説明

光学活性なα−ヒドロキシホスホン酸及びその誘導体の製造方法、光学活性アルミニウム(サラレン)錯体及びその製造方法、並びにサラレン配位子の製造方法

【課題】芳香族アルデヒドのみならず脂肪族アルデヒドに対しても十分に高いエナンチオ選択性で光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸及びその誘導体を生成させることが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として使用し、アルデヒドをホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化することにより光学活性なα−ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を製造することができる。また、かかる製造方法の触媒として有効な新規光学活性アルミニウム(サラレン)錯体及びその製造方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸及びその誘導体の製造方法、該製造方法の触媒として好適な光学活性アルミニウム(サラレン)錯体及びその製造方法、並びに該錯体の製造に用いることができるサラレン配位子の製造方法に関し、より詳しくは、特定構造の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として用いて、アルデヒドをホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化して、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年の間、光学活性錯体による不斉触媒反応が合成化学の分野において主要な課題となっており、該光学活性錯体を構成する種々のキラルな配位子が開発されてきた。かかる配位子の中でも、四座配位子は、錯形成能が高いため広く用いられている。特に、四座配位子の中でも、サレン配位子は、不斉誘起能が高く且つ入手が容易であるため、大きな注目を集めている。例えば、キラルなメタロサレン錯体は、不斉触媒活性が高く且つ種々の不斉反応に対し触媒活性を示すことから、エポキシ化、アジリジン化、スルホキシド化、マイケル反応、エポキシの開環反応等の様々な不斉反応の触媒として用いられている。ここで、たいていのサレン錯体は、2つの補助配位子がトランス配向した八面体配置を採っている。しかしながら、最近の研究で、シス-β異性体が特異な触媒能を示すことが明らかになってきた。例えば、キラルなシス-βサレン配位子を有するジ-μ-オキソTi(サレン)錯体は、不斉シアノ化反応に対して高いエナンチオ選択性を示す。また、ジ-μ-オキソTi(サレン)錯体は、不斉スルホキシド化の活性種として働くことが知られている。また、Kolらは、極最近、アキラルなハイブリッド・サラン/サレン [ONN(Me)O]-タイプの四座配位子(以下、サラレン配位子と呼ぶ)をチタンテトラエトキシド及びジルコニウムテトラエトキシドで処理することで、対応する八面体構造のTi(サラレン)(OEt)2錯体及びZr(サラレン)(OEt)2錯体がそれぞれ生成し、該錯体においては、ジアステレオトピックなエトキシ基がシス配向しており、従来のサレン錯体と異なりエチレン炭素ばかりでなく金属イオンにより近い配位アミノ-窒素原子がキラルであることを報告している(非特許文献1参照)。
【0003】
ところで、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸エステル及びホスホン酸は、医薬品用途で広く用いられている生理活性化合物であり、該光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸エステル及びホスホン酸を効率よく製造するために、カルボニル化合物の不斉ヒドロホスホニル化反応(Pudovik反応)の開発に多大な労力が払われている。そして、現在、該不斉ヒドロホスホニル化反応に対して最も有効な触媒は、柴崎らが開発したランタントリス(ビナフトキシド)錯体及びアルミニウムトリス(ビナフトキシド)錯体である(非特許文献2及び3参照)。しかしながら、ランタントリス(ビナフトキシド)錯体及びアルミニウムトリス(ビナフトキシド)錯体は、芳香族アルデヒドに対しては十分なエナンチオ選択性を示すものの、脂肪族アルデヒドに対してはエナンチオ選択性が低いという問題がある。また、最近、Keeらは、キラルなAl(サレン)錯体が不斉ヒドロホスホニル化反応に対して触媒作用を示すことを報告しているが、そのエナンチオ選択性は49%ee程度と低く(非特許文献4〜6参照)、更なる改善が求められている。
【0004】
【非特許文献1】A. Yeori, S. Gendler, S. Groysman, I. Goldberg, M. Kol, Inorg. Chem. Commun., 2004, 7, 280-282
【非特許文献2】T. Arai, M. Bougauchi, H. Sasai, M. Shibasaki, J. Org. Chem., 1996, 61, 2926-2927
【非特許文献3】H. Sasai, M. Bougauchi, T. Arai, M. Shibasaki, Tetrahedron Lett., 1997, 38, 2717-2720
【非特許文献4】J. P. Duxbury, A. Cawley, M. Thornton-Pett, L. Wantz, J. N. D. Warne, R. Greatrex, D. Brown, T. P. Kee, Tetrahedron Lett., 1999, 40, 4403-4406
【非特許文献5】C. V. Ward, M. Jiang, T. P. Kee, Tetrahedron Lett., 2000, 41, 6181-6184
【非特許文献6】J. P. Duxbury, J. N. D. Warne, R. Mushtaq, C. Ward, M. Thornton-Pett, M. Jiang, R. Greatrex, T. P. Kee, Organometallics, 2000, 19, 4445-4457
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、芳香族アルデヒドのみならず、脂肪族アルデヒドに対しても、十分に高いエナンチオ選択性で光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸及びその誘導体を生成させることが可能な製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる製造方法の触媒として有効な新規錯体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定構造の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として用いて、アルデヒドをホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化することで、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を高エナンチオ選択的に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、
下記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II'):
【化1】


