説明

光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の製造方法

【課題】 医薬および農薬の重要中間体である光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の安価な製造方法を提供する。
【解決手段】 含フッ素α−ケトエステルとアルケンを「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に」、「含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の存在下に」または「光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L(リットル)未満の、ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の存在下に」反応させる。
この方法により光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を安価に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および農薬の重要中間体である光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明で対象とする光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物は、医薬および農薬の重要中間体である。本発明に関連する公知技術として、トリフルオロピルビン酸エチルと各種アルケンを光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下に反応させる方法が開示されている(非特許文献1〜4)。
【非特許文献1】Tetrahedron Letters(英国),2004年,第45巻,p.183〜185
【非特許文献2】Tetrahedron:Asymmetry(英国),2004年,第15巻,p.3885〜3889
【非特許文献3】Angew.Chem.Int.Ed.(ドイツ国),2005年,第44巻,p.7257〜7260
【非特許文献4】J.Org.Chem.(米国),2006年,インターネット上で閲覧可能(Simon Doherty,Julian G.Knightら,Asymmetric Platinum Group Metal−Catalyzed Carbonyl−Ene Reactions:Carbon−Carbon Bond Formation versus Isomerization)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、医薬および農薬の重要中間体である光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の安価な製造方法を提供することにある。非特許文献1〜4の方法では、高い触媒活性[満足の行く不斉誘起および収率(変換率)]を達成するために高価な不斉触媒を5モル%程度使用する必要があった。光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を安価に製造するには、高価な不斉触媒の使用量を如何に低減できるかが鍵となり、不斉触媒の使用量を低減しても高い触媒活性が維持できる反応条件を見出す必要があった。非特許文献1〜4においては、この様な反応条件を見出す検討は殆ど行われておらず、よって光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を安価に製造することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、不斉触媒の活性が使用する反応溶媒の「種類」や「使用量」に大きく影響されることを見出し、本発明に到達した。本願発明は次の3つの態様を含む。
【0005】
[態様1:反応溶媒の非存在下に、反応させる態様]
発明者らは、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]で示されるアルケンを反応させて、一般式[3]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を合成する際、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応を、高い光学純度で収率良く実施できるという、有用な知見を見出した(例えば、実施例2、7〜20)。高価な不斉触媒の使用量を著しく低減しても、光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物が高い光学純度で収率良く得られることも見出した(例えば、実施例10、14〜15)。
【0006】
[態様2:比誘電率の低い溶媒中で反応させる態様]
発明者らは、金属錯体への配位能が比較的弱い、比誘電率εが5.0以下の反応溶媒、特に炭化水素系の反応溶媒を用いることによっても、高価な不斉触媒の使用量を著しく低減した条件下、光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物が高い光学純度で収率良く得られることを見出した(例えば、実施例1、3、21〜28と、比較例1〜13との比較)。なお、非特許文献4においてトルエンは好ましくない反応溶媒として挙げられているが、本発明の好適な例であるトリフルオロピルビン酸エチルとイソブテンの反応においては特に好ましい反応溶媒であることを見出した。
【0007】
[態様3:ハロゲン化炭化水素系の溶媒中で反応させる態様]
発明者らは、配位能が比較的強いハロゲン化炭化水素系の反応溶媒であっても、その使用量を制限し、高濃度条件下で反応を行うことにより、反応を好適に実施できることを見出した(例えば、実施例4〜6と、比較例1〜3、9との比較)。高価な不斉触媒の使用量を著しく低減しても、光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物が高い光学純度で収率良く得られることも見出した。
【0008】
すなわち、本発明は[発明1]〜[発明10]を含み、光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の、安価で、大量規模の生産に適した製造方法を提供する。
【0009】
[発明1]
一般式[1]
【0010】
【化25】

【0011】
[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【0012】
【化26】

【0013】
[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【0014】
【化27】

【0015】
[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0016】
[発明2]
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の使用量が、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下である、発明1に記載の方法。
【0017】
[発明3]
式[4]
【0018】
【化28】

【0019】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【0020】
【化29】

【0021】
で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[6]
【0022】
【化30】

【0023】
[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0024】
[発明4]
式[4]
【0025】
【化31】

