説明

光学活性1−アミノ−2−プロパノール及びその中間体、並びに、それらの製造方法

【課題】光学活性1−アミノ−2−プロパノールを含有する新規なジアステレオマー塩の製造方法、及び、合成した新規なジアステレオマー塩から効率的に光学活性1−アミノ−2−プロパノールを単離し、なおかつ容易に光学分割剤が回収可能な製造方法を提供する。
【解決手段】1−アミノ−2−プロパノールと光学分割剤である酒石酸モノアミド誘導体とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程、及び、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程を含むことを特徴とする式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法。


(式中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性1−アミノ−2−プロパノール及びこの製造中間体となるジアステレオマー塩、並びに、それらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学活性1−アミノ−2−プロパノールは、メラニン凝集ホルモン受容体に対し、拮抗作用を有し、肥満症等の予防・治療剤として有用なキノリン化合物の原料として用いられる例が報告されている(特許文献1参照)。
光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法としては、光学活性体な原料からの化学合成とラセミ体の光学分割による合成が知られている。前述の化学合成法としては、光学活性エポキシドからの合成法(特許文献2参照)や、光学活性アミノ酸類からの合成法(非特許文献1及び2参照)が報告されている。
【0003】
一方、光学活性アミン類合成には光学分割法が汎用されている。この方法は原料が安価なこと、操作が単純で不純物が生成しにくいこと、などのメリットがある。光学活性1−アミノ−2−プロパノールの光学分割法による合成法としては、酒石酸によるもの(非特許文献3参照)、光学活性フェニルプロピオン酸誘導体によるもの(特許文献3参照)等が報告されている。また、酸性光学分割剤のタートラニル酸に関して、合成方法や結晶構造について報告されている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−088120号公報
【特許文献2】特許第1477336号公報
【特許文献3】国際公開第2008/115572号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem. Pharm. Bull., Vol 38, 2024-2026 (1990)
【非特許文献2】Synlett., Vol 4, 542-546 (2003)
【非特許文献3】Chinese Journal of Pharmacerticals, Vol 36(8), 463 (2005)
【非特許文献4】Analytical Siences, Vol 21, x131 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2、並びに、非特許文献1及び2に記載された光学活性1−アミノ−2−プロパノールの化学合成法では、出発物質が高価で、実用的ではない。また、非特許文献3に記載された方法は光学分割剤の回収、再使用が煩雑であり、特許文献3に記載された方法は光学分割剤の入手が工業的に難しく、高価である難点があるため、実用的ではない。
そこで、光学活性1−アミノ−2−プロパノールの両エナンチオマーを効率的に得ることができる製造法が望まれてきた。
【0007】
本発明の目的は以下の通りである。すなわち、本発明の目的は、容易に入手可能な原料を用いて、医薬品及び農薬原料として有用な光学活性1−アミノ−2−プロパノールの実用的製造方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、上記の目的を達成するために光学活性1−アミノ−2−プロパノールを含有する新規なジアステレオマー塩の製造方法を提供することである。さらに本発明は、合成した新規なジアステレオマー塩から効率的に光学活性1−アミノ−2−プロパノールを単離し、なおかつ容易に光学分割剤が回収可能な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の<1>、<3>及び<6>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>、<4>及び<5>とともに以下に記載する。
<1> 式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程、及び、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程を含むことを特徴とする、式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
す。)
【0011】
【化3】

(式(3)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0012】
<2> <1>に記載の製造方法により得られることを特徴とする、式(3)で表されるジアステレオマー塩。
<3> 式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程、及び、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程を含むことを特徴とする光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0015】
【化6】

