説明

光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法

本発明の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法においては、ラセミ型クロマンカルボン酸の一方の対掌体を、生体触媒の存在下、アルコールを含む溶媒中でエステル化した後、未反応の他方のクロマンカルボン酸対掌体を分離して目的の光学活性エステルを得る。光学活性クロマンカルボン酸エステルは、医薬・農薬等の原料として有用であり、本発明の製造方法は、その効率的で工業的に実施可能な製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光学活性クロマンカルボン酸エステル、特に光学活性6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸エステルの製造方法に関する。光学活性クロマンカルボン酸エステルは、医薬、農薬、キラルビルディングブロックや種々の機能化学品の原料として有用であり、例えば、光学活性なビタミンE誘導体、消炎剤の中間体等として用いられている。
【背景技術】
光学活性カルボン酸の製造方法は大きく分けて、ジアステレオマー塩による光学分割法、生体触媒を用いる加水分解又はアシル化法、既存のキラルビルディングブロックから誘導するキラルプール法の3通りがある。更には、不斉配位子を用いる不斉合成法も近年知られているが、有効な事例は未だ少ない。例えば、医薬原料として有用な光学活性クロマンカルボン酸の製造法として、(1)光学活性アミンによるジアステレオマー分割法(例えば、特開平11−80149号、WO02/12221号)、(2)(±)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマンカルボン酸エステルの酵素触媒による不斉加水分解法(例えば、米国特許第5348973号)、(3)光学活性なアシルプロリン誘導体をハロラクトン化する方法(例えば、ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)、465頁(1998年))、(4)有機チタン化合物と光学活性ピルビン酸エステルを反応させる方法(例えば、欧州特許第0173142号、特開昭61−60628号)等が知られている。
しかし、上記(1)の方法は晶析操作が煩雑であり、しかも酸/塩基処理の過程で多量の廃液が生じる等の問題点を有している。上記(2)の方法は、不斉加水分解後の目的物質の単離、精製、及び酵素の除去操作が煩雑であるという問題点を有している。また(3)及び(4)の方法では、出発物質である光学活性体や有機チタン化合物を容易に入手することは困難であり、実用性の点で問題がある。従って、何れも光学活性クロマンカルボン酸誘導体の工業的製造と言う点から必ずしも有利な方法とは言えない。また、ラセミ型のクロマンカルボン酸エステルを加水分解して光学活性なクロマンカルボン酸を得る方法は知られているが、生体触媒によってラセミ型クロマンカルボン酸のR体又はS体の何れか一方のみを選択的にエステル化する光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法は知られていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、医薬、農薬等の原料として有用な光学活性クロマンカルボン酸エステルの効率的で工業的に実施可能な製造方法を提供することにある。
本発明者等は、上記課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、ラセミ型クロマンカルボン酸、例えば、ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を有機溶媒中、生体触媒の存在下、メタノールと反応させると、ラセミ体の中、R又はS体の何れか一方のみが選択的にエステル化されて速やかに反応が進行すること、また、触媒寿命の低下が小さいこと及びエナンチオ選択性が優れているために高純度のエステルが得られることを見出した。しかも、目的物が容易に分離回収でき、簡便な工業的なプロセスとして実施可能であることを見出し、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は、下記式1:

(式中、Rは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシフェニル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;Xは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基であり、少なくとも一のXはカルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基またはカルボキシフェニル基であり、複数のXは同一でも異なっていてもよく;mは1〜5の整数を表し;nは0〜4の整数を表す。)
で表されるラセミ型クロマンカルボン酸を、生体触媒の存在下、アルコールを含む有機溶媒中でエステル化することを特徴とする光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法である。
基質のクロマンカルボン酸としては、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトメチルクロマン−2−カルボン酸が特に好ましく用いられる。生体触媒としては、微生物が産生する加水分解酵素、例えば、リパーゼを使用することができる。リパーゼは、キャンディダ属に属する微生物由来のものであるのが好ましい。アルコールとしてはメタノールが特に好ましい。
