説明

光学樹脂組成物の製造方法

【課題】
樹脂母材の光学特性を容易に変更可能な光学樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
無機化合物が含まれる光学樹脂組成物の製造方法において、R−Si−O−M(Rは、鎖状、環式もしくは脂環式アルキル基、フェニル基、フェニル基を含むアルキル基、または、ビニル基、エポキシ基等の反応性官能基を含むアルキル基であり、Mは金属元素である)で表される構造を含み、粒径が10nm以下の粒子である光学物性改質添加剤を含む溶液に重合性モノマー、重合性オリゴマーおよび樹脂材料のいずれかの1以上を溶解した後、溶媒を除去する乾燥工程を経た後、乾燥物を粉砕して粒子状マスターバッチを作成する工程、当該粒子状マスターバッチを熱可塑性光学樹脂と熱溶融混合する工程を経ることにより、実質的に透明であり、光学物性が改質された光学樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂材料の光学物性が改質可能な光学樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、プリズム、位相素子等の光学材料には、高屈折率であること及び高アッベ数(低屈折率分散)であることが重要な物性として要求される。例えば、レンズにおいては、高屈折率であることは、レンズをコンパクト化できる。また、高アッベ数であることは、色収差を小さくする観点において利点がある。
また、光学デバイスの設計では幅広い屈折率で様々な分散特性を有する素材が供給可能であれば、光学デバイス設計の自由度が向上しその応用の範囲が大きく広がる。
【0003】
光学材料の基材としてはガラスが良く知られているが、軽量化、経済性、安全性等の観点からは、有機媒体(例えば、高分子材料)の使用が望ましい。
有機媒体の光学特性を改善するため樹脂素材への無機酸化物の複合化が公開されている(特許文献1〜6)。さらに、特許文献7では、アルキルアルコキシシランを無機酸化物と組み合わせる事で樹脂と酸化物粒子界面の屈折率差を低減し、透明性向上に有効である事が開示されている。
また、特許文献8では、酸化物粒子の代わりに金属アルコキシド及びアルキルアルコキシシランの部分加水分解物を適用することが有効である事が開示されている。
特許文献9では、無機酸化物を分子量が1000未満である修飾分子および分子量が1000以上である修飾分子で表面を修飾されたコロイドとする事で透明性が確保された高分子組成物が形成可能である事が開示されている。
【0004】
しかしながら、光学材料に適用可能な透明性を維持する事が可能なナノサイズ無機酸化物粒子の合成やナノ粒子の凝集粒径を小さくする事は一般的に非常に困難であり、最大数μmの厚さで使用する反射防止膜やハードコート用の高屈折率材料を除いては実用化できていないのが現状である。
一方、特許文献10では、希土類金属からなる中心金属と中心金属に対して酸素原子を介して存在しているカウンター金属とを含む光学材料が、高屈折率且つ低分散特性を有することが開示されている。
一方で、熱可塑性透明樹脂にナノサイズの無機粒子を凝集させることなしに均一分散させる方法は、未だ一般化された手法が示されてはおらず、様々な製造方法が提案されている。その中でも、予め無機粒子とマトリクスとなる熱可塑性透明樹脂とを高濃度に混合してマスターバッチを作成し、その後、当該熱可塑性透明樹脂と溶融混合する2段階方法が最も現実性が高い(特許文献11)。しかし、工業的には有利と考えられるが、無機粒子の凝集を抑制するにはマスターバッチの作成こそ最も重要な工程であり、無機粒子が均一分散した分散液を熱可塑性透明樹脂と二軸混練機を用いて湿式混合する方法(特許文献12)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−231934号公報
【特許文献2】特開2004−238532号公報
【特許文献3】特開2004−269727号公報
【特許文献4】特開2004−300433号公報
【特許文献5】特開2004−307845号公報
【特許文献6】特開2006−276195号公報
【特許文献7】特開2007−9187号公報
【特許文献8】特開2007−91965号公報
【特許文献9】特開2007−204739号公報
【特許文献10】特開2007−178921号公報
【特許文献11】特開2007−161980号公報
【特許文献12】特開2009−13009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、無機酸化物を用いた特許文献1〜7、9などの手法では、使用可能なナノ粒子のサイズが小さくても10nm程度であり、レイリー散乱による透過率の低下を抑えることが出来ないため、10μm程度までの厚みの光学材料での使用に限定されるという問題点を有している。また、各種分散剤やシランカップリング剤を用いた表面処理により、有機組成物への分散性又は相溶性を向上する事が行われているが、ナノ粒子への表面処理では完全な表面被覆は困難であり、また、シランカップリング剤を持いた場合も一つ一つのナノ粒子表面にSi−O−M結合を導入する事は困難である。従って、ナノ粒子の凝集を完全に抑制出来ずに透明性の低下が起こる。結果として数100μmを超えるような厚膜やバルク体への応用が困難である問題点を有している。
また、特許文献8では、出発原料として酸化物粒子の代わりに金属アルコキシド及びアルキルアルコキシシランを用いているが、両原料を個別に添加しているのみでSi−O−M結合の形成を行っているものではない。
【0007】
一方、特許文献10の方法では、その無機成分のドメインサイズが数ナノメーターと小さいことより、レイリー散乱による透明性の低下を抑える事が可能であるが、希土類元素の使用が必須である事、希土類元素を導入するためカウンターイオンとの錯体形成を行う必要があり屈折率の設定範囲が制限される事が問題となる。
熱可塑性樹脂との複合化に際しても、特許文献11のごとく単純なマスターバッチ法では無機粒子の均一分散達成は容易ではなく、得られた樹脂組成物は不透明であることが多い。またマスターバッチ作成時に溶媒を利用した特許文献12では、均一分散性の観点で有利ではあるが、多量の溶媒は最終的に樹脂組成物から除去されなければならず、工程が煩雑である事は否めない。