(式(3)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0016】
<4> 式(3)で表されるジアステレオマー塩を析出させる工程の後、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程の前に、式(3)で表されるジアステレオマー塩を水に難溶性の有機溶媒と、酸性又は塩基性水溶液とを用いて分解する工程を含む、<3>に記載の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
<5> 光学分割剤を回収する工程を含む、<3>又は<4>に記載の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
<6> <3>から<5>のいずれか1つに記載の製造方法により得られることを特徴とする光学活性1−アミノ−2−プロパノール。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、容易に入手可能な原料を用いて、医薬品及び農薬原料として有用な光学活性1−アミノ−2−プロパノールの実用的製造方法を提供するができた。また、本発明によれば、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを含有する新規なジアステレオマー塩の製造方法を提供することができた。さらに本発明によれば、合成した新規なジアステレオマー塩から効率的に光学活性1−アミノ−2−プロパノールを単離し、かつ、容易に光学分割剤が回収可能な製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の下記式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法は、下記式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと下記式(2)で表される光学分割剤(タートラニル酸誘導体)とを反応させて下記式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程(以下、「形成工程」ともいう。)、及び、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程(以下、「析出工程」ともいう。)を含むことを特徴とする。
また、本発明の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法は、下記式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと下記式(2)で表される光学分割剤(タートラニル酸誘導体)とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程(形成工程)、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程(析出工程)、及び、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程(以下、「単離工程」ともいう。)を含むことを特徴とする。下記式(3)で表されるジアステレオマー塩を析出させる工程(析出工程)の後、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程(単離工程)の前に、式(3)で表されるジアステレオマー塩を水に難溶な有機溶媒と、酸性又は塩基性水溶液とを用いて分解する工程(以下、「分解工程」ともいう。)を含むことが好ましく、また、光学分割剤を回収する工程(以下、「回収工程」ともいう。)を含むことが好ましい。
本発明の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法により、光学純度の高い1−アミノ−2−プロパノールを、簡便な操作で効率よく製造することができる。また、回収工程を含む態様では、光学分割剤の再利用が可能であり、安価に光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得ることができる。
【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0021】
【化9】

