説明

光学用積層ポリエステルフィルム

【課題】 熱処理工程を経てもオリゴマーの析出が少なく、透明性良好であり、光学用ベースフィルムとして使用した場合、光学的に優れ、ハードコート層に対する接着性が良好なフィルムを提供する。
【解決手段】 チタン元素量およびリン元素含有量が下記式(1)および(2)を同時に満足し、アンチモン元素を実質的に含まない、少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層が金属元素を含む有機化合物およびバインダーポリマーを各々10重量%以上含有し、当該塗布層表面にメチルエチルケトンを塗布し、乾燥後に180℃で10分間熱処理した前後におけるフィルムヘーズ変化率(ΔH)が5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルム。
0<Ti≦20(ppm)・・・(1)
0≦P≦300(ppm)・・・(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴマー析出量が極力少なく、光学特性の振れが小さく、ハードコ−ト層に対する接着性に優れる積層ポリエステルフィルムに関するものであり、例えば、液晶ディスプレイ(以下、LCDと略記する場合がある)に用いられる拡散板等のLCD構成部材製造用、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略記する場合がある)構成部材製造用、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと略記する場合がある)構成部材製造用、電子ペーパー用等、各種ディスプレイ構成部材製造用のほか、各種光学用途に好適な積層ポリエステルフィルムを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶偏光板、位相差板構成部材製造用、PDP構成部材製造用、有機EL構成部材製造用等、各種ディスプレイ構成部材製造用等、各種光学用途等にポリエステルフィルムが使用されているが、ポリエステルフィルム使用上の問題点として、高温下、フィルム表面に析出するオリゴマーが製造工程内において各種不具合を生じることが挙げられる。
近年、IT(Information Technology)分野の躍進に伴い、LCD、PDP、有機EL等の表示部材製造時に使用されるポリエステルフィルムの品質向上と共に、オリゴマーの析出に伴う各種不具合が顕在化する状況にある。
【0003】
上述の各種用途に対応するために、透明性に優れるだけでなく、フィルム表面の異物が極力少ないことが望まれる。すなわち、特に光を透過して見る、いわゆる視認性を重視する用途でもあるため、通常のフィルム用途では全く問題とならないフィルム表面の異物ですら大問題となるからである。
【0004】
従来、ポリエステルフィルムのオリゴマー析出防止策として、固相重合により原料中に含まれるオリゴマーの低減を図ったり(特許文献1等)、末端封鎖剤を用いてポリエステルフィルムの加水分解性を向上させたりすることなどの対策が講じられてきた。
【0005】
しかしながら、固相重合した原料であっても、フィルムの製造条件によっては、加熱によりオリゴマーが副生するなどの理由で顕著な効果が見られないなど、現状、フィルム表面へのオリゴマー析出防止性能は必ずしも満足できるレベルには至っていない。
【0006】
また、末端封止剤を用いた場合は、末端封止剤に起因する異物の発生、ポリマーの着色、固相重合性の悪化等が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−119271号公報
【特許文献2】特開平10−10304号公報
【特許文献3】特開平7−341971号公報
【特許文献4】特開2005−97571号公報
【特許文献5】特開2004−177719号公報
【特許文献6】特開2003−183429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、熱処理工程を経てもオリゴマーの析出が少なく、透明性良好であり、LCD(例えば拡散板用、プリズムシート用、反射板用等)、PDP、有機EL、電子ペーパー用基材などの光学用ベースフィルムとして使用した場合、画像の品質を低下させず、偏光を通したときの色目のフレが少ない等、光学的に優れ、ハードコート層に対する接着性が良好な積層ポリエステルフィルムを提供することを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成を有する積層ポリエステルフィルムが、光学用積層ポリエステルフィルムとして優れた特性を有することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、チタン元素量およびリン元素含有量が下記式(1)および(2)を同時に満足し、アンチモン元素を実質的に含まない、少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層が金属元素を含む有機化合物およびバインダーポリマーを各々10重量%以上含有し、当該塗布層表面にメチルエチルケトンを塗布し、乾燥後に180℃で10分間熱処理した前後におけるフィルムヘーズ変化率(ΔH)が5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルムに存する。
