光学マスクおよび光源装置
【課題】中心スポット径を小さくすることができ且つ中心スポットへのエネルギー集中度を高くすることができる光源装置および光学マスクを提供する。
【解決手段】光源装置1は、レーザ光源10、凸レンズ11、凸レンズ12、アパーチャ13、透過型の光位相変調素子14、光学マスク15および凸レンズ16を備える。光学マスク15は、所定位置(主光線が通過する位置)を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である。pは偶数であり、「rp>rp−1>…>r2>r1」、かつ、「rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1」である。
【解決手段】光源装置1は、レーザ光源10、凸レンズ11、凸レンズ12、アパーチャ13、透過型の光位相変調素子14、光学マスク15および凸レンズ16を備える。光学マスク15は、所定位置(主光線が通過する位置)を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である。pは偶数であり、「rp>rp−1>…>r2>r1」、かつ、「rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1」である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスク、および、このような光学マスクを含む光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被観察物を観察する場合や被加工物を加工する場合に、レーザ光源等の光源から出力される光は、レンズ等を含む集光照射光学系を経て被観察物または被加工物に集光照射される。このように光を集光する場合、その集光径の大きさの目安であるビームウェスト径は、光の波長の半分程度までしか小さくすることができないことが知られている。これは回折限界と呼ばれる。ただし、この回折限界は、ガウシアンモード(あるいは基本モード)の光についてのことである。一方、回折限界より微細な空間構造を持つ高次モード光の存在が知られている。
【0003】
このような性質をもつ光ビームとして、ベッセル(Bessel)ビームやラゲール・ガウス・モード(Laguerre-Gaussian Mode)光(以下「LGモード光」という。)が知られている。このような光ビームを用いれば、実効的に回折限界以下の微小領域に光のエネルギーを集中させることが可能となる。例えば非特許文献1〜6には、LGモード光を出力する光源装置について記載されている。
【0004】
また、非特許文献7には、three-ring (3R) filter を用いて一様分布の直線偏光を集光して微小スポットを形成する技術が記載されている。さらに、非特許文献8〜10には、径偏光レーザビームを高NAレンズで集光して微小スポットを形成する技術が記載されている。
【非特許文献1】J. Arlt, et al., Journal of Modern Optics, Vol.45, No.6,pp.1231-1237 (1998).
【非特許文献2】D. G. Grier, Nature, Vol.424, pp.810-816 (2003).
【非特許文献3】M. W. Beijersbergen,et al., Optics Communications, Vol.112, pp.321-327 (1994).
【非特許文献4】K. Sueda, et al., Optics Express, Vol.12, No.15, pp.3548-3553(2004).
【非特許文献5】N. R. Heckenberg, et al., Optics Letters, Vol.17, No.3, pp.221-223(1992).
【非特許文献6】N. R. Heckenberg, et al., Optical and Quantum Electronics, Vol.24,No.24, pp.155-166 (1992).
【非特許文献7】M. Martinez-Corral, et al., Appl. Phys. Lett. VOl.85, No.19, pp.4319-4321(2004).
【非特許文献8】R. Dorn, et al., Phys. Rev. Lett. Vol.91, No.23, p.233901 (2003).
【非特許文献9】S. Quabis, et al., Opt. Commun. Vol.179, pp.1-7 (2000).
【非特許文献10】Y. Kozawa, et al., J. Opt. Soc. Am. A, Vol.24, No.6, pp.1793-1798(2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1〜6に記載されているようなLGモード光は、その光ビーム断面において中心スポットの周囲に本質的にリング状領域(以下「サイドローブ」という。)を有しているので、分解能が低いという課題や、中心スポットへのエネルギー集中度が低いなどの課題を有している。非特許文献7に記載されている技術でも、中心スポット径およびサイドローブの何れの点でも、上記課題を充分に解決することはできない。
【0006】
また、非特許文献8〜10に記載されている技術は、径偏光レーザビーム特有の性質を利用しているので、直線偏光ビームの場合には適用できない。また、この技術は、高NAでのみ有効な現象であり、低NAでは実現できない。さらに、この技術は、レンズの外周の光のみを集光するので、光の利用効率が非常に低い。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、中心スポット径を小さくすることができ且つ中心スポットへのエネルギー集中度を高くすることができる光源装置、および、このような光源装置において好適に用いられる光学マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学マスクは、入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスクであって、所定位置を中心とするp個の半径r1〜rp(pは偶数、rp>rp−1>…>r2>r1、かつ、rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1)の各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である、ことを特徴とする。本発明に係る光学マスクは、p個の半径r1〜rpがp次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例するのが好適である。
【0009】
本発明に係る光源装置は、コヒーレント光を出力する光源と、光源から出力される光を集光点に集光する集光光学系と、光源と集光点との間の光路上に設けられた上記の本発明に係る光学マスクと、を備えることを特徴とする。さらに、光学マスクが、光源から出力される光を領域A0〜Apに入力して、光透過領域を透過する光を出力することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光源装置は、光源と光学マスクとの間に設けられ、光源から出力される光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を出力する光位相変調素子を更に備えるのが好適であり、その場合に、光位相変調素子から出力されて光学マスクに入力される光のビーム断面において、光透過領域および光遮断領域それぞれに入力される光の位相が互いにπだけ異なるのが好適である。
【0011】
本発明に係る光源装置では、光位相変調素子は、入力光を位相変調して動径指数pのLGモード光を出力するのが好適である。
【0012】
