説明

光学素子の製造方法および光学素子

【課題】接合膜を介して2つの光学部品同士を接合することにより、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子を製造可能な光学素子の製造方法、およびかかる光学素子の製造方法により製造された光学素子を提供すること。
【解決手段】本発明の光学素子の製造方法は、第1の光学部品2および第2の光学部品4を用意し、第1の光学部品2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜3を成膜する工程(第1の工程)と、接合膜3のうち、縁部(無効領域)3bをプラズマに曝すことにより、縁部3bに接着性を発現させるとともに、有効径(有効領域)3aに対して紫外線を照射することにより、有効径3aを無機化する工程(第2の工程)と、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合し、積層光学素子5を得る工程(第3の工程)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基板)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、透過する光に位相差を生じさせる機能を有する光学素子として波長板が知られている。波長板は、水晶のような複屈折結晶の基板を2枚重ね合わせたものであり、基板間は接着剤を用いて接着される。
このように接着剤を用いて基板同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して基板同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤が硬化して基板同士が接着される。
【0003】
しかし、このように光の透過を伴う光学素子では、接着剤の光学特性が全体の光学特性に影響を及ぼす。このため、例えば光学素子の光透過率を高めるためには、基板の屈折率と接着剤の屈折率とが近接していることが好ましいとされるものの、接着剤の屈折率は、接着剤の組成に応じて一義的に決まる場合が多く、基板の屈折率に応じて任意の値に調整することは困難である。また、仮に接着剤の屈折率を基板の屈折率に合わせたとしても、長期間の光照射に伴って接着剤を構成する樹脂成分が劣化し、接着剤の変色、屈折率の変化、接着力の低下等を招くおそれがある。
そこで、特許文献1には、光アイソレータ素子のうち、光の透過面である開口部(内側部分)以外の部分に接合材が塗布され、この接合材を介して偏光子同士を積層してなるものが開示されている。
【0004】
光アイソレータ素子のような光学素子では、一般に、その光透過面が、光透過性を確保すべき有効領域と、必ずしも光透過性を必要としない無効領域とに分けられることが多い。したがって、光学素子の光学特性は、有効領域において確保されていればよく、無効領域は、基板同士を接着する領域として利用することができる。特許文献1に記載の光アイソレータ素子では、この無効領域に相当する領域が、偏光子の縁部に設定されている。
しかしながら、特許文献1に記載の光アイソレータ素子では、偏光子同士の間に、接合材の厚さ相当の空気層が形成されることにより、偏光子の屈折率と空気層の屈折率との差に基づく「フレネル反射ロス」と呼ばれる光損失が発生する。その結果、この光損失が、光アイソレータ素子の光透過率の低下を招いていた。
【0005】
【特許文献1】特開平10−333095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、接合膜を介して2つの光学部品同士を接合することにより、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子を製造可能な光学素子の製造方法、およびかかる光学素子の製造方法により製造された光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学素子の製造方法は、接合膜を介して互いに貼り合わせることにより光学素子を形成し得る第1の光学部品および第2の光学部品を用意し、第1の光学部品の表面上に、プラズマ重合法により、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含む前記接合膜を形成する第1の工程と、
前記接合膜のうち、前記光学素子の光学的な有効領域に対して紫外線を照射することにより、前記有効領域に存在する前記脱離基の大半を前記Si骨格から脱離させ、前記有効領域を化学的に安定化させるとともに、前記接合膜のうち、前記有効領域以外の無効領域にエネルギーを付与することにより、前記無効領域の表面に存在する前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させる第2の工程と、
接着性が発現した前記接合膜を介して前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合し、前記光学素子を得る第3の工程とを有することを特徴とする。
これにより、接合膜を介して2つの光学部品同士を接合することにより、耐光性および寸法精度が高く、かつ光透過率の高い光学素子を製造することができる。
【0008】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%であることが好ましい。
これにより、接合膜は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜は、第1の光学部品および第2の光学部品に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0009】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、接合膜の安定性が高くなり、第1の光学部品と第2の光学部品とをより強固に接合することができるようになる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は特にランダムな原子構造を含むものとなる。そして、寸法精度および接着性に優れた接合膜が得られる。
【0010】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、接合膜中にSi−H結合が含まれることにより、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
【0011】
本発明の光学素子の製造方法では、前記Si−H結合を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることが好ましい。
これにより、接合膜中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、接合膜は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0012】
本発明の光学素子の製造方法では、前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、エネルギーを付与することによって比較的簡単に、かつ均一に脱離する脱離基が得られることとなり、接合膜の接着性をより高度化することができる。
【0013】
本発明の光学素子の製造方法では、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
これにより、耐候性および耐薬品性に優れた接合膜が得られる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記脱離基としてメチル基を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45であることが好ましい。
これにより、メチル基の含有率が最適化され、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜に十分な接着性が生じる。また、接合膜には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
【0014】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜は、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離した後に、活性手を有することが好ましい。
これにより、接合膜は、第2の光学部品に対して、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記活性手は、未結合手または水酸基であることが好ましい。
これにより、第2の光学部品に対して、特に強固な接合が可能となる。
【0015】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接着性により優れた接合膜が得られる。また、この接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような光学部品の接合に際して、有効に用いられるものとなる。
【0016】
本発明の光学素子の製造方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れた接合膜が得られる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波の出力密度は、0.01〜100W/cmであることが好ましい。
これにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格を確実に形成することができる。
【0017】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、第1の光学部品と第2の光学部品とを接合した光学素子の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
これにより、得られる光学素子の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。また、従来に比べ、短時間で強固な接合が可能になる。
