説明

光学多層膜、光学素子および光ピックアップ

【課題】成膜初期に屈折率や膜厚が変化しても、例えば所定の波長において所定の反射率を示すような所望の光学特性を有する光学多層膜を実現する。
【解決手段】基板11と機能層22との間に誤差感度低減層21を設ける。これにより、成膜初期に膜厚や屈折率が変動しても、その変動を誤差感度低減層21内にとどめ、その後の膜厚等の安定した層で機能層22を形成することができる。このとき、機能層22は、光学多層膜12中で最も屈折率の高い層または最も屈折率の低い層のうちで最も基板11に近い側の層f1以降の層で構成されているので、光学多層膜12全体として、機能層22の膜構成に応じた光学特性を実現することができる。また、基板11と層f1との間で隣接する層同士の屈折率差が小さいので、成膜初期の膜厚誤差や屈折率誤差が大きくても、光学多層膜12全体としての最終的な光学特性の変化量を小さくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に形成される光学多層膜と、その光学多層膜を備えた光学素子と、その光学素子を備えた光ピックアップとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学多層膜(多層膜光学フィルタ)は、積層された膜のそれぞれの界面での光の干渉現象を利用して、対象とする光の波長範囲において所望の透過あるいは反射の特性を得ようとするものである。このような光学多層膜を用いて所望の光学特性を有する製品(光学素子)を得るためには、各層の膜厚を精度良く制御して、設計値からのズレを許容範囲内に収めることが重要である。特に、最近用途が広がりつつあるCD、DVD、BD(Blu-ray disc)互換の3波長用光学多層膜においては、CD、DVD互換の2波長用光学多層膜と比較して、所望の光学特性を得るために、各層の屈折率および膜厚についての設計値からの誤差の許容範囲がさらに小さくなる。
【0003】
ここで、例えば特許文献1および2には、光学多層膜の1つである反射防止膜について、所望の光学特性を得るための構成が開示されている。より具体的には、特許文献1では、光学特性の膜厚依存性の小さい反射防止膜を実現するために、基板表面より単調に屈折率が小さくなるように各層を積層している。一方、特許文献2では、製造誤差を加味しても極めて高い透過率特性を有する反射防止膜を得るために、基板から第1および第7層目を中間屈折率材料で構成し、第2、第4、第6および第9層目を高屈折率材料で構成し、第3、第5、第8および第10層目を低屈折率材料で構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−195625号公報(段落〔0011〕等参照)
【特許文献2】特開2002−107506号公報(段落〔0039〕等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1および2の構成は、反射防止膜に限定した構成であり、例えば所定の波長において所定の反射率を示す光学多層膜(例えばハーフミラーの多層膜)と反射防止膜とは膜の設計が全く異なるため、所望の光学特性を実現すべく、そのような光学多層膜に特許文献1および2の反射防止膜の構成をストレートに適用することはできない。
【0006】
また、一般的に、光学多層膜は、ゴミが膜内に混入するのを防止したり、膜の密度を高くするために、製造装置内を真空にした状態で、真空蒸着法やスパッタ法によって成膜される。ここで、真空蒸着法で成膜する場合は、大気開放中に装置内の壁などに付着した水や材料を加熱する電子銃の熱の影響により、成膜初期(例えば成膜開始直後の2層)において膜厚(または成膜速度)や屈折率が安定せず、それらが製造誤差の許容範囲内に収まらない。また、スパッタ法で成膜する場合でも、コート材料の表面が基板の入れ替えのために大気にさらされ、大気中の水分等が材料表面に付着するため、成膜初期に膜厚や屈折率が変化しやすく、それらが製造誤差の許容範囲内に収まらない。
【0007】
このように、真空蒸着法でもスパッタ法でも、成膜初期に膜厚や屈折率が変化し、それらが製造誤差の許容範囲内に収まらないため、光学多層膜の最終的な光学特性として所望の光学特性を実現することが困難であるという問題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、成膜初期に屈折率や膜厚が変化しても、例えば所定の波長において所定の反射率を示すような所望の光学特性を実現することができる光学多層膜と、その光学多層膜を備えた光学素子と、その光学素子を備えた光ピックアップとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学多層膜は、基板の表面に形成される光学多層膜であって、複数の層からなる誤差感度低減層と、複数の層からなる機能層とを、前記基板の表面にこの順で積層して構成されており、前記機能層は、当該多層膜中で最も屈折率の高い層または最も屈折率の低い層のうちで最も前記基板に近い側の層と、その層に対して前記基板とは反対側に位置する層とで構成されており、前記誤差感度低減層における前記基板に接する層と前記基板との屈折率差、および、前記誤差感度低減層内で隣接する層同士の屈折率差が、前記機能層における最も前記基板に近い側の層と前記基板との屈折率差の2/3以下であり、前記誤差感度低減層の各層の屈折率は、前記基板側から前記機能層側に向かうにつれて単調に増加または減少することを特徴としている。
【0010】
本発明の光学多層膜において、前記誤差感度低減層における前記基板に接する層と前記基板との屈折率差、および、前記誤差感度低減層内で隣接する層同士の屈折率差が、前記機能層における最も前記基板に近い側の層と前記基板との屈折率差の13/30以下であることが望ましい。
【0011】
本発明の光学多層膜において、前記誤差感度低減層は、2層で構成されていることが望ましい。
【0012】
本発明の光学多層膜において、前記誤差感度低減層の各層は、前記機能層の各層を構成する材料の中から異なる種類同士を組み合わせた混合物で構成されていることが望ましい。
【0013】