【0011】
0<Ti≦20(ppm)・・・(1)
0≦P≦300(ppm)・・・(2)
(上記式中、TiおよびPはポリエステルフィルム中におけるチタン元素含有量、リン元素含有量を示す)
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層ポリエステルフィルムは高透明性、オリゴマー封止性、光学的特性の均一性、ハードコート層に対する接着性に優れ、光学製品の品質向上や消費エネルギー低減に寄与することができるものであり、各種光学用部材等に好適であり、特に電子ペーパー用基材に好適に使用可能であり、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明における積層ポリエステルフィルムは、単層構成であっても積層構成であってもよく、例えば、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0014】
本発明において、積層ポリエステルフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルを指す。
【0015】
本発明において、アンチモン元素を実質的に含まないとは、具体的には、ポリエステル中のアンチモン金属元素量が10ppm以下であることを示す。好ましくは5ppm以下がよい。
【0016】
本発明のポリエステルは、溶融重合反応で得られたものであってもよいが、溶融重合後、チップ化したポリエステルを固相重合して得られた原料を用いれば、原料中に含まれるオリゴマー量が低減できるので好ましく使用される。ポリエステル原料中に含有するオリゴマー量は0.7重量%以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下である。ポリエステル原料中のオリゴマー量が少ない場合、本発明のポリエステルフィルム中に含まれるオリゴマー量の低減、また、フィルム表面へのオリゴマー析出防止効果が特に良好となる。
【0017】
なお当然のことながら、本発明においては2種類以上のポリエステルを用いて上記要件を満足する積層ポリエステルフィルムを得てもよい。
【0018】
また、本発明において、積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム中には、チタン化合物、リン化合物より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有し、チタン元素含有量(Ti)およびリン元素含有量(P)について、範囲は以下のとおりである。
【0019】
0<Ti≦20(ppm)・・・(1)
0≦P ≦300(ppm)・・・(2)
Tiに関しては、好ましくは2〜10ppmの範囲である。Tiが上記(1)式の上限を超える場合、ポリエステルを溶融押出する工程でオリゴマーが副生し、低オリゴマーでかつ高透明性を有するフィルムが得られない場合がある。光学用途において、色調を重視する用途に対応困難になる場合がある。一方、Pに関しては、好ましくは5〜200ppmの範囲である。Pが上記(2)式の上限を超える場合、ポリエステル製造時にゲル化が発生し、異物となってフィルムの品質を低下させ、例えば、光学的評価を伴う検査工程に対応困難になる等の不具合を生じる場合がある。
【0020】
本発明においては、上記(1)および(2)式を同時に満足することにより、ポリエステルフィルム中の含有オリゴマー量低減に対して、顕著な効果を奏することが可能となる。
【0021】
本発明において、ポリエステルフィルム中に含まれるオリゴマー量は0.7重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5重量%以下である。ポリエステルフィルム中に含まれるオリゴマー量が0.7重量%を超える場合、フィルムヘーズの悪化や、塗布工程内でフィルムと接触する搬送ロールにオリゴマーが付着堆積する等の不具合を生じることがある。
【0022】
本発明においては、通常のオリゴマー含有量のポリエステルからなるポリエステル層の少なくとも片面に、かかるオリゴマー含有量の少ないポリエステル層を共押出積層した構造を有する、いわゆる積層ポリエステルフィルムであってもよく、特に限定されるわけではない。
【0023】
本発明において「オリゴマー」とは、溶媒抽出により、フィルム自身から抽出される低分子量物のうちの環状三量体と定義する。
【0024】
本発明の積層ポリエステルフィルムにおいて、塗布層表面にメチルエチルケトンを塗布、乾燥し、続いて180℃、10分間熱処理後のフィルムヘーズ(H)とメチルエチルケトン塗布前のフィルムヘーズ(H)との差(ΔH)が5%以下である必要があり、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。ΔHが5%を超える場合は、光学用途等、特に透明性を必要とする用途に適用困難になる。
【0025】
本発明において、ポリエステル層中には、易滑性付与を主たる目的として粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0026】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0027】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.01〜1μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分な場合があり、一方、3μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において塗布層を塗設させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0028】
