説明

光学物品用硬化性チオール−エン組成物

光学物品及びコーティングを製造するために容易に重合されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー類を含有する硬化性チオール−エン組成物が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品及びコーティングを製造するために容易に重合されるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー類を含有する硬化性チオール−エン組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
炭素−炭素不飽和モノマー類及びポリチオール類を含有する放射線硬化性組成物が、1970年代初期に開発された。米国特許第4,234,676号(ハイン(Hein)ら)は、主に版面製造を指向した炭素−炭素不飽和ポリマー、架橋性モノマー、ポリチオール、及び硬化剤を含む組成物を記載している。
【0003】
米国特許第4,808,638号(ステインクラウス(Steinkraus)ら)は、鉄アレーン錯体が存在するときに可視光線で光硬化できる、ノルボルネン樹脂、ポリチオール、及びフリーラジカル反応開始剤を含む組成物を記載している。
【0004】
米国特許第4,139,385号(クリベロ(Crivello))は、ポリオレフィン、ポリチオール、及びオニウム塩光開始剤を含む組成物を記載している。該フィルムは、75μm厚(3ミル)で、反応開始剤として紫外線を用いる陽イオン性機構による硬化が可能であった。
【0005】
米国特許第6,506,814号(クロンガウズ(Krongauz)ら)は、紫外線(UV)又は放射線硬化性(メタ)アクリレートオリゴマー、酸官能性接着促進剤又はチオール化合物、ビニル反応性希釈剤及び光開始剤を含む導電体用の紫外線硬化性絶縁組成物を記載している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリチオール、任意に反応性希釈剤、及び任意に光開始剤を含む光重合性組成物を包含する。本発明の組成物は、溶媒及び非反応性種を除いて製造することができ、素早く光硬化できる。該組成物は、硬化したときに、黄変がなく、低収縮及び低複屈折を示すことから、光学レンズ、光ファイバ、角柱、光ガイド、光学接着剤、及び光学フィルムのような多数の光学用途に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電子ディスプレイ、カメラ、双眼鏡、ファックス装置、バーコードスキャナ、光学的通信デバイスに利用するための低複屈性の光学レンズ、光ガイド、角柱等のような厚肉精密光学部品類を製造するための、速硬性で、ほぼ100%ソリッド、溶媒フリーの光重合性組成物を提供することによって産業界のニーズに応えている。本発明は、米国特許第6,765,731号(カノン(Canon))、第6,476,974号(クライツアー(Kreitzer))、第6,853,493号(クライツアー(Kreitzer))、及び第6,791,629号(モスコビッチ(Moskovich)ら)に記載されているような、プロジェクションテレビに使用されるレンズに使用されるもののような光学レンズの製造に特に有用である。
【0008】
有利なことに、本発明は、かなりのモノマー類、反応性希釈剤及び光開始剤なしで容易に溶融加工可能な硬化性組成物を提供する。相当な量の溶媒、モノマー類及び反応性希釈剤を含有する硬化性システムは、体積の正味の収縮を引き起こす未硬化から硬化状態に変換されるときに、密度の大幅な増大を生じる可能性がある。周知のように、収縮は、レンズのような光学要素の製造で必要とされるもののような精密成形操作において予測不可能なレジストレーションを引き起こす可能性がある。収縮は、このような光学物品に残留応力も生じることができ、これはその後高複屈折を包含する光学的欠陥につながる恐れがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、硬化材料の応力及び複屈折を最小にするための1つ以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー類及び1つ以上のポリチオール類を含む硬化性材料を提供する。チオール−エン重合は、遅延ゲル化により、重合中により少ない応力を誘起することができる段階成長重合である。いくつかの実施形態において、本発明は、精密光学部品及び電子ディスプレイに利用するための、光学的に透明で黄変のない、低収縮、低残留応力及び低複屈折を有する反応開始剤フリーのチオール−エン硬化性材料を提供する。
【0010】
光開始剤の使用は、一般に不利である。第一に、光開始剤が時間とともに劣化し、硬化した材料の黄変につながる。この黄色度により、該材料は、一般に無色、非黄色、低ヘーズ、及び高透明性材料を必要とする多くの光学用途にとって望ましくないものとなる。用語「無色」とは、硬化した組成物が、可視領域で目に見える色が本質的になく、好ましくは可視光(すなわち、約400〜700nm)で約0.1未満の吸光度を有することを意味する。
