説明

光学材料用透明樹脂組成物

【課題】 本発明の目的は、光弾性複屈折が低く、かつ、透明性、強度及び耐熱性に優れた光学材料を与える樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】 本発明は、下記(1)〜(4)を満たす光学材料用透明樹脂組成物である。
(1)光弾性係数が負の熱可塑性樹脂(A)、光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(B)及び芳香族ビニルモノマーと共役ジエンモノマーを必須構成モノマーとするゴム質重合体(C)を含有する。
(2)前記熱可塑性樹脂(A)のアッベ数が、前記熱可塑性樹脂(B)のアッベ数よりも大きい。
(3)前記(A)〜(C)の合計重量に基づく前記(C)の重量割合が0.5〜80重量%である。
(4)透明樹脂組成物の光弾性係数が−5×10-12〜5×10-12/Paである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学材料用の透明な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ等による情報の画面表示、光ディスクによる情報記録、レーザー光学系による光ディスクへの書き込み・消去、レーザープリンター等による情報印刷、光ファイバーによる情報伝送等多くの分野で光技術が使われており、次々と新しい光学材料が開発されている。光学材料としては、主に光学フィルム、光学成形品及びディスプレイ用基板等が挙げられ、光学フィルムとしては各種光ディスク基板保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム及び輝度向上フィルム等が挙げられ、光学成形品としては光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ及びレンチキュラーレンズなどの光学レンズ、並びにタッチパネル用基板及び導光板等の光学基板等が挙げられ、ディスプレイ用基板としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用基板又は液晶ディスプレイ、信号、ネオンサイン等のバックライト用基板等が挙げられる。
【0003】
これらの光学材料は、通常は樹脂材料から構成されているので外部応力や熱応力によって光弾性複屈折(屈折率の異方性)を発現する。これらの光学材料は、何らかの方法で機器に固定された状態で使用されるため、外部からある程度以上の力が加わり内部に応力が生じることが避けられない。そして応力が生じれば、ほとんどの場合、樹脂材料中に光弾性複屈折が発現する。
【0004】
また、上記のような外力に起因する応力とは別に、樹脂材料には熱応力がかかり易く、熱応力によっても光弾性複屈折が発現する。熱応力は、例えば射出成形や押出成形等のように、一般に、高温の溶融した状態を経て樹脂材料を成形する場合に生じる。即ち、溶融状態から室温まで成形品の温度が下がり、全体の体積が収縮する時に、温度が下がるにつれて粘度も上昇するため、樹脂材料の分子が全体の収縮に応じて動くことが困難になり、内部応力が発生する。これが熱応力である。更に、成形後の樹脂材料に対し、不均一に熱が加えられた場合にも、加熱の度合いにより各部分の膨張率が異なるために、同様に熱応力が発生する。具体的には、ある光学デバイス・部品の一方の面に、加熱しながら何らかの加工を施したり、この光学デバイス・部品を取り付けた機器の使用時に不均一に熱がかかることにより、熱応力が発生する場合が多い。
【0005】
これらの外部応力や熱応力により発現する光弾性複屈折は、各種ディスプレイ用フィルムや基板に使用すると、位相差ムラを生じさせ、表示像のカラーバランスやコントラストの低減を引き起こしやすいという問題があり、各種レンズに使用すると、結像精度が低下し、画質低下や記録密度低下を引き起こしやすいという問題がある。従って、光学デバイスの性能を制限し、性能に悪影響を与えるため、光弾性複屈折をできるだけ低く抑えた光学材料が望まれる。
【0006】
光弾性複屈折を低減させる手段として種々の提案がされている。例えば、透明な樹脂材料中に、使用する光の波長より小さい粒径を有する分子配向抑制粒体を混入した状態で配向処理する方法(例えば、特許文献1)、透明な樹脂材料に、その樹脂材料の配向複屈折性を打ち消す複屈折性を有する無機物質を添加する方法(例えば、特許文献2)、及び正の光弾性係数を有する高分子のアッベ数が負の光弾性係数を有する高分子のアッベ数よりも大きいことを特徴とする位相差フィルム(例えば、特許文献3)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−208901号公報
【特許文献2】国際公開 WO 01/25364号パンフレット
【特許文献3】特開2002−341140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1、2の方法では光弾性複屈折の低減は十分ではなく、更に無機粒子添加により樹脂の溶融粘度が高く成形性が悪い、また特許文献3に記載された技術は、可とう性が不十分であるため、光学フィルムや光学成形品としては脆いという問題点が挙げられる。
【0009】
本発明の目的は、光弾性複屈折が低く、かつ、透明性、強度及び耐熱性に優れた光学材料を与える樹脂組成物を提供するものであり、特に光学フィルムや光学成形品として使用した場合に十分な可とう性を与える樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、下記(1)〜(4)を満たす光学材料用透明樹脂組成物、並びに該透明樹脂組成物を成形してなる光学フィルム、光学成形品又はディスプレイ用基板である。
(1)光弾性係数が負の熱可塑性樹脂(A)[以下において、熱可塑性樹脂(A)又は単に(A)と表記する場合がある]、光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(B)[以下において、熱可塑性樹脂(B)又は単に(B)と表記する場合がある]及び芳香族ビニルモノマーと共役ジエンモノマーを必須構成モノマーとするゴム質重合体(C)[以下において、ゴム質重合体(C)又は単に(C)と表記する場合がある]を含有する。
(2)前記熱可塑性樹脂(A)のアッベ数が、前記熱可塑性樹脂(B)のアッベ数よりも大きい。
(3)前記(A)〜(C)の合計重量に基づく前記(C)の重量割合が0.5〜80%である。
(4)透明樹脂組成物の光弾性係数が−5×10-12〜5×10-12/Paである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学材料用透明樹脂組成物から得られる光学材料は、透明性、強度、耐熱性及び可とう性が良好で、かつ光弾性複屈折が低い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における光弾性係数は、ゴム状平坦域における光弾性係数であり、一般的に、応力に対する光弾性複屈折の生じ易さを表し、次式(1)によって表される係数であり、光弾性係数の正負はセグメントの分極率差と関連づけられる。
【0013】
【数1】

【0014】
C:光弾性係数
Δn:光弾性複屈折
σ:応力
k:ボルツマン定数
T:絶対温度
n:平均屈折率
1:高分子の主鎖方向のセグメントの分極率
2:高分子の主鎖に垂直方向のセグメントの分極率
【0015】
上記式(1)において、b1及びb2は分子軌道計算プログラムMOPAC(CAChe Worksystem ver.3.2 for Windows,富士通(株):「Windows」はマイクロソフト社の登録商標)により計算することができる。これにより正負の光弾性係数を与えるセグメントを予測することができ、そのセグメントの集合体から本発明における光弾性係数が負の熱可塑性樹脂(A)及び光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(A)を予測することができる。
【0016】
なお、光弾性係数は測定することができ、その測定方法は、JIS−K7105に準拠してフィルム試験片(厚み100±3μm)を作成し、フィルム試験片に応力を加えながら、例えば、大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmでの位相差値(Δnd)を測定し、これをフィルム試験片の厚みdで割って、Δnを求め、様々な応力に対応するΔnを算出して、応力−Δn曲線を作成し、その傾きを光弾性係数として求める方法である。単位は/Pa(又はPa-1)。
【0017】
