説明

光学活性エポキシアルコールの回収

不斉エポキシ化反応混合物、例えばアリル型アルコールのエポキシ化シャープレス法を使用して生成されるものなどから光学活性エポキシアルコールを回収する方法。この方法は、還元剤を添加して、不斉エポキシ化反応生成物中の有機ヒドロペルオキシドを対応するアルコールに還元して還元されたエポキシ化反応混合物を形成すること、この還元された反応生成物をフィルム蒸発ユニットに添加して、残りの留分および光学活性エポキシアルコール蒸留留分を形成すること、およびこの光学活性エポキシアルコール蒸留留分を蒸留して光学活性エポキシアルコールを精製することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不斉触媒系を含む反応混合物から光学活性エポキシアルコールを回収する方法を対象とする。より詳細には、本発明は、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール、有機ヒドロペルオキシド、遷移金属、キラル配位子錯体、および反応溶媒を含む反応混合物から(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを回収する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
光学活性(非ラセミ)エポキシアルコールは、キラルな天然物およびそれらの誘導体の合成における可変性の出発原料および中間体である。こうした光学活性エポキシアルコールから調製される多くの光学活性化合物は、生理活性が高い。非ラセミエポキシアルコールの合成における有用性が、Hanson、Chemical Reviews91(4)、437〜473頁(1991年)に広範囲にわたって概説されている。
【0003】
安価なラセミ出発原料からの光学活性エポキシアルコールの商業的規模の調製は、Dr.K.Barry Sharplessおよび共同研究者によって開発された不斉エポキシ化系を使用して行われ得る。シャープレス法では、アリル型アルコールが、チタン/キラル錯体触媒の存在下で有機ヒドロペルオキシドと反応する。シャープレス法によってエナンチオ選択性過剰率が比較的高い光学活性エポキシアルコールが良好な収率でもたらされるが、得られたエポキシ化反応混合物からのエポキシアルコールの回収には大規模商用製造に関する問題が生じる。
【0004】
具体的には、1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールが望ましい。というのは、それが、薬理効果のある化合物の合成での有用な前駆体だからである。例えば、Alex RomeroおよびChi−Huey Wongは、オーストラリン(australine)および7−エピアレキシン(epialexine)の調製における中間体としての1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの合成を開示しており、それがアルカロイドのヒドロキシル化ピロリジジンクラスに関係するその他の立体異性体および類似体の合成で使用され得ることを示唆している(A.RomeroおよびC.Wong、J.Org.Chem.(2000年)、65:8264〜8268頁)。1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの合成はまた、国際公開WO01/70232号に報告されるシステインプロテアーゼのカテプシンファミリーの阻害剤の調製における中間体として望ましく、こうした阻害剤は、骨粗しょう症、歯周炎、および関節炎を治療するのに役立つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単蒸留は、不安定かつ反応性であることが知られている望ましいエポキシアルコールの相当な損失をもたらす。例えば、シャープレス反応の生成混合物から光学活性エポキシアルコールを減圧蒸留する試みは、有意な量の重合生成物をもたらし得る。RomeroおよびWongは、NaSO水溶液を用いて反応混合物を処理し、続いてろ過およびシリカゲルクロマトグラフィーを行うこと含む単離法を記載している。しかし、この反応混合物は、ろ過が非常に遅い可能性があり、クロマトグラフィーは、商業的生産量にスケールアップすることが困難であり得る。米国特許第5,288,882号は、反応混合物を、還元剤、多価アルコール、またはその両方と接触させて、エポキシ化触媒を阻害し、または蒸留前にヒドロペルオキシドを減少させることを開示している。この処理の後でさえ、蒸留工程は、回収中に起こる重合または非立体選択的エポキシ化反応に起因する有意な収量の損失を依然としてもたらし得る。その結果、損失を最小とした、不斉エポキシ化反応混合物から光学活性エポキシアルコールを回収する改善方法は、かなりの価値をもつことになる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、光学活性エポキシアルコール、有機ヒドロペルオキシド、および遷移金属−キラル配位子錯体エポキシ化触媒を含む不斉エポキシ化反応混合物から光学活性エポキシアルコールを回収する方法を対象とする。本発明の方法は、(a)不斉エポキシ化反応混合物を還元剤と接触させて、実質的にすべての有機ヒドロペルオキシドを還元して還元されたエポキシ化反応混合物を生成し、(b)この還元されたエポキシ化反応混合物をフィルム蒸発ユニットに添加し、そこで還元されたエポキシ化反応混合物を分離して残りの留分および光学活性エポキシアルコール蒸留留分を形成し、および(c)この光学活性エポキシアルコール蒸留留分を蒸留して、精製された光学活性エポキシアルコールを生成することを含む。
【0007】
本発明はまた、光学活性エポキシアルコールの製造方法を対象とする。本発明の方法は、光学活性エポキシアルコールを生成する条件下で、アリル型アルコールを有機ヒドロペルオキシドおよび遷移金属−キラル配位子錯体エポキシ化触媒と反応溶媒中で接触させること、還元剤を添加して、この有機ヒドロペルオキシドのほぼすべてを還元して還元されたエポキシ化反応混合物を生成すること、少なくともいくらかの反応溶媒を除去することでこの還元されたエポキシ化反応混合物を濃縮して、濃縮エポキシ化反応生成物を生成すること、フィルム蒸発ユニットにおいてこの濃縮エポキシ化反応生成物を分離して、残りの留分および光学活性エポキシアルコール蒸留留分を形成すること、およびこの光学活性エポキシアルコール蒸留留分を蒸留して、精製された光学活性エポキシアルコールを生成することを含む。
