説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルム、偏光板及び表示装置

【課題】減圧室に飛散する固化防止液を十分に捕捉し、流延膜への付着が無く、平滑性の良い表面を有する光学フィルムの製造方法及び該製造方法を用いて製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することを目的としている。
【解決手段】減圧室が、流延膜の幅方向に、3つ以上の部屋に分割され、流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなるように減圧した状態で、ドープ流出口から流延膜を支持体上に流延することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法、該製造方法によって得られる光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車搭載用の液晶ディスプレイ、大型液晶テレビのディスプレイ、携帯電話、ノートパソコン等の普及から液晶表示装置の需要が増えてきている。液晶表示装置は、従来のCRT表示装置に比べて、省スペース、省エネルギーであることからモニターとして広く使用されている。さらにTV用としても普及が進んできている。このような液晶表示装置には、光学フィルムが使用され、その需要が急増してきている。
【0003】
ところで、液晶表示装置に用いられる光学フィルムとして、例えば偏光板の偏光フィルムは、延伸ポリビニルアルコールフィルムから成る偏光子の片面または両面にセルロースエステルフィルムが保護膜として積層されている。
【0004】
このような光学フィルムでは、光学的な欠陥がなく、平滑な表面であることが要求される。特に、モニターやTVの大型化や高精細化が進み、これらの要求品質は、ますます厳しくなってきている。
【0005】
光学フィルムの製造方法に溶液流延製膜法がある。この方法は、樹脂を溶媒に溶かして、その溶液(ドープ)を流延ダイのドープ流出口から支持体上に流延し、支持体上で所定量の溶媒を蒸発させた後、支持体から剥離し、さらに必要に応じて延伸して、フィルムを作製する方法である。
【0006】
生産性を上げるために支持体の移動速度を速くすると、ドープ流出口から支持体上に流延されるドープの膜(流延膜ともいう。)と支持体との密着性が悪くなり、支持体上に届くまでのドープ膜がバタツキ、平面性の悪いフィルムができるという問題があった。その対策として、ドープ流出口の支持体移動方向上流側に減圧室を設け、ドープ膜が支持体に密着させる方法が用いられている。
【0007】
また、樹脂溶液は流延膜として支持体上で所定の濃度まで乾燥されるが、流延膜端部が、流延膜中央部分に比べ、所定濃度以上に乾燥されるため、支持体上に皮膜として残留する場合がある。この皮膜は、剥離の妨げになり、フィルム端部の形状が変形し、平面性を悪くすることがあった。また、うまく剥離できなかった皮膜は、次の流延膜の中央部分に飛散したりして、異物故障の原因となっていた。
【0008】
このような問題を解決するために、原料樹脂を溶解する液体(固化防止液とも呼ぶ。)をドープ流出口の両端部から流延膜の端部に流下することで、流延膜の端部の乾燥による皮膜の形成を防止する方法が知られている。
【0009】
しかし、ドープ流出口の支持体移動方向上流側には、ドープ流出口から流出される流延膜が、支持体表面に密着するように減圧室が設けられているため、この減圧室に固化防止液が吸い込まれ、吸い込まれた固化防止液が減圧室内で飛散し、飛散した固化防止液が、減圧室の両端部ではないところで支持体上に落下して、流延膜に混入する。この混入によって、流延膜の表面が変形し、作製したフィルム表面に丸又は楕円状の変形模様が発生するという問題が発生した。
【0010】
このような問題に対して、特許文献1においては、減圧室に固化防止液の飛散を防止する飛散防止部材を設け、飛散防止部材に付着した固化防止液を桶に溜め、溜まった液をパイプで回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−276458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の方法を用いても、減圧室に飛散する固化防止液を十分に捕捉することができず、フィルム表面の変形模様を問題のないレベルまで無くすことができなかった。本発明者は、減圧室内での固化防止液の飛散状況を検討した結果、減圧室内の気流が、流延膜の幅方向の端部から中央部側に向かう方向に発生する場合、固化防止液が支持体上に付着していることを突き止めた。
【0013】
よって、本発明は固化防止液をドープ流出口の両端部に流下する際、減圧室に飛散する固化防止液を十分に捕捉し、流延膜への付着が無く、平滑性の良い表面を有する光学フィルムの製造方法及び該製造方法を用いて製造した光学フィルム、該光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0015】
1.樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、移動する支持体上に流延する際、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧室を減圧して流延し、かつ、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に流下する光学フィルムの製造方法において、
前記減圧室が、前記流延膜の幅方向に、3つ以上の部屋に分割され、
前記流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなるように減圧した状態で、
前記ドープ流出口から前記流延膜を前記支持体上に流延することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0016】
2.前記流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、前記隣り合う中央部側の部屋の気圧より、10〜500Pa低いことを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0017】
3.前記部屋の内壁の表面が、プラズマ放電処理、紫外線照射処理及びコロナ放電処理から選ばれる少なくとも一つの処理で表面処理され、
前記表面処理をした表面と純水との接触角が5°〜30°であることを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0018】