本発明の透明性樹脂組成物は、光弾性係数が負の熱可塑性樹脂(A)と光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(B)を含有することにより光弾性複屈折を打ち消しあうため、組成物の光弾性複屈折を非常に小さくすることができる。その結果、外部応力や熱応力による光弾性複屈折の発現を抑制することができるものと考えられる。その結果、本発明の透明性樹脂組成物は、各種ディスプレイ用フィルムや基板に適用すると、表示像のカラーバランスおよびコントラストを向上でき、各種レンズに適用すると画質および記録密度を向上できる。
【0018】
本発明の透明樹脂組成物から得られる光学材料の光弾性複屈折を低く、かつ透明性、耐熱性、耐衝撃性、可とう性を良好にするためには、(A)のアッベ数が(B)のアッベ数よりも大きいことが必要である。(A)のアッベ数が(B)のアッベ数より小さいと、透明性、耐熱性、耐衝撃性、可とう性を良好に保ったまま光弾性複屈折を低下できない。アッベ数は樹脂の屈折率の波長分散特性をあらわす物性値であり、次式(2)で与えられる。アッベ数が大きい樹脂ほど、屈折率の波長分散は小さい。
【0019】
【数2】

【0020】
νD:アッベ数
C:フラウンホーファー線のC線(波長656nm)に対する屈折率
F:フラウンホーファー線のF線(波長486nm)に対する屈折率
D:フラウンホーファー線のD線(波長589nm)に対する屈折率
【0021】
樹脂組成とアッベ数の関係は次式で与えられる。
νD=[6nD/{(nD2+2)(nD+1)}](R/ΔR) (3)
D={(2R/V+1)/(1−R/V)}1/2 (4)
V=M0/ρ (5)
【0022】
R:分子屈折(原子屈折の和)
ΔR:分子分散(原子分散の和)
V:分子体積
0:繰り返し単位の分子量
ρ:ポリマーの密度
原子屈折、原子分散およびポリマーの密度は、「改訂5版 化学便覧 基礎編」(丸善出版)に一部記載がある。(A)および(B)を選択するに当たっては、式(3)、(4)、(5)を用いアッベ数を予想することができる。
【0023】
また、アッベ数は測定することができ、その方法は、JIS−K7105に準拠してフィルム試験片(厚み100±3μm)を作成し、アッベ屈折計(型番:DR−M2、株式会社アタゴ製)を用いてアッベ数を測定する方法等が挙げられる。
【0024】
本発明における、光弾性係数が負であって、かつ、熱可塑性樹脂(B)のアッベ数よりも大きいアッベ数を有する熱可塑性樹脂(A)として好ましいものとしては、アクリル樹脂及び脆性が改良されたスチレン系共重合体(α−メチルスチレンを主体とする共重合体等)等が挙げられ、光弾性複屈折の観点から、さらに好ましいのはアクリル樹脂である。
また、本発明の透明樹脂組成物は、その光弾性係数が−5×10-12〜5×10-12/Paであるため、その構成成分である(A)及び(B)の光弾性係数は正負の符号は異なっていても、その絶対値は大きな差がないほうが、組み合わせの種類及び量比の選択範囲が広くなるという観点から好ましい。上記の観点から、(A)の光弾性係数は、好ましくは−30×10-12/Pa以上であって0未満、さらに好ましくは−10×10-12/Pa以上であって0未満であり、(B)の光弾性係数は、好ましくは0を超え30×10-12/Pa以下、さらに好ましくは0を超え10×10-12/Pa以下である。また、(A)のアッベ数は、好ましくは20〜80、(B)のアッベ数は、好ましくは20〜60である。
【0025】
(A)として好ましいものとして挙げたアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルを必須構成モノマーとする重合体であり、(メタ)アクリル酸エステル(a1)としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a11)、(メタ)アクリル酸アリールアルキルエステル(a12)及びその他の(メタ)アクリル酸エステル(a13)が挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリル・・・」は、「アクリル・・・・」及び「メタクリル・・・・」を意味する。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a11)としては、炭素数1〜18の直鎖もしくは分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート及びn−ステアリル(メタ)アクリレート、並びに炭素数6〜12のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸アリールアルキルエステル(a12)としては、ベンジルメタクリレート等が挙げられる。
【0028】
その他の(メタ)アクリル酸エステル(a13)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級化物等が挙げられる。
【0029】
これらの(a1)のうち、光弾性係数と成形品の耐熱性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a11)であり、更に好ましくはメチルメタクレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート及びこれらの併用である。
【0030】
(A)は、(a1)のうちの1種を構成モノマーとする単独重合体であってもよいが、(a1)のうちの2種以上を構成モノマーとする共重合体であってもよい。共重合体の場合は、(a11)と(a12)、(a11)と(a13)、(a12)と(a13)及び(a11)〜(a13)の組み合わせ、(a11)、(a12)及び(a13)のそれぞれのモノマーのうちの2種以上の組み合わせ、並びにこれらの組み合わせの併用であってもよい。共重合体の場合の、(a1)の重量に基づく(a11)〜(a13)のそれぞれの好ましい重量%は、成形品の耐熱性及び可とう性のバランスの観点から、(a11)が0〜99重量%、(a12)が0〜95重量%、及び(a13)が0〜99重量%であり、(a11)のうちの2種以上の組み合わせの場合はそれぞれの好ましい重量%は特に限定されない。
【0031】
(A)は、(a1)以外の、その他のモノマーを構成単位とした共重合体であってもよい。その他のモノマー(a2)としては、以下のモノマーが挙げられる。
【0032】
(a21)水酸基含有ビニルモノマー:
アルキロール(メタ)アクリルアミド[N−メチロール(メタ)アクリルアミド等]、ヒドロキシスチレン及び2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0033】
(a22)カルボキシル基含有ビニルモノマー:
不飽和モノカルボン酸[(メタ)アクリル酸、クロトン酸及び桂皮酸等]、不飽和多価(2〜4価)カルボン酸[マレイン酸、イタコン酸、フマル酸及びシトラコン酸等]、不飽和多価カルボン酸アルキル(炭素数1〜10のアルキル基)エステル[マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル及びシトラコン酸モノアルキルエステル等]、並びにこれらの塩[アルカリ金属塩(ナトリウム塩及びカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩及びマグネシウム塩等)、アミン塩及びアンモニウム塩等]が挙げられる。
【0034】
(a23)不飽和多価カルボン酸無水物:
無水マレイン酸、無水イタコン酸及び無水フマル酸等が挙げられる。
【0035】
(a24)スルホン酸基含有ビニルモノマー:
ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びこれらの塩が挙げられる。塩としてはアルカリ金属(ナトリウム及びカリウム等)塩、アルカリ土類金属(カルシウム及びマグネシウム等)塩、第1〜3級アミン塩、アンモニウム塩及び第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
(a25)アミド基含有ビニルモノマー:
(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(炭素数1〜6)(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N’−メチレン−ビス(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(炭素数1〜6)又はジアラルキル(炭素数7〜15)(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド及びN,N−ジベンジルアクリルアミド等)、メタクリルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、桂皮酸アミド及び環状アミド(N−ビニルピロリドン、N−アリルピロリドン等)が挙げられる。
