説明

光学的な制御用部材の駆動装置及び撮像装置

【課題】 羽根部材等の光学的な制御用部材の駆動装置への適用において、該部材の保持力を確保するとともに、小型化やコンパクト化に適した構成を提供する。
【解決手段】 アイリスやシャッター等の駆動において、ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子3を用い、磁界変化に応じた該素子の伸縮変化に伴う駆動力を羽根部材の回転力や移動力に変換する。従来の電歪素子や磁歪素子に比べた場合に、同じ印加電圧下において羽根保持力が大きく、高速な駆動が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイリス絞りやシャッター羽根等の駆動装置において、ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子を使うことにより、高速な駆動制御を可能にし、応答性能の向上や小型化を実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置のレンズ鏡胴には、アイリスやシャッター等に係る駆動機構が設けられ、アイリスメータ等のモータを駆動源として、その制御回路によって可動羽根の駆動制御が行われる。例えば、一枚羽根や二枚羽根を駆動する構成等が知られている。
【0003】
尚、駆動源に電気−機械変換素子を用いた駆動装置として、例えば、逆圧電効果を利用した構成形態が挙げられる(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−300789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の駆動装置にあっては、羽根部材の保持力や駆動制御の速度、小型化等に関して下記のような問題がある。
【0006】
先ず、磁気バネ等を利用した羽根保持の構成では、小型化やコンパクト化への対応において羽根部材の保持力を充分に確保することが難しくなる。あるいは、所要の保持力を得るための機構が大型化し、コンパクト化等に支障を来たす原因となる。また、高速駆動への対応に関して限界がある。
【0007】
尚、モータに代わって、電歪素子や磁歪素子を用いたアクチュエータが考えられるが、一般に高電圧が必要であるため、トランス等を用いた昇圧回路が必要な場合が多く、その分、構成が複雑化し、コンパクト化が困難である。また、発生力が小さいことが問題とされ、小型で駆動力の大きなアクチュエータの実現が困難である。
【0008】
そこで、本発明は、光学的な制御用部材の駆動装置への適用において、制御用部材の保持力を確保するとともに、小型化やコンパクト化に適した構成の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するために、ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子(あるいは磁気−変位変換素子)を用い、磁界変化に応じた該素子の伸縮変化に伴う駆動力を、光学的な制御用部材(光量制御や遮光のための羽根部材や、フィルター部材等)の回転力又は移動力に変換する構成にしたものである。
【0010】
従って、本発明では、ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子(所謂「超磁歪素子」)を用いることにより、制御用部材の駆動力を得ることができる。つまり、従来の電歪素子や磁歪素子との比較において、同じ印加電圧下において制御用部材の移動速度が大きく、また、同一体積で比較した場合に、超磁歪素子の発生力は桁違い(例えば、約250倍)に大きいため、小型化に適する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化やコンパクト化に好適であって、駆動力や保持力の大きな駆動装置を実現できる。例えば、アイリスやシャッター、フィルター等の駆動制御において、高速性、応答性等の性能向上や高精度な位置決めに有効であり、高電圧の印加が不要であることや消費電力が少ない等の効果が得られる。