4.前記部屋の内壁の表面の10点平均粗さRzが、1〜50μmであることを特徴とする前記1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0019】
5.前記部屋の内壁の表面が網目状であることを特徴とする前記1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0020】
6.前記部屋の内壁の表面が、0.02〜0.5mmの目開きの網目状であることを特徴とする前記5に記載の光学フィルムの製造方法。
【0021】
7.前記1から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【0022】
8.前記7に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【0023】
9.前記8に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、減圧室が流延膜の幅方向に3つ以上の部屋に分割され、流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなるように減圧した状態に設定しているので、中央部側から端部に向かう気流が発生する。この気流によって、固化防止液をドープ流出口の両端部に流下する際に減圧室に吸い込まれて減圧室内で飛散する固化防止液が、減圧室の中央部に向かうのを阻止され、端部の部屋に集められ、吸引されて、中央部付近で減圧室から支持体上に落下し流延膜に混入するのを防止していると考えられる。よって本発明の光学フィルムの製造方法を用いることにより、固化防止液の流延膜への混入がなく、平滑性の良い表面を有する光学フィルムを得ることができ、また、該製造方法により製造した光学フィルムを用いた偏光板、表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明の光学フィルムの製造方法におけるドープの流延工程を示す概略図である。
【図3】本発明の光学フィルムの製造方法における支持体側から見た流延ダイと減圧室、固化防止液の滴下ノズルの配置状況を示す。
【図4】本発明に係る遮蔽板の表面形状を示す概略図である。
【図5】本発明に係る減圧室内壁の表面のプラズマ処理装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法における流延工程から巻き取り工程までのフローの一例を示す概略図である。樹脂原料を溶媒に溶解したドープ(樹脂溶液)を流延ダイ1から支持体2上に流延し(流延工程)、支持体2上にされた流延膜3は、支持体2上で所定の濃度に乾燥された後、剥離ロール4により支持体2から剥離される(剥離工程)。その後初期乾燥装置13で乾燥された後(初期乾燥工程)、延伸装置14で延伸され、更に後乾燥装置15で乾燥し(後乾燥工程)、巻き取り装置18で巻きとられる(巻き取り工程)。
【0028】
図2は、支持体2上に流延ダイ1によりドープを流延する流延工程の拡大図である。
【0029】
本発明の光学フィルムの製造方法は、流延工程において、樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイ1のドープ流出口1aから、移動する支持体2上に流延して、流延膜3を形成する工程において、流延膜3の両端部が支持体2上で固化し皮膜を形成するのを防止するために、液貯蔵槽32に貯蔵された、ドープに用いられた樹脂を溶解する液体(固化防止液)33をドープ流出口1aの両端部から流延膜3に、ポンプ31と滴下ノズル30を用いて流下し、ドープ流出口1aの支持体2の移動方向上流側を減圧状態に保持する減圧室10を有し、該減圧室10が、流延膜3の幅方向に、遮蔽板により3つ以上の部屋に分割され、該3つ以上の部屋のうち、流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなることを特徴とするものである。
【0030】
図3は、支持体2側から見た流延ダイ1と5つの部屋に分割された減圧室10、固化防止液の滴下ノズル30の配置状況を示す概略図である。滴下ノズル30から滴下される固化防止液33は、流延ダイ1のドープ流出口1aの幅方向両端部に供給される。減圧室10は、ドープ流出口1aの幅方向で、遮蔽板70により、5つの部屋10a、10b、10c、10d、10eに分割されている。遮蔽板70と支持体2とは、所定の距離だけ離れている。遮蔽板70により分割された5つの部屋のうち、流延膜3の幅方向の端部の部屋10a、10eの気圧が、隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧より低くなるように各吸引口101により減圧されている。
【0031】
このように流延膜3の幅方向の端部の部屋10a、10eの気圧を低くすることで、減圧室の端部の部屋10a、10eと支持体2との間の気体の流れが、隣り合う中央部側の部屋10b、10dに向かうことがなく、端部の部屋10a、10eに飛散した固化防止液を効果的に集めることができるので、固化防止液の流延膜への付着を防止でき、製品フィルムの平滑性を向上させることができると考えられる。
【0032】
また、流延膜3の幅方向の端部の部屋10a、10eの気圧が、隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧より、10〜500Pa低いことが更に好ましい。気圧の差が10〜500Paの範囲であると、より安定した気流の流れを作ることができ、好ましい。
【0033】
また、減圧室の各部屋の気圧の差の設け方は、中央の部屋から両端の部屋に向かって、徐々に低くなるようにしても良い。また気圧の差の分布を幅手方向に対称とせず偏らせても良い。
【0034】
また、各部屋の内壁の表面が、プラズマ放電処理、紫外線照射処理及びコロナ放電処理から選ばれる少なくとも一つの処理で表面処理され、その表面処理された表面と純水との接触角が5°〜30°以下であることが好ましい。このような処理により、飛散した固化防止液が壁面になじみ易くなり、濡れ広がることにより、濡れ表面積が大きくなる。その結果、固化防止液の乾燥速度が速くなって、回収部材をつけなくても、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましい。処理方法については、本発明の目的に反しない限り、適当な方法を用いることができる。例えば、各部屋の内壁を構成する部材をコロナ又はプラズマ放電している中に挿入する方法や、コロナ又はプラズマ放電している電極を処理する部材表面に近づけて行う方法などが挙げられる。また、紫外線照射処理においては、低圧水銀灯などを用い短波長(例えば、200〜300nm程度の波長)の紫外線を部屋の内壁を構成する部材に照射するのがより好ましい。
