説明

光学物品の製造方法および製造装置

【課題】原料自身の特性や調合後の時間経過等の理由で、粘度が高く、常温での注入が困難な原料組成物についてもスムーズな注入を実現するとともに、原料組成物のポットライフにも悪影響のない光学物品の製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】製造装置100は、原料組成物を収納するタンク110と、タンク110内部で原料組成物の粘度を測定する粘度計120と、原料組成物を重合硬化させるモールド130と、モールド130へ原料組成物を供給する原料供給装置140と、原料組成物の注入直前の加熱温度を制御する制御部150と、を備えている。原料供給装置140は、モールド130の内部に原料組成物を注入するディスペンサ141と、このディスペンサ141に接続される原料流通管142と、原料流通管142を覆い、ディスペンサ141に隣接したヒータ143と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズなどの光学物品の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックレンズなどの光学物品を形成するには、複数の材料を混合して調合した原料組成物をモールド型のキャビティ内部に注入し、キャビティ内部で重合硬化させることにより行っている。この場合、原料組成物は、タンクまたはタンクから小分けされたタンクのジャケットに通水することで温度管理が行われている。
しかしながら、ガラス型への注入に際して、タンクから注入装置までを結ぶ配管は基本的に温度管理がされておらず、タンクで管理されていた温度が維持されないまま注入が行われている。
【0003】
タンク内の原料組成物は、時間の経過とともに徐々に反応が進行し、粘度が上昇するというのが一般的である。調合完了初期の原料組成物は粘度も低く、注入に際し何の問題もないが、時間の経過に伴って粘度が上昇した場合、モールド型への注入が困難となる。
そこで、配管中の温度低下または上昇の影響で粘度が変動しやすい素材については、注入装置までの配管すべてを二重に形成し、タンク同様に通水することで原料組成物の温度を制御する方法などが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−219436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように配管全体を加温すると、粘度の上昇は抑えられるかもしれないが、過度な加温により反応を進行させ、ポットライフが低下するというおそれがある。特に、調合完了初期の粘度が高い原料組成物については、スムーズな注入を実現させるために原料組成物をより高温に加熱しなければならず、ポットライフに対しての悪影響は顕著になり易い。
【0006】
そこで、本発明の目的は、時間経過等の理由により粘度の高い原料組成物についても、加温による組成物のポットライフ低下等の悪影響を最小限に抑えるとともに、安定して量産することができる光学物品の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学物品の製造方法は、タンク内に収納された組成物を、モールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入工程と、この注入工程で注入された組成物を重合硬化させる重合工程と、を備えた光学物品の製造方法であって、前記キャビティ内部に注入される直前の組成物の温度が、前記タンク内に収納される組成物の温度より高くなるようにヒータで加熱することを特徴とする。
【0008】
この発明では、モールド型のキャビティ内部に組成物を注入する直前に、組成物の温度をタンク内の組成物の温度よりも高くなるようにヒータで加熱する。
したがって、組成物の粘度が低下し、組成物をスムーズにキャビティ内部に注入することができる。その結果、量産が容易となり、生産性が向上するとともに、従来高粘度で注入を断念した組成物を無駄なく使用する事が可能となる。また、配管全体を加温していないため、ポットライフの低下といった悪影響もない。
【0009】
本発明の光学物品の製造方法において、前記注入工程は、前記タンクに収納された組成物の粘度の値に基づいて前記キャビティ内部に注入される組成物の温度を制御することが好ましい。
【0010】