【0012】
そして、磁気−機械変換素子を形成する超磁歪材料に比して表面粗度又は摩擦係数の小さい材料を用いて駆動軸を形成するとともに、該駆動軸を磁気−機械変換素子に固定し、該駆動軸から回転機構又はリンク機構を介して制御用部材を回転させ又は移動させる構成では、超磁歪材料で駆動軸を形成する構成形態に比して、駆動時の消費電力を低減することができる。
【0013】
また、磁気−機械変換素子に係る伸び量の速度と縮み量の速度とが異なるように伸縮状態を変化させるための制御回路を備えた構成では、磁気−機械変換素子又は該素子に固定された駆動軸に対して、該素子又は駆動軸との接触部分が滑らずに移動する過程と、該素子又は該素子に固定された駆動軸に対して、該素子又は駆動軸との接触部分に滑りが生じる過程とが繰り返されて駆動力が制御用部材に伝達され、高速な応答特性を得ることが可能である。
【0014】
レンズ鏡胴や撮像装置等への適用において、磁気−機械変換素子の振動方向に延びる軸を中心軸としてその回りに巻回された振動励起用コイルと、磁気−機械変換素子の周囲に設けられたヨークと、磁気−機械変換素子の一端部を固定するために比重の大きい材料で形成された固定部材を備えた構成の採用は、簡素化や小型化、駆動速度の高速化等に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、超磁歪素子を用いて高速駆動が可能な、光学的な制御用部材の駆動装置を提供するものであり、発生力及び保持力が大きく、応答性に優れた駆動装置を実現することができる。本発明は、光学系における光量調節や遮光、Fナンバー制御等に用いる制御用部材の駆動装置に好適であり、例えば、小型カメラや携帯型電子機器のカメラ等に幅広く適用することができる。
【0016】
本発明に係る駆動装置の構成について説明する前に、超磁歪素子を用いた基本構成について説明する。
【0017】
図1は、超磁歪素子を用いて移動体を直線的に動かす場合の原理的な説明図である。
【0018】
(A)図に示すように、アクチュエータ1は、移動体2を所定の方向に沿って移動させるために、磁気−機械変換素子3として棒状の超磁歪素子を備えており、その一端が固定部4に固定されている。
【0019】
超磁歪素子は、ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子であり、超磁歪材料を用いて形成されている。超磁歪材料は、常温下でも従来の磁歪材料と比べて2桁も大きい巨大磁歪(Giant-magnetostriction)が得られる材料であり、近年急速にその実用化が進められている。例えば、磁気モーメントの大きいランタノイド元素(「R」と記す。)と鉄属元素「T」(T=Fe、Ni、Co等)で構成され、ラーベス型の立方晶素材(RT:RとTの原子比1:2の組成を持っており、例えば、鉄の場合に、TbFe、DyFe、SmFe、HoFe、ErFe等)が挙げられる。従来の磁歪材料の磁歪が40〜80ppm(磁歪:ppm=ΔL/L×106)であるのに対して、超磁歪材料の場合は、2,000ppm前後の磁歪が得られる。そして、他の変位素材に比べ、磁界の強さに応じて生じる寸法変化量(ジュール効果)が大きく、変位と磁界の強さの積である発生応力が大きい。他方、外部応力によって生じる磁化率の変化量(ビラリ効果)が40%程度と大きく、これらの変化の変換速度はマイクロ秒に相当する周波数に追随可能である。
【0020】
尚、外部磁界や外部応力によって素子内部の磁化方向が変わり、例えば、ジュール効果の場合、磁気エネルギーと弾性エネルギーの均衡点が変化することから、素子に寸法変化が生じる。線形領域での相互関係は、下式のようになる。
【0021】
・歪み:ΔI=s・T+dH
・駆動力:F=Y・(ΔI/I)
但し、各記号は「s:弾性係数」、「T:応力」、「Y:ヤング率」、「H:外部磁界の強さ」、「dH:外部磁界の強さの変化量」、「(ΔI/I):磁歪値」を示す。