(a26)芳香族炭化水素モノマー;
スチレン骨格を有する炭化水素モノマー[例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン及びベンジルスチレン]及びビニルナフタレン等が挙げられる。
(a27)カルボン酸ビニルエステル;
炭素数4〜50のもの、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル及び酪酸ビニル等が挙げられる。
(a28)ビニルエーテル系モノマー;
炭素数3〜50(好ましくは6〜20)のもの、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル及びビニルブチルエーテル等が挙げられる。
(a29)ビニルケトン系モノマー;
炭素数4〜50のもの、例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン及びビニルフェニルケトン等が挙げられる。
(a210)ハロゲン原子含有モノマー;
炭素数2〜50(好ましくは2〜20)のもの、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、クロロスチレン及びブロモスチレン等が挙げられる。
【0036】
その他のモノマー(a2)のうち、光弾性複屈折、耐熱性及び可とう性の観点から、好ましいのは(a22)、(a23)、(a25)及び(a26)である。
【0037】
(A)における(a1)と(a2)の割合(重量%)は、光弾性係数、耐熱性及び可とう性の観点から、好ましくは(a1)/(a2)=30/70〜100/0、さらに好ましくは50/50〜100/0、特に好ましくは70/30〜100/0である。
【0038】
(A)のうち、前述の、脆性が改良されたスチレン系共重合体としては、α−メチルスチレンを主体とする共重合体等が挙げられる。α−メチルスチレンを主体とする共重合体としては、α−メチルスチレンの単独重合体、及びα−メチルスチレンとその他のモノマーとの共重合体が挙げられる。その他のモノマーとしては、前記(a2)で例示したモノマーが挙げられ、光弾性係数および耐熱性の観点から、好ましいのは(a22)及び(a23)である。共重合体におけるα−メチルスチレンとその他のモノマーとの割合(重量%)は、光弾性係数、耐熱性および可とう性の観点から、好ましくは(α−メチルスチレン)/(その他のモノマー)=50/50〜100/0、さらに好ましくは60/40〜100/0、特に好ましくは70/30〜100/0である。
【0039】
(A)の重量平均分子量[以下、Mwと略記]は、成形品の可とう性及び成形性の観点から好ましくは10,000〜1,000,000、更に好ましくは20,000〜500,000、特に好ましくは40,000〜200,000、とりわけ好ましくは50,000〜180,000である。また、(A)の分子量分布は、成形品の可とう性及び耐熱性の観点から好ましくは1〜3.5、更に好ましくは1〜3.0である。該分子量分布は、Mw/数平均分子量(以下、Mnと略記)の比(Mw/Mn)として定義されるものとする。なお、MwおよびMnはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される。
【0040】
本発明における(A)の具体例としては、ポリメチルメタクリレート(光弾性係数=−6.0×10−12/Pa)、ポリ(メチルメタクリレート/メチルアクリレート=100/0〜70/30重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/メチルアクリレート=94/6重量%)共重合体(光弾性係数=−5.5×10−12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸=100/0〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリル酸=95/5重量%)共重合体(光弾性係数=−6.2×10−12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/エチルメタクリレート=100/0〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/エチルメタクリレート=94/6重量%)共重合体(光弾性係数=−5.8×10−12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート=100/0〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート=94/6重量%)共重合体(光弾性係数=−5.7×10−12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=100/0〜65/35重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=70/30重量%)共重合体(光弾性係数=−1.3×10−12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/α―メチルスチレン=100/0〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/α―メチルスチレン=70/30重量%)共重合体(光弾性係数=−5.1×10−12/Pa)}、ポリ(α―メチルスチレン/無水マレイン酸=100/0〜50/50重量%)共重合体{例えば、ポリ(α―メチルスチレン/無水マレイン酸=90/10重量%)共重合体(光弾性係数=−3.4×10−12/Pa)、ポリ(メチルメタクリレート/無水マレイン酸=100/0〜50/50重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/無水マレイン酸=90/10重量%)共重合体(光弾性係数=−6.4×10−12/Pa)、ポリ(メチルメタクリレート/無水マレイン酸=70/30重量%)共重合体(光弾性係数=−7.2×10−12/Pa)}及びポリ(メチルメタクリレート/メタクリルアミド=100/0〜80/20重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリルアミド=90/10重量%)共重合体(光弾性係数=−2.9×10−12/Pa)}等が挙げられる。
【0041】
本発明における光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(B)としては、例えばポリエステル樹脂(B1)、ポリアミド樹脂(B2)、前記(A)以外のビニル系樹脂(B3)、ポリカーボネート樹脂(B4)、ポリウレタン樹脂(B5)、ポリエーテルケトン樹脂(B6)、ポリアリレート樹脂(B7),ポリスルフォン樹脂(B8)、ポリイミド樹脂(B9)及びポリオレフィン樹脂(B10)等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル樹脂(B1)としては、芳香環含有ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート)及び脂肪族ポリエステル樹脂(例えばポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート及びポリ−ε−カプロラクトン)が挙げられる。ポリエステル樹脂はポリカルボン酸と多価アルコールの組合せで構成される。
【0043】
ポリエステル樹脂を構成するポリカルボン酸としては、ジカルボン酸及び3価〜4価又はそれ以上のポリカルボン酸が含まれる。それらの例には、脂肪族ポリカルボン酸(例えばシュウ酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、スベリン酸、 アゼライン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの無水物、トリカルバリル酸及びヘキサントリカルボン酸)、芳香族ポリカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニル、トリメリット酸及びピロメリット酸)、脂環式ポリカルボン酸(例えばダイマー酸)、及びスルホ基含有ポリカルボン酸(上記ポリカルボン酸にスルホ基を導入してなるもの、例えばスルホコハク酸、スルホマロン酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸及びスルホイソフタル酸)及びそれらの塩が挙げられる。これらの内、光弾性係数の観点から好ましいのは脂肪族ポリカルボン酸及び脂環式ポリカルボン酸、耐熱性の観点から好ましいのは芳香族ポリカルボン酸である。