【0008】
さらに、本発明の方法は、還元剤の添加前または添加後に共沸溶媒を添加することを含んでもよい。この共沸溶媒は、光学活性エポキシアルコールと共に共沸混合物を形成する。あるいは、この共沸溶媒を、還元されたエポキシ化反応混合物の濃縮後に添加してもよい。
【0009】
本発明はまた、光学活性エポキシアルコールを少なくとも70重量%、共沸溶媒を15重量%未満、クメンアルコールを0.05重量%〜2重量%含む組成物を対象とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
出願人らは、シャープレス不斉エポキシ化系を使用して生成した光学活性エポキシアルコールを精製する方法を見出した。本明細書で使用する「光学活性」なる語は、生成混合物において、一方のエナンチオマー、例えば(R)の量が、もう一方、例えば(S)の量より多い、あるいはその逆であることを意味する。本発明で使用する光学活性エポキシアルコールは、シャープレス不斉触媒またはその類似体もしくは誘導体を使用して調製される。この方法で調製される光学活性エポキシアルコールは、典型的には、エナンチオマー過剰率が90%より高くなり、この反応では、生成収率がしばしば85%より高くなる。しかし、前述のように、シャープレス法を使用することの主な欠点は、不斉エポキシ化反応混合物から所望の光学活性エポキシアルコールを回収することが難しいことである。
【0011】
回収中の重合、熱分解、および加水分解に起因するエポキシアルコールの損失は、有意であり得る。例えば、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの調製では、従来の蒸留を使用して回収する間に60%を超える生成物の損失が観察された。不斉エポキシ化反応では、生成収率は、ガスクロマトグラフィーで測定すると、85%より高くなったが、回収収率は、従来の減圧蒸留を使用して回収した後、約35%にすぎなかった。本発明は、後続の精製中のエポキシアルコールの損失を最小にすることを対象とする。
【0012】
本発明の方法では、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを、ガスクロマトグラフィーの測定で約50%以上、好ましくは約60%以上の収率で回収することができる。反対に、ポット温度が約40℃〜約100℃、減圧が約40〜60mmHg(a)の減圧蒸留を使用すると、収率が、ガスクロマトグラフィーの測定で約32%となった。
【0013】
光学活性アルコールを調製するシャープレス法は、その開示の全体を参照により本明細書に組み込む、米国特許第4,471,130号、同第4,764,628号、および同第4,594,439号に記載されている。また、FinnらによるAsymmetric Synthesis、Morrison(編集)、Academic Press、New York(1985年)、5巻、第8章、247頁の報文にも、シャープレス法が洞察されている。要するに、シャープレス法は、酸素源としての有機ヒドロペルオキシド、基剤としてのアリル型アルコール、およびキラル配位子に錯体化した遷移金属触媒の使用を含む。この有機ヒドロペルオキシドは、一般に、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、エチルベンゼンヒドロペルオキシド、シクロへキシルヒドロペルオキシド、トリフェニルメチルヒドロペルオキシドなど、第2級または第3級の脂肪族または芳香族ヒドロペルオキシドである。クメンヒドロペルオキシドの使用が好ましい。触媒中の遷移金属は、好ましくは、チタン、モリブデン、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、およびタングステンから選択され、チタンが好ましい。適切なキラル配位子は、当該技術において開示されている。特に好ましいキラル配位子は、キラルグリコール(2価アルコール)などのキラルアルコールである。より詳細には、酒石酸のエステルおよびアミドの誘導体が好ましい。
【0014】
好ましくは、シャープレス法は、不活性な有機溶媒の存在下で行われる。シャープレス法で使用される有機溶媒は、アリル型アルコールを光学活性エポキシアルコールに迅速かつエナンチオ選択的に転換するように選択される。使用する上で好ましい溶媒としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素が挙げられる。ヘキサン、イソオクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ならびにトルエン、エチルベンゼン、およびクメンなどの芳香族炭化水素も使用することができる。
【0015】
この不斉エポキシ化は、一般にアリル型アルコールに対して化学量論的に過剰の有機ヒドロペルオキシドを用いて行われる。不斉エポキシ化反応に続いて、不斉エポキシ化反応混合物を還元剤と接触させて、反応生成物中に残っている有機ヒドロペルオキシドを還元する。反応生成物中の過剰な有機ヒドロペルオキシドの中和は、2つの理由で行われる。第1には、過酸化物を含む混合物を蒸留すると、安全上の重大な問題が引き起こされる。第2には、反応生成物中にヒドロペルオキシドが存在すると、望ましくない副生成物が生じ、それによってエポキシアルコールの回収がより困難となる恐れがある。例えば、米国特許第5,288,882号では、反応生成物中にヒドロペルオキシドが存在すると、未反応のアリル型アルコールが蒸留中にさらにエポキシ化されることが認められている。しかし、このエポキシ化はより高い温度で起こるので、さらなるエポキシ化は、最初のエポキシ化より立体選択性がずっと低くなる。
【0016】