【0011】
第二に、光重合における硬化深さは光開始剤による紫外線又は可視光線の減衰によって制限され、そのため比較的厚いコーティング又は三次元物体(レンズのような)の製造が困難になる。さらに、光開始剤分子は有毒及び高額である可能性がある。本発明は、光開始剤による黄変を防止するため、及び硬化材料の光重合の深さを改良するために、光開始剤なしの硬化性材料を提供する。
【0012】
本発明の組成物は、モノマーと反応性希釈剤との重合による収縮及び残留応力を最小にする。本発明の低収縮組成物は、成型用途において又は正確な成型及び/又はレジストレーションが必要とされるいかなる用途においても特に有用である。本発明は、100%ソリッドとして配合され、フリーラジカル法によって硬化されてもよく、当該技術分野に適合するか又はそれを超える特性を示す新規組成物を提供する。本発明は、7%未満、好ましくは5%未満の収縮率を示す組成物を提供する。
【0013】
本発明の物品は、約0.5mmを超える厚さ、約1.45を超え約1.75未満の屈折率、一般的には1×10−5未満の複屈折率、約85%を超える、好ましくは90%を超える光透過率、及び厚さ4.8mmの試料で約1.5未満、好ましくは約1.0未満のCIELAB b*単位を有してもよい。
【0014】
本明細書で使用するとき:
「化学線」とは、光化学的に活性な放射線及び粒子線を意味する。化学線は、これらに限定されるものではないが、加速粒子、例えば電子ビーム;及び電磁放射線;例えば、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、及びガンマ線を包含する。放射線は、単色又は多色、干渉性又は非干渉性とすることができ、本発明の組成物に使用される化学線硬化性組成物に相当な数のフリーラジカルを生じるのに十分な強さであるべきである。
【0015】
「(メタ)アクリル基」は、アクリル基とメタクリル基との両方を意味する。
【0016】
「エチレン性不飽和基」とは、ビニル、メタ(アクリル)等を包含するがこれらに限定されない。
【0017】
「段階成長プロセス」とは、相補反応性関係、すなわち求電子試薬−求核試薬、を有する有機官能基間に共有結合を形成する反応を意味する。該工程は、段階成長(逐次)付加の場合には官能基転位によって起きてもよく、又は段階成長(逐次)縮合の場合には水又はアルコールのような小さい分子の脱離によって起きてもよい。
【0018】
「溶融加工可能」は、100℃以下の温度で、溶媒、可塑剤及び/又は粘度変性剤の添加の必要なく、及び並外れた圧力の必要なく、従来の成型又はコーティング装置を使用して、コーティング又は成型に適した低粘度を有するか又は達成するオリゴマー組成物を表すために使用される。
【0019】
「光硬化」及び「光重合」は、本明細書において、比較的単純な分子が化合して鎖又は網様の巨大分子を形成する、化学線に誘発される化学反応を示すために互換可能に使用される。
【0020】
「100%ソリッド」とは、溶媒のような非反応性種を含まない組成物を意味する。
【0021】
「ポリチオール類」とは、ジスルフィド結合を実質的に含まず、1分子につき多数の側枝又は末端位の−SH官能基を有する単純な又は複雑な有機化合物類を表す。
【0022】
放射エネルギーの「透過率」とは、ある材料を通過する放射エネルギーの割合を指す。
【0023】
「透明性」は、正透過の度合いとみなしてもよく、したがって材料のシートを通して物体がはっきり見えるという、材料の特性とみなしてもよい。透明な材料は、光を拡散又は散乱することなく透過させる。
【0024】
本発明は、少なくとも1つのウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、少なくとも1つのポリチオール;任意に少なくとも1つの反応性希釈剤構成成分及び任意にフリーラジカル重合光開始剤、又は光開始剤のブレンドを含む重合可能なチオール−エン組成物を提供し、これは光重合されてもよい。
【0025】
本明細書は、次の工程を含む注型光学物品の調整方法も提供する:
(1)構成成分を混合して光学注型組成物を形成する工程、
(2)任意に該組成物を脱ガスする工程、
(3)該組成物を好適な成型型に導入する工程、及び
(4)組成物の光重合を実施する工程。
【0026】
多官能「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」又は「(メタ)アクリレート化ウレタンオリゴマー」は、高速硬化及び重合中の超高密度架橋網目の成長のため複数の(メタ)アクリレート基を有する材料を指す。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの3つの基本的構成成分としては、ポリイソシアネート、ポリオール、及び(メタ)アクリレートキャップ剤が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリレート末端ウレタンオリゴマー類は、(メタ)アクリレート官能性末端基を、分子量が400〜5000、好ましくは800〜2500の範囲であるポリイソシアネート末端の生成物に提供することによって形成される。数種類の製造手順を利用できるが、ジイソシアネート末端の生成物は、有機ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基によって与えられるようなイソシアネート反応性水素原子を2つ有する脂肪族分子との反応生成物として記述することができる。これらのジイソシアネート末端の反応生成物としては、2〜10個のウレタン及び/又は尿素あるいはチオ尿素基、好ましくは2〜4個のこのような基が挙げられる。