本発明に係る光源装置では、光位相変調素子は、外部から入力される制御信号に基づいて各画素の位相変調量が設定される素子であるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中心スポット径を小さくすることができ、且つ、中心スポットへのエネルギー集中度を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る光源装置1の構成図である。この図に示される光源装置1は、レーザ光源10、凸レンズ11、凸レンズ12、アパーチャ13、透過型の光位相変調素子14、光学マスク15および凸レンズ16を備える。図2は、本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。この図2では光軸方向に光学マスク15を見ている。
【0016】
レーザ光源10は、コヒーレントなレーザ光を出力するものであり、例えばHe-Neレーザ光源等である。レンズ11およびレンズ12は、ビームエクスパンダとして作用するものであって、レーザ光源10から出力された光を入力し、その光のビーム径を拡大して、該光を平行光として出力する。アパーチャ13は、円形の開口を有し、レンズ11およびレンズ12から出力された光を入力して、その光のビーム断面のうち開口を通過する部分を光位相変調素子14へ出力する。
【0017】
光位相変調素子14は、レーザ光源10から出力されレンズ11,12を経てアパーチャ13の開口を通過した光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を光学マスク15へ透過させて出力する。光位相変調素子14は、ガラス板等の表面を加工することで厚み分布を持たせたものであってもよいが、外部から入力される制御信号に基づいて透過の際の各画素の位相変調量が設定される素子(SLM: Spatial Light Modulator)であるのが好適である。光位相変調素子14としてSLMが用いられる場合、位相変調量の空間的分布を電気的に書き込むことが可能であり、必要に応じて様々な位相変調分布を与えることができる。
【0018】
光学マスク15は、光位相変調素子14により位相変調された光を入力し、その光のビーム断面において空間的に強度変調して、当該変調後の光をレンズ16へ出力する。レンズ16は、光学マスク15から出力される光を集光面2上に集光する集光光学系として作用する。集光面2は例えば被観察物や被加工物などである。
【0019】
図2にも示されるように、光学マスク15は、所定位置(主光線が通過する位置)を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である。なお、図1および図2では、p値を2としている。ただし、pは偶数であり、「rp>rp−1>…>r2>r1」、かつ、「rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1」である。
【0020】
図3を用いて光学マスク15について更に詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。この図3でも光軸方向に光学マスク15を見ている。この図に示されるように、光学マスク15において、所定位置を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分される(p+1)個の領域A0〜Apを設定する。内側から順に領域A0,A1,A2,…,Apとする。pは偶数である。最も内側にある領域A0は、半径r1の円周の内側の領域である。最も外側にある領域Apは、半径rpの円周の外側の領域である。また、領域A0と領域Apとの間の各領域Aiは、半径riの円周と半径ri+1の円周とで区切られた円環状の領域である(i=1,2,3,…,p−1)。
【0021】
このとき、領域A0〜Apそれぞれの径方向の幅は、外側の領域ほど広い。すなわち、半径r1〜rpの間に以下の関係式が成り立つ。なお、最も内側にある領域A0については、半径r1を径方向の幅とする。そして、領域Am(mは0以上p以下の偶数)は光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)は光遮断領域である、最も外側にある領域Apは光透過領域となる。
【数1】
【0022】
動径方向rについて設定されるべきp個の半径r1〜rpは以下のように設定される。半径r1〜rpは、光強度が0となる部分(「節」)に存在する。光強度分布の節は(2)式で表されるLaguerre多項式Sp(z)の零点から求めることができる。なお、pは動径指数と呼ばれ、一般的には自然数であるが、本実施形態では正の偶数である。Laguerre多項式は、p次の多項式であり、p個の異なる正の実数根a1〜apを持つ。これらの根aiと光ビームウェスト半径wとを用いれば、半径riは(3)式で表される(i=1,2,3,…,p)。すなわち、p個の半径r1〜rpは、p次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例する。
【数2】
【数3】
【0023】
図1に示される構成において、光学マスク15に入力される光は、そのビーム断面において位相が一定であってもよいが、(p+1)個の領域A0〜Apのうち隣り合う2つの領域の間で位相がπだけ異なるのが好ましい。すなわち、偶数番目の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相と、奇数番目の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相とは、互いにπだけ異なるのが好ましい。偶数番目の光透過領域A0,A2,…,Apそれぞれの領域内における位相変調量φ0は一定である。また、奇数番目の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1それぞれの領域内における位相変調量φ1は一定である。そして、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とは互いにπだけ異なる。光位相変調素子14によりこのような光位相変調が為されて出力される光は、動径指数がpで偏角指数が0であるLGモード光となる。
【0024】
本実施形態に係る光源装置1は以下のように動作する。レーザ光源10から出力されたコヒーレントなレーザ光は、凸レンズ11および凸レンズ12によりビーム径が拡大された後、そのビーム断面の一部分がアパーチャ13の円形の開口を通過して、ビーム断面が円形とされて、光位相変調素子14に入力される。光位相変調素子14に入力された光は、この光位相変調素子14により、ビーム断面上の位置に応じて位相変調を受けて、動径指数がpで偏角指数が0であるLGモード光として出力される。
【0025】
この光位相変調素子14から出力されるLGモード光は、光学マスク15に入力される。このとき、光学マスク15の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相変調量φ0は一定であり、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相変調量φ1は一定であり、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とは互いにπだけ異なる。したがって、光学マスク15に入力されるLGモード光のうち光学マスク15から出力される光は、光透過領域A0.A2.…,Apにおいて選択的に透過されたものであって、位相変調量φ0が一定である。光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、光透過領域A0を透過した中心スポットに加えて、光透過領域A2.…,Apそれぞれを透過した同心円状のリングを有している。そして、この光学マスク15から出力される光は、レンズ16により集光面2上に集光される。
【0026】
次に、vectorial Debye formulaを用いて数値計算を行った結果を示す。LGモード光のビーム半径wとレンズ16の入射瞳の半径との比をβ(=入射瞳半径/LGモード光半径)と表す。また、「集光点」を、レンズ16の幾何学的な後焦点位置とする。
