説明

光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜

【課題】光学特性を維持しながら防塵効果が向上された光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜を提供する。
【解決手段】光学素子は、空気への露出面を有する第1の透明導電層と、第2の透明導電層と、第1の透明導電層と第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と、光透過性基材とを含む。低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ第1の透明導電層、低屈折率層および第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜に関する。特に、光学特性と防塵効果とに優れる光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜に関する。
【背景技術】
【0002】
映像機器や撮像機器などの光学機器に使用される光学部品には、光学部品の用途および機能に応じた光学特性が要求される。光学部品に要求される光学特性としては、例えば、入射光に対する高い透過率(以下、透過率というときにはエネルギ透過率をいうものとする。)などが挙げられる。
【0003】
例えば、可視光の波長帯域など、特定の波長帯域の光に対して高い透過率を有する光学部品を得るために、表面が機能材料でコーティングされた光透過性基材を光学部品として構成することも多い。このとき、機能材料のコーティングによって、光学部品の透過率がなるべく低下しないことが好ましい。
【0004】
一般的に、光学部品の透過率は、コーティング層と空気との間の屈折率差および入射光の波長に依存する。そのため、コーティング層を多層構造とし、コーティング層を構成する各層の機能材料の種類や厚さを調整することにより、特定の波長帯域の光に対する透過率の低下の防止が図られる。例えば、下記の特許文献1には、一端から他端に向けて屈折率が変化する屈折率マッチング部を備える光学薄膜フィルタが記載されている。また、下記の特許文献2には、誘電体多層膜の表面に透過屈折率膜が形成された光学積層フィルムが記載されている。
【0005】
ところで、近年では、光学特性に加えて、防塵や防曇、撥水、防汚、帯電防止などの機能が光学部品に要求されることが多い。
【0006】
例えば、カメラなどに用いられる光学フィルタの表面にほこりなど(以下、ダストと称する。)が付着すると、得られる画質が劣化してしまう。特に、レンズ交換式のカメラなどでは、光学フィルタなどの光学部品が外気に直接さらされることになるため、光学部品の表面が、防塵性を有することが好ましい。または、光学機器が、光学部品の表面からダストを落とすための機構を備えることが好ましい。
【0007】
光学部品に防塵などの機能を付与する方法として、光学部品の表面を機能材料でコーティングする手法が知られている。例えば、下記の特許文献3には、屈折率傾斜膜を含む透明導電性物質の薄膜を備える光学薄膜が記載されている。なお、下記の特許文献4には、撮像素子と、帯電防止剤にて表面処理された防塵部材との間を密閉空間とし、該防塵部材に振動を与えるための加振用部材を備えるカメラが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−085041号公報
【特許文献2】特開2010−044278号公報
【特許文献3】特開2006−202626号公報
【特許文献4】特許第3926676号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光学部品に対しては、光学特性を維持しながら防塵効果を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
光学素子の好ましい実施の態様は、
空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
第1の透明導電層と第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と、
光透過性基材と
を含む。
低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ第1の透明導電層、低屈折率層および第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である。
【0011】
光学素子の他の好ましい実施の態様は、
空気への露出面を有する透明導電層と、
透明導電層の空気への露出面とは反対側に隣接し、透明導電層との界面を有する低屈折率層と、
光透過性基材と
を含む。
透明導電層の屈折率は、透明導電層と低屈折率層との界面側から、空気への露出面側に向かって徐々に小さくなる。
【0012】
光学モジュールの好ましい実施の態様は、
空気への露出面を有する第1の透明導電層,第2の透明導電層,第1の透明導電層と第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層,および光透過性基材を含み、
低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ第1の透明導電層、低屈折率層および第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子と、
光学素子を保持する保持部材と、
保持部材を介して光学素子に対して振動を与える加振用部材と
を備える。
【0013】
撮像装置の好ましい実施の態様は、
空気への露出面を有する第1の透明導電層,第2の透明導電層,第1の透明導電層と第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層,および光透過性基材を含み、
低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ第1の透明導電層、低屈折率層および第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子と、
光学素子を介して、被写体からの光束が入射するように配置される被照射体と
を備える。
【0014】
光学多層膜の好ましい実施の態様は、
空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
第1の透明導電層と第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と
を含む。
低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ第1の透明導電層、低屈折率層および第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である。
【0015】
本技術では、空気への露出面を有する最表層が透明導電層である。さらに、基材側から空気への露出面側に向かって、透明導電層、低屈折率層、透明導電層が、順に積層され、低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ該3つの層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以内の範囲内である。そのため、光学アドミタンスを整合させることが容易になるとともに、光学素子が導電性を発現し、光学素子の防塵性が向上する。
【0016】
または、空気への露出面を有する最表層が透明導電層である。さらに、低屈折率層と透明導電層とが、基材側から空気への露出面側に向かって順に積層され、透明導電層の屈折率は、低屈折率層との界面側から、空気への露出面側に向かって徐々に小さくなる。そのため、最表層の光学アドミタンスに関するダイアグラムが閉じた曲線とはならず、光学アドミタンスを整合させることができるとともに、光学素子が導電性を発現し、光学素子の防塵性が向上する。
【0017】
本技術では、保持部材により光学素子を保持し、加振用部材により、保持部材を介して光学素子に振動を与える。そのため、光学素子の表面にダストが載った場合であっても、光学素子の表面からダストを振り落とすことができ、光学モジュールに備えられる光学素子の防塵性が向上する。または、撮像装置に備えられる光学素子の防塵性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
少なくとも1つの実施例によれば、光学特性を維持しながら防塵効果が向上された光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、第1の実施形態にかかる光学素子の断面模式図である。
【図2】図2Aは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図2Bは、図2Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムを示す図である。図2Cは、図2Aに対応する多層膜に関する透過率の計算結果の例を示すグラフである。
【図3】図3Aは、第1の実施形態にかかる光学素子を赤外線カットフィルタとして構成したときの光学特性を示したグラフである。図3Bは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の他例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。
【図4】図4Aは、多層膜の最表層が低屈折率層として構成された光学素子の断面模式図である。図4Bは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜における空気への露出面に近い側の3層の効果と、図4Aに示す光学素子の多層膜における最表層の効果との比較の説明に用いるための、多層膜の積層構造の断面模式図である。
【図5】図5Aは、空気への露出面側の2つの高屈折率層をITOとしたときの光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図5Bは、図5Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムを示す図である。
【図6】図6は、第2の実施形態にかかる光学素子の断面模式図である。
【図7】図7Aは、第2の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図7Bは、図7Aに対応する多層膜において、空気への露出面を有する透明導電層についてのダイアグラムを示す図である。図7Cは、図7Aに対応する多層膜に関する透過率の計算結果の例を示すグラフである。
【図8】図8Aは、第3の実施形態にかかる光学モジュールの構成を示す分解斜視図である。図8Bは、図8Aに示す光学モジュールに備えられる光学素子の断面を拡大して示す断面模式図である。
【図9】図9Aは、第4の実施形態にかかる撮像装置の構成例を示す略線図である。図9Bは、図9Aに示す撮像装置に備えられる光学素子の断面を拡大して示す断面模式図である。
【図10】図10Aおよび図10Bは、一眼レフレックスカメラとして第4の実施形態にかかる撮像装置を構成した例を示す略線図である。
【図11】図11Aは、ビデオカメラとして第4の実施形態にかかる撮像装置を構成した例を示す略線図である。図11Bは、図11Aに示す撮像装置に備えられる光学モジュールの構成を示す分解斜視図である。
【図12】図12Aは、ダストのつきにくさの評価における、測定試料、照明用光源およびカメラの配置を示す略線図である。図12Bは、高屈折率層および低屈折率層からなる積層体を形成する前のホウケイ酸ガラス板に関する、2値化処理後の画像を示す図である。図12Cは、サンプル6に関する、2値化処理後の画像を示す図である。図12Dは、サンプル1に関する、2値化処理後の画像を示す図である。
【図13】図13Aは、第1の実施形態にかかる光学素子の最表層の上に、フッ素を含有する機能膜が形成された光学素子の一構成例を示す断面模式図である。図13Bは、第2の実施形態にかかる光学素子の最表層の上に、フッ素を含有する機能膜が形成された光学素子の一構成例を示す断面模式図である。
【図14】図14Aは、赤外線カットフィルタに要求される光学特性の概略を示したグラフである。図14Bは、赤外線カットフィルタに要求される光学特性を実現するために、基材上に形成される多層膜に要求される光学特性の概略を示したグラフである。
【図15】図15A〜図15Fは、ガラス基板上に単一の高屈折率層が形成された光学素子の、高屈折率層の幾何膜厚の変化に対するダイアグラムの変化を示す概略図である。
【図16】図16Aは、高屈折率層にかえて、ガラス基板上に単一の低屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムを示す概略図である。図16Bは、ガラス基板上に単一の高屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムと、ガラス基板上に単一の低屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムとを示す概略図である。
【図17】図17Aは、ガラス基板上に、高屈折率層と、低屈折率層とが順に形成された光学素子の断面模式図である。図17Bは、図17Aに示す光学素子の光学アドミタンスに関するダイアグラムを示す概略図である。図17Cは、最表層が高屈折率層とされた多層膜の透過率の計算結果の例を示すグラフである。
