光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置
【課題】基材に成膜時の熱による変形の影響を受け難く、反射率が低く複屈折の少ない透明樹脂基板を用いることにより、複屈折と反射率の双方の問題を低減した光学フィルタを得る。
【解決手段】光学フィルタの透明樹脂基板21として、ガラス転位温度が120℃以上、屈折率が1.6以上、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を用いる。そして、この基板21上にND膜31と反射防止膜32を積層することによりNDフィルタ10を形成する。
【解決手段】光学フィルタの透明樹脂基板21として、ガラス転位温度が120℃以上、屈折率が1.6以上、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を用いる。そして、この基板21上にND膜31と反射防止膜32を積層することによりNDフィルタ10を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビデオカメラ或いはデジタルスチルカメラ等の撮影系の使用に適した光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ビデオカメラやデジタルカメラ等の撮像機器には、固体撮像素子に入射する光量を制御するための光量調節装置が設けられており、快晴時や高輝度の被写体を撮影する場合に、その開口が小さく絞り込まれるようになっている。
【0003】
しかし、絞り開口が小さくなり過ぎると、通過する光の回折の影響により像性能の劣化を生ずる問題を有している。そのため、例えば絞り羽根にフィルム状のND(Neutral Density)フィルタを取り付け、絞り開口が極端に小さくなり過ぎずに、所定の大きさのままで光量を減衰させるようにしている。
【0004】
NDフィルタとしては、例えば特許文献1に開示されているような光軸中心に向けて段階的に透過率が大きくなる構成のものや、特許文献2に開示されているような光軸中心に向かって連続的に透過率が大きくなる構造のものが知られている。
【0005】
一般に、このようなNDフィルタの基材には、材料の光透過率や濁度等の光学特性が良好であり、耐久性も優れているPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のフィルム状の透明樹脂基板が使用されている。そして、これらの透明樹脂基板上に真空蒸着法等により、光吸収性を有する材料と反射率を低下させるための材料とを交互に積層した光減衰膜を成膜し、更にその最表層に誘電体膜を成膜することにより、更に反射率を低減している。
【0006】
しかし、NDフィルタを製造する蒸着工程において、蒸着時間の経過と共に、透明樹脂基板の表面温度は上昇し、NDフィルタに皺やうねり等の形状変化が生ずる場合がある。また、PETやPENの基材には複屈折があり、位相差が生ずるため撮像機器の解像度に影響を与える場合もある。
【0007】
そこで、特許文献3においては、光減衰膜を蒸着する透明樹脂基板として、120℃以上のガラス転移温度を有するノルボルネン系樹脂を使用し、透明樹脂基板の伸縮変形を抑制して、皺やうねり等の発生を防止することが開示されている。また特許文献4においては、透明樹脂基板に同じノルボルネン系樹脂を使用することにより、複屈折を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2592949号公報
【特許文献2】特開2004−117467号公報
【特許文献3】特開2004−37545号公報
【特許文献4】特開2008−102363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の撮像装置の高画質化に伴い、熱や複屈折の影響を低減しながら、NDフィルタの反射率を低減することが重要な課題となってきている。特に、NDフィルタの反射率が高いと、撮像素子の表面で反射した光線がNDフィルタの表面で再度反射して撮像素子に再入射し、ゴーストやフレア等の原因となる。
【0010】
これを低減するため特許文献1、2においては、NDフィルタの表層に反射防止膜を配置することが記載されているが、十分でない場合がある。
【0011】
また、特許文献3、4においては、蒸着等の熱の影響による透明樹脂基板の変形等を防止するために、透明度が高くヘイズ値が低く、更に複屈折の少ないノルボルネン系樹脂を使用している。しかし、反射率は後述するように基材の屈折率が高いほど低減させることができるが、ノルボルネン系樹脂を使用した透明樹脂基板の屈折率は1.51〜1.53程度であり、この基材の表面に反射防止膜を成膜しただけでは反射率の低減に限界がある。
【0012】
本発明の目的は、基材に成膜時の熱による変形の影響を受け難く、反射率が低く複屈折の少ない透明樹脂基板を用いることにより、複屈折と反射率の双方の問題を解決した光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る光学フィルタは、透明樹脂基板の上に少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜することにより透過光量を調節する光学フィルタにおいて、前記透明樹脂基板はフルオレン構造を有するポリエステル樹脂とし、該ポリエステル樹脂はガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光学フィルタを用いた撮像装置は、撮影光学系と、該撮影光学系に挿脱され透過光量を調節する光学フィルタと、光学像を電気信号に変換する撮像素子とから成る撮像装置において、前記光学フィルタは、ガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板の上に、少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置によれば、成膜時の皺やうねり等の発生を防止でき、また複屈折が小さいので高画質化への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】撮影光学系の構成図である。