【0008】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、レイリー散乱を最小限に抑える事が可能であり、有機媒体に対する溶解性や相溶性に優れ、樹脂材料の光学物性を容易に改質できる樹脂材料光学物性改質用添加剤を用いて、光学物性が改質された光学樹脂組成物の容易な製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、無機化合物が含まれる光学樹脂組成物の製造方法において、特定の化学構造を持つ無機成分を含む光学物性改質添加剤を、粒子状のマスターバッチを経て、熱可塑性光学樹脂と溶融混合する手法が有効であることを見出し、上記目的が達成され、本発明を完成するに至った。本発明において、具体的には下記の手段により解決される。
【0010】
〔1〕無機化合物が含まれる光学樹脂組成物の製造方法において、R−Si−O−M(Rは、鎖状、環式もしくは脂環式アルキル基、フェニル基、フェニル基を含むアルキル基、または、ビニル基、エポキシ基等の反応性官能基を含むアルキル基であり、Mは金属元素である)で表される構造を含み、粒径が10nm以下の粒子である光学物性改質添加剤を含む溶液に重合性モノマー、重合性オリゴマーおよび樹脂材料のいずれかの1以上を溶解した後、溶媒を除去する乾燥工程を経た後、乾燥物を粉砕して粒子状マスターバッチを作成する工程、当該粒子状マスターバッチを熱可塑性光学樹脂と熱溶融混合する工程を経ることを特徴とする実質的に透明性を有する光学樹脂組成物の製造方法。
【0011】
〔2〕前記〔1〕記載の光学物性改質添加剤に於いて、MがAl、Ga、Ti、Zr、Nb、Ta、Ge、Sn、Znより選ばれる1種又は1種以上の元素の組合せであることを特徴とする光学樹脂組成物の製造方法。
【0012】
〔3〕前記〔1〕記載の光学物性改質添加剤が、金属酸化物換算(前記Mの酸化物換算)で0.1から25重量%含まれることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の光学樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に用いる光学物性改質添加剤は、粒径が10nm以下である粒子からなるので、レイリー散乱が最小限に抑えられるとともに、Mを含む酸化物ユニットに、有機基Rが結合したケイ素Siが直接に結合した構造を有していることにより、粒径が10nm以下であっても有機液体中での分散安定性が向上し、Mを含む酸化物ユニットの凝集が抑制される。従って、本発明の光学樹脂組成物を使用した粒子状マスターバッチを事前に形成する本発明の光学樹脂組成物の製造方法により、実質的に透明であり、光学物性が改質された光学樹脂組成物を得ることができる。すなわち、光学物性改質添加剤の化学組成を適宜選定することにより、屈折率とアッベ数を所望の値に調整することができる。
また、本発明の光学樹脂組成物の製造方法は、粒子状マスターバッチを事前に形成する事により光学物性改質添加剤の添加効率を向上する事が出来、光学樹脂へのダメージの少ないより温和な条件での混合・混練操作により光学樹脂組成物を形成する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る光学物性改質添加剤の粒子構造を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態について、詳細に説明すれば以下のとおりである。
本発明のR−Si−O−M構造は、光学物性改質添加剤の構造の一部を表しているものであり、その存在は、29Si−NMRスペクトルや赤外線吸収スペクトル、Ramanスペクトルなどにより確認する事が出来る。R−Si構造は、Mを含む酸化物ユニットの最表面に存在し、有機液体への親和性を付与する。この光学物性改質添加剤は、図1にモデル図を示すような粒子構造を有していると考えられる。図1中の符号は、1が金属酸化物(MOx)を示し、2がM−O−Si−C構造を有する層を有し、3がSi原子に結合した有機基Rを示す。
【0016】
Rは、鎖状、環式および脂環式アルキル基、フェニル基及びフェニル基を含むアルキル基、ビニル基、エポキシ基等の反応性官能基を含むアルキル基であり、1乃至3個Si原子に結合している。
光学物性改質添加剤の粒径は10nm以下が好ましく、10nmを超えるとレイリー散乱により透明な光学樹脂組成物を得る事が出来ない。光学経路が50μmを越える厚膜や透明なバルク形状の光学樹脂組成物を得るためには、その粒径が5nm以下である事がより好ましい。ここで示す粒径は、有機液体中で動的光散乱法により測定された値の粒径分布のピークトップ値を意味する。ただし、単一分散であることが好ましく(単分散であれば平均粒径と粒度分布のピークトップの値はほぼ一致する)、特に10nmを超える領域での多分散ピークの存在は透明性を低下させるため好ましくない。
【0017】
光学物性改質添加剤は、有機液体に可溶である。ここで言う有機液体は、光学物性改質添加剤を溶解するものであればよく、常温で液状のものだけでなく加温する事により液状化するもの含む。先に示したRの種類を有機液体の種類に合わせ選定する事で有機液体に可溶な光学物性過失添加剤とする事が出来る。可溶である事により、レイリー散乱に影響しない凝集の少ないサイズで樹脂材料へ分散した光学樹脂組成物の形成が可能となる。
【0018】
Mは、目的とする光学特性により選定されるものであり、可視光領域で吸収をもたない元素であれば特に限定されるものではないが、好ましくはAl、Ga、Ti、Zr、Nb、Ta、Ge、Sn、Znより選ばれる1種又は1種以上の元素の組合せより選定される。例えば、屈折率1.5前後の光学樹脂組成物を得るためにはAlの使用が好ましい。また、アッベ数が大きな光学樹脂組成物を得るためには、Al、Ga、Zr、Nb、Ta、Geの使用が好ましい。一方、アッベ数の小さな光学樹脂組成物を得るためには、Ti、Sn、Znの使用が好ましい。
【0019】
SiとMの比率は目的とする光学特性により選定するものであるが、Si/M比が0.1から4である事が好ましい。Si/M比が0.1より小さいと有機液体に対する十分な溶解性又は分散性が確保出来ない。Si/M比が4より大きいと屈折率が低くなりMの効果を十分に発現する事が出来ない。
【0020】
本発明の光学物性改質添加剤は、(1)化学式RxSi(OR’)yで表わされるアルキルアルコキシシラン溶液を水と混合する工程、(2)化学式M(OR”)zで表される金属アルコキシド溶液に(1)の溶液を混合する工程、(3)(2)の工程に引き続いて、更に水を添加して加水分解する工程を経て製造される。
【0021】