【0022】
超磁歪材料が他の素材に比べ優れている点は、磁歪量と応力が大きいこと、また、応力Tによる透磁率の変化、即ち、インダクタンスの変化幅が大きいことである。この原因はランタノイド元素の大きな磁気モーメントに起因する。他方、このことは磁気異方性エネルギーを大きくし、外部磁界応力と素子内部で起こる磁化変化、寸法変化の間に残留磁化によるヒステリシスが存在することを意味する(その原因となる磁気異方性については、構成元素比で調整することができる。)。
【0023】
図1の(B1)図に示すように、超磁歪素子の端部のうち、固定部4とは反対側の端部には、金属や炭素繊維(炭化繊維)強化樹脂等を用いて形成された部材(摩擦部材)5が固定されており、移動体2が該部材5に対して移動可能な状態で摩擦結合により保持されている。つまり、移動体2と部材5が摩擦力をもって接触した構成とされている。尚、図には移動体2と部材5との接触部6(摩擦部分)に斜線を付して示している。
【0024】
超磁歪素子に対する外部磁界を変化させることで、(B2)図に示すように、超磁歪素子が矢印Aの向きにゆっくりと伸びる(図には、伸び量を誇張して示している。)。
【0025】
超磁歪素子の伸びに従って部材5が矢印Aに示す向きに変位するが、移動体2と部材5との摩擦により両者の間に滑りを伴うことなく移動する。
【0026】
その後、(B3)図に示すように、超磁歪素子を矢印Bの向きに縮めると(図には、縮み量を誇張して示している。)、移動体2はその慣性により、部材5との間に滑りが生じ、現位置に留まろうとする。
【0027】
図2は、変位量及び速度の時間的変化を例示したものである。尚、上図は、横軸に時間をとり、縦軸に変位量をとって両者の関係を概略的に例示しており、破線で示すグラフ曲線g2が移動体2の変位量を表し、実線で示す三角波状のグラフ曲線g3が、超磁歪素子の伸縮変化を表している。また、下図では、横軸に時間をとり、縦軸に速度をとっており、破線で示すグラフ曲線G2が移動体2の速度を表し、実線で示す波状のグラフ曲線G3が、超磁歪素子の伸縮速度を表している。
【0028】
グラフ曲線g3において、緩やかな傾斜をもって右上がりに上昇している期間(「Δt1」参照)において、超磁歪素子が図1(B2)に示す伸張状態とされ、ある時点(速度ゼロの時点)から右下がりに急下降している期間(「Δt2」参照)において、超磁歪素子が図1(B3)に示す縮小状態とされる。このように、超磁歪素子の伸縮が繰り返えされることで移動体2の変位量が所定方向に増加していく。即ち、伸び量の速度と縮み量の速度とが異なるように伸縮状態を変化させる制御により、移動体2を所望の方向に移動させることができる。
【0029】
上記したアクチュエータ1について構成上の要点をまとめると下記のようになる。
【0030】
・磁気−機械変換素子3と該素子に結合して一緒に変位する部材5を備え、該部材に対して移動体2が摩擦結合した構成を有すること。
【0031】
・磁気−機械変換素子3の伸びと縮みの速度を異ならせることにより、移動体2が部材5との摩擦結合により該部材と共に実質的に移動する状態と、移動体2が部材5の移動に対して実質的に移動しない状態(慣性)をとり得ること。
【0032】
・移動体2は、磁気−機械変換素子3の変位方向(伸縮方向)に移動すること及びその移動の向きについては、磁気−機械変換素子3に係る伸びと縮みの速さ(速度の絶対値)のうち、速さが緩やかな変位方向(相対的に変位がゆっくり変化する方向)に移動すること。
【0033】
・速度は1パルス当たりの送り量及び駆動周波数に比例し、また、推力については、素子の発生力及び該発生力に応じた摩擦力に拠ること。
【0034】
以上の構成により、高速応答が可能となり、小型で推力の大きなインパクト駆動型のアクチュエータや駆動ユニットを実現することができる。
【0035】