タンク内で調合された組成物は、タンクからモールド型へ配管を通じて輸送されるが、タンク内で制御される組成物の温度より室温が低い場合、この配管の内部を輸送される間に粘度が上昇する。一方で、組成物を配管からモールド型へ注入するには、注入に最適な粘度が必要とされる。粘度と温度には相関関係があるため、温度を制御することにより、粘度の調整を行うことができる。
具体的には、モールド型への注入をスムーズに行うため、モールド型へ注入するときの組成物の粘度をタンク内の組成物の粘度よりも小さくしたいことが多い。このためには、モールド型へ注入するときの組成物の温度をタンク内の組成物の温度よりも高くすればよい。このように組成物の温度を制御することにより、量産が容易となり、生産性が向上するとともに、従来高粘度で注入を断念した組成物を無駄なく使用する事が可能となる。また、タンク全体の温度を上げる必要もなく、配管全体の温度を上げる必要もないため、ポットライフに対する悪影響もない。
【0011】
本発明の光学物品の製造装置は、組成物が収納されるタンクと、このタンク内に収納された組成物がキャビティに注入されるモールド型と、このモールド型の前記キャビティに組成物を注入するディスペンサと、を備えた光学物品の製造装置であって、前記キャビティに注入される直前の組成物の温度を前記タンク内に収納される組成物の温度より高くするヒータを有することを特徴とする。
【0012】
この発明では、タンクで調合した組成物をモールド型へ注入する際に、ディスペンサを用いる。そして、このディスペンサに供給する組成物の温度を上げるためのヒータを備えている。
ヒータは、温度を調整することが簡単なため、組成物の温度を容易に所望の温度まで上げることができる。なお、組成物の粘度と温度には相関関係があるため、温度を設定することで所望の粘度に調整することができる。
したがって、組成物の粘度を低下させることができ、キャビティ内部に注入するに際し最適の粘度とすることができる。その結果、量産が容易となり、生産性が向上するとともに、従来高粘度で注入を断念した組成物を無駄なく使用する事が可能となる。
【0013】
本発明の光学物品の製造装置は、前記タンクに収納された組成物の粘度を測定する粘度計と、この粘度計の測定値に基づいて前記キャビティに注入される組成物の温度を制御する制御装置と、を備えたことが好ましい。
【0014】
この発明によれば、タンクに粘度計が装備されているので、タンク内の組成物の粘度を常時測定および監視することができる。
したがって、調合完了後の時間の経過によって、タンク内の組成物の粘度が上昇した場合、その粘度上昇の程度を常時測定および監視することが可能であり、組成物の粘度上昇の程度に合わせて、注入時に最適な粘度となるようにヒータの温度を調整することが可能となる。
つまり、組成物の粘度が低めの場合には、ヒータは低温での加熱で十分であり、組成物の粘度が高い場合には、ヒータを高温にしてやることで、注入時の組成物の粘度を低下させ、スムーズに注入することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳述する。
(製造装置の構成)
図1は本発明の一実施形態にかかる光学物品の製造装置の概略図である。
図1に示すように、製造装置100は、原料組成物を収納するタンク110と、タンク110内部の原料組成物の粘度を測定する粘度計120と、原料組成物を重合硬化させるモールド130と、モールド130へ原料組成物を供給する原料供給装置140と、原料組成物を注入直前に加温する温度を制御する制御部150と、を備えている。
【0016】
本発明で使用する原料は特に限定されず、一般的に光学物品の材料として用いられているものを使用することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、(チオ)エポキシ基を有する化合物を含有する重合性組成物を重合して得られるチオエポキシ系樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を重合して得られる樹脂などが挙げられる。本実施形態では、スチレン樹脂を用いる。
【0017】
タンク110は、底面111と、底面111から垂直に立ち上げられた壁面112とからなる略円筒状の容器である。壁面112の底面111側には、粘度計120を取り付けるための取付孔113が形成されている。また、タンクには、ウォータージャケット等による温度制御設備と、撹拌羽等による撹拌装置が付いていることが望ましい。
【0018】