さらに、ポリエステル層中の粒子含有量は、通常0.001〜1重量%、好ましくは0.005〜1重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、1重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0029】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。
【0030】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0031】
なお、本発明における積層ポリエステルフィルム中には上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、特にベンゾオキサジノン系紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0032】
本発明において、積層ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、用途上、30〜350μm、好ましくは75〜300μm、さらに好ましくは100〜250μmの範囲である。
【0033】
次に本発明における積層ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0034】
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0035】
また、本発明における積層ポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法で、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0036】
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、積層ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0037】
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては上述の塗布延伸法(インラインコーティング)を用いてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用してもよく、何れの手法を採用してもよい。
【0038】
本発明は、金属元素を含む有機化合物(A)およびバインダーポリマー(B)を塗布層中に含有することを必須の要件とするものである。
【0039】
本発明において使用する金属元素を含む有機化合物(A)に関しては、特に限定されるわけではないが、好ましくは周期表中、IVA族、IIIB族に属する金属元素を有する有機化合物を用いるのがよく、中でも特にオリゴマー封止性に優れる点で、アルミニウム、チタン、ジルコニウムを含む有機化合物がよい。
【0040】
アルミニウム元素を有する有機化合物の具体例としては、(CHO)Al、(CO)Al等のアルミニウムアルコラート、ステアリン酸、オクチル酸、安息香酸等のアルミニウム塩、アルミニウムトリス(アセチルアセトネ−ト)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムージーn−ブトキシド−モノエチルアセトアセテート、アルミニウムージーイソープロポキシドーモノメチルアセトアセテート、アルミニウム有機酸キレート等のアルミニウムキレートが例示される。その中でもオリゴマー析出防止性が特に良好となる点でアルミニウムキレートを塗布層中に含有することが好ましい。なお、「架橋剤ハンドブック」(山下晋三、金子東助 編者(株)大成社 平成2年版)にも具体例が記載されている。
【0041】
チタン元素を有する有機化合物の具体例としては、例えば、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等のチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタンキレート類等が挙げられる。
【0042】
ジルコニウム元素を有する有機化合物の具体例としては、例えば、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0043】
上記有機化合物(A)は一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
さらに本発明における積層ポリエステルフィルムにおいては、熱処理後(180℃、10分間)のオリゴマー析出防止性をさらに良好とするためにバインダーポリマー(B)を併用する必要がある。本発明において使用する「バインダーポリマー(B)」とは高分子化合物安全性評価フロースキーム(昭和60年11月 化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ造膜性を有するものと定義する。