【図18】図18Aは、多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図18Bは、図18Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い2層分についてのダイアグラムを示す図である。
【図19】図19A〜図19Dは、光学素子の表面へダストが付着する原因を模式的に現した図である。
【図20】図20A〜図20Cは、静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの付着および吸着の機構を模式的に現した図である。図20Dは、導電性を有する光学素子の、ダストの吸着の抑制効果を模式的に現した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜の実施形態について説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
<0−0.光学アドミタンスの整合>
<0−1.帯電防止機能および導電性の付与>
<1.第1の実施形態>
<2.第2の実施形態>
<3.第3の実施形態>
<4.第4の実施形態>
<5.変形例>
【0021】
なお、以下に説明する実施形態は、光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜の好適な具体例である。以下の説明においては、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本技術を限定する旨の特段の記載がない限り、光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜の例は、以下に示す実施形態に限定されないものとする。
【0022】
<0−0.光学アドミタンスの整合>
実施形態の理解を容易とするため、実施形態の説明の前に、まず、光学アドミタンス整合の手法による光学設計の概要について説明する。以下では、赤外線カットフィルタの光学設計を例にとって説明を行う。
【0023】
図14Aは、赤外線カットフィルタに要求される光学特性の概略を示したグラフである。図14Aは、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。一般的に、赤外線カットフィルタには、可視光域の光に対して、図14Aに示す光学特性が要求される。ここで、可視光域とは、380nm以上780nm以下の波長帯域をいう。カメラなどに使用される一般的な赤外線カットフィルタには、可視光域のうち、400nm以上600nm以下の帯域において高い透過率が要求される。
【0024】
通常、図14Aに示す光学特性を実現するために、ガラスなどの基材上に、高屈折率材料からなる層(以下、高屈折率層Hと適宜称する。)と、低屈折率材料からなる層(以下、低屈折率層Lと適宜称する。)とを交互に積層した多層膜を形成することが行われる。
【0025】
図14Bは、赤外線カットフィルタに要求される光学特性を実現するために、基材上に形成される多層膜に要求される光学特性の概略を示したグラフである。図14Bは、図14Aと同様に、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。
【0026】
例えば、赤外線カットフィルタであれば、基材となる赤外線吸収ガラスと、所定の光学特性を有する多層膜とが組み合わせられ、図14Aに示す光学特性の実現が図られる。そこのとき、多層膜には、図14Bに示す光学特性が要求される。
【0027】
図14Bに示す光学特性を実現するために、多層膜においては、一般的に、高屈折率層Hおよび低屈折率層Lが40層程度積層される。なお、本明細書においては、高屈折率であるとは、ナトリウムのD線(589.3nm)での屈折率が1.7以上である場合をいうものとし、低屈折率であるとは、ナトリウムのD線での屈折率が1.7未満であることをいうものとする。
【0028】
高屈折率層Hおよび低屈折率層Lを積層することにより、所望の光学特性を得ようとする場合、一般的には、基材から見て最も遠い側の層(以下、最表層と適宜称する。)が、低屈折率層Lとされる。すなわち、空気との界面を有する層が、低屈折率層Lとされる。これは、最表層を高屈折率層Hとする場合と比較して、最表層を低屈折率層Lとする光学設計の方が簡単であること、最表層を高屈折率層Hとした場合には、空気との界面において反射する光の割合が増加し、透過率が低くなることなどによる。
【0029】
したがって、鏡など、高い反射率が要求される光学素子であれば、高屈折率の機能性材料を最表層に使用しやすい。一方、レンズや光学フィルタなど、高い透過率が要求される光学素子では、高屈折率の機能性材料を最表面にした光学設計が難しい。
【0030】
[光学アドミタンス]
基材上に屈折率の異なる複数の層を積層することにより構成された光学素子に入射した光の透過率は、計算により求めることが可能である。このとき、計算の便宜のため、光学アドミタンスと呼ばれる量を導入した計算が行われることが多い。
【0031】
光学アドミタンスは、電磁波が伝播する媒質中の電磁波の磁場成分Hおよび電場成分Eの比率として定義される。すなわち、光学アドミタンスYは、電磁波(光波)の磁場成分をHとし、電場成分をEとして、以下の式(1)により表される。光学アドミタンスYは、一般には、複素数である。
【0032】
【数1】

【0033】
光波が複素屈折率Nの媒質中を進行する場合、該媒質の複素屈折率Nと光学アドミタンスYとの間には、以下の式(2)で表される関係が成り立つ。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、μは真空の透磁率、εは真空の誘電率であり、Yは、自由空間のアドミタンスである。自由空間のアドミタンスYは、電磁波の特性インピーダンスZの逆数である。特性インピーダンスZは、電磁波の伝播路における電場成分と磁場成分との比率(E/H)として定義される。式(2)中、下付き文字の「j」は、多層膜中を光波が進行する場合など、複数の媒質を区別するためのインデックスである。以下では、最表層側から基板側に向かって、順にj=1,2,3,・・・として多層膜の各層を区別する。なお、cgs単位系を用いれば、単一媒質中の光学アドミタンスYは、該媒質の複素屈折率Nと一致する。したがって、光学アドミタンスYを、媒質の複素屈折率Nに相当する量と考えてよい。
【0036】
複素屈折率Nは、光波が進行する媒質中で吸収がある場合には、複素数として表現することができる。すなわち、複素屈折率Nは、以下の式(3)により表される。
【0037】
【数3】

【0038】
式(3)中、iは、虚数単位(i=(−1)1/2)である。
【0039】
は、いわゆる通常の屈折率であり、kは、吸収を表す消衰係数(extinction coefficient)である。nおよびkは、媒質中を進行する波の波長λに依存する量である。
【0040】
ここで、強度Iの光が、吸収のある媒質中を距離zだけ進行したときの強度I(z)は、以下の式(4)により表される。
【0041】
【数4】

【0042】
式(4)中のαは、吸収係数(absorption coefficient)と呼ばれる量であり、消衰係数kは、真空中の光の波長λおよび吸収係数αを用いて、以下の式(5)により表される。
【0043】
【数5】

【0044】
(特性マトリクス)
薄膜系の光学アドミタンスを計算する方法としては、特性マトリクス(characteristic matrix)を利用した計算手法が知られている。特性マトリクスは、入射光に対する媒質の効果を2行2列の行列により表現した量である。特性マトリクスMは、具体的には、以下の式(6)により表される。
【0045】
【数6】

【0046】
ここで、△は、光学膜厚に対応する量であり、媒質の幾何膜厚dおよび媒質に対する光波の入射角θを用いて、以下の式(7)により表される。なお、幾何膜厚とは、高屈折率層および低屈折率層が形成される基材の主面に対して垂直の方向に測った各層の実際の厚さをいうものとする。
【0047】
【数7】

【0048】
ここで、例えば、複素屈折率Nの基材上に、複素屈折率Nの層を1層だけ積層した場合を考える。このときの薄膜系は、空気と、複素屈折率Nの層との界面(以下、界面aとする。)および複素屈折率Nの層と、基材との界面(以下、界面bとする。)の2つの境界面を有する。
【0049】
詳細な計算は割愛するが、界面aにおける透過率を求めることは、空気と、光学アドミタンスYの層との1つの境界面(以下、界面eとする。)を想定したときの、光学アドミタンスYを求める問題に帰着する。そのため、多層膜と空気との界面における透過率を求めるには、光学アドミタンスYを求めればよいことになる。光学アドミタンスYは、等価アドミタンスと呼ばれる。
【0050】
(等価アドミタンスの計算)
以下、等価アドミタンスYの計算について説明する。界面bにおける磁場成分および電場成分を、それぞれH、Eとすると、以下の式(8)が成り立つ。
【数8】

【0051】
なお、式(8)中、左辺のHおよびEは、界面aにおける磁場成分Hおよび電場成分Eである。
【0052】
式(8)の両辺をEで割り、E/EおよびH/Eを、それぞれB、Cとおくと、以下の式(9)を得る。
【0053】
【数9】

【0054】
複素屈折率Nの基材上に、複素屈折率Nの層を1層だけ積層した場合の等価アドミタンスYは、式(1)のEおよびHを、式(9)により得られる量BおよびCにそれぞれ置き換えることにより求められる。なお、式(9)の左辺のマトリクスは、薄膜系の特性マトリクス(characteristic matrix of the assembly)と呼ばれる。
【0055】
基材上に屈折率の異なる複数の層を積層することにより構成された多層膜においては、各層の光波は、進行波と、複数の界面において反射した光波との合成波となる。そのため、通常、多層膜の各層内における複素屈折率Nと光学アドミタンスYとは一致しなくなるが、以下の議論では、光学アドミタンスYの実部および虚部が、各層における屈折率および消衰係数にそれぞれ相当する量と考えて差し支えない。
【0056】
上述したように、入射光に対する多層膜の各層の効果は、式(6)により表される特性マトリクスにより表現される。基材上に屈折率の異なる複数の層を積層することにより多層膜を構成した場合、入射光に対する多層膜の効果は、以下の式(10)により表現される合成特性マトリクスMを用いて計算に取り込むことができる。
【0057】
【数10】

【0058】
薄膜系の等価アドミタンスは、式(1)のEおよびHを、以下の式(11)により得られる量BおよびCにそれぞれ置き換えることにより求めることができる。
【0059】
【数11】

【0060】
式(10)および式(11)からわかるように、量BおよびCの計算においては、(1,N)に対して、順に、M,Mq‐1,・・・,M,M,Mとの積がとられる。すなわち、高屈折率層Hおよび低屈折率層Lの積層構造の効果は、基材側から最表層に向けて、等価アドミタンスの計算に取り込まれる。
【0061】
[ダイアグラム]
等価アドミタンスが得られれば、多層膜と空気との界面における透過率を直接求めることができるが、得られた等価アドミタンスから、基材上に屈折率の異なる複数の層を積層することにより構成された光学素子の透過率を推定することができる。以下では、等価アドミタンスを単に光学アドミタンスと適宜称する。
【0062】
上述したように、光学アドミタンスは、一般に、複素数である。したがって、光学アドミタンスは、複素平面上の点として表現することができる。さらに光学アドミタンスは、光波が通過する物質の種類に依存するとともに、光波が通過する物質の厚さに依存する量である。例えば、光波が通過する物質の厚さ(多層膜における各層の幾何膜厚d)をパラメータとして、光波が通過する物質の厚さを変化させると、複素平面上に表された光学アドミタンスは、光波が通過する物質の厚さの変化にしたがって、ある軌跡を描く。以下では、複素平面上に表された光学アドミタンスの軌跡を、単にダイアグラムと適宜称することとする。
【0063】
図15A〜図15Fは、ガラス基板上に単一の高屈折率層が形成された光学素子の、高屈折率層の幾何膜厚の変化に対するダイアグラムの変化を示す概略図である。図15Aにおいて、矢印BLは、光学素子201への入射光束を表している。式(11)および式(1)により、光学アドミタンスが計算され、得られた光学アドミタンスから、光学素子201に対して高屈折率層H側から光が入射したときの透過率が計算される。
【0064】
このとき、式(11)において、基材の複素屈折率Nは、基材203と高屈折率層Hとの界面における光学アドミタンスYに相当する。例えば、基材203としてホウケイ酸ガラスを用いた場合には、N=1.5114(N=1.5114+0i)である。したがって、複素平面上においてY=1.5114に対応する点S(1.5114,0)が、光学アドミタンスが描く軌跡の出発点となる。図15Bでは、点Sを「●」印により示した。
【0065】
上述したように、光学アドミタンスは、式(11)および式(1)により求めることができるが、図15A〜図15Fに示す例は、基材203上に形成される高屈折率層が単一層の場合である。したがって、光学アドミタンスYの計算は、式(9)および式(1)を用いればよい。
【0066】
式(9)および式(1)により得られる光学アドミタンスは、高屈折率層Hの幾何膜厚dの増加に伴い、連続的な変化を示す。図15Bでは、高屈折率層Hの幾何膜厚が図15Aに示すdである場合に対応する光学アドミタンスを、「○」印により示した。また、高屈折率層Hの幾何膜厚dの増加に伴って光学アドミタンスが描く軌跡を、曲線CH1により表した。
【0067】