【図2】フルオレンの化学構造式である。
【図3】フルオレン構造を有するポリエステルの一例の化学構造式である。
【図4】真空蒸着装置の概略図である。
【図5】蒸着治具の側面図及び平面図である。
【図6】蒸着マスクと取り除いた状態の透明樹脂基板の平面図である。
【図7】NDフィルタを切り抜く際の説明図である。
【図8】NDフィルタの断面構成図及び透過率分布図である。
【図9】NDフィルタの膜構成図である。
【図10】基板の屈折率による単層反射防止膜の反射率のグラフ図である。
【図11】単層反射防止膜の干渉による反射防止の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施例における撮像装置の撮影光学系の構成図である。光軸上に、レンズ1、光量絞り装置2、レンズ3〜5、赤外カット機能を有するローパスフィルタ6、CCD等から成る固体撮像素子7が順次に配列されている。光量調節のための光量絞り装置2において、絞り羽根支持板8には絞りの口径を形成する一対の絞り部材である絞り羽根9a、9bが可動に取り付けられ、絞り羽根9aにはNDフィルタ10が取り付けられている。
【0018】
光量絞り装置2では、絞り羽根9a、9bにより形成される略菱形形状の開口部を通過する可視光領域の透過光量を、NDフィルタ10により略均一に減衰させて減光させることができる。また、NDフィルタ10は絞り羽根9aに取り付けずに、単独で開口部に挿脱することも可能である。
【0019】
このような撮影光学系において、レンズ1を通過した光学像は、光量絞り装置2を介して光量調整がなされ、固体撮像素子7の表面に結像して電気信号に変換される。
【0020】
近年の撮像機器の高画質化に伴い、NDフィルタ10の複屈折は小さいことが望まれている。複屈折とは、屈折率が方向により異なる材料を通る光が異常光線と常光線に分離する現象であり、材料固有の複屈折性と成形加工時の剪断力による分子配向や溶融した樹脂が固化するときに生ずる残留応力等に大きく依存する。この複屈折が大きいと、透過光が分離して結像点がずれるため、結像性能が低下するという問題がある。
【0021】
一般に、複屈折の大きさはリタデーション値(retardation:位相差)で表すことができる。リタデーション値とは上述した屈折率の差から生ずる光の速度の差であり、リタデーション値をRe[nm]は異常光線の屈折率をNe、常光線の屈折率をNo、複屈折物質の厚さをd[nm]とすると、次の式(1)で計算される。
【0022】
Re=d・(Ne−No) ・・・(1)
一般に、NDフィルタ10に用いられる透明樹脂基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは、通常ではフィルム成形時に延伸加工されるため分子配向による複屈折が大きく、Re>100nmである。
【0023】
しかし、近年の撮像機器の高画質化に伴い、複屈折の小さい透明樹脂基板が求められるようになっている。
【0024】
また、透明樹脂基板のガラス転移温度は、蒸着時の蒸着源から受ける熱を考慮すると120℃以上あることが好ましい。
【0025】
上述したように、透明樹脂基板の屈折及びガラス転位温度が重要となり、上述した条件を満たす樹脂として、図2に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂が好適であり、図3はその一例を示している。
【0026】
本実施例においては、透明樹脂基板に図3に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を用いることにより、実用的な光学フィルタの板厚である25〜200μmで、リタデーション値Reを30nm以下にすることができる。また、図3に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度は120℃以上であるため、皺の発生等の問題を回避する。同時に、後述するように高い屈折率を有することによる反射防止効果により、優れた光学フィルタとしての機能を期待できる。
【0027】
図4はNDフィルタ10を製造するための真空蒸着装置の概略図を示している。この蒸着チャンバ11内には回転自在な回転ドーム12が設けられ、この回転ドーム12にNDフィルタ10の基材となる透明樹脂基板を保持する蒸着治具13が配置されている。また、蒸着チャンバ11内には、蒸着するND膜の蒸着源としてAl2O3から成る蒸着源14及びTiOxから成る蒸着源15、反射防止膜の蒸着源としてMgF2から成る蒸着源16が設けられている。蒸着源14〜16の上方には、特定の蒸着源14〜16のみを蒸着させるためのシャッタ17が設けられ、蒸着チャンバ11の上部には蒸着膜の膜厚を測定するための光学モニタ18が配置されている。
【0028】
