説明

光学フィルムの製造方法とそれを用いて得られる光学フィルム及び光学素子

【課題】位相差を有するCOPフィルム上に、直接、液晶性組成物からなる液晶層を形成した光学フィルムを製造するにあたり、熱および張力によるCOPフィルムの位相差変動を抑制できる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】連続的に搬送されるシクロオレフィンポリマーフィルムの片面に保護層を積層せしめる工程、保護層とは反対側の面に液晶性組成物をコーティングする工程、加熱処理により前記液晶性組成物を配向せしめる工程、前記配向を固定化する工程をこの順序で行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向膜のないシクロオレフィンポリマー(以下、COPという。)フィルムに液晶性組成物を配向、固定化した光学フィルムを製造する方法とそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率異方性を持つ光学フィルムは、液晶表示装置の画質向上に用いられるなど工業的に重要な役割を担っている。屈折率異方性を持つフィルムとしては、プラスチックフィルムの延伸によるものと、液晶を配向させたものとに大別できる。後者は、多様な屈折率構造を実現できるポテンシャルを持っているため、より注目に値する。液晶高分子を配向してフィルム化した配向フィルムは、液晶表示装置用の色補償板や視野角改良板として画期的な性能を示し、液晶表示装置の高性能化、軽量化及び薄型化に寄与している。
【0003】
例えば、膜厚方向により大きな屈折率を有するフィルムは、液晶表示装置の視野角改善に有効と考えられるが、このようなフィルムは液晶のホメオトロピック配向(垂直配向)を利用するのが近道と考えられる。液晶分子のホメオトロピック配向は、液晶の長軸分子方向が基板に対して実質的に垂直方向に整列することである。ホメオトロピック配向は、液晶表示装置のように、2枚のガラス基板の中に液晶を入れて電界をかけることで得られることは良く知られているが、この配向状態をフィルムにすることは非常に難しく、また従来報告されている方法には課題がある。
【0004】
例えば、特許文献1〜2では、主鎖型高分子液晶をホメオトロピック配向させた後、ガラス固定化によりフィルムを得ている。しかし、液晶分子の配向を固定化するにはフィルムやガラス等の支持体となる基板が必要であり、液晶分子の配向を生かした所望の機能を有する光学フィルムを得るためには、液晶分子の配向を崩さないように液晶分子の層を単離、もしくは他基板へ転写するか、または光学フィルムの機能として不要である透明支持体基板を含めた状態で光学フィルムに組み込むしかなく、その場合は透明支持体が含まれることで、光学特性が悪化したり、厚みが増したりする問題が生じていた。
【0005】
本発明者らは、先に、液晶表示装置用光学フィルムとして、別に用いられるシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムを基板とし、その上に液晶分子層をコーティングした光学フィルムを開発した。この場合、液晶分子層の単離や他基板への転写は必要なく、液晶表示素子に直接組み込むことで良好な表示特性を実現できる。しかし、COPフィルムに連続的に液晶分子層をコーティングし、液晶分子を配向させ、固定化する際には、連続的なフィルム搬送のための張力を掛ける必要があり、また液晶分子を配向させるための熱が必要となるが、COPフィルム単体では張力、熱の影響によりフィルム張力方向に位相差変動が生じてしまい、所望の位相差を有する光学フィルムの製造が難しい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2853064号公報
【特許文献2】特許第3018120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、COPフィルム上に液晶性組成物を形成させるにあたり、熱および張力の影響によるCOPフィルムの位相差変動を抑制することが可能となる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とするものであり、併せて前記方法により得られる光学フィルム及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題の解決について鋭意研究した結果、COPフィルムへ保護フィルムを貼合することで、張力や熱の影響を最大限抑制できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は次のとおりである。
【0009】
〔1〕 連続的に搬送されるシクロオレフィンポリマーフィルムの片面に保護層を積層せしめる工程、保護層とは反対側の面に液晶性組成物をコーティングする工程、加熱処理により前記液晶性組成物を配向せしめる工程、前記配向を固定化する工程をこの順序で行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
〔2〕 前記保護層がポリ-α―オレフィンフィルムまたはポリエステルフィルムであることを特徴とする前記〔1〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔3〕 前記保護層がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の光学フィルムの製造方法。
〔4〕 前記液晶性組成物がホメオトロピック配向することを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法によって得られる光学フィルム。
〔6〕 前記〔5〕に記載の光学フィルムを用いて得られる光学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、熱および張力によるCOPフィルムの位相差変動が抑制された光学フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、連続的に搬送されるシクロオレフィンポリマーフィルムの片面に保護層を積層せしめる工程、保護層とは反対側の面に液晶性組成物をコーティングする工程、加熱処理により前記液晶性組成物を配向せしめる工程、前記配向を固定化する工程をこの順序で行うことにより光学フィルムを製造する方法である。
【0012】
すなわち、本発明において、COPフィルム上に液晶性組成物をコーティングし、熱処理、固定化等の工程を経て光学フィルムを製造するに際し、COPフィルム上に液晶性組成物をコーティングするに先立って、COPフィルムへ保護フィルムを積層することが必須である。COPフィルムが積層されない場合には、熱処理工程における熱やフィルム張力の影響により、COPフィルムが意図しない延伸や収縮を受け、光学特性を司る位相差値が変動してしまうためである。
【0013】
本発明において、保護層はCOPフィルムの片面に貼着される層であって各種のポリマーから得られるフィルム(以下、保護フィルムという。)である。保護フィルムを構成するポリマーとしては、例えば、各種のα−オレフィン系ポリマー:エチレンやプロピレンから得られる重合体(共重合体を含む)、ポリ−4−メチルペンテン−1等;ポリエステル:ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等;ポリアミド:各種のナイロン(商標名)等;ポリビニルアルコール;各種セルロース(ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース)等を挙げることができる。これらは混合物であってもよい。
【0014】
保護フィルムは、通常の溶融押出法や溶液キャスト法などで製造されたものでよく、必要により1軸延伸や2軸延伸を行ってもよい。
これらの保護フィルムのなかでフィルムの入手性や物性等からポリ−α−オレフィンやポリエステルが好ましく、中でもポリエチレンテレフテレート系のフィルムが特に好ましい。
保護フィルムの膜厚は、本発明の光学フィルムの製造方法に適した厚さであれば特に制限はないが、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜80μmである。この範囲外では加工時の強度が不足する、厚くなりすぎる等して好ましくない。
【0015】
保護フィルムは、当該フィルムの成形条件によりCOPフィルムへの積層に特に粘着層や接着層を必要としないものもあるが、再剥離可能な粘着層や接着層を形成した保護フィルムが好ましく、予めかかる粘着層を形成した市販品から適宜選定することもできる。
粘着層を形成する材料は、公知の粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤など)により形成することができる。粘着剤は単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
なお、保護フィルムはコロナ放電処理やUV−オゾン処理等の表面処理を行って粘着性や接着性の制御を行ってもよい。
【0016】
保護フィルムをCOPフィルムへ積層するに際しては、COPフィルム側および保護フィルム側とも適切な張力を設定する必要がある。COPフィルム、保護フィルムの繰り出しから積層、巻き取りに至るまでの張力は、フィルム幅あたり10〜500N/m程度が望ましく、15〜150N/m程度がより望ましい。
【0017】
次に、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムについて説明する。
COPフィルムとは、COPを主成分としてなるフィルムであり、位相差機能を有するフィルムが好ましい。COPとは、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、シクロペンタジエン等の環状オレフィンや、それらの誘導体を重合して得られる樹脂の一般的な総称である。具体的には環状オレフィンの開環重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとのランダム共重合体、又これらを不飽和カルボン酸やその誘導体等で変性したグラフト変性体等が例示できる。また、これらの水素化物も挙げられる。商品としては、日本ゼオン(株)製のゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製のアートン、積水化学(株)製のエスシーナ、Topas Advanced Polymers GmbH製のTopas、三井化学(株)製のアペル等が挙げられる。
【0018】
これらのCOPフィルムは一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであってもよい。一軸延伸は、2つ以上のロールの周速差を利用した縦一軸延伸、またはポリマーフィルムの両サイドを掴んで幅方向に延伸するテンター延伸が好ましい。ポリマーフィルムを縦方向および横方向に延伸することにより、二軸性の光学異方性を発現させてもよい。また、Z軸配向処理したもの等が挙げられる。また、COPフィルムの接着性を制御する目的でコロナ放電処理やUV−オゾン処理の表面処理を行ってもよい。
【0019】
COPフィルム面内のリターデーション値(以下、Re1と略記)は、フィルム面内の主屈折率をnx,ny、厚さ方向の主屈折率をnz、厚さをd1(nm)とすると、Re1=(nx−ny)×d1[nm]で表され、液晶表示装置の視角改良フィルムとして使用する場合等用途の違いにより、また視角改良フィルムで使用する場合においても液晶表示装置の方式や種々の光学パラメータに依存することから一概には言えないが、550nmの単色光に対して、Re1は、通常30nm〜500nm、好ましくは50nm〜400nmの範囲である。また、厚さ方向のリターデーション値(以下、Rth1と略記)は、Rth1={(nx+ny)/2−nz}×d1[nm]で表され、通常0〜300nm、好ましくは0〜200nm、さらに好ましくは0〜150nmに制御されたものである。COPフィルムの厚さは、10〜400μmであることが好ましく、15〜100μmであることが最も好ましい。
なお、二枚以上のポリマーフィルムを用いて、フィルム全体としての光学的性質が前記の条件を満足してもよい。
【0020】
前記Re1値及びRth1値を上記範囲にすることにより、液晶表示装置の視角改良フィルムとしては、液晶表示の色調補正を行いながら視野角を広げることが可能となり、輝度向上フィルムとしては、良好な輝度向上効果を得ることができる。Re1値が30nmより小さい場合、あるいは500nmより大きい場合には、十分な視角改良効果が得られないか、あるいは斜めから見たときに不必要な色付きが生じる恐れがある。また、Rth1値が0nmより小さい場合、あるいは300nmより大きい場合には、十分な視角改良効果が得られないか、あるいは斜めから見たときに不必要な色付きが生じる恐れがある。
【0021】
本発明において使用される液晶性組成物は、COPフィルム上にコーティングした後、その配向を固定化しうる液晶材料であれば特に制限はない。かかる液晶性組成物を構成する液晶性化合物としては、低分子液晶化合物、液晶性高分子化合物およびこれらの混合物からなる材料が挙げられる。
【0022】
前記の低分子液晶化合物としては、光や熱により反応する反応性基を結合した化合物が配向を容易に固定化できるので好ましい。反応性基としては、ビニル基、アクリロイル基、ビニルオキシ基、オキシラニル基、オキセタニル基、アジリジニル基等が好ましいが、他の反応性基、例えばイソシアナート基、水酸基、アミノ基、酸無水物基、カルボキシル基なども反応条件等によっては使用することができる。
【0023】
前記の液晶性高分子化合物には主鎖型液晶ポリマーと側鎖型液晶ポリマーとがあるがいずれも使用することができる。主鎖型液晶ポリマーとしては、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミド、ポリカーボネート等が挙げられる。なかでも合成の容易さ、配向性、ガラス転移点などの面から液晶性ポリエステルが好ましく、カチオン重合性基を結合した主鎖型液晶性ポリエステルが特に好ましい。側鎖型液晶ポリマーとしては、ポリアクリレート、ポリマロネート、ポリエーテル、ポリシロキサン等を挙げることができる。液晶ポリマーは前記の反応性基を結合したものが好ましい。
【0024】
前記の主鎖型液晶性ポリエステルは、芳香族ジオール単位(以下、構造単位(A)という。)、芳香族ジカルボン酸単位(以下、構造単位(B)という。)および芳香族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、構造単位(C)という。)のうち少なくとも2種を必須単位として含む主鎖型液晶性ポリエステルであって、主鎖末端の少なくとも一方にカチオン重合性基を有する構造単位を含むことを特徴とする主鎖型液晶性ポリエステルである。以下に、構造単位(A)、(B)および(C)について順次説明する。
【0025】
構造単位(A)を導入するための化合物としては下記一般式(a)で表される化合物が好ましく、具体的には、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等若しくはそれらの置換体、4,4’―ビフェノール、2,2’,6,6’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、2,6−ナフタレンジオールなどが挙げられ、特に、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等若しくはそれらの置換体が好ましい。
【0026】
【化1】