【0018】
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜の前記有効領域の紫外線照射後の屈折率は、1.35〜1.6であることが好ましい。
このような屈折率の領域は、その屈折率が水晶や石英ガラスの屈折率に比較的近いため、例えば、光路が接合膜を貫通するような構造の光学素子を製造する際に好適に用いられる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記接合膜の前記無効領域は、前記光学素子の縁部に設定されていることが好ましい。
一般に、光学素子の縁部にはほとんど光が当たらないため、縁部では光による接合膜の変質・劣化がほとんど生じない。このため、接合膜の変質・劣化に伴う接着性の低下が抑制され、長期にわたって高い信頼性を維持し得る光学素子が得られる。また、仮に接合膜の縁部に光が当たって変色等の問題が生じたとしても、かかる問題が有効領域を通過する光に波及することはないので、光学素子の光学特性の低下を招くことがない。
【0019】
本発明の光学素子の製造方法では、前記第2の工程後の前記接合膜において、前記有効領域は、酸化ケイ素を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接合膜の有効領域は、優れた透明性を有するとともに、耐熱性、耐光性、耐薬品性、機械的強度等の各種特性にも優れたものとなる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記第2の工程における紫外線の波長は、126〜300nmであることが好ましい。
このような波長の紫外線によれば、接合膜中の脱離基を確実に脱離させることができる。
【0020】
本発明の光学素子の製造方法では、前記第2の工程における紫外線の積算光量は、1J/cm以上であることが好ましい。
これにより、接合膜の有効領域を確実に無機化することができる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、乾燥した雰囲気であることが好ましい。
これにより、紫外線の照射によって切断された化学結合の切断跡に、雰囲気中の水蒸気が吸着するのを防止し、接合膜の組成の意図しない変化を防止することができる。
【0021】
本発明の光学素子の製造方法では、前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気であることが好ましい。
これにより、接合膜に対する紫外線照射に伴って接合膜が酸化し、変質・劣化するのを防止することができる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記第1の光学部品および前記第2の光学部品は、それぞれ、石英ガラスまたは水晶で構成されていることが好ましい。
これにより、第1の光学部品および第2の光学部品と接合膜との屈折率差が小さくなり、得られる光学素子は光損失が十分に抑制されたものとなるため、光透過性に優れた光学素子が得られる。
本発明の光学素子の製造方法では、前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法で行われ、
該プラズマは、大気圧プラズマであることが好ましい。
これにより、接合膜に損傷が生じるのを防止して、接着性および光学性能に優れた接合膜を得ることができる。
【0022】
本発明の光学素子の製造方法では、前記第1の工程において、前記第2の光学部品の表面上に、前記接合膜と同様の接合膜を形成し、
前記第2の工程において、前記各接合膜に紫外線を照射した後、前記第3の工程において、前記各接合膜同士が密着するようにして、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合し、前記光学素子を得ることが好ましい。
これにより、第1の光学部品と第2の光学部品とをより強固に接合することができる。
本発明の光学素子は、2つの光学部品を有し、これらが本発明の光学素子の製造方法により接合されたことを特徴とする。
これにより、光学性能の高い光学素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の光学素子の製造方法および光学素子を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<光学素子の製造方法>
本発明の光学素子の製造方法は、2つの光学部品(第1の光学部品2および第2の光学部品4)を、接合膜3を介して接合する方法である。かかる方法によれば、2つの光学部品2、4を高い寸法精度で強固に接合することができる。また、接合膜3は、プラズマ重合法により形成されたものであり、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
【0024】
このような接合膜3のうち、縁部をプラズマに曝すと、接合膜3の表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離して接着性が発現する。そして、この接着性を利用することにより、接合膜3を介して2つの光学部品2、4間を縁部において低温下でも強固に接合し、信頼性の高い積層光学素子を得ることができる。
一方、接合膜3のうち、縁部の内側の領域に所定の積算光量の紫外線を照射すると、この内側領域の脱離基の大半が脱離して、実質的にSi骨格のみが残存する。これにより、内側領域は、実質的に無機成分のみで構成されたものとなり、耐光性に優れたものとなる。その結果、得られた積層光学素子5は、長期にわたって安定した光学特性を有するものとなる。
【0025】
≪第1実施形態≫
次に、本発明の光学素子の製造方法の第1実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明の光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0026】
本実施形態にかかる光学素子の製造方法は、第1の光学部品2および第2の光学部品4を用意し、第1の光学部品2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜3を成膜する工程(第1の工程)と、接合膜3のうち、縁部(無効領域)3bをプラズマに曝すとともに、有効径(有効領域)3aに対して紫外線を照射する工程(第2の工程)と、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合し、積層光学素子5を得る工程(第3の工程)とを有する。以下、各工程について順次説明する。
【0027】
[1]まず、第1の光学部品2および第2の光学部品4を用意する。
これらの光学部品2、4は、接合膜3を介して互いに貼り合わせることにより、光透過性を有する積層光学素子5を形成し得るものである。なお、具体的な積層光学素子5は、後に例示する。
第1の光学部品2の構成材料は、光透過性の材料であればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の各種樹脂材料や、ソーダガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等のガラス材料、水晶、方解石、サファイア、CaF、BaF、MgF、LiF、KBr、KCl、NaCl、MgO、YVO、LiNbO等の結晶材料等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、接合膜3との屈折率の整合性や密着性(接合性)の観点から、石英ガラス、水晶等の酸化ケイ素系材料が好ましく用いられる。酸化ケイ素系材料は、さらに、優れた透明性を有し、かつ耐熱性、耐光性、耐薬品性、機械的強度等の各種特性にも優れていることから、第1の光学部品2の構成材料として特に好適である。
一方、第2の光学部品4の構成材料も、第1の光学部品2の構成材料から適宜選択すればよく、第1の光学部品2の構成材料と第2の光学部品4の構成材料とは、同じでも互いに異なっていてもよい。
また、第1の光学部品2および第2の光学部品4は、その表面に、各種光学薄膜を成膜したものであってもよい。
【0029】
次に、第1の光学部品2の表面上に接合膜3を形成する(第1の工程)。接合膜3は、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間に位置し、これらの接合を担うものである。
かかる接合膜3は、図3、4に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。
なお、接合膜3については、後に詳述する。
【0030】
また、第1の光学部品2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域には、第1の光学部品2の構成材料に応じて、接合膜3を形成する前に、あらかじめ、第1の光学部品2と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、第1の光学部品2の接合膜3を形成すべき領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。これにより、第1の光学部品2と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0031】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜3を形成するために、第1の光学部品2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す第1の光学部品2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、第1の光学部品2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3の接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第1の光学部品2の構成材料としては、例えば、前述したような各種ガラス材料、各種結晶材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0032】