本発明の光学多層膜において、前記機能層は、屈折率の異なる3種類または2種類の層の組み合わせで構成されていることが望ましい。
【0014】
本発明の光学多層膜は、所定の波長において、反射率20%以上80%以下の光学特性を有していてもよい。
【0015】
本発明の光学多層膜は、波長405nm、660nm、785nmにおいて、反射率20%以上80%以下の光学特性を有していてもよい。
【0016】
本発明の光学多層膜において、前記誤差感度低減層および前記機能層を構成する各層は、スパッタ法で作製されていてもよい。
【0017】
本発明の光学素子は、上述した本発明の光学多層膜と、前記光学多層膜が表面に形成される基板とを備えていることを特徴としている。
【0018】
本発明の光ピックアップは、上記した本発明の光学素子と、光を出射する光源と、前記光源から前記光学素子を介して得られる光を光ディスクに集光させる対物レンズとを備えていることを特徴としている。
【0019】
本発明の光ピックアップにおいて、前記光源は、波長405nmを含む波長帯域の光を出射する光源部と、波長660nmを含む波長帯域の光を出射する光源部と、波長785nmを含む波長帯域の光を出射する光源部とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学多層膜を誤差感度低減層と機能層とで構成し、基板と機能層との間に誤差感度低減層を設ける構成とすることにより、成膜初期に膜厚や屈折率が変動しても、その変動を誤差感度低減層内にとどめ、その後の膜厚等の安定した層で機能層を形成することができる。このとき、機能層は、光学多層膜中で最も屈折率の高い層または最も屈折率の低い層のうちで最も基板に近い側の層以降の層(基板から離れる側の層)で構成されているので、光学多層膜全体として、機能層の膜構成に応じた光学特性(例えば所定の波長において所定の反射率)を実現することができる。また、基板と機能層1層目との間で隣接する層同士(両端の層を含む)の屈折率差が、(基板と機能層1層目との屈折率差に比べて)小さいので、成膜初期の膜厚誤差や屈折率誤差が大きくても、光学多層膜全体としての最終的な光学特性の変化量を小さくできる。
【0021】
このように、本発明によれば、基板と機能層との間に誤差感度低減層を設けるという、成膜初期における屈折率や膜厚の変化を加味した膜構成とすることにより、成膜初期に屈折率や膜厚が変化しても、光学多層膜全体として所望の光学特性を安定して実現することができる。したがって、本発明の光学多層膜を用いて光学素子を構成したり、さらにその光学素子を用いて光ピックアップを構成した場合でも、その光学素子や光ピックアップの性能を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光学多層膜が適用される光学素子の概略の構成を示す断面図である。
【図2】上記光学素子が適用される光ピックアップの概略の構成を示す説明図である。
【図3】実施例1の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図4】比較例1の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図5】実施例2の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図6】実施例3の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図7】比較例2の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図8】実施例4の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図9】比較例3の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図10】実施例5の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図11】比較例4の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図12】実施例6の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図13】比較例5の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図14】実施例7の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【図15】比較例6の光学多層膜の分光特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。
【0024】
〔光ピックアップについて〕
図2は、本発明の実施の一形態に係る光ピックアップの概略の構成を示す説明図である。この光ピックアップは、光源1と、合成プリズム2と、光学素子3と、コリメータレンズ4と、立ち上げミラー5と、1/4波長板6と、対物レンズ7と、APC(Auto Power Control)モニタ8と、フォトディテクター9とを備えている。なお、図2では、光源1から光ディスクDに向かう光の光路(往路)を実線で示し、光ディスクDからの戻り光の光路(復路)を破線で示している。
【0025】
光源1は、光源部1aと光源部1bとで構成されている。光源部1aは、波長405nmを含む波長帯域の光を出射するレーザーダイオード(LD for BD )で構成されている。光源部1bは、波長660nmを含む波長帯域の光を出射する光源部と、波長785nmを含む波長帯域の光を出射する光源部とが一体化されたレーザーダイオード(LD for DVD&CD )で構成されている。なお、上記した3波長に対応する光源部は互いに別体で構成されていてもよいし、2以上の光源部が一体的に構成されていてもよい。
【0026】
合成プリズム2は、光源部1a・1bからの出射光のうち、一方の光を透過させ、他方の光を反射させてこれらを同一の光路で出射する。光学素子3は、所定の波長、すなわち、波長405nm、660nm、785nmにおいて、反射率20%以上80%以下の光学特性を有する光学素子(例えばハーフミラー)で構成されている。