【0045】
バインダーポリマー(B)の具体例として、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類、ポリウレタン、ポリアクリレート、塩素系ポリマー(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)等が挙げられる。上述のバインダーポリマー(B)の中では特にポリビニルアルコールを塗布層中に含有することによれば、オリゴマー析出防止性能がさらに向上するので好ましい。
【0046】
塗布層中に含有されるポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する場合がある)の含有量は特に限定される訳ではないが、好ましくは10重量%以上の範囲がよい。PVAの含有量が10重量%未満では、オリゴマー析出防止効果が不十分となる場合がある。また、PVAの重合度は特に限定されるわけではないが、通常100以上、好ましくは300〜40000のものが用途上好適に用いられる。
【0047】
一方、PVAのけん化度は特に限定されるわけではないが、70モル%以上、好ましくは80モル%以上、99.9モル%以下のものが好適に用いられ、具体例としては酢酸ビニルけん化物等が挙げられる。本発明における離型フィルムを構成する塗布層中の金属元素を有する有機化合物(A)およびバインダーポリマー(B)の含有量(重量%)に関して、より一層オリゴマー析出防止性を良好とするため、各々、10重量%以上であることが必要であり、好ましくは下記式(1)および(2)を同時に満足するのがよい。
【0048】
10≦W(A)≦95 …(1)
20≦W(B)≦80 …(2)
(上記式中、W(A)およびW(B)は積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層中における金属元素を含む有機化合物(A)の含有量(重量%)、バインダーポリマー(B)の含有量(重量%)を表す)
W(A)は20〜80重量%、W(B)は30〜70重量%の範囲がそれぞれさらに好ましい。金属元素を有する有機化合物(A)およびバインダーポリマー(B)の何れかが上記範囲を外れる場合、熱処理後の塗布層表面からのオリゴマー析出量が多くなる場合がある。
【0049】
また、塗布層中には本発明の主旨を損なわない範囲において、架橋剤(C)を併用してもよく、具体例としてはメチロール化またはアルキロール化した尿素系、メラミン系、グアナミン系、アクリルアミド系、ポリアミド系化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、ブロックポリイソシアネート、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコ−アルミネートカップリング剤等が挙げられる。これらの架橋成分はバインダーポリマーと予め結合していてもよい。
【0050】
さらに塗布層の固着性、滑り性改良を目的として、無機系粒子(D)を含有してもよく、具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等が挙げられる。
【0051】
また、必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0052】
塗布延伸法(インラインコーティング)の場合、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度を0.1重量%〜50重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。
【0053】
また、本発明の要旨を越えない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は一種類のみでもよく、適宜、二種類以上を使用してもよい。
【0054】
本発明におけるポリエステルフィルム上に設けられる塗布層の塗布量(乾燥後)は通常0.005〜1g/m、好ましくは0.005〜0.5g/mの範囲である。塗布量が0.005g/m未満の場合には、塗布厚みの均一性が不十分な場合があり、熱処理後、塗布層表面から析出するオリゴマー量が多くなる場合がある。一方、1g/mを超えて塗布する場合には、滑り性低下等の不具合を生じる場合がある。
【0055】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0056】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えば、塗布延伸法(インラインコーティング)により塗布層を設ける場合、通常、170〜280℃で3〜40秒間、好ましくは200〜280℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。一方、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0057】
また、塗布延伸法(インラインコーティング)あるいはオフラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。 本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムには、あらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0058】