図15Dは、図15Cに対応するダイアグラムを示した図である。図15Dでは、高屈折率層Hの幾何膜厚dを図15Cに示すdまで増加させたときに光学アドミタンスが描く軌跡を、曲線CH2により表した。
【0068】
また、図15Fは、図15Eに対応するダイアグラムを示した図である。図15Fでは、高屈折率層Hの幾何膜厚dを図15Eに示すdまで増加させたときに光学アドミタンスが描く軌跡を、曲線CH3により表した。図15Fに示すように、高屈折率層Hの幾何膜厚dがあるところまで増加すると、光学アドミタンスを表す点は、出発点であるS(1.5114,0)に戻る。すなわち、ダイアグラムは閉じた曲線となり、高屈折率層Hの幾何膜厚dをさらに増加させても、光学アドミタンスを表す点は、同じ曲線の上をたどるだけとなる。
【0069】
図16Aは、高屈折率層にかえて、ガラス基板上に単一の低屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムを示す概略図である。図16Aに示すように、ガラス基板上に単一の低屈折率層Lを形成した場合、低屈折率層Lの幾何膜厚dの増加に伴う光学アドミタンスの軌跡は、点Sを出発点とした右回りの曲線Cを描く。低屈折率層Lの幾何膜厚dが、あるところまで増加すると、ガラス基板上に単一の高屈折率層Hを形成した場合と同様に、光学アドミタンスを表す点は、出発点である点S(1.5114,0)に戻る。すなわち、ガラス基板上に単一の高屈折率層Hを形成した場合と同様に、ダイアグラムは閉じた曲線となる。低屈折率層Lの幾何膜厚dをさらに増加させても、ガラス基板上に単一の高屈折率層Hを形成した場合と同様に、光学アドミタンスを表す点は、同じ曲線の上をたどるだけとなる。なお、図16Aでは、曲線Cを破線により示した。
【0070】
図16Bは、ガラス基板上に単一の高屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムと、ガラス基板上に単一の低屈折率層が形成された光学素子のダイアグラムとを示す概略図である。図16Bにおいて、曲線Cは、高屈折率層Hの幾何膜厚dの増加に伴う光学アドミタンスの軌跡を示し、破線により表された曲線Cは、低屈折率層Lの幾何膜厚dの増加に伴う光学アドミタンスの軌跡を示している。
【0071】
図16Bからわかるように、ガラス基板上に単一の高屈折率層Hが形成された場合も、ガラス基板上に単一の低屈折率層Lが形成された場合も、ともにダイアグラムは閉じた曲線となる。なお、詳細な計算は割愛するが、曲線CおよびCは、点S(1.5114,0)を通る円となる。
【0072】
ここで、点S(1.5114,0)を出発点とする曲線Cまたは曲線Cの終端点と、空気の光学アドミタンスを表す点との間の距離が、光学素子に入射した光の媒質中における損失の大きさに対応する。すなわち、ダイアグラムの終端点と、空気の光学アドミタンスを表す点との間の距離が小さいほど、透過率が高いということができる。空気の屈折率は1に等しいと考えてよいから、空気の光学アドミタンスを表す点は、複素平面上でY=1に対応する点A(1,0)となる。図16Bでは、点A(1,0)を「■」印により示した。
【0073】
したがって、曲線Cの終端点をTEとすると、図16Bに示す複素平面上での距離ρ=|TE−A|が、ガラス基板上に単一の高屈折率層が形成された光学素子に入射した光のエネルギ損失の大きさに対応する。同様に、曲線Cの終端点をTEとしたときの、図16Bに示す複素平面上での距離ρ=|TE−A|が、ガラス基板上に単一の低屈折率層が形成された光学素子に入射した光のエネルギ損失の大きさに対応する。
【0074】
上述したように、ダイアグラムの終端点と、空気の光学アドミタンスを表す点との間の距離が小さいほど、光学素子の透過率が高くなることが推定される。したがって、光透過性が要求される光学フィルタなどにおいては、ダイアグラムの終端点TEが、空気の光学アドミタンスを表す点Aになるべく近づくように光学設計が行われる。以下では、ダイアグラムの終端点TEを空気の光学アドミタンスを表す点Aになるべく近づけるようにすることを、「光学アドミタンスを整合させる」という。
【0075】
図16Bに示したように、基材上に単一の高屈折率層または単一の低屈折率層を形成するだけでは、ダイアグラムが閉じた曲線となるため、光学アドミタンスの整合ができない。そのため、一般的には、基材上に屈折率の異なる複数の層を積層することにより、光学アドミタンスの整合が図られる。具体的には、ダイアグラムの終端点TEが、空気の光学アドミタンスを表す点Aになるべく近づくように、多層膜の各層を構成する材料が適宜選択され、各層の幾何膜厚dが適宜調整される。
【0076】
ここで、基材上に屈折率の異なる複数の層を積層した場合のダイアグラムについて説明する。
【0077】
図17Aは、ガラス基板上に、高屈折率層と、低屈折率層とが順に形成された光学素子の断面模式図である。図17Bは、図17Aに示す光学素子の光学アドミタンスに関するダイアグラムを示す概略図である。図17Bに示すように、ガラス基板303上に、高屈折率層Hと、低屈折率層Lとを順に形成したときのダイアグラムは、曲線Cと、曲線Cとを接続したものとなる。曲線Cは、ガラス基板上に高屈折率層Hを形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線Cは、高屈折率層Hにさらに低屈折率層Lを形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。
【0078】
図17Bに示すダイアグラムでは、ダイアグラムの終端点が空気の光学アドミタンスを表す点Aと一致している。したがって、この場合は、光学素子301に入射した光の反射がない、透過率が100%の理想的な場合に対応し、ガラス基板303上に順に積層されることにより構成された高屈折率層Hおよび低屈折率層Lの積層膜は、反射防止膜として機能する。
【0079】
図17Bからわかるように、光学アドミタンスを整合させるという観点からは、空気との界面に近い層の光学アドミタンスの影響が大きく、特に、最表層の光学アドミタンスの影響が大きい。
【0080】
図17Cは、最表層が高屈折率層とされた多層膜の透過率の計算結果の例を示すグラフである。図17Cは、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。図15A〜図15Cを参照して説明したように、最表層を高屈折率層とすると、高屈折率層の幾何膜厚を大きくしても、ダイアグラムの終端点は、閉じた曲線上から抜け出せない。そのため、光学アドミタンスを整合させることができず、図17Cに示すように、光学素子の透過率Tが低下してしまう。したがって、光学素子の透過率Tの低下を抑制するために、最表層を低屈折率層とする光学設計が行われることになる。
【0081】
図18Aは、多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図18Bは、図18Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い2層分についてのダイアグラムを示す図である。図18Aは、屈折率nを縦軸にとり、各層の幾何膜厚d[nm]を横軸にとったグラフである。図18Aに示す多層膜の構成は、最表層を低屈折率層Lとし、最表層より基材側に近い側の1層を高屈折率層Hとする光学設計の一例である。
【0082】
図18Bに示すように、空気との界面に近い2層分についてのダイアグラムは、曲線Cと、曲線Cとを接続したものとなる。曲線Cは、空気との界面側からみて2層目(高屈折率層H)までの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線Cは、高屈折率層Hにさらに低屈折率層Lを形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。図18Bに示す例では、曲線Cが、曲線Cと、曲線Cの終端点TEにおいて接続される。すなわち、曲線Cの終端点TEが、ダイアグラムの終端点となる。したがって、光学アドミタンスの整合を図るために、終端点TEが空気の光学アドミタンスを表す点Aになるべく近づくように、多層膜の各層を構成する材料が適宜選択され、各層の幾何膜厚dが適宜調整される。
【0083】
図18Aに対応する多層膜に関する透過率の計算結果が、例えば、図14Bに示すものとなる。図14Bと図17Cとを比較すると、最表層が高屈折率層とされた多層膜に比べ、最表層が低屈折率層とされた多層膜の方が、透過率Tの低下が抑制されていることがわかる。このように、低屈折率層を最表層とすることを前提とした光学設計が行われることが一般的である。
【0084】
<0−1.帯電防止機能および導電性の付与>
次に、光学素子の表面へのダストの付着を抑制するための、光学素子への帯電防止機能および導電性の付与について説明する。
【0085】
図19A〜図19Dは、光学素子の表面へダストが付着する原因を模式的に現した図である。光学素子401の表面へダスト86が付着する原因としては、例えば、重力によるダストの落下(図19A)、風の吹きつけWによるダスト86の衝突(図19B)、光学素子401の帯電によるダストの吸着(図19C)、ダスト86自身の帯電による吸着(図19D)などが挙げられる。
【0086】
図19Cおよび図19Dに示すように、光学素子401の帯電によるダスト86の吸着およびダスト86自身の帯電による吸着は、静電気力に起因した、光学素子の表面へのダストの付着である。
【0087】
静電気力に起因した、光学素子の表面へのダストの付着を抑制するために、例えば、光学素子の内部に導電層を設けるなどして、光学素子に帯電防止機能を付与することが行われることが多い。
【0088】
ここで、帯電防止機能を有するとは、光学素子自身の帯電をある程度防止できる程度の導電性を有するが、帯電した光学素子自身の静電気をすみやかに消散させられるほどの導電性がないこというものとする。具体的には、帯電防止機能を有するとは、光学素子の表面抵抗率が、10kΩ/□を超え10kΩ/□以下の範囲内にあることをいう。光学素子が帯電防止機能を有している場合には、静電気力に起因した、光学素子の表面へのダストの付着を抑制することができる。
【0089】
光学素子の表面に付着したダストが、光学素子の表面からすぐに落ちてしまう場合には、ダストが光学素子に与える影響が小さいので、ダストの付着が問題になることは少ない。しかしながら、ダストが光学素子の表面に付着したままであると、付着したダストが、光学素子の性能に悪影響を及ぼすことになる。
【0090】
光学素子の表面にダストが付着したままになる原因としては、ファンデルワールス力による吸着、ダストと光学素子との間に介在する油分による粘着、ダストと光学素子との間に介在する水分の表面張力による吸着、静電気力による吸着などが挙げられる。本発明者らは、これらの中でも特に、静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの付着および吸着に注目し、光学素子の表面へのダストの付着および吸着を抑制すべく検討を行った。
【0091】
図20A〜図20Cは、静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの付着および吸着の機構を模式的に現した図である。図20Dは、導電性を有する光学素子の、ダストの吸着の抑制効果を模式的に現した図である。
【0092】
静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの吸着が発生する原因としては、例えば、ダスト86自体が静電気を帯びている場合(図20A)や、接触帯電現象または衝突帯電現象により、ダスト86と光学素子401の双方に静電気が発生する場合(図20Bおよび図20C)が挙げられる。なお、図20Bは、電気的に中性なダストおよび電気的に中性な光学素子が接触する前の状態を示している。図20Cは、ダストおよび光学素子が接触することにより、ダストおよび光学素子に静電気が発生し、発生した静電気により光学素子401の表面にダスト86が吸着した状態を示している。
【0093】
ダスト自体が静電気を帯びている場合、接触帯電または衝突帯電により静電気が発生する場合のいずれについても、ダスト中の電荷をダストの外部へ逃がしてやることが、光学素子の表面へのダストの吸着を抑制することに対して有効である。例えば、光学素子が導電性を有する場合には、図20Dに示すように、ダスト86中の電荷の一部が、ダストと接触する光学素子401中へ逃げる。ダスト中の電荷の少なくとも一部が光学素子中へ逃げることにより、ダストと光学素子との間のクーロン力が弱まれば、光学素子の表面に対するダストの付着力を弱める事ができる。
【0094】
上述したことから、静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの吸着を抑制するために、ダスト中の電荷の少なくとも一部が、ダストと接触する光学素子中へ逃げるようにされていることが好ましい。すなわち、光学素子が、導電性を有していることが好ましい。本明細書では、導電性を有しているとは、帯電した物体が接触した場合に、帯電した物体の静電気の一部を逃がすことができる程度の導電性を有することをいうものとする。静電気力に起因する光学素子の表面へのダストの吸着を抑制するためには、具体的には、光学素子の表面抵抗率が、30kΩ/□以下であることが好ましく、10kΩ/□以下であることがより好ましい。
【0095】