好ましくは、不斉反応生成物を硫黄(II)化合物、硫黄(III)化合物、またはリン(III)化合物から選択される還元剤と接触させることによって過剰な有機ヒドロペルオキシドを中和して、存在するいずれの過剰なヒドロペルオキシドも対応するアルコールに完全に還元させる。これらの還元剤は、非常に分解されやすいことが知られている光学活性エポキシアルコールと不利な相互作用はしない。一般に、ヒドロペルオキシドを確実に完全に還元するのに、存在する推定量のヒドロペルオキシドに対してわずかに過剰な還元剤を使用する。使用することができるいくつかの硫黄(II)および硫黄(III)化合物には、有機化合物も無機化合物も含まれる。これらには、例えば、亜硫酸水素塩(HSOM)、亜硫酸塩(SO)、および二亜硫酸塩(HSMおよびM)のアルカリ金属塩が挙げられる。例えば、ジベンジルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド、4,4’−ジトリルスルホキシドを含めた有機スルフィドおよび有機スルホキシドも使用することができる。
【0017】
本発明の方法で使用される好ましい還元剤は、リン(III)化合物である。これらには、一般構造RPの有機ホスフィンが挙げられ、式中、R、R、およびRは、同一または異なり、アルキル、アリール、およびアリールアルキルなどの炭化水素基である(例えば、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン)。有機亜リン酸塩の使用は、特に好ましい。これらの化合物は、一般構造がROP(OR)ORであり、R、R、およびRは、上述の通りである。化合物の例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリフェニル、および亜リン酸トリ(4−トリル)が挙げられる。
【0018】
本発明の方法で使用される最も好ましい還元剤は、亜リン酸トリメチルである。
【0019】
シャープレス反応方法に続いて、好ましくは過剰な過酸化物の還元後に、好ましくは減圧下で、好ましくは反応溶媒、一般にジクロロメタンの大部分を除去する。この工程は、ロータリー式蒸発や単蒸留など当分野で周知の方法を使用して行われ得る。しかし、フィルム蒸発ユニットが本発明の方法の後続の工程に必要とされるので、フィルム蒸発ユニットを使用して溶媒の大部分を除去することもできる。本発明の方法で使用されるフィルム蒸発ユニットとしては、ワイパー式フィルム蒸発(WFE)ユニットおよび流下フィルム蒸発ユニットが挙げられる。
【0020】
WFEユニットには、液体材料を充填する被加熱体が含まれる。供給システムは、一般に重力供給型添加フラスコまたは容量型ポンプである。所定の速度で回転するワイパーブレードまたはローラーアセンブリによって液体が散布されて、被加熱体の側面に沿って薄フィルムが形成される。このフィルムは、重力によって被加熱体の内壁を下降し、ワイパーブレードまたはローラー内に入る。蒸発しなかった材料またはWFE残渣は、システムから連続的に流出する。蒸留する材料は、使用するWFEデザインのタイプに依存して内部冷却器(被加熱体内)、外部冷却器、または両方により凝縮される。
【0021】
このWFEユニットは、感熱材料の蒸留に理想的である。比較的長期間にわたりバルクサンプルをポット蒸留内で連続的に加熱するのではなく、被加熱体に沿ったサンプルのみを加熱する。これにより、高温でのエポキシアルコールの接触時間を数時間から数分間短縮することができる。この設計は、所望の生成物が高温に接している時間を著しく短縮する。供給速度およびワイパー速度を使用して、材料が蒸留装置内に存在する時間を制御する。
【0022】
大量の材料の場合、一連の定量ポンプを使用して、再現可能な制御された速度で供給材料をポンプ給送することができる。2個の受容ポンプを各段階で使用して、底部の生成物と蒸留物のどちらも取り出すことができる。これらのユニットに取り付けられた器具を使用し制御することで、減圧レベル、温度、およびワイパー速度の蒸留パラメータを調整することができる。
【0023】
WFEユニットを、2段階ユニットとして構成することができる。2段階方法として、一般には、第1段階は低沸点成分の除去に使用され、続いて第2段階では所望の生成物の分子蒸留が行われる。第1段階での低沸点物のフラッシングは、通常、第2段階で実施される生成物の実際の蒸留より迅速に実施され得る。第1段階の効率は、より大きな供給および受容フラスコまたはポンプ、外部冷却器によって付与される追加の凝縮力、ならびにより高い加熱容量によって改善される。
【0024】
本発明は、例えば、Lybold−HeraeusおよびPope Scientific社製のWFEユニット、またはこうしたメーカーによる修正ユニットで実施され得る。例えば、被加熱体内に追加冷却器を組み込むと、冷却器表面積が最大になり、それによって蒸留物をより効率的に回収できることになる。WFEユニット内への内部冷却器の組込みは、分子蒸留器として定義される。WFEユニットという用語はまた、分子蒸留器ユニットも包含する。WFEユニットの一般的な議論は、刊行物の「Agitated Thin−Film Evaporators:A Three Part Report」;パート1〜3;A.B.Mutzenburg、N.Parker、およびR.Fischer;Chemical Engineering、1965年9月13日に見ることができる。
【0025】
還元されたエポキシ化反応混合物から反応溶媒を大部分除去することに続き、共沸溶媒を濃縮生成物に添加し、次いで希釈した生成物の溶液をフィルム蒸発ユニットに通過させることが好ましい。もちろん、この共沸溶媒を、意図する方法の初期段階の任意の時点で、不斉エポキシ化反応混合物、還元されたエポキシ化反応混合物、または濃縮不斉反応生成物に添加することができる。この共沸溶媒は、エポキシアルコールと共に不均一な最低沸点共沸混合物を形成する。
【0026】
