説明

光学活性キラルアミンの調製方法

本発明は、例えば医薬製品の合成における中間体として使用できる光学的に純粋な二級アミンの製造に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、光学活性キラルアミンの調製方法に関する。
【0002】
キラルアミンは医薬、農業化学および化学工業において重要な役割を果している。それらは屡々、セファロスポリンまたはピロリジン誘導体のような種々の生理学的に活性な、例えば医薬的に活性な物質を製造するための中間体またはシントン(synthon)として使用される。キラルアミンの多くの種々の応用においては、(R)エナンチオマーまたは(S)エナンチオマーの何れか特定の光学活性形態だけが、望ましい生理学的活性を有している。従って、光学活性形態のキラルアミンを調製する方法を提供するための明瞭な必要性が存在している。
【0003】
これらの必要性は、キラルカルボン酸助剤の添加を介して、ジアステレオマー塩の結晶化によりキラルアミンを調製することによって部分的に満たされる(Breuer et al., Angewandte Chemie (2004) 116, 806-843)。他の化学的方法は、C=N二重結合を備えたプロキラル前駆体を還元することによるエナンチオ選択的合成を使用する。
【0004】
更に、プロテアーゼ、アミダーゼまたはリパーゼのような種々の酵素を使用して、ラセミ体を立体選択的に開裂することが知られている(Bornscheuer and Kazlauskas, Hydrolases in Organic Synthesis (2005), Wiley-VCH Weinheim)。また、特定のトランスアミナーゼ、即ち、α−アミノ酸アミノトランスフェラーゼを含むα−トランスアミナーゼが、光学的に純粋なアミノ酸の調製に適していることも知られている(Bartsch et al., Appl. Environm. Microbiol. (1996) 62, 3794-3799, Cho et al., Biotechnol. Bioeng. (2003) 83, 226-234, JP 011 53084 A2 (1998), JP 633 04986 A2 (1988), EP 0 248 357 A2 and Ziehr et al., Biotechnol. Bioeng. (1987) 29, 482-487)。しかし、これら先行技術の方法は種々の欠点を伴っている。酵素的プロセスは、古典的な方法とは対照的に、通常は好ましい温和な条件を用いて合理的な立体選択性を達成するが、それらは通常、その基質特異性、エナンチオ選択性および/または変換速度が工業的に適用可能なプロセスとして充分には高くない酵素を使用する。更に、光学活性アミンの調製にトランスアミナーゼを使用することの最も顕著な欠点の一つは、頻繁に観察される基質阻害および生成物阻害の現象によって代表される。従って、本発明の一つの目的は、光学活性キラルアミンを調製するための改善された方法、特に、改善された基質特異性、改善されたエナンチオ選択性を備え、特に遊離体(educt)の100%までの変換を可能にする方法を提供することである。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、下記のa)〜c)を含んでなる光学活性キラルアミンの調製方法を提供することによって、本発明の基礎にある技術的問題を解決するものである:a)アミノ受容体およびアミノ供与体を提供すること;b)該アミノ受容体およびアミノ供与体をトランスアミナーゼ、特に(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼと反応させることと;c)望ましい光学活性キラルアミンおよびα−ケトン副生成物を得ること。本発明の好ましい実施形態に従えば、工程c)で得た光学活性キラルアミンは、後続の更なる任意工程において、工程c)で得た反応混合物から単離および精製される。
【0006】
本発明の反応は、原理的には下記のスキームに従う:
【化1】

【0007】
従って、本発明は、アミノ供与体からアミノ受容体へのアミノ基のトランスアミノ化のために、少なくとも一つのトランスアミナーゼを使用することによって、キラルアミンの非対称合成のための方法を提供する。使用される特定のトランスアミナーゼのエナンチオ選択性に依存して、望ましい光学コンフィギュレーションの光学活性キラルアミン、即ち、(R)もしくは(S)エナンチオマーが得られる。こうして、本発明の一つの実施形態を使用することにより、非対称合成のための(S)選択的トランスアミナーゼは、キラルアミンの望ましい(S)エナンチオマーを発生するのに対して、本発明のもう一つの実施形態を使用すると、(R)選択的トランスアミナーゼは望ましい(R)エナンチオマーを発生する。望ましい光学活性アミンに加えて、この反応は、使用したアミノ供与体からのケトン副生成物、特にα−ケトン副生成物、並びに潜在的には未変換のアミノ受容体およびアミノ供与体をもたらす。
【0008】
本発明の関係において、トランスアミナーゼは、アミノ基の転移を触媒するピリドキサールリン酸依存性の酵素である。トランスアミナーゼは、E.C.2.6.1.Xに分類される。本発明の特に好ましい実施形態において、トランスアミナーゼは、(R)−または(S)−選択的トランスアミナーゼであり、特に好ましい実施形態においてはω−トランスアミナーゼである。
【0009】
本発明の関係において、ω−トランスアミナーゼは、好ましくは分類コードE.C.2.6.1.18をもった酵素である。これらのアミノトランスアミナーゼは、それらが基質として主にアミンを使用することを特徴とする。これらの酵素は更に、ω−トランスアミナーゼ触媒反応の1より大きい平行定数を示すことを特徴とする。本発明に従って使用され得るω−トランスアミナーゼは、例えば、Iwasaki et al., Biotechnol. Lett. (2003) 25, 1843-1846, Shin et al., Biotechnol. Bioeng. (1997) 55, 348-358, Shin and Kim, Book of Abstracts, 217th ACS National Meeting, Anaheim, Calif., March 21-25, (1999) 180, Shin and Kim, Biosc. Biotechnol. Biochem. (2001) 65, 1782-1788 and Shin and Kim, Biotechnol. Bioeng. (1998) 60, 534-540に記載されている。
【0010】