【0044】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール(例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1 ,2−、2,3−、1,3−及び1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び3−メチルペンタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びジペンタエリスリトール)、脂環式多価アルコール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサントリオール)、芳香族多価アルコール(キシリレングリコール、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、糖類及びその誘導体(例えば蔗糖、グルコース、フラクトース、マンノース、ラクトース及びグリコシド)、及びそれらのアルキレンオキシド(例えばエチレンオキシドや1,2−プロピレンオキシド等の炭素数2〜6のもの:以下AOと略記)付加物が挙げられる。これらの内、光弾性係数の観点から好ましいのは脂肪族多価アルコール及び脂環式多価アルコール、耐熱性の観点から好ましいのは芳香族多価アルコール、可とう性の観点で好ましいのは脂肪族多価アルコールのAO付加物、脂環式多価アルコールのAO付加物及び芳香族多価アルコールのAO付加物である。以上から、光弾性係数、耐熱性及び可とう性の観点から好ましい組み合わせは、ポリカルボン酸としては脂肪族ポリカルボン酸、脂環式ポリカルボン酸及び芳香族ポリカルボン酸の内1種以上、多価アルコールとしては脂肪族多価アルコール、脂環式多価アルコール、芳香族多価アルコール、脂肪族多価アルコールのAO付加物、脂環式多価アルコールのAO付加物および芳香族多価アルコールのAO付加物の内1種以上の組み合わせ、さらに好ましいのは、ポリカルボン酸としては芳香族ポリカルボン酸、多価アルコールとしては脂肪族多価アルコールのAO付加物、脂環式多価アルコールのAO付加物および芳香族多価アルコールのAO付加物の内1種以上の組み合わせである。
【0045】
ポリアミド樹脂(B2)としては、例えばε−カプロラクタムの開環重合によるナイロン6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合によるナイロン66、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の重縮合によるナイロン610、11−アミノウンデカン酸の重縮合によるナイロン11、ω−ラウロラクタムの開環重合又は12−アミノドデカン酸の縮重合によるナイロン12、及び前記ナイロンのうち2種類以上の成分を含有する共重合ナイロン等が挙げられる。ポリアミドはポリカルボン酸(前記に同じ)とポリアミンの組合せで構成される。
【0046】
ポリアミンとしては、脂肪族ポリアミン(例えばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタエチレンジアミン、デカメチレンジアミン)、脂環式ポリアミン(例えばイソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、シクロヘキシレンジアミン、メチルシクロヘキシレンジアミン、ビシクロヘプタントリアミン)、芳香脂肪族ポリアミン(m−及び/又はp−キシリレンジアミン、ジエチルベンゼンジアミン)及びそれらのAO付加物が挙げられる。これらの内、光弾性係数の観点から好ましいのは脂肪族ポリアミンおよび脂環式ポリアミン、耐熱性の観点から好ましいのは芳香族ポリアミン、可とう性の観点で好ましいのは脂肪族ポリアミンのAO付加物、脂環式ポリアミンのAO付加物および芳香族ポリアミンのAO付加物である。以上から、光弾性係数、耐熱性、可とう性の観点から好ましい組み合わせは、ポリカルボン酸としては脂肪族ポリカルボン酸、脂環式ポリカルボン酸および芳香族ポリカルボン酸の内1種以上、ポリアミンとしては脂肪族ポリアミンおよび脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、脂肪族ポリアミンのAO付加物、脂環式ポリアミンのAO付加物および芳香族ポリアミンのAO付加物の内1種以上の組み合わせ、さらに好ましいのは、ポリカルボン酸としては芳香族ポリカルボン酸、ポリアミンとしては脂肪族ポリアミンのAO付加物、脂環式ポリアミンのAO付加物および芳香族ポリアミンのAO付加物の内1種以上の組み合わせである。
【0047】
(A)以外のビニル系樹脂(B3)としては、前記(A)で例示したモノマーの種類の組み合わせと同じであっても、構成重量比が異なるために光弾性係数が負となるような樹脂であって、例えば、(A)以外のポリスチレン系重合体(B31)、(A)以外のポリオレフィン系重合体(B32)及び(A)以外のアクリル樹脂(B33)等が挙げられる。
【0048】
(A)以外のポリスチレン系重合体(B31)としては、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=65/35〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=30/70重量%)共重合体(光弾性係数=5.9×10−12/Pa)}、及びポリ(スチレン/無水マレイン酸=100/0〜50/50重量%)共重合体{例えば、ポリ(スチレン/無水マレイン酸=70/30重量%)共重合体(光弾性係数=1.6×10−12/Pa)等が挙げられる。
【0049】
(A)以外のポリオレフィン系重合体(B32)としては、例えばα−オレフィン系重合体及び環状オレフィン系重合体等が挙げられる。α−オレフィン系重合体としては、α−オレフィン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン及び4−メチル−1−ペンテン、)、シクロオレフィン(シクロブテン及びシクロペンテン)、非共役ジエン(1,4−ヘキサジエン及び4−メチル−1,4−ヘキサジエン)の単独重合体、共重合体、上記ビニル脂環式炭化水素又はビニル芳香族炭化水素とこれらと共重合可能な他のモノマーとの重合体、これらの重合体の水素化物等が挙げられる。環状オレフィン系重合体としては、ノルボルネン系モノマー(ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、メタテトラヒドロフルオレン、テトラシクロドデセン及びそれらの誘導体)、環状オレフィン系モノマー(炭素数3〜20、例えばシクロヘキセン、シクロヘプテン及びシクロオクテン)の単独重合体、共重合体、及びこれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、これらの重合体の水素化物等が挙げられる。他のモノマーとしては前記の(a1)、(a22)、(a23)、(a25)、(a26)、(a28)及びマレイミド(例えば、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド)が挙げられる。
【0050】
(A)以外のアクリル樹脂(B33)としては、例えばポリ(メチルメタクリレート/メタクリルアミド=70/30〜0/100重量%)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/メタクリルアミド=40/60重量%)共重合体(光弾性係数=1.5×10−12/Pa)}が挙げられる。
【0051】
なお、上記に例示したモノマーの組み合わせ以外のその他のモノマーの組み合わせの場合は、前記式(1)により光弾性係数を予測し、合成した高分子の光弾性係数を実際に測定して、正であるか負であるかによって(A)と(B)の区別ができる。
【0052】
ポリカーボネート樹脂(B4)としては、例えばビスフェノール(例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、テトラメチルビスフェノールA及び4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン)系及びビフェニル(例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル)系ポリカーボネート樹脂、例えば上記ビスフェノール又はビフェニルとホスゲン又は炭酸ジエステルとの縮合物が挙げられる。
【0053】