【0028】
1つの実施形態において、化学量論的に過剰な脂肪族ポリイソシアネートがポリオールと反応して、分子量(M)が400〜5000、好ましくは800〜2500のオリゴマーを生成し、このとき中間体オリゴマーの実質的にすべての末端基がイソシアネート基である。この中間体オリゴマーは、その後化学量論的に等量のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと反応して、所望のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを与える。ポリオールは、単純な脂肪族ポリオールであってもよく、又は当該技術分野で既知のようなポリエーテル、ポリエステル若しくはポリエーテル−エステルポリオールであってもよい。別の実施形態において、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネートと反応し、続いてポリオールと反応して所望のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを生成する。
【0029】
好ましくは、(メタ)アクリレートオリゴマーは、末端にアクリレート基よりもむしろメタクリレート基を有するメタクリレートオリゴマーである。メタクリレート基は、対応するアクリレートオリゴマー類よりも高いガラス転移温度を有する硬化組成物を提供する。いくつかの実施形態において、(メタ)アクリレートオリゴマーは、ホモポリマーのTが50℃を超え、好ましくは70℃を超え、より好ましくは80℃を超えるように選択される。さらに、アクリレート類は、メタクリレート類よりも高速で単独重合し、その結果アクリレート類の単独重合がチオール−エン反応と競争し、その結果未反応のチオールが残り、硬化組成物のTがより低くなることが観察された。
【0030】
脂肪族基は、1,6−ヘキサンジオールのような単純なアルキレンジオールであってもよいが、脂肪族基はポリエーテル、ポリエステル及びポリエーテル−エステル基から選択されるのが好ましい。ポリエーテル基はポリテトラメチレングリコールによって、ポリエステル基は2molのエチレングリコールと1molのアジピン酸とのエステル反応生成物によって、及びポリエーテル−エステル基は2molのジエチレングリコールと1molのアジピン酸とのエステル反応生成物によって例証される。
【0031】
ジイソシアネート類の(メタ)アクリレート末端形成は、様々な方法で実施されてもよい。したがって、より高い分子量のポリイソシアネートを最初に生成し、その後適切なモル比率のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと反応させ、それによってそのような不飽和分子を利用可能なイソシアネート基の各々と反応させることができる。これらのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類は、アルキル基に2〜6個の炭素原子を有してもよく、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートによって及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートによって例証される。それに対応して、最初にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを過剰の低分子量ジイソシアネートと反応させ、続いてそのように形成された化学量論的比率の不飽和モノイソシアネートをジヒドロキシ化合物と反応させて、所望の分子量のポリウレタンを与えることができる。いずれの手順も当該技術分野において既知である。
【0032】
多数の(メタ)アクリレート化ウレタンオリゴマーが知られている。これらの材料の特性は、イソシアネートの種類、ポリオール変性剤の種類、反応性官能基及び分子量の選択に依存して変動してもよい。ジイソシアネートはウレタン(メタ)アクリレート合成に広く使用され、芳香族イソシアネートと脂肪族イソシアネートとに分けることができる。芳香族ジイソシアネート類は、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート類よりもかなり低コストであるが暴露又は老化時に顕著に黄変する傾向がある芳香族ウレタン(メタ)アクリレートの製造に使用される。脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート類は、同じ官能性、類似のポリオール変性剤及び類似の分子量を包含する芳香族ウレタン(メタ)アクリレート類よりも高い光安定性(黄変の傾向がより少ない)を示す、それゆえ好ましい、脂肪族ジイソシアネート類を包含する。