このような材料で構成された第1の光学部品2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された第1の光学部品2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、第1の光学部品2と接合膜3との密着強度を高めることができる。
なお、この場合、第1の光学部品2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3を形成すべき領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0033】
一方、第2の光学部品4においても、その構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、第1の光学部品2と第2の光学部品4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の光学部品4の構成材料には、前述した第1の光学部品2の構成材料と同様のもの、すなわち、各種ガラス材料、各種結晶材料等を用いることができる。
【0034】
さらに、第2の光学部品4の接合膜3に密着する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、第1の光学部品2と第2の光学部品4との接合強度を十分に高くすることができる。
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
【0035】
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
また、表面処理に代えて、第1の光学部品2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域および第2の光学部品4の接合膜3に密着する領域には、あらかじめ中間層を形成しておくのが好ましい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を用いることにより、信頼性の高い積層光学素子を得ることができる。
【0036】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、積層光学素子5の接合強度を特に高めることができる。
【0037】
[2]次に、図1(b)に示すように、接合膜3のうち、縁部(無効領域)3bをプラズマに曝す。
プラズマに曝されると、接合膜3の縁部3bの表面では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には活性手が生じるため、接合膜3の縁部3bに、第2の光学部品4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3の縁部3bは、化学的結合に基づいて第2の光学部品4と安定して強固に接合可能なものとなる。
【0038】
ここで、プラズマに曝す前の接合膜3は、図3に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜3にエネルギーが付与されると、特に表面付近の脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図4に示すように、接合膜3の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面に接着性が発現する。
【0039】
なお、接合膜3を「活性化させる」とは、接合膜3の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、第2の光学部品4に対して、特に強固な接合が可能となる。
【0040】
また、本発明では、接合膜3のうち、光がほとんど透過しない縁部(無効領域)3bのみをプラズマに曝し、この縁部3bを介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合するようにした。このようにして得られた積層光学素子5では、一般に縁部3bをフレーム等で覆う場合が多く、光がほとんど当たらないか、または光が透過しないように光学設計される場合が多いため、縁部3bでは光による接合膜3の変質・劣化がほとんど生じない。このため、接合膜3の変質・劣化に伴う接着性の低下を抑制することができ、長期にわたって高い信頼性を維持し得る積層光学素子5が得られる。
【0041】
さらに、仮に接合膜3の縁部3bに光が当たって変色等の問題が生じたとしても、かかる問題が有効径3aを通過する光に波及することはないので、積層光学素子5の光学特性の低下を招くことがない。
一方、縁部3bの内側の有効径(有効領域)3aは、積層光学素子5において光学的な特性を確保すべき領域であり、一般的にはこの領域を光が透過する。
【0042】
接合膜3に曝すプラズマとしては、大気圧プラズマを用いるのが好ましい。大気圧プラズマによれば、減圧手段等の高価な設備を用いることなく、容易にプラズマ処理を行うことができる。また、このプラズマ処理には、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるダイレクトプラズマ方式の他、被処理物とプラズマ発生部とが離間したリモートプラズマ方式またはダウンフロープラズマ方式による処理も好ましく用いられる。ダイレクトプラズマ方式によれば、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるため、プラズマ処理を効率よくかつ均一に行うことができる。また、被処理物とプラズマ発生部とが離間している場合、被処理物とプラズマ発生部とが干渉しないため、被処理物をイオン損傷から避けることができる。
【0043】
また、減圧雰囲気中でプラズマ処理を行った場合、接合膜3の内部に意図せず閉じ込められたガスや経時的に発生したガス等が、接合膜3の外部に強制的に引き出されるおそれがある。このような現象が起こると、接合膜3に損傷が生じ、接着性の低下を招くとともに、光学性能の低下を招くこととなる。
これに対し、大気圧下でプラズマ処理を行うことにより、接合膜3に損傷が生じるのを防止して、接着性および光学性能に優れた接合膜3を得ることができる。
【0044】
なお、プラズマを発生させるガスとしては、Ar、He、H、N、O等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いることもできる。このうち、接合膜3の酸化等を考慮した場合には、Ar、He等の不活性ガスが好ましく用いられる。
また、プラズマ処理は、後述する図5に示すプラズマ重合装置100を用いて行うこともできる。すなわち、図5に示すプラズマ重合装置100を用いて接合膜3を形成した後、これを装置から取り出すことなく、続けて本工程のプラズマ処理を施すことができるので、本発明の光学素子の製造方法の簡略化を図ることができる。
【0045】
また、放電によってプラズマを発生させる際、電極間に印加する電圧は、MHz以上の高周波であるのが好ましい。これにより、直流放電の場合に比べて、放電開始電圧が低下するため、放電状態を容易に維持することができる。また、高周波を用いることにより、プラズマ中の電離度が高くなり、プラズマ密度が高くなる。その結果、プラズマによる脱離基303の脱離を効率よく行うことができる。
【0046】
電極間に印加する電圧の周波数は、特に限定されないが、好ましくは10〜50MHz程度とされ、より好ましくは10〜40MHz程度とされる。
なお、接合膜3の縁部3bを選択的にプラズマに曝すためには、縁部3bの平面視形状に対応した形状の窓部61を有するマスク6を介してプラズマ処理を行うようにすればよい。
【0047】
また、本実施形態では、工程[2]として、接合膜3の縁部3bをプラズマに曝すようにしたが、これ以外の方法でも縁部3bに接着性を発現させることができる。具体的には、エネルギー線の照射、加熱、加圧、オゾンに曝す等の方法が挙げられる。なお、紫外線を照射するようにしてもよいが、この場合は、縁部3bの脱離基303が全て脱離してしまわないように、積算光量を制御する必要がある。
【0048】
[3]次に、図1(c)に示すように、接合膜3のうち、有効径(有効領域)3aに対して紫外線を照射する(第2の工程)。
所定の積算光量以上の紫外線が照射されると、接合膜3の有効径3aでは、脱離基303がSi骨格301から脱離する。このような脱離基303の脱離が継続的に生じると、最終的には、大半の脱離基303がSi骨格301から脱離して、実質的にSi骨格301のみが残存した状態となる。
【0049】
このような状態になると、接合膜3の有効径3aの無機成分が残存し、無機化される。この無機化により、接合膜3の有効径3aの組成は、酸化ケイ素の組成に類似したものとなり、化学的に安定する。このため、接合膜3の有効径3aは、無機化前に比べて、光に応じて変質・劣化することなく、長期にわたって優れた耐候性を有するものとなる。また、その屈折率も、長期にわたって石英ガラスや水晶等に近い屈折率(1.35〜1.6程度)で安定したものとなる。
【0050】
その結果、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間が、空気層よりも屈折率の高い媒体で充填されることになり、最終的に得られる積層光学素子5は、いわゆる「フレネル反射ロス」と呼ばれる光損失が十分に抑制されたものとなる。すなわち、積層光学素子5は、光透過性に優れたものとなる。
なお、紫外線の照射による脱離基303の脱離量は、紫外線の積算光量に相関がある。かかる相関関係に基づけば、接合膜3に所定の積算光量以上の紫外線を照射することにより、有効径3aの脱離基303をほぼ全てを脱離させることができる。この場合、有効径3aの脱離基303の好ましくは90%以上が脱離すればよく、より好ましくは95%以上が脱離すればよい。
【0051】
また、無機化した後の接合膜3の熱膨張率は、水晶や石英ガラスの熱膨張率に比較的近いため、これらの熱膨張率差が小さくなり、接合後の変形を抑制することができる。
