説明

光学フィルタ

【課題】製造コストに優れる光学フィルタを提供する。
【解決手段】光学フィルタ10は、NDフィルタであり、透明基材1の一方の面の調光層2の上に帯電防止層3を印刷形成し、透明基材1の他方の面にも帯電防止層3を印刷形成してある。遮光層を兼ねる帯電防止層3の開口部31の端面を極力薄くでき、端面で入射光の一部が遮られて撮像した画像にケラレを生じさせることを抑える。帯電防止層3、3は、光学フィルタ10をカメラに組み込んだときに調光層2が直接に支持機構に接触することを避けるスペーサとして機能し、光学フィルタ10では、スペーサ部材を別途設ける必要がなく、部品点数を削減し、製造コストを抑えつつ、全体として薄型化をすすめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ等の光学系に利用される光学フィルタに関するものであり、特に湿式成膜技術を用いて形成された調光層を備える光学フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の撮像装置では、光量調整のために可視光域の光をほぼ均質に減衰させるND(ニュートラルデンシティー:Neutral Density)フィルタが用いられ、この種の光学フィルタは湿式成膜技術を用いて得ることができ、例えば、特許文献1に示されるように色素を分散した樹脂を透明基材上に塗布することによって得られる。
【0003】
また、特許文献2に示されるように、光学フィルタをカメラに組み込む際には、光学フィルタを一対のシート部材で挟持してフィルタ羽根として、シャッタ羽根とともに光量調整装置に組み込んでいる。光量調整装置はフィルタ羽根を揺動させる支持機構を備え、レンズ鏡筒と撮像素子との間でフィルタ羽根を進退させる。シート部材の開口部に光学フィルタを露出させて、この露出させた部分により光量を調整する。シート部材で光学フィルタを挟持することにより、シート部材がスペーサとして機能し、光学フィルタが支持機構に直接当接することがなく、フィルタ羽根の進退動作により光学フィルタの表面が傷つくことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−30203号公報
【特許文献2】特開2008−176062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に示されるように光学フィルタをシート部材で挟持したものでは、シート部材の開口部の端面で入射光の一部が遮られ、撮像した画像にケラレを生じさせる問題がある。シート部材の開口部の端面を極力薄くできればケラレの問題は抑えられるが、シート部材の開口部の端面を薄くすることは端面の欠けを抑えることとバラスさせる必要から困難である。また、光学フィルタをシート部材で挟持するのでは部品点数の増加となり、製造コストの面から好ましくない。
【0006】
また、基材及び各層に樹脂を用いた光学フィルタでは帯電によってゴミが付着してしまうという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学フィルタは、透明基材上に設けられてあり樹脂に色素を分散したインクを硬化させてなる調光層と、所定の開口部を除いて前記調光層上に設けられてあり、導電材料を分散させたインクを硬化させてなり、前記開口部を除く部分を遮光する帯電防止層と、を備えてあり、前記帯電防止層が前記開口部の周縁部において前記開口部の中心に向かい薄くなる断面形状を備えることを特徴とする。
【0008】
前記帯電防止層は、下層の調光層のインクと同系の樹脂のインクを用いることが好ましい。
【0009】
前記調光層、前記帯電防止層の上に反射防止層を設けたことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、透明基材に形成された調光層上に、開口部を除いて遮光性を備えた帯電防止層を印刷形成することにより、開口部の周縁部において前記開口部の中心に向かい薄くなる断面形状を備える帯電防止層を得ることができる。これにより、帯電防止機能によってゴミ付着を防止するとともに、遮光層を兼ねる帯電防止層の開口部の周縁部、すなわち、開口部の端面を極力薄くでき、端面で入射光の一部が遮られ、撮像した画像にケラレを生じさせることを抑えることが可能となる。また、部品点数を削減し、製造コストを抑えることが可能となる。
【0011】