例えば、従来の磁歪素子や電歪素子を用いた場合に、駆動電圧3Vにて20〜30nm(ナノメートル)の微小な伸びに過ぎないのに対して、超磁歪素子の場合には、磁気回路にも依るが、駆動電圧3Vにて1〜3μm(ミクロン)の伸びを示す。即ち、超磁歪素子の方が、同じ電圧において、移動体2を高速に移動させることができる。あるいは、従来の磁歪素子や電歪素子を用いて、超磁歪素子の場合と同じ伸びを得ようとすると、数十乃至数百Vの電圧が必要となる(トランス等を用いた昇圧回路が必要になる。)。
【0036】
また、従来の磁歪素子や電歪素子を用いる場合と、超磁歪素子を用いる場合とで、同一体積での発生力を比較すると、後者では前者の200倍程度の力が得られる。例えば、同回路(駆動電圧3V程度)にて、前者では、径φ1×長さ5mmにおいて発生力が4〜5gf(グラム・フォース)であるが、超磁歪素子では、径φ1×長さ3mm程度で発生力が約900gf(≒8.82N)である。
【0037】
このように、従来の磁歪素子や電歪素子との比較において、超磁歪素子を用いた構成は、より重い移動体を高速に移動させる用途に好適であること示している。
【0038】
上記のアクチュエータを用いた直線駆動機構は、超磁歪素子と部材5とが同期して動き、移動体が素子の伸縮速度に応じた駆動速度をもって素子の伸縮方向に沿って移動し、次いで移動体が現位置を保持するという制御が繰り返されて、摩擦及び移動体の慣性を巧みに利用して高速な応答特性を得ることが可能である。
【0039】
次に、上記アクチュエータの駆動力を回転力として伝達させる機構例について、図3を用いて説明する。
【0040】
図1(B1)乃至(B3)との相違点は、移動体2が回転体2Aに置き換わっていることである。つまり、回転体2Aは回動軸2aを中心として回動可能な状態で支持されており、その一部が部材5に接触している。
【0041】
図3の(C1)図に示すように、回転体2Aが回転可能な状態で部材5に摩擦結合により当接されており(回転体2Aと部材5が摩擦力をもって接触しており、図には両者の接触部6に斜線を付して示している。)、超磁歪素子に対する外部磁界を変化させることで、(C2)図に示すように、超磁歪素子が矢印Aの向きにゆっくりと伸びる。この伸びに従って、回転体2Aが部材5との摩擦により滑りを伴うことなく図の反時計回り方向に回転する。その後、(C3)図に示すように、超磁歪素子を矢印Bの向きに縮めると、回転体2Aにはその慣性により、部材5との間に滑りが生じ、現状の回転位置に留まろうとする。こうして、超磁歪素子及び部材5の伸縮運動が回転運動へと変換される。尚、回転体2Aの回転方向は、超磁歪素子の伸びと縮みとの比較において、速さが緩やかな変位方向に対応している(図3では、超磁歪素子の伸びの速さが、縮みの速さよりも小さい場合を示しているが、この関係を逆にすれば回転方向を反転させることができる。)。
【0042】
光学的な制御用部材(羽根部材等)を回転体2Aに取り付けるか又は回転体2Aの回転力を、ギヤ等の伝達機構を介して制御用部材に作用させることによって、アイリスやシャッター等の駆動制御が可能である。
【0043】
図4は、一枚羽根を駆動させる場合(固定絞り)の構成例7の要部を示したものである。
【0044】
超磁歪素子に結合された部材5にはカーボンシャフト等が用いられ、駆動軸として、該素子の振動に伴って矢印Mに示す方向に往復運動する。そして、該駆動軸に対して直交する方向に延びる回動軸8が上記回転体2Aに相当する。
【0045】
回動軸8には、例えば、図示しない手段によって回転可能に支持されたシャフト部材が使用され、制御用部材9が取り付けられている。
【0046】
本例に示す制御用部材9は羽根部材とされ、所定の位置に透光孔9aが形成されているが、シャッター機構への適用においては透光孔が不要である。
【0047】
本例では、磁界変化に応じた超磁歪素子の伸縮変化に伴う駆動力が、回転機構を介して制御用部材9への回転力として伝達され、回動軸8を中心として矢印「R」に示す方向に制御用部材9が回転する。
【0048】