比較的低温で沸騰するエポキシアルコールの精製では、共沸溶媒は、一般に沸点が760mmHgで約150℃〜220℃である。「沸点」という用語はまた、高沸点化合物の混合物のセット沸点範囲を包含する。比較的安価な高沸点溶媒または溶媒混合物は、合成方法の後続工程に対する汚染物質の制約に応じて使用され得る。好ましい共沸溶媒は、芳香族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、および脂肪族炭化水素から選択される。デカヒドロナフタレン、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン、およびC10〜C12の直鎖または枝分れ飽和炭化水素が、好ましい。1,2−エポキシ−4−ペンテノールの精製では、好ましい共沸溶媒は、商品名Decalin(登録商標)で販売されるシス−デカヒドロナフタレンとトランス−デカヒドロナフタレンの混合物である。この方法で使用される共沸溶媒は、系中のその他の成分、すなわち、エポキシアルコール、還元剤、および酸化剤の沸点に依存する。
【0027】
この共沸溶媒は、使用される蒸留条件下でエポキシアルコールに対して非活性であるべきであり、好ましくは、共沸混合物溶媒およびエポキシアルコールを含む1種または複数の収集された蒸留留分が蒸気状態から凝縮された後に2個の別個の液相に分離するように、エポキシアルコールと混和性を有する。一相は、エポキシアルコールを比較的多く含み(一般に少なくとも80重量%)、他相は、エポキシアルコールが比較的少なく、すなわち、主に共沸溶媒で構成されている。
【0028】
本発明の方法で使用される共沸溶媒の量は、共沸蒸留によって取り出されるエポキシアルコールの量、および共沸混合物中の各成分の相関割合に依存する。これらの因子は周知であり、または標準的な方法で容易に測定されるので、最適な回収に必要な共沸溶媒の最低量は、容易に計算され得る。
【0029】
共沸溶媒の添加後、現在の希釈済み生成物溶液を、フィルム蒸発ユニットに通過させる。あるいは、有機ヒドロペルオキシドの還元後、生成混合物を、共沸溶媒を添加せずにフィルム蒸発ユニットに加えることができる。一般に、液体の低沸点エポキシアルコールでは、フィルム蒸発ユニットは、減圧および120℃より低いジャケット温度で操作して生成物の分解を最小にするWFEユニットである。WFE残渣中にエポキシ化触媒、ポリマー材料、およびより高沸点のその他の成分を残して、低沸点および中沸点の成分を蒸留物として取り出す。
【0030】
共沸溶媒を含むエポキシアルコール共沸混合物を蒸留留分として収集する。好ましくは、これらの蒸留留分をさらに精製するためにバッチ蒸留にかける。バッチ蒸留後に、エポキシアルコールおよび共沸溶媒を含む蒸留留分は、好ましくは都合よく分離することができる2層を形成する。共沸溶媒を効率的に使用し、この共沸溶媒相の生成物損失を最小にするために、共沸溶媒相を蒸留システムに戻すことができる。
【0031】
エポキシアルコールを含む共沸混合物は沸点が比較的高く、かつエポキシアルコールは高温に対して比較的不安定であるので、収集した蒸留留分のバッチ蒸留は、一般に、減圧、例えば、0.1〜100mmHg(a)、好ましくは0.1〜45mmHg(a)で行われる。圧力は、共沸混合物の沸点、すなわち、頂部で得られる蒸気の温度、約25℃〜125℃になるように調整するべきである。好ましくは、ポット(底)温度は、エポキシアルコールの分解および重合を最小にするようにどの時点でも120℃を超えることはない。
【0032】
「バッチ」蒸留という用語は、蒸留留分の蒸留として定義される。バッチ蒸留は、WFEユニットで行うことができる。しかし、高純度エポキシアルコール生成混合物を得るのに、バッチ蒸留を、当分野で周知の従来の減圧蒸留技術を使用して行う。従来の任意の構成の蒸留塔は、好ましくは、理論的な接触段階が5〜60段のカラムを利用することができる。また、この蒸留塔を、0.5〜15、好ましくは1〜6の還流比で操作するべきである。
【0033】
本発明はまた、本発明の方法を使用して生成される組成物を対象とする。一実施形態では、この組成物は、有機ヒドロペルオキシドとしてクメンヒドロペルオキシドを使用して、アリル型アルコールをシャープレスエポキシ化することから生成される。この組成物は、光学活性エポキシアルコールおよびクメンアルコールを含む。本発明の組成物は、光学活性エポキシアルコールを少なくとも70重量%、共沸溶媒を15重量%未満、より好ましくは共沸溶媒を0.1重量%〜15重量%、クメンアルコールを0.05重量%〜2重量%含む。好ましくは、この光学活性エポキシアルコールのエナンチオ選択性過剰率は、80%より高く、より好ましくは90%より高い。本発明の組成物はまた、リン酸トリメチルなどの還元剤の酸化生成物を少量含んでもよい。
【0034】
本発明の好ましい組成物は、光学活性エポキシアルコールを少なくとも80重量%、共沸溶媒を0.1重量%〜10重量%、クメンアルコールを0.05重量%〜2重量%、0.1重量%〜1重量%、または0.1重量%〜0.6重量%含む。
【0035】
本発明の方法での光学活性エポキシアルコールは、好ましくは、エナンチオ選択性過剰で存在する(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールである。好ましくは、このエナンチオ選択性過剰率は、80%より高く、より好ましくは90%より高い。
【0036】
光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール生成物の回収方法は、不斉エポキシ化反応混合物に還元剤を添加して、有機ヒドロペルオキシドを対応するアルコールに転換すること、所望により、得られた還元されたエポキシ化反応混合物を、少なくともいくらかの反応溶媒を除去することによって濃縮すること、所望により、共沸溶媒を添加して、1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを含む共沸混合物を形成すること、フィルム蒸発ユニットに得られた混合物を注いで、残りの留分および光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール蒸留留分を形成すること、およびこの光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール蒸留留分を蒸留して、精製された光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを形成することを含む。好ましくは、この還元剤は、亜リン酸トリメチルであり、この有機ヒドロペルオキシドは、クメンヒドロペルオキシドであり、この共沸溶媒は、Decalin(登録商標)である。酸化副生成物、すなわちリン酸トリメチルは、光学活性エポキシアルコールの回収に不利な影響を及ぼさない。さらに、このリン酸トリメチル副生成物は、Decalin(登録商標)共沸溶媒系においてエポキシアルコールとクメンアルコールの間の中間沸点成分をもたらし、それによりエポキシアルコール生成混合物中のクメンアルコールレベルを2%未満に維持することが可能になると考えられる。亜リン酸トリエチルなど別の還元剤の使用では、この中間沸点成分は生じず、したがってクメンアルコールの濃度は2.0%を超える。