[式中、R1は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり;R2は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり;R3は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基で、2つのR3は、互いに結合して環を形成してもよく;R4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基であり;R5は、アルキル基であり;X1は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である]のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として使用し、
下記式(III):
【化2】


[式中、R6は、一価の基である]で表されるアルデヒドを、
下記式(IV):
【化3】


[式中、R7は、それぞれ独立して水素原子又は一価の基である]で表されるホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化して、
下記式(V):
【化4】


[式中、R6及びR7は、上記と同義である]で表される光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を製造することを特徴とする。
【0008】
本発明の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法の好適例においては、前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成している。また、触媒として使用する光学活性アルミニウム(サラレン)錯体としては、上記式(I)又は式(I')で表される錯体が好ましく、該式中のR1及びR2はt-ブチル基であることが更に好ましい。更に、上記式中のR5は、メチル基であることが好ましい。
【0009】
本発明の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法の他の好適例においては、前記式(III)中のR6が一価の炭化水素基である。この場合、生成物の鏡像体過剰率を向上させることができる。
【0010】
本発明の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法の他の好適例においては、前記式(IV)中のR7がアルキル基又はアリール基である。この場合、生成物の鏡像体過剰率を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体は、前記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表されることを特徴とする。
【0012】
本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の好適例においては、前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成している。また、本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体としては、前記式(I)又は式(I')で表される錯体が好ましく、該式中のR1及びR2はt-ブチル基であることが更に好ましい。更に、上記式中のR5は、メチル基であることが好ましい。
【0013】
更に、本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法は、
下記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII'):
【化5】


[式中、R1、R2、R3、R4及びR5は、上記と同義である]のいずれかで表されるサラレン配位子と、
下記式(VIII-a)又は式(VIII-b):
82AlX1 ・・・ (VIII-a)
83Al ・・・ (VIII-b)
[式中、R8は、それぞれ独立してアルキル基であり;X1は、上記と同義である]で表されるアルミニウム化合物とを反応させて、
前記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法の好適例においては、前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成している。また、前記サラレン配位子が前記式(VI)又は式(VI')で表され、前記光学活性アルミニウム(サラレン)錯体が前記式(I)又は式(I')で表されることが好ましく、該式中のR1及びR2はt-ブチル基であることが好ましい。更に、上記式中のR5は、メチル基であることが好ましい。
【0015】
また更に、本発明のサラレン配位子は、前記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されることを特徴とする。
【0016】
本発明のサラレン配位子の好適例においては、前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成している。また、本発明のサラレン配位子としては、前記式(VI)又は式(VI')で表されるサラレン配位子が好ましく、該式中のR1及びR2はt-ブチル基であることが更に好ましい。更に、上記式中のR5は、メチル基であることが更に好ましい。
【0017】
更にまた、本発明のサラレン配位子の製造方法は、
(i)下記式(IX)及び式(X):
【化6】


[式中、R1、R2及びR4は、上記と同義である]のいずれかで表されるアルデヒドを、
下記式(XI)及び式(XI'):
【化7】


[式中、R3は、上記と同義であり、X2は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である]のいずれかで表されるジアミンのモノアンモニウム塩と還元剤とで還元アミノ化して、
下記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII'):
【化8】