次に、図5を用いて本発明を撮像装置10に適用した場合の構成例について説明する(尚、図5は、光学系の概略との制御系の要部を併せて示したものである。)。
【0049】
レンズ鏡胴11において、図中に「OL」で示す光軸方向に沿って、例えば、固定レンズ群12、可動レンズ群13、固定レンズ群14、固体撮像素子15が配置されている。
【0050】
アイリス及びシャッター部については、図中の16A(図の一点鎖線参照)に示すように、固定レンズ群12の前方(被写体側)に配置する形態と、図中の16B(図の二点鎖線参照)のように、固定レンズ群14と固体撮像素子15との間に配置する形態等が挙げられる。
【0051】
尚、最も被写体側に位置する固定レンズ群12に対物レンズが含まれ、また、固定レンズ群12と14との間に位置された可動レンズ群13にはフォーカスレンズ等が含まれる。
【0052】
固体撮像素子15によって得られる画像出力は、画像信号処理部17に送出されて所定の信号処理を受ける。画像信号処理部17は、制御等に必要な情報を演算処理部18に送出し、また撮影画像をビユーファインダやモニター等に送って表示させ、あるいはユーザの操作指示に従って画像情報等を記録媒体に記録させる。尚、マイクロコンピュータ等を用いた演算処理部18は、制御部19に制御指令を送出し、これによってアイリス及びシャッター部16A(又は16B)の駆動制御や、可動レンズ群13の位置制御が行われる。
【0053】
制御部19には、アイリス及びシャッター制御回路19aと、可動レンズ群13の移動制御のためのレンズ制御回路19bが含まれる。
【0054】
アイリス及びシャッター制御回路19aは、アイリス及びシャッター部16A(又は16B)の動作を制御するものであり、例えば、後述のように、対をなす羽根を有し、それらを駆動することにより、入射光量の調節機能及びシャッター機能を兼用した構成において、アイリス及びシャッター部に送られる信号により光量調節のための絞り制御及びシャッター動作制御が行われる。つまり、制御回路19aは、前記したように磁気−機械変換素子(超磁歪素子)に係る伸び量の速度と縮み量の速度とが異なるように伸縮状態を変化させるための制御を行う。
【0055】
レンズ制御回路19bは、可動レンズ群13の駆動手段(駆動源及び駆動機構)を制御して、光軸OLに沿って可動レンズの位置制御を行うものである。例えば、ステッピングモータ等を用いた構成等が挙げられるが、図1に示すアクチュエータ1を用いて可動レンズの保持枠を移動させる形態を用いることができる(小型で推力の大きなアクチュエータを実現できる。)。
【0056】
尚、本例では、固体撮像素子を使用した構成を示したが、本発明の適用上はこれに限らず、フィルム式カメラ等に用いることが可能である。
【0057】
図6乃至図8は、二枚羽根を用いたアイリス及びシャッター部の構成例を示したものである。尚、図6及び図7は、可動羽根の開閉状態を示す斜視図であり、図6は最大開口の状態、図7は閉塞状態をそれぞれ示している。また、図8は、図6、図7とは別の方向から見た斜視図であり、リンク機構の構成を示している。
【0058】
本例に示す可動羽根の駆動装置20において、支持部材21の中央に円孔21aが形成されることにより開口を有しており、図6、図7に示すように、支持部材21の一方の面21bには対をなす羽根部材22、23がスライド可能な状態で支持されている。
【0059】
第1の羽根部材22は平板状とされ、V字状の切欠部22aと、長手方向に延びる部分22bを有する。該部分22bには、ガイド長孔24が形成されており、該ガイド長孔24の一端部の近辺には、別の長孔25が形成されている。尚、長孔25には後述のリンク部材の一端部(回動端部)が挿通され、その形成方向がガイド長孔24の形成方向に対して直交する方向とされている。
【0060】
第2の羽根部材23は平板状とされ、V字状の切欠部23aと、長手方向に延びる部分23bを有する。該部分23bには、ガイド長孔26が形成されており、該ガイド長孔26の一端部の近辺には、別の長孔27が形成されている。尚、長孔27には後述のリンク部材の一端部(回動端部)が挿通され、その形成方向がガイド長孔26の形成方向に対して直交する方向とされている。