例えば、基材上に、屈折率の異なる複数の層が積層された多層膜を形成することにより、光学素子を構成する場合に、多層膜の最表層を透明導電層とすれば、光学素子に帯電防止機能を付与することができる。すなわち、光透過性および導電性を有する材料を用いて多層膜の最表層となる透明導電層を形成することにより、光学素子に帯電防止機能を付与することができる。または、光学素子を、導電性を有する光学素子とすることができる。光透過性および導電性を有する材料としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO:酸化インジウム(In)に数%の酸化スズ(SnO)を添加した化合物)を挙げることができる。
【0096】
ところが、ITOの屈折率は、ナトリウムのD線での屈折率が1.7以上であるため、ITOにより構成される透明導電層は、高屈折率層となる。光透過性および導電性を有する薄膜材料には、ITOのほかにもいくつかの材料が知られているが、ITOと同様に、高屈折率を有するものが多い。したがって、光学素子に導電性を付与しようとして、基材上に形成される多層膜の最表層を高屈折率層とすると、上述した光学アドミタンスの整合が困難となり、通常、光学素子の透過率が低下してしまう。上述した理由から、従来技術では、高屈折率層を最表層とする光学設計が実現されていない。
【0097】
光学素子の光学特性を維持しながら防塵効果の向上を両立させるために、例えば、最表層となるITO層を、20nm程度のごく薄い透明導電層とすることが考えられる。しかしながら、最表層のITO層の膜厚をただ小さくするのみでは、光学素子の表面抵抗率が大きくなってしまう。そのため、最表層のITO層の膜厚を20nm程度とするのみでは、光学素子の表面抵抗率を、例えば、30kΩ/□以下の充分に低いものとすることが困難となる。また、最表層が高屈折率層であるため、透明導電層をごく薄いものとしても、光学素子の透過率は劣化してしまう。
【0098】
また、例えば、ITOからなる透明導電層上に密度の低い低屈折率層を形成し、ITO層の導電効果が光学素子の表面に及ぶようにすることが考えられる。しかしながら、低屈折率層が導電性を有しなければ、ITO層の導電効果を充分に引き出すことができず、ITOを最表層とした場合と比較して、充分な防塵機能が得られない。
【0099】
そのほかにも、有機材料への導電性粒子のドーピングや、低屈折率性の機能材料開発も試みられているが、現状では、光学フィルタの大量生産プロセスの代表である蒸着法に適用できる材料は提唱されていない。
【0100】
以上説明したように、これまでの技術では、光学素子の光学特性を維持しながら、光学素子の防塵効果を向上させることは困難であった。
【0101】
<1.第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態にかかる光学素子の断面模式図である。図1に示すように、第1の実施形態では、光学素子1が、光透過性基材3と、光透過性基材3上に形成された多層膜MLとを含む。光透過性基材3上に形成された多層膜MLは、空気への露出面Eを有する透明導電層11を含み、空気への露出面E側から光透過性基材3側に向かって、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13を含んでいる。後述するように、低屈折率層12の幾何膜厚dが、60nm以下である。また、低屈折率層12の幾何膜厚dが、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対して、6%以上50%以内の範囲内である。このようにすることで、光学素子1の表面抵抗率を、150Ω/□以上25kΩ/□以下とすることができる。
【0102】
光学素子1は、例えば、赤外線カットフィルタなどの光学フィルタである。なお、図1に示す光学素子1は、説明の都合上、その断面を模式的に表したものであり、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13を強調して示している。そのため、図1に示す各層の幾何膜厚dは、実際の厚さを示すものではない。以下の説明においても、同様とする。
【0103】
第1の実施形態では、光学素子1が、空気への露出面Eに近い側から、順に、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13の3層を含んでいればよく、該3層以外に、他の層を含んでいてもよい。例えば、光学素子1が赤外線カットフィルタである場合には、光学素子1は、高屈折率層Hおよび低屈折率層Lが積層された調整層CLを含み、光透過性基材3上に形成される多層膜MLは、合計で40〜50層程度の積層膜とされる。光透過性基材3上に形成される多層膜MLは、光学素子1の用途および機能に応じて、多層膜MLの各層を構成する材料が適宜選択され、各層の幾何膜厚dが適宜調整される。
【0104】
以下、光学素子1を構成する透明導電層11、低屈折率層12、透明導電層13および光透過性基材13について、順に説明する。以下、同一または対応する部分には、同一の符号を付すものとする。
【0105】
(空気への露出面を有する透明導電層)
透明導電層11は、後述する光透過性基材3上に形成される多層膜MLの最表層を構成する層である。したがって、透明導電層11は、空気への露出面Eを有している。なお、透明導電層11の空気への露出面Eが、光学素子1に対する光の入射面となる。
【0106】
透明導電層11の幾何膜厚dは、好ましくは、10nm以上であり、より好ましくは、10nm以上40nm以下である。透明導電層11の幾何膜厚dを上記範囲内とすることにより、光学素子1の光学特性の劣化を抑制しながら、光学素子1に対して、充分な帯電防止機能および導電性を付与することができるからである。また、透明導電層11の幾何膜厚dを10nm以上とすることにより、透明導電層11の膜厚制御を安定したものとすることができる。
【0107】
透明導電層11を構成する材料としては、光透過性および導電性を有する材料を用いることができる。光透過性および導電性を有する材料としては、例えば、金属酸化物系の材料を使用することができる。金属酸化物系の材料としては、具体的には、例えば、ITO、InO系、In系、SnO系、ZnO系、TiO系など、またはZnOにAlもしくはGaをドープした透明導電性材料を挙げることができる。例えば、上述した材料のほか、アルミドープ酸化亜鉛(AZO:Al、ZnO)、SZO、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化インジウム亜鉛(IZO:In、ZnO)などを挙げることができる。上述した材料のうち、透明導電層11を構成する材料としては、信頼性の高さおよび抵抗率の低さなどの観点から、ITOが好ましい。
【0108】
なお、透明導電層11を構成する材料として例示した上述した材料は、いずれもナトリウムのD線での屈折率が1.7以上である。すなわち、光学素子1の最表層となる透明導電層11は、高屈折率層である。
【0109】
透明導電層11(高屈折率層H)を構成する材料は、帯電列中において中性に近い位置となる材料から選択されることが好ましい。具体的には、透明導電層11を構成する材料が、ポリスチレンよりも正に帯電しやすく、かつアクリルよりも負に帯電しやすい材料から選択されることが好ましい。
【0110】
帯電列中において、離れた位置にある材料どうしが接触した場合には、発生する静電気が強いものとなる。例えば、電気的に正に偏りやすいアクリルと、電気的に負に偏りやすい塩化ビニルとが接触した場合、帯電列中における位置が大きく離れているため、大きな接触帯電が発生する。そのため、透明導電層11を構成する材料の帯電列中における位置を中性に近づけることで、特定の物質に対する接触帯電が大きくなることを防ぐことができる。
【0111】
透明導電層11を構成する材料を、帯電列中において中性に近い位置となる材料から選択することにより、ダストを構成する様々な物質に対する接触帯電を小さくすることができ、光学素子1の防塵効果を向上させることができる。ITOは、帯電列中において中性に近い位置となる。そのため、ダストを構成する様々な物質に対する接触帯電を小さくする観点からも、透明導電層を構成する材料として、ITOが選択されることが好ましい。
【0112】
(低屈折率層)
低屈折率層12(低屈折率層L)は、透明導電層11と、後述する透明導電層13との間に介在される層である。
【0113】
第1の実施形態では、低屈折率層12の幾何膜厚dが、60nm以下とされる。また、低屈折率層12の幾何膜厚dが、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対して、好ましくは6%以上50%以内の範囲内、より好ましくは6%以上20%以下の範囲内とされる。低屈折率層12の幾何膜厚dを上記範囲内とすることにより、光学素子1の光学特性の劣化を抑制しながら、光学素子1に対して、充分な帯電防止機能および導電性を付与することができるからである。また、低屈折率層12が導電性を有さない材料から構成された場合であっても、低屈折率層12の幾何膜厚dが上記範囲内である場合には、低屈折率層12の両主面を界面としてそれぞれ隣接する透明導電層11および透明導電層13の導電効果を発現させることができるからである。すなわち、低屈折率層12の幾何膜厚dが上記範囲内である場合には、低屈折率層12の絶縁耐力よりも、透明導電層11および透明導電層13の導電効果の方が強く現れる。
【0114】
具体的には、低屈折率層12の幾何膜厚dが、60nm以下であることが好ましく、10nm以上60nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることが特に好ましい。低屈折率層12を薄く構成することで、最表層の透明導電層11の幾何膜厚dを、例えば10nm以上とすることができ、透明導電層11を構成する材料の機能を充分に引き出すことができるからである。すなわち、例えば、透明導電層11がITOから構成される場合であれば、ITOの導電性を充分に引き出すことができる。また、低屈折率層12の幾何膜厚dを10nm以上とすることにより、低屈折率層12の膜厚制御を安定したものとすることができるからである。
【0115】
低屈折率層12を構成する材料としては、例えば、SiO、MgF、AlFを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。光学フィルタの大量生産プロセスの代表である蒸着法に適するという観点から、低屈折率層12を構成する材料として、SiOが好ましい。
【0116】
(透明導電層)
透明導電層13は、低屈折率層12からみて光透過性基材3側に隣接し、低屈折率層12との界面を有する層である。透明導電層13は、光学素子1に対して、導電性を付与するために設けられる層である。
【0117】
透明導電層13の幾何膜厚dは、好ましくは、200nm以上であり、より好ましくは、200nm以上300nm以下である。幾何膜厚dを調整することにより、光学素子1の表面抵抗率を、例えば、9kΩ/□以下に調整することができる。具体的には、光学素子1の表面抵抗率を、150Ω/□以上3kΩ/□以下とすることができる。透明導電層13の幾何膜厚dを上記範囲内とすることにより、光学素子1の光学特性の劣化を抑制しながら、光学素子1に対して、充分な帯電防止機能および導電性を付与することができる。
【0118】
ここで、光学素子1の表面抵抗率は、4探針法により測定された抵抗に抵抗率補正係数を乗じて得られた値である。このとき、電位差を測定する2つの探針の間の距離は、20mmとした。
【0119】
透明導電層13を構成する材料としては、空気への露出面を有する透明導電層11と同様の材料を選択することができる。すなわち、透明導電層13は、高屈折率層である。なお、光学素子1の製造を容易にするという観点からは、空気への露出面を有する透明導電層11を構成する材料としてITOが選択された場合には、透明導電層13(高屈折率層H)を構成する材料としてITOを選択されることが好ましい。
【0120】
(光透過性基材)
光透過性基材3は、多層膜MLを形成するための基材である。例えば、光透過性基材3の一主面上に、高屈折率層Hおよび低屈折率層Lが積層された調整層CLならびに上述した透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13が順に形成される。なお、光学設計によっては、光透過性基材3の両主面上に、所望の光学特性を備える多層膜をそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0121】
光透過性基材3の形状や厚さは、光学素子1の用途および機能に応じて適宜選択され、特に、特定の形状や厚さに限定されることはない。
【0122】
光透過性基材3を構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート(Polycarbonate(PC))、シクロオレフィンポリマー(Cycloolefin Polymer(COP))、ポリエチレンテレフタレート(Polyethyleneterephtalate(PET))、ポリエーテルスルフォン(Polyethersulphone(PES))、ポリエチレンナフタレート(Polyethylenenaphthalate(PEN))、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose(TAC))、ポリイミド(Polyimide)、アラミド(Aramid(芳香族ポリアミド))などを使用することができる。光透過性基材3を構成する材料としては、樹脂に限られず、ガラスや石英などを使用してもよい。例えば、赤外線カットフィルタとして光学素子1を構成する場合には、光透過性基材3として、例えば、赤外線吸収ガラスが選択される。
【0123】
