説明

光学的物質操作装置

【課題】物質の流動条件に限定されずに、かつ、操作幅が広く、効率的に、移動する物質に対し連続的に作用力を与え続けてその分離、濃縮、混合、偏向等の各種操作を連続的に行うことができる光学的物質操作装置。
【解決手段】流動する流体内の分散微粒子を光圧により操作する光学的物質操作装置であって、対象物面5上を流動する流体に対して同時に複数の線状集光領域を形成する光学系を備え、それぞれの線状集光領域を形成する光路中に、対象物面上での線状集光領域の向きを調節する手段CL1、CL2と、線状集光領域の位置を調節する手段M1、M2とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的物質操作装置に関し、特に、光ピンセットの原理を用いた生物化学分野、分子力学分野、マイクロ・ナノスケール熱流体工学分野等におけるマイクロスケールの光学的物質操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ピンセット装置に代表される光学的物質操作技術は、マイクロスケールの物質を非接触、非破壊に操作可能な物質操作手法である。対物レンズ等を用いて溶液や空気等の媒質中に強く光を集光させ、媒質中の物質界面に生じる光圧により入射光の焦点近傍に物質(粒子)を捕捉する光ピンセット技術が広く実用化されている(非特許文献1)。
【0003】
光ピンセット技術は、物体を非接触で捕捉し、さらに捕捉した対象物をマイクロメートルオーダの分解能で3次元的に操作することが可能である。そのため、単一細胞やDNAのような極微小サイズの対象物を任意に操作し、化学的、生物学的な現象解明を行うための実験ツールとして、数多くの功績を残している(非特許文献2)。その1例としては、紐状の単一分子の両端に付加された微小粒子を光ピンセットにより捕捉、操作することで、分子に結び目を創り、その張力の変化を計測した結果が報告されている(非特許文献3)。
【0004】
現在用いられている光学的物質操作技術の多くは、対物レンズ等の集光用レンズに対し平行光を入射し、一点に集光されるレーザ光を用いている。この手法は、光が高強度に集光されるために、強い操作力を得ることが可能であるが、その分、作用範囲が数マイクロメートルと狭くなってしまう。また、光圧により発生する操作力は、レーザ焦点への捕捉力か斥力かの限られた方向性しか持たない。そのため、マイクロメートルオーダの物質に対する操作としては、一度その物質を焦点に捕捉した後に、周囲媒体若しくはレーザ照射システム全体を移動させることで物質を移動するといった手法がとられる。この手法は、物質単体を任意の位置へと移動させる際には極めて有効な手法であるが、媒質中に散在した大量の物質群に対する広範囲操作や連続的操作、高速操作といった作業を行うことは難しい。
【0005】
近年では、光ピンセット技術の作用範囲の狭さを補う工夫として、レーザ光路中に特殊な回折格子等を設置してレーザ光を複数ビーム化させる手法等により、多数のレーザ照射領域を媒質中に形成させることで、複数の物質を同時に操作した結果等が報告されている(非特許文献4、特許文献1、2)。また、光路中にシリンドリカルレンズ等を設置することで、レーザ焦点の形状を変化させ、線状に複数の物質を補足した例も報告されている(非特許文献5)。これらの手法は、確かに同時に操作可能となる物質の量を増加させているが、光圧を物質の捕捉力として用いている点で従来の技術と同様であり、捕捉後の物質操作が主な使用例となる。
【0006】
物質を捕捉せずに連続操作するためには、移動する物質に対し連続的に作用力を与え続ける必要性がある。例えば、対象となる物質群が常に流動している状態であれば、光圧を捕捉力として用いた場合であっても連続操作が可能である。回折格子を用いた多点光ピンセットによる連続操作手法が提案されている(非特許文献6、7、特許文献1) が、物質の流動条件によりその作用性能が大きく変化してしまうと考えられる。また、光の実質的な照射範囲の大きさに比べ物質の操作幅が小さく、非効率である。
【特許文献1】特表2005−502482号公報
【特許文献2】特表2005−515878号公報
【非特許文献1】浮田宏生著「マイクロメカニカルフォトニックス−光情報システムの応用−」第61頁(2002.9、森北出版(株))