図5(a)は蒸着治具13の断面図、(b)は平面図を示し、蒸着治具13にはNDフィルタ10の基板となるフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板21が取り付けられ、スペーサ22を介することにより所定幅の開口部23を有する蒸着マスク24が配置されている。
【0029】
そして、回転ドーム12に蒸着治具13を透明樹脂基板21の成膜面が蒸着源14〜16に対向するように配置し、基板温度と膜厚を均一化するために、回転ドーム12と共に蒸着治具13を回転させながら成膜を行う。
【0030】
蒸着工程としては、先ず成膜前に蒸着チャンバ11内が真空状態に保持され、透明樹脂基板21がセットされた蒸着治具13が所定の温度に加熱される。そして、所定の圧力と温度に達すると、ND膜の1層目として蒸着源14を加熱し、蒸着材料であるAl2O3を蒸発させて蒸着治具13にセットした透明樹脂基板21上に所定の膜厚のAl2O3膜を成膜する。以降、必要に応じて蒸着源14〜16を切換えて、無機硬質膜であるND膜及び反射防止膜を成膜する。
【0031】
NDフィルタ10は高濃度のものほど必要な膜厚が厚くなり、それだけ蒸着時間が長くなり、蒸着源14〜16からの輻射熱を多く受けることになる。
【0032】
本実施例における最高濃度がND1.5(透過率3.2%)程度のNDフィルタ10における透明樹脂基板21の表面温度は、部分的に120℃近くまで達するため、従来のPET樹脂ではガラス転移温度を越え、皺等が発生してしまう場合がある。
【0033】
透明樹脂基板21の板厚は可能な限り薄く形成することが好ましい。これはNDフィルタ10を光量絞り装置2に組み込んで使用する際に、光量絞り装置2を小型化することができるためである。また、NDフィルタ10を軽量とすることにより、NDフィルタ10又はNDフィルタ10を取り付けた絞り羽根9aを駆動するための消費電力を少なくすることができる。ただし、透明樹脂基板21の板厚が薄くなり過ぎると、NDフィルタ10を生産する上で取り扱いが困難になり、必要な板厚は25〜200μmであり、好ましくは50〜100μmの範囲である。
【0034】
図6は蒸着マスク24を取り除いた状態のフレオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板21の平面図を示している。図5(a)に示すように透明樹脂基板21と蒸着マスク24の間にスペーサ22を介して間隔を設けることにより、透明樹脂基板21上に連続的に濃度が変化する濃度分布を有するND膜31を成膜することができる。続いて、蒸着マスク24を取り外し、透明樹脂基板21を取り付けた蒸着治具13を再度蒸着チャンバ11の回転ドーム12にセットする。そして、蒸着源16を加熱することにより、透明樹脂基板21の全面に誘電体膜である反射防止膜として、λ/4(λ=550nm)の膜厚のMgF2膜を成膜する。
【0035】
この後に、必要に応じて透明樹脂基板21を裏返して蒸着治具13に取り付けて、透明樹脂基板21の裏面に反射防止膜を形成してもよい。上述の反射防止膜32を成膜した後に、図7に示すように、NDフィルタの形状に切断することにより、グラデーション濃度を有するNDフィルタ10を得ることができる。
【0036】
図8(a)は本実施例におけるNDフィルタ10の断面模式図、図8(b)は(a)の断面領域における透過率分布図をそれぞれ示している。本実施例においては、低濃度の領域Aから高濃度の領域Dに連続的に光透過率が変化するグラデーションNDフィルタについて説明するが、単一濃度から成るNDフィルタや、異なる複数の濃度領域から成る多濃度NDフィルタにおいても同様の効果が得られる。
【0037】
領域A〜BにおいてはND膜31は成膜されず、領域B〜Dにおいては連続的に透過率が変化するグラデーション濃度のND膜31が成膜され、領域C〜Dにおいては、均一な濃度のND膜31が成膜されている。また、領域A〜Dの透明樹脂基板21全域の最表層には、均一の膜厚の誘電体膜である反射防止膜32が成膜されている。
【0038】
なお、領域A〜Bの範囲は、反射防止膜32のみ成膜した透明領域であり、この透明領域は光減衰効果は殆どないが、NDフィルタ10の厚みと屈折率に起因する結像面位置ずれを防止するために実際の撮影時にもフィルタとして使用される。本実施例のグラデーション濃度のNDフィルタ10はこのような透明領域を有するが、透明領域を有しないグラデーション濃度のNDフィルタでも本実施例と同様の効果が得られる。
【0039】
通常のデジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラに使用される光学フィルタにおいては、波長可視光領域である400〜700nmの範囲の反射率は低いほど好ましい。そのため、特に本実施例のNDフィルタ10のように透明領域を有するNDフィルタでは、通常ではこの透明領域に反射防止膜32が必要となる。
【0040】
図9は本実施例におけるNDフィルタ10の膜構成図を示している。透明樹脂基板21上には、反射率を低下させるための誘電体膜の反射防止層であるAl2O3膜と透過率を低下させるための光吸収層であるTiOx膜とを交互に8層積層した無機硬質膜であるND膜31が積層されている。そして、第8層のTiOx膜の上の最表層には、低屈折材料であるMgF2膜から成る反射防止膜32が光学膜厚n・d(n:屈折率、d:物理膜厚)、λ/4(λ=500〜600nm)で成膜されている。
【0041】