ポリウレタン樹脂(B5)は、多価アルコール(前記に同じ)とポリイソシアネートから構成される。ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’− ジイソシアネート(水添MDI)、m−及び/又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−及び/又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、及び4,4’−及び/又は2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。
【0054】
ポリエーテルケトン樹脂(B6)としては、アリールをエーテル及びケトンで結合した繰り返し単位を有する重合体であり、ジハロゲノベンゾフェノンとヒドロキノンとを重縮合して得られるもの等が挙げられる。例えば「PEEK」(ビクトレックス・エムシー社製)の商標で入手可能である。
【0055】
ポリアリレート樹脂(B7)としては、ビスフェノール成分と芳香族ポリカルボン酸成分とから得られるものである。好ましいビスフェノールとしてはビスフェノールA、ビスフェノールAP及びテトラメチルビスフェノールAであり、芳香族ポリカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニル等が挙げられる。中でも、テレフタル酸とイソフタル酸が最も好ましく用いられ、必要に応じて混合して用いられる。例えば「U−ポリマー」(ユニチカ(株)製)の商標で市場から容易に入手可能である。
【0056】
ポリスルフォン樹脂(B8)としては、スルホン結合、エーテル結合、アリーレン結合を必須の成分とするものであり、例えば特公昭40−10067号公報などに記載の方法で製造される重合体である。例えば、「PES(三井化学(株)製)」(ガラス転移温度(以下Tgと記載)225℃)、「Ultrason S(BASF社製)」(Tg190℃)、「レーデル」(アモコ社製)(Tg220℃)などの商標のものが市場から容易に入手可能である。
【0057】
ポリイミド樹脂(B9)としては、イミド結合を必須の化学構造とし、ビスカルボン酸無水物と芳香族ジアミンの反応によって得られるポリアミック酸を熱的に又は化学的にイミド化して得られる重合体である。このものは非熱可塑型と熱可塑型に大別されるが、本発明では熱可塑型のものが好適に用いられる。熱可塑型ポリイミドとしては「ウルテム」(ジェネラル・エレクトリックス社製)(Tg217℃)の商標で市場から容易に入手可能である。
【0058】
(B)のうち好ましいものは、(A)との相溶性の観点から、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、(A)以外のビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリアリレート樹脂、更に好ましいものはポリエステル樹脂、(A)以外のビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリアリレート樹脂、特に好ましいものはポリエステル樹脂、(A)以外のビニル系樹脂及びポリカーボネート樹脂、とりわけ好ましいのは(A)以外のビニル系樹脂、特に(A)以外のポリスチレン系重合体(B31)である。
【0059】
(B)のMwは、好ましくは10,000〜1,000,000、更に好ましくは25,000〜500,000、特に好ましくは40,000〜200,000、特に好ましくは50,000〜180,000である。40,000以上であれば成形品の可とう性が更に良好に発揮でき、200,000以下であれば成形性が更に良好に発揮できる。また、(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1〜3.5、更に好ましくは1〜3.0である。3.5以下であれば成形品の耐熱性が良好に発揮できる。
【0060】
本発明における(B)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(光弾性係数=25×10-12/Pa)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキシド2モル付加物とテレフタル酸の縮重合体(光弾性係数=28×10-12/Pa)、ポリスチレン(光弾性係数=10×10-12/Pa)、ポリt−ブチルスチレン(光弾性係数=11×10-12/Pa)、ポリp−クロロスチレン(光弾性係数=33×10-12/Pa)、ポリ(スチレン/無水マレイン酸)共重合体{例えば、ポリ(スチレン/無水マレイン酸=85/15重量%)共重合体(光弾性係数=5.0×10-12/Pa)、ポリ(スチレン/無水マレイン酸=70/30重量%)共重合体(光弾性係数=1.6×10-12/Pa)}、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン)共重合体{例えば、ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=30/70重量%)共重合体(光弾性係数=5.9×10-12/Pa)}、ポリカーボネート(光弾性係数=75×10-12/Pa)、ポリアリレート(光弾性係数=82×10-12/Pa)、ポリイミド(光弾性係数=42×10-12/Pa)、ポリイソブテン(光弾性係数=15×10-12/Pa)及びポリ(N−メチルマレイミド/イソブテン)共重合体{例えば、ポリ(N−メチルマレイミド/イソブテン=15/85重量%)共重合体(光弾性係数=12×10-12/Pa)}等が挙げられる。
【0061】
本発明におけるゴム質重合体(C)は、芳香族ビニルモノマー(c1)と共役ジエンモノマー(c2)を必須構成モノマーとし、(c1)と(c2)のみからなる共重合体、並びに(c1)及び(c2)と共重合可能な1種以上の他のラジカル重合性モノマー(c3)の共重合体が挙げられる。
【0062】
(c1)としては、反応性及び入手し易さの観点からスチレンが好ましい。
【0063】
(c2)としては、ブタジエン 、イソプレン、2,3,−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−ブタジエン、3−ブチル−1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−ペンタジエン、3−ブチル−1,3−ヘキサジエン及び3−ブチル−1,3−オクタジエン等が挙げられる。これらのうち重合性、成形品の耐衝撃性及び耐熱性の観点から好ましくはブタジエン、イソプレン及び1,3−ペンタジエン、更に好ましくはブタジエンである。
【0064】
(c3)としては不飽和カルボン酸及び不飽和多価カルボン酸無水物[上記(a22)及び(a23)に同じ。];(メタ)アクリル酸エステル[上記(a1)に同じ。];オレフィン系炭化水素[炭素数2〜12、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、1−オクテン、1−ドデセン];アクリルアミド系モノマー[炭素数3〜15、例えばアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド];アルキルビニルエーテル系モノマー[炭素数3〜12、例えばメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル];カルボン酸ビニルエステル系モノマー[炭素数3〜12、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル]等が挙げられる。これらは単独または2つ以上を同時に使用することができる。これらのうち成形品の耐熱性及び耐衝撃性の観点から好ましくは不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸エステル及びオレフィン系炭化水素である。
【0065】
(C)中の、(c1)から構成される単位は好ましくは10〜99重量%、さらに好ましくは15〜95重量%、(c3)から構成される単位は、好ましくは0〜89重量%、さらに好ましくは3〜83重量%である。また、(C)中の、共役ジエンモノマー(c2)から構成される単位は、好ましくは1〜60重量%、さらに好ましくは2〜50重量%、特に好ましくは3〜40重量%である。(c2)が1重量%以上であれば成形品の可とう性が更に良好に発揮でき、60重量%以下であれば成形性が更に良好に発揮できる。
【0066】
(C)の市販品としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体[「JSR TR2250」(JSR製)、「KRATON D−1102」(Shell製)]