本発明における積層ポリエステルフィルムをLCD用拡散板の基材フィルム等、特に光学特性を重視する用途に使用する場合、特許文献1などに記載例があるが、ポリエステルフィルムの光学特性の振れに起因する輝度ムラ等の不具合を生じる場合がある。
【0059】
上述の光学特性の振れ改良手法として、特許文献1においては、フィルム中に透明ビーズを混錬する手法等により光学特性を改良することが記載されているが、改良効果としてはまだ不十分であった。
【0060】
なぜならば、上記光学特性の振れは、主として、ポリエステルフィルム製造工程において、フィルム厚みや温度の不均一性により、ポリエステル分子の配向ムラを生じた結果、発生するものと考えられ、根本的な問題解決には至っていないためである。
【0061】
本発明においては、ポリエステルフィルムの光学特性の振れを極力小さくするために積層ポリエステルフィルムのフィルム面内における主配向軸のMD方向に対する角度が70度以上におけるリターデーション(以下、Reと略記する場合がある。)の標準偏差(STD)が150nm以下であることが好ましい。STDに関して、さらに好ましくは100nm以下、最も好ましくは50nm以下がよい。STDが150nmを超える場合、例えば、偏光を通してフィルムを観察した場合の色むらが大きく、LCD用に用いた場合にポリエステルフィルムの光学特性の振れに起因する表示画面の輝度ムラ等の不具合を生じるようになる場合がある。
【0062】
なお、本発明において言うリターデーションとは、次式で表されるフィルムの光学特性を指す。
【0063】
Re=Δn・d
(上記式中、Δnはフィルムの可視光(波長=589nm)での複屈折であり、dはフィルムの厚み(nm)である)
すなわち、直線偏光した光が、延伸されたポリエステルフィルムなどの複屈折体に入射すると一般に互いに直交する振動方向を有し、しかも速度を異にする2つの偏光波のみが通過する。その速度を異にすることから2つの偏光波には位相差が生じる。この位相差をリターデーションとよぶ。
【0064】
Reは、クロスニコル法での目視検査において干渉色や光透過に影響を与えるものであり、Reが可視光の波長領域420〜760nmに近づくとMichel−Levyの干渉色図表から明らかなように干渉色が濃く出ることから、Reにフレが生じた場合、色むらとなり観察される。そのため、Reの標準偏差(STD)はより小さい方が好ましい。 本発明における積層ポリエステルフィルムがフィルム面内において、主配向軸のMD方向に対する角度が70度以上におけるReの標準偏差(STD)が150nm以下であることを満足するための具体的手法として、フィルム厚み方向の温度分布をより均一に保つことが効果的であるため、同時二軸延伸を採用するのが好ましい。さらに好ましくは、同時二軸延伸法を用いた際の製造条件面より、延伸倍率において、面積倍率を10倍以上、さらに好ましくは15倍以上にすることにより、Reの標準偏差(STD)をさらに小さくすることが可能となる。
【0065】
一般に行われている逐次二軸延伸のロール延伸では予熱工程および延伸工程で片面加熱を交互に実施するため、厚み方向の温度分布が生じやすく、往々にして、Reを均一に保つことが困難な場合がある。特にフィルム厚みが厚くなる程、フィルム表裏の温度差がさらに大きくなる傾向にある。斯かる観点より、ポリエステルフィルム両面からの加熱が実施できる同時二軸延伸を使用することが本発明における上記要件を満足するために望ましい。
【0066】
本発明における積層ポリエステルフィルムの厚みムラは5%以下が好ましく、さらに好ましくは3%以下がよい。フィルム厚みムラが5%を越える場合、光学用基材として使用したときに表示画面の画像の品質低下を招くようになる場合がある。
【0067】
積層ポリエステルフィルムの全光線透過率(TL)は用途上、88%以上、好ましくは90%以上がよい。TLが88%未満の場合、例えば、拡散板等、特に高透明性を必要とされる用途に適応困難になる。
【0068】
一方、積層ポリエステルフィルムのフィルムヘーズ(H)は2.0%以下が好ましく、さらに好ましくは1.5%以下がよい。フィルムヘーズが2.0%を超える場合、光学用途に適応困難になる場合がある。
【0069】
本発明における積層ポリエステルフィルムにおいて、電子ペーパー用基材等、特に高度な寸法精度が必要とされる用途に対応する場合、追加的要件として、150℃、1時間熱処理後のフィルム縦方向の加熱収縮率(Sh(MD))および横方向の加熱収縮率(Sh(TD))の絶対値は共に0.7%以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.5%以下がよい。
【0070】
本発明における積層ポリエステルフィルムが上述の範囲を満足するための具体的手法として、例えば、オフライン工程において、低張力下で所定温度以上の加熱炉を通して、フィルムを加熱処理することにより、フィルムにかかる張力、加熱処理温度、加熱処理時間を調整することで、低収縮化が可能となる。
【0071】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、光学用途全般にわたり、好適に使用されるが、その中でも特に電子ペーパー用等、製品構成上、ハードコート層が必要とされる用途に好適に使用される。