NDフィルタ10の透過率は、第2、4、6、8層の光吸収層であるTiOx膜の総膜厚によって変化し、膜厚が厚くなるほど透過率は低下する。TiOxのxの値は0〜2で、所望の光学特性により調整される。
【0042】
本実施例においては、図8(a)に示すように、各層の膜厚を連続的に変化させることにより領域B〜Cで連続的に透過率を変化させ、図8(b)に示す透過率分布になっている。
【0043】
また、本実施例においては、最表層の反射防止層にMgF2膜を用いたが、MgF2膜の代りに、SiO2膜等の低屈折材料を用いることもできる。一般的に、これらの反射防止膜32の成膜には真空蒸着法が用いられるが、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等においても同様な効果を得ることができる。また、膜の材質、層数、膜厚等はこれに限定されるものではない。
【0044】
図10は屈折率の異なる透明樹脂基板に反射防止膜を成膜した場合の反射率のグラフ図を示している。実線は屈折率1.53のノルボルネン樹脂基板の上に反射防止膜32として、単層のMgF2膜をλ/4の膜厚で成膜したときの反射率を示している。点線は屈折率1.63のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂基板の上に、同様の反射防止膜32を成膜したときの反射率を示している。因みに、図示しないポリエチレンテレフタレート(PET)の屈折率は約1.57であり、上述の2つの基板の反射率の間の特性を示す。
【0045】
本実施例のNDフィルタ10においては、単層の反射防止膜32を使用しており、図10に示すように透明樹脂基板21の屈折率nが高い方が反射率が低減できる。図11に示すようように反射防止膜32の表層の反射光Aを、透明樹脂基板21と反射防止膜32との界面からの反射光Bが干渉により相殺している。従って、透明樹脂基板21と反射防止膜32の屈折率差が大きくなり、反射光Bが大きくなると干渉効果が高まる。
【0046】
単層の反射防止膜32を形成することの利点は、多層の反射防止膜と比較して短時間で成膜が完了し、熱の影響も低減できることである。更に、図8(a)に示すように、透明領域から高濃度領域にかけて全面的に反射防止膜32を成膜する場合には、高濃度領域の総膜厚が極度に厚くなり、膜応力からクラックが発生することを防止することができる。
【0047】
しかし、単層の反射防止膜32は多層の反射防止膜と比較して反射率が高くなり易く、上述した透明樹脂基板21の屈折率が重要となる。
【0048】
図10に示すように、従来のPETやノルボルネン等の樹脂と比較して、屈折率1.6以上のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を使用した場合には、可視光域の中心波長である550nm前後の波長において、1%以下の反射率となる。
【0049】
このときの板厚dを100μmとした場合のリタデーション値Reは23nmとなり、図1に示す撮像光学系での撮影した結果、良好な撮像性能が得られた。また、このようなフルオレン構造を有するポリエステル樹脂は異なるグレードのもの存在し、それらを使用すると実用的なNDフィルタの板厚である200μmにおいても、リタデーション値Reを30nm以下にすることができる。
【0050】
なお、本実施例ではNDフィルタについて述べたが、フルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板上に無機硬質膜を成膜した光学フィルタであれば、同様の効果が得られる。例えば、積層膜を適宜変更することにより、赤外カットフィルタや紫外カットフィルタ等への応用も可能である。
【符号の説明】
【0051】
2 光量絞り装置
9a、9b 絞り羽根
10 NDフィルタ
11 蒸着チャンバ
12 回転ドーム
13 蒸着治具
14〜16 蒸着源
17 シャッタ
21 透明樹脂基板
24 蒸着マスク
31 ND膜
32 反射防止膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビデオカメラ或いはデジタルスチルカメラ等の撮影系の使用に適した光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ビデオカメラやデジタルカメラ等の撮像機器には、固体撮像素子に入射する光量を制御するための光量調節装置が設けられており、快晴時や高輝度の被写体を撮影する場合に、その開口が小さく絞り込まれるようになっている。
【0003】
しかし、絞り開口が小さくなり過ぎると、通過する光の回折の影響により像性能の劣化を生ずる問題を有している。そのため、例えば絞り羽根にフィルム状のND(Neutral Density)フィルタを取り付け、絞り開口が極端に小さくなり過ぎずに、所定の大きさのままで光量を減衰させるようにしている。
【0004】
NDフィルタとしては、例えば特許文献1に開示されているような光軸中心に向けて段階的に透過率が大きくなる構成のものや、特許文献2に開示されているような光軸中心に向かって連続的に透過率が大きくなる構造のものが知られている。
【0005】
一般に、このようなNDフィルタの基材には、材料の光透過率や濁度等の光学特性が良好であり、耐久性も優れているPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のフィルム状の透明樹脂基板が使用されている。そして、これらの透明樹脂基板上に真空蒸着法等により、光吸収性を有する材料と反射率を低下させるための材料とを交互に積層した光減衰膜を成膜し、更にその最表層に誘電体膜を成膜することにより、更に反射率を低減している。