【0027】
ただし、式中の−Xは、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基であり、特に下記式(a’)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
構造単位(B)を導入するための化合物としては下記一般式(b)で表される化合物が好ましく、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等若しくはそれらの置換体、4,4'−スチルベンジカルボン酸若しくはその置換体、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4'−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられ、特に、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等若しくはそれらの置換体が好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
ただし、式中の−Xは、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基を表す。
【0032】
構造単位(C)を導入するための化合物としては下記一般式(c)で表される化合物が好ましく、具体的には、ヒドロキシ安息香酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−スチルベンカルボン酸若しくはその置換体、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ桂皮酸などが挙げられ、特に、ヒドロキシ安息香酸およびその置換体、4'−ヒドロキシ−4−ビフェニルカルボン酸若しくはその置換体、4'−ヒドロキシ−4−スチルベンカルボン酸若しくはその置換体が好ましい。
【0033】
【化4】

【0034】
ただし、式中の−X、−X1、−X2は、それぞれ個別に、−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CNのいずれかの基を表す。
【0035】
主鎖型液晶性ポリエステルは、構造単位として、(A)芳香族ジオール単位、(B)芳香族ジカルボン酸単位、および(C)芳香族ヒドロキシカルボン酸単位のうちから少なくとも2種と、好ましくはさらに主鎖末端の少なくとも一方にカチオン重合性基を有する構造単位(以下、構造単位(D)という。)を含み、サーモトロピック液晶性を示すものであればよく、他の構造単位はこれら条件を満足する限り特に限定されるものではない。
【0036】
主鎖型液晶性ポリエステルを構成する構造単位(A)、(B)および(C)の全構造単位に占める割合は、構造単位(A)、(B)および(C)がジオールあるいはジカルボン酸あるいはヒドロキシカルボン酸として全モノマーの仕込み量に対して占める重量和の比率で表した場合、通常20〜99%、好ましくは30〜95%、特に好ましくは40〜90%の範囲である。20%より少ない場合には、液晶性を発現する温度領域が極端に狭くなるおそれがあり、また99%を越える場合には、カチオン重合性基を有する単位が相対的に少なくなり、配向保持能、機械的強度の向上が得られない恐れがある。
【0037】
次にカチオン重合性基を有する構造単位(D)について説明する。
カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタニル基、およびビニルオキシ基からなる群から選ばれる官能基が好ましく、特にオキセタニル基が好ましい。構造単位(D)を導入するための化合物としては、下記の一般式(d)に示すごとく、フェノール性水酸基あるいはカルボキシル基を有する芳香族化合物に、エポキシ基、オキセタニル基、およびビニルオキシ基から選ばれるカチオン重合性を有する官能基が結合した化合物である。また、芳香環と上記カチオン重合性基との間には、適当なスペーサー部分を有していても良い。
【0038】
【化5】