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本発明における諸特性の測定および判定は次に示す方法にて行った。
【0073】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0074】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0075】
(3)積層ポリエステルフィルム中のオリゴマー(環状三量体)含有量
所定量のポリエステルフィルムをクロロホルム/1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(混合比:3/2)混合溶液に溶解した後、クロロホルム/メタノール(混合比:2/1)で再析出して濾過し、線状ポリエチレンテレフタレートを除いた後、次いで得られた濾液中の溶媒を、エバポレータを用いて蒸発させ、得られた析出物を所定量のDMFに溶解させた。得られたDMFを、液体クロマトグラフィー(島津LC−7A)に供給してポリエステル中に含まれるオリゴマー(環状三量体)量を求め、この値を測定に用いたポリエステル量で割って、ポリエステルフィルム中に含まれるオリゴマー(環状三量体)量とした。液体クロマトグラフィーで求めるオリゴマー(環状三量体)量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。標準試料の作成は、予め分取したオリゴマー(環状三量体)を正確に秤量し、正確に秤量したDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解して作成した。
【0076】
液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製 MCI GEL ODS 1HU
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0077】
(4)フィルムヘーズ変化率(ΔH)の測定
あらかじめ、積層ポリエステルフィルムの塗布層表面を溶剤(メチルエチルケトン)塗布した後、窒素雰囲気下、180℃のオーブンで10分間放置し、熱処理を行った。次に得られたポリエステルフィルムをJIS−K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−1001DPにより、フィルムヘーズ(H)を測定した。その後、未処理(メチルエチルケトン塗布前)の積層ポリエステルフィルムについて、フィルムヘーズ(H)を測定し、下記式により、積層ポリエステルフィルムのフィルムヘーズ変化率(ΔH)を求めた。
ΔH=H−H
【0078】
(5)リターデーション(Re)の標準偏差(STD)測定
大塚電子株式会社製、セルギャップ検査装置RETS−1100Aを用い、フィルム長手方向に20mm毎に50点測定し、標準偏差(STD)を計算した。なお、リターデーションの測定には光干渉法を用い、アパーチャ径5mmとし、23℃で行った。
【0079】
(6)フィルムヘーズ(H)および全光線透過率(TL)の測定
JIS−K7105に準じ、日本電色工業社製分球式濁度計NDH−1001DPによりフィルムの濁度および全光線透過率を測定した。
【0080】
(7)フィルム厚みムラの評価
アンリツ社製連続フィルム厚さ測定器(電子マイクロメーター使用)により、積層ポリエステルフィルムの縦方向および横方向に沿って測定(測定長3m)し、次式より算出した。
厚みムラ=((最大厚さ−最小厚さ)/平均厚さ)×100(%)
【0081】
(8)フィルム厚さの測定
マイクロメータ−により求めた。
【0082】
(9)加熱収縮率(Sh(MD)およびSh(TD))の測定
試料フィルムの縦方向および横方向より短冊型の試験片を切り出し、熱風循環式恒温槽内に入れて、150℃で1時間加熱処理し、取り出した後に水冷し、全長をステンレス製
スケールで測定し、縦方向(Sh(MD))および横方向(Sh(TD))の加熱収縮率を求めた。
加熱収縮率(%)=|[(元長−加熱後の長さ)/(元長)]|×100
【0083】
(10)明るさ評価
電通産業(株)製フラットイルミネーターの上に試料フィルムを載せ、光の透過の仕方を目視で検査して下記判定基準により判定を行なった。
《判定基準》
○:フィルムを載せた場合でも、透過光がほとんどフラットイルミネーターと同一の明るさを保持するもの
△:フィルムを載せた場合、少し白っぽく濁った感じで光が見えるもの
×:フィルムを載せた場合、光が濁った感じとなるもの
【0084】
(11)目視検査
クロスニコル下、試料フィルムを配置し、白色光源で光干渉の影響を以下の判定基準により判定を行なった。
《判定基準》
○:光干渉による色むらが観察できない
△:光干渉による色むらはあるが、使用上問題ない
×:光干渉による色むらのため、不具合が生じる
【0085】
(12)積層ポリエステルフィルム中の金属元素およびリン元素量の定量
蛍光X線分析装置((株)島津製作所社製型式「XRF−1500」を用いて、下記表1に示す条件下で、フィルムFP法により単枚測定でフィルム中の元素量を求めた。なお、本方法での検出限界は、通常1ppm程度である。
【0086】
(13)活性エネルギー線硬化樹脂を用いた塗布層の接着性評価