【0027】
図4は、集光点付近の光強度分布の計算結果を示す図である。LGモード光を直線偏光とし、動径指数pを2とし、偏角指数を0とした。また、βを2.5とし、レンズ16のNAを0.85とした。同図(a),(b)は、集光点を含み光軸に垂直な面における光強度分布を示すものであり、同図(a)は、光学マスク15を用いない比較例の場合の光強度分布を示し、同図(b)は、光学マスク15を用いる本実施形態の場合の光強度分布を示す。また、同図(c),(d)は、光軸を含む面における光強度分布を示すものであり、同図(c)は、光学マスク15を用いない比較例の場合の光強度分布を示し、同図(d)は、光学マスク15を用いる本実施形態の場合の光強度分布を示す。
【0028】
光学マスク15を用いない比較例の場合(同図(a),(c))と比較すると、光学マスク15を用いる本実施形態の場合(同図(c),(d))には、集光点付近において中心スポットの周囲にあるサイドローブの光強度が大幅に低減し、焦点深度が短くなっている。また、中心スポットの大きさをHalf maximumarea(強度二乗のピーク値が半分になるところの面積)は、比較例の場合(0.248λ2)と比較すると、本実施形態の場合(0.305λ2)には、ほんのすこし大きくなっている。ここで、λは光の波長である。
【0029】
図5は、中心スポット径とβとの関係を示すグラフである。中心スポット径は、Half maximum area とした。レンズ16のNAを0.78、0.80、0.85の3とおりとした。この図から、レンズ16のNAを大きくすると中心スポットが小さくなることが判る。また、動径指数pが2であるとき、レンズ16のNAによらずβが2の付近で最も中心スポットを小さくできることが判る。すなわち、動径指数pが2である条件では、レンズ16の入射瞳径をLGモード光のビーム径の2倍に設定することで最小のスポット径を得ることができる。なお、レンズ16のNAが0.85である条件での最小スポット径は0.276λ2である。
【0030】
図6は、中心スポットへのエネルギー集中度ηとβとの関係を示すグラフである。中心スポットへのエネルギー集中度ηは、全体の光強度のうち中心スポットが占めている光強度の割合を示す。レンズ16のNAを0.78、0.80、0.85の3とおりとした。また、比較のため、レンズ16のNAをこれら3とおりとする一方で光学マスク15を用いない比較例の場合のエネルギー集中度ηも黒四角印で示されている。この図から、本実施形態における中心スポットへのエネルギー集中度ηは、レンズ16のNAに依存せず、この点では比較例と同様であることがわかる。しかし、本実施形態における中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例の場合に比べ30%程度改善できることがわかる。
【0031】
図7は、集光点付近の光強度分布の他の計算結果を示す図である。ここでは、動径指数pを4または6とした。図8は、動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。また、図9は、動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。何れの場合も、レンズ16のNAを0.85とした。動径指数pを4とした場合のβを3.3とし、動径指数pを6とした場合のβを3.8とした。図7(a),(b)は、集光点を含み光軸に垂直な面における光強度分布を示すものであり、同図(a)は、動径指数pを4とした場合の光強度分布を示し、同図(b)は、動径指数pを6とした場合の光強度分布を示す。また、同図(c),(d)は、光軸を含む面における光強度分布を示すものであり、同図(c)は、動径指数pを4とした場合の光強度分布を示し、同図(d)は、動径指数pを6とした場合の光強度分布を示す。
【0032】
本実施形態のように光学マスク15を用いることにより、集光点付近でサイドローブが大幅に低減していることがわかる。また、動径指数pを4とした場合、中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例では0.083であるのに対して、光学マスク15を用いる本実施形態では0.405である。また、動径指数pを6とした場合、中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例では0.054であるのに対して、光学マスク15を用いる本実施形態では0.349である。何れの場合でも、光学マスク15を用いる本実施形態では、中心スポットへのエネルギー集中度ηは大幅に改善されている。
【0033】
さらに、レンズ16のNAが0.85である条件での最小のスポット径は、動径指数pを4とした場合には0.286λ2となり、動径指数pを6とした場合には0.290λ2となる。なお、非特許文献7に記載されている技術では3Rマスクを同じ条件で使って得られる最小スポット径は0.301λ2となり、これと比べて本実施形態の方が優位である。
【0034】
これまでに説明した実施形態では、集光光学系であるレンズ16のNAが比較的高く直線偏光である場合について説明した。しかし、本実施形態の効果である中心スポット径の縮小および中心スポットへのエネルギー集中度の向上は、レンズ16のNAに依存せず、また、直線偏光以外の偏光状態でも有効である。
【0035】
本実施形態に係る光源装置1が特に有効に用いられる例としては、微小光源が少ない直線偏光での利用が挙げられる。例えば磁気光学効果を用いた光磁気ディスクの読み取り系では、光磁気ディスクに記憶された磁気によって直線偏光が回転する成分を検出しており、本実施形態に係る光源装置1を利用することで大容量化を実現することができる。
【0036】
また、光学マスク15の位置は、これまで説明してきたとおり集光光学系としてのレンズ16の前方であってもよいし、レンズ16の後方であってもよい。また、光学マスク15は、レンズ16の入射面または出射面に形成されて設けられていてもよい。また、光位相変調素子14と光学マスク15とは一体のものであってもよく、この場合には、強度変調および位相変調を画素毎に施すことができるSLMが用いられてもよい。
【0037】
また、これまでに説明した実施形態では、光位相変調素子14により生成されたLGモード光が光学マスク15に入射されるとともに、その入射の際に、光学マスク15の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相変調量φ0が一定とされ、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相変調量φ1が一定とされて、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とが互いにπだけ異なる。そして、光学マスク15に入力される光のうち光透過領域A0.A2.…,Apに入力された光が、選択的に光学マスク15から出力される。
【0038】
すなわち、光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、光透過領域A0を透過した中心スポットに加えて、光透過領域A2.…,Apそれぞれを透過した同心円状のリングを有していて、位相変調量φ0が一定とされている。したがって、以下に説明するように、光学マスク15に入力される光は、必ずしもLGモード光でなくてもよく、ビーム断面において位相が一定である光であってもよい。この場合にも、光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、これまでに説明した実施形態と同様のものとなる。以下では、このような場合について説明する。
【0039】
図10は、動径指数pを2とした場合の光学マスク15の平面図である。図11は、動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。また、図12は、動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。これらの図でも、光軸方向に光学マスク15を見ている。また、これらの図中には、(p+1)個の領域A0〜Apの境界である各円周の半径riをビームウェスト半径wで規格化した値(ri/w)およびβの各値が示されている。