【0039】
ただし、式中の−X、−X1、−X2、−Y、−Zは、各構造単位毎にそれぞれ独立に以下に示すいずれかの基を表す。
(1)−X、−X、−X:−H、−CH、−C、−CHCHCH、−CH(CH、−CHCHCHCH、−CHCH(CH)CH、−CH(CH)CHCH、−C(CH、−OCH、−OC、−OC、−OCH、−F、−Cl、−Br、−NO、または−CN
(2)−Y:単結合、−(CH−、−O−、−O−(CH−、−(CH−O−、−O−(CH−O−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−(CH−、−CO−O−(CH−、−(CH−O−CO−、−(CH−CO−O−、−O−(CH−O−CO−、−O−(CH−CO−O−、−O−CO−(CH−O−、−CO−O−(CH−O−、−O−CO−(CH−O−CO−、−O−CO−(CH−CO−O−、−CO−O−(CH−O−CO−、または−CO−O−(CH−CO−O−(ただし、nは1〜12の整数を示す。)
(3)Z:
【0040】
【化6】

【0041】
構造単位(D)の中では、カチオン重合性基もしくはカチオン重合性基を含む置換基とフェノール性水酸基あるいはカルボキシル基の結合位置は、これらの基が結合する骨格がベンゼン環の場合は1,4−の位置関係を、ナフタレン環の場合は2,6−の位置関係を、ビフェニル骨格、スチルベン骨格の場合は4,4'−の位置関係にあるものが液晶性の点から好ましい。より具体的には、4−ビニルオキシ安息香酸、4−ビニルオキシフェノール、4−ビニルオキシエトキシ安息香酸、4−ビニルオキシエトキシフェノール、4−グリシジルオキシ安息香酸、4−グリシジルオキシフェノール、4−(オキセタニルメトキシ)安息香酸、4−(オキセタニルメトキシ)フェノール、4'−ビニルオキシ−4−ビフェニルカルボン酸、4'−ビニルオキシ−4−ヒドロキシビフェニル、4'−ビニルオキシエトキシ−4−ビフェニルカルボン酸、4'−ビニルオキシエトキシ−4−ヒドロキシビフェニル、4'−グリシジルオキシ−4−ビフェニルカルボン酸、4'−グリシジルオキシ−4−ヒドロキシビフェニル、4'−オキセタニルメトキシ−4−ビフェニルカルボン酸、4'−オキセタニルメトキシ−4−ヒドロキシビフェニル、6−ビニルオキシ−2−ナフタレンカルボン酸、6−ビニルオキシ−2−ヒドロキシナフタレン、6−ビニルオキシエトキシ−2−ナフタレンカルボン酸、6−ビニルオキシエトキシ−2−ヒドロキシナフタレン、6−グリシジルオキシ−2−ナフタレンカルボン酸、6−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシナフタレン、6−オキセタニルメトキシ−2−ナフタレンカルボン酸、6−オキセタニルメトキシ−2−ヒドロキシナフタレン、4−ビニルオキシ桂皮酸、4−ビニルオキシエトキシ桂皮酸、4−グリシジルオキシ桂皮酸、4−オキセタニルメトキシ桂皮酸、4'−ビニルオキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−ビニルオキシ−3'−メトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−ビニルオキシ−4−ヒドロキシスチルベン、4'−ビニルオキシエトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−ビニルオキシエトキシ−3'−メトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−ビニルオキシエトキシ−4−ヒドロキシスチルベン、4'−グリシジルオキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−グリシジルオキシ−3'−メトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−グリシジルオキシ−4−ヒドロキシスチルベン、4'−オキセタニルメトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−オキセタニルメトキシ−3'−メトキシ−4−スチルベンカルボン酸、4'−オキセタニルメトキシ−4−ヒドロキシスチルベンなどが好ましい。
【0042】
カチオン重合性基を有する構造単位(D)の主鎖型液晶性ポリエステルを構成する全構造単位に占める割合は、同様に構造単位(D)をカルボン酸あるいはフェノールとして仕込み組成中の重量割合で表した場合、通常1〜60%、好ましくは5〜50%の範囲である。1%よりも少ない場合には、配向保持能、機械的強度の向上が得られない恐れがあり、また60%を越える場合には、結晶性が上がることにより液晶温度範囲が狭まり、どちらの場合も好ましくない。
【0043】
(A)〜(D)の各構造単位は、それぞれ1つまたは2つのカルボキシル基あるいはフェノール性水酸基を有しているが、(A)〜(D)の有するカルボキシル基、フェノール性水酸基は、仕込みの段階においてそれぞれの官能基の当量数の総和を概ねそろえることが望ましい。すなわち、構造単位(D)が遊離のカルボキシル基を有する単位である場合には、((A)のモル数×2)=((B)のモル数×2)+((D)のモル数)、構造単位(D)が遊離のフェノール性水酸基を有する単位である場合には、((A)のモル数×2)+((D)のモル数)=((B)のモル数×2)なる関係を概ね満たすことが望ましい。この関係式から大きく外れる仕込み組成の場合には、カチオン重合に関わる単位以外のカルボン酸あるいはフェノール、もしくはそれらの誘導体が分子末端となることになり、十分なカチオン重合性が得られないばかりか、これら酸性の残基が存在することにより、プロセス上の望む段階以外で重合反応や分解反応が起きてしまうおそれがあり好ましくない。
【0044】
主鎖型液晶性ポリエステルは、(A)、(B)、(C)および(D)以外の構造単位を含有することができる。含有することができる他の構造単位としては特に制限はなく、当該分野で公知の化合物(モノマー)を使用することができる。例えば、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸およびこれら化合物にハロゲン基やアルキル基を導入した化合物や、ビフェノール、ナフタレンジオール、脂肪族ジオールおよびこれら化合物にハロゲン基やアルキル基を導入した化合物等を挙げることができる。
【0045】
また、主鎖型液晶性ポリエステルを構成する単位の原料として光学活性な化合物を用いた場合、該主鎖型液晶性ポリエステルにカイラルな相を付与せしめることが可能となる。かかる光学活性な化合物としては特に制限はないが、例えば、光学活性な脂肪族アルコール(C2n+1OH、ただしnは4から14の整数を表す。)、光学活性な脂肪族基を結合したアルコキシ安息香酸(C2n+1O−Ph−COOH、ただしnは4から14の整数、Phはフェニル基を表す。)、メントール、カンファー酸、ナプロキセン誘導体、ビナフトール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチルブタンジオール、2−クロロブタンジオール、酒石酸、メチルコハク酸、3−メチルアジピン酸などを挙げることができる。
【0046】
主鎖型液晶性ポリエステルの分子量は、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(質量比60/40)中、30℃で測定した対数粘度ηが0.03〜0.50dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.15dl/gである。ηが0.03dl/gより小さい場合には、主鎖型液晶性ポリエステルの溶液粘度が低く、フィルム化する際に均一な塗膜が得られない恐れがある。また、0.50dl/gより大きい場合には、液晶配向時に要する配向処理温度が高くなり、配向と架橋が同時に起こり配向性を低下させる危険性がある。
【0047】
本発明において、主鎖型液晶性ポリエステルの分子量制御は専ら仕込み組成により決定される。具体的には分子両末端を封印する形で反応する1官能性モノマー、すなわち前記した構造単位(D)を導入するための化合物の、全仕込み組成における相対的な含有量により、得られる主鎖型液晶性ポリエステルの平均的な重合度(構造単位(A)〜(D)の平均結合数)が決定される。したがって、所望の対数粘度を有する主鎖型液晶性ポリエステルを得るためには、仕込みモノマーの種類に応じて仕込み組成を調整する必要がある。
【0048】
主鎖型液晶性ポリエステルの合成方法としては、通常のポリエステルを合成する際に用いられる方法を採ることができ、特に限定されるものではない。例えば、カルボン酸単位を酸クロリドやスルホン酸無水物などに活性化し、それを塩基の存在下でフェノール単位と反応させる方法(酸クロリド法)、カルボン酸単位とフェノール単位をDCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)などの縮合剤を用いて直接縮合させる方法、フェノール単位をアセチル化して、これとカルボン酸単位とを溶融条件下で脱酢酸重合する方法などを用いることが出来る。ただし、溶融条件下での脱酢酸重合を用いる場合には、カチオン重合性基を有するモノマー単位が反応条件下で重合や分解反応を起こすおそれがあるため、反応条件を厳密に制御する必要がある場合が多く、場合によっては適当な保護基を用いたり、あるいは一度別な官能基を有する化合物を反応させておいてから、後でカチオン重合性基を導入するなどの方法を採ることが望ましい場合もある。また、重合反応により得られた粗主鎖型液晶性ポリエステルを、再結晶、再沈などの方法により精製してもよい。
【0049】
このようにして得られた主鎖型液晶性ポリエステルは、NMR(核磁気共鳴法)などの分析手段により、それぞれのモノマーがどのような比率で主鎖型液晶性ポリエステル中に存在するかを同定することができる。特に、カチオン重合性基の量比から、主鎖型液晶性ポリエステルの平均結合数を算出する事ができる。
前記カチオン重合性基を含む主鎖型液晶性ポリエステルに他の化合物を配合することも、本発明の範囲を超えない限り可能である。例えば、本発明に用いる主鎖型液晶性ポリエステルと混和しうる他の高分子化合物や各種低分子化合物等を添加しても良い。かかる低分子化合物は、液晶性を有していても有していなくとも良く、架橋性の主鎖型液晶性ポリエステルと反応できる重合性基を有していてもいなくとも良い。重合性基を有する液晶性化合物を用いることが好ましく、例えば以下のものを例示できる。
【0050】
【化7】