【0061】
羽根部材22、23は、支持部材21と該部材21に取り付けられた固定部材28との間に配置され、いずれも光軸(円孔21aの中心を通って支持部材21における羽根部材の支持面21bに直交する方向に延びる軸)に対して直交方向にスライド可能とされている。尚、固定部材28は、後述するリンク部材の回動に応じて移動される羽根部材22、23の運動方向を直線方向に規制する役目をもつ。該固定部材28は円環状の部分28aを有しており、図示は省略するが、該部分から突設された複数の凸部が羽根部材22のガイド長孔24や、羽根部材23のガイド長孔26にそれぞれ挿通された後、支持部材21の取付孔に嵌合されている。
【0062】
図8に示すように、支持部材21において、上記の面21bの反対側には、リンク部材29と、スライダ30が設けられている。
【0063】
リンク部材29は、その回動軸29aが支持部材21に支持されており、一対のアーム部31、32と、係合部33とが一体に形成されている。
【0064】
アーム部31、32のうち、回動軸29aから離れた回動端部は、支持部材21に形成された円弧状の溝部21c、21dにそれぞれ挿通されて一方の面21b側に突出されている。つまり、一方のアーム部31の回動端部31aは一方の溝部21cに挿通された後に、面21b側において羽根部材22の長孔25に挿通されるとともに抜け止めが施されている。同様に、他方のアーム部32の回動端部32aは他方の溝部21dに挿通された後に、面21b側において羽根部材23の長孔27に挿通されるとともに抜け止めが施されている。
【0065】
リンク部材29の係合部33には回動軸29aから所定の間隔をおいて離れた位置に係合軸33aが形成されており、該係合軸33aは、スライダ30に形成された係合凹部30aに係合されている。
【0066】
スライダ30は、光軸に直交する方向に沿って互いに平行に延びる軸34、35を用いて移動可能な状態で支持部材21に支持されている。例えば、一方の軸34がガイド軸とされる構成において、該ガイド軸がスライダ30に形成された孔に挿通されるとともに、ガイド軸の各端部が支持部材21に固定される。そして、他方の軸35が駆動軸(つまり、超磁歪素子を用いたアクチュエータ1の駆動軸)とされて、スライダ30に設けられた被係合部30bに係合されている。尚、これに限らず、軸34を駆動軸とし、軸35をガイド軸にする等、各種実施での形態が可能である。
【0067】
本構成において、超磁歪素子に結合された駆動軸35(又は34)の伸縮運動に伴い、スライダ30がガイド軸に沿って直線的に駆動され、係合軸33aを介してリンク部材29への回動力に変換される。即ち、駆動軸に対して該駆動軸との接触部分が滑らずに移動する第1の過程と、駆動軸に対して該駆動軸との接触部分に滑りが生じる第2の過程とが順次に繰り返され、駆動力がリンク部材29に伝達される。
【0068】
リンク部材29は、それらのアーム部31、32を介して羽根部材22、23を移動させるためのリンク機構36を構成しており、駆動軸35(又は34)からリンク機構を介した回動力が羽根部材22、23に伝わる。その結果、図6に示すように、羽根部材同士が最も離れた状態と、図7に示すように羽根部材同士が最も接近した状態との間の任意の位置に亘って可動羽根が移動される。
【0069】
図9は、超磁歪素子を用いたアクチュエータの構造例を示したものであり、部分的に切り欠いて断面構成を示している。
【0070】
本例では、超磁歪素子37に駆動軸38が固定され、それらを中心軸として周囲に配置される振動励起用コイル39、ヨーク40を備えている。
【0071】
超磁歪素子37は円柱状に形成されていて、その一端部が固定部材41に固定されている。尚、図中の矢印「α」は、前記超磁歪材料を用いて軸(振動軸)として形成される素子の振動方向を示している。また、固定部材41については、共振防止等を考慮して、比重の大きい材料(例えば、タングステン)を用いて形成される。