こうして、本発明の好ましい実施形態において、トランスアミナーゼ、特に、本方法に使用されるω−トランスアミナーゼは、特に、Vibrio fluvialis、特にJS17株から得られたω−トランスアミナーゼである。更に好ましい実施形態において、該トランスアミナーゼは、Alcaligenes denitrificans、特にY2k−2株由来のものである。更に好ましい実施形態において、該トランスアミナーゼは、Klebsiella pneumoniae、特にYS2F株由来のものである。更に好ましい実施形態において、該トランスアミナーゼは、Bacillus thuringiensis、特にJS64株由来のものである。株の名称については、上記のShin and Kim, 1998を参照されたい。勿論、本発明はまた、トランスアミナーゼ(特にω−トランスアミナーゼ)、トランスアミナーゼ(特にω−トランスアミナーゼ)を含有する微生物もしくは細胞のような生物の抽出物、またはトランスアミナーゼ(特にω−トランスアミナーゼ)を含んでなる生きたもしくは死んだ細胞もしくは微生物自身の用語の下でも理解される。このような微生物もしくは細胞、または抽出物もしくはトランスアミナーゼ酵素は、固定化された形態または非固定化形態で使用されてよい。トランスアミナーゼ、特にω−トランスアミナーゼはまた、組換えにより製造された天然に存在するかまたは遺伝子的に修飾されたトランスアミナーゼ、特にω−トランスアミナーゼであってよく、これは上記で述べた生物またはその均等物の一つに含まれる核酸配列、またはその誘導体により部分的または完全にコードされる。
【0011】
本発明の関係において、光学活性キラルアミンの用語は、エナンチオマー的に活性なキラルアミンの用語と同じ主題に関する。これらの用語は、特に、望ましくないエナンチオマーを実質的に含まないか、更に好ましい実施形態では望ましくないエナンチオマーを含まない調製品に関する。従って、光学活性キラルアミンは、実質的に、一方のエナンチオマーを過剰に含んでなるか、または一方のエナンチオマーのみからなるものである。
【0012】
特に、本発明の関連において、光学活性キラルアミンは少なくとも70%、特に90%以上、最大では>99%の光学純度を有する。
【0013】
本発明において、光学純度は、一方のエナンチオマーの他方のエナンチオマーに対する過剰%で与えられる。従って、%での光学純度は、(R)エナンチオマー濃度と(S)エナンチオマー濃度の差と、両エナンチオマー濃度の合計との商である[%でのAの光学純度=([A]−[B]):([A]+[B])×100であり、ここでのAおよびBは(R)および(S)エナンチオマーの濃度である。逆も同様]。
【0014】
本発明において、アミノ受容体は、少なくとも40、50、60、70、80、90、95、特に100%の変換率で、望ましいキラルアミンに変換されることが好ましい。光学純度および変換率を解析するための濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、または光学法もしくは蛍光法を用いて決定することができる。
【0015】
本発明において、アミノ受容体は、トランスアミナーゼ、特にω−トランスアミナーゼによってアミノ供与体から転移されるアミノ基を受容することができる分子である。本発明の特に好ましい実施形態において、アミノ受容体はケトン官能基を含んでいる。本発明の特に好ましい実施形態において、アミノ受容体は、フェニルピルビン酸、その塩、ピルビン酸、その塩、アセトフェノン、2−ケトグルタレート、3−オキシブチレート、2−ブタノン、3−オキソピロリジン(3−OP)、3−ピリジルメチルケトン(3−PMK)、3−オキソ酪酸エチルエステル(3−OBEE)、3−オキソペンタン酸メチルエステル(3−OPME)、N−1−boc−3−オキソピペリジノン、N−1−boc−3−オキソピロリジン(B3OP)、3−オキソ−ピペリジン、アルキル−3−オキソ−ブタノエート、メトキシアセトンおよび1−オキソテトラロンからなる群から選択される。
【0016】
特に好ましい実施形態において、アミノ受容体はB3OPである。
【0017】
本発明において、アミノ供与体は、トランスアミナーゼ、特にω−トランスアミナーゼを使用してアミノ基をアミノ受容体へと提供できる分子である。特定の好ましい実施形態において、アミノ供与体はアミンまたはアミノ酸である。
【0018】
特に好ましい実施形態において、アミノ供与体は、β−アラニン、アラニン、特にD,L−アラニン、L−アラニンもしくはD−アラニン、α−メチルベンジルアミン(α−MBA)、グルタメート、フェニルアラニン、グリシン、3−アミノブチレート、イソプロピルアミン、2−アミノブタン、γ−アミノブチレート、およびそれらの何れかの塩、例えば塩化物からなる群から選択される。特に好ましい実施形態において、得られたケトン生成物は、フェニルピルビン酸、その塩、ピルビン酸、その塩、グリオキシル酸、その塩、アセトフェノン、2−ケトグルタレート、アセトン、3−オキソブチレート、2−ブタノン、3−オキソピロリジン(3−OP)、3−ピリジルメチルケトン(3−PMK)、3−オキソ酪酸エチルエステル(3−OBEE)、3−オキソペンタン酸メチルエステル(3−OPME)、N−1−boc−3−オキソピペリジノンおよびN−1−boc−3−オキソピロリジン(B3OP)、またはこれらの何れかの塩、例えば塩化物であってよい。
【0019】
特に好ましい実施形態において、アミノ供与体はアラニン、特にL−アラニンである。
【0020】
更に好ましい実施形態において、本発明は、光学活性キラルアミンを調製する方法に関し、該キラルアミンは光学活性アミノ基を有する一群のアミン、特にアルキル基、分岐アルキル基、またはアリールアルキル基を備えたアミンから選択される。特に、これらのアミン(特に単環式または二環式のアミン)は、特に5員もしくは6員の環式、またはS−置換、O−置換もしくはN−置換のへテロ環式炭化水素または芳香族アミン、特にアルキル置換もしくはアルコキシ置換芳香族アミンである。好ましい実施形態において、得られるキラルアミンは、フェニルアラニン、アラニン、3−アミノピペリジン、アルキル−3−アミノ−ブタノエート、3−アミノピロリジン(3−AP)、3−ピリジル−1−エチルアミン(3−PEA)、N−1−boc−3−アミノピロリジン(B3AP)、3−アミノ酪酸エチルエステル(3−ABEE)、3−アミノペンタン酸メチルエステル(3−APME)、α−メチルベンジルアミン(α−MBA)、1−アミノテトラリン、α−メチル−4−(3−ピリジル)−ブタンアミン、グルタメート、β−アミノブチレート、sec−ブチルアミン、メトキシイソプロピルアミン、3−アミノピロリジンの誘導体、1−N−Boc−3−アミノピペリジン、セファロスポリン、およびセファロスポリンの誘導体からなる群から選択される。
【0021】
従って、特に好ましい実施形態において、本発明は、3OPを、(S)−もしくは(R)−選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体と反応させて、光学活性の(S)もしくは(R)−3APを得ることを予測している。
【0022】
更に好ましい実施形態において、本発明は、3−PMKを、(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体と反応させて、光学活性の(R)−もしくは(S)3−PEAを得ることを予測している。
【0023】