【0051】
ここで、nは2〜12の整数を、また−V−および−Wはそれぞれ以下のいずれかの基を表す。
−V−:単結合、−O−、−O−C2m−O−(ただし、mは2〜12の整数)
−W:
【化8】

【0052】
なお、添加する高分子化合物や低分子化合物が光学活性である場合、組成物としてカイラルな液晶相を誘起させることができる。かかる組成物は、ねじれネマチック配向構造やコレステリック配向構造を有するフィルムの製造に利用することができる。
【0053】
側鎖型液晶ポリマーとしては、側鎖に液晶性を発現する基(メソゲン)を有するポリマーであり、一例としてオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物と重合性の液晶性化合物との共重合体が挙げられる。なお、以下の記載においては、「メタクリル」と「アクリル」とを総称して「(メタ)アクリル」と表記する。
オキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物としては、下記一般式(1)、(2)または(3)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【化9】

【0055】
式(1)、式(2)および式(3)において、Rは、それぞれ独立に、水素またはメチル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表し、mは、それぞれ独立に、1から10までの整数であり、nは、それぞれ独立に、0から10までの整数である。なお、Lが単結合とは、Lを介して結合している基が直接結合することを意味し、例えばA−L−Bの場合、A−Bのことである。
【0056】
これらの化合物は必ずしも液晶性を示す必要はない。また、式(1)〜(3)の化合物は2種以上の混合物として用いてもよい。
これらの式(1)〜(3)に該当する化合物は種々挙げることができるが、下記化合物を好ましい例として挙げることができる。
【0057】
【化10】

【0058】
これらのオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物の合成法は特に制限されるものではなく、通常の有機化学の合成法で用いられる方法を適用することによって合成することができる。
例えば、ウィリアムソンのエーテル合成や、縮合剤を用いたエステル合成などの手段でオキセタン基を持つ部位と(メタ)アクリル基を持つ部位をつなげることで、オキセタン基と(メタ)アクリル基との全く異なる2つの反応性基を持つオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物を合成することができる。
合成にあたっては、オキセタン基がカチオン重合性を有するため、強い酸性条件下では、重合や開環などの副反応を起こすことを考慮して反応条件を選ぶ必要がある。
【0059】
側鎖型液晶ポリマーとしては、下記一般式(4)で表される側鎖型液晶性ポリマーが特に好ましい。
なお、本発明において液晶性化合物として側鎖型液晶ポリマーを用いる場合、液晶性組成物中にオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物(例えば、上記式(1)〜(3)の化合物)を含有させることで、難接着性材料であるCOPフィルムと液晶層の密着力が大幅に向上するので好ましい。液晶性組成物中にオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物を含有しない場合には、COPフィルムと液晶層の十分な密着力が得られない。その作用機構は明らかではないが、オキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物は、COPフィルムと親和性が十分ではない液晶性組成物との密着に何らかの仲介作用があると推定される。
【0060】
【化11】