【0006】
しかし、NDフィルタを製造する蒸着工程において、蒸着時間の経過と共に、透明樹脂基板の表面温度は上昇し、NDフィルタに皺やうねり等の形状変化が生ずる場合がある。また、PETやPENの基材には複屈折があり、位相差が生ずるため撮像機器の解像度に影響を与える場合もある。
【0007】
そこで、特許文献3においては、光減衰膜を蒸着する透明樹脂基板として、120℃以上のガラス転移温度を有するノルボルネン系樹脂を使用し、透明樹脂基板の伸縮変形を抑制して、皺やうねり等の発生を防止することが開示されている。また特許文献4においては、透明樹脂基板に同じノルボルネン系樹脂を使用することにより、複屈折を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2592949号公報
【特許文献2】特開2004−117467号公報
【特許文献3】特開2004−37545号公報
【特許文献4】特開2008−102363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年の撮像装置の高画質化に伴い、熱や複屈折の影響を低減しながら、NDフィルタの反射率を低減することが重要な課題となってきている。特に、NDフィルタの反射率が高いと、撮像素子の表面で反射した光線がNDフィルタの表面で再度反射して撮像素子に再入射し、ゴーストやフレア等の原因となる。
【0010】
これを低減するため特許文献1、2においては、NDフィルタの表層に反射防止膜を配置することが記載されているが、十分でない場合がある。
【0011】
また、特許文献3、4においては、蒸着等の熱の影響による透明樹脂基板の変形等を防止するために、透明度が高くヘイズ値が低く、更に複屈折の少ないノルボルネン系樹脂を使用している。しかし、反射率は後述するように基材の屈折率が高いほど低減させることができるが、ノルボルネン系樹脂を使用した透明樹脂基板の屈折率は1.51〜1.53程度であり、この基材の表面に反射防止膜を成膜しただけでは反射率の低減に限界がある。
【0012】
本発明の目的は、基材に成膜時の熱による変形の影響を受け難く、反射率が低く複屈折の少ない透明樹脂基板を用いることにより、複屈折と反射率の双方の問題を解決した光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る光学フィルタは、透明樹脂基板の上に少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜することにより透過光量を調節する光学フィルタにおいて、前記透明樹脂基板はフルオレン構造を有するポリエステル樹脂とし、該ポリエステル樹脂はガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光学フィルタを用いた撮像装置は、撮影光学系と、該撮影光学系に挿脱され透過光量を調節する光学フィルタと、光学像を電気信号に変換する撮像素子とから成る撮像装置において、前記光学フィルタは、ガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板の上に、少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光学フィルタ及び該光学フィルタを用いた撮像装置によれば、成膜時の皺やうねり等の発生を防止でき、また複屈折が小さいので高画質化への対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】撮影光学系の構成図である。
【図2】フルオレンの化学構造式である。
【図3】フルオレン構造を有するポリエステルの一例の化学構造式である。
【図4】真空蒸着装置の概略図である。
【図5】蒸着治具の側面図及び平面図である。
【図6】蒸着マスクと取り除いた状態の透明樹脂基板の平面図である。
【図7】NDフィルタを切り抜く際の説明図である。
【図8】NDフィルタの断面構成図及び透過率分布図である。
【図9】NDフィルタの膜構成図である。
【図10】基板の屈折率による単層反射防止膜の反射率のグラフ図である。
【図11】単層反射防止膜の干渉による反射防止の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施例における撮像装置の撮影光学系の構成図である。光軸上に、レンズ1、光量絞り装置2、レンズ3〜5、赤外カット機能を有するローパスフィルタ6、CCD等から成る固体撮像素子7が順次に配列されている。光量調節のための光量絞り装置2において、絞り羽根支持板8には絞りの口径を形成する一対の絞り部材である絞り羽根9a、9bが可動に取り付けられ、絞り羽根9aにはNDフィルタ10が取り付けられている。
【0018】
光量絞り装置2では、絞り羽根9a、9bにより形成される略菱形形状の開口部を通過する可視光領域の透過光量を、NDフィルタ10により略均一に減衰させて減光させることができる。また、NDフィルタ10は絞り羽根9aに取り付けずに、単独で開口部に挿脱することも可能である。
【0019】
このような撮影光学系において、レンズ1を通過した光学像は、光量絞り装置2を介して光量調整がなされ、固体撮像素子7の表面に結像して電気信号に変換される。
【0020】