なお、光透過性基材3の一主面上への多層膜MLを構成する各層の形成方法としては、例えば、真空蒸着、プラズマ援用蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理蒸着法(Physical Vapor Deposition(PVD法))のほか、熱CVD、プラズマCVD、光CVDなどの化学蒸着法(Chemical Vapor Deposition(CVD法))を用いることができる。成膜の容易さや成膜スピードの高さの観点から、多層膜MLを構成する各層の形成方法としては、物理蒸着法が選択されることが好ましい。
【0124】
図2Aは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図2Bは、図2Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムを示す図である。図2Cは、図2Aに対応する多層膜に関する透過率の計算結果の例を示すグラフである。図2Aは、屈折率nを縦軸にとり、各層の幾何膜厚d[nm]を横軸にとったグラフである。図2Cは、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。
【0125】
図2Aに示す多層膜の構成は、最表層を高屈折率層とする光学設計の一例である。図2Aに示すように、第1の実施形態では、低屈折率層12の幾何膜厚dが、一般的に基本とされている幾何膜厚であるλ/4よりも薄く設定される。例えば、図2では、d=180nmに対し、d=30nmである。なお、λは、設計波長(design wavelength、中心波長(center wavelength)ともいう。)である。
【0126】
図2Bに示すように、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムは、光透過性基材3から近い側から順に、曲線CH3、曲線CL2および曲線CH1を接続したものとなる。曲線CH3は、光透過性基材3から透明導電層13(高屈折率層H)までの薄膜系の光学アドミタンスの軌跡を示す曲線である。曲線CL2は、透明導電層13(高屈折率層H)にさらに低屈折率層12(低屈折率層L)を形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線CH3の終端点TEH3に、曲線CL2が接続される。曲線CH1は、低屈折率層12(低屈折率層L)にさらに透明導電層11(高屈折率層H)を形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線CL2の終端点TEL2に、曲線CH1が接続される。したがって、曲線CH1の終端点TEH1が、ダイアグラムの終端点となる。
【0127】
最表層を、幾何膜厚の比較的大きな高屈折率層とした場合には、光学アドミタンスの軌跡が閉じた曲線となり、光学アドミタンスの整合が困難である。図2Bおよび図16Bからわかるように、第1の実施形態にかかる構成では、複素平面上における距離|TEH1−A|が、ρと比較して小さくなっている。すなわち、第1の実施形態にかかる構成では、光学アドミタンスが整合されている。このとき、図2Cからわかるように、多層膜の光学特性の劣化が抑制されている。
【0128】
図3Aは、第1の実施形態にかかる光学素子を赤外線カットフィルタとして構成したときの光学特性を示したグラフである。図3Aは、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。図14Aと図3Aとの比較から、第1の実施形態にかかる光学素子1では、低屈折率層を最表層とする光学設計の場合と同等の光学特性が得られていることがわかる。
【0129】
図3Bは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の他例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図3Bは、屈折率nを縦軸にとり、各層の幾何膜厚d[nm]を横軸にとったグラフである。図3Bに示すように、透明導電層13の幾何膜厚dを、250nm程度の大きさとしてもよい。光学素子1の帯電防止機能を向上させることができるからである。
【0130】
図4Aは、多層膜の最表層が低屈折率層として構成された光学素子の断面模式図である。図4Bは、第1の実施形態にかかる光学素子の多層膜における空気への露出面に近い側の3層の効果と、図4Aに示す光学素子の多層膜における最表層の効果との比較の説明に用いるための、多層膜の積層構造の断面模式図である。図4Aに示す光学素子101の多層膜の構成例では、最表層が、例えば、MgFからなる低屈折率層Lとされ、最表層に隣接する層が、例えば、SiOからなる低屈折率層Lとされている。さらに、SiOからなる低屈折率層Lに隣接する、基材103側の層が、ITOからなる高屈折率層Hとされている。
【0131】
図4Aに示すように、赤外線カットフィルタなどの光学フィルタの光学設計においては、通常、最表層が低屈折率層とされる。これは、上述したように、最表層を高屈折率層として光学素子を構成しても、光学素子の透過率が低下してしまうからである。すなわち、最表層を高屈折率層とすると、光学アドミタンスの整合が困難となるからである。
【0132】
第1の実施形態にかかる光学素子1では、最表層が高屈折率層でありながら、最表層を低屈折率層とする光学設計と同等の効果が得られている。図4Aに示す光学素子101の多層膜の構成例と、図1に示す光学素子1の多層膜MLの構成例とを比較すると、図4Aに示すEL部を、図4Bに示す3層と置き換えたとすると、図1に示す光学素子1の多層膜MLと同様の構成となることがわかる。したがって、図4Bに示す3層は、図1Aに示すFL部と、光学アドミタンスに関して等価な効果を得ることができる積層体であるといえる。図4Bに示す3層は、例えば、ITOからなる2つの透明導電層5および透明導電層9の間に、例えば、SiOからなる低屈折率層7が介在された積層体である。
【0133】
図5Aは、空気への露出面側の2つの高屈折率層をITOとしたときの光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図5Bは、図5Aに対応する多層膜において、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムを示す図である。図5Aは、屈折率nを縦軸にとり、各層の幾何膜厚d[nm]を横軸にとったグラフである。図5Aに示す光学設計は、光学素子1の帯電防止効果を高めるため、透明導電層13の膜厚を250nm程度とした場合の設計例である。
【0134】
図5Bに示すように、空気との界面に近い3層分についてのダイアグラムは、光透過性基材3から近い側から順に、曲線CH3、曲線CL2および曲線CH1を接続したものとなる。曲線CH3は、光透過性基材3から透明導電層13(高屈折率層H)までの薄膜系の光学アドミタンスの軌跡を示す曲線である。曲線CL2は、透明導電層13(高屈折率層H)にさらに低屈折率層12(低屈折率層L)を形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線CH3の終端点TEH3に、曲線CL2が接続される。曲線CH1は、低屈折率層12(低屈折率層L)にさらに透明導電層11(高屈折率層H)を形成したときの光学アドミタンスの軌跡を表している。曲線CL2の終端点TEL2に、曲線CH1が接続される。したがって、曲線CH1の終端点TEH1が、ダイアグラムの終端点となる。
【0135】
図5Bに示すように、空気への露出面Eを有する透明導電層11および透明導電層13をITOからなる層として構成した場合においても、光学アドミタンスが整合されていることがわかる。
【0136】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、最表層を高屈折率層としながら、光学特性の劣化が抑制された光学素子を実現することができる。また、最表層として高屈折率を有する導電性材料を選択することができるので、接触帯電を低減させ、防塵効果に優れた光学素子を実現することができる。
【0137】
<2.第2の実施形態>
図6Aは、第2の実施形態にかかる光学素子の断面模式図である。図6Aに示すように、第2の実施形態では、光学素子20が、空気への露出面Eを有する透明導電層21と、透明導電層21の空気への露出面Eとは反対側に隣接し、透明導電層21との界面を有する低屈折率層22と、光透過性基材23とを含む。第2の実施形態では、最表層に関するダイアグラムが閉じた曲線とならないようにして、最表層を構成する。具体的には、後述するように、透明導電層21の屈折率が、透明導電層21と低屈折率層22との界面側から、空気への露出面E側に向かって徐々に小さくなるようにして、最表層となる透明導電層21が形成される。
【0138】
以下、光学素子20を構成する透明導電層21、低屈折率層22および光透過性基材23について、順に説明する。
【0139】
(空気への露出面を有する透明導電層)
透明導電層21は、後述する光透過性基材23上に形成される多層膜MLの最表層を構成する層である。したがって、透明導電層21は、空気への露出面Eを有している。なお、透明導電層21の空気への露出面Eが、光学素子20に対する光の入射面となる点は、第1の実施形態と同様である。
【0140】
第2の実施形態では、透明導電層21の幾何膜厚dに特に制限はなく、透明導電層21の幾何膜厚dは、所望の光学特性に応じて適宜選択されうる。例えば、一般的に基本とされている幾何膜厚であるλ/4程度とすることができる。なお、光学素子20に帯電防止機能および導電性を付与する観点からは、透明導電層21の幾何膜厚dが、200nm以上300nm以下とされることが好ましい。透明導電層21の幾何膜厚dを上記範囲内とすることにより、光学素子20に対して、充分な帯電防止機能および導電性を付与することができるからである。具体的には、光学素子20の表面抵抗率を、25kΩ/□以下とすることができる。
【0141】
透明導電層21を構成する材料としては、第1の実施形態にかかる透明導電層11と同様の材料を選択することができる。すなわち、透明導電層21は、高屈折率層である。例えば、信頼性の高さおよび抵抗率の低さなどの観点から、透明導電層21(高屈折率層H)を構成する材料として、ITOを選択することができる。透明導電層21を構成する材料としてITOを選択した場合には、ITOが、帯電列中において中性に近い位置であるため、ダストを構成する様々な物質に対する接触帯電を小さくすることができ、好ましい。
【0142】
透明導電層21の形成方法としては、物理蒸着法が適用でき、例えば、蒸着法が好適である。このとき、蒸着時の成膜温度と、導入する雰囲気ガスの圧力により、形成される透明導電層21の屈折率をコントロールすることが可能である。
【0143】
図6Bは、蒸着法による高屈折率層の形成において、成膜時の温度および雰囲気ガスの圧力と、高屈折率層の屈折率との間の関係を示す概略図である。図6Bに示すように、成膜時の温度Tf[℃]および導入する雰囲気ガスの圧力P[Pa]の一方、または両方を調整することにより、形成される高屈折率層Hの屈折率nをコントロールすることができる。
【0144】
例えば、高屈折率層Hを構成する材料としてTiOを使用する場合、成膜時の温度を250[℃]、導入ガスを酸素とし、酸素圧力を1×10‐2[Pa]とした条件下で蒸着を行うと、得られる高屈折率層HのD線での屈折率nは、約2.4となる。また、例えば、成膜時の温度を50[℃]、導入ガスを酸素とし、酸素圧力を2×10−2[Pa]とした条件下で蒸着を行うと、得られる高屈折率層HのD線での屈折率nは、約1.9となる。
【0145】
ここで、高屈折率材料の蒸着中に、温度Tfおよび圧力Pの一方、または両方を変化させれば、単一の高屈折率層内において屈折率が連続的に変化する傾斜屈折率層として高屈折率層Hを形成することができる。図6Bでは、矢印ALにより、温度Tfおよび圧力Pの変化に対する、高屈折率層内における屈折率の変化を模式的に示した。TiOにかえてITOなどの機能材料を使用した場合でも、同様の考え方で傾斜屈折率層を形成することが可能である。
【0146】
(低屈折率層)
低屈折率層22(低屈折率層L)は、上述した透明導電層21の空気への露出面Eとは反対側に隣接し、透明導電層21との界面を有する層である。第2の実施形態では、低屈折率層22の幾何膜厚dに特に制限はなく、低屈折率層22の幾何膜厚dは、所望の光学特性に応じて適宜選択されうる。例えば、一般的に基本とされている幾何膜厚であるλ/4程度とすることができる。
【0147】
低屈折率層22を構成する材料としては、第1の実施形態にかかる低屈折率層12と同様の材料を選択することができる。
【0148】
(光透過性基材)
光透過性基材23は、上述した透明導電層21および低屈折率層22を含む多層膜MLを形成するための基材である。例えば、光透過性基材23の一主面上に、高屈折率層Hおよび低屈折率層Lが積層された調整層CLならびに上述した透明導電層21および低屈折率層22が順に形成される。なお、光学設計によっては、光透過性基材23の両主面上に、所望の光学特性を備える多層膜をそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0149】
光透過性基材23の形状や厚さは、光学素子20の用途および機能に応じて適宜選択され、特に、特定の形状や厚さに限定されることはない。
【0150】
光透過性基材23を構成する材料としては、第1の実施形態にかかる光透過性基材23と同様の材料を選択することができる。
【0151】