【0035】
接触角は一般的に、固体、液体とその飽和蒸気を接触させたとき、3層の接触点で液体に引いた折線と固体面のなす角のうち液体を含む側の角で表され、固体表面の液体による濡れを表す尺度として広く用いられている。接触角の測定は、部材の表面に純水を5μl垂らし、測定装置(エルマ工業(株)製ゴニオメーター エルマーG1を用いた)により温度23℃において、接触角を測定することができる。
【0036】
また、部屋の内壁の表面の10点平均粗さRzが、1〜50μmであることが好ましい。表面の10点平均粗さRzを1〜50μmの範囲にすることで、飛散した固化防止液が壁面になじみ易くなり、濡れ広がることで、濡れ表面積が大きくなる。その結果、固化防止液の乾燥速度が速くなって、回収部材をつけなくても、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましい。Rzの測定は、JIS B 0601−1994に記載されているように、触針式表面粗さ計を用いて測定することができる。表面の10点平均粗さRzの測定条件として、カットオフは0.25mm、測定長は4mmとした。
【0037】
また、部屋の内壁の表面が網目状であることが好ましい。内壁の表面を網目状とすることにより、飛散した固化防止液が壁面になじみ易くなり、濡れ広がることで、濡れ表面積が大きくなる。その結果、固化防止液の乾燥速度が速くなって、回収部材をつけなくても、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましい。遮蔽板の表面に網目状の模様を形成した例を図4に示す。例えば、100μm幅、深さ50μmの溝を縦横に格子状にピッチ254μmで形成し、網目状にすることができる。また、内壁の表面に網を貼り付けることでも、表面を網目状にすることができる。この場合、内壁の網目状は、0.02〜0.5mmの目開きの網目であることが、より好ましい。網目が0.02〜0.5mmの目開きであることで、より飛散した固化防止液の支持体への付着を防止することができる。部屋の内壁を網目状にする方法は、本発明の目的に反しない限り、特に限定するものではなく、例えば、所定の厚さの網を内壁に貼り付ける方法や、内壁に網目状の凹凸を形成する方法が好ましい。
【0038】
部屋の内壁の材料としては、特に限定するものではないが、表面と純水との接触角が低いものが好ましく、金属材料や樹脂材料、金属材料の表面に樹脂層を形成したもの等を用いることができる。
【0039】
つぎに、本発明の光学フィルム製造方法について、図1を用いてさらに詳しく説明する。
【0040】
本発明の溶液流延製膜法を用いた光学フィルムの製造方法による実施形態としては、ドープ調製工程(不図示)、流延工程、剥離工程、乾燥工程、および巻取り工程を具備するものである。
【0041】
すなわち、本実施形態の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、樹脂フィルム原料を溶媒に溶解したドープ(樹脂溶液)を、流延ダイから、例えば幅1.8m以上の回転駆動金属製エンドレスベルト(ベルト支持体)上に流延し、その後ベルト支持体上から剥離した流延膜(フィルム)を乾燥させた後、巻き取り、光学フィルムを製造する方法である。各工程について説明する。
【0042】
[ドープ調製工程]
本発明において、樹脂フィルム原料としては、セルロースエステルが好ましく用いられ、樹脂フィルム原料としてセルロースエステルを用いた場合、溶媒としてはメチレンクロライドとアルコールの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0043】
その他、ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、マット剤等がある。本発明において、これらの添加剤はセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、マット剤等の分散液の調製の際に添加してもよい。
【0044】
以下に、光学フィルムの樹脂がセルロースエステルである場合の例を示すが、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0045】
まず、セルロースエステルの溶解は、溶解釜中での撹拌溶解方法、加熱溶解方法、超音波溶解方法等の手段が通常用いられ、加圧下で、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱し、攪拌しながら溶解する方法が、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため、より好ましい。また、特開平9−95538号公報記載の冷却溶解方法、あるいはまた特開平11−21379号公報記載の高圧下で溶解する方法なども用いてもよい。
【0046】
セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤、あるいは膨潤させた後、さらに良溶剤と混合して溶解する方法も好ましく用いられる。このとき、セルロースエステルを貧溶媒と混合して湿潤あるいは膨潤させる装置と、良溶剤と混合して溶解する装置を別々に分けても良い。
【0047】
セルロースエステルの溶解に用いる加圧容器の種類は、特に問うところではなく、所定の圧力に耐えることができ、加圧下で加熱、攪拌ができればよい。加圧容器には、その他、圧力計、温度計などの計器類を適宜配設する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0048】
溶剤を添加しての加熱温度は、使用する溶剤の沸点以上で、2種類以上の混合溶剤の場合は、沸点が低い方の溶剤の沸点以上の温度に加温しかつ該溶剤が沸騰しない範囲の温度が好ましい。加熱温度が高すぎると、必要とされる圧力が大きくなり、生産性が悪くなる。好ましい加熱温度の範囲は20〜120℃であり、30〜100℃が、より好ましく、40〜80℃の範囲がさらに好ましい。また圧力は、設定温度で、溶剤が沸騰しないように調整される。
【0049】
セルロースエステルの溶解後は、冷却しながら容器から取り出すか、または容器からポンプ等で抜き出して、熱交換器などで冷却し、得られた樹脂のドープを製膜に供するが、このときの冷却温度は、常温まで冷却してもよい。