【非特許文献2】Ashkin, A., IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, Vol. 6, pp. 841-856, (2000)
【非特許文献3】Arai, Y., et al., Nature, Vol. 399, pp. 446-448, (1999)
【非特許文献4】Grier, D. G., Nature, Vol. 424, pp. 810-816, (2003)
【非特許文献5】Dasgupta, R., et al., Biotechnology Letters, 25, pp. 1625-1628, (2003)
【非特許文献6】Korda, P. T., et al., Physical Review Letters, Vol. 89, No. 12, 128301, (2002)
【非特許文献7】MacDonald, M. P., et al., Nature, Vol. 426, pp. 421-424, (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、物質の流動条件に限定されずに、かつ、操作幅が広く、効率的に、移動する物質に対し連続的に作用力を与え続けてその分離、濃縮、混合、偏向等の各種操作を連続的に行うことができる光学的物質操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の光学的物質操作装置は、流動する流体内の分散微粒子を光圧により操作する光学的物質操作装置であって、
対象物面上を流動する流体に対して同時に複数の線状集光領域を形成する光学系を備え、それぞれの線状集光領域を形成する光路中に、対象物面上での線状集光領域の向きを調節する手段と、線状集光領域の位置を調節する手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
この場合、前記線状集光領域の向きを調節する手段が回転調節可能シリンドリカルレンズ又はシリンドリカルミラーであることが好ましい。
【0010】
また、前記線状集光領域の位置を調節する手段が位置調節可能、かつ、角度調節可能な光学素子からなることが好ましい。
【0011】
また、前記光学系は、1つの光源から出た光を複数に分割し、それぞれ前記線状集光領域の向きを調節する手段と前記線状集光領域の位置を調節する手段を経た後の光を合成する光学系であることが好ましい。
【0012】
また、線状集光領域が2個形成され、前記光学系は、1つの光源から出た光を2つに分割する光分割手段と、前記線状集光領域の向きを調節する手段と、前記線状集光領域の位置を調節する手段と、2つに分割された光を合成する光合成手段とを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学的物質操作装置は、操作対象の操作性の自由度を向上させたレーザ放射圧による非接触物質操作システムである。本発明では、既存の光ピンセット技術に比べ、広範囲に散在する物質群に対する一括操作を容易に行うことが可能であり、細胞やDNA等の大量操作、連続操作が可能である。また、物質を一箇所に捕捉せずに操作するため、マイクロ化学チップに代表される微小流動場を流動する物質に対する連続的な操作が可能となる。また、本発明では非破壊なレーザ光を用いているため、生体物質を傷つけることなく操作することが可能である。また、本発明ではレーザ照射範囲に限定した局所操作が可能であり、DNA分析や化学合成といったチップ上への機能の集約化へ向けた技術発展に貢献するものである。さらに、本発明の光学的物質操作装置は、既存の光ピンセット装置同様、光学顕微鏡に付属的に設置することが可能であるため、標本容器に対する汎用性も高い。特殊な回折格子等を用いることもなく、同一システム上で様々な物質操作を実現できるため、装置としての適用範囲は多岐に渡り、非常に高い応用性を持つ装置であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の光学的物質操作装置を実施例に基づいて説明する。