更に好ましい実施形態において、本発明は、3−OBEEを、(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体と反応させて、光学活性の(R)もしくは(S)3−ABEEを得ることを予測している。
【0024】
更に好ましい実施形態において、本発明は、3−OPMEを、(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体と反応させて、光学活性の(R)もしくは(S)3−APMEを得ることを予測している。
【0025】
更に好ましい実施形態において、本発明は、B3OPを、(R)もしくは(S)選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体、特にアラニンと反応させて、光学活性の(R)もしくは(S)B3APを得ることを予測している。
【0026】
更に好ましい実施形態において、本発明は、光学活性のB3APおよびピルベートを得るための、トランスアミナーゼの存在下での、B3OPとアミノ供与体、特にアラニンとの間の反応に関し、ここでの反応は、5.0〜9.5、好ましくは6.0〜7.0、特に6.0〜6.9のpHにおいて、30〜70分、特に40〜65分、特に50〜60分の間行われる。
【0027】
特に好ましい実施形態において、前記トランスアミナーゼは、(R)−選択的トランスアミナーゼである。更なる好ましい実施形態において、前記トランスアミナーゼは(S)−選択的トランスアミナーゼである。
【0028】
好ましい実施形態において、前記B3OPのアミノ供与体、特にアラニンとの反応は、少なくとも一つのピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)の存在下で行われる。更なる好ましい実施形態において、少なくとも一つのピルベートデカルボキシラーゼの存在下での前記B3OPとアミノ供与体、特にアラニンとの反応は、PDCの作用によりピルベートから形成されたアセトアルデヒドを除去するために、反応混合物中にガス状窒素を同時に導入しながら行われる。
【0029】
更なる好ましい実施形態において、少なくとも一つのピルベートデカルボキシラーゼの存在下での前記B3OPとアミノ供与体、特にアラニンとの反応は、PDCの作用により形成されたピルベートから得られたアセトアルデヒドを除去するために、少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在下で行われる。
【0030】
更なる好ましい実施形態において、少なくとも一つのピルベートデカルボキシラーゼの存在下でのB3OPとアミノ供与体、特にアラニンとの反応は、同時にガス状窒素を反応混合物中に導入しながら行われ、ここではPDCの作用により形成されたピルベートから得られたアセトアルデヒドを除去するために、少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼが前記反応混合物中に存在せしめられる。
【0031】
本発明の更なる好ましい実施形態において、本発明は、アセトフェノンを、(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼおよびアミノ供与体と反応させて、光学活性の(R)もしくは(S)α−MBAを得ることを予測している。
【0032】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、アミノ受容体として、特に単環式もしくは二環式のオキソ基を含有する5〜6員の環状、またはS−、O−もしくはN−置換のヘテロ環炭化水素もしくは芳香族、特にアルキル−もしくはアルコキシ−置換芳香族を、アミノ供与体および(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼと反応させて、光学活性アミン、特に単環式もしくは二環式の、特に5〜6員の環状、またはS−、O−もしくはN−置換のヘテロ環炭化水素もしくは芳香族アミン、特にアルキル−もしくはアルコキシ−置換芳香族アミンを、特に(S)もしくは(R)形態で得ることを予測している。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態においては、アミノ受容体およびアミノ供与体が水性媒質、例えば生理学的緩衝液中においてトランスアミナーゼと反応される。特に好ましい実施形態において、アミノ基転移反応は、5.0〜9.5または5.0〜9.0、特に7〜8.5.の範囲のpHにおいて行われる。本発明は、特に好ましい実施形態において、アミノ受容体およびアミノ供与体を、6.0〜7.0、好ましくは6.0〜6.9のpH値において反応させることを予測している。
【0034】
特に好ましい実施形態において、当該反応は、10〜65℃、好ましくは20〜50℃、特に18〜25℃、好ましくは室温または34℃〜39℃の温度範囲、特に37℃で行われる。本発明の更なる好ましい実施形態において、アミノ受容体およびアミノ供与体 は、1:50〜1:200、特に1:50〜1:100、特に1:100、特に1:1〜1:5、特に1:1〜1:2のモル比で提供される。本発明の好ましい実施形態において、酵素活性は1〜20.000μmol/minであってよい。
【0035】
更なる好ましい実施形態において、当該反応は30〜70分、好ましくは40〜65分、特に50〜60分の時間行われる。
【0036】
特に好ましい実施形態において、本発明は、上記に従う光学活性キラルアミンの調製方法に関し、これに従えば第一の工程a)において、アミノ受容体およびアミノ供与体が準備され、第二の工程b)において、アミノ受容体およびアミノ供与体は少なくとも一つののω−トランスアミナーゼと反応させられ、第三の工程c)においては、光学的に純粋なキラルアミンおよびα−ケトン副生成物を得、ここで更なる工程d)において、工程c)で得られたケトン副生成物、特にα−ケトン副生成物が、得られた反応混合物から除去され、特に、酵素との反応によって除去されるが、これは特にデカルボキシラーゼ、シンターゼまたはデヒドロゲナーゼからなる群から選択される酵素を使用した酵素的開裂によるることを意味する。
【0037】
特に好ましい実施形態において、工程c)で得られたケトン生成物、特にピルベートは、例えばSaccharomyces cerevisiae、Zymomonas mobilis またはZymobacter palmae由来のピルベートデカルボキシラーゼ(PDC)との反応によって除去され、それによって好ましくはアセトアルデヒドおよびCOを産生する。
【0038】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートがPDCの作用によって除去され、またそれによって形成されたアセトアルデヒドは、例えば化学的、酵素的または物理的処理によって除去される方法に関する。
【0039】
更になる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートがPDCの作用によって除去され、またそれにより形成されたアセトアルデヒドが、例えばガス状窒素を反応混合物中に供給することによって除去され、好ましくは前記ガス状窒素を連続的に前記反応混合物中に供給して、前記アセトアルデヒドを反応混合物から除去する方法に関する。