(式(3)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【0022】
なお、本発明において、化学構造式の一部について、炭化水素鎖を炭素(C)及び水素(H)の記号を省略した簡略構造式で記載する。
また、数値範囲を表す「A〜B」の記載は、特に断りのない限り、「A以上B以下」を意味する。すなわち、端点であるA及びBを含む数値範囲を表す。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
(式(2)で表される光学分割剤)
本発明は、上記式(2)で表される光学分割剤(以下、式(2)で表される光学分割剤を、「酸性分割剤」ともいう。)を使用して、1−アミノ−2−プロパノール誘導体を光学分割する点に特徴がある。
式(2)中、Xはハロゲン原子であり、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示できるが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子であることが好ましく、フッ素原子又は塩素原子であることがより好ましく、フッ素原子であることが特に好ましい。
Xがフッ素原子であると、分割効率が高く、より高い光学純度の1−アミノ−2−プロパノールを得ることができるのでもっとも好ましい。
【0024】
Xで表されるハロゲン原子の置換位置は、オルト位(o−)、メタ位(m−)、パラ位(p−)のいずれでもよく、特に限定されないが、好ましい態様は以下の通りである。
Xがフッ素原子の場合、フッ素原子の置換位置はオルト位又はメタ位であることが好ましく、オルト位であることがさらに好ましい。
Xが臭素原子の場合、臭素原子の置換位置は、パラ位であることが好ましい。
Xが塩素原子の場合、塩素原子の置換位置はパラ位又はメタ位であることが好ましく、メタ位であることがより好ましい。
これらの中でも、Xがフッ素原子であることが好ましく、置換位置がオルト位又はメタ位であることがより好ましく、オルト位であることがさらに好ましい。
【0025】
前記式(2)で表される光学分割剤(酸性分割剤)は、ラセミ体であっても、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよく、鏡像体過剰率(enantiomeric excess、以下eeあるいは、単に光学純度と記すことがある。)が0%以上100%以下の酸性分割剤が使用できる。
前記酸性分割剤は、光学分割能及び収率の観点から、光学純度が高いことが好ましいが、鏡像体過剰率が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
次に、本発明の上記式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法及び光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法に使用される、それぞれの工程について詳述する。
【0027】
(形成工程:式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程)
本発明の上記式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法及び光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法は、式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程(形成工程)を含む。
【0028】
形成工程において原料として使用する1−アミノ−2−プロパノールは、ラセミ体であってもよいし、任意の比率の鏡像異性体混合物であってもよく、鏡像体過剰率が0%以上100%未満であれば特に限定されない。また、1−アミノ−2−プロパノールのラセミ体は、上市されている。
【0029】
上記の形成工程において得られるジアステレオマー塩は、1−アミノ−2−プロパノールと、前記式(2)で表される光学分割剤とからなるジアステレオマー塩である。また、1−アミノ−2−プロパノールと酸性分割剤との結合比は特に限定されないが、1:3〜3:1であることが好ましく、1:2〜2:1であることがより好ましく、1:1であることがさらに好ましい。
上記の形成工程において得られるジアステレオマー塩は、結晶中に水、有機溶媒等を含んでいてもよい。
【0030】
前記形成工程におけるジアステレオマー塩の調製は無溶媒でも可能であるが、溶媒を用いることが好ましい。すなわち、1−アミノ−2−プロパノールを、水もしくは有機溶剤、又は、それらの任意の混合物からなる媒体中において、酸性分割剤と作用させることが好ましい。溶媒は、原料となる1−アミノ−2−プロパノール及び酸性分割剤に対して不活性で、酸性分割剤及び1−アミノ−2−プロパノールが可溶であり、生成するジアステレオマー塩のうち一方の光学活性体が析出する性質を有するものを使用することが好ましい。
【0031】
上記の溶媒としては、具体的にはメタノール等のアルコール類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、トルエン、ヘキサン等の炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、及び、水が溶媒として利用できる。またこれらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上の溶媒を任意の比率で混合して使用してもよい。この中では特にアルコール類の使用が好ましく、とりわけ2−プロパノール、1−プロパノールの使用が特に好ましい。
溶媒の使用量は酸性分割剤及び1−アミノ−2−プロパノールの双方が溶解し、かつ、光学活性ジアステレオマー塩の一方の異性体が溶解している範囲が好ましく、溶解している総固形分の1〜100重量倍の範囲で使用することがより好ましく、さらに好ましくは溶解している総固形分の1〜30重量倍であり、特に好ましくは溶解している総固形分の2〜10重量倍である。
【0032】
ジアステレオマー塩形成時の反応温度は、溶媒の融点から沸点までの範囲で特に限定されないが、酸性分割剤及び1−アミノ−2−プロノールの双方が溶解するという観点から、酸性分割剤及び1−アミノ−2−プロパノールを加熱下で混合することが好ましく、室温から溶媒の沸点までの間で適宜選択することが好ましい。
溶媒として2−プロパノールを使用した場合には混合物を好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃、さらに好ましくは55〜65℃まで加熱して溶解することが好ましい。