図1は、1実施例の光学的物質操作装置の構成を示す概略図(斜視図)である。説明を容易にするために、座標軸X,Y,Zを図のように設定する。光源のレーザ1(例えば波長1064nmの近赤外Nd:YAGレーザ)から発振された直線偏光レーザ光は、共焦点配置の負レンズL1と正レンズL2からなるビーム拡大器でビーム径が拡大され、2分の1波長板λ/2に入射し偏光方向が所定方向に回転され、第1偏光ビームスプリッタBS1に入射し、Z方向偏光成分(以下、p偏光)とXY方向偏光成分(以下、s偏光)の2成分に分割され、p偏光成分は第1偏光ビームスプリッタBS1を透過してミラーM1方向へ、s偏光成分は第1偏光ビームスプリッタBS1で反射されてミラーM2方向へと進む。それぞれのビームは、第1偏光ビームスプリッタBS1からそれぞれミラーM1、M2に至る光路中に配置されたシリンドリカルレンズCL1、CL2を経て、ミラーM1、M2で反射され、第2偏光ビームスプリッタBS2に達する。ここでは、s偏光成分のみが反射され、p偏光成分は透過するので、2本のビームは共にY軸方向へと進む。その2本のビームは、共焦点配置の正レンズL3、L4によりビーム径が拡大され、ミラーM3に達するが、正レンズL3と正レンズL4の間に配置された4分の1波長板λ/4を経ることで、共に円偏光へと変換される。ミラーM3によりX軸方向へと反射されたレーザ光は、倒立顕微鏡に設置されたフィルタボックス2へと入射する。フィルタボックス2内には可視光を透過し、近赤外領域の光を反射する特性を持った第1ダイクロイックミラーDM1が設置されており、2本のビームはZ軸方向へと反射する。顕微鏡上に設置された無限遠補正の油浸対物レンズObへと入射した2本のビームは、対物レンズObにより集光され、油浸オイルを介してマイクロチャネルMCの流路5内の対象物へと入射する。なお、マイクロチャネルMCの流路5内の対象物を落射照明するための水銀ランプ3が設けられ、その水銀ランプ3からの照明光は、第1ダイクロイックミラーDM1より観察側に配置された第2ダイクロイックミラーDM2で反射され、第1ダイクロイックミラーDM1を経て対物レンズObへ入射し、対物レンズObで集光されて対象物を落射照明する。また、対物レンズObで拡大されたマイクロチャネルMCの流路内の対象物の蛍光画像は、第1ダイクロイックミラーDM1と第2ダイクロイックミラーDM2を経て撮像カメラ4で撮像され、その画像は表示と記録が行われる。
【0015】
ここで、2分の1波長板λ/2は光軸(X軸)の周りで回転調節可能になっており、レーザ1から発振された直線偏光の方向を調節するものであり、その調節によって第1偏光ビームスプリッタBS1に入射するp偏光成分とs偏光成分の割合が調節可能になっている。
【0016】
また、4分の1波長板λ/4で2本のビームをそれぞれ円偏光へ変換して対象物へ入射させるのは、不要な干渉縞の発生を抑制するためである。
【0017】
また、ミラーM1、M2はそれぞれビームの進行方向(ミラーM1はX軸方向、ミラーM2はY軸方向)へ位置調節可能になっていると共に、それぞれZ軸周り及びビームの進行方向の周り(ミラーM1はX軸周り、ミラーM2はY軸周り)に角度調節可能になっている。さらに、ミラーM3もビームの進行方向(Y軸方向)へ位置調節可能になっている。さらに、シリンドリカルレンズCL1、CL2はそれぞれX軸周り、Y軸周りで回転調節可能になっている。
【0018】
図2は、図1の光学的物質操作装置のレーザ1からマイクロチャネルMCの流路内の焦点面(対象物面)Fまでの第1偏光ビームスプリッタBS1、シリンドリカルレンズCL1、第2偏光ビームスプリッタBS2を経る一方の光路の展開図であり、シリンドリカルレンズCL2を経る他方の光路の展開図も同様である。図2(a)はシリンドリカルレンズCL1の母線に沿った断面内の展開図、図2(b)はその母線に直交する断面内の展開図である。なお、図中には、各レンズの焦点距離及びレンズ間の距離を例示する数値(mm)が記入されている。
【0019】