【0061】
式(4)において、Rは、それぞれ独立に、水素またはメチル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、シアノ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基またはカルボキシル基を表し、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Rは、炭素数1から24までの炭化水素基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−、−CO−O−、−CH=CH−または−C≡C−を表し、pは、1から10までの整数を表し、qは0から10までの整数を表し、a、b、c、d、eおよびfは、ポリマー中の各ユニットのモル比(a+b+c+d+e+f=1.0、ただし、c+d+e=0ではない。また、置換基のみ異なるユニットの場合は、同じユニットとしてモル比をカウントする)を表す。さらに、液晶性を示すことが必要である。
【0062】
この要件を満たせばポリマー中の各ユニットのモル比は任意でよいが、以下のとおりであることが好ましい。
a:好ましくは0〜0.80、より好ましくは0.05〜0.50
b:好ましくは0〜0.90、より好ましくは0.10〜0.70
c:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
d:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
e:好ましくは0〜0.50、より好ましくは0.10〜0.30
f:好ましくは0〜0.30、より好ましくは0.01〜0.10
【0063】
また、Rは、好ましくは、水素、メチル基、ブチル基、メトキシ基、シアノ基、ブロモ基、フルオロ基であり、特に好ましくは、水素、メトキシ基、またはシアノ基である。また、Lは、好ましくは、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−である。さらに、Rは、好ましくは、炭素数2、3、4、6、8または18の炭化水素基である。
【0064】
前記の一般式(4)で示される側鎖型液晶性ポリマーは、各成分に該当するそれぞれの(メタ)アクリル化合物の(メタ)アクリル基をラジカル重合またはアニオン重合により共重合することにより容易に合成することができる。重合条件は特に限定されるものではなく、通常の条件を採用することができる。
【0065】
この側鎖型液晶性ポリマーは、重量平均分子量が1,000〜200,000であるものが好ましく、3,000〜50,000のものが特に好ましい。この範囲外では強度が不足したり、配向性が悪化したりして好ましくない。
【0066】
本発明に使用される液晶性組成物には、さらに下記一般式(5)で表されるジオキセタン化合物を含有してもよい。一般式(5)で表されるジオキセタン化合物は、液晶性の有無を問わず使用できるが、液晶性を示すものが好ましい。
【0067】
【化12】

【0068】
式(5)において、Rは、それぞれ独立に、水素、メチル基またはエチル基を表し、Lは、それぞれ独立に、単結合または−(CH−(nは1〜12の整数)を表し、Xは、それぞれ独立に、単結合、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表し、Mは、式(6)または式(7)で表されるいずれかであり、式(6)および式(7)中のPは、それぞれ独立に式(8)から選ばれる基を表し、Pは式(9)から選ばれる基を表し、Lは、それぞれ独立に単結合、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−O−CO−または−CO−O−を表す。
−P−L−P−L−P− (6)
−P−L−P− (7)
【0069】
【化13】

【化14】

【0070】
式(8)および式(9)において、Et、iPr、nBuおよびtBuは、それぞれエチル基、イソプロピル基、ノルマル−ブチル基およびターシャリー−ブチル基を表す。
【0071】
式(5)において、M基から見て左右のオキセタン基を結合している連結基は異なっても(非対称型)、同一でも(対称型)よく、液晶性は構造により異なるが示さなくともよい。
式(5)で表される化合物は、L、XおよびMの組み合わせから多くの化合物が例示されるが、好ましくは下記の化合物を挙げることができる。
【0072】
【化15】

