説明

光学素子の製造方法

【課題】一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着することを容易にする。
【解決手段】第1光学結晶部材10の被接着面の外形を、該第1光学結晶部材10の光学軸11に平行な方向の長さと直交する方向の長さとが異なる形状とする。第2光学結晶部材25の被接着面の外形を、第2光学結晶部材25の光学軸21と第1光学結晶部材10の光学軸11とを所定角度に合わせた向きにおいて、第1光学結晶部材10の被接着面の外形と合致する形状または該合致する形状を拡大または縮小した形状とする。第1光学結晶部材10の被接着面と第2光学結晶部材25の被接着面とを、液滴30を挟んで重ね合わせ、表面張力による自律的アライメントが行われた後、接着し、一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法に関し、さらに詳しくは、一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着することを容易にした光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ結晶と、波長変換結晶をダミー材で挟んだ光学結晶部材とを、接着し、一体化した光学素子が知られている(特許文献1参照。)。
他方、光学素子の製造方法ではないが、液滴の表面張力を利用して、実装基板に対する半導体チップのアライメントを行う半導体装置の製造方法が知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−225786号公報
【特許文献2】特開2010−087066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の光学素子の製造に際しては、レーザ結晶の光学軸と波長変換結晶の光学軸とが所定の角度になるように、作業者の目視によってレーザ結晶と光学結晶部材のアライメントを行ってから、両者を接着している。
しかし、この精密なアライメント作業は困難であり、作業者の熟練を要する問題点があった。
そこで、本発明の目的は、一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着することを容易にした光学素子の製造方法を提供することにある。
なお、上記従来の半導体装置の製造方法では、実装基板や半導体チップに親水性領域と撥水性領域とを設ける必要があり、そのままでは光学素子の製造に利用困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、光学軸を有する第1光学結晶部材の被接着面と光学軸を有する第2光学結晶部材の被接着面とを、両者の光学軸を所定角度に合わせて、接着し、一体化した光学素子の製造方法であって、前記第1光学結晶部材の被接着面の外形を、該第1光学結晶部材の光学軸に平行な方向の長さと前記第1光学結晶部材の光学軸に直交する方向の長さとが異なる形状とし、前記第2光学結晶部材の被接着面の外形を、該第2光学結晶部材の光学軸と前記第1光学結晶部材の光学軸とを前記所定角度に合わせた向きにおいて前記第1光学結晶部材の被接着面の外形と合致する形状または該合致する形状を拡大または縮小した形状とし、前記第1光学結晶部材の被接着面と前記第2光学結晶部材の被接着面とを、液滴を挟んで重ね合わせ、表面張力による自律的アライメントが行われた後、接着し、一体化することを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
上記第1の観点による光学素子の製造方法では、第1光学結晶部材の光学軸に対して平行な方向の長さと直交する方向の長さが異なる外形を第1光学結晶部材の被接着面が有し、その第1光学結晶部材の被接着面の外形と合同または相似の外形を第2光学結晶部材の被接着面が有するから、液滴の表面張力により、第1光学結晶部材の被接着面と第2光学結晶部材の被接着面の自律的アライメントが好適に行われる。そして、第1光学結晶部材の被接着面の外形は第1光学結晶部材の光学軸に対して規定された外形であり、第2光学結晶部材の被接着面の外形も第2光学結晶部材の光学軸に対して規定された外形であるから、自律的アライメントが行われた後は、第1光学結晶部材の光学軸と第2光学結晶部材の光学軸とは所定角度に合っている。かくして、一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着することが容易になる効果が得られる。
なお、上記外形の具体例としては、長方形や楕円形が挙げられる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による光学素子の製造方法において、前記第1光学結晶部材の被接着面の外形が長方形であり、前記長方形の長辺長と短辺長の比率が5:4〜5:3であることを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