【0050】
原料セルロースエステルと溶媒の混合物は、撹拌機を有する溶解装置で溶解し、このとき、撹拌翼の周速は少なくとも0.5m/秒以上で、かつ30分以上撹拌して溶解することが好ましい。
【0051】
本発明において、セルロースエステルドープは、これを濾過することによって、異物、特に液晶画像表示装置において、画像と認識し間違う異物は、これを除去しなければならない。
【0052】
濾過に使用する濾材は、絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行わなければならず、生産性を低下させるという問題点ある。
【0053】
このため、セルロースエステルドープに使用する濾材は、絶対濾過精度0.008mm以下のものが好ましく、0.001〜0.008mmの範囲が、より好ましく、0.003〜0.006mmの範囲の濾材がさらに好ましい。
【0054】
濾材の材質には、特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0055】
セルロースエステルドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上でかつ溶剤が沸騰しない範囲の温度で加圧下加熱しながら濾過する方法が、濾過材前後の差圧(以下、濾圧とすることがある)の上昇が小さく、好ましい。
【0056】
好ましい温度範囲は45〜120℃であり、45〜70℃が、より好ましく、45〜55℃の範囲であることがさらに好ましい。
【0057】
濾圧は、3500kPa以下であることが好ましく、3000kPa以下が、より好ましく、2500kPa以下であることがさらに好ましい。なお、濾圧は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
【0058】
[流延工程]
まず、流延工程は、溶解釜で調整されたドープを、導管によって流延ダイ1に送液し、無限に移送する例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体2上の流延位置に、流延ダイ1からドープを流延する工程である。
【0059】
流延ダイ1としては、ドープ流出口1aのスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0060】
流延ダイ1のドープ流出口1aと支持体2表面との間隙は、0.2〜10mmの間隙を取って設置されるのが好ましく、さらに0.5〜5mmの間隙が、より好ましい。
【0061】
流延ダイ1のスリットのギャップは0.05〜1.5mmが好ましく、0.15〜1.0mmが、より好ましい。
【0062】
つぎに、支持体2について説明する。
【0063】
支持体2の表面粗さRaは、0.0001〜1μmであり、0.0003〜0.1μmが、より好ましく、0.0005〜0.05μmがさらに好ましい。
【0064】
支持体2として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該ベルト支持体2は一対のドラム19およびその中間に配置されかつエンドレスベルト支持体2の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数のロール(図示略)より構成される。この複数のロールはサポートロールと呼ばれ、隣り合うサポートロール同士の間の距離が0mより大きく、5m以下の範囲内、好ましくは1〜5m、望ましくは2〜5mにすることが望ましい。
【0065】
また、回転駆動エンドレスベルト支持体2の両端巻回部のドラム19の一方、もしくは両方に、ベルト支持体2に張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってベルト支持体2は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0066】
支持体2としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0067】
また、本発明においては、流延膜3の両端部が支持体2上で固化し皮膜を形成するのを防止するために、ドープに用いた樹脂を溶解する液体(固化防止液)をドープ流出口1aの両端部から流延膜に流下し、ドープ流出口1aの支持体2の移動方向上流側を減圧状態に保持する減圧室10を設け、該減圧室が、前記流延膜の幅方向に、遮蔽板により5つの部屋10a〜10eに分割され、各部屋10a〜10eのうち、流延膜の幅方向の端部の部屋10a、10eの気圧が、隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧より低くなるようにしている。減圧室の構成、設定条件については、すでに述べているので、ここでの説明は省く。減圧室10は、支持体2搬送速度が10m/分以上では、流延ダイ1のリップから出てくる流延膜3に減圧を掛けてエア混入や、フィルム幅手方向に横段状のスジをつくる原因となる流延リボンのばたつきを抑制するために設けているが、減圧室10を設けたために、ドープに用いた樹脂を溶解する液体(固化防止液)を減圧室10に巻き込む。巻き込まれた固化防止液は、減圧室の各部屋の内壁に付着、一部は支持体表面に付着してその模様がフィルムに転写し品質故障を招くが、本発明の減圧室10の構成及び条件により、減圧室10に飛散した固化防止液を端部の部屋で吸引除去でき、再度支持体2表面に付着することがない。
【0068】
固化防止液としては、ドープに用いた樹脂を溶解するものであれば、特に限定するものではないが、ドープに使用した溶媒を用いるのが好ましく、より好ましくは、ドープと同じ溶媒組成のものを用いるのが良い。ドープと同じ組成の溶媒を用いることにより、流延膜3に流下しても、膜面での溶媒蒸発速度が均一になり、より均一な流延膜を形成することができる。
【0069】
セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。上記アルコールは、固化防止液を流延膜に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から流延膜を剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いることができる。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0070】
減圧室の各部屋の気圧は、大気圧よりも10〜800Pa減圧するのが好ましい。
【0071】