【0026】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【0027】
【化32】

【0028】
で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[7]
【0029】
【化33】

【0030】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0031】
[発明5]
一般式[1]
【0032】
【化34】

【0033】
[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【0034】
【化35】

【0035】
[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【0036】
【化36】

【0037】
[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0038】
[発明6]
一般式[1]
【0039】
【化37】

【0040】
[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【0041】
【化38】

【0042】
[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【0043】
【化39】

【0044】
[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0045】
[発明7]
式[4]
【0046】
【化40】

【0047】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【0048】
【化41】

【0049】
で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ芳香族炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、式[6]
【0050】
【化42】

【0051】
[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0052】
[発明8]
式[4]
【0053】
【化43】

【0054】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【0055】
【化44】

【0056】
で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒としてトルエンの存在下に、反応させることにより、式[7]
【0057】
【化45】

【0058】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0059】
[発明9]
一般式[1]
【0060】
【化46】

【0061】
[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【0062】
【化47】

【0063】
[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L(リットル)未満の、ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【0064】
【化48】

【0065】
[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【0066】
[発明10]
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の使用量が、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下である、発明9に記載の方法。
【発明の効果】
【0067】
本発明の製造方法では、非特許文献1〜4の問題点(高価な不斉触媒を多量に用いることによる高い製造コスト)を解決できるだけでなく、反応溶媒として工業的な使用が制限されている塩化メチレン(非特許文献1〜4で多用されている反応溶媒)の使用量を削減でき、または一切用いずに反応を行うこともできる。このような条件であっても、高い収率かつ高い不斉収率で、目的物を製造することができ、分離の難しい不純物が生成することもない。特に反応溶媒を用いない場合は、反応の生産性や後処理の操作性を格段に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本発明の光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の製造方法について詳細に説明する。初めに「態様1」〜「態様3」に共通する事項につき説明する。
【0069】
一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルのパーフルオロアルキル基としては、炭素数が1〜6のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖または分枝を採ることができる。一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルのアルキル基としては、炭素数が1〜6のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖または分枝を採ることができる。
【0070】
含フッ素α−ケトエステルの中でも容易に製造でき工業的な利用も可能な、Rfがトリフルオロメチル基で、かつRがメチル基またはエチル基のものが好ましく、光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物の製造に好適である。
【0071】
一般式[2]で示されるアルケンのアルキル基としては、炭素数が1〜6のものが挙げられ、炭素数が3以上のものは直鎖または分枝を採ることができる。また2つのアルキル基が共有結合によってシクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環やシクロヘプテン環等を形成することもできる。
【0072】
一般式[2]で示されるアルケンの置換アルキル基としては、ヒドロキシル基の保護体等がアルキル基に置換することができる。ヒドロキシル基の保護基としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載されたものを適宜使用することができ、その中でもベンジル基やt−ブチルジフェニルシリル基が好ましい。
【0073】
一般式[2]で示されるアルケンの芳香環基としては、フェニル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0074】
一般式[2]で示されるアルケンの置換芳香環基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子やメチル基等の低級アルキル基等が芳香環基に置換することができる。また芳香環基とアルキル基が共有結合を形成することもできる。
【0075】
アルケンの中でも反応性の高い1,1−二置換オレフィンが好ましく、得られる生成物の医薬中間体としての重要性を考慮するとイソブテンが好適である。従来の技術では、式[6]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物、特に式[7]で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物の工業的な製造方法が、対応するラセミ体を合成し光学分割する二工程からなる方法に限られていたことを考慮すると、本発明の製造方法が一工程からなる極めて優れた方法であることを明らかにした。
【0076】
一般式[2]で示されるアルケンの使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.7モル以上を使用すれば良く、0.8〜10モルの使用が好ましく、特に0.9〜7モルの使用がより好ましい。
【0077】
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体としては、一般式[8]
【0078】
【化49】