帯電防止層に、下層の調光層のインクと同系の樹脂のインクを用いて帯電防止層と下層との密着性を高めることにより、開口部の周縁部において極力薄い端面の帯電防止層を実現することが可能となる。
【0012】
また、調光層、帯電防止層上に反射防止層を設けることにより、製造工程を抑えつつ、開口部の端面での反射を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施形態に係わる光学フィルタの概略断面図である。
【図2】図2は本発明の実施形態に係わる光学フィルタの概略平面図である。
【図3】図3は本発明の実施形態に係わる光学フィルタを用いたフィルタ羽根の概略平面図である。
【図4】図4は本発明の他の実施形態に係わる光学フィルタの概略断面図である。
【図5】図5は本発明の他の実施形態に係わる光学フィルタを用いたフィルタ羽根の概略平面図である。
【図6】図6は本発明の他の実施形態に係わる光学フィルタを用いたフィルタ羽根の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施形態の光学フィルタの概略断面図であって、本例の光学フィルタ10はNDフィルタであり、透明基材1の一方の面に調光層2を印刷成してあり、その上に帯電防止層3を印刷形成し、透明基材1の他方の面にも帯電防止層3を印刷形成し、その後に両面全体に反射防止層4、4を塗布形成してある。
【0015】
透明基材1は、PET(Polyethylene Terephthalate)からなり、25μm〜100μmから適宜に選択された厚さである。
【0016】
調光層2は、例えば、2層構成の調光層から構成する。一層目の調光層は、5μm〜100μmから適宜に選択された厚さの樹脂層で、次のように形成される。樹脂としてポリエステル系の2液硬化型インクを用いてあり、この樹脂に、青色色素と、赤外線吸収剤とを、樹脂に対する溶解度の許容範囲で適宜に溶解させる。青色色素としては、例えば、アンスラキノン系染料を用い、赤外線吸収剤としては、例えば、ジイモニウム系、アミニウム塩系、フタロシアニン系の光学材料を用いる。二層目の調光層に溶解する黒色色素と、一層目の調光層に溶解する青色色素と、赤外線吸収剤とは、最終的なNDフィルタが可視光領域で波長依存性のない均一な調光を実現するように定量されている。以上のように色素を溶解した樹脂を透明基材1上に印刷し、硬化させて一層目の調光層を形成する。二層目の調光層は、5μm〜100μmから適宜に選択された厚さの樹脂層で、次のように形成される。樹脂としてポリエステル系の2液硬化型インクを用いてあり、この樹脂に、黒色色素、例えば、アジン系染料を樹脂に対する溶解度の許容範囲で適宜に溶解させてインクとする。このインクを一層目の調光層上に印刷し、硬化させて二層目の調光層が形成される。調光層2は、二層構成に限らず、所望の光の減衰特性を得るための青色色素、赤外線吸収剤、黒色色素等の混合物を一度に樹脂に分散させて調光層を印刷形成することができる条件では一層の調光層により形成してもよいし、二層より多層の調光層から構成してもよい。
【0017】
帯電防止層3は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の遮光性と導電性とを兼ね備えた材料やPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)等の導電材料に適宜にカーボンブラック、チタンブラック、アニリンブラック等の遮光性を備えた材料を加えたものに調光層2のインクの樹脂と同系のポリエステル系の樹脂に分散させたインクを調光層2上に印刷し、熱硬化してなる。カーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブは、樹脂との混合物に対して5〜50wt%とし、帯電防止層3Aの厚さは1〜50μmから適宜に選択された厚さとする。
【0018】
透明基材1の他方の面の帯電防止層3は、帯電防止層3と同様の材料より同様に印刷形成されたものである。帯電防止層3、3は、開口部31を除いて設けられている。図1は、図2に示す光学フィルタ10の平面図のA−A線断面図である。光学フィルタ10は、例えば、カメラに組み込む場合には図3の平面図に示すような羽根形状に抜き加工される。図3に示す羽根形状に加工された光学フィルタ10をフィルタ羽根という。図示して詳述しないが、カメラ内部においてフィルタ羽根は支持機構によりレンズの光軸に対して進退されるもので、軸穴11を中心として支持され、カム穴12にカムを受けて軸穴11を中心に揺動し、開口部31がレンズの光軸に配置されて撮像素子に入射する光量を減衰させる。