[式中、R1、R2、R3及びR4は、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(ii)前記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII')のいずれかで表される化合物のアミノ基を保護基で保護して、
下記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV'):
【化9】


[式中、R1、R2、R3及びR4は、上記と同義であり、Aは保護基である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(iii)前記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV')のいずれかで表される化合物をN-アルキル化して、
下記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII'):
【化10】


[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びAは、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(iv)前記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII')のいずれかで表される化合物の保護基を脱保護して、
下記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX'):
【化11】


[式中、R1、R2、R3、R4及びR5は、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(v)前記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX')のいずれかで表される化合物を、前記式(IX)及び式(X)のいずれかで表されるアルデヒドと縮合させ、前記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子を生成させる工程と
を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明のサラレン配位子の製造方法の好適例においては、前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成している。また、生成させるサラレン配位子としては、前記式(VI)又は式(VI')で表されるサラレン配位子が好ましく、該式中のR1及びR2はt-ブチル基であることが更に好ましい。更に、前記(iii)工程のN-アルキル化がN-メチル化であって、前記式中のR5がメチル基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定構造の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として用いて、アルデヒドをホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化することで、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を高エナンチオ選択的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明で触媒として用いる光学活性アルミニウム(サラレン)錯体は、上記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表される。ここで、式(I')の錯体は、式(I)の錯体の鏡像異性体であり、式(II')の錯体は、式(II)の錯体の鏡像異性体であり、出発物質の立体配置を選択することで、同様にして合成することができる。これらの中でも、式(I)又は式(I')で表される錯体が好ましい。上記錯体の使用量は、後述する基質のアルデヒドのモル量に対し、0.01〜100mol%の範囲が好ましく、0.1〜10mol%の範囲が更に好ましい。
【0021】
上記アルミニウム(サラレン)錯体は、X線構造解析の結果によると(図1に本発明のアルミニウム(サラレン)錯体の一例のX線構造解析の結果を示す)、歪んだ三角両錐型の配置を採っており、従来知られているアルミニウム(サレン)錯体とは構造が異なる。該錯体中のN-アルキル基(即ち、R5)は、X1に対してシンに配向している。そして、該X1は、上記アルミニウム(サラレン)錯体がルイス酸触媒として作用する際には、基質によって置換される。そのため、上記アルミニウム(サラレン)錯体は、キラルなルイス酸触媒として優れているものと考えられる。そして、該アルミニウム(サラレン)錯体をアルデヒドの不斉ヒドロホスホニル化反応の触媒として用いることで、α-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を高エナンチオ選択的に製造することができる。
【0022】
上記式中のR1は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-エチル-1-メチル-プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、一方、アリール基としては、フェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ビフェニル基、2-フェニル-1-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基、2-[3,5-ジメチルフェニル]-1-ナフチル基、2-[4-メチルフェニル]-1-ナフチル基、2-メトキシ-1-ナフチル基、2-[p-(t-ブチルジメチルシリル)フェニル]-1-ナフチル基、2-ビフェニリル-1-ナフチル基等の炭素数6〜22のアリール基が挙げられる。なお、上記アリール基は、光学活性であっても、光学不活性であってもよい。ここで、R1としては、t-ブチル基が好ましい。
【0023】
また、上記式中のR2は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1-エチル-1-メチル-プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、一方、アリール基としては、フェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ビフェニル基、2-フェニル-1-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基、2-[3,5-ジメチルフェニル]-1-ナフチル基、2-[4-メチルフェニル]-1-ナフチル基、2-メトキシ-1-ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。ここで、R2としては、t-ブチル基が好ましい。
【0024】
更に、上記式中のR3は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基で、2つのR3は、互いに結合して環を形成してもよい。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、一方、アリール基としては、フェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ビフェニル基、2-フェニル-1-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基、2-[3,5-ジメチルフェニル]-1-ナフチル基、2-[4-メチルフェニル]-1-ナフチル基、2-メトキシ-1-ナフチル基等の炭素数6〜18のアリール基が挙げられる。また、2つのR3が互いに結合して環を形成する場合に、形成される二価の基としては、テトラメチレン基等が挙げられる。これらの中でも、2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることが好ましい。
【0025】