アルキルアルコシキシランは、化学式RxSi(OR’)y(x+y=4、1≦x≦3)で表わされる。Rは、炭素数1〜10の鎖状及び分岐アルキル基、4〜8員環を環式および脂環式アルキル基、フェニル基及びベンジル基等のフェニル基を含むアルキル基、更には、ビニル基、アクリロキシプロピルやメタクリロキシプロピル等を含むビニル含有アルキル基、グリシジル基やエポキシシクロヘキシル基等を含むエポキシ基を含むアルキル基などの反応性官能基を含むアルキル基であり、組み合わせる樹脂材料の種類により選定される。R’は、炭素数1〜6が好ましく、Mの種類によりその入手のしやすさや形態、溶解性等により随時選定される。より好ましくは1〜4のアルキル基である。
【0022】
鎖状アルキル基を含むアルコキシシランとしてメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、環式アルキル基としてシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、脂環式アルキル基として2−ビシクロへプチルトリメトキシシラン、2−ビシクロへプチルジメチルメトキシシラン、アダマンチルエチルトリメトキシシラン、フェニル基としてフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルトリメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ベンジルジメチルメトキシシラン、ビニル基として、ビニルトリメトキシシラン、シクロヘキセンエチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、エポキシ基として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン等が例示される。
【0023】
アルキルアルコキシシランのアルコキシル基を加水分解するために水が添加される。水の添加量は、Siに対し0.5〜4モル倍が好ましい。水添加量が0.5モル倍より少ないとR−O−M構造を形成するための水酸基の形成が十分でなく、一方、4モル倍より多くともその効果の向上が認められない。より好ましくは、0.8〜2モル倍である。
【0024】
加水分解反応条件としては、室温〜100℃で0.1〜50時間程度が好ましい。また、触媒を用いる事も可能であり、その際、塩酸、硫酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ピペリジン、ピリジン等の塩基性触媒を用いても良い。
【0025】
加水分解されたアルコキシシランを、一般式M(OR”)zで表される金属アルコキシドと反応させ、R−Si−O−M構造を形成する。反応条件はMの種類や反応濃度により随時設定されるが、−80〜100℃が好ましい。より好ましくは、0〜60℃である。R−Si−O−M構造の形成は29Si−NMRスペクトルにより確認する事が可能である。観察されるケミカルシフトの位置はSiへ結合するアルキル基及びアルコキシル基の数、種類、加水分解の進行状態により異なるが、R−Si−O−M構造の形成は相当するR−Si−O−Siに帰属されるピークとのケミカルシフトの差により確認できる。ここで反応させるSi/Mのモル比は、0.1〜4が好ましい。更に、必要に応じ金属アルコキシドを加えた後、水を添加し加水分解する事で目的とする光学物性改質添加剤が形成される。あらかじめアルコキシシランと金属アルコキシドを反応させる事により、R−Si−O−M構造が効率的に取り込まれ、中心部にMの酸化物、表面部にR−Siが偏在する構造が形成される。この構造により各種有機液体への相溶性、分散性が付与される。本発明の光学物性改質添加剤のR−Si−O−M構造の存在は、29Si−NMRにより確認可能である。加水分解前のR−Si−O−M構造に帰属されるケミカルシフトとほぼ同位置に多重線化したピークとし観測される。
【0026】
また、赤外吸収スペクトル又はRamanスペクトルにおいてもR−Si−O−M構造の存在を確認する事が可能である。Mが結合する事により相当するSi−O伸縮振動に帰属されるピークが低波数シフトする。あわせて、相当するM−O伸縮振動に帰属されるピークシフトも観測される。ただし、同一振動領域に他の官能基に帰属される振動ピークが重なる場合は明確な帰属が困難になる事があり、先に述べた29Si−NMRスペクトルの結果とあわせて判断する事によりR−Si−O−M構造の存在を確認可能である。
【0027】
一般に金属アルコキシドを出発原料として形成した重合体又は酸化物粒子は、表面に多くの水酸基が存在する。この水酸基が存在する事により強い凝集性又は反応性を示し、一旦溶剤を除去すると再度溶剤へ溶解する事が不可能となる。本発明の光学物性改質添加剤は、R−Si−O−M構造を形成する事により、表面水酸基量を大幅に低減する事が可能になった。結果として有機液体への溶解性が得られるだけでなく、一旦溶剤を除去した後の再溶解性を付与する事が可能となった。
【0028】
残留水酸基量は、赤外吸収スペクトル又はRamanスペクトルの3000〜4000cm−1の領域に観察されるO−H伸縮振動ピークの有無により確認可能であり、本発明の光学物性改質添加剤では、O−H伸縮振動に帰属されるピークが殆ど観測されない。
【0029】
金属アルコキシドは、一般式M(OR”)zで表され(zはMの価数により決まる整数)、R”は炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基である。Mは金属アルコキシドを形成する元素で有れば特に限定されず、目的とする光学特性により選定される。好ましくは、MがAl、Ga、Ti、Zr、Nb、Ta、Ge、Sn、Znであり、1種以上の元素を組合せて使用する事も可能である。
【0030】
M(OR”)zを反応させる水および追加した水の添加量は、原料中に存在する全アルコキシル基の0.1〜1モル倍が好ましい。0.1モル倍未満であると残留アルコキシル基量が多くなり、光学物性改質添加剤の安定性が低下する。1モル倍を超える量を添加してもその効果に大きな変化は無く、その必要性が無い。
【0031】
上記反応に使用する溶剤は、最終形成物である光学物性改質添加剤が可溶であれば特に限定されるものではない。ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、n-ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素系溶剤、クロロホルム、
ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、ジエチル エーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテートなどの多価アルコール誘導体が好ましく用いられる。上記溶剤は単独で用いても、2種以上の溶剤を混合して用いても良い。
【0032】
アルコキシシランとM(OR”)zを個別に加水分解、又はアルコキシシランとM(OR”)zを同時に加水分解するとM(OR”)zの加水分解速度が速いため目的とするサイズを有する構造物を得る事は出来ない。また、R基が最表面に存在しR−Si−O−M構造を有する構造を導入する事が出来ない、上記工程を経る事により中心にMを含む酸化物成分が存在し、R−Si−O−M構造を有する100nm以下の粒径の光学物性改質添加剤が製造可能となる。
【0033】
光学物性改質添加剤の分散粒径は、10nm以下である事が好ましい。10nmを超えるとレイリー散乱により光学樹脂組成物の透明性が維持出来ない。より好ましくは、5nm以下であり、この粒径下であれば、50μmを超える厚膜やバルク形状でも十分な透明性を発現可能である。かかる光学物性改質添加剤の粒径は、前記した各原料の加水分解工程の条件、例えば、水の添加量、反応時間および撹拌方法の変更によって制御することができる。
【0034】
本発明の光学樹脂組成物は、光学物性改質添加剤を含む粒子状マスターバッチを作成する工程、当該粒子状マスターバッチを熱可塑性の光学樹脂と熱溶融混合する工程を経る事により製造される。
【0035】
粒子状マスターバッチは、上記した光学物性改質添加剤の溶液に重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料を溶解した後、溶媒を除去する乾燥工程および乾燥物を粉砕する工程を経ることによって得られる。ここで重合性モノマー、重合性オリゴマーとは、熱あるいは光などの刺激によって自己重合することにより分子量の大きなポリマーを形成しうる材料であり、後述する光学樹脂組成物に用いられる樹脂材料と相溶するものであれば特に限定されるものではない。このような重合性モノマーとしては、メチルメタアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニル等のビニル系ポリマーを挙げることができ、重合性オリゴマーとしては、これらの重合性モノマーのオリゴマー等を挙げることができる。また、同工程にもちいる樹脂材料としてはポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリビニルアルコール、環状オレフィン樹脂、スチレンアクリロニトリル共重合体、ポリビニルカルバゾール、スチレン無水マレイン酸共重合体、可溶性ポリイミド、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ポリシランなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
光学物性改質添加剤、重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料を溶解させるのに利用する溶剤としては、後段の乾燥工程で過大な労力を要することなく除去することができるものであり、かつ光学物性改質添加剤をも溶解することが必要である。比較的低沸点のヘキサン、2−メチルペンタン、2、2−ジメチルブタン、2、3−ジメチルブタン、1−ペンテン、cis−2−ペンテン、trans−2−ペンテン、1−ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の炭化水素系溶剤、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1、1−ジクロロエタン、1、2−ジクロロエタン、1、1、1−トリクロロエタン、1、1−ジクロロエチレン、1、2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、塩化プロピル、塩化イソプロピル、1、2−ジクロロプロパン、塩化アリル、塩化ブチル、塩化sec−ブチル、塩化イソブチル、塩化tert−ブチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化イソプロピル、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、クロロブロモメタン、トリクロロフルオロメタン、1、1、2−トリクロロー1、2、2−トリフルオロエタン、1、1、2、2−テトラクロロー1、2−ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert-ブチルアルコール、tert-ペンチルアルコール等のアルコール系溶剤、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、1、2−ジメトキシエタン、メチラール、アセタール等のエーテル、アセタール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン等のケトン系溶剤、ギ酸、無水酢酸等の脂肪酸、酸無水物系溶剤、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、エチレングリコール等のエステル系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチルニトリル、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、アリルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロール、ピペリジン、ピリジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の窒素化合物、二硫化炭素、硫化ジメチル、硫化ジエチル、チオフェン、テトラヒドロチオフェン等の硫黄化合物、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、2−クロロエタノール、1−クロロ−2−プロパノール、2、2、2−トリフルオロエタノール、アセトンシアノヒドリン、エピクロロヒドリン、モルホリン、N−エチルモルホリン、乳酸、トリフルオロ酢酸等の多官能性化合物、あるいは高融点のシクロヘキサン、ジオキサン、tert-ブチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等が好ましい。