図7Aは、第2の実施形態にかかる光学素子の多層膜の光学設計の一例について、多層膜を構成する各層の厚さと、多層膜の各層の材料の屈折率との関係を示す図である。図7Bは、図7Aに対応する多層膜において、空気への露出面を有する透明導電層についてのダイアグラムを示す図である。図7Cは、図7Aに対応する多層膜に関する透過率の計算結果の例を示すグラフである。図7Aは、屈折率nを縦軸にとり、各層の幾何膜厚d[nm]を横軸にとったグラフである。図7Cは、透過率T[%]を縦軸にとり、入射光の波長λ[nm]を横軸にとったグラフである。
【0152】
図7Aに示すように、第2の実施形態では、最表層の透明導電層21が、屈折率nが連続的に変化する傾斜屈折率層とされる。すなわち、空気への露出面Eを有する透明導電層21は、透明導電層21の屈折率nが、透明導電層21と低屈折率層22との界面側から、空気への露出面E側に向かって徐々に小さくなるようにして形成された層である。図7Aに示す構成例では、最表層の屈折率nをn=2.2からn=1.9まで連続的に変化させるようにしている。
【0153】
最表層の屈折率nを空気への露出面E側に向かって徐々に小さくなるように変化させると、図7Bに示すように、光学素子20の多層膜MLの光学アドミタンスの軌跡が閉じた曲線とはならず、光学アドミタンスを整合させることが可能となる。その結果、図7Cに示すように、光学素子20の透過率の劣化を抑制することができる。
【0154】
なお、図7に示す光学素子の多層膜の構成例と、図2Aに示す光学素子の多層膜の構成例とでは、光学アドミタンスの軌跡に与える効果に関して、類似しているということができる。したがって、傾斜屈折率層は、第1の実施形態における光学素子1の、空気との界面に近い3層分と等価な効果を得ることができる層であるといえる。
【0155】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、光学特性の劣化が抑制されるとともに、接触帯電を低減させ、防塵効果に優れた光学素子を実現することができる。
【0156】
<3.第3の実施形態>
図8Aは、第3の実施形態にかかる光学モジュールの構成を示す分解斜視図である。図8Bは、図8Aに示す光学モジュールに備えられる光学素子の断面を拡大して示す断面模式図である。
【0157】
図8Aに示すように、第3の実施形態では、光学モジュール31が、光学素子1と、光学素子1を保持する保持部材32と、保持部材32を介して光学素子1に対して振動を与える加振用部材33とを備えている。また、図8Bに示すように、光学モジュール31に備えられる光学素子1は、空気への露出面Eを有する透明導電層11,透明導電層13,透明導電層11と透明導電層13との間に介在される低屈折率層12,および光透過性基材3を含む。光学素子1の低屈折率層12の幾何膜厚dが、60nm以下とされる。また、低屈折率層12の幾何膜厚d2が、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対して、6%以上50%以内の範囲内とされる。すなわち、光学モジュール31に備えられる光学素子1としては、第1の実施形態と同様の構成を適用することができる。もちろん、光学モジュール31に備えられる光学素子として、第2の実施形態と同様の構成を適用することもできる。
【0158】
第3の実施形態にかかる光学モジュール31は、例えば、被照射体となる撮像素子の撮像面やフィルムの露光面などと対向する側に配置し、撮像モジュールとして構成して好適な光学モジュールである。図8Aは、イメージセンサ39と対向する側に光学モジュール31を配置し、撮像モジュールとした構成例を示している。もちろん、光学モジュール31の適用できる範囲は、撮像モジュールに限定されるものではない。
【0159】
以下、第3の実施形態にかかる光学モジュール31について具体的に説明するが、光学素子に関しては、第1の実施形態にかかる光学素子1または第2の実施形態にかかる光学素子20と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0160】
(保持部材)
保持部材32は、光学素子1を保持するために設けられる。光学素子1は、例えば、図8Aに示すように、粘着層37を介してスペーサ35に固定され、光学素子1およびスペーサ35が、粘着層38を介して基体36にさらに固定される。光学素子1、スペーサ35および基体36に対して、例えば、押さえ板34が、光学素子1の光の入射面側(空気への露出面E側)に配置され、押さえ板34および基体36に挟まれるようにして、光学素子1が保持される。すなわち、図8Aに示す構成例では、押さえ板34、スペーサ35および基体36が一体として組み合わされることにより、保持部材32が構成される。図8Aに示す、保持部材32の構成は、あくまで例示にすぎず、ゆるみなく光学素子1を保持できれば、保持部材32の構成として、その他の構成を採用してもかまわない。
【0161】
(加振用部材)
加振用部材33は、保持部材32を介して光学素子1に対して振動を与えるために設けられる。加振用部材33は、その一部が保持部材32に固定され、該保持部材32に固定された部分とは異なる一部が、他の部材に固定される。他の部材とは、光学モジュール31が撮像装置に適用される場合であれば、例えば、撮像装置の筺体である。したがって、加振用部材33により発生させられた振動が、保持部材32を介して光学素子1に確実に伝えられる。
【0162】
加振用部材33としては、例えば、小型のモータや圧電素子などを使用することができ、必要とされる大きさの振動が得られれば、他の部材を適用してもよい。
【0163】
上述したように、第3の実施形態にかかる光学モジュール31の光学素子としては、第1の実施形態にかかる光学素子1または第2の実施形態にかかる光学素子20と同様の構成を適用することができる。すなわち、第3の実施形態にかかる光学モジュール31に備えられる光学素子1は、最表層として透明導電層を備えている。したがって、第3の実施形態にかかる光学モジュール31に備えられる光学素子1は、接触帯電が低減された光学素子である。
【0164】
光学素子1が、高い帯電防止機能を備えているため、第3の実施形態にかかる光学モジュール31の光学素子1の表面には、ダストの吸着が起こりにくい。また、光学素子1の表面にダストが付着した場合であっても、帯電したダストの静電気の一部を逃がすことができるため、光学素子1の表面からダストが落ちやすい。第3の実施形態では、加振用部材33により、保持部材32を介して光学素子1に対して振動を与えるため、光学素子1の表面から、付着したダストをより容易に落とすことができる。さらに、光学素子1の表面からのダストの除去機構を、小型かつ簡単な構成により実現することができる。
【0165】
第3の実施形態によれば、光学特性を維持しながら防塵効果が向上された光学モジュールを実現することができる。
【0166】
<4.第4の実施形態>
図9Aは、第4の実施形態にかかる撮像装置の構成例を示す略線図である。図9Bは、図9Aに示す撮像装置に備えられる光学素子の断面を拡大して示す断面模式図である。
【0167】
図9Aに示すように、第4の実施形態では、撮像装置41が、光学素子1と、被写体からの光束Fが、光学素子1を介して入射するように配置される被照射体43とを備えている。また、図9Bに示すように、撮像装置41に備えられる光学素子1は、空気への露出面Eを有する透明導電層11,透明導電層13,透明導電層11と透明導電層13との間に介在される低屈折率層12,および光透過性基材3を含む。光学素子1の低屈折率層12の幾何膜厚dが、60nm以下とされる。また、低屈折率層12の幾何膜厚dが、透明導電層11、低屈折率層12および透明導電層13の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対して、6%以上50%以内の範囲内とされる。
【0168】
すなわち、撮像装置41に備えられる光学素子としては、第1の実施形態と同様の構成を適用することができる。もちろん、撮像装置41に備えられる光学素子として、第2の実施形態と同様の構成を適用することもできる。また、撮像装置41が、光学素子と、光学素子を保持する保持部材と、保持部材を介して光学素子に対して振動を与える加振用部材とからなる光学モジュールを備えるようにしてもよい。光学モジュールとしては、第3の実施形態と同様の構成を適用することができる。
【0169】
第4の実施形態は、例えば、固定式の半透過ミラーを備えるカメラや一眼レフカメラ、ビデオカメラなどに適用できる撮像装置である。
【0170】
以下、第4の実施形態にかかる撮像装置41について具体的に説明するが、光学素子に関しては、第1の実施形態にかかる光学素子1または第2の実施形態にかかる光学素子20と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0171】
[固定式の半透過ミラーを備えるカメラ]
図9Aに示す撮像装置41は、固定式の半透過ミラー45を備えるカメラとして撮像装置を構成した例である。図9Aに示すように、撮像装置41は、光学素子1と、被照射体43とを備え、被照射体43に対して被写体からの光束Fが入射する側に、光学素子1が配置される。したがって、被写体からの光束Fが、光学素子1を介して、被照射体43に入射する。
【0172】
撮像装置41に備えられる被照射体43としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子やフィルムなどを挙げることができる。図9Aに示す撮像装置41は、デジタル方式のカメラとして構成されてもよいし、アナログ方式のカメラとして構成されても、もちろんかまわない。以下では、被照射体43が撮像素子であるとして説明を行うが、第4の実施形態にかかる撮像装置41をデジタル方式とするか、アナログ方式とするかについては、本開示の本質的部分ではない。
【0173】
ここで、固定式の半透過ミラーを備えるカメラの概要について、簡単に説明する。
【0174】
(概略的構成)
図9Aに示すように、撮像装置41の本体を構成する筐体42に対して、例えば、交換可能な撮影光学系44が取り付けられている。撮影レンズ46、絞り等が鏡筒48に配置され、撮影光学系44が構成される。撮影光学系44の撮影レンズ46は、フォーカス駆動系(図示しない)によって駆動され、オートフォーカス動作が可能とされている。もちろん、撮影光学系44が筺体42と一体として構成されていてもかまわない。
【0175】
筺体42の内部には、被写体光の光軸に対して傾けられるようにして、半透過ミラー45が固定されている。半透過ミラー45の上方には、オートフォーカスモジュール49が配置されている。オートフォーカスの方式は、通常、位相差検出方式が選択される。半透過ミラー45に対して撮影レンズ46の反対側に、被照射体43である撮像素子が配置されている。なお、図9Aにおいては、シャッタ機構の図示を省略している。
【0176】
半透過ミラー45は、撮影レンズ46を介して筺体42の内部に入射する被写体からの光束Fを、反射および透過させるものである。半透過ミラー45は、例えば、光透明性を有する樹脂フィルムを基材として用い、その一主面上に高屈折率層および低屈折率層が交互に積層される多層膜が形成されたものである。多層膜は、撮影レンズ46に近い側の一主面上に形成され、半透過ミラー45に入射する光が所定の反射率で反射されるようにするために設けられる。半透過ミラー45によって反射された光がオートフォーカスモジュール49に導かれ、その残余の光(透過光)が撮像素子に届くようにされる。すなわち、図9Aに例示する撮像装置41は、被写体光の一部をオートフォーカスに使用し、残りの光を撮像素子における光電変換に使用する。
【0177】
図9Aに例示する構成では、撮像素子の前面に光学素子1が配置される。撮像素子の前面に配置される光学素子1は、例えば、赤外線カットフィルタなどの光学フィルタである。光学フィルタとしては、赤外線カットフィルタのほか、減光フィルタや偏光フィルタ、色補正フィルタなどの種々のフィルタを挙げることができるが、第1または第2の実施形態にかかる光学素子として構成できるものであれば、特に限定されるものではない。半透過ミラー45を、第1の実施形態または第2の実施形態にかかる光学素子として構成してもよい。
【0178】
上述したように、第4の実施形態にかかる撮像装置41の光学素子としては、第1の実施形態にかかる光学素子1または第2の実施形態にかかる光学素子20と同様の構成を適用することができる。光学素子1が、高い帯電防止機能を備えているため、第4の実施形態にかかる撮像装置41の光学素子の表面には、ダストの吸着が起こりにくい。また、光学素子の表面にダストが付着した場合であっても、帯電したダストの静電気の一部を逃がすことができるため、光学素子の表面からダストが落ちやすい。さらに、撮像装置41が、光学素子と、光学素子を保持する保持部材と、保持部材を介して光学素子に対して振動を与える加振用部材とからなる光学モジュールを備えるようにしてもよい。この場合には、加振用部材により、保持部材を介して光学素子に対して振動を与えるため、光学素子の表面から、付着したダストをより容易に落とすことができる。
【0179】
[一眼レフレックスカメラ]
図10Aおよび図10Bは、一眼レフレックスカメラとして第4の実施形態にかかる撮像装置を構成した例を示す略線図である。
【0180】
(概略的構成)
図10Aおよび図10Bに示す撮像装置51は、被照射体43である撮像素子から被写体の側に向かって、光学素子1、シャッタ52、可動式ミラー55および撮影レンズ46が、筺体42の内部に順に配置されている。したがって、固定式の半透過ミラーを備えるカメラの場合と同様に、光学素子1を介して、被写体からの光束Fが撮像素子に入射する。
【0181】