また更に、上記式中のR4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基である。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。これらの中でも、R4としては、水素原子が特に好ましい。
【0026】
更にまた、上記式中のR5は、アルキル基であり、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、メチル基が好ましい。
【0027】
また、上記式中のX1は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基であり、上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。これらの中でも、X1としては、塩素原子が好ましい。
【0028】
上記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体は、例えば、上記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子と上記式(VIII-a)又は式(VIII-b)で表されるアルミニウム化合物とを反応させることで製造することができる。ここで、式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')中のR1、R2、R3、R4及びR5、並びに式(VIII-a)及び式(VIII-b)中のX1は、上述の通りであり、式(VIII-a)及び式(VIII-b)中のR8は、それぞれ独立してアルキル基である。式(VIII-a)及び式(VIII-b)中のR8におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、これらの中でも、エチル基が特に好ましい。また、式(VIII-a)又は式(VIII-b)のアルミニウム化合物の使用量は、上記サラレン配位子のモル量に対し、100〜200mol%の範囲が好ましい。なお、上記反応は、例えば、トルエン等の有機溶媒中、0℃〜室温で実施することが好ましい。
【0029】
本発明の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法では、式(VI)のサラレン配位子を用いることで式(I)の錯体を製造することができ、式(VI')のサラレン配位子を用いることで式(I')の錯体を製造することができ、式(VII)のサラレン配位子を用いることで式(II)の錯体を製造することができ、式(VII')のサラレン配位子を用いることで式(II')の錯体を製造することができる。
【0030】
上記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子は、例えば、以下の5つの工程を経て製造することができる。
【0031】
まず、(i)工程で、上記式(IX)及び式(X)のいずれかで表されるアルデヒドを上記式(XI)及び式(XI')のいずれかで表されるジアミンのモノアンモニウム塩と還元剤で還元アミノ化して、上記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII')のいずれかで表される化合物を生成させる。ここで、式(IX)及び式(X)中のR1、R2及びR4、式(XI)及び式(XI')中のR3、式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII')中のR1、R2、R3及びR4は、上述の通りであり、式(XI)及び式(XI')中のX2は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基であり、上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられ、上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。これらの中でも、X2としては、塩素原子が好ましい。上記(i)工程は、例えば、NaBH4等の還元剤の存在下、メタノール等の溶媒中、0℃〜室温で実施することが好ましい。また、式(XI)又は式(XI')のジアミンのモノアンモニウム塩及び還元剤の使用量は、上記式(IX)又は式(X)のアルデヒドのモル量に対し、100〜200mol%の範囲が好ましい。
【0032】
次に、(ii)工程で、上記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII')のいずれかで表される化合物のアミノ基を保護基で保護して、上記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV')のいずれかで表される化合物を生成させる。ここで、式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV')中のR1、R2、R3及びR4は、上述の通りであり、Aは保護基である。該保護基としては、t-ブトキシカルボニル(Boc)基、ベンジルオキシカルボニル基、t-アミルオキシカルボニル基等が挙げられ、これらの中でも、t-ブトキシカルボニル(Boc)基が好ましい。なお、保護基の導入に使用する保護試薬としては、特に制限はなく、公知の保護試薬を使用することができる。上記(ii)工程は、例えば、エタノール等の溶媒中、室温で実施することが好ましい。また、保護試薬の使用量は、上記式(XII)、式(XII')、式(XIII)又は式(XIII')の化合物のモル量に対し、100〜200mol%の範囲が好ましい。
【0033】
次に、(iii)工程で、上記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV')のいずれかで表される化合物をN-アルキル化して、上記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII')のいずれかで表される化合物を生成させる。ここで、式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII')中のR1、R2、R3、R4、R5及びAは、上述の通りである。上記(iii)工程は、例えば、N-メチル化の場合、ホルムアルデヒド水溶液、Pd/C、H2を用いてメタノール等の溶媒中、室温で実施することが好ましい。また、ホルムアルデヒド等のN-アルキル化に用いる試薬の使用量は、上記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)又は式(XV')の化合物のモル量に対し、100〜200mol%の範囲が好ましい。
【0034】
次に、(iv)工程で、上記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII')のいずれかで表される化合物の保護基を脱保護して、上記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX')のいずれかで表される化合物を生成させる。ここで、式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX')中のR1、R2、R3、R4及びR5は、上述の通りである。上記(iv)工程は、例えば、塩酸等の酸中、室温で行うことが好ましい。
【0035】
最後に、(v)工程で、上記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX')のいずれかで表される化合物を、上記式(IX)及び式(X)のいずれかで表されるアルデヒドと縮合させ、上記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子を生成させる。上記(v)工程は、例えば、メタノール等の溶媒中、室温で行うことが好ましい。また、式(IX)又は式(X)のアルデヒドの使用量は、上記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)又は式(XIX')の化合物のモル量に対し、100〜200mol%の範囲が好ましい。
【0036】