【0037】
光学物性改質添加剤は、上述の溶剤に重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料と共に溶解させるが、この際の配合量は溶剤100質量部に対して0.5〜50質量部が望ましく、さらに好ましくは1〜20質量部が望ましい。この配合量が50部を越えると光学物性改質添加剤の均一溶解が困難になり、光学樹脂組成物中における光学物性改質添加剤の均一分散性に劣る傾向にある。一方で、0.5部よりも少ない場合には一度に処理できる光学物性改質添加剤量が少なく、また除去すべき溶媒量が多大になることから好ましくない。
【0038】
共存する重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料の配合量は、光学物性改質添加剤100質量部に対して0.5〜500質量部であることが望ましく、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは1〜50質量部であることが望ましい。この配合量が500質量部を越えると、光学物性改質添加剤への処理の点からは特に問題はないが、溶解すべき重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料が多大となり、溶解時間が長大になることから現実的ではない。一方で、0.5質量部未満である場合には、重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料による処理効果に乏しく、光学樹脂組成物中における光学物性改質添加剤の均一分散性に劣る結果となる。
【0039】
光学物性改質添加剤と重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料とからなる溶液の調製方法は特定の方法に限定されるものではなく、マグネチックスターラー、種々の形状を有する撹拌翼によるメカニカルスターラー、超音波照射装置、ホモミキサー、振とう機等を用いて、ガラス性、ステンレス製等の容器内で行なうことができる。原料の溶媒への溶解時には穏やかに加熱してもよい。
【0040】
本発明の粒子状マスターバッチを得るには、上記の方法で得られた光学物性改質添加剤および重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料が含まれる均一な溶液を得た後、溶剤を除去する工程が必要となる。具体的には、常圧で制御された加熱を施す方法、減圧下に制御された加熱を施す方法、溶液を凍結固化させて減圧下に置く方法(凍結乾燥)が挙げられるが、いずれの方法を採用するかによって、予め最適な溶剤を選定しておく必要はある。また溶剤除去後に得られる乾燥固体サンプルは、後段の粉砕工程で容易に微粉化できることが重要であるため、薄膜状かスポンジ状になっていることが望ましく、そのためには減圧下に加熱する方法あるいは凍結乾燥法が好適に用いられる。このような方法を採ることにより、溶剤の回収と再利用が可能になると同時に、大気中への気散を防止できるので望ましい。
【0041】
本発明の粒子状マスターバッチは、最終的に上記した乾燥固体サンプルを粉砕することによって得ることができ、粉砕には凍結粉砕やボールミルによる粉砕等が好適に用いられる。粉砕後の粒子状マスターバッチの平均粒径や粒度分布については、後段の熱溶融混練工程での取扱いに支障をきたさない限り特に制限はない。むしろ、光学物性改質添加剤と重合性モノマー、重合性オリゴマーあるいは樹脂材料との混合量比や溶液中の溶質濃度を調節し、光学物性改質添加剤の析出や濃度ムラあるいは凝集などが起こらないようにすることが必要である。
【0042】
上述の手順により得られた粒子状マスターバッチは、後述する光学樹脂と熱溶融混練することにより光学樹脂組成物を与える。熱溶融混練には、バッチ式混練機としてはインターナルミキサ、ニーダー、ロールミキサ等、連続式混練機としてはそれぞれスクリュー式およびロータ式からなる単軸混練押出機、二軸混練押出機、多軸混練押出機等の公知の方法が適用できるが、最も普及しており、高いせん断力を付与でき、かつ連続して光学物性改質が含まれる光学樹脂組成物を作成できるスクリュー式の二軸混練押出機が好適に用いられる。
【0043】
本発明の光学樹脂組成物には、光学物性改質添加剤が金属酸化物換算で0.1から25重量%含まれる事が好ましい。0.1重量%未満では目的とする光学物性改質の効果が十分でない。25重量%を超えるとその含有量の増加により目的とする光学特性改質の効果は大きく向上せず、逆に比重が増加する事により樹脂組成物が本来持つ特性を悪化するため、25重量%以下で十分である。より好ましくは0.5重量%から10重量%である。
【0044】
熱溶融混練においては光学樹脂および光学物性改質添加剤への熱的、せん断力による機械的なダメージを防ぐことからも、高せん断混練やL/Dの大きなスクリューを用いた混錬を避けることが望ましく、また本開発の粒子状マスターバッチを用いることで、これら高負荷な混錬を用いずとも光学物性改質添加剤を凝集することなく光学樹脂中に均一分散できる。
【0045】
本発明の光学樹脂組成物に用いられる樹脂材料は、可視光領域で透明性を有し一般に光学材料として使用可能なものであれば特に限定されない。このような樹脂材料としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アタクリレート、ポリベンジル(メタ)アタクリレート、ポリフェニル(メタ)アタクリレート等を主成分とするアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状オレフィン樹脂(COP)、ポリアクリロニトリル、スチレンアクリロニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルカルバゾール、スチレン無水マレイン酸共重合体、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ポリシラン、ポリアミド、ポリイミドなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらの樹脂材料は、単独で用いてもよく2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0046】