、「アサプレンT−411」(旭化成ケミカルズ製)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体[「サンタックUT−61」、日本エイアンドエル製、「マレッカ K−090」(電気化学工業製)、「クララスチック GA−101」(日本エイアンドエル製)]、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「デンカTH−11」(電気化学工業製)、「カネエース B−22」(カネカ製)、「KCA−801」(ロームアンドハース製)等が挙げられ、入手可能である。
【0067】
本発明の透明樹脂組成物から得られる光学材料の光弾性複屈折を低くするためには、(A)〜(C)からなる透明樹脂組成物の光弾性係数が−5×10-12〜5×10-12/Pa、好ましくは−2×10-12〜2×10-12/Pa、さらに好ましくは−1×10-12〜1×10-12/Paになるように(A)、(B)及び(C)の種類と含有割合を選択する必要がある。光弾性係数が−5×10-12/Pa未満または5×10-12/Paを超えると、本組成物をディスプレイ用材料に適用した場合、表示像のカラーバランスおよびコントラストが低下し、色ムラや像ボケを引き起こし、レンズ用材料に適用した場合、像ボケや記録密度の低下を引き起こす。
【0068】
(C)は通常、Tgがディスプレイやレンズの使用温度未満であり、使用温度範囲では光弾性複屈折をほとんど発現しない。従って、(C)は光弾性係数に影響を与えないと見なすことができる。
【0069】
本発明の透明樹脂組成物は、(A)、(B)、(C)を(A)〜(C)の合計重量に基づいて、それぞれ下記の量含有する。
【0070】
(A)は、通常10〜95重量%、成形品の可とう性、耐熱性及び光弾性複屈折のバランスの観点から、好ましくは13〜90重量%、更に好ましくは17〜88重量%である。
【0071】
(B)は、通常4.5〜80重量%、成形品の可とう性、耐熱性及び光弾性複屈折のバランスの観点から、好ましくは9〜79重量%、更に好ましくは11〜78重量%である。
【0072】
(C)は、成形品の可とう性及び透明性の観点から0.5〜80重量%、好ましくは1〜75重量%、更に好ましくは1〜65重量%である。0.5重量%以上であれば成形品の可とう性が更に良好に発揮でき、80重量%以下であれば透明性が更に良好に発揮できる。
【0073】
本発明の透明樹脂組成物のTgは、好ましくは110〜180℃、更に好ましくは115〜170℃、特に好ましくは120〜160℃である。110℃以上であれば成形品の耐熱性が更に良好に発揮され、180℃以下であれば成形性が更に良好に発揮される。Tgは(A)、(B)、(C)それぞれのTgを選定することにより制御できる。ただし、C相は島成分となるため、組成物のTgへの影響は小さい。
【0074】
本発明の透明樹脂組成物は、必要により本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の添加剤(D)を含有していてもよい。(D)としては、着色剤(D1)、補強剤(D2)、滑剤(D3)、帯電防止剤(D4)、分散剤(D5)、難燃剤(D6)、酸化防止剤(D7)及び紫外線吸収剤(D8)からなる群から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0075】
着色剤(D1)としては、顔料、例えば白色顔料(酸化チタン、亜鉛華、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等)、黒色顔料(カーボンブラック、鉄黒、アニリンブラック等)、黄色顔料、金属粉末顔料が挙げられる。
【0076】
補強剤(D2)としては、金属粉、金属酸化物(アルミナ、ケイ灰石、シリカ、タルク、マイカ、焼成カオリン等)、金属水酸化物、金属塩、繊維、マイクロバルーン、炭素類、金属硫化物、有機粉等が挙げられる。(D2)の平均粒径は、300nm以下が好ましく、更に好ましくは150nm以下である。
【0077】
滑剤(D3)としては、炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル、高級アルコール及び金属石鹸等が挙げられる。
【0078】
帯電防止剤(D4)としては、米国特許第3,929,678号明細書及び4,331,447号明細書に記載の非イオン性界面活性剤(d41)、カチオン性界面活性剤(d42)、アニオン性界面活性剤(d43)及び両性界面活性剤(d44)が挙げられる。
【0079】
分散剤(D5)は添加剤(D)を分散させる作用を有するMn1,000〜100,000のポリマーであって(A)、(B)及び(C)以外のものが挙げられる。
【0080】
難燃剤(D6)としては、有機難燃剤〔リン含有化合物[リン酸エステル(トリクレジルホスフェート等)等]、臭素含有化合物(テトラブロモビスフェノ−ルA、デカブロモビフェニルエーテル等)、塩素含有化合物(塩素化パラフィン、無水ヘット酸等)等〕、無機難燃剤〔三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸塩、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、赤リン、水酸化マグネシウム、ポリリン酸アンモニウム等〕等が挙げられる。
【0081】
酸化防止剤(D7)としては、ヒンダードフェノール系、含イオウ系、含リン系のもの等が挙げられる。
【0082】
紫外線吸収剤(D8)としては、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系等が挙げられる。
【0083】
本発明の透明樹脂組成物中の(D)の合計使用量は、組成物の重量に基づいて、通常0〜10重量%、(D)の機能発現及び成型物の透明性、可とう性及び耐熱性の観点から好ましくは0.01〜10重量%である。該透明樹脂組成物の全重量に基づく各添加剤(D)の使用量は、(D1)は好ましくは0〜1重量%、更に好ましくは0.001〜0.1重量%;(D2)は好ましくは0〜5重量%、更に好ましくは0.01〜3重量%;(D3)は好ましくは0〜2重量%、更に好ましくは0.01〜1重量%;(D4)は好ましくは0〜5重量%、更に好ましくは0.01〜3重量%;(D5)は好ましくは0〜5重量%、更に好ましくは0.01〜2重量%;(D6)は好ましくは0〜2重量%、更に好ましくは0.01〜1重量%;(D7)は好ましくは0〜3重量%、更に好ましくは0.001〜1重量%である。(D1)〜(D7)の間で添加剤が同一で重複する場合は、それぞれの添加剤が該当する添加効果を奏する量を他の添加剤としての効果に関わりなく使用するのではなく、他の添加剤としての効果も同時に得られることをも考慮し、使用目的に応じて使用量を調整するものとする。
【0084】
本発明の透明樹脂組成物の製造方法には、
(1)(A)〜(C)及び必要により(D)をそれぞれ全量溶融混合する方法、
(2)(C)と少量の(A)及び/又は(B)、並びに必要により(D)を溶融混合して、マスターバッチを作成した後、残りの(A)及び/又は(B)を加えて溶融混合する方法[マスターバッチ法]、
(3)(A)、(B)、(C)及び必要により(D)をトルエン等の有機溶剤に溶解し混合した後、溶剤を留去する方法、等が挙げられる。
【0085】
溶融温度は(A)、(B)及び(C)の溶融温度並びに分解温度の観点から好ましくは110〜300℃、更に好ましくは150〜280℃である。上記有機溶剤としては、例えば炭化水素、セロソルブ、ケトン、アルコール、エステル及びアミドが挙げられる。溶解性及び溶剤留去のし易さの観点から好ましいのは炭化水素、エーテル、アミド及びケトン、更に好ましいのは炭化水素及びケトンである。
【0086】
溶融混合装置としては、例えばバッチ混練機〔例えばバンバリー[商品名:Farrel(株)製]及びニーダー〕、連続混練機〔例えばFCM[商品名:Farrel(株)製]、LCM[商品名:(株)神戸製鋼所製]及びCIM[商品名:(株)日本製鋼所製]〕、単軸押出機及び二軸押出機が挙げられる。
【0087】
前記の光学材料用透明樹脂組成物を成形して得られる光学材料としては、光学フィルム、光学成形品及びディスプレイ用基板が挙げられる。光学フィルムとしては、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム及び輝度向上フィルム等が挙げられる。光学成形品としては、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ及びレンチキュラーレンズ等の光学レンズ、並びにタッチパネル用基板及び導光板等の光学基板等が挙げられる。ディスプレイ基板としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用基板又は液晶ディスプレイ、信号、ネオンサイン等のバックライト用基板等が挙げられる。