【0040】
(p+1)個の領域A0〜Apの境界である各円周の半径ri(i=1〜p)は、既に説明した(2)式および(3)式に従って同様にして求められる。ただし、中心スポット径を最も縮小する効果を発揮させるためには、ビーム半径wとレンズ16の開口半径との比βを適切に設定する必要がある。すなわち、LGモード光を光学マスク15に入射させてサイドローブの少ない微小スポットを形成しようとする場合、βを、入射LGモード光の入射瞳面におけるビーム半径パラメータwを単位とした値(つまり、実寸法ではwβ)に設定しなければならない。これに対し、位相が一定である光が光学マスク15に入射される場合には、各半径値riの相対値のみが意味を持つことになるが、LGモード光入射時と同様の効果を得るためには、βとの相対関係をも考慮する必要がある。
【0041】
一般に、βは、少なくとも最も外側の光遮断領域の外半径rpより大きくなければならず、入射光の電場振幅が存在しうる範囲(pが2である場合、概ねβは3程度)と比較して、極端に大きくない値であることが好ましい。
【0042】
より微小な中心スポット径を得るためには、以下のようにβを設定するのが有効である。例えば、動径指数pが2であるLGモード光入力の場合、図5に示されるように、レンズ16のNAに依存せず概ねβが2であるときに、最小の焦点スポットが得られる。このβ値は、位相が一様である光が光学マスク15に入力する場合にも有効である。つまり、図10に示されるように、動径指数pが2である場合、概ね「(r1/w):(r2/w):β=0.5412:1.3066:2.0」の比であり、かつ、βがレンズ16の有効開口径となるように設計すれば良い。ただし、動径指数pが2である場合と比較して、動径指数pが4または6である場合には、中心スポット径がやや大きくなる。図11および図12それぞれにもβの好適値が記されている。動径指数pの各値に対して好適となるβ値を得るには、図5に示されるような関係を予め求めておく必要がある。
【0043】
また、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1は、入射した光を遮断する領域であるが、光を吸収することで遮断してもよいし、光を反射させることで遮断してもよいし、光を散乱させることで遮断してもよい。なお、光を吸収することで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に吸収色素が塗布される。光を反射させることで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に金属等の反射膜が形成される。また、光を散乱させることで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1にサンドブラスト加工等により粗面部分が形成される。
【0044】
要は、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入射された光が、集光光学系であるレンズ16により集光点へ集光されなければよい。したがって、図13に断面図が示されるように、光学マスクが入射面に設けられたレンズ16Aの構成とし、このレンズ16Aの入射面において光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に相当する領域で、光を吸収することで遮断してもよいし、光を反射させることで遮断してもよいし、光を散乱させることで遮断してもよい。また、図14に断面図が示されるように、レンズ16Bは、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に相当する領域において集光作用を奏しないような構成としてもよく、例えば、これらの領域が貫通孔となって構成としてもよい。この場合、貫通孔を通過した光は、直進するので、集光点には集光されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る光源装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。
【図3】本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。
【図4】集光点付近の光強度分布の計算結果を示す図である。
【図5】中心スポット径とβとの関係を示すグラフである。
【図6】中心スポットへのエネルギー集中度ηとβとの関係を示すグラフである。
【図7】集光点付近の光強度分布の他の計算結果を示す図である。
【図8】動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図9】動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図10】動径指数pを2とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図11】動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図12】動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図13】光学マスクが入射面に設けられたレンズ16Aの構成を示す断面図である。
【図14】光遮断領域に相当する領域において集光作用を奏しないレンズ16Bの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…光源装置、2…集光面、10…レーザ光源、11,12…レンズ、13…アパーチャ、14…光位相変調素子、15…光学マスク、16…レンズ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスク、および、このような光学マスクを含む光源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被観察物を観察する場合や被加工物を加工する場合に、レーザ光源等の光源から出力される光は、レンズ等を含む集光照射光学系を経て被観察物または被加工物に集光照射される。このように光を集光する場合、その集光径の大きさの目安であるビームウェスト径は、光の波長の半分程度までしか小さくすることができないことが知られている。これは回折限界と呼ばれる。ただし、この回折限界は、ガウシアンモード(あるいは基本モード)の光についてのことである。一方、回折限界より微細な空間構造を持つ高次モード光の存在が知られている。
【0003】
このような性質をもつ光ビームとして、ベッセル(Bessel)ビームやラゲール・ガウス・モード(Laguerre-Gaussian Mode)光(以下「LGモード光」という。)が知られている。このような光ビームを用いれば、実効的に回折限界以下の微小領域に光のエネルギーを集中させることが可能となる。例えば非特許文献1〜6には、LGモード光を出力する光源装置について記載されている。
【0004】
また、非特許文献7には、three-ring (3R) filter を用いて一様分布の直線偏光を集光して微小スポットを形成する技術が記載されている。さらに、非特許文献8〜10には、径偏光レーザビームを高NAレンズで集光して微小スポットを形成する技術が記載されている。
【非特許文献1】J. Arlt, et al., Journal of Modern Optics, Vol.45, No.6,pp.1231-1237 (1998).
【非特許文献2】D. G. Grier, Nature, Vol.424, pp.810-816 (2003).
【非特許文献3】M. W. Beijersbergen,et al., Optics Communications, Vol.112, pp.321-327 (1994).