本発明のサラレン配位子の製造方法においては、式(IX)のアルデヒド及び式(XI)のジアミンのモノアンモニウム塩を出発物質とすることで、式(VI)のサラレン配位子を製造することができ、式(IX)のアルデヒド及び式(XI')のジアミンのモノアンモニウム塩を出発物質とすることで、式(VI')のサラレン配位子を製造することができ、式(X)のアルデヒド及び式(XI)のジアミンのモノアンモニウム塩を出発物質とすることで、式(VII)のサラレン配位子を製造することができ、式(X)のアルデヒド及び式(XI')のジアミンのモノアンモニウム塩を出発物質とすることで、式(VII')のサラレン配位子を製造することができる。
【0037】
本発明の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法においては、原料として、上記式(III)で表されるアルデヒドと、上記式(IV)で表されるホスホン酸又はその誘導体を用い、上記式(V)で表される光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を生成させる。この反応では、アルデヒドのカルボニルの炭素がホスホニル化され、カルボニルの酸素に水素が付加する。
【0038】
上記式(III)中のR6は、一価の基であり、該一価の基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アリールアルケニル基等の一価の炭化水素基が挙げられ、これら一価の炭化水素基中の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イコシル基、ドコシル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられ、アリールアルケニル基としては、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。また、上記一価の炭化水素基の置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基等が挙げられ、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
【0039】
上記式(IV)中のR7は、水素原子又は一価の基であり、2つのR7は、同一でも、異なってもよい。ここで、式(IV)中のR7における一価の基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アリールアルケニル基等の一価の炭化水素基が挙げられ、これら一価の炭化水素基中の水素原子は、置換基で置換されていてもよい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イコシル基、ドコシル基等が挙げられ、アリール基としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、ビフェニリル基等が挙げられ、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられ、アリールアルケニル基としては、スチリル基、シンナミル基等が挙げられる。また、上記一価の炭化水素基の置換基としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基等が挙げられ、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。これらの中でも、式(IV)のR7としては、アルキル基及びアリール基が好ましく、メチル基が特に好ましい。なお、2つのR7が水素の場合、式(IV)の化合物はホスホン酸であり、2つのR7の1つが水素で他の1つが一価の基の場合、式(IV)の化合物はホスホン酸モノエステルであり、2つのR7の両方が一価の基の場合、式(IV)の化合物はホスホン酸ジエステルである。また、上記式(IV)で表されるホスホン酸又はその誘導体の使用量は、上記式(III)で表されるアルデヒドに対し1〜10当量(eq)の範囲が好ましく、1〜1.2当量(eq)の範囲が更に好ましい。
【0040】
また、上記式(V)中、R6及びR7は、上述の通りであり、2つのR7が水素の場合、式(V)の化合物はα-ヒドロキシホスホン酸であり、2つのR7の1つが水素で他の1つが一価の基の場合、式(V)の化合物はα-ヒドロキシホスホン酸モノエステルであり、2つのR7の両方が一価の基の場合、式(V)の化合物はα-ヒドロキシホスホン酸ジエステルである。該式(V)のα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体は、生理活性を有し、酵素阻害剤等として利用することができる。
【0041】
本発明のα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、一般に有機溶媒中で行う。該有機溶媒としては、非プロトン性の有機溶媒が好ましく、具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテエル(Et2O)、ジイソプロピルエーテル(iPr2O)等のエーテルが挙げられる。
【0042】
本発明のα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、特に限定されるものではないが、-15℃〜室温で実施することが好ましく、-15℃〜0℃で実施することが更に好ましい。反応温度が高過ぎても低過ぎても、生成物の鏡像体過剰率が低下してしまう。また、反応時間は特に限定されず、上記反応温度に合わせて適宜選択される。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(配位子合成例1)
上記式(XI)で表され、式中のX2が塩素原子で、2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成しているモノアンモニウム塩(3.40g, 22.56mmol)と、上記式(IX)で表され、式中のR1及びR2がt-ブチル基で、R4が水素原子であるアルデヒド(5.034g, 21.48mmol)とを脱水したメタノール(100ml)に室温で溶解させ3時間攪拌する。次に該溶液にNaBH4(2.03g, 53.7mmol)を0℃で加え、室温で2時間攪拌し、水を加えてクエンチし、ジエチルエーテルで抽出する。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、その後濃縮した。窒素雰囲気下、得られた残渣とジ‐t‐ブチル‐ジ‐カルボナート(5.45ml, 23.60mmol)をエタノール(100ml)に室温で溶解させた後、約1時間攪拌し、該溶液を濃縮する。得られた残渣をシリカゲルでクロマトグラフ分離(ヘキサン:酢酸エチル=9:1‐17:3)したところ、上記式(XIV)で表され、式中のR1及びR2がt-ブチル基で、2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成しており、R4が水素原子で、Aがt-ブトキシカルボニル(Boc)基である化合物(6.24g, 収率67%)を得た。得られた化合物のIR測定(KBr法)の結果は、3317, 2955, 2862, 1701, 1510, 1481, 1454, 1390, 1364, 1317, 1236, 1171, 1107, 1016, 872cm-1である。
【0045】
次に、上記のようにして得られた化合物(5.626g, 13.01mmol)とホルムアルデヒド水溶液(1.23ml, 16.27mmol)とを室温でメタノール(80ml)に溶解させた。該溶液に10% Pd/C(1.03g)を加え、水素雰囲気下、約5時間攪拌した後、セライトパット上にてろ過し、ろ液を減圧下で濃縮した。その後、得られた残渣にメタノール(30ml)と3Mの塩酸(30ml)を加え室温で約34時間攪拌した後、3Mの水酸化ナトリウム水溶液(35ml)を加え、ジエチルエーテルで抽出を行った。抽出液を無水水酸化ナトリウム上で乾燥した後、濃縮した。得られた残渣と、上記式(IX)で表され、式中のR1及びR2がt-ブチル基で、R4が水素原子であるアルデヒド(3.042g, 13.01mmol)とを室温でメタノール(約100ml)に溶解させ、約5時間攪拌した。生じた沈殿をろ取し、メタノールで洗浄した後、50℃で3時間真空乾燥することにより、下記式(XX):
【化12】