【0040】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートがPDCの作用により除去され、またそれにより形成されたアセトアルデヒドが、該アセトアルデヒドを少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)と反応されて、前記アセトアルデヒドが反応混合物から除去され、それをエタノールに変換される方法に関する。
【0041】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートが、PDCの作用によって除去され、またそれによって形成されたアセトアルデヒドが、前記反応混合物に減圧を加えることによって除去される方法に関する。
【0042】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートがPDCの作用により除去され、またそれにより形成されたアセトアルデヒドが化学反応により除去される方法に関する。
【0043】
更なる好ましい実施形態において、本発明は、得られたケトン生成物、特にピルベートがPDCの作用により除去され、またそれにより形成されたアセトアルデヒドが、前記反応混合物中にガス状窒素を供給すること、好ましくは、前記ガス状窒素を連続的に前記反応混合物中に供給することによって除去され、加えて、前記アセトアルデヒドが少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)と反応されて、前記アセトアルデヒドが前記反応混合物から除去され且つそれがエタノールに変換される方法に関する。
【0044】
更なる好ましい実施形態においては、工程c)で得られたケトン生成物、特にピルベートが、例えば大腸菌(Escherichia coli)由来のラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)との反応により除去され、それによって好ましくはL−ラクテートを生じる。
【0045】
更なる好ましい実施形態において、工程c)で得られたケトン生成物、特にピルベートは、例えば大腸菌(Escherichia coli)由来のラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)との反応により除去され、それによって好ましくはL−ラクテートを生じる。
【0046】
更なる好ましい実施形態において、工程c)で得られたケトン生成物、特にピルベートは、アセトラクターゼシンターゼとの反応により除去され、それにより好ましくはアセトラクテートを産生する。
【0047】
本発明の更に好ましい実施形態において、工程c)において得られたケトン生成物、特にピルベートは、反応混合物から連続的に除去される。
【0048】
これらの特に好ましい実施形態は、本発明の副生成物としてのケトン生成物が平衡反応から除去されるので、特に高い変換率を得る利点を提供する。該反応は生成物の方向に向けて駆動され、それにより高い立体選択性で、望ましい生成物への非常に高い変換率を提供する。
【0049】
本発明はまた、特に、3−アミノピロリジン誘導体、セファロスポリン、セファロスポリンの誘導体、ヘテロ環状ホウ素酸、L−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−ドーパ)、α−メチルドーパ、D−フェニルグリシン、β−ヒドロキシフェニルグリシン、ホスフィノトリチン(phosphinothricine)、ピリミド誘導体 およびピロリドン誘導体からなる群から選択される生理学的に活性な化合物もしくはそれらの前駆体、および/またはその製造における中間体の調製方法であって、上記で特定した本発明の方法の何れかが用いられる方法に関する。本発明の関係において、生理学的に活性な化合物とは、植物、動物、ヒト、酵母、またはプロトゾア、バクテリアもしくはウイルスのような微生物の何れかにおいて生理学的に活性な、即ち、当該生物の代謝と相互作用する化合物である。
【0050】
本発明の更に好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0051】
以下の実施例および添付の図面において、本発明を更に詳細に説明する。
【0052】
添付の図面は、本発明を例示するものである。
【0053】
実施例1:B3APの不斉合成
B3APの不斉合成は、1.5mLの反応管内で行われた。アミン受容体としてのB3OPは、5mM(7,5μmol)の濃度で使用された。使用されたアミノ供与体であるL−アラニンの濃度は5mMであった。使用した試薬および反応条件は、下記の表Iから明らかである。
【0054】
表1:アラニンからB3OPへのアミへとアミノ基を転移させるために(S)−ωトランスアミナーゼを使用した、不斉(S)−B3AP合成のための反応条件
【表1】

【0055】
使用した緩衝液は、50mMのリン酸ナトリウム、pH7であった。TA7は、ビブリオ・フルヴィアリス(Vibrio fluvialis)由来のω−トランスアミナーゼ(Juelich Fine Chemicals, Germany)を意味する。TA8は、アルカリゲネス・デニトリフィカンス(Alcaligenes denitrificans)由来のωトランスアミナーゼ(Julich Fine Chemicals, Germany)を意味する。ラクテートデヒドロゲナーゼとしては、大腸菌(Escherichia coli)の抽出物を使用した。NADHは、10mMの最終濃度まで添加された。ピルベートデカルボキシラーゼの濃度は変化された。1.5単位(20μL)および15単位(200μL)のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のピルベートデカルボキシラーゼ(PDC1)を使用した。2単位(3.4μL)および20単位(34μL)の、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)のピルベートデカルボキシラーゼ(PDC2)を使用した。
【0056】
表2:B3APの不斉合成のためにTA8を使用して得られた変換率および光学純度。計算はGC分析に基づいて行った。
【表2】

【0057】
次に、上記の表2を参照すると、ω−トランスアミナーゼTA8を使用した6回のランの各々において、得られた(S)−B3APについての非常に高度の光学純度を達成できたことが明らかである。また、TA7またはTA8の何れを使用するかとは独立に、反応の平衡が影響されなければ、変換の程度は中程度に過ぎなかった(ラン1)。10〜50倍過剰のアラニンを使用することは、変換率を僅かに改善するに過ぎなかった。ラン3,4,5および6において、ピルベートを意味するケトン生成物は、トランスアミノ化反応の間、平衡反応から除去された。大腸菌由来のラクテートデヒドロゲナーゼと共にTA8を使用すること(ラン6)は、極めて改善された変換率を導く一方で、エナンチオ選択性を維持し、更には改善した。ザイモモナス・モビリス由来のピルベートデデカルボキシラーゼ(ラン3〜5)によって与えられるエナンチオ選択性についても、本質的に同じ有効性が維持される。しかし、24時間反応されたときは、PDC1は変換率を僅かに増大させたに過ぎず、PDC2は変換率を温和に増大させた(ラン4)のに対して、72時間の反応においては、変換率は劇的に改善された。全ての反応は、72時間行われたラン5を除き、24時間行われた。