【非特許文献4】K. Sueda, et al., Optics Express, Vol.12, No.15, pp.3548-3553(2004).
【非特許文献5】N. R. Heckenberg, et al., Optics Letters, Vol.17, No.3, pp.221-223(1992).
【非特許文献6】N. R. Heckenberg, et al., Optical and Quantum Electronics, Vol.24,No.24, pp.155-166 (1992).
【非特許文献7】M. Martinez-Corral, et al., Appl. Phys. Lett. VOl.85, No.19, pp.4319-4321(2004).
【非特許文献8】R. Dorn, et al., Phys. Rev. Lett. Vol.91, No.23, p.233901 (2003).
【非特許文献9】S. Quabis, et al., Opt. Commun. Vol.179, pp.1-7 (2000).
【非特許文献10】Y. Kozawa, et al., J. Opt. Soc. Am. A, Vol.24, No.6, pp.1793-1798(2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1〜6に記載されているようなLGモード光は、その光ビーム断面において中心スポットの周囲に本質的にリング状領域(以下「サイドローブ」という。)を有しているので、分解能が低いという課題や、中心スポットへのエネルギー集中度が低いなどの課題を有している。非特許文献7に記載されている技術でも、中心スポット径およびサイドローブの何れの点でも、上記課題を充分に解決することはできない。
【0006】
また、非特許文献8〜10に記載されている技術は、径偏光レーザビーム特有の性質を利用しているので、直線偏光ビームの場合には適用できない。また、この技術は、高NAでのみ有効な現象であり、低NAでは実現できない。さらに、この技術は、レンズの外周の光のみを集光するので、光の利用効率が非常に低い。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、中心スポット径を小さくすることができ且つ中心スポットへのエネルギー集中度を高くすることができる光源装置、および、このような光源装置において好適に用いられる光学マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学マスクは、入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスクであって、所定位置を中心とするp個の半径r1〜rp(pは偶数、rp>rp−1>…>r2>r1、かつ、rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1)の各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である、ことを特徴とする。本発明に係る光学マスクは、p個の半径r1〜rpがp次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例するのが好適である。
【0009】
本発明に係る光源装置は、コヒーレント光を出力する光源と、光源から出力される光を集光点に集光する集光光学系と、光源と集光点との間の光路上に設けられた上記の本発明に係る光学マスクと、を備えることを特徴とする。さらに、光学マスクが、光源から出力される光を領域A0〜Apに入力して、光透過領域を透過する光を出力することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光源装置は、光源と光学マスクとの間に設けられ、光源から出力される光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を出力する光位相変調素子を更に備えるのが好適であり、その場合に、光位相変調素子から出力されて光学マスクに入力される光のビーム断面において、光透過領域および光遮断領域それぞれに入力される光の位相が互いにπだけ異なるのが好適である。
【0011】
本発明に係る光源装置では、光位相変調素子は、入力光を位相変調して動径指数pのLGモード光を出力するのが好適である。
【0012】
本発明に係る光源装置では、光位相変調素子は、外部から入力される制御信号に基づいて各画素の位相変調量が設定される素子であるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中心スポット径を小さくすることができ、且つ、中心スポットへのエネルギー集中度を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る光源装置1の構成図である。この図に示される光源装置1は、レーザ光源10、凸レンズ11、凸レンズ12、アパーチャ13、透過型の光位相変調素子14、光学マスク15および凸レンズ16を備える。図2は、本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。この図2では光軸方向に光学マスク15を見ている。
【0016】
レーザ光源10は、コヒーレントなレーザ光を出力するものであり、例えばHe-Neレーザ光源等である。レンズ11およびレンズ12は、ビームエクスパンダとして作用するものであって、レーザ光源10から出力された光を入力し、その光のビーム径を拡大して、該光を平行光として出力する。アパーチャ13は、円形の開口を有し、レンズ11およびレンズ12から出力された光を入力して、その光のビーム断面のうち開口を通過する部分を光位相変調素子14へ出力する。
【0017】
光位相変調素子14は、レーザ光源10から出力されレンズ11,12を経てアパーチャ13の開口を通過した光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を光学マスク15へ透過させて出力する。光位相変調素子14は、ガラス板等の表面を加工することで厚み分布を持たせたものであってもよいが、外部から入力される制御信号に基づいて透過の際の各画素の位相変調量が設定される素子(SLM: Spatial Light Modulator)であるのが好適である。光位相変調素子14としてSLMが用いられる場合、位相変調量の空間的分布を電気的に書き込むことが可能であり、必要に応じて様々な位相変調分布を与えることができる。
【0018】
光学マスク15は、光位相変調素子14により位相変調された光を入力し、その光のビーム断面において空間的に強度変調して、当該変調後の光をレンズ16へ出力する。レンズ16は、光学マスク15から出力される光を集光面2上に集光する集光光学系として作用する。集光面2は例えば被観察物や被加工物などである。
【0019】
図2にも示されるように、光学マスク15は、所定位置(主光線が通過する位置)を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である。なお、図1および図2では、p値を2としている。ただし、pは偶数であり、「rp>rp−1>…>r2>r1」、かつ、「rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1」である。
【0020】