で表される化合物(5.54g, 収率76%)を得た。得られた化合物の元素分析結果は、C:78.94、H:10.40、N:4.92でありC375822の計算値(C:78.95、H:10.39、N:4.98)と一致していた。
【0046】
(錯体合成例1)
上記式(XX)で表される化合物(453.4mg, 0.806mmol)とEt2AlClのヘキサン溶液(875.6μl, 0.806mmol)をトルエン(10ml)に0℃で溶解させ、該溶液を0℃で1時間撹拌した後、室温で18時間撹拌し、減圧下溶媒を留去した。その後、得られた残渣にヘキサンを加え、生じた沈殿をグラスフィルターでろ取し、ヘキサンで洗浄した。ろ取した沈殿を50℃で3時間真空乾燥することにより、下記式(XXI):
【化13】


で表される化合物(467.6mg, 収率93%)を得た。得られた化合物の元素分析の結果は、C:71.30、H:9.03,N:4.53であり、C375622ClAlの計算値(C:71.35、H:9.06,N:4.49)と一致していた。また、得られた錯体をヘプタン/ジクロロメタンから再結晶したところ、単一の結晶が得られた。得られた結晶のX線構造解析の結果を図1に示す。
【0047】
(実施例1)
窒素雰囲気下で、上記式(XXI)で表される錯体(12.5mg, 0.02mmol)及びホスホン酸ジメチル(10μl, 0.21mmol)をTHF(0.5mL)に溶解させ、室温で10分間撹拌した。次に、室温でベンズアルデヒド(0.20mmol)を加え、更に24時間撹拌した。その後、1Mの塩酸で反応を終了させ、1mLの酢酸エチルで3回抽出した。得られた有機相をセライトパッド及び硫酸ナトリウムに通し、更に、減圧下で溶媒を留去した。その後、得られた残渣をヘキサン/アセトン(7/3〜3/7)混合液を用いてシリカゲルでクロマトグラフ分離し、対応するα-ヒドロキシホスホン酸エステルを得た(収率92%)。また、得られたα-ヒドロキシホスホン酸ジエステルの鏡像体過剰率を、キラル固定相カラム(ダイセル・キラルパックAS-H)及びヘキサン/イソプロパノール(4/1)混合液を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析したところ、73%eeであった。
【0048】
(実施例2〜9)
使用したホスホン酸ジエステル及び溶媒の種類、反応温度及び反応時間を表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様にしてベンズアルデヒドのヒドロホスホニル化反応を行い、対応するα-ヒドロキシホスホン酸ジエステルをそれぞれ製造した。また、実施例1と同様にして収率及び鏡像体過剰率を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、本発明の光学活性α-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、種々のホスホン酸誘導体を用いて実施できることが分る。なお、実施例1〜3の結果から、種々のホスホン酸誘導体の中でも、ホスホン酸ジアルキルが好ましく、また、ホスホン酸ジメチルが特に好ましいことが分る。また、本発明の光学活性α-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、種々の有機溶媒中で実施できることが分る。更に、本発明の光学活性α-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、低温で実施した方が、ヒドロホスホニル化反応のエナンチオ選択性を向上させることができ、0〜-15℃の範囲が好ましいことが分る。
【0051】
(実施例10〜17)
溶媒としてTHFを用い、反応温度-15℃、反応時間48時間で、表2に示す種類のアルデヒドを用いる以外は、実施例1と同様にして、各アルデヒドのヒドロホスホニル化反応を行い、対応するα-ヒドロキシホスホン酸ジエステルをそれぞれ製造した。また、実施例1と同様にして収率及び鏡像体過剰率を測定した。なお、実施例10〜15では、鏡像体過剰率の測定に、ダイセル・キラルパックAS-H及びヘキサン/イソプロパノール(7/3)混合液を用い、実施例16及び17では、ダイセル・キラルパックAS-H及びヘキサン/イソプロパノール(9/1)混合液を用いた。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から明らかなように、本発明の光学活性α-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法は、芳香族アルデヒドのみならず、脂肪族アルデヒドを用いた場合においても、生成物の鏡像体過剰率が高いことが分る。また、実施例10〜12の結果から、p-置換ベンズアルデヒドにおいて、p-位の置換基の電子吸引性が高い方が、生成物の鏡像体過剰率が高いことが分る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法は、アルデヒドをホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化して、光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体を製造するのに非常に有用である。また、本発明の錯体は、該製造方法の触媒として非常に有用である。更に、本発明の製造方法で得られる光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体は、特異な生理活性を有しており、酵素阻害剤等の医薬品又はその中間体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】式(XXI)で表されるアルミニウム(サラレン)錯体をヘプタン/ジクロロメタンから再結晶化して得た結晶のX線構造解析の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II'):
【化1】