【0073】
これらの化合物は有機化学における通常の合成方法に従って合成することができ、合成方法は特に限定されるものではない。
【0074】
本発明に使用される液晶性組成物において、式(1)〜(3)で表されるいずれかのオキセタン基を有する(メタ)アクリル化合物、液晶性化合物および必要に応じて添加される式(5)で表されるジオキセタン化合物の各成分の組成(質量比)は、式(1)〜(3)で表されるオキセタン基を有する化合物:液晶性化合物:式(5)で表されるジオキセタン化合物=1〜30:100:0〜40であることが好ましく、より好ましくは、3〜20:100:0〜30である。
この範囲外では、ホメオトロピック配向保持能とCOPフィルムと液晶層の層間密着力が優れた液晶フィルムを得ることが出来ない。
【0075】
前記液晶性組成物は配向処理された後、当該組成物に含まれるカチオン重合性基を重合させて架橋することにより、当該液晶状態が固定化される。これにより、液晶フィルムの耐熱性が向上する。従って、カチオン重合を容易に速やかに進行させるため、液晶性組成物中に、光や熱などの外部刺激でカチオンを発生する光カチオン発生剤および/または熱カチオン発生剤を含有させておくことが好ましい。また必要によっては各種の増感剤を併用してもよい。
【0076】
光カチオン発生剤とは、適当な波長の光を照射することによりカチオンを発生できる化合物を意味し、有機スルフォニウム塩系、ヨードニウム塩系、フォスフォニウム塩系などを例示することが出来る。これら化合物の対イオンとしては、アンチモネート、フォスフェート、ボレートなどが好ましく用いられる。具体的な化合物としては、ArSbF、ArBF、ArPF(ただし、Arはフェニル基または置換フェニル基を示す。)などが挙げられる。また、スルホン酸エステル類、トリアジン類、ジアゾメタン類、β−ケトスルホン、イミノスルホナート、ベンゾインスルホナートなども用いることができる。
【0077】
熱カチオン発生剤とは、適当な温度に加熱されることによりカチオンを発生できる化合物であり、例えば、ベンジルスルホニウム塩類、ベンジルアンモニウム塩類、ベンジルピリジニウム塩類、ベンジルホスホニウム塩類、ヒドラジニウム塩類、カルボン酸エステル類、スルホン酸エステル類、アミンイミド類、五塩化アンチモン−塩化アセチル錯体、ジアリールヨードニウム塩−ジベンジルオキシ銅、ハロゲン化ホウ素−三級アミン付加物などを挙げることができる。
【0078】
これらのカチオン発生剤の液晶性組成物中への添加量は、液晶性組成物を構成する化合物のメソゲン部分やスペーサ部分の構造や、オキセタン基当量、液晶性組成物の配向条件などにより異なるため一概には言えないが、側鎖型液晶性ポリマーに対し、通常100質量ppm〜20質量%、好ましくは1000質量ppm〜10質量%、より好ましくは0.5質量%〜8質量%、最も好ましくは1質量%〜6質量%の範囲である。100質量ppmよりも少ない場合には、発生するカチオンの量が十分でなく重合が進行しないおそれがあり、また20質量%よりも多い場合には、液晶フィルム中に残存するカチオン発生剤の分解残存物等が多くなり耐光性などが悪化するおそれがあるため好ましくない。
【0079】
本発明に使用される液晶性組成物には、液晶性組成物の液晶性を損なわない範囲で混和し得る種々の化合物を含有することができる。含有することができる化合物としては、ビニル基、(メタ)アクリル基等のラジカル重合性基やオキセタン基(前記のオキセタン基を有する化合物を除く)、オキシラニル基、ビニルオキシ基などのカチオン重合性基を有する各種の重合性化合物、カルボキシル基、アミノ基、イソシアナート基などの反応性基を有する化合物、フィルム形成能を有する各種の高分子化合物などを配合することもできる。また、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、イオン液体、イオン液晶などを、さらに反応性の官能基を有する化合物や低分子または高分子液晶物質を用いた場合は、それぞれの官能基に適した反応開始剤や活性化剤、増感剤等を本発明の目的を逸脱しない範囲内で添加してもよい。反応性基を有する液晶性組成物は、所望の配向を実現させた後、当該反応性基を反応させるに適した条件下で反応を行わしめ、架橋や分子量増大等により、目的とする最終製品の機械強度等の向上に寄与させることもできる。
【0080】
次に、光学フィルムの製造方法を説明する。
まず、保護フィルムが積層されたCOPフィルムの保護フィルムが積層された面と反対側の面上に液晶性組成物を展開して液晶層を形成する方法としては、液晶性組成物の溶液をCOPフィルム上に塗布後、塗膜を乾燥して溶媒を留去させる方法が挙げられる。溶液の調製に用いる溶媒に関しては、液晶性組成物に使用される各種化合物を溶解でき適当な条件で留去できて、かつ、COPフィルムへの影響が少ない溶媒であれば特に制限はなく、一般的にアセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ブトキシエチルアルコール、ヘキシルオキシエチルアルコール、メトキシ−2−プロパノール、ベンジルオキシエチルアルコールなどのエーテルアルコール類、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類、酢酸エチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン系などやこれらの混合系が好ましく用いられる。また、COPフィルム上に均一な塗膜を形成するために、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤などを溶液に添加してもよい。
【0081】
液晶性組成物を直接塗布する方法でも、溶液を塗布する方法でも、塗布方法については、塗膜の均一性が確保される方法であれば、特に限定されることはなく公知の方法を採用することができる。例えば、フレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、ディスペンサー方式、グラビアコート方式、マイクログラビア方式、バーコート方式、スクリーン印刷方式、リップコート方式、ダイコート方式など挙げることができる。これらの中でグラビアコート方式、キスコート方式やリップコート方式とダイコート方式が好ましい。
また、COPフィルム上に均一な塗膜を形成するために、塗布する前に表面改質処理として、コロナ処理やプラズマ処理を行ってもよい。
【0082】
液晶性組成物の溶液を塗布する方法では、塗布後に溶媒を除去するための乾燥工程を入れることが好ましい。この乾燥工程は、塗膜の均一性が維持される方法であれば、特に限定されることなく公知の方法を採用することができる。例えば、ヒーター(炉)、温風吹きつけなどの方法が挙げられる。塗布膜厚は、用いる液晶性組成物や得られる液晶層の用途等により調整されるため一概には決められないが、乾燥後の膜厚で0.1〜50μm、好ましくは0.2〜20μm、さらに好ましくは0.3〜10μmである。膜厚がこの範囲外では、目的とする効果が得られない、配向が不十分になる、などして好ましくない。
【0083】
液晶層をある一定の方向に配向させるために、必要に応じてCOPフィルム上や、液晶性組成物をコーティング後に配向処理を施す場合がある。この工程は、液晶性組成物が均一に配向する方法であれば、特に限定されること無く公知の方法を採用することが出来る。例えばCOPフィルム上へのラビング処理や、感光性の部位を含む液晶性組成物をコーティング後、流動性が高い状態で偏光を照射することである一定の方向に配向させる手法などである。ただし、ホメオトロピック配向の場合は特別な配向処理を必要としないこともある。
【0084】
続いて、COPフィルム上に形成された液晶層を、熱処理などの方法で液晶を配向させた後、必要により光照射および/または加熱処理で反応性基を反応させ当該配向を固定化する。最初の熱処理では、使用した液晶性組成物の液晶相発現温度範囲内で所望の温度に加熱することで、該液晶性組成物が本来有する自己配向能により液晶を配向させる。熱処理の条件としては、用いる液晶性組成物の液晶相挙動温度(転移温度)により最適条件や限界値が異なるため一概には言えないが、通常10〜200℃、好ましくは30〜150℃の範囲であり、該液晶性組成物のガラス転移点(Tg)以上の温度、さらに好ましくはTgより10℃以上高い温度で熱処理するのが好ましい。あまり低温では、液晶配向が充分に進行しないおそれがあり、また高温では液晶性組成物やCOPフィルムに悪影響を与えるおそれがある。また、熱処理時間については、通常3秒〜30分、好ましくは10秒〜10分の範囲である。3秒より短い熱処理時間では、液晶配向が充分に完成しないおそれがあり、また30分を超える熱処理時間では、生産性が悪くなるため、どちらの場合も好ましくない。
【0085】
該液晶層を上記の方法により配向を形成したのち、反応性基を含有する液晶性組成物を用いた場合は、当該液晶配向状態を保ったまま液晶性組成物を組成物中に含まれる反応開始剤の機能を発現させ反応性基を反応させて配向を固定化する。
反応開始剤が光の照射により開始剤の機能を発現する場合、光照射の方法としては、用いる反応開始剤の吸収波長領域にスペクトルを有するようなメタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、アークランプ、レーザーなどの光源からの光を照射し、反応開始剤を活性化させる。積算照射量として通常10〜2000mJ/cm、好ましくは50〜1000mJ/cmの範囲である。ただし、当該反応開始剤の吸収領域と光源のスペクトルが著しく異なる場合や、液晶性組成物自身に光源波長光の吸収能がある場合などはこの限りではない。これらの場合には、適当な光増感剤や、吸収波長の異なる2種以上の反応開始剤を混合して用いるなどの方法を採ることもできる。光照射時の温度は、該液晶性組成物が液晶配向をとる温度範囲が好ましく、反応の効果を充分に上げるためには、該液晶性組成物のTg以上の液晶相温度で光照射を行うのが好ましい。
かくしてCOPフィルム上に配向を固定化した液晶層を有する光学フィルムが形成される。COPフィルム上の液晶層はその表面を保護するために表面保護層を設けてもよく、塗布型の接着剤やポリマーフィルムからなる保護フィルム等を挙げることができる。
【0086】
本発明の光学フィルムは、通常、偏光板と組み合わせ積層体とした光学素子として用いることができる。また、他の各種位相差フィルムと積層してもよい。積層体は通常、偏光板や各フィルムにズレや歪み等が発生しないように接着剤や粘着剤を用いて形成される。
【0087】
前記の偏光板は、偏光素子の両側または片側に透光性保護フィルムを有するものが通常は使用される。偏光素子は特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光素子としては、たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素、染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光素子の厚さも特に制限されないが、5〜80μm程度が一般的である。
【0088】
広く一般に使用されているヨウ素を用いた偏光膜は、連続縦一軸延伸プロセスによって製造されるため、ロールの長手方向と平行に吸収軸がある。したがって、一般的な縦一軸延伸された長尺の偏光膜と長尺の第1の光学異方性層を、偏光膜の吸収軸と第1の光学異方性層の遅相軸が直交するようにロール to ロールにより貼り合せる場合には、遅相軸が搬送方向と直交するように横延伸機を用いるのが好ましい。