【0058】
図は、表1に従って行われた反応の薄層クロマトグラムを示している。「A」は、アルカリゲネス・デニトリフィカンス由来のω−トランスアミナーゼを示しているのに対して、「V」は、ビブリオ・フルヴィアリス由来のω−トランスアミナーゼを示している。「K」は、Ta7またはTA8を単独で使用したラン1を示している(ラン1)。PDC1は、サッカロマイセス・セレビシエのデカルボキシラーゼを用いたランを示し(ラン3)、LDHは、大腸菌由来のラクテートデヒドロゲナーゼを用いたランを示し(ラン6)、またPDC2は、ザイモモナス・モビリス由来のピルベートデカルボキシラーゼ(24時間後および72時間後)を用いたランを示している(ラン4および5)。こうして、これらの結果は、プロキラルケトンB3OPからの(S)−B3APの生成が、非常に高いエナンチオ選択性で実施できたことを明瞭に示している。しかし、調製プロセスにおいてω−トランスアミナーゼを単独の酵素として使用することは、温和な変換を導く。この温和な変換率は、特にラクテートデヒドロゲナーゼまたはピルベートデカルボキシラーゼを使用して、平衡状態からピルベートを除去することによって一般に改善することができた。ピルベートデカルボキシラーゼを使用することは、特に、補因子循環(NSDH)が必要でないという利点を有する。それは更に、有利なことにPDCを用いたピルベートの酵素的除去を提供し、それによって生成物阻害(生成物ケトン)を除去または回避し、反応平衡を右側に引っ張って、より高い変換率(理想的な場合は100%)を達成する追加の利点を提供する。
【0059】
実施例2:(S)−αMBAのアセトフェノンへの変換反応におけるω−トランスアミナーゼ活性のpH依存性
この合成は、石英キュベット内において、50μLの100mMピルベート、4単位/mLのω−TAビブリオ・フルビアリス(V. fluvialis:以下ではVflともいう)(12μL)および388μLのリン酸ナトリウム緩衝液(50mM)を用い、pH6.0〜pH7.4のpH変動を用いて、0.2段階で実行された。該反応は、アミノ供与体として50μLの100mM(S)−αMBAを用いて開始され、250〜260nmでの吸収の増大が測定された。この吸収の増大は、形成されたアセトフェノンによるものである。他の基質は、吸収に対して微々たる寄与しか有していないので、反応の速度はアセトフェノンの吸収を測定することによって決定することができる。pH7.4に達した値が100%に設定され、他のpH値についての相対的活性は、図2から明らかなようにして計算された。図2は、与えられたpH値に従属した、V. fluvialis・ω−TAの相対的活性を示している。
【0060】
図2は、6.0、6.2、または6.4のようなより低いpH値において、未だかなりの活性が存在すること、例えばpH6.0では11%の活性が存在することを示している。従って、この結果は、低pHでも有意なトランスアミナーゼ活性を得ることが可能であり、基質を低pHで反応させることを可能にすること、またより高いpH値に対して感受性であるPDCを使用することによって変換率を増大させることが可能であることを示している。
【0061】
実施例3:異なるpH値でのB3APの不斉合成
この実施例では、ピルベートデカルボキシラーゼ(PDC)の存在下および不存在下での、アラニンおよびB3OPからのB3APの不斉合成が示される。
【0062】
各pH値6.0、6.4および7.0について、3回の実験ランが行われた。ラン1はザイモモナス・モビリスのPDC(野生型細胞抽出物)を使用し、ラン2は、ザイモモナス・パルマエ(大腸菌中での組換え)を使用し、ラン3はPDCを伴わずにトランスアミナーゼだけを使用した対象であった。比較可能な結果を得るために、両方のPDCの活性が、アルコールデヒドロゲナーゼ検定を用いてpH6で決定され、また同じ量のPDC活性が上記で特定されたランにおいて使用された。
【0063】
表3は、使用された物質の容積をμLで与えている。各反応ランは、6.0、6.4および7.0のpH値において3回行われた。pH値は、B3OP基質溶液の緩衝剤によって調節された。PDCの活性は、pH7において約2.5単位/mLであった。また、基質濃度および酵素濃度は下記の表3から明らかである。10分、30分、60分および120分後に、100μLのサンプルを採取し、100μLの1M・NaOHの添加により反応を停止させた。B3AP濃度の定量はCE(キャピラリー電気泳動)を使用して行われた。
【表3】

【0064】
下記の表4は、異なるPDCについて、異なるpH値での変換率を示している。PDCの使用が変換率を増大させることが明らかである。Z.palmae(Zpa)は、Z.mobilis(Zmo)由来のPDCよりも幾分高い変換率を生じることも明らかである。また、より低いpH値、例えば6.0または6.4では、PDCを用いるランにおいて顕著な変換率増大が観察され、これはPDCを含まない対照では見られないことも明らかである。全ての反応ランにおいて、120分後に変換率が減少することを観察することができるであろう。
【表4】

【0065】
実施例4:不斉合成反応の種々の反応体の存在下でのB3APの安定性
種々の反応体の存在下におけるB3APの安定性を示すために、下記の表5に列記した種々の物質の存在下での1mMのB3APのインキュベーションを、反応管内で3時間行った。
【0066】
この実施例は、6および7のpH(リン酸ナトリウム緩衝液)において実施された。物質を反応させた直後に、第一のサンプルTを採取し、3時間後にもう一つのサンプルTを採取した。抽出の後に、CEにより、内部標準(αMBA)を用いてアミン濃度を決定した。得られた濃度の差から、B3AP濃度の減少%を計算した(図3参照)。
【表5】

【0067】
図3から、異なる反応体は、B3APP濃度に有意に影響しないことが明らかである(ラン1〜9)。反応ラン11〜13は、アセトアルデヒドの影響を示している。ラン11からは、トランスアミナーゼの不存在下ではB3AP濃度の低下がないのに対して、トランスアミナーゼおよびアセトアルデヒドの存在下では、B3AP濃度の強い低下が観察され得ることが明らかである。アセトアルデヒドは、トランスアミナーゼ反応において、ピルベートのようなアミノ受容体として機能し、明らかにB3AP濃度の減少を導く。
【0068】
実施例5:アミノ受容体であるピルベートおよびアセトアルデヒドとの、B3APの反応
この実施例では、基質B3APおよびピルベートについて、並びにB3APおよびアセトアルデヒドについての、V. fluvialis およびA. denitrificansのω−TAのトランスアミナーゼ活性が示される。