また、本工程で照射される紫外線のエネルギーは、接合膜3中のシロキサン(Si−O)結合を切断せず、シロキサン結合よりも結合エネルギーの小さい化学結合(例えば、Si−C結合等)が切断されるようなエネルギーとするのが好ましい。このような紫外線を用いることにより、接合膜3中の脱離基303を確実に脱離させることができる。
【0052】
具体的には、波長が126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましく、160〜200nm程度の紫外線を用いるのがより好ましい。
また、紫外線の積算光量は、接合膜3の厚さや紫外線の波長に応じて若干異なるものの、好ましくは1J/cm以上とされ、より好ましくは10J/cm以上とされる。これにより、接合膜3の有効径3aを確実に無機化することができる。
【0053】
また、前述したように、紫外線の積算光量は、照度と照射時間の積で表わされる。したがって、紫外線の光源としてUVランプを用いる場合、その照度は、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0054】
なお、接合膜3の有効径3aに選択的に紫外線を照射するためには、有効径3aの平面視形状に対応した形状の窓部71を有するマスク7を介してプラズマ処理を行うようにすればよい。
また、紫外線は、レーザー光として照射されてもよい。レーザー光は指向性が非常に高いので、接合膜3に対して局所的に紫外線を照射することが可能である。
【0055】
なお、接合膜3に対する紫外線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよいが、好ましくは乾燥した雰囲気であるのが好ましい。これにより、紫外線の照射によって切断された化学結合の切断跡に、雰囲気中の水蒸気が吸着するのを防止し、接合膜3の組成の意図しない変化を防止することができる。
具体的には、雰囲気の露点が−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがより好ましい。
【0056】
また、接合膜3の有効径3aに紫外線を照射して脱離基303が脱離すると、有効径3aの屈折率が変化するとともに、有効径3aの表面および内部に活性手が生じる。これにより、有効径3aの表面に、第2の光学部品4との接着性が発現するものの、その接着性の強さは、縁部3bの接着性に比べて弱いものである。その原因の1つとしては、紫外線の照射に伴い、有効径3aの脱離基303のほとんどが脱離し、これにより多くの活性手が生じるため、隣接した活性手同士が再結合する確率が高くなる。その結果、有効径3aの接着性は、縁部3bに比べて限定的となる。
【0057】
[4]次に、図2(d)に示すように、活性化させた接合膜3と第2の光学部品4とが密着するように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせる。これにより、図2(e)に示すような積層光学素子5を得る(第3の工程)。
このようにして得られた積層光学素子5では、従来の光学素子の製造方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて接合されている。このため、積層光学素子5は短時間で形成することができ、かつ極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0058】
また、このような方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の光学部品2および第2の光学部品4をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して第1の光学部品2と第2の光学部品4とを接合しているため、第1の光学部品2や第2の光学部品4の構成材料に制約がないという利点もある。
【0059】
以上のことから、本発明によれば、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、本実施形態では、接合に供される第1の光学部品2および第2の光学部品4のうち、一方のみ(本実施形態では、第1の光学部品2)に接合膜3が設けられている。第1の光学部品2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては第1の光学部品2が比較的長時間にわたってプラズマに曝されることになるが、本実施形態では第2の光学部品4はプラズマに曝されることはない。したがって、例えば、第2の光学部品4のプラズマに対する耐久性が著しく低い場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを強固に接合することができる。したがって、第2の光学部品4を構成する材料は、プラズマに対する耐久性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
【0060】
ここで、本工程において、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、第2の光学部品4の接合面に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜3の表面35と第2の光学部品4の接合面とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面35に存在する水酸基と、第2の光学部品4の接合面に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが接合されると推察される。
【0061】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、第1の光学部品2と第2の光学部品4との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、第1の光学部品2と第2の光学部品4とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[3]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[3]の終了後、できるだけ早く本工程[4]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[3]の終了後、60分以内に本工程[4]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0062】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、Si骨格301を有する接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた第1の光学部品2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[3]に記載したプラズマ処理を行うようにすれば、積層光学素子5の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図2(e)に示す積層光学素子(本発明の光学素子)5を得ることができる。
なお、図2(e)では、接合膜3の全面を覆うように第2の光学部品4を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は互いにずれていてもよい。すなわち、接合膜3から第2の光学部品4がはみ出るようにしてもよい。
【0063】
このようにして得られた積層光学素子5は、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する積層光学素子5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。
なお、積層光学素子5を得た後、この積層光学素子5に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([5A]および[5B])のうちの少なくとも1つの工程(積層光学素子5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、積層光学素子5の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0064】
[5A]図2(f)に示すように、得られた積層光学素子5を、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第1の光学部品2の表面および第2の光学部品4の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、積層光学素子5における接合強度をより高めることができる。
また、積層光学素子5を加圧することにより、積層光学素子5中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、積層光学素子5における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、積層光学素子5を加圧する際の圧力は、積層光学素子5が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して積層光学素子5における接合強度を高めることができる。
【0065】
なお、この圧力は、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、積層光学素子5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の光学部品2および第2の光学部品4の各構成材料によっては、第1の光学部品2および第2の光学部品4に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、積層光学素子5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0066】
[5B]図2(f)に示すように、得られた積層光学素子5を加熱する。