【0033】
なお、形成工程における酸性分割剤と1−アミノ−2−プロパノールの混合比は10:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくは1.0:1.6〜1.0:2.4である。
1−アミノ−2−プロパノールと酸性分割剤との混合比が上記範囲内であると、光学分割効率に優れ、また、不純物の混入が少ないので好ましい。
【0034】
上記の1−アミノ−2−プロパノール誘導体及び酸性分割剤並びに必要に応じて溶媒とともに、さらに、反応系内にアキラルなカルボン酸、スルホン酸又は鉱酸等の酸を併用することも好ましい。これにより、ジアステレオマー塩の光学純度がより向上することがある。
併用する酸は酸性分割剤及び溶媒に対して不活性ならばどのようなものでも利用できるが一般には安価な塩酸の使用が好ましい。使用量は1−アミノ−2−プロパノール1モルに対して3.0〜0.1モル当量が好ましく、2.0〜0.2モル当量であることがより好ましく、1.0〜0.25モル当量であることがさらに好ましい。
【0035】
(析出工程:得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程)
本発明の前記式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法及び光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法は、得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程(析出工程)を含む。
前記析出工程における析出手段としては特に限定されず、形成工程により形成されたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させる手段であれば特に限定されない。
【0036】
析出手段としては、例えば、前記形成工程において得られたジアステレオマー塩を含む混合物を静置し、ジアステレオマー塩を析出することが挙げられる。前記形成工程において溶媒を使用し、かつ、加熱を行って1−アミノ−2−プロパノールと酸性分割剤とを溶解し、その後、冷却してジアステレオマー塩を析出することが好ましい。
溶媒として2−プロパノールを使用した場合には、上述のように加熱して溶解した後、好ましくは5〜40℃、より好ましくは10〜30℃まで冷却して、ジアステレオマー塩を析出させ、析出したジアステレオマー塩を固液分離することでジアステレオマー塩を得ることが好ましい。
【0037】
析出工程において、溶媒としては前記形成工程において例示したものと同様なものが好適である。また、溶媒は1種を単独で使用しても、2種以上を任意の比率で混合して使用してもよく、特に限定されない。
【0038】
また、前記形成工程及び析出工程は、同時に行っても逐次に行ってもよい。また、形成工程後、一旦ジアステレオマー塩として単離し、その後、析出工程を行って、精製ジアステレオマー塩の析出を行ってもよい。
また、操作の簡便性の観点から、前記形成工程及び析出工程において、同一の溶媒を使用することが好ましく、同一の溶媒として、2−プロパノールを使用することが好ましい。
【0039】
また、前記析出工程において、析出した精製ジアステレオマー塩を溶媒や反応残渣等から分離する方法としては特に制限はなく、濾過等の公知の方法により分離すればよい。
【0040】
前記析出工程では、析出した固体として精製ジアステレオマー塩を得てもよく、析出した固体を除いた溶液から析出した固体とは異なる異性体である精製ジアステレオマー塩を得てもよく、また、析出した固体及び該固体を除いた溶液のそれぞれから、精製ジアステレオマー塩を得てもよい。
また、所望の光学純度に応じ、前記析出工程で得られた精製ジアステレオマー塩に対し、さらに析出工程を1回以上繰り返したり、再結晶や再沈殿等の手段を1回以上行い、精製ジアステレオマー塩をさらに精製してもよい。
【0041】
(単離工程:光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程)
本発明の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法は、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程(単離工程)を含む。
前記単離工程における単離手段としては、前記析出工程で得られた精製ジアステレオマー塩から光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得ることができる手段であれば特に限定されず、公知の手段を適用することができる。
これらの中でも、精製ジアステレオマー塩を水に難溶性の有機溶媒及び酸性又は塩基性水溶液に溶解又は懸濁させ、精製ジアステレオマー塩を中和して形成した塩を分解し、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを有機層に、酸性分割剤を水層に移行させることが好ましい。より好ましくは、精製ジアステレオマー塩を水に難溶性の有機溶媒及び塩基性水溶液に溶解又は懸濁させ、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを有機層に、酸性分割剤を水層に移行させることである。
なお、上記手段においては、水に難溶性の有機溶媒及び塩基性水溶液の添加は、同時であっても逐次であってもよく、また、水に難溶性の有機溶媒及び塩基性水溶液のいずれを先に添加してもよく、特に限定されない。
また、これらの溶媒はそれぞれ、1種単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0042】
前記単離工程において使用される有機溶媒は水に難溶で水と界面を形成し、酸性又は塩基性でも分解せず、1−アミノ−2−プロパノール及び酸性分割剤に対して不活性であれば、どのような溶媒でもよい。具体的にはジクロロメタン等のハロゲン化アルキル類,ヘキサン等の炭化水素類、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル類、4−メチル−2−ペンタノン等の溶媒が例示できる。
有機溶媒の使用量は、実用的にはジアステレオマー塩に対して1〜100重量倍であることが好ましく、1.5〜30重量倍であることがより好ましく、2〜10重量倍であることがさらに好ましい。
【0043】