これらの樹脂材料の分子量は特に限定されるものではなく、用途や加工方法に応じて任意の分子量のものを用いることができるが、成形加工性を考慮すれば、樹脂を0.5g/100ミリリットルの濃度で溶解可能な溶剤に溶解した後の35℃で測定した対数粘度の値が0.1〜3.0デシリットル/gであることが好ましい。
【0047】
また、上記した樹脂材料を溶媒に溶解し、あるいは加熱などによって溶融したものを光物性改質添加剤と混合する事により本発明のマスターバッチを製造できるが、樹脂材料の前駆体となる重合性モノマー、重合性オリゴマー、モノマーや重合性オリゴマーと樹脂材料との混合体を出発原料として目的とする光学樹脂組成物の形態に加工する過程で重合化することもできる。さらには、これらの樹脂材料は、その主鎖や側鎖に、光や熱によって付加、架橋、重合などの反応を促す官能基を有していてもよい。このような官能基としては、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、ジアゾ基、ニトロ基、シンナモイル基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基などが例示できる。樹脂材料は、可塑剤、酸化防止剤などの安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料などの着色剤などの添加物や触媒を含んでいても良い。さらに、樹脂材料は、塗布性などの成型加工性を高めるために、溶媒(水、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類などの有機溶媒)を含んでいてもよい。
【0048】
本発明の光学樹脂組成物には、その光学特性を損なわない範囲で熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤、帯電防止剤、離型剤、各種の加工助剤が含まれていても良い。以下に各樹脂添加剤の中で主なものの具体例を挙げるが、これらに限定はされるものではない。
【0049】
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、光学樹脂組成物の透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。ヒンダードアミン系耐光安定剤(以下、HALSと記す。)の中でも、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたGPCにより測定したポリスチレン換算のMnが1,000〜10,000であるものが好ましく、2,000〜5,000であるものがより好ましく、2,800〜3,800であるものが特に好ましい。Mnが小さすぎると、該HALSを熱溶融混練して配合する際に、揮発のため所定量を配合できず、射出成形等の熱溶融成形時に発泡やシルバーストリークが生じるなど加工安定性が低下する。逆にMnが大き過ぎると、光学樹脂への分散性が低下して、光学樹脂組成物の透明性が低下し、耐光性改良の効果が低減する。したがって、本発明においては、HALSのMnを上記範囲とすることにより加工安定性、透明性に優れた光学樹脂組成物が得られる。
【0050】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等による光学樹脂組成物の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明に係る重合体100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0051】
可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を挙げることができるが、特に限定されるものではない。
【0052】
本発明の光学樹脂組成物は、例えば、プレス成形、押出成形、射出成形等の熱溶融成形法を用いて様々な形状に賦型することができ、この中でも射出成形が成形性や量産性の点で好適である。かかる成形条件は、使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば、射出成形における光学樹脂組成物の温度は、成形時に適度な流動性を樹脂に付与して成形品のヒケやひずみを防止し、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、更に、成形物の黄変を効果的に防止する観点から150℃〜400℃の範囲が好ましく、更に好ましくは160℃〜350℃の範囲であり、特に好ましくは180℃〜330℃の範囲である。
【0053】
本発明の光学樹脂組成物からなる成形物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、透明性、低複屈折性、機械強度、耐熱性等に優れるため、樹脂レンズやプリズム、導光板などの光学部品として利用できる。その他に偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルムや光拡散板、光カード、液晶表示素子基板等も挙げることができる。
【実施例】
【0054】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
<光学物性改質添加剤の合成>
<添加剤1の合成>
フェニルトリメトキシシラン(PhSi(OCH)を1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解した後(SiO換算として8重量%)、所定量(HO/Si=1.1(モル比))の0.5M塩酸を滴下し30分室温で攪拌した。Zr(OBuの1−メトキシ−2−プロパノール溶液(MOz/2換算として6重量%)に前記アルコキシトリアルコキシシランの加水分解物を添加した(初期Zr/Si=2(モル比))。1時間室温で攪拌した後、さらに60℃で1時間加熱攪拌した。得られた反応液に所定量のZr(OBu加えた(最終Zr/Si=1(モル比))後、イオン交換蒸留水を所定量滴下した(HO/Zr=2(モル比))。室温で30分攪拌した後、60℃で1時間加熱攪拌する事で光学物性改質添加剤を作成した。親溶剤としてトルエンを選定することにより透明な溶液となった。
【0056】