【0088】
本発明の光学フィルム は、上記組成物を成形することにより得られる。成形方法としては、例えば押出成形、キャスト成形、インフレーション成形が挙げられる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押出成形することができる。また、有機溶媒(上記に同じ)に溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することができる。
【0089】
該未延伸フィルムは、機械的流れ方向に縦一軸延伸する方法、機械的流れ方向に直交する方向に横一軸延伸する方法等によって一軸延伸フィルムを製造することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって二軸延伸フィルムを製造することができる。本発明の光学フィルム の延伸温度は、該未延伸フィルムのガラス転移温度をTgとすると、Tg+5℃〜Tg+40℃である。延伸光学フィルム の透明性およびフィルムの厚み精度の観点から、Tg+5℃〜Tg+35℃であることがさらに好ましく、Tg+10℃〜Tg+30℃であることが最も好ましい。
【0090】
本発明の光学成形品は、上記組成物を成形することにより得られる。成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、積層成形およびカレンダー成形が挙げられる。
【0091】
光学材料の成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形、スタンパブル成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、積層成形及びカレンダー成形が挙げられる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部を表す。
【0093】
なお、熱可塑性樹脂(A)及び熱可塑性樹脂(B)の光弾性係数、アッベ数及びTgは下記の測定法で測定した。
【0094】
光弾性係数:
JIS−K7105に準拠してフィルム試験片(厚み100±3μm)を作成し、23℃でフィルム試験片に応力を加えながら、大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmでの位相差値(Δnd)を測定し、これをフィルム試験片の厚みdで割って、Δnを求めた。様々な応力に対応するΔnを算出して、応力−Δn曲線を作製し、その傾きを光弾性係数とした。単位はPa−1。
【0095】
アッベ数:
フィルム試験片(厚み100±3μm)について、23℃でアッベ屈折計(型番:DR−M2、株式会社アタゴ製)を用いてアッベ数を測定した。
【0096】
Tg:
JIS−K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法にてTgを測定した。単位は℃。
【0097】
製造例1
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコにメチルメタクリレート100部、メチルエチルケトン100部及びアゾビスイソブチロニトリル0.5部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら75℃で10時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、110℃で乾燥し、光弾性係数−6.0×10-12/Pa、アッベ数57、Mw50,000、Tg112℃の熱可塑性樹脂(A−1)[ポリメチルメタクリレート]を得た。
【0098】
製造例2
製造例1において、メチルメタクリレート100部に代えて、メチルメタクリレート94部、アクリル酸メチル6部を用いたこと以外は製造例1と同様に行い、光弾性係数−5.5×10-12/Pa、アッベ数57、Mw52,000、Tg107℃の熱可塑性樹脂(A−2)[ポリ(メチルメタクリレート/メチルアクリレート=94/6重量%)共重合体]を得た。
【0099】
製造例3
製造例1において、アゾビスイソブチロニトリル0.5部に代えて、0.05部用いたこと以外は製造例1と同様に行い、光弾性係数−6.0×10-12/Pa、アッベ数57、Mw500,000、Tg116℃の熱可塑性樹脂(A−3)[ポリメチルメタクリレート]を得た。
【0100】
製造例4
製造例1において、アゾビスイソブチロニトリル0.5部に代えて、1.5部用いたこと以外は製造例1と同様に行い、光弾性係数−6.0×10-12/Pa、アッベ数57、Mw20,000、Tg107℃の熱可塑性樹脂(A−4)[ポリメチルメタクリレート]を得た。
【0101】
製造例5
製造例1において、メチルメタクリレート100部に代えて、メチルメタクリレート70部、スチレン30部を使用した以外は、製造例1と同様にして、光弾性係数−1.3×10-12/Pa、アッベ数49、Mw50,000、Tg104℃の熱可塑性樹脂(A−5)[ポリ(メチルメタクリレート/スチレン=70/30重量%)共重合体]を得た。
【0102】
製造例6
製造例1において、メチルメタクリレート100部に代えて、メチルメタクリレート70部、α―メチルスチレン30部を使用した以外は、製造例1と同様にして、光弾性係数−5.1×10-12/Pa、アッベ数49、Mw50,000、Tg114℃の熱可塑性樹脂(A−6)[ポリ(メチルメタクリレート/α−メチルスチレン=70/30重量%)共重合体]を得た。
【0103】
製造例7
製造例1において、メチルメタクリレート100部に代えて、メチルメタクリレート70部、無水マレイン酸30部を使用した以外は、製造例1と同様にして、光弾性係数−7.2×10-12/Pa、アッベ数51、Mw50,000、Tg144℃の熱可塑性樹脂(A−7)[ポリ(メチルメタクリレート/無水マレイン酸=70/30重量%)共重合体]を得た。
【0104】
製造例8
製造例1において、メチルメタクリレート100部に代えて、メチルメタクリレート90部、メタクリル酸アミド10部を使用した以外は、製造例1と同様にして、光弾性係数−2.9×10-12/Pa、アッベ数52、Mw50,000、Tg132℃の熱可塑性樹脂(A−8)[ポリ(メチルメタクリレート/メタクリルアミド=90/10重量%)共重合体]を得た。
【0105】
製造例9
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコにスチレン85部、無水マレイン酸15部、メチルエチルケトン100部およびアゾビスイソブチロニトリル0.3部を加え、窒素ガスで充分置換したのち、少量の窒素ガスを通しながら75℃で10時間重合させた。冷却後、重合物を大量のヘキサン中に加え、沈澱したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、光弾性係数4.1×10-12/Pa、アッベ数36、Mw80,000、Tg131℃の熱可塑性樹脂(B−1)[ポリ(スチレン/無水マレイン酸=85/15重量%)共重合体]を得た。
【0106】
製造例10
製造例9において、アソビスイソブチロニトリル0.3部に代えて、1.0部用いたこと以外は製造例9と同様に行い、光弾性係数4.1×10-12/Pa、アッベ数36、Mw25,000、Tg130℃の熱可塑性樹脂(B−2)[ポリ(スチレン/無水マレイン酸=85/15重量%)共重合体]を得た。
【0107】
製造例11
製造例9において、アソビスイソブチロニトリル0.3部に代えて、0.05部用いたこと以外は製造例9と同様に行い、光弾性係数4.1×10-12/Pa、アッベ数36、Mw500,000、Tg134℃の熱可塑性樹脂(B−3)[ポリ(スチレン/無水マレイン酸=85/15重量%)共重合体]を得た。
【0108】
製造例12
製造例9において、スチレン85部、無水マレイン酸15部に代えて、スチレン70部、無水マレイン酸30部を用いたこと以外は製造例9と同様に行い、光弾性係数1.6×10-12/Pa、アッベ数37、Mw80,000、Tg155℃の熱可塑性樹脂(B−4)[ポリ(スチレン/無水マレイン酸=70/30重量%)共重合体]を得た。
【0109】
製造例13
製造例9において、スチレン85部、無水マレイン酸15部に代えて、スチレン70部、メチルメタクリレート30部を用いたこと以外は製造例9と同様に行い、光弾性係数5.6×10-12/Pa、アッベ数37、Mw50,000、Tg101℃の熱可塑性樹脂(B−5)[ポリ(スチレン/メチルメタクリレート=70/30重量%)共重合体]を得た。
【0110】