【0027】
コリメータレンズ4は、入射光を平行光に変換する。立ち上げミラー5は、入射光の進行方向を例えば90度折り曲げる。1/4波長板6は、入射する直線偏光を円偏光に、または円偏光を直線偏光に変換する。対物レンズ7は、光源1から少なくとも光学素子3を介して得られる光を光ディスクDに集光させる。APCモニタ8は、光学素子3を透過した光源1からの出射光の光量をモニタする。このモニタ光量に基づき、光源1の出射光量が図示しない制御部によって調整される。フォトディテクター9は、光学素子3を透過した光ディスクDからの戻り光を受光することにより、サーボ信号(フォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号)、情報信号、収差信号等の各種の信号を検出する。
【0028】
上記の構成によれば、光源部1a・1bから出射される光(例えばS偏光)は、合成プリズム2を介して光学素子3に入射し、一部の光は光学素子3を透過してAPCモニタ8で受光され、残りの光は光学素子3で反射される。光学素子3にて反射された光は、コリメータレンズ4で平行光に変換された後、立ち上げミラー5で光ディスクD側へ跳ね上げられ、1/4波長板6で円偏光に変換された後、対物レンズ7を介して光ディスクDに集光される。
【0029】
光ディスクDからの反射光(戻り光)は、対物レンズ7を介して1/4波長板6に入射し、そこで直線偏光(例えばP偏光)に変換され、立ち上げミラー5で進行方向を折り曲げられた後、コリメータレンズ4を介して光学素子3に入射する。そして、一部の光は光学素子3を透過し、フォトディテクター9で受光される。なお、残りの光は、光学素子3で光源1の方向に反射されるが、この反射方向の直上から、光源1のレーザーの発振部分はずれて位置しており、戻り光が光源1でのレーザーの発振に支障を来たすことはない。
【0030】
〔光学素子について〕
次に、上記した光学素子3の詳細について説明する。図1は、光学素子3の概略の構成を示す断面図である。光学素子3は、基板11の表面に光学多層膜12を形成して構成されている。
【0031】
光学多層膜12は、誤差感度低減層21と機能層22とをこの順で基板11上に積層して構成されている。誤差感度低減層21は、主として、成膜初期の膜厚誤差や屈折率誤差が大きくても最終的な光学特性の変化量を低減するための層であり、機能層22は、主として、所望の光学特性を実現するための層である。
【0032】
機能層22は、複数の層で構成されている。より具体的には、機能層22は、光学多層膜12中で最も屈折率の高い層または最も屈折率の低い層のうちで最も基板11に近い側の層f1と、その層f1に対して基板11とは反対側に位置する層(基板11に近い側から層f2〜fm(ただしm≧2))とで構成されている。
【0033】
誤差感度低減層21も、複数の層で構成されており、図1では、基板11側から層d1、d2の2層で構成されている。そして、誤差感度低減層21における基板11に接する層d1と基板11との屈折率差、および、誤差感度低減層21内で隣接する層同士(例えば層d1、d2同士)の屈折率差が、機能層22における最も基板11に近い側の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下となっている。また、誤差感度低減層21の各層(例えばd1、d2)の屈折率は、基板11側から機能層22側に向かうにつれて単調に増加または減少している。
【0034】
以下、光学素子3(光学多層膜12)の実施例について、比較例1〜6を交えながら実施例1〜7として説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例1では、基板11として、屈折率1.52のS−BSL7(オハラ社製)を用い、その基板11の表面に、層d1、d2の2層をスパッタ法によって順に積層し、誤差感度低減層21を形成した。そして、誤差感度低減層21の表面に、層f1〜f8の8層をスパッタ法によって順に積層し、機能層22を形成した。より具体的には、以下の通りである。
【0036】
誤差感度低減層21については、基板11の表面側から1層目に、屈折率1.79の酸化シリコンと酸化ニオブとの混合物を層d1として成膜し、2層目に、屈折率2.07の酸化シリコンと酸化ニオブとの混合物を層d2として成膜した。ここで、酸化シリコンと酸化ニオブとの混合物は、シリコンとニオブとをアルゴンガスで同時にスパッタし、酸素ラジカルで酸化することによって作製することができる。また、シリコンおよびニオブのスパッタ電力を調整することによってそれぞれの成膜レートを調整し、混合比を調整することにより、1.52から2.35の範囲の屈折率の層を成膜することができる。
【0037】
機能層22については、屈折率の異なる2種類の層の組み合わせで構成した。具体的には、機能層22は、屈折率2.35の酸化ニオブからなる層と、屈折率1.47の酸化シリコンからなる層とを交互に成膜し、これらを層f1〜f8として作製した。これらの層f1〜f8は、ニオブまたはシリコンをアルゴンガスでスパッタし、酸素ラジカルで酸化することによって作製することができる。
【0038】
ここで、表1は、実施例1の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例1では、誤差感度低減層21の第1層目の層d1と基板11との屈折率差、誤差感度低減層21内で隣接する層d1と層d2との屈折率差、誤差感度低減層21の第2層目の層d2と機能層22の第1層目の層f1との屈折率差が、全て、機能層22の第1層目の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下で特に13/30以下となるように、かつ、基板11側から機能層22側に向かうにつれて屈折率が単調に増加するように、誤差感度低減層21の各層d1、d2の屈折率を調整した。そして、表1の膜厚となるように、スパッタ法によって時間制御で各層d1、d2をコートした。また、機能層22についても、表1の膜厚となるように、スパッタ法によって時間制御で各層f1〜f8をコートした。
【0039】
【表1】