一方、光学活性1−アミノ−2−プロパノール単離時に使用される塩基性水溶液は、抽出に使用される有機溶媒及び単離生成物に対して不活性ならば特に限定されず、無機塩基水溶液及び有機塩基水溶液のいずれを使用してもよい。安価であるという観点から、塩基性水溶液としては、水酸化カリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液の使用が好ましい。
また、塩基の添加量はジアステレオマー塩に含有される酸性分割剤1モルに対して、1〜10モル当量であることが好ましく、より好ましくは1〜2モル当量である。
さらに塩基性水溶液の使用量はジアステレオマー塩の1〜100重量倍であることが好ましく、1.5〜30重量倍であることがより好ましく、2〜10重量倍が好ましい。
【0044】
分液して得られた有機層から、溶媒を減圧留去することにより、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得ることができる。
また、所望の光学純度の1−アミノ−2−プロパノールを得るために、本発明の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法における形成工程、析出工程及び単離工程を任意の回数繰り返して行ってもよい。
また、本発明の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法により得られた1−アミノ−2−プロパノールは、所望の純度や光学純度に応じ、再結晶や再沈殿等の公知の手段を用いてさらに精製を行ってもよい。
【0045】
本発明において、酸性分割剤を回収する工程を含むことが好ましく、水層からは酸性分割剤を回収することができる。酸性分割剤を回収することにより、酸性分割剤を再利用に供することができる。
上述のような精製ジアステレオマー塩に有機溶媒及び塩基性水溶液を添加した後、分液する方法では、水層側に酸性分割剤が塩として含まれている。本発明において、酸性分割剤はこのまま塩として回収してもよいが、塩を形成していない酸性分割剤として回収する場合、分離した水層に、有機溶媒及び酸を添加した後分液することで、有機層から塩を形成していない酸性分割剤が回収される。
前記酸としては特に限定されず、無機酸であっても有機酸であってもよい。中でも、鉱酸を使用することが好ましく、塩酸がより好ましい。また、酸はそのまま添加しても、水溶液として添加してもよく、特に限定されない。また、酸の添加量は、酸性分割剤1モルに対して、1〜10モル当量であることが好ましく、より好ましくは1〜2モル当量である。
また、回収した酸性分割剤の純度が十分でない場合には、カラムクロマトグラフィーや再結晶、蒸留などの公知の方法により精製することができる。
【0046】
本発明における化合物の光学純度の測定方法としては、特に制限されず、公知の方法により測定することができる。これらの中でも、キラルカラムを用いて、ガスクロマトグラフィー法(GC)により測定することが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(光学純度の測定)
前処理として、測定する1−アミノ−2−プロパノール(1.0g)、ピリジン(10ml)を混合して、液温を0〜10℃に冷却した。液温を保ちながら無水酢酸(5.0g)を滴下した。反応液を5時間撹拌後、減圧留去して溶媒を除去し、測定サンプルを得た。
上記測定サンプルを、下記の条件でガスクロマトグラフィーを行うことにより、光学純度を測定することができる。なお、下記の条件では、(S)体の保持時間は32.3分であり、(R)体の保持時間は35.3分である。
【0049】
〔測定条件〕
カラム:クロムパック社製Chirasil−Dex CD 0.25mmφ×25m
検出器:水素炎イオン化検出器
キャリア:ヘリウム 250kg/cm2
インジェクション温度:250℃
カラム温度:80℃で5分間保持後に1℃/minで昇温操作を実施し、140℃で10分間保持した。
【0050】
(非水滴定)
サンプルを酢酸に溶解させ、指示薬としてナフトールベンゼイン溶液を使用して、0.1mol/l過塩素酸酢酸溶液で滴定を実施した。
【0051】
(実施例1−1)
(RS)−1−アミノ−2−プロパノール(75.1g(1.00mol))、(R,R)−2’−フルオロタートラニル酸(121.6g(0.500mol))、2−プロパノール(300cm3)を混合し、液温を60〜70℃まで加熱して、内容物を溶解させた。これに35%塩酸(52.1g(0.500mol))を添加後、溶液を20〜30℃まで冷却し、一晩静置した。
生じた結晶を分離、乾燥して、粗ジアステレオマー塩を得た(収量131.0g、収率82.3%、光学純度72%ee(GC))。
粗ジアステレオマー塩をメタノールから再結晶して精製ジアステレオマー塩を得た((S)−1−アミノ−2−プロパノール:(R,R)−2’−フルオロタートラニル酸(結合比)=1:1、収量116.0g、収率72.9%、光学純度98%ee(GC))。
なお、1−アミノ−2−プロパノールと酸性分割剤の結合比は、非水滴定法にて測定した。
【0052】
精製ジアステレオマー塩((S)−1−アミノ−2−プロパノール:(R,R)−2’−フルオロタートラニル酸=1:1、115.0g(0.361mol))、5%水酸化カリウム水溶液(486g(0.433mol))を混合し、ジクロロメタン(480cm3)で3回抽出した。有機層より光学活性1−アミノ−2−プロパノールを回収し、水層より酸性分割剤を回収した。
有機層をあわせ、硫酸ナトリウムで減圧乾燥後、溶媒を減圧留去して目的物を得た(収量22.2g、ジアステレオマー塩からの収率82.0%)。
【0053】
(実施例1−2〜1−6、実施例2−1〜2−2、実施例3−1〜3−3)
酸性分割剤を変更した以外は、実施例1−1と同様な操作を行い、粗ジアステレオマー塩を得ることができた。
結果を以下の表1〜表3に示す。
(比較例1〜2)
光学分割剤として、表4に示した化合物を使用した以外は、実施例1−1と同様な操作を行った。結果を以下の表4に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0058】
光学活性1−アミノ−2−プロパノールは医薬品などの中間体原料として広範な用途が期待されている化合物である。本法は原料が安価に入手でき、簡便な操作で光学活性体を製造することができる。このため、大きな産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程、及び、
得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程を含むことを特徴とする、
式(3)で表されるジアステレオマー塩の製造方法。
【化1】