下記塗布剤組成から構成される活性エネルギー線硬化樹脂を試料フィルムの塗布層上に下記硬化条件により、塗布厚み(乾燥後)が5μmになるように形成した後、1インチ幅に碁盤目が100個になるようにクロスカットを入れ、直ちに、同一箇所について粘着テープ(ニチバン製)急速剥離試験テストを3回実施し、剥離面積を用いて、下記判定基準により判定を行なった。
《活性エネルギー線硬化樹脂組成》
KAYARAD DPHA(日本化薬製) 77部
KAYARAD R−128H(日本化薬製) 18部
IRGACURE651(チバガイギー製) 5部
【0087】
《硬化条件》
乾燥温度(℃):100
乾燥時間(秒):15
UVランプ:高圧水銀灯
出力:120(w/cm)×2灯
照射距離(mm):100
《判定基準》
◎:碁盤目剥離個数0個(実用上問題ないレベル)
○:1≦碁盤目剥離個数≦10個(実用上問題ないレベル)
△:11≦碁盤目剥離個数≦20個(実用上問題になる場合があるレベル)
×:21<碁盤目剥離個数(実用上問題あるレベル)
【0088】
(14)総合評価
試料フィルムにつき、下記判定基準により、総合評価を行った。
《判定基準》
◎:ΔHが5%以下、かつ目視検査、明るさ評価、接着性がすべて○である。
(極めて良好。実用上問題ないレベル)
○:ΔHが5%以下、かつ目視検査、明るさ評価、接着性のいずれかの項目が△である。(良好。実用上問題ないレベル)
△:ΔHが5%以下、接着性が○または△で、かつ目視検査、明るさ評価のいずれかの項目が×である。(やや不良。実用上問題になる場合があるレベル)
×:ΔHが5%を越える、または接着性が×である。(不良。実用上問題あるレベル)
【0089】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
〈ポリエステルの製造〉
(ポリエステルA)
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去と共に除々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了したこの反応混合物にエチレングリコールスラリーに分散させた平均粒径が3.0μmのシリカ粒子を0.45部、エチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.04部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち温度を230℃から除々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より除々に減じ最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、4時間を経た時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステルAの極限粘度は、0.65であった。
【0090】
(ポリエステルB)
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネート0.01部を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、平均粒子径2.5μmのシリカ粒子のエチレングリコールスラリーを、粒子のポリエステルに対する含有量が0.06重量%となるように添加し、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.55に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度0.55のポリエステルBを得た。
【0091】
(ポリエステルC)
ポリエステルBを真空下220℃で固相重合し、極限粘度0.67のポリエステルCを得た。
(ポリエステルD)
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09部を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、正リン酸0.02部を添加した後、二酸化ゲルマニウム0.02部加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度は0.63のポリエステルDを得た。
【0092】
実施例1:
上記ポリエステルC,Dをそれぞれ95%、5%の割合で混合した混合原料を押出機に供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に冷却したキャスティングドラム上に押出し、冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、リニアモーター駆動式の同時二軸延伸機を有するテンターに導いて、さらに95℃の熱風で予熱・加温を行い、95℃で縦方向3.5倍、横方向4.3倍に同時二軸延伸を行った。次に下記塗布剤組成から構成される塗布剤を塗布厚み(乾燥後)が0.07(g/m)になるように片面に塗布し、同じテンター内で240℃の熱風雰囲気下で3秒間、熱固定を行い、同じ温度で縦方向および横方向に各々3%弛緩処理を行った後、フィルムをロール状に巻き上げ、塗布層が設けられた、厚さ100μmの積層ポリエステルフィルムを得た。
【0093】
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・チタン元素を含む有機化合物:(A1)
チタンラクテート TC−310(松本製薬工業社製)