【0033】
好ましい脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート類としては、ペンシルバニア州エクストン(Exton)のサートマー社(Sartomer Company)からのCN9001(商標)、CN968(商標)、CN982(商標)、CN983(商標)、CN985(商標)、及びCN1963(商標)、及びジョージア州スミルナ(Smyrna)のUCBサーフェス・スペシャルティーズ社(UCB Surface Specialties Inc.)からのエベクリル(EBECRYL)(商標)8201、8301、8302、及びオハイオ州シンシナティ(Cincinnati)のコグニス・ノースアメリカ(Cognis North America)からのフォトマー(PHOTOMER)(商標)6008、6019、6184のような反応性多官能オリゴマー類が挙げられる。
【0034】
本発明に使用されるポリチオール類は、少なくとも2つのチオール基を有し、好ましくは親水基及びフリーラジカル重合可能な基を含まない。有用なポリチオール類はまた、架橋又は硬化した網目に化学的及び/又は温度的不安定性を付与するであろうジスルフィド結合を実質的に含まない。二、三、及び四官能性ポリチオール類の使用も、本発明において考慮される。ポリチオール類は、脂肪族又は芳香族であってもよく(ただし脂肪族が好ましい)、また単量体又は高分子であってもよい。芳香族化合物は色形成の影響をより受けやすいことから、脂肪族ポリチオール類が好ましい。ポリチオール類は、単独で又は互いとの組み合わせで使用されてもよい。
【0035】
有用なポリチオール類は、式R−(SH)(式中、nは少なくとも2、好ましくは2〜4であり、Rはメタ(アクリレート)化ウレタンオリゴマーの(メタ)アクリル基と反応することができる多数の−SH基を有するn価の脂肪族有機基である)を有する。Rは、n価を有する高分子又は非高分子有機基であってもよく、好ましくは1〜30個の炭素原子及び任意に1〜4個の酸素、窒素又は硫黄の懸垂(catenary)ヘテロ原子、及び任意に1〜4個のエステル結合;ポリアルキレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、又はポリシロキサン主鎖を有する多価脂肪族化合物から選択される。nに関して、モノ−、ジ−及びそれ以上のチオール類の混合物を使用してもよく、「n」は非整数の平均を表してもよいことが認識されるであろう。
【0036】
1つの実施形態において、Rは、1〜30個の炭素原子を有する非高分子脂肪族又は脂環式残基を含む。別の実施形態において、Rは、側枝(pendent)又は末端の反応性−SH基を有するポリオキシアルキレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、又はポリシロキサンポリマーを含む。有用なポリマー類としては、例えば、チオール末端ポリエチレン類又はポリプロピレン類、及びチオール末端ポリ(アルキレンオキシド類)が挙げられる。
【0037】
有用なポリチオール類の具体例としては、ジメルカプトジエチルスルフィド;1,6−ヘキサンジチオール;1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン;プロパン−1,2,3−トリチオール;1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン;テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン;及びトリチオシアヌル酸が挙げられる。
【0038】
別の有用なポリチオール類の分類としては、ポリオールと、チオグリコール酸又はβ−メルカプトプロピオン酸のようなα−又はβ−メルカプトカルボン酸類を包含する末端チオール置換カルボン酸(又はエステル類又はアシルハロゲン化物のようなその誘導体)とのエステル化によって得られるものが挙げられる。
【0039】
このようにして得られる化合物の有用な例としては、エチレングリコールビス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)が挙げられ、これらすべてが市販されている。好ましい高分子ポリチオールの具体例は、ポリプロピレン−エーテルグリコール(例えば、プルラコール(Pluracol)(商標)P201(BASFワイアンドット・ケミカル社(BASF Wyandotte Chemical Corp.))と3−メルカプトプロピオン酸とからエステル化によって調製されるポリプロピレンエーテルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)である。ポリ−2−メルカプトアセテート又はポリ−3−メルカプトプロピオネートエステル類、特にトリメチロールプロパントリエステル類又はペンタエリスリトールテトラエステル類が好ましい。