図2(a)のシリンドリカルレンズCL1(CL2)の屈折力が作用しない断面内では、レーザ1から発振された平行光は、負レンズL1と正レンズL2からなるビーム拡大器でビーム径が拡大されて平行光として、2分の1波長板λ/2、第1偏光ビームスプリッタBS1、シリンドリカルレンズCL1(CL2)、反射されてミラーM1(M2)、第2偏光ビームスプリッタBS2を通り、共焦点配置の正レンズL3と正レンズL4によりビーム径が拡大され、その間の4分の1波長板λ/4を経て平行光として、ミラーM3を経て無限遠補正の対物レンズObへ平行光のまま入射し、焦点面Fに集光する。
【0020】
一方、図2(b)のシリンドリカルレンズCL1(CL2)の屈折力が作用する断面内では、シリンドリカルレンズCL1(CL2)を経た光束はその正の屈折力により正レンズL3の前方に収束する収束光となり、その収束点から後に発散光となって正レンズL3に入射し、正レンズL3と正レンズL4の正の屈折力により再度収束光となって対物レンズObの前方(観察側)に収束し、その収束点から後に発散光となった光は対物レンズObに入射し、対物レンズObの正の屈折力により焦点面Fより微小距離Δだけ遠方に集光する。
【0021】
そのため、レーザ光は、焦点面(対象物面)Fには、シリンドリカルレンズCL1の屈折力が作用しない断面内では点に入射し、シリンドリカルレンズCL1の屈折力が作用する断面内では幅を持って入射するため、焦点面(対象物面)Fでは線状又は長楕円領域に集光して入射することになる。つまり、焦点面(対象物面)Fには、それぞれシリンドリカルレンズCL1の、CL2の母線に直交する方向に伸びる2つの線状領域にレーザ光が集光する。
【0022】
そして、その各線状集光領域は、それぞれの光路中のミラーM1、M2の位置調節及び角度調節により、焦点面(対象物面)F内で任意に位置調節が可能であり、さらに、その向きはそれぞれシリンドリカルレンズCL1、CL2の光軸周りでの角度調節により調節が可能である。
【0023】
このような構成において、s偏光ビームの光路(第1偏光ビームスプリッタBS1からシリンドリカルレンズCL2を経てミラーM2、第2偏光ビームスプリッタBS2に達する光路)上にシャッタを配置して、p偏光ビームの光路(第1偏光ビームスプリッタBS1からシリンドリカルレンズCL1を経てミラーM1、第2偏光ビームスプリッタBS2に達する光路)のみを光が通過するようにして、マイクロチャネルMCの流路5内に1つの線状集光領域を集光させた場合の流路5を流れる流体内の分散微粒子の挙動を撮像カメラ4で撮像して調べると、図3のような結果が得られた。
【0024】
図3(a)は、シリンドリカルレンズCL1の角度を調節して、流路5内の流れの方向(X軸方向)に直交するY軸方向を向くように線状集光領域10を形成した場合の流体内に分散された微粒子11の挙動を示す模式図である。レーザ1から発振されるレーザ光は中心に強度ピークを持つガウス分布の光であるので、線状集光領域10はその中心が最も強度が高い。したがって、レーザ光放射圧によって線状集光領域10に直角に流れる微粒子11は線状集光領域10中に流れ込み、一旦線状集光領域10の中に入った微粒子11はその中で両側から中心方向へ集まるように移動する。
【0025】
図3(b)は、焦点面Fに集光するガウス分布のビームの略半分を光路途中で遮光して線状集光領域10中で最も強度が高い位置が図の右端近傍になるようにした場合の図3(a)と同様の図であり、この場合は、レーザ光放射圧によって線状集光領域10に直角に流れる微粒子11は線状集光領域10中に流れ込み、一旦線状集光領域10の中に入った微粒子11はその中で図の左から右端に移動し、その右端近傍に集まった微粒子11は飽和してその右端から流れの方向に流出して行く。
【0026】
図3(c)は、シリンドリカルレンズCL1の角度を調節して、流路5内の流れの方向(X軸方向)に対して角度をなして斜めに向くように線状集光領域10を形成した場合の流体内に分散された微粒子11の挙動を示す模式図である。この場合は、レーザ光放射圧によって線状集光領域10に対して角度をなして流れる微粒子11は線状集光領域10中に流れ込み、一旦線状集光領域10の中に入った微粒子11はその中で流れに沿う方向、図のような傾きの場合は、左上から右下への方向に移動し、その右下端に集まった微粒子11は飽和してその右下端から流れの方向に流出して行く。
【0027】