【0072】
駆動軸38は、その一端部が超磁歪素子37に固定されている。駆動軸38の材質については、表面粗度又は摩擦係数が小さいことや、超磁歪素子37の振動波形(図2の三角波形g3参照。)を伝達し易いこと、そして、剛性が大きいことが望ましい。例えば、金属(ステンレス材料や鉄等)若しくはこれにカーボンコーティング等を施したもの又は炭素繊維強化プラスチック等を用いて形成される。
【0073】
ヨーク40は、超磁歪素子37の周囲に設けられ、例えば、中心孔を有する円板部40a、40aを、円筒部40bで連結した如き形状を有し、鉄等の磁性材料を用いて形成されている。尚、ヨーク40は、その一方の円板部40aが固定部材41に固定されている。
【0074】
振動励起用コイル39は、超磁歪素子37の振動方向に延びる軸を中心軸としてその回りに巻回されている。本例では、ヨーク40の円筒部40bの外周面に巻きつけられており、矢印「θ」で示す方向に電流に流れると、右ネジの法則に従って超磁歪素子37の振動方向に沿うようにして磁界が発生する(コイル電流の向きに応じて磁界の向きが変わる。)。この磁界変化に応じて超磁歪素子37が伸縮し、該変化に伴う駆動力が駆動軸38から上記スライダ30に伝達される。
【0075】
超磁歪素子の部分、つまり、超磁歪材料で形成された軸(振動軸)と、駆動軸とを兼用する構成形態も挙げられるが、それよりも、両軸の機能を区別し、駆動軸を金属や炭素繊維強化材料で形成してこれを超磁歪素子に固定する構成形態が好ましい。例えば、超磁歪材料を用いて駆動軸も形成した場合に、その表面粗度が大きいことが問題とされる(摩擦により駆動時の消費電力が大きくなってしまう。)。
【0076】
そこで、超磁歪材料に比して表面粗度又は摩擦係数の小さい材料を用いて駆動軸を形成することにより、このような問題を解消することができ、該駆動軸を超磁歪素子に固定して、該駆動軸とこれに接触される部材とが適度な摩擦力をもって当接された構成が好ましい。
【0077】
図10は、そのような構成例の要部を概略的に示したものである。
【0078】
例えば、(A)図のように、駆動軸38の一端を接着等により、超磁歪材料で形成された振動軸42に固定した構成と、(B)図のように、振動軸42の一端部に有底穴43を形成して、この穴に駆動軸38の端部を圧入し又は接着等により固定した形態が挙げられる。尚、接着強度や機械的強度等を考慮した場合には、後者の形態が好ましい。
【0079】
上記のように、超磁歪素子を有するリニア・アクチュエータを用いた形態において、リンク機構を介して二枚羽根の移動制御を行い、アイリスとしての要素とシャッターとしての要素を兼ね備えた装置構成を実現することができる。そして、二枚の羽根を同時に、かつ高速に移動させることが可能である。
【0080】
以上に説明した構成によれば、例えば、下記に示す利点が得られる。
【0081】
・カメラのアイリスやシャッター等の駆動装置への適用において、高速化に適し、応答性能を高められること。
・超磁歪素子の振動周波数に応じた伸縮量の制御で済み、アイリスメータのような磁気的検出素子が不要であること(アクチュエータの制御系が簡素化される。)。
・撮像装置の小型化、コンパクト化に有効であること。
・電動機を用いた駆動装置を採用する場合には、複数種類のモータを使用する必要があるが、超磁歪素子を用いた構成形態では、同一構成の駆動ユニットやデバイスを使用できること。
・静音化、低振動化が可能なこと(マイクロホンによる集音等への影響がない。)。
・従来の構成に比べて羽根部材の保持力が大きくなること(羽根部材の保持は勿論、重量が比較的大きい部材(NDフィルタ等)の移動に有利である。)。
・従来の磁歪素子や電歪素子に比べ、同じ体積での伸び量が大きいため、駆動の速度が大きいこと。
【0082】
・従来の磁歪素子や電歪素子に比べ、同じ移動量に対する駆動パルス数(総数)が少なくて済み、消費電力が低いこと。