近年の撮像機器の高画質化に伴い、NDフィルタ10の複屈折は小さいことが望まれている。複屈折とは、屈折率が方向により異なる材料を通る光が異常光線と常光線に分離する現象であり、材料固有の複屈折性と成形加工時の剪断力による分子配向や溶融した樹脂が固化するときに生ずる残留応力等に大きく依存する。この複屈折が大きいと、透過光が分離して結像点がずれるため、結像性能が低下するという問題がある。
【0021】
一般に、複屈折の大きさはリタデーション値(retardation:位相差)で表すことができる。リタデーション値とは上述した屈折率の差から生ずる光の速度の差であり、リタデーション値をRe[nm]は異常光線の屈折率をNe、常光線の屈折率をNo、複屈折物質の厚さをd[nm]とすると、次の式(1)で計算される。
【0022】
Re=d・(Ne−No) ・・・(1)
一般に、NDフィルタ10に用いられる透明樹脂基板であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムは、通常ではフィルム成形時に延伸加工されるため分子配向による複屈折が大きく、Re>100nmである。
【0023】
しかし、近年の撮像機器の高画質化に伴い、複屈折の小さい透明樹脂基板が求められるようになっている。
【0024】
また、透明樹脂基板のガラス転移温度は、蒸着時の蒸着源から受ける熱を考慮すると120℃以上あることが好ましい。
【0025】
上述したように、透明樹脂基板の屈折及びガラス転位温度が重要となり、上述した条件を満たす樹脂として、図2に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂が好適であり、図3はその一例を示している。
【0026】
本実施例においては、透明樹脂基板に図3に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を用いることにより、実用的な光学フィルタの板厚である25〜200μmで、リタデーション値Reを30nm以下にすることができる。また、図3に示すフルオレン構造を有するポリエステル樹脂のガラス転移温度は120℃以上であるため、皺の発生等の問題を回避する。同時に、後述するように高い屈折率を有することによる反射防止効果により、優れた光学フィルタとしての機能を期待できる。
【0027】
図4はNDフィルタ10を製造するための真空蒸着装置の概略図を示している。この蒸着チャンバ11内には回転自在な回転ドーム12が設けられ、この回転ドーム12にNDフィルタ10の基材となる透明樹脂基板を保持する蒸着治具13が配置されている。また、蒸着チャンバ11内には、蒸着するND膜の蒸着源としてAl2O3から成る蒸着源14及びTiOxから成る蒸着源15、反射防止膜の蒸着源としてMgF2から成る蒸着源16が設けられている。蒸着源14〜16の上方には、特定の蒸着源14〜16のみを蒸着させるためのシャッタ17が設けられ、蒸着チャンバ11の上部には蒸着膜の膜厚を測定するための光学モニタ18が配置されている。
【0028】
図5(a)は蒸着治具13の断面図、(b)は平面図を示し、蒸着治具13にはNDフィルタ10の基板となるフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板21が取り付けられ、スペーサ22を介することにより所定幅の開口部23を有する蒸着マスク24が配置されている。
【0029】
そして、回転ドーム12に蒸着治具13を透明樹脂基板21の成膜面が蒸着源14〜16に対向するように配置し、基板温度と膜厚を均一化するために、回転ドーム12と共に蒸着治具13を回転させながら成膜を行う。
【0030】
蒸着工程としては、先ず成膜前に蒸着チャンバ11内が真空状態に保持され、透明樹脂基板21がセットされた蒸着治具13が所定の温度に加熱される。そして、所定の圧力と温度に達すると、ND膜の1層目として蒸着源14を加熱し、蒸着材料であるAl2O3を蒸発させて蒸着治具13にセットした透明樹脂基板21上に所定の膜厚のAl2O3膜を成膜する。以降、必要に応じて蒸着源14〜16を切換えて、無機硬質膜であるND膜及び反射防止膜を成膜する。
【0031】
NDフィルタ10は高濃度のものほど必要な膜厚が厚くなり、それだけ蒸着時間が長くなり、蒸着源14〜16からの輻射熱を多く受けることになる。
【0032】
本実施例における最高濃度がND1.5(透過率3.2%)程度のNDフィルタ10における透明樹脂基板21の表面温度は、部分的に120℃近くまで達するため、従来のPET樹脂ではガラス転移温度を越え、皺等が発生してしまう場合がある。
【0033】
透明樹脂基板21の板厚は可能な限り薄く形成することが好ましい。これはNDフィルタ10を光量絞り装置2に組み込んで使用する際に、光量絞り装置2を小型化することができるためである。また、NDフィルタ10を軽量とすることにより、NDフィルタ10又はNDフィルタ10を取り付けた絞り羽根9aを駆動するための消費電力を少なくすることができる。ただし、透明樹脂基板21の板厚が薄くなり過ぎると、NDフィルタ10を生産する上で取り扱いが困難になり、必要な板厚は25〜200μmであり、好ましくは50〜100μmの範囲である。
【0034】
図6は蒸着マスク24を取り除いた状態のフレオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板21の平面図を示している。図5(a)に示すように透明樹脂基板21と蒸着マスク24の間にスペーサ22を介して間隔を設けることにより、透明樹脂基板21上に連続的に濃度が変化する濃度分布を有するND膜31を成膜することができる。続いて、蒸着マスク24を取り外し、透明樹脂基板21を取り付けた蒸着治具13を再度蒸着チャンバ11の回転ドーム12にセットする。そして、蒸着源16を加熱することにより、透明樹脂基板21の全面に誘電体膜である反射防止膜として、λ/4(λ=550nm)の膜厚のMgF2膜を成膜する。