【0079】
[式中、X−*−Xは光学活性SEGPHOS誘導体(図A)、光学活性BINAP誘導体(図B)、光学活性BIPHEP誘導体(図C)、光学活性P−Phos誘導体(図D)、光学活性PhanePhos誘導体(図E)、光学活性1,4−Et−cyclo−C−NUPHOS(図F)または光学活性BOX誘導体(図G)等を表し、YはNi、Pd、PtまたはCuを表し、ZはSbF、ClO、BF、OTf(Tf;CFSO)、AsF、PFまたはB(3,5−(CFを表す]で示される二価カチオン性錯体
【0080】
【化50】

【0081】
【化51】

【0082】
【化52】

【0083】
【化53】

【0084】
【化54】

【0085】
【化55】

【0086】
【化56】

【0087】
または、一般式[9]
【0088】
【化57】

【0089】
[式中、Rは水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはトリフルオロメチル基を表し、Meはメチル基を表す]で示されるBINOL−Ti錯体等が挙げられる。その中でも二価カチオン性錯体が好ましく、特に二価カチオン性パラジウム錯体がより好ましい(光学活性な配位子としては代表的なものを挙げており、CATALYTIC ASYMMETRIC SYNTHESIS,Second Edition,2000,Wiley−VCH,Inc.に記載されたものを適宜使用することができる。またZとしては、SbF、BF、OTfおよびB(3,5−(CFが好ましく、特にSbF、OTfおよびB(3,5−(CFがより好ましい)。
【0090】
これらの錯体は公知の方法により調製することができ(例えば、非特許文献1〜4、J.Am.Chem.Soc.(米国),1999年,第121巻,p.686〜699、nature(英国),1997年,第385巻,p.613〜615等)、単離した錯体(例えば、参考例1〜2;isolated)以外に、反応系中で予め調製し単離せずに用いることもできる(例えば、実施例の方法C〜D−2、F;in situ)。これらの錯体には水やアセトニトリル等の有機溶媒が配位(溶媒和)したものを用いることもできる[本発明では不斉触媒の使用量が極めて少ないため、錯体に配位した溶媒分は無視することができ「反応溶媒」としては扱わない(換算しない)]。またin situ錯体としては、反応溶媒を一切用いる必要のない、新規な方法D、D−2またはFにより簡便に調製でき、かつ不斉触媒の活性が極めて高い、一般式[10]
【0091】
【化58】

【0092】
[式中、X−*−X、YおよびZは一般式[8]と同じものを表し、RfとRは一般式[1]と同じものを表す]で示される含フッ素α−ケトエステルを配位子として有する二価カチオン性錯体が好適である。
【0093】
また一般式[11]
【0094】
【化59】