粘度計120は、取付孔113に嵌合する本体部121と、本体部121の先端で原料組成物の粘度を検出する検出部122と、検出部122での測定値を表示する表示装置123と、を備えている。本体部121と取付孔113との間は、タンク110内の原料が漏れないように密封されている。検出部122は、タンク110内の原料組成物に浸漬されている。表示装置123は本体部121に接続され、検出部122で検出した粘度を数値化して表示している。
粘度計120としては、一般に市販されている粘度計を使用することができる。例えば、CBC株式会社製のシールド型粘度計「FVM80A−ST」などのインライン型粘度計を好適に使用することができる。
【0019】
モールド130は、一対のレンズ型131の周縁部にテープ132が巻き付けられて形成される。
【0020】
原料供給装置140は、モールド130に原料組成物を供給する装置であり、モールド130の内部に原料組成物を注入するディスペンサ141と、このディスペンサ141の基端部に下端部が接続される原料流通管142と、原料流通管142を覆い、ディスペンサ141に隣接したヒータ143と、を備え、原料流通管142の他端部は、タンク110内の原料組成物に浸漬された状態となっている。
【0021】
ディスペンサ141には、タンク110から原料流通管142を通じて一定の圧力で原料組成物が供給される。ディスペンサ141としては、例えば、ニードル弁方式のディスペンサを使用することができる。ニードル弁方式のディスペンサは、圧縮空気および原料が導入されて、ニードル弁が開閉し、ニードル弁が開状態の間、先端の注入ノズルより原料が吐出される。
原料流通管142は、タンク110内の組成物をディスペンサ141に一定の圧力で供給する。
【0022】
ヒータ143は、ディスペンサ141に供給する直前に原料流通管142内部の組成物を加温できれば特に限定されないが、例えば、ステンレス製のフィルム内にニクロムリボン線が内臓されたバンドヒータを使用することができる。このバンドヒータは原料流通管142の外周面を包みこむように取り付けられている。
なお、ヒータ143はディスペンサ141に隣接して原料流通管142の一部に取り付けられるものである。
【0023】
ヒータ143の温度は、原料流通管142の内部を流通する原料組成物の粘度に応じて決定することができる。具体的な原料組成物の粘度に対する、ヒータ143の設定温度については、使用する原料組成物の種類、特性に応じて、最適になるように設定すればよい。具体的には、タンク内の粘度が増加するにつれて、ヒータ温度を上昇させるようなプログラムが考えられる。
【0024】
制御部150は、ヒータ143の温度を制御するヒータ制御部151と、ディスペンサの動作を制御するディスペンサ制御部152と、を備えている。
ヒータ制御部151は、タンク110内の原料組成物の粘度に応じて、ある計算式に基づき、温度が自動で決定されるように制御しても良いし、または、粘度計の表示装置123の値を確認した上で、作業者が手動で設定値を変更して制御することも可能である。
また、ディスペンサ制御部152は、モールド130内の液面等を監視しながら、独立で注入量、注入スピード等を制御しても良いし、または、ヒータ制御部151と連動させて、原料組成物の温度、粘度等のデータを利用して制御させることも可能である。
【0025】
(光学物品の製造方法)
次に、製造装置100による光学物品の製造方法を説明する。
まず、原料組成物をタンク110で調合する。具体的には、各種のモノマー、オリゴマー等の重合性原料を必要量秤量し、タンク110内に投入する。この重合性原料は、必要に応じて、2種類以上を用いてもかまわない。1種、または2種以上の重合性原料をタンク110内に投入した後、タンク110の温度を適切な温度に調整し、投入された原料組成物が均一になるように充分に撹拌を行う。この際、必要に応じて、内部離型剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、架橋剤、ブルーイング剤等を添加しても良い。
【0026】
撹拌時のタンク温度は、一般的には、−10℃〜80℃であり、より好ましくは、0℃〜40℃である。あまり高温で行うと、早期に重合反応が始まってしまったり、原料組成物が黄色に着色するといった問題点がある。また、あまり低温で行うと、粉末(固体)の重合性原料や、紫外線吸収剤等の粉末(固体)の各種添加剤の溶解が不可能であったり、溶解が可能にしても、非常に時間がかかるといった問題が起こり易い。また、撹拌前、もしくは撹拌途中に、重合開始剤、重合触媒を添加してもよい。ただし、これらは、原料組成物のポットライフとの関係で、後述する脱気工程の前、または、後で添加しても良い。