【0019】
開口部31以外の領域を遮光する遮光層を兼ねる帯電防止層3を印刷形成してある。印刷時に帯電防止層3の開口部31の周縁部に向かうに従ってインク量を少なくするなど、帯電防止層3の開口部31の周縁部のインク量を調整することにより、帯電防止層3の断面形状を開口部31の中心に向かい薄くなる断面形状としてある。これにより、帯電防止層3の開口部31の周縁部を極力薄くでき、周縁部を所謂ナイフエッジと称される形状とできる。また、帯電防止層3の樹脂を調光層2の樹脂と同系の樹脂とすることにより熱膨張、熱収縮の影響による層の割れを防ぐことができ、調光層2上に良好に帯電防止層3を印刷形成できる。この樹脂に界面活性剤を添加することにより、ぬれ性を高めて調光層2上にさらに良好に帯電防止層3を形成でき、調光層2と帯電防止層3との密着性を高め、開口部31の周縁部においてより薄い端面を得ることが可能となる。
【0020】
反射防止膜4、4は、フッ化アクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂等からなるインクを帯電防止層4、4上に塗布し、熱硬化してなり、50nm〜100nmから適宜に選択された厚さである。このインクが上述の第3のインクである。
【0021】
光学フィルタ10では、帯電防止層3の帯電防止機能によってゴミ付着を防止するとともに、遮光層を兼ねる帯電防止層3の開口部の周縁部、すなわち、開口部31の端面を極力薄くでき、周縁部はナイフエッジとなり、端面で入射光の一部が遮られ、撮像した画像にケラレを生じさせることを抑えることが可能となる。また、帯電防止層3、3は、光学フィルタ10をカメラに組み込んだときに調光層2が直接に支持機構に接触することを避けるスペーサとして機能する。このため、光学フィルタ10では、そのようなスペーサをスペーサ部材として別途設ける必要がなく、部品点数を削減し、製造コストを抑えることが可能となり、また、全体として薄型化をすすめることが可能となる。
【0022】
本発明は上述した実形態に限らず様々な変更が可能であり、例えば、図4に示す光学フィルタ20のように、上述の透明基材1の両面に上述の調光層2、2を設けるようにしてもよい。
【0023】
また、開口部31は、帯電防止層3、3の印刷パターンによって形成されるため、容易に適宜な形状が得られる。例えば、図5に示すように互いに開口径の異なる複数の開口部32を備えるようなフィルタ羽根を構成することもできる。また、図6に示すようにカメラで撮像した画像においてフレアによる視覚効果を獲るため、星型の開口部33を備えるフィルタ羽根を構成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
デジタルカメラ、ビデオカメラ等の光学系において利用されるNDフィルタ、カラーフィルタ、赤外線カットフィルタ等の光学フィルタに適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 透明基材
2 調光層
3 帯電防止層
4 反射防止層
10 光学フィルタ
20 光学フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に設けられてあり樹脂に色素を分散したインクを硬化させてなる調光層と、
所定の開口部を除いて前記調光層上に設けられてあり、導電材料を分散させたインクを硬化させてなり、前記開口部を除く部分を遮光する帯電防止層と、を備えてあり、
前記帯電防止層が前記開口部の周縁部において前記開口部の中心に向かい薄くなる断面形状を備える
ことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記帯電防止層は、前記調光層のインクと同系の樹脂のインクを用いることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記調光層、前記帯電防止層の上に反射防止層を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−237544(P2010−237544A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86760(P2009−86760)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】