【0037】
本発明はまた、光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール生成混合物をフタルイミドと接触させることを含む2−[(1S)−1−(2R)−オキシラニル−2−プロペニル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオンの製造方法であって、この光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール生成混合物が、光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを少なくとも70重量%、共沸溶媒15重量%未満、クメンアルコールを0.05重量%〜2重量%含む、製造方法を対象とする。
【0038】
本発明はまた、ベンゾフラン−2−カルボン酸{(S)−3−メチル−1−[(4S,7R)−7−メチル−3−オキソ−1−(ピリジン−2−スルホニル)−アゼピン−4−イルカルバモイル]−ブチル}−アミドの製造方法であって、フィルム蒸発ユニットを使用して(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール蒸留留分を残りの留分と分離し、この(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール蒸留留分を蒸留して精製された(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを生成することによって、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール、有機ヒドロペルオキシド、および遷移金属−キラル配位子錯体エポキシ化触媒で構成される不斉エポキシ化反応混合物から(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを回収し、次いで、両出願共その全体が本明細書に組み込まれる、国際公開WO01/70232号の反応式1に記載の通り、または2001年11月21日出願の米国特許出願第60/31,949号に記載の通りに行って、ベンゾフラン−2−カルボン酸{(S)−3−メチル−1−[(4S,7R)−7−メチル−3−オキソ−1−(ピリジン−2−スルホニル)−アゼピン−4−イルカルバモイル]−ブチル}−アミドを生成することを含む製造方法を対象とする。この光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール生成混合物は、光学活性な(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを少なくとも70重量%、共沸溶媒を0.1重量%〜15重量%、クメンアルコールを2重量%未満、好ましくはクメンアルコールを1重量%未満、より好ましくはクメンアルコールを0.6重量%未満含む。
【0039】
本発明およびその利点は、以下の実施例を参照するとよりよく理解できるであろう。これらの実施例は、本明細書で特許請求する本発明の範囲全体内の特定の実施形態を例示するためのものであり、いかなる意味でも本発明を限定するものとして理解すべきではない。
【0040】
以下の実験は、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの回収に対するパラメータおよび最適な回収オプションに関する。調査したパラメータは、1)共沸剤としてのDecalin(登録商標)の存在、2)WFEユニットを使用してWFE蒸留留分を得た後のバッチ蒸留、および3)ヒドロペルオキシドの中和に使用する還元剤のタイプであった。
【0041】
以下の実施例をすべて、以下の反応に従って生成される不斉エポキシ化反応混合物に対して行った。
【0042】
不斉反応生成物の調製
反応式1に示すように、3−ヒドロキシ−1,4−ペンタジエンの(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールへのエポキシ化を、Ti(OiPr)、D(−)酒石酸ジイソプロピル(「DIPT」)、およびクメンヒドロペルオキシドを含むシャープレス不斉触媒系の存在下、ジクロロメタン/4Aシーブ中で−15℃で行う。
【0043】
【化1】

【0044】
シャープレス不斉反応方法では、エポキシアルコールの生成収率は、ガスクロマトグラフィー(「gc」)で測定すると約82%〜90%となり、エナンチオマー過剰率は80%より高くなる。
【0045】
(比較例1)
WFE処理なしの共沸バッチ蒸留
わずかに過剰なモル濃度の亜リン酸トリメチルを不斉反応溶液に添加して、推定量の残留クメンヒドロペルオキシドをクメンアルコールに転換する。反応混合物をろ過してモレキュラーシーブを除去し、減圧下で濃縮して大部分のジクロロメタン溶媒を除去する。3容量のDecalin(登録商標)を不斉反応生成物に添加する。得られた溶液を蒸留フラスコに充填し、10段のOldershawカラムを用いて還流比3で共沸蒸留を行う。この回収方法ではWFEユニットを使用しない(表4、実験1)。蒸留中、ポット温度は、40℃〜100℃の範囲であり、プロセス圧力を約40〜60mmHg(a)に維持する試みがなされた。
【0046】
蒸留操作により、生成物を精製して69%GCピーク面積比(GC PAR)を得、クメンアルコールを3%未満に減少させることに成功したが、回収収率は32%(GC PAR)にすぎなかった。この収率の低さは、エポキシアルコールが蒸留中に高温、高沸点試薬、および触媒にさらされたとき、このエポキシアルコールが蒸留中にポット内で重合されることに起因している。