タンク110を用いて、原料組成物を調合する際の撹拌時間は一般的に1分間〜48時間であり、より好ましくは、5分〜24時間である。短時間では、充分に均一にならず、また、長時間の場合は、重合反応が始まってしまう問題点がある。撹拌時のタンク内雰囲気は、大気、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが可能である。圧力についても、常圧の他、加減圧してもかまわない。
【0027】
また、原料組成物の調合にあたっては、上記の様に最初からタンク110を用いても良いし、あるいは、他のタンクを用いて、原料組成物を調合した後で、調合済みの原料組成物をタンク110へ移送して使用することも可能である。
さらに、原料組成物によっては、タンク110内で予備反応を行ってもよい。予備反応を行う場合には、単に、タンク温度を加温することによって反応させることも可能であるが、必要に応じて、予備反応用の重合開始剤、または重合触媒を少量添加してもよい。予備反応を行うことによって、重合成型時の重合収縮を低減させ、モールドと成型材料が重合途中で剥がれることを防止する効果がある。また、原料の種類によっては、予備反応を行うことにより、成型後の樹脂の透明性を改善する効果もある。
【0028】
このようにして、原料組成物の調製後、または予備反応終了後に、続いて脱気工程を行うことが一般的である。脱気工程は、撹拌中に巻き込んだ、微小な気泡を原料組成物中から無くすことで、重合成型後の硬化物に気泡がそのまま残り、外観不良となることを避ける効果がある。また、ウレタン樹脂用またはチオウレタン樹脂用の原料性組成物を用いた場合には、原料組成物中に、極微量の水分が含まれていると、重合成型中に、気泡不良が発生することがあり、脱気工程を行うことで、水分量を減らすことが可能となり、気泡不良を低減する効果もある。
脱気工程は、一般的には、0.001torr〜100torrの減圧下で、−10℃〜80℃、1分間〜24時間行う。ただし、原料組成物によっては、あまり減圧をしすぎると、組成物中に含まれるモノマー自身が揮発してしまう問題があり、最適な圧力、温度、時間等は原料組成物によって異なる。
【0029】
そして、脱気工程が終了した後、原料供給装置140により、タンク110内の原料組成物を、原料流通管142、ディスペンサ141を介してモールド130のキャビティ内に注入する。このとき、原料流通管142の内部を流通する原料組成物は、ヒータ143により加温される。
【0030】
加温の理由には次の2つの場合がある。
1つ目は、通常、原料流通管142、ディスペンサ141、モールド130等は室内の常温(25℃前後)の環境下におかれるため、ディスペンサーを通る原料組成物の温度も常温付近であることが一般的である。常温での原料組成物の粘度が高すぎた場合、モールド130へ注入しようとしても、モールド130のすき間をうまく原料組成物が流れず、モールド130の外側へあふれてしまうことが多い。あるいは、あふれることを避けて注入しようとすると、注入速度を極端に遅くする必要があり、生産性に問題がでる。また、何とか注入しても、モールド130の内部に残った空気が原料組成物の粘度が高いため、うまく排出されず、レンズに欠けが生じてしまう不良になることも多い。
このような現象は、特に、モールドの外周部のすき間幅が狭い、プラス度数レンズ作製用のモールドを使用した場合に発生し易い。プラス強度用のモールドでは、レンズのコバ厚が薄くなるため、中には1mm以下のすき間しかない場合もある。
【0031】
一般的に、注入する際に最適な原料組成物の粘度は、2〜500mPa・sであり、より好ましくは、5〜200mPa・sであり、さらに好ましくは、10〜100mPa・sである。原料組成物の粘度が高すぎる場合には、上記の様にモールド130のすき間をうまく原料組成物が流れず、モールドの外側へ流れ出す等の現象が起こりやすい。