図3を用いて光学マスク15について更に詳細に説明する。図3は、本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。この図3でも光軸方向に光学マスク15を見ている。この図に示されるように、光学マスク15において、所定位置を中心とするp個の半径r1〜rpの各円周によって区分される(p+1)個の領域A0〜Apを設定する。内側から順に領域A0,A1,A2,…,Apとする。pは偶数である。最も内側にある領域A0は、半径r1の円周の内側の領域である。最も外側にある領域Apは、半径rpの円周の外側の領域である。また、領域A0と領域Apとの間の各領域Aiは、半径riの円周と半径ri+1の円周とで区切られた円環状の領域である(i=1,2,3,…,p−1)。
【0021】
このとき、領域A0〜Apそれぞれの径方向の幅は、外側の領域ほど広い。すなわち、半径r1〜rpの間に以下の関係式が成り立つ。なお、最も内側にある領域A0については、半径r1を径方向の幅とする。そして、領域Am(mは0以上p以下の偶数)は光透過領域であり、領域An(nは0以上p以下の奇数)は光遮断領域である、最も外側にある領域Apは光透過領域となる。
【数1】
【0022】
動径方向rについて設定されるべきp個の半径r1〜rpは以下のように設定される。半径r1〜rpは、光強度が0となる部分(「節」)に存在する。光強度分布の節は(2)式で表されるLaguerre多項式Sp(z)の零点から求めることができる。なお、pは動径指数と呼ばれ、一般的には自然数であるが、本実施形態では正の偶数である。Laguerre多項式は、p次の多項式であり、p個の異なる正の実数根a1〜apを持つ。これらの根aiと光ビームウェスト半径wとを用いれば、半径riは(3)式で表される(i=1,2,3,…,p)。すなわち、p個の半径r1〜rpは、p次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例する。
【数2】
【数3】
【0023】
図1に示される構成において、光学マスク15に入力される光は、そのビーム断面において位相が一定であってもよいが、(p+1)個の領域A0〜Apのうち隣り合う2つの領域の間で位相がπだけ異なるのが好ましい。すなわち、偶数番目の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相と、奇数番目の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相とは、互いにπだけ異なるのが好ましい。偶数番目の光透過領域A0,A2,…,Apそれぞれの領域内における位相変調量φ0は一定である。また、奇数番目の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1それぞれの領域内における位相変調量φ1は一定である。そして、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とは互いにπだけ異なる。光位相変調素子14によりこのような光位相変調が為されて出力される光は、動径指数がpで偏角指数が0であるLGモード光となる。
【0024】
本実施形態に係る光源装置1は以下のように動作する。レーザ光源10から出力されたコヒーレントなレーザ光は、凸レンズ11および凸レンズ12によりビーム径が拡大された後、そのビーム断面の一部分がアパーチャ13の円形の開口を通過して、ビーム断面が円形とされて、光位相変調素子14に入力される。光位相変調素子14に入力された光は、この光位相変調素子14により、ビーム断面上の位置に応じて位相変調を受けて、動径指数がpで偏角指数が0であるLGモード光として出力される。
【0025】
この光位相変調素子14から出力されるLGモード光は、光学マスク15に入力される。このとき、光学マスク15の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相変調量φ0は一定であり、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相変調量φ1は一定であり、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とは互いにπだけ異なる。したがって、光学マスク15に入力されるLGモード光のうち光学マスク15から出力される光は、光透過領域A0.A2.…,Apにおいて選択的に透過されたものであって、位相変調量φ0が一定である。光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、光透過領域A0を透過した中心スポットに加えて、光透過領域A2.…,Apそれぞれを透過した同心円状のリングを有している。そして、この光学マスク15から出力される光は、レンズ16により集光面2上に集光される。
【0026】
次に、vectorial Debye formulaを用いて数値計算を行った結果を示す。LGモード光のビーム半径wとレンズ16の入射瞳の半径との比をβ(=入射瞳半径/LGモード光半径)と表す。また、「集光点」を、レンズ16の幾何学的な後焦点位置とする。
【0027】
図4は、集光点付近の光強度分布の計算結果を示す図である。LGモード光を直線偏光とし、動径指数pを2とし、偏角指数を0とした。また、βを2.5とし、レンズ16のNAを0.85とした。同図(a),(b)は、集光点を含み光軸に垂直な面における光強度分布を示すものであり、同図(a)は、光学マスク15を用いない比較例の場合の光強度分布を示し、同図(b)は、光学マスク15を用いる本実施形態の場合の光強度分布を示す。また、同図(c),(d)は、光軸を含む面における光強度分布を示すものであり、同図(c)は、光学マスク15を用いない比較例の場合の光強度分布を示し、同図(d)は、光学マスク15を用いる本実施形態の場合の光強度分布を示す。
【0028】
光学マスク15を用いない比較例の場合(同図(a),(c))と比較すると、光学マスク15を用いる本実施形態の場合(同図(c),(d))には、集光点付近において中心スポットの周囲にあるサイドローブの光強度が大幅に低減し、焦点深度が短くなっている。また、中心スポットの大きさをHalf maximumarea(強度二乗のピーク値が半分になるところの面積)は、比較例の場合(0.248λ2)と比較すると、本実施形態の場合(0.305λ2)には、ほんのすこし大きくなっている。ここで、λは光の波長である。
【0029】
図5は、中心スポット径とβとの関係を示すグラフである。中心スポット径は、Half maximum area とした。レンズ16のNAを0.78、0.80、0.85の3とおりとした。この図から、レンズ16のNAを大きくすると中心スポットが小さくなることが判る。また、動径指数pが2であるとき、レンズ16のNAによらずβが2の付近で最も中心スポットを小さくできることが判る。すなわち、動径指数pが2である条件では、レンズ16の入射瞳径をLGモード光のビーム径の2倍に設定することで最小のスポット径を得ることができる。なお、レンズ16のNAが0.85である条件での最小スポット径は0.276λ2である。
【0030】
図6は、中心スポットへのエネルギー集中度ηとβとの関係を示すグラフである。中心スポットへのエネルギー集中度ηは、全体の光強度のうち中心スポットが占めている光強度の割合を示す。レンズ16のNAを0.78、0.80、0.85の3とおりとした。また、比較のため、レンズ16のNAをこれら3とおりとする一方で光学マスク15を用いない比較例の場合のエネルギー集中度ηも黒四角印で示されている。この図から、本実施形態における中心スポットへのエネルギー集中度ηは、レンズ16のNAに依存せず、この点では比較例と同様であることがわかる。しかし、本実施形態における中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例の場合に比べ30%程度改善できることがわかる。
【0031】