図10Aは、撮像装置51のシャッタボタンを押下する前の状態を示す図である。シャッタボタンを押下する前の状態においては、被写体からの光束Fが、可動式ミラー55に入射し、可動式ミラー55に入射した光は、撮像装置51の上方に向けて反射される。撮像装置51の上方に向けて反射された光は、可動式ミラー55の上部に配置されたペンタプリズム56に入射し、ペンタプリズム56に入射した光は、ペンタプリズム56の内部で全反射を繰り返し、接眼レンズ57が備えられたファインダに到達する。
【0182】
なお、図10Aに例示するように、可動式ミラー55を半透過ミラーとしてもよい。可動式ミラー55を透過した光の一部をサブミラー58で撮像装置51の下方に反射させ、撮像装置51の下方に反射された光を、撮像装置51の下方に配置されたオートフォーカスモジュール49に入射させるようにしてもよい。
【0183】
図10Bは、撮像装置51のシャッタボタンを押下した状態を示す図である。シャッタボタンを押下すると、可動式ミラー55が上部に跳ね上がるとともに、シャッタ52が開かれ、被写体からの光束Fが、光学素子1を介して撮像素子に到達する。
【0184】
上述したように、一眼レフレックスカメラでは、ミラーを可動させるための機構を有するため、ミラーを可動させるための機構が動作することにより、撮像装置の内部でもダストが発生する。そのため、撮像素子の前面に配置される光学フィルタの表面が、防塵性を有することが望まれる。特に、レンズ交換式のカメラでは、撮像装置の外部に浮遊するダストが、撮像装置の内部に侵入し、光学フィルタに影響を与えやすい。
【0185】
第4の実施形態では、光学素子が、高い帯電防止機能を備えているため、光学素子の表面にダストの吸着が起こりにくく、光学フィルタへの悪影響を低減することができる。
【0186】
[ビデオカメラ]
図11Aは、ビデオカメラとして第4の実施形態にかかる撮像装置を構成した例を示す略線図である。図11Bは、図11Aに示す撮像装置に備えられる光学モジュールの構成を示す分解斜視図である。図11Aおよび図11Bでは、光学素子1と、光学素子1を保持する保持部材32と、保持部材32を介して光学素子1に対して振動を与える加振用部材33とからなる光学モジュール31を備える撮像装置の構成例を示している。
【0187】
(概略的構成)
図11Aに示す撮像装置71は、被写体の側から被照射体43である撮像素子の側に向かって、撮影レンズ46、バリエータレンズ72、絞り73、光学素子1およびフォーカシングレンズ74が、筺体42の内部に順に配置されている。したがって、固定式の半透過ミラーを備えるカメラの場合や一眼レフレックスカメラの場合と同様に、被写体からの光束Fが、光学素子1を介して撮像素子に入射する。図11Aでは、画像信号処理部や記録部などの図示を省略している。なお、図11Aに示すレンズの数や配置はあくまで例に過ぎず、レンズの数や配置は、撮像装置71の用途および機能に応じて、適宜選択される。
【0188】
図11Aに示すように、撮像装置71の本体を構成する筐体42に対して、例えば、交換可能な撮影光学系44が取り付けられている。撮影レンズ46、絞り等が鏡筒48に配置され、撮影光学系44が構成される。撮影光学系44の撮影レンズ46は、フォーカス駆動系(図示しない)によって駆動され、オートフォーカス動作が可能とされている。もちろん、撮影光学系44が筺体42と一体として構成されていてもかまわない。
【0189】
バリエータレンズ72は、筺体42の内部で被写体光の光軸に沿って前後することにより、撮影時の焦点距離を変化させるためのレンズである。絞り73は、例えば、二枚羽根構造や六枚羽根構造などを有し、撮像素子に到達する光量を調整するために配置される。フォーカシングレンズ74は、筺体42の内部で被写体光の光軸に沿って前後することにより、撮影時のピントを調整するためのレンズである。
【0190】
図11Aに例示する構成では、絞り73とフォーカシングレンズ74の間に光学素子1(光学モジュール31)が配置される。絞り73とフォーカシングレンズ74の間に配置される光学素子1は、例えば、赤外線カットフィルタなどの光学フィルタである。光学フィルタとしては、赤外線カットフィルタのほか、減光フィルタや偏光フィルタ、色補正フィルタなどの種々のフィルタを挙げることができるが、第1または第2の実施形態にかかる光学素子として構成できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0191】
第4の実施形態によれば、上述の固定式の半透過ミラーを備えるカメラの例や一眼レフレックスカメラの例と同様に、ビデオカメラに備えられる光学フィルタへのダストによる悪影響を低減することができる。さらに、加振用部材33により、保持部材32を介して光学素子1に対して振動を与えるようにすることで、付着したダストをより容易に光学素子1の表面から落とすことができる。
【0192】
したがって、第4の実施形態によれば、光学特性を維持しながら防塵効果が向上された撮像装置を実現することができる。
【0193】
なお、本技術は、以下のような構成もとることができる。
(1)空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と、
光透過性基材と
を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子。
(2)前記低屈折率層の幾何膜厚が、前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上20%以下の範囲内である前記(1)に記載の光学素子。
(3)前記第1の透明導電層の幾何膜厚が、10nm以上である前記(1)または(2)に記載の光学素子。
(4)空気への露出面を有する透明導電層と、
前記透明導電層の空気への露出面とは反対側に隣接し、前記透明導電層との界面を有する低屈折率層と、
光透過性基材と
を含み、
前記透明導電層の屈折率が、前記透明導電層と前記低屈折率層との界面側から、前記空気への露出面側に向かって徐々に小さくなる光学素子。
(5)表面抵抗率が、150Ω/□以上25kΩ/□以下である前記(1)から(4)のいずれかに記載の光学素子。
(6)前記第1の透明導電層を構成する材料が、ポリスチレンよりも正に帯電しやすく、かつアクリルよりも負に帯電しやすい材料から選択される前記(1)から(5)のいずれかに記載の光学素子。
(7)空気への露出面側に、フッ素を含有する機能膜をさらに備える前記(1)から(6)のいずれかに記載の光学素子。
(8)前記(1)から(7)のいずれかに記載の光学素子と、
前記光学素子を保持する保持部材と、
前記保持部材を介して前記光学素子に対して振動を与える加振用部材と
を備える光学モジュール。
(9)前記(1)から(7)のいずれかに記載の光学素子または前記(8)に記載の光学モジュールと、
前記光学素子を介して、被写体からの光束が入射するように配置される被照射体と
を備える撮像装置。
(10)空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と
を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学多層膜。
【実施例】
【0194】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。以下に説明する実施例では、光学素子の多層膜において、空気との界面に近い3層における幾何膜厚を変えたサンプルを製作した。さらに、それぞれのサンプルについて、光学特性およびダストのつきにくさの評価を行った。なお、以下の実施例の説明において屈折率というときには、ナトリウムのD線での屈折率をいうものとする。
【0195】
(サンプル1)
まず、光透過性基材として、25mm□×25mmtのホウケイ酸ガラス板(屈折率:1.5114)を準備した。
【0196】
次に、蒸着法により、ホウケイ酸ガラス板の一主面上に、TiO(屈折率:2.2524)からなる高屈折率層H45を形成した。
【0197】
次に、蒸着法により、ホウケイ酸ガラス板の一主面上に形成されたTiOの表面上に、SiO(屈折率:1.4539)からなる低屈折率層L44を形成した。
【0198】
次に、蒸着法により、層数が合計で42層となるまで、TiOからなる高屈折率層HとSiOからなる低屈折率層Lとを交互に形成し、高屈折率層および低屈折率層からなる積層体を形成した。なお、この時点での最表層は、SiOからなる低屈折率層Lとなる。
【0199】
個々の高屈折率層H(j=4,5,・・・,45)の幾何膜厚dは、9nm〜122nmの間で適宜調整し、個々の低屈折率層Lの幾何膜厚dは、30nm〜196nmの間で適宜調整した。なお、各層の幾何膜厚dは、膜厚モニタにより得られた値である。以下に、成膜時の幾何膜厚dの測定装置を示す。
測定装置:光学膜厚制御システム(株式会社昭和真空製 ウェーブナビゲーターSOCS−1α)
【0200】
次に、蒸着法により、光透過性基材から最も離れた低屈折率層Lの表面上に、ITO(屈折率:2.035)からなる透明導電層(高屈折率層)Hを形成した。このとき、透明導電層(高屈折率層)Hの幾何膜厚をd=200nmとした。
【0201】
次に、蒸着法により、透明導電層(高屈折率層)Hの表面上に、SiOからなる低屈折率層Lを形成した。このとき、低屈折率層Lの幾何膜厚d=50nmとした。
【0202】
次に、蒸着法により、低屈折率層Lの表面上に、ITOからなる透明導電層(高屈折率層)Hを形成した。このとき、透明導電層(高屈折率層)Hの幾何膜厚d=20nmとした。以上により、サンプル1の光学素子を得た。
【0203】
このとき、サンプル1の光学素子において、透明導電層H、低屈折率層Lおよび透明導電層Hの幾何膜厚の総和(d+d+d)に対する、低屈折率層の幾何膜厚dの占める割合d/(d+d+d)は、19%であった。
【0204】
なお、光学素子の多層膜における透明導電層H、低屈折率層Lおよび透明導電層Hの各層の幾何膜厚の値d、dおよびdは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope(SEM))を用いた断面観察により測定することが可能である。上述した膜厚モニタから得られる幾何膜厚の値と、SEMを用いた断面観察から得られる幾何膜厚の値とは、5%の範囲内で一致させることが可能である。
【0205】
または、光電子分光分析法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis(ESCA))により測定することも可能である。光電子分光分析法は、サンプルに対してX線を照射し、放出される光電子のエネルギ分析により元素を同定し、組成を分析する手法である。したがって、光電子分光分析法を多層膜の組成深さ分布評価に適用することが可能である。
【0206】
(サンプル2)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=247nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=58nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=10nmとしたこと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル2の光学素子を得た。
【0207】
(サンプル3)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=264nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=21nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=40nmとしたこと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル2の光学素子を得た。
【0208】
(サンプル4)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=60nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=50nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=20nmとしたこと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル2の光学素子を得た。
【0209】
(サンプル5)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=45nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=60nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=20nmとしたこと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル2の光学素子を得た。
【0210】
(サンプル6)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=200nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=140nmとし、透明導電層Hに相当する層を形成しなかった(d=0nm)こと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル6の光学素子を得た。
【0211】