[式中、R1は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり;R2は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり;R3は、それぞれ独立してアルキル基又はアリール基で、2つのR3は、互いに結合して環を形成してもよく;R4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基又はシアノ基であり;R5は、アルキル基であり;X1は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である]のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体を触媒として使用し、
下記式(III):
【化2】


[式中、R6は、一価の基である]で表されるアルデヒドを、
下記式(IV):
【化3】


[式中、R7は、それぞれ独立して水素原子又は一価の基である]で表されるホスホン酸又はその誘導体で不斉ヒドロホスホニル化することを特徴とする、
下記式(V):
【化4】


[式中、R6及びR7は、上記と同義である]で表される光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記光学活性アルミニウム(サラレン)錯体が上記式(I)又は式(I')で表されることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記式中のR1及びR2がt-ブチル基であることを特徴とする請求項3に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記式中のR5がメチル基であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記式(III)中のR6が一価の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記式(IV)中のR7がアルキル基又はアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なα-ヒドロキシホスホン酸又はその誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体。
【請求項9】
前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることを特徴とする請求項8に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体。
【請求項10】
前記式(I)又は式(I')で表されることを特徴とする請求項8に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体。
【請求項11】
前記式中のR1及びR2がt-ブチル基であることを特徴とする請求項10に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体。
【請求項12】
前記式中のR5がメチル基であることを特徴とする請求項8に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体。
【請求項13】
下記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII'):
【化5】