図7は、集光点付近の光強度分布の他の計算結果を示す図である。ここでは、動径指数pを4または6とした。図8は、動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。また、図9は、動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。何れの場合も、レンズ16のNAを0.85とした。動径指数pを4とした場合のβを3.3とし、動径指数pを6とした場合のβを3.8とした。図7(a),(b)は、集光点を含み光軸に垂直な面における光強度分布を示すものであり、同図(a)は、動径指数pを4とした場合の光強度分布を示し、同図(b)は、動径指数pを6とした場合の光強度分布を示す。また、同図(c),(d)は、光軸を含む面における光強度分布を示すものであり、同図(c)は、動径指数pを4とした場合の光強度分布を示し、同図(d)は、動径指数pを6とした場合の光強度分布を示す。
【0032】
本実施形態のように光学マスク15を用いることにより、集光点付近でサイドローブが大幅に低減していることがわかる。また、動径指数pを4とした場合、中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例では0.083であるのに対して、光学マスク15を用いる本実施形態では0.405である。また、動径指数pを6とした場合、中心スポットへのエネルギー集中度ηは、光学マスク15を用いない比較例では0.054であるのに対して、光学マスク15を用いる本実施形態では0.349である。何れの場合でも、光学マスク15を用いる本実施形態では、中心スポットへのエネルギー集中度ηは大幅に改善されている。
【0033】
さらに、レンズ16のNAが0.85である条件での最小のスポット径は、動径指数pを4とした場合には0.286λ2となり、動径指数pを6とした場合には0.290λ2となる。なお、非特許文献7に記載されている技術では3Rマスクを同じ条件で使って得られる最小スポット径は0.301λ2となり、これと比べて本実施形態の方が優位である。
【0034】
これまでに説明した実施形態では、集光光学系であるレンズ16のNAが比較的高く直線偏光である場合について説明した。しかし、本実施形態の効果である中心スポット径の縮小および中心スポットへのエネルギー集中度の向上は、レンズ16のNAに依存せず、また、直線偏光以外の偏光状態でも有効である。
【0035】
本実施形態に係る光源装置1が特に有効に用いられる例としては、微小光源が少ない直線偏光での利用が挙げられる。例えば磁気光学効果を用いた光磁気ディスクの読み取り系では、光磁気ディスクに記憶された磁気によって直線偏光が回転する成分を検出しており、本実施形態に係る光源装置1を利用することで大容量化を実現することができる。
【0036】
また、光学マスク15の位置は、これまで説明してきたとおり集光光学系としてのレンズ16の前方であってもよいし、レンズ16の後方であってもよい。また、光学マスク15は、レンズ16の入射面または出射面に形成されて設けられていてもよい。また、光位相変調素子14と光学マスク15とは一体のものであってもよく、この場合には、強度変調および位相変調を画素毎に施すことができるSLMが用いられてもよい。
【0037】
また、これまでに説明した実施形態では、光位相変調素子14により生成されたLGモード光が光学マスク15に入射されるとともに、その入射の際に、光学マスク15の光透過領域A0.A2.…,Apに入力される光の位相変調量φ0が一定とされ、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入力される光の位相変調量φ1が一定とされて、これら位相変調量φ0と位相変調量φ1とが互いにπだけ異なる。そして、光学マスク15に入力される光のうち光透過領域A0.A2.…,Apに入力された光が、選択的に光学マスク15から出力される。
【0038】
すなわち、光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、光透過領域A0を透過した中心スポットに加えて、光透過領域A2.…,Apそれぞれを透過した同心円状のリングを有していて、位相変調量φ0が一定とされている。したがって、以下に説明するように、光学マスク15に入力される光は、必ずしもLGモード光でなくてもよく、ビーム断面において位相が一定である光であってもよい。この場合にも、光学マスク15から出力される光は、そのビーム断面において、これまでに説明した実施形態と同様のものとなる。以下では、このような場合について説明する。
【0039】
図10は、動径指数pを2とした場合の光学マスク15の平面図である。図11は、動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。また、図12は、動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。これらの図でも、光軸方向に光学マスク15を見ている。また、これらの図中には、(p+1)個の領域A0〜Apの境界である各円周の半径riをビームウェスト半径wで規格化した値(ri/w)およびβの各値が示されている。
【0040】
(p+1)個の領域A0〜Apの境界である各円周の半径ri(i=1〜p)は、既に説明した(2)式および(3)式に従って同様にして求められる。ただし、中心スポット径を最も縮小する効果を発揮させるためには、ビーム半径wとレンズ16の開口半径との比βを適切に設定する必要がある。すなわち、LGモード光を光学マスク15に入射させてサイドローブの少ない微小スポットを形成しようとする場合、βを、入射LGモード光の入射瞳面におけるビーム半径パラメータwを単位とした値(つまり、実寸法ではwβ)に設定しなければならない。これに対し、位相が一定である光が光学マスク15に入射される場合には、各半径値riの相対値のみが意味を持つことになるが、LGモード光入射時と同様の効果を得るためには、βとの相対関係をも考慮する必要がある。
【0041】
一般に、βは、少なくとも最も外側の光遮断領域の外半径rpより大きくなければならず、入射光の電場振幅が存在しうる範囲(pが2である場合、概ねβは3程度)と比較して、極端に大きくない値であることが好ましい。
【0042】
より微小な中心スポット径を得るためには、以下のようにβを設定するのが有効である。例えば、動径指数pが2であるLGモード光入力の場合、図5に示されるように、レンズ16のNAに依存せず概ねβが2であるときに、最小の焦点スポットが得られる。このβ値は、位相が一様である光が光学マスク15に入力する場合にも有効である。つまり、図10に示されるように、動径指数pが2である場合、概ね「(r1/w):(r2/w):β=0.5412:1.3066:2.0」の比であり、かつ、βがレンズ16の有効開口径となるように設計すれば良い。ただし、動径指数pが2である場合と比較して、動径指数pが4または6である場合には、中心スポット径がやや大きくなる。図11および図12それぞれにもβの好適値が記されている。動径指数pの各値に対して好適となるβ値を得るには、図5に示されるような関係を予め求めておく必要がある。
【0043】
また、光学マスク15の光遮断領域A1,A3,…,Ap−1は、入射した光を遮断する領域であるが、光を吸収することで遮断してもよいし、光を反射させることで遮断してもよいし、光を散乱させることで遮断してもよい。なお、光を吸収することで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に吸収色素が塗布される。光を反射させることで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に金属等の反射膜が形成される。また、光を散乱させることで遮断する場合、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1にサンドブラスト加工等により粗面部分が形成される。