【0069】
2mMのB3APを、2mMのピルベートまたは2mMのアセトアルデヒドと反応させた(2単位/μLのトランスアミナーゼに対応して、0.5μLの反応容積当たり36μLのAlcaligenes denitrificans (Ade)または6μLのVibrio fluvialis (Vfl)-トランスアミナーゼを30分間反応させた)。図4はその結果を示している。従って、両方の酵素によって、ピルベートおよびアセトアルデヒドの両方を用いて、何等の有意な差を伴わずに、B3APはB3OPに変換された。
【0070】
実施例6:pH6の減圧下でのB3APの不斉合成
この実施例では、不斉合成反応のための反応混合物に減圧が適用されて、B3APが形成された。対照として、同じ反応を正規圧においてPDCなしで行った。
【0071】
反応条件:
最終容積:1.5mL
50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6
300μLのVibrio fluvialis-トランスアミナーゼ
60μLのZpa−PDC(pH7での8単位/mLに対応する)
5mMのB3OP
10mMのD,L−アラニン
0.1mMのTPP、PLP
5mMのMgCl
減圧は、ロータリーエバポレータを使用して適用された(150mBar)。測定は、CEを使用して行った。
【0072】
図5は、種々の圧力についての、B3OPのB3APへの経時的な変換を示している。この変換は、適用される圧力から殆ど独立であることが明らかである。150mbarの圧力での変換は、到達した最大変換率に関しては、1000mばrの圧力での変換と同様であった。
【0073】
実施例7:種々のピルベートデカルボキシラーゼの比較
この実施例では、三つの異なるピルベートデカルボキシラーゼを使用した。この反応条件は、7のpHを使用した場合を除き、実施例6のものに対応している。Z. mobilis、Z. palmae由来のPDC、並びにバイオキャタリティクス社から得たPDC(カタログ番号PDC−101)を使用した。ADH検定におけるPDCの活性は同一であった(1.6単位/mL)。
【0074】
図6は、三つの全てのPDCは本質的に同等の変換をもたらすことを示している。
【0075】
実施例8:B3OPの3APへの変換に対する、酵素および共基質の濃度の影響
この実施例では、アラニンをアミノ供与体として使用したB3OPのB3APへの変換に対する、PDCの濃度の影響が示される。更に、B3OPのB3APへの変換に対するアラニン濃度の影響が示される。
【0076】
反応条件は、7のpHが使用されたことを除き、また他に言及しなければZymobacter palmae由来のTAが使用されたことを除き、実施例6に与えられている。
【0077】
図7から明らかなように、PDCなしの反応では、アラニン濃度の5mMから25mMへの5倍の増大は、2倍の変換率をもたらす(2時間後、5.3%に対して12%)。PDCの存在においては、5倍アラニン過剰での変換率は2倍に増加する(90分後に、17%に対して30%)。通常のアラニン濃度において、PDCの量が1.6単位/mLから50単位/mLにまで増大する場合、変換率もまた増大するが、倍率は<2に過ぎない(40分後、17%に対して29%)。
【0078】
更なる実験ランでは、6および7のpHにおいて、アラニン過剰およびPDC過剰の組合せによる影響が示された。該反応はpH6においてより速い一方、49%の変換率に達した後には、B3AP濃度もまたより速く減少する。pH7においては、変換率は56%まで増大した。
【0079】
実施例9:B3APの不斉合成に対するアラニン濃度の影響
四つの反応において、5mM、25mM、110mM、300mMおよび500mMのアラニン濃度が使用された。各ランについて、PDCを伴わない一つの対照およびPDCを伴った一つの反応が行われた。pH値は7.0に調節された。サンプルは、3時間の反応時間について半時間ごとに採取された。図8に与えられた変換のための反応時間は、5mMについて40分、25mMについて60分、110〜500mMについて90分であった。
【0080】
図8は、増大したアラニン濃度における不斉B3AP合成の変換を示している。
【0081】
図8は、変換率が60〜70%に達し得ることを明瞭に示している。アラニン濃度を25mMから110mMに増大させることは、B3OPからB3APへの変換に対して顕著な影響を有すること、および更に500mMにまで増大させることは、変換率に対して僅かにしか影響しないことが明らかである。変換率に対するPDCの影響は、アラニン濃度を増大させるに伴って減少する。
【0082】
対照反応のデータから、B3AP合成の平衡常数は次のように計算される:
[B3AP]=[Pyr]
[B3OP]=C0,B3OP−[B3AP]
[Ala]=C0,Ala−[B3AP]
従って、測定されたB3AP濃度を使用して、平衡常数は次のように計算された:
【表6】

【0083】
表6は、計算された値を示している。従って、B3APとの反応についての平衡常数は、3.1×10−3である。従って、基質B3OPは、他のケトンとは対照的に、不斉合成のための適切な基質である。
【0084】
実施例10:B3APの不斉合成に対するPLPの影響
この実施例では、B3OPのB3APへの変換に対するPLP(ピリドキサール−5’−リン酸)の影響が示される。以下の三つの反応ランが試験された。
【0085】
a) 更なるPLPの添加なしで、0.1mMのPLPを使用するラン1
b) ラン2では、反応の最中に、反応媒質中のPLPの存在に起因する黄色の発色が消失したら直ちにPLPを追加した。この目的のために、1〜2μLの飽和PLP溶液を添加し、それによって強い黄色の発色を再度達成する。この僅かな容積の増大を介してのアミン濃度に対する影響は1%未満と看做され、従って無視することができる。
【0086】
c)PLPは存在せず、またPLPは追加されない。
【0087】
反応条件:1mLの最終容積、37μLのVfl−トランスアミナーゼ、5mMのB3OP、リン酸緩衝液pH7.0。L−アラニン濃度は110mMであった。測定はCEにより行われ、α−MBAが内部標準として使用された。
【0088】
図9は、経時的な変換を示している。ランa)と比較したときに、ランb)でのPLP添加に起因した最大変換に対する有意な影響はないように見える。PLPを伴わない反応は更に遅いように思えるが、それは他の反応と同じ変換率に達した。ランb)におけるPLPの追加は、対照ランと比較したときに、アミン濃度における僅かに大きな減少を生じた。
【0089】
実施例11:窒素の添加によるアセトアルデヒドの除去を伴った、B3APの不斉合成
以下の実施例は、アセトアルデヒドの除去により、B3APの不斉合成の変換率を改善するための一つの方法を詳述している。
【0090】
反応条件:
基質
5mMのB3OP
500mMのL−アラニン
32U/mLのZpa−PDC
37U/mLのVfl−トランスアミナーゼ
リン酸ナトリウム緩衝液pH7.0
0.1mMのPLPおよびTPP(チアミン二リン酸)
