説明

光学活性を有するポリシランの製造方法

【課題】キラルな化学源を使用せずに、アキラルな側鎖を有するポリシランとアキラルな溶媒とを使用して、左回りまたは右回りのらせん状構造を有することにより光学活性を有するポリシランを提供する。
【解決手段】アキラルな側鎖を有するポリシランと、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒と、を混合し、アキラルな溶媒の温度が、110℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性を有するポリシランの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、キラルな化学源を使用せずに、左回りまたは右回りのらせん状構造を有することにより光学活性を付与する、光学活性を有するポリシランの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境、エネルギー、資源リサイクル・リユース、高収率・短工程・簡便プロセス化等の、従来とは発想を全く異にする機能材料の革新的創成における概念の提示と実証が緊急の、かつ重要な課題となっている。
【0003】
それに伴い、医薬、農薬、液晶、キラル分離等に利用される光学活性分子および光学活性高分子に対する関心が高まってきている。しかし、現在の技術では、これまで精密設計された高純度かつ高価な不斉(キラルな)分子触媒、合成条件等の最適化が必要となる。
【0004】
現在の技術として、例えば、非特許文献1には、アキラルな高分子とキラルな低分子とを使用して光学活性高分子を製造する方法が開示されている。図4は、非特許文献1に開示されている光学活性を有する重合体の製造方法を示す説明図である。
【0005】
また、非特許文献2には、側鎖にキラル基を有する光学活性高分子(キラルな高分子)を製造する方法が開示されている。図5は、非特許文献2に開示されている光学活性を有する重合体の概略構成を示す説明図である。なお、図5において、M-helixが左回りのらせん状構造を示しており、P-helixが右回りのらせん状構造を示している。
【0006】
また、特許文献1には、パリティ非保存性を利用して不斉触媒、不斉置換基、キラル添加物等の化学的不斉源、円偏光等の物理的不斉源を使用することのない、キラルな側鎖を有する光学活性物質が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、キラルな側鎖を非対称化することによって、反転温度が高く、より高性能な光学活性物質が開示されている。
【0008】
ここで、原子の光学活性については、その理論が、例えば非特許文献3に開示されている。その後、多くの研究者により、Cs,Bi,Tl,Pb等を用いて光学活性信号として実験的検出に成功している。一方、分子の光学活性については、その理論が、例えば非特許文献4に開示されている。その後、多くの研究者により研究が行われているが、実験的に検出した例はまだ存在しない。
【0009】
なお、非特許文献5には、n−アルカンC2n+2について、パリティ非保存相互作用に基づく鏡像構造間のエネルギー差(Epv)を計算した結果、右巻きn−アルカンらせんはその鏡像体よりも安定であり、鏡像体分子間のエネルギー差は鎖状が長くなるにつれて増加するということが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−36082号公報(2005年2月10日公開)
【特許文献2】特開2005−41910号公報(2005年2月17日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. Yashima et al, J. Am. Chem. Soc., 123, p.7441 (2001)
【非特許文献2】M. Fujiki, J. Am. Chem. Soc., 122, p.3336 (2000)
【非特許文献3】M. A. Bouchiat, L. Pottier, Science, 234, p.1203 (1986)
【非特許文献4】R. A. Hegstrom, D. W. Rein, P. G. Sandars, J. Chem. Phys., 73, p.2329 (1980)
【非特許文献5】O. Kikuchi, H. Kiyonaga, J. Mol. Struct (THEOCHEM), 312, p.271-274 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1,2および非特許文献1〜4に示されている光学活性物質は、キラルな化学源(原子、分子等)を使用して製造しており、キラルな化学源が入手困難であり、かつ高価であるという問題点を有している。
【0013】
また、上記非特許文献5には、右巻きn−アルカンらせんがその鏡像体よりも安定であるということが開示されているだけであり、らせん状構造が右回りか左回りかを決定する方法については開示されていない。
【0014】
よって、仮に、入手容易で、かつ安価な光学不活性体(アキラル構造、ラセミ構造等)から高純度な光学活性体を簡便に入手することができれば、革新的な技術となりうる。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、キラルな化学源を使用せずに、アキラルな側鎖を有するポリシランとアキラルな溶媒とを使用して、左回りまたは右回りのらせん状構造を有することにより光学活性を有するポリシランを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記の課題を解決するために、アキラルな側鎖を有するポリシランと、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒と、を混合し、上記アキラルな溶媒の温度が、110℃以下であることを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと、上記特定のアキラルな溶媒とを混合することにより、らせん状構造のポリシランを得ることができる。また、上記の構成によれば、上記アキラルな溶媒の温度が、110℃以下であることにより、上記らせん状構造が右回りか左回りかを決定することができる。その結果、ポリシランに光学活性(円偏光吸収・円偏光発光)を付与することができる。
【0018】
ここで、ポリシランがらせん状構造を有するようになるのは、いわゆる電弱力によるスピン軌道相互作用とパリティ非保存性の弱中性電流との相乗効果に基づいている。
【0019】
また、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランが、一般式(1)
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R,Rは、それぞれ独立して、直鎖状構造を有する炭素数が2以上12以下の範囲内である炭化水素基、またはβ位もしくはγ位が分岐した構造を有する炭素数が3以上10以下の範囲内である炭化水素基を表す)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
これにより、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと、上記特定のアキラルな溶媒とを混合することで、らせん状構造を有しやすくなる。その結果、ポリシランに光学活性をより一層付与することができる。
【0023】
また、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな溶媒が、直鎖状構造を有することが好ましい。
【0024】
これにより、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと、上記特定のアキラルな溶媒とを混合することで、らせん状構造を有しやすくなる。その結果、ポリシランに光学活性をより一層付与することができる。
【0025】
また、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな溶媒の温度が、−10℃以上110℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0026】
ここで、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、温度可変装置の性能上、−10℃以上110℃以下の範囲内であることが好ましいが、上記アキラルな溶媒の沸点以上、融点以下の範囲内の温度であれば本発明に含まれる。
【0027】
また、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒とを混合した後に、さらに貧溶媒を混合することが好ましい。
【0028】
これにより、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、光学活性を有するポリシランの微粒子を固定化することができる。
【0029】
また、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランを、イソオクタン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドに溶解させた後に、上記アキラルな溶媒と混合することが好ましい。
【0030】
これにより、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと、上記特定のアキラルな溶媒とを混合しやすくすることができる。その結果、ポリシランに光学活性をより一層付与することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、以上のように、アキラルな側鎖を有するポリシランと、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒と、を混合し、上記アキラルな溶媒の温度が、110℃以下である。
【0032】
それゆえ、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、キラルな化学源を使用せずに、左回りまたは右回りのらせん状構造を有することにより光学活性を付与することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)・(b)は、本発明の一実施形態におけるCD(circular dichroism)およびUV(ultraviolet)スペクトルの結果を示すグラフである。
【図2】(a)・(b)は、本発明の一実施形態における非対称性因子gCD値の温度依存性の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態におけるCD(circular dichroism)およびAbs(absorbance、吸光度)スペクトルの結果を示すグラフである。
【図4】従来の光学活性を有する重合体の製造方法を示す説明図である。
【図5】従来の光学活性を有する重合体の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、アキラルな側鎖を有するポリシランと、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒と、を混合し、上記アキラルな溶媒の温度が、110℃以下である。
【0036】
具体的には、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒の温度を110℃以下に制御する工程、並びに、アキラルな側鎖を有するポリシランと温度が110℃以下である上記アキラルな溶媒とを混合する工程を含む方法である。ただし、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、温度が110℃以下である上記アキラルな溶媒にアキラルな側鎖を有するポリシランを混合すればよく、上記アキラルな溶媒の温度を110℃以下に制御する工程は、本発明の必須の工程ではない。
【0037】
<光学活性>
本発明において、光学活性とは、ある特別な化学構造、結晶構造等を有する物質が示す光の性質のことをいい、旋光性ともいう。通常、光は縦成分の偏光(直線偏光)と横成分の偏光(直線偏光)との重ね合わせ状態として、または右回りのらせん状偏光(円偏光)と左回りのらせん状偏光(円偏光)との重ね合わせ状態として、表すことができる。そこで、直線偏光および円偏光が光学活性な物質中を通過すると、偏光面が右か左のどちらかに回転する。その結果、光学活性な物質は、右回りのらせん状構造または左回りのらせん状構造を有する。
【0038】
これにより、本発明のポリシランがらせん状構造を有すると光学活性が付与されているといえる。
【0039】
<アキラルな側鎖を有するポリシラン>
本発明に用いられるアキラルな側鎖を有するポリシランは、アキラルな側鎖を有しているものであれば特に限定されないが、一般式(1)
【0040】
【化2】