(サンプル7)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=200nm、低屈折率層Lの幾何膜厚をd=140nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=20nmとしたこと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル7の光学素子を得た。
【0212】
(サンプル8)
透明導電層Hの幾何膜厚をd=230nm、透明導電層Hの幾何膜厚をd=20nmとし、低屈折率層Lに相当する層を形成しなかった(d=0nm)こと以外は、サンプル1の光学素子と同様にして、サンプル8の光学素子を得た。
【0213】
[光学特性の評価]
まず、サンプル1〜サンプル8のそれぞれについて、光学素子の多層膜の各層の屈折率および幾何膜厚から、420nm以上620nm以下の波長帯域における平均透過率を計算により求めた。
【0214】
サンプル1〜サンプル8のそれぞれについて、空気との界面に近い3層分の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対する、低屈折率層Lの幾何膜厚dの占める割合d/(d+d+d)と、計算により得られた平均透過率の評価結果とを表1に示す。
なお、表1中の「光学特性」の欄における「○」印および「×」印は、以下の評価内容を示す。
○:420nm以上620nm以下の波長帯域における平均透過率が90%以上
×:420nm以上620nm以下の波長帯域における平均透過率が90%未満
【0215】
【表1】

【0216】
[ダストのつきにくさの評価]
次に、サンプル1〜サンプル8のそれぞれについて、ダストのつきにくさの評価を行った。
【0217】
まず、各サンプルに対して、多層膜が形成された側の表面に、コットンリンタ30mgをのせ、光学素子の表面にダストが付着した状態を模式的に再現した。次に、各サンプルの光学素子に振動を与えることにより、各サンプルの表面にのせられたコットンリンタを振り落とした。
【0218】
次に、各サンプルを黒色のシートの上にのせ、1列に並べられたファイバアレイによりハロゲン光を導光し、各サンプルの表面に平行な方向から各サンプルを照明した。次に、サンプルの表面に垂直な方向から、照明されたサンプルに対して、カメラにより撮影を行った。
【0219】
図12Aに、ダストのつきにくさの評価における、測定試料81、照明用光源83およびカメラ84の配置を示す。各サンプルについて、解析用コンピュータ85により、撮影により得られた画像を同じ大きさに切り出し、測定試料81表面の一定面積中に占めるダスト(コットンリンタ)82の面積比を求めるため、切りだされた画像に対して2値化処理を行った。次に、2値化処理を行ったそれぞれの画像に対して、(ダストの専有面積の割合)=(白い部分のピクセル数)/(全体のピクセル数)として、ダストの専有面積の割合を求めた。
【0220】
図12Bに、高屈折率層および低屈折率層からなる積層体を形成する前のホウケイ酸ガラス板に関する、2値化処理後の画像を示す。図12Cに、サンプル6に関する、2値化処理後の画像を示す。図12Dに、サンプル1に関する、2値化処理後の画像を示す。なお、ホウケイ酸ガラス板、サンプル6およびサンプル1に関する、ダストの専有面積の割合は、それぞれ10.2%、2.27%、0.55%であった。
【0221】
サンプル1〜サンプル8のそれぞれについて、空気との界面に近い3層分の幾何膜厚の総和(d+d+d)に対する、低屈折率層Lの幾何膜厚dの占める割合d/(d+d+d)と、ダストのつきにくさの評価結果とを表2に示す。また、サンプル1〜サンプル8のそれぞれについて、表面抵抗率の測定値も表2にあわせて示す。
なお、表2中の「ダストのつきにくさ」の欄における「○」印および「△」印は、以下の評価内容を示す。「ダストのつきにくさ」の評価においては、サンプル6に関するダストの専有面積の割合を基準とした。
○:ダストの専有面積の割合が基準の50%以下
△:ダストの専有面積の割合が基準の50%を超え100%以下(基準と同等以上の性能)
表2中の「評価」の欄における「○」印、「△」印および「×」印は、以下の評価内容を示す。
○:「光学特性」の欄および「ダストのつきにくさ」の欄がともに「○」
△:「光学特性」の欄および「ダストのつきにくさ」の欄の少なくとも一方が「△」または「−」
×:「光学特性」の欄および「ダストのつきにくさ」の欄の少なくとも一方が「×」
【0222】
【表2】

【0223】
表1および表2から、以下のことがわかった。
【0224】
光学素子の多層膜において、最表層が透明導電層(高屈折率層)であっても、最表層に隣接する低屈折率層の幾何膜厚を、60nm以下とすることにより、透過率の低下を抑制することができる。また、サンプル7に関する、ダストのつきにくさの評価および表面抵抗率の測定結果から、表面抵抗率を9kΩ/□程度まで小さくしてやれば、光学素子の防塵効果が向上されることがわかる。
【0225】
最表層に隣接する低屈折率層の幾何膜厚を、空気との界面に近い3層分の幾何膜厚の総和に対して6%以上50%以下の範囲内とすることにより、ダストのつきにくさに関し、低屈折率層を最表層とする場合と比較して、同等以上の性能とすることができる。特に、最表層に隣接する低屈折率層の幾何膜厚を、空気との界面に近い3層分の幾何膜厚の総和に対して6%以上20%以下の範囲内とすることで、ダストの専有面積の割合を、低屈折率層を最表層とする場合の50%以下とすることができる。なお、このとき、150Ω/□以上3kΩ/□以下の表面抵抗率が得られることがわかる。
【0226】
なお、サンプル1およびサンプル4に関して、表面抵抗率の測定結果と透明導電層Hの幾何膜厚dとをそれぞれ比較すると、以下のことがわかる。幾何膜厚dおよび幾何膜厚dを固定し、幾何膜厚dを大きくすることで、光学素子の表面抵抗率を小さくすることができる。このとき、例えば、光学素子の表面抵抗率を300〜12kΩ/□の範囲に調整することも可能である。
【0227】
以上、実施例により説明したように、本技術によれば、高屈折率を有する機能材料を、光学部品の最表層に使用することが可能となり、透過率を劣化させずに、高屈折率層を最表層にした光学素子を実現することができる。本技術によれば、光学素子の表面に導電効果を持たせることができ、光学特性を維持しながら防塵効果が向上された光学素子、光学モジュールおよび撮像装置ならびに光学多層膜を提供することができる。本技術を撮像装置に適用することにより、例えば、レンズ交換時に撮像素子付近にダストが付着することを防止することができる。また、ダストの付着防止効果によって、ダストに起因する画像劣化を防ぐことが可能となる。
【0228】
<5.変形例>
本技術は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0229】
例えば、空気への露出面側に、新規機能を保持した膜を形成してもよい。例えば、空気への露出面側に、フッ素を含有する機能膜をさらに形成するようにしてもよい。図13Aに、第1の実施形態にかかる光学素子の最表層の上に、フッ素を含有する機能膜90が形成された光学素子91の一構成例についての断面模式図を示す。図13Bに、第2の実施形態にかかる光学素子の最表層の上に、フッ素を含有する機能膜90が形成された光学素子92の一構成例についての断面模式図を示す。
【0230】
フッ素を含有する機能膜90としては、例えば、フルオロアルキル基を有する化合物を含有する機能膜を挙げることができる。このとき、絶縁耐力が小さい材料を選定し、薄く成膜することによって、光学素子に対して、低い表面低効率を保った状態で撥水性などの機能をさらに付加することができる。具体的には、光学素子の表面に、フルオロアルキル基を有する化合物を含有する機能膜を50nm程度の厚さにさらに成膜することで、30kΩ/□以下の低い表面抵抗率を保ったままで、撥水効果を得ることができる。
【0231】
表面抵抗率を低く保ったまま、光学素子の表面に撥水処理をすることによって、ダストの付着防止と撥水との両方の機能を備えた光学素子を製作することができる。通常、撥水材料は、帯電列が負に偏っているものが多い。このため、撥水膜には、紙や綿、人毛などの帯電列が正に位置するものが付着しやすい。また、撥水材料自体が、一般的には帯電しやすい。そこで、撥水材料を薄く成膜し、絶縁耐力が小さくなる膜厚で、光学素子の表面抵抗率を低く保つことによって、撥水膜がさらに形成された光学素子の接触帯電を小さく保つことができる。
【0232】
このとき、撥水膜のすぐ下が導電層になることが好ましい。なお、密着強度向上などの目的で、撥水膜の下地をSiOなどにする場合、SiOと撥水膜との厚さの総和を、例えば60nm以下に小さくするとすることで、光学素子の表面抵抗率を低く保つことができる。これにより、ダストの付着防止機能と撥水機能との両方を備えた光学素子(光学部品)を製作することができる。
【0233】
本技術によれば、高屈折率を有する機能材料を光学部品の最表層に使用することが可能となるため、複数の結像光学系を備える撮像装置に用いて好適である。例えば、被写体の映像を3次元情報として取得できる3Dカメラや3Dビデオカメラの光学部品にも本技術が適用可能である。
【0234】
本技術は、レンズや光学フィルタなどの光学コートのほか、TiOの光触媒効果を用いた防曇コートにも適用することが可能である。本技術は、そのほかにも、例えば、ディスプレイや電子ペーパーなどの表示装置、タッチパネルなどの情報入力装置、窓材などにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0235】
1 ・・・光学素子
3 ・・・光透過性基材
11 ・・・透明導電層
12 ・・・低屈折率層
13 ・・・透明導電層
20 ・・・光学素子
21 ・・・透明導電層
22 ・・・低屈折率層
23 ・・・光透過性基材
31 ・・・光学モジュール
32 ・・・保持部材
33 ・・・加振用部材
41 ・・・撮像装置
43 ・・・被照射体
51 ・・・撮像装置
71 ・・・撮像装置
90 ・・・機能膜
91 ・・・光学素子
92 ・・・光学素子
E ・・・空気への露出面
ML ・・・多層膜
CL ・・・調整層
j ・・・高屈折率層
j ・・・低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と、
光透過性基材と
を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子。
【請求項2】
前記低屈折率層の幾何膜厚が、前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上20%以下の範囲内である請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第1の透明導電層の幾何膜厚が、10nm以上である請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
表面抵抗率が、150Ω/□以上25kΩ/□以下である請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1の透明導電層を構成する材料が、ポリスチレンよりも正に帯電しやすく、かつアクリルよりも負に帯電しやすい材料から選択される請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
空気への露出面側に、フッ素を含有する機能膜をさらに備える請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
空気への露出面を有する透明導電層と、
前記透明導電層の空気への露出面とは反対側に隣接し、前記透明導電層との界面を有する低屈折率層と、
光透過性基材と
を含み、
前記透明導電層の屈折率が、前記透明導電層と前記低屈折率層との界面側から、前記空気への露出面側に向かって徐々に小さくなる光学素子。
【請求項8】
空気への露出面を有する第1の透明導電層,第2の透明導電層,前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層,および光透過性基材を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子と、
前記光学素子を保持する保持部材と、
前記保持部材を介して前記光学素子に対して振動を与える加振用部材と
を備える光学モジュール。
【請求項9】
空気への露出面を有する第1の透明導電層,第2の透明導電層,前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層,および光透過性基材を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学素子と、
前記光学素子を介して、被写体からの光束が入射するように配置される被照射体と
を備える撮像装置。
【請求項10】
空気への露出面を有する第1の透明導電層と、
第2の透明導電層と、
前記第1の透明導電層と前記第2の透明導電層との間に介在される低屈折率層と
を含み、
前記低屈折率層の幾何膜厚が、60nm以下であり、かつ前記第1の透明導電層、前記低屈折率層および前記第2の透明導電層の幾何膜厚の総和に対して、6%以上50%以下の範囲内である光学多層膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−185254(P2012−185254A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47237(P2011−47237)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】