5mMのMgCl
反応溶液は有意な量のタンパク質を含んでいたので、発泡する強い傾向があった。該発泡を抑制するために、0.6μLの消泡剤A濃縮物(シグマ社、シリコーンポリマー)を当該反応ランに添加した。該濃縮物は泡の発生を大幅に抑制したが、それを完全に阻止することはできなかった。前記消泡剤濃縮物が酵素を阻害するのを排除するために、窒素の添加を伴わない対照ランに消泡剤Aを補充した。
【0091】
乾燥窒素の添加は反応油応益からの水の蒸発を導くので、窒素は湿潤化された。
【0092】
図10は、計算された相対的なB3AP変換率を示している。消泡剤Aを伴い且つ窒素を添加しない対照(N−対照:Vfl−TA、Zpa−PDC、消泡剤、窒素Nなし)は、消泡剤Aを伴わない反応ラン(Vfl−TA、Zpa−PDC)に正確に対応した。従って、酵素は消泡剤濃縮物の添加によって影響されない。窒素で処理されたラン(ランN:Vfl−TA、Zpa−PDC、消泡剤、N)は、60、90および180分後に増大した変換を示した。
【0093】
実施例12:種々の条件下での不斉B3AP合成
反応条件
最終容積:1mL
37μLのVfl−トランスアミナーゼ
32単位/mLのZpa−PDCもしくは生体触媒PDC、または3.2単位/mLのZmo−PDC
5mMのB3OP
500mMのL−アラニン
補因子、0.1mMのPLPおよびTPP、5mMのMgCl
pH7、リン酸ナトリウム
図10は、Vfl−トランスアミナーゼを各PDCと組合せる上記で特定した反応ランについての、B3OPのB3APへの変換を示している。
【0094】
図10において、N2で指定されたランは、N2で処理されたVfl−トランスアミナーゼおよびZpa−PDC、並びに消泡剤Aを含んだランである。N2対照は、窒素処理を伴わない、Vfl−トランスアミナーゼ、Zpa−PDCおよび消泡剤Aを含んだサンプルである。反応溶液中に供給された窒素の存在に起因して、N2対照からN2サンプルには、変換の有意な増大が存在することが明らかである。従って、ガス形態で窒素を反応媒質中に供給することは、B3OPからB3APへの変換を有意に増大させる。
【0095】
実施例13:アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の存在下でのB3APの不斉合成
PDC反応により生成したアセトアルデヒドを反応混合物から除去するために、ADHを使用して、アセトアルデヒドをエタノールに変換することができる。
【0096】
反応条件
110mMのL−アラニン
5mMのB3OP
37μL/mLのVfl−トランスアミナーゼ
32単位/mLのZpa−PDC
0.1mMのPLPおよびTPP
5mMのMgCl
リン酸ナトリウム緩衝液、pH7
以下の反応ランが示される:
反応ラン1:PDCおよびトランスアミナーゼとの反応
反応ラン2:5mMのエタノール(最終濃度)およびNADHを添加した、PDCおよびトランスアミナーゼとの反応
反応ラン3:PDC、ADHおよびNADHとの反応
使用したADHは、50〜100単位/mLの活性をもったSaccharomyces cerevisae由来のADHであった。PDC活性は32単位/mLであった。
【0097】
反応の開始時に、アブソリュートエタノールを5mMの最終濃度で反応ラン2に添加した。反応の開始時に、5mMのNADH最終濃度に対応して、5μmolのNADHを反応ラン2および3に添加した。各10分後に、2.4μmolの更に追加のNADH(50mMリン酸緩衝液、pH8.5中の、4μLの0.6M・NADH溶液)を添加した。このNADH溶液は氷中に保存され、使用の直前に調製された。
【0098】
この結果は、図11および表5に与えられる。ADHの効果が明瞭に示されている。変換率は約90%にまで増大する。ADHおよび5mMエタノールを伴わない対照ラン2は、対照ラン1から僅かに偏移したに過ぎない。従って、ADHの添加は、B3OPからのB3APの不斉合成における変換率を大幅に増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、薄層クロマトグラムを示している。
【図2】図2は、pH値から独立した、V. fluvialis・ω−TAの相対的活性を示している。
【図3】図3は、種々の基質と共にインキュベーションするためのB3AP濃度の相対的低下を示している。
【図4】図4は、ピルベートおよびアセトアルデヒドの存在下でのB3AP変換の相対低低下を示している。
【図5】図5は、種々の圧力についての、B3OPのB3APへの経時的な変換を示している。
【図6】図6は、種々のPDC’sの存在下での、B3OPのB3APへの相対的な変換を示している。
【図7】図7は、不斉B3AP合成に対する、増大したアラニン濃度および増大したPDC濃度の効果を示している。
【図8】図8は、増大したアラニン濃度における、B3OPのB3APへの変換を示している。
【図9】図9は、PLPに依存した、B3OPのB3APへの相対的な変換を示している。
【図10】図10は、N圧に依存した、B3OPのB3APへの相対的な変換を示している。
【図11】図11は、ADHの存在下での、B3OPのB3APへの相対的な変換を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性キラルアミンの調製方法であって:
a)アミノ受容体およびアミノ供与体を準備することと;
b)該アミノ受容体およびアミノ供与体をトランスアミナーゼと反応させることと;
c)望ましい光学活性キラルアミンおよびケトン副生成物を得ること
を含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記トランスアミナーゼが、(R)−もしくは(S)−選択的トランスアミナーゼである方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、前記アミノ受容体が、フェニルピルビン酸、その塩、ピルビン酸、その塩、アセトフェノン、2−ケトグルタレート、3−オキソブチレート、2−ブタノン、3−オキソピロリジン(3−OP)、3−ピリジルメチルケトン(3−PMK)、3−オキソ酪酸エチルエステル(3−OBEE)、3−オキソペンタン酸メチルエステル(3−OPME)、N−1−boc−3−オキソピペリジノン、N−1−boc−3−オキソピロリジン(B3OP)、3−オキソ−ピペリジン、アルキル−3−オキソ−ブタノエート、メトキシアセトン、および1−オキソテトラロンからなる群から選択される方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法であって、前記アミノ供与体が、アミンもしくはアミノ酸からなる群から、特にβ−アラニン、アラニン、α−メチルベンジルアミン(α−MBA)、グルタメート、フェニルアラニンおよびγ−アミノブチレート、グリシン、3−アミノブチレート、イソプロピルアミン、2−アミノブタン、およびそれら何れか一つの塩、例えば塩化物から選択される方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