【0047】
(実施例2)
Decalin(登録商標)を用いる共沸WFEおよびバッチ蒸留プロセス
わずかに過剰なモル濃度の亜リン酸トリメチルを不斉反応溶液に添加して、推定量の残留クメンヒドロペルオキシドをクメンアルコールに転換する。反応溶液をろ過してモレキュラーシーブを除去し、80〜90mmHg(a)および室温ジャケット条件でジクロロメタン溶媒の大部分を除去して濃縮する。商品名Decalin(登録商標)で販売される3容量のデカヒドロナフタレンを濃縮反応溶液に添加する。1mmHg(a)の減圧、50℃のエバポレータチャンバジャケット温度、および−15℃の冷却器温度で作動し、アセトン/ドライアイス真空トラップを備えたWFEユニットに、溶液を充填する。
【0048】
収集されたWFE蒸留留分には、所望のエポキシアルコール、Decalin(登録商標)、および比較的少量のクメンアルコールが含まれている。収集されたWFE残渣には、依然として、エポキシアルコールの理論収率がガスクロマトグラフィー測定で23%含まれている。3容量のDecalin(登録商標)をこの残渣に添加し、次いでWFEユニットに充填する。2回目の通過では、WFE残渣におけるエポキシアルコールの損失はガスクロマトグラフィー測定で2%未満に低減される。2回のWFE通過のGC分析結果(以下の表1および2に示す)は、WFEユニットの使用により、高沸点DIPTからの光学活性エポキシアルコールの単離、およびエポキシアルコール生成混合物のクメンアルコール含有量の低減に成功したことを示している。
【0049】
エポキシアルコールに富んだWFE蒸留留分、すなわち、指形冷却器、外部冷却器、および真空トラップからの留分を収集し、蒸留フラスコに充填して、別の低沸点溶媒、少量の触媒、クメン、リン酸トリメチル、およびクメンアルコールを除去し、共沸溶媒を光学活性エポキシアルコールと部分的に分離する。バッチ蒸留を、10段のOldershawカラムを備えた標準丸底反応容器において圧力25〜45mmHg(a)および還流比3.0で作動させて行う。凝縮液留分を蒸留操作の間に収集する。この凝縮液留分は、2相の蒸留液を示し、そこから、エポキシアルコールは重相として分離されるが、Decalin(登録商標)相は蒸留フラスコに戻される。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
下記の表3は、収集した各蒸留留分のガスクロマトグラフ分析データを示す。生成物留分4、5、および6の複合物に対して行われた重量ベースのアッセイは、単離収率72%を示している。これは、比較例1においてWFEユニットなしで得られた収率35%を上回る大きな改善である。(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの純度、すなわち、収集した留分中の(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールの重量/重量はまた、65%未満から81%超に増大し、クメン、リン酸トリメチル、およびDecalin(登録商標)は、主要な汚染物質を構成している。ワイパー式フィルム蒸発法から得られた(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールのキラルアッセイの結果は、望ましくない異性体が0.5%未満(検出限界)であることを示している。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例2の結果は、WFEユニットを使用して、エポキシアルコールを還元されたエポキシ化反応混合物から分離すると、具体的には、後続のバッチ蒸留操作中にポリマー形成の一因となるDIPT触媒および高沸点成分から分離すると、回収収率が著しく改善されることを実証している。
【0055】
(実施例3〜5)
生成物分離温度範囲を制限して最終光学活性エポキシアルコール生成物中のクメンおよびリン酸トリメチルからなるキャリーオーバーをさらに減少させることでバッチ蒸留が改良される点以外は、実施例2と同様の手順を使用する。これらの実験(表4、実験3〜5)は、エポキシアルコールの重量ベースの生成物アッセイが、生成収率全体に実質的な影響を及ぼしたが90%に上昇され得ることを実証している。
【0056】
(実施例6および7)
亜リン酸トリエチルを用いる共沸WFE
亜リン酸トリメチルの代りに亜リン酸トリエチルを使用する点以外は、実施例2と同様の手順を使用する(表4、実験6および7)。これらの操作から得られた生成物留分は、生成収率が52%および56%となり、生成物アッセイが94%と高くなるが、両留分ともクメンアルコールを1.9%含んでいる。このクメンアルコールレベルは、実施例2〜5の蒸留物分離物よりかなり高い。観察された汚染レベルの差は、中間沸点成分、すなわちリン酸トリメチルの欠如に起因すると考えられる。
【0057】
(実施例8)
Decalin(登録商標)なしのWFEおよびバッチ蒸留
Decalin(登録商標)を反応溶液に添加しない点以外は、実施例2と同様の手順を使用する。言い換えれば、共沸溶媒なしで蒸留を行って、共沸溶媒が不斉反応生成物からのエポキシアルコール除去を促進するのに必要かどうか評価する(表4、実験8)。3回のWFEユニット通過は、同等の生成物留分が同等の純度レベルを実現するのに必要である。3回目の通過には、他の実施例の圧力条件(0.5〜0.6mmHg(a))より低い圧力条件(0.2mmHg(a))が必要とされる。このWFE操作により、クメンアルコールの重量が比較例1に比べて標準で50%低減された。しかし、Decalin(登録商標)が存在しない状態で生成されたWFE蒸留物は、黄色を呈している(WFE蒸留物は通常透明である)。また、3回目の通過からのWFE蒸留物には、DIPTがGC PARで1%より多く含まれており、したがって後続の蒸留操作においてその使用が妨げられ、これが該方法の収率のさらなる2.7%の損失の理由である。
【0058】