【0035】
この後に、必要に応じて透明樹脂基板21を裏返して蒸着治具13に取り付けて、透明樹脂基板21の裏面に反射防止膜を形成してもよい。上述の反射防止膜32を成膜した後に、図7に示すように、NDフィルタの形状に切断することにより、グラデーション濃度を有するNDフィルタ10を得ることができる。
【0036】
図8(a)は本実施例におけるNDフィルタ10の断面模式図、図8(b)は(a)の断面領域における透過率分布図をそれぞれ示している。本実施例においては、低濃度の領域Aから高濃度の領域Dに連続的に光透過率が変化するグラデーションNDフィルタについて説明するが、単一濃度から成るNDフィルタや、異なる複数の濃度領域から成る多濃度NDフィルタにおいても同様の効果が得られる。
【0037】
領域A〜BにおいてはND膜31は成膜されず、領域B〜Dにおいては連続的に透過率が変化するグラデーション濃度のND膜31が成膜され、領域C〜Dにおいては、均一な濃度のND膜31が成膜されている。また、領域A〜Dの透明樹脂基板21全域の最表層には、均一の膜厚の誘電体膜である反射防止膜32が成膜されている。
【0038】
なお、領域A〜Bの範囲は、反射防止膜32のみ成膜した透明領域であり、この透明領域は光減衰効果は殆どないが、NDフィルタ10の厚みと屈折率に起因する結像面位置ずれを防止するために実際の撮影時にもフィルタとして使用される。本実施例のグラデーション濃度のNDフィルタ10はこのような透明領域を有するが、透明領域を有しないグラデーション濃度のNDフィルタでも本実施例と同様の効果が得られる。
【0039】
通常のデジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラに使用される光学フィルタにおいては、波長可視光領域である400〜700nmの範囲の反射率は低いほど好ましい。そのため、特に本実施例のNDフィルタ10のように透明領域を有するNDフィルタでは、通常ではこの透明領域に反射防止膜32が必要となる。
【0040】
図9は本実施例におけるNDフィルタ10の膜構成図を示している。透明樹脂基板21上には、反射率を低下させるための誘電体膜の反射防止層であるAl2O3膜と透過率を低下させるための光吸収層であるTiOx膜とを交互に8層積層した無機硬質膜であるND膜31が積層されている。そして、第8層のTiOx膜の上の最表層には、低屈折材料であるMgF2膜から成る反射防止膜32が光学膜厚n・d(n:屈折率、d:物理膜厚)、λ/4(λ=500〜600nm)で成膜されている。
【0041】
NDフィルタ10の透過率は、第2、4、6、8層の光吸収層であるTiOx膜の総膜厚によって変化し、膜厚が厚くなるほど透過率は低下する。TiOxのxの値は0〜2で、所望の光学特性により調整される。
【0042】
本実施例においては、図8(a)に示すように、各層の膜厚を連続的に変化させることにより領域B〜Cで連続的に透過率を変化させ、図8(b)に示す透過率分布になっている。
【0043】
また、本実施例においては、最表層の反射防止層にMgF2膜を用いたが、MgF2膜の代りに、SiO2膜等の低屈折材料を用いることもできる。一般的に、これらの反射防止膜32の成膜には真空蒸着法が用いられるが、イオンプレーティング法又はスパッタリング法等においても同様な効果を得ることができる。また、膜の材質、層数、膜厚等はこれに限定されるものではない。
【0044】
図10は屈折率の異なる透明樹脂基板に反射防止膜を成膜した場合の反射率のグラフ図を示している。実線は屈折率1.53のノルボルネン樹脂基板の上に反射防止膜32として、単層のMgF2膜をλ/4の膜厚で成膜したときの反射率を示している。点線は屈折率1.63のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂基板の上に、同様の反射防止膜32を成膜したときの反射率を示している。因みに、図示しないポリエチレンテレフタレート(PET)の屈折率は約1.57であり、上述の2つの基板の反射率の間の特性を示す。
【0045】
本実施例のNDフィルタ10においては、単層の反射防止膜32を使用しており、図10に示すように透明樹脂基板21の屈折率nが高い方が反射率が低減できる。図11に示すようように反射防止膜32の表層の反射光Aを、透明樹脂基板21と反射防止膜32との界面からの反射光Bが干渉により相殺している。従って、透明樹脂基板21と反射防止膜32の屈折率差が大きくなり、反射光Bが大きくなると干渉効果が高まる。
【0046】
単層の反射防止膜32を形成することの利点は、多層の反射防止膜と比較して短時間で成膜が完了し、熱の影響も低減できることである。更に、図8(a)に示すように、透明領域から高濃度領域にかけて全面的に反射防止膜32を成膜する場合には、高濃度領域の総膜厚が極度に厚くなり、膜応力からクラックが発生することを防止することができる。
【0047】
しかし、単層の反射防止膜32は多層の反射防止膜と比較して反射率が高くなり易く、上述した透明樹脂基板21の屈折率が重要となる。
【0048】
図10に示すように、従来のPETやノルボルネン等の樹脂と比較して、屈折率1.6以上のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂を使用した場合には、可視光域の中心波長である550nm前後の波長において、1%以下の反射率となる。