【0040】
トリチオール末端ポリスルフィド樹脂も使用されてもよい。特に有用な多官能ポリチオール類としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PETMP)、及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMPTMP)が挙げられる。
【0041】
本発明による組成物は、少なくとも1つの反応性希釈剤を含んでもよい。反応性希釈剤は、組成物の粘度を調節するために使用できる。したがって、反応性希釈剤は、各々が化学線に暴露したときに重合することができる官能基を少なくとも1つ含有する低粘度モノマーであることができる。例えば、ビニル反応性希釈剤及び(メタ)アクリレートモノマー希釈剤を使用してもよい。
【0042】
反応性希釈剤は、好ましくは硬化組成物の収縮率が約7%を超えない、好ましくは約5%を超えないような量で添加される。反応性希釈剤の好適な量は、約20重量%未満、より好ましくは約0重量%〜約10重量%であることが見出された。
【0043】
反応性希釈剤は、一般に約550を超えない分子量又は室温で約500mPa.s未満の粘度(100%希釈剤で測定)を有する。
【0044】
反応性希釈剤に存在する官能基は、放射線硬化性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーに使用されるものと同じであってもよい。好ましくは、反応性希釈剤に存在する放射線硬化性官能基は、放射線硬化性オリゴマーに存在する放射線硬化性官能基と共重合することができる。
【0045】
反応性希釈剤は、(メタ)アクリレート又はビニル官能性、及びC〜C20アルキル残基を含む。このような反応性希釈剤の例は、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等である。
【0046】
さらに、反応性希釈剤は、好ましくは平均で2つ以上のフリーラジカル重合可能な基を含有する。このような反応性基を3つ以上有する希釈剤も存在できる。そのようなモノマーの例としては:C〜C18アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート類、C〜C18アルキレントリオールトリ(メタ)アクリレート類、そのポリエーテル類似体、及び同様のもの、例えば1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート(pentaeritritoltri(meth)acrylate)及びトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びジトリメチロールプロパンテトラアクリレートが挙げられる。
【0047】
好ましくは、オリゴマー及び少なくとも1つの反応性希釈剤は各々、放射線硬化性基として(メタ)アクリレート基を含有する。
【0048】
該組成物は、任意に、少なくとも1つの光開始剤をさらに含んでもよい。光開始剤は、硬化速度及び硬化性組成物の変換パーセントを改良するが、試料の厚みを貫通する透過光を減衰させることから硬化深さ(より厚いコーティング又は造形品の)は悪影響を受ける。さらに、光開始剤の使用は、光学物品における黄変の増大及び透過の減少につながり、したがって好ましくない。光開始剤は、存在するとき、0.05重量%未満、好ましくは0.02重量%未満の量で使用される。最も好ましくは、該組成物は光開始剤を含有しない。
【0049】
存在する場合、従来の光開始剤を使用できる。例としては、α−ヒドロキシアルキルフェニルケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類及びベンジルケタール類、モノアシルホスフィンオキシド類、及びビス−アシルホスフィンオキシド類のような、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類誘導体が挙げられる。好ましい光開始剤は、BASF(ニュージャージー州マウントオリーブ(Mt. Olive))から入手可能なエチル2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(ルシリン(Lucirin)TPO−L)、2ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(ダルキュア(DAROCURE)1700(商標)、チバ・スペシャルティーズ(Ciba Specialties))である。別の好ましい例は、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(イルガキュア(IRGACURE)651(商標)、チバ・スペシャルティーズ(Ciba Specialties))である。その他の好適な光開始剤としては、メルカプトベンゾチアゾール類、メルカプトベンゾオキサゾール類及びヘキサアリールビスイミダゾールが挙げられる。しばしば、光開始剤の混合物は好適なバランスの特性を与える。