【0095】
[式中、X−*−X、YおよびZは一般式[8]と同じものを表す]で示されるカチオン性二核錯体も、一般式[8]で示される二価カチオン性錯体と同様に用いることができる場合がある。
【0096】
光学活性な配位子の立体化学[(R)、(S)、(R,R)、(S,S)等]としては、目的とする光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の立体化学に応じて適宜使い分けることができ、得られる生成物の医薬中間体としての重要性を考慮すると(R)−含フッ素カルボニル−エン生成物を与える光学活性な配位子の立体化学が好適である。光学活性な配位子の光学純度としては、目標とする光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物の光学純度に応じて適宜設定すれば良く、通常は95%ee(エナンチオマー過剰率)以上を使用すれば良く、97%ee以上の使用が好ましく、特に99%ee以上の使用がより好ましい。
【0097】
これらの光学活性な配位子の中でも、BINAP誘導体が両エナンチオマーを最も安価に入手でき、かつ不斉触媒に誘導した時の活性も極めて高いため好適であり、BINAPおよびTol−BINAPが好ましく、特にBINAPがより好ましい。
【0098】
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の使用量としては、本発明の効果を最大限に引き出すには(可能な限り安価に製造するには)、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下を使用すれば良く、0.0005モル以下の使用が好ましく、特に0.0003モル以下の使用がより好ましい。当然、製造コストを考慮せず0.001モルより多い使用量で行うこともできる。但し、本発明における「態様2」においては、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して、0.001モル以下の不斉触媒(遷移金属錯体)を使用する。
【0099】
反応温度としては、特に制限はないが、通常は−60〜+60℃の範囲で行えば良く、−50〜+50℃の範囲で行うのが好ましく、特に−40〜+40℃の範囲で行うのがより好ましい。さらに本発明の好適な例であるトリフルオロピルビン酸エチルとイソブテンの反応においては、不斉触媒が存在しなくても反応が進行しラセミ体を与える反応経路が存在したり(目的とする光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物の光学純度を低下させる)、反応終了液に残存するイソブテンが副反応を起こしたりする(目的とする光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物の化学純度を低下させる)。よって本反応では、通常は−60〜+30℃の範囲で行えば良く、−50〜+20℃の範囲で行うのが好ましく、特に−40〜+10℃の範囲で行うのがより好ましい。
【0100】
また原料基質、不斉触媒および反応溶媒の仕込み順序は実施例に記載した[方法A]〜[方法F]に限定されるものではないが、原料基質の一つであるアルケンを最後に加える場合は、上記の反応温度以下に制御して徐々に加えることにより、光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を高い光学純度で得ることができる。
【0101】
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内で行えば良く、原料基質、不斉触媒および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴(NMR)等の分析手段により反応の進行状況をモニターし、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0102】
次に、本発明の「態様1」〜「態様3」の個別の事項につき、説明を行う。
【0103】
まず、[態様1]について説明する。本発明の「態様1」は、対象とする反応を「反応溶媒の非存在下」に実施させる方法である。
【0104】
ここで「反応溶媒の非存在下に、反応させる」とは、反応系内に実質的に反応溶媒が存在しないこと(ニートの状態)を意味するが、具体的には、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対する、反応溶媒が0.10L未満の状態を指し、0.05L未満の状態が好ましく、特に0.01L未満の状態がより好ましい。より典型的には、反応基質と遷移金属錯体以外に、液体化合物を系外から自発的に加えずに反応を実施すればよく、それが「態様1」の最も好ましい態様である。
【0105】
反応系内に実質的に反応溶媒が存在しないことにより、反応の生産性が格段に高まるだけでなく、後処理において反応溶媒に由来する廃液が出ないため、環境への負荷低減の観点からも極めて有利である。この様に、反応溶媒の非存在下においても、対象とする反応が高収率かつ高光学純度で進行することが、本発明の重要な知見の一つである。
【0106】
さらに、発明者らは、このような無溶媒な条件において、反応が極少量の不斉触媒の存在によって、良好に進行することを見出した。これらの知見によって、本発明の対象とする反応が、従来に比べて経済的に格段に有利に、実施できることとなった。
【0107】
「態様1」の中でも、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[6]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法は、生成物の有用性、原料入手の容易性、反応が好適に実施できる点などから、特に好ましい。
【0108】
また、「態様1」の中でも、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[7]で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法は、反応が一層経済的に有利に実施できることなどから、一層好ましい。
【0109】
次いで、「態様2」について説明する。本発明の「態様2」は、対象とする反応を「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の存在下に、反応させる」というものである。
【0110】
ここで「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒」としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系(但し、テトラヒドロフランを除く)等が挙げられる[本発明においては、反応溶媒の20℃付近(20〜25℃)の比誘電率εの値を意味する]。その中でも炭化水素系が好ましく、特に芳香族炭化水素系がより好ましく、さらにトルエンが極めて好ましい。これらの比誘電率εが5.0以下の反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。
【0111】
比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、通常は一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して3.0L以下を使用すれば良く、2.0L以下の使用が好ましく、特に1.0L以下の使用がより好ましい。
【0112】
また「反応溶媒(比誘電率εが5.0以下の反応溶媒)の存在下に、反応させる」とは、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.10L以上を使用する状態を指す。
【0113】