【化2】

(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【化3】

(式(3)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られることを特徴とする、式(3)で表されるジアステレオマー塩。
【請求項3】
式(1)で表される1−アミノ−2−プロパノールと式(2)で表される光学分割剤とを反応させて式(3)で表されるジアステレオマー塩を形成する工程、
得られたジアステレオマー塩の少なくとも一部を析出させ、精製ジアステレオマー塩を析出させる工程、及び、
光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程を含むことを特徴とする
光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
【化4】

【化5】

(式(2)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【化6】

(式(3)中、Xはハロゲン原子を表し、*は不斉炭素原子であることを表す。)
【請求項4】
式(3)で表されるジアステレオマー塩を析出させる工程の後、光学活性1−アミノ−2−プロパノールを得る工程の前に、式(3)で表されるジアステレオマー塩を水に難溶性の有機溶媒と、酸性又は塩基性水溶液とを用いて分解する工程を含む、請求項3に記載の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
【請求項5】
光学分割剤を回収する工程を含む、請求項3又は4に記載の光学活性1−アミノ−2−プロパノールの製造方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1つに記載の製造方法により得られることを特徴とする光学活性1−アミノ−2−プロパノール。

【公開番号】特開2011−79782(P2011−79782A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234116(P2009−234116)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(591169386)大東化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】