これにより、積層光学素子5における接合強度をより高めることができる。
このとき、積層光学素子5を加熱する際の温度は、室温より高く、積層光学素子5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、積層光学素子5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0067】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[5A]、[5B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図2(f)に示すように、積層光学素子5を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、積層光学素子5の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、積層光学素子5における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
ここで、接合膜3について詳述する。
【0068】
前述したように接合膜3は、プラズマ重合法により形成されたものであり、図3に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような接合膜3は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなるため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜3自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる積層光学素子5においても、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0069】
このような接合膜3は、エネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図4に示すように、接合膜3の表面35および内部に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜3表面に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜3は、第2の光学部品4に対して高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
【0070】
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい。このため、接合膜3は、エネルギーの付与により、Si骨格301はほとんど切れることなく、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
また、このような接合膜3は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、積層光学素子5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0071】
なお、接合膜3においては、特に接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜3は、第1の光学部品2および第2の光学部品4に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0072】
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、第1の光学部品2と第2の光学部品4とをより強固に接合することができるようになる。
また、接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0073】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
【0074】
また、接合膜3は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
【0075】
一方、接合膜3中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001〜0.2程度であるのが好ましく、0.002〜0.05程度であるのがより好ましく、0.005〜0.02程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜3中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜3は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0076】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
なお、プラズマ重合法による成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とを生成するが、例えばこの残基が脱離基303となり得る。
【0077】
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜3の接着性をより高度なものとすることができる。
【0078】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0079】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
ここで、脱離基303がメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
【0080】
すなわち、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05〜0.45程度であるのが好ましく、0.1〜0.4程度であるのがより好ましく、0.2〜0.3程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜3中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜3に十分な接着性が生じる。また、接合膜3には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
このような特徴を有する接合膜3の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合とそれに結合した脱離基303となり得る有機基とを含む重合物等が挙げられる。
【0081】
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、第1の光学部品2に対して特に強固に被着するとともに、第2の光学部品4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
【0082】
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたアルキル基による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、エネルギーを付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述したアルキル基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような光学素子や液滴吐出ヘッドの組み立てに際して、有効に用いられるものとなる。
【0083】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0084】
このような接合膜3の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、積層光学素子5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、積層光学素子5の寸法精度が低下するおそれがある。
【0085】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、第1の光学部品2の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせた際に、両者の密着性を高めることができる。
【0086】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜3の厚さをできるだけ厚くすればよい。
以上、接合膜3について詳述したが、このような接合膜3は、プラズマ重合法により作製されたものである。プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜3を効率よく作製することができる。これにより、接合膜3は、第2の光学部品4に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜3は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、積層光学素子5の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
以下、接合膜3を作製する方法について説明する。
【0087】
まず、接合膜3の作製方法を説明するのに先立って、第1の光学部品2上にプラズマ重合法を行いて接合膜3を作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明する。
図5は、本発明の光学素子の製造方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図5に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、第1の光学部品2を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