上記製造方法において、ラセミ型クロマンカルボン酸の一方の対掌体だけが生体触媒の作用によりエステル化され、他方の対掌体は未反応のまま残る。従って、本発明は、光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法に加えて、ラセミ型クロマンカルボン酸から、エステルに変換された光学活性クロマンカルボン酸の対掌体を分離する方法をも提供する。
また、光学活性クロマンカルボン酸エステルを加水分解することにより、対応する光学活性クロマンカルボン酸を得ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に於いて用いることの出来る生体触媒としては、有機溶媒中、アルコールの存在下、ラセミ型クロマンカルボン酸の対掌体の一方を選択的にエステル化する能力を有するものであれば特に由来は限定されない。このような能力を有する生体触媒としては、微生物の産生する加水分解酵素が挙げられる。例えば、キャンディダ属、リゾプス属、ムコール属、アスペルギルス属、アルカリジェネス属、シュードモナス属等に属する微生物に由来する加水分解酵素が好ましく、特に、Candida antarcticaの産生するリパーゼは該エステル化反応を円滑に進行させるので、エナンチオ選択性や収率が良好である等の点から特に好ましい。また、上記生体触媒の形態は特に限定されず、酵素のまま、或いは固定化酵素として、更には微生物細胞をそのまま触媒として用いることが出来る。
基質としては、下記式1:

で表されるクロマンカルボン酸が好ましい。本発明において、“クロマンカルボン酸”なる用語は、狭義のクロマンカルボン酸、置換クロマンカルボン酸、カルボキシアルキル基を有する(置換)クロマン等、クロマン骨格と少なくとも1個のカルボキシ基を有する化合物を包含する。
一般式1で表されるラセミ型クロマンカルボン酸を用いるが、反応系内に光学活性クロマンカルボン酸が存在しても良い。本発明の製造方法は、一般式1で表されるクロマンカルボン酸以外にも、イソクロマンカルボン酸や、クロマン環或いはイソクロマン環の酸素原子が同族元素、即ち、硫黄、セレン、テルルに置換された化合物にも適用可能である。
一般式1において、置換基Rは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシフェニル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基を表す。
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れかである。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜24の直鎖状、分岐状および環状アルキル基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−クミル基、3−クミル基、2−インデニル基、3−インデニル基、4−クミル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、フェニルオキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2,3,4,5−テトラメチルフェニル基、2,3,4,6−テトラメチルフェニル基、2,3,5,6−テトラメチルフェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基等が挙げられる。
アルキル基又はアリール基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、クロロメチル基、カルボキシル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、メルカプト基、アミド基、シアノ基、カルボニル基、アセチル基、アシル基、アルコキシ基やスルホン基、スルホン酸基等が挙げられる。
特に好ましいRは、水酸基、メチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基またはカルボキシエチル基である。
mは、0〜4の整数を表し、mが2〜4の整数である場合、複数のRは同一でも異なっていてもよい。
Xは、Rと同様、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシフェニル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基であり、特に好ましくは、水酸基、メチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基またはカルボキシエチル基である。Xの具体例は、Rに関して例示したものと同様なのでここでは省略する。
nは、1〜6の整数を表す。1〜6個のXのうち、少なくとも一はカルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基またはカルボキシフェニル基である。nが2〜6の整数である場合、複数のXは同一でも異なっていてもよい。また、2個の同一または異なるXが同一の炭素原子上に存在していてもよい。
一般式1のクロマンカルボン酸の具体例としては、クロマン−2−カルボン酸、クロマン−3−カルボン酸、クロマン−4−カルボン酸、6−ヒドロキシクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシクロマン−2−メチル−2−カルボン酸、2−カルボキシメチル−6−ヒドロキシ−2−メチルクロマン、6−ヒドロキシ−5−メチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−7,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチル−2−カルボキシメチルクロマン、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−イルプロピオン酸、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸等が挙げられる。中でも、ビタミンE誘導体であるトコール、トコトリエノール、及び、α,β,γ,δ,εまたはη−トコフェロール等の化合物のクロマン環の2位にカルボキシル基又はカルボキシメチル基を持つ化合物が好ましく、特に好ましいのはクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチル−2−カルボキシメチルクロマン、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−イルプロピオン酸、及び6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸である。