上記第2の観点による光学素子の製造方法では、被接着面の外形が長方形であるため、成形しやすい(例えば楕円形よりも成形しやすい)。また、長方形の長辺長と短辺長の比率が5:4〜5:3であるため、自律的アライメントおよび放熱性が好適である。すなわち、5:4より比を小さくすると、90°異なる向きでアライメントされてしまう可能性が増す。他方、5:3より比を大きくすると、放熱性が良くなく、出力レーザ光の効率が低下してしまう結果が得られている。
【0007】
第3の観点では、本発明は、前記第1または第2の観点による光学素子の製造方法において、前記第1光学結晶部材がレーザ結晶であり、第2光学結晶部材が波長変換結晶をダミー材で挟んだ部材であることを特徴とする光学素子の製造方法を提供する。
上記第3の観点による光学素子の製造方法では、レーザ結晶と、波長変換結晶をダミー材で挟んだ部材とを、接着一体化した光学素子を好適に製造できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光学素子の製造方法によれば、一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1に係る光学素子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【図2】レーザ結晶部材を示す斜視図である。
【図3】複合基板を示す斜視図である。
【図4】波長変換結晶部材を示す斜視図である。
【図5】レーザ結晶部材と波長変換結晶部材の接着工程を示す斜視図である。
【図6】自律的アライメントの説明図である。
【図7】製造された光学素子を示す斜視図である。
【図8】本発明方法により製造された光学素子の特性と従来方法により製造された光学素子の特性を比較したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
−実施例1−
図1は、光学素子の製造方法の手順を示すフロー図である。
ステップS1では、レーザ結晶の光学軸に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺とを有する長方形の板であるレーザ結晶基板を作成する。レーザ結晶は、例えばNdがドープされたYVO4結晶である。
ステップS2では、レーザ光の入射面または出射面になるレーザ結晶基板の2面に平行平面研磨を施す。
ステップS3では、レーザ光入射面となるレーザ結晶基板の面に基本波に対するHR膜を成膜する。
ステップS4では、レーザ結晶基板を分割し、レーザ結晶の光学軸に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺を有する長方形のレーザ結晶部材を複数同時に得る。
ステップS5では、各レーザ結晶部材のレーザ光出射面となる面に濡れ性を向上させる表面処理を行う。例えば酸素プラズマによるドライエッチングを行う。
【0012】
図2に、ステップS1〜S5により得られたレーザ結晶部材10を示す。
このレーザ結晶部材10は、レーザ結晶1の光学軸11に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺を有する長方形の板である。長辺長zは例えば1mmであり、短辺長gは例えば0.8mmであり、厚さhは例えば0.5mmである。
【0013】
ステップS11では、波長変換結晶の光学軸に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺とを有する長方形の板である波長変換結晶基板を作成する。波長変換結晶は、例えば周期的分極反転構造を形成して擬似位相整合結晶とした強誘電体結晶(LNやLT、MgOをドープしたLNやLT)である。
ステップS12では、波長変換結晶基板と同じ長方形の板であるダミー材基板を作成する。ダミー材は、熱膨張したときの悪影響を抑制するため、熱膨張係数がレーザ結晶1や波長変換結晶と同程度の材料とするのが好ましい。例えばCLT基板である。
ステップS13では、図3に示すように、複数の波長変換結晶基板20と複数のダミー材基板22,23とを交互に貼り合わせて複合基板24を作成する。貼り合わせの方法は、接着剤を用いてもよいし、オプチカルコンタクトを用いてもよい。複合基板24の長辺長Zは例えば3mmであり、短辺長Gは例えば2.4mmであり、厚さLは例えば1mmである。厚さ方向が分極反転方向Drである。
ステップS14では、レーザ光の入射面または出射面になる複合基板24の2面に平行平面研磨を施す。
ステップS15では、レーザ光出射面となる複合基板24の面に基本波に対するHR膜を成膜する。
ステップS16では、図3に示す切断線Cで複合基板24を分割し、波長変換結晶の光学軸に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺を有する長方形の波長変換結晶部材を複数同時に得る。