また「態様2」においては、「比誘電率εが5.0よりも大きい反応溶媒」と「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒」を組み合わせて混合溶媒として用いることもできる。この場合には「比誘電率εが5.0よりも大きい反応溶媒」が本来持つ金属錯体への配位能が弱められ、実質的に「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の存在下に、反応させる」のと同じ効果が期待できる。例えば「炭化水素系の反応溶媒をハロゲン化炭化水素系の反応溶媒に対して同容積以上使用する場合」は、「ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒」の使用量が一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L以上であっても、少量の不斉触媒で目的生成物を高い光学純度で収率良く得ることができる。よって本発明では「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒」と言及する場合は、「比誘電率εが5.0以下の反応溶媒と比誘電率εが5.0よりも大きい反応溶媒の混合溶媒であって、前者が後者に対して同容積以上使用された混合溶媒」も含まれるものとする。
【0114】
「態様2」の中でも、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]で示されるアルケンを、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法は、反応性が良好なことから、好ましい。
【0115】
「態様2」の中でも、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ芳香族炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、式[6]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法は、生成物の有用性、原料入手の容易性、反応性が良好なことなどから、特に好ましい。
【0116】
「態様2」の中でも、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒としてトルエンの存在下に、反応させることにより、式[7]で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法は、生成物の有用性、原料入手の容易性、反応性が一層良好なことなどから、一層好ましい。
【0117】
次に「態様3」について説明する。「態様3」は「一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L未満の、ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させる」というものである。
【0118】
ここで「ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒」としては、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等が挙げられる。その中でも塩化メチレンおよび1,2−ジクロロエタンが好ましく、特に塩化メチレンがより好ましい。これらのハロゲン化炭化水素系の反応溶媒は単独に、または組み合わせて用いることができる。当然、比誘電率εが5.0以下の反応溶媒と組み合わせて用いることもできる。
【0119】
ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の使用量としては、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L未満を使用するが、0.7L未満の使用が好ましく、特に0.5L未満の使用がより好ましい。
【0120】
本発明において「ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させる」とは、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して、ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒を0.10L以上使用する状態を指す。
【0121】
次に、「態様1」〜「態様3」に共通する「後処理工程」について、説明する。
【0122】
後処理としては、特に制限はないが、反応終了液に通常の操作を行うことにより、目的とする一般式[3]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を得ることができる。粗生成物は必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作により高い純度に精製することができる。さらに本発明の好適な例であるトリフルオロピルビン酸エチルとイソブテンの反応においては、反応終了液に残存するイソブテンを低温下で系外に取り除いて副反応を制御することが極めて重要である。よって本後処理では、通常は−60〜+30℃の範囲で行えば良く、−50〜+20℃の範囲で行うのが好ましく、特に−40〜+10℃の範囲で行うのがより好ましく、系外への取り除き方としては、特に制限はないが、窒素やアルゴン等の不活性ガスを吹き込み同伴させて系外に取り除く方法や、反応終了液から減圧下で直接取り除く方法が好ましい。また本後処理では、反応終了液から上記の方法でイソブテンを取り除き副反応が起こらない状態にした後、連続的に目的生成物を分別蒸留(必要に応じて減圧下に行うこともできる)で回収することができるため(反応溶媒を用いた場合は反応溶媒も回収できる)、後処理の操作性を格段に改善することができる(好適な後処理の例)。また反応終了液に残存するイソブテンの副反応を制御する方法としては、反応終了液に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の、比誘電率εが5.0よりも大きい反応溶媒や、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等のホスフィン配位子等を加える手法も有効である。
【0123】
本発明においては、不斉触媒の回収・再利用が可能であり、回収・再利用の方法としては、特に制限はないが、上記の好適な後処理の例においては蒸留残渣として不斉触媒を回収し、再びトリフルオロピルビン酸エチルとイソブテンを加えて再利用する方法や、反応終了液から析出[必要に応じて冷却下で放置または貧溶媒(例えば、脂肪族炭化水素系の溶媒等)を添加]した不斉触媒をデカンテーションまたは濾過等で回収し、前出と同様に再利用する方法が好ましい。特に後者は熱的に不安定な不斉触媒の回収にも適用できるためより好ましい。また前者の場合は、バス温を70℃以下(好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下)に制御して減圧蒸留することにより、熱的に不安定な不斉触媒も比較的高い活性を保持した状態で回収することができる。
【0124】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また実施例を補足説明するために参考例および比較例も記載する。表1および表3の反応溶媒の濃度表示は、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して、反応溶媒を4.0L、2.0L、1.0L、0.5L、0.25L、0.2L、0.167Lまたは0.125L使用した場合を、それぞれ0.25M、0.5M、1.0M、2.0M、4.0M、5.0M、6.0Mまたは8.0Mと表す。
【0125】
[参考例1]
反応容器に、下記式
【0126】
【化60】