フェニルトリメトキシシランとZr(On−Bu)の反応物及び光学物性改質添加剤の29Si−NMRと赤外吸収スペクトルを測定し、Ph−Si−O−Zr構造の形成を確認した。また、光学物性改質添加剤の赤外吸収スペクトルより、Zr−O−Zrユニットの形成も確認された。各実施例での光学物性改質添加剤の動的光散乱法により粒径を測定した(測定は、親溶剤中で行った)。また、全ての実施例において50℃で減圧下において溶剤を除去した後、親溶剤中への再溶解性と粒径に変化がない事を確認した。以上の結果より、目的とするフェニル基が最表面に存在しPh−Si−O−Zr構造を有し、中心にZrを含む酸化物成分が存在する5nm以下の粒径の光学物性改質添加剤の形成が確認された。
【0057】
また光散乱に基づく粒度分布測定の結果から、合成した添加剤1の平均粒子径は3.2nmであり、溶剤(トルエン)に対する再溶解性も確認された。
【0058】
<添加剤2の合成>
シクロヘキシルトリメトキシシラン(C13Si(OCH)を1−メトキシ−2−プロパノール中に溶解した後(SiO換算として8重量%)、所定量(HO/Si=1.1(モル比))の0.5M塩酸を滴下し30分室温で攪拌した。Al(Os−Bu)の1−メトキシ−2−プロパノール溶液(MOz/2換算として6重量%)に前記アルコキシトリアルコキシシランの加水分解物を添加した(初期Zr/Si=2(モル比))。1時間室温で攪拌した後、さらに60℃で1時間加熱攪拌した。得られた反応液に所定量のZr(OBu加えた(最終Zr/Si=1(モル比))後、イオン交換蒸留水を所定量滴下した(HO/Zr=1.5(モル比))。室温で30分攪拌した後、60℃で1時間加熱攪拌する事で光学物性改質添加剤を作成した。親溶剤としてトルエンを選定することにより透明な溶液となった。
【0059】
シクロヘキシルトリメトキシシランとAl(Os−Bu)の反応物及び光学物性改質添加剤の29Si−NMRと赤外吸収スペクトルを測定し、C13−Si−O−Al構造の形成を確認した。また、光学物性改質添加剤の赤外吸収スペクトルより、Al−O−Alユニットの形成も確認された。各実施例での光学物性改質添加剤の動的光散乱法により粒径を測定した(測定は、親溶剤中で行った)。また、全ての実施例において50℃で減圧下において溶剤を除去した後、親溶剤中への再溶解性と粒径に変化がない事を確認した。以上の結果より、目的とするフェニル基が最表面に存在しC13−Si−O−Al構造を有し、中心にAlを含む酸化物成分が存在する5nm以下の粒径の光学物性改質添加剤の形成が確認された。
【0060】
また光散乱に基づく粒度分布測定の結果から、合成した添加剤2の平均粒子径は2.4nmであり、溶剤(トルエン)に対する再溶解性も確認された。
【0061】
合成条件および得られた光学物性改質添加剤の特性を表1にまとめる。
【表1】

【0062】
<粒子状マスターバッチの作成>
溶剤を除去して回収した光学物性改質添加剤を5g秤量し、密閉したナスフラスコ内で所定の溶剤95gに溶解させた。溶解を促進するために超音波処理を施した。溶液が透明になったことを確認した後、所定の光学樹脂ペレット5gをさらに加え、超音波処理を施しつつ均一に溶解させた。得られた光学物性改質添加剤と光学樹脂とを含む溶液を、液化窒素にて凍結させた後、ロータリーポンプで減圧し凍結乾燥を行なった。溶媒除去が完了した後、ナスフラスコ中には光学物性改質添加剤と光学樹脂とが均一に混合してなるスポンジ状(多孔)の乾燥サンプルが得られた。かかる乾燥サンプルをナスフラスコから取り出し、凍結粉砕することで本発明の粒子状マスターバッチを得た。
【0063】
<光学樹脂組成物の作成>
乾燥状態で保存した粒子状マスターバッチと当該マスターバッチの作成時に用いた光学樹脂と同種または当該光学樹脂と相溶性を有する光学樹脂とが所定の重量分率(無機酸化物換算)で配合されるように、熱溶融混練を行なうことにより光学樹脂組成物が得られる。熱溶融混練には、小型セグメントミキサKF15V(ミキサ容量15cc)を装着したラボプラストミル4M150(東洋精機製作所製)を用い、所定の条件で行なった。なお、粒子状マスターバッチと光学樹脂との混合はドライブレンドで行ない、両者の相溶を促進するための加工助剤(溶媒や分散剤等)は何ら用いていない。
【0064】
<光学樹脂組成物の成形>
熱溶融混練を経て得られた光学樹脂組成物は、所定の条件下にホットプレス法によって、直径30mm、厚さ1mmの円板状に成形し、後述の物性評価に供した。
【0065】
(成形品の性能評価)
<光線透過率の測定>
直径30mm、厚さ1mmの円板状に成形された光学樹脂組成物について、厚さ方向(1mm厚)に対する波長487nmにおける透過率(%)を測定した。測定には島津製作所製 紫外・可視・近赤外分光光度計 UV−3600を用いた。
【0066】
<屈折率の測定>
厚さ2mm、長さ30mm、幅8mmの板状に成形された光学樹脂組成物について、JIS K−7142に従って、屈折率測定を行った。接触液としてはヨウ化メチレンを用い、アタゴ社製 多波長アッベ屈折計DR−M2による487nmにおける屈折率を測定した。
【0067】
〔実施例1〕
添加剤1として合成した光学物性改質添加剤に対して光学樹脂としてポリスチレン樹脂(PSジャパン社製 SX−100)を用いて、前掲の手順に従ってポリスチレンで処理された粒子状マスターバッチの作成を行なった。溶媒にはジオキサン(ナカライテスク社製 試薬特級)を用いた。
引き続いて、当該粒子状マスターバッチのパウダーとポリスチレン樹脂SX−100のペレットが5(ZrO2換算)/95(wt/wt)になるように予めドライブレンドした後に、ラボプラストミルによる熱溶融混練を行なった。混練温度は200℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は202℃、トルクは20Nmであり、ポリマーに対する負荷の小さい条件であった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度230℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0068】
〔実施例2〕
添加剤2として合成した光学物性改質添加剤に対して光学樹脂としてポリカーボネート樹脂(帝人化成社製 パンライトAD−5503)を用いて、前掲の手順に従ってポリカーボネートで処理された粒子状マスターバッチの作成を行なった。溶媒にはジオキサン(ナカライテスク社製 試薬特級)を用いた。