次に、本発明に基づいて、図1の構成において、p偏光ビームの光路、s偏光ビームの光路の両方に略等しい強度の光が通過するようにして、マイクロチャネルMCの流路5内に2つの線状集光領域101 、102 を集光させた場合の流路5を流れる流体内の分散微粒子11に対する操作を例示する。
【0028】
図4(a)に示すように、シリンドリカルレンズCL1とシリンドリカルレンズCL2の屈折力の作用する方向が同じになるように角度を調節して、流路5内の流れの方向の同じ位置でその方向に直交する方向を向くように2つの線状集光領域101 、102 を形成し、かつ、図3(b)のように、図の左の線状集光領域101 においては右端が最も強度の高い位置、図の右の線状集光領域101 においては左端が最も強度の高い位置となるようにし、さらに、p偏光ビームの光路においてはミラーM1の位置調節と角度調節により、s偏光ビームの光路においてはミラーM2の位置調節と角度調節により、左の線状集光領域101 と右の線状集光領域102 が間に隙間を形成するように配置すると、レーザ光放射圧によって線状集光領域101 、102 にそれぞれに直角に流れる微粒子11はそれぞれ線状集光領域101 、102 に流れ込み、一旦線状集光領域101 、102 の中に入った微粒子11はそれらの中でそれぞれ図の左から右端、右から左端に移動し、あたかも左の線状集光領域101 と右の線状集光領域102 の間の隙間に集約(濃縮)されたようになってその隙間を通過して行く。
【0029】
図4(b)に示すように、シリンドリカルレンズCL1とシリンドリカルレンズCL2の角度を別々に調節して、図3(c)のように、流路5内の流れの方向の同じ位置で左の線状集光領域101 は斜め右下に向くように形成し、右の線状集光領域102 は斜め左下に向くように形成し、さらに、それぞれの光路においてミラーM1、M2の位置調節と角度調節をすることにより、左の線状集光領域101 の右下端と、右の線状集光領域102 の左下端との間に隙間を形成するように配置すると、レーザ光放射圧によって線状集光領域101 、102 それぞれに対して角度をなして流れる微粒子11はそれぞれ線状集光領域101 、102 に流れ込み、一旦線状集光領域101 、102 の中に入った微粒子11はそれらの中でそれぞれ図の斜め上から斜め下に移動し、あたかも左の線状集光領域101 と右の線状集光領域102 の間の隙間に集約(濃縮)されたようになってその隙間を通過して行く。
【0030】
また、図4(c)に示すように、シリンドリカルレンズCL1とシリンドリカルレンズCL2の屈折力の作用する方向が同じになるように角度を調節して、流路5内の流れの方向の同じ位置で、左右の左の線状集光領域101 が間隔をおいて平行に斜め右下に向くように形成すると、レーザ光放射圧によって線状集光領域101 、102 それぞれに対して角度をなして流れる微粒子11はそれぞれ線状集光領域101 、102 に流れ込み、一旦線状集光領域101 、102 の中に入った微粒子11はそれらの中でそれぞれ図の斜め上から斜め下に移動し、それぞれの線状集光領域101 、102 の下端に集まった微粒子11は飽和してそれぞれの下端から2つに分離して流出して行く。
【0031】
図4(d)に示すように、シリンドリカルレンズCL1とシリンドリカルレンズCL2の角度を別々に調節して、図3(c)のように、流路5内の流れの方向の同じ位置で左の線状集光領域101 は斜め左下に向くように形成し、右の線状集光領域102 は斜め右下に向くように形成し、さらに、それぞれの光路においてミラーM1、M2の位置調節と角度調節をすることにより、左の線状集光領域101 の右上端と、右の線状集光領域102 の左上端とが接するように配置すると、レーザ光放射圧によって線状集光領域101 、102 それぞれに対して角度をなして流れる微粒子11はそれぞれ線状集光領域101 、102 に流れ込み、一旦線状集光領域101 、102 の中に入った微粒子11はそれらの中でそれぞれ図の斜め上から斜め下に移動し、それぞれの線状集光領域101 、102 の下端に集まった微粒子11は飽和してそれぞれの下端から2つに分離して流出して行く。
【0032】