減圧室の下部端面と、支持体2表面との間隙は、0.5〜5mmの範囲が吸引風量が大きくなり過ぎず、それにより、流延ダイ1リップ端部のドープ乾燥皮膜の発生が抑制されるため望ましい。
【0072】
また、製膜速度を上げるために、加圧流延ダイ1を流延用支持体2上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
【0073】
支持体2上へドープを流延する際は、原料樹脂の溶解に用いた溶剤の沸点未満、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度に制御するのが好ましい。
【0074】
支持体2としてエンドレスベルトを用いる方式においては、支持体2上では、流延膜3が支持体2から剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、流延膜3中の残留溶媒量が150質量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120質量%が、より好ましい。また、支持体2から流延膜3を剥離するときの流延膜温度は、0〜30℃が好ましい。また、流延膜3は、支持体2からの剥離直後に、支持体2密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時の流延膜温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0075】
エンドレスベルト支持体2上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(流延膜)を、支持体2上で加熱し、支持体2から流延膜が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、流延膜側から風を吹かせる方法、支持体2の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0076】
[剥離工程]
支持体2にエンドレスベルトを用いる方式においては、支持体2と流延膜3を剥離する際の剥離張力は、流延膜幅1m当たりの張力として、剥離の際に流延膜3にシワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170Nで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140Nで剥離することである。
【0077】
[乾燥工程]
支持体2にエンドレスベルトを用いる方式においては、剥離後の流延膜3は初期乾燥装置13に導入する。初期乾燥装置13内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロール17によって流延膜3が蛇行せられ、その間に流延膜3は初期乾燥装置13の底の前寄り部分から吹込まれ、初期乾燥装置13の天井の後寄り部分から排出せられる温風26によって乾燥される。
【0078】
使用するロールの直径は85〜300mmが好ましく、100〜200mmがより好ましい。
【0079】
その後、後乾燥装置15で後乾燥する。後乾燥装置15内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロール17によって流延膜3が蛇行せられ、その間に流延膜3が乾燥せられるものである。また、後乾燥装置15でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、後乾燥装置15での温度等に影響を受けるが、流延膜幅1m当たりの張力として、30〜250Nが好ましく、60〜150Nがさらに好ましい。80〜120Nが最も好ましい。
【0080】
なお、流延膜3(またはフィルム)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば後乾燥装置15の底の前寄り部分から吹込まれ、後乾燥装置15の天井の後寄り部分から排出せられる温風25によって乾燥される。乾燥温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0081】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0082】
次に、エンボス工程、除電工程を設けることができる。
【0083】
後乾燥工程後の流延膜3の両側縁部に設けるエンボスについて説明する。後乾燥工程を終えた樹脂フィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、エンボス加工装置60によりフィルムにエンボスを形成する加工が行われる。
【0084】
ここで、エンボスの高さは、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅は、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μm、フィルム幅100cmであるとき、エンボス31の高さは2〜12μm、幅は5〜30mmに設定する。エンボスは、フィルムの両面に形成してもよい。
【0085】
巻取前及び巻取部直後に除電器を設置し、フィルムを除電するのが好ましい。
【0086】
除電器は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が±2kV以下となるように、巻取時に除電装置あるいは強制帯電装置により逆電位を与える構成で行うことができるが、強制帯電電位が、1〜150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもできる。
【0087】
また、上記の除電器に代えて、イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することができる。ここで、イオナイザー除電は、エンボス加工装置から搬送ロールを経て巻き取られていくフィルムに向けてイオン風を吹き付けることによって行われる。イオン風は、除電器により発生される。除電器としては、公知のものを制限なく用いることができる。
【0088】
製膜巻取り時の除電は、元巻を再繰出しして機能性膜塗工する際、帯電電位が±2kV以上あると塗布ムラを誘発するためであり、特に薄膜、高速化を追求した場合、再繰り出し時のフィルム剥離帯電が高くなるため、製膜時除電は必須となる。
【0089】
[巻き取り工程]