【0088】
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図5に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
【0089】
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
【0090】
第1の電極130は板状をなしており、第1の光学部品2を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図5に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0091】
第1の電極130の第1の光学部品2を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図5に示すように、第1の光学部品2を鉛直方向に沿って支持することができる。また、第1の光学部品2に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で第1の光学部品2をプラズマ処理に供することができる。
【0092】
第2の電極140は、第1の光学部品2を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
【0093】
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
【0094】
図5に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0095】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して第1の光学部品2の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0096】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0097】
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による第1の光学部品2の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
【0098】
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
次に、上記のプラズマ重合装置100を用いて、第1の光学部品2上に接合膜3を作製する方法について説明する。
【0099】
図6は、第1の光学部品2上に接合膜3を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
接合膜3は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を第1の光学部品2上に堆積させることにより得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0100】
まず、第1の光学部品2を用意し、必要に応じて、第1の光学部品2の上面25に前述したような表面処理を施す。
次に、第1の光学部品2をプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される(図6(a)参照)。
【0101】
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
【0102】
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図6(b)に示すように、重合物が第1の光学部品2に付着・堆積する。これにより、第1の光学部品2上にプラズマ重合膜で構成された接合膜3が形成される(図6(c)参照)。
【0103】
また、プラズマの作用により、第1の光学部品2の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が第1の光学部品2の表面に堆積し易くなり、接合膜3の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、第1の光学部品2の構成材料によらず、第1の光学部品2と接合膜3との密着強度をより高めることができる。
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0104】
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
【0105】
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜100W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜50W/cm程度であるのがより好ましく、1〜40W/cm程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格301を確実に形成することができる。すなわち、高周波の出力密度が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、接合膜3を形成することができないおそれがある。一方、高周波の出力密度が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる接合膜3において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。
【0106】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
【0107】
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
また、第1の光学部品2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜3を得る。
【0108】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の光学素子の製造方法の第2実施形態について説明する。
図7は、本発明の光学素子の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態にかかる光学素子の製造方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0109】
本実施形態にかかる光学素子の製造方法は、各光学部品2、4の表面にそれぞれ接合膜を形成し、この接合膜同士が密着するようにして各光学部品2、4を接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる光学素子の製造方法は、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを用意し、第1の光学部品2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜31を成膜するとともに、第2の光学部品4の表面上に接合膜32を成膜する工程と、各接合膜31、32のうち、縁部(無効領域)3bをプラズマに曝すとともに、有効径(有効領域)3aに対して紫外線を照射する工程と、各接合膜31、32同士が密着するように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせ、積層光学素子5aを得る工程とを有する。以下、本実施形態にかかる光学素子の製造方法の各工程について順次説明する。
【0110】
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、第1の光学部品2および第2の光学部品4を用意し、各光学部品2、4の表面上にそれぞれプラズマ重合法により接合膜31、32を成膜する(図7(a)参照)。
[2]次に、図7(a)に示すように、各接合膜31、32のうち、それぞれ縁部(無効領域)3bをプラズマに曝す。
プラズマに曝されると、各接合膜31、32の縁部3bの表面では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には活性手が生じるため、接合膜3の縁部3bに、第2の光学部品4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3の縁部3bは、化学的結合に基づいて第2の光学部品4と安定して強固に接合可能なものとなる。
【0111】
[3]一方、図7(b)に示すように、各接合膜31、32のうち、それぞれ有効径(有効領域)3aに対して紫外線を照射する。
紫外線が照射されると、各接合膜31、32の有効径3aでは、脱離基303がSi骨格301から脱離する。このような脱離基303の脱離が継続的に生じると、最終的には大半の脱離基303がSi骨格301から脱離して、実質的にSi骨格301のみが残存した状態となる。
【0112】
このような状態になると、各接合膜31、32の有効径3aの無機成分が残存し、無機化される。この無機化により、各接合膜31、32の有効径3aの組成は、酸化ケイ素の組成に類似したものとなる。このため、各接合膜31、32の有効径3aは、無機化前に比べて、光に応じて変質・劣化することなく、長期にわたって優れた耐候性を有するものとなる。また、その屈折率も、長期にわたって石英ガラスや水晶等に近い屈折率(1.35〜1.6程度)で安定したものとなる。
その結果、第1の光学部品2と第2の光学部品4との間が、空気層よりも屈折率の高い媒体で充填されることになり、最終的に得られる積層光学素子5は、いわゆる「フレネル反射ロス」と呼ばれる光損失が十分に抑制されたものとなる。すなわち、積層光学素子5は、光透過性に優れたものとなる。
【0113】
[4]次に、図7(c)に示すように、接着性が発現した各接合膜31、32同士が密着するように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせる。これにより、図7(d)に示すように、積層光学素子5aを得る。