クロマンカルボン酸と反応させるアルコールは、炭素数1〜24のアルコール類が適当である。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、グリシドール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、アリルアルコール、ヘキサノール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、および、1,4−ブタンジオールが好ましい例として挙げられる。さらに好ましいのは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、および、イソブチルアルコールであり、メタノールが特に好ましい。
該エステル化反応に用いる溶媒としては、エステル化剤でもあるアルコールが好ましいが、該アルコール以外の溶媒を用いることも出来る。使用する溶媒は、沸点、基質に対する溶解能、生体触媒に対する活性阻害の程度、反応温度範囲やプロセスとしての利点等を考慮して適宜選択して用いる。全ての好ましい溶媒を例示することは困難であるが、例えば、基質に対する溶解能に優れ、かつ水と混和し難い溶媒が好ましい。このような溶媒として、前記炭素数1〜24のアルコールに加えて、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、n−ジブチルエーテルなどのエーテル等が挙げられる。これらは単独、若しくは互いに混合して用いる事が出来る。
本発明に於ける不斉選択的なエステル化反応は、有機溶媒中、一般式1のラセミ型クロマンカルボン酸とアルコールに、上記した生体触媒を作用させて実施する。基質であるクロマンカルボン酸の種類によって反応条件は異なるが、例えば、ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸を用いてエステル化反応を行う場合、反応液中の該カルボン酸の濃度が1〜30重量%になるようにすること好ましく、特に、5〜15重量%の範囲が好ましい。アルコール以外の溶媒を使用する場合、エステル化剤として使用するアルコールの反応液中の濃度は、1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。また、クロマンカルボン酸とアルコールのモル比は1:0.5〜1:15が好ましく、特に、1:1〜1:5の範囲が好ましい。
使用する生体触媒の量は、該エステル化反応に対する生体触媒の活性の程度によって異なり一概に論ずることはできないが、通常、基質であるクロマンカルボン酸の重量に対して10〜200重量%が好ましく、特に、20〜40重量%が好ましい。
反応温度は、通常、30〜60℃で行うのが好ましい。生体触媒の失活、寿命低下、或いは反応速度への悪影響が無ければ60℃以上、または30℃以下の温度で行う事が出来る。反応は減圧下、或いは0.1MPa以上の加圧状態でも反応を行う事が出来るが、通常は、機器のコスト等を考慮して常圧で行う事が好ましい。
また、水分が多量に存在すると反応速度が低下するので、本発明のエステル化反応を効率よく行うためには、水分は可能な限り系外に除くことが好ましい。例えば、モレキュラーシーブを用いる等の水分除去策を講じて実質的に水分の存在しない条件下(水分含量:0.5重量%以下)で行うことが望ましい。
上記方法によって、基質ラセミ体の中、R又はSの何れか一方のクロマンカルボン酸対掌体を選択的に光学活性なエステルに変換することが出来る。また、光学活性エステルに変換されたクロマンカルボン酸の対掌体(未エステル化クロマンカルボン酸)を同時に得ることが出来る。更には、該光学活性エステルを加水分解することで対応する光学活性クロマンカルボン酸を得ることが出来る。本発明は、反応後の生成物の分離、回収も容易であり工業的な実施に適している。
未反応の光学活性クロマンカルボン酸は、通常、ナトリウム等のアルカリ金属塩にすると有機溶媒に対する溶解度が低下し、水に対する溶解度が上がるので、該エステル化反応終了後、炭酸ナトリウムなどを添加すれば、未反応光学活性クロマンカルボン酸を水層へ移行させることが出来る。従って、光学活性エステルと未反応光学活性クロマンカルボン酸の分離・回収が可能である。この際、溶解度の低い光学活性エステルの析出を抑える為に、水と混和しない酢酸エチル等の有機溶媒を加えても良い。
次いで、有機溶媒層を減圧留去すれば目的とする光学活性クロマンカルボン酸エステルを単離することが出来る。また再結晶等の精製操作を施して所望の化学純度、或いは光学純度にすることが出来る。
また、未反応光学活性クロマンカルボン酸のアルカリ金属塩を含む水層を分取した後、塩酸等の酸水溶液で中和し、析出した光学活性クロマンカルボン酸を濾過、或いは水層を有機溶媒で抽出し、溶媒除去、再結晶すれば光学活性エステルに変換されたクロマンカルボン酸の対掌体を単離することが出来る。更には、該光学活性エステルは、例えばメタノールに溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して加熱することでラセミ化を起こさずに加水分解することが出来るので、対応する光学活性クロマンカルボン酸を得ることが出来る。