Decalin(登録商標)が存在しない状態で行われたバッチ蒸留操作では、生成物留分がGC PARで94%である。これは、実施例2の生成物留分中の5〜7%PARのDecalin(登録商標)汚染が除かれているため、Decalin(登録商標)を用いて実現される88%PARアッセイより高い。しかし、Decalin(登録商標)、すなわち比較的不活性な溶媒は、一般に後続の合成反応工程を妨害しない。Decalin(登録商標)が存在しない状態では、クメンアルコール含有率は、2.0%PARより高くなる。光学活性エポキシアルコール生成物中にクメンアルコールが非常に高濃度で存在すると、目標化合物合成の後続の工程が妨害される恐れがある。この生成物留分はまた、DIPTをGC PARで0.2%より多く含み、これは、実施例2で通常観察された非検出レベルよりかなり高い。光学活性エポキシアルコール生成物中にDIPTが非常に高濃度で存在すると、合成の後続の工程が妨害される恐れがある。また、比較例1で観察されたのと同じように、ポット残渣液体ラインにポリマー状材料の形跡があった。
【0059】
(実施例9)
WFE、およびWFE操作後のDecalin(登録商標)充填
実施例8からの収集したバッチ蒸留留分および残渣材料を一緒にし、3容量のDecalin(登録商標)を充填し、バッチ蒸留操作を行う(表4、実験9)。収集したエポキシアルコール生成物留分は、DIPTレベルが、Decalin(登録商標)が存在しない状態で行われたもの(実施例8)よりかなり低くなるが、実施例2でのようにDecalin(登録商標)を充填してからWFE操作を行った場合に観察されたものより高くなる。再び、ポリマー状材料が、バッチ蒸留操作の間に観察される。
【0060】
表4に比較例1および実施例2〜9の結果を要約する。
【0061】
【表4】

実施例9のエポキシアルコールの値は、重量/重量ではなくGC PARに基づく。
【0062】
(実施例10)
溶媒の除去にWFEを使用
わずかに過剰なモル濃度の亜リン酸トリメチルを不斉反応溶液に添加して、推定量の残留クメンヒドロペルオキシドをクメンアルコールに転換する。反応混合物をろ過してモレキュラーシーブを除去する。ろ過済み反応溶液をワイパー式フィルム蒸発(WFE)ユニットに充填して、約85mmHg(a)および室温ジャケット条件で大部分のジクロロメタン溶媒を除去することによって反応溶液を濃縮する。WFEユニットを用いて反応溶液を濃縮すると、溶液の収率損失はGC PARに基づくと10%になる。蒸発(rotavap)またはバッチ蒸留によって行われた濃縮操作は、一般に同様の収率損失を生じた。
【0063】
(実施例11)
2−[(1S)−1−(2R)−オキシラニル−2−プロペニル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオンの合成
トリフェニルホスフィン(5.85g、1.05当量)のトルエン溶液にフタルイミド(1.03当量)を添加する。ジエチルジアゾカルボキシラート(DIAD、4.34mL、1.05当量)および(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オール生成混合物(エポキシアルコール2.2g、1.0当量)のトルエン溶液を、シリンジポンプによって周囲温度で2.5時間かけて添加する。反応物を1時間撹拌し、0℃に冷却し、t−ブチルメチルエーテルを添加する。1時間後、混合物をろ過し、ろ液を濃縮すると油状物になる。得られた油状物をトルエンに溶解し、一晩−25℃に冷却する。混合物をろ過し、ろ液を濃縮する。次いで、生成物をクロマトグラフィーにかけて、比較的きれいな生成物の留分を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性エポキシアルコール、有機ヒドロペルオキシド、および遷移金属−キラル配位子錯体エポキシ化触媒で構成される不斉エポキシ化反応混合物から光学活性エポキシアルコールを回収する方法であって、
(a)不斉エポキシ化反応混合物を還元剤と接触させて、実質的にすべての有機ヒドロペルオキシドを還元して還元されたエポキシ化反応混合物を生成すること、
(b)前記還元されたエポキシ化反応混合物をフィルム蒸発ユニットに添加し、該ユニットにて前記還元されたエポキシ化反応混合物を分離して残りの留分および光学活性エポキシアルコール蒸留留分を形成すること、および
(c)前記光学活性エポキシアルコール蒸留留分を蒸留して、精製された光学活性エポキシアルコールを生成すること含む、方法。
【請求項2】
前記還元剤が、亜リン酸トリメチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機ヒドロペルオキシドが、クメンヒドロペルオキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルム蒸発ユニットが、流下フィルム蒸発ユニットおよびワイパー式フィルム蒸発ユニットからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記不斉エポキシ化反応混合物を還元剤と接触させる前に、共沸溶媒を前記不斉エポキシ化反応混合物に添加することをさらに含み、ここで該共沸溶媒が前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記還元されたエポキシ化反応混合物を前記フィルム蒸発ユニットに添加する前または添加中に、共沸溶媒を前記フィルム蒸発ユニットに添加することをさらに含み、ここで前記共沸溶媒が、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記不斉エポキシ化反応混合物が反応溶媒をさらに含み、ここで前記混合物を還元剤と接触させた後で、前記還元されたエポキシ化反応混合物を前記フィルム蒸発ユニットに添加する前に、前記還元されたエポキシ化反応混合物が、少なくともいくらかの反応溶媒を除去することで濃縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記光学活性エポキシアルコールが、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤が、亜リン酸トリメチルであり、前記有機ヒドロペルオキシドが、クメンヒドロペルオキシドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の前またはその間に共沸溶媒を前記フィルム蒸発ユニットに添加することをさらに含み、ここで前記共沸溶媒が、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記共沸溶媒が、デカヒドロナフタレン、トリエチルベンゼン、エチルトルエン、1−フェニルヘキサン、1−フェニル−ヘプタン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン、およびC10〜C12の直鎖または枝分れ飽和炭化水素からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