【0089】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光素子は、たとえば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸してもよし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0090】
前述の透光性保護フィルムとしては、光学的に等方な基板が好ましく、例えばフジタック(富士フィルム社製品)やコニカタック(コニカ社製品)などのトリアセチルセルロースフィルム、アートンフィルム(JSR社製品)やゼオノアフィルム、ゼオネックスフィルム(日本ゼオン社製品)などのCOPフィルム、TPXフィルム(三井化学社製品)、アクリプレンフィルム(三菱レーヨン社製品)が挙げられるが、光学素子用フィルムとした場合の耐熱性や耐湿性などからトリアセチルセルロースフィルムやCOPフィルムが好ましい。透光性保護フィルムの厚さは、一般には150μm以下であり、1〜100μmが好ましい。特に5〜50μmとするのが好ましい。
【0091】
前記の各種位相差フィルムとしては、ポリマーフィルムや液晶性の化合物や組成物から形成されるものを挙げることができる。
ポリマーフィルムは、複屈折性を発現し得るポリマーから形成される。複屈折性ポリマーフイルムとしては、複屈折特性の制御性、透明性、耐熱性に優れるものや、光弾性が小さいものが好ましい。この場合、用いる高分子材料としては均一な一軸配向もしくは二軸配向が達成できる高分子であれば特に制限はないが、従来公知のもので溶液流延法や押出成形方式で製膜できるものが好ましく、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、セルロースアシレート、または、これらポリマーの2種又は3種以上を混合したポリマーなどが挙げられる。
また、これらフィルムの厚みとしては、望ましくは10〜100μm、特に望ましくは20〜80μmがよい。厚みが厚すぎると得られる積層体が厚くなり薄膜化の要求に対して好ましくなく、薄すぎるとフィルムの機械強度が保てなくなるため、製造中に引き裂かれるなどのトラブルが生じる恐れがある。
【0092】
液晶性の化合物や組成物の配向を固定化させた位相差フィルムは、例えば、ある温度範囲において液晶性を示すサーモトロピック液晶性化合物やある溶液の特定の濃度範囲で液晶性を示すリオトロピック液晶性化合物やこれらを含む組成物を基板上に延展・配向し配向を固定化したフィルムが挙げられる。特にサーモトロピック液晶性化合物は広い温度範囲で液晶性を示すことができるようにするために複数の液晶性化合物を混合して用いることが多い。また、液晶性化合物は低分子量、高分子量およびこれらの混合物であってもよい。
固定化前の液晶性の化合物や組成物の液晶相としては、ネマチック相、ねじれネマチック相、コレステリック相、スメクチック相、ディスコティックネマチック相等が挙げられる。また、配向形態としては、配向基板に水平に配向するホモジニアス配向や垂直に配向するホメオトロピック配向、両者の中間状態と考えられるチルト配向やハイブリッド配向が例示される。
【0093】
これらの液晶性の化合物や組成物は、配向状態を固定するために、紫外線または熱により重合もしくは架橋するような化合物であってもよい。そのような液晶性の化合物としては、(メタ)アクリロイル基やエポキシ基、ビニル基、オキセタニル基などの重合性基を有する化合物、もしくはアミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、イソシアナート基などの反応性官能基を有する化合物であることが好ましく、例えばWO97/44703やWO98/00475号公報に記載の化合物などが挙げられる。
液晶層の厚さとしては、所望とする正面位相差と厚さ方向の位相差値によって異なり、さらに配向した液晶性の化合物の複屈折によっても異なるが、好ましくは0.05〜20μm、より好ましくは0.1〜10μm程度である。膜厚がこの範囲外では、目的とする効果が得られない、配向が不十分になる、などして好ましくない。
【0094】
なお、直線偏光板、光学フィルムや各光学異方素子の積層や転写に用いる粘着剤や接着剤(以下、両者を併せて「粘・接着剤」という。)の層の形成に使用する粘・接着剤は光学的に等方性で透明なものであれば特に制限されない。例えば、アクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。また、光や電子線、熱などの外部刺激により反応し重合や架橋するような反応性のものも用いることができる。これらの中でも特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0095】
粘・接着剤層の形成は、適宜な方式で行うことができる。その例としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40質量%程度の粘・接着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で前記の偏光板、光学フィルムや光学素子層上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘・接着剤層を形成してそれを前記の偏光板、光学フィルムや光学素子層上に移着する方式などが挙げられる。また、粘・接着剤層には、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることのある添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘・接着剤層などであってもよい。
粘・接着剤層の厚さは、貼着する部材を貼着しかつ十分な密着力を維持できる限り特に膜厚に制限はなく、粘・接着剤の特性や粘・接着される部材により適宜選定することができる。楕円偏光板の総厚の低減要求の強いことから、粘・接着剤の厚さは薄いほうが好ましいが、通常は2〜80μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜40μmである。この範囲外では、接着力が不足したり、積層時や楕円偏光板の保存時に端部から滲み出すなどして好ましくない。
【0096】
本発明の光学フィルムや光学素子は、光学フィルムや光学素子を構成する液晶層やCOPフィルム、各種位相差フィルムの面内のリターデーション値、厚さ方向のリターデーション値等により、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。例えば、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、OCB(Optically Compensatory Bend)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードを挙げることができる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた分析や測定の方法は以下の通りである。
(1)分子量の測定
液晶性ポリマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ポリマーをテトラヒドロフランに溶解し、東ソー社製8020GPCシステムで、TSK−GEL SuperH1000、SuperH2000、SuperH3000、SuperH4000を直列につなぎ、溶出液としてテトラヒドロフランを用い、紫外線検出器(波長254nm)で測定した。分子量の較正にはポリスチレンスタンダードを用いた。
(2)顕微鏡観察
オリンパス光学社製BH2偏光顕微鏡で液晶の配向状態を観察した。
(3)液晶フィルムのパラメータ測定
王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA21 ADHを用い、波長550nm光を用いた。
【0098】
[実施例1]
ラジカル重合により、下記式(10)で表わされる側鎖型液晶性ポリマーを合成した。GPCによる測定した分子量はポリスチレン換算で、重量平均分子量は9,700であった。なお、式(10)における表記は各ユニットの構成比を表すものであって、ブロック重合体を意味するものではない。
式(11)で表されるアクリル化合物を10g、式(10)で表わされる側鎖型液晶性ポリマーを85gと、式(12)で表されるジオキセタン化合物の5gを、900mlのシクロヘキサノンに溶かし、暗所でトリアリルスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート50%プロピレンカーボネート溶液(アルドリッチ社製、試薬)10gを加えた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して液晶性組成物の溶液を調製した。
【0099】
COPフィルムのアートン(JSR(株)製、Re1=100nm,膜厚28μm)にポリエチレンテレフタレート(PET)系保護フィルムであるHP25S(パナック社製、膜厚25μm)を粘着剤面がCOPフィルムと接するよう貼合し、このフィルムのCOPフィルム面側に、前述の溶液をダイコート法で塗布し、次いで連続的に60℃の乾燥炉で5分乾燥し、90℃の熱処理炉において2分間熱処理し、液晶層を配向させ、一旦フィルムを巻き取った。このときのフィルム搬送時の張力は30Nであった。次いで、配向固定化処理として、前述のフィルムを繰り出し、高圧水銀灯ランプにより300mJ/cmの紫外光(ただし365nmで測定した光量)を照射して、液晶層を硬化させて光学フィルム(液晶層/COPフィルム/PET保護フィルム)を得た。
【0100】
得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、クロスニコルさせた偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。また、同フィルムの光学位相差を自動複屈折測定装置KOBRA21ADHにより測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射したところ、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は100nmで、液晶層の遅相軸方向に斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が減少し、斜め50°方位で90nmとなった。
【0101】
また比較のために得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、液晶層をシクロヘキサノン溶媒を用いて完全に拭き取り、上記同様に光学位相差を測定すると、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は100nmで、COPフィルムの遅相軸方位を回転軸として、斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が増加し、斜め50°方位で位相差値は125nmとなった。これらのことから、液晶分子の配向に必要な熱処理、及び連続工程でかかる張力を受けながらも、COPフィルムの位相差変動が無いことが分かった。
【0102】
この測定により液晶層単独でのリターデーションは、Reが0nm、Rthが−170nmと見積もられることから良好なホメオトロピック配向であることを確認した。
また、この液晶フィルムから保護フィルムを剥離したものをIPS型液晶ディスプレイに実装すると、本発明の液晶フィルムを用いない場合に比べ、視野角が拡大し、斜めから見ても良好な画像が得られることが分かった。
【0103】
【化16】