以上の例示のように、流路5内に形成される2つの線状集光領域101 、102 の流れの方向に対する角度と相対位置を調整することで、流路5内を流れる浮遊微粒子や細胞、DNA等の補足、集約、濃縮、分離、偏向、搬送、混合、選別等を行うことが可能となる。なお、シリンドリカルレンズCL1、CL2を高速で回転させることで、攪拌、混合も可能となる。もちろん、同時に集光して形成する線状集光領域10を3つ以上にすると、さらに複雑な操作をすることが可能となる。
【0033】
なお、図1の実施例の構成において、シリンドリカルレンズCL1、CL2の代わりにシリンドリカルミラーを用いてもよい。また、ミラーM1、M2の代わりにプリズム等の他の光学素子を用いてもよい。さらに、ビームスプリッタBS1、BS2の代わりにハーフミラー等の他の光分割、光合成手段を用いてもよい。
【0034】
以上、本発明の光学的物質操作装置を実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限定されず種々の変形が可能である。例えば、流路内に形成する線状集光領域としては2つに限定されず3個以上であったももちろんよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の光学的物質操作装置の1実施例の構成を示す概略図である。
【図2】図1の光学的物質操作装置の光路の展開図である。
【図3】1つの線状集光領域を集光させた場合の流路を流れる流体内の分散微粒子の挙動を示す模式図である。
【図4】図1の光学的物質操作装置により2つの線状集光領域を集光させた場合の流路を流れる流体内の分散微粒子に対する操作を例示するための模式図である。
【符号の説明】
【0036】
1…レーザ
2…フィルタボックス
3…水銀ランプ
4…撮像カメラ
5…流路
10、101 、102 …線状集光領域
11…微粒子
L1…負レンズ
L2…正レンズ
λ/2…2分の1波長板
BS1…第1偏光ビームスプリッタ
M1、M2、M3…ミラー
CL1、CL2…シリンドリカルレンズ
BS2…第2偏光ビームスプリッタ
L3、L4…正レンズ
λ/4…4分の1波長板
DM1…第1ダイクロイックミラー
Ob…油浸対物レンズ
MC…マイクロチャネル
DM2…第2ダイクロイックミラー
F…焦点面(対象物面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動する流体内の分散微粒子を光圧により操作する光学的物質操作装置であって、
対象物面上を流動する流体に対して同時に複数の線状集光領域を形成する光学系を備え、それぞれの線状集光領域を形成する光路中に、対象物面上での線状集光領域の向きを調節する手段と、線状集光領域の位置を調節する手段とを備えていることを特徴とする光学的物質操作装置。
【請求項2】
前記線状集光領域の向きを調節する手段が回転調節可能シリンドリカルレンズ又はシリンドリカルミラーであることを特徴とする請求項1記載の光学的物質操作装置。
【請求項3】
前記線状集光領域の位置を調節する手段が位置調節可能、かつ、角度調節可能な光学素子からなることを特徴とする請求項1又は2記載の光学的物質操作装置。
【請求項4】
前記光学系は、1つの光源から出た光を複数に分割し、それぞれ前記線状集光領域の向きを調節する手段と前記線状集光領域の位置を調節する手段を経た後の光を合成する光学系であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の光学的物質操作装置。
【請求項5】
線状集光領域が2個形成され、前記光学系は、1つの光源から出た光を2つに分割する光分割手段と、前記線状集光領域の向きを調節する手段と、前記線状集光領域の位置を調節する手段と、2つに分割された光を合成する光合成手段とを備えていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の光学的物質操作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−313378(P2007−313378A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142315(P2006−142315)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】