2−[(1S)−1−(2R)−オキシラニル−2−プロペニル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオンを調製する方法であって、請求項8の方法に従って(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを不斉エポキシ化反応混合物から回収し、こうして回収された(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールをフタルイミドと接触させることを含む、方法。
【請求項13】
光学活性エポキシアルコールを製造する方法であって、
光学活性エポキシアルコールを生成する条件下で、アリル型アルコールを有機ヒドロペルオキシドおよび遷移金属−キラル配位子錯体エポキシ化触媒と反応溶媒中で接触させること、
還元剤を添加して、実質的にすべての前記有機ヒドロペルオキシドを還元して還元されたエポキシ化反応混合物を生成すること、
少なくともいくらかの反応溶媒を除去することで前記還元されたエポキシ化反応混合物を濃縮して、濃縮エポキシ化反応生成物を生成すること、
フィルム蒸発ユニットにおいて前記濃縮エポキシ化反応生成物を分離して、残りの留分および光学活性エポキシアルコール蒸留留分を形成すること、および
前記光学活性エポキシアルコール蒸留留分を蒸留して、精製された光学活性エポキシアルコールを生成することを含む、方法。
【請求項14】
前記還元剤を添加する前または添加後に共沸溶媒を添加することをさらに含み、ここで前記共沸溶媒が、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記還元されたエポキシ化反応混合物の濃縮後に共沸溶媒を添加することをさらに含み、ここで前記共沸溶媒が、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記有機ヒドロペルオキシドが、クメンヒドロペルオキシドである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記還元剤が、亜リン酸トリメチルである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記光学活性エポキシアルコールが、(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記還元剤が、亜リン酸トリメチルであり、前記有機ヒドロペルオキシドが、クメンヒドロペルオキシドである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記フィルム蒸発ユニットにおいて前記濃縮エポキシ化反応生成物を分離する前または分離と同時に、共沸溶媒を前記濃縮エポキシ化反応生成物に添加することをさらに含み、ここで前記共沸溶媒が、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記共沸溶媒が、デカヒドロナフタレン、トリエチルベンゼン、エチルトルエン、1−フェニルヘキサン、1−フェニル−ヘプタン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン、およびC10〜C12の直鎖または枝分れ飽和炭化水素からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
2−[(1S)−1−(2R)−オキシラニル−2−プロペニル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオンを調製する方法であって、請求項18の方法に従って(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールを不斉エポキシ化反応混合物から回収し、こうして回収された(2S,3R)−1,2−エポキシ−4−ペンテン−3−オールをフタルイミドと接触させることを含む、方法。
【請求項23】
光学活性エポキシアルコールを少なくとも70重量%、前記エポキシアルコールとの共沸混合物を形成する共沸溶媒を15重量%未満、クメンアルコールを0.05重量%〜2重量%にて含む、組成物。
【請求項24】
リン酸トリメチルをさらに含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
請求項1の方法に従って不斉エポキシ化反応混合物から回収される光学活性エポキシアルコール。
【請求項26】
請求項13の方法によって製造される光学活性エポキシアルコール。

【公表番号】特表2008−502730(P2008−502730A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527752(P2007−527752)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/020395
【国際公開番号】WO2005/123708
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(591002957)スミスクライン・ビーチャム・コーポレイション (341)
【氏名又は名称原語表記】SMITHKLINE BEECHAM CORPORATION
【Fターム(参考)】