・積層型の電歪素子と比べた場合に、より低い電圧(例えば、10V以下)での駆動が可能であること。
・従来の磁歪素子と比べた場合に、磁気ヒステリシス損が少ないこと。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】超磁歪素子を用いた直線移動機構の原理説明図である。
【図2】移動体、超磁歪素子の変位量及び速度の時間的変化を例示した図である。
【図3】超磁歪素子を用いた回転機構の原理説明図である。
【図4】一枚羽根の駆動例を示した図である。
【図5】撮像装置への適用例を示す説明図である。
【図6】図7及び図8とともに、二枚羽根を用いた構成例を示したものであり、本図は、可動羽根の開閉状態を示す斜視図であり、最大開口状態を示す。
【図7】開口の閉塞状態を示す斜視図である。
【図8】図6、図7とは別の方向から見た斜視図である。
【図9】超磁歪素子を用いたアクチュエータの構成例を示した図である。
【図10】駆動軸の固定形態を例示した説明図である。
【符号の説明】
【0084】
3…磁気−機械変換素子、9…制御用部材、10…撮像装置、19a…制御回路、20…駆動装置、36…リンク機構、38…駆動軸、39…振動励起用コイル、40…ヨーク、41…固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光量制御又は遮光のための制御用部材を回転させ又は移動させる、光学的な制御用部材の駆動装置において、
ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子を用いて、磁界変化に応じた該素子の伸縮変化に伴う駆動力を上記制御用部材の回転力又は移動力に変換する
ことを特徴とする光学的な制御用部材の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した光学的な制御用部材の駆動装置において、
上記磁気−機械変換素子を形成する超磁歪材料に比して表面粗度又は摩擦係数の小さい材料を用いて駆動軸を形成するとともに該駆動軸を上記磁気−機械変換素子に固定し、該駆動軸から回転機構又はリンク機構を介して上記制御用部材が回転され又は移動される構成にした
ことを特徴とする光学的な制御用部材の駆動装置。
【請求項3】
請求項1に記載した光学的な制御用部材の駆動装置において、
上記磁気−機械変換素子に係る伸び量の速度と縮み量の速度とが異なるように伸縮状態を変化させるための制御回路を設け、
上記磁気−機械変換素子又は該素子に固定された駆動軸に対して接触部分が滑らずに移動する過程と、該素子又は該素子に固定された駆動軸に対して接触部分に滑りが生じる過程とが繰り返されて駆動力が回転機構又はリンク機構を介して上記制御用部材に伝達される
ことを特徴とする光学的な制御用部材の駆動装置。
【請求項4】
請求項1に記載した光学的な制御用部材の駆動装置において、
上記磁気−機械変換素子の振動方向に延びる軸を中心軸としてその回りに巻回された振動励起用コイルと、上記磁気−機械変換素子の周囲に設けられたヨークと、上記磁気−機械変換素子の一端部を固定するために比重の大きい材料で形成された固定部材を備えている
ことを特徴とする光学的な制御用部材の駆動装置。
【請求項5】
光量調節又はシャッター制御のために回転され又は移動される制御用部材を備えた撮像装置において、
ジュール効果により巨大磁歪が得られる磁気−機械変換素子を用いて、磁界変化に応じた該素子の伸縮変化に伴う駆動力を上記制御用部材の回転力又は移動力に変換する
ことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−262580(P2006−262580A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74566(P2005−74566)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】