【0041】
(式中、R,Rは、それぞれ独立して、直鎖状構造を有する炭素数が2以上12以下、好ましくは2以上8以下の範囲内である炭化水素基、またはβ位もしくはγ位が分岐した構造を有する炭素数が3以上10以下、好ましくは3以上6以下の範囲内である炭化水素基を表す)で表される化合物であることが好ましい。
【0042】
また、上記アキラルな側鎖を有するポリシランは、紫外光および可視光領域において吸収および発光を示すことが好ましい。
【0043】
<アキラルな溶媒>
本発明に用いられるアキラルな溶媒は、炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種である。また、上記アキラルな溶媒は、直鎖状構造を有することが好ましい。
【0044】
また、上記アキラルな溶媒は、紫外光および可視光領域において透明であることが好ましい。なぜなら、上記アキラルな溶媒が紫外光および可視光領域において透明でなく光を吸収すると、光がポリシランに吸収されたのか溶媒に吸収されたのか判別できないからである。
【0045】
《炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素》
本発明に用いられる炭化水素は、炭素数が6以上16以下、好ましくは10以上16以下、より好ましくは14以上16以下の範囲内である。
【0046】
《炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール》
本発明に用いられるアルコールは、炭素数が3以上11以下の範囲内である。なお、炭素数は一般に大きい方が好ましいと考えられるが、炭素数が増加するにつれて融点が上昇して測定が困難となるため、上記範囲内とする。
【0047】
《エーテル》
本発明に用いられるエーテルは、分子式中の炭素原子の数を酸素原子の数で割った値ができるだけ小さくなるもの、例えば、ジオキサン等が好ましい。
【0048】
《炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリル》
本発明に用いられるニトリルは、炭素数が1以上3以下の範囲内であり、好ましくは炭素数が1のアセトニトリルである。
【0049】
<上記アキラルな溶媒の温度>
上記アキラルな溶媒の温度は、110℃以下である。ここで、上記アキラルな溶媒の温度は、温度可変装置の性能上、−10℃以上110℃以下の範囲内であることが好ましいが、上記アキラルな溶媒の沸点以上、融点以下の範囲内の温度であれば本発明に含まれる。一方、上記アキラルな溶媒の温度が−10℃未満である場合には、非対称因子gCDが大きくなると予想されるため、可能であれば、上記アキラルな溶媒の温度は−10℃未満であることが好ましい。
【0050】
アキラルな溶媒の温度を上記の範囲内に設定する方法は特に限定されず、例えば、常温のアキラルな溶媒を容器に入れて加熱する方法等が挙げられる。
【0051】
<アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒との組み合わせ>
本発明に用いられるアキラルな側鎖を有するポリシランとしては、例えば、一般式(2)〜(10)
【0052】
【化3】