【0040】
成膜初期に屈折率や膜厚が変化しやすいのは前述した通りであり、例えば、基板11上に最初に成膜される第1層目の膜厚は±10nm程度ばらつく場合がある。図3は、実施例1において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層、すなわち、誤差感度低減層21の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、グラフ縦軸の反射率は、入射角45度でのP偏光の反射率とS偏光の反射率との平均反射率を示している(以降の図面でも同じ)。
【0041】
ここで、表2は、比較例1の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例1の光学素子は、一般的な設計のもの、すなわち、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を14層(基板11側から層f1〜f14とする)で構成したものである。また、図4は、比較例1において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層、すなわち、機能層22の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例1の第1層目の層f1の膜厚は、実施例1の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0042】
【表2】

【0043】
なお、実施例1では、膜厚のみを誤差と考えているが、図面に示した分光特性は光学膜厚(屈折率×膜厚)によって変化するため、膜厚の±10nmの変動による分光特性の変化の中に、屈折率の誤差も含まれていると考えてよい。また、機能層22の膜厚は、実施例1(表1)と比較例1(表2)とで異なるが、BD、DVD、CDに対応する波長域(390〜420nm、650〜670nm、770〜800nm)での反射率が50%のハーフミラーとなるように、機能層22の膜厚を再設計している。
【0044】
また、表3は、実施例1および比較例1において、BD、DVD、CDに対応する上記各波長域における反射率の変化量を示したものである。より詳しくは、表3の値は、実施例1および比較例1において、第1層目の膜厚を+10nm変化させたときの反射率のシミュレーション値と設計値との差の2乗和と、第1層目を−10nm変化させたときの反射率のシミュレーション値と設計値との差の2乗和とをそれぞれの波長域で足し合わせた値を示している(以降の表でも同じ)。
【0045】
【表3】

【0046】
2乗和が小さいほうが反射率の変化量は小さいので、表3より、実施例1は比較例1と比べると反射率の変化量が大幅に小さいと言える。
【0047】
なお、図3および図4では、第1層目のみのばらつきを考慮したが、コート条件によっては第2層目以降もばらつく。その場合は、ばらつきが起きている層まで誤差感度低減層21にすることで光学特性の変化量を小さくできる。
【0048】
(実施例2)
実施例2では、光学多層膜12の誤差感度低減層21を、基板11に近い側から層d1〜d5の5層で構成した。膜設計以外は、実施例1と同様である。
【0049】
表4は、実施例2の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例2では、誤差感度低減層21の第1層目の層d1と基板11との屈折率差、誤差感度低減層21内で隣接する層同士の屈折率差、誤差感度低減層21の第5層目の層d5と機能層22の第1層目の層f1との屈折率差が、全て、機能層22の第1層目の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下で特に13/30以下となるように、かつ、基板11側から機能層22側に向かうにつれて屈折率が単調に増加するように、誤差感度低減層21の各層d1〜d5の屈折率を調整した。そして、表4の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0050】
【表4】