【0050】
本発明の組成物は、構成成分の量が変動してもよい。一般に、(メタ)アクリレート基のモル量は、チオール基の量よりも多い。等モル量では、得られる硬化組成物のTが低すぎて光学用途で有用とならない。2つの主要構成成分、すなわちウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーのフリーラジカル重合可能なエチレン不飽和基及びポリチオールの量は、そのモル当量に従って、(オリゴマーの)フリーラジカル重合可能なエチレン不飽和基の、チオール基に対する比が約40:1〜2:1、好ましくは約10:1〜3:1で変動してもよい。
【0051】
その後、該組成物を所望の基材に適用するか又は成型型に添加し、紫外光のような化学線に暴露することができる。組成物は、可視光線又は紫外放射のようないかなる形態の化学線にも暴露されてもよいが、好ましくはUVA(320〜390nm)又はUVV(395〜445nm)放射に暴露される。一般に、化学線の量は、べたっとした手触りがない固体の塊を形成するのに十分であるべきである。一般に、本発明の組成物を硬化するのに必要なエネルギーの量は約0.2〜20.0J/cmの範囲である。
【0052】
本発明の光学要素を製造するための組成物及び方法は、例えば光学組立品、投影型テレビのような光学投影システム、並びに光学組立品を含有するディスプレイ及びその他の装置を包含する、光学要素を必要とする様々な用途に適用できると考えられる。本発明の物品は、現在すりガラス、又は射出成形したプラスチックから製造されている物品を包含する。
【0053】
このような物品は一般に約0.5mm以上の厚さがあり、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリチオール、任意に反応性希釈剤、及び任意に<0.05重量%の光開始剤を好適な容器内で、いかなる簡便な順序でも混合して、100℃未満で溶融加工可能な組成物を提供することによって製造される本発明の光硬化性組成物から調製することができる。混合は、組成物の構成成分が単一相になるまで継続される。本発明の組成物及び方法を用いて、25mmという厚さが達成された。
【0054】
該組成物は、使用時に、好ましくは約3.33kPa(25トル)未満の真空を用いて又は組成物を好適な境界を超えた薄膜内に流すことによって、脱ガスされる。脱ガスされた組成物は、任意に約0.19MPa(2Kg/cm)〜0.98MPa(10Kg/cm)の圧力を用いて、製造したい物品の形状に対応する成型型に導入される。このような成型型は、一般に、プラスチック、ガラス及び金属、又はこれらの組み合わせから出来ている。
【0055】
1つの実施形態において、光重合可能な組成物は、必要な形状を有する成型型の表面に、又はレンズのような所望の光学物品に対応する成型型要素に、適用されてもよい。成型型又は成型型要素に入る光重合可能な組成物の体積は、スキージを成型型の表面を横切るように滑らせることによって制御することができる。光重合可能な組成物の量は、ローラーの使用によるなどのその他の既知のコーティング技術によっても適用できる。望ましい場合、組成物の粘度を低下させてより効果的な成型を提供するために、加熱を用いてもよい。記載のように、本発明の多数の実施形態が溶融加工可能である、すなわち、100℃以下の温度でのコーティング又は成形に好適な低粘度を有するか又は達成する。
【0056】
成型型要素は、完全に充填されてもよく、又は部分的に充填されてもよい。光重合可能な組成物が100%ソリッドの、収縮のない、硬化性材料である場合、硬化組成物の形状は、成型型要素のそれと同じままであろう。しかし、光重合可能な組成物が硬化時に収縮する場合、該液体が収縮し、信頼できないレジストレーションを発生し、光学的欠陥をもらすであろう。好ましくは、光重合可能な組成物は、硬化中に約7体積%未満、好ましくは約5%未満収縮する材料を包含する。
【0057】
光重合を開始するため、成型型を上述のように充填し、成型型に収容された組成物の重合を本質的に完了(80%を超える)するための持続時間及び強さの曝露を提供する高エネルギー紫外線源のような化学線源の下に置く。望ましい場合、反応性構成成分又は光重合に悪影響を及ぼすことがある波長を排除するためにフィルターを使用してもよい。光重合は、硬化性組成物の曝露表面を介して引き起こされてもよく、又は重合を引き起こすために必要な波長において必要な透過を有する成型型材料を適切に選択することによる「成型型を通した(スルーモールド)」を介して引き起こされてもよい。
【0058】