以上の説明によって明らかな様に、本発明によれば、ラセミ型クロマンカルボン酸を生体触媒存在下にエステル化することによって、容易に光学活性クロマンカルボン酸エステルを製造することができる。また、該光学活性エステルを加水分解することによって対応する光学活性カルボン酸を製造することができる。さらに、該エステル化反応液から未反応の光学活性クロマンカルボン酸を分離することにより、該エステルに変換されなかったクロマンカルボン酸の対掌体も製造可能である。
以下本発明を、実施例をもって更に詳細に説明する。当然ながら、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、光学純度の分析は、SUMICHIRAL OA−3200((株)住化分析センター、4.6φmm×250mm)を用いて高速液体クロマトグラフィーで行った。
【実施例1】
(1)ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルの製造
トリメチルヒドロキノン(以下、TMHQと記す)20g、パラホルムアルデヒド8g、メチルメタクリレート(以下、MMAと記す)66g、酢酸4gをオートクレーブに入れ、180℃で3時間撹拌した。冷却後、メタノールを加え濾過、洗浄を行い、目的とするラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチル(以下、CCMと略記する事がある)を25g得た。
(2)ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の製造
上記操作で得たCCM25gをエタノール370gに溶解し、10重量%のNaOH水溶液250gと混合し、82〜85℃の還流下で2時間撹拌した。減圧濃縮、濾過、抽出、洗浄、再結晶を行い、ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(以下、CCAと略記する事がある)22gを得た。
(3)酵素の固定化
Candida antarctica由来のリパーゼCHIRAZYME L−2,lyo.(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)20mgをリン酸緩衝液(pH7.0)1mlに溶解し、これに固定化担体トヨナイト200−Mを0.4ml加え、室温で一晩振とうした。その後、濾過、風乾し、以下のエステル化反応の生体触媒として用いた。
(4)エステル化反応
ラセミ型6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸50mgをt−ブチルメチルエーテル2.5gに溶解し、メタノール40mgと前記の固定化酵素50mgを加え、60℃で24時間振とうした。反応終了後、HPLCで分析したところ、S−(−)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸メチルが収率10.9%、光学純度99%ee以上で生成していた。残存する未反応対掌体のR−(+)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の光学純度は69.4%であった。
【実施例2】
CCA6gとメタノール4.2gをイソプロピルエーテル58.8gに溶解し、これに固定化酵素CHIRAZYME L−2,c−f,C2(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)2gを加え、Arで置換した後、60℃で24時間反応させた。S−(−)−CCM収率は10mol%であった。
【実施例3〜6】
ロシュ・ダイアグノスティックス社製CHIRAZYME L−2,c−f,C1、CHIRAZYME L−2,c−f,C2、CHIRAZYME L−2,c−f,C3、及びノボザイムス社製Novozyme435を50mg固定化酵素として用いた以外は実施例1と同様に行った。得られたS−(−)−CCMの収率は、それぞれ、10.8,9.0,10.4,10.3mol%であった。
【実施例7】
CCA6gとメタノール3.6gをイソプロピルエーテル50.40gに溶解し、これにCHIRAZYME L−2,c−f,C2(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)2gを加え、Ar置換した後、60℃で24時間反応した。反応終了後、容器上部より反応液を抜き出した。引き続き、1回目と同じ分量のCCA、メタノール、イソプロピルエーテルを仕込み、Ar置換した後、再度、同一条件で反応を行った。これを10回繰り返した。10回の反応を通して、収率・生成物の光学純度とも初回の反応成績と殆ど変わらず、反応活性、触媒寿命共に良好であった。
上記、1回目の反応液を、酢酸エチルにて2倍量に希釈した後、炭酸ナトリウム水溶液で未反応クロマンカルボン酸を抽出して有機層と水層に分離した。有機層の溶媒を乾固させで光学活性クロマンカルボン酸メチルエステル(S−(−)−CCM)の粗結晶0.7gを得た。収率10.5%、化学純度85.4%、光学純度96.1%eeであった。
また、上記水層中の対掌体クロマンカルボン酸を塩酸水溶液で酸析し、濾別、乾固させてR−(+)−6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸の粗結晶0.6g(純度87%:光学純度:96.5%ee)を得た。
【実施例8】
実施例7で得られたS−(−)−CCM1.6g(純度87%)をメタノール10g、水2gに溶解し、これに4倍モル量の水酸化ナトリウムを加え、50℃で1時間撹拌した。反応終了後、冷却し、5N−HClを用いて中和処理を行った。さらに氷冷し、析出したクロマンカルボン酸を濾別・乾燥して光学活性なS−(−)−CCAを1.2g得た。転化率100%、収率96.7%、化学純度96.4%、光学純度97.8%eeであった。
【実施例9】