ここで、本工程において、各接合膜31、32同士を接合するが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0114】
(i)例えば、各接合膜31、32の表面351、352に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜31、32同士が密着するように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせたとき、各接合膜31、32の表面351、352に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の光学部品2と第2の光学部品4とが接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、各接合膜31、32の間では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、第1の光学部品2と第2の光学部品4とがより強固に接合されると推察される。
【0115】
(ii)各接合膜31、32同士が密着するように、第1の光学部品2と第2の光学部品4とを貼り合わせると、各接合膜31、32の表面351、352や内部に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜31、32を構成するそれぞれの母材(Si骨格301)同士が直接接合して、各接合膜31、32同士が一体化する。
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図7(d)に示すような積層光学素子5a(本発明の光学素子)が得られる。
【0116】
以上のような前記各実施形態にかかる光学素子の製造方法は、種々の複数の光学部品同士を接合するのに用いることができる。
このような接合に供される光学部品としては、例えば、光学レンズ、回折格子、光学フィルター、保護板等の他、太陽電池のような光電変換素子、光ディスクのような光記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子等が挙げられる。
【0117】
<光学素子>
ここでは、本発明の光学素子を波長板に適用した場合の実施形態について説明する。
図8は、本発明の光学素子を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。
図8に示す波長板9は、透過する光に1/2波長分の位相差を与える「1/2波長板」であって、2枚の複屈折性を有する結晶板91、92を、それぞれの光学軸が直交するように接着してなるものである。複屈折性を有する材料としては、例えば、水晶、方解石、MgF、YVO、TiO、LiNbO等の無機材料や、ポリカーボネート等の有機材料が挙げられる。
【0118】
このような波長板9を光が透過するとき、光学軸に平行な偏光成分と垂直な偏光成分とに光が分離される。そして、分離された光は、各結晶板91、92の複屈折性に伴う屈折率差に基づいて一方に遅延が生じ、前述した位相差が生じることとなる。
ところで、波長板9によって透過光に与えられる位相差の精度や波長板9の透過率は、各結晶板91、92の板厚の精度に依存しているため、各結晶板91、92の板厚は高精度に制御されている必要がある。
【0119】
それに加え、結晶板91と結晶板92との間隙も透過光の位相に影響を及ぼすため、結晶板91と結晶板92との間隙は、離間距離が厳密に制御されており、かつ離間距離が変化しないように強固に接着されている必要がある。
そこで、本発明では、波長板9に本発明の光学素子を適用することとした。これにより、接合膜を介して結晶板91と結晶板92とが強固に接合された波長板9を容易に得ることができる。
【0120】
また、この接合膜は、プラズマ重合法という気相成膜法で広い領域を一度に成膜することが可能であるため、均一に成膜することができ、かつ膜厚の精度が高い。このため、結晶板91と結晶板92との間の平行度が高く、波面収差等の各種収差の少ない波長板9が得られる。
さらに、この接合膜は、非常に薄いものであるため、波長板9を透過する光に及ぼす影響を抑えることができる。
【0121】
また、この波長板9中の接合膜について、有効径の部分を無機化することにより、この部分の耐候性が飛躍的に向上するとともに、波長板9の内部に空気層が介在しないので、いわゆるフレネル反射ロスを抑制することができる。したがって、波長板9(本発明の光学素子)は、耐光性および光透過性に優れたものとなる。
また、接合膜の有効径の部分の熱膨張率が、各結晶板91、92の熱膨張率と同等になるため、温度変化による波長板9の変形も抑制することができる。
【0122】
なお、波長板9は、1/2波長板の他に、1/4波長板、1/8波長板等であってもよい。
また、光学素子としては、波長板の他に、偏光フィルタのような光学フィルタ、光ピックアップのような複合レンズ、プリズム、回折格子等が挙げられる。
以上、本発明の光学素子の製造方法および光学素子を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
例えば、本発明の光学素子の製造方法は、前記各実施形態のうち、任意の1つまたは2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
また、本発明の光学素子の製造方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、前記各実施形態では、第1の光学部品と第2の光学部品の2つの光学部品を接合する方法について説明しているが、3つ以上の光学部品を接合する場合に、本発明の光学素子の製造方法を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0124】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.積層光学素子の製造
以下では、実施例、参考例および比較例において、それぞれ積層光学素子を複数個ずつ製造した。
(実施例)
まず、第1の光学部品として、縦20mm×横20mm×平均厚さ2mmの水晶基板を用意し、また第2の光学部品として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの水晶基板を用意した。なお、これらの水晶基板は、いずれも光学研磨を施したものである。
次いで、各基板を図5に示すプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0125】
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・高周波出力密度 :25W/cm
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :15分
・基板温度 :20℃
これにより、各基板上にプラズマ重合膜を成膜した。
【0126】
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものである。また、プラズマ重合膜の結晶化度を赤外線吸収法により測定した。その結果、プラズマ重合膜の結晶化度は、測定箇所によって若干バラツキがあるものの、5〜30%の範囲であった。
次に、得られた各プラズマ重合膜の縁部に、それぞれ大気圧下でプラズマ処理を施した。なお、プラズマ処理の際の処理ガスには、アルゴンガスを用いた。
次に、得られたプラズマ重合膜の有効径に、以下に示す条件で紫外線を照射した。
【0127】
<紫外線照射条件>
・雰囲気の組成 :窒素雰囲気(露点:−20℃)
・雰囲気の温度 :20℃
・雰囲気の圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の積算光量 :10J/cm
次に、プラズマ処理を施してから1分後に、プラズマ重合膜同士が接触するように、各基板同士を重ね合わせた。これにより、積層光学素子を得た。
【0128】
(参考例)
紫外線の照射を省略し、プラズマ重合膜の全体をプラズマに曝すようにした以外は、前記実施例と同様にして積層光学素子を得た。
(比較例)
第1の光学部品と第2の光学部品とを、エポキシ系光学接着剤を用いて接着した以外は、前記実施例と同様にして積層光学素子を得た。
【0129】
2.積層光学素子の評価
2.1 接合強度(割裂強度)の評価
実施例、参考例および比較例で得られた積層光学素子について、それぞれ接合強度を測定した。
接合強度の測定は、各基板を引き剥がしたとき、剥がれる直前の強度を測定することにより行った。また、接合強度の測定は、接合直後と、接合後に−40℃〜125℃の温度サイクルを100回繰り返した後のそれぞれにおいて行った。
その結果、実施例および参考例で得られた積層光学素子は、接合直後と温度サイクル後のいずれも、十分な接合強度を有していた。
一方、比較例で得られた積層光学素子は、接合直後は十分な接合強度を有していたものの、温度サイクル後には接合強度が低下した。
【0130】
2.2 寸法精度の評価
実施例、参考例および比較例で得られた積層光学素子について、それぞれ厚さ方向の寸法精度(平行度)を測定した。
具体的には、積層光学素子の四隅の厚さをマイクロゲージで測定した。そして、四隅の厚さの差に基づいて、積層光学素子の両面の相対的な傾きを算出した。
その結果、実施例および参考例で得られた積層光学素子は、平行度が±1秒以下であり、しかも複数の積層光学素子で平行度のバラツキが小さかった。
これに対し、比較例で得られた積層光学素子は、平行度が±1秒以上あり、かつ複数の積層光学素子で平行度のバラツキが大きかった。
【0131】
2.3 光透過率の評価
実施例、参考例および比較例で得られた積層光学素子について、それぞれ厚さ方向の光透過率(波長405nm)を測定した。なお、光透過率の測定は、波長405nm、出力100mWの光を70℃環境で連続して1000時間および3000時間照射した後においてそれぞれ行った。そして、測定された光透過率について以下の評価基準にしたがって評価した。
【0132】
<光透過率の評価基準>
◎:光透過率が99.0%以上
○:光透過率が98.0%以上99.0%未満
△:光透過率が97.0%以上98.0%未満