【化17】

【化18】

【0104】
[実施例2]
COPフィルムのアートン(JSR(株)製、Re1=100nm,膜厚28μm)にポリプロピレン(PP)系保護フィルムであるK8000(DIC社製、膜厚30μm)を粘着剤面がCOPフィルムと接するよう貼合し、このフィルムのCOPフィルム面側に、実施例1で調整した液晶組成物の溶液をダイコート法で塗布し、次いで連続的に60℃の乾燥炉で5分乾燥し、90℃の熱処理炉において2分間熱処理し、液晶層を配向させ、一旦フィルムを巻き取った。このときのフィルム搬送時の張力は30Nであった。次いで、配向固定化処理として、前述のフィルムを繰り出し、高圧水銀灯ランプにより300mJ/cmの紫外光(ただし365nmで測定した光量)を照射して、液晶層を硬化させて光学フィルム(液晶層/COPフィルム/PP保護フィルム)を得た。
【0105】
得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、クロスニコルさせた偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。また、同フィルムの光学位相差を自動複屈折測定装置KOBRA21ADHにより測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射したところ、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は100.5nmで、液晶層の遅相軸方向に斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が減少し、斜め50°方位で90.5nmとなった。
【0106】
また比較のために得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、液晶層をシクロヘキサノン溶媒を用いて完全に拭き取り、上記同様に光学位相差を測定すると、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は100.5nmで、COPフィルムの遅相軸方位を回転軸として、斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が増加し、斜め50°方位で位相差値は125.5nmとなった。これらのことから、液晶分子の配向に必要な熱処理、及び連続工程でかかる張力を受けながらも、COPフィルムの位相差変動は若干量で抑制できることが分かった。
【0107】
この測定により液晶層単独でのリターデーションは、Reが0nm、Rthが−170nmと見積もられることから良好なホメオトロピック配向であることを確認した。
また、この光学フィルムから保護フィルムを剥離したものをIPS型液晶ディスプレイに実装すると、本発明の液晶フィルムを用いない場合に比べ、視野角が拡大し、斜めから見ても良好な画像が得られることが分かった。
【0108】
[実施例3]
COPフィルムのアートン(JSR(株)製、Re1=100nm,膜厚28μm)にポリエチレン(PE)系保護フィルムであるトレテック7332(東レフィルム加工(社)製、膜厚30μm)を粘着剤面がCOPフィルムと接するよう貼合し、このフィルムのCOPフィルム面側に、実施例1で調整した液晶組成物の溶液をダイコート法で塗布し、次いで連続的に60℃の乾燥炉で5分乾燥し、90℃の熱処理炉において2分間熱処理し、液晶層を配向させ、一旦フィルムを巻き取った。このときのフィルム搬送時の張力は30Nであった。次いで、配向固定化処理として、前述のフィルムを繰り出し、高圧水銀灯ランプにより300mJ/cmの紫外光(ただし365nmで測定した光量)を照射して、液晶層を硬化させて光学フィルム(液晶層/COPフィルム/PP保護フィルム)を得た。
【0109】
得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、クロスニコルさせた偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。また、同フィルムの光学位相差を自動複屈折測定装置KOBRA21ADHにより測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射したところ、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は101nmで、液晶層の遅相軸方向に斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が減少し、斜め50°方位で91nmとなった。
【0110】
また比較のために得られた光学フィルムから保護フィルムを剥離し、液晶層をシクロヘキサノン溶媒を用いて完全に拭き取り、上記同様に光学位相差を測定すると、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は101nmで、COPフィルムの遅相軸方位を回転軸として、斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が増加し、斜め50°方位で位相差値は126nmとなった。これらのことから、液晶分子の配向に必要な熱処理、及び連続工程でかかる張力を受けながらも、COPフィルムの位相差変動は若干量で抑制できることが分かった。
【0111】
この測定により液晶層単独でのリターデーションは、Reが0nm、Rthが−170nmと見積もられることから良好なホメオトロピック配向であることを確認した。
また、この光学フィルムから保護フィルムを剥離したものをIPS型液晶ディスプレイに実装すると、本発明の液晶フィルムを用いない場合に比べ、視野角が拡大し、斜めから見ても良好な画像が得られることが分かった。
【0112】
[比較例1]
COPフィルムのアートン(JSR(株)製、Re1=100nm,膜厚28μm)に、実施例1で調整した液晶組成物の溶液をダイコート法で塗布し、次いで連続的に60℃の乾燥炉で5分乾燥し、90℃の熱処理炉において2分間熱処理し、液晶層を配向させ、一旦フィルムを巻き取った。このときのフィルム搬送時の張力は30Nであった。次いで、配向固定化処理として、前述のフィルムを繰り出し、高圧水銀灯ランプにより300mJ/cmの紫外光(ただし365nmで測定した光量)を照射して、液晶層を硬化させて液晶フィルム(液晶層/COPフィルム)を得た。
【0113】
得られた液晶フィルムをクロスニコルさせた偏光顕微鏡下で観察すると、ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であった。このフィルムを傾けて斜めから光を入射し、同様にクロスニコルで観察したところ、光の透過が観測された。また、同フィルムの光学位相差を自動複屈折測定装置KOBRA21ADHにより測定した。測定光をサンプル表面に対して垂直あるいは斜めから入射したところ、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は103nmで、液晶層の遅相軸方向に斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が減少し、斜め50°方位で93nmとなった。
【0114】
また比較のために得られた液晶フィルムから液晶層をシクロヘキサノン溶媒を用いて完全に拭き取り、上記同様に光学位相差を測定すると、サンプル表面に対して垂直方向での位相差(面内位相差)は103nmで、COPフィルムの遅相軸方位を回転軸として、斜めから位相差を測定したところ、測定光の入射角度の増加に伴い位相差値が増加し、斜め50°方位で位相差値は129nmとなった。これらのことから、液晶分子の配向に必要な熱処理、及び連続工程でかかる張力を受けた場合、COPフィルム単体では位相差変動が大きくなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の方法により、COPフィルムの位相差変動が抑制された光学フィルムが製造できるため光学素子として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送されるシクロオレフィンポリマーフィルムの片面に保護層を積層せしめる工程、保護層とは反対側の面に液晶性組成物をコーティングする工程、加熱処理により前記液晶性組成物を配向せしめる工程、前記配向を固定化する工程をこの順序で行うことを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記保護層がポリ−α―オレフィンフィルムまたはポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記保護層がポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記液晶性組成物がホメオトロピック配向することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られる光学フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の光学フィルムを用いて得られる光学素子。

【公開番号】特開2011−175021(P2011−175021A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37649(P2010−37649)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】