乾燥が終了した流延膜3は、フィルムとして巻取り装置18によって巻き取られる。光学フィルムの元巻を得る工程である。乾燥を終了するフィルム20の残留溶媒量は、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0090】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0091】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0092】
本発明の製造方法により製造された光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化とフィルム強度の観点から、仕上がりフィルムとして10〜150μmの範囲に調整するのが好ましく、さらに20〜100μmの範囲の範囲に調整するのがより好ましく、特に25〜80μmの範囲の範囲に調整するのが好ましい。
【0093】
次に、本発明の製造方法により作製されたセルロースエステルフィルムは、偏光板および表示装置に用いることができる。
【0094】
本発明における偏光板は、本発明により製造された光学フィルムよりなる偏光板用保護フィルムを、少なくとも一方の面に有するものである。
【0095】
そして、本発明において、液晶表示装置は、上記の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有するものである。
【0096】
つぎに、これらの偏光板、および該偏光板を用いた液晶表示装置について説明する。
【0097】
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明によるセルロースエステルフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明によるセルロースエステルフィルムを用いても、別の偏光板用保護フィルムを用いてもよい。本発明によるセルロースエステルフィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板用保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることができる。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UX−RHA−N(以上、コニカミノルタオプト株式会社製)等が好ましく用いられる。あるいは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板用保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低いため、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0098】
本発明の偏光板は、本発明によるセルロースエステルフィルムを偏光子の少なくとも片側に偏光板用保護フィルムとして使用したものである。その際、該セルロースエステルフィルムの遅相軸が偏光子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
【0099】
この偏光板が、横電界スイッチングモード型である液晶セルを挟んで配置される一方の偏光板として、本発明によるセルロースエステルフィルムが液晶表示セル側に配置されることが好ましい。
【0100】
偏光板に好ましく用いられる偏光子としては、ポリビニルアルコール系偏光フィルムが挙げられ、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。ポリビニルアルコール系フィルムとしては、エチレンで変性された変性ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく用いられる。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0101】
偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光子の面上に、本発明によるセルロースエステルフィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。また、セルロースエステルフィルム以外の樹脂フィルムの場合は、適当な粘着層を介して偏光板に接着加工することができる。
【0102】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと、延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸に対して直交する方向(通常は幅手方向)には伸びる。偏光板用保護フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光子の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板用保護フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板用保護フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明によるセルロースエステルフィルムは、表面にムラが無く平滑性に優れるため、このような偏光板用保護フィルムとして好適に使用される。
【0103】
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
(液晶表示装置)
本発明により作製された光学フィルムが用いられた偏光板を液晶表示装置に組み込むことによって、種々の視認性に優れた液晶表示装置を作製することができる。
【0104】
ここで、液晶表示装置は、一般に、光反射板、バックライト、導光板、光拡散板に隣接して、偏光板すなわち偏光散乱異方性を有する偏光板保護フィルム/二色性物質による光吸収作用を利用した二色性偏光フィルム/偏光板保護フィルムの構成、及び液晶表示パネル、視認側偏光板の順に積層された構成をとることが好ましい。
【0105】
本発明により作製された光学フィルムは、反射型、透過型、半透過型LCDあるいはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられ、色むら、ぎらつきや波打ちムラが少なく、長時間の鑑賞でも目が疲れないという効果があった。
【0106】
このように、本発明により作製された光学フィルムを用いた偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有する液晶表示装置は、表示品質が非常に優れているものである。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を用いた光学フィルムの製造方法により実施した例を示すが、本発明はこれにより限定されるものではない。
