する工程(S30)に要する時間を調査する試験を行なった。
【0152】
表5には、本発明の実施の形態2に基づいて厚みの分布を決定したプリフォーム20(実施例2におけるプリフォーム20)に対して、図13に示す態様に基づいて光学セラミックレンズを形成する工程(S30)を行なった場合の工程(S30)での成形時間および、当該工程により形成された光学セラミックレンズ30の光の透過率を調査した結果を示している。(「本実施例」の欄参照)また、同じ表5には、「比較例1」として、本発明の実施の形態2とは別の方法により、光学セラミックレンズ30の主曲面(R1面31aおよびR2面33a)に近似した形状の曲面を有する近似球面の仮焼成体(プリフォーム)に対して、上述した「本実施例」と同様に工程(S30)を行なった場合の成形時間および上記透過率を調査した結果を併記している。なお、近似球面の形状は凸面の示す曲面の半径Rが12.8、凹面の示す曲面の半径Rが54.2である。さらに、一定の厚みを有する平板形状のプリフォームに対して、上述した「本実施例」と同様の形状の光学セラミックレンズ30を形成するために加熱および加圧の処理を行なった場合の成形時間および上記透過率を調査した結果についても、表5中に「比較例2」として併記している。なお、各条件のサンプルを5個ずつ用意した。
【0153】
上述した「本実施例」「比較例1」「比較例2」のいずれの条件の試験片についても、同一の設備を用いて、硫化亜鉛の粉末原料1から、厚みの分布や主曲面の大きさ、形状がほぼ等しい光学セラミックレンズ30を形成した結果を示している。光学セラミックレンズ30を形成するにあたり、使用したプリフォーム20と、比較例1の近似球面、比較例2の平板の重量がいずれもほぼ等しくなるようにした。また、これらのサンプルは、いずれの条件のものについても有効半径が10mmであり、主表面(主曲面)に沿った方向に関する大きさはほぼ等しい。
【0154】
【表5】

【0155】
その結果、表5の「光学セラミックレンズ30の成形保持時間」に示すように、比較例1のプリフォームに対して光学セラミックレンズ30を形成した場合は、平均7分、比較例2のプリフォームに対して光学セラミックレンズ30を形成した場合は、平均20分の成形保持時間を要した。これに対して、本実施例のプリフォーム20に対して工程(S30)を施した場合の工程(S30)での成形保持時間の平均は約4分であった。なお、ここで成形保持時間とは、工程(S30)における加熱(S32)と加圧(S33)との両方を行なった時間である。
【0156】
さらに、形成された光学セラミックレンズ30が赤外線を透過する透過率のばらつきについても調査した。各条件にて形成されたそれぞれの光学セラミックレンズ30の光線通過範囲に対して、波長が10μmの赤外線を照射したときの透過率を測定した。具体的には、まずたとえば図9に示す断面が露出するようにレンズを縦割りに切断し、当該切断した切片の断面の厚み(図9における上下方向の寸法)が3mmになるように寸法調整した。この表面を鏡面研磨し、赤外分光光度計で透過率を測定した。この際、測定点として5点選んだ。この5点を結んでなる曲線は、切断した断面が示す上下それぞれの主曲面の湾曲に沿った形状となるように5点を選んでいる。具体的には、切片の中心部(主曲面の頂点付近)の1点、両端部の2点、および中心部と両端部とのほぼ中央に存在する中間点の2点の合計5点を選んだ。
【0157】
その結果、表5の「レンズの透過率」に示すように、比較例1の光学セラミックレンズ30は75.0%〜74.0%と1.0%のばらつき、比較例2の光学セラミックレンズ30は75%〜5%と70%もの大きなばらつきが存在するのに対して、本実施例の光学セラミックレンズ30については75.4%〜74.8%と、0.6%のばらつきに抑えることができた。
【0158】
以上の結果より、本実施例の製造方法を用いることにより、高効率に光学的均質性の高い光学セラミックレンズ30を形成できることがわかる。
【0159】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、高効率に、光学的均質性に優れた光学セラミックレンズを製造する技術として特に優れている。
【符号の説明】
【0161】
1 粉末原料、10 粗プリフォーム、11a,13a,21a,23a 主曲面、11b,13b,31b,33b 成形面、20 プリフォーム、30 光学セラミックレンズ、31a R1面、31c,33c 対向面、33a R2面、100 粗プリフォーム成形型、101,301 上型、103,303 下型、105 成形ダイス、300 レンズ成形型、305 拘束リング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末原料からなる成形品である粗プリフォームを形成する工程と、
前記粗プリフォームを加熱および加圧することにより前記光学セラミックレンズを形成する工程とを備えており、
前記光学セラミックレンズの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、前記粗プリフォームと前記光学セラミックレンズとの密度の比とに基づいて、前記粗プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する、光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記粗プリフォームを形成する工程は、前記粗プリフォームの1対の前記主曲面のうち一方の第1主曲面の形状を、前記光学セラミックレンズの前記1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状と一致するように形成する工程を含む、請求項1に記載の光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項3】
粉末原料からなる成形品である粗プリフォームを形成する工程と、
前記粗プリフォームを仮焼成することによりプリフォームを形成する工程と、
前記プリフォームを加熱および加圧することにより前記光学セラミックレンズを形成する工程とを備えており、
前記光学セラミックレンズの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、前記プリフォームと前記光学セラミックレンズとの密度の比とに基づいて、前記プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する、光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布と、前記粗プリフォームと前記プリフォームとの密度の比とに基づいて、前記粗プリフォームの対向する1対の主曲面に挟まれた領域の厚みの分布を決定する、請求項3に記載の光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記プリフォームを形成する工程は、前記プリフォームの1対の前記主曲面のうち一方の第1主曲面の形状を、前記光学セラミックレンズの前記1対の主曲面のうち一方の第1主曲面の形状と一致するように形成する工程を含む、請求項3または4に記載の光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記粗プリフォームを形成する工程において、成形用型を用いて粉末原料を加圧成形する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項7】
前記粉末原料は硫化亜鉛の粉末である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法に用いる成形用型。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法において形成される粗プリフォーム。
【請求項10】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法において形成されるプリフォーム。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学セラミックレンズの製造方法において形成される光学セラミックレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−271540(P2010−271540A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123303(P2009−123303)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】