、得られたアミンがアミン、特に単環式もしくは二環式アミン、特に5員もしくは6員の環式、またはS−置換、O−置換もしくはN−置換のへテロ環式炭化水素または芳香族アミン、特にアルキル置換もしくはアルコキシ置換芳香族アミンである方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、得られたアミンが、フェニルアラニン、アラニン、3−アミノピペリジン、アルキル−3−アミノ−ブタノエート、3−アミノピロリジン(3−AP)、3−ピリジル−1−エチルアミン(3−PEA)、N−1−boc−3−アミノピロリジン(B3AP)、3−アミノ酪酸エチルエステル(3−ABEE)、3−アミノペンタン酸メチルエステル(3−APME)、α−メチルベンジルアミン(α−MBA)、1−アミノテトラリン、α−メチル−4−(3−ピリジル)−ブタンアミン、グルタメート、β−アミノブチレート、sec−ブチルアミン、メトキシイソプロピルアミン、3−アミノピロリジンの誘導体、1−N−boc−3−アミノピペリジン、セファロスポリンおよびセファロスポリンの誘導体からなる群から選択される方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法であって、前記ω−トランスアミナーゼが、Vibrio fluvialis、Alcaligenes denitrificans、Klebsiella pneumoniae、またはBacillus thuringiensis由来である方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の方法であって、工程c)で得られる前記ケトン副生成物がピルベートである方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の方法であって、工程c)で得られる前記ケトン副生成物が、更なる処理工程d)において、少なくとも一つの酵素との反応によって前記反応混合物から除去される方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、工程d)で使用される前記酵素がデカルボキシラーゼである方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、工程d)で使用される前記酵素がシンターゼである方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、工程d)で使用される前記酵素がデヒドロゲナーゼである方法。
【請求項13】
請求項9または10の何れか1項に記載の方法であって、前記酵素がピルベートデカルボキシラーゼ(PDC)である方法。
【請求項14】
請求項9または12の何れか1項に記載の方法であって、前記酵素がラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)である方法。
【請求項15】
請求項9または11の何れか1項に記載の方法であって、前記酵素がアセトラクテートシンターゼである方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、前記PDCの作用によって形成された前記アセトアルデヒドが除去される方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記アセトアルデヒドが少なくとも一つの酵素との反応により除去される方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記酵素がアルコールデヒドロゲナーゼである方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、ガス状窒素を前記反応混合物中に供給することによって、前記アセトアルデヒドが除去される方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法であって、前記反応混合物に減圧を適用することによって、前記アセトアルデヒドが除去される方法。
【請求項21】
請求項16に記載の方法であって、前記アセトアルデヒドが化学的方法により除去される方法。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか1項に記載の方法であって、工程c)またはd)で得られた前記光学活性キラルアミンが、工程c)またはd)で得られた前記反応混合物から除去される方法。
【請求項23】
請求項1〜22の何れか1項に記載の方法であって、前記方法は、5.0〜9.5、好ましくは6.0〜7.0、好ましくは6.0〜6.9のpHを有する反応混合物中で行われる方法。
【請求項24】
請求項1〜23の何れか1項に記載の方法であって、前記方法は、40〜70分の反応時間の間行われる方法。
【請求項25】
請求項1〜24の何れか1項に記載の方法であって、前記アミノ受容体がB3OPである方法。
【請求項26】
請求項1〜25の何れか1項に記載の方法であって、前記アミノ供与体がアラニンである方法。
【請求項27】
請求項13、25または26の何れか1項に記載の方法であって、前記PDCの反応により形成されたアセトアルデヒドが、ガス状窒素(N)を前記反応混合物中に供給することによって除去される方法。
【請求項28】
請求項13、25または26の何れか1項に記載の方法であって、前記反応は、少なくとも一つのピルベートデカルボキシラーゼおよび少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼの存在下で行われる方法。
【請求項29】
請求項13、25または26の何れか1項に記載の方法であって、前記反応は、少なくとも一つのピルベートデカルボキシラーゼ、および少なくとも一つのアルコールデヒドロゲナーゼの存在下で、更にガス状窒素(N)の存在下で行われる方法。
【請求項30】
3−アミノピロリドン誘導体、セファロスポリン、セファロスポリンの誘導体、ヘテロ環状ホウ素酸、L−ジヒドロキシフェニルアラニン(L−ドーパ)、α−メチルドーパ、D−フェニルグリシン、β−ヒドロキシフェニルグリシン、ホスフィノトリチン(phosphinothricine)、ピリミド誘導体およびピロリドン誘導体からなる群から選択される生理学的に活性な化合物の製造方法であって、請求項1〜29の何れか1項に記載の方法が使用される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−526531(P2009−526531A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554659(P2008−554659)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001222
【国際公開番号】WO2007/093372
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(502177174)ロンザ・アーゲー (3)
【Fターム(参考)】