(実施例1〜5、比較例1、2)
(溶液流延製膜のドープ調製)
下記の素材を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解、濾過し、ドープを調製した。なお、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後添加した。
【0108】
(ドープ組成)
セルローストリアセテート(アセチル置換度2.88) 100質量部
トリフェニルホスフェート 8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(液体の可塑剤) 4質量部
5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)
−2H−ベンゾトリアゾール(液体の紫外線吸収剤) 1質量部
メチレンクロライド 418質量部
エタノール 23質量部
アエロジルR972V 5質量部
(光学フィルムの作製)
上記のドープを用いて、以下のようにして、光学フィルムを作製した。フィルムの製膜は、図1に示す製造装置で行った。まず、濾過したドープをコートハンガーダイよりなる流延ダイより、SUS316製でかつ超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる金属支持体上にフィルム状に流延した。
【0109】
固化防止液としては、メチレンクロライドとエタノールをドープ組成と同じ組成で混合し、ドープ流出口の両端部から流延膜に流下するようにした。
【0110】
ドープ流出口の支持体移動方向上流側の減圧室は、図3に示すように流延幅方向に5つの部屋に分けられ、それぞれ大気圧よりも低い値に個別に調整され、減圧されている減圧装置を用いた。ここでは中央の部屋10cとその両隣の部屋10b、10dの気圧は同じにし、両端の部屋10a、10eの気圧とその隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧との差(減圧差)が表1に示す値になるように設定した。尚、各部屋は各減圧ポンプ102と各配管103を接続し、減圧度を制御した。
【0111】
各部屋の構成材料は、SUS板(4mm厚さ)を用いており、表面の10点平均粗さRzが0.5μm、表面の接触角は60°であった。両端の2つの部屋の減圧された気圧P1は、等しい値とし、中央部の部屋の減圧された気圧P2とは、表1に示す値(ΔP=P1−P2)の気圧差(減圧差)を設け、実施例1〜5と比較例1、2の光学フィルムの製造条件とした。
【0112】
支持体としては、金属ベルトを用い、支持体上に流延された流延膜を、剥離ロールで剥離後、ロール搬送しながら90℃の初期の乾燥ゾーンで乾燥させ、その後、125℃の後期の乾燥ゾーンで乾燥を終了させて、膜厚40μm、フィルム幅2000mm、巻き取り長5200mのセルローストリアセテートフィルムを製造した。
【0113】
上記のようにして得られた実施例1〜5及び比較例1、2の光学フィルムの評価を以下のように行った。
(フィルム表面の変形模様の評価)
作成した光学フィルムの巻き取り後端1000mについて、目視により、フィルム表面に円形や楕円形の変形模様があるかを観察し、100m当たりの変形模様の平均個数を比較した。評価レベルを以下のようにした。
【0114】
レベル7:0.01個未満
レベル6:0.01個以上0.02個未満
レベル5:0.02個以上0.05個未満
レベル4:0.05個以上0.1個未満
レベル3:0.1個以上0.5個未満
レベル2:0.5個以上1個未満 レベル2以上が製品として使えるレベル
レベル1:1個以上 製品として問題有り
評価結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
(実施例6〜10)
実施例6〜10おいては、実施例4における、両端の部屋10a、10eの気圧とその隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧との差(減圧差)を−200Paとし、また、各部屋の内面を構成するSUS板の表面をプラズマ処理し、表2に示す接触角になるようにした。その他は、実施例4と同様に作製し、評価した。図5に、SUS板101の表面のプラズマ処理装置200の模式図を示す。プラズマ処理装置200としては、ダウンフロー式常圧プラズマ処理装置を用い、フローガス201としては、N/Oを99/1体積%の割合で混合したガスを用いた。電極202、203には、3万V、20kHzの電圧を印加した。プラズマ処理装置200のヘッドの下をSUSU板101を通過させる搬送速度を調整することにより、表面処理を行い、表面の接触角を調整し、表2に示す接触角のもので実施例6〜10の光学フィルムを製造とした。
【0117】
評価結果を表2に示す。
【0118】
【表2】

【0119】
(実施例11〜15)
実施例11〜15においては、実施例4における、両端の部屋10a、10eの気圧とその隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧との差(減圧差)を−200Paとし、減圧室の各部屋の内面を構成するSUS板の表面をサンドブラスト処理した他は、実施例4と同様に作製し、評価した。サンドブラストによる表面処理は、表3に示すRzとなるように処理したものを用いて、実施例11〜15の光学フィルムを製造した。
【0120】
評価結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
(実施例16〜25)
実施例16〜25においては、実施例4における、両端の部屋10a、10eの気圧とその隣り合う中央部側の部屋10b、10dの気圧との差(減圧差)を−200Paとし、減圧室の各部屋の内面を構成するSUS板の表面にSUSの網(線径0.5mm)を貼り付けた他は、実施例4と同様に作製し、評価した。
【0123】
用いたSUS板としては、実施例16〜20には、減圧室を構成する側板及び減圧室を区切る遮蔽板に平板状のものを用いたが、実施例21〜25では、遮蔽板の部分に、同じ平板状の板に、直径10mmの穴を縦横にピッチ20mmで開けたものを用いた。用いたSUS板の各部屋の内面側に貼り付けるSUSの網は、目開きが表4のものを用い実施例16〜25の光学フィルムを製造した。
【0124】
評価結果を表4に示す。
【0125】
【表4】

【0126】