製造例14
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物63.1部およびキシレン 100部を加え、窒素ガスで十分置換した後、少量の窒素ガスを通気しながら130℃で攪拌して溶解させた。この混合物の温度を130℃に保ち、テレフタル酸クロリド36.9部を3時間かけて滴下した後、副生する塩化水素を反応系外へ除去しながら、135℃で8時間反応させた。反応液を100℃まで冷却後、末端停止剤としてフェノール0.045部を添加し、100℃で2時間反応させた。反応液を室温まで冷却後、大量のヘキサン中に加え、沈殿したポリマーをろ過、100℃で乾燥し、光弾性係数28×10-12/Pa、アッベ数32、Mw90,000、Tg100℃の熱可塑性樹脂(B−6)[ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物/テレフタル酸−ポリエステル樹脂]を得た。
【0111】
製造例15
攪拌器、温度計、冷却管、ガス導入管を備えた500ミリリットルオートクレーブにN−メチルマレイミド15部、t−ブチルパーオキシネオデカノエート0.1部及びトルエンとメタノールの混合溶液(1:1重量比)100部を仕込み、窒素で数回パージした後、イソブテン85部を加え、60℃で10時間重合させた。冷却後、得られた重合物を遠心分離後、80℃で乾燥し、光弾性係数12.0×10-12/Pa、アッベ数51、Mw60,000、Tg90℃の熱可塑性樹脂(B−7)[ポリ(N−メチルマレイミド/イソブテン=15/85重量%)共重合体]を得た。
【0112】
ゴム質重合体(C)としては、以下の(C−1)〜(C−4)を使用した。
(C−1):(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「KCA801」、ローム&ハース社製、ブタジエン成分含量40重量%)
(C−2):(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、「デンカTH−11」、電気化学工業(株)製、ブタジエン成分含有量3重量%)
(C−3):(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、「JSR TR2250」、JSR(株)製、ブタジエン成分含有量48重量%)
(C−4):(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、「サンタックUT−61」、日本エイアンドエル(株)製、ブタジエン成分含有量10重量%)
【0113】
実施例1〜19、比較例1〜3
(A)〜(C)を表1〜表3に示す配合量(重量%)に従ってヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、ベント付き2軸押出機にて、210℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練してストランド状に押出し、ペレタイザーで切断して透明樹脂組成物ペレットを得た。これらを用い射出成形機で成形品試験片を、押出成型機でフィルム試験片を作成し、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
<性能評価方法>
(1)透明性
JIS−K7105に準拠し、フィルム試験片(厚み100±3μm)について、積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率及びヘイズを測定した。単位は%。
(2)耐熱性
JIS−K7121に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)法にてTgを測定した。単位は℃。
(3)耐衝撃性
JIS−K7110(ノッチ付)に準拠し、成形品試験片(厚み3.2±0.3mm)について、衝撃強度を測定した。単位はkJ/m2
(4)可とう性
JIS−P8115に準拠し、フィルム試験片(厚み100±3μm)について、MIT型耐折試験機を用いて、23℃、60%RH、荷重200g、折り曲げ速度175回/分、折り曲げ角0.38mmの条件で耐折度を測定した。単位は回。回数が多いほど可とう性がある。
(5)光弾性複屈折
フィルム試験片(厚み100±3μm)に応力を加えながら、大塚電子社製LETS−100を用いて測定波長550nmでの位相差値(Δnd)を測定し、これを前記フィルム試験片の厚みdで割って、Δnを求めた。様々な応力に対応するΔnを算出して、応力‐Δn曲線を作製し、その傾きを光弾性係数(単位は/Pa)とし、光弾性係数が小さいほど光弾性複屈折が少ないとした。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
表1〜表3からわかるように、実施例では(A)のアッベ数が(B)のアッベ数より大きく、透明性、耐熱性、耐衝撃性及び可とう性が良好で、かつ光弾性複屈折が少なく良好である。それに対し、比較例1では(A)のアッベ数が(B)のアッベ数よりも小さいため、透明性及び耐熱性が悪く、光弾性複屈折が多い、比較例2では(B)を含有していないため、透明性が悪く、かつ光弾性複屈折が多い、比較例3では(A)を含有しないため、透明性、耐衝撃性及び可とう性が悪く、かつ光弾性複屈折が多い。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の光学材料用透明樹脂組成物を成型して得られる光学フィルム、光学成形品及びディスプレイ用基板は、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム等のフィルム、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズ、レンチキュラーレンズ等の光学レンズ、タッチパネル用基板、導光板等の光学基板等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)の全てを満たす光学材料用透明樹脂組成物。
(1)光弾性係数が負の熱可塑性樹脂(A)、光弾性係数が正の熱可塑性樹脂(B)及び芳香族ビニルモノマーと共役ジエンモノマーを必須構成モノマーとするゴム質重合体(C)を含有する。
(2)前記熱可塑性樹脂(A)のアッベ数が、前記熱可塑性樹脂(B)のアッベ数よりも大きい。
(3)前記(A)〜(C)の合計重量に基づく前記(C)の重量割合が0.5〜80重量%である。
(4)透明樹脂組成物の光弾性係数が−5×10−12〜5×10−12/Paである。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(A)及び前記熱可塑性樹脂(B)のそれぞれの重量平均分子量が10,000〜1,000,000である請求項1記載の透明樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)がアクリル酸エステルを必須構成モノマーとする重合体である請求項1又は2記載の透明樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム質重合体(C)中の共役ジエンモノマーから構成される単位が、(C)の重量に基づいて1〜60重量%である請求項1〜3いずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項5】
ガラス転移温度が110〜180℃である請求項1〜4のいずれか記載の透明樹脂組成物。
【請求項6】
更に、着色剤、補強剤、艶消剤、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、酸化防止剤及び紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上の添加剤(D)を含有させてなる請求項1〜5のいずれかに記載の透明樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明樹脂組成物を成形してなる光学フィルム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明樹脂組成物を成形してなる光学成形品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明樹脂組成物を成形してなるディスプレイ用基板。

【公開番号】特開2009−293021(P2009−293021A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113757(P2009−113757)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】