固定化されていないCHIRAZYME L−2を固定化酵素触媒の活性と等しい量である0.08g用いて実施例2に準じてCCAのエステル化反応を行った。60℃で24時間後のS−(−)−CCMの収率は6%、化学純度96.4%、光学純度97.3%eeであった。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、医薬・農薬等の原料として有用な光学活性クロマンカルボン酸エステルと該光学活性エステルに変換されたクロマンカルボン酸の対掌体とを効率的に製造出来る。特に該光学活性エステルと該対掌体が簡便な操作で分離回収可能であり、酵素触媒を繰り返して使用できるので工業的な生産に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1:

(式中、Rは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシフェニル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;Xは、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、置換基を有することのあるアルキル基、又は、置換基を有することのあるアリール基であり、少なくとも一のXはカルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基またはカルボキシフェニル基であり、複数のXは同一でも異なっていてもよく;mは1〜5の整数を表し;nは0〜4の整数を表す。)
で表されるラセミ型クロマンカルボン酸を、生体触媒の存在下、アルコールを含む有機溶媒中でエステル化することを特徴とする光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記生体触媒が、微生物が産生する加水分解酵素である請求項1に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記微生物が産生する加水分解酵素がリパーゼである請求項2に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記リパーゼがキャンディダ属に属する微生物由来のものである請求項3に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記アルコールが、炭素数1〜24のアルコール類である請求項1〜4のいずれかに記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、または、イソブチルアルコールである請求項5に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項7】
前記アルコールがメタノールである請求項6に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項8】
前記クロマンカルボン酸が、クロマン−2−カルボン酸、クロマン−3−カルボン酸、クロマン−4−カルボン酸、6−ヒドロキシクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシクロマン−2−メチル−2−カルボン酸、2−カルボキシメチル−6−ヒドロキシ−2−メチルクロマン、6−ヒドロキシ−5−メチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−7,8−ジメチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−イルプロピオン酸、および、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸からなる群より選ばれた化合物である請求項1〜7のいずれかに記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項9】
前記クロマンカルボン酸が、クロマン−2−カルボン酸、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチル−2−カルボキシメチルクロマン、6−ヒドロキシ−2,7,8−トリメチルクロマン−2−イルプロピオン酸、および、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸からなる群より選ばれた化合物である請求項8に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項10】
前記クロマンカルボン酸が6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトメチルクロマン−2−カルボン酸である請求項9に記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項11】
該エステル化反応液から前記光学活性クロマンカルボン酸エステルに変換されたクロマンカルボン酸の対掌体を分離する工程をさらに含む請求項1〜10のいずれかに記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項12】
前記光学活性クロマンカルボン酸エステルを加水分解する工程をさらに含む請求項1〜11のいずれかに記載の光学活性クロマンカルボン酸エステルの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/108944
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506801(P2005−506801)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007851
【国際出願日】平成16年5月31日(2004.5.31)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】