引き続いて、当該粒子状マスターバッチのパウダーとポリカーボネート樹脂AD−5503のペレットが5(Al2O3換算)/95(wt/wt)になるように予めドライブレンドした後に、ラボプラストミルによる熱溶融混練を行なった。混練温度は250℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は255℃、トルクは40Nmであり、ポリマーに対する負荷の小さい条件であった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度270℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0069】
〔比較例1〕
ポリスチレン樹脂SX−100のペレットのみをラボプラストミルに投入し熱溶融混練履歴を与えた。混練温度は200℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は201℃、トルクは18Nmであった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度230℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0070】
〔比較例2〕
ポリカーボネート樹脂AD−5503のペレットのみをラボプラストミルに投入し熱溶融混練履歴を与えた。混練温度は250℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は252℃、トルクは39Nmであった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度270℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0071】
〔比較例3〕
添加剤1として合成した光学物性改質添加剤を直接ポリスチレン樹脂SX−100のペレットと5(ZrO2換算)/95(wt/wt)になるようにドライブレンドした後に、ラボプラストミルによる熱溶融混練を行なった。混練温度は200℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は201℃、トルクは20Nmであり、ポリマーに対する負荷の小さい条件であった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度230℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0072】
〔比較例4〕
添加剤2として合成した光学物性改質添加剤を直接ポリカーボネート樹脂AD−5503のペレットと5(Al2O3換算)/95(wt/wt)になるようにドライブレンドした後に、ラボプラストミルによる熱溶融混練を行なった。混練温度は250℃、回転数60rpmで1分間の混練を行なった。混練時の樹脂温度は253℃、トルクは40Nmであり、ポリマーに対する負荷の小さい条件であった。光線透過率測定および屈折率測定に供する成形品の作成は、成形温度270℃、プレス圧20MPaの条件下で行なった。
【0073】
実施例1〜2および比較例1〜4で得られた樹脂組成物の組成および評価結果をまとめて表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2より、実施例1および2において、光線透過率の値は光学物性改質添加剤を加えない光学樹脂と比べてほとんど低下していなことから、十分な透明性を有した。また屈折率に向上が見られたことから、光学物性改質添加剤を配合することによる光学特性改善効果が得られたことが分る。一方、比較例3および4において、光線透過率の値は光学物性改質添加剤を加えない光学樹脂と比べて大幅に低下し、不透明な成形品であった。これらの結果から、光学物性改質添加剤の光学樹脂への均一分散には粒子状マスターバッチを作成する本発明の有効性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の光学樹脂組成物の製造方法は、各種の従来樹脂材料に光学物性改質添加剤を添加する事により、本来発現不可能な光学特性、例えば、高屈折率と高アッベ数の両立、複屈折の低減等の光学機能をその透明性を損なう事なく付与可能であり、光学樹脂関連分野への産業上の利用が可能である。
本発明の光学樹脂組成物の製造方法は、赤外線から青色の光までに対応できる光学素子、特にレンズ等に適用可能であり、光学特性をはじめとする諸特性を阻害することなくレンズ、プリズム、位相素子などの光学素子、更にはこれらを用いた光学デバイスを形成でき、新たな光学デバイスを用いた関連産業に幅広く適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物が含まれる光学樹脂組成物の製造方法において、R−Si−O−M(Rは、鎖状、環式もしくは脂環式アルキル基、フェニル基、フェニル基を含むアルキル基、または、ビニル基、エポキシ基等の反応性官能基を含むアルキル基であり、Mは金属元素である)で表される構造を含み、粒径が10nm以下の粒子である光学物性改質添加剤を含む溶液に重合性モノマー、重合性オリゴマーおよび樹脂材料のいずれかの1以上を溶解した後、溶媒を除去する乾燥工程を経た後、乾燥物を粉砕して粒子状マスターバッチを作成する工程、当該粒子状マスターバッチを熱可塑性光学樹脂と熱溶融混合する工程を経ることを特徴とする実質的に透明性を有する光学樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の光学物性改質添加剤に於いて、MがAl、Ga、Ti、Zr、Nb、Ta、Ge、Sn、Znより選ばれる1種又は1種以上の元素の組合せであることを特徴とする光学樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の光学物性改質添加剤が、金属酸化物換算(前記Mの酸化物換算)で0.1から25重量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の光学樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−38012(P2011−38012A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187462(P2009−187462)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】