ステップS17では、各波長変換結晶部材のレーザ光入射面となる面に濡れ性を向上させる表面処理を行う。例えば酸素プラズマによるドライエッチングを行う。
【0014】
図4に、ステップS11〜S17により得られた波長変換結晶部材25を示す。
この波長変換結晶部材25は、波長変換結晶2の光学軸21に平行な方向の長辺と直交する方向の短辺を有する。長辺長zは例えば1mmであり、短辺長gは例えば0.8mmであり、厚さLは例えば1mmである。波長変換結晶2の光学軸21に平行な方向の波長変換結晶2の長さdは例えば0.4mmである。波長変換結晶2の光学軸21に平行な方向のダミー材3の長さは例えば0.2mmである。
【0015】
ステップS21では、図5に示すように、レーザ光入射面となる波長変換結晶部材25の面(被接着面)に超純水を塗布し、その液滴30の上に、レーザ光出射面となるレーザ結晶部材10の面(被接着面)を重ね、図6に示すごとき自律的アライメントを行わせる。
ステップS22では、ベークしてレーザ結晶部材10と波長変換結晶部材25とを接着・一体化し、図7に示すごとき光学素子50を得る。レーザ結晶部材10と波長変換結晶部材25の被接着面は、オプティカルコンタクトによって精密かつ堅牢に保持される。
【0016】
図8に示す実線Aは、本発明の方法で製造された光学素子50の特性である。他方、破線Bは、熟練した作業者により目視でアライメントされて製造された光学素子の特性である。
本発明の方法で製造された光学素子50は、熟練した作業者により目視でアライメントされて製造された光学素子と遜色のない特性を有している。
【0017】
実施例1の光学素子の製造方法によれば、熟練した作業者を要さずに、レーザ結晶1の光学軸11と波長変換結晶2の光学軸21の方向を合わせることが出来るため、光学素子50の生産性と歩留まりを著しく向上することが出来る。
【0018】
−実施例2−
レーザ結晶部材10の光学軸11に平行な方向の辺の長さを例えば1mmとし、光学軸11に直交する方向の辺の長さを例えば0.6mmとしてもよい。
【0019】
−実施例3−
実施例1,2ではレーザ結晶部材10の被接着面の外形と波長変換結晶部材25の被接着面の外形とを同一としたが、寸法で20%程度までなら一方の外形を拡大または縮小してもよい。それでも、実用上有効な精度で自律的アライメントが行われる。
【0020】
−実施例4−
実施例1〜3ではレーザ結晶部材10および波長変換結晶部材25の被接着面の外形を長方形としたが、楕円率1.2〜1.5の楕円形としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の光学素子の製造方法は、一つの光学結晶部材の光学軸と別の光学結晶部材の光学軸を所定角度に合わせて両光学結晶部材を接着・一体化する光学素子の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0022】
1 レーザ結晶
2 波長変換結晶
3 ダミー材
10 レーザ結晶部材
11 光学軸
20 波長変換結晶基板
21 光学軸
24 複合基板
25 波長変換結晶部材
30 液滴
50 光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学軸を有する第1光学結晶部材の被接着面と光学軸を有する第2光学結晶部材の被接着面とを、両者の光学軸を所定角度に合わせて、接着し、一体化した光学素子の製造方法であって、
前記第1光学結晶部材の被接着面の外形を、該第1光学結晶部材の光学軸に平行な方向の長さと前記第1光学結晶部材の光学軸に直交する方向の長さとが異なる形状とし、
前記第2光学結晶部材の被接着面の外形を、該第2光学結晶部材の光学軸と前記第1光学結晶部材の光学軸とを前記所定角度に合わせた向きにおいて前記第1光学結晶部材の被接着面の外形と合致する形状または該合致する形状を拡大または縮小した形状とし、
前記第1光学結晶部材の被接着面と前記第2光学結晶部材の被接着面とを、液滴を挟んで重ね合わせ、表面張力による自律的アライメントが行われた後、接着し、一体化することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子の製造方法において、前記第1光学結晶部材の被接着面の外形が長方形であり、前記長方形の長辺長と短辺長の比率が5:4〜5:3であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学素子の製造方法において、前記第1光学結晶部材がレーザ結晶であり、第2光学結晶部材が波長変換結晶をダミー材で挟んだ部材であることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−88631(P2012−88631A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236969(P2010−236969)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】