【0051】
図5は、実施例2において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。また、表5は、実施例2および比較例1において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0052】
【表5】

【0053】
表5より、実施例2は比較例1と比べると反射率の変化量が格段に小さく、実施例1よりもさらに小さい。したがって、誤差感度低減層21の層数を多くして、隣り合う層との屈折率差をさらに小さくすることにより、光学特性の変化量をさらに小さくできると言える。
【0054】
(実施例3)
実施例3は、誤差感度低減層21の層d1、d2の屈折率を変え、機能層22を層f1〜f9の9層で構成した以外は、実施例1と同様である。
【0055】
表6は、実施例3の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例3では、誤差感度低減層21の第1層目の層d1と基板11との屈折率差が、機能層22の第1層目の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下となり、誤差感度低減層21内で隣接する層d1と層d2との屈折率差、および誤差感度低減層21の第2層目の層d2と機能層22の第1層目の層f1との屈折率差が、機能層22の第1層目の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下で特に13/30以下となるように、かつ、基板11側から機能層22側に向かうにつれて屈折率が単調に増加するように、誤差感度低減層21の各層d1、d2の屈折率を調整した。そして、表6の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0056】
【表6】

【0057】
図6は、実施例3において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。
【0058】
また、表7は、比較例2の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例2の光学素子は、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を16層(基板11側から層f1〜f16とする)で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率が50%となるように設計したものである。また、図7は、比較例2において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例2の第1層目の層f1の膜厚は、実施例3の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0059】
【表7】

【0060】
また、表8は、実施例3および比較例2において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0061】
【表8】

【0062】
表8より、実施例3は、実施例1と比べると反射率の変化量が大きい波長域もあるが、が(表3のBD、DVDの波長域参照)、比較例2と比べると反射率の変化量が全ての波長域で小さい。このことから、実施例3の構成によっても、誤差感度低減層21を設けない構成に比べて、光学特性の変化量を小さくできると言える。
【0063】
(実施例4)
実施例4は、機能層22を層f1〜f12の12層で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率20%の光学特性が得られるようにした以外は、実施例1と同様である。つまり、誤差感度低減層21の構成については、実施例1と全く同様である。表9は、実施例4の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例4では、表9の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0064】
【表9】

【0065】
図8は、実施例4において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。
【0066】
また、表10は、比較例3の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例3の光学素子は、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を13層(基板11側から層f1〜f13とする)で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率が20%となるように設計したものである。また、図9は、比較例3において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例3の第1層目の層f1の膜厚は、実施例4の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0067】
【表10】

【0068】
また、表11は、実施例4および比較例3において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0069】
【表11】

【0070】
表11より、実施例4は、比較例3と比べると、実施例1と同様に反射率の変化量が大幅に小さいと言える。
【0071】
(実施例5)
実施例5は、機能層22を層f1〜f13の13層で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率80%の光学特性が得られるようにした以外は、実施例1と同様である。つまり、誤差感度低減層21の構成については、実施例1と全く同様である。表12は、実施例5の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例5では、表12の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0072】
【表12】

【0073】
図10は、実施例5において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。
【0074】
また、表13は、比較例4の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例4の光学素子は、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を14層(基板11側から層f1〜f14とする)で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率が80%となるように設計したものである。また、図11は、比較例4において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例4の第1層目の層f1の膜厚は、実施例5の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0075】
【表13】

【0076】
また、表14は、実施例5および比較例4において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0077】
【表14】