表1の結果から、本発明の光学フィルムの製造方法において、減圧室が、流延膜の幅方向に、3つ以上の部屋に分割され、流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなるように減圧することで、減圧室に飛散した固化防止液を支持体上に付着させることが少なく、光学フィルム表面の平滑性を良好にできることが分かる。また、流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より、10〜500Pa低いことが好ましいことが分かる。表2の結果から、減圧室の各部屋の内壁にプラズマ処理を施し、接触角を5°〜30°にすることが、飛散した固化防止液を壁面になじみ易くし、濡れ広がることで、蒸発表面積が大きくなって、固化防止液の乾燥速度が速く、回収部材をつけなくても、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましいことがわかる。また、表3の結果から、減圧室の各部屋の内壁の表面の10点平均粗さRzを1〜50μmとすることにより、飛散した固化防止液を壁面になじみ易く、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましいことがわかる。また、表4の結果から、減圧室の各部屋の内壁の表面が、0.02〜0.5mmの目開きの網目状であることにより、飛散した固化防止液を壁面になじみ易く、固化防止液が液滴となって支持体上に落下することが無く、好ましいことがわかる。
(偏光板の作製)
以下に記載の方法に従い、実施例1〜25及び比較例1、2の光学フィルムをアルカリケン化処理を行った後、それぞれ偏光板を作製した。
〈アルカリケン化処理〉
ケン化工程:2モル/L NaOH 50℃ 90秒
水洗工程 :水 30℃ 45秒
中和工程 :10質量% HCl 30℃ 45秒
水洗工程 :水 30℃ 45秒
上記条件で各試料を、ケン化、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで80℃で乾燥を行った。
【0127】
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、沃素1kg、ホウ酸4kgを含む水溶液100kgに浸漬し、50℃で6倍に延伸して偏光膜を作製した。この偏光膜の片面に実施例1〜15及び比較例1、2の光学フィルムを、反対面にコニカミノルタタックKC8UCR(コニカミノルタオプト(株)製)を上記アルカリケン化処理を行った後、完全ケン化型ポリビニルアルコール5質量%水溶液を粘着剤として各々貼り合わせて偏光板を作製した。
(液晶表示装置としての特性評価)
SONY製40型ディスプレイKLV−40V1000の視認側の偏光板を剥がし、上記で作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて偏光板の偏光軸が元と変わらないように互いに直交するように貼り付け、40型TFT型カラー液晶ディスプレイを作製し、光学フィルムの偏光板としての特性を評価した。
【0128】
本発明の実施例1〜25の光学フィルムを用いた偏光板を搭載した液晶表示装置は、比較例1の光学フィルムを用いた偏光板を搭載した液晶表示装置に対して、色ムラや波うちムラなどの表示ムラが無く、優れた表示性を示した。これにより、本発明の偏光板が液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。
【符号の説明】
【0129】
1 流延ダイ
1a ドープ流出口
2 支持体
3 流延膜
4 剥離ロール
17 搬送ロール
10 減圧室
10a〜10d 部屋
13 初期乾燥装置
15 後乾燥装置
18 巻取り装置
30 滴下ノズル
31 ポンプ
32 液貯蔵槽
33 固化防止液
70 遮蔽板
101 吸引口
20 フィルム
60 エンボス加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と溶媒とを含んだドープを、流延ダイのドープ流出口から、移動する支持体上に流延する際、前記ドープ流出口から前記支持体上に流延する流延膜が、前記支持体に密着するように、前記ドープ流出口の前記支持体の移動方向上流側の気圧を大気圧よりも低い状態に保持する減圧室を減圧して流延し、かつ、前記樹脂を溶解する液体を前記ドープ流出口の両端部に流下する光学フィルムの製造方法において、
前記減圧室が、前記流延膜の幅方向に、3つ以上の部屋に分割され、
前記流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、隣り合う中央部側の部屋の気圧より低くなるように減圧した状態で、
前記ドープ流出口から前記流延膜を前記支持体上に流延することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記流延膜の幅方向の端部の部屋の気圧が、前記隣り合う中央部側の部屋の気圧より、10〜500Pa低いことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記部屋の内壁の表面が、プラズマ放電処理、紫外線照射処理及びコロナ放電処理から選ばれる少なくとも一つの処理で表面処理され、
前記表面処理をした表面と純水との接触角が5°〜30°であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記部屋の内壁の表面の10点平均粗さRzが、1〜50μmであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記部屋の内壁の表面が網目状であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記部屋の内壁の表面が、0.02〜0.5mmの目開きの網目状であることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の光学フィルムを、少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項9】
請求項8に記載の偏光板を用いることを特徴とする表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179475(P2010−179475A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22407(P2009−22407)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】