光開始エネルギー源は、化学線、すなわち、本発明の光学的注型樹脂の付加重合及び段階成長重合を開始できるフリーラジカルを、直接的又は間接的のいずれかで発生することができる700nm以下の波長を有する放射線を放出する。水銀アーク光、炭素アーク光、低、中、又は高圧水銀蒸気ランプ、渦流プラズマアークランプ、キセノン閃光ランプ紫外線発光ダイオード、及び紫外線発光レーザーのような光開始エネルギー源を包含する、好ましい光開始エネルギー源は、紫外線、すなわち、約180〜460nmの波長を有する放射線を放出する。特に好ましい紫外線光源は、キセノン社(Xenon Corp)(マサチューセッツ州ウィルバーン(Wilburn))から入手可能な、モデルRC−600、RC−700及びRC−747パルスUV−可視光硬化システムのようなキセノン閃光ランプである。
【実施例】
【0059】
これらの実施例は、例証目的でしかなく、添付された請求項の範囲を制限することを意図しない。特に記載のない限り、実施例及びこれ以降の明細書に記載されるパーツ、パーセンテージ、比率等はすべて、重量による。使用される溶媒及びその他の試薬は、特に記載のない限り、シグマ・アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Company);ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee)より入手した。
【0060】
【表1】

【0061】
試験方法
動的機械分析(DMA)測定
この測定により、硬化組成物のTg及び弾性率を決定することができる。測定は、LC−ARES試験装置(Test Station)(レオメトリック・サイエンティフィク(Rheometric Scientific)、ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway))にて、ねじりモードで実施した。試料サイズは、約25mm×10mm×1mmである。試料の長さは、該試験装置によって測定し、試料の幅及び厚さはキャリパーによって測定した。試験は、温度を25℃から180℃まで、1分につき5℃上昇させることによって実施した。使用した周波数は1Hzであった。
【0062】
透過率a*及びb*の測定
透過率(380nm〜720nm)及びCIELAB a*及びb*は、TCSプラス分光光度計(TCS Plus Spectrophotometer)(バイク−ガードナーUSA(Byk−Gardner USA)、ミズーリ州シルバースプリング(Silver Spring))を使用することによって測定した。試料サイズは、直径3.2cm(1.25インチ)で厚さ0.48cm(3/16インチ)の円板であった。
【0063】
体積収縮率測定
硬化性組成物の密度は、各構成成分の密度に基づいて計算した。硬化した組成物の密度は、ウルトラピクノメーター(Ultrapycnometer)1000(クアンタクロム(QuantaChrome)、フロリダ州ボイントンビーチ(Boynton Beach))によって測定した。このガス比重瓶は、密度1.29g/mLのPMMAを用いて較正した。該システムを、ヘリウムで圧力138kPa(20psi)にてパージした。硬化した組成物の密度は、10の測定値の平均であり、その標準偏差は0.001未満であった。或いは、密度は水比重瓶(VWRサイエンティフィク(VWR Scientific)、ペンシルバニア州ウェストチェスター(West Chester))で測定した。体積収縮率(%)は、硬化前後の密度の変化により計算した。
【0064】
実施例1〜9並びに比較例C1及びC2
硬化性混合物は、表1に示す組成物量を用いて、ウレタンアクリレート又はメタクリレートオリゴマー類、反応開始剤(使用する場合)、チオール及び架橋剤(使用する場合)を80℃に予熱し、白色の使い捨てカップ内で、モデルDAC−100ミキサー(フラック・テック社(Flack Tek Inc)、ニュージャージー州ランドラム(Landrum)より入手可能)で混合することによって調製した。該組成物を真空槽内で脱ガスし、その後、放置して室温まで冷却した後に使用した。計量及び混合工程は、通常の実験室の照明中で実施した。
【0065】
上記混合物の硬化を、次の工程により実行した:1)約15.2×15.2×0.48cm(6×6×3/16インチ)のパイレックス(登録商標)(Pyrex)ガラスプレートの上に、約15.2×15.2cm(6×6インチ)の51μm厚A31剥離ライナーを1枚置いた;2)剥離ライナーの上に、中央に直径3.2cm(1.25インチ)の開口部があるほぼ同じ寸法のガラス又はシリコーンゴム成型型を置いた;3)続いて、該成型型に、気泡を生じないよう注意しながら硬化性組成物を充填した、4)続いて、2枚目の約15.2×15.2cm(6×6インチ)の51μm厚A31剥離ライナーを、充填した成型型の上に置いた;5)約15.2×15.2×0.48cm(6×6×3/16インチ)の別のパイレックス(登録商標)(Pyrex)ガラスプレートを、該剥離ライナーの上に置いた;そして6)最後に、当該一式をチャンバ内の80℃の加熱装置上に置き、平衡まで放置した。硬化性組成物は、キセノン閃光ランプ(型式番号4.2ランプハウジング(Lamp Hsg)、パルスレート8Hz)をRC−747パルスUV/可視システム(Pulsed UV/Visible System)(キセノン・コーポレーション(Xenon Corporation、マサチューセッツ州ウォーバーン(Woburn))と共に用いて、5分間硬化した。