注入時の原料組成物の粘度が500mPa・sを超えた場合、注入速度を遅くするだけでは通常のプラス度数レンズ用のモールドには注入が不可能であり、モールドのすき間を大幅に広げるしかなく、プラス度数レンズであったとしても、コバ厚の非常に厚い、商品価値の落ちるレンズしか作製することが不可能になる。注入時の原料組成物の粘度が200mPa・sを超えた場合、注入スピードを遅くすることや、モールドのすき間を若干広げることで対応は可能であるが、注入スピードの低下による生産性の低下や、レンズのコバ厚の増加につながる。100mPa・s以下まで原料組成物の粘度が下がると、プラス度数レンズ用のモールドでも、スムーズに注入することが可能になり、大きな問題は起こらないことが多い。
また、原料組成物の粘度が低すぎる場合には、すき間を流れることに問題はないものの、原料組成物の流れる勢いが強くなり過ぎてしまい、流れがモールド130の底に達した場合に、その勢いによって微小な気泡を巻き込むなどの悪影響が出る場合がある。
【0032】
このような理由により、常温下における原料組成物の粘度が高過ぎて注入し難い場合に、ヒータ143で加温し、注入時の原料組成物の温度を上げることで、原料組成物の粘度を下げることが、モールド130へのスムーズな注入に対して効果的である。また、常温下での原料組成物の粘度が500mPa・s以下であったとしても、ヒータ143で加温することで、注入時の粘度をさらに下げることにより、よりスムーズな注入を実現させ、注入スピードを早くできる等のメリットも多い。
この場合、ヒータは通常時の室温である常温を25℃とすると、25℃を基準として、原料組成物の粘度に応じて、無段階でコントロールすることが可能である。ただし、常温にあまり近い温度では、効果が少ないため、粘度低減の効果が大きくなる範囲は、常温を25℃とした場合には、28℃以上であり、より好ましくは、30℃以上である。または、常温に対して、+3℃以上であり、より好ましくは+5℃以上である。常温と温度差がこの程度あると、原料組成物の粘度の低下量も大きく、注入時の効果も大きくなる。
【0033】
加温の理由の2つ目としては、原料組成物の常温での粘度は、注入に最適な値になっていたとしても、ポットライフ等の理由で、タンク110を常温以下の低温(たとえば0℃等)で保持している場合、タンクとディスペンサの距離が近すぎると、原料流通管142を通る間に室内の常温の環境下にさらされても、その時間が短く、注入されるまでに原料組成物の温度が上昇できず、低温のまま注入され、粘度が高くなってしまうことがある。この場合には、原料を常温付近までヒータ143で加熱することによって、最適な粘度での注入が可能となる。この際は、原料組成物を常温付近まで昇温させればよく、ヒータでの加熱温度は常温を大きく超える必要はない。常温を25℃とした場合、30℃以下でも充分な効果を得ることは可能である。また、ヒータ143部分以外では原料組成物が加熱されないことで、ポットライフへの悪影響は最小限に押さえられ、また、省エネルギーにもつながる。
【0034】
なお、原料流通管142のディスペンサ141の直前における原料組成物の粘度を測定するために、原料流通管142に粘度計を設けてもよい。
【0035】
以上説明した本実施形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、ヒータ143をディスペンサ141に隣接した位置かつ原料流通管142を覆う状態に設けた。すなわち、原料組成物がモールド130に注入される直前に、ヒータ143により加温されることになる。
したがって、モールド130注入時の原料組成物の粘度を最適なものにすることができ、原料組成物をモールド130にスムーズに注入することができる。さらに、原料組成物の加熱時間が短時間で済むことから、原料組成物のポットライフへの悪影響も最小限に抑えることができる。
【0036】
また、脱気工程後に時間が経つなどして粘度が上昇した原料組成物であっても、注入直前に加温することにより、スムーズにモールド130に注入することができる。その結果、量産が容易となり、生産性が向上するとともに、従来高粘度で注入を断念した組成物を無駄なく使用する事が可能となる。
【0037】
(2)タンク110に取り付けられた粘度計120により組成物の粘度を常時測定できるため、粘度の管理が容易である。また、粘度と温度には相関関係があるため、ヒータ143で温度の制御を行うことにより、モールド130に注入する直前の原料組成物の粘度を調整することができる。
したがって、本実施形態のように粘度の管理が容易で、この粘度に基づいて容易に温度を制御できるヒータ143を用いるので、原料組成物の粘度を容易に制御することができる。
【0038】