【0049】
このときの板厚dを100μmとした場合のリタデーション値Reは23nmとなり、図1に示す撮像光学系での撮影した結果、良好な撮像性能が得られた。また、このようなフルオレン構造を有するポリエステル樹脂は異なるグレードのもの存在し、それらを使用すると実用的なNDフィルタの板厚である200μmにおいても、リタデーション値Reを30nm以下にすることができる。
【0050】
なお、本実施例ではNDフィルタについて述べたが、フルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板上に無機硬質膜を成膜した光学フィルタであれば、同様の効果が得られる。例えば、積層膜を適宜変更することにより、赤外カットフィルタや紫外カットフィルタ等への応用も可能である。
【符号の説明】
【0051】
2 光量絞り装置
9a、9b 絞り羽根
10 NDフィルタ
11 蒸着チャンバ
12 回転ドーム
13 蒸着治具
14〜16 蒸着源
17 シャッタ
21 透明樹脂基板
24 蒸着マスク
31 ND膜
32 反射防止膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基板の上に少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜することにより透過光量を調節する光学フィルタにおいて、前記透明樹脂基板はフルオレン構造を有するポリエステル樹脂とし、該ポリエステル樹脂はガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記光学フィルタは光吸収層が形成された領域と前記誘電体膜だけが形成された領域とを有することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記光学フィルタは前記光吸収層の光透過率が連続的に変化する領域を有することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体膜は単層であり、前記光学フィルタの最表層に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタを用いたことを特徴とする光量調整装置。
【請求項6】
撮影光学系と、該撮影光学系に挿脱され透過光量を調節する光学フィルタと、光学像を電気信号に変換する撮像素子とから成る撮像装置において、前記光学フィルタは、ガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板の上に、少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜したことを特徴とする光学フィルタを用いた撮像装置。
【請求項7】
前記撮影光学系は絞り口径を形成する絞り部材を有し、前記光学フィルタは前記絞り部材に取り付けられることにより前記絞り部材と共に絞り口径を形成することを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【請求項1】
透明樹脂基板の上に少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜することにより透過光量を調節する光学フィルタにおいて、前記透明樹脂基板はフルオレン構造を有するポリエステル樹脂とし、該ポリエステル樹脂はガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下であることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記光学フィルタは光吸収層が形成された領域と前記誘電体膜だけが形成された領域とを有することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記光学フィルタは前記光吸収層の光透過率が連続的に変化する領域を有することを特徴とする請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記誘電体膜は単層であり、前記光学フィルタの最表層に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載の光学フィルタを用いたことを特徴とする光量調整装置。
【請求項6】
撮影光学系と、該撮影光学系に挿脱され透過光量を調節する光学フィルタと、光学像を電気信号に変換する撮像素子とから成る撮像装置において、前記光学フィルタは、ガラス転移温度が120℃以上で屈折率が1.6以上であり、リタデーション値が30nm以下のフルオレン構造を有するポリエステル樹脂から成る透明樹脂基板の上に、少なくとも誘電体膜を有する無機硬質膜を成膜したことを特徴とする光学フィルタを用いた撮像装置。
【請求項7】
前記撮影光学系は絞り口径を形成する絞り部材を有し、前記光学フィルタは前記絞り部材に取り付けられることにより前記絞り部材と共に絞り口径を形成することを特徴とする請求項6に記載の撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−266661(P2010−266661A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117560(P2009−117560)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]