【0127】
で示される(S)−SEGPHOS−PdCl 85.7mg(0.109mmol,1eq)を加え、アルゴンで置換した。アセトン5.4ml(50ml/(S)−SEGPHOS−PdCl1mmol)、水5.1mg(0.283mmol,2.6eq)とAgSbF82.4mg(0.240mmol,2.2eq)を加え、室温で1時間攪拌した。
【0128】
調製終了液をセライト濾過し、減圧濃縮し、濃縮残渣に塩化メチレンを加え、1日放置した。塩化メチレン溶液を再びセライト濾過し、減圧濃縮し、真空乾燥し、乾燥残渣を塩化メチレンとn−ヘキサンから再結晶することにより、下記式
【0129】
【化61】

【0130】
で示される(S)−SEGPHOS−Pd(2+)(OH・2SbF(isolated)を92.0mg(固体、収率69%)得た。
【0131】
[参考例2]
反応容器に、下記式
【0132】
【化62】

【0133】
で示される(R)−BINAP−PdCl 160.0mg(0.200mmol,1eq)を加え、窒素で置換した。アセトン10.0ml(50ml/(R)−BINAP−PdCl1mmol)、水9.4mg(0.520mmol,2.6eq)とAgSbF151.2mg(0.440mmol,2.2eq)を加え、室温で1時間攪拌
した。
【0134】
調製終了液をセライト濾過し、減圧濃縮し、濃縮残渣に塩化メチレン5.0mlを加え、終夜攪拌した。塩化メチレン溶液を再びセライト濾過し、減圧濃縮し、真空乾燥し、乾燥残渣を塩化メチレン2.0mlとn−ヘキサン15.0mlから再結晶(終夜攪拌)することにより、下記式
【0135】
【化63】

【0136】
で示される(R)−BINAP−Pd(2+)(OH・2SbF(isolated)を213.2mg(黄色固体、収率86%)得た。
【0137】
[実施例1〜28]および[比較例1〜13]
実施例および比較例の一般的製造方法A〜Fを示し、これらの結果を表1〜3に纏める。また代表的な後処理操作も記載する。
【0138】
[方法A]
反応容器に、下記式
【0139】
【化64】

【0140】
で示される(S)−SEGPHOS−Pd(2+)(OH・2SbF(isolated:単離されたものとの意味。以下同じ。)を加え、アルゴンで置換した(反応溶媒を用いる場合はこの段階で加えた)。所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0141】
【化65】

【0142】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、下記式
【0143】
【化66】

【0144】
で示されるイソブテンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0145】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0146】
【化67】

【0147】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0148】
[方法B]
反応容器に、下記式
【0149】
【化68】

【0150】
で示される(R)−BINAP−Pd(2+)(OH・2SbF(isolated)を加え、窒素で置換した。室温で、下記式
【0151】
【化69】

【0152】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルを加え(反応溶媒を用いる場合はこの段階で加えた)、所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0153】
【化70】

【0154】
で示されるイソブテンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0155】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0156】
【化71】

【0157】
で示される(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0158】
[方法C]
反応容器に、下記式
【0159】
【化72】

【0160】
で示される(R)−BINAP−PdCl(1eq)とAgSbF(2.2eq)を加え、真空乾燥し、窒素で置換した。乾燥残渣にアセトン(200ml/(R)−BINAP−PdCl1mmol)と水(2.6eq)を加え、室温で1時間攪拌した。
【0161】
調製終了液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0162】
【化73】

【0163】
で示される(R)−BINAP−Pd(2+)(OH・2SbF(in situ)を得た(黄色固体、収率は100%と仮定した)。
【0164】
反応容器を窒素で置換し、室温で、下記式
【0165】
【化74】

【0166】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルを加え、所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0167】
【化75】

【0168】
で示されるイソブテンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0169】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0170】
【化76】

【0171】
で示される(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0172】
[方法D]
反応容器に、下記式
【0173】
【化77】