【0053】
で表される化合物が挙げられる。
【0054】
上記一般式(2)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素、上記アルコールまたは上記エーテルを用いることが好ましい。
【0055】
上記一般式(3)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素を用いることが好ましい。
【0056】
上記一般式(4)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素を用いることが好ましい。
【0057】
上記一般式(5)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素、上記ニトリルまたは上記N,N−ジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。
【0058】
上記一般式(6)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素を用いることが好ましい。
【0059】
上記一般式(7)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素を用いることが好ましい。
【0060】
上記一般式(8)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記炭化水素または上記アルコールを用いることが好ましい。
【0061】
上記一般式(9)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記アルコールを用いることが好ましい。
【0062】
上記一般式(10)で表される化合物は、上記アキラルな溶媒として、上記アルコールを用いることが好ましい。
【0063】
<アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒との混合>
本発明では、アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒とを、所定の温度で混合する。
【0064】
本発明では、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒とを混合した後に、さらに貧溶媒を混合することが好ましい。これにより、光学活性を有するポリシランの微粒子を固定化することができる。
【0065】
本発明に用いられる貧溶媒としては、例えば、イソプロパノール等が挙げられる。
【0066】
また、本発明では、上記アキラルな側鎖を有するポリシランを、イソオクタン、テトラヒドロフランまたはクロロホルムに溶解させた後に、上記アキラルな溶媒と混合することが好ましい。これにより、上記のアキラルな溶媒の種類によらず、上記アキラルな側鎖を有するポリシランと、上記のアキラルな溶媒とを混合しやすくすることができる。イソオクタンを用いる場合には、アキラルな溶媒としてのアルコールの炭素数は3以上であることが好ましい。なぜなら、イソオクタンとメタノールまたはエタノールとが混ざり難いからである。一方、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドを用いる場合には、アルコールの炭素数は3未満でもよい。
【0067】
アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒とを混合した後の溶液の濃度は、ポリシランが溶媒に溶けていれば特に限定されない。例えば、上記濃度は、10−5〜10−6mol/lに設定すればよい。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明の光学活性を有するポリシランの製造方法は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1〕
一般式(2)
【0070】
【化4】