【0078】
表14より、実施例5は、比較例4と比べると、実施例1と同様に反射率の変化量が大幅に小さいと言える。
【0079】
(実施例6)
実施例6では、基板11として、屈折率1.77のS−LAH66(オハラ社製)を用い、その基板11の表面に、誤差感度低減層21および機能層22を順に積層した。誤差感度低減層21は、基板11側から層d1、d2の2層で構成され、機能層22は、基板11に近い側から層f1〜f12の12層で構成されている。
【0080】
ここで、表15は、実施例6の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例6では、機能層22の最も基板11に近い側の層f1は、屈折率1.47の酸化シリコンで構成されており、基板11(屈折率1.77)よりも屈折率が低い。このため、実施例6では、基板11側から機能層22側に向かうにつれて屈折率が単調に減少するように、誤差感度低減層21の各層d1、d2の屈折率を調整した。そして、表15の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0081】
なお、誤差感度低減層21の第1層目の層d1と基板11との屈折率差、誤差感度低減層21内で隣接する層d1と層d2との屈折率差、誤差感度低減層21の第2層目の層d2と機能層22の第1層目の層f1との屈折率差が、全て、機能層22の第1層目の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下であり、特に13/30以下である点、およびBD、DVD、CDの各波長域で反射率が50%となるように設計されている点は、実施例1と同様である。
【0082】
【表15】

【0083】
図12は、実施例6において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。
【0084】
また、表16は、比較例5の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例5の光学素子は、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を14層(基板11側から層f1〜f14とする)で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率が50%となるように設計したものである。また、図13は、比較例5において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例5の第1層目の層f1の膜厚は、実施例6の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0085】
【表16】

【0086】
また、表17は、実施例6および比較例5において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0087】
【表17】

【0088】
表17より、実施例6は、比較例5と比べると反射率の変化量が小さいと言える。
【0089】
(実施例7)
実施例7は、機能層22を屈折率の異なる3種類の層の組み合わせで構成した以外は、実施例1と同様である。具体的には、機能層22は、屈折率2.35の酸化ニオブ(高屈折率材料)からなる層と、屈折率1.75の酸化ニオブと酸化シリコンとの混合物(中間屈折率材料)からなる層と、屈折率1.47の酸化シリコン(低屈折率材料)からなる層との組み合わせで構成されているとともに、層f1〜f14の14層で構成されている。なお、誤差感度低減層21の構成については、実施例1と全く同様である。
【0090】
表18は、実施例7の光学素子3(光学多層膜12)の層構成を示している。実施例7では、表18の膜厚となるように、スパッタ法によって誤差感度低減層21および機能層22をコートした。
【0091】
【表18】

【0092】
図14は、実施例7において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層d1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。
【0093】
また、表19は、比較例6の光学素子(光学多層膜)の層構成を示している。比較例6の光学素子は、基板11上に誤差感度低減層21を形成せずに機能層22を直接形成するとともに、機能層22を14層(基板11側から層f1〜f14とする)で構成し、BD、DVD、CDの各波長域で反射率が50%となるように設計したものである。また、図15は、比較例6において、基板11上に最初に成膜される第1層目の層f1の膜厚が±10nm変動した場合の分光特性と、理想的な分光特性(設計値)とを示している。なお、比較しやすくするため、比較例6の第1層目の層f1の膜厚は、実施例7の第1層目の層d1の膜厚と同じにした。
【0094】
【表19】

【0095】
また、表20は、実施例7および比較例6において、BD、DVD、CDに対応する各波長域における反射率の変化量を示したものである。
【0096】
【表20】