(3)本実施形態では、タンク110に粘度計120を取り付け、検出部122がタンク110内の原料組成物に常時浸漬する状態とした。また、測定値を表示装置123に表示することにより、タンク110内の原料組成物の粘度を常時測定および監視することができる。
したがって、タンク110内の原料組成物の粘度を測定するために原料組成物の一部をタンク110の外に取り出して粘度を測定するという手間を省くことができる。また、タンク110の外部に取り出して粘度を測定すると誤差が生じるおそれがあったが、本実施形態では、タンク110内の原料組成物の正確な粘度を連続的に測定することができる。その結果、モールド注入直前の加熱温度についても最適化が可能であり、モールド注入時の最適粘度により近づけることができるとともに、高品質の製品を製造することができる。
【0039】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
インライン型粘度計(CBC株式会社製、製品名「FVM80A−ST」)を装着した調合タンク中で、m−キシリレンジイソシアネート103重量部と4,8or4,7or5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン100重量部を混合し、さらに、内部離型剤0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール3.0重量部を混合し、タンク温度を25℃に保持しながら、1時間ほど十分に攪拌し、原料組成物を調合した。
この後、重合触媒としてジブチルスズジクロライド0.04重量部を添加し、さらに充分撹拌して溶解させた後、5mmHgの真空下で30分脱気を行った。
脱気終了後、タンク温度を25℃で保持したまま、ゆっくりと撹拌を続け、脱気終了後2時間を経過した時点よりモールドへの注入を開始した。
注入にあたって、タンク内原料組成物の粘度をインライン型粘度計で監視し、ヒータの加熱温度を調整した。粘度と加熱温度の関係は、粘度が100〜200mPa・sの時は30℃、200〜300mPa・sの時は35℃、300〜400mPa・sの時は40℃、400〜500mPa・sの時は45℃、500〜600mPa・sとなるように設定した。
今回は、手動でヒータの設定値を上記の様に変更したが、ヒータ制御にプログラムコントローラー等を使用して自動制御を行い、タンク内の原料組成物の粘度に合わせて、ステップ上、または無断階にヒータ温度を制御しても良い。
注入したモールドの形状は、成型後のレンズ度数が+5.00D コバ厚 1.2mmとなるようなガラス製モールドを用いて、外周部を粘着テープで封止した形状の品を用いた。なお、注入スピードは、標準速と低速の2つの場合で注入試験を行い、注入がスムーズに行えるか、また、泡等がレンズに残り外観不良にならないかについて評価を行った。標準速は、60秒程度でモールド内が満杯になる位の速度であり、低速は、3分程度でモールド内が満杯になる位の速度である。
注入が完了したモールドは、30℃から120℃まで20時間かけて昇温し、重合硬化させた後、室温まで冷却してから、モールドと硬化した原料組成物を離型してプラスレンズ形状の光学材料を得た。離型後のレンズについて、泡等が残っていないか外観を確認した。
【0042】
[比較例1]
実施例1と同じ調合タンク、同じ原料を用いて原料組成物の調合・脱気工程を行った。脱気工程後の保管時間、保管条件も実施例1と同様に行い、実施例1と同じ時間になった時点で、標準速、低速での注入試験を行った。注入にあたり、注入直前にヒータでの加熱をせず、そのまま原料組成物をモールドへ注入した。
【0043】
[実施例2]
実施例1と同じ調合タンクを用い、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート 100重量部と、紫外線吸収剤として2−2(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−ベンゾトリアゾールを0.1重量部を混合し、タンク温度を25℃にして、約60分撹拌を行った。続いて、重合開始剤として、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート3重量部を添加し、さらに充分撹拌して均一にした。
ついで、この原料組成物を、20mmHgの真空下で15分脱気を行った。脱気終了後、調合タンクを25℃に保持したまま、ゆっくりと撹拌をつづけ、脱気終了後3時間経過後から注入実験を行った。