・チタン元素を含む有機化合物:(A2)
チタントリエタノールアミネート TC−400(松本製薬工業社製)
・ジルコニウム元素を含む有機化合物:(A3)
ジルコニウムアセテート ZB−115(松本製薬工業社製)
・PVA系樹脂:(B1)
けん化度=88モル%、重合度=500のポリビニルアルコール
・アクリル系樹脂:(B2)
ジュリマーAT−M−918(日本純薬(株)製)
・架橋剤(C)
ガンマ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・粒子:(D)
平均粒径65nmのシリカゾル
【0094】
《塗布剤組成》
下記塗布剤を用い、塗布液の濃度は4重量%とした。
チタン元素を含む有機化合物(A1):50重量%
チタン元素を含む有機化合物(A2):0重量%
ジルコニウム元素を含む有機化合物(A3):0重量%
PVA系樹脂(B1):25重量%
アクリル系樹脂(B2):0重量%
架橋剤(C):20重量%
粒子(D):5重量%
次に得られた積層ポリエステルフィルムを雰囲気温度170℃に調整した熱処理ゾーンを有する加熱処理装置に通し、熱処理ゾーン通過時のフィルム張力を5kg/1000mm幅、熱処理ゾーン通過時間を20秒間として、熱弛緩処理を施し、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0095】
実施例2〜実施例16および比較例1〜比較例4:
実施例1において、下記表2〜表4に示す条件に変更する以外は実施例1と同様に製造し、積層ポリエステルフィルムを得た。
【0096】
実施例17:
上記ポリエステル(C)をA層の原料とし、ポリエステル(B)をB層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、A層を最外層(表層)、B層を中間層として、40℃に冷却したキャスティングドラム上に、2種3層(A/B/A)の層構成で共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、リニアモーター駆動式の同時二軸延伸機を有するテンターに導いて、さらに95℃の熱風で予熱・加温を行い、95℃で縦方向3.5倍、横方向4.3倍に同時二軸延伸を行った。次に、実施例1で用いたものと同じ塗布液を塗布厚み(乾燥後)が0.07(g/m)になるように片面に塗布し、同じテンター内で240℃の熱風雰囲気下で3秒間、熱固定を行い、同じ温度で縦方向および横方向に各々3%弛緩処理を行った後、フィルムをロール状に巻き上げ、塗布層が設けられた、厚さ100μmの積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの各層の厚みは、15/70/15μmであった。採取した積層ポリエステルフィルムの特性をまとめて下記表2〜表6に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
上記表中、実施例17において、100(B層)とあるのはA/B二層構成の積層ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルB原料100%をB層に使用したことを意味する。
【0101】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の光学用積層ポリエステルフィルムは、高透明性、オリゴマー封止性、光学的特性の均一性、ハードコ−ト層に対する接着性に優れ、各種光学用基材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン元素量およびリン元素含有量が下記式(1)および(2)を同時に満足し、アンチモン元素を実質的に含まない、少なくとも一軸方向に延伸されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に塗布層が設けられた積層ポリエステルフィルムであり、前記塗布層が金属元素を含む有機化合物およびバインダーポリマーを各々10重量%以上含有し、当該塗布層表面にメチルエチルケトンを塗布し、乾燥後に180℃で10分間熱処理した前後におけるフィルムヘーズ変化率(ΔH)が5%以下であることを特徴とする光学用積層ポリエステルフィルム。
0<Ti≦20(ppm)・・・(1)
0≦P≦300(ppm)・・・(2)
(上記式中、TiおよびPはポリエステルフィルム中におけるチタン元素含有量、リン元素含有量を示す)
【請求項2】
金属元素がチタン元素またはジルコニウム元素である請求項1に記載の光学用積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
塗布層が設けられた積層ポリエスエルフィルムの厚みが100〜250μmである請求項1または2に記載の光学用積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−126142(P2012−126142A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27866(P2012−27866)
【出願日】平成24年2月11日(2012.2.11)
【分割の表示】特願2005−328960(P2005−328960)の分割
【原出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】