【0097】
表20より、実施例7は、比較例6と比べると、実施例1と同様に反射率の変化量が大幅に小さいと言える。
【0098】
〔まとめ〕
実施例1〜7および比較例1〜6の結果から、基板11と機能層22との間に誤差感度低減層21を設けることにより、成膜初期(例えば成膜開始直後の2層)において屈折率や膜厚が変化しても、光学多層膜12全体として(誤差感度低減層21込みで)、機能層22の膜構成に応じた所望の光学特性を実現できると言える。これは、本発明の光学多層膜12が、誤差感度低減層21を設けるという、成膜初期の屈折率や膜厚の変化を加味した膜構成となっていることにより、成膜初期に屈折率や膜厚が変化しても、その変動を誤差感度低減層21内にとどめ、その後の膜厚等の安定した層で機能層22を形成できていることによるものと思われる。したがって、本発明の光学多層膜12を用いて構成される光学素子3や、その光学素子3を用いて構成される光ピックアップにおいても、安定した光学性能を実現することができる。
【0099】
また、一般的に、所望の光学特性を得るためには、各層の屈折率差を大きくするほうが多層膜を設計しやすいが、各層の屈折率差を大きくすると、各層の屈折率と膜厚に対する光学特性の変化量は大きくなる。逆に、各層の屈折率差を小さくすると、光学特性の変化量は小さくなるが、光学特性を満足する設計が難しくなる。この点、本発明では、多層膜の成膜初期に屈折率差の小さい誤差感度低減層21を成膜し、その後、屈折率差の大きい機能層22を成膜することにより、上記した両方の利点を得ることができる。つまり、多層膜の設計がしやすくなり、かつ、光学特性を安定させることができる。
【0100】
また、誤差感度低減層21の各層の屈折率は、基板11側から機能層22側に向かうにつれて単調に増加または減少している。詳しくは、機能層22における最も基板11側の層f1の屈折率が基板11の屈折率よりも大きい場合は、誤差感度低減層21の各層の屈折率は基板11側から機能層22側に向かうにつれて単調に増加し、層f1の屈折率が基板11の屈折率よりも小さい場合は、誤差感度低減層21の各層の屈折率は基板11側から機能層22側に向かうにつれて単調に減少している。
【0101】
このようにすることで、誤差感度低減層21における基板11に接する層d1と基板11との屈折率差、および、誤差感度低減層21内で隣接する層同士の屈折率差を、機能層22における最も基板11側の層f1と基板11との屈折率差の2/3以下(以下、屈折率差Aと称する)、望ましくは13/30以下(以下、屈折率差Bと称する)にすることができる。屈折率差Aとした場合、成膜初期に膜厚等が変動しても、最終的な光学特性の変動を抑えて安定した光学特性を有する光学多層膜12を実現でき、さらに屈折率差Bとすることで、その効果を確実に得ることができる。なお、実施例1および2より、屈折率差Bは、誤差感度低減層21を2層で構成しても、それより多くの層数(例えば5層)で構成しても実現可能である。
【0102】
また、誤差感度低減層21の層数や屈折率差は特に限定されるものではないが、分光特性の誤差を少なくしたいのであれば、誤差感度低減層21の層数を多くして屈折率差を小さくすればよい。一方、誤差感度低減層21の最も少ない層数で上記した本発明の効果を狙うのであれば、誤差感度低減層21は、2層で構成すればよい。この場合は、誤差感度低減層21の最も簡単な構成で効率よく本発明の効果が得られることに加えて、光学多層膜12の生産性も向上する。
【0103】
特に、誤差感度低減層21を2層で構成しながら、上記した屈折率差Bを実現する場合は、基板11から機能層22の第1層目の層f1にかけて隣接する層同士の屈折率差がほぼ均等となる膜構成となる。この場合は、成膜初期の膜厚等の変動による最終的な光学特性の変動を抑制できる効果がより高まる。成膜初期の2層程度が最も膜厚誤差および屈折率誤差が大きいことを考慮すると、誤差感度低減層21を2層で構成した場合は、屈折率差Bを同時に実現することが望ましい。
【0104】
また、誤差感度低減層21の各層は、機能層22の各層を構成する材料の中から異なる種類同士を組み合わせた混合物(例えば酸化ニオブと酸化シリコンとの混合物)で構成されている。このように、機能層22の構成材料と同じ材料を用いて誤差感度低減層21が形成されているので、他の材料を別途用意する必要がない。つまり、機能層22の構成材料を有効利用して誤差感度低減層21を実現することができる。また、材料の混合比を変えることで屈折率を調整できるので、上記した屈折率の関係を満たす誤差感度低減層21を容易に実現することができる。
【0105】
また、機能層22は、屈折率の異なる3種類(実施例7参照)または2種類の層の組み合わせで構成されている。このように、機能層22を構成する材料の種類が少ないので、光学多層膜12の製造コストを低減することができる。
【0106】
また、実施例1〜7の結果から、機能層22の膜構成を工夫することにより、光学多層膜12全体として、BD、DVD、CDに対応する波長域の全域で反射率20%以上80%以下の光学特性を実現できると言える。したがって、そのような光学特性を必要とする用途(例えば光ピックアップ)に本発明の光学多層膜12を適用することができる。
【0107】
このとき、BD、DVD、CDに対応する波長域の全域で、上記の光学特性を実現する必要は必ずしもなく、機能層22の膜構成を工夫することにより、上記各波長域の中のいずれか所定の波長、例えば波長405nm、660nm、785nmにおいて、上記の光学特性を実現すればよい。この場合、3波長(405nm、660nm、785nm)の光を出射する光源を使用する光ピックアップや、それに用いる光学素子(例えばハーフミラー)に、本発明の光学多層膜12を適用することができる。特に、上記3波長の互換性を有する光学素子では、成膜初期の膜厚や屈折率が少し変化しただけでも、3波長にわたる光学特性(例えば反射率50%)のバランスが崩れやすいので、誤差感度低減層21を設けて最終的な光学特性の変動を抑える本発明の構成は、特に3波長互換の光学素子に非常に有効となる。