注入にあたって、タンク内の原料組成物の粘度に対して、ヒータの加熱条件を実施例1と同様に設定した。注入スピードについても、実施例1と同様に標準速、低速の2つの条件で行い、使用したガラスモールドについても、実施例1と同じ形状、コバ厚の物を用いた。
[比較例2]
実施例2と同じ調合タンク、同じ原料を用いて原料組成物の調合・脱気工程を行った。脱気工程後の保管時間、保管条件も実施例2と同様に行い、実施例2と同じ時間になった時点で、標準速、低速での注入試験を行った。注入にあたり、注入直前にヒータでの加熱をせず、そのまま原料組成物をモールドへ注入した。
【0044】
各実施例、各比較例について、注入試験を行った時点の、タンク内原料組成物の粘度、および、ヒータ設定値に原料組成物を加熱した場合の各条件と、標準速、および低速の条件における、注入試験結果(注入時のスムーズさ、およびレンズの外観)について、以下の表1に示す。
なお、加熱した場合の粘度については、注入試験を行っている時点で、原料組成物を少量サンプリングし、別に用意したE型粘度計で、ヒータ設定温度まで加温して粘度測定を行った時の値を用いている。
なお、注入結果の評価基準は以下の通りである。
<注入結果の評価基準>
◎:問題なく注入可能
○:わずかにレンズに泡が残るが問題ないレベル
△:大きい泡が残り、レンズが欠けるレベル
×:モールドから原料組成物があふれてしまい、注入不可
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、実施例1、2では、注入する直前に加温しているため、原料組成物の粘度を下げることができ、同じ条件で加熱なしで注入している比較例1、2に比べ、スムーズな注入が可能になり、短時間での注入が可能、または、注入時の泡不良の低減等につながっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、メガネレンズなどのプラスチック、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター、接着剤等の光学物品に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学材料の製造装置の概略図。
【符号の説明】
【0049】
100…製造装置、110…タンク、120…粘度計、130…モールド、140…原料供給装置、141…ディスペンサ、143…ヒータ、150…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内に収納された組成物を、モールド型の内部に形成されたキャビティに注入する注入工程と、この注入工程で注入された組成物を重合硬化させる重合工程と、を備えた光学物品の製造方法であって、
前記キャビティ内部に注入される直前の組成物の温度が、前記タンク内に収納される組成物の温度より高くなるようにヒータで加熱することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品の製造方法において、
前記注入工程は、前記タンクに収納された組成物の粘度の値に基づいて前記キャビティ内部に注入される組成物の温度を制御することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項3】
組成物が収納されるタンクと、このタンク内に収納された組成物がキャビティに注入されるモールド型と、このモールド型の前記キャビティに組成物を注入するディスペンサと、を備えた光学物品の製造装置であって、
前記キャビティに注入される直前の組成物の温度を前記タンク内に収納される組成物の温度より高くするヒータを有することを特徴とする光学物品の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の光学物品の製造方法において、
前記タンクに収納された組成物の粘度を測定する粘度計と、
この粘度計の測定値に基づいて前記キャビティに注入される組成物の温度を制御する制御装置と、を備えたことを特徴とする光学物品の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−143164(P2009−143164A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324531(P2007−324531)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】