【0174】
で示される(R)−BINAP−PdCl(1eq)を加え、窒素で置換した。室温で、下記式
【0175】
【化78】

【0176】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルとAgSbF(2.2eq)を加え、室温で1時間攪拌した。
【0177】
調製終了液として、下記式
【0178】
【化79】

【0179】
で示される(R)−BINAP−Pd(2+)−CFCOCO・2SbF(in situ)のトリフルオロピルビン酸エチル溶液を得た(黄色懸濁液体、収率は100%と仮定した)。
【0180】
所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0181】
【化80】

【0182】
で示されるイソブテンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0183】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0184】
【化81】

【0185】
で示される(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0186】
[方法D−2]
方法Dにおいて(R)−BINAP−PdClの替わりに、下記式
【0187】
【化82】

【0188】
で示される(S)−BINAP−PdClを用いて同様に実施し、下記式
【0189】
【化83】

【0190】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0191】
[方法E]
反応容器に、下記式
【0192】
【化84】

【0193】
で示される(S)−SEGPHOS−Pd(2+)(OH・2SbF(isolated)を加え、アルゴンで置換した。所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0194】
【化85】

【0195】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、下記式
【0196】
【化86】

【0197】
で示されるメチレンシクロヘキサンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0198】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0199】
【化87】

【0200】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0201】
[方法F]
反応容器に、下記式
【0202】
【化88】

【0203】
で示される(S)−Tol−BINAP−PdCl(1eq)を加え、窒素で置換した。室温で、下記式
【0204】
【化89】

【0205】
で示されるトリフルオロピルビン酸エチルとAgSbF(2.2eq)を加え、室温で1.5時間攪拌した。
【0206】
調製終了液として、下記式
【0207】
【化90】

【0208】
で示される(S)−Tol−BINAP−Pd(2+)−CFCOCO・2SbF(in situ)のトリフルオロピルビン酸エチル溶液を得た(橙色〜黄色懸濁液体、収率は100%と仮定した)。
【0209】
所定の基質添加温度に冷却し、下記式
【0210】
【化91】

【0211】
で示されるイソブテンを加え、所定の反応温度で所定の反応時間攪拌した。
【0212】
反応終了液を後処理することにより、下記式
【0213】
【化92】

【0214】
で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を得た。
【0215】
変換率は、条件−1及び条件−2のガスクロマトグラフィーを測定し、下記式により算出した。A、B及びCの相対面積値は、それぞれの測定条件においてCの面積値(条件−2の場合は、R体とS体の合計面積値)を基準として求めた(条件−1;Bの面積値とCの面積値の比較、条件−2;Aの面積値とCの面積値の比較)。
【数1】

但し、比較例7の変換率は、条件−2の測定において反応溶媒のプロピオニトリルとトリフルオロピルビン酸エチルのピークが重なるため、条件−1の測定結果から下記式により算出した。
【数2】

また、実施例1、2、12及び比較例1の変換率は、H−NMRにより決定した。
光学純度は、条件−2のガスクロマトグラフィーを測定し、下記式により算出した。
【数3】

または
【数4】

条件−1)
カラム;DB−5(I.D.0.25mm×30m,フィルム0.25μm)、キャリアガス;He、流量;163kPa(カラム入口圧)、温度条件;50℃(5分保持)→10℃/分(昇温)→250℃(5分保持)/トータル30分、インジェクション;250℃、検出器(FID);250℃、スプリット比;50、保持時間;トリフルオロピルビン酸エチル水和体・約6分、光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)・約9分。
条件−2)
カラム;Cyclodex−β(I.D.0.25mm×30m,フィルム0.25μm)、キャリアガス;He、流量;163kPa(カラム入口圧)、温度条件;50℃(5分保持)→10℃/分(昇温)→150℃(10分保持)/トータル25分、インジェクション;200℃、検出器(FID);200℃、スプリット比;50、保持時間;トリフルオロピルビン酸エチル・約2分、光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)R体・11.6分、S体・11.7分。
光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)の機器データを示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi,重溶媒;CDCl3],δ ppm;1.34(t,7.1Hz,3H),1.78(s,3H),2.58(d,14.0Hz,1H),2.75(d,14.0Hz,1H),3.86(br,1H),4.34(m,2H),4.81(s,1H),4.91(s,1H)、
13C−NMR[基準物質;(CHSi,重溶媒;CDCl3],δ ppm;13.9,23.9,38.7,63.7,78.1(q,JC−F=28.7Hz),116.1,123.3(q,JC−F=286.8Hz),138.7,169.5、
比旋光度[光学純度97.9%ee(R)];[α]23.7=−6.8(CHCl,c=2.47)。
【0216】
【表1】