【0108】
また、実施例1〜7では、誤差感度低減層21および機能層22を構成する各層は、スパッタ法で作製されている。スパッタ法を用いることにより、誤差感度低減層21において種々の材料を混ぜて屈折率の異なる各層を形成することが容易である。また、スパッタ成膜装置には、一般的に膜厚測定用の光量モニタ装置がついていないので、真空蒸着法で成膜するときのような光量モニタ装置による膜厚管理ができず、光学特性の変動を抑制することができない。したがって、スパッタ法を用いる場合は、誤差感度低減層21を設けるという膜構成によって光学特性の変動を抑制できる本発明が特に有効となる。勿論、誤差感度低減層21および機能層22を構成する各層が真空蒸着法で作製される場合でも、成膜初期に屈折率や膜厚が変化しても所望の光学特性を実現できるという上述した本発明の効果を得ることはできる。
【0109】
なお、上述した実施例1〜7の膜構成を適宜組み合わせて光学多層膜12を構成し、光学素子3や光ピックアップに適用することも勿論可能である。例えば、実施例2の構成(5層からなる誤差感度低減層21)と、実施例7の構成(屈折率の異なる3種類の層を組み合わせた機能層22)とを組み合わせて光学多層膜12を構成することも勿論可能である。
【0110】
なお、誤差感度低減層21を設ける本発明の構成は、成膜初期の膜厚や屈折率の変化によって最終的な光学特性が変化しやすく、所定の波長において所定の反射率を示す光学多層膜であれば、いずれにも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、成膜初期の膜厚や屈折率の変化によって最終的な光学特性が変化しやすい光学多層膜や光学素子(例えばハーフミラー)およびその光学素子を用いた装置(例えば光ピックアップ)に利用可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 光源
1a 光源部(光源)
1b 光源部(光源)
3 光学素子
7 対物レンズ
11 基板
12 光学多層膜
21 誤差感度低減層
22 機能層
1、d2 層(誤差感度低減層)
1〜fm 層(機能層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成される光学多層膜であって、
複数の層からなる誤差感度低減層と、複数の層からなる機能層とを、前記基板の表面にこの順で積層して構成されており、
前記機能層は、当該多層膜中で最も屈折率の高い層または最も屈折率の低い層のうちで最も前記基板に近い側の層と、その層に対して前記基板とは反対側に位置する層とで構成されており、
前記誤差感度低減層における前記基板に接する層と前記基板との屈折率差、および、前記誤差感度低減層内で隣接する層同士の屈折率差が、前記機能層における最も前記基板に近い側の層と前記基板との屈折率差の2/3以下であり、
前記誤差感度低減層の各層の屈折率は、前記基板側から前記機能層側に向かうにつれて単調に増加または減少することを特徴とする光学多層膜。
【請求項2】
前記誤差感度低減層における前記基板に接する層と前記基板との屈折率差、および、前記誤差感度低減層内で隣接する層同士の屈折率差が、前記機能層における最も前記基板に近い側の層と前記基板との屈折率差の13/30以下であることを特徴とする請求項1に記載の光学多層膜。
【請求項3】
前記誤差感度低減層は、2層で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学多層膜。
【請求項4】
前記誤差感度低減層の各層は、前記機能層の各層を構成する材料の中から異なる種類同士を組み合わせた混合物で構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光学多層膜。
【請求項5】
前記機能層は、屈折率の異なる3種類または2種類の層の組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学多層膜。
【請求項6】
所定の波長において、反射率20%以上80%以下の光学特性を有していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光学多層膜。
【請求項7】
波長405nm、660nm、785nmにおいて、反射率20%以上80%以下の光学特性を有していることを特徴とする請求項6に記載の光学多層膜。
【請求項8】
前記誤差感度低減層および前記機能層を構成する各層は、スパッタ法で作製されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学多層膜。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の光学多層膜と、
前記光学多層膜が表面に形成される基板とを備えていることを特徴とする光学素子。
【請求項10】
請求項9に記載の光学素子と、
光を出射する光源と、
前記光源から前記光学素子を介して得られる光を光ディスクに集光させる対物レンズとを備えていることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項11】
前記光源は、波長405nmを含む波長帯域の光を出射する光源部と、波長660nmを含む波長帯域の光を出射する光源部と、波長785nmを含む波長帯域の光を出射する光源部とを含んでいることを特徴とする請求項10に記載の光ピックアップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−217415(P2010−217415A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63112(P2009−63112)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】