[式中、R1、R2、R3、R4及びR5は、上記と同義である]のいずれかで表されるサラレン配位子と、
下記式(VIII-a)又は式(VIII-b):
82AlX1 ・・・ (VIII-a)
83Al ・・・ (VIII-b)
[式中、R8は、それぞれ独立してアルキル基であり;X1は、上記と同義である]で表されるアルミニウム化合物とを反応させることを特徴とする、
前記式(I)、式(I')、式(II)及び式(II')のいずれかで表される光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法。
【請求項14】
前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることを特徴とする請求項13に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法。
【請求項15】
前記サラレン配位子が前記式(VI)又は式(VI')で表され、前記光学活性アルミニウム(サラレン)錯体が前記式(I)又は式(I')で表されることを特徴とする請求項13に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法。
【請求項16】
前記式中のR1及びR2がt-ブチル基であることを特徴とする請求項15に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法。
【請求項17】
前記式中のR5がメチル基であることを特徴とする請求項13に記載の光学活性アルミニウム(サラレン)錯体の製造方法。
【請求項18】
前記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子。
【請求項19】
前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることを特徴とする請求項18に記載のサラレン配位子。
【請求項20】
前記式(VI)又は式(VI')で表されることを特徴とする請求項18に記載のサラレン配位子。
【請求項21】
前記式中のR1及びR2がt-ブチル基であることを特徴とする請求項20に記載のサラレン配位子。
【請求項22】
前記式中のR5がメチル基であることを特徴とする請求項18に記載のサラレン配位子。
【請求項23】
(i)下記式(IX)及び式(X):
【化6】


[式中、R1、R2及びR4は、上記と同義である]のいずれかで表されるアルデヒドを、
下記式(XI)及び式(XI'):
【化7】


[式中、R3は、上記と同義であり、X2は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アセトキシ基又はトルエンスルホニルオキシ基である]のいずれかで表されるジアミンのモノアンモニウム塩と還元剤とで還元アミノ化して、
下記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII'):
【化8】


[式中、R1、R2、R3及びR4は、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(ii)前記式(XII)、式(XII')、式(XIII)及び式(XIII')のいずれかで表される化合物のアミノ基を保護基で保護して、
下記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV'):
【化9】


[式中、R1、R2、R3及びR4は、上記と同義であり、Aは保護基である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(iii)前記式(XIV)、式(XIV')、式(XV)及び式(XV')のいずれかで表される化合物をN-アルキル化して、
下記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII'):
【化10】


[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びAは、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(iv)前記式(XVI)、式(XVI')、式(XVII)及び式(XVII')のいずれかで表される化合物の保護基を脱保護して、
下記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX'):
【化11】


[式中、R1、R2、R3、R4及びR5は、上記と同義である]のいずれかで表される化合物を生成させる工程と、
(v)前記式(XVIII)、式(XVIII')、式(XIX)及び式(XIX')のいずれかで表される化合物を、前記式(IX)及び式(X)のいずれかで表されるアルデヒドと縮合させ、前記式(VI)、式(VI')、式(VII)及び式(VII')のいずれかで表されるサラレン配位子を生成させる工程と
を含むことを特徴とするサラレン配位子の製造方法。
【請求項24】
前記式中の2つのR3が互いに結合してテトラメチレン基を形成していることを特徴とする請求項23に記載のサラレン配位子の製造方法。
【請求項25】
前記サラレン配位子が前記式(VI)又は式(VI')で表されることを特徴とする請求項23に記載のサラレン配位子の製造方法。
【請求項26】
前記式中のR1及びR2がt-ブチル基であることを特徴とする請求項25に記載のサラレン配位子の製造方法。
【請求項27】
前記(iii)工程のN-アルキル化がN-メチル化であって、前記式中のR5がメチル基であることを特徴とする請求項23に記載のサラレン配位子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−290808(P2006−290808A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114484(P2005−114484)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】