【0071】
で表される化合物を、テトラヒドロフランまたはクロロホルムに溶解させ、濃度が1.0×10−3Mとなるようにストック溶液を調製した。その後、60℃に温めた上記アキラルな溶媒2.91mlにストック溶液を0.09ml添加した(濃度3.0×10−5M)。
【0072】
このように作製した溶液を、J−820、J−725またはJ720型円二色分散計(日本分光株式会社製)等の市販の円二色分散計を用い、CD(circular dichroism)/UV(ultraviolet)−visスペクトルを測定および解析した。
【0073】
図1(a)は、本発明の実施例1におけるCDおよびUVスペクトルの結果を示すグラフである。図1(a)における上側のグラフがCDスペクトルを示し、下側のグラフがUVスペクトルを示している。
【0074】
図1(a)によれば、300nmおよび320nm付近に、らせん状構造発生に由来する強いコットン効果が出現していることが明らかである。すなわち、図1(a)によれば、アキラル分子系のみで光学活性を発現させることができたといえる。
【0075】
また、図2(a)は、本発明の実施例1における非対称性因子gCD値の温度依存性の結果を示すグラフである。
【0076】
図2(a)によれば、25℃付近でらせんセンスが反転しており、光学活性を示していることが明らかである。また、110℃付近で左右のらせん割合がほぼ同等になり、光学活性が消失していることが明らかである。
【0077】
なお、温度によってらせんの向きは反転する。低温の場合には、らせんが右回りとなり、高温の場合には、らせんが左回りとなる。
【0078】
〔実施例2〕
一般式(7)
【0079】
【化5】

【0080】
で表される化合物を用いること以外は実施例1と同様の方法により、CD/UV−visスペクトルを測定および解析した。
【0081】
図1(b)は、本発明の実施例2におけるCDおよびUVスペクトルの結果を示すグラフである。図1(b)における上側のグラフがCDスペクトルを示し、下側のグラフがUVスペクトルを示している。
【0082】
図1(b)によれば、315nm付近に、らせん状構造発生に由来する強いコットン効果が出現していることが明らかである。すなわち、図1(b)によれば、アキラル分子系のみで光学活性を発現させることができたといえる。
【0083】
また、図2(b)は、本発明の実施例2における非対称性因子gCD値の温度依存性の結果を示すグラフである。
【0084】
図2(b)によれば、実施例1と同様に、25℃付近でらせんセンスが反転しており、光学活性を示していることが明らかである。また、110℃付近で左右のらせん割合がほぼ同等になり、光学活性が消失していることが明らかである。
【0085】
〔実施例3〕
実施例1と同様の構造を有する化合物(ポリシラン)を、イソオクタンを溶媒として溶解させ、濃度が1.0×10−3Mとなるようにストック溶液を調製した。その後、ストック溶液0.09mlをジオキサン2.91mlと混合させた。その後、上記混合溶液をホットプレート(加熱温度70℃)上に置いた石英基盤に添加した。上記混合溶液が乾いたら、当該混合溶液をさらに添加するという操作を石英基盤上に白い薄膜が生じるまで繰り返した。
【0086】
このように作製した薄膜を、J−820型円二色分散計を用い、CD(circular dichroism)/Abs(absorbance、吸光度)スペクトルを測定および解析した。
【0087】
図3は、本発明の実施例3におけるCDおよびAbsスペクトルの結果を示すグラフである。図3における上側のグラフがCDスペクトルを示し、下側のグラフがAbsスペクトルを示している。
【0088】
図3によれば、300nm付近に、らせん状構造発生に由来する強いコットン効果が出現していることが明らかである。すなわち、図3によれば、アキラル分子系のみで光学活性を発現させることができたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、医薬、農薬、液晶等の分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキラルな側鎖を有するポリシランと、
炭素数が6以上16以下の範囲内である炭化水素、炭素数が3以上11以下の範囲内であるアルコール、エーテル、炭素数が1以上3以下の範囲内であるニトリルおよびN,N−ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種のアキラルな溶媒と、
を混合し、
上記アキラルな溶媒の温度が、110℃以下であることを特徴とする光学活性を有するポリシランの製造方法。
【請求項2】
上記アキラルな側鎖を有するポリシランが、一般式(1)
【化1】

(式中、R,Rは、それぞれ独立して、直鎖状構造を有する炭素数が2以上12以下の範囲内である炭化水素基、またはβ位もしくはγ位が分岐した構造を有する炭素数が3以上10以下の範囲内である炭化水素基を表す)
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性を有するポリシランの製造方法。
【請求項3】
上記アキラルな溶媒が、直鎖状構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光学活性を有するポリシランの製造方法。
【請求項4】
上記アキラルな溶媒の温度が、−10℃以上110℃以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学活性を有するポリシランの製造方法。
【請求項5】
上記アキラルな側鎖を有するポリシランと上記アキラルな溶媒とを混合した後に、さらに貧溶媒を混合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学活性を有するポリシランの製造方法。
【請求項6】
上記アキラルな側鎖を有するポリシランを、イソオクタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドに溶解させた後に、上記アキラルな溶媒と混合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学活性を有するポリシランの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−153270(P2011−153270A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17266(P2010−17266)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】