動的機械分析(DMA)によって測定したT、TCSプラス分光光度計(TCS Plus Spectrophotometer)によって測定したCIELAB a*及びb*、並びに比重瓶によって測定した体積収縮率を表2に示す。TCSプラス分光光度計(TCS Plus Spectrophotometer)によって測定した%透過率を、図1に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1並びに比較例1及び2の透過率スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)80〜99.5重量%の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、
b)0.5〜10重量%のポリチオール
c)任意に<20重量%の反応性希釈剤、及び
d)<0.05重量%の光開始剤を含む光硬化性組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが、ポリイソシアネート、ポリオール及び(メタ)アクリレートキャップ剤の反応生成物を含む、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記ポリチオールが式R−(S−H)(式中Rはn価を有する有機残基であり、nが少なくとも2である)によるものである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記式中、Rが1〜30個の炭素原子及び任意に1〜4個の酸素、窒素又は硫黄の懸垂(catenary)へテロ原子を有する非高分子脂肪族、脂環式、芳香族又はアルキル置換された芳香族残基である、請求項3に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記ポリチオールが、ポリオールと末端チオール置換されたカルボン酸とのエステル化によって得られる、請求項3に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
前記反応性希釈剤が(メタ)アクリレート又はビニル官能基、及びC〜C20アルキル又はポリエーテル残基を有するモノマーを含む、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
前記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの(メタ)アクリレート基の、前記ポリチオールのチオール基に対する比が、40:1〜2:1である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
0重量%の光開始剤を有する、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
前記脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーがメタクリレートオリゴマーである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項10】
>90重量%の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の前記反応生成物を含むポリマー。
【請求項12】
7体積%未満の収縮を示す、請求項11に記載のポリマー。
【請求項13】
1×10−5未満の複屈折を示す、請求項11に記載のポリマー。
【請求項14】
>50℃のTgを有する、請求項11に記載のポリマー。
【請求項15】
1.5未満のCIELAB b*値を有する、請求項11に記載のポリマー。
【請求項16】
約1.45を超え約1.75未満の屈折率を有する、請求項11に記載のポリマー。
【請求項17】
約85%を超える光透過率を有する、請求項11に記載のポリマー。
【請求項18】
請求項11に記載のポリマーを含む造形品。
【請求項19】
レンズを含む請求項18に記載の造形品。
【請求項20】
成型型を提供する工程と、請求項1に記載の組成物を該成型型へ添加する工程と、紫外線へ暴露する工程を含む、光学物品の製造方法。
【請求項21】
前記光学要素が0.5mmを超える厚さである、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−503143(P2009−503143A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−522863(P2008−522863)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/027718
【国際公開番号】WO2007/015815
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】