【0044】
要は、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に入射された光が、集光光学系であるレンズ16により集光点へ集光されなければよい。したがって、図13に断面図が示されるように、光学マスクが入射面に設けられたレンズ16Aの構成とし、このレンズ16Aの入射面において光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に相当する領域で、光を吸収することで遮断してもよいし、光を反射させることで遮断してもよいし、光を散乱させることで遮断してもよい。また、図14に断面図が示されるように、レンズ16Bは、光遮断領域A1,A3,…,Ap−1に相当する領域において集光作用を奏しないような構成としてもよく、例えば、これらの領域が貫通孔となって構成としてもよい。この場合、貫通孔を通過した光は、直進するので、集光点には集光されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る光源装置1の構成図である。
【図2】本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。
【図3】本実施形態に係る光学マスク15の平面図である。
【図4】集光点付近の光強度分布の計算結果を示す図である。
【図5】中心スポット径とβとの関係を示すグラフである。
【図6】中心スポットへのエネルギー集中度ηとβとの関係を示すグラフである。
【図7】集光点付近の光強度分布の他の計算結果を示す図である。
【図8】動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図9】動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図10】動径指数pを2とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図11】動径指数pを4とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図12】動径指数pを6とした場合の光学マスク15の平面図である。
【図13】光学マスクが入射面に設けられたレンズ16Aの構成を示す断面図である。
【図14】光遮断領域に相当する領域において集光作用を奏しないレンズ16Bの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…光源装置、2…集光面、10…レーザ光源、11,12…レンズ、13…アパーチャ、14…光位相変調素子、15…光学マスク、16…レンズ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスクであって、
所定位置を中心とするp個の半径r1〜rp(pは偶数、rp>rp−1>…>r2>r1、かつ、rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1)の各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、
領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、
領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である、
ことを特徴とする光学マスク。
【請求項2】
前記p個の半径r1〜rpがp次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例することを特徴とする請求項1記載の光学マスク。
【請求項3】
コヒーレント光を出力する光源と、
前記光源から出力される光を集光点に集光する集光光学系と、
前記光源と前記集光点との間の光路上に設けられた請求項1または2に記載の光学マスクと、
を備え
前記光学マスクが、前記光源から出力される光を前記領域A0〜Apに入力して、前記光透過領域を透過する光を出力する、
ことを特徴とする光源装置。
【請求項4】
前記光源と前記光学マスクとの間に設けられ、前記光源から出力される光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を出力する光位相変調素子を更に備え、
前記光位相変調素子から出力されて前記光学マスクに入力される光のビーム断面において、前記光透過領域および前記光遮断領域それぞれに入力される光の位相が互いにπだけ異なる、
ことを特徴とする請求項3記載の光源装置。
【請求項5】
前記光位相変調素子が、入力光を位相変調して動径指数pのLGモード光を出力する、ことを特徴とする請求項4記載の光源装置。
【請求項6】
前記光位相変調素子が、外部から入力される制御信号に基づいて各画素の位相変調量が設定される素子である、ことを特徴とする請求項4記載の光源装置。
【請求項1】
入力される光のビーム断面において空間的に強度変調して当該変調後の光を出力する光学マスクであって、
所定位置を中心とするp個の半径r1〜rp(pは偶数、rp>rp−1>…>r2>r1、かつ、rp−rp−1>rp−1−rp−2>…>r3−r2>r2−r1>r1)の各円周によって区分され内側から順に領域A0〜Apを設定したときに、
領域Am(mは0以上p以下の偶数)が光透過領域であり、
領域An(nは0以上p以下の奇数)が光遮断領域である、
ことを特徴とする光学マスク。
【請求項2】
前記p個の半径r1〜rpがp次のLaguerre多項式のp個の実数根の平方根に比例することを特徴とする請求項1記載の光学マスク。
【請求項3】
コヒーレント光を出力する光源と、
前記光源から出力される光を集光点に集光する集光光学系と、
前記光源と前記集光点との間の光路上に設けられた請求項1または2に記載の光学マスクと、
を備え
前記光学マスクが、前記光源から出力される光を前記領域A0〜Apに入力して、前記光透過領域を透過する光を出力する、
ことを特徴とする光源装置。
【請求項4】
前記光源と前記光学マスクとの間に設けられ、前記光源から出力される光を入力し、その光のビーム断面上の位置に応じて該光を位相変調して、その位相変調後の光を出力する光位相変調素子を更に備え、
前記光位相変調素子から出力されて前記光学マスクに入力される光のビーム断面において、前記光透過領域および前記光遮断領域それぞれに入力される光の位相が互いにπだけ異なる、
ことを特徴とする請求項3記載の光源装置。
【請求項5】
前記光位相変調素子が、入力光を位相変調して動径指数pのLGモード光を出力する、ことを特徴とする請求項4記載の光源装置。
【請求項6】
前記光位相変調素子が、外部から入力される制御信号に基づいて各画素の位相変調量が設定される素子である、ことを特徴とする請求項4記載の光源装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【図7】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図4】
【図7】
【公開番号】特開2009−109672(P2009−109672A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280845(P2007−280845)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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