【0217】
【表2】

【0218】
【表3】

【0219】
[実施例2の後処理操作]
反応終了液を直接、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、n−ペンタン:ジエチルエーテル=8:1)に付すことにより(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)を4.433g(無色澄明液体、収率98%、化学純度99%、光学純度98%ee)得た。
【0220】
[実施例7の後処理操作]
反応終了液に残存するイソブテンを−10〜−5℃で減圧濃縮し、引き続いて減圧蒸留(バス温度;〜+70℃)することにより(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)を10.90g(無色澄明液体、収率96%、化学純度99%、光学純度95%ee)得た。
【0221】
[実施例14の後処理操作]
反応終了液に残存するイソブテンを0℃で減圧濃縮し、引き続いて減圧蒸留(バス温度;〜50℃)することにより(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)を12.89g(無色澄明液体、収率91%、化学純度99%、光学純度96%ee)得た。
【0222】
[実施例21の後処理操作]
反応終了液に残存するイソブテンとジエチルエーテルを0℃で減圧濃縮し、引き続いて減圧蒸留(バス温度;〜50℃)することにより(S)−トリフルオロカルボニル−エン生成物(イソブテン由来)を11.21g(無色澄明液体、収率99%、化学純度>99%、光学純度97%ee)得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【化2】

[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【化3】

[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項2】
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の使用量が、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式[4]
【化4】

で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【化5】

で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[6]
【化6】

[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項4】
式[4]
【化7】

で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【化8】

で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒の非存在下に、反応させることにより、式[7]
【化9】

で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項5】
一般式[1]
【化10】

[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【化11】

[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ比誘電率εが5.0以下の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【化12】

[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項6】
一般式[1]
【化13】

[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【化14】

[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下の光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【化15】

[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項7】
式[4]
【化16】

で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【化17】

で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0005モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性遷移金属錯体の存在下、かつ芳香族炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、式[6]
【化18】

[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項8】
式[4]
【化19】

で示されるトリフルオロピルビン酸エチルと、式[5]
【化20】

で示されるイソブテンを、式[4]で示されるトリフルオロピルビン酸エチル1モルに対して0.0003モル以下の光学活性な配位子を有する二価カチオン性パラジウム錯体の存在下、かつ反応溶媒としてトルエンの存在下に、反応させることにより、式[7]
【化21】

で示される(R)−トリフルオロカルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項9】
一般式[1]
【化22】

[式中、Rfはパーフルオロアルキル基を表し、Rはアルキル基を表す]で示される含フッ素α−ケトエステルと、一般式[2]
【化23】

[式中、R、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基または置換芳香環基を表す]で示されるアルケンを、光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の存在下、かつ、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して1.0L(リットル)未満の、ハロゲン化炭化水素系の反応溶媒の存在下に、反応させることにより、一般式[3]
【化24】

[式中、Rf、R、R、R、R、RおよびRは上記と同じ置換基を表し、*は不斉炭素を表し(但し、RとRが同一の置換基の場合は不斉炭素でない)、波線は二重結合の幾何配置がE体またはZ体を表す]で示される光学活性含フッ素カルボニル−エン生成物を製造する方法。
【請求項10】
光学活性な配位子を有する遷移金属錯体の使用量が、一般式[1]で示される含フッ素α−ケトエステル1モルに対して0.001モル以下である、請求項9に記載の方法。

【公開番号】特開2008−239593(P2008−239593A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108681(P2007−108681)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業 顕在化ステージにおける「東京工業大学大学院理工学研究科教授 三上幸一」を研究リーダーとする研究課題「トリフルオロメチル化合物の触媒的不斉合成法の開発」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】