×:光透過率が97.0%未満
光透過率の評価結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
表1から明らかなように、実施例および参考例で得られた積層光学素子は、光透過率が98%以上であり、光透過性が良好であった。一方、比較例で得られた積層光学素子は、光透過開始直後は十分な光透過性を有していたが、1000時間および3000時間経過後では光透過率が97%未満となり、光透過性が低下していた。
【0135】
2.4 外観の評価
実施例、参考例および比較例で得られた積層光学素子について、2.3の光透過率の評価を行った後、照射部の外観を以下の評価基準にしたがって評価した。
<外観の評価基準>
◎:接合界面に黄変または異物が全く認められない
○:接合界面に黄変または異物がわずかに認められる
△:接合界面に点状の黄変または異物が多数認められる
×:接合界面に層状の黄変または異物が多数認められる
外観の評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例および参考例で得られた積層光学素子では、接合界面に異物または黄変が全く認められなかった。一方、比較例で得られた積層光学素子は、2.3の評価を行った後、広範囲にわたって黄変が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の光学素子の製造方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の光学素子の製造方法において、接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図4】本発明の光学素子の製造方法において、接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図5】本発明の光学素子の製造方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【図6】第1の光学部品上に接合膜を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の光学素子の製造方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の光学素子を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0137】
2……第1の光学部品 25……上面 3、31、32……接合膜 3a……有効径(有効領域) 3b……縁部(無効領域) 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 35、351、352……表面 4……第2の光学部品 5、5a……積層光学素子 6、7……マスク 61、71……窓部 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 9……波長板 91、92……結晶板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合膜を介して互いに貼り合わせることにより光学素子を形成し得る第1の光学部品および第2の光学部品を用意し、第1の光学部品の表面上に、プラズマ重合法により、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含む前記接合膜を形成する第1の工程と、
前記接合膜のうち、前記光学素子の光学的な有効領域に対して紫外線を照射することにより、前記有効領域に存在する前記脱離基の大半を前記Si骨格から脱離させ、前記有効領域を化学的に安定化させるとともに、前記接合膜のうち、前記有効領域以外の無効領域にエネルギーを付与することにより、前記無効領域の表面に存在する前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させる第2の工程と、
接着性が発現した前記接合膜を介して前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合し、前記光学素子を得る第3の工程とを有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%である請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3である請求項1または2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし4のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記Si−H結合を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2である請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記脱離基は、アルキル基である請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記脱離基としてメチル基を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45である請求項8に記載の光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記接合膜は、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離した後に、活性手を有する請求項1ないし9のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記活性手は、未結合手または水酸基である請求項10に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項1ないし11のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項12に記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波の出力密度は、0.01〜100W/cmである請求項1ないし13のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし14のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項16】
前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし15のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項17】
前記接合膜の前記有効領域の紫外線照射後の屈折率は、1.35〜1.6である請求項1ないし16のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項18】
前記接合膜の前記無効領域は、前記光学素子の縁部に設定されている請求項1ないし17のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項19】
前記第2の工程後の前記接合膜において、前記有効領域は、酸化ケイ素を主材料として構成されている請求項1ないし18のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項20】
前記第2の工程における紫外線の波長は、126〜300nmである請求項1ないし19のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項21】
前記第2の工程における紫外線の積算光量は、1J/cm以上である請求項1ないし20のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項22】
前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、乾燥した雰囲気である請求項1ないし21のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項23】
前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気である請求項1ないし22のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項24】
前記第1の光学部品および前記第2の光学部品は、それぞれ、石英ガラスまたは水晶で構成されている請求項1ないし23のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項25】
前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法で行われ、
該プラズマは、大気圧プラズマである請求項1ないし24のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項26】
前記第1の工程において、前記第2の光学部品の表面上に、前記接合膜と同様の接合膜を形成し、
前記第2の工程において、前記各接合膜に紫外線を照射した後、前記第3の工程において、前記各接合膜同士が密着するようにして、前記第1の光学部品と前記第2の光学部品とを接合し、前記光学素子を得る請求項1ないし25のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【請求項27】
2つの光学部品を有し、これらが請求項1ないし26のいずれかに記載の光学素子の製造方法により接合されたことを特徴とする